説明

直動軸受付き送りねじ

【課題】軸体を小さな駆動力によって円滑に直線移動させることができ、そして製造も容易な直動軸受付き送りねじを提供すること。
【解決手段】外周面にねじ溝51aを備える軸体51と、軸体51の周囲に配置された内周面にねじ溝52aを備えるナット52とが相互に回転可能に嵌め合わされてなる送りねじ54の上記軸体51の外周面に、各々が軸体51のねじ溝51aの深さよりも小さな深さを有し、ねじ溝51aに交差して軸方向に延びる複数本の直線溝51bが形成され、そして軸体51を係合手段を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒56を持つ直動軸受57を備えていて、上記係合手段が、上記軸体51の各直線溝51bに収容されて軸方向に伸びる柱状体55である直動軸受付き送りねじ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品をプリント配線板の表面に装着する電子部品装着装置の部品として特に有利に用いることができる直動軸受付き送りねじに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、プリント配線板の上方に、下端に電子部品を吸着させたノズルを備える軸体を配置して、この軸体を電子部品が所定の角度で配置されるように周方向に回転移動させ、次いで下方に(プリント配線板の側に)直線移動させることにより、電子部品を所定の角度でプリント配線板の表面の所定位置に装着する電子部品装着装置が知られている。プリント配線板の表面に多数の電子部品を短時間で装着するため、電子部品を移動させる軸体の高速での回転移動と直線移動とが繰り返して行なわれる。
【0003】
上記軸体の回転移動と直線移動(滑動)とを実現するため、直動軸受と送りねじとが組み合わされた構成の直動軸受付き送りねじが用いられている。
【0004】
特許文献1には、図1及び図2に示す直動軸受付き送りねじ10が開示されている。直動軸受付き送りねじ10は、外周面にねじ溝11aを備える軸体11と、軸体11の周囲に配置された内周面にねじ溝12aを備えるナット12とが、両者のねじ溝11a、12aに収容された複数個のボール13を介して相互に回転可能に嵌め合わされてなる送りねじ(ボールねじ)14の軸体11の外周面に、各々が軸体11のねじ溝11aの深さよりも小さな深さを有し、ねじ溝11aに交差して軸方向に延びる複数本の直線溝11bが形成され、この軸体11を係合手段を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒16を持つ直動軸受17を備えた構成を有している。
【0005】
直動軸受17の外筒16の内周面には複数本の直線溝16bが備えられている。そして上記係合手段としては、軸体11の各直線溝11bと外筒16の各直線溝16bとに収容された複数個の球体15が用いられている。外筒16の内側には、両端部にて互いに接続された貫通溝18aと非貫通溝18bとから構成される球体循環路18cを備える筒状球体保持器18が備えられている。複数個の球体15は筒状球体保持器18の球体循環路18cに収容されている。
【0006】
外筒16と軸体11とは、複数個の球体15を介して互いに係合している。これにより直動軸受17の外筒16に収容された軸体11の周方向への回転移動(外筒16に対する軸体11の相対的な回転移動)が防止され、そして長さ方向への直線移動は可能とされている。
【0007】
従って、直動軸受17の外筒16を周方向に回転移動することにより、軸体11を外筒16と共に周方向に回転移動させることができる。一方、送りねじ14のナット12を周方向に回転移動させることにより、軸体11をその長さ方向(軸方向)に直線移動させることができる。
【0008】
特許文献2の第7図には、軸体(スプライン軸)と、この軸体を複数個の柱状体(ローラー)を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒(スリーブ)を備える直動軸受とから構成されるスプラインが開示されている。この軸体の外周面には、複数本の直線溝(幅広の溝)が形成されている。各直線溝の両側面と軸体の外周面との角にはそれぞれ丸溝が形成されている。そして上記柱状体は各直線溝の各丸溝に収容されている。軸体の丸溝と柱状体とのすきまを調節するため、外筒と柱状体との間には柱状体を丸溝の側に移動させる押さえ板が備えられている。外筒は二つ割りにされていて、これらの間に上記押さえ板の駆動に用いるテーパーギブが設置されている。
