説明

直交信号生成回路、直交信号生成回路の調整方法、及び無線通信装置

【課題】高周波の広い範囲で周波数が高速で切り替わり、正確に位相が90度異なる直交信号を消費電力が少ない回路で生成する。
【解決手段】可変利得アンプ9によって増幅した信号を、ポリフェイズフィルタ1を通すことで、大まかに位相差が90度となる直交信号を生成する。ディジタル制御回路8からのディジタル信号で制御された可変利得アンプ2,3により、直交信号を増幅する。可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅を振幅検出器4,5によって検出し、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅が等しくなるように、可変利得アンプの利得をディジタル制御回路8によって疎調整する。この疎調整に加えて、後述する微調整を行うことで、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅を等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに90度位相が異なる2つの信号である直交信号を生成する直交信号生成回路、その調整方法、及びその直交信号生成回路を有する無線通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディジタル方式の位相偏移変調や直角位相振幅変調を採用した無線通信方式は一般に広く利用されている。これらの無線通信方式の規格に対応した無線機では、直交信号を使って送受信信号の周波数変換を行うことで位相変復調を実現する。直交信号の位相差に誤差があると通信品質に影響を与えるため、位相差は正確に90度である必要がある。
【0003】
位相差90度の直交信号を生成するには、抵抗・容量によるフィルタで位相をシフトする移相器を用いる方法(以下、第1の方法と言う)、2倍の周波数の信号を2分周することで直交信号を得る方法(以下、第2の方法と言う)、90度ずつ位相がずれた信号を発生する発振器を利用する方法(以下、第3の方法と言う)等が既に知られている。
【0004】
しかし、第1の方法には、抵抗・容量のばらつきによって位相差がずれてしまうという問題がある。また、位相差が90度になるのは抵抗・容量の値によって決まる特定の周波数のみであるため、搬送波周波数を頻繁に切り替える周波数ホッピングを利用した通信方式には利用できないという問題がある。即ち、例えばMB−OFDM(MultiBand Orthogonal Frequency Division Multiplexing)方式のUWB(Ultra Wide Band)のPHY層を実装するチップに適用する場合、搬送波周波数が3.1GHz〜10.6GHzと広くて高く、かつ搬送波周波数を高速で切り替える周波数ホッピング方式を採用していることから、第1の方法では対応できない。
【0005】
また、第2の方法では、周波数変換器に必要な周波数の2倍の周波数の信号が必要になる。このため、必要な周波数が高い場合、さらに2倍の高周波信号を発振器で生成することが難しかったり、生成できたとしても消費電力が大きくなったりするという問題がある。
【0006】
第3の方法には、以下に述べる2通りの実現方法が考えられる。一つ目は、90度ずつ位相の異なる4相信号を出力するLC共振型Quadrature VCOを用いる方法である。しかし、この方法では専有面積の大きいインダクタを2つ必要とするため面積が大きくなってしまう問題、消費電力が増大してしまう問題、及び位相雑音特性が悪いという問題がある。二つ目は、遅延素子を環状に接続して発振させるリング型VCOを用いる方法である。しかし、この方法では遅延素子の遅延時間によって決まる発振周波数の上限が低く、高周波の発振信号が得られないという問題と消費電力が大きいという問題がある。
【0007】
また、第1の方法の改良技術として、特許文献1に記載された90度移相回路がある。この90度移相回路では、抵抗・容量による移相器と、可変利得アンプと、直交信号の加算・減算器と、位相誤差検出器とを備えている。そして、抵抗・容量による移相器によって位相差がおおまかに90度となる直交信号を生成し、その直交信号を可変利得アンプで増幅し、加算、減算器でそれぞれの直交信号を足し引きすることにより、新たに正確に90度位相の異なる直交信号を生成する。このとき、位相誤差検出器で検出された位相誤差に基づいて可変利得アンプの利得を調整することで、加算・減算器へ入力する直交信号の振幅を調整することにより、抵抗・容量の値によって決まる特定の周波数からずれた周波数に対しても加算・減算器によって正確に90度位相の異なる直交信号を生成することができる。
