説明

直接酸化型燃料電池

【課題】燃料の上流側でメタノールクロスオーバーを低減し、燃料の下流側でメタノールの供給量を確保することで、出力の低下を回避し、優れた長期寿命特性を示す直接酸化型燃料電池を提供する。
【解決手段】アノード、カソードおよびアノードとカソードとの間に介在する電解質膜を含む膜電極接合体、アノードに燃料を供給する燃料流路を有するアノード側セパレータ、ならびにカソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有するカソード側セパレータ、を具備し、アノードは、電解質膜側に配置されたアノード触媒層およびアノード側セパレータ側に配置されたアノード拡散層を含み、アノード拡散層は、アノード触媒層側に配置され、かつ第1導電剤および第1撥水剤を含む導電性撥水層と、アノード側セパレータ側に配置された基材層とを含み、基材層の空隙率が、燃料の上流側より下流側で高くなっている、直接酸化型燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接酸化型燃料電池に関し、特にアノード拡散層の構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートPC、デジタルカメラ等のモバイル機器の高性能化に伴い、その電源として、固体高分子電解質膜を用いた燃料電池の実用化が期待されている。固体高分子型燃料電池(以下、単に「燃料電池」とする)の中でも、メタノールなどの燃料を直接アノードへ供給する直接酸化型燃料電池は、小型軽量化に適しており、モバイル機器用電源として開発が進められている。
【0003】
燃料電池は、膜電極接合体(MEA)を具備する。MEAは、高分子電解質膜と、その両面にそれぞれ接合されたアノード(燃料極)およびカソード(空気極)で構成されている。アノードは、アノード触媒層とアノード拡散層からなり、カソードは、カソード触媒層とカソード拡散層からなる。MEAが一対のセパレータで挟み込まれることで、セルが構成される。アノード側セパレータは、アノードに水素やメタノールなどの燃料を供給する燃料流路を有する。カソード側セパレータは、カソードに酸素や空気などの酸化剤を供給する酸化剤流路を有する。
【0004】
直接酸化型燃料電池の実用化には、いくつかの課題が存在する。
その1つは、長期寿命特性である。燃料電池は、発電時間を重ねるに従って徐々に出力が低下していく。モバイル機器用電源としては、延べ5000時間以上の出力維持が求められるが、現状ではそこまでの寿命特性を達成できてはいない。
【0005】
出力低下の原因には、いくつかの要因が挙げられる。その1つは、メタノールクロスオーバー(MCO)と呼ばれる現象であり、アノードに供給されたメタノールなどの燃料が電解質膜を透過してカソードまで移動する現象である。MCOは、カソード電位を低下させるため、出力を低下させる。また、電解質膜を透過してカソードに達したメタノールが空気と反応することで、空気を余分に消費するため、空気の下流側で空気不足によって出力が低下する。MCOの量は発電時間を重ねるに従って増加する傾向にあり、寿命特性に影響するとされている。
【0006】
MCOを低減するには、アノード拡散層におけるメタノールの拡散性を低減することが有効と考えられる。しかし、アノード全体に渡ってメタノールの拡散性を低減すると、燃料の下流側でメタノールが不足し、出力の低下が起こる。
【0007】
上記課題を鑑み、アノード拡散層のメタノール透過係数を、燃料の下流側ほど大きくすることが提案されている(特許文献1)。これにより、燃料の上流側でMCOを低減すると同時に、燃料の下流側でメタノールの供給量を確保しようとするものである。具体的には、アノード拡散層が具備する導電性撥水層において、その組成や厚みを、燃料の上流側と下流側とで変化させることが提案されている。導電性撥水層は、導電剤と撥水剤とを含んでいる。
【特許文献1】特開2002−110191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、アノード拡散層が具備する導電性撥水層の組成や厚みを変化させることを提案しているが、このような手段では、十分な効果を得ることはできず、満足のいく長期寿命特性を達成するまでには至っていない。その理由は主に2つあり、導電性撥水層の特徴に由来している。
【0009】
まず、導電性撥水層は、通常50μm程度の厚みしか有さない。よって、導電性撥水層の組成などを変化させても、メタノールなどの燃料の透過性を大きく変化させることは困難である。特に、燃料濃度が高い場合には、導電性撥水層に対する燃料の透過性は全体的に高くなる。よって、薄い導電性撥水層では、燃料の透過性を変化させる効果が得られにくい。
【0010】
また、導電性撥水層は、燃料の拡散を制御する役割を有すると同時に、拡散層と触媒層とを接合する役割を有する。導電性撥水層の組成や厚みが大きく変化すると、拡散層と触媒層との接合性が低下しやすくなる。よって、導電性の確保が困難になり、更に、アノード全体における燃料の拡散性を制御することが困難になる。
【0011】
そこで、本発明は、アノードにおける燃料の拡散性を制御することにより、拡散性の高いメタノールを高濃度で含むメタノール水溶液を用いる場合でも、MCOを低減するとともに、長期寿命特性が向上した直接酸化型燃料電池を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の燃料電池は、アノード、カソードおよびアノードとカソードとの間に介在する電解質膜を含む膜電極接合体、アノードに燃料を供給する燃料流路を有するアノード側セパレータ、ならびにカソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有するカソード側セパレータ、を具備し、
アノードは、電解質膜側に配置されたアノード触媒層およびアノード側セパレータ側に配置されたアノード拡散層を含み、
