説明

真偽判別可能な情報担持体

【課題】 光源との角度に応じて観察される画像が変化する、真偽判別性に優れ、かつ、生産性に優れた偽造防止用情報担持体を提供する。
【解決手段】 鏡面光沢を有し、盛り上がりを有する画線によって、画線角度の異なりにより形成した第1の画像を備え、かつ、画線面積率の差異で形成した第2の画像を備えることで、拡散反射光と正反射光が混在する角度領域の観察では、第1の画像のみが視認され、拡散反射が支配的な観察角度領域の観察では第2の画像のみが視認される真偽判別可能な情報担持体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止効果を必要とするセキュリティ印刷物である銀行券、パスポート、有価証券、身分証明書、カード及び通行券等の貴重印刷物の分野において、特に、観察角度によって視認画像が変化する効果を付与した偽造防止用又は真偽判別用の情報担持体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティを要する貴重印刷物等には、新しい意匠性を持ち、偽造防止効果の高い偽造防止要素及び印刷技術が望まれている。このため、観察角度によって画像が変化するホログラム等の光学的なセキュリティ要素を貼付したものが多く存在するようになった。
【0003】
前述のような光学的な変化を示す偽造防止印刷物は、一般的に高価で特殊な装置及び材料を必要とするため、付加的な製造工程が必要になり、コスト的にも負荷が高くなるといった問題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、以上のような問題点を解決するために、一般的で、かつ、比較的安価な材料及び簡単な印刷手段を使用し、特定の観察角度において、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、全く別の情報に変化する偽造防止用情報担持体に係る発明を出願している(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1による偽造防止用情報担持体は、汎用の安価なアルミニウム粉末又は真鍮粉末を成分とした市販の銀色又は金色インキを用いて、一般的な印刷手段により、ホログラム的な効果を呈するセキュリティ画像を、直接的に印刷物の基材に付与する構成を特徴とし、コストパフォーマンス及び機械的な流通強度が優れた偽造防止及び真偽判別印刷物である。
【0006】
この特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、一つ目の効果として、基材上に適切な面積の疎密差を持つ二つの光輝性材料層により第1の画像が形成されているとき、拡散光が支配的な観察角度領域においては、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、第1の画像を容易に認識することが可能になる。一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、二つの光輝性材料層の両者から観察者の目に到達する反射光量が共に極端に大きくなるため、第1の画像を視認することが難しくなる。
【0007】
さらに、特許文献1で開示された偽造防止用情報担持体は、二つ目の効果として、前述した面積の極めて密な光輝性材料層に形成された第1の画像と、その光輝性材料に比較して可視光吸収性の高い色材料を用いて形成された面積の極めて疎な色材料層を重ねた層による第2の画像は、拡散光が支配的な観察角度領域において、観察者の目に到達する反射光量が互いに小さくなるため、構成成分は異なっているにもかかわらず、二つの層からの色調差及び明るさの差を視認することが難しく、同じ程度の刺激として人の目に観察されるため、第2の画像は視認できない。
【0008】
一方、正反射光が支配的な観察角度領域では、光輝性材料のみの層から観察者の目に到達する反射光量が極端に大きくなるのに対して、可視光吸収性の高い色材料を光輝性材料層に重ねた層から観察者の目に到達する反射光量が相対的に小さくなるため、反射光量の差による色調差によって、第2の画像を容易に視認することが可能になる。
【0009】
また、本出願人は、平面配向性パール顔料を用いた盛り上がりのある画線を形成し、背景画像部とメッセージ画像部で画線角度を異なる構成とすることで、斜めから観察した場合にのみ、メッセージ画像部がポジからネガへ又はネガからポジへ変化して出現する効果を有する真偽判別可能な印刷物に関わる発明を出願している(例えば、特許文献2、特許文献3参照)。
【0010】
特許文献2及び特許文献3で開示された真偽判別可能な印刷物は、基材の表面に盛り上がりのある画線構造によって背景画像とメッセージ画像が形成され、かつ、背景画像の画線パターンとメッセージ画像の画線パターンは、異なる角度で形成されるために、拡散反射光が支配的な角度領域においてはメッセージ画像が肉眼にほとんど視認されず、拡散反射光から正反射光が支配的な角度領域に変化するに従って、盛り上がりを有する背景画像とメッセージ画像が入射光に対してそれぞれ異なった光の反射を成す構造となることから、メッセージ画像がネガ画像又はポジ画像として視認される効果を有する。
【0011】
【特許文献1】特許第3398758号公報
【特許文献2】特許第3718712号公報
【特許文献3】再公表特許W02003/013871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、特許文献1による発明は、二つの効果を重ね合わせることで、拡散光が支配的な観察角度領域においては第1の画像が視認でき、正反射光が支配的な観察角度領域においては第2の画像を確認できる偽造防止用情報担持体を形成できる。ただし、第1の画像を構成している光輝性材料層と第2の画像を構成している色材料層を、同一ピッチで精密に刷り合わせる必要がある。したがって、第1の画像と第2の画像の刷り合わせを常に適正な精度に管理しながら製造することが必要である。