【0008】
しかしながら、この90度移相回路では、アナログ的なフィードバック回路によって可変利得アンプの利得を調整しているため、高速応答特性のフィードバックループを構成することができない。従って、高周波で高速な周波数の切り替えに対応することができないため、搬送波周波数を頻繁に切り替える周波数ホッピングを利用した通信方式には利用できないという問題がある。即ち、第1の方法の問題は解決されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、その目的は、高周波の広い範囲で周波数が高速で切り替わり、正確に位相が90度異なる直交信号を消費電力が少ない回路で生成できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の直交信号生成回路は、入力信号から振幅がほぼ等しく、位相がほぼ90度異なる2つの信号を生成する移相手段と、当該2つの信号の振幅が等しくなるように振幅調整する振幅調整手段と、当該振幅調整手段により振幅調整された2つの信号の和信号、差信号を生成する加算手段、減算手段とを有し、当該和信号、差信号を位相が90度異なる直交信号として出力する直交信号生成回路であって、前記振幅調整手段は、それぞれ前記移相手段の2つの出力信号を増幅する第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段と、当該第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の振幅が等しくなるように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する疎調整手段と、前記加算手段の出力信号と前記減算手段の出力信号の90度からの位相誤差を低減するように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する微調整手段とを有する直交信号生成回路である。
本発明の直交信号生成回路の調整方法は、入力信号から振幅がほぼ等しく、位相がほぼ90度異なる2つの出力信号を生成する移相手段と、当該移相手段の前記2つの出力信号を増幅する第1の可変利得増幅手段、第2の可変利得増幅手段と、当該第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の和および差の信号を生成する加算手段及び減算手段とを有する直交信号生成回路の調整方法であって、前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の振幅を検出する工程と、当該振幅の検出値が等しくなるように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する疎調整工程と、前記加算手段の出力信号と前記減算手段の出力信号の90度からの位相誤差を検出する位相誤差検出工程と、当該位相誤差を低減するように、前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する微調整工程とを有する直交信号生成回路の調整方法である。
本発明の無線通信装置は、本発明の直交信号生成回路を有する無線通信装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高周波の広い範囲で周波数が高速で切り替わり、正確に位相が90度異なる直交信号を消費電力が少ない回路で生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態の無線通信装置に使用される直交信号生成回路を示す図である。
【図2】図1の加算器、減算器に入力される信号の振幅が等しく位相差がほぼ90度の場合に出力信号の位相差が90度になることを説明するための図である。
【図3】図1の加算器、減算器に入力される信号の振幅が等しくない場合、位相差が90度であっても出力信号の位相差が90度にならないことを説明するための図である。
【図4】本発明の実施形態の無線通信装置の回路構成を示す図である。
【図5】図1におけるポリフェイズフィルタの回路図である。
【図6】図1における可変利得アンプの回路図である。
【図7】図1における振幅検出器の回路図である。
