説明

真偽判別可能な印刷物及びその該印刷物の認証方法

【課題】 本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の貴重印刷物に、偽造防止用として施す真偽判別可能な印刷物及び該印刷物の認証方法に関する。
【解決手段】 基材上に任意の形状を有する画像を備え、画像は、複数の領域を有し、複数の領域は、曲線を含む万線で形成され、曲線を含む万線は、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、選択された画線幅と選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成され、複数の領域は、領域ごとに、選択された画線幅及び選択された非画線幅が同一であり、曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼では一定の濃度に視認され、曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合に、あらかじめ定められた周波数成分が抽出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の貴重印刷物に、偽造防止用として施す真偽判別可能な印刷物及び該印刷物の認証方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の印刷物において偽造、変造防止策は重要な要素である。これら印刷物の偽造、変造防止策は主に幾何学模様を多用化した図柄をデザインに用いる方法と、印刷物に対し何らかの手段により不可視情報を埋め込み、何らかの手段によって不可視情報を読み取る方法がある。
【0003】
前者の代表的な例は、証券印刷物等のデザインに広く用いられている地紋、彩紋模様、レリーフ模様等の幾何学模様を用いたものであるが、前記幾何学模様を用いた偽造、変造防止策としては、図1(a)に示されたような基本的に一定の画線幅による曲画線の集合によって模様を構成しているものがある。国内の銀行券製造所では、彩紋模様と呼ばれているもので、海外の銀行券製造所においてはギロッシュ(Guilloche)とも呼ばれている。こうした線表現の模様は、対模造性に優れ、19世紀より紙幣等で偽造防止策を意図して使われている。
【0004】
一方、図1(b)に示されたように、印刷画線が一定領域を成すベタ部分の集合によって構成した幾何学模様がある。国内の銀行券製造所では、それが凹版印刷方式によって形成された場合に白彩紋模様と呼ばれることもある。
【0005】
これらの模様は印刷物のデザイン等の意匠性を加味し、かつ写真製版装置による抽出又は複写機では再現されにくい色彩を用いたり、複雑な画線構成にして複写機及びスキャナの走査入出力に対し、モアレを発生させたりすることで偽造防止策としての役割を高めているが、最近では高機能化した写真製版装置又は複写機の出現によって充分な偽造、変造防止効果をもたらしていないという欠点がある。
【0006】
また、図1(c)に示されたように、オフセット印刷方式で形成された場合には篭目彩紋模様と呼ばれることもある。この図1(c)に示されたような模様は、海外の銀行券製造所においてはシムルタン模様とも呼ばれ、こうした面表現の模様は、オフセット印刷が発達した20世紀に始まったものである。
【0007】
図1(c)に示された模様の偽造防止を意図するところは、複数の図形領域のそれぞれの輪郭が、数百μmの一定の距離を保って印刷され、かつ複数の図形領域が異なる色によって印刷されていることにある。すなわち、高い刷り合せ精度を有さないと同じ模様が表現できないため、複製防止効果があるとされてきた。しかし、今日ではCTP等の高い精度を有する製版・印刷方法が開発され、高い刷り合せ精度を応用した偽造防止策としての効果はすでに失われている。
【0008】
そこで、このような問題の解決法として、真偽判別において大量かつ高速処理できる機械読み取り検査方法が広く採用されている。今日の印刷物の機械読み取り検査方法は、磁性インキ、赤外線反射吸収インキ、蛍光インキ等の機能性インキや、印刷媒体を形成する繊維、材質、薬品類等による素材を検知するといったものが支流であるが、これらの技術は、人間に感知できない特定の電磁波等に起因するものであり、印刷物を作製する上で材料適性に依存するものが多く、生産コスト面において経済性の見合う製品にしか付与することができない。
【0009】
また、印刷物の生産コストを特に考慮しない方法としては、可視できる一般印刷用のインキのような印刷材料が適用可能な印刷物上の模様に対する光学読み取り方法がある。比較的容易な光学読み取り方法としては、OCR、OMR、バーコード、二次元コード等が公知であるが、これらの光学読み取り方法で用いられる図形は何ら意匠性を備えておらず、既存製品に用いる場合は、デザイン、仕様の変更が要求される。
【0010】
また、これらの光学読み取り方法は広く市中に出回っている方法でもあり、符号が印刷画線として可視できるため、解読、改竄の危険性も予想され、偽造、変造防止策としては用いるには不十分である。
【0011】
さらに、同じく光学読み取り方法でデザイン等の意匠性を変えずに読み取り用情報を付与する方法として、一般に電子すかしと呼ばれる一連の技術がある。電子すかしは、コンシールドイメージ、デジタルすかしとも呼ばれ、主な用途として、高機能化したコピー技術やDTP技術におけるドキュメントファイルもしくはその印刷物に著作権情報を埋め込む技術である。印刷物における公知の代表的な技術としては、周波数利用型と呼ばれる方法がある。
【0012】
電子すかしは複製物においてもその周波数特性の劣化が少ないと言われ、最近では著作権保護の目的でインターネット上に配信されるデジタルイメージに施されることが多い。また、印刷物においてもその効果を奏することから、ポスターなどに利用されることも多くなってきた。
【0013】
電子すかしが最も効果を発揮できるのは、連続階調(写真階調)模様である。連続階調(写真階調)模様は多値画像データであるから、十分な冗長度が存在するので周波数利用型に限らず画素置換型、画素空間利用型、量子化誤差拡散型等の多くの方法が提案され、文献、特許出願も数多く、今日注目を集めている技術の一つである。
【0014】
しかしながら、有価証券に用いられる地紋、彩紋模様、レリーフ模様等の曲画線の集合模様は基本的に二値画像であるため冗長度が少なく、電子すかしの埋め込みは困難とされ、結果として読み取り用信号が弱いために読み取り精度が低いのが課題となっている。
【0015】