【0013】
また、特許文献1記載の偽造防止用情報担持体を形成するためには、第1の画像を構成する光輝性材料層と、第2の画像を構成する色材料層が、拡散光が支配的な観察角度領域において同色(近似色)に見えるように、適切な面積率の疎密差を見極めなければならない。それには、可視光吸収性の高い色材料の色彩の種類と面積率を何通りにも変えて印刷し、第1の画像から第2の画像へ最適なスイッチ性が得られるような可視光吸収性の高い色材料の色彩と面積率を見極めるまでに多大な労力を必要とする。
【0014】
また、最適な画像のスイッチ性を得るために、可視光吸収性の高い色材料による第2の画像の面積率は、15〜30%の特定の範囲で形成されなければならない。さらに、第1の画像の極めて密な光輝性材料層の上に規則性を合せて印刷することから、第2の画像は、観察環境によっては視認性が低下する場合があり、二つの画像の明瞭なスイッチ効果を得るには若干の問題があった。
【0015】
特許文献2記載の真偽判別可能な印刷物は、斜めから観察した場合にメッセージ画像が光の入射角度に応じてネガ画像からポジ画像又はポジ画像からネガ画像に変化して出現するものの、真上から観察した場合には、メッセージ画像が認識できないだけでなく、メッセージ画像以外の有意味画像を認識させることもできない。すなわち、二つの異なる画像をスイッチさせることは不可能であった。
【0016】
また、特許文献3記載の真偽判別可能な印刷物において、特許文献2の印刷物の構造を用いて、観察者にメッセージ画像と相関のない有意味画像を視認させるためには、盛り上がりを有する画線を印刷する前に、あらかじめ低濃度のインキで第1の画像を形成しておく必要があった。また、低濃度の第1の画像と盛り上がりを有する画線によるメッセージ画像を鮮明にスイッチさせるために、メッセージ画像が視認される観察領域において第1の画像が消失しなければならず、そのため第1の画像は、明度が高い(淡い)画像とする必要があり、第1の画像の視認性を低く抑える必要があった。
【0017】
本発明は、人の目に認識される情報が、観察角度を変化させることによって、別の情報に明瞭に変化するとともに、カラー複写機では再現不可能な情報担持体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の情報担持体は、基材上に少なくとも二つの画像を備える情報担持体であって、その画像は、複数の画線群で構成され、画線群は、鏡面光沢を有するインキを用いて盛り上がりのある画線で形成されており、第1の方向に平行に配置された複数の画線において、第1の画線面積率を有する第1の画線群と、第1の方向と平行に配置された複数の画線において、第1の画線面積率とは異なる第2の画線面積率を有する第2の画線群と、第1の方向と異なる第2の方向に平行に配置された複数の画線において、第1の画線面積率と同じ画線面積率を有する第3の画線群と、第2の方向と平行に配置された複数の画線において、第2の画線面積率と同じ画線面積率を有する第4の画線群とを備え、第1の画像は、画像部と背景部とに区分けされ、第2の画像は、画像部と背景部に区分けされ、第1の画像の背景部は、第1の画線群と第2の画線群から成り、第1の画像の画像部は、第3の画線群と第4の画線群から成り、第2の画像の背景部は、第1の画線群と第3の画線群から成り、第2の画像の画像部は、第2の画線群と第4の画線群から成ることを特徴とする。
【0019】
本発明の情報担持体は、鏡面光沢を有するインキが、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及びコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の情報担持体は、鏡面光沢を有するインキに含まれる鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及び/又はコレステリック液晶顔料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする。
【0021】
本発明の情報担持体は、鏡面光沢を有するインキが、基材と異なる色を有していることを特徴とする。
【0022】
本発明の情報担持体は、鏡面光沢を有するインキが、着色顔料を含むことを特徴とする。
【0023】
本発明の情報担持体は、第1の画線面積率と第2の画線面積率との面積率の差異が、第1の画線面積率を有する第1の画線群及び第3の画線群と、第2の画線面積率を有する第2の画線群及び第4の画線群の画線幅の太細、画線ピッチの大小のいずれか、又はその両方によって形成されることを特徴とする。
【0024】
本発明の情報担持体は、第1の画線面積率と第2の画線面積率との面積率の差異が、10〜50%の範囲であることを特徴とする。
【0025】
本発明の情報担持体は、複数の画線群における第1の方向と第2の方向との角度差が5°以上であることを特徴とする。
【0026】
本発明の情報担持体は、第1の画線面積率の画線群を形成する第1の画線幅と第2の画線面積率の画線群を形成する第2の画線幅が、30〜1000μmの範囲であることを特徴とする。
【0027】
本発明の情報担持体は、鏡面光沢を有するインキによる画線の盛り上がり高さが、10〜150μmの範囲であることを特徴とする。
【0028】
本発明の情報担持体は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域において第1の画像が視認され、拡散反射光の観察角度領域において第2の画像視認されることを特徴とする。
【0029】
