説明

相互作用の特性決定のための方法および装置

本発明は、液体環境中における2化学種間の相互作用の特性決定のために、これら化学種の少なくとも一方を含んだ液体がフローとして測定システムを通過させられて、該測定システム内で相互作用が生じる方法に関する。この方法は、前述した化学種の少なくとも一方の第一の化学種の濃度勾配または、相互作用または被相互作用成分に影響を及ぼす他の少なくとも1化学種の濃度勾配をつくり出すことを含んでいる。液体フローはセンサデバイスを通過させられて、前述した少なくとも2化学種間の相互作用の結果が検出される。液体フローは、該フローが上記のセンサを通過させられる前に、少なくとも一回、さらに別の液体と交差させられて、濃度勾配を形成する上記化学種の少なくとも一方の化学種の濃度の異なる分離された少なくとも2液体セグメントが作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(技術分野)
本発明は一般に、多成分系におけるさまざまな相互作用に関する特性たとえば速度論的性質または親和性を決定することが所望される場合の分析方法に関する。特に本発明は、液体環境中の化学種間たとえば化合物と標的間の相互作用を分析するための方法に関する。本発明はまた、化学種間たとえば化合物と標的間の部位特異結合の分析にも関する。より詳細には本発明は、当該の化合物を含んだ試料のパルス勾配を供することにより速度論的性質または親和性を決定するための方法と装置とに関するものであり、この場合、標的分子はそれが相互作用し得る化合物の勾配に曝露され、この相互作用の結果が検出される。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
新薬の候補の研究(スクリーニング)において、弱い結合を示し、急速な事象に達して、小さな時定数を示す物質に遭遇する場合がしばしばある。表面プラズモン共鳴(SPR)は基質と標的との間の親和性の研究にとって強力な技法であるが、一般に緩慢な事象向けに設計されている。SPRの原理を使用した計測器(たとえば、本発明の出願人、Biacore AB,Uppsala,Swedenによって供給される計測器)は、表面での質量濃度の変化から生ずる、センサチップに隣接した媒質の屈折率の変化を計測する。
【0003】
従来の(たとえば、Biacore AB,Uppsala,Swedenから入手のシステムを使用した)SPRアッセイにおいて、1試料インジェクションは選択された化合物の1濃度に相当しており、該インジェクションは試料液の単一のセグメントまたは“プラグ”を有する。速度論的ならびに親和性決定のほとんどのケースにおいて、相互作用速度または強度(つまり、会合速度定数、解離速度定数および解離定数)に関する信頼し得る結果を得るには、異なった濃度の若干数のインジェクションで十分である。ただし、低い親和性または早い反応速度を示す分子を研究する場合には、多数のこの種の測定を実施することが必要である。これは比較的時間のかかる処理であり、しかもかなりの試料ロスを伴う。使用可能なインジェクション法のうち最も高い精度を示すインジェクションによれば、いずれのインジェクションも、バッファによる分散を防止するために、所望のインジェクション量に加えて40μlの試料が必要である。
【0004】
Analytical Chemistry,Vol.72,No.17,pp4212−4220に掲載された、Shan−Retzlaf et al.による“Analyte Gradient−Surface Plasmon Resonance:A One−Step Method for Determining Kinetic Rates and Macromolecular Binding Affinities”を表題とする論文において、SPRを使用して反応速度と平衡結合親和性を決定する方法が開示されている。
【0005】
これは、連続フロー条件下で、センサ表面を通過する被検化合物の濃度は時間と共に直線的に増加するという、勾配を利用した一段法である。固定化されたレセプタに検体が結合する速度は、検体濃度が増加する際の表面プラズモン共鳴最小時の変化を監視することによって測定される。反応速度は改良バージョンの2コンパートメントモデルへのデータのフィッティングによって決定される。
【0006】
改善されているとはいえ、これはなお比較的急速な速度論的挙動を示す系に関する測定を実施する能力に欠け、かつまた、全滴定に比較的多量の試料が要される点でも問題がある。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
従来の技法の短所は、本発明により、請求項1に記載した、液体環境中における少なくとも2化学種間の相互作用 ― たとえば親和性および/または速度論的性質および/またはアッセイ条件 ― の特性決定のための方法によって克服される。
【0008】
これにより、上記化学種の少なくとも一方の第一の化学種の濃度勾配がつくり出され、該勾配がセンサデバイスを通過させられる。上記の少なくとも2化学種間の相互作用の結果は上記センサデバイスによって検出される。液体フローが該センサデバイスを通過する前に、該液体フローは少なくとも一回、さらなる液体と交差させられ、こうして、分離された少なくとも2液体セグメントが作製される。
【0009】
こうして、測定に必要とされる試料量が著しく減少させられると共に測定の完遂に必要とされる時間も著しく減少させられる。
【0010】
本発明の1実施形態において、1研究対象化合物と1標的が使用される。これは個々の化合物/物質の研究に最も繁用される方法であろう。
【0011】
別の実施形態において、2またはそれ以上の化合物 ― この場合、一方の化合物は既知の結合特性を有すると共に試料勾配を形成し、他方の化合物(単数または複数)の特性は未知である ― を含んだ試料液が使用される。この実施形態は、未知の特性を有する化合物(単数または複数)の結合の強さに関する情報を評価し、該化合物が標的分子上の同一部位に結合するか否かを決定するために使用される。
【0012】
さらに別の実施形態において、当該の化合物は基質と反応する酵素である。
【0013】
またさらに別の実施形態において、たとえばセンサ表面の再生(つまり、標的からの化合物の除去)のための最適条件(濃度またはpH)を見出すことにより、アッセイ条件を改善するために、勾配を使用することができる。
【0014】