アノード拡散層は、アノード触媒層側に配置され、かつ第1導電剤および第1撥水剤を含む導電性撥水層と、アノード側セパレータ側に配置された基材層とを含み、
基材層の空隙率が、燃料の上流側より下流側で高くなっている。
【0013】
基材層は、導電性多孔質材料および第2撥水剤を含み、基材層に含まれる第2撥水剤の含有量が、燃料の上流側より下流側で低くなっていることが好ましい。
あるいは、基材層は、導電性多孔質材料および第2導電剤を含み、基材層に含まれる第2導電剤の含有量が、燃料の上流側より下流側で低くなっていることが好ましい。
基材層の空隙率は、燃料の上流側から下流側に向かって段階的に高くなっていることが好ましい。
導電性撥水層の組成および厚みは、燃料の上流側から下流側にわたって均一であることが好ましい。
導電性撥水層の燃料透過係数は、燃料の上流側から下流側にわたって均一であることが好ましい。
燃料はメタノールであることが好ましく、2mol/L〜8mol/Lのメタノール濃度を有するメタノール水溶液が燃料流路を通過することが好ましい。
基材層の下流側の空隙率は、上流側の空隙率の1.2〜2倍であることが好ましい。
基材層の厚みは、導電性撥水層の厚みの5〜20倍であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料の上流側ではMCOを低減でき、燃料の下流側ではメタノールの供給量を確保することができる。MCOに由来する出力の低下と、メタノールの供給量不足に由来する出力の低下とを両方抑制できるため、燃料電池の長期寿命特性が大幅に向上する。
【0015】
また、導電性撥水層よりも基材層で燃料の拡散性を制御する場合の方が制御が容易である。よって、拡散性の高いメタノールを高濃度で含むメタノール水溶液を用いる場合でも、燃料の上流側と下流側でメタノールの拡散性を制御することができる。高濃度のメタノール水溶液を用いることで、燃料電池システムの小型軽量化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の燃料電池は、アノード、カソードおよびアノードとカソードとの間に介在する電解質膜を含む膜電極接合体、アノードに燃料を供給する燃料流路を有するアノード側セパレータ、ならびにカソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有するカソード側セパレータ、を具備する。アノードは、電解質膜側に配置されたアノード触媒層およびアノード側セパレータ側に配置されたアノード拡散層を含む。アノード拡散層は、アノード触媒層側に配置され、かつ第1導電剤および第1撥水剤を含む導電性撥水層と、アノード側セパレータ側に配置された基材層とを含む。
【0017】
基材層の空隙率は、燃料の上流側より下流側で高くなっている。空隙率が燃料の上流側より下流側で高くなっている状態とは、例えば、基材層の下流側の空隙率が、上流側の空隙率の1.2〜2倍である状態をいう。
【0018】
MCOを低減して長期寿命特性を向上させるには、アノード拡散層に含まれる基材層の空隙率を制御することが有効である。
【0019】
導電性撥水層は、通常50μm程度の厚みを有する。このように薄い導電性撥水層の組成や厚みを変化させても、燃料の拡散性を制御するのは困難である。一方、基材層は、通常200〜300μm程度の厚みを有する。このように十分な厚みを有する基材層の空隙率を変化させることで、燃料の拡散性をより効果的に制御することができる。これにより、燃料の上流側ではMCOを抑制することができ、燃料の下流側ではメタノールの供給量を十分に確保することができる。MCOに由来する出力の低下と、メタノールの供給量不足に由来する出力の低下とを両方抑制できるため、燃料電池の長期寿命特性が向上する。
【0020】
直接酸化型燃料電池について、図面を参照しながら説明する。図1は、直接酸化型燃料電池のセルの構造を概略的に示す縦断面図である。図2は、図1に示す直接酸化型燃料電池の要部拡大図である。直接酸化型燃料電池は、アノード11、カソード12およびアノード11とカソード12との間に介在する電解質膜10を含む膜電極接合体(MEA)13を有する。膜電極接合体13の側面には、ガスケット22および23が配置されている。膜電極接合体13は、アノード側セパレータ14およびカソード側セパレータ15に挟持されている。アノード側セパレータ14は、アノードに燃料を供給する燃料流路20を有する。カソード側セパレータ15は、カソードに酸化剤を供給する酸化剤流路21を有する。
【0021】
アノード11は、電解質膜10側に配置されたアノード触媒層16およびアノード側セパレータ14側に配置されたアノード拡散層17を含む。アノード拡散層17は、アノード触媒層16側に配置される導電性撥水層171と、アノード側セパレータ14側に配置された基材層172とを含む。
カソード12は、電解質膜10側に配置されたカソード触媒層18およびカソード側セパレータ15側に配置されたカソード拡散層19を含む。カソード拡散層19は、カソード触媒層18側に配置される導電性撥水層191と、カソード側セパレータ15側に配置された基材層192とを含む。
【0022】
直接酸化型燃料電池は、例えば以下の方法で作製すればよい。アノード11およびカソード12を、電解質膜10を介してホットプレス法などを用いて接合して、膜電極接合体13を作製する。
得られた膜電極接合体13の周側面をガスケット22および23でシールし、アノード側セパレータ14およびカソード側セパレータ15で挟み込む。その後、集電板24および25、ヒータ26および27、絶縁板28および29、ならびに端板30および31で挟み込んで一体化することで、燃料電池1が得られる。
【0023】
