説明

皮膜材を焼成して皮膜を形成する焼成炉および皮膜形成方法

【課題】 搬送治具に載置した反射板を長期間、連続使用でき、反射板の耐久性が向上すると共に、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜する焼成炉および皮膜形成方法を提供すること。
【解決手段】 赤外線を照射し、皮膜材3を被処理物2に焼成して成膜する皮膜形成方法であって、皮膜材3を塗布した被処理物2を載置すると共に、反射板13〜16を配備した搬送治具11を有する搬送装置10により、被処理物2を焼成ゾーン20に搬送し、焼成ゾーン20のランプユニット21からの赤外線を直接、被処理物2に照射すると共に、反射板13〜16で反射させ被処理物2の皮膜材3の塗布部分2aと、塗布部分2a以外の照射部分2b、2cに照射し皮膜材3を焼成する。次に搬送装置10で被処理物2を冷却ゾーン30に搬送し、皮膜材3を焼成した被処理物2と反射板13〜16とを冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば樹脂などの皮膜材を塗布した被処理物に光源から放射される赤外線を照射し、皮膜材を被処理物に焼成して皮膜する焼成炉および皮膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術の樹脂コート皮膜の焼成炉として、内部に処理空間を有する炉体と、被処理体を積載して、処理空間を加熱する中赤外線若しくは近赤外線を放熱するヒーターと、処理空間内に少なくとも一つ配置された、熱を反射する熱反射面を有する熱反射部材と、を備えた焼成炉であって、熱反射部材は、熱反射面が搬送手段の搬送方向と略同一方向となるように配置されてなる焼成炉が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、反射性が高く水を透過して金属の界面を昇温させる近赤外線を利用しその赤外線ランプの前面に反射性の高い材質、研ぎのアルミ、ステンレス鋼板等で幅は50mm〜100mmの筒状のカバーを設け、光の分散を防ぎ、折曲げ部分の底辺に光を集中的に当て、乾燥させる方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、少なくともヤニの付着しやすい炉内壁面に近赤外線を照射し、炉内壁面へのヤニの付着を防止するとともに、炉内壁面から近赤外線を反射させ、その反射された近赤外線を被塗物に当て、塗膜の乾燥に利用する塗膜乾燥炉におけるヤニ付着防止方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、オーブン窯内の熱板上に置かれた被加工物に対し、熱源からの遠・近赤外線を反射機構によって反射して調理、焼成するようにした製菓・製パン用オーブン装置において、反射機構は、表面が湾曲状である複数の反射棒状材を配列した製菓・製パン用オーブン装置が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【0006】
また、第1の加熱板と、第1の加熱板とは所定の距離離間して対向するように配置され、複数の穴が形成された第2の加熱板と、第2の加熱板における第1の加熱板と対向する面とは反対の面から所定の距離離間して配置され、赤外線を放射する加熱手段と、を有し、加熱対象物を第1の加熱板と第2の加熱板との間に介在させ、加熱対象物を加熱する加熱装置が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【特許文献1】特開2006−185974号公報
【特許文献2】特開平10−28943号公報
【特許文献3】特開平8−80466号公報
【特許文献4】特開平10−169678号公報
【特許文献5】特開2007−120930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、熱反射部材は、熱的強度確保のため、耐熱性金属または石英ガラスを使用しており、石英ガラスの場合、反射率が低いため、反射率の高い材質を反射部材の反射面にコーティングしなければならない。熱反射部材は、炉内に固定され、高温下にあるので、反射面の皮膜の劣化防止から、反射面を所定時間毎に水などの冷却媒体で冷却する必要がある。このため焼成炉を使用できる時間が制限され、冷却せず長期間、連続使用すると故障する問題がある。
