説明

直動機構用リテーナ

【課題】成形時に破損することがない構成の直動機構用リテーナを提供する。
【解決手段】 直動機構用リテーナ12は、全体が中空角筒状に形成されてその平面状周壁111に周方向に長い矩形状となった複数のローラ保持孔16が設けられたローラ保持筒13と、前記ローラ保持筒13の各ローラ保持孔16に回動自在に保持された前記ローラ15とを備える。 前記ローラ保持筒13の平面状周壁111には、凹部112が形成され、この凹部112内に押え板14が配置される構造となっている。前記凹部112の底部には、第1の長孔113が設けられ、前記押え板14には、第1の長孔113と対向する第2の長孔114が設けられ、前記凹部112に前記押え板14を配置して凹部112の第1の長孔113と押え板14の第2の長孔114とにより前記ローラ保持孔16が形成されて前記ローラ15が保持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸と筒体との間に転動可能に配置される複数のローラを保持する直動機構用リテーナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、プレス金型において、型合わせ精度を向上させるためにダイセットの直動精度を向上させるためにガイドポスト、リテーナ及びガイドブッシュからなる直動機構が使用される。このような直動機構では、充分な直動精度を得るために転動体に円筒状又は円柱状のローラが使用されている(特許文献1)。
【0003】
このような直動機構に用いられるリテーナは、ローラ保持孔の開口縁部にローラを保持するためのリップと呼ばれる突起部を設けられるが、成形時にはリップに逆らって金型を引き抜くためこのリップが破損しやすい。従って、ローラ保持孔に隣接する部分に逃し穴を設けることにより、成形型を引き抜く際にローラ保持孔の開口部付近が強制的に変形拡大するようにして、リップの破損を防止している(特許文献2)。
【特許文献1】特開平3−81035号公報
【特許文献2】特開平9−248837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前記従来技術において、リテーナをポリアセタールのような軟質な樹脂で製造する場合は成形金型の引き抜き時にリップが破損することはないが、耐熱性のガラス入りエポキシ樹脂等の硬質な樹脂で製造する場合には、成形金型の引き抜き時にリップが破損することがあり、製造が困難であった。
また、リテーナは構造上潤滑剤を保持することができないため、ローラ等の磨耗を防止するために定期的に給油する必要があり、メンテナンスが煩雑であった。
【0005】
本発明は、前記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、例えば耐熱性のガラス入りエポキシ樹脂等の硬質な樹脂で製造しても成形時に破損することがなく、また、潤滑剤を定期的に供給する必要がない直動機構用リテーナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る直動機構用リテーナは、軸と軸に挿通する筒体とが軸方向に相対移動自在に構成された直動機構に用いられ、軸と筒体との間に転動可能に配置される複数のローラを保持する直動機構用リテーナであって、
全体が中空角筒状に形成されてその平面状周壁に周方向に長い矩形状となった複数のローラ保持孔が設けられたローラ保持筒と、
前記ローラ保持筒の各ローラ保持孔に回動自在に保持された前記ローラとを備え、
前記ローラ保持筒の平面状周壁には、凹部が形成され、この凹部内に押え板が配置される構造となっており、
前記凹部の底部には、第1の長孔が設けられ、
前記押え板には、第1の長孔と対向する第2の長孔が設けられ、
前記凹部内に前記押え板を配置して凹部の第1の長孔と押え板の第2の長孔とにより前記ローラ保持孔が形成されて前記ローラが保持される構成とすることを特徴とする。
【0007】
前記構成によれば、例えば、ローラ保持筒における凹部の第1の長孔にローラを配し、そして、第1の長孔に対向する第2の長孔を設けた押え板を前記凹部に嵌合させることにより、ローラを保持したリテーナが形成される。従って、第1の長孔と第2の長孔には、互いの対向側の開口縁部にローラを保持するためのリップを設ける必要がなく、成形時の離型を円滑に行うことができ、ローラ保持孔が破損されることがない。また、成形時の成形金型の引き抜きのためにリテーナに逃し穴を設ける必要もないので、この場合であれば、成形金型の形状が複雑にならない。
【0008】
