説明

直接酸化型燃料電池システム

【課題】燃料電池システムの長時間の発電時において、燃料電池スタックの水の蓄積による発電特性の低下を抑制することにより、良好な発電特性を維持する直接酸化型燃料電池システムを提供する。
【解決手段】カソードとアノードと、カソードおよびアノードに対向して配置された一対の流路を備える直接酸化型燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、燃料電池スタックに反応物質を供給するポンプと、燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段を備え、燃料電池スタックの発電時に、状態検出手段が燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出した場合には、反応物質が流れる経路のうち燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を下げる、直接酸化型燃料電池システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接酸化型燃料電池システムに関し、特に反応物質が流れる経路の圧力損失を変化させる燃料電池の構造および制御手段に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートPC、デジタルカメラ等のモバイル機器の高性能化に伴い、その電源として、固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が期待されている。固体高分子型燃料電池の中でも、燃料としてメタノールなどの液体燃料を直接アノードへ供給する直接酸化型燃料電池は、小型軽量化に適しており、モバイル機器用電源やポータブル発電機として開発が進められている。
【0003】
直接酸化型燃料電池は、膜電極接合体(MEA)を具備する。MEAは、電解質膜と、その両面にそれぞれ接合されたアノード(燃料極)およびカソード(空気極)とから構成されている。アノードは、アノード触媒層とアノード拡散層からなり、カソードは、カソード触媒層とカソード拡散層からなる。MEAが一対のセパレーターで挟み込まれることで、セルが構成される。アノード側セパレーターは、アノードに対向する部分に、アノードにメタノールなどの燃料を供給する燃料流路を有する。カソード側セパレーターは、カソードに対向する部分に、カソードに酸素ガスや空気などの酸化剤を供給する酸化剤流路を有する。複数のセルが電気的に直列に積層されることで燃料電池スタックが構成される。
【0004】
カソードに空気を供給するための空気ポンプやアノードに燃料を供給する燃料ポンプなどのポンプ、燃料を収容する燃料タンク、補助電源に使用する二次電池、制御基盤、燃料電池スタックを発電させるための補器類を組み込むことで、燃料電池システムが構成される。燃料電池スタックで発電した電力は、補器類の消費電力が差し引かれて、燃料電池システムの発電電力として外部へ出力される。
【0005】
カソード、アノードともに、発電に伴ってセルの出口からは水を含む液体が排出される。カソードでは発電反応によって水が生成され、アノードから電解質膜を透過(クロスオーバー)してきた燃料の酸化反応によっても水が生成される。また、アノードに燃料水溶液として供給された水も電解質膜を透過してカソードへ移動する。カソードからはこれらの水が排出される。アノードからは余剰の燃料水溶液が排出される。通常は発電電流から算出される理論的な燃料の必要量よりも多くの量をアノードに供給するため、未反応の燃料水溶液は排出されることになる。
【0006】
直接酸化型燃料電池の課題の1つとして、上記の水の排出が十分でなく、これがセル内の流路で蓄積して水閉塞状態となり、空気や燃料など反応物質の拡散性を低下するために発電特性が低下することが分かってきた。
【0007】
また、水閉塞によって、燃料電池スタックにおける各セルの流路での圧力損失にバラツキが生じ、水閉塞状態で圧力損失が高くなったセルには反応物質が供給されにくくなり、各セルの発電電圧にバラツキが生じることも分かってきた。特に、反応物質を過剰に供給せず理論必要量に近い量のみ供給する、いわゆる低ストイキオ比での運転では、流路を流れる反応物質の流速が小さいため、セル内の水を排出する力が小さく、セル内に水が蓄積しやすい。
【0008】
このようなセル内の水閉塞による発電特性の低下を解消するための手段としては、一時
的に空気や燃料の流量を大きくするパージ処理を行うことが提案されており、広く知られている。この他にも、下記のような技術が提案されている。
【0009】
特許文献1には、セル内に圧力損失の異なる複数の流路を設け、水閉塞状態を検出した場合に圧力損失の高い流路に切り替える燃料電池システムが提案されている。空気や燃料の流量を一定にしておけば、セル内の圧力損失を大きくすることで、セル内に蓄積した水を排出する力が大きくなる。
【0010】
特許文献2には、燃料が流れる経路のうち燃料電池スタックのアノード出口以降にバルブと吸引ポンプを設け、アノード側の水詰まり状態を検出した場合にバルブと吸引ポンプを用いてアノード出口以降の圧力損失を下げる燃料電池システムが提案されている。燃料の流量を大きくしなくても、アノード出口以降の圧力損失を下げることで、セル内のアノード側に蓄積した水を排出する力が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−207725号公報
【特許文献2】特開2001−307757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
燃料電池システムの発電特性の維持のために、発電中の燃料電池スタックの流路内から効果的に水を排出することが求められる。