【0009】
同文献には、上記柱状体が荷重の方向、大きさの変化、振動により少しずつ回転するので柱状体の全面が均一に摩耗して寿命が長いと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−103228号公報(第1図及び第2図)
【特許文献2】実開昭53−108677号公報(第7図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者の検討によると、特許文献1の直動軸受付き送りねじ10は、軸体11の長さ方向への円滑な直線移動が妨げられる場合があることが判明した。例えば、軸体11の長さ方向への移動を続けると、軸体11の移動に必要な駆動力(ナット12の回転に必要なトルク)が断続的に大きくなることがある。その原因は次のように理解することができる。
【0012】
図3は、図2に示す軸体11及び球体15の拡大図である。図3に示すように、軸体11の直線溝11bは、軸体11の長さ方向に垂直な断面において球体15の半径と同径の円弧の形状に設定されている。球体15は、外筒(図2:16)と直線溝11bとに挟まれて、その直線溝11bの内側面と接触する表面領域の全体に均一に圧力(予圧)が付与される。
【0013】
図4は、図3に示す軸体11及び球体15の平面図である。この軸体11が図の上側に移動する際には、球体15は直線溝11bに沿って軸体11の移動距離の半分の移動距離にて図の上側に移動(転動)する。従って、球体15は軸体11に対して相対的に下側に(図に記入した矢印19aが示す方向に)移動する。
【0014】
そして、球体15が軸体11のねじ溝11aに到達する際には、ねじ溝11aと直線溝11bとが互いに斜めに交差しているため、球体15は図の右側の部位からねじ溝11aに入り始める。従って、球体15の右側の部位に付与されている圧力(予圧)が先に解放される。このため、球体15は軸体11のねじ溝11aの内部に落ち込みながら周方向(図にて右方向)に微動して図に破線で示す位置に配置される。
【0015】
この球体は、後続の球体(図示していない)に押されて、図に破線で示す位置から更に矢印19bが示す方向に移動する。このため、球体15がねじ溝11aから直線溝11bに乗り上がる際(図に破線で示す位置から一点鎖線で示す位置に移動する際)に、球体15がねじ溝11aの側面、例えば、ねじ溝11aの側面の直線溝11bに近接する表面領域21に接触(衝突)して、これにより軸体11の長さ方向への円滑な直線移動が妨げられると理解される。このため、軸体11の移動に必要な駆動力が断続的に大きくなり、その結果、軸体11の直線移動(特に高速での直線移動)を繰り返すと軸体11や球体15が摩耗して耐久性に問題を生じる可能性がある。
【0016】
直動軸受付き送りねじ10はまた、球体15を収容する球体循環路18cを備える筒状球体保持器18の製造に複雑な工程を必要とする。
【0017】
特許文献2のスプラインは、軸体の各直線溝の両側面と軸体の外周面との角にそれぞれ丸溝が形成され、また各丸溝と柱状体とのすきまを調節する押さえ板が設置され、そして押さえ板の駆動に用いるテーパーギブが二つ割りにされた外筒の間に設置された複雑な構成を有しているため、その製造や組み立てに複雑な工程を必要とする。
【0018】
本発明の課題は、軸体をその長さ方向に円滑に直線移動させることができ、そして製造も容易な直動軸受付き送りねじを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者は、外筒と軸体とが柱状体を介して係合した直動軸受を、外周面にねじ溝と直線溝とが互いに交差して形成されている軸体を備える直動軸受付き送りねじに採用することにより、この柱状体が単に軸体を支持するのみでなく、この軸体の円滑な直線移動を実現するとの新たな知見に基づいて研究を進めた結果、本発明に到達した。
【0020】
本発明は、外周面にねじ溝を備える軸体と、この軸体の周囲に配置された内周面にねじ溝を備えるナットとが相互に回転可能に嵌め合わされてなる送りねじの上記軸体の外周面に、各々が軸体のねじ溝の深さよりも小さな深さを有し、このねじ溝に交差して軸方向に延びる複数本の直線溝が形成され、そして軸体を係合手段を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒を持つ直動軸受を備える直動軸受付き送りねじであって、上記係合手段が、上記軸体の各直線溝に収容されて軸方向に伸びる柱状体であることを特徴とする直動軸受付き送りねじにある。
