説明

直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法

【課題】高いプロトン伝導性と高いアルコール非透過性を併せ持つ直接液体型燃料電池隔膜を得る。
【解決手段】a)1個の重合性基、少なくとも1個のメチル基、及び少なくとも1個の水素原子がベンゼン環に結合してなり、且つ上記メチル基のうち1個は前記重合性基に対してパラ位に結合してなる単環式芳香族系重合性単量体、b)架橋性重合性単量体、及びc)重合開始剤、を少なくとも含む重合性組成物を多孔質膜と接触させて前記重合性組成物を多孔質膜の有する空隙部に充填させた後、前記重合性組成物を重合硬化させ、次いで前記単環式芳香族系重合性単量体に由来するベンゼン環にカチオン交換基を導入することにより直接液体型燃料電池用隔膜を製造する。単環式芳香族系重合性単量体としてはp-メチルスチレンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法に関する。該隔膜は、多孔質膜の空隙部にカチオン交換樹脂が充填されてなり、メタノール等の液体燃料の透過性が少ない。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜は、固体高分子型燃料電池、レドックス・フロー電池、亜鉛−臭素電池等の電池用隔膜や、透析用隔膜等として汎用的に使用されている。イオン交換膜を電解質隔膜として用いる固体高分子型燃料電池は、燃料電池に燃料と酸化剤とを連続的に供給し、これらが反応した時の化学エネルギーを電力として取り出すクリーンで高効率な発電システムの一つである。近年、固体高分子型燃料電池は低温作動や小型化を期待できることから、自動車用途、家庭用途、携帯用途としてその重要性を増している。
【0003】
固体高分子型燃料電池は、一般的に電解質として作用する固体高分子の隔膜の両面に、触媒が坦持されたガス拡散電極がそれぞれ接合された構造を有する。そして、一方のガス拡散電極が存在する側の室(燃料室)に水素ガスあるいはメタノール等の液体燃料からなる燃料を供給し、他方のガス拡散電極が存在する側の室に酸化剤である酸素や空気等の酸素含有ガスをそれぞれ供給する。この状態で、両ガス拡散電極間に外部負荷回路を接続することにより、燃料電池として作用し、外部負荷回路に電力が供給される。
【0004】
固体高分子型燃料電池の中でも、直接メタノール等を燃料として用いる直接液体型燃料電池は、燃料が液体であることから取り扱いやすいこと、燃料が安価であることが評価され、特に携帯機器用の比較的小出力規模の電源として期待されている。
【0005】
直接液体型燃料電池の基本構造を図1に示す。図中、1a、1bは隔膜として用いる固体高分子電解質膜6を挟んで該固体高分子電解質膜6の両側にそれぞれ形成された電池隔壁、2は一方の電池隔壁1aの内壁に形成された燃料流通孔、3は他方の電池隔壁1bの内壁に形成された酸化剤ガス流通孔である。4は燃料室側拡散電極、5は酸化剤室側ガス拡散電極である。
【0006】
この直接液体型燃料電池において、燃料室7にアルコール等の液体燃料が供給されると、燃料室側拡散電極4においてプロトン(水素イオン)と電子が生成する。生成したプロトンは固体高分子電解質膜6内を伝導し、他方の酸化剤室8に移動し、ここで空気又は酸素ガス中の酸素と反応して水が生成される。この時、燃料室側拡散電極4で生成される電子は、不図示の外部負荷回路を通じて酸化剤室側ガス拡散電極5へと送られることにより電気エネルギーが得られる。
【0007】
上記構造の直接液体型燃料電池において、上記固体高分子電解質膜6には、通常、カチオン交換膜が使用される。該カチオン交換膜には、電気抵抗が小さく、物理的な強度が強く、更に燃料として使用される液体燃料の透過性が低い特性が要求される。カチオン交換膜に対する液体燃料の透過性が高い場合には、燃料室に供給する液体燃料が酸化室側に拡散移動し、その結果電池出力が低下する。
【0008】
従来、燃料電池用隔膜として使用されるカチオン交換膜としては、例えば、ポリオレフィン系やフッ素系樹脂製の多孔質膜の空隙部に、カチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体および架橋性重合性単量体からなる重合性組成物を充填して重合し、次いで得られる樹脂の有する該カチオン交換基を導入可能な官能基にカチオン交換基を導入する方法により得た隔膜が知られている(例えば、特許文献1、2)。この方法によれば、燃料電池用隔膜は比較的安価に製造され、得られる隔膜は電気抵抗が小さく、水素ガスの透過性も小さく、膨潤、変形も少ない。