本発明の情報担持体は、第1の画像が少なくとも三つ以上の画像領域を有しており、画像領域を構成する第1の画線群及び第2の画線群の配置角度が、各領域同士、少なくとも5°以上異なっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、単一のインキでスイッチ画像を形成することから、第1の画像と第2の画像の間で自動的にメタメリズムが成立する。このことから、特許文献1記載の発明のように、光輝性材料層と色材料層が、拡散光領域において同色(近似色)に見えるように、色材料層の画像についての適切な面積の疎密差を見極める作業を必要としないため、容易に画線設計ができる。また、拡散光が支配的な観察角度領域における第2の画像の観察において、第1の画像が若干見えてしまうこともなく、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域においては、印刷された第2の画像から印刷された第1の画像へ明瞭に画像がスイッチする。
【0031】
本発明は、特許文献1記載の発明とは異なり、鏡面光沢を有するインキを用いて、盛り上がりを生じさせる印刷方法により画線を形成することから、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域において、潜像となる第1の画像がポジからネガ又はネガからポジへ濃淡反転する効果が加味されるため、高価な真偽判別装置を用いなくとも、視覚により誰でもその場で容易に真偽判別することができる。
【0032】
本発明は、特許文献2記載の発明とは根本的に異なり、インキの明度を低く(濃く)形成し、かつ、画線の太細や粗密によって任意の画像を形成することも可能であることから、潜像となる第1の画像とは全く別の有意味画像である第2の画像を同時に形成することが可能である。
【0033】
虹彩色パールに着色顔料を混合したインキ(以下「着色したパールインキ」という。)を用いて、本発明にかかわる情報担持体を形成した場合には、拡散反射領域から正反射領域にかけて、着色顔料の色彩と虹彩色パール顔料の干渉色が第1の画像に同時に反映されることから、第1の画像にカラーフリップフロップ性に優れた鮮やかな色彩変化を付与することが可能である。また、この場合、画線を着色するにもかかわらず、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域におけるパールの干渉効果は損なわれることはない。
【0034】
本発明は、特許文献1及び特許文献2に記載の発明のように、第1の画像と第2の画像を別々に印刷する必要がなく、1色刷りで形成可能であることから、当然のことながら刷り合わせ精度を全く必要とせず、生産性が極めて優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明の実施形態について図面を用いて説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための最良の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな形態が実施可能である。
【0036】
図1は、本発明の情報担持体(1)を示す図であり、基材(2)上に着色したパールインキによって約10μmの高さで盛り上がりのある、所定の一定ピッチ(0.4mm)の画線が形成されている。情報担持体(1)は、4種類の画線で形成されており、同一の画線が集合して画線群を形成している。4種類の画線は、画線角度が90°(縦方向)で画線が細い(0.15mm)画線(以下「縦方向細画線」といい、縦方向細画線の集合した画線群を、以下「第1の画線群」という。)と、画線角度が90°(縦方向)で画線が太い(0.20mm)画線(以下「縦方向太画線」といい、縦方向太画線の集合した画線群を、以下「第2の画線群」という。)と、画線角度が0°(横方向)で画線が細い(0.15mm)画線(以下「横方向細画線」といい、横方向細画線の集合した画線群を、以下「第3の画線群」という。)と、画線角度が0°(横方向)であり、画線が太い(0.20mm)画線(以下「横方向太画線」といい、横方向太画線の集合した画線群を、以下「第4の画線群」という。)がある。
【0037】
この構成によって、情報担持体(1)には、図2及び図3に示すような二つの潜像画像が形成でき、具体的には、第1の画像(桜模様)は、第1の画線群と第2の画線群が背景部、第3の画線群と第4の画線群が画像部となり、一方、第2の画像(JPN画像)は、第1の画線群と第3の画線群が背景部、第2の画線群と第4の画線群が画像部となる。なお、実施の形態では、第2の画像(JPN画像)は画線の太細を用いて説明しているが、同一の画線幅で背景部と画像部の画線ピッチを変えて画線面積率に差異を設けても良い。
【0038】
(第1の画像)
本発明において、観察角度に応じて第1の画像(桜模様)と第2の画像(JPN画像)がスイッチする効果を説明するため、まず第1の画像の視認原理について説明する。視認原理を分かりやすくするために、図1の情報担持体(1)から画線の太細による面積率の差異をなくし、すべて同一の画線幅と所定の一定ピッチ(0.4mm)で第1の画像(桜模様)のみを表した図4の情報担持体(7)を用いて説明する。
【0039】
図4に示す情報担持体(7)は、約10μmの盛り上がりのある画線を、表1に示すパール顔料を含むインキを用いてスクリーン印刷方式で形成しており、背景部を構成する第1の画線角度を成す第1の画線群7aと、画像部を構成する第2の画線角度を成す第3の画線群7bから成っている。
【0040】
表1に示すインキは、干渉色が金色の虹彩色パール顔料に、黒色の着色顔料を微量加えて着色したパールインキとしたものである。着色したパールインキ中の着色顔料に黒色や濃い色を有する着色顔料を用いることで、形成した画線が正反射した場合にパールの干渉色以外の色を吸収し、結果として、パールの干渉色をより強調させる効果を発揮させることが可能である。この着色したパールインキで形成された画線は、パールの干渉効果が目視できない拡散反射が支配的な観察領域では、単に黒色として観察される。
