説明

皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の表面を処理する方法

本発明は、皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を処理する方法に係り、該方法は、基材の表面上に皮膜をデポジットする前に、該表面を少なくとも1種の還元剤を含有する処理組成物と接触させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を処理する方法であって、皮膜の基材への付着を改善する方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
眼科用光学機器の分野では、通常、有機ガラス製の眼科用レンズ、例えば眼鏡レンズなどの有機ガラス基材の表面を耐摩耗ハードコートなどの皮膜で被覆することで、得られる眼科用レンズの耐衝撃性および耐引掻性の改善が図られる。
しかし、有機ガラス基材をこのように被覆した場合、皮膜の基材への付着が不十分である恐れが有る。
【0003】
有機ガラス基材の表面上に皮膜をデポジットする前に、該表面をソーダ水溶液で処理することが知られている。
基材表面に皮膜をデポジットする前に、該基材表面を、界面活性剤を含有する酸性pHの水性処理溶液と接触させることを含む有機ガラス基材の表面を被覆する方法を用いることも、特許文献1から公知である。
しかし、従来技術によるこれらの手法は、それなりの成果は上がるものの十分ではない。多くの状況において、耐摩耗皮膜剥離の問題がみられる。
【0004】
特別な理論に拘束される訳ではないが、本願出願人は、耐摩耗皮膜剥離の原因と思われることを幾つか特定した。
耐摩耗皮膜の基材への付着の弱さの主な原因は、基材/耐摩耗皮膜の界面が、通常、単分子層同士の重なりとは全く別の界面として説明されるであろうという事実から導かれる。これは、耐摩耗皮膜から基材への拡散がないこと、一般的に共有結合の発生を意図しない表面調製、および基材の表面粗さが極めて小さいことによる。
その結果、共有結合よりも低エネルギーの化学結合(硫黄または酸素原子を介した水素結合)が支配的である。従って、それらの方が、耐摩耗皮膜が基材に付着する機構に対し、共有結合よりも積極的に貢献する。
【0005】
また、UV−A照射の作用下では、界面レベルに存在するチオエーテル官能基、例えばポリチオウレタンのチオエーテル官能基が分解され、ポリマー鎖が側鎖端近傍で切断される結果、小型有機分子である分解生成物を生じる。この分解生成物は移動および拡散機構によってあらゆる材料間隙に運ばれ、そこで活性な腐食レセプタクルを創出し、腐食が耐摩耗皮膜の厚みを貫通することになる。分解生成物が基材中に蓄積するにつれて、基材の無機化が認められる。
【0006】
最後に、或る種のポリマー基材、特に硫黄含有ポリマー基材、中でも幾つかのポリチオウレタン基材のUV−A照射に対する極度の感光性は、基材/耐摩耗皮膜の界面に存在する付着力を弱める。図式1に示すように、基材によっては、UV−A照射下、該基材の初期に含まれるチオエーテル単位が光環化を起こして界面における弱い結合が切断されることになる。
上記環化は、硫黄および窒素のいずれか一方が1位に、他方が6位に有る時に極めて容易に生起する。
【0007】
【化1】