【特許文献1】特開2001−135328号公報
【特許文献2】特開平11−310649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これらのカチオン交換膜を直接液体型燃料電池用隔膜として用いる場合は、アルコール等の液体燃料がカチオン交換膜内を透過することを完全に抑制することができない。その結果、燃料室側から酸化剤室側へ液体燃料の拡散が生じ、電池性能が低下している。
【0010】
この問題を改善するために、多孔質膜の空隙部に充填する重合性組成物中の架橋性重合性単量体の含有量を高めることにより、親水性のカチオン交換基の導入量を相対的に低下させることを本発明者らは検討した。この方法によれば、得られるカチオン交換膜の疎水性が高められ、且つ膜の架橋度も高められ、その結果緻密なイオン交換膜が得られ、液体燃料の透過抑制に関してある程度有効であった。しかし一方で、カチオン交換膜の電気抵抗が増大して電池出力が低下する問題が起き、この点で実用上満足できる燃料電池用隔膜は得られていない。
【0011】
なお、前記従来技術として引用した燃料電池に使用するカチオン交換膜の製造方法においては、多孔質膜の空隙部に充填する重合性組成物中の単量体成分として、前記カチオン交換基を導入可能な官能基を有する重合性単量体や架橋性重合性単量体の他に、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン等のカチオン交換基を導入可能な官能基を有しない重合性単量体を第三共重合成分として含有させることも示されている。しかし、これらの第三共重合成分として記載されている重合性単量体は、いずれも親水性の強い単量体である。従って、これら第三共重合成分を共重合させて得られるカチオン交換膜は親水性が高く、このため親水性の高いアルコール等の液体燃料の透過抑制効果は向上していないことが認められた。即ち、この第三共重合成分が共重合されているカチオン交換膜は燃料電池用隔膜として使用する場合、アルコール等の液体燃料の透過抑制効果の点で不十分である。
【0012】
以上の背景にあって、本発明は、アルコール等の液体燃料の透過性、特にメタノール透過性が低く、隔膜の電気抵抗が低く、安定した高い電池出力を示し、膨潤等の変形の起き難い、カチオン交換膜からなる燃料電池用隔膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題に鑑み鋭意研究を行ってきた。その結果、多孔質膜の空隙部に充填される重合性組成物の主成分として、重合性基に対してパラ位にメチル基を有する芳香族系重合性単量体を用いると、オルト位やメタ位にメチル基を有する芳香族系重合性単量体を用いる場合と比較して、膜抵抗を増大させること無く、特異的に液体燃料の透過性を低減できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
従って、本発明は、
a)1個の重合性基、少なくとも1個のメチル基、及び少なくとも1個の水素原子がベンゼン環に結合してなり、且つ上記メチル基のうち1個は前記重合性基に対してパラ位に結合してなる単環式芳香族系重合性単量体、
b)架橋性重合性単量体、及び
c)重合開始剤、
を少なくとも含む重合性組成物を多孔質膜と接触させて前記重合性組成物を多孔質膜の有する空隙部に充填させた後、前記重合性組成物を重合硬化させ、次いで前記単環式芳香族系重合性単量体に由来するベンゼン環にカチオン交換基を導入することを特徴とする直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法である。
【0015】