【0041】
【表1】

【0042】
盛り上がりを有し、画線角度の異なるこの二つの画線群が、一定方向から入射する光に対して、観察角度に応じて色彩が変化する状態を測定するために、図5(a)のように、第1の画線群7a(ピッチ0.4mm画線幅0.15mm)に対して角度45°で光源8から光を入射し、画線方向に対して直角方向に受光角度‐20°から80°までのL*、a*、b*の値と、図5(b)のように、第3の画線群7b(ピッチ0.4mm画線幅0.15mm)に対して角度45°で光源8から光を入射し、画線方向に対して平行方向に受光角度‐20°から80°までのL*、a*、b*の値を測定した。L*、a*、b*の値は、変角分光測色システムGCMS−4型〔村上色彩技術研究所製〕を使用して測定した。
【0043】
測定の結果は、図6のグラフに示すとおりである。第1の画線群7aに対して直角方向に受光して測定した値は、 L1*、a1*、b1*、第3の画線群7bに対して平行方向に受光して測定した値は、L2*、a2*、b2*である。画線ピッチや画線幅が全く同一な画線であっても、画線角度が異なっていることで、明度、彩度及び色相が異なって観察される受光角度があることがわかる。
【0044】
受光角度による色相の差異をわかりやすく説明するため、L1*、a1*、b1*を基準として、L2*、a2*、b2*の色差ΔEを算出したのが図7のグラフである。
【0045】
本明細書においては、受光角度−20°〜0°の拡散反射光が支配的な観察角度領域を「観察角度領域A」、受光角度45度±5の正反射光が支配的な観察角度領域を「観察角度領域C」とし、「観察角度領域A」と「観察角度領域C」を除いた拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域を「観察角度領域B」と定義し、それぞれの観察角度領域を模式的に示すと図8の通りとなる。
【0046】
また、観察角度領域Bは、画線角度に応じて変化するが、この例における観察角度領域Bは、20°±20°及び70°±20°である。光源(8)から入射角度45°で情報担持体(1)に光が入射した場合、それぞれの観察角度領域を模式的に示すと図8のとおりとなる。
【0047】
観察者の視点が図8に示す視点(9)から情報担持体(1)を観察する場合は、拡散反射光が支配的な観察角度領域Aにあり、観察者が視点(10)から情報担持体(1)を観察する場合には、正反射光と拡散反射光が混在する観察角度領域Bにあり、観察者が視点(11)から情報担持体(1)を観察する場合は、観察者の視点は正反射光が支配的な観察角度領域Cにあると言える。
【0048】
図7のグラフから、画線角度の異なる画線で第1の画像を潜像画像として形成した場合には、観察角度領域Aと観察角度領域Cでは、第1の画線群7aと第3の画線群7bの色差ΔEの差が小さいため潜像化したままであるが、観察角度領域Bにおいて、第1の画線群7aと第3の画線群7bの色差ΔEが大きくなり、第1の画像(桜模様)が顕像化し、背景部の第1の画線群7aと画像部の第3の画線群7bの差が視認されることがわかる。
【0049】
以上のように、画線角度の異なる画線の組合せで形成された第1の画像(桜模様)は、観察角度領域A及び観察角度領域Cでは視認されず、観察角度領域Bのみで視認される結果となる。
【0050】
図4に示す情報担持体(7)の画線構成で、着色したパールインキを用いて盛り上がるように形成された第1の画像は、観察角度領域Aにおいて図9(a)に示すような濃淡のない画像として観察され、観察角度領域Bにおいては、図9(b)及び図9(c)に示すように、桜模様がポジからネガ又はネガからポジに濃淡反転しながら黒色から金色へ、金色から黒色へ鮮やかに変化する。図6のグラフに示す測定データは、画像部が常にポジ画像として観察されている。ただし、これは測定器が作り出す特異的な環境におけるデータであり、実際には我々が生活する一般的な観察環境おいては測定器と異なり多光源であったり、少なくとも多数の反射光が存在する環境であり、多くの場合、画像部と背景部、いずれの画線に対しても直角に近い角度を成して入射する光が存在している。このように通常の環境で観察した場合には、観察角度領域Bの中で印刷物を傾けることによって、背景部を形成する画線の明度が画像部の明度を上回った場合に、画像部はネガとして観察される。よって、通常の環境で印刷物を傾けて観察した場合には、観察角度領域Bにおいて、画像部がネガからポジ又はポジからネガへの濃淡反転が観察される。
【0051】
(第2の画像)
次に、本発明において、観察角度に応じて第1の画像(桜模様)と第2の画像(JPN画像)がスイッチする効果を説明するための第二段階として、画線の太細による面積率の差異の組合せにより有意味画像が形成された第2の画像(JPN画像)が、観察角度領域AからCまでのそれぞれの観察角度領域で、どのように視認されるかを説明する。視認原理を分かりやすくするために、図1の情報担持体(1)から画線角度の異なりを無くし、全て同一方向の画線で第2の画像(JPN画像)を構成した図10に示す情報担持体(12)を用いて説明する。
【0052】
図10に示す情報担持体(12)は、所定の一定ピッチ(0.4mm)の盛り上がりのある縦方向の画線群をスクリーン印刷方式で形成しており、第2の画像(JPN)の背景部を構成する第1の画線群12a(0.15mm)と、第2の画像(JPN)の画像部を構成する第2の画線群12b(0.20mm)から成っている。インキは、第2の画像を形成する第1の画線群12aと第2の画線群12bによる粗密差の視認性を高めるため、表1に示すように、黒色顔料を加えた着色したパールインキとした。
【0053】