アノード拡散層は、基材層と導電性撥水層とを含む。導電性撥水層は、第1導電剤と、第1撥水剤とを含む。導電性撥水層の組成および厚みは、燃料の上流側から下流側にわたって均一であることが好ましい。これにより、触媒層と拡散層との接合性を確保することができ、導電性の低下などによる出力の低下を抑制することができる。具体的には、上流側の(第1導電剤)/(第1撥水剤)の重量比は、下流側の(第1導電剤)/(第1撥水剤)の重量比の80〜120%であることが好ましい。また、導電性撥水層の燃料の上流側の厚みは、燃料の下流側の厚みの80〜120%であることが好ましい。燃料の上流側の厚みが、燃料の下流側の厚みの80%より小さくなったり、120%を超えると、触媒層と拡散層との接合性が不十分となる場合がある。
【0024】
導電性撥水層の組成や厚みを制御することでも、燃料の拡散性を変化させることができる。しかし、上述したように、導電性撥水層は薄いことから、燃料の拡散性を向上させる効果は、基材層の空隙率を制御する場合に比べて小さい。さらに、導電性撥水層の組成や厚みが不均一であると、触媒層と拡散層との接合性が不十分となり、電池特性が低下する場合がある。よって、導電性撥水層の組成および厚みは、燃料の上流側から下流側にわたって均一であることが好ましい。
【0025】
基材層について説明する。基材層の空隙率は、燃料の上流側より下流側で高くなっている。すなわち、基材層の面方向において、その空隙率が変化している。基材層の空隙率は、燃料の上流から下流にかけて連続的に変化させてもよく、段階的に変化させてもよい。なかでも、基材層の空隙率を段階的に変化させる場合、基材層の製造工程が簡便になり、基材層の空隙率を制御しやすくなる。基材層の空隙率は、例えば2〜10段階に変化させることが好ましく、2〜5段階に変化させることがより好ましい。
【0026】
燃料の上流側と下流側について、図面を参照しながら説明する。図3は、直接酸化型燃料電池のアノード側セパレータの一例を法線方向から見た上面図である。燃料の流れる方向としては、燃料の入口から燃料の出口へ向かう方向(全体的な流れの方向)と、燃料流路に平行な方向(局所的な流れの方向)とが考えられる。例えば、燃料流路が図3に示すようなサーペンタイン型である場合、燃料流路20の上流側から下流側に向かう全体的な流れの方向(矢印A)と、燃料流路20の局所的な流れの方向(矢印B)とが異なっている。本発明では、燃料の全体的な流れの方向を基準にして、燃料の上流側と下流側とを設定して、基材層の空隙率を変化させることが好ましい。これにより、基材層の製造工程が簡便になり、基材層の空隙率を制御しやすくなる。以下、燃料の全体的な流れの方向を基準にして、燃料の上流側と下流側とを設定して、基材層の空隙率を変化させる場合について説明する。ただし、本発明は、燃料の局所的な流れの方向を基準にして、燃料の上流側と下流側とを設定して、基材層の空隙率を変化させてもよい。
【0027】
アノード拡散層17の上流部40は、燃料流路20の上流側に対向する。燃料流路20の上流側から下流側に向かう全体的な燃料の流れの方向(矢印A)に平行なアノード拡散層17の長さをLとした場合、アノード拡散層17の上流側40の、矢印Aの方向に平行な長さは、L/1.5〜L/5であることが好ましい。
【0028】
アノード拡散層17の下流部42は、燃料流路の下流側に対向する。アノード拡散層17の下流側42の、矢印Aの方向に平行な長さは、L/1.5〜L/5であることが好ましい。
【0029】
上流部と下流部との間には、中流部41があってもよい。中流部41は、空隙率が均一である1つの領域のみであってもよく、空隙率の異なる複数の領域を含んでもよい。中流部が1つの領域のみである場合、上流部、中流部および下流部の空隙率は、燃料の上流側から下流側に向かって段階的に高くなっていることが好ましい。中流部が空隙率の異なる複数の領域を含む場合、上流部、中流部の複数の領域および下流部の空隙率は、燃料の上流側から下流側に向かって段階的に高くなっていることが好ましい。中流部41の、矢印Aの方向に平行な長さは、L/1.5〜L/5であることが好ましい。
【0030】
基材層の空隙率を、燃料の上流側より下流側で高くする方法は特に限定されない。例えば、基材層に第2撥水剤や第2導電剤を含ませて、その含有量を基材層の面方向において変化させる方法、目付け重量が面方向において変化している導電性多孔質材料を用いる方法、面方向において厚みが変化している導電性多孔質材料を、ほぼ均一な厚みまで圧縮して基材層とする方法等が挙げられる。なかでも、基材層に第2撥水剤や第2導電剤を含ませて、その含有量を基材層の面方向において変化させる場合、基材層の製造工程が簡便になり、空隙率を制御しやすくなる。
【0031】
基材層が、導電性多孔質材料および第2撥水剤を含む場合、基材層に含まれる第2撥水剤の含有量を、燃料の上流側より下流側で低くする。これにより、基材層の空隙率を燃料の上流側より下流側で高くすることができるため、燃料の拡散性を効果的に制御することができる。
【0032】
基材層全体における第2撥水剤の含有量は、6重量%〜60重量%であることが好ましい。第2撥水剤の含有量が6重量%よりも小さいと、燃料の拡散性を十分に制御できない場合がある。第2撥水剤の含有量が60重量%を超えると、基材層の電子伝導性が低下する場合がある。第2撥水剤の含有量は、基材層の燃料の上流側で30〜65重量%であることが好ましく、下流側で3〜30重量%であることが好ましい。また、基材層全体の空隙率は、40%〜82%であることが好ましく、燃料の上流側の空隙率が35%〜65%であり、下流側の空隙率が70%〜85%であることが好ましい。
空隙率は、まず、基材層の見かけ体積と重量から嵩密度dを求める。嵩密度d、導電性多孔質材料の真密度D1と含有量X1、および第2撥水剤の真密度D2と含有量X2とを用いて、以下の式で空隙率を求めることができる。
式(1):100−d×(X1/D1+X2/D2
【0033】
