説明

直動装置

【課題】 高速条件で駆動されても低騒音で損傷が生じにくい直動装置を提供する。
【解決手段】 ボールねじ1は、外周面に螺旋状のねじ溝2aを有するねじ軸2と、このねじ溝2aと対向するねじ溝3aを内周面に有するナット3と、両ねじ溝2a,3a間に形成された転動体転動路6に転動自在に配された複数のボール4と、を備えている。また、ナット3には、転動してくるボール4を転動体転動路6の一端ですくい上げて他端に送るサイドキャップ7が固定されている。このサイドキャップ7は、曲げ弾性率が5000MPa以下且つアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 以上の樹脂材料で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ,リニアガイド装置等の直動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
転動体の転動を介して直動運動が行われるボールねじ,リニアガイド装置等の直動装置は、転動体を循環させるための循環部品(転動体循環路)を備えている。従来、この循環部品には金属製パイプ,金属削り部品等が多く用いられてきたが、騒音や強度の面で問題があった。例えば、循環部品として金属製パイプを備えるボールねじ(チューブ循環式ボールねじ)においては、ボールが転動体転動路からすくい上げられ循環部品に移動する際に、リード角やすくい上げ角の分の角度変化があるため、ボールねじが高速条件で駆動されると騒音が大きくなるおそれがあった。また、循環部品の強度が不十分となるおそれもあった。そのため、ボールねじの高速化の障害となっていた。
【0003】
このような問題を解決してボールねじの高速化や低騒音を実現するためには、ボールの転動体転動路からのすくい上げを、接線すくい上げ方式とすることが有効である。すなわち、循環部品の端部を、ボールねじのナットを軸方向から見た場合の転動体転動路の接線方向及びリード角方向にほぼ沿うように配置すれば、ボールが循環部品にすくい上げられる際にボールが循環部品に衝突することによる負荷が軽減される。
【0004】
例えば、特許文献1〜3には、接線すくい上げ方式のボールねじが提案されている。特許文献1,2のボールねじに備えられた循環部品は、図3に示すように、ボールをすくい上げる方向にねじられた形状を有しており、ボールが衝突することによる負荷が小さくなるようになっている。なお、図3は、2つの部材が組み合わされてなる循環部品のうち一方の部材のみを図示したものである。
【0005】
このような循環部品は形状が複雑になるため、樹脂材料を射出成形することにより製造されることが多い。また、低コスト化のためにも、循環部品を射出成形法により製造することが好ましい。
【特許文献1】特開2004−108455号
【特許文献2】特願2003−318123号明細書
【特許文献3】独国実用新案第2437497号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ボールの運動方向を変えるために、循環部品にはどうしても繰り返し負荷が加わるため、ボールねじが高速条件で駆動される場合には、ボールを転動体転動路からすくい上げるタング部と呼ばれる部分等に、欠け,クラック等の損傷が発生する場合があった(図4を参照)。
また、ボールねじが高速条件で駆動される場合には、発熱が生じるため、循環部品を構成する樹脂材料には高温下での優れた性能が求められていた。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、高速条件で駆動されても低騒音で損傷が生じにくい直動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の直動装置は、転動体軌道面を有し軸方向に延びる案内部材と、前記案内部材の転動体軌道面に対向する転動体軌道面を有し、前記両転動体軌道面の間に形成される転動体転動路内に配された複数の転動体の転動を介して軸方向に移動可能に前記案内部材に支持された可動部材と、前記転動体を前記転動体転動路の終点から始点へ送って前記転動体を循環させる転動体循環路と、を備える直動装置において、前記転動体循環路を、曲げ弾性率が5000MPa以下且つアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 以上の樹脂材料で構成したことを特徴とする。
【0008】
このような直動装置は、転動体循環路が上記のような樹脂材料で構成されているので、高速条件で駆動されても転動体循環路に損傷が生じにくい。樹脂材料の曲げ弾性率が5000MPa超過であったり、アイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 未満であったりすると、高速条件で駆動された場合に転動体循環路に損傷が生じやすくなるおそれがある。なお、前述の曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)は、23℃における数値である。