本発明のさらに別の面において、請求項26に記載した、少なくとも1標的と相互作用する溶液中の少なくとも1化合物の相互作用 ― たとえば親和性および/または速度論的性質および/またはアッセイ条件 ― の特性決定のための装置が提供される。
【0015】
この装置は、該装置内部に設けられているかまたは該装置と連結されている処理手段の内部記憶装置に直接にロードし得る、本発明による方法のステップを実施するためのソフトウェアコード手段を備えるコンピュータプログラム製品の形のソフトウェアの制御下で適切に稼働される。
【0016】
このソフトウェアは、上記装置の処理手段が本発明による方法のステップの実施を制御し得るようにするための読み取り可能プログラムを備える、コンピュータ使用可能な媒体上に記憶されたコンピュータプログラム製品の形であってもよい。
【0017】
以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(発明の詳細な説明)
本発明の目的にとって、以下の用語及び表現は以下に記載する意味を有すると解されることとする。
【0019】
本出願の目的にとって、“化学種”とは任意の実体たとえば、分子、化合物、物質、抗体、抗原、細胞、細胞フラグメントまたは、液体環境中で供され得るその他の任意の成分である。検出可能であるために、それは好ましくは他の化学種となんらかの種類の相互作用を行うことができ、その相互作用の結果がなんらかの手段で検出可能であるのがよい。ただし、言うまでもなく一定の場合にあっては、検体は当該の他の化学種と相互作用せず、したがって明確な相互作用の結果を測定することはできないが、この結果の欠如が検出可能であればよく、それゆえ、この種の非相互作用性化学種も化学種の定義の中に含まれる。
【0020】
“インジェクション”とは分析器のフローセルなどへの液体量の少なくとも一部の送達である。
【0021】
“パルス”とはインジェクションの一部、つまりインジェクション量の液体のセグメントである。
【0022】
“パルスシリーズ”とは少なくとも2パルスのことである。
【0023】
本発明による方法は、標識たとえば放射性標識、発色団、蛍光団、散乱光マーカ、電気化学活性マーカ、磁気活性マーカ、熱活性マーカ、化学発光成分または遷移金属に依拠する検出システムを含めた多様な検出システムならびにいわゆる無標識検出システムと共に使用することができる。
【0024】
多くの適用にとって検出は、ソリッドステートの物理化学的変換器と直接に組合わされているかまたは変換器と結ばれた移動キャリアビーズ/粒子を備えた分子認識用要素( たとえば固定化抗体の層またはパターン)を使用したデバイスとして広く定義される化学センサまたはバイオセンサを用いて至便に実施される。この種のセンサは一般に無標識技法、たとえば固定化層の質量、屈折率または厚さの変化の検出を基礎としている一方で、ある種の標識化に依拠したセンサも存在する。代表的なセンサ検出技法は質量検出法たとえば圧電、光学、熱光学および表面弾性波(SAW)デバイス法、および電気化学法たとえば電位差、電導度、電流およびキャパシタンス/インピーダンス測定法であるが、これらに限定されるものではない。光学的検出法に関して言えば、代表的な方法は質量表面濃度を検出する方法たとえば内部反射法および外部反射法の双方を含む反射光学法、角度、波長、偏光または位相分解を検出する方法たとえばエリプソメトリおよびエバネッセント波分光分析法(EWS)であり、これら両者は表面プラズモン共鳴(SPR)分光分析法、ブルースター角屈折率測定法、臨界角屈折率測定法、減衰全反射法(FTR)、エバネッセント波エリプソメトリ、散乱内部全反射法(STIR)、光導波路センサ、エバネッセント波をベースとした画像化たとえば臨界角分解画像化、ブルースター角分解画像化、SPR角分解画像化などを含んでいてよい。さらに、たとえば表面強化ラマン分光(SERS)、表面強化共鳴ラマン分光(SERRS)、エバネッセント波蛍光(TIRF)およびりん光をベースとした測光画像化/顕微法ならびに導波路干渉計、導波路漏洩モード分光分析、反射干渉分光分析(RIfS)、透過インターフェロメトリ、ホログラフィ分光分析、および原子間力顕微鏡法(AFR)にも触れておくこととする。
【0025】
本発明を主としてSPRを使用した実施例によって説明するが、これは本発明の範囲を制限するものと解されてはならない。
【0026】
最初にBiacore(登録商標)システムで使用されるSPR技法を簡単に説明する。
【0027】
SPRでは、表面の質量濃度の変化から生ずる、センサチップに隣接した媒質の屈折率の変化が測定される。信号は応答単位RU ―1,000RUはほぼ1ng/mmの表面濃度に相当する ― で測定されて、センサグラムに時間の関数としてグラフ表示される。本出願の目的のための用語使用において、表面に結合された分子は標的と称され、他方、分析さるべき化合物は溶液中の分子である。該化合物を含んだ溶液は表面全体つまり一般にカルボキシメチルデキストラン基質でコートされたセンサチップにインジェクションされ、連続フローによって輸送される。このプロセスは2台の自動化されたポンプシステム ― そのうち1台は一定のバッファフローを維持し、他方はインジェクションを制御する ― によって推進される。
【0028】
標的は固定化と称されるプロセスでセンサチップ基質と共有結合される。最も一般的に使用されている固定化技法は、反応性エステルがカルボキシメチル基の修飾によって表面基質に導入されるアミン結合である。これらのエステルは次いで自発的に標的上のアミンおよびその他の求核基と反応して共有結合を形成する。アミン結合以外にも、標的を基質に結合するその他の方法がある。たとえば、いわゆる“リガンド・チオール結合”法は反応性ジスルフィド基をセンサチップ基質のカルボキシル基に導入し、これが標的の固有のチオール基と交換される。
【0029】
共有結合は、再生と称される、標的と化合物との間の結合を破壊する条件に耐えることができる。したがって、同一の表面は数回使用することが可能である。
【0030】
インジェクションの間、化合物分子は連続的に表面に輸送され、標的分子と結合することが可能とされる。インジェクションが停止すると、バッファフローが解離した化合物を洗い流す。結合相は以下によって表される(1:1結合の場合)。
dR/dt=kC(Rmax−R)−kR (1)
平衡時に、応答は
eq=kCRmax/(kC+k) (2)
として得られ、解離の間は
dR/dt=−k (3)