【0021】
本発明の直動軸受付き送りねじの好ましい態様は次の通りである。
(1)各柱状体がねじ溝のピッチの二倍を超える長さを有する。
(2)上記軸体の中心軸に垂直な方向に沿って切断した軸体及び各柱状体のそれぞれの断面が円形であって、前記断面における軸体の各直線溝の形状が柱状体の半径よりも大きな半径を持つ円弧の形状とされていて、この円弧の中心と、柱状体の中心と、軸体の中心とが一直線上に並ぶように設定されている。更に好ましくは、直線溝の円弧の半径が柱状体の半径の1.01〜1.4倍の範囲内にある。
(3)上記(2)の態様において、外筒の内周面に、それぞれ上記各柱状体を収容する複数本の直線溝が備えられている。更に好ましくは、外筒の内周面に互いに間隔を介して一対の周溝が形成され、各周溝のそれぞれに外周部が嵌め合わされた状態にて環状の止め具が備えられていて、そして両者の環状止め具の内周部の間に上記各柱状体が配置されている。
(4)軸体の直線溝の本数が三本以上である。
(5)軸体の外周面、ナットの内周面、外筒の内周面もしくは各柱状体の外周面に、フッ素樹脂薄膜もしくはダイヤモンドライクカーボン薄膜が形成されている。
(6)軸体とナットとの嵌め合わせが、両者のねじ溝の間に配置された複数個のボールを介してなされている。
【発明の効果】
【0022】
本発明の直動軸受付き送りねじは、外周面にねじ溝と直線溝とが互いに交差して形成されている軸体が、その各直線溝に収容された柱状体を介して直動軸受により支持されていて、この柱状体は軸体の直線溝に沿って移動する際にねじ溝の側面に衝突し難いため、軸体をその長さ方向に円滑に直線移動させることができる。
【0023】
また、本発明の直動軸受付き送りねじは、外筒と軸体との係合手段として柱状体を備える簡単な構成の直動軸受が用いられていて、軸体の各直線溝に更に丸溝を形成する必要はなく、球体の循環路を形成する複雑な構成の保持器、押さえ板、そしてテーパーギブを備えておらず、従って外筒を二分割する必要もないため、その製造が極めて容易である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来の直動軸受付き送りねじの構成を示す断面図である。
【図2】図1に記入した切断線II−II線に沿って切断した直動軸受付き送りねじ10の断面図である。
【図3】図2に示す軸体11及び球体15の拡大図である。
【図4】図3に示す軸体11及び球体15の平面図である。
【図5】本発明の直動軸受付き送りねじの構成例を示す断面図である。
【図6】図5に記入した切断線VI−VI線に沿って切断した直動軸受付き送りねじ50の断面図である。
【図7】本発明の直動軸受付き送りねじの別の構成例を示す断面図である。
【図8】図7に記入した切断線VIII−VIII線に沿って切断した直動軸受付き送りねじ70の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の直動軸受付き送りねじを添付の図面を用いて説明する。図5は、本発明の直動軸受付き送りねじの構成例を示す断面図である。そして図6は、図5に記入した切断線VI−VI線に沿って切断した直動軸受付き送りねじ50の断面図である。
【0026】
本発明の直動軸受付き送りねじ50は、外周面にねじ溝51aを備える軸体51と、軸体51の周囲に配置された内周面にねじ溝52aを備えるナット52とが相互に回転可能に嵌め合わされてなる送りねじ54の軸体51の外周面に、各々が軸体51のねじ溝51aの深さよりも小さな深さを有し、ねじ溝51aに交差して軸方向に延びる複数本の直線溝51bが形成され、そして軸体51を係合手段を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒56を持つ直動軸受57を備えた構成を有している。本発明の直動軸受付き送りねじ50は、上記係合手段として、軸体51の各直線溝51bに収容されて軸方向に伸びる柱状体55が用いられていることに主な特徴がある。
【0027】
直動軸受付き送りねじの駆動方法は、その取り付けの対象となる機械装置の構成に応じて様々である。例えば、直動軸受57の外筒56を周方向に回転移動することにより、軸体51を外筒56と共に周方向に回転移動させることができる。また、例えば、送りねじ54のナット52を周方向に回転移動させることにより、軸体51をその長さ方向(軸方向)に直線移動させることができる。なお、上記軸体51の回転移動により生じるナット52の軸体51の長さ方向への移動は、例えば、ナット52を軸体51と同じ向きに回転移動させることにより防止することができる。