【0008】
およびRは、図示した部分が連結しているポリマーネットワークの鎖である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】欧州特許第1053279号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、従来技術の上記問題点を解決し、皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の表面を処理する方法であって、皮膜の基材への付着を改善し、かつ光酸化に起因する基材の黄変現象を抑制する表面処理方法を提供することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願出願人は、基材表面を、基材のチオエーテル官能基の光反応性を低下させる物質と接触させる工程を含む方法によって上記課題を解決できることを見出した。
従って本発明は、皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を処理する方法であって、皮膜を基材の表面上にデポジットする前に、該表面を少なくとも1種の還元剤を含有する処理組成物と接触させる工程を含む方法を提供することを目的とする。
【発明の効果】
【0012】
特別な理論に拘束される訳ではないが、本願出願人は、還元剤が基材のチオエーテル官能基の光反応性を低下させる、換言すれば、それはSH結合の生成を介して基材のポリマーを官能化することができるか、UV−A照射におけるチオエーテル官能基の分解生成物への分解を制限するか、またはUV−A照射下に基材の初期層中に含まれる硫黄鎖、特にチオエーテル単位の環化を防止する、と考えている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の方法に好適に用いられる還元剤は、C−S、S−S、CON(アミド)結合、好ましくはC−SおよびS−S結合の還元に通常用いられるどのような種類の還元剤であってもよい。
還元剤は、通常、チオ酸およびその塩から選択される1種以上である。
本発明の方法に好適に用いられる還元剤としては、特に、チオグリコール酸、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸マグネシウム、モノチオグリコール酸グリセロール、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミンなどのチオグリコール酸アミン、ジチオグリコール酸ジアンモニウム、チオ乳酸、チオ乳酸アンモニウム、チオグリコール酸グアニジン、チオリンゴ酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、リポ酸、ジヒドロリポ酸、チオサリチル酸、ジチオエリトリトール、チオグリセロール、チオグリコール、ジチオエリトリトール、ジチオトレイトール、1,3−ジチオプロパノール、チオキサンチン、システイン、ホモシステイン、N−アセチル−L−システイン、システアミン、N−アセチル−システアミン、N−プロピオニル−システアミン、パンテテイン、NaHSO、LiS、NaS、KS、MgS、CaS、SrS、BaS、(NHS、ジヒドロリポ酸ナトリウム6,8−ジチオオクタン酸、6,8−ジチオオクタン酸ナトリウム、NaSHおよびKSHなどの硫化水素塩、チオグリコールアミド、グルタチオン、チオグリコールヒドラジド、ケラチナーゼ、硫酸ヒドラジン、二硫酸ヒドラジン、トリイソシアナート、2,3−ジメルカプトコハク酸、N−(メルカプトアルキル)−ω−ヒドロキシアルキルアミド、N−モノまたはN,N−ジアルキルメルカプト−4−ブチルアミド、アミノメルカプト−アルキルアミド、N−(メルカプトアルキル)コハク酸誘導体およびN−(メルカプトアルキル)スクシンイミド誘導体、アルキルアミノメルカプトアルキルアミド、チオグリコール酸2−ヒドロキシプロピルとチオグリコール酸(2−ヒドロキシ−1−メチル)エチルとの共沸混合物、メルカプトアルキルアミノアミド、N−メルカプト−アルキルアルカンジアミドおよびホルムアミジンスルフィン酸誘導体、スルフィット、ビスルフィット、並びにこれらの塩が挙げられる。
【0014】
好ましい還元剤は、チオ酸またはその塩であり、好ましくはチオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸アンモニウム、およびチオグリコール酸アミンから選択される。
還元剤がチオ酸である場合、1または複数のSH官能基は好ましくはSをもたらし、また1または複数のカルボキシ官能基は好ましくはCOOをもたらす。
【0015】
このような処理組成物のpH値は、好ましくは10より大きく、より好ましくは12より大きい。
本発明の処理組成物のpH値は、例えばアンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、1,3−プロパンジアミン、アルカリ炭酸塩もしくは重炭酸塩または炭酸もしくは重炭酸アンモニウム、炭酸グアニジンなどの有機炭酸塩、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物、または水酸化カルシウムなどのアルカリ土類金属水酸化物などのアルカリ性物質の添加によって通常どおり実現および/または調節することができ、これら総ての化合物は、当然ながら単独でも組み合わせても使用可能である。
【0016】
処理組成物は、該組成物総重量に対し、上記還元剤を通常2〜30重量%、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%含有する。
【0017】
処理組成物は、少なくとも1種の金属硫化物を含有すれば有利である。
処理組成物は、尿素を含有すれば有利である。その場合、尿素は、通常組成物の総重量の0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の量で存在する。
【0018】
還元剤を含有する処理組成物は、通常、溶媒を含有する。好適な溶媒としては、水、C〜Cアルコール、好ましくはエタノール、プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルカノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびペンタンジオールなどのアルカンジオール、ベンジルアルコール、C〜C10アルカン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0019】
英国特許第2,413,074号には、本発明の方法に好適に用いられる還元剤を1種以上含有する処理組成物が脱毛剤組成物として記載されている。
市販の脱毛剤組成物を用いてもよい。一例として、除毛クリームのヴィート(Veet)を挙げることができる。
【0020】
本発明の組成物の曝露時間は、好ましくは1〜30分、より好ましくは1〜15分、さらに好ましくは5〜10分である。
処理温度は、好ましくは5〜30℃、より好ましくは5〜15℃である。本発明の好ましい一実施形態では、上記処理は室温で行なわれる。
上記処理は、好ましくは基材を本発明の組成物の浴にディップすることによって行なう。
還元剤による処理は繰り返し行なってもよく、好ましい回数は連続5回までで、1回から連続3回が好ましい。
【0021】
先に述べたように、本発明の方法は、基材の表面を少なくとも1種の還元剤を含有する処理組成物と接触させる工程を含む。
基材の表面との接触時に処理組成物に超音波エネルギーを印加すれば有利である。
好ましくは、本発明の方法は基材にソーダ溶液を塗布する後続工程をまったく含まない。
このように本発明の方法は、基材を形成する硫黄ポリマー中のC−Sおよび/またはS−S結合を還元し、SH結合の生成を介して、表面近傍の通常厚み1μm未満の表層で、該ポリマーを官能化させることができる。
本発明の方法は、また、基材をUV−A照射に曝露した際に分解生成物の生成の抑制を可能にする。
【0022】
本発明の具体的な一態様によれば、本発明の方法は、基材を、少なくとも1種の酸化剤を含有する酸化組成物と接触させる少なくとも一つの付加的処理工程を含む。
酸化組成物による1以上の上記付加的処理工程は、還元剤を用いる処理工程の前および/または後に実施し得る。
【0023】
特別な理論に拘束される訳ではないが、本願出願人は、このような酸化剤が基材のチオエーテル官能基の光反応性を低下させ、特にUV−A照射下での基材の硫黄鎖の光環化を、窒素近傍の硫黄、特に窒素の6位における硫黄(図式1参照)を酸化して環化反応に寄与できないようにすることにより防止すると考えている。酸化剤は、硫黄の外殻電子層の空原子軌道を総て満たすような酸化剤のもたらす元素の化学吸着を介して、チオエーテル単位の1,6−付加環化を防止することができる。
上記化学吸着は、また、皮膜がデポジットされる場合には、特に極性部位の生成を介して基材と皮膜との間の分子相互作用も強化することができる。
【0024】
酸化剤は、通常、過酸化水素、臭素酸アルカリ、ポリチオナート、並びに過ホウ酸塩、過炭酸塩、過硫酸塩および過マンガン酸塩などの過酸塩から選択される。
酸化剤は、好ましくはHおよびKMnOから選択される。
酸化剤は、通常、酸化組成物中に酸化組成物総重量の2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の量で含有される。
酸化剤を含有する酸化組成物のpH値は、好ましくは7より小さい。
【0025】