また本発明は、単環式芳香族系重合性単量体がp-メチルスチレンである場合を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の隔膜の製造方法によれば、カチオン交換樹脂を形成させる重合性組成物中に、カチオン交換基を導入するための重合性単量体として、重合性基に対してパラ位にメチル基を有する重合性単量体を使用しているので、得られる隔膜を構成するカチオン交換樹脂は、適度に疎水性が高まり、液体燃料の透過性を低減させる。更に、その理由は不明であるが、重合性基に対してパラ位にメチル基を有する重合性単量体を使用しているので、オルト位やメタ位にメチル基を有する単量体を用いる場合と比較し、液体燃料の透過抑制効果が高い。
【0017】
このカチオン交換膜は、一定のイオン交換容量と膜の膨潤等の変形を抑制するための適度な架橋を維持しつつ、膜の疎水性状が大きく高められている。その結果、本方法により得られるカチオン交換膜は、直接液体型燃料電池用隔膜として使用した場合、膜の電気抵抗を過度に高めることなく、液体燃料、特に、メタノールの透過性を大きく低減させる。すなわち、本発明に係る隔膜は、従来達成困難であった、高い液体燃料の非透過性と高いプロトン伝導性を両立した直接液体型燃料電池隔膜である。
【0018】
本発明製造方法により得られる隔膜を使用して製造する直接液体型燃料電池は、電池の内部抵抗が低く、且つメタノール等の液体燃料のクロスオーバーが抑制されるため、高い電池出力が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の直接液体型燃料電池用隔膜(以下本隔膜と略記する場合がある。)の製造方法においては、所定の重合性組成物を多孔質膜に形成された空隙部に充填させた後、前記充填した重合性組成物を重合硬化させ、次いで重合硬化させて得られる樹脂にカチオン交換基を導入することにより、本隔膜を製造する。
【0020】
(重合性組成物)
本隔膜を製造する際の出発原料である重合性組成物は、a)単環式芳香族系重合性単量体、b)架橋性重合性単量体、c)重合開始剤を必須成分とする。
【0021】
a)単環式芳香族系重合性単量体
単環式芳香族系重合性単量体は、1個の重合性基、少なくとも1個のメチル基、及び少なくとも1個の水素原子がベンゼン環に結合した、下記化学式(1)で示される化合物である。
【0022】
【化1】

【0023】
上記化学式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基等 を示す。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、ter−ブチル基、ペンチル基等が例示される。これらのアルキル基の中でもメチル基が好ましい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。これらのハロゲン原子の中でも塩素原子が入手の容易さの点で好ましい。
【0024】
nは1〜4の整数である。液体燃料の透過抑制効果が高く、且つ得られる隔膜の電気抵抗が低くなる点で、nは3又は4が好ましく、特にnは4が好ましい。また、nが4の重合性単量体は入手が容易である点でも好ましい単量体である。Rがアルキル基である場合においては、nは3が好ましい。
【0025】
Aは重合性基である。重合性基としては、不飽和結合を有する炭素数2〜5の炭化水素基が好ましい。ビニル基、プロペニル基、ブチレン基等が例示される。入手の容易さの点で、ビニル基が特に好ましい。
【0026】
上記化学式(1)で示される単環式芳香族系重合性単量体は、水素原子が芳香族環に少なくとも1個結合されている。後述するように、この水素原子がカチオン交換基と交換される。
【0027】
上記化学式(1)で示される単環式芳香族系重合性単量体は、ベンゼン環に結合されている前記メチル基の少なくとも1個が、重合性基Aに対してパラ位に結合されている。
【0028】
後述する実施例、比較例のデータから明らかなように、ベンゼン環に結合されている重合性基Aとメチル基とが互いにパラ位の関係にある単環式芳香族系重合性単量体を出発原料として使用することにより、液体燃料の透過抑制が高く、且つ得られる隔膜の電気抵抗が低い本隔膜が得られる。重合性基Aと、メチル基とがパラ位の関係を持たない単環式芳香族系重合性単量体を用いる場合は、液体燃料の透過抑制、隔膜の電気抵抗の何れもが良好な隔膜は得られない。
【0029】
単環式芳香族系重合性単量体としては、p-メチルスチレン、2 ,4-ジメチルスチレン、1,2,4-トリメチルスチレン、1,3,4-トリメチルスチレン、2-エチル-4-メチルスチレン、2-プロピル-4-メチルスチレン、2-ブチル-4-メチルスチレン、2-クロロ-4-メチルスチレン、p-メチル-α-メチルスチレン等が例示される。