【0008】
また、被処理体の上面上方と下面下方、および、被処理体の進行する前面方向と背面方向には反射板が配備されない。このためこれらの方向に進行する近赤外線は断熱材に大部分吸収され、エネルギーが損失する問題がある。
【0009】
また、特許文献2は、反射性の高い材質の筒状のカバーで赤外線の分散を防ぎ、折曲げ部分の底辺に光を集中させている。この折曲げ部は可動するため、筒状のカバーの変形や劣化による可動の故障を防止する必要から、筒状のカバーと折曲げ部を所定時間毎に水などの冷却媒体で冷却する必要がある。筒状のカバーと折曲げ部は移動出来ないので、冷却時は焼成炉の稼動を停止する。結果、焼成炉を使用できる時間が制限され、冷却せず長期間、連続使用すると故障する問題がある。
【0010】
また、特許文献3は、近赤外線を炉内壁面に当て、炉内壁面の温度を上昇させ炉内壁面へのヤニの付着を防止し、その反射する近赤外線のエネルギーを塗物に照射して塗物を乾燥する。近赤外線を散乱させるので、塗物に照射されない散乱した近赤外線のエネルギーは、損失する。また、炉内壁面へのヤニの付着防止が不要の場合、炉内壁に吸収されたエネルギー分、損失する。従って、散乱による近赤外線のエネルギーの損失と、炉内壁に吸収されるエネルギーを損失する問題がある。
【0011】
また、特許文献4は、反射機構における反射は、反射棒状材の表面が湾曲状であるために、熱源からの遠・近赤外線が特定区域されることなく、オーブン窯内全般に散乱される。従って、被加工物に照射されない散乱した近赤外線のエネルギーを損失する問題がある。
【0012】
また、特許文献5は、ミラーで反射されるハロゲンランプの赤外線と、ハロゲンランプから直接放射される赤外線のうち、第2の加熱板の穴を通過する赤外線は加熱対象物を加熱し有効に使用されるが、第2の加熱板の穴を通過せず第2の加熱板に当たる赤外線の大部分は損失する。
【0013】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、搬送治具に載置した反射板を長期間、連続使用でき、従来と比べてエネルギー損失が少なくエネルギー効率の高い焼成炉および皮膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、光源から赤外線を照射し、皮膜材を被処理物に焼成して成膜する焼成炉であって、被処理物を載置すると共に赤外線を反射して被処理物に照射する反射板を設置した搬送治具を有し、被処理物を搬送する搬送手段と、光源を設置し、光源からの赤外線を搬送手段により搬送された被処理物に照射し、被処理物に塗布した皮膜材を被処理物に焼成する焼成ゾーンと、皮膜材を焼成した被処理物と、反射板とを冷却する冷却ゾーンと、を備える。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、反射板は、被処理物の上方向と、下方向と、被処理物の搬送方向と、搬送反対方向とのうち少なくとも一つの方向に配置される。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、光源から赤外線を照射し、皮膜材を被処理物に焼成して成膜する皮膜形成方法であって、赤外線を反射して被処理物に照射する反射板を設置した搬送治具を有する搬送手段により、被処理物を搬送治具に載置して被処理物を焼成ゾーンに搬送する搬送工程と、焼成ゾーンに搬送した被処理物に、焼成ゾーンに設置した光源からの赤外線を被処理物に照射し、被処理物に塗布した皮膜材を被処理物に焼成する焼成工程と、焼成工程終了後、搬送手段により、被処理物を冷却ゾーンに搬送し、冷却ゾーンで被処理物と反射板とを冷却する冷却工程と、を備える。
【0017】