そこで、本発明者らは、「真偽判別可能な印刷物及び判別方法、並びに該印刷物への情報の埋め込み方法」(特許文献1)、「真偽判別可能な印刷物及び判別方法、並びに該印刷物への情報の埋め込み方法」(特許文献2)及び「印刷物並びに該印刷物の認証方法」(特許文献3)により、地紋、彩紋模様のような自由な曲線群から成る印刷画線を、機械的に識別することを特徴とする印刷物を既に出願している。しかし、これらの発明は図1(a)に示された線表現による彩紋模様のみに適用される技術であるため、図1(b)の通称白彩紋模様や、図1(c)の篭目彩紋模様に示されたような面表現の模様に適用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特願2001−1519号公報
【特許文献2】特願2002 −50606号公報
【特許文献3】特願2005−096758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上述の点に鑑みなされたもので、証券用線画等から構成されている証券類等の芸術性を有する印刷物において、人間が視覚で認識できないレベルで証券用線画に変調を与えることにより、その美術的な効果を損なうことなく情報を埋め込むことを目的としている。また、従来の情報埋め込み、読み取り技術において使用されている情報の信号をより強くするために、印刷画線が一定領域を成すベタ部分に、等差数列的なピッチを成す万線処理を施すことにより達成するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の真偽判別可能な印刷物は、基材上に任意の形状を有する画像を備え、前記画像は、複数の領域を有し、前記複数の領域は、曲線を含む万線で形成され、前記曲線を含む万線は、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、前記選択された画線幅と前記選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成され、前記複数の領域は、前記領域ごとに、前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅が同一であり、前記曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼では一定の濃度に視認され、前記曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合にあらかじめ定められた周波数成分が抽出されることを特徴とする。
【0019】
本発明の真偽判別可能な印刷物は、基材上に任意の形状を有する画像を備え、前記画像は、複数の領域を有し、前記複数の領域は、曲線を含む万線で形成され、前記曲線を含む万線は、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、前記選択された画線幅と前記選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成され、前記複数の領域の少なくとも一つの領域は、前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅の双方が、他の領域の前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅と異なり、前記複数の領域は、前記領域ごとの単位面積当たりの画線面積率が略等しく、前記曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼では一定の濃度に視認され、前記曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合にあらかじめ定められた周波数成分が抽出されることを特徴とする。
【0020】
本発明の真偽判別可能な印刷物の前記曲線を含む万線は、同心円万線又は同心円万線の一部を抽出した曲画線であることを特徴とする。
【0021】
本発明の真偽判別可能な印刷物の前記画像は、前記肉眼では一定の濃度に視認される前記曲線を含む万線で形成された領域の濃度と、等しい濃度で形成されたベタ印刷から成るダミー領域を更に備えて成ることを特徴とする。
【0022】
本発明の真偽判別可能な印刷物の前記画像は、彩紋画線を更に備えて成ることを特徴とする。
【0023】
本発明の真偽判別可能な印刷物の認証方法であって、プロセッサ部により、前記曲線を含む万線で形成された領域を含む画像データを取得し、画像処理部により、前記画像データに周波数解析を行い、周波数成分を生成し、判定部により、前記周波数成分とあらかじめ定められた周波数成分とを比較照合することで前記真偽判別可能な印刷物の認証を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上の構成から成る本発明によれば、人間の視覚では認識できないが、スキャナ、複写機等のデジタル機器では埋め込んだ情報を検知することが可能であり、デジタル機器上でフーリエ変換、特定周波数の抽出、逆フーリエ変換という演算を行うことにより、埋め込んだ情報を解析することが可能となる。
【0025】
また、本発明に用いられる画線では、単色印刷においてもその情報を人間の視覚で認識することは不可能であることから、印刷画線の持つ美術的な効果を減じることもない。
【0026】
また、従来の技術で述べた不可視な情報を埋め込み、読み取る技術と比べ、規則性の高い画線に規則性の高い分断処理を与えているために、その情報の信号強度は非常に大きなものとなり、読み取りが容易となる。
【0027】
これらの効果を有するので、本発明は、銀行券、証券類、各種証明書及び重要書類等に与えた不可視な情報をデジタル機器による読み取りとその情報に基づくデジタル機器の作動停止等のアクションを起動させるのに有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】証券類、紙幣等に使用されている証券用線画の例を示した図である。
【図2】三つの図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンを示した説明図である。
【図3】三つの図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで一つの強度ピークが示された説明図である。
【図4】三つの図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで二つの強度ピークが示された説明図である。
【図5】三つの図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで三つの強度ピークが示された説明図である。
【図6】三つのリング状の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、さらにフーリエ変換して得られたFFTパターンで一つの強度ピークが示された説明図である。
【図7】三つのリング状の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、さらにフーリエ変換して得られたFFTパターンで二つの強度ピークが示された説明図である。
