説明

相間絶縁シート

【課題】簡便な手法によって信頼性の高い相間絶縁を実施すること。
【解決手段】積層構造を有し、モータ/ジェネレータのステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間に介装されて用いられる相間絶縁シートであって、加熱されることによって発泡を生じ、その厚みを増大させる感熱発泡層が2つのフィルム層の間に備えられているとともに該フィルム層の外側にそれぞれ熱硬化型接着剤層が備えられていることを特徴とする相間絶縁シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータやジェネレータのステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間に介装される相間絶縁シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータやジェネレータ(以下、両者を併せて「モータ/ジェネレータ」という)のステータは、エナメルワニスなどと呼ばれる樹脂組成物で細い銅線に絶縁被覆が施されたエナメル線(巻線)を長円形状に巻き束ねたコイルが該コイルよりも短い円筒状のステータコアに装着されて構成されており、該コイルは、前記ステータコアの内周側において長さ方向(周方向に直交する方向)に沿って延在する複数条のスロット溝に当該コイルの長手方向中央部分において並行する2つの巻線束をそれぞれ別のスロット溝に収容させてステータコアに装着されている。
【0003】
このようなステータとしては、ステータコアの周方向に複数のコイルが配置されており、隣接するコイル同士が互いにその一部を重なり合わせた状態で配置されているタイプのものが広く知られている。
【0004】
そして、例えば、3相交流モータなどでは、このように重なり合いながら隣接しているコイルに、互いに相を異ならせる形で交流電圧が印加されるため、コイルエンド部において異なるコイルがその巻線束を交差させているような箇所においては、相間の絶縁性を確保することが求められており、下記特許文献1に記されているように、相間絶縁シートが相の異なるコイル間に介装されたりしている。
【0005】
また、従来、巻線は、線単体での強度が低いために、特許文献1にも示されているように、このコイルエンド部において巻線間にワニスを含浸させて該巻線がひとかたまりな状態となるように前記ワニスで接着固定し、電気的信頼性を向上させることが行われている。
なお、コイルを構成しているエナメル線の間にワニスを含浸固化させることで、併せて、相間絶縁シートが固定される点においても電気的信頼性の向上が期待できるもののワニスの含浸には時間と手間とがかかる上に必要箇所以外にワニスを付着させてしまうと故障の原因にもなりかねないことから別の方法でコイルエンド部の絶縁信頼性を確保することが求められている。
【0006】
ところで、近年、電気自動車用のモータなどの高負荷なモータなどを中心にして、細い丸導体の巻線に代えて、大電流を流すことが可能な太い平角銅線にエナメル被覆した平角エナメル線でコイルを形成させることが検討されている。
例えば、下記特許文献2にも記されているように、平角エナメル線をU字状に折り曲げて、その2本の脚の長さがステータコアよりも長いセグメントと呼ばれる部材を複数作製し、このセグメントの2本の脚をそれぞれスロット溝の一端側から挿入してその先端部をスロット溝の他端側から突出させた後に、一つのセグメントの脚の先端部と、これとは別のセグメントの脚の先端部とをロウ付けして導通させることによってコイルを形成させることが行われている(下記特許文献2参照)。
【0007】
このようなステータにおいては、容易に変形を生じる一般的なエナメル線を用いる場合と違って、そもそも平角エナメル線自体が剛性を有することから、ワニスを含浸してコイルエンド部を固めることによって得られる効果が、ワニス含浸に要する手間や不要箇所へのワニスの付着といったデメリットに大きく相殺されてしまうおそれを有する。
【0008】
ただし、ワニスによるコイルエンド部の固化は、先に述べたように相間絶縁シートを固定する効果も奏することから、コイルエンド部の補強の必要性といった観点のみからワニスでの固化を実施しないようにしてしまうと、その場合には、相間絶縁シートが不用意に脱落して相間の絶縁性において問題を発生させるおそれを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−333785号公報