【0030】
これらの内でも、得られる隔膜に対する液体燃料の透過抑制力が高く、且つ電気抵抗が低くなる点で、p-メチルスチレンが特に好ましい。
【0031】
重合性組成物中の上記単環式芳香族系重合性単量体の含有量は、特に制限されるものではないが、重合性組成物中に含まれる重合性単量体合計量の10〜99質量%であるのが好ましく、特に、30〜98質量%であるのが好ましい。単環式芳香族系重合性単量体の含有量がこの範囲に含有されることにより、得られるカチオン交換樹脂は、液体燃料の非透過性の向上効果がより顕著に発揮される。
【0032】
b)架橋性重合性単量体
重合性組成物に配合する架橋性重合性単量体としては、従来公知のイオン交換膜の製造において用いられる単量体が制限無く使用できる。架橋性重合性単量体を重合性組成物に配合することにより、得られるカチオン交換樹脂は架橋型になる。架橋型のイオン交換樹脂は本質的に溶媒不溶性である。このため、水やアルコールに対する溶解性は無く、膨潤も最小限になり、樹脂にカチオン交換基を多量に導入できる。その結果、本隔膜は電気抵抗が極めて小さくなる。
【0033】
架橋性重合性単量体としては、具体的には、例えばm−、p−、o−ジビニルベンゼン、ジビニルスルホン、ブタジエン、クロロプレン、イソプレン、トリビニルベンゼン類、ジビニルナフタリン、ジアリルアミン、トリアリルアミン、ジビニルピリジン類などのジビニル化合物が挙げられる。
【0034】
重合性組成物中の架橋性重合性単量体の含有量は、特に制限されるものではないが、重合性組成物中に含まれる重合性単量体合計量の1〜40質量%であるのが好ましい、特に、2〜30質量%であるのが好ましい。架橋性重合性単量体の含有量がこの範囲に制御されることにより、得られるカチオン交換樹脂は、液体燃料の非透過性や、膨潤等を防止効果に一層に優れ、電気抵抗も特に低いものが得られ好ましい。
【0035】
c)重合開始剤
上記重合性組成物には、重合開始剤が含有される。重合開始剤としては、上記単環式芳香族系重合性単量体、架橋性重合性単量体の重合を開始させる化合物であれば特に限定されない。
【0036】
重合開始剤としては、有機過酸化物が好ましい。例えば、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等のラジカル重合開始剤が挙げられる。
【0037】
重合開始剤の含有量は、使用する重合性単量体の組成や該重合開始剤の種類に応じて常法に準じて適宜採択される。通常は、前記重合性単量体成分合計(後述するその他の重合性単量体を使用する場合は、その含有量も含む)100質量部に対して、0.1〜20質量部配合されることが好ましく、0.5〜10質量部がより好ましい。
【0038】
なお、重合性組成物には、前記a)メチル基のうちの1個が重合性基に対してパラ位に結合している単環式芳香族系重合性単量体とは別に、カチオン交換基を導入し得る他の芳香族系重合性単量体を含有させても良い。こうした他の芳香族系重合性単量体としては、例えば、スチレン、ビニルキシレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、α−ハロゲン化スチレン類、アセナフチレン類等が挙げられる。その含有量は、重合性組成物中に含まれる重合性単量体合計量の89質量%以下であるのが好ましく、特に、68質量%以下であるのが好ましい。
【0039】
さらに、重合性組成物には、上記各必須成分の他に、機械的強度等の物性や重合性等の反応性を調節するために、本発明の目的に反しない限度内で、必要に応じてその他の成分が少量配合されてもよい。このような任意の成分としては、例えば、アクリロニトリル、アクロレイン、メチルビニルケトン等の他の重合性単量体や、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジメチルイソフタレート、ジブチルアジペート、トリエチルシトレート、アセチルトリブチルシトレート、ジブチルセバケート等の可塑剤類が挙げられる。
【0040】
その他の成分の重合性単量体を重合性組成物中に含有させる場合、その含有量は、全重合性単量体成分合計量の20質量%以下、特に、10質量%以下とすることが好ましい。可塑剤類の使用量は上記全重合性単量体成分合計100質量部に対して50質量部以下が好ましい。