【図8】三つのリング状の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、さらにフーリエ変換して得られたFFTパターンで三つの強度ピークが示された説明図である。
【図9】複数の図形領域のうち、一種類の図形領域群を有する模様構成図である。
【図10】複数の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで一つの強度ピークが示された説明図である。
【図11】複数の図形領域のうち、二種類の図形領域群を有する模様構成図である。
【図12】複数の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで二つの強度ピークが示された説明図である。
【図13】複数の図形領域のうち、三種類の図形領域群を有する模様構成図である。
【図14】複数の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、更にフーリエ変換して得られたFFTパターンで三つの強度ピークが示された説明図である。
【図15】文字・数字等のテキストをから成る三種類の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、さらにフーリエ変換して得られたFFTパターンで三つの強度ピークが示された説明図である。
【図16】五角形を構成する線を基に、同一の画線幅を有する直線及び曲線で構成する線群の描画方法を示された説明図である。
【図17】任意の図形領域に等差数列をなす直線及び曲線で構成した三種類の図形領域を有する印刷物を光学式スキャナにて画像入力し、さらにフーリエ変換して得られたFFTパターンで三つの強度ピークが示された説明図である。
【図18】真偽判別可能な印刷物の認証方法を示す図である。
【図19】真偽判別可能な印刷物の画像に彩紋を施した例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の実施の形態を実施例に基づいて図面を参照して以下詳細に説明する。証券類、紙幣等に使用されている証券用線画は、図1に示されたような曲線又は直線から成る画線が複数本集合して幾何学的なデザインで構成されている。このような証券用線画を構成する要素となる画線を本発明では細画線という。
【0030】
また、図1(a)に示された線表現の模様については、先行技術によって細画線を機械的に識別することが可能であるが、図1(b)又は図1(c)に示された面表現の模様については機械的に認識することができなかった。そこで、面表現の模様において所望の空間周波数を備えるために細画線化を施した。その原理について単純な図形の例で説明する。
【0031】
例えば、図2(a)に示された模様は、印刷物1上に同じ印刷色で印刷された三つの図形領域1a、1b、1cを、光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。図2(b)は、図2(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。なお、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図2(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図2に示された模様構成では、空間周波数に大きな特徴はみられない。
【0032】
図3(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上にある図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1aを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。さらに、図形領域1b及び図形領域1cが、図形領域1aと見た目の濃度が同じ印刷色で印刷されたものである。図3(b)は、図3(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図3(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図3(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1が見られる。これは、間隔d1が逆空間上に現れたものである。FFTパターン上の強度ピークの逆空間距離については、画像入力に関わる各種パラメータ、すなわち、印刷物1上にある図形領域1aが50μm幅の画線を100μmの間隔d1を実空間距離としたとき、画像の一辺のピクセル数と、画像の解像度がわかっていれば、数1によっても容易に算出できる。
【0033】
【数1】

【0034】
数1の算出でも示されるように、図3(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図3(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。
【0035】
図4(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上にある図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、図形領域1a及び図形領域1bを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。さらに、図形領域1cが、図形領域1a及び図形領域1bと見た目の濃度が同じ印刷色で印刷されたものである。図4(b)は、図4(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図4(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図4(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2とが見られる。
【0036】
数1の算出でも示されるように、図4(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図4(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図4(a)に示された図形領域1bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図4(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。
【0037】