酸化剤を含有する酸化組成物は、通常、溶媒を含有する。好適な溶媒としては、水、C〜Cアルコール、好ましくはエタノール、プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルカノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびペンタンジオールなどのアルカンジオール、ベンジルアルコール、C〜C10アルカン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0026】
本発明の別の具体的態様によれば、本発明の方法は、基材を、少なくとも1種のホスホリル化剤を含有するホスホリル化組成物と接触させる少なくとも一つの付加的処理工程を含む。
ホスホリル化組成物を用いる1以上の上記付加的処理工程は、還元剤を用いる処理工程の前および/または後に実施し得る。
本明細書中、「ホスホリル化剤」は、有機結合中にリンまたはリン酸塩を導入し得る物質を意味することを意図する。
【0027】
ホスホリル化剤は、通常、亜リン酸トリアルキル、ホスホン酸、およびホスフィン酸から選択される。
ホスホリル化剤は、チオエーテル官能基硫黄原子への該剤の化学吸着を介してチオエーテル単位の1,6−付加環化を防止し得る。その結果、一旦デポジットされた皮膜と基材との間で可能な化学的相互作用をほぼ実現させる。
通常、ホスホリル化剤は、ホスホリル化組成物総重量の2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の量でホスホリル化組成物中に含有される。
ホスホリル化剤を含有する組成物のpH値は、好ましくは7より小さい。
【0028】
ホスホリル化剤を含有する組成物は、通常、溶媒を含有する。好適な溶媒としては、水、C〜Cアルコール、好ましくはエタノール、プロパノールおよびイソプロパノールなどのアルカノール、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびペンタンジオールなどのアルカンジオール、ベンジルアルコール、C〜C10アルカン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、およびこれらの組み合わせが挙げられる。
【0029】
本発明の方法は、好ましくは酸化またはホスホリル化組成物を用いる付加的処理工程を含まない。
【0030】
先に述べたように、基材は硫黄ポリマー系である。
基材の硫黄ポリマーは、通常、ポリチオ(メタ)アクリラート、ポリチオウレタン、ポリチオウレタン−尿素、およびポリエピスルフィドから選択される。
【0031】
本発明の方法において基材として好適に用いられるポリチオ(メタ)アクリラートは、眼科用光学機器、特に眼科用レンズの製造に通常用いられるポリチオ(メタ)アクリラートから選択することができる。
本発明の組成物に用いられるポリチオ(メタ)アクリラートの前駆モノマーは、特に米国特許第5,741,831号に記載されている。
【0032】
好ましい一態様によれば、硫黄ポリマーは、少なくとも1種のポリイソシアナートモノマーおよび/またはそのプレポリマーと、少なくとも1種のポリチオールモノマーおよび/またはそのプレポリマーとの重合によって得られるポリチオウレタンである。
本発明の組成物に好適に用いられるポリチオールモノマーは、当該技術分野において周知であり、式R’(SH)n’〔式中、n’は2以上、好ましくは2〜5の整数であり、R’は脂肪族、芳香族または複素環基である〕によって表わすことができる。
【0033】
ポリチオールは特に欧州特許第394495号に記載されている。
本発明において好適に用いることができるポリチオールとしては、9,10−アントラセンジメタンチオール、1,11−ウンデカンジチオール、4−エチル−ベンゼン−1,3−ジチオール、1,2−エタンジチオール、1,8−オクタンジチオール、1,18−オクタデカンジチオール、2,5−ジクロロベンゼン−1,3−ジチオール、1,3−(4−クロロフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、1,4−シクロヘキサンジチオール、1,1−シクロヘプタンジチオール、1,1−シクロペンタンジチオール、4,8−ジチオウンデカン−1,11−ジチオール、ジチオペンタエリトリトール、ジチオトレイトール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、1,3−ジヒドロキシ−2−プロピル−2’,3’−ジメルカプトプロピルエーテル、2,3−ジヒドロキシプロピル−2’,3’−ジメルカプトプロピルエーテル、2,6−ジメチルオクタン−2,6−ジチオール、2,6−ジメチルオクタン−3,7−ジチオール、2,4−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、4,5−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、3,3−ジメチルブタン−2,2−ジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、1,3−ジ(4−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、10,11−ジメルカプトウンデカン酸、6,8−ジメルカプトオクタン酸、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,2’−ジメルカプト−ビフェニル、4,4’−ジメルカプトビフェニル、4,4’−ジメルカプトビベンジル、3,4−ジメルカプトブタノール、3,4−ジメルカプト酢酸ブチル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、1,2−ジメルカプト−1,3−ブタンジオール、2,3−ジメルカプトプロピオン酸、1,2−ジメルカプトプロピル−メチルエーテル、2.3−ジメルカプトプロピル−2’,3’−ジメトキシプロピルエーテル、3,4−チオフェンジチオール、1,10−デカンジチオール、1,12−ドデカンジチオール、3,5,5−トリメチルヘキサン−1,1−ジチオール、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,4−ナフタレンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、2,6−ナフタレンジチオール、1,9−ノナンジチオール、ノルボルネン−2,3−ジチオール、ビス(2−メルカプトイソプロピル)エーテル、ビス(11−メルカプトウンデシル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(18−メルカプトオクタデシル)スルフィド、ビス(8−メルカプトオクチル)スルフィド、ビス(12−メルカプト−デシル)スルフィド、ビス(9−メルカプトノニル)スルフィド、ビス(4−メルカプトブチル)スルフィド、ビス(3−メルカプトプロピル)エーテル、ビス(3−メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(6−メルカプトヘキシル)スルフィド、ビス(7−メルカプトヘプチル)スルフィド、ビス(5−メルカプトペンチル)スルフィド、2,2’−ビス(メルカプトメチル)酢酸、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、ビス(メルカプトメチル)ジュレン、フェニルメタン−1,1−ジチオール、1,2−ブタンジチオール、1,4−ブタンジチオール、2,3−ブタンジチオール、2,2−ブタンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,2−ヘキサンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、2,5−ヘキサンジチオール、1,7−ヘプタンジチオール、2,6−ヘプタンジチオール、1,5−ペンタンジチオール、2,4−ペンタンジチオール、3,3−ペンタンジチオール、7,8−ヘプタデカンジチオール、1,2−ベンゼンジチオール、1,3−ベンゼンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、2−メチルシクロヘキサン−1,1−ジチオール、2−メチルブタン−2,3−ジチオール、エチレングリコールジチオグリコラート、エチレングリコールビス(3メルカプトプロピオナート)が挙げられる。トリチオールの中では、特に、1,2,3−プロパントリチオール、1,2,4−ブタントリチオール、トリメチロールプロパントリチオールグリコラート、トリメチロプロパントリス(3−メルカプトプロピオナート)、ペンタエリトリトールトリチオグリコラート、ペンタエリトリトールトリス(3−メルカプトプロピオナート)、1,3,5−ベンゼントリチオール、および2,4,6−メシチレントリチオールが挙げられる。
【0034】
また、本発明において有用であるポリチオールとしては、ネオペンタンテトラチオール、2,2’−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ペンタエリトリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオナート)、1,3,5−ベンゼントリチオール、2,4,6−トルエントリチオール、2,4,6−メチレントリチオール、次式:
【化2】