また、請求項4に記載の発明は、搬送工程の前に皮膜材が塗布される塗布をしない部分であって赤外線が照射される照射部分に赤外線を吸収して被処理物の温度を高める表面処理を施す載置工程を備える。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、前記焼成工程において、反射板は被処理物の皮膜材が塗布される塗布部分および表面処理を施した部分の少なくとも一方に光源からの赤外線を反射して集光する。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明では、焼成ゾーンに設置した光源から赤外線が放射される(以下、光源の赤外線)。光源の赤外線は、直接、被処理物の皮膜材塗布部分と、被処理物の塗布部分以外の照射部分を照射する。被処理物に直接照射せず本来漏れとなる赤外線(以下、漏れる赤外線)は、搬送治具に配備した反射板で反射され、被処理物の皮膜材塗布部分と、被処理物の塗布部分以外の照射部分に集光される。従って、光源から放射される赤外線の殆どを被処理物に集光して照射できる。塗布部分を照射した赤外線は、直接、塗布部分の皮膜材と、皮膜材を介在し被処理物を昇温させる。塗布部分以外の照射部分を照射した赤外線の輻射熱エネルギーは、被処理物と、被処理物内を伝わり塗布部分の皮膜材を昇温させる。これにより光源からの赤外線の輻射熱エネルギーを無駄にすることなく有効に使って皮膜材と被処理物を昇温させ、被処理物に皮膜材を焼成するので、従来技術に比べ、光源に供給する電力は減少する。あるいは、同じ電力では焼成時間を短縮できる。結果、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜できる。
【0020】
また、焼成ゾーンでの焼成終了後、搬送手段で搬送治具を、焼成ゾーンの隣に位置する冷却ゾーンに搬送し、冷却ゾーンで、被処理物と反射板を冷却する。そして、後に続く搬送治具に載置した被処理物も、連続して順次、同じように、焼成ゾーンで焼成され、次に冷却ゾーンに搬送され、冷却ゾーンで反射板と共に冷却される。従って、焼成炉を停止することなく、長期間、連続しても、反射板の変形あるいは反射板の反射面のメッキ剥がれが抑制される。結果、反射板を連続して長期間使用できる。
【0021】
さらに、高いエネルギー効率で皮膜材を被処理物に成膜するので、焼成の所要時間が短縮されることと、焼成する度に反射板を冷却することとで、反射板の耐久性が向上する。
【0022】
以上により、搬送治具に載置した反射板を長期間、連続使用でき、反射板の耐久性が向上すると共に、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜する焼成炉を提供できる。
【0023】
また、請求項2に記載の発明では、反射板は、被処理物の上方向と、下方向と、被処理物の搬送方向と、搬送反対方向とのうち少なくとも一つの方向に配置される。従って、光源からの赤外線のうち被処理物に照射せず漏れとなった赤外線は、被処理物の上方向と、下方向と、被処理物の搬送方向と、搬送反対方向とのうち少なくとも一つの方向に配置される反射板により反射、集光されて被処理物(皮膜材の塗布部分と塗布部分以外の照射部分)を照射する。結果、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜する焼成炉を提供できる。
【0024】
特に、被処理物の皮膜材塗布部分が搬送方向の左右に配置されることで、塗布部分は、光源に対面しているので、光源から直接照射する赤外線は、塗布部分以外の照射部分より赤外線の照射量が多くなる。さらに被処理物の上方側と下方側の反射板は、光源に略平行に配置されるので、上方側と下方側の反射板で反射した光源からの赤外線は、塗布部分以外の照射部分より赤外線の照射量が多くなる。従って、塗布部分に、光源からの赤外線の多くを集光して照射するので皮膜材は短時間で被処理物に焼成される。結果、焼成炉のエネルギー効率が向上する。
【0025】
請求項3に記載の発明では、光源の赤外線は、直接、被処理物の皮膜材塗布部分と、被処理物の塗布部分以外の照射部分を照射する。被処理物に直接照射せず本来漏れとなる赤外線は、搬送治具に配備した反射板で反射され、被処理物の皮膜材塗布部分と、被処理物の塗布部分以外の照射部分を照射する。従って、光源から放射される赤外線の殆どを被処理物に集光して照射できる。塗布部分を照射した赤外線は、直接、塗布部分の皮膜材と、皮膜材を介在し被処理物を昇温させる。塗布部分以外の照射部分を照射した赤外線の輻射熱エネルギーは、被処理物と、被処理物内を伝わり塗布部分の皮膜材を昇温させる。これにより光源からの赤外線の輻射熱エネルギーを無駄にすることなく有効に使って皮膜材と被処理物を昇温させ、被処理物に焼成するので、従来技術に比べ、光源に供給する電力は減少する。あるいは、同じ電力では焼成時間を短縮できる。結果、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜できる。
