説明

直動案内ユニット

【課題】 トラックレールを機械装置に固定したままでもスライダの着脱が可能な直動案内ユニットを提供する。
【解決手段】 転動溝2とリターン路3とによって無限循環路を設けるとともに、この無限循環路に複数の転動体4を保持するスライダS1と、上記転動溝2に対向する軌道溝11を有するトラックレールR2とからなり、上記転動溝2と軌道溝11との間に転動体4を転動させて上記スライダS1がトラックレールR2を摺動する直動案内ユニットにおいて、上記トラックレールR2には、スライダS1の軸方向長さL1以上にわたって軌道溝11を遮断する切り欠き部13を形成し、この切り欠き部13から上記スライダS1をトラックレールR2の軸方向と直交もしくはほぼ直交する方向に着脱可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、スライダがトラックレールを摺動する直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
図8〜図10を用いて従来の直動案内ユニットについて説明する。
図8に示す直動案内ユニットは、一対のスライダS1と、これらスライダS1を組み付ける一対のトラックレールR1とからなるが、このスライダS1を構成するケーシング本体1は、図9に示すように、その両側面に凹部からなる転動溝2,2を形成するとともに、この転動溝2,2に連通する孔状のリターン路3,3を形成している。そして、これら転動溝2,2、リターン路3,3が、エンドキャップに形成した図示しない方向転換路を介して無限循環路を構成するとともに、この無限循環路内には複数の転動体4を保持している。
【0003】
一方、上記トラックレールR1は、断面コの字形であって、その内幅を上記スライダS1の幅よりも僅かに大きくしている。そして、スライダS1をトラックレールR1内に組み込んだとき、スライダS1の転動溝2,2と対向する側面の位置に凹部からなる一対の軌道溝5,5を形成している。したがって、スライダS1をトラックレールR1内に組み込むと、転動溝2,2と軌道溝5,5との間に転動体4が介在するとともに、転動溝2と軌道溝5との間で転動体4が転動して、スライダS1とトラックレールR1とのスムーズな相対移動が可能となる。
なお、詳しい説明は省略するが、スライダS1には図示しない転動体保持バンドを設けており、スライダS1をトラックレールR1から取り外しても、転動溝2から転動体4が脱落しないようにしている。
【0004】
上記の構成からなる直動案内ユニットは、例えば、図10に示す装置に用いられる。この装置においては、一対のトラックレールR1,R1を所定の間隔をもって並列させるとともに、この一対のトラックレールR1,R1間に加工作業を行うための空間、すなわち加工穴Aが位置するようにしている。そして、一対のトラックレールR1,R1を、両端近傍に形成した取付孔6にボルト7を挿通して取付台8,8に固定するとともに、この一対のトラックレールR1,R1上にスライダS1,S1を組み込んでいる。このように、トラックレールR1,R1上にスライダS1,S1を組み込んだら、一対のスライダS1,S1上に図示していないテーブルを掛け渡して、このテーブル上にワークを載せる。
そして、スライダS1を上記トラックレールR1に沿って摺動させて、ワークを所定の位置に移動させれば、加工穴Aからワークに対して種々の作業を連続的に施すことが可能となる。
なお、図に示すように、この装置においては、トラックレールR1を取付台8,8間に挟み込んで両端支持の状態にしているが、トラックレールR1は断面コの字形に形成しているので、特に強度上問題となることはない。
【特許文献1】実公平6−004092
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の直動案内ユニットにおいては、スライダS1をトラックレールR1に着脱する場合、スライダS1をトラックレールR1の軸方向端面から摺動させるようにして組み付けたり、それを取り外したりしなければならない。つまり、従来の直動案内ユニットにおいては、スライダS1の着脱方向とトラックレールR1の軸方向とが等しかった。なぜなら、スライダS1に保持された転動体4は、上記したようにトラックレールR1の軌道溝5側に突出して位置するため、この転動体4の存在によってスライダS1をトラックレールR1の上方から組み込むことができないからである。
そのため、図10に示すように、トラックレールR1を一対の取付台8,8で挟み込むようにして配置する機械装置においては、トラックレールR1に予めスライダS1を組み込んだ状態で、トラックレールR1を取付台8,8に固定しなければならない。また、取付台8,8に固定したトラックレールR1から、スライダS1を取り外す場合には、トラックレールR1ごと取付台8,8から取り外さなければならない。