で示されるポリチオール、および4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールも挙げられる。
【0035】
好ましいポリチオールは、次式の化合物である:
【化3】

【0036】
本発明で用いられるポリイソシアナート化合物は、ポリウレタンの調製に通常用いられるポリイソシアナートのいずれであってもよい。
特に、エチレンジイソシアナート、トリメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、ヘキサメチレンジイソシアナート、オクタメチレンジイソシアナート、ノナメチレンジイソシアナート、2,2’−ジメチルペンタンジイソシアナート、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアナート、デカメチレンジイソシアナート、ブテンジイソシアナート、1,3−ブタジエン−1,4−ジイソシアナート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアナート、1,6,11−ウンデカントリイソイアナート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアナート、1,8−ジイソシアナト−4−イソシアナトメチルオクタン、2,5,7−トリメチル−1,8−ジイソシアナト−5−イソシアナトメチルオクタン、ビス(イソシアナトエチル)カルボナート、ビス(イソシアナトエチル)エーテル、1,4−ブチレングリコールジプロピルエーテル−ω,ω’−ジイソシアナート、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアナート、2−イソシアナトエチル−,2,6−ジイソシアナトヘキサノアート、2−イソシアナトプロピル−2,6−ジイソシアナトヘキサノアート、キシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナトエチル)ベンゼン、ビス(イソシアナトプロピル)ベンゼン、a,a,a’,a’−テトラメチルキシリレンジイソシアナート、ビス(イソシアナトブチル)ベンゼン、ビス(イソシアナトメチル)ナフタレン、ビス(イソシアナトメチル)ジフェニルエーテル、ビス(イソシアナトエチル)フタラート、メシチリレントリイソシアナート、および2,6−ジ(イソシアナトメチル)フランなどの脂肪族化合物;イソホロンジイソシアナート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、シクロヘキサンジイソシアナート、メチルシクロヘキサンジイソシアナート、ジシクロヘキシル−ジメチルメタンジイソシアナート、2,2’−ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアナート、ビス(4−イソシアナト−n−ブチリデン)−ペンタエリトリトール、ダイマー酸ジイソシアナート、2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−5−イソシアナト−メチル−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−6−イソシアナトメチル−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−5−イソシアナトメチル−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−6−イソシアナトメチル−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−5−(2−イソシアナトメチル)−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−3−(3−イソシアナトプロピル)−6−(2−イソシアナトエチル)−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタン、2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−5−(2−イソシアナトエチル)−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタンおよび2−イソシアナトメチル−2−(3−イソシアナトプロピル)−6−(2−イソシアナトエチル)−ビシクロ−(2,2,1)−ヘプタンなどの脂環式ポリイソシアナート、並びにフェニレンジイソシアナート、トリレンジイソシアナート、エチルフェニレンジイソシアナート、イソプロピルフェニレンジイソシアナート、ジメチルフェニレンジイソシアナート、ジエチルフェニレンジイソシアナート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアナート、トリメチルベンゼントリイソシアナート、ベンゼントリイソシアナート、ナフタレンジイソシアナート、メチルナフタレンジイソシアナート、ビフェニルジイソシアナート、トリジンジイソシアナート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート、3,3’−ジメトキシビフェニル−4,4’−ジイソシアナート、トリフェニルメタントリイソシアナート、MDIポリマー、ナフタレントリイソシアナート、ジフェニルメタン−2,4,4’−トリイソシアナート、3−メチルジフェニルメタン−4,6,4’−トリイソシアナート、4−メチルジフェニルメタン−3,5,2’,4’,6’−ペンタイソシアナート、フェニルイソシアナトメチルイソシアナート、フェニルイソシアナトエチルイソシアナート、テトラヒドロナフチレンジイソシアナート、ヘキサヒドロベネンジイソシアナート、ヘキサヒドロジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルエーテルジイソシアナート、エチレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、1,3−プロピレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、ベンゾフェノンジイソシアナート、ジエチレングリコールジフェニルエーテルジイソシアナート、ジベンゾフランジイソシアナート、カルバゾールジイソシアナート、エチルカルバゾールジイソシアナートおよびジクロロカルバゾールジイソシアナートなどの芳香族化合物;チオジエチルジイソシアナート、チオジプロピルジイソシアナート、チオジヘキシルジイソシアナート、ジメチルスルホンジイソシアナート、ジチオジメチルジイソシアナート、ジチオジエチルジイソシアナート、およびジチオジプロピルジイソシアナートなどの脂肪族ポリイソシアナート含有スルフィド;ジフェニルスルフィド−2,7’−ジイソシアナート、ジフェニルスルフィド−4,4’−ジイソシアナート、3,3’−ジメトキシ−4,4,−ジイソシアナトジベンジルチオエーテル、ビス(4−イソシアナトメチルフェニル)スルフィド、並びに4,4−メトキシフェニルチオエチレングリコール−3,3’−ジイソシアナート、ジフェニルジスルフィド−4,4’−ジイソシアナート、2,2’−ジメチルジフェニルジスルフィド−5,5’−ジイソシアナート、3,3’−ジメチルジフェニルスルフィド−6,6’−ジイソシアナート、4,4’−ジメチルフェニルジスルフィド−5,5’−ジイソシアナート、3,3’−ジメトキシジフェニルジスルフィド−4,4’ジイソシアナートおよび4,4’−ジメトキシ−ジフェニルジスルフィド−3,3’−ジイソシアナートなどの硫黄含有芳香族ポリイソシアナート;ジフェニルスルホン−4,4‘−ジイソシアナート、ジフェニルスルホン−3,3’−ジイソシアナート、ベンジジンスルホン−4,4’−ジイソシアナート、ジフェニルメタンスルホン−4,4’−ジイソシアナート、4−メチルジフェニルスルホン−2,4’−ジイソシアナート、4,4’−ジメトキシジフェニルスルホン−3,3’ジイソシアナート、3,3’−ジメトキ−4,4’−ジイソシアナトジベンジルスルホン、4,4’−ジメチルジフェニルスルホン−3,3’ジイソシアナート、4,4’−ジ−t−ブチルジフェニルスルホン−3,3’−ジイソシアナート、4,4’−メトキシフェニルエチレンジスルホン−3,3’−ジイソシアナート;4−メチル−3−イソシアナト−フェニルスルホニル−4’−イソシアナトフェノールエステル、および4−メトキシ−3−イソシアナトフェニルスルホニル−4’−イソシアナトフェニルエステル;4−メチル−3−イソシアナトフェニルスルホニルアニリド−3’−メチル−4’−イソシアナート、ジフェニルスルホニル−エチレンジアミン−4,4’−ジイソシアナート、4,4’−メトキシフェニルスルホニルチレン−ジアミン−3,3’−ジイソシアナートおよび4−メチル−3−イソシアナトフェニルスルホニルアニリド−4−メチル−3’−イソシアナートなどのスルホンアミド基含有芳香族ポリイソシアナート、チオフェン−2,5−ジイソシアナートおよび1,4−ジチアン−2,5−ジイソシアナートなどの硫黄含有複素環化合物が挙げられる。
【0037】
好ましいポリイソシアナートは、式C(CHNCO)の化合物である。
本発明で用いられる、ポリチオールおよびポリイソシアナート系重合性組成物は、特に米国特許第5,087,758号、米国特許第5,191,055号、並びに米国特許第4,775,733号、米国特許第4,689,387号、米国特許第5,837,797号および米国特許第5,608,115号に記載されている。
【0038】
先に述べたように、基材の硫黄ポリマーはポリチオウレタン−尿素から選択されてもよい。
ポリチオウレタン−尿素系基材の製造に用いられる重合性組成物は、特に国際出願第WO03/042270号に記載されている。
【0039】
先に述べたように、基材の硫黄ポリマーはポリエピスルフィドから選択されてもよい。
エピスルフィドモノマーを含有する重合性組成物は、特に欧州特許第874016号および欧州特許第0942027号に記載されている。
【0040】
少なくとも1個のエピスルフィド官能基を有する重合性モノマーは、好ましくは、次式で表わされるエピスルフィド構造を1分子中に1個以上有する化合物である。
【化4】