【0009】
また、本発明に係る請求項2の直動装置は、請求項1に記載の直動装置において、前記樹脂材料は、吸水率が1質量%以上4質量%以下のポリアミド樹脂であることを特徴とする。
このような構成であれば、直動装置が高温状態となっても損傷が生じにくい。ポリアミド樹脂の吸水率が1質量%未満であると、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強さが前述の好適な範囲から外れて、循環部品に損傷が生じやすくなるおそれがあり、4質量%超過であると、吸水による寸法変化が大きくなるという不都合がある。
【0010】
さらに、本発明に係る請求項3の直動装置は、請求項1又は請求項2に記載の直動装置において、前記転動体循環路の端部は、前記転動体転動路の始点及び終点において前記転動体転動路の接線方向に沿って配されていて、前記転動体転動路と前記転動体循環路との間の前記転動体の移動が前記接線方向に沿って行われるようになっていることを特徴とする。
【0011】
このような直動装置は、例えば転動体が転動体転動路から転動体循環路へすくい上げられる際に、転動体転動路の接線方向に沿って移動するので(接線すくい上げ)、転動体が転動体循環路に衝突することによる負荷が軽減される。よって、直動装置が高速条件で駆動されても、低騒音であり、且つ、転動体循環路に損傷が生じにくい。このような接線すくい上げを行う転動体循環路としては、チューブ循環式,サイドキャップ方式,エンドデフ方式等が上げられる。
【0012】
なお、本発明は種々の直動装置に適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
また、本発明における前記案内部材とは、直動装置がボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、前記可動部材とは、直動装置がボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の直動装置は、所定の機械物性を有する樹脂材料で転動体循環路を構成したので、高速条件で駆動されても転動体循環路に損傷が生じにくい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係る直動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る直動装置の一実施形態であるボールねじの平面図であり、図2は、図1のボールねじを軸方向から見た図である。
図1,2のボールねじ1は、外周面に螺旋状のねじ溝(転動体軌道面)2aを有し軸方向に延びるねじ軸(案内部材)2と、このねじ軸2と対向するねじ溝(転動体軌道面)3aを内周面に有するナット(可動部材)3と、両ねじ溝2a,3a間に形成された転動体転動路6内に転動自在に配された複数のボール(転動体)4と、を備えている。
【0015】
また、ナット3には、転動してくるボール4を転動体転動路6の一端(終点)ですくい上げて他端(始点)に送り循環させるサイドキャップ(転動体循環路)7が、キャップ押さえ7aによって固定されている。
そして、このボールねじ1は、複数のボール4の転動を介して、ねじ軸2とナット3とを相対回転させることによって、ねじ軸2とナット3とが軸方向に相対移動するようになっている。
【0016】
サイドキャップ7は、曲げ弾性率が5000MPa以下且つアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 以上の樹脂材料で構成されているので、ボールねじ1が高速条件で駆動されたり、高温状態となったりしても、損傷が生じにくい。樹脂材料の種類は特に限定されるものではないが、ポリオキシメチレン(POM),ポリアミド樹脂等があげられる。ポリアミド樹脂としては、46ナイロン,66ナイロン等の脂肪族ポリアミド樹脂があげられ、吸水率は1質量%以上4質量%以下であることが好ましい。また、この樹脂材料は、補強材や添加剤を含有していてもよい。
【0017】
また、このボールねじ1は、ボール4が接線すくい上げされるようになっている。すなわち、サイドキャップ7の端部は、転動体転動路6の始点及び終点において転動体転動路6の接線方向に沿って配されているため(ナット3を軸方向から見た場合に、サイドキャップ7の端部が螺旋状の転動体転動路6の接線方向に沿って配されている)、転動体転動路6とサイドキャップ7との間のボール4の移動が前記接線方向に沿って行われるようになっている。そのため、ボール4がサイドキャップ7に衝突することによる負荷が軽減されるので、ボールねじ1が高速条件で駆動されても、低騒音であり、且つ、サイドキャップ7に損傷が生じにくい。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においては、前述のような接線すくい上げを行う転動体循環路としてサイドキャップを例示して説明したが、エンドキャップ方式,エンドデフ方式等の転動体循環路を用いても差し支えない。