【0013】
一般的に知られるパージ処理は、空気や燃料の流量を大きくするため、空気ポンプや燃料ポンプの消費電力を大きくする必要がある。
【0014】
特許文献1の技術では、空気や燃料の流量を一定にしておけばスタック内の圧力損失が大きくなるが、この場合、通常の空気ポンプや燃料ポンプでは消費電力が大きくなる。消費電力を大きくしなければ流量が下がるため、スタック内の圧力損失が大きくならずに水を排出する力が大きくならないだけでなく、空気や燃料の供給量が下がることによる発電特性の低下も起こる。
【0015】
特許文献2の技術では、吸引ポンプを用いてアノード出口以降の圧力損失を下げているため、その間は吸引ポンプの消費電力が大きくなる。また、吸引ポンプを設けることが、スペースやコストの面で余計な負担をかけることになる。
【0016】
いずれの技術においても、発電時の燃料電池スタックの流路内から水を排出するためにポンプの消費電力を大きくする必要があり、燃料電池システムとして発電できる電力が下がってしまうことになる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の直接酸化型燃料電池システムは、カソードとアノードと、カソードおよびアノードに対向して配置された一対の流路を備える直接酸化型燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、燃料電池スタックに反応物質を供給するポンプと、燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段を備え、燃料電池スタックの発電時に、状態検出手段が燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出した場合には、反応物質が流れる経路のうち燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を下げる、直接酸化型燃料電池システムである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、発電中の燃料電池スタックの流路内に水が蓄積して水閉塞状態になっても、燃料電池スタックの出口以降で圧力損失が一時的に下がるため、燃料電池スタック内から出口に向かって水を排出する力が大きくなり、速やかに燃料電池スタック内から水を排出することができる。これにより、燃料電池スタックの発電特性を安定して維持することができる。反応物質の流量が小さい低ストイキオ比で運転する場合でも十分に水を排出することができるため、発電効率を向上させることができる。
【0019】
水閉塞状態を解消する際に空気ポンプや燃料ポンプなどポンプの消費電力を大きくしていないため、燃料電池システムとしての発電電力を下げることがなく、安定した電力を出力することができる。また、燃料電池システムに備えられた二次電池が出力する電力を安定化する構成である場合には、ポンプの消費電力が大きくなることによる二次電池への負荷を与えることがなく、二次電池のサイクル劣化を促進することがない。
【0020】
燃料電池スタックの出口以降で圧力損失を変化させる構成であるため、燃料電池スタック内の流路形状は、燃料電池スタックの発電特性に適した形状を任意にとることができる。このため、燃料電池スタックの発電特性を損なうことがない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る直接酸化型燃料電池セルを概略的に示す断面図
【図2】本発明の一実施形態に係る直接酸化型燃料電池システムを概略的に示す図
【図3】本発明の一実施形態に係る直接酸化型燃料電池システムを概略的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の直接酸化型燃料電池システムは、カソードとアノードと、カソードおよびアノードに対向して配置された一対の流路を備える直接酸化型燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、燃料電池スタックに反応物質を供給するポンプと、燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段を備え、燃料電池スタックの発電時に、状態検出手段が燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出した場合には、反応物質が流れる経路のうち燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を下げる、直接酸化型燃料電池システムである。
【0023】
図1の燃料電池セル1は、アノード2、カソード3、およびアノード2とカソード3との間に介在する電解質膜4を含む膜電極接合体(MEA)5を有する。MEA5の一方の側面には、アノード2を封止するようにガスケット14が配置され、他方の側面には、カソード3を封止するようにガスケット15が配置されている。
【0024】
MEA5は、アノード側セパレーター10およびカソード側セパレーター11に挟持されている。アノード側セパレーター10は、アノード2に接し、カソード側セパレーター11は、カソード3に接している。アノード側セパレーター10は、アノード2に対向する部分に、アノード2に燃料を供給する燃料流路12を有する。燃料流路12は、燃料が流入するアノード入口と、反応で生成したCOや未使用の燃料などを排出するアノード出口を有する。カソード側セパレーター11は、カソード3に対向する部分に、カソード3に酸化剤を供給する酸化剤流路13を有する。酸化剤流路13は、酸化剤が流入するカソード入口と、反応で生成した水や未使用の酸化剤などを排出するカソード出口を有する。
【0025】