として得られる。式中、Rは任意の時間tにおける応答を表し、Reqは平衡時の応答を表し、Rはインジェクション終了時の応答を表し、Rmaxは表面の最大結合能力をRUで表している。Cは当該の化合物のモル濃度である。
【0031】
図1は、1試料溶液(勾配を示す)と1バッファとを配置した構成の実施形態による、本発明によるパルスインジェクションの原理を使用する方法を実施するためのシステムを概略的に示したものである。これは、本発明の目的のため、特性決定さるべき液体が流れる、配管、ポンプ、バルブおよびセンサを備える測定システムを備える。少なくとも1化合物がフローとして測定システムを通過させられ、この測定システム内部で相互作用が生ずる。バルブ、ポンプおよび、上記化合物のうち少なくとも第一の1化合物の濃度勾配を生み出すための制御装置を備えた手段が設けられている。少なくとも上記の第一の化合物と他の化学種との間の相互作用の結果を検出することのできるセンサデバイスがフローセルとして適切に設けられている。ポンプおよび/またはバルブは、上記のフローを上記のセンサデバイスを通過させるとともに、液体フローをそれが上記のセンサを通過させられる前に少なくとも1回さらに別の液体と交差させるために使用され、こうして、制御装置の制御下で、当該の化合物を含んだ液体の、分離された少なくとも2セグメントが作製される。
【0032】
こうして、装置は該装置と組み合わされた処理手段の内部記憶装置へ直接にロードし得るコンピュータプログラム製品の形のソフトウェアの制御下で稼働される。該プログラムは本発明による方法の一連のステップを実施するためのソフトウェアコード手段を備える。
【0033】
該ソフトウェアはまた、装置内の処理手段が本発明による方法の一連のステップの実施を制御し得るようにするための読み取り可能プログラムを備える、コンピュータ使用可能な媒体上に記憶されたコンピュータプログラム製品の形であってもよい。
【0034】
本発明によるパルスインジェクション法は主たる2特徴を有している。第一に、各々のインジェクションは、試料とバッファフローの交番によってつくり出されたいくつかの、適切には4または5〜40パルスまで、好ましくは15〜30、より好ましくはほぼ20パルスの短い一連の試料パルスを有し、各々のパルスは1〜40μl、好ましくは10〜40μl、より好ましくは15〜25μl、適切には約20μlの体積を有している。パルスつまり各々の溶液セグメントの長さは8〜20、好ましくは約10〜15、適切には12秒であってよく、フローセルを貫流する試料液の流量は50〜200、好ましくは80〜120、適切には100μl/分であってよい。
【0035】
対照的に、従来の技術による方法は1パルス(1インジェクション当たり; インジェクション全体が1パルスである)を備える。第二に、パルスインジェクションと組み合わされた濃度勾配が供され、これらは、まとまって、各々のパルスが基本的に1濃度を形成している単一のインジェクションによるいくつかの濃度レベルから情報を生成する。該勾配はバッファと試料が以下に述べるように試料吸引中に管路内で混合され得る場合に生ずる。また、1インジェクションの間にいくつかのパルスを廃棄することができ、これにより、廃棄されたセグメントはセンサを通過しないとの点に注意すべきであろう。別法として、分離されたセグメントを生み出すためにバッファインジェクションの交番を実施する前にも液体のいくつかのアリコートを廃棄することが可能である。
【0036】
本発明を実施するシステムの概略と流路を示す図1を参照して、本発明による方法の基本的原理を説明する。
【0037】
図1から看取されるように、それぞれ試料とバッファを含んだ2つの容器(たとえば試験管)が設けられている。また、試験管に向かって下方に延びる垂直線で示した、試験管から液体を吸引するための手段も設けられている。この手段は適切には針であってよく、かつ同一の針が双方の液体に使用されることから、試料管中の針は破線で示されている。この針は、したがって、液体の吸引のため双方の管の間を物理的に順次移動させられることになろう。液体吸引手段を考案するその他の可能性も存在することは言うまでもなく、本図は例示的なものにすぎない。
【0038】
システムバッファ供給も行なわれる。当初にシステム全体はバッファで満たされる。つまり、すべての配管はこのバッファを収容している。配管のそれぞれの区間(それぞれ試料とシステムバッファ)は組み合わされて統合型液体カートリッジ(IFC)、つまり、1または複数のフローセルへの制御式の液体送達を可能とするデバイスを形成している。各々のフローセルは、1または複数の適切な標的が固定されるセンサ表面を有している。IFCには、それぞれの液体のフローを制御するための一連のバルブも設けられている。別法として、さまざまなラインのフローを精密ポンプで制御することも可能であり、これにより、その時々の流量を単調に制御して、ゼロから所要の最大流量までに及ぶ所望の流量を供することが可能であり、あるいはこれらを組合わせることもできる。
【0039】
手順の第一のステップは、少量のバッファを針の内部に吸引することである。つまり、針をバッファ管に沈め、適量を針の内部に吸引することである。ただし、吸引によって針にバッファを満たすことは必ずしも必要ではない。それに代えて、システム全体をバッファで満たすことにより、他端から、つまりシステムバッファ供給からのバッファで針を満たすことが可能である。次いで、針は試料管に向かって移動させられ、約500μlの適量の試料が吸引される。ただし、実際の量は適用ケースと試料の種類に応じて異なっていてよく、広い範囲内たとえば1μlから4mlまでの範囲内で変動してよい。
【0040】
試料の吸引は分散による試料とバッファの混合を結果し、これによって、配管内に勾配がつくり出される。この場合、勾配はフローセルを通って流れる(針から見て)漸減勾配となろう。もしも増加勾配が所要の試料である場合には、試料吸引の後にバッファを吸引し、すでに針内に存在する液体から当該試料を保護するために最初に気泡を、第二に試料を、第三にバッファセグメントを吸引することにより、非分散試料の後端が作り出されるように保証しなければならないであろう。吸引の順序は常に、すでにIFC内に存在する液体から勾配を保護するために、1または数個の気泡の吸引で終了する。
【0041】
第一のステップに先立って、空気と試料の連続したセグメントを作り出し、それらをIFCにインジェクションするために、空気と試料の交番吸引を数回実施するのが好ましい。このようにして試料はIFC内の流れバッファとの望ましくない分散から保護されることとなり、吸引された試料溶液の前端は公称(最大)濃度を示すであろう。