第1撥水剤および第2撥水剤は特に限定されず、例えば、燃料電池の分野で常用されるものを特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、フッ素樹脂等を用いることが好ましい。フッ素樹脂は、例えば公知のものを特に限定なく用いることができ、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合樹脂、ポリフッ化ビニリデンなどが挙げられる。これらの中でも、PTFE、FEPなどが好ましい。第1撥水剤および第2撥水剤は、それぞれ1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。第1撥水剤と第2撥水剤は、同じ撥水剤であってもよく、異なる撥水剤であってもよい。
【0034】
基材層に第2撥水剤を含ませるには、例えば、分散媒に第2撥水剤を分散させたディスパージョンを、導電性多孔質材料に含浸させる。その後、乾燥させて分散媒を除去すればよい。分散媒としては、水やアルコールなどが挙げられる。この場合、燃料の上流側より下流側で第2撥水剤の含有量を低くするには、第2撥水剤を含浸させる条件を、燃料の上流側から下流側にかけて段階的または連続的に変化させればよい。
【0035】
第2撥水剤を分散させたディスパージョンに導電性多孔質材料を浸漬する場合、例えば、導電性多孔質材料を、燃料の上流部および下流部の2つの領域に分ける。その後、塗布する領域以外にマスキングを施す。次に、マスキングされていない領域に、ディスパージョンを塗布する。この方法により、第2撥水剤を含浸させる条件を、段階的に変化させることができる。
【0036】
具体的には、下流部をマスキングした導電性多孔質材料を撥水剤ディスパージョンに浸漬させて、上流部に第2撥水剤を含ませる。その後、上流部をマスキングして、上流部に浸漬させたものとは濃度が異なる撥水剤ディスパージョンに順次浸漬させる。その後、乾燥させることで、第2撥水剤の含有量を制御することができる。ここでは、導電性多孔質材料を2つの領域に分けた場合について説明したが、例えば、燃料の上流部、中流部および下流部の3つの領域に分けてもよい。さらに、導電性多孔質材料を4つ以上の領域に分けてもよい。この場合、上流部から下流部に向かって段階的に第2撥水剤の含有量を低下させる。
【0037】
他にも、滴下装置やスプレー式塗布装置などを用いて第2撥水剤を基材層に含浸させてもよい。この場合、撥水剤ディスパージョンの濃度や、含浸処理の回数などを、段階的または連続的に変化させればよい。
【0038】
スプレー式塗布装置を用いる場合について、図面を参照しながら説明する。図4は、スプレー式塗布装置の構成を概略的に示す側面図である。
【0039】
スプレー式塗布装置70は、ディスパージョン72を収容したタンク71およびディスパージョン72を吐出するスプレーガン73を備える。
タンク71内において、ディスパージョン72は、撹拌機74により撹拌されて、常時流動状態にある。ディスパージョン72は、開閉バルブ75を介して、スプレーガン73に供給され、噴出ガスとともに、スプレーガン73から吐出される。噴出ガスは、ガス圧力調整器76およびガス流量調整器77を介して、スプレーガン73に供給される。噴出ガスとしては、例えば、窒素ガスを用いることができる。塗布装置70では、導電性多孔質材料81と接するように配置されたヒータ80により、導電性多孔質材料81の表面温度が制御されている。
【0040】
図4の塗布装置70において、スプレーガン73は、アクチュエータ78により、紙面に垂直な面内において、矢印Xに平行なX軸およびX軸に垂直なY軸の2方向に任意の位置から任意の速度で移動することが可能である。
【0041】
図4には、導電性多孔質材料81に、第2撥水剤を含ませている様子が示されている。スプレーガン73の下方に導電性多孔質材料81を配置し、スプレーガン73を、ディスパージョン72を吐出させながら移動させることにより、導電性多孔質材料81に第2撥水剤を含ませている。導電性多孔質材料81におけるディスパージョン72の塗布領域は、マスク79を用いて調節することができる。
【0042】
上記のように、塗布装置70においては、スプレーガン73を、任意の位置に移動させながらディスパージョン72を吐出させることができる。つまり、導電性多孔質材料81の任意の位置において、第2撥水剤の量を変化させることができる。よって、塗布装置70を用いることにより、基材層に含まれる第2撥水剤の含有量を、燃料の上流側より下流側で低くすることができる。
【0043】
基材層の空隙率は、例えば、ディスパージョンの吐出量、噴出ガスの圧力および流量、基材層の表面温度等を調節することにより、制御することができる。
【0044】
あるいは、基材層が、導電性多孔質材料および第2導電剤を含む場合、第2導電剤の含有量を、燃料の上流側より下流側で低くする。これにより、電子伝導性の低下を抑制しつつ、基材層の空隙率を燃料の上流側より下流側で高くすることができるため、燃料の拡散性を効果的に制御することができる。
【0045】
基材層全体における第2導電剤の含有量は、5〜50重量%であることが好ましい。第2導電剤の含有量が5重量%よりも小さいと、燃料の拡散性を十分に制御できない場合がある。第2導電剤の含有量が50重量%を超えると、基材層全体の空隙率が低くなる場合がある。第2導電剤の含有量は、基材層の燃料の上流側で25重量%〜60重量%であることが好ましく、下流側で0重量%〜20重量%であることが好ましい。
【0046】
第2導電剤を基材層に含ませる場合、燃料の拡散性をより良好に制御する観点から、さらに第2撥水剤を含ませることが好ましい。このとき、第2撥水剤の含有量は、基材層において均一であってもよく、燃料の上流側より下流側で低くなっていてもよい。
【0047】
第1導電剤および第2導電剤は、例えば、燃料電池の分野で常用されるものを特に限定なく用いることができる。具体的には、例えば、カーボンブラックや鱗片状黒鉛などの炭素粉末材料、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバなどのカーボン繊維などが挙げられる。第2導電剤は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。第1導電剤と第2導電剤は、同じ導電剤であってもよく、異なる導電剤であってもよい。