図5(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上にある図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、図形領域1cは、65μm幅の画線を130μmの間隔d3から成る同心円万線で配置され、図形領域1a、図形領域1b及び図形領域1cを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図5(b)は、図5(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図5(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図5(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2と逆空間距離q3とが見られる。
【0038】
数1の算出でも示されるように、図5(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図5(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図5(a)に示された図形領域1bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図5(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。さらに、図5(a)に示された図形領域1cに備わる同心円万線の画線の間隔d3がもたらす強度ピークの逆空間距離q3は、図5(c)に示されているようにFFTパターンの中心から167ピクセルの位置に現れる。
【0039】
このように、任意の図形領域に同心円万線を含むことによって、該同心円万線の空間周波数の特徴が、FFTパターンにおける強度ピークとして示される。なお、同心円万線の画線の間隔によって、強度ピークの位置が異なる。このFFTパターンにおける強度ピークの位置の違いによって、模様の違いを識別することができる。なお、図形領域群1a、図形領域群1b及び図形領域群1cに用いられる印刷色はすべて同色でも良いし、それぞれ異なっていても良い。また、印刷色を何ら限定するものではない。さらに、図形領域群の数を何ら限定するものではない。
【0040】
例えば、図6(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上には円状の3つの図形領域を有しており、中心の図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1aを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。リング状の図形領域1b及び図形領域1cにおいても、同じく50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1aを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図6(b)は、図6(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図6(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図6(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1が見られる。
【0041】
数1の算出でも示されるように、図6(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図6(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。
【0042】
図7(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上には円状の3つの図形領域を有しており、中心の図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域1aを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。一方、リング状の図形領域1b及び図形領域1cにおいては、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、図形領域1b及び図形領域1cを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図7(b)は、図7(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図7(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図7(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2とが見られる。
【0043】
数1の算出でも示されるように、図7(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図7(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図7(a)に示された図形領域1bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図7(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。
【0044】
図8(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上には円状の3つの図形領域を有しており、中心の図形領域1aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、リング状の図形領域1bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、リング状の図形領域1cは、65μm幅の画線を130μmの間隔d3から成る同心円万線で配置され、図形領域1a、図形領域1b及び図形領域1cを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図8(b)は、図8(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図8(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図8(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2と逆空間距離q3とが見られる。
【0045】