盛り上がりを有し、画線幅の異なるこの二つの画線群が、一定方向から入射する光に対して、観察角度に応じて色彩が変化する状態を測定するために、図11(a)のように、第1の画線群12a(ピッチ0.4mm、画線幅0.15mm)に対して角度45°で光源1から光を入射し、画線方向に対して直角に受光角度−20°〜80°までのL1*、a1*、b1*の値と、図11(b)のように,第2の画線群12b(ピッチ0.4mm、画線幅0.20mm)に対して角度45°で光源1から光を入射し、同様に画線方向に対して直角に受光角度−20°〜80°までのL1*、a1*、b1*の値を測定した。L1*、a1*、b1*の値は、変角分光測色システムGCMS−4型(村上色彩技術研究所製)を使用して測定した。
【0054】
測定の結果は、図12のグラフに示すとおりであり、画線幅0.15mmの第1の画線群12aを測定した値はL1*、a1*、b1*、画線幅0.20mmの第2の画線群12bを測定した値はL1*、a1*、b1*である。いずれの画線もパールインキの干渉効果によって受光角度による明度や彩度、色相の変化はあるものの、画線角度が異なる前述の二つの第1の画線群7aと第3の画線群7bを比較した結果(図6)のような画線群の間の顕著な差異はなく、第1の画線群12aと第2の画線群12bを比較した結果(図12)では、受光角度に応じて一緒に色が変化するため、同じ色として視認される。
【0055】
色相の異なりをわかりやすく説明するため、L1*、a1*、b1*を基準として、L3*、a3*、b3*の色差ΔEを算出したのが図13のグラフである。受光角度における色差ΔEの変動は、4〜18の変動範囲であり、色差ΔEが4以上あることから、画像部と背景部が同程度の色相であっても、面積率の差異によって、すべての観察領域においてJPN画像が視認されることを示している。
【0056】
この結果から、画線の太細による面積率の差異の組み合わせにより有意味画像が形成された第2の画像(JPN画像)を単独で形成した場合には、背景部と画像部でわずかに濃淡反転したり、若干視認性が上がる観察角度領域が存在するものの、基本的にはすべての観察角度領域において、図14に示すようなJPN画像として目視で視認されるだけのコントラストを有して存在していることがわかる。
【0057】
(スイッチ効果)
図4の第1の画像(桜模様)のみの情報担持体(7)は、画線角度の異なる第1の画線群(7a)と第3の画線群(7b)の組み合わせにより第1の画像(桜模様)を形成していることから、観察角度領域A及び観察角度領域Cでは、画像部と背景部の色差ΔEが低い値を示していることから桜模様を視認しづらく、観察角度領域Bにおいては、画像部と背景部の色差ΔEが最大で100程度の高い値を示すことから、観察角度領域Bでのみ第1の画像(桜模様)が視認される。
【0058】
また、図10の第2の画像(JPN画像)のみの情報担持体(12)は、画線の太細による面積率が異なる第1の画線群(12a)と第3の画線群(12b)の組み合わせで第2の画像(JPN画像)を形成しているため、すべての観察領域において画像部と背景部の色差ΔEが4から18の範囲を示すことから、全ての観察角度領域において第2の画像(JPN画像)が視認される。
【0059】
このことから、図1に示す情報担持体(1)のように、第1の画像の構成と第2の画像の構成を同じ画像領域の中で合成した場合、すべての観察角度領域において第2の画像(JPN画像)が視認されるが、観察角度領域Bでのみ第1の画像の色差ΔEが第2の画像を大きく上回り、第1の画像が支配的に視認される。以上の効果によって、第1の画像から第2の画像にスイッチする情報担持体を得ることができる。
【0060】
(合成画像の形成)
次に、第1の画像と第2の画像を同じ画像領域の中で合成し、図1に示した情報担持体(1)を形成して、スイッチする効果を具体的に説明する。
図1に示した情報担持体(1)は、縦方向太画線、縦方向細画線、横方向太画線及び横方向細画線の4種類の画線が集合した四つの画線群の組み合わせによって形成される。
【0061】
具体的には、垂直方向にピッチ0.40mm、画線幅0.15mmで形成された縦方向細画線、垂直方向にピッチ0.40mm、画線幅0.20mmで形成された縦方向太画線、水平方向にピッチ0.40mm、画線幅0.15mmで形成された横方向細画線、水平方向にピッチ0.40mm、画線幅0.20mmで形成された横方向太画線であり、縦方向細画線が集合した第1の画線群(3)は、図15に示す画像領域を形成し、縦方向太画線が集合した第2の画線群(4)は、図16に示す画像領域を形成し、横方向細画線が集合した第3の画線群(5)は、図17に示す画像領域を形成し、横方向太画線が集合した第4の画線群(6)は、図18に示す画像領域を形成している。面積率の差異を成す画線の太細によって図2に示す第2の画像が形成されており、画線角度の異なり(垂直及び水平)によって、図3に示す第1の画像が形成されている。なお、これらの図15〜図18までの画像は、実際には一つの画像として形成されて単一の版面に焼き付け、同一のインキを用いて図1の情報担持体(1)を形成するものであり、本説明において、図15〜図18において各画像領域を別々に示しているのは、視認原理を明らかにするためである。
【0062】
以上の画線の構成で、表1に示す配合のスクリーンインキを用いて市販のコート紙にスクリーン印刷を行った。図19に第1の画線群(3)が形成する図15に示した画像領域を基準とし、受光角度を−20°から80°まで変化させた場合のそれぞれの画線における色差ΔEの変化を記す。図19の折れ線13は、第1の画線群(3)が形成する図15に示した画像領域を基準とした場合の、第2の画線群(4)が形成する図16に示した画像の色差を示し、図19の折れ線14は、第3の画線群(5)が形成する図17に示した画像の色差を示し、図19の折れ線15は、第4の画線群(6)が形成する図18に示した画像の色差を示している。