【0048】
基材層に第2導電剤を含ませるには、例えば、第2撥水剤の場合と同様に、第2導電剤の分散液を導電性多孔質材料に含浸させる手段が挙げられる。燃料の上流から下流にかけて第2導電剤の含有量を変化させる手段としては、例えば、第2撥水剤の含有量を変化させる手段として例示したものと同様の手段を、特に限定なく適用することができる。
【0049】
あるいは、第2導電剤の前駆体を導電性多孔質材料に含浸させてもよい。その後、不活性雰囲気中で焼成して前駆体を炭化させることで、第2導電剤を含む基材層が得られる。このとき、例えば700℃〜1500℃程度の温度で焼成することが好ましい。不活性雰囲気としては、例えば、N2、Ar、He等が挙げられる。第2導電剤の前駆体としては、例えば、ピッチ類、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂などの有機物等が挙げられる。第2導電剤の前駆体は、濃度および粘度を調整するために、有機溶媒を含んでもよい。
第2導電剤の前駆体を含浸させる場合も、燃料の上流から下流にかけて第2導電剤の含有量を変化させる手段は特に限定されない。
【0050】
導電性多孔質材料は、燃料電池の分野で常用される材料を特に限定なく用いることができるが、燃料や酸化剤の拡散性に優れるとともに、高い電子伝導性を有する材料が好ましい。例えば、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布などの導電性多孔質材料が挙げられる。導電性多孔質材料の厚みは、例えば100μm〜500μmであることが好ましく、200μm〜400μmであることがより好ましい。導電性多孔質材料の厚みは、例えば、導電性撥水層の厚みの5〜20倍である。
【0051】
導電性撥水層は、第1撥水剤を10重量%〜60重量%含むことが好ましい。導電性撥水層の厚みは、10μm〜80μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。導電性撥水層の厚みが10μmより小さいと、導電性撥水層と触媒層との接合性が不十分となる場合がある。導電性撥水層の厚みが80μmを超えると、燃料の拡散性が不十分となる場合がある。
【0052】
導電性撥水層は、基材層の表面に形成される。導電性撥水層を形成する方法は特に限定されない。例えば、第1導電剤と第1撥水剤を混合、分散させて導電性撥水層ペーストを調製する。導電性撥水層ペーストを、ドクターブレード法やスプレー塗布法によって基材層の片面に塗布し乾燥させることで、導電性撥水層が得られる。
【0053】
燃料はメタノールであることが好ましく、2mol/L〜8mol/Lのメタノール濃度を有する水溶液として用いることが好ましい。メタノール水溶液のメタノール濃度は、3mol/L〜5mol/Lであることがより好ましい。燃料の濃度が高いほど燃料電池システム全体としての小型軽量化につながるが、MCOが多くなるおそれがある。本発明によれば、MCOを低減することができるため、通常よりもメタノール濃度が高いメタノール水溶液を用いることができる。メタノール濃度が2mol/Lより小さいと、燃料電池システムの小型軽量化が困難となる場合がある。メタノール濃度が8mol/Lを超えると、MCOを十分に低減できない場合がある。上記のメタノール濃度を有する燃料を用いることで、本発明の基材層において、燃料の上流側でMCOを低減しつつ、燃料の下流側でメタノールの供給量をさらに良好に確保することができる。
【0054】
その他の燃料としては、例えば、エタノール、ジメチルエーテル等が挙げられる。
【0055】
本発明の直接酸化型燃料電池は、上記のアノード拡散層を用いることを特徴とする。それ以外の構成は特に限定されず、例えば従来の燃料電池と同様の構成を用いることができる。カソード拡散層にも、上記と同様の基材層や導電性撥水層を用いることができる。
【0056】
電解質膜としては、例えば、従来から用いられているプロトン伝導性高分子膜を特に限定なく使用できる。具体的には、パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子膜、炭化水素系高分子膜などを好ましく使用できる。パーフルオロカーボンスルホン酸系高分子膜としては、例えば、Nafion(登録商標)、Flemion(登録商標)等が挙げられる。炭化水素系高分子膜としては、例えばスルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリイミド等が挙げられる。なかでも、炭化水素系高分子膜を用いることで、スルホン酸基のクラスタ構造の形成を抑制し、電解質膜のメタノールの透過性を低減することができる。これにより、MCOをさらに低減することができる。電解質膜の厚みは、20μm〜150μmであることが好ましい。
【0057】
触媒層は、触媒、担体および高分子電解質を含むことが好ましい。触媒としては、触媒活性の高い貴金属が好ましい。アノード触媒には、一酸化炭素による触媒の被毒を低減する観点から、白金とルテニウムとの合金触媒を用いることが好ましい。カソード触媒には、白金を用いることが好ましい。触媒は担体に担持した形態で用いるのが好ましい。担体としては、電子伝導性や耐酸性の高さから、カーボンブラックなどの炭素材料を用いることが好ましい。高分子電解質としては、プロトン伝導性を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系高分子材料を用いることが好ましい。
【0058】
触媒層を作製する方法は特に限定されない。例えば、水やアルコールなどを分散媒として触媒層ペーストを調製する。ドクターブレード法やスプレー装置などを用いて、触媒層ペーストをPTFEからなるシート等に塗布することで、触媒層が得られる。
【0059】