【0026】
また、焼成ゾーンでの焼成終了後、搬送手段で搬送治具を、焼成ゾーンとの隣に位置する冷却ゾーンに搬送し、冷却ゾーンで、被処理物と反射板を冷却する。そして、後に続く搬送治具に載置した被処理物も、連続して順次、同じように、焼成ゾーンで焼成され、冷却ゾーンに搬送され、冷却ゾーンで反射板と共に冷却される。従って、焼成炉を停止することなく、長期間、連続使用しても、反射板の変形あるいは反射板の反射面のメッキ剥がれが抑制される。結果、反射板を連続して長期間を使用できる。
【0027】
さらに、エネルギー効率の高い皮膜形成方法であるので焼成の所要時間が短縮されることと、焼成する度に反射板を冷却することとで、反射板の耐久性が向上する。
【0028】
以上により、反射板を長期間、連続使用でき、反射板の耐久性が向上すると共に、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜できる皮膜形成方法を提供できる。
【0029】
また、請求項4に記載の発明では、被処理物は、皮膜材が塗布された塗布部分以外で、赤外線が照射される照射部分に赤外線の吸収率が、該照射部分より赤外線吸収率の高い表面処理を施す。これにより、表面処理を施した箇所は、赤外線を多量に吸収し、吸収された赤外線の輻射熱エネルギーは、被処理物全体と塗布部分の皮膜材を短時間で均一に昇温できる。あるいは同一の焼成時間では、光源の供給電力を低減できる。結果、焼成時間短縮分に相当する電力あるいは、同一の焼成時間では光源の供給電力低減分、輻射熱エネルギーが節約でき、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜する皮膜形成方法を提供できる。
【0030】
また、請求項5に記載の発明では、反射板は、被処理物の皮膜材が塗布される塗布部分および表面処理を施した部分の少なくとも一方の部分に光源からの赤外線を反射し、集光する。これにより、塗布部分および表面処理を施した部分に吸収される赤外線は、被処理物の地肌から吸収される赤外線より多い。結果、高いエネルギー効率で被処理物に皮膜材を焼成して成膜する皮膜形成方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
(実施形態)
以下に本発明の実施形態を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係わる焼成炉の説明図である。
【0033】
図2は、図1の焼成ゾーンの説明図である。図中、(a)は図1のA矢視の部分図で、(b)は図2(a)のXX断面の部分図である。図中、矢印Bは、コンベア12の移動方向を示す。
【0034】
図3は、ランプユニットの斜視図である。
【0035】
図1に示すように、焼成炉1は、例えば、樹脂(例えば、ポリアミド、PTFE)皮膜などの皮膜材3(図2)を塗布した被処理物2(図2)を搬送する搬送装置10(搬送手段)と、皮膜材3を塗布した被処理物2に赤外線を照射し皮膜材3を焼成する焼成ゾーン20と、焼成後、被処理物2と後述する反射板とを冷却する冷却ゾーン30とから構成される。
【0036】
搬送装置10は、コンベア12と、コンベア12に連結された複数の搬送治具11とから構成される。コンベア12は矢印B方向に可動し、搬送治具11を連続して搬送する。これにより搬送治具11は、搬送治具11に載置した被処理物2を焼成ゾーン20と、冷却ゾーン30に、順次、連続して搬送する。
【0037】
図2に示すように、被処理物2は、円筒形状で、円筒面の塗布部分2aに樹脂などの皮膜材3が塗布され、焼成して成膜される。
【0038】
焼成ゾーン20は、赤外線を放射するハロゲンランプ22(光源)と、ハロゲンランプ22の赤外線を反射して被処理物2に照射するリフレクタ23と、ハロゲンランプ22とリフレクタ23を支持するケース24から構成されるランプユニット21を備える。そしてランプユニット21は、搬送装置10の搬送方向に対し左右に配置される。