【0041】
(多孔質膜)
本発明の製造方法においては、上記重合性組成物は、多孔質膜と接触させられる。これにより、重合性組成物は多孔質膜の有する空隙部に充填される。その後、空隙部に充填された重合性組成物は重合硬化される。
【0042】
このように多孔質膜を基材として製造されるカチオン交換膜からなる燃料電池用隔膜は、該多孔質膜が補強部分として働くため電気抵抗の増加などを起すことなく物理的強度を高めることができる。
【0043】
基材として用いる上記多孔質膜としては、その内部に細孔等による空隙部を有する多孔質基材であって、空隙部を介して、少なくとも空隙部の一部により基材の表裏が連通されているものであれば公知の多孔質基材が制限なく使用できる。
【0044】
多孔質基材の空隙部の平均孔径は、0.01〜2μmが好ましく、0.015〜0.4μmが特に好ましい。細孔が0.01μm未満の場合は、カチオン交換樹脂の充填量が低下する。細孔径が2μmを超える場合はアルコールの透過性が大きくなる。
【0045】
多孔質膜の空隙率(気孔率とも呼ばれる)は、20〜95%が好ましく、30〜90%がより好ましい。
【0046】
透気度(JIS P−8117)は1500秒以下が好ましく、1000秒以下がより好ましい。この範囲の透気度とすることにより、得られる燃料電池用隔膜の電気抵抗が低くなり、しかも高い物理的強度が保たれる。
【0047】
厚みは5〜150μmが好ましく、10〜120μmがより好ましく、10〜70μmが特に好ましい。
【0048】
表面平滑性は、粗さ指数で表して10μm以下、さらには5μm以下が好ましい。この範囲の平滑性とすることにより、得られる燃料電池用隔膜のアルコールに対する高い非透過性が達成される。
【0049】
当該多孔質膜の形態は特に限定されず、多孔質フィルム、織布、不織布、紙、無機膜等の任意の形態のものが使用される。多孔質膜の材質としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機物、それらの混合物が例示される。しかし、その製造が容易であるばかりでなく、後述するカチオン交換樹脂との密着強度が高いという観点から、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0050】
当該熱可塑性樹脂としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテン等のα−オレフィンの単独重合体または共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体等の塩化ビニル系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフロオロエチレン−ペルフロオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等のフッ素系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂等が例示される。
【0051】
これらのなかでも特に、機械的強度、化学的安定性、耐薬品性に優れ、炭化水素系イオン交換樹脂との親和性が良いことから、ポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0052】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン又はポリプロピレン樹脂が特に好ましく、ポリエチレン樹脂が最も好ましい。
【0053】
上記多孔質膜は、例えば特開平9−216964号公報、特開2002−338721号公報等に記載の方法によって得ることもできる。あるいは、市販品(例えば、旭化成「ハイポア」、宇部興産「ユーポア」、東燃タピルス「セテラ」、日東電工「エクセポール」、三井化学「ハイレット」等)として入手することも可能である。
【0054】
(重合性組成物と多孔質膜の接触)