【0042】
勾配が確立されると、それは針を経てIFCにインジェクションされ、試料ラインとバッファラインのバルブv2とv3がプログラムされた順序に従って開閉されて、フローセルに供給される試料パルス(配管の長手方向に勾配を示す)とバッファパルスの交番を可能とし、こうして、試料液フローは少なくとも1回、好ましくは複数回にわたって、この場合システムバッファによって代表されるさらなる液体によって交差させられる。この交差によって、分離された少なくとも2液体セグメントが作り出されることになろう。ただし、システムバッファ以外のその他の液体、たとえば純溶媒、当該の他の化学種を含んだ溶液等も可能であることは言うまでもない。
【0043】
こうして、漸減試料勾配フローの前端は第一の濃度を表すであろう。最も多くの場合に、前端の濃度は公称濃度に非常に近く、既知の濃度を表していると解することができる。ただし、試料フローの大部分は勾配を示し、したがって、つくり出される上記セグメントの大部分は上記の化合物に関して異なった勾配を有するであろう。
【0044】
所定量の試料勾配フローがフローセルに流入した後、バルブv2は閉じられ、バルブv3が開放され、これによって、バッファが試料フローの後にラインにインジェクションされる。固定化された標的を有するセンサ表面の試料通過中に、試料は標的と結合するであろう。試料量は好ましくは平衡の確立を可能とするのに十分な量とされるのがよいであろう。ただし、平衡の達成は必ずしも必要ではない。一例として、図2は非平衡状態を示しているが、平衡レベルはグラフから計算することが可能である。必要とされる時間枠は、試料特異結合および輸送特性、流量、温度、フローセル寸法等に依存している。
【0045】
試料が十分長時間にわたってインジェクションされたとき、バッファはバルブv3を開放しかつバルブv2を閉鎖することによってインジェクションされる。バッファが表面を通過している間に、試料は解離するであろう。このプロセスは吸引された試料がインジェクションされてしまうまで反復される。
【0046】
勾配をフローセルに完全にインジェクションする必要はない。バッファインジェクション(v3開、v2閉)の間に、バルブ1を開放し、小さなセグメントの勾配を廃棄することができる。これは生み出されたパルスの数を減少させ、フルインジェクションに必要とされる時間を減少させるであろう。
【0047】
図3は前述した手順から結果したセンサグラムの代表例である。
【0048】
バルブなしのシステムが使用される好ましい1実施形態において、結合相の間つまり試料がセンサセルを通過させられる間、バッファフローは非常に低い値、正規フローの5%未満、たとえば約1%に設定される。これは絶対に必要というわけではないが、試料溶液がバッファラインに漏洩することを防止する。次いで、ある一定の、所定量の試料が特定の速度でIFCにインジェクションされる。次いで、バッファ流量が正規量にリセットされる。バッファがセルを貫流している間、センサ表面の標的に結合した試料化合物は適切な期間内に解離させられる。
【0049】
本発明の1実施形態において、試料勾配は“二重勾配”であってよい。これは異なった2試料溶液の吸引によって行われ、その際、両者は試料とバッファの場合と同様に分散によって管路内で混合されると、一方の試料化合物の増加勾配と他方の試料化合物の漸減勾配とをつくり出す。この種の勾配は、2試料が標的上の同一の結合部位をめぐって競合するかあるいは両者は標的上の異なった結合部位に結合するかどうかを決定するのに有用である。こうした情報は、異なった治療分野における薬物間の望ましくない相互作用の可能性を指示し得ることから、創薬プロセスにおいて高度に有用である。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態において、研究さるべき反応系は酵素−基質相互作用であってよい。この場合、酵素溶液がバッファに置き換えられ、当該酵素の適切な基質の勾配は、前述した方式と同様な方法で適切なバッファと基質溶液との吸引によって供される。
【0051】
図10に関連して言えば、既知の濃度の試料セグメントを吸引し、それを、連結部c1と管路区間m1とを使用して、IFC内でバッファで稀釈することによって、勾配を生み出す別法が可能である。これにより、バッファと試料とはフローセルに接触する前に均質な混合物を形成することができる。パルスは、前述したようにして、つまりポンプまたはバルブv2とv3の交番によって発生させられよう。連結部c1は単純なT連結であってよく、こうして、勾配中の試料濃度は[流量(バッファ)]と[流量(試料)]との比が時間とともに変化するようにして制御される。もう一つの方法は連結部c1として二方弁を使用することであろう。試料の濃度は、m1に向かう口をバッファと試料との間で切り換えて、二方弁の開放時間をバッファと試料に関して異ならせることによって制御されるであろう。管路セグメントm1において、試料とバッファの飛び飛びにつながったセグメントは分散によって均質な混合物を形成するであろう。この方法により、最初の若干のパルスのみが既知の化合物濃度を有する分散濃度勾配とは異なって、常に既知の試料濃度を有した勾配を生み出すことが可能である。
【0052】
本発明による方法は、実用上の限界が実際の数の可能性を制限するとしても、一般的な意味で、つまり任意の数の試料フローに適用することが可能である。複数の異なった試料または試薬液を通すことが所望される場合には、相応した数の管路を設けることができよう。この場合、複数の試料および/またはその他の液体は所定の順序に従って測定システムを交互に通過させられる。ただし、1勾配内にいくつかの成分を有することも可能であり、その場合には単独の管路しか要しないであろう。これは物理的な構成がより複雑になり得ることを意味するが、この種のシステムを考案することもなお本発明のコンセプトに含まれている。
【0053】
以下、本発明を制限するものと解されてはならない一連の実施例によって、本発明をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0054】
化合物−標的のいくつかの候補モデル系が適切な特性たとえば急速な結合および解離ならびに十分な応答レベル(20RU以上)の有無につき試験された。
【0055】