前記押え板には、側壁の端面に突起が形成され、
前記ローラ保持筒の凹部には、内壁に前記押え板の突起と嵌合する嵌合溝が形成されている構成としてもよい。

前記構成によれば、押え板に形成された突起及びローラ保持筒の凹部に形成された嵌合溝が嵌合するので、直動機構の運転時にもリテーナで押え板及びローラを確実に保持し、リテーナから押え板及びローラが容易に脱落するのを防止することができる。
【0009】
前記押え板は、毛細管現象により潤滑剤を含浸可能な多孔質樹脂で形成されているものが好ましい。
前記構成によれば、押え板から滲み出した潤滑剤が、ローラと軸又は筒体との接触部に定常的に供給される。
【0010】
前記ローラ保持筒の凹部と前記押え板との間に、潤滑剤溜りとなる空間部が形成されていることが好ましい。
前記構成によれば、ローラ保持筒の凹部と押え板との間の空間部を潤滑剤溜りとすることにより、リテーナに保持されたローラと軸又は筒体との接触部に定常的に潤滑剤を供給することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、成形時の離型の際にリップに逆らって成形金型を無理に引き抜くことがなくなるので、リテーナを硬質な樹脂で製造しても成形時にローラ保持孔が破損されることがない。また、リテーナには予めローラ保持孔の内外両側の開口縁部のリップを設けるとともに周壁の外周面においてローラ保持孔近傍に逃し穴を設ける必要もないので、この場合であれば、成形金型の形状が複雑にならない。従って、製造容易な直動機構用リテーナが提供される。
【0012】
また、前記押え板を毛細管現象により潤滑剤を含浸可能な多孔質樹脂で形成することにより、この押え板から滲み出した潤滑剤をローラと軸又は筒体との接触部に定常的に供給することができる。従って、直動機構に潤滑剤を頻繁に供給する必要が無く、メンテナンスが容易となる。
また、前記ローラ保持筒の凹部と前記押え板との間の空間部を潤滑剤溜りとすることにより、ローラと軸又は筒体との接触部に定常的に潤滑剤を供給することができる。従って、直動機構に潤滑剤を頻繁に供給する必要が無く、メンテナンスが容易となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係るリテーナは、例えば、図1に示すプレス金型の直動機構(1a)(1b)の構成部品として使用される。プレート(2a)に立設された軸となるガイドポスト(11a)(11b) の外側に前記リテーナ(12a) (12b) と筒体となるガイドブッシュ(10a) (10b) を各別に順次密に外嵌させて直動機構(1a)(1b)を構成し、前記ガイドブッシュ(10a) (10b) にプレート(2b)を固定する。なお、ガイドポスト(11a) (11b) の下端の鍔部(101a)(101b)と前記リテーナ(12a) (12b) の間には該リテーナ(12a) (12b) を押し上げる方向に付勢するバネ(105a) (105b)が介装されている。
【0014】
図2〜図7に本発明の実施の形態に係るリテーナ(12)を示す。図2はリテーナ(12)の分解斜視図、図3は側面図、図4は図3のC−C断面図、図5は図3のA−A断面図、図6は図5のB部の拡大図、図7は図4のD部の拡大図である。
【0015】
図2、図3に示すように、リテーナ(12)は、ローラ保持筒(13)、押え板(14)、及びローラ(15)により構成されている。
図4に示すように、リテーナ(12)を構成するローラ保持筒(13)は多角筒(本実施の形態では六角筒)の中空筒型形状の各コーナ部を円弧状に形成したものである。図3、図4及び図5に示すように、リテーナ(12)は周方向に軸線を向けた複数のローラ(15)を保持している。つまり、ローラ保持筒(13)の各平面状周壁(111)に周方向に長い矩形状のローラ保持孔(16)が複数設けられ、各ローラ保持孔(16)にローラ(15)が回動自在に保持されている。
【0016】
図6、図7に示すように、前記ローラ保持筒(13)は、各平面状周壁(111)に凹部(112)が形成され、この凹部(112)内に押え板(14)が配置される構造となっている。前記凹部(112)の底部には、第1の長孔(113)が複数設けられ、前記押え板(14)には、各第1の長孔(113)と対向する第2の長孔(114)が複数設けられている。
【0017】