式中、Rは炭素原子1〜10個の炭化水素基であり、R、RおよびRはそれぞれ水素原子であるか、または炭素原子1〜10個の炭化水素基であり、XはSまたはOであり、但し、該分子中、Xで表わされるSの平均個数は3員環を構成するSおよびOの合計個数の好ましくは約50%以上である。
【0041】
好ましい種類の重合性エピスルフィドモノマーとしては、次式の化合物が挙げられる:
【化5】

式中、R、R、R、R10、R11およびR12はそれぞれ水素原子であるか、または炭素原子1〜10個の炭化水素基であり、XはSまたはOであり、但し化合物分子において、Xで表わされるSの平均個数は3員環を構成するSおよびOの合計個数の好ましくは約50%以上であり、pは0から6までの整数であり、qは0から4までの整数である。
【0042】
は好ましくはメチレンまたはエチレン基であり、R、RおよびR並びにR、R、R、R10、R11およびR12はそれぞれ好ましくは水素原子、メチル基である。さらに好ましくは、Rはメチレン基であり、R、R、R、R、R、R、R10、R11およびR12はそれぞれ水素原子である。
上記Sの平均個数は、3員環を構成するSおよびOの合計個数の50%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、最も好ましくは100%である。
【0043】
上記化合物の例としては、ビス(β−エピチオプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(β−エピチオプロピルチオ)プロパン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1,3−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ブタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−3−(β−エピチオプロピルチオメチル)ブタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)ペンタン、1,6−ビス(β−エピチオプロピルチオ)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)ヘキサン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−[(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ]エタン、および1−(β−エピチオプロピルチオ)−2−{[2−(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオエチル]チオ}エタンなどの線状有機化合物; テトラキス(β−エピチオプロピルチオメチル)メタン、1,1,1−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)プロパン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1,5−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアペンタン、1−(β−エピチオプロピルチオ)−2,2−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−4−チアペンタン、1,5,6−トリス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3−チアヘキサン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4−(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,4,5−トリス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,8−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6−ジチアオクタン、1,9−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5−(β−エピチオプロピルチオメチル)−5−[(2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオメチル]−3−7−ジチアノナン、1,10ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,6−ビス[2−β−エピチオプロピルチオエチル)チオ]−3,6,9−トリチアデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,8−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン、1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−5,7−[(2−β−エピチオプロピルチオ)チオメチル]−3,6,9−トリチアウンデカン、および1,11−ビス(β−エピチオプロピルチオ)−4,7−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−3,6,9−トリチアウンデカンなどの分枝鎖有機化合物;およびエピスルフィド基の少なくとも1個の水素原子をメチル基で置換して得られる化合物、1,3−および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキサン、1,3−および1,4−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)シクロヘキサン、ビス[4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル]メタン、2,2−ビス[4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル]プロパン、ビス[4−(β−エピチオプロピルチオ)シクロヘキシル]スルフィド、2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオメチル)−1,4−ジチアン並びに2,5−ビス(β−エピチオプロピルチオエチルチオメチル)−1,4−ジチアンなどの脂環式有機化合物;およびエピスルフィド基の少なくとも1個の水素原子をメチル基で置換して得られる化合物が挙げられる。
【0044】
好ましいエピスルフィド化合物は、次式のビス(β−エピチオプロピル)スルフィドである:
【化6】