【特許文献2】特開2005−124388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のような問題に対して、例えば、少なくとも片面において粘着性を有する相間絶縁シートを相の異なるコイル間に介装させて一方のコイルに感圧接着させることで該相間絶縁シートがコイル間から脱落するのを防止する方法が考えられる。
しかし、通常、コイル間の間隙は狭く、挿入した相間絶縁シートを接着させるコイルに向けて加圧するのは困難で、脱落防止を十分に図ることが困難である。
しかも、仮に、コイル間の間隙に対して十分薄い相間絶縁シートを用いた場合でも、この相間絶縁シートを挟んで対向しているそれぞれのコイル表面に相間絶縁シートを接着させることは難しく、一方のコイル表面にのみ接着させることになるため十分に脱落防止が図られているとは言い難い。
【0011】
すなわち、従来、簡便な手法によって信頼性の高い相間絶縁を実施することが困難であるという問題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための、相間絶縁シートに係る本発明は、積層構造を有し、モータ/ジェネレータのステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間に介装されて用いられる相間絶縁シートであって、加熱されることによって発泡を生じ、その厚みを増大させる感熱発泡層が2つのフィルム層の間に備えられているとともに該フィルム層の外側にそれぞれ熱硬化型接着剤層が備えられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の相間絶縁シートは、加熱されることによって発泡を生じ、その厚みを増大させる感熱発泡層が備えられていることから、相間絶縁シートも加熱されることによってその厚みを増大させることになる。
このとき、前記感熱発泡層の両側にフィルム層を有していることから、この感熱発泡層が加熱されて発泡することに伴って生じる圧力を、前記フィルム層を内面側から外向きに押し広げる力として作用させることができる。
したがって、隣接する相の異なる2つのコイルの間に相間絶縁シートを介装させた後に当該相間絶縁シートを加熱して、前記感熱発泡層を発泡させるとともに前記熱硬化型接着剤層を前記フィルム層から受ける背圧を利用して当該相間絶縁シートを介して対向しているコイル表面に向けて圧接させることができる。
【0014】
すなわち、介装させる2つのコイルの間の距離よりも薄い相間絶縁シートを熱硬化型接着剤層を前記コイル間に介装させることができることから当該相間絶縁シートの挿入作業を簡便なものとし得る。
しかも、その後、加熱するという単純な作業によって、相間絶縁シートの両面を当該相間絶縁シートの両側に位置するコイル表面にそれぞれ接着させることができ、しかも、感熱発泡層に生じる圧力を利用することができることから、より確実な接着をさせることができる。
このように、本発明の相間絶縁シートを用いることにより、簡便な手法によってステータの相間絶縁を実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】相間絶縁シートが用いられるステータの斜視図。
【図2】相間絶縁シートをステータのコイル間に介装させた様子を示す斜視図。
【図3】ステータコアの平面図。
【図4】図3のA部拡大図。
【図5】一実施形態に係る相間絶縁シートの断面構造を示す断面図。
【図6】相間絶縁シートを加熱した際の様子を模式的に示した図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
まず、はじめに本実施形態に係る相間絶縁シートを用いてコイルエンド部の相間絶縁を行うステータとその方法について説明する。
図1は、電気自動車用モータなどにおいて一般に用いられているステータ1の斜視図であり、図2は、このステータ1のコイルエンドにおいて隣接する相の異なるコイル間に本実施形態に係る相間絶縁シートを介装させた様子を示す斜視図である。
これらの図にも示されているように、前記ステータ1は、短い円筒形状のステータコア10と、該ステータコア10に装着されたコイルとを有する。
図3は、この図1、2上面視におけるステータコア10の様子を示す平面図であり、ステータコア10のみを上面側から見た様子を示すものである。
また、図4は、図3のA部拡大図であり、この図では、図3と違って、その他の構成部材の断面なども併せて図示している。
なお、図4左図は、右図の破線B部を拡大して示したものである。
【0017】
これらの図にも示されているように円筒状の前記ステータコア10の内面には、複数条のスロット溝11が形成されており、この複数条のスロット溝11は、ステータコア10の周方向とは直交する長さ方向(上下方向)に延在されており、しかも、隣接するスロット溝11どうしが互いに略平行して配設されている。