【0039】
ランプユニット21は、ハロゲンランプ22からの直接の赤外線と、ハロゲンランプ22からの赤外線をリフレクタ23で反射した赤外線とが放射される。
【0040】
また、ハロゲンランプ22の赤外線は、主に、短波長の近赤外線(波長0.8〜2μm)であるが、中波長の中赤外線(波長2〜4μm)でも良い。
【0041】
冷却ゾーン30は、焼成ゾーン20で実施される焼成工程の後に、引き続いて実施される焼成ゾーン20に隣接して配置される。そして、冷却ゾーン30では、皮膜材3の焼成を終了した被処理物2と、搬送治具11に配備した反射板13、14、15、16とが冷却される。
【0042】
搬送治具11は、皮膜材3を塗布した被処理物2が載置されると共に、反射板13、14、15、16が配備される。反射板13、14、15、16は、それぞれ被処理物2の上方側と、下方側の搬送方向の左右と、搬送前方側と、搬送後方側とに配置される。各反射板13、14、15、16は、ランプユニット21からの赤外線(ハロゲンランプ22から直接放射される赤外線と、ハロゲンランプ22からリフレクタ23で反射される赤外線)を反射して被処理物2(被処理物2の皮膜材3の塗布部分2aと、塗布部分2a以外の照射部分2b、2c)に集光し、照射する。反射板13、14、15、16の材質は、黄銅に金メッキを成膜したもの、あるいはステンレス板、アルミニュウム板等を研磨したもので、反射率の高い金属であれば良い。
【0043】
次に、本発明の実施形態の作動と効果について説明する。
【0044】
図4は、本発明の実施形態に係わる皮膜形成方法のフローチャートである。
【0045】
図4に示すように、皮膜材3を被処理物2に焼成して成膜する皮膜形成方法は、載置工程S1と、搬送工程S2と、焼成工程S3と、冷却工程S4と、取出し工程S5とからなる。
【0046】
(載置工程)
載置工程S1は、皮膜材3を被処理物2に塗布した搬送治具11に載置する。尚、被処理物2を搬送治具11に載置して皮膜材3を被処理物2に塗布しても良い。
【0047】
(搬送工程)
搬送工程S2は、皮膜材3を塗布した被処理物2を搬送治具11に載置し、搬送装置10で焼成ゾーン20に搬送する。
【0048】
(焼成工程)
焼成工程S3は、焼成ゾーン20にて、搬送工程S2で搬送装置10により搬送された被処理物2をランプユニット21から放射される赤外線で照射する。即ち、ランプユニット21から放射される赤外線は直接、被処理物2の塗布部分2aと、被処理物2の塗布部分2a以外の照射部分2b、2cとを照射する。また、被処理物2に直接照射せず、本来漏れとなる赤外線は、搬送治具11に配備した反射板13、14、15、16で反射され、被処理物2に集光し、塗布部分2aと、塗布部分2a以外の照射部分2b、2cとを照射する。
【0049】
塗布部分2aに照射した赤外線は、皮膜材3と、皮膜材3を介在し被処理物2を昇温させる。皮膜材3の塗布部分2a以外の照射部分2b、2cに照射した赤外線は、被処理物2と、被処理物2を介在し皮膜材3を昇温させる。これにより皮膜材3は被処理物2に焼成される。この焼成の際、コンベア12は、焼成に必要な時間、焼成ゾーン20内を移動して焼成する。あるいは、焼成に必要な時間、焼成ゾーン20内で停止して焼成しても良い。
【0050】
(冷却工程)
冷却工程S4は、焼成ゾーン20内での焼成終了後、実施される。即ち、搬送装置10によりコンベア12が矢印B方向に移動し、搬送治具11は冷却ゾーン30に搬送される。そして冷却ゾーン30にて、皮膜材3が焼成された被処理物2と、反射板13、14、15、16とが冷却される。反射板13、14、15、16の冷却は、反射板13、14、15、16の寿命を長く確保するために成される。この冷却の際、コンベア12は、冷却に必要な時間、冷却ゾーン30内を移動し、被処理物2と、反射板13、14、15、16は冷却される。あるいは、冷却に必要な時間、冷却ゾーン30内で停止し、被処理物2と、反射板13、14、15、16を冷却しても良い。
【0051】