【図8】図1における加算器、減算器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
〈直交信号生成回路の構成〉
図1は、本発明の実施形態の無線通信装置に使用される直交信号生成回路を示す図である。
【0014】
図示のように、この直交信号発生回路では、可変利得アンプ9によって増幅した信号を、抵抗・容量のパッシブ素子からなるポリフェイズフィルタ1を通すことで、大まかに位相差が90度となる直交信号を生成する。
【0015】
次にディジタル制御回路8からのディジタル信号で制御された可変利得アンプ2,3により、直交信号を増幅する。次いで、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅を振幅検出器4,5によって検出し、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅が等しくなるように、可変利得アンプの利得をディジタル制御回路8によって疎調整する。この疎調整に加えて、後述する微調整を行うことで、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅を等しくする。
【0016】
可変利得アンプ2,3の出力は加算器6、減算器7によって加算、減算され、正確に90度位相が異なる直交信号を出力する。
【0017】
〈直交信号生成回路の動作〉
ポリフェイズフィルタ1で生成できる直交信号は、特定の周波数でのみ出力の位相差が90度、振幅が等しくなる。よって所望の周波数では位相差も90度ではなく、振幅も異なっているものとする。そこで、これらの直交信号の振幅が等しくなるように増幅してから加算器6、減算器7に入力する。これにより正確な90度位相差を実現できる理由について、図2及び図3を用いて説明する。
【0018】
図2は、図1の加算器6、減算器7に入力される信号の振幅が等しく位相差がほぼ90度の場合に出力信号の位相差が90度になることを説明するための図であり、図3は、図1の加算器6、減算器7に入力される信号の振幅が等しくない場合、位相差が90度であっても出力信号の位相差が90度にならないことを説明するための図である。これらの図では、加算器6、減算器7に入力される信号が極座標系でベクトル表示されている。
【0019】
図2において、ベクトルa,bは加算器6、減算器7に入力される直交信号であり、振幅は等しいが位相差が90度より少し異なっている。ベクトルa,bの和ベクトルa’(加算器6の出力に相当)とベクトルa,bの差ベクトルb’(減算器7の出力に相当)の位相差は正確に90度となる。ここで、ベクトルa’,b’の振幅は等しくない。
【0020】
一方、図3において、ベクトルc,dは加算器6、減算器7に入力される直交信号であり、位相差が90度だが振幅が異なる。この場合、ベクトルc,dの和ベクトルc’(加算器6の出力に相当)と差ベクトルd’(減算器7の出力に相当)の位相差は90度にならない。ベクトルc’,d’の振幅は等しい。
【0021】
このように、加算器6、減算器7に入力する直交信号の振幅が等しければ、出力される直交信号の位相差は正確に90度になる。なお、出力振幅が十分に大きければ、その大小は周波数変換器では殆ど問題とならない。
【0022】
以上のように、加算器6、減算器7に入力される直交信号の振幅を等しくすれば、正確に90度の位相差を持つ信号を作成することができるので、可変利得アンプ2,3にて振幅を調整する。調整方法は、まず振幅検出器4,5にて振幅を検出し、疎調整を行い、後述の送信系・受信系を使った位相差検出にて微調整を行う。
【0023】
疎調整では、振幅検出器4,5によって、可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅がある値よりも大きいか小さいかの2値で検出し、ちょうど検出値が切り替わる境界となるように可変利得アンプ2,3の利得をディジタル制御回路8で調整する。
【0024】
振幅検出器4,5の出力による振幅の疎調整を行うことにより、加算器6、減算器7に入力される直交信号の振幅がほぼ等しくなることから、出力される直交信号もほぼ位相差が90度になり、後述の微調整の調整範囲を狭めることができる。
【0025】