【0063】
図19のグラフから、観察角度領域Aにおいて、折れ線14の色差ΔEは1.6と小さな値であり、折れ線13の色差と折れ線15の色差は、7.0と相対的に大きな値となっている。
【0064】
拡散反射光と正反射光が混在した観察角度領域Bにおいて、折れ線13の色差は、約10であるが、折れ線14の色差と折れ線15の色差は、60から100と相対的に非常に大きな値となっている。
【0065】
以上のことから、観察角度領域Aにおいて、第1の画線群(3)が形成する図15と、第3の画線群(5)が形成する図17は、その差がほとんど知覚できない程度の視認性となっており、逆に第2の画線群(4)が形成する図16と第4の画線群(6)が形成する図18は、図15及び図17と比較して相対的に高く、かつ、図16と図18は同じ程度の視認性で認識される。よって、図15と図17は重なり合って「JPN」の背景部として認識され、図16と図18も、図15と図17とは異なるやや強い視認性で、同じく画像同士が重なりあって「JPN」の画像部として認識され、図2に示す第2の画像「JPN」が目視される。
【0066】
また、観察角度領域Bにおいて、第1の画線群(3)が形成する図15と、第2の画線群(4)が形成する図16は、相対的に低い視認性となり、逆に第3の画線群(5)が形成する図17と第4の画線群(6)が形成する図18は、第1の画線群及び第2の画線群と比較して相対的に高く、かつ、第2の画線群と第4の画線群は、同じ程度の視認性で認識される。よって、第1の画像群と第2の画線群は、「桜」の背景部として認識され、第3の画線群と第4の画線群も、第1の画線群と第2の画線群とは異なる極めて強い視認性で、同じく「桜」の画像部として認識され、図3に示す第1の画像の「桜」が目視上視認される。
【0067】
以上のように、単独で形成した場合には、第2の画像自体は、観察角度領域Bにおいて消失する効果はないものの、第1の画像と組み合わせて形成することによって、第1の画像の観察角度領域Bにおける極めて強い発現効果によって視覚的に隠蔽され、目視上、消失したかのような効果を得ることができる。結果として観察角度領域Aでは第2の画像のみが出現し、観察角度領域Bでは第1の画像のみが出現するスイッチ効果を実現することが可能となっている。以上が、本発明の情報担持体において画像がスイッチする原理である。
【0068】
図20(a)〜(c)は、本発明のスイッチ効果を図示したものであり、図20(a)は、観察角度領域Aにおいて情報担持体(1)を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、図20(b)及び図20(c)は、観察角度領域Bにおいて情報担持体(1)をフリップさせて観察した場合に、ポジからネガ又はネガからポジに濃淡反転しながら視認される画像である。ポジの場合には、第1の画像は、パールの干渉色である金色が主色相となり、その他の領域は、着色顔料の黒色で観察され、ネガの場合には、逆に第1の画像が黒色となり、その他の領域は、金色に観察される結果となり、第1の画像に単なるパールの干渉色の強弱のみならず、着色顔料の色とパールの干渉色の混色による鮮やかな色彩効果が付与されている。
【0069】
観察角度領域Cでは、第2の画像(JPN画像)が観察されるものの、その明度は極めて高いうえに、第1の画像(桜模様)の出現角度と極めて密接しているため、十分に注意して観察しなければその出現を確認することはできない。
【0070】
(インキの着色力と画線幅の関係)
観察角度領域Aにおける第2の画像(JPN画像)の視認性と、観察角度領域Bにおける第1の画像(桜模様)の視認性は、インキの着色力(インキ中の着色顔料のコンテントや着色顔料の反射濃度等)と画線幅の太細の影響を強く受ける。図1に示した情報担持体(1)の図柄を用いて、第2の画線群(4)と第4の画線群(6)をピッチ0.40mm、画線幅0.30mmの画線で条件を固定して形成し、第1の画線群(3)と第3の画線群(5)は、ピッチ0.40mm、画線幅を0.10mm、0.15mm、0.20mm、0.25mmと条件を変化させた画線で形成し、かつ、パール顔料を20%配合し、着色顔料(クロモファインブラック)を1.0%、0.5%、0.25%、0%と配合割合を変えたインキを用いて形成した場合の、各観察角度領域における画像の目視評価の結果を表2及び表3に示す。表2は、拡散反射光が支配的な観察角度領域Aにおける第2の画像(JPN画像)の視認性の評価結果、表3は、拡散反射光と正反射光が混在した観察角度領域Bにおける第1の画像(桜模様)の視認性の評価結果である。評価は、◎は極めて視認しやすい、○は視認しやすい、△は視認しにくい、×は視認できない、という4段階評価とした。
【0071】
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
以上の結果が示すとおり、観察角度領域Aにおいては、着色顔料の配合割合が高く、かつ、第2の画線群(4)と第4の画線群(6)の間の画線幅と、第1の画線群(3)と第3の画線群(5)の間の画線幅の差異が大きいほど、第2の画像が視認しやすいという結果となる。また、拡散反射光と正反射光が混在した観察角度領域Bにおいては、着色顔料の配合割合が低く、かつ、第2の画線群(4)と第4の画線群(6)の間の画線幅と、第1の画線群(3)と第3の画線群(5)との間の画線幅の差異が小さいほど、第1の画像が視認しやすいという結果となった。
【0074】
この傾向はいずれの着色顔料やパール顔料を用いた場合にも共通の傾向であるものの、着色顔料の着色力やパール顔料の反射特性によって最適な条件は異なることから、使用する顔料に応じて、この相反する結果を両立可能な条件を見極め、画線幅や着色顔料の配合割合を決定する必要がある。また、パールに限らず、金インキや銀インキ等の鏡面光沢を有するインキにより本発明の情報担持体を形成した場合であっても同様である。