第1の長孔(113)は、凹部(112)の底部を内外に貫通していると共に、ローラ保持筒(13) の中心軸に対して直交する方向、即ちローラ保持筒(13) の周方向に長い長方形となっている。各第1の長孔(113)は各々同一構造を有する。また、第2の長孔(114)は、押え板(14)を内外に貫通していると共に、ローラ保持筒(13)に配設されたときにローラ保持筒(13)の中心軸に対して直交する方向、即ちローラ保持筒(13) の周方向に長い長方形となっている。各第2の長孔(114)は各々同一構造を有する。尚、第1の長孔(113)の内側開口周縁及び第2の長孔(114)の外側開口周縁には、ローラ(15)の脱落を防止するため突起状のリップ(17)(18)が形成されている(図6参照)。
【0018】
そして、前記凹部(112)内に前記押え板(14)を配置して凹部(112)の第1の長孔(113)と押え板(14)の第2の長孔(114)とにより、ローラ(15)が保持される前記ローラ保持孔(16)が形成される。これにより、例えば、ローラ保持筒(13)における凹部(112)の第1の長孔(113)にローラ(15)を配し、そして、第1の長孔(113)に対向する第2の長孔(114)を設けた押え板(14)を前記凹部(112)に嵌合させることにより、第1の長孔(113)と第2の長孔(114)とにより形成されるローラ保持孔(16)にローラ(15)が保持される。
【0019】
各ローラ(15)の外径は、ローラ保持筒(13)及び押え板(14)により構成されるリテーナ(12)の周壁の厚さよりも大きいので、各ローラ(15)はガイドポスト(11a)(11b)とガイドブッシュ(10a)(10b)の間をリテーナ(12)に保持された状態で転動する。
【0020】
図6に示すように、ローラ保持筒(13)と押え板(14)の間には空間部(116)が形成され、当該空間部(116)に潤滑剤を保持する潤滑剤溜りを形成することができる。このように構成することによりローラ(15)とガイドポスト(11a)(11b)及びガイドブッシュ(10a)(10b)の接触部分に定常的に潤滑剤を供給することができるので、ガイドポスト(11a)(11b)及びガイドブッシュ(10a)(10b)の磨耗を防止することができる。従って、直動機構に潤滑剤を頻繁に供給する必要が無く、メンテナンスが容易となる。
【0021】
また、押え板(14)の外面には、押え板(14)を内外に貫通している第2の長孔(114)に対して平行に潤滑剤保持穴(115)が形成されている。各潤滑剤保持穴(115)は各々同一構造を有する。潤滑剤保持穴(115)に保持された潤滑剤は、ローラ(15)とガイドポスト(11a)(11b)及びガイドブッシュ(10a)(10b)との接触部に供給されて、ガイドポスト(11a)(11b)及びガイドブッシュ(10a)(10b)の磨耗を防止することができる。尚、この実施の形態では、前記潤滑剤保持穴(115)は押え板(14)を貫通していないが、貫通形成させてもよい。
【0022】
また、押え板(14)は、毛細管現象により潤滑剤を含浸可能な多孔質樹脂で形成されていてもよい。これにより、押え板(14)から滲み出した潤滑剤が、ローラ(15)とブッシュ(10)又はガイドポスト(11)との接触部に定常的に供給されるので、直動機構(1a)(1b)に潤滑剤を頻繁に供給する必要が無く、メンテナンスが容易となる。
この多孔質樹脂からなる押え板(14)は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリα−オレフィン系ポリマーに、パラフィン系炭化水素油、鉱油、エステル油又はエーテル油から選択された潤滑油を混合し、所定の成形型に注入して加熱溶融した後、冷却固化することにより製作される。なお、リテーナ保持筒(13)も、前記押え板(14)と同様に前記多孔質樹脂で形成するようにしてもよい。
【0023】
図7に示すように、ローラ保持筒(13)の凹部(112)の内壁には谷型形状の嵌合溝(151)が形成されており、一方、押え板(14)の端面には山型形状の突起(141)が形成されている。従って、押え板(14)の突起(141)が凹部(112)の嵌合溝(151)に嵌合することによりローラ保持筒(13)の凹部(112)に押え板(14)が配設される。このように構成することにより、直動機構(1a)(1b)の激しい動きによりローラ保持筒(13)から押え板(14)が脱落してローラ(15)が落下するのを防止することができる。突起(141)の角度としては、例として140〜160度にすることができる。この角度はあまり鋭角にすると、嵌合させる時に破損するおそれがあり、また、あまり鈍角にすると押え板(14)が脱落し易い。
【0024】