また、好ましくは、冷却工程S4での冷却中、焼成ゾーン20で後続の搬送治具11に載置した被処理物2を焼成すると良い。これによりハロゲンランプ22から放射される赤外線が有効活用される。
【0052】
(取出し工程)
取出し工程S5は、冷却が終了すると実施される。即ち、搬送装置10によりコンベア12が移動し、搬送治具11は冷却ゾーン30から搬出される。搬送治具11に載置した被処理物2は搬送治具11から取出される。
【0053】
上述の各工程S1と、S2と、S3と、S4と、S5とが成された被処理物2を載置した搬送治具11の後に、順次、続く搬送治具11には、上述と同じように皮膜材3が焼成される被処理物2が載置される。そして、上述と同じように各工程S1と、S2と、S3と、S4と、S5とが、順次、実施される
以上により、以下の効果を生じる。即ち、ランプユニット21により焼成ゾーン20は、ハロゲンランプ22からの直接の赤外線と、リフレクタ23で反射されたハロゲンランプ22の赤外線とが放射される(以下、ランプユニット21の赤外線)。ランプユニット21の赤外線は、直接、被処理物2の塗布部分2aと、被処理物2の塗布部分2a以外の照射部分2b、2cを照射する。そして直接、被処理物2に照射せず本来漏れ、損失となる赤外線は、搬送治具11に配備した反射板13、14、15、16で反射され、塗布部分2aと、被処理物2の塗布部分2a以外の照射部分2b、2cとに集光し、照射されるので、ランプユニット21から放射された赤外線の殆どを被処理物2に集光して照射できる。従って、焼成時間を短縮できる。あるいは、同じ焼成時間では、ハロゲンランプ22に供給する電力を減少できる。結果、高いエネルギー効率で、被処理物2に皮膜材3を焼成して成膜できる。
【0054】
また、焼成ゾーン20での焼成終了後、コンベア12で搬送治具11を、焼成ゾーン20に隣接し配置された冷却ゾーン30に移動させ、冷却ゾーン30で、被処理物2と反射板13、14、15、16を冷却する。そして、後に続く搬送治具11に載置した被処理物2を、連続して順次、前述と同じに、焼成ゾーン20で焼成し、その後、冷却ゾーン30で反射板13、14、15、16と共に冷却する。従って、焼成炉1を停止することなく、長期間、連続使用しても、反射板13、14、15、16の変形あるいは反射面のメッキ剥がれは抑制される。結果、反射板13、14、15、16は長期間に亘り連続使用できる。
【0055】
さらに、本発明の焼成炉1は、エネルギー効率が高いので焼成の所要時間が短縮できることと、焼成する度に反射板13、14、15、16を冷却することとで、反射板13、14、15、16の耐久性が向上する。
【0056】
図5は、従来技術の焼成炉41の焼成ゾーンの説明図で、(a)は図1で示されるA矢視と同じ方向から見た断面を示し、(b)は図5(a)のYY断面の部分断面を示す。図中、矢印Bは、コンベア12の移動方向を示す。尚、図1と同じ部材、同じ部位は同じ符号を付す。
【0057】
図5(a)に示すように、ハロゲンランプ22からリフレクタ23で反射されず直接、範囲M1、範囲N1に向かう赤外線は、被処理物2に照射することなく損失され、輻射熱エネルギーは無駄に消失される。また、ロゲンランプ22からリフレクタ23で反射され範囲M2、範囲N2に向かう赤外線も、被処理物2に照射することなく損失され、輻射熱エネルギーは無駄に消失される。図2(a)では反射板13、14が設けられているので、図5(a)の範囲M1、範囲N1、範囲M2、範囲N2に向かう赤外線に相当する赤外線はない。
【0058】
図5(b)に示すように、ハロゲンランプ22からリフレクタ23で反射されず直接、範囲Q1、範囲R1に向かう赤外線と、リフレクタ23で反射され範囲Q1、範囲R1に向かう赤外線は、共に被処理物2に照射することなく損失され、輻射熱エネルギーは無駄に消失される。図2(b)では反射板15、16が設けられているので、図5(b)の範囲Q1、範囲R1に向かう赤外線に相当する赤外線は、図2(b)に示す範囲Q、範囲R向かう赤外線である。本発明の範囲Q、範囲Rは、従来技術の範囲Q1、範囲R1より狭い。
【0059】
この従来技術との比較により、本発明は、従来技術に比べ、ランプユニット21から放射され赤外線を殆ど漏れることなく被処理物2に集光し、照射する。結果、従来技術に比べ、エネルギー効率の高い。