図1のようなセルを複数設け、各セルを電気的に直列に積層することで、燃料電池スタックが構成される。この場合、通常はアノード側セパレーター10とカソード側セパレーター11は一体のものとして形成される。各セルのアノード入口は、マニホールドを用い
るなどして通常1つに集約され、アノード出口、カソード入口、カソード出口も同様に、それぞれ集約される。
【0026】
図2は、本発明の1つの実施形態を概略的に示す図である。図2の直接酸化型燃料電池システムは、燃料電池スタック20のカソード3に空気を供給する空気ポンプ21と、アノード2に燃料を供給する燃料ポンプ22と、燃料電池スタック20の流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段23と、カソード出口マニホールドに設けられたカソード出口弁24と、アノード出口マニホールドに設けられたアノード出口弁25と、燃料電池システムの運転を制御する情報処理装置26を備える。
【0027】
カソード出口弁24およびアノード出口弁25は、定常の発電時には開度が小さく設定されている。発電中に状態検出手段23が燃料電池スタック20のカソード3側の流路における水閉塞状態を検出した場合には、カソード出口弁24の開度を一時的に大きくし、アノード2側の流路における水閉塞状態を検出した場合には、アノード出口弁25の開度を一時的に大きくする。この時、空気ポンプ21や燃料ポンプ22の消費電力は大きくしない。カソード出口弁24またはアノード出口弁25の開度を一時的に大きくすることで、反応物質が流れる経路のうち燃料電池スタック20の出口から大気への排出口までの間で圧力損失が一時的に下がる。
【0028】
カソード出口弁およびアノード出口弁は、1つの弁で燃料電池スタックの全セルの出口開度を変更するものでも良いし、各セルに個別に出口弁を設けても良い。個別に出口弁を設ける方が各セルの水閉塞状態を個別に対処できるため、より効果を得やすいが、構造が複雑になるため、コストや信頼性の面からは、1つの弁を設ける方が好ましい。弁の数や配置などは、燃料電池システム全体の設計などに基づいて、自由に選択することができる。
【0029】
燃料電池スタックの水閉塞状態を検出する状態検出手段は、特に限定はされないが、燃料電池スタックの発電電力、燃料電池セルの発電電圧、反応物質が流れる経路のうちポンプから燃料電池スタックの出口までの間での圧力、燃料電池セルの流路を流れる反応物質の流量のうち、少なくとも1つを測定するものであることが好ましい。
【0030】
燃料電池スタックの流路内で水閉塞状態が発生すると、空気または燃料の拡散性を低下させることになり、燃料電池スタックの発電電力や燃料電池セルの発電電圧を低下する。セル数の多い燃料電池スタックでは、スタック全体の発電電力のみを測定しているだけでは各セルの発電電圧の低下を検出することが難しい場合があるため、燃料電池セルの発電電圧を測定する方がより好ましい。
【0031】
燃料電池スタックの流路内で水閉塞状態が発生すると、それが圧力損失となり、空気または燃料の流量が一定である場合には、空気または燃料が流れる経路のうちポンプから燃料電池スタックの出口までの間での圧力を増加させることになる。これを測定することで燃料電池スタックの流路内の水閉塞状態を検出することができる。燃料電池システムの構成によっては、空気または燃料が流れる経路全体の圧力損失に対して、燃料電池スタックの流路内の水閉塞状態による圧力損失の増加が小さく、検出することが難しい場合があるため、各セルの空気または燃料の入口から出口にかけての圧力損失を測定することがより好ましい。
【0032】
燃料電池スタック内の一部のセルの流路で水閉塞状態が発生すると、それが圧力損失となり、水閉塞状態の発生したセルへは空気や燃料が流入しにくくなる。そこで、各セルの反応物質が流れる経路において流量を測定することで、水閉塞状態を検出することができる。
【0033】
状態検出手段が燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出した時、その信号を燃料電池システムのユーザーに対して光や音などを用いて知らせ、反応物質が流れる経路のうち、燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を一時的に下げる操作をするように促す構成としても良いし、例えば、燃料電池システムの運転を制御する情報処理装置がその信号を受け取り、自動的に圧力損失を下げる構成としても良い。ユーザーの利便性を考慮すると、燃料電池システムが自動的に行う構成とする方が好ましい。
【0034】
図3は、本発明の1つの実施形態を概略的に示す図である。図3の直接酸化型燃料電池システムは、燃料電池スタック20のカソード3に空気を供給する空気ポンプ21と、アノード2に燃料を供給する燃料ポンプ22と、燃料電池スタック20の流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段23と、カソード出口マニホールドに設けられたカソード切り替え弁27と、アノード出口マニホールドに設けられたアノード切り替え弁28と、カソード切り替え弁27に接続された2つのカソード排出経路29、30と、アノード切り替え弁28に接続された2つのアノード排出経路31、32と、燃料電池システムの運転を制御する情報処理装置26を備える。
【0035】
カソード排出経路29、30は、経路が長く圧力損失が大きいカソード排出経路29と、経路が短く圧力損失が小さいカソード排出経路30で構成され、アノード排出経路31、32は、経路が長く圧力損失が大きいアノード排出経路31と、経路が短く圧力損失が小さいアノード排出経路32で構成される。長いカソード排出経路29と短いカソード排出経路30はカソード切り替え弁27によって燃料電池スタック20のカソード3との連通を切り替えられ、長いアノード排出経路31と短いアノード排出経路32はアノード切り替え弁28によって燃料電池スタック20のアノード2との連通を切り替えられる。