【0028】
直動軸受付き送りねじ50の軸体51は、各直線溝51bに収容された柱状体55に支持された状態にて直線移動(摺動)する。この際に、各柱状体55は、直線溝51bに案内されながら直線溝51bに沿って移動(軸体51に対して相対的に移動)するため、軸体51のねじ溝51aの側面に衝突し難い。このため、軸体51をその長さ方向に円滑に直線移動させることができる。
【0029】
直動軸受付き送りねじ50は、軸体51を直線移動(特に高速で直線移動)させる際の駆動力の断続的な増大と、この駆動力の増大に基づく軸体51や柱状体55の摩耗とが抑制されているため優れた耐久性を示し、従って軸体の高速での直線移動が繰り返される電子部品装着装置を構成する部品として特に有利に用いることができる。
【0030】
また、直動軸受付き送りねじ50は、外筒56と軸体51との係合手段として柱状体55を備える簡単な構成の直動軸受57が用いられていて、軸体の各直線溝に更に丸溝を形成する必要はなく、球体の循環路を形成する複雑な構成の保持器、押さえ板、そしてテーパーギブを備えておらず、従って外筒を二分割する必要もないため、その製造が極めて容易である。
【0031】
各柱状体55は、軸体51のねじ溝51aのピッチの二倍を超える長さを有していることが好ましい。これにより、軸体51が長さ方向に移動する際に、各柱状体55が常に軸体51の互いに隣接するねじ山に形成された直線溝部分に支持されて安定に配置される。従って、各柱状体55の軸体51の中心軸に対する傾斜移動が抑制されるため、これらの柱状体55に支持された軸体51が高精度にて直線移動する。通常、各柱状体55の長さは、外筒56の長さよりも小さな値に設定される。
【0032】
図6に示すように、軸体51の中心軸に垂直な方向に沿って切断した軸体51及び各柱状体55のそれぞれの断面が円形であって、前記断面における軸体51の各直線溝51bの形状が柱状体55の半径R1よりも大きな半径R2を持つ円弧Aの形状とされていて、この円弧Aの中心O1と、柱状体55の中心O2と、軸体51の中心O3とが一直線上(直線Lの上)に並ぶように設定されていることが好ましい。
【0033】
このように、軸体51の各直線溝51bの形状が柱状体55の半径R1よりも大きな半径R2を持つ円弧Aの形状とされていると、各柱状体55は軸体51の直線溝51bの内側面に線接触する。そして、この軸体51は、外筒56と軸体51との間に挟まれた各柱状体55から軸体51の中心O3に向かう方向に荷重が付与された状態で、その一方で軸体51の周方向には殆ど荷重が付与されることのない状態で、複数個の柱状体55によって緊密に支持される。
【0034】
従って、軸体51に、その周方向に荷重が付与された際には、軸体51の各直線溝51bの円弧Aの半径R2が柱状体55の半径R1よりも大きくされていて、両者の間に僅かに間隙が形成されていることから、この軸体51は周方向に僅かに回転移動(微回転)することができる。但し、軸体51の回転移動が進むと(軸体51の回転移動の角度が大きくなると)、軸体51の各直線溝51bと各柱状体55との係合により、この軸体51の更なる回転移動は防止される。そして、軸体51への荷重の付与が停止すると、軸体51は、各柱状体55が各直線溝51bの最も深さが大くなる位置に配置されるように上記微回転の向きとは逆向きに微回転して図6に示す初期位置に戻る。
【0035】
直動軸受付き送りねじの軸体には、その周方向に瞬間的に大きな荷重が付与されることがある。例えば、電子部品装着装置に組み込まれた直動軸受付き送りねじの軸体には、電子部品を回転移動するため外筒を軸体と共に高速で(大きな加速度にて)回転移動した際に、その周方向に瞬間的に大きな荷重が付与されることがある。また、例えば、軸体に外部振動(例、電子部品装置装置にて、軸体を高速で直線移動あるいは回転移動させる駆動装置にて発生する振動)が付与された際に、軸体には、その周方向に瞬間的に荷重が付与されることがある。
【0036】
前記の特許文献2のスプラインは、軸体の周方向への回転移動を防止するため、各直線溝の各丸溝に収容された柱状体は、外筒の内側に備えられた押さえ板により、それぞれが軸体を互いに逆向きに回転移動させるように各丸溝に押し付けられている。これにより、軸体は、その直線溝の各丸溝に押し付けられた柱状体の複数個により、その周方向には回転移動することができないように緊密に支持されている。このため、上記のように軸体の周方向に瞬間的に大きな荷重が付与された場合には、軸体と柱状体との摩擦が増大して各々に摩耗を生じ易くなる。このため、同文献のスプラインは、軸体の高速での回転移動と直線移動とが繰り返される電子部品装着装置の部品として、十分な耐久性を発揮できない可能性がある。