また、特許文献1に記載された従来の回路では、抵抗・容量で構成するフィルタ(本実施形態のポリフェイズフィルタ1に相当)の出力信号の振幅差があまりにも大きい場合に、後段の可変利得アンプで振幅差をゼロにすることが難しい。一方、本実施形態では、振幅検出器4,5により可変利得アンプ2,3の出力信号の振幅が検出レベルに達しているかどうかを容易に判定できるので、検出レベルに達していなければ、ポリフェイズフィルタ1の前段の可変利得アンプ9の利得を上げる、もしくは直交信号の2つの振幅検出器4,5の検出レベルをともに下げることにより、振幅が等しくなるように調整することができる。
【0026】
また、特許文献1に記載された従来の回路では、直交信号を位相差検出器に入力しているため、回路のレイアウトが複雑になるという問題点がある。これに対し、本実施形態では、直交信号それぞれの振幅を別個に検出すればよいため、回路のレイアウトが簡潔になるという利点がある。
【0027】
〈無線通信装置の回路構成及び直交信号生成回路の微調整〉
図4は、本発明の実施形態の無線通信装置であるダイレクトコンバージョン方式の無線通信装置の回路構成を簡略化して示した図である。この無線通信装置において、移相器17,18が図1の直交信号生成回路に対応する。
【0028】
ディジタル部11にて生成した送信ベースバンド信号は周波数変換器12によって周波数変換され、パワーアンプ13によって増幅され送信される。受信信号はローノイズアンプ14によって増幅され、周波数変換器15によって周波数変換され、ディジタル部11によって復調される。局部発振器16によって生成された搬送波周波数の発振信号を移相器17,18で直交信号に変換する。
【0029】
以上は通常の送受信時の動作である。次に移相器17,18内の調整方法、即ち、移相器17,18内の可変利得アンプ2,3(図1)の利得の微調整方法、について説明する。このとき、スイッチ20を閉じ、スイッチ21を開く。
【0030】
送信系の周波数変換器12の出力から、スイッチ20と振幅検出器19を経て受信系を通る経路により、移相器17の直交信号の位相差が90度からどれくらい誤差があるかを検出する。
【0031】
即ち、ディジタル部11からテスト信号として周波数ωの送信信号を出力し、局部発振器16の発振周波数をωcとして、出力信号の周波数ω+ωcを出力するとする。
これは、ディジタル部11から出力するベースバンド信号を仮に
cosωt …式[1]
−sinωt …式[2]
とおき、移相器17から出力される理想的な直交信号を
cosωct …式[3]
sinωct …式[4]
とおけば(ωc>>ωである)、周波数変換器12の出力は
cosωt・cosωct−sinωt・sinωct=cos(ω+ωc)t …式[5]
と変形でき、出力の周波数がω+ωcとなることからわかる。
【0032】
もし移相器17の出力する直交信号が90度でなければ、出力信号に周波数−ω+ωcの望ましくない成分(以下、イメージ信号と言う)が混じる。これは、ベースバンド信号を先程と同様、式[1]、式[2]とおき、位相器17の出力が非理想的で
cos(ωct+α) …式[6]
sinωct …式[7]
と書けるとすると(ここでαは十分小さい値とする)、式[6]は以下のように変形でき、
cos(ωct+α)≒cosωct−αsinωct …式[8]
とかける。ここで、右辺第一項は式[3]と同様である。右辺第二項と式[1]との積は
cosωct・(−αsinωct)=−{α/2}・{sin(ωc+ω)t+sin(ωc−ω)t} …式[9]
と変形でき、式[9]の右辺第二項が上述のイメージ信号である。
【0033】
よって出力信号は周波数ω+ωcと周波数−ω+ωcの2つの信号の和となる。ω<<ωcだから、出力信号は周波数2ωのうなりを生じる。この大きさを振幅検出器19によって検出することで、移相器17の出力する直交信号の位相差が90度からどれくらいの誤差をもつかを検出することができる。
【0034】
これは、まずイメージ信号を含む周波数変換器12の出力を整理して
cos(ω+ωc)t−{α/2}・{sin(ωc−ω)t} …式[10]
と書けるとする。
【0035】
振幅検出器19は、信号を2乗して低周波成分のみ取り出すことに相当するので、式[10]を2乗すると、
cos(ω+ωc)t−αcos(ω+ωc)t・sin(ωc−ω)t+{α/4}・{sin(ωc−ω)t} …式[11]
となる。α<<1という前提であるため、式[11]の第三項は無視できる。また式[11]の第一項は
cos(ω+ωc)t={cos2(ωc+ω)t+1}/2 …式[12]
という変形により、高周波成分(周波数ω+ωc)とDC成分に分割できる。
【0036】
式[11]の第二項は