【0045】
上記基材の離型を容易にするべく、内部離型剤を含ませてもよい。内部離型剤は欧州特許第271839号に記載されている。
好ましい離型剤はジブチルホスファートなどの酸性リン酸塩である。Stepan社から市販されているZelec UNを例示することもでき、これは等量の下記2化合物から成る混合物である。
【0046】
【化7】

【0047】
内部離型剤が存在すると、その後に基材にデポジットされる処理剤、特に皮膜の付着が低下する。
従って本発明は、基材が離型剤を含有する場合に極めて興味深いものとなる。
上記基材は、例えば眼科用レンズ、特に眼鏡レンズなどであってもよい。
【0048】
本発明は、粗さRa(平均線と比較した粗さ曲線の平均偏差)が非常に小さく、典型的にはRa<1nmである基材に適用することも可能である。
しかし、基材の粗さは1〜4nmの範囲であるか、または好ましくは4nm超、特に好ましくは5〜30nmの範囲が好ましい。
粗さは、型表面が完璧でない成形品が原因で生じ得る。適当なアルカリ処理剤(カリ、ソーダ)などでの化学的処理もその一因となり得る。
或る程度の粗さが存在すれば、本発明の還元処理との組み合わせで、基材上にデポジットされる皮膜の付着性能に関し優れた結果をもたらし得る。
Raの測定には、マイクロマップ(MicroMap)または欧州特許第1218439号に記載されたプロトコルによるFTS型装置などを用いることができる。
【0049】
先に述べたように、本発明の方法に従って処理される基材は、皮膜で被覆されることが意図されている。
好ましくは、皮膜は耐摩耗ポリマー皮膜である。
耐摩耗皮膜は通常、シラン加水分解物、特にエポキシアルコキシシラン加水分解物、好ましくはエポキシジアルコキシシランまたはエポキシトリアルコキシシラン加水分解物の組成物から得られる。好適に使用できるエポキシアルコキシシランは、フランス特許第2702486号、国際公開第94/10230号、米国特許第4,211,823号、および同第5,015,523号に記載されている。
【0050】
好ましい耐摩耗皮膜組成物は、エポキシアルコキシシランまたはエポキシジアルコキシシランまたはエポキシトリアルコキシシランの加水分解物、コロイド状充填剤、および触媒量のアルミニウムアセチルアセトナートを含有し、残部は実質的に、このような組成物の調製に通常用いられる溶媒から成る。
加水分解物は、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GLYMO)の加水分解物である。
加水分解物は、通常、乾燥抽出物として耐摩耗皮膜組成物の総重量の50〜60重量%を占める。
コロイド状充填剤は、例えばSiO、ZrO、TiO、およびこれらの組み合わせから選択することができる。
【0051】
皮膜の厚みは、通常1〜10μmであるが、好ましくは2〜6μm、より好ましくは3〜5μmである。
耐摩耗皮膜は、通常、ディップコーティングまたはスピンコーティングによってデポジットされる。
【0052】
皮膜を基材の表面上にデポジットする前に、該表面を先に規定したような処理方法を用いて処理する工程を含む、硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を被覆する方法を提供することも、本発明の目的の一つである。
以下の実施例によって、本発明をさらに詳述する。
【実施例1】
【0053】
この実施例は、異なる表面処理を施した三つの同等基材において耐摩耗皮膜の付着を比較することを目的とする。
用いた基材は、式C(CHNCO)のポリイソシアナートモノマーと次式のポリチオールモノマーとの重合によって得られるポリチオウレタンポリマー系の基材である:
【化8】

【0054】
基材の諸特性は次のとおりである。
―屈折率:1.67
―加工レンズ(その主要な2面が共に表面仕上げを施されているか、または所要ジオメトリーに成形されている完成形態のレンズ)
―レンズのジオメトリー:+0.00
―レンズにおいて確認された結果:−2.00および−4.00
【0055】
皮膜をデポジットする前の各基材にそれぞれ異なる表面処理を施す。
第1の基材は、温度50℃に維持した、界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムを含有する酸性水溶液に数分間ディップする。その後、脱イオン水浴にディップすることによって濯いだ基材を5%ソーダ浴および脱イオン水浴で逐次処理し、最後にアルコール浴で洗浄する。
第2の基材は、温度50℃の20%ソーダ溶液に数分間ディップする。その後、脱イオン水浴にディップすることによって濯いだ基材を5%ソーダ浴および脱イオン水浴で逐次処理し、最後にアルコール浴で洗浄する。
第3の基材は、塩基性媒質(pH値が12超)中の5%チオグリコール酸ナトリウム溶液に浸し、次いで脱イオン水浴に浸し、最後にアルコール浴で洗浄する。
【0056】
上記処理後、いずれの基材も耐摩耗皮膜組成物で被覆する。
GLYMOの加水分解および縮合によって得られる乾燥物質を乾燥抽出物量で55重量%含み、かつメタノール中に20質量%の量で分散した混合TiO(アナターゼ)/ZrO/SiOコロイドを45重量%含む組成物を重合させて耐摩耗皮膜を得る。
基材に組成物をディップコーティングによって塗布し、このように被覆した基材を、60℃で15分間の予備硬化の後110℃のオーブン内で3時間乾燥する。
【0057】
耐摩耗皮膜で被覆した基材を回収し、該基材にXLS+型などのSuntest装置において照射を施す。XLS+型装置は280W/cm(プレート中央で60000ルクス)のパワーを有する。湿度は40%である。気温は29℃である。試料温度は23℃である。基材への照射は200時間実施する。
【0058】
照射中、皮膜の基材への付着を測定した。
ASTM D3359−93規格に従い、剃刀で皮膜に5本の切り込み線を1mm間隔で入れ、次いで同様に1mm間隔の5本の切り込み線を先の5線と直交する方向に入れ、全体で25個の正方形を規定する格子を刻むことによって皮膜の乾燥付着を測定した。圧縮空気を吹き付け、切り込みで生じた屑を総て除去した後、セロファン粘着テープ(3M社のスコッチ(登録商標)600番)を格子に貼り、強く押し付けてから皮膜表面に垂直な方向へ急速に引き剥がす。この手順を2回繰り返すが、2回目は粘着テープを、1回目と同じテープで新しいものと取り替えて行なう。
その後、レンズを検査する。
【0059】
付着スコアは次のように評価される。
【表1】