【0075】
この例において、第1の画線面積率で形成する第1の画線群及び第3の画線群は、ピッチ0.4mm、画線幅0.10〜0.25mmの範囲で形成していることから、第1の画線面積率は、約25〜63%となる。また、第2の画線面積率で形成する第2の画線群及び第4の画線群は、ピッチ0.4mm、画線幅0.3mmであることから、第2の画線面積率は75%である。よって、今回使用したインキを用いた場合には、第1の画線面積率と第2の画線面積率の差異は約12〜50%であり、この面積率の差異の範囲において、インキ中の着色顔料を適切な配合を見出すことにより、いずれもスイッチ性に優れた情報担持体を形成することが可能である。ただし、第1の画線面積率と第2の画線面積率の差異については、使用するインキよって最適な条件は異なることため、この範囲のみに制限されるものではないことは言うまでも無い。
【0076】
観察角度領域Aにおいて有意味な第2の画像を視認させるためには、インキ自体が基材と異なる色を有する必要がある。有色インキである金インキや銀インキ又は二色性パールインキ等の鏡面光沢を有するインキにより本発明の情報担持体を形成することが好ましい。
【0077】
また、仮に透明な虹彩色パール顔料を用いて形成している場合、市販されているスクリーン印刷方式の虹彩色パール顔料は、透明又は半透明と分類されている顔料であっても、実際に10〜20%の高い重量配合部でメジュームに混合した段階で、ほとんどのパール顔料を含んだインキは白から灰色となる。本発明を形成するための特に有効な画線幅は、30〜1000μm程度であることから、このような幅の画線をスクリーン印刷方式により、透明な虹彩色パール顔料を含んだインキで形成した場合には、基材が白色で、インキと同色であったとしても、インキが完全に透明な特性を有しない限り、第2の画像を目視可能な画像として形成できる。このことから、虹彩色パール顔料のみを含むインキでも本発明の情報担持体を形成することは可能である。ただし、虹彩色パール顔料のみで本発明の情報担持体を形成する場合、虹彩色パール顔料とともに着色顔料を混合したインキで形成する場合と比較すると、第2の画像の視認性は低下する。以上のことから、実際に本発明の情報担持体を作製するにあたっては、顧客が希望するデザインに応じて着色顔料の添加又は無添加を取り決め、拡散反射光が支配的な観察角度領域における第2の画像の視認性を調整することが好ましい。
【0078】
また、着色顔料と虹彩色パール顔料を混合して用いる場合、目視上のスイッチ効果及びパール効果を際立たせて見せる目的において、着色顔料の色は、黒色又はパール顔料の干渉色の補色、あるいは補色に近い色相が好ましい。パール顔料の干渉色に近い色で着色した場合でも、本発明の目的とするスイッチ効果は発現するものの、画像の色彩変化に乏しい印象を与えてしまうことから、スイッチを鮮やかに見せるためには好ましい形態ではない。
【0079】
本発明に使用するインキについて、パール顔料を使用する場合、二色性パール顔料や虹彩色パール顔料又はその他の鱗片状顔料を用いても良い。パール顔料の粒子の大きさは、使用する印刷方式に応じて選択するものであるが、1〜50μmが好ましく、平均粒径については5〜15μm程度が好ましい。このように、いずれのパール顔料を用いても良いが、より鱗片状顔料の配向性(リーフィング効果)を向上させるためには、10〜150μmの盛り上がっている線画の表面で顔料が配向するような処理を施すことが好ましい。具体的には、例えば特開2001−106937号公報に記載されたような撥水及び撥油性の表面処理を行うことで、印刷部の画線表面で顔料を配向させることができ、正反射光によるパールの干渉色をより鮮やかに出現させることが可能となる。本明細書に記載したパール顔料は、市販の顔料に対してすべて表面処理を行って用いている。
【0080】
また、印刷方式は、10〜150μmの盛り上がりのある画線を形成し、かつ、粒径の大きなパール顔料を使用する必要があることから、スクリーン印刷方式や凹版印刷方式が好ましい。この中でも、UV乾燥型のスクリーン印刷方式は、形成する画線の高さの自由度や使用するパール顔料の粒径の許容性から、より好ましい。
【0081】
(実施例1)
図21は、本発明の実施例1の情報担持体(16)であり、スイッチする二つの画像を、最良の形態で用いた図2の第2の画像(JPN画像)と図3の第1の画像(桜模様)としている。図22は、図21の第1の画線群(3’)と第2の画線群(4’)の黒囲い部分(17)の構成を拡大して表示したものである。画線の印刷は、表4に示すスクリーンインキを用いて行った。画線の高さは、実施の形態で説明した例と同様に約10μmである。
【0082】
【表4】

【0083】
図21を用いて説明すると、第1の画像(桜模様)の背景部となる第1の画線群(3’)と第2の画線群(4’)とは平行に形成されており、この二つの画線と、第1の画像(桜模様)の画像部となる第3の画線群(5’)と第4の画線群(6’)の画線は、画線角度を90°異ならせて形成される。
【0084】
また、第2の画像(JPN画像)の背景部と成る第1の画線群(3’)と第3の画線群(5’)は、ピッチ0.50mm、画線幅0.30mmの画線で形成し、第2の画像(JPN画像)の画像部と成る第2の画線群(4’)と第4の画線群(6’)は、ピッチ0.40mm、画線幅0.30mmの画線で形成している。
【0085】
情報担持体(16)は、第1の画像(桜模様)において、90°画線角度の異なる画線とするところは情報担持体(1)と同様であるが、第2の画像(JPN画像)においては、画線の太細ではなく、画線の粗密を用いて形成していることを特徴としており、画線の幅が第2の画像(JPN画像)の画像部と背景部で同じ太さであっても、ピッチによって画像部と背景部の面積率の差異を視認させることができる。