該スロット溝11は、ステータコア10の全長にわたって形成されており、ステータコア10の上端面側には、スロット溝11の断面形状と同形状の開口部11bが形成されており、下端面側にも同形の開口部が形成されている。
【0018】
前記ステータコア10においては、上記のように複数のスロット溝11が並行することから、その間が板状となっている。
この板状突起12は、ティース12などとも呼ばれており、該ティース12は、ステータコア10の内周面側に向けて突出した状態で複数形成されている。
なお、前記ティース12は、突出方向先端部にステータコア10の周方向に広がる広幅に形成された広幅部12aを有しており、断面略T字状となっている。
したがって、ステータコア10の内周面側においては、このスロット溝11の幅が狭くなって僅かに線状の開口部11aが形成されているのみとなっている。
【0019】
このステータコア10のスロット溝11には、U字状に折り曲げ加工された平角エナメル線からなるセグメント20の脚部20aがそれぞれ4本ずつ収容されており、各スロット溝11には、内側から外向きに一列に並んだ状態で計4本の脚部が収容されている。
そして、この4本の脚部とスロット溝11の内壁面との間にスロット絶縁紙40が介装されており、一番内周側の平角エナメル線とティース12の広幅部12aとの間にはウェッジ50が介装されている。
【0020】
また、前記セグメント20は、そのU字状の頭部をステータコア10の上端側に位置させ、その脚部をステータコア10の上端側の開口部11bから挿入させて下端側の開口部から突出させており、この突出させた脚部先端が、別のスロットから突出している脚部先端とロウ付けされて導通可能な状態で連結されている。
このことによって、複数のティース12の間をステータコア10の上端側から下端側、下端側から上端側へと平角エナメル線が縫うようにして磁界を発生させるためのコイルが形成されている。
すなわち、このステータコア10と複数のセグメントによって形成されているステータ1は、セグメントの頭部によって形成されたコイルエンドが上端側に配され、脚部どうしの連結部によって形成されたコイルエンドが下端側に配された状態となっている。
【0021】
本実施形態においては、ステータコア10の内周側と外周側との2列に分かれた状態になって前記U字状のセグメントが装着されており、本実施形態に係る相間絶縁シート30は、図2に示すように、ステータコア10の外周側において周方向に並んで配置されたセグメントによって形成されている外周側コイル21と、その内周側に形成された内周側コイル22との間を絶縁すべく用いられる。
【0022】
次いで、図5、6を参照しつつ、この相間絶縁シート30についてより詳しく説明する。
これらの図に示すように、本実施形態に係る相間絶縁シート30は、積層構造を有し、より具体的には5層構造を有している。
この5層構造の中心となる層は、加熱されることによって発泡を生じる発泡性樹脂組成物によって形成された感熱発泡層31であり、該感熱発泡層31に接する形で前記感熱発泡層31の両側にフィルム層32a,32bが備えられている。
さらに、該フィルム層32a,32bに接し、相間絶縁シート30の最外層となる部分には、熱硬化型接着剤で形成された熱硬化型接着剤層33a,33bが備えられている。
【0023】
前記相間絶縁シート30は、加熱することで前記感熱発泡層31において発泡を生じ、熱硬化型接着剤層33a,33bが熱接着可能な状態になるようであれば、その形成材料を特に限定するものではないが、例えば、前記感熱発泡層31を形成する発泡性樹脂組成物としては、エポキシ樹脂を主成分とした熱硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
例えば、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤などを発泡剤とともに含有する熱硬化性樹脂組成物が、発泡後の感熱発泡層31’に優れた強度と耐熱性を付与し得る点において前記発泡性樹脂組成物として好適である。
【0024】
前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ヒンダトイン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン/フェノールエポキシ樹脂、脂環式アミンエポキシ樹脂、脂肪族アミンエポキシ樹脂及びこれらにCTBN変性やハロゲン化などといった各種変性を行ったエポキシ樹脂が挙げられる。
これらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0025】
前記硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド、脂肪族ポリアミド等のアミド系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、アンモニア、トリエチルアミン、ジエチルアミン、等のアミン系硬化剤;ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、p−キシレンノボラック樹脂等のフェノール系硬化剤;酸無水物系硬化剤などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0026】
前記硬化促進剤としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−メチル−4−エチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン類;トリブチルポスフィン、トリフェニルホスフィン等の有機ホスフィン類;などが挙げられこれらは単独または複数混合して前記熱硬化性樹脂組成物に含有させることができる。
【0027】
前記発泡剤としては、例えば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素アンモニウム、アジド類などの無機系発泡剤や、トリクロロモノフルオロメタンなどのフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドなどのヒドラジン系化合物、p−トルエンスルホニルセミカルバジドなどのセミカルバジド系化合物、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールなどのトリアゾール系化合物、N,N’−ジニトロソテレフタルアミドなどのN−ニトロソ化合物などの有機系発泡剤などの他に炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤などが挙げられる。
なお、前記発泡剤としては、エポキシ樹脂を感熱発泡層のベース樹脂とする場合、当該エポキシ樹脂の軟化点近傍あるいはそれ以上の温度で気体を発生させるものが好ましい。
【0028】
なかでも、炭化水素系溶剤をマイクロカプセル化させたマイクロカプセル化発泡剤は、エポキシ樹脂をはじめとする多くの種類の樹脂に対して物性に与える影響が小さく、例えば、熱硬化性樹脂組成物の硬化を阻害させたり、加熱老化特性を低下させたりするような悪影響を与えることを抑制させることができる点において好適である。
【0029】
この発泡剤の配合量については、特に限定が加えられるものではないが、発泡倍率を過度に高めすぎると、発泡後の相間絶縁シート30’に大きな強度低下を招くおそれを有する。
したがって、感熱発泡層の発泡倍率(発泡後の厚み÷発泡前の厚み)が、7倍以下となるよう発泡剤の配合量を調整することが好ましい。
【0030】
なお、本発明においては、感熱発泡層を形成する発泡性樹脂組成物を、エポキシ樹脂をベース樹脂とする熱硬化性樹脂組成物に限定するものではなく、ベース樹脂に、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などの熱可塑性樹脂を採用することも可能である。
【0031】
前記感熱発泡層31の両側に設けられるフィルム層32a,32bは、それぞれ材質を一致させても、異ならせていても良く、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂;ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂などのポリエステル樹脂;ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂などのエンジニアリングプラスチックス、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂などの塩素系樹脂;ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリテトラフロロエチレン樹脂、テトラフロロエチレン・パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフロロエチレン・ヘキサフロロプロピレン共重合体などのフッ素系樹脂;ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂などからなるフィルムで構成させることができる。