【0060】
結果を表2に示す。
【表2】

++: 付着が非常に良好で、剥離は観察されなかった(スコア0に相当)。
+: 付着が幾分弱まり、数箇所にワニスが認められた(スコア1〜2に相当)。
−: ワニス付着の消失(スコア3〜5)。
【0061】
基材を本発明の組成物で処理すると耐摩耗皮膜の付着が実質的に改善されることが観察された。
【実施例2】
【0062】
この実施例は、異なる表面処理を施された複数の基材に対する耐摩耗皮膜の付着を比較することを目的とする。
用いた基材は、実施例1に記載したのと同じポリチオウレタンポリマー系の基材である。
【0063】
皮膜をデポジットする前の基材にそれぞれ異なる表面処理を施す。
第1の基材は、温度50℃に維持した、界面活性剤のラウリル硫酸ナトリウムを含有する酸性水溶液に数分間ディップする。その後、脱イオン水浴にディップすることによって濯いだ基材を5%ソーダ浴および脱イオン水浴で逐次処理し、最後にアルコール浴で洗浄する。
第2の基材は温度50℃の20%ソーダ溶液に数分間ディップする。その後、脱イオン水浴にディップすることによって濯いだ基材を5%ソーダ浴および脱イオン水浴で逐次処理し、最後にアルコール浴で洗浄する。
第3の基材は本発明の処理組成物、即ち塩基性媒質(pH値が12超)中の5%チオグリコール酸ナトリウム組成物に浸し、次いで脱イオン水浴に浸し、最後にアルコール浴で洗浄する。
上記処理後、やはり皮膜をデポジットする前に、XLS+型などのSuntest装置において各基材に照射を施す。XLS+型装置は280W/cm(プレート中央で60000ルクス)のパワーを有する。湿度は40%である。気温は29℃である。試料温度は23℃である。基材への照射は100時間実施する。
【0064】
次に、いずれの基材も耐摩耗皮膜組成物で被覆する。耐摩耗皮膜組成物は実施例1に記載したものと同じとする。
実施例1の場合と同様、基材に皮膜組成物をディップコーティングによって塗布し、このように被覆した基材を、60℃で15分間の予備硬化の後110℃のオーブン内で3時間乾燥する。
耐摩耗皮膜で被覆した基材を回収し、付着試験を行なう。
【0065】
皮膜の基材への付着を、先に述べた付着試験法を用いて測定した。
付着の測定は耐摩耗皮膜をデポジットし、かつ硬化させた直後の時点tに行なう。
結果を表3に示す。
【表3】

++: 付着が非常に良好で、剥離は観察されなかった。
−: ワニス付着の消失。
【0066】
本発明の処理組成物の作用により、時点tにおける耐摩耗皮膜の基材への付着が可能となることが観察された。
【実施例3】
【0067】
この実施例は、本発明による表面処理を施した基材について黄変現象に対する耐性を測定することを目的とする。
試験した基材は、実施例1に記載したのと同じポリチオウレタンポリマー系の基材である。
【0068】
色相角hおよびクロマCの比色測定は分光光度計を用いて行なわれ、CIE系(L,a,b)に従って計算される。
レンズの黄色度指数Yiを試験前、および200時間後の試験終了時に測定する。
黄色度指数は、ASTM D−1325−63規格に従い分光学的に決定する。
Yi=(128X−106Z)/Yと表わされ、ここでのX、YおよびZは、試料の、380〜780nmの範囲のUV-可視スペクトル値の平均として求められる3色座標である。
【0069】
比色測定は未被覆の、即ち表面処理を施していない第1の基材において、実施例1に記載したようなSuntest装置での照射を0時間実施時点で、また200時間実施後に行なう。
本発明のチオグリコール酸ナトリウムの塩基性媒質(pH値が12超)溶液組成物を用いる表面処理をその両面に施した第2の基材においても、実施例1に記載したようなSuntest装置での照射を200時間実施後に比色測定を行なう。
結果を表4および5に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
【表5】

【0072】
表4中、第1の基材(未被覆基材)の比色座標L、aおよびbは照射前(0時間)および200時間照射後に測定し、本発明により処理した第2の基材(チオグリコール酸塩処理基材)の該座標は200時間照射後に測定した。未被覆の第1基材の照射前と照射後とでのこれら比色座標の差を算出し、また照射前の第1未被覆基材と照射後の第2処理基材との間での差も算出した。
次式によって色差が与えられる:
【数1】