数1の算出でも示されるように、図8(a)に示された図形領域1aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図8(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図8(a)に示された図形領域1bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図8(b)に示されるようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。さらに、図8(a)に示された図形領域1cに備わる同心円万線の画線の間隔d3がもたらす強度ピークの逆空間距離q3は、図8(c)に示されているようにFFTパターンの中心から167ピクセルの位置に現れる。
【0046】
このように、任意の図形領域に同心円万線を含むことによって、該同心円万線の空間周波数の特徴が、FFTパターンにおける強度ピークとして示される。なお、同心円万線の画線の間隔によって、強度ピークの位置が異なる。このFFTパターンにおける強度ピークの位置の違いによって、模様の違いを識別することができる。なお、図形領域群1a、図形領域群1b及び図形領域群1cに用いられる印刷色はすべて同色でもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、印刷色を何ら限定するものではない。さらに、図形領域群の数を何ら限定するものではない。
【0047】
本発明は、面表現の図形領域において規則性を有する複数本の細画線を有することにより、スキャナ、複写機等のデジタル機器による高解像度入力画像では識別可能であるが、人間にとって視覚で認識困難な微細かつ規則性を有する部分を付与し、得られた印刷物に対してデジタル機器上で証券用線画の間隔の相関を分析し、印刷物に埋め込まれた情報を識別することで真偽判別が可能であり、また、その情報に基づき偽造等に利用する複写機等デジタル機器の動作停止等のアクションを可能とするものである。
【0048】
(1)実施の形態1
本実施の形態1は、同心円万線を含む図形領域が、任意の領域形状と配置を有していても効果を奏する例である。本実施の形態1について、図面を用いて詳細に説明する。
【0049】
上述のように、図1(b)で示された模様は面表現から成る模様の一例で、印刷画線が一定領域を成すベタ部分の集合によって構成した幾何学模様から成り、白彩紋模様と呼ばれることもある。また、図1(c)で示された模様は面表現から成る模様の一例で、篭目彩紋模様、シムルタン模様とも呼ばれ、こうした面表現の模様は、紙幣等では古くから使われてきた模様である。例えば、図9の複数の図形領域を有する模様構成図に示されたように、図形領域群2aは、図1(c)で示された模様のすべてを含んでいる。図10(a)は、図9に示された模様構成の印刷物1を、光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上に篭目状に配置された図形領域群2aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域群2aを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。また、同心円万線の中心は図10(a)に示された模様全体の中心としているが、同心円万線の中心がどこにあろうと本発明の効果を阻害するものではない。
【0050】
数1の算出でも示されるように、図10(a)に示された図形領域群2aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図3(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。
【0051】
図11の模様構成図は、図1(c)で示された模様において、図形領域群2aと図形領域群2bとから成る2種類の図形領域群を含んでいる。図12(a)は、図11に示された模様構成の印刷物1を、光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された、1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上に篭目状に配置された図形領域群2aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、同じく篭目状に配置された図形領域群2aは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、図形領域群2a及び図形領域群2bを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。また、同心円万線の中心は図12(a)に示された模様全体の中心としているが、同心円万線の中心がどこにあろうと本発明の効果を阻害するものではない。図12(b)は、図12(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図12(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図12(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2とが見られる。
【0052】
数1の算出でも示されるように、図12(a)に示された図形領域群2aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図12(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図12(a)に示された図形領域群2bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図12(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。
【0053】
図13の模様構成図は、図1(c)で示された模様において、図形領域群3aと図形領域群3bと図形領域群3cとから成る3種類の図形領域群を含んでいる。図14(a)は、図13に示された模様構成の印刷物1を、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上に篭目状に配置された図形領域群3aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、図形領域群3bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、図形領域群3cは、65μm幅の画線を130μmの間隔d3から成る同心円万線で配置され、図形領域群3a、図形領域群3b及び図形領域群3cを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図14(b)は、図14(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図14(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図14(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2と逆空間距離q3とが見られる。