また、ゴム材料で形成されたフィルムによってフィルム層32a,32bを形成させてもよい。
【0032】
なお、本実施形態の相間絶縁シート30においては、その使用時に前記感熱発泡層31を発泡させ、コイルを形成している平角エナメル線の表面に前記熱硬化型接着剤層33a,33bを熱接着させて用いられる。
すなわち、加熱してコイルに熱接着させた後には、感熱発泡層31’は発泡状態になっており、熱硬化型接着剤層33a,33bは平角エナメル線に圧接されることによって該平角エナメル線との接着箇所においてその厚みをやや減少させている。
そのため、この感熱発泡層31’や熱硬化型接着剤層33a,33bに対しては、十分な電気絶縁性を期待することが難しく、前記フィルム層32a,32bは、感熱発泡層31において加熱時に生じる圧力を熱硬化型接着剤層33a,33bに伝達する役割を担っているばかりでなく、加熱発泡後の相間絶縁シート30’の電気絶縁性について重要な役割を担う部分でもある。
そのため、通常、フィルム層32a,32bを構成させる樹脂フィルムは、体積固有抵抗率が1×1012Ω・cm以上、好ましくは、1×1013Ω・cm以上であることが好ましい。
【0033】
中でも、ポリエステル樹脂フィルムは、一般に電気絶縁性とともに耐熱性に優れており好適であるといえる。
また、感熱発泡層31を前記エポキシ樹脂組成物などで構成する場合においては、当該エポキシ樹脂組成物と良好なる接着性を示す点においてもポリエステル樹脂フィルムが好ましい。
特には、ポリエチレンナフタレートフィルムで前記フィルム層32a,32bを形成させることが好ましい。
【0034】
前記熱硬化型接着剤層33a,33bは、一面側の熱硬化型接着剤層33aと、他面側の熱硬化型接着剤層33bとで、それぞれの形成材料を一致させていても異ならせていても良い。
例えば、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂等をベース樹脂とした熱硬化性の樹脂組成物で形成させることができる。
なお、コイル表面を形成する絶縁被覆(エナメルワニス硬化物)は、種々の材質のものがあるが、各種の絶縁被覆に対して優れた接着性が発揮され易い点において、熱硬化型接着剤層33a,33bの内の少なくとも一方は、ポリエステル樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂組成物で形成させることが好ましい。
【0035】
なお、各種の絶縁被覆に対する優れた接着性を示す点においては、エポキシ樹脂組成物からなる熱硬化型接着剤も同じであるが、エポキシ樹脂組成物は、硬化収縮が大きいことから、相間絶縁シート30をコイルに加熱接着させた後の冷却過程などにおいてその収縮力によって導体の表面から絶縁被覆を剥離させてしまうおそれを有する。
さらに、エポキシ樹脂は、通常、その硬化物が一般的な樹脂に比べて硬いことから衝撃吸収性に乏しく、仮に、熱接着後の冷却過程で絶縁被覆にダメージを与えない場合でも、例えば、本実施形態に係る相間絶縁シート30が振動の激しいモータなどにおいて使用されるような場合には、その使用中に絶縁被覆にダメージを与えてしまうおそれを有する。
【0036】
一方でポリエステル系の熱硬化型接着剤は、一般には、エポキシ樹脂のような大きな収縮は示さず、しかも、エポキシ樹脂に比べて柔軟性に優れていることから、本実施形態に係る相間絶縁シート30の熱硬化型接着剤層33a,33bの形成材料として特に適しているといえる。
【0037】
このポリエステル系の熱硬化型接着剤は、ポリエステル樹脂、該ポリエステル樹脂を架橋する架橋剤、及び、その他添加剤によって構成させ得る。
前記ポリエステル樹脂としては、コイル絶縁被覆に対する優れた接着性を発揮させ得る点においてイミド変性された不飽和ポリエステル樹脂が好適である。
該イミド変性不飽和ポリエステル樹脂としては、ジカルボン酸と多価アルコールからなるポリエステル樹脂をイミド変性したものを採用することができ、具体的には、テレフタル酸又はその低級アルキルエステル、イミド酸、及び、多価アルコールを反応して得られるものを採用することができる。
前記多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等を採用することができる。
また、前記イミド酸としては、4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどのジアミンと無水トリメリット酸とを反応して得られるものを採用することができる。