比較的緩慢な反応速度を示す系に由来する結合曲線が類似していると思われる事態の理解を得るために、ミオグロビン−抗ミオグロビンにつきパルスインジェクション法による試験が実施された。
【0056】
リゾチームとラクダ由来のモノクローナル抗リゾチーム抗体との間の相互作用が相互作用速度定数を決定するためのテンプレートとして使用された。
【0057】
その急速な反応速度により、マルトース−抗マルトース系が、平衡応答レベルが親和性(KD)を評価するために使用される定常状態研究のために、使用された。
【0058】
競合阻止がパルスインジェクション法を使用して、ヒト血清アルブミン、HSA、およびいくつかの既知の結合剤(薬物)につき調査された。
【0059】
使用されたすべてのモデル系につき、1:1結合が仮定された。
【0060】
(材料および方法)
(計装およびソフトウェア)
一貫して使用されたセンサチップはCM−5表面(Biacore AB,Uppsala,Sweden)であった。すべての相互作用研究はBIACORE(登録商標)3000バイオセンサ(Biacore AB,Uppsala,Sweden)を用いて実施された。データはBIACORE(登録商標)3000制御ソフトウェアによりセンサグラムとして提示され、BIA評価ソフトウェア、バージョン3.1(Biacore AB,Uppsala,Sweden)、Matlabバージョン5.3(The MathWorks,Inc.,Natick,MA)およびExcel97(Microsoft Corp.,Redmond,WA)を使用して評価された。
【0061】
(試薬)
別段の記載がないかぎり、BIA認証HBS−EP(0.01MのHepes,pH7.4,0.15MのNaCl,3mMのEDTA,0.005%のTween20;Biacore AB,Uppsala,Sweden)が流れバッファとして使用された。
【0062】
モノクローナル抗ミオグロビン抗体とヒツジ・ミオグロビンはBiacore ABから入手された。
【0063】
cAb−Lys3:s SGS、つまり、リゾチームに向けられるラクダ由来の重鎖三重変異体一ドメイン抗体はDepartment of Ultrastructure,Vrije Universiteit,Brussel,Belgiumから入手された。鶏卵白リゾチームも同所から入手された。
【0064】
モノクローナル抗マルトース抗体、モノクローナル抗AFP抗体(クローン118B)およびマルトースはBiacore ABから入手された。
【0065】
HSA(基本的に脂肪酸/グロブリン・フリーである、A3782)ならびにワルファリン、ジギトキシンおよびフェニルブタゾンはSigmaから入手された。
【0066】
(実施例1)
(緩慢な速度論的相互作用)
モノクローナル抗ミオグロビン抗体が、20℃にて標準アミン結合方式により、ほぼ2070および930 RU(それぞれ図1のフローセル2および4)のレベルに固定化された。EDC−NHSによる7分間の賦活に続いて、抗ミオグロビン(10μg/10mMの酢酸ナトリウム1ml当たり,pH5.0)が5分間にわたって表面にインジェクションされた。次いで、反応しなかったエステルは1Mのエタノールアミン、pH8.5、の7分間のインジェクションによって脱活された。チャンネル1と3は参照セルとして使用され、上記のようにして賦活/脱活された。流量は5μl/分であった。
【0067】
ミオグロビン20μg/ml(流れバッファ中の初期濃度110nM)が、パルスインジェクション法を使用して、同時に20、25および30℃にてすべてのフローセルにインジェクションされた。体積誤差を補正するため、フローセル1と3のシグナルがフローセル2と4のシグナルから差し引かれた。各々のインジェクションの後に、再生液(10mMのグリシン、pH3,1mMのNaCl,10%エタノール)の30秒の2パルスが続いた。インジェクション手順は以下の通りであった。
【0068】
1. 空気と試料との若干数の交番セグメントが吸引されて、IFCにインジェクションされる。このようにして試料はIFC内における流れバッファとの望ましくない分散から保護されるであろう。
【0069】
2. 針はある一定の量のバッファで満たされる。次いで試料が吸引されるが、これは分散により試料とバッファとの急速な混合を結果するであろう。吸引とインジェクションとの間の時間に応じ、その寄与はわずかであるとはいえ、拡散もまたおそらくある程度まで試料濃度に影響を及ぼすと考えられる。
【0070】
3. 試料フローとバッファフローとのバルブは試料パルスとバッファパルスとの交番を可能とするために開放される。図1は流路を概略的に示している。結合相(この場合には12秒)の間、バッファフローは1μl/分に設定され、ある一定量の試料(この場合には20μl)が定められた速度、この場合には100μl/分でIFC(disp)にインジェクションされる。次いで流量は100μl/分にリセットされ、結合した化合物は12秒間にわたって解離可能とされる。このプロセスは吸引された試料全体がインジェクションされるまで繰り返される。
【0071】
参照フローセルのシグナルは抗ミオグロビン・セルの応答曲線から差し引かれた。
【0072】
異なった3温度にて抗ミオグロビン表面で実施されたミオグロビンのパルスインジェクションの結合曲線(図2)はコンピュータシミュレーションによって得られた曲線によく一致していた。
【0073】
(実施例2)
(相互作用速度定数の評価)
リゾチームに結合するラクダ抗体の三重変異体(SGS)の速度論が本発明によるパルスインジェクション法を用いて研究された。すべての実験は30℃にて実施された。190RU(チップ1)と280RU(チップ2)のリゾチームが実施例1に述べたアミン結合方式を使用して固定化された。2分間におよぶ賦活の直後に、リゾチーム(8μg/10mMのNa2HPO4 1ml当たり,pH7.0)が3分間(チップ1)と4分30秒間(チップ2)にわたってインジェクションされた。10mMのNaHPO,pH7.0(流量5μl/分)が、固定化中、流れバッファとして使用された。SGSは異なった初期濃度(0.5,1.0および2.0μM,HBS−EP)でインジェクションされた。結果は図3に示されている。
【0074】