【0037】
本発明の直動軸受付き送りねじ50では、例えば、直線移動する軸体51にその周方向に瞬間的に大きな荷重が付与された際に、この軸体51に微回転を生じるため、上記荷重の付与に基づく軸体51と柱状体55との摩擦の増大が抑制され、従って軸体51や柱状体55の摩耗の発生が抑制される。このため、本発明の直動軸受付き送りねじ50は優れた耐久性を示し、従って軸体の高速での回転移動と直線移動とが繰り返される電子部品装着装置を構成する部品として特に有利に用いることができる。
【0038】
軸体51の直線溝51bの円弧Aの半径R2は、柱状体55の半径R1の1.01〜1.4倍(特に1.02〜1.2倍)の範囲内にあることが好ましい。これにより、軸体51の微回転を実現すると共に、この軸体51の直線移動の精度も向上させることができる。なお、図6においては、軸体51の直線溝51bの形状を容易に理解することができるように、この直線溝51bの円弧Aを、実際よりも大きな半径にて記入している。図5及び図6に示す直動軸受付き送りねじ50では、軸体51の直線溝51bの円弧Aの半径R2は、実際には柱状体55の半径R1の1.04倍に設定されている。
【0039】
軸体51の直線溝51bの深さは、軸体51の回転移動(上記微回転を超える大きな回転移動)の防止を確実なものとするため、柱状体55の直径の5〜40%(好ましくは10〜40%)の範囲内にあることが好ましい。
【0040】
軸体51の直線溝の本数(すなわち柱状体55の個数に相当する)は3本以上であることが好ましい。直線溝の本数は、3〜10本の範囲にあることが更に好ましく、3〜8本の範囲にあることが特に好ましい。直線溝の本数が3本以上であると、各直線溝に収容された柱状体の複数個により軸体が安定に支持される。また直線溝の本数が10本以下であると、軸体の製造が容易になる。軸体の複数本の直線溝は、軸体の外周面に等間隔にて形成されていることが好ましい。なお、軸体の各直線溝に、複数個(例えば、2〜10個)の柱状体を、直線溝の長さ方向に並べて収容することもできる。
【0041】
軸体51の中心軸上に透孔を形成することもできる。この軸体の一方の端部から前記透孔の内部の気体を排気することにより、軸体の他方の端部の開口(あるいはこの開口に接続された電子部品の吸着ノズル)に電子部品を吸着させることができる。
【0042】
なお、本明細書にて用いる上記「円弧の形状」とは、厳密な円弧の形状のみを意味するものではない。直線溝が厳密な円弧の形状にない場合、本明細書にて用いる前記「柱状体の半径よりも大きな半径を持つ円弧の形状」とは、「柱状体の半径よりも大きな曲率半径を持つ一もしくは二以上の曲線から形成された形状」を意味する。そして、前記「円弧の中心と、柱状体の中心と、軸体の中心とが一直線上に並ぶような設定」とは、「直線溝の幅方向において最も直線溝の深さが大きくなる位置と、柱状体の中心と、軸体の中心とが一直線上に並ぶような設定」を意味する。このように、直線溝が厳密な円弧の形状にない場合であっても、前記と同様の軸体の微回転を実現することができる。
【0043】
図5及び図6に示すように、直動軸受57の外筒56の内周面には、それぞれ上記各柱状体55を収容する複数本の直線溝56bが備えられていて、この外筒56の内周面には、互いに間隔を介して一対の周溝56aが形成され、各周溝56aのそれぞれに外周部が嵌め合わされた状態にて環状の止め具(例、公知のスナップリング)59が備えられていて、そして両者の環状止め具59の内周部の間に上記各柱状体55が配置されていることが更に好ましい。
【0044】
このような構成の採用により、外筒56と軸体51との間に配置された各柱状体55は、外筒56に対して相対的に移動することができなくなる。このため、各柱状体55の外筒56の端部から外部への飛び出しが防止される。
【0045】
ただし、各柱状体55は、その周方向には回転移動することができる。このため直動軸受付き送りねじ50の使用の際に柱状体55に付与される荷重の向きや大きさの変化、あるいは外部振動の影響を受けて、各柱状体55がその周方向に微回転する。特に、本発明の直動軸受付き送りねじ50では、前記のような軸体51に生じる微回転が、各柱状体55の微回転を飛躍的に促進する。これにより、各柱状体55の外周面の極めて均一な摩耗が実現されるため、直動軸受付き送りねじ50の耐久性が特に良好になる。