【0038】
該イミド変性不飽和ポリエステル樹脂の架橋剤としては、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物を採用することができる。
また、前記添加剤としては、例えば、熱硬化前の熱硬化型接着剤の風合いを調整するための反応性希釈剤や無機フィラー、熱硬化型接着剤を改質するために添加するポリエステル樹脂以外の樹脂成分、各種機能性薬剤などを熱硬化型接着剤に含有させうる。
【0039】
前記反応性希釈剤としては、例えば、イミド変性不飽和ポリエステル樹脂と架橋剤とをアクリルモノマーなどの反応性希釈剤で粘稠なワニス状にして前記熱硬化型接着剤層33a,33bを形成させることにより、当該熱硬化型接着剤層を比較的弱い力で変形可能な状態にすることができ、コイル表面に対する追従性に優れたものとすることができる。
ただし、過度に熱硬化型接着剤層33a,33bを軟質なものにすると相間絶縁シート30を使用するまでの間、この熱硬化型接着剤層33a,33bの表面をセパレータフィルムで保護させたとしても、相間絶縁シート30の周縁部に熱硬化型接着剤層33a,33bを構成している熱硬化型接着剤がはみ出して、周囲に付着してしまうおそれを有する。
したがって、そのような場合には、前記無機フィラーを熱硬化型接着剤にさらに含有させることによって熱硬化型接着剤層33a,33bにおけるイミド変性不飽和ポリエステル樹脂の流動性を良好に維持させつつ熱硬化型接着剤層33a,33bの全体的な流動を抑制させることができる。
このような機能を熱硬化型接着剤層33a,33bに付与するためには、タルクや炭酸カルシウムといった無機フィラーを50〜80体積%となる割合で熱硬化型接着剤に含有させることが好ましく、60〜70体積%となる割合で熱硬化型接着剤に含有させることが好ましい。
さらに、ポリエステル樹脂以外の前記樹脂成分としては、アクリル樹脂や、エポキシ樹脂などを熱硬化後の接着強度、靱性などの観点から適宜選択して前記熱硬化型接着剤層33a,33bを構成する熱硬化型接着剤に含有させることができる。
また、熱硬化型接着剤に含有させる前記機能性薬剤としては、例えば、老化防止剤、光安定剤、難燃剤、レベリング剤、消泡剤、顔料などが挙げられる。
【0040】
上記のような原材料によって形成される相間絶縁シート30の厚みや大きさについては、本実施形態においては、特に限定がされるものではなく、コイルエンド部におけるステータコア10からのコイルの突出高さやステータコア10の周長などから適宜大きさを決定すれば良く、厚みも、介装するコイル間の間隙の大きさに応じて定めればよい。
なお、一般的なモータのステータの相間絶縁に利用されるような場合においては、通常、相間絶縁シート30の総厚みは、250μm〜600μm程度とされ、感熱発泡層31の初期(発泡前)の厚みは、通常、50μm〜200μm程度とされる。
2層のフィルム層32a,32bは、その厚みを共通させていても、異なっていても良く、通常、各層50μm〜100μm程度とされる。
さらに、前記熱硬化型接着剤層33a,33bもその厚みは、共通させていても異なっていても良く、通常、各層50μm〜100μm程度とされる。
【0041】
また、熱硬化型接着剤層33a,33bが架橋反応を開始する温度と、感熱発泡層31の発泡開始温度との関係については、感熱発泡層31が発泡を開始する時点において、既に熱硬化型接着剤層33a,33bにおける架橋が開始されて熱硬化を開始していることが好ましい。
【0042】
なお、前記例示のように感熱発泡層31をエポキシ樹脂組成物のような熱硬化性樹脂組成物で形成させる場合には、この熱硬化性樹脂組成物の熱硬化反応温度(Tr)と加熱温度(Th)とは、発泡後の相間絶縁シート30’に優れた強度と耐熱性とを付与させる上において『Tr≦Th』の条件を満足させることが好ましい。
【0043】
また、上記に挙げている各温度が、過度に高温である場合には、一般的な加熱装置を利用することが難しく、しかも、ステータを構成しているその他の部材に悪影響を及ぼすおそれがある。
逆に、過度に低温であっても、当該相間絶縁シートを冷蔵保管しなければならなくなったりして、その取り扱いに注意が必要になるおそれを有する。
このようなことから、概ね、下記のような条件とすることが好ましい。

感熱発泡層の発泡開始温度(T1):100〜120℃
相間絶縁シートを加熱する温度(Th):130〜170℃
【0044】
このような相間絶縁シート30は、例えば、下記のようにして使用することができる。