その結果
ΔE 未被覆基材/UV0時間−未被覆基材/UV200時間>1
ΔE 未被覆基材/UV0時間−チオグリコール酸塩処理基材/UV200時間<1
このように、本発明による基材にチオグリコール酸ナトリウム系表面処理を施した基材の色差は、予備的な表面処理を施さなかった基材と比較して非常に小さいことが認められる。
【実施例4】
【0073】
還元剤系処理と表面粗さとの複合効果
ビス(イソシアノメチル)ノルボルナン、ペンタエリトリトールテトラキス(メルカプトプロピオナート)(PETMP)、および4−メルカプトメチル−3,6−ジチア−1,8−オクタンジチオールの重合によって得られる、表面粗さRa10nmの眼科用ポリチオウレタンレンズを、実施例1における第3の基材と同様にして本発明の処理組成物を用いて処理する。その後、実施例1と同じ耐摩耗皮膜をデポジットする。
250時間のSuntest(実施例1と同じ装置および条件)後、100%のレンズが付着スコア++である。
表面粗さRaは、Micromap512装置を用いる方法で測定する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膜で被覆される硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を処理する方法であって、皮膜を基材の表面上にデポジットする前に、該表面を少なくとも1種の還元剤を含有する処理組成物と接触させる工程を含む方法。
【請求項2】
前記還元剤が1以上のチオ酸またはその塩である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記還元剤が、チオグリコール酸、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カルシウム、チオグリコール酸マグネシウム、モノチオグリコール酸グリセロール、チオグリコール酸アンモニウム、チオグリコール酸モノエタノールアミンなどのチオグリコール酸アミン、ジチオグリコール酸ジアンモニウム、チオ乳酸、チオ乳酸アンモニウム、チオグリコール酸グアニジン、チオリンゴ酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、リポ酸、ジヒドロリポ酸、チオサリチル酸、ジチオエリトリトール、チオグリセロール、チオグリコール、ジチオエリトリトール、ジチオトレイトール、1,3−ジチオプロパノール、チオキサンチン、システイン、ホモシステイン、N−アセチル−L−システイン、システアミン、N−アセチル−システアミン、N−プロピオニル−システアミン、パンテテイン、NaHSO、LiS、NaS、KS、MgS、CaS、SrS、BaS、(NHS、ジヒドロリポ酸6,8−ジチオオクタン酸ナトリウム、6,8−ジチオオクタン酸ナトリウム、NaSHおよびKSHなどの硫化水素塩、チオグリコールアミド、グルタチオン、チオグリコールヒドラジド、ケラチナーゼ、硫酸ヒドラジン、二硫酸ヒドラジン、トリイソシアナート、2,3−ジメルカプトコハク酸、N−(メルカプトアルキル)−ω−ヒドロキシアルキルアミド、N−モノまたはN,N−ジアルキルメルカプト−4−ブチルアミド、アミノメルカプト−アルキルアミド、N−(メルカプトアルキル)コハク酸誘導体およびN−(メルカプトアルキル)スクシンイミド誘導体、アルキルアミノメルカプトアルキルアミド、チオグリコール酸2−ヒドロキシプロピルとチオグリコール酸(2−ヒドロキシ−1−メチル)エチルとの共沸混合物、メルカプトアルキルアミノアミド、N−メルカプト−アルキルアルカンジアミドおよびホルムアミジンスルフィン酸誘導体、スルフィット、ビスルフィット、並びにこれらの塩から選択される1つ以上である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記還元剤が、チオグリコール酸ナトリウム、チオグリコール酸カリウム、チオグリコール酸アンモニウム、およびチオグリコール酸アミンから選択される1つ以上である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記処理組成物のpH値が、10より大きく、好ましくは12より大きい請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記処理組成物が、組成物総重量に対し2〜30重量%、好ましくは2〜15重量%、より好ましくは5〜10重量%の前記還元剤を含有する請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記処理組成物が少なくとも1種の金属硫化物を含有する請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
基材にソーダ溶液を塗布する後続工程を含まない請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の酸化剤を含有する酸化組成物で処理する付加的工程を含む請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記酸化剤が、過酸化水素、臭素酸アルカリ、ポリチオナート、並びに過ホウ酸塩、過炭酸塩、過硫酸塩および過マンガン酸塩などの過酸塩から選択される1つ以上である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記酸化剤がHおよびKMnOから選択される1つ以上である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記酸化組成物が、組成物総重量に対し2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の前記酸化剤を含有する請求項9から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1種のホスホリル化剤を含有するホスホリル化組成物で処理する付加的工程を含む請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記ホスホリル化剤が、亜リン酸トリアルキル、ホスホン酸、およびホスフィン酸から選択される請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ホスホリル化組成物が、組成物総重量に対し2〜15重量%、好ましくは5〜10重量%の前記ホスホリル化剤を含有する請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記基材の硫黄ポリマーが、ポリチオ(メタ)アクリラート、ポリチオウレタン、ポリチオウレタン−尿素、およびポリエピスルフィドから選択される請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
前記硫黄ポリマーが、少なくとも1種のポリイソシアナートモノマーと少なくとも1種のポリチオールモノマーとの重合によって得られるポリチオウレタンである請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリイソシアナートモノマーが式C(CHNCO)の化合物であり、かつ前記ポリチオールモノマーが式C(CHOC(O)CHCHSH)の化合物である請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ポリイソシアナートモノマーが式C(CHNCO)の化合物またはビス(イソシアノメチル)ノルボルナンであり、かつ前記ポリチオールモノマーが次式:
【化1】

の化合物である請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記基材の粗さRaが4nmより小さく、好ましくは1〜4nmの範囲である請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
前記基材の粗さRaが4nmより大きく、好ましくは5〜30nmの範囲である請求項1から19のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記基材が眼科用レンズである請求項1から21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
前記眼科用レンズが眼鏡レンズである請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記皮膜が耐摩耗ポリマー皮膜である請求項1から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記ポリマー皮膜が、エポキシアルコキシシラン加水分解物、好ましくはエポキシジアルコキシシランまたはエポキシトリアルコキシシラン加水分解物系皮膜である請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記皮膜の厚みが1〜10μm、好ましくは2〜6μm、より好ましくは3〜5μmである請求項24または25に記載の方法。
【請求項27】
硫黄ポリマー系基材の少なくとも一つの表面を被覆する方法であって、皮膜を前記基材の表面上にデポジットする前に、該表面を請求項1から26のいずれかに記載の処理方法を用いて処理する工程を含む方法。

【公表番号】特表2010−529275(P2010−529275A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511706(P2010−511706)
【出願日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051052
【国際公開番号】WO2008/155507
【国際公開日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【出願人】(594116183)エシロール アテルナジオナール カンパニー ジェネラーレ デ オプティック (69)
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL COMPAGNIE GENERALE D’ OPTIQUE
【Fターム(参考)】