【0006】
したがって、トラックレールR1を掃除したり、あるいはスライダS1の修理を行ったりするため、トラックレールR1からスライダS1を取り外す場合には、まず、トラックレールR1を取付台8,8から取り外すとともに、その後にトラックレールR1からスライダS1を取り外さなければならず、掃除や修理等のメンテナンスが非常に面倒になってしまうという問題があった。
【0007】
この発明の目的は、トラックレールを機械装置に固定したままでもスライダの着脱が可能な直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、転動溝とリターン路とによって無限循環路を設けるとともに、この無限循環路に複数の転動体を保持するスライダと、上記転動溝に対向する軌道溝を有するトラックレールとからなり、上記転動溝と軌道溝との間に転動体を転動させて上記スライダがトラックレールを摺動する直動案内ユニットにおいて、上記トラックレールには、スライダの軸方向長さ以上にわたって軌道溝を遮断する切り欠き部を形成し、この切り欠き部から上記スライダをトラックレールの軸方向と直交もしくはほぼ直交する方向に着脱可能とした点に特徴を有する。
第2の発明は、上記切り欠き部を、トラックレールの軸方向の一端もしくは両端に設けた点に特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、トラックレールに軌道溝を遮断する切り欠き部を形成し、この切り欠き部において、スライダをトラックレールの軸方向と直交もしくはほぼ直交する方向に着脱可能としたので、トラックレールを取付台に固定したままでもスライダを着脱することができる。したがって、掃除や修理等のメンテナンスの際に、トラックレールを取付台から取り外す必要がなくなり、メンテナンス作業時における手間を省くことができる。
第2の発明によれば、切り欠き部をトラックレールの軸方向端部に設けたので、スライダの摺動ストロークを十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1〜図3を用いてこの発明の第1実施形態について説明する。なお、この第1実施形態の直動案内ユニットを構成するスライダは、上記従来のスライダと同様である。したがって、上記従来と同様の構成については同様の符合を付して説明することとする。
第1実施形態の直動案内ユニットは、スライダS1とトラックレールR2とからなるが、このスライダS1を構成するケーシング本体1は、その両側面に凹部からなる転動溝2,2を形成するとともに、この転動溝2,2に連通する孔状のリターン路3,3を形成している(図9参照)。そして、これら転動溝2,2とリターン路3,3とによって無限循環路を構成するとともに、この無限循環路内にボールからなる複数の転動体4を保持している。
【0011】
一方、上記トラックレールR2は、図1に示すように、断面コの字形であって、底面9と、この底面9の幅方向両端から直角に起立する側壁10,10とからなり、この側壁10,10の間隔を上記スライダS1の幅よりも僅かに大きくしている。また、側壁10,10には、スライダS1を組み込んだとき、スライダS1の転動溝2,2と対向する位置に、凹部からなる一対の軌道溝11,11を形成している。したがって、スライダS1をトラックレールR2内に組み込むと、転動溝2と軌道溝11との間に転動体4が介在するとともに、転動溝2と軌道溝11との間で転動体4が転動して、スライダS1とトラックレールR2とのスムーズな相対移動が可能となる。
なお、詳しい説明は省略するが、スライダS1には図示しない転動体保持バンドを設けており、スライダS1をトラックレールR2から取り外しても、転動溝2から転動体4が脱落しないようにしている。
【0012】
また、上記トラックレールR2の軸方向両端近傍には、その底面9に取付孔12,12を形成するとともに、一方の側壁10には切り欠き部13を形成している。この切り欠き部13は、一方の側壁10の一部を切断して形成したものであるが、この切り欠き部13の切断長さL2は、スライダS1の軸方向長さL1よりも僅かに長くしている。なお、この切り欠き部13においては、当然のこととして上記軌道溝11が遮断されるため、スライダS1がトラックレールR2上をスムーズに摺動することができない。
【0013】
上記の構成からなる直動案内ユニットは、図2に示すように、トラックレールR2の両端近傍に形成した取付孔12,12にボルトを挿通して、この直動案内ユニットを用いる機械装置の取付台14に固定する。そして、この直動案内ユニットにおいては、切り欠き部13から、トラックレールR2の軸方向と直交する方向、すなわち、一方の側壁10側から、スライダS1を摺動軌跡上に位置させる。上記のようにして、切り欠き部13からスライダS1を摺動軌跡上に位置させたら、スライダS1をトラックレールR2に沿って摺動することによって、スライダS1をトラックレールR2上に組み込むことができる。