アノード側セパレータおよびカソード側セパレータも特に限定されない。アノード側セパレータは、アノードに燃料を供給する燃料流路を有する。カソード側セパレータは、カソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有する。燃料流路および酸化剤流路の形状は特に限定されない。例えば、サーペンタイン型、パラレル型等が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0061】
《実施例1》
(a)導電性撥水層ペーストの調製
第1撥水剤と第1導電剤とを、界面活性剤を添加したイオン交換水に分散混合して、導電性撥水層ペーストを調製した。第1撥水剤であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)を含むPTFEディスパージョン(シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製、PTFEの含有量60重量%)を用いた。第1導電剤にはアセチレンブラック(電気化学工業(株)製、デンカブラック)を用いた。アセチレンブラックとPTFEの混合重量比は、50:50となるようにした。
【0062】
(b)基材層の作製
アノード拡散層の基材層を構成する導電性多孔質材料として、カーボンペーパー(東レ(株)製、TGP−H−090、厚み280μm)を用いた。第2撥水剤であるPTFEを含むPTFEディスパージョン(シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製)を用いて、基材層の空隙率を3段階で変化させた。
【0063】
6cm×6cmの基材層を、6cm×2cmの3つの領域に分けた。この領域を、それぞれ燃料の上流部、中流部および下流部とした。上流部および中流部にマスキングを施し、下流部にPTFEの含有量が8重量%であるPTFEディスパージョンを滴下して含浸させ、乾燥させた。
【0064】
次に、上流部および下流部にマスキングを施し、中流部にPTFEの含有量が25重量%であるPTFEディスパージョンを滴下して含浸させ、乾燥させた。次に、中流部および下流部にマスキングを施し、上流部にPTFEの含有量が43重量%であるPTFEディスパージョンを滴下して含浸させ、乾燥させた。いずれも、乾燥温度を350℃として界面活性剤を除去し、第2撥水剤を含む基材層を作製した。第2撥水剤の含有量は、上流部で50重量%であり、中流部で31重量%であり、下流部で11重量%であった。また、基材層の空隙率は、上流部で56%であり、中流部で68%であり、下流部で77%であった。なお、基材層の空隙率は、以下の方法で測定した。まず、上流部、中流部および下流部の3つに切断した基材層、ならびに第2撥水剤を含浸させる前の導電性多孔質材料のそれぞれの重量を測定した。重量と、見かけ体積から、それぞれの嵩密度を求めた。その後、上述の式(1)を用いて、空隙率を求めた。
【0065】
(c)アノード拡散層およびカソード拡散層の作製
(b)で作製した基材層の片面に、(a)の導電性撥水層ペーストを塗布して、乾燥させ、アノード拡散層を作製した。アノード側の導電性撥水層の厚みは、約40μmであった。
【0066】
また、基材層の片面に、(b)の導電性撥水層ペーストを塗布して乾燥させ、カソード拡散層を作製した。基材層には、カーボンペーパー(バラードマテリアルプロダクツ社製、AvCarb(登録商標)1071HCB)を用いた。カソード側の導電性撥水層の厚みは、約40μmであった。
【0067】
(d)カソード触媒層およびアノード触媒層の作製
ケッチェンブラック(ケッチェンブラックインターナショナル社製、ECP)にPt触媒を担持させたものをカソード用触媒とした。ケッチェンブラックとPtとの重量比は、ケッチェンブラック:Pt=50:50とした。カソード用触媒をイソプロパノール水溶液に分散させた液と、電解質であるナフィオン(登録商標)の分散液(シグマ アルドリッチ ジャパン(株)製、ナフィオン5重量%溶液)とを混合し、カソード触媒層ペーストを作製した。
【0068】
また、上記のケッチェンブラックにPtRu合金触媒(原子比Pt:Ru=1:1)を担持させたものをアノード用触媒とした。ケッチェンブラックとPtRu合金との重量比は、ケッチェンブラック:PtRu=50:50とした。アノード用触媒を用いたこと以外、上記と同様にして、アノード触媒層ペーストを調製した。
【0069】
カソード触媒層ペーストおよびアノード触媒層ペーストを、PTFEシート上に塗布して乾燥させ、カソード触媒層およびアノード触媒層をそれぞれ作製した。カソード触媒層の厚みは約50μmであり、アノード触媒層の厚みは約50μmであった。
【0070】
(e)膜電極接合体(MEA)の作製
カソード触媒層とアノード触媒層を電解質膜の両面にホットプレス法によって接合し、PTFEシートを剥離した。さらに、カソード触媒層にカソード拡散層を接合し、アノード触媒層にアノード拡散層を接合した。これにより、膜電極接合体(MEA)を作製した。電解質膜には、ナフィオン(デュポン社製、ナフィオン112)を用いた。
【0071】
(f)燃料電池の作製
MEAの外周部に露出した電解質膜の両面にゴム製ガスケットを配した。その後、アノード側セパレータおよびカソード側セパレータでMEAを挟持した。アノード側セパレータは、アノードに燃料を供給する燃料流路を有する。カソード側セパレータは、カソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有する。アノード側セパレータおよびカソード側セパレータには、いずれもカーボン製のものを用いた。燃料流路および酸化剤流路は、いずれもサーペンタイン型とした。燃料流路の溝幅は1mmであり、深さは1mmであり、長さは150cmであった。酸化剤流路の溝幅は1mmであり、深さは1mmであり、長さは150cmであった。さらに、集電板、ヒータ、絶縁板、端板で順に挟み込むようにして積層し、直接酸化型燃料電池を作製した。