【0060】
図6は、図2に示す本発明の焼成ゾーンと、図5に示す従来技術の焼成ゾーンとの作用を比較した図で、点線はランプユニットのから赤外線を示す。図中、(a1)と(b1)は、それぞれ本発明の図2の(a)と(b)にランプユニットの赤外線を加えた図、(a2)と(b2)は、それぞれ従来技術の図5の(a)と(b)にランプユニットからの赤外線を加えた図を示す。
【0061】
図6(a1)と(a2)、(b1)と(b2)を比べると、ランプユニット21からの赤外線は、(a1)の方が(a2)より多量に被処理物2に照射され、また、(b1)の方が(b2)より多く被処理物2に照射されている。これは、ランプユニット21からの赤外線が反射板13、14、15、16で反射され、被処理物2に照射されるためである。
【0062】
また、図6に示すように反射板13と、14は、主に被処理物2の搬送方向に対し左右の部分、即ち塗布部分2aを集中照射する。反射板15と、16は、主に被処理物2の搬送方向の前方部分と工法部分、即ち塗布部分2a以外の照射部分2b(図2)を集中照射する。そして被処理物2の上面、即ち照射部分2c(図2)は反射板13により集中照射される。
【0063】
特に、被処理物2の皮膜材3の塗布部分2aが搬送方向Bの左右に配置している。従って、塗布部分2aは、ランプユニット21に対面するので、ランプユニットから直接照射する赤外線は、塗布部分2a以外の照射部分2b、2cより赤外線の照射量が多くなる。さらに被処理物2の上方側と下方側の反射板13、14は、ランプユニット21に略平行に配置されるので、上方側と下方側の反射板13、14で反射したランプユニット21からの赤外線は、塗布部分2a以外の照射部分2b、2cより赤外線の照射量が多くなる。従って、塗布部分に、ランプユニット21からの赤外線の多くを集光して照射するので皮膜材3は短時間で被処理物に焼成される。
【0064】
また、被処理物2は、皮膜材3が塗布された塗布部分2a以外の照射部分2b、2cで、赤外線が照射される箇所に該箇所より赤外線の吸収率の高い表面処理を施す。これにより、表面処理を施した箇所は、赤外線を多量に吸収し、吸収された赤外線の輻射熱エネルギーは被処理物2と処理部分2aの皮膜材3を短時間で均一に昇温する。あるいは、同じ焼成時間では、ハロゲンランプ22に供給する電力が低減する。結果、時間短縮分に相当する電力あるいは電力低減分、輻射熱エネルギーが節約でき、皮膜形成方法のエネルギー効率が向上する。
【0065】
図7は、エンジンピストン4(被処理物)の斜視図である。エンジンピストン4のスカート部4a(塗布部分)に樹脂からなる皮膜材が塗布される。そして、スカート部4aの両面が、コンベア12の搬送方向の左右に配備されたハロゲンランプ22(図2)に対面するように搬送治具11に載置される。焼成工程S3でスカート部4aと、スカート部4a以外のエンジンピストン4の照射部分とにランプユニット21からの直接の赤外線と、反射板13、14、15、16で反射した赤外線とが照射される。これにより、スカート部4aに塗布された皮膜材がスカート部4aに焼成され成膜される。
【0066】
図8は、反射板がある場合と、ない場合における図7のエンジンピストン4の温度と焼成時間の関係を示す図である。図中、t1と、t2は、それぞれ反射板がある場合と、ない場合の焼成に要する焼成時間を示す。図8に示すように反射板13、14、15、16を搬送治具11に配備した場合は、反射板を配備しない場合を比べると、エンジンピストン4が所定温度に到達する時間は、12、6秒短縮される。これは、反射板13、14、15、16を配備したことにより、反射板を配備しない場合を比べ、ハロゲンランプ22の赤外線が、単位時間当たりエンジンピストン4に照射される照射量と、これに伴う吸収量とが増大しためである。この短縮された時間は、ハロゲンランプ22に投入される電力で換算すると略30%電力が低減される。結果、本発明のエネルギー効率の効果が検証された。
【0067】