【0036】
カソード切り替え弁27およびアノード切り替え弁28は、定常の発電時には、それぞれ長いカソード排出経路29および長いアノード排出経路31が燃料電池スタック20と連通するように設定されている。発電中に状態検出手段23が燃料電池スタック20のカソード3側の流路における水閉塞状態を検出した場合には、カソード切り替え弁27を、一時的に短いカソード排出経路30が燃料電池スタック20と連通するように切り替え、アノード2側の流路における水閉塞状態を検出した場合には、アノード切り替え弁28を、一時的に短いアノード排出経路32が燃料電池スタック20と連通するように切り替える。この時、空気ポンプ21や燃料ポンプ22の消費電力は大きくしない。カソード排出経路29、30またはアノード排出経路31、32の圧力損失を一時的に大きくすることで、空気または燃料が流れる経路のうち、燃料電池スタック20の出口から大気への排出口までの間で圧力損失が一時的に下がる。
【0037】
図3の燃料電池システムでは、長さの異なるカソード排出経路およびアノード排出経路を切り替えることによって圧力損失を下げたが、この他にも、断面積の異なる排出経路を切り替えたり、屈曲度の異なる排出経路を切り替えたりすることでも、同様に圧力損失を下げることができる。また、排出経路に浄化フィルターなどを設け、フィルター類を通過する経路と通過しない経路を切り替えることでも、圧力損失を下げることができる。
【0038】
図3の直接酸化型燃料電池システムは、さらにラジエーターを備え、長いカソード排出経路または長いアノード排出経路のうち、少なくとも一方を、ラジエーターを通る経路とすることができる。ラジエーターを通る経路は、一般的に長く、断面積が小さく、屈曲度も大きいため、圧力損失が大きい。このような経路を燃料電池スタックの定常の発電時の排出経路としておくことで、燃料電池スタックの流路における水閉塞状態が発生した場合の圧力損失の下げ幅を大きくすることができ、効果的に水を排出することができる。
ラジエーターは、燃料電池スタックから排出された流体を冷却することで、この流体に含まれる水分を液体の水として回収したり、燃料電池システムからの排出流体の温度を下げてユーザーへの安全性を向上するために用いられる。
【0039】
燃料電池スタックへ反応物質を供給するためにセパレーターに設けられる流路は、その形状については様々なものがある。一般的には、1本〜数本の流路がつづら折れの形状となっているサーペンタイン型や、数十本の流路が直線的に並行に設けられているパラレル型の流路がある。サーペンタイン型では、流路長が長くなって圧力損失が大きくなり、流路の本数も少ないため、流路内に発生した水を排出しようとする力が大きい。このため、流路における水閉塞は起こりにくい。一方、パラレル型では、流路長が短く本数も多いため、圧力損失が小さくなり、流路内に水が蓄積しやすい。
【0040】
本発明は、流路における水閉塞状態を起こしやすいパラレル型流路を備える方の反応物質経路に対して適用すると、より大きな効果が得られるため好ましい。
【0041】
直接酸化型燃料電池では、アノード側の流路には液体の燃料が直接供給され、それが次第に消費されていく。また、電極反応によって電極面内の至る所で気体のCOが生成し、排出される。つまり、液体が消費されて気体が生成するため、アノード側の流路内では水の蓄積は起こりにくい。一方、カソード側の流路には空気が供給され、それが次第に消費されていく。また、電極反応によって電極面内の至る所で水が生成する。つまり、気体が消費されて液体が生成するため、カソード側の流路内では水の蓄積が起こりやすい。
【0042】
カソード側の流路がパラレル型流路である場合が、最も水閉塞状態が起こりやすい。本発明は、このような構成の直接酸化型燃料電池のカソード側の経路に対して適用すると、最も大きな効果が得られるため好ましい。
【0043】
本発明では、燃料電池スタックの流路における水閉塞状態が発生した場合に圧力損失を下げるが、この時、空気ポンプや燃料ポンプなどの補器類の消費電力を大きくしない。空気ポンプや燃料ポンプは、経路の圧力損失が下がると、同じ流量に保つ場合には消費電力が小さくなる。または、消費電力を一定に保つ場合には流量が増加する。燃料電池スタックの流路内に蓄積した水を排出するためには、経路に流れる空気や燃料の流量が大きい方が排出する力が大きくなるため、より効果的である。空気ポンプや燃料ポンプなどの補器類の消費電力は一定に保つことが好ましい。
【0044】
本発明の直接酸化型燃料電池システムは、上記のように、燃料電池スタックの、反応物質が流れる経路のうち燃料電池スタック出口から大気への排出口までの間の圧力損失を一時的に下げる構造と制御に特徴を有する。これ以外の構成要素は、特に限定されず、例えば従来の直接酸化型燃料電池システムと同様の構成要素を用いることができる。以下、図1を再度参照しながら、構成要素について説明する。
【0045】
カソード3は、電解質膜4に接するカソード触媒層8およびカソード側セパレーター11に接するカソード拡散層9を含む。カソード拡散層9は、例えば、カソード触媒層8に接する導電性撥水層と、カソード側セパレーター11に接する基材層とを含む。
【0046】
カソード触媒層8は、カソード触媒と高分子電解質を含む。カソード触媒としては、触媒活性の高いPtなどの貴金属が好ましい。カソード触媒は、そのまま用いてもよいし、担体に担持した形態で用いてもよい。担体としては、電子伝導性および耐酸性の高さから、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることが好ましい。高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するパーフルオロスルホン酸系高分子材料、炭化水素系高分子材料などを用いることが好ましい。パーフルオロスルホン酸系高分子材料としては、例えば、Na