−αcos(ω+ωc)t・sin(ωc−ω)t=−(α/2)・sin2ωct+(α/2)・sin2ωt …式[13]
と変形できる。
【0037】
振幅検出器19では低周波成分のみ取り出すことから、式[11]の低周波成分は式[12]の右辺第二項のDC成分と、式[13]の右辺第二項のみとなる。よって移相器17の位相誤差αの大小は、振幅検出器19の出力信号において、周波数2ωの信号の振幅の大小により決定できる。
【0038】
周波数2ωの信号の振幅の大小に応じて、ディジタル制御回路8によって可変利得アンプ2,3の利得を微調整する。即ち、可変利得アンプ2と3の利得差を少しずつ変化させ、最も検出誤差が小さくなる利得設定を見つける。これにより、可変利得アンプ2,3の利得の微調整が完了する。
【0039】
移相器17内の可変利得アンプ2,3の利得の微調整が完了し、移相器17の出力する直交信号が正確に90度となった後、今度はスイッチ20を開き、スイッチ21を閉じる。これにより、周波数ω+ωcのみからなる信号が受信系の周波数変換器15を通ってディジタル部11に戻る。このとき、移相器18の出力する直交信号が位相差90度からずれていれば、受信系はイメージ信号を検出できるので、イメージ信号の強度によって誤差を検出することができる。この誤差に応じて、移相器18内の可変利得アンプ2,3の利得を微調整する。
【0040】
これらの微調整は、搬送波周波数の切り替え毎に最適な値が異なるため、予め全切り替え周波数で最適値を調べる。これにより、搬送波周波数を切り替えても常に正確に位相差90度の直交信号を生成できる。
【0041】
また、このような送信系・受信系を使って直交信号の位相差の微調整を行うことにより、移相器17,18以降の配線や周波数変換器12,15への入力で生じる位相誤差も含めて、調整が可能になる。移相器内部でのみ位相差を調整する場合は、移相器出力以降に誤差が生じた場合は調整できない。
【0042】
〈ポリフェイズフィルタの回路構成〉
図5は、図1におけるポリフェイズフィルタ1の一例の回路図である。図示のように、抵抗36とコンデンサ37の直列回路を4つループ(リング状)に接続し、対向する直列回路の両端に局部発振器からの差動信号30,31を供給し、各直列回路における抵抗36とコンデンサ37との接続点から直交信号32,33,34,35を出力する。
【0043】
直交信号の位相差が90度になるのは、周波数fc=1/RCが成り立つときのみである(抵抗36の値をR、コンデンサ37の容量値をCとした)。周波数がずれると、振幅・位相差ともにずれる。実際には少しずつ抵抗・容量の値をずらしたポリフェイズフィルタを多段に重ねることで、ある程度の周波数範囲で位相差90度を作り出すことができる。しかし、抵抗・容量のばらつきも考慮する必要があり、広い周波数範囲で位相差を90度にすることはできない。
【0044】
〈可変利得アンプの回路図〉
図6は、図1における可変利得アンプ2,3の一例の回路図である。
増幅段トランジスタ40,41と負荷42,43とテール電流源44からなる差動増幅アンプ101を構成する。増幅段トランジスタ47,48と負荷49,50とテール電流源51も同様に差動増幅アンプ102を構成する。両者は直交信号の増幅を行う。
【0045】
差動増幅アンプ101,102の間に接続された利得調整回路103の可変電流源46,53及びカレントミラーのペア45,44と52,51によってバイアス電流を変化させることで、差動増幅アンプ101,102の利得を変えることができる。電流源46と53は独立に値を変化させることができる。さらに電流源54の電流をスイッチ55により、電流源46と53のどちらかの電流に加算することで、2つの差動増幅アンプ101,102の利得を微妙に異なる値にすることができる。
【0046】
スイッチ55はパルス幅変調やデルタシグマ変調でスイッチングすることにより、2つのアンプに流すバイアス電流の値を電流源54で設定可能な最小の電流値よりもさらに小さく変化させることができ、利得の微調整を可能にする。
【0047】
〈振幅検出器の回路図〉
図7は、図1における振幅検出器4,5の一例の回路図である。
電流源63の電流値によって、トランジスタ62,64に流れる電流の値と、入力信号の振幅がゼロのときにトランジスタ60,61に流れる電流のDC値とが決まる。また、トランジスタ64に流れる電流の値と可変電流源65の電流値の和によって、トランジスタ66,67に流れる電流の値が決まる。これにより、トランジスタ60,61に流れる電流の和のうち、入力信号の振幅に応じた電流増加分と可変電流源65の電流値の大小が比較・出力される。よって、可変電流源65の電流値の増減により、入力信号振幅の検出レベルを調整することができる。