また、スカート部4aの隣のピストンピンが挿入されるピン穴5側の側面6a、6b、6c、6d、6e(照射部分)に各側面6a〜6eより赤外線の吸収率の高い表面処理(載置工程)を搬送工程前に施す。これにより、ピン穴5側の側面6a、6b、6c、6d、6eに照射される赤外線が多量に吸収される。結果、エンジンピストン4の全体に亘り温度がさらに短時間で均一に上昇できると共にスカート部4aの皮膜材を短時間で昇温させる。結果、エネルギー効率の高い焼成炉1および皮膜形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施形態に係わる焼成炉の説明図である。
【図2】図1の焼成ゾーンの説明図である。
【図3】図1の焼成ゾーンに配備したランプユニットの斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係わる皮膜形成方法のフローチャートである。
【図5】本発明に係わる従来技術の焼成炉の焼成ゾーンの説明図である。
【図6】本発明の焼成ゾーンと従来技術の焼成ゾーンの作用を比較した図である。
【図7】エンジンピストンの斜視図である。
【図8】図7のピストン温度と焼成時間の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 焼成炉
2 被処理物
2a 塗布部分
2b、2c 照射部分
3 皮膜材
4 エンジンピストン(被処理物)
4a スカート部(塗布部分)
6a、6b、6c、6d、6e 側面(照射部分)
10 搬送装置(搬送手段)
11 搬送治具
13、14、15、16 反射板
20 焼成ゾーン
22 ハロゲンランプ(光源)
30 冷却ゾーン
S2 搬送工程
S3 焼成工程
S4 冷却工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から赤外線を照射し、皮膜材を被処理物に焼成して成膜する焼成炉であって、
前記被処理物を載置すると共に前記赤外線を反射して前記被処理物に照射する反射板を設置した搬送治具を有し、前記被処理物を搬送する搬送手段と、
前記光源を設置し、前記光源からの前記赤外線を前記搬送手段により搬送された前記被処理物に照射し、前記被処理物に塗布した前記皮膜材を前記被処理物に焼成する焼成ゾーンと、
前記皮膜材を焼成した前記被処理物と、前記反射板とを冷却する冷却ゾーンと、を備える、ことを特徴とする焼成炉。
【請求項2】
前記反射板は、前記被処理物の上方向と、下方向と、前記被処理物の搬送方向と、搬送反対方向とのうち少なくとも一つの方向に配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の焼成炉。
【請求項3】
光源から赤外線を照射し、皮膜材を被処理物に焼成して成膜する皮膜形成方法であって、
前記赤外線を反射して前記被処理物に照射する反射板を設置した搬送治具を有する搬送手段により、前記被処理物を前記搬送治具に載置して前記被処理物を焼成ゾーンに搬送する搬送工程と、
前記焼成ゾーンに搬送した前記被処理物に、前記焼成ゾーンに設置した前記光源からの前記赤外線を前記被処理物に照射し、前記被処理物に塗布した前記皮膜材を前記被処理物に焼成する焼成工程と、
前記焼成工程終了後、前記搬送手段により、前記被処理物を冷却ゾーンに搬送し、前記冷却ゾーンで前記被処理物と前記反射板とを冷却する冷却工程と、を備える、ことを特徴とする皮膜形成方法。
【請求項4】
前記搬送工程の前に前記皮膜材を塗布をしない部分であって前記赤外線が照射される照射部分に前記赤外線を吸収して前記被処理物の温度を高める表面処理を施す載置工程と、を備える、ことを特徴とする請求項3に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記焼成工程において、前記反射板は前記被処理物の前記皮膜材が塗布される前記塗布部分および前記表面処理を施した部分の少なくとも一方に前記光源からの前記赤外線を反射して集光する、ことを特徴とする請求項4に記載の皮膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−287786(P2009−287786A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137376(P2008−137376)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】