【0014】
そして、上記一対のスライダS1間に図示していないテーブルを設置し、このテーブルにワークを載せて、切り欠き部13に及ばない範囲内で、上記トラックレールR2上を摺動させれば、ワークが所定の位置に移動して種々の作業を連続的に施すことが可能となる。
このように、上記第1実施形態の直動案内ユニットによれば、切り欠き部13において、スライダS1をトラックレールR2の軸方向と直交する方向に着脱可能としたので、トラックレールR2を取付台14に固定したままでもスライダS1を着脱することができる。したがって、掃除や修理等のメンテナンスの際に、トラックレールR2を取付台14から取り外す必要がなくなり、メンテナンス作業時の手間を省くことができる。
【0015】
ただし、上記第1実施形態においては、説明の都合上、切り欠き部13をトラックレールR2の軸方向中央近傍に設けているが、実際は、図3に示すように、トラックレールR2の軸方向端部に設ける方が望ましい。このように切り欠き部13をトラックレールR2の軸方向端部に設ければ、スライダS1の摺動ストロークを十分に確保することができる。
【0016】
図4を用いてこの発明の第2実施形態について説明する。なお、この第2実施形態の直動案内ユニットは、上記第1実施形態におけるトラックレールに設けた切り欠き部の構成のみ異なり、その他の構成および作用は全て上記第1実施形態と同じである。したがって、ここでは第1実施形態と異なる点のみ説明する。
図4は、第2実施形態における直動案内ユニットを構成するトラックレールR3の部分拡大図である。このトラックレールR3を摺動するスライダは、上記第1実施形態と同様の構成からなるスライダS1である。
上記トラックレールR3は、断面コの字形であって、底面15と、この底面15の幅方向両端から直角に起立する側壁16,16とからなるとともに、この側壁16,16の間隔をスライダS1の幅よりも僅かに大きくしている。
【0017】
また、トラックレールR3の側壁16,16には、スライダS1を組み込んだとき、スライダS1の転動溝2,2と対向する位置に、凹部からなる一対の軌道溝17,17を形成している。なお、側壁16,16のうち、軌道溝17,17の最深部よりも、その対向面側に突出する部分であって、軌道溝17,17を挟んで底面15とは反対側に位置する部分を上面側凸部18とし、軌道溝17よりも底面側に位置する部分を底面側凸部19とする。
上記の構成からなるトラックレールR3の軸方向端部には、その底面15に取付孔20を形成するとともに、両側壁16,16に切り欠き部21,21を設けている。
【0018】
切り欠き部21,21は、上記上面側凸部18,18を軌道溝17,17の最深部まで切削して形成したものであり、この切り欠き部21,21の長さは、スライダS1の軸方向長さよりも僅かに長くしている。
したがって、切り欠き部21,21からスライダS1をトラックレールR3内に挿入して、スライダS1を摺動軌跡上に位置させれば、スライダS1をトラックレールR3上に組み込むことができる。なお、この切り欠き部21においては、当然のこととして上記軌道溝17が遮断されるため、スライダS1がトラックレールR3上をスムーズに摺動することができない。したがって、この切り欠き部21,21は、スライダS1の有効摺動範囲外に形成する。
このように、第2実施形態の直動案内ユニットにおいても、スライダS1をトラックレールR3の軸方向と直交する方向に着脱可能としたので、トラックレールR3を取付台に固定したままスライダS1を着脱することができる。したがって、掃除や修理等のメンテナンスの際に、トラックレールR3を取付台から取り外す必要がなくなり、メンテナンス作業時の手間を省くことができる。
【0019】
図5〜7を用いてこの発明の第3実施形態について説明する。
図示の第3実施形態の直動案内ユニットは、スライダS2とトラックレールR4とによって構成している。そして、スライダS2を構成するケーシング本体22は、図6に示すように、テーブル部22aとこのテーブル部22aの幅方向両端から直角に起立する一対の袖部22bとからなる。
上記一対の袖部22bには、その対向面に凹部からなる転動溝23,23を形成するとともに、この転動溝23,23に連通する孔状のリターン路24,24を設けている。そして、これら転動溝23,23とリターン路24,24とによって無限循環路を構成するとともに、この無限循環路内にボールからなる複数の転動体25,25を保持している。
【0020】