【0054】
数1の算出でも示されるように、図14(a)に示された図形領域群3aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図14(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図14(a)に示された図形領域群3bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図14(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。さらに、図14(a)に示された図形領域群3cに備わる同心円万線の画線の間隔d3がもたらす強度ピークの逆空間距離q3は、図14(b)に示されているようにFFTパターンの中心から167ピクセルの位置に現れる。
【0055】
このように、任意の図形領域に同心円万線を含むことによって、該同心円万線の空間周波数の特徴が、FFTパターンにおける強度ピークとして示される。なお、同心円万線の画線の間隔によって、強度ピークの位置が異なる。このFFTパターンにおける強度ピークの位置の違いによって、模様の違いを識別することができる。なお、図形領域群3a、図形領域群3b及び図形領域群3cに用いられる印刷色はすべて同色でもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、印刷色を何ら限定するものではない。
【0056】
(2)実施の形態2
本実施の形態2は、同心円万線を含む図形領域が、文字であっても効果を発揮する例である。本実施の形態2について、図面を用いて詳細に説明する。
【0057】
図15の模様構成図は、文字・数字等のテキストを表した図形領域群3aと図形領域群3bと図形領域群3cとから成る3種類の図形領域群を含んでいるものであり、図15(a)は、図15に示された模様構成の印刷物1を、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上で英文字「A」及び数字「1」から成る図形領域群3aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る同心円万線で配置され、印刷物1上で英文字「B」及び数字「2」から成る図形領域群3bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る同心円万線で配置され、印刷物1上で英文字「C」及び数字「3」から成る図形領域群3cは、65μm幅の画線を130μmの間隔d3から成る同心円万線で配置され、図形領域群3a、図形領域群3b及び図形領域群3cを構成する同心円万線は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図15(b)は、図15(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図15(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図15(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2と逆空間距離q3とが見られる。
【0058】
数1の算出でも示されるように、図15(a)に示された図形領域群3aに備わる同心円万線の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図15(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図15(a)に示された図形領域群3bに備わる同心円万線の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図15(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。さらに、図15(a)に示された図形領域群3cに備わる同心円万線の画線の間隔d3がもたらす強度ピークの逆空間距離q3は、図15(b)に示されているようにFFTパターンの中心から167ピクセルの位置に現れる。
【0059】
このように、文字・数字等のテキストを表した図形領域に同心円万線を含むことによって、該同心円万線の空間周波数の特徴が、FFTパターンにおける強度ピークとして示される。なお、同心円万線の画線の間隔によって、強度ピークの位置が異なる。このFFTパターンにおける強度ピークの位置の違いによって、模様の違いを識別することができる。なお、図形領域群3a、図形領域群3b及び図形領域群3cに用いられる印刷色はすべて同色でもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、印刷色を何ら限定するものではない。さらに、図形領域群の数を何ら限定するものではない。
【0060】
(3)実施の形態3
図16(a)は、例えば五角形を構成する線を基に、五角形の周囲に等差数列を成し、かつ前記五角形と同一の画線幅を有する直線及び曲線で構成する線(以下、α線という)群の描画方法を示したものである。まず本考案の偽造防止模様を構成する線画は、図16に示す五角形の周囲に形成されたα線は定量連続拡張による線画、すなわち、五角形の線分の外周を半径rの円Rを用いて、五角形の各線分の外周と円Rの外周が接する状態で円Rを周回させる時に、円Rの中心が描く軌跡に等しい位置に得る。したがって、五角形より外向する線分α1、α2、α3の各々の間隔dは、半径rの円Rの中心が描く軌跡に等しくなる。したがって、α線を次々と増加することにより、三角形群から外向した等差数列をなす直線及び曲線で構成するα線群が形成され、更に外向する方向にα線を描画し続ければ、最も外側に位置するα線は正円に近似してくる。
【0061】
図16(b)は、円Rの半径rをr=130μmとした時の、前記α線群の描画方法に従い作成した模様である。作成された模様から分かるように、10個の頂点P1〜P10で構成される五角形に接する半径r=130μmの円Rの中心線が描く軌跡によって、等差数列を成す直線万線画と曲線万線画線が一体となって模様化される。
【0062】
図17(a)に示された模様は、印刷物1を光学式スキャナにて解像度1200dpiで画像入力された1024×1024ピクセルから成る8ビットのグレースケール画像である。印刷物1上にある図形領域4aは、50μm幅の画線を100μmの間隔d1から成る等差数列を成す直線及び曲線で構成するα線群が形成され、図形領域4bは、57μm幅の画線を113μmの間隔d2から成る等差数列をなす直線及び曲線で構成するα線群が形成され、図形領域4cは、65μm幅の画線を130μmの間隔d3から成る等差数列を成す直線及び曲線で構成するα線群が形成され、図形領域4a、図形領域4b及び図形領域4cを構成する等差数列を成す直線及び曲線で構成するα線群は細画線であるため目視では均一な濃度を保った面に見える。図17(b)は、図17(a)に示された模様をフーリエ変換して得られたFFTパターンである。図2と同様に、空間周波数の特徴をわかりやすく説明するため、図17(b)のFFTパターンの第IV象限には、周波数強度グラフを重ねて表示している。図17(b)の周波数強度グラフに示されたように、強度ピークの逆空間距離q1と逆空間距離q2と逆空間距離q3とが見られる。
