説明

省力型魚類養殖システム

【課題】ブリやカンパチなどハダムシ対策が必要な魚類の養殖用に用いられる生簀網を、簡単な操作で養殖魚の入れ替えをすることなく、空気中で乾燥させることにより、ハダムシ除去のための作業が軽減できる養殖方法を提供すること。
【解決手段】ブリやカンパチなどハダムシ対策が必要な魚類の養殖用に用いられる、2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうる通路で連結し、3日程度の間隔で、一方の生簀で魚類を養殖し他方の生簀は空中に引き上げて、交互に乾す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリやカンパチなどハダムシ対策が必要な魚類の養殖用に用いられる生簀網を、簡単な操作で養殖魚の入れ替えをすることなく、空気中で乾燥させることからなる省力型魚類養殖システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ブリ、カンパチなどの身体の表面にハダムシが寄生する魚種の養殖では、病気の感染を防止する目的で、ハダムシ除去のための淡水浴あるいは薬浴を実施している。かかる淡水浴を実施するためには、生簀内の魚を一旦淡水槽あるいは薬槽へ移しかえ、5〜10分間淡水や薬に晒して表面に寄生したハダムシの虫卵を死滅させた後、生簀に戻していた。
しかも、ハダムシの卵は、水温にもよるが数日で孵化するため、上記淡水浴や薬浴は10日に1回程度の割合で行なう必要があった。
【0003】
また、ハダムシの卵は2〜4mmの付属糸を有するため生簀の網地に絡まり易く、定期的な網替えを平行して行なうことが推奨されているが、網替えを行うためには、生簀内の魚を移動させる必要があった。
【0004】
このような淡水浴や網替えの都度、1生簀当たり数千尾(5から6トン)もの魚を出し入れしなければならず、その作業だけでも、個人あるいは小規模経営体では重労働であるとともに、人件費の増大を招ねき、経営を圧迫しているのが現状である。
【0005】
さらに、現在カンパチの国内産種苗の生産を開始している状況で、沖だし間近の幼魚については淡水浴等の頻繁な防除が種苗を弱める危険性があり、新たな手法が求められている。
【0006】
従来、生簀用網に付着する藻類や細菌を除去するため、海面上に露出させることが行なわれているが、この作業でも生簀内の魚を、一旦移し変える必要があった。
【0007】
魚を養殖しながら生簀網を天日乾しする方法として、生簀を円筒状に形成し回転可能にすることが提案されている(特許文献1,2)。
【0008】
しかしながら、生簀を回転させるための構造が水車のように強固な部材で構成されるため、風や波による影響を受けやすく、製造コストが高くなり、また、大型化も、同様の理由から困難であった。
また、生簀網の天日干し処理によるハダムシの卵駆除の有効性については、知られていなかった。
【特許文献1】実開昭51−127498号公報
【特許文献2】特開昭57−74275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ブリやカンパチなどハダムシ対策が必要な魚類の養殖用に用いられる生簀網を、簡単な操作で養殖魚の入れ替えをすることなく、空気中で乾燥させることにより、ハダムシ除去のための作業が軽減できる養殖方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、養殖用生簀網を24時間以上、天日乾しすることで網に付着するハダムシの卵を死滅させることができ、それによってブリやカンパチなどの養殖魚へのハダムシの付着量が減少することを突き止め本発明に至ったものである。
【0011】
本発明は、2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうる通路で連結し、3日程度の間隔で、一方の生簀で魚類を養殖し他方の生簀は空中に引き上げて交互に乾すことにより、生簀網に絡まって付着したハダムシの卵を完全に死滅させるものである。
【0012】
本発明の態様は以下のとおりである。
(1)2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結し、一方の生簀で魚類を養殖し他方の生簀は空中に引き上げて交互に乾すこと養殖用生簀の乾燥方法。
(2)養殖魚が、ハダムシ対策が必要な魚類であり、引き上げる間隔が1日以上である(1)記載の養殖用生簀の乾燥方法。
(3)2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結した、養殖用生簀。
(4)2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結した、養殖用生簀、該生簀を固定するためのいかだ、及び通路を挟んだ片方の生簀網を交互に空中に引き上げる手段からなる養殖用設備。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、養殖用生簀網の片半分を海面上に上げるだけなので、滑車とロープを利用すれば誰でも簡単に行なうことができ、網を端部から徐々に上昇させれば、生簀内の養殖魚は通路を通して他の生簀内に簡単に移動させることができる。
本発明により生簀網を交互に3日間程度天日乾しすれば、生簀網に絡まったハダムシの卵がほぼ完全に死滅するので、養殖魚の体面に付着するハダムシの数が激減させることができ、養殖魚の淡水浴の回数を減らすことができる。
また、本発明によれば、従来使用している網を加工するだけなので、従来に養殖設備をそのまま利用することができ、初期費用が安く済む。
さらに、本発明によれば、網を乾すことで網への付着生物も死滅させることができるので、消毒にための網替えや網掃除が不要となり、海面上に引き上げられているので、小さな目合いから大きな目合いの網への網替えも少人数でできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明でハダムシ対策が必要な魚類とは、ブリ、カンパチ、ヒレナガカンパチ、ヒラマサなど、ハダムシの宿主となりうる魚類をいう。