【0072】
(g)寿命特性の評価
カソードには空気を供給し、アノードには4mol/Lのメタノール水溶液を供給した。負荷は電子負荷装置により150mA/cm2の定電流とし、60分間の放電を行った。その後30分間休止させた。これを1サイクルとした。燃料電池は60℃に保ち、空気の利用率は50%、燃料の利用率は70%とした。
【0073】
上記の操作を500サイクル行い、1サイクル目の平均電圧に対する500サイクル目の平均電圧の比率を求めた。結果を表1に示す。
【0074】
《実施例2》
基材層の作製において、実施例1で第2撥水剤を含浸させた方法と同様の方法を用いて、第2導電剤を分散させた分散液をカーボンペーパーの3つの領域に含浸させた。分散媒には、界面活性剤を添加したイオン交換水を用い、第2導電剤には、アセチレンブラックを用いた。分散液におけるアセチレンブラックの固形分濃度は、上流部で6重量%とし、中流部で2重量%とした。下流部には、第2導電剤を含浸させなかった。基材層の第2導電剤の含有量は、上流部で38重量%であり、中流部で19重量%であった。
【0075】
得られた基材層に、第2撥水剤として、8重量%に調製したPTFEディスパージョンを全面に滴下して含浸させ、乾燥させた。基材層全体における第2撥水剤の含有量は、12重量%であった。基材層の空隙率は、上流部で59%であり、中流部で70%であり、下流部で76%であった。
【0076】
上記で得られた基材層を用いてアノード拡散層を作製したこと以外、実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池について、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
《実施例3》
実施例1と同様にして、アノード拡散層の基材層を作製した。
燃料の上流部、中流部、下流部で、それぞれ組成の異なる導電性撥水層を、以下の方法で基材層に形成した。上流部と中流部にマスキングを施し、下流部にアセチレンブラックとPTFEの混合重量比を70:30とした導電性撥水層ペーストをドクターブレード法により塗布し、乾燥させた。同様にして、中流部にはアセチレンブラックとPTFEの混合重量比を50:50とした導電性撥水層を形成した。上流部にはアセチレンブラックとPTFEの混合重量比を30:70とした導電性撥水層を形成した。それぞれの導電性撥水層の厚みは、いずれも40μmとした。
【0078】
上記で得られたアノード拡散層を用いたこと以外、実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池について、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
《実施例4》
実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池に供給するメタノール水溶液の濃度を1mol/Lとしたこと以外、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
《実施例5》
実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池に供給するメタノール水溶液の濃度を8mol/Lとしたこと以外、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
《比較例1》
実施例1のアノード拡散層に用いたものと同様のカーボンペーパー(導電性多孔質材料)の全面に、第2撥水剤であるPTFEを8重量%含むPTFEディスパージョンを滴下して含浸させ、乾燥させた。基材層全体における第2撥水剤の含有量は12重量%であり、基材層の空隙率は77%であった。
【0082】
上記で得られた基材層を用いてアノード拡散層を作製したこと以外、実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池について、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
《比較例2》
比較例1と同様の基材層に、実施例3と同様にして導電性撥水層を形成して、アノード拡散層を得た。
【0084】
上記のアノード拡散層を用いたこと以外、実施例1と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池について、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
《比較例3》
比較例2と同様にして、直接酸化型燃料電池を作製した。
作製した燃料電池に供給するメタノール水溶液の濃度を1mol/Lとしたこと以外、実施例1と同様にして寿命特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
アノード拡散層の基材層の空隙率を燃料の上流側より下流側で高くした実施例1〜5の燃料電池は、均一な空隙率の基材層を用いた比較例1の燃料電池より、いずれも寿命特性が大きく向上していた。燃料の上流側においてMCOが低減され、出力の低下が抑制されたことと、燃料の下流側においてメタノールの供給量を十分に確保することができたことから、寿命特性が向上したと考えられる。
【0088】
実施例1および2では、導電性撥水層の組成を、燃料の上流側から下流側に向かって均一にした。一方、実施例3では、導電性撥水層の組成を燃料の上流側から下流側にわたって不均一とした。実施例3の燃料電池よりも、実施例1、2の燃料電池は、寿命特性がさらに向上していた。導電性撥水層の組成を、燃料の上流側から下流側に向かって均一にしたことで、導電性撥水層と触媒層との界面の接合性が良好になり、寿命特性がさらに向上したと考えられる。8mol/Lの高濃度のメタノールを用いた実施例5でも良好な寿命特性が得られており、本発明は、高濃度のメタノールに対しても非常に有効であることが分かる。高濃度のメタノールを用いることで、燃料電池システムをより小型化することができる。