【0046】
外筒56の各直線溝56bもまた、軸体51の各直線溝51bと同様に、柱状体55の半径よりも大きな半径を持つ円弧の形状にあり、この円弧の中心が上記直線上(図6に示す直線Lの上)にあることが好ましい。外筒56の直線溝56bの深さ、本数、あるいは配置に関する好ましい態様は、軸体51の直線溝51bの場合と同様である。
【0047】
なお、柱状体55が直接的に、あるいは別部品(例、環状の止め具59)を介して間接的に外筒56に固定されている場合には、外筒56の内周面に上記直線溝56bが設けられていなくてもよい。
【0048】
なお、図5及び図6に示す直動軸受付き送りねじ50では、直動軸受57の外筒56として、外筒と軸体との間にて軸体を支持する複数個の球体を循環移動させる公知の直動軸受の外筒をそのまま利用することにより、その製造の更なる簡易化が実現されている。この外筒56が備える複数本の直線溝56cは、上記球体の軌道を形成するために用いられるものであり、本発明において使用されることはない。
【0049】
本発明の直動軸受付き送りねじ50を構成する、軸体51、ナット52、ボール53、柱状体55、外筒56、および環状止め具59の各々を形成する材料は、公知の直動軸受付き送りねじの場合と同様であり、その例としては、鋼に代表される金属材料、樹脂材料、そしてセラミック材料が挙げられる。これら部品の全てを金属材料から形成すると、直動軸受付き送りねじ50の剛性が増大すると共に、その耐熱性もまた良好となる。
【0050】
次に、直動軸受付き送りねじ50が備える送りねじ54の構成について説明する。
【0051】
送りねじ54は、外周面にねじ溝51aを備える軸体51と、軸体51の周囲に配置された内周面にねじ溝52aを備えるナット52とが相互に回転可能に嵌め合わされた構成を有している。送りねじ54としては、軸体51とナット52との嵌め合わせが、両者のねじ溝51a、52aの間に配置された複数個のボール53を介してなされた送りねじ(ボールねじ)が用いられている。送りねじ54の構成は、軸体51に形成される直線溝51bの本数が異なること以外は図1に示す送りねじ14と同様である。
【0052】
図1及び図2に示す従来の直動軸受付き送りねじ10では、直動軸受17の外筒16と軸体11との間に球体15が、そして送りねじ14のナット12と軸体11との間にボール13が配置されている。直動軸受付き送りねじ10では、軸体11の球体15あるいはボール13との接触位置に荷重が集中して付与されるため、通常、軸体11にはその表面を硬化させるため熱処理が施される。
【0053】
本発明の直動軸受付き送りねじは、その送りねじとして、軸体とナットとがボールを介さずに嵌め合わされた構成の送りねじを用いると、球体やボールを使用することがないため、軸体に熱処理を施すことなく安価に製造することもできる。また、送りねじのナットに、ボールの循環路を設ける必要がなくなるため、ナットの形状を自由に設定することができ、ナットをその回転駆動に適した形状に設定することが容易になる。なお、このような送りねじの構成は周知であるため、これ以上の説明は行なわない。
【0054】
また、軸体の外周面、ナットの内周面、外筒の内周面もしくは各柱状体の外周面に、フッ素樹脂薄膜もしくはダイヤモンドライクカーボン薄膜を形成することも好ましい。例えば、軸体にフッ素樹脂薄膜もしくはダイヤモンドライクカーボン薄膜を形成すると、軸体と各柱状体、そして軸体とナットとの滑り摩擦が小さくなり、特にダイヤモンドライクカーボン薄膜を用いると軸体の耐摩耗性が向上する。なお、軸体の外周面、ナットの内周面、外筒の内周面及び各柱状体の外周面のうちの二以上の面に、フッ素樹脂薄膜もしくはダイヤモンドライクカーボン薄膜を形成することもできる。
【0055】
図7は、本発明の直動軸受付き送りねじの別の構成例を示す断面図である。そして図8は、図7に記入した切断線VIII−VIII線に沿って切断した直動軸受付き送りねじ70の断面図である。
【0056】
図7及び図8に示す直動軸受付き送りねじ70の構成は、直動軸受77が備える外筒76の形状が異なること以外は、図5及び図6に示す直動軸受付き送りねじ50と同様である。
【0057】
直動軸受付き送りねじ70が備える直動軸受77は、外筒76がその断面の外周縁及び内周縁がそれぞれ円形で、そして内周面に複数本の直線溝76bが形成された簡単な形状にあるため、その製造が容易である。