【0015】
本発明で使用する生簀網は、図1(a)に示されるように、上端に浮き6が取り付けられた同形の二つの生簀A,Bの上端部付近を、養殖魚が余裕を持って通過できる断面積を有するトンネル状の通路1によって連結したものである。夫々の形状は問わないが、既存の生簀用いかだの大きさに合わせて作成すれば、既存の設備をそのまま利用することができる。
【0016】
このような生簀網を引き上げるには、図1(b)に示されるように、養殖生簀用いかだ2の四隅に簡単な支柱3を設け、図1(c)のように、支柱の頂部取り付けた滑車4とワイヤー5を利用して片方の生簀の通路と反対側の端部を徐々に引き上げることが好ましい。このようにすることにより生簀内は通路側に向かって徐々に狭くなるので、生簀内の魚は通路1を通って他方の生簀に移動し易くなる。
【0017】
通路は、生簀と同じ網で作製すればよいが、養殖魚は片側の生簀網の引き上げ時に必ずこの通路を通過するのであるから、通路部を水不透過性の材料で構成し、その両端に開閉扉を設けて内部に淡水を充填し、生簀網を引き上げるとともに、引き上げる側の開閉扉を開き、養殖魚を淡水が充填された通路に導いて扉を閉じ、通路内で所定時間淡水浴を行なうことも可能である。
【0018】
また、通路と生簀との接続部は、着脱自在としておけば、養殖魚の成長に合わせ生簀の網目の大きさを変える場合でも、網目の大きさを変えた同形状の生簀部を用意しておき、片方の生簀を引き上げた際に、より網目の大きな生簀に付け替えることにより簡単に網替えを行なうことができる。
【0019】
通路と生簀との接続部を着脱自在とする手段は、公知のものが利用できるが、接続部に隙間が生ぜず取り外しや取り付けが簡単なファスナーが好適に利用できる。
【0020】
生簀の上面は、通常の生簀と同様、鳥による食害の点から保護ネットで覆うことが好ましい。
【実施例1】
【0021】
2種のハダムシ類(N. girellaeとB. seriolae )の感染をそれぞれカンパチとブリを宿主として維持し、感染魚の入った流水水槽内に、ステンレス製の枠に張ったクレモナ糸(直径2.1 mm)を一晩設置し、虫卵を絡ませた。それぞれの種の虫卵が絡んだ糸を、湿潤箱(湿度100%、平均24℃)、空調室内(平均湿度72%、平均24℃)、無空調室内(平均湿度77%、平均29℃)の三つの異なる条件で、1.5から6時間、および24時間、乾燥処理した。
処理後、糸を切り取り、25℃の海水中に1週間放置し、総虫卵数、空の卵数を計数しふ化率を算出した。また、その際のクレモナ糸の含水率も測定した。なお、2種のハダムシ類のふ化所要日数は、N. girellaeで5−6日(25℃)B. seriolae で5.2日(23.9℃)である。
その結果を図2、3に示す(白抜き棒:ふ化率、太線:含水率)。乾燥処理では、空調・無空調室内ともに、6時間の処理でも5%以上の虫卵が生残した例があったが、24時間の乾燥により、2種のハダムシのいずれも、ほぼ死滅させることが可能であることが判明した。
【実施例2】
【0022】
実施例1の流水水槽内に一晩設置しハダムシの虫卵を絡ませたクレモナ糸を、別の容器に移し25℃で2日間放置したものを、実施例1と同様に乾燥させてハダムシのふ化率を算出したところ、実施例1と同様な結果が得られた。
したがって、3〜4日間隔で、24時間以上の乾燥を行なえば、生簀に絡まったハダムシの虫卵のふ化をほぼ防げ、ハダムシ駆除に有効であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明は、簡単な操作により生簀網を天日乾しすることで、ハダムシ対策が必要な魚の養殖作業を大幅に低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明で使用する生簀の概念図
【図2】N. girellaeの乾燥処理耐性を示すグラフ
【図3】B. seriolaeの乾燥処理耐性を示すグラフ
【符号の説明】
【0025】
1:通路
2:いかだ
3:支柱
4:滑車
5:ワイヤー
6:浮き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結し、一方の生簀で魚類を養殖し他方の生簀は空中に引き上げて交互に乾すこと養殖用生簀の乾燥方法。
【請求項2】
養殖魚が、ハダムシ対策が必要な魚類であり、引き上げる間隔が3日以上である請求項1記載の養殖用生簀の乾燥方法。
【請求項3】
2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結した、養殖用生簀。
【請求項4】
2つの生簀網の上端部を養殖魚が通過しうるトンネル状通路で連結した、養殖用生簀、該生簀を固定するためのいかだ、及び通路を挟んだ片方の生簀網を交互に空中に引き上げる手段からなる養殖用設備。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−124736(P2010−124736A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301795(P2008−301795)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年7月24日掲載 掲載アドレス http://nrife.fra.affrc.go.jp/H20/_seika_index.html http://nrife.fra.affrc.go.jp/seika/H20/2008/2008−6.pdf
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度農林水産技術会議 先端技術を活用した農林水産研究高度化事業「カンパチ種苗の国産化及び低コスト・低環境負荷型養殖技術の開発」(産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(504432725)タナカ漁網株式会社 (5)
【出願人】(508351691)
【Fターム(参考)】