【0086】
実施例1において形成した情報担持体(16)の目視上の効果について、図23(a)〜(c)を用いて説明する。図23(a)は、角度領域Aにおいて情報担持体(16)を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色顔料が青色であることから、青色の画像として第2の画像(JPN画像)が主として認識される。図23(b)及び図23(c)は、観察角度領域Bにおいて情報担持体(16)をフリップさせて観察した場合に、ポジからネガ又はネガからポジに濃淡反転しながら視認される画像であり、第1の画像(桜模様)が青色から金色へ、金色から青色へと鮮やかに変化する。
【0087】
(実施例2)
図24は、本発明の実施例2の情報担持体(18)であり、スイッチする二つの画像は、実施の形態で用いた図2に示した第2の画像(JPN画像)と図3に示した第1の画像(桜模様)としている。図25は、図24の第1の画線群(3’’)と第2の画線群(4’’)の黒囲い部分(19)の構成を拡大して表示したものである。画線の印刷は、蒸着アルミ顔料を用いた銀色のUVスクリーンインキ(ウォールステンホルム社製 ミラシーン)にて行った。このインキは、実施例1のようにパール顔料を含まない、銀色に着色されたメタリック顔料である。画線の高さは、実施の形態で説明した例と同様に約10μmである。
【0088】
図24を用いて説明すると、第1の画像(桜模様)の背景部となる第1の画線群(3’’)と第2の画線群 (4’’)は平行に形成されており、この二つの画線と、第1の画像(桜模様)の画像部となる第3の画線群(5’’)と第4の画線群(6’’)は、画線角度が90°異なる。また、第2の画像(JPN画像)の背景部と成る第1の画線群(3’’)と第3の画線群(5’’)は、ピッチ0.45mm、画線幅0.25mmの画線で形成し、第2の画像(JPN画像)の画像部と成る第2の画線群(4’’)と第4の画線群(6’’)は、ピッチ0.40mm、画線幅0.30mmの画線で形成している。
【0089】
情報担持体(18)は、第1の画像(桜模様)を、画線角度が90°異なる画線を用いて形成することは最良の形態及び実施例1と同じであるが、第2の画像は、画線の太細と画線の粗密を同時に用いて形成することを特徴としており、画線の幅が第2の画像(JPN画像)の画像部と背景部において画線の太さを変え、さらに、ピッチによっても画像部と背景部の面積率の差異を視認させることで、より視認性を増している。
【0090】
実施例2において形成した情報担持体(18)の目視上の効果について、図26(a)〜(c)を用いて説明する。図26(a)は、観察角度領域Aにおいて情報担持体(18)を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、インキの物体色が銀色であることから、第2の画像(JPN画像)が主に灰色の画像として認識される。図26(b)及び図26(c)は、観察角度領域Bにおいて情報担持体(18)をフリップさせて観察した場合に、ポジからネガ又はネガからポジに明度のみが変化し、淡い灰色から濃い灰色に濃淡反転しながら視認される画像である。
【0091】
(実施例3)
図27は、本発明の実施例3の情報担持体(20)であり、スイッチする二つの画像を、図2に示した第2の画像(JPN画像)と図3に示した第1の画像(桜模様)としている。画線の印刷は、表5に示すスクリーンインキを用いて行った。画線の高さは、実施の形態で説明した例と同様に約10μmである。
【0092】
【表5】

【0093】
情報担持体(20)は、第2の画像を画線幅の太細によって形成し、第1の画像は、画線角度が90°角度の異なる2種類の画線のみを用いるのではなく、わずかに画線角度を変化させた複数種類の画線を用いて形成する例である。図2に示した第2の画像(JPN画像)と図3に示した第1の画像(桜模様)を用いて、図27に示す画線の構成により情報担持体(20)を形成した。
【0094】
図27を用いて説明すると、第2の画像(JPN画像)の背景部と成る第1の画線群(3’’’)と第3の画線群(5’’’)は、ピッチ0.40mm、画線幅0.20mmの画線で形成し、第2の画像(JPN画像)の画像部と成る第2の画線群(4’’’)と第4の画線群(6’’’)は、ピッチ0.40mm、画線幅0.30mmの画線で形成している。第1の画像(桜模様)の背景部と成る第1の画線群(3’’’)と第2の画線群 (4’’’)は平行に形成されているが、この二つの画線と、第1の画像(桜模様)の画像部と成る第3の画線群(5’’’)と第4の画線群(6’’’)の画線は、花びらAの領域(21)の画線角度を90°、花びらBの領域(22)の画線角度を60°、花びらCの領域(23)の画線角度を30°と、花びらの領域毎に30°、60°、90°と30°画線角度を変化させて画線を形成していることを特徴としている。
【0095】
実施例3において形成した情報担持体(20)の目視上の効果について、図28(a)〜(c)を用いて説明する。図28(a)は、観察角度領域Aにおいて情報担持体(20)を観察した場合に、目視上、視認される画像であり、着色顔料が黒色であることから、第2の画像(JPN画像)が主として黒色に認識される。図28(b)及び図28(c)は、観察角度領域Bにおいて、情報担持体(20)をフリップさせて観察した場合に、画像部と背景部がポジからネガ又はネガからポジに濃淡反転しながら視認された画像であり、ネガとポジの2階調の画像ではなく、背景部の画線角度とのズレに応じた階調の濃淡画像となり、より色彩変化に富んだ画像を表現することができる。
【0096】
表5に示すスクリーンインキにより作製した情報担持体(20)をフリップさせて観察した場合には、画線角度の異なる第1の画像(桜模様)が黒色から赤色へ、赤色から