【符号の説明】
【0058】
10 直動軸受付き送りねじ
11 軸体
11a ねじ溝
11b 直線溝
12 ナット
12a ねじ溝
13 ボール
14 送りねじ
15 球体
16 外筒
16b 直線溝
17 直動軸受
18 筒状球体保持器
18a 貫通溝
18b 非貫通溝
18c 球体循環路
19a、19b 軸体に対する球体の移動方向を示す矢印
21 ねじ溝の側面の直線溝に近接する表面領域
50 直動軸受付き送りねじ
51 軸体
51a ねじ溝
51b 直線溝
52 ナット
52a ねじ溝
53 ボール
54 送りねじ
55 柱状体
56 外筒
56a 周溝
56b、56c 直線溝
57 直動軸受
59 環状の止め具
70 直動軸受付き送りねじ
76 外筒
76b 直線溝
77 直動軸受
1 柱状体の半径
2 直線溝の円弧の半径
1 直線溝の円弧の中心
2 柱状体の中心
3 軸体の中心
A 円弧
L 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にねじ溝を備える軸体と、該軸体の周囲に配置された内周面にねじ溝を備えるナットとが相互に回転可能に嵌め合わされてなる送りねじの上記軸体の外周面に、各々が該軸体のねじ溝の深さよりも小さな深さを有し、該ねじ溝に交差して軸方向に延びる複数本の直線溝が形成され、そして該軸体を係合手段を介して非回転にて滑動可能に収容している外筒を持つ直動軸受を備える直動軸受付き送りねじであって、
上記係合手段が、上記軸体の各直線溝に収容されて軸方向に伸びる柱状体であることを特徴とする直動軸受付き送りねじ。
【請求項2】
各柱状体がねじ溝のピッチの二倍を超える長さを有する請求項1に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項3】
上記軸体の中心軸に垂直な方向に沿って切断した軸体及び各柱状体のそれぞれの断面が円形であって、当該断面における軸体の各直線溝の形状が柱状体の半径よりも大きな半径を持つ円弧の形状とされていて、該円弧の中心と、柱状体の中心と、軸体の中心とが一直線上に並ぶように設定されている請求項1もしくは2に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項4】
直線溝の円弧の半径が柱状体の半径の1.01〜1.4倍の範囲内にある請求項3に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項5】
外筒の内周面に、それぞれ上記各柱状体を収容する複数本の直線溝が備えられている請求項3もしくは4に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項6】
外筒の内周面に互いに間隔を介して一対の周溝が形成され、各周溝のそれぞれに外周部が嵌め合わされた状態にて環状の止め具が備えられていて、そして両者の環状止め具の内周部の間に上記各柱状体が配置されている請求項5に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項7】
軸体の直線溝の本数が三本以上である請求項1乃至6のうちのいずれかの項に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項8】
軸体の外周面、ナットの内周面、外筒の内周面もしくは各柱状体の外周面に、フッ素樹脂薄膜もしくはダイヤモンドライクカーボン薄膜が形成されている請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の直動軸受付き送りねじ。
【請求項9】
軸体とナットとの嵌め合わせが、両者のねじ溝の間に配置された複数個のボールを介してなされている請求項1乃至7のうちのいずれかの項に記載の直動軸受付き送りねじ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−163505(P2011−163505A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−29209(P2010−29209)
【出願日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【出願人】(394000493)ヒーハイスト精工株式会社 (76)
【出願人】(594107837)ケーエスエス株式会社 (7)
【Fターム(参考)】