まず、図2に示すように、外周側コイル21と内周側コイル22との間に相間絶縁シート30を挿入し、この隣接する2つのコイル間に前記相間絶縁シート30を介装させたままの状態を維持しつつ、ステータを加熱炉に導入して前記相間絶縁シート30を加熱する。
そのことによって2つのフィルム層の間の前記感熱発泡層を加熱発泡させ、当該加熱発泡伴って生じる圧力を前記フィルム層を外向きに押し広げる力として作用させ、前記加熱によって表面にタック性が発揮された熱硬化型接着剤層を前記フィルム層から受ける背圧を利用して、外周側コイル21と内周側コイル22との表面に圧接させる。
【0045】
その後、熱硬化型接着剤層の硬化が十分進行した時点でステータを冷却することで、相間絶縁シートが良好なる接着状態で、その両面をコイルに接着させたステータを得ることができ、絶縁信頼性に優れたステータを作製することができる。
【0046】
このとき、例えば、外周側コイル21と内周側コイル22との間の距離がD(mm)であったとすると、この間隙部の2/3以下程度の厚み(t0:mm)を有する相間絶縁シートを用いることで挿入作業性をより良好なものとすることができる。
しかも、前記間隙部の距離と相間絶縁シートの厚みとの差(D−t0)の0.5倍以上の厚みの感熱発泡層を有する相間絶縁シートを使用することで、前記感熱発泡層を4倍以下の発泡倍率としつつ前記熱硬化型接着剤層とコイルとの接着を実施させることができる。
このように本実施形態においては、簡便な手法によって信頼性の高い相間絶縁を実施することができる。
【0047】
なお、本実施形態においては、相間絶縁シートを必要最小限の構成とすべく、5層構造の事例を挙げているが、本発明においては、相間絶縁シートを5層構造に限定するものではない。
例えば、感熱発泡層の厚み方向中間部分に、前記フィルム層のような構成をさらに設けて、『熱硬化型接着剤層/フィルム層/感熱発泡剤層/フィルム層/感熱発泡剤層/フィルム層/熱硬化型接着剤層』の厚み方向7層構造を有するものであってもよい。
また、熱硬化型接着剤層が感熱発泡剤層の圧力によってコイルに接着可能な状態で備えられていれば、必ずしも熱硬化型接着剤層を最外層に配置する必要はない。
例えば、目の粗い繊維シート(例えば、0.5mm以上の目開きの平織り繊維シートなど)を最外層に設け、当該繊維シートで相間絶縁シートの滑り性向上を図りつつ、使用時には、繊維シートの繊維間から感熱接着剤が外側に滲出してコイルに接着されるようにしてもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、平角エナメル線によるセグメントによって形成されたコイル間に介装させて相間絶縁を行う場合を例示しているが、細い丸線を多重に巻き束ねたコイルに対して相間絶縁する場合にも本発明の相間絶縁シートは有用なものである。
さらに、本実施形態においては、主として、モータのステータにおいて相間絶縁を行う場合を例示しているが、本発明の相間絶縁シートはジェネレレータにも適用可能なものである。
また、このような種々の用途において、上記例示の態様に限定されることなく、各種の改良を本実施形態の相間絶縁シートに加えることができる。
【符号の説明】
【0049】
1:ステータ、10:ステータコア、21、22:コイル、30:相間絶縁シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層構造を有し、モータ/ジェネレータのステータのコイルエンド部において隣接する相の異なるコイル間に介装されて用いられる相間絶縁シートであって、
加熱されることによって発泡を生じ、その厚みを増大させる感熱発泡層が2つのフィルム層の間に備えられているとともに該フィルム層の外側にそれぞれ熱硬化型接着剤層が備えられていることを特徴とする相間絶縁シート。
【請求項2】
少なくとも一方の前記熱硬化型接着剤層がイミド変性不飽和ポリエステル樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂組成物で形成されている請求項1記載の相間絶縁シート。
【請求項3】
前記感熱発泡層が、エポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂組成物で形成されている請求項1又は2記載の相間絶縁シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−170248(P2012−170248A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29801(P2011−29801)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】