重合性組成物と多孔質膜との接触は、重合性組成物が多孔質膜の有する空隙部に浸入できる方法で接触されるのであれば特に限定されない。例えば、重合性組成物を多孔質膜に塗布し、またはスプレーしたり、あるいは、多孔質膜を重合性組成物中に浸漬する方法などが例示される。多孔質膜が重合性組成物に浸漬されて接触させられる場合、その浸漬時間は多孔質膜の種類や重合性組成物の組成により相違するが、一般的には0.1秒〜十数分である。
【0055】
(重合)
多孔質膜の空隙部に充填された重合性組成物は、次いで重合させられる。重合方法は特に限定されず、用いた重合性単量体の組成及び重合開始剤の種類に応じて適宜公知の方法を採用すればよい。重合開始剤として前記したような有機過酸化物を用いる場合は、加熱による重合方法(熱重合)が一般的である。この方法は、操作が容易で、また比較的均一に重合させることができるので、他の方法よりも好ましい。重合に際しては、酸素による重合阻害を防止し、また表面の平滑性を得るため、重合性組成物が充填されている多孔質膜をポリエステル等のフィルムで覆った後、重合させることが好ましい。フィルムで多孔質膜を覆うことにより、過剰の重合性組成物が多孔質膜から排除され、薄く均一な燃料電池隔膜が製造される。
【0056】
熱重合させる場合、重合温度は特に制限されず、公知の温度条件を適宜選択すればよいが、一般的には50〜150℃、好ましくは60〜120℃である。重合時間は、10分〜10時間が好ましい。
【0057】
(カチオン交換基の導入)
上記のようにして製造された、多孔質膜の空隙部に重合性組成物の重合体からなる樹脂が充填されてなる膜状高分子体には、次いでカチオン交換基が導入される。
【0058】
カチオン交換基は、多孔質膜の空隙部に充填されてなる上記樹脂のベンゼン環に導入される。なお、このベンゼン環は、重合性組成物中に配合されている単環式芳香族系重合性単量体のベンゼン環に由来している。
【0059】
ベンゼン環に導入されるカチオン交換基としては、従来公知のものが特に制限無く採用される。具体的には、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基等が挙げられる。得られる隔膜の電気抵抗が低くなる点で強酸性基であるスルホン酸基が特に好ましい。
【0060】
ベンゼン環にスルホン酸基を導入する方法としては、例えば、濃硫酸、発煙硫酸、二酸化硫黄、クロロスルホン酸などのスルホン化剤を、前記製造した膜状高分子体に反応させる方法が挙げられる。
【0061】
ベンゼン環にホスホン基を導入させる方法としては、ハロゲン化アルキル基を有する膜状高分子体に無水塩化アルミニウムの存在下、三塩化リンを反応させた後、続いてアルカリ性水溶液中で加水分解反応する方法等が挙げられる。
【0062】
ベンゼン環にカルボン酸基を導入させる方法としては、ハロゲン化鉄などの触媒の存在下、ハロゲンガスと接触させることによりハロゲン化し、更にアルキルリチウムと反応させた後、二酸化炭素と反応させる方法等が挙げられる。
【0063】
これらのカチオン交換基を導入する方法自体は、公知の方法である。
【0064】
(直接液体型燃料電池用隔膜)
このようにして得られる、多孔質膜の空隙部にカチオン交換樹脂が充填されてなるカチオン交換膜は、必要に応じて洗浄、裁断などが行われ、定法に従って直接液体型燃料電池用の隔膜として用いられる。
【0065】
本発明の方法により製造される直接液体型燃料電池用隔膜は、カチオン交換容量が、定法による測定で、通常0.1〜3mmol/g、特に0.1〜2mmol/gの高い値を有している。そのため、高い電池出力を有し、燃料液体透過性、膜の電気抵抗も充分に低いものになっている。また、本発明の隔膜は、前記組成の重合性組成物を使用する結果、含水率が、通常5〜90%、より好適には10〜80%であり、乾燥による電気抵抗の増加、即ちプロトンの伝導性の低下が生じ難いものになっている。さらに、燃料液体に対して不溶性であり、電気抵抗が通常、3mol/L−硫酸水溶液中の電気抵抗で表して0.45Ω・cm以下、更には0.25Ω・cm以下と非常に小さい。しかも、燃料液体の透過性が極めて小さく、例えば、25℃において100%のメタノール接触している場合の隔膜中のメタノールの透過率は通常1000g/m・hr以下、特に10〜700g/m・hrの範囲である。
【0066】