【0063】
数1の算出でも示されるように、図17(a)に示された図形領域4aに備わる等差数列をなす直線及び曲線で構成するα線群の画線の間隔d1がもたらす強度ピークの逆空間距離q1は、図17(b)に示されているようにFFTパターンの中心から217ピクセルの位置に現れる。さらに、図17(a)に示された図形領域4bに備わる等差数列をなす直線及び曲線で構成するα線群の画線の間隔d2がもたらす強度ピークの逆空間距離q2は、図17(b)に示されているようにFFTパターンの中心から192ピクセルの位置に現れる。さらに、図17(a)に示された図形領域4cに備わる等差数列を成す直線及び曲線で構成するα線群の画線の間隔d3がもたらす強度ピークの逆空間距離q3は、図17(c)に示されているようにFFTパターンの中心から167ピクセルの位置に現れる。
【0064】
このように、任意の図形領域に等差数列を成す直線及び曲線で構成するα線群を含むことによって、該直線及び曲線の空間周波数の特徴が、FFTパターンにおける強度ピークとして示される。なお、等差数列をなす直線及び曲線で構成するα線群の画線の間隔によって、強度ピークの位置が異なる。このFFTパターンにおける強度ピークの位置の違いによって、模様の違いを識別することができる。なお、図形領域群4a、図形領域群4b及び図形領域群4cに用いられる印刷色はすべて同色でもよいし、それぞれ異なっていてもよい。また、印刷色を何ら限定するものではない。さらに、図形領域群の数を何ら限定するものではない。また、図形領域群(模様、画像)のデザインは、文字、数字、記号、絵柄等、特に限定されるものではない。
【0065】
本発明は、一定間隔の同心円万線又は等差数列をなす直線及び曲線で構成する線群の画線からなる目に見えない情報あるいは画像を埋め込む技術である。一方、今日のデジタル複写機による印刷用画像構成手段では、600dpi以下で演算されるのが一般的であるため、本実施の形態で示される画線構成は、複写物状ではベタの模様となってしまう。その結果、埋め込む情報を秘密情報とすることが可能となり、かつ偽造防止効果も向上する。
【0066】
曲線を含む万線で形成される図形領域が肉眼でベタ状に視認されるためには、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、選択された画線幅と選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成する必要がある。肉眼でベタ状に視認されるとは、画線と非画線が区別し難く、画線と非画線で形成した領域が肉眼で一定の濃度に視認されることをいう。なお、画線幅及び非画線幅の基準としているのは、生理学的な知見に基づく一般的な人の視力における分解能から導き出したものである。視力検査で使われるランドルト環視標では、一定条件(距離250mm、視力1.0)をもって単純換算した最小可読閾は、スリット幅で約73μmとされている。すなわち、30μm〜80μmの画線幅及び非画線幅が80μm以上であると、個々の画線が独立して見えてしまい、曲線を含む万線で形成された領域が肉眼でベタ状に視認できなくなる。また、高機能化したデジタル・イメージング処理等によって偽造者に複製されるおそれがあり、偽造防止効果が低下するためである。一方、30μm〜80μmの画線幅及び非画線幅が30μm以下であると、オフセット印刷方式での再現性に問題が生じる場合がある。すなわち、版面から印刷基材へのインキの転写においては、印刷圧がもたらす物理的な流動特性によって画線の膨張が避けられない(印刷業界ではドットゲインとも呼ばれている)。例えば画線の膨張が画線の周囲に10μm広がった場合に非画線幅が20μmで設計されていたならば、当然ながら画線同士が結合してしまう。これによって、一定間隔の同心円万線又は等差数列を成す直線及び曲線を表現できなくなるためである。また、前記選択された画線幅と前記選択された非画線幅の関係を2:1〜1:2としているのは、画線と非画線の違いを明瞭にし、空間周波数における周波数強度を高めるためである。
【0067】
さらに、複数の領域は、領域ごとの単位面積当たりの画線面積率を略等しくすると一層効果的である。この場合の略等しくとは、互いの領域の単位面積当たりの相対面積率が95%〜105%の範囲内のことである。また、領域の輪郭は、画線によって形成しても良い。ただし、相対面積率を略等しくするのは、一見して曲線を含む万線に情報が付与されているのを判断し難くさせ、さらに美観を良くさせるためであるための施策であり、印刷物に埋め込まれた情報を識別することに何ら影響は無い。よって、必ずしも複数の領域の相対面積率を略等しくしなくともよい。また、複数の領域はそれぞれ異なる印刷色であってもよい。
【0068】
上記構成にすることで、曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼ではベタ状に視認されるため、一見して曲線を含む万線に情報が付与されていると判断できないため、偽造防止効果に優れる。また、曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合にあらかじめ定められた周波数成分が抽出されるため真偽判別することが可能となる。
【0069】
真偽判別可能な印刷物の認証方法は、図18に示すように、プロセッサ部により、曲線を含む万線で形成された領域を含む画像データを取得し、画像処理部により、画像データに周波数解析を行い、周波数成分を生成し、判定部により、周波数成分とあらかじめ定められた周波数成分とを比較照合することで真偽判別可能な印刷物の認証を行うことが可能となる。
【0070】
周波数成分は、曲線を含む万線で形成された領域の成分であるため、従来よりもはっきりとした周波数成分が抽出することができるため、あらかじめ定められた周波数成分とを比較照合上で誤認識することがない。
【0071】
曲線を含む万線は、同心円万線又は同心円万線の一部を抽出した曲画線であることが好ましい。同心円万線又は同心円万線の一部を抽出した曲画線を用いることにより、はっきりとした周波数成分を得ることができる。
【0072】