【0048】
振幅の検出精度を上げるためには、トランジスタ60,61,64のサイズを大きくしてばらつきを小さくする必要がある。これは可変利得アンプにとっては、負荷が大きくなることを意味し、高周波信号で特に信号の減衰が問題となる。
【0049】
しかし、本実施形態では、送信系・受信系を使った微調整が可能なため、振幅検出器4,5には高い精度が要求されない。このため、トランジスタ60,61のサイズを小さくすることができる。よって可変利得アンプ2,3の負荷は小さくなり、高周波信号での信号の減衰の問題は起きない。
【0050】
〈加算器、減算器の回路図〉
図8は、図1における加算器6、減算器7の一例の回路図である。差動アンプ68,69,70,71を図のように接続し、出力を足し合わせることにより、加算器6と減算器7を構成する。信号が非常に高速であるため、差動アンプ68,69の出力を結線するだけで足し算が実現できる。また、差動アンプ68,69のペアと差動アンプ70,71のペアで符号を入れ換え(差動アンプ68と70の入力を逆転)、足し算と引き算を実現している。
【0051】
以上詳細に説明したように、本発明の実施形態の無線通信装置及び直交信号生成回路は、下記(1)〜(6)の特徴を備えている。
(1)加算、減算器6,7の手前(前段)に簡潔な振幅検出器4,5を設け、加算器6、減算器7に入力する直交信号の振幅が等しくなるように可変利得アンプ2,3の利得の疎調整を行う。別途の微調整手段を持つため、振幅検出器4,5の精度は低くてよい。このため、振幅検出器4,5を構成するトランジスタのサイズを小さくでき、可変利得アンプ2,3の負荷を軽くすることができるので、高周波信号に対応することができる。
(2)無線通信装置内で実際の通信を行っていない間に、送信系・受信系を通るテスト信号を利用し、加算、減算器6,7から出力される直交信号の位相差が90度からどれだけずれているか検出し、それに応じて移相器(直交信号生成回路)内の可変利得アンプ2,3の利得の微調整を行うので、位相差が正確に90度の直交信号を生成することができる。
(3)これら可変利得アンプ2、3の疎調整、微調整は、切り替える搬送波周波数全てについて前もって行う。また、これらの疎調整、微調整はともにディジタル制御とする。これにより、搬送波周波数切り替えに応じて高速に可変利得アンプ2,3のゲインを切り替えることができるので、搬送波周波数切り替えに対しても位相差が正確に90度の直交信号を生成できる。
(4)2倍周波数の信号を発振器で生成したり、Quadrature VCOを設けたりする必要が無いので、消費電力を低減できる。
(5)振幅検出器4、5において、振幅検出レベルまで増幅できていないことを検知した場合に、ポリフェイズフィルタ1の前段の可変利得アンプ9の利得を大きくするか、もしくは振幅検出レベルを変更することで、ポリフェイズフィルタ1の出力の直交信号の振幅差が大きくても振幅を等しくすることができ、広い周波数範囲に対応することができる。
(6)2つの可変利得アンプ2,3に互いの利得差を生じさせるスイッチ55を設け、そのスイッチ55をパルス幅変調やデルタシグマ変調により、任意の割合で切り替えることができるようにしたので、直交信号の振幅の微妙な調整が可能になる。
【符号の説明】
【0052】
1…ポリフェイズフィルタ、2,3,9…可変利得アンプ、4,5,19…振幅検出器、6…加算器、7…減算器、8…ディジタル制御回路、12,15…周波数変換器、16…局部発振器、17,18…移相器、20,21,55…スイッチ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0053】
【特許文献1】特許第3098464号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号から振幅がほぼ等しく、位相がほぼ90度異なる2つの信号を生成する移相手段と、当該2つの信号の振幅が等しくなるように振幅調整する振幅調整手段と、当該振幅調整手段により振幅調整された2つの信号の和信号、差信号を生成する加算手段、減算手段とを有し、当該和信号、差信号を位相が90度異なる直交信号として出力する直交信号生成回路であって、
前記振幅調整手段は、
それぞれ前記移相手段の2つの出力信号を増幅する第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段と、