fion(登録商標)などを用いることができる。
【0047】
アノード2は、電解質膜4に接するアノード触媒層6およびアノード側セパレーター10に接するアノード拡散層7を含む。アノード拡散層7は、例えば、アノード触媒層6に接する導電性撥水層と、アノード側セパレーター10に接する基材層とを含む。
【0048】
アノード触媒層6は、アノード触媒と高分子電解質を含む。アノード触媒としては、一酸化炭素による触媒の被毒を低減する観点から、PtとRuとの合金触媒が好ましい。アノード触媒は、そのまま用いてもよいし、担体に担持した形態で用いてもよい。担体としては、カソード触媒を担持する担体と同様の炭素材料を用いることができる。アノード触媒層6に含まれる高分子電解質としては、カソード触媒層8に用いられる材料と同様の材料を用いることができる。
【0049】
アノード拡散層7およびカソード拡散層9に含まれる導電性撥水層は、導電剤と撥水剤を含む。導電性撥水層に含まれる導電剤としては、カーボンブラックなど、燃料電池の分野で常用される材料を特に限定することなく用いることができる。導電性撥水層に含まれる撥水剤は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)など、燃料電池の分野で常用される材料を特に限定することなく用いることができる。
【0050】
基材層としては、導電性の多孔質材料が用いられる。導電性の多孔質材料としては、カーボンペーパーなど、燃料電池の分野で常用される材料を特に限定することなく用いることができる。これらの多孔質材料は、燃料の拡散性および生成水の排出性などを向上させるために、撥水剤を含んでいてもよい。撥水剤は、導電性撥水層に含まれる撥水剤と同様の材料を用いることができる。
【0051】
電解質膜4としては、例えば、従来から用いられているプロトン伝導性高分子膜を特に限定なく使用できる。具体的には、パーフルオロスルホン酸系高分子膜、炭化水素系高分子膜などを好ましく使用できる。パーフルオロスルホン酸系高分子膜としては、例えば、Nafion(登録商標)などが挙げられる。
【0052】
図1に示される直接酸化型燃料電池は、例えば、以下の方法で作製することができる。電解質膜4の一方の面にアノード2を、他方の面にカソード3を、ホットプレス法などを用いて接合して、MEA5を作製する。次いで、MEA5を、アノード側セパレーター10およびカソード側セパレーター11で挟み込む。このとき、MEA5のアノード2をガスケット14で封止し、カソード3をガスケット15で封止するように配置する。その後、アノード側セパレーター10およびカソード側セパレーター11の外側に、それぞれ、集電板16および17、端板18および19を積層し、これらを締結する。さらに、端板18および19の外側に、温度調整用のヒーターを積層してもよい。このようにして、図1の燃料電池セル1を得ることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
《実施例1》
(a)カソード触媒層の作製
カソード触媒とカソード触媒を担持する触媒担体とを含むカソード触媒担持体を用いた。カソード触媒として、Pt触媒を用いた。触媒担体としては、カーボンブラック(商品名:ケッチェンブラックECP、ケッチェンブラックインターナショナル社製)を用いた。Pt触媒とカーボンブラックとの合計重量に占めるPt触媒の重量の割合は、50重量
%とした。
【0055】
前記カソード触媒担持体をイソプロパノール水溶液に分散させた液と、高分子電解質であるナフィオン(登録商標)の分散液(シグマアルドリッチジャパン(株)製、ナフィオン5重量%溶液)とを混合し、カソード触媒層インクを調製した。カソード触媒層インクを、ドクターブレード法を用いて、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シート上に塗布し、乾燥して、カソード触媒層を得た。
【0056】
(b)アノード触媒層の作製
アノード触媒として、PtRu触媒(原子比Pt:Ru=1:1)を用いた。カソード触媒の代わりに、前記アノード触媒を用いたこと以外、カソード触媒層と同様にして、アノード触媒層を作製した。なお、PtRu触媒とケッチェンブラックとの合計重量に占めるPtRu触媒の重量の割合は、50重量%とした。
【0057】
(c)導電性撥水層ペーストの調製
撥水剤分散液と導電剤とを、所定の界面活性剤を添加したイオン交換水に分散混合して、導電性撥水層ペーストを調製した。撥水剤分散液としては、PTFEディスパージョン(シグマアルドリッチジャパン(株)製、PTFEの含有量60質量%)を用いた。導電剤には、アセチレンブラック(電気化学工業(株)製、デンカブラック)を用いた。
【0058】
(d)基材層の作製
アノード拡散層のアノード基材層を構成する導電性の多孔質材料として、カーボンペーパー(東レ(株)製、TGP−H−090、厚み270μm)を用いた。前記カーボンペーパーを、撥水剤であるPTFEを含むPTFEディスパージョン(シグマアルドリッチジャパン(株)製)に浸漬させ、乾燥させた。こうして、前記カーボンペーパーに、撥水処理を施した。
【0059】
カソード拡散層のカソード基材層を構成する導電性の多孔質材料として、カーボンクロス(バラードマテリアルプロダクツ社製、AvCarb(登録商標)1071HCB)を用いた。このカーボンクロスにも、上記と同様の方法で、撥水処理を施した。
【0060】
(e)アノード拡散層およびカソード拡散層の作製