真偽判別可能な印刷物に形成する画像は、曲線を含む万線で形成された肉眼ではベタ状に視認される領域の他に、肉眼ではベタ状に視認される曲線を含む万線で形成された領域の濃度と、等しい濃度で形成されたベタ印刷から成るダミー領域を更に備えて成ることが可能である。例えば、図3に示された図形領域1b及び図形領域1cは、図形領域1aに対するダミー領域である。また、図4に示された図形領域1cは、図形領域1a及び図形領域1bに対するダミー領域である。さらに、図19に示すように、図形領域5の他に線画模様Lを更に備えて成ることが可能である。本発明の真偽判別可能な印刷物は、ダミー領域又は線画模様を形成することで、偽造者は画像内に情報が埋め込まれていることが判断できないため、偽造防止効果に優れる形態となる。ただし、画像内に線画模様を形成する場合は、曲線を含む万線で形成された領域の空間周波数成分とは異なる空間周波数成分の線画模様とする必要がある。
【0073】
真偽判別可能な印刷物に形成する模様は、パステルカラーであることが好ましい。パステルカラーとは、彩度が低く明度の高い色を慣用的に指す用語であり、各種色標系における明確な基準は無いが、銀行券、株券、債券等の有価証券、各種証明書及び重要書類等の貴重印刷物に用いられる地紋模様では、複製され難いという効果によって古くからパステルカラーが用いられてきた。こうしたパステルカラーで模様を形成することによって、従来からある偽造防止を必要とされる製品に対してもデザイン的な調和が図れると同時に、古くからある偽造の手口にも、その防止策として有効に作用するものである。
【0074】
また、本発明の模様を構成する画線は、等差数列をなす曲線及び同心円万線が好ましい。もちろん、直線でも同様の効果を得られるが、空間周波数座標から逆空間距離を得る際、例えばFFTパターンでみた場合、低周波から高周波への表示は2次元座標軸の中心(0点)から全周囲に広がるように表示される。こうした空間周波数の算出方法では、等差数列をなす曲線及び同心円万線は、全周囲的に強いシグナルとなって現れ易いという特徴があり、例えば、図3(b)〜図8(b)に示されたFFTパターン上の第IV象限に表示した周波数強度グラフに見られるような、明確な強度ピークを知ることができるためである。なお、空間周波数の強度ピークは印刷色の明度によっても影響があり、一般的に明度が低いほど強度ピークが明瞭になるが、上記したようなパステルカラーにおいても十分な強度ピークを得ることができる。したがって、等差数列をなす曲線及び同心円万線で模様を構成することは、印刷物に埋め込まれた情報を識別することにおいても有利となる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態を実施例に基いて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、単色印刷のみならず、複数の色を用いた場合においても効果がまったく変わることはない。よって特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0076】
1 印刷物
1a 図形領域群
1b 図形領域群
1c 図形領域群
2a 図形領域群
2b 図形領域群
2c 図形領域群
3a 図形領域群
3b 図形領域群
3c 図形領域群
4a 図形領域群
4b 図形領域群
4c 図形領域群
5 図形領域群
d1 間隔
d2 間隔
d3 間隔
L 線画模様
P1〜10 頂点
q1 逆空間距離
q2 逆空間距離
q3 逆空間距離
R 円
r 半径
α 線群
α1〜3 線分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に任意の形状を有する画像を備え、
前記画像は、複数の領域を有し、
前記複数の領域は、曲線を含む万線で形成され、
前記曲線を含む万線は、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、前記選択された画線幅と前記選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成され、
前記複数の領域は、前記領域ごとに、前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅が同一であり、
前記曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼では一定の濃度に視認され、前記曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合にあらかじめ定められた周波数成分が抽出されることを特徴とする真偽判別可能な印刷物。
【請求項2】
基材上に任意の形状を有する画像を備え、
前記画像は、複数の領域を有し、
前記複数の領域は、曲線を含む万線で形成され、
前記曲線を含む万線は、30μm〜80μmの画線幅の中から選択された画線と、30μm〜80μmの非画線幅の中から選択された非画線が交互に配列され、前記選択された画線幅と前記選択された非画線幅の関係が2:1〜1:2の範囲で形成され、
前記複数の領域の少なくとも一つの領域は、前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅の双方が、他の領域の前記選択された画線幅及び前記選択された非画線幅と異なり、
前記複数の領域は、前記領域ごとの単位面積当たりの画線面積率が略等しく、
前記曲線を含む万線で形成された領域は、肉眼では一定の濃度に視認され、前記曲線を含む万線で形成された領域に対して周波数解析した場合にあらかじめ定められた周波数成分が抽出されることを特徴とする真偽判別可能な印刷物。
【請求項3】
前記曲線を含む万線は、同心円万線又は同心円万線の一部を抽出した曲画線であることを特徴とする請求項1又は2記載の真偽判別可能な印刷物。
【請求項4】
前記画像は、前記肉眼では一定の濃度に視認される前記曲線を含む万線で形成された領域の濃度と、等しい濃度で形成されたベタ印刷から成るダミー領域を更に備えて成ることを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれか一項記載の真偽判別可能な印刷物。
【請求項5】
前記画像は、彩紋画線を更に備えて成ることを特徴とする請求項1乃至4記載のいずれか一項記載の真偽判別可能な印刷物。
【請求項6】
請求項1乃至5記載のいずれか一項記載の真偽判別可能な印刷物の認証方法であって、
プロセッサ部により、前記曲線を含む万線で形成された領域を含む画像データを取得し、
画像処理部により、前記画像データに周波数解析を行い、周波数成分を生成し、
判定部により、前記周波数成分とあらかじめ定められた周波数成分とを比較照合することで前記真偽判別可能な印刷物の認証を行うことを特徴とする真偽判別可能な印刷物の認証方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−121247(P2012−121247A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−274719(P2010−274719)
【出願日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】