当該第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の振幅が等しくなるように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する疎調整手段と、
前記加算手段の出力信号と前記減算手段の出力信号の90度からの位相誤差を低減するように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する微調整手段と
を有する直交信号生成回路。
【請求項2】
請求項1に記載された直交信号生成回路において、
前記疎調整手段は、前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の振幅が所定の振幅検出レベルになるように、前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する直交信号生成回路。
【請求項3】
請求項2に記載された直交信号生成回路において、
前記移相手段の前段に配置された第3の可変利得増幅手段と、
前記第1の可変利得増幅手段又は第2の可変利得増幅手段が出力信号の振幅を前記振幅検出レベルまで増幅できないとき、前記第3の可変利得増幅手段の利得を大きくする利得制御手段と
を有する直交信号生成回路。
【請求項4】
請求項2に記載された直交信号生成回路において、
前記第1の可変利得増幅手段又は第2の可変利得増幅手段が出力信号の振幅を前記振幅検出レベルまで増幅できないとき、前記振幅検出レベルを下げる振幅検出レベル変更手段と
を有する直交信号生成回路。
【請求項5】
請求項1に記載された直交信号生成回路において、
前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段のそれぞれのバイアス電流を変化させることで、それぞれの利得を調整する第1の電流源及び第2の電流源と、
スイッチの切り替えにより、前記第1の電流源又は第2の電流源のバイアス電流に電流を加算する第3の電流源と
を有する直交信号生成回路。
【請求項6】
請求項1に記載された直交信号生成回路において、
前記微調整手段は、前記加算手段及び減算手段のそれぞれの出力信号により所定の周波数の信号を周波数変換する周波数変換手段と、当該周波数変換手段の出力信号中の前記所定の周波数のほぼ2倍の周波数成分の振幅を検出する振幅検出手段とを有する直交信号生成回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載された直交信号生成回路を有する無線通信装置。
【請求項8】
請求項7に記載された無線通信装置において、
無線通信を行わない期間に前記所定の周波数の信号を生成する手段を有する無線通信装置。
【請求項9】
請求項8に記載された無線通信装置において、
前記所定の周波数を切り替える手段を有する無線通信装置。
【請求項10】
入力信号から振幅がほぼ等しく、位相がほぼ90度異なる2つの出力信号を生成する移相手段と、当該移相手段の前記2つの出力信号を増幅する第1の可変利得増幅手段、第2の可変利得増幅手段と、当該第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の和および差の信号を生成する加算手段及び減算手段とを有する直交信号生成回路の調整方法であって、
前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の出力信号の振幅を検出する工程と、
当該振幅の検出値が等しくなるように前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する疎調整工程と、
前記加算手段の出力信号と前記減算手段の出力信号の90度からの位相誤差を検出する位相誤差検出工程と、
当該位相誤差を低減するように、前記第1の可変利得増幅手段及び第2の可変利得増幅手段の利得を調整する微調整工程と
を有する直交信号生成回路の調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−26853(P2013−26853A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160230(P2011−160230)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】