前記(d)で作製したアノード基材層の片面に、(c)で作製した導電性撥水層ペーストを塗布し、乾燥して、アノード拡散層を作製した。同様に、前記(d)で作製したカソード基材層の片面に、(c)で作製した導電性撥水層ペーストを塗布し、乾燥して、カソード拡散層を作製した。
【0061】
(f)MEAの作製
前記(a)においてPTFEシート上に形成したカソード触媒層を、電解質膜(商品名:ナフィオン(登録商標)112、デュポン(株)製)の一方の面に積層し、前記(b)においてPTFEシート上に形成したアノード触媒層を、電解質膜の他方の面に積層した。このとき、カソード触媒層およびアノード触媒層は、カソード触媒層のPTFEシートが配置された面とは反対側の面およびアノード触媒層のPTFEシートが配置された面とは反対側の面が、それぞれ電解質膜の一方の面および他方の面に接するように、積層した。この後、カソード触媒層およびアノード触媒層を電解質膜にホットプレス法によって接合するとともに、カソード触媒層およびアノード触媒層からPTFEシートを剥離した。
【0062】
次いで、ホットプレス法により、カソード触媒層にカソード拡散層を接合し、アノード触媒層にアノード拡散層を接合した。こうして、MEAを作製した。
【0063】
(g)燃料電池スタックの作製
MEAの外周部に露出した電解質膜の両面に、それぞれその電解質膜の露出部を全て覆うようにゴム製ガスケットを配した。アノード側セパレーターおよびカソード側セパレーターで、MEAを挟持するように積層した。アノード側セパレーターのアノードに接する面には、燃料を供給する燃料流路を形成しておいた。カソード側セパレーターのカソードに接する面には、酸化剤を供給する酸化剤流路を形成しておいた。流路はいずれもサーペンタイン型とした。このようにして直接酸化型燃料電池セルを得た。
【0064】
同様にして合計10個のセルを作製し、これらを順に積層した。次に、両端に位置するアノード側セパレーターおよびカソード側セパレーターの外側に、それぞれ、集電板、絶縁板、端板を、この順で積層した。得られた積層体を、所定の締結手段で締結した。端板の外側に、温度調整用のヒーターを貼り付けた。各セルのカソード入口にマニホールドを取り付け、1つに集約した。各セルのカソード出口、アノード入口、アノード出口も同様にして、マニホールドを取り付けてそれぞれ1つに集約した。このようにして直接酸化型燃料電池スタックを得た。
【0065】
(h)燃料電池システムの作製
前記(g)で作製した燃料電池スタックのカソード入口マニホールドにマスフローコントローラーを、アノード入口マニホールドに燃料ポンプを、カソード出口マニホールドおよびアノード出口マニホールドに、それぞれ開度調整バルブを取り付けた。燃料電池スタックの各セルのセパレーターに電圧測定用の端子を接続し、集電板に接続した電流印加用の端子と共に情報処理装置に接続した。情報処理装置は燃料電池スタックの運転を制御するものであり、マスフローコントローラー、燃料ポンプ、カソードおよびアノードの開度調整バルブの制御用端子も接続した。
【0066】
カソード出口弁およびアノード出口弁は、いずれも開度50%の状態を定常の運転時の状態とした。燃料電池スタックの発電中には各セルの電圧を測定し、いずれかのセルの電圧が直前30分間の電圧の平均値よりも15%低くなった場合に、一時的に開度100%となるようにした。この時、空気ポンプおよび燃料ポンプの消費電力は一定に保つようにした。このような制御を、情報処理装置にプログラムした。このようにして、実施例1の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0067】
(i)評価
燃料電池システムを、以下のようにして発電させた。燃料電池セルのカソードには空気を供給し、アノードには1mol/Lのメタノール水溶液を供給した。発電電流は150mA/cmの定電流とした。スタックの温度は60℃に保つようにし、空気の利用率は50%、燃料の利用率は70%とした。発電時間は4時間とした。
【0068】
初期のスタック発電電圧に対する発電4時間後のスタック発電電圧の比率を測定し、発電特性の変化を確認した。得られた結果を表1に示す。
【0069】
《実施例2》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。カソード入口マニホールドにマスフローコントローラーを、アノード入口マニホールドに燃料ポンプを、カソード出口マニホールドおよびアノード出口マニホールドに、それぞれ三方式の経路の切り替え弁を取り付けた。カソードおよびアノードの切り替え弁に、それぞれ経路長が100cmの排出用チューブと経路長が10cmの排出用チューブを取り付けた。いずれの排出用チューブも、断面積は同じものとした。燃料電池スタックの各セルのセパレーターに電圧測定用の端子を接続し、集電板に接続した電流印加用の端子と共に情報処理装置に接続した。マスフローコントローラー、燃料ポンプ、カソードおよびアノードの切り替え弁の制御用端子も
接続した。
【0070】
カソード切り替え弁およびアノード切り替え弁は、いずれも100cmの排出用チューブに連通する方向を定常の運転時の状態とした。燃料電池スタックの発電中には各セルの電圧を測定し、いずれかのセルの電圧が全セルの電圧の平均値よりも15%低くなった場合に、一時的に10cmの排出用チューブと連通する方向に切り替えるようにした。この時、空気ポンプおよび燃料ポンプの消費電力は一定に保つようにした。このような制御を、情報処理装置にプログラムした。このようにして、実施例2の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0071】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0072】