本発明の方法により得られる燃料電池用隔膜は、このように電気抵抗が低く、かつ燃料液体の透過率も小さいため、直接液体型燃料電池用隔膜として使用する場合に、燃料室に供給する燃料液体が該隔膜を透過して反対の室に拡散することを有効に防止でき、高い出力の電池が得られる。この本発明の方法により得られる隔膜が採用される直接液体型燃料電池としては、前記した図1の基本構造を有するものが一般的であるが、その他の公知の構造を有する直接液体型燃料電池にも勿論適用することができる。燃料の液体としては、メタノールが最も一般的であり、本発明の効果が最も顕著に発揮されるものであるが、その他、エタノール、エチレングリコール、ジメチルエーテル、ヒドラジン等においても同様の優れた効果が発揮される。また更に、燃料は液体に限られず、気体の水素ガス等を用いることもできる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
なお、実施例、比較例においては、隔膜(カチオン交換膜)のカチオン交換容量、含水率、膜抵抗、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定して燃料電池用隔膜の特性を評価した。これらの測定方法を以下に説明する。
【0069】
1)カチオン交換容量および含水率
カチオン交換膜を1mol/L−HCl水溶液に10時間以上浸漬し、水素イオン型とした後、このカチオン交換膜を1mol/L−NaCl水溶液に浸漬して水素イオン型をナトリウムイオン型に置換させた。遊離した水素イオンを水酸化ナトリウム水溶液を用いて電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(Amol)。
【0070】
次に、同じカチオン交換膜を1mol/L−HCl水溶液に4時間以上浸漬した後、膜を取り出し、イオン交換水で十分水洗した。その後ティッシュペーパーで表面の水分を拭き取り、湿潤時の膜の質量(Wg)を測定した。さらに膜を60℃で5時間減圧乾燥させた後、その質量を測定した(Dg)。上記測定値に基づいて、カチオン交換容量および含水率を次式により求めた。
【0071】
カチオン交換容量=A×1000/D[mmol/g−乾燥質量]
含水率=100×(W−D)/D[%]
2)膜抵抗
線幅0.3mmの白金線5本を互いに離して平行に配置した絶縁基板を用い、前記白金線に純水に湿潤した2.0cm幅の短冊状サンプル隔膜を押し当てた。40℃、90%RHの恒温恒湿槽中に試料を保持し、白金線間に1kHzの交流を印加したときの交流インピーダンスを測定した。白金線間距離を0.5〜2.0cmに変化させたときのそれぞれの交流インピーダンスを測定した。
【0072】
白金線と隔膜との間には接触による抵抗が生じるが、白金線間距離と抵抗の勾配から隔膜の比抵抗を算出することでこの影響を除外した。白金線間距離と抵抗測定値との間には良い直線関係が得られた。抵抗勾配と膜厚から下式により膜抵抗を算出した。
【0073】
R=2.0×L×S
R :膜抵抗[Ω・cm
L :膜厚[cm]
S :抵抗極間勾配[Ω/cm]
3)メタノール透過率
隔膜を中央に取付けた燃料電池セル(隔膜面積5cm)の一方の室に、メタノール濃度30が質量%の水溶液を液体クロマトグラフ用ポンプで供給し、隔膜の反対側の室にアルゴンガスを300ml/minで供給した。測定は25℃の恒温槽内で行った。隔膜の反対側の室から流出するアルゴンガスをガス捕集容器に導き、ガス捕集容器で捕集したアルゴンガス中のメタノール濃度をガスクロマトグラフィーで測定し、隔膜を透過したメタノール量を求めた。
【0074】
4)燃料電池出力電圧
ポリテトラフルオロエチレンで撥水化処理した厚さ100μm、空孔率80%のカーボンペーパー上に、触媒が2mg/cmとなるように塗布し、80℃で4時間減圧乾燥してガス拡散電極を得た。塗布した触媒は、白金とルテニウムとの合金触媒(ルテニウム50mol%)を50質量%担持したカーボンブラックと、アルコールと水とにパーフルオロカーボンスルホン酸を5%溶解(デュポン社製、商品名ナフィオン)したものとを混合して調製した。
【0075】
次に、測定する燃料電池隔膜の両面に上記のガス拡散電極をセットし、100℃、圧力5MPaの加圧下で100秒間熱プレスした後、室温で2分間放置した。これを図1に示す構造の燃料電池セルに組み込んだ。燃料電池セル温度を25℃に設定し、燃料室側に20質量%のメタノール水溶液を、酸化剤室側に大気圧の酸素を200ml/min.で供給して発電試験を行ない、電流密度0A/cm、0.1A/cmにおけるセルの端子電圧を測定した。