【0018】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。前述のボールねじ1において、サイドキャップ7を構成する樹脂材料を種々変更したものを用意して、高速条件で駆動し、サイドキャップ7のタング部に損傷が生じるまでのナット3の走行距離を測定した。
ボールねじの仕様と駆動条件は、以下の通りである。
ねじ軸の直径:50mm
リード :12mm
ボールの直径:7.9375mm
最高送り速度:0.8m/s(回転速度:4000rpm)
ストローク :500mm
ナット外径温度:80℃
【0019】
また、樹脂材料の種類は、ポリオキシメチレン(POM),46ナイロン,66ナイロン,ポリフェニレンスルフィド(PPS),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)である。
これらの樹脂材料の曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強さ(いずれも23℃における数値である)と試験結果とを、表1に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
表1の結果から分かるように、曲げ弾性率が5000MPa以下且つアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 以上の樹脂材料の場合は、走行距離が1000km以上となり、合格であった。なお、PPSとPEEKについては、500km以下という早期において損傷が生じ駆動不能となったが、POMと2種のナイロンについては、損傷はわずかであり、損傷が生じて試験終了となった後も駆動は可能であった。
【0022】
PEEKのようなアイゾット衝撃強さは大きいものの曲げ弾性率が大きすぎる樹脂材料の場合や、PPSのような曲げ弾性率は小さいもののアイゾット衝撃強さが不十分である樹脂材料の場合は、タング部のような薄肉部に、欠け,割れ等の損傷が生じやすい。なお、樹脂材料の引張強さとサイドキャップの損傷の生じやすさとの相関性は認められない。 また、2種のナイロンの場合は、水分を吸収させることにより、曲げ弾性率及びアイゾット衝撃強さを好適な値として、循環部品の損傷を抑制することができる。ただし、吸水により寸法変化が生じるため、ナイロンの吸水率は1質量%以上4%以下(絶乾状態を0質量%とする)とすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る直動装置の一実施形態であるボールねじの構造を示す平面図である。
【図2】図1のボールねじを軸方向から見た図である。
【図3】サイドキャップの形状を説明する斜視図である。
【図4】サイドキャップのタングに生じた損傷を説明する部分拡大図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ボールねじ
2 ねじ軸
2a ねじ溝
3 ナット
3a ねじ溝
4 ボール
6 転動体転動路
7 サイドキャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動体軌道面を有し軸方向に延びる案内部材と、前記案内部材の転動体軌道面に対向する転動体軌道面を有し、前記両転動体軌道面の間に形成される転動体転動路内に配された複数の転動体の転動を介して軸方向に移動可能に前記案内部材に支持された可動部材と、前記転動体を前記転動体転動路の終点から始点へ送って前記転動体を循環させる転動体循環路と、を備える直動装置において、
前記転動体循環路を、曲げ弾性率が5000MPa以下且つアイゾット衝撃強さ(ノッチ付き)が5kJ/m2 以上の樹脂材料で構成したことを特徴とする直動装置。
【請求項2】
前記樹脂材料は、吸水率が1質量%以上4質量%以下のポリアミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の直動装置。
【請求項3】
前記転動体循環路の端部は、前記転動体転動路の始点及び終点において前記転動体転動路の接線方向に沿って配されていて、前記転動体転動路と前記転動体循環路との間の前記転動体の移動が前記接線方向に沿って行われるようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の直動装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−153181(P2006−153181A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346277(P2004−346277)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】