試料溶液の体積誤差は参照フローセル・シグナルを差し引いて補正された。個々のパルスは、MATLABを使用して、分離・整列され、その結果、各々のパルスには1結合曲線が対応していた。これらの曲線はBIA評価ソフトウェアで重ね合わされた。いずれのフィットにも15パルスが使用された。最初の2パルスは初期濃度であると仮定された。ka,kdおよびRmaxの大域出発値が、その濃度が既知であるために、第二のパルスにフィットされた(第一のパルスはその不規則な形状のために除去された)。これらの値は、次いで、すべてのパルスの濃度を局所的にフィットさせるために使用された。新しい濃度情報を使用して、ka,kdおよびRmaxの評価が改善された。このプロセスはすべてのパラメータが集束するまで反復された。各々のパルスインジェクションは別々に評価された。濃度のフィッティングから一部線形の濃度勾配が生じた。パルスインジェクション法で得られた速度論データは、表1(SGS)に、平均値および標準偏差と共に示されている。
【0075】
【表1】

(実施例3)
(親和性の評価)
ほぼ15000RUの抗マルトース抗体が4フローセルの1つに固定化された。おおよそ同量のもう一つの抗体、抗AFPが、高い固定化レベルに起因する参照減算誤差を最小化するために、参照フローセルに固定化された。これらの2タンパク質は以下のように“アミン結合”を使用して固定化された: HBS−EPが、定流量5μl/分の流れバッファとして使用された。EDCで12分間にわたって賦活した後、標的(抗マルトースまたは抗AFP,50μg/10mMの酢酸ナトリウム1ml当たり、pH5.0)が7分間にわたってインジェクションされ、続いて12分間の脱活が行われた。表面への固定化とすべての測定は25℃にて実施された。
【0076】
異なった初期濃度(0.05および0.1mM)の試料が表面にインジェクションされた。各々のパルスの結合相と解離相は12秒であった。これは、平衡レベルに達して、複合体が完全に解離し得るのに十分であった。各々の実験は空のラン、つまり流れバッファのみのパルスの連続、で開始された。最初のパルスC1の濃度はバイアル中の濃度に等しいと仮定された。マルトースの屈折率は比較的高く、続くパルスCiの濃度は以下のようにして、参照フローセルの応答から評価することができよう:
=Req(i)/Req(1)・C (4)
センサグラムからのデータは、ラクダ抗体パルスの場合と同様にして、BIACORE(登録商標)結果ファイルから抽出された。応答レベルは平衡時における10データポイントの平均を取ることによって得られた。評価はBIA評価ソフトウェアを用いて実施された。親和定数KAは線形フィットされたReq/C 対 Req−プロット(スキャッチャードプロット解析に類似)で負の傾きとして得られた。KDは1/KAとして得られた。Rmaxはx軸との交点から見出された。コンスタントな多濃度パルスシリーズは非線形フィットされたReq 対 C−プロットで評価され、その際、KA,KDおよびRmaxは直接にソフトウェアから得られた。
【0077】
パルスインジェクションで得られた結果を従来の方法で得られた結果と比較するため、0から1500μMまでに及ぶ範囲の濃度の12マルトースインジェクションが実施された。インジェクション時間は15秒であった。データはBIA評価ソフトウェアを使用してReq 対 C−プロットから評価された。
【0078】
本発明によるパルスインジェクション法で得られたデータから計算された親和性は90×10−4Mの平均KDを結果した。従来の親和性アッセイからは85×10−4MのKDが結果した。
【0079】
(実施例4)
(HSAに結合する薬物の部位アベイラビリティ)
HSA(15μg/酢酸ナトリウム1ml当たり、pH5.2)が、標準アミン結合方式(Frostell−Karlsson et al,J.Med.Chem.2000,43:1986−2000)を使用して、ほぼ12200RUのレベルに固定化された。隣接するフローセルは賦活および脱活され、参照セルとして使用された。新たに固定化された表面は50mMのNaOHの連続した3〜30秒インジェクションでコンディショニングされた。表面への固定化とすべての測定は25℃で実施された。
【0080】
100%のDMSOに溶解した化合物の原液、100mM(フェニルブタゾン、ジギトキシン)と10mM(ワルファリン)が67mMの等張リン酸緩衝液(1リットルに対し、Na2HPO4・2H2O 9.6g,KH2PO4 1.7g,NaCl 4.1g,pH7.0)でDMSO濃度5%に稀釈された。試料は、次いで、流れバッファ(67mMの等張リン酸緩衝液、5%DMSO,pH7.4)で化合物濃度50μMに稀釈された。
【0081】
等量の異なった2試料が封止されたバイアルから、分離用の気泡なしで吸引され、管路内で分散によって混合された。2試料の管路内での推定濃度分布は図4に示されている。試料はそれぞれ12秒の結合相と解離相を使用してインジェクションされた。試料の組合わせは表2に示されている。いずれの薬物も流れバッファと一度組み合わされて流された。各々のランの前後にDMSO補正(Frostell−Karlsson et al.,上掲)が実施されて、参照セルとHSAフローセルとの間のDMSO体積差が補償された。
【0082】
試料−バッファ・ランからの平衡データが収集され、応答レベルが積算された。この和が、同じ化合物が混合物としてインジェクションされた時に得られた応答と比較された。
【0083】
【表2】

2試料勾配アッセイによる平衡応答レベルは図5と6に示されている。図7は、個々の試料からの積算応答(X+Y)と、混合物としてインジェクションされた試料の応答(XY)との間の比較を示したものである。ジギトキシン(D)とワルファリン(W)は非競合結合剤である。したがって、個々の試料の積算応答と混合試料の応答は同じはずであろう(図6)。他方、フェニルブタゾンとワルファリンの場合には、これらが同じ部位をめぐって競合することから、個々の試料の積算応答は混合物としてインジェクションされた試料からの応答よりも高いであろう(図5)。
【0084】
(実施例5)
(最適再生条件の決定)
SPR分析においてしばしば遭遇する問題は最適再生条件の決定である。再生が弱すぎれば、センサチップは十分な程度まで回復せず、再生が強すぎれば、センサチップは破壊されるであろう。したがって、信頼性の高い速やかな手順で再生を最適化し得ることが望ましい。これは本発明によるパルスインジェクション法で行うことができる。
【0085】
図8は、インジェクションが異なった3種の液体の交番パルスを含む場合向けの構成を示している。
【0086】