【0089】
比較例1では、基材層の空隙率と導電性撥水層の組成とをいずれも均一にした。比較例2、3では、均一な空隙率を有する基材層を用い、導電性撥水層の組成を燃料の上流側と下流側で不均一にした。比較例2および3の燃料電池は、比較例1の燃料電池よりも寿命特性がわずかに改善していた。しかし、比較例2および3の燃料電池は、基材層の空隙率を燃料の上流側より下流側で高くしている実施例1〜5の燃料電池よりも、寿命特性の向上効果が非常に小さかった。導電性撥水層は基材層よりも非常に薄いため、導電性撥水層の組成を燃料の上流側と下流側とで不均一にするだけでは、MCOを低減する効果が十分に得られなかったと考えられる。
【0090】
燃料のメタノール濃度が高い比較例2の燃料電池は、燃料のメタノール濃度が小さい比較例3よりも寿命特性が低下していた。すなわち、基材層の空隙率を最適化せずに、導電性撥水層を最適化するだけでは、高濃度のメタノールを使用する場合に寿命特性を向上効果が小さいことが確認された。
【0091】
以上より、本発明によれば、長期寿命特性が向上した直接酸化型燃料電池を得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の構成を適用した直接酸化型燃料電池は、高濃度のメタノール水溶液を用いた場合でも優れた長期寿命特性を有するため、燃料電池システムの小型化が可能である。よって、本発明の直接酸化型燃料電池は、携帯電話やノートPC等の小型機器用の電源として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の直接酸化型燃料電池の一例を概略的に示す縦断面図である。
【図2】図1に示す直接酸化型燃料電池の要部拡大図である。
【図3】直接酸化型燃料電池のアノード側セパレータの一例を法線方向から見た上面図である。
【図4】スプレー式塗布装置の構成を概略的に示す側面図である。
【符号の説明】
【0094】
1 燃料電池セル
11 アノード
12 カソード
13 膜電極接合体
14 アノード側セパレータ
15 カソード側セパレータ
16 アノード触媒層
17 アノード拡散層
171 導電性撥水層
172 基材層
18 カソード触媒層
19 カソード拡散層
191 導電性撥水層
192 基材層
20 燃料流路
21 酸化剤流路
22、23 ガスケット
24、25 集電板
26、27 ヒータ
28、29 絶縁板
30、31 端板
40 上流部
41 中流部
42 下流部
70 スプレー式塗布装置
71 タンク
72 ディスパージョン
73 スプレーガン
74 撹拌機
75 開閉バルブ
76 ガス圧力調整器
77 ガス流量調整器
78 アクチュエータ
79 マスク
80 ヒータ
81 導電性多孔質材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード、カソードおよび前記アノードと前記カソードとの間に介在する電解質膜を含む膜電極接合体、前記アノードに燃料を供給する燃料流路を有するアノード側セパレータ、ならびに前記カソードに酸化剤を供給する酸化剤流路を有するカソード側セパレータ、を具備し、
前記アノードは、前記電解質膜側に配置されたアノード触媒層および前記アノード側セパレータ側に配置されたアノード拡散層を含み、
前記アノード拡散層は、前記アノード触媒層側に配置され、かつ第1導電剤および第1撥水剤を含む導電性撥水層と、前記アノード側セパレータ側に配置された基材層とを含み、
前記基材層の空隙率が、燃料の上流側より下流側で高くなっている、直接酸化型燃料電池。
【請求項2】
前記基材層は、導電性多孔質材料および第2撥水剤を含み、前記基材層に含まれる前記第2撥水剤の含有量が、燃料の上流側より下流側で低くなっている、請求項1記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項3】
前記基材層は、導電性多孔質材料および第2導電剤を含み、前記基材層に含まれる前記第2導電剤の含有量が、燃料の上流側より下流側で低くなっている、請求項1記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項4】
前記基材層の空隙率が、燃料の上流側から下流側に向かって段階的に高くなっている、請求項1〜3のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項5】
前記導電性撥水層の組成および厚みが、燃料の上流側から下流側にわたって均一である、請求項1〜4のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項6】
前記燃料がメタノールであり、2mol/L〜8mol/Lのメタノール濃度を有するメタノール水溶液が前記燃料流路を通過する、請求項1〜5のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項7】
前記基材層の下流側の空隙率が、上流側の空隙率の1.2〜2倍である、請求項1〜6のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池。
【請求項8】
前記基材層の厚みが、前記導電性撥水層の厚みの5〜20倍である、請求項1〜7のいずれかに記載の直接酸化型燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−21114(P2010−21114A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−183011(P2008−183011)
【出願日】平成20年7月14日(2008.7.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】