以上のように、本実施の形態の直動機構用リテーナ(12)によれば、前記凹部(112)内に前記押え板(14)を配置して凹部(112)の第1の長孔(113)と押え板(14)の第2の長孔(114)とにより前記ローラ保持孔(16)が形成されて前記ローラ(15)が保持される構成とする。これにより、第1の長孔(113)と第2の長孔(114)には、互いの対向側の開口縁部にローラ(15)を保持するためのリップを設ける必要がなく、成形時の離型の際にリップに逆らって成形金型を無理に引き抜くことがなくなるので、リテーナ(12)を硬質な樹脂(例えば、耐熱性のガラス入りエポキシ樹脂等)で製造しても成形時にローラ保持孔(16)が破損されることがない。従って、硬質樹脂からなるリテーナ(12)を容易に製造し、これを直動機構(1a)(1b)の構成部品として提供することができる。
また、リテーナ(12)には、予めローラ保持孔(16)の内外両側の開口縁部にリップを設ける必要もなく、また、周壁の外周面においてローラ保持孔(16)の近傍に逃し穴を設ける必要もないので、この場合であれば、成形金型の形状が複雑にならない。従って、製造容易な直動機構用リテーナ(12)が提供される。
また、前記ローラ保持筒(13)の凹部(112)と前記押え板(14)との間の空間部(116)を潤滑剤溜りとすることにより、ローラ(15)とガイドポスト(11a)(11b)又はガイドブッシュ(10a) (10b)との接触部に定常的に潤滑剤を供給することができる。従って、直動機構(1a)(1b)に潤滑剤を頻繁に供給する必要が無く、メンテナンスが容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施の形態による直動機構用リテーナを備えた直動機構が適用されたダイセットを示す側面図である。
【図2】実施の形態による直動機構用リテーナの構成を示す分解斜視図である。
【図3】実施の形態による直動機構用リテーナの構成を示す側面図である。
【図4】図3のC−C断面図である。
【図5】図3のA−A断面図である。
【図6】図5のB部分の拡大図である。
【図7】図4のD部分の拡大図である。
【符号の説明】
【0026】
10a,10b ガイドブッシュ(筒体)
11a,11b ガイドポスト(軸)
12 直動機構用リテーナ
13 ローラ保持筒
14 押え板
15 ローラ
16 ローラ保持孔
111 平面状周壁
112 凹部
113 第1の長孔
114 第2の長孔
116 空間部
141 突起
151 嵌合溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と軸に挿通する筒体とが軸方向に相対移動自在に構成された直動機構に用いられ、軸と筒体との間に転動可能に配置される複数のローラを保持する直動機構用リテーナであって、
全体が中空角筒状に形成されてその平面状周壁に周方向に長い矩形状となった複数のローラ保持孔が設けられたローラ保持筒と、
前記ローラ保持筒の各ローラ保持孔に回動自在に保持された前記ローラとを備え、
前記ローラ保持筒の平面状周壁には、凹部が形成され、この凹部内に押え板が配置される構造となっており、
前記凹部の底部には、第1の長孔が設けられ、
前記押え板には、第1の長孔と対向する第2の長孔が設けられ、
前記凹部内に前記押え板を配置して凹部の第1の長孔と押え板の第2の長孔とにより前記ローラ保持孔が形成されて前記ローラが保持される構成とすることを特徴とする直動機構用リテーナ。
【請求項2】
前記押え板には、側壁の端面に突起が形成され、
前記ローラ保持筒の凹部には、内壁に前記押え板の突起と嵌合する嵌合溝が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の直動機構用リテーナ。
【請求項3】
前記押え板は、毛細管現象により潤滑剤を含浸可能な多孔質樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の直動機構用リテーナ。
【請求項4】
前記ローラ保持筒の凹部と前記押え板との間に、潤滑剤溜りとなる空間部が形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の直動機構用リテーナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−293702(P2009−293702A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148075(P2008−148075)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(000100838)アイセル株式会社 (62)
【Fターム(参考)】