こうして、異なった3種の液体ライン、つまり、システムバッファ(HBSバッファ)用の第一のラインと、抗体(抗ビオチン抗体((Novocastra Laboratories Ltd,Newcastle upon Tyne U.K.))用の第二のラインと、再生液(50mMのNaOHまたは10mMのグリシンpH3.0((いずれもBiacore AB))用の第三のラインとを備えたシステムが設けられる。センサチップはSensor Chip Biotin(Biacore AB)である。
【0087】
インジェクション順序は以下の通りであった: バッファ−抗体−バッファ−再生(勾配)−バッファ−抗体−バッファ−再生(勾配)−バッファ等々。2つの実験が実施されたが、それらの結果は図9に示されている: 第一の実験は水とNaOHの勾配で実施され(破線)、第二の実験は水とグリシンの勾配(実線)で実施された。
【0088】
NaOH ― 第一の(最大稀釈された)再生パルス ― については、再生効果は見られない。第二のパルスは有意な再生をもたらし、3およびそれ以上のパルスは完全な再生をもたらす。グリシンについては、いかなる稀釈でも再生は見られない。
【0089】
(実施例6)
(酵素と基質の相互作用)
図1に示したものと類似のシステム構成が採用されるが、試料ラインは酵素MAPK2の勾配を供するために使用され、バッファは酵素基質としてのミエリン塩基性タンパク質を含んだ溶液に代えられる。BIACORE(登録商標)センサまたは分光光度計が、酵素作用の生成物(リン酸化ミエリン塩基性タンパク質)の検出またはミエリン塩基性タンパク質濃度の減少の検出に使用される。
【0090】
二重勾配は、針を適切な稀釈溶液たとえば基質を含んだバッファで満たし、次いで酵素溶液を吸引することによって達成される。この場合、分散は先述したのと同様にして勾配をつくり出すであろう。
【0091】
図1の場合に論じたのと同様なパルス順序が使用される。
【0092】
本出願において、新しいインジェクション法が開示された。これは、親和性、速度論および部位特異性の研究に使用することが可能である。
【0093】
上述した一連の実施例は本発明の機能を裏付けている。
【0094】
試料の分散によるパルスインジェクション法で生み出されたマルトース−抗マルトース相互作用のK値の平均は従来の方法で評価された平均KD値に非常に類似している。
【0095】
従来の方法ならびに本発明による方法はいずれも、kにつき、同等な、比較的低い標準偏差を結果する。いずれの方法についても、平均kならびにkは同じ範囲内にある。
【0096】
パルスインジェクション法の主たる利点の一つは試料消費量が低いことである。従来の速度論的解析にはいくつかの試料吸引が必要とされ、それらのそれぞれに追加量の溶液が使用されるが、パルスインジェクション法によれば多数の結合曲線を得るのに単一の吸引で十分である。さらに、パルスアッセイは従来のアッセイに比較して非常にわずかな時間しか要しない。従来の方法(たとえば、12の濃度を含む、実施例3の従来のマルトースアッセイ)の一時間半以上に比較して、20パルスからなる1サイクルの持続時間は約20分である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】図1は本発明による方法を実施するためのシステムを概略的に示す図である。
【図2】図2は本発明によるパルスインジェクションの非平衡状態を示すグラフである。
【図3】図3は本発明による方法の1実施形態によって得られた、時間の関数としての表面近傍質量濃度を表す代表的なセンサグラムである。
【図4】図4は二重勾配を示す図である。
【図5】図5はフェニルブタゾンとワルファリンとの個々の試料の応答と両者の混合試料の応答を示す図である。
【図6】図6はジギトキシンとワルファリンとの個々の試料の応答と両者の混合試料の応答を示す図である。
【図7】図7は加算された応答の総計とジギトキシンとワルファリンとの混合物の応答を示す図である。
【図8】図8はインジェクションが3種の異なった液体の交番パルスを含む場合のシステム構成を示す図である。
【図9】図9は3パルスインジェクションが使用される場合の応答曲線を示す図である。
【図10】図10は勾配をつくり出す別法を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体環境中における少なくとも2化学種間の相互作用の特性決定のための方法であって、前記化学種の少なくとも一方を含んだ液体がフローとして測定システムを通過させられて、前記測定システム内で相互作用が生じ、該方法は、以下のステップ:
前記液体フローに前記化学種の少なくとも一方の濃度勾配を与えるステップと、
前記化学種の少なくとも一方を含んだ前記液体フローをセンサデバイスに通過させるステップと、
前記の少なくとも2化学種間の相互作用の結果を前記センサデバイスによって検出するステップと、
を包含し、該方法は、
前記濃度勾配を含む液体フローは、該フローが前記センサを通過させられる前に、少なくとも一回、さらなる液体と交差させられて、濃度勾配を形成する前記化学種の濃度の異なる分離された少なくとも2液体セグメントが作製されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
相互作用に関する、親和性および/または速度論および/またはアッセイ条件が決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アッセイ条件が決定され、前記化学種の一方はアッセイ関数と結びついた薬剤を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アッセイ関数と結びついた前記薬剤は再生剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
アッセイ関数と結びついた前記薬剤は相互作用効率に影響を及ぼす薬剤を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
液体フローは一回より多く交差させられて、分離された液体セグメントが作製される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
分離された前記セグメントの少なくとも1セグメントは前記センサを通過しないように廃棄される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