一方、上記トラックレールR4は、断面矩形であって、その幅を上記スライダS2における一対の袖部22b,22bの間隔よりも僅かに小さくしている。そして、トラックレールR4の側面には、上記スライダS2を跨がせたとき、転動溝23,23と対向する位置に、凹部からなる軌道溝26,26を形成している。したがって、スライダS2をトラックレールR4に跨がせると、転動溝23,23と軌道溝26,26との間に複数の転動体25を介在させるとともに、転動溝23と軌道溝26との間で転動体25を転動させることによって、スライダS2とトラックレールR4とのスムーズな相対移動が可能となる。なお、トラックレールR4において、軌道溝26,26の最深部よりもスライダS2の袖部22b側に突出する部分であって、軌道溝26,26よりもテーブル部22a側に位置する部分を上面側凸部27,27とし、軌道溝26,26を挟んで上記テーブル部22aと反対側に位置する部分を底面側凸部28,28とする。また、詳しい説明は省略するが、スライダS2には図示しない転動体保持バンドを設けており、スライダS2をトラックレールR4から取り外しても、転動溝23から転動体25が脱落しないようにしている。
【0021】
そして、トラックレールR4は、図7に示すように、その軸方向両端近傍に取付孔29,29を形成して、この直動案内ユニットを用いる図示しない機械装置の取付台にボルトによって固定するようにしている。
また、トラックレールR4の一方の端部には、切り欠き部30を設けている。この切り欠き部30は、上記上面側凸部27,27を軌道溝26,26の最深部まで切削して形成するとともに、この切り欠き部30,30の長さL3を、スライダS2の軸方向長さL4よりも僅かに長くしている。
したがって、切り欠き部30,30において、トラックレールR4の上方から、スライダS2を跨がせて摺動軌跡上に位置させ、スライダS2をトラックレールR4に沿って摺動させれば、スライダS2をトラックレールR4上に組み込むことができる。
【0022】
このように、第3実施形態の直動案内ユニットにおいても、スライダS2をトラックレールR4の軸方向と直交する方向に着脱可能としたので、トラックレールR4を取付台に固定したままスライダS2を着脱することができる。したがって、掃除や修理等のメンテナンスの際に、トラックレールR4を取付台から取り外す必要がなくなり、メンテナンス作業時の手間を省くことができる。
なお、上記第1〜第3実施形態においては、転動体としてボールを用いたが、転動体はころで構成しても構わない。
また、スライダの着脱方向は、トラックレールの軸方向に対して直交する方向としたが、この着脱方向とトラックレールの軸方向とは、厳密に直交しなければならないわけではなく、ほぼ直交する方向であっても構わない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態における直動案内ユニットを示す図である。
【図2】第1実施形態における直動案内ユニットを取付台に固定した図である。
【図3】第1実施形態のトラックレールの部分拡大図である。
【図4】第2実施形態のトラックレールの部分拡大図である。
【図5】第3実施形態における直動案内ユニットを示す図である。
【図6】図5におけるV−V線断面図である。
【図7】第3実施形態のトラックレールを示す図である。
【図8】従来の直動案内ユニットを示す図である。
【図9】図8におけるIX-IX線断面図である。
【図10】従来の直動案内ユニットを取付台に固定した図である。
【符号の説明】
【0024】
2,23 転動溝
3,24 リターン路
4,25 転動体
5,11,17,26 軌道溝
13,21,30 切り欠き部
S1,S2 スライダ
R1,R2,R3,R4 トラックレール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動溝とリターン路とによって無限循環路を設けるとともに、この無限循環路に複数の転動体を保持するスライダと、上記転動溝に対向する軌道溝を有するトラックレールとからなり、上記転動溝と軌道溝との間に転動体を転動させて上記スライダがトラックレールを摺動する直動案内ユニットにおいて、上記トラックレールには、スライダの軸方向長さ以上にわたって軌道溝を遮断する切り欠き部を形成し、この切り欠き部から上記スライダをトラックレールの軸方向と直交もしくはほぼ直交する方向に着脱可能とした直動案内ユニット。
【請求項2】
上記切り欠き部は、トラックレールの軸方向の一端もしくは両端に設けた上記請求項1記載の直動案内ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−309373(P2007−309373A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−137301(P2006−137301)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】