《実施例3》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。ラジエーターを設け、カソードおよびアノードの経路長が100cmの排出用チューブがラジエーターを通るようにした。ラジエーターは、長さ10cmの直線部が4つと、それらをつなぐ屈曲部から成る。上記以外は実施例2と同様にして、実施例3の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0073】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0074】
《実施例4》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。カソード入口マニホールドにマスフローコントローラーを、アノード入口マニホールドに燃料ポンプを、カソード出口マニホールドおよびアノード出口マニホールドに、それぞれ三方式の経路の切り替え弁を取り付けた。カソードおよびアノードの切り替え弁に、それぞれ経路長が100cmの排出用チューブを取り付けた。いずれの排出用チューブも、断面積は同じものとした。カソードおよびアノードの排出用チューブのうち、片方には、吸着浄化用の活性炭フィルターを取り付けた。
【0075】
カソード切り替え弁およびアノード切り替え弁は、いずれも活性炭フィルターを備えた排出用チューブに連通する方向を定常の運転時の状態とした。燃料電池スタックの発電中には各セルの電圧を測定し、いずれかのセルの電圧が全セルの電圧の平均値よりも15%低くなった場合に、一時的に活性炭フィルターを備えない排出用チューブと連通する方向に切り替えるようにした。この時、空気ポンプおよび燃料ポンプの消費電力は一定に保つようにした。このような制御を、情報処理装置にプログラムした。このようにして、実施例4の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0076】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0077】
《実施例5》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。カソード入口マニホールドおよびアノード入口マニホールドに、それぞれ圧力センサーを取り付けた。これら圧力センサーを情報処理装置に接続した。燃料電池スタックの発電中にはカソードおよびアノードの圧力を測定し、いずれかの圧力が直前30分間の電圧の平均値よりも15%高くなった場合に、そちらの出口弁を一時的に開度100%となるようにした。上記以外は実施例1と同様にして、実施例4の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0078】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0079】
《実施例6》
カソード側セパレーターの流路をパラレル型としたこと以外は実施例1と同様にして、燃料電池スタックを作製した。カソード入口マニホールドにマスフローコントローラーを、アノード入口マニホールドに燃料ポンプを、カソード出口マニホールドに三方式の経路の切り替え弁を取り付けた。カソード切り替え弁に経路長が100cmの排出用チューブと経路長が10cmの排出用チューブを取り付けた。いずれの排出用チューブも、断面積は同じものとした。
【0080】
カソード切り替え弁は100cmの排出用チューブに連通する方向を定常の運転時の状態とした。燃料電池スタックの発電中には各セルの電圧を測定し、いずれかのセルの電圧が全セルの電圧の平均値よりも15%低くなった場合に、一時的に10cmの排出用チューブと連通する方向に切り替えるようにした。この時、空気ポンプおよび燃料ポンプの消費電力は一定に保つようにした。このような制御を、情報処理装置にプログラムした。このようにして、実施例6の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0081】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0082】
《比較例1》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。カソードおよびアノードの出口弁を設けず、各セルの電圧に基づいた出口弁の開度の変更をしないようにした。出口弁に相当する箇所の断面積は、出口弁が開度50%である場合と同じとした。上記以外は実施例1と同様にして、比較例1の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0083】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0084】
《比較例2》
実施例1と同様にして燃料電池スタックを作製した。カソードおよびアノードの出口弁を設けず、出口弁に相当する箇所の断面積は、出口弁が開度50%である場合と同じとした。燃料電池スタックの発電中には各セルの電圧を測定し、いずれかのセルの電圧が直前30分間の電圧の平均値よりも15%低くなった場合に、一時的に空気ポンプおよび燃料ポンプの流量が50%多くなるようにした。上記以外は実施例1と同様にして、比較例1の直接酸化型燃料電池システムを得た。
【0085】
作製した燃料電池システムについて、実施例1と同様にして評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を検出した場合に、反応物質が流れる経路のうち、燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を一時的に下げる構成とした実施例1〜6の燃料電池は、いずれも、4時間の発電後でも良好な発電電圧を保っていた。これに対して、燃料電池スタックに蓄積した水を排出する手段を設けなかった比較例1の燃料電池は、4時間の発電後には、発電電圧が大きく低下していた。また、空気ポンプおよび燃料ポンプの流量を大きくして水を排出する構成とした比較例2の燃料電池では、4時間の発電後でも良好な発電電圧を保っていたが、補器類の消費電力が増加したため、燃料電池システムとしての発電電力としては一時的に低下した。