相互作用は前記化学種とフローセル内の表面に固定化された標的との間に生ずる、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
さらなる液体はバッファおよび溶剤からなる群より選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
液体フローは複数回にわたって、たとえば5〜40回、適切には15〜30回、好ましくはほぼ20回にわたって交差させられる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
流れバッファによる望ましくない分散がセンサデバイス内で生じることを防止するために、空気と試料との連続したセグメントがセンサデバイスにインジェクションされる、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記さらなる液体は、前記溶液がセンサデバイスを通過している間も、低下された流量で、好ましくは正規流量の5%未満、最も好ましくは1%未満の流量でシステムを通過することができる、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
異なった化学種を含んだ異なった2種の溶液の混合によって二重勾配がつくり出され、これによって、一方の化学種には正(漸増)勾配が形成され、他方の化学種には負(漸減)勾配が形成される、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
溶液の各々のセグメントの長さは8〜20秒、好ましくは約10〜15秒、適切には12秒である、請求項2〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
各々のセグメントは1〜40μl、好ましくは10〜40μl、より好ましくは15〜25μl、適切には約20μlの体積を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
フローセルを通過する液体の流量は50〜200μl/分、好ましくは80〜120μl/分、適切には約100μl/分である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記液体フローの1または複数のアリコートは該フローが前記さらなる液体によって交差させられる前に廃棄される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記セグメントの大半は前記化学種に関して異なった濃度を有すると考えられる、請求項10〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
相互作用は溶液中の化学種と前記測定システム内の表面に固定化された化学種との間で生ずる、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
固定された化学種は抗体であり、溶液中の化学種は前記抗体に対する抗原である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
固定化された化学種は抗原であり、溶液中の化学種は前記抗原に対する抗体である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
相互作用は溶液中の2化学種の間で生じる、請求項1〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
一方の化学種は酵素であり、他方の化学種は前記酵素に対する基質である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
複数の試料および/またはその他の液体が所定の順序で交互に前記測定システムを通過させられる、請求項1〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
第一の液体はセンサデバイス上の標的に結合する化合物を含有し、第二の液体は再生液であり、第三の液体はバッファを含み、検出された相互作用の結果は前記センサデバイスの適切な再生レベルを決定するために使用される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
液体環境中における少なくとも2化学種の相互作用の特性決定のための装置であって、前記化学種の少なくとも一方を含んだ液体がフローとして測定システムを通過させられて、前記測定システム内で相互作用が生じ、該装置は:
前記化学種の少なくとも一方の第一の化学種の濃度勾配または、相互作用または被相互作用成分に影響を及ぼす他の少なくとも1化学種の濃度勾配をつくり出すための手段と、
前記フローをセンサデバイスに通過させるための手段と、
前記センサデバイスによって前記の少なくとも2化学種間の相互作用の結果を検出するための手段と、
を備え、該装置は、
前記濃度勾配を含む液体フローを、該フローが前記センサを通過させられる前に、少なくとも一回、さらなる液体と交差させ、前記化学種の濃度の異なる分離された少なくとも2液体セグメントを作製する手段を特徴とする、装置。
【請求項27】
請求項1〜25のいずれか1項に記載のステップを実施するためのソフトウェアコード手段を備える、請求項26に記載の装置と組み合わされた処理手段の内部記憶装置へ直接にロードし得るコンピュータプログラム製品。
【請求項28】
請求項26に記載の装置と組み合わされた処理手段が請求項1〜25のいずれか1項に記載のステップの実施を制御し得るようにするための読取り可能プログラムを備える、コンピュータ使用可能な媒体上に記憶されたコンピュータプログラム製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2006−527364(P2006−527364A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−508576(P2006−508576)
【出願日】平成16年6月4日(2004.6.4)
【国際出願番号】PCT/SE2004/000867
【国際公開番号】WO2004/109295
【国際公開日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(398005788)バイアコア アーベー (7)
【Fターム(参考)】