【0076】
実施例1、2、3
表1に示した組成表に従って、各種単量体等を混合して単量体組成物を得た。得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに多孔質膜(重量平均分子量25万のポリエチレン製、膜厚25μm、平均孔径0.03μm、空隙率37%)を浸漬した。
【0077】
続いて、これらの多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、0.3MPaの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。
【0078】
得られた膜状物を98%濃硫酸と純度90%以上のクロロスルホン酸の1:1の混合物中に40℃で60分間浸漬してベンゼン環をスルホン化し、燃料電池用隔膜を得た。
【0079】
この燃料電池用隔膜のカチオン交換容量、含水率、膜抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0080】
実施例4
表1に示した組成表に従って、各種単量体等を混合して単量体組成物を得た。得られた単量体組成物400gを500mlのガラス容器に入れ、これに表1に示した多孔質膜(A、B各20cm×20cm)を浸漬した。
【0081】
続いて、これらの多孔質膜を単量体組成物中から取り出し、100μmのポリエステルフィルムを剥離材として多孔質膜の両側を被覆した後、0.3MPaの窒素加圧下、80℃で5時間加熱重合した。更に、実施例1と同じ操作を行い、燃料電池用隔膜を得た。
【0082】
これらの燃料電池用隔膜のカチオン交換容量、含水率、膜抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0083】
比較例1、2、3
表1に示した単量体組成物と多孔質膜を用いた以外は実施例1と同じ操作を行い、燃料電池用隔膜を得た。
【0084】
この燃料電池用隔膜のカチオン交換容量、含水率、膜抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。結果を表2に示す。
【0085】
比較例4
パーフルオロカーボンスルホン酸膜(市販品A)を用い、カチオン交換容量、含水率、膜抵抗、膜厚、メタノール透過率、燃料電池出力電圧を測定した。これらの結果を表2に示した。
【0086】
【表1】

【0087】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】固体高分子形燃料電池の基本構造を示す概念図である。
【符号の説明】
【0089】
1 電池隔壁
2 燃料ガス流通孔
3 酸化剤ガス流通孔
4 燃料室側ガス拡散電極
5 酸化剤室側ガス拡散電極
6 固体高分子電解質膜(カチオンイオン交換膜)
7 燃料室
8 酸化剤室


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1個の重合性基、少なくとも1個のメチル基、及び少なくとも1個の水素原子がベンゼン環に結合してなり、且つ上記メチル基のうち1個は前記重合性基に対してパラ位に結合してなる単環式芳香族系重合性単量体、
b)架橋性重合性単量体、及び
c)重合開始剤、
を少なくとも含む重合性組成物を多孔質膜と接触させて前記重合性組成物を多孔質膜の有する空隙部に充填させた後、前記重合性組成物を重合硬化させ、次いで前記単環式芳香族系重合性単量体に由来するベンゼン環にカチオン交換基を導入することを特徴とする直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法。
【請求項2】
単環式芳香族系重合性単量体がp-メチルスチレンである請求項1に記載の直接液体型燃料電池用隔膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−234302(P2007−234302A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52227(P2006−52227)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】