【0088】
実施例1〜6は、それぞれ水閉塞状態の検出手段や水の排出手段が異なっているが、いずれも良好な発電特性を維持できており、本発明の効果が得られていると言える。
【0089】
以上の結果より、本発明によれば、補器類の消費電力を大きくすることなく燃料電池スタックの流路における水閉塞状態を解消し、長時間の発電時にも良好な発電特性を発揮できる直接酸化型燃料電池システムを得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により、直接酸化型燃料電池システムの長時間の発電時において、燃料電池スタックの水の蓄積による発電特性の低下を抑制することができる。よって、本発明により、良好な発電特性を維持する直接酸化型燃料電池システムを得ることができる。本発明の直接酸化型燃料電池システムは、ノートPCなどの小型機器用の電源、およびポータブル発電機として非常に有用である。
【符号の説明】
【0091】
1 燃料電池セル
2 アノード
3 カソード
4 電解質膜
5 膜電極接合体(MEA)
6 アノード触媒層
7 アノード拡散層
8 カソード触媒層
9 カソード拡散層
10 アノード側セパレーター
11 カソード側セパレーター
12 燃料流路
13 酸化剤流路
14、15 ガスケット
16、17 集電板
18、19 端板
20 燃料電池スタック
21 空気ポンプ
22 燃料ポンプ
23 状態検出手段
24 カソード出口弁
25 アノード出口弁
26 情報処理装置
27 カソード切り替え弁
28 アノード切り替え弁
29、30 カソード排出経路
31、32 アノード排出経路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソードとアノードと、前記カソードおよび前記アノードに対向して配置された一対の流路を備える直接酸化型燃料電池セルを複数積層した燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックに反応物質を供給するポンプと、前記燃料電池スタックの前記流路における水閉塞状態を検出する状態検出手段を備え、
前記燃料電池スタックの発電時に、前記状態検出手段が前記燃料電池スタックの前記流路における水閉塞状態を検出した場合には、前記反応物質が流れる経路のうち前記燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で圧力損失を下げる直接酸化型燃料電池システム。
【請求項2】
前記状態検出手段が、前記燃料電池スタックの発電電力、前記燃料電池セルの発電電圧、前記反応物質が流れる経路のうち前記ポンプから前記燃料電池スタックの出口までの間での圧力および前記燃料電池セルの流路を流れる前記反応物質の流量の少なくとも1つを測定する請求項1記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項3】
前記反応物質が流れる経路のうち前記燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間に、開度が可変な弁を備え、前記弁の開度を大きくすることで前記圧力損失を下げる、請求項1または2記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項4】
前記反応物質が流れる経路のうち前記燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間に、圧力損失の異なる複数の経路を備え、前記複数の経路を互いに切り替えることで前記圧力損失を下げる請求項1〜3のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項5】
ラジエーターを備え、前記反応物質が流れる経路のうち前記燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で、少なくとも一部が前記ラジエーターを通り、前記複数の経路が、前記ラジエーターを通る経路を含む請求項4記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項6】
フィルターを備え、前記反応物質が流れる経路のうち前記燃料電池スタックの出口から大気への排出口までの間で、少なくとも一部が前記フィルターを通り、前記複数の経路が、前記フィルターを通る経路を含む請求項4記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項7】
前記一対の流路のうち少なくとも一方がパラレル型流路であり、前記パラレル型流路を備える方の前記経路に対して、前記状態検出手段を設け、前記圧力損失を下げる請求項1〜6のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池システム。
【請求項8】
前記カソードに対向して配置された流路が、前記パラレル型流路である請求項7記載の直接酸化型燃料電池システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−114958(P2013−114958A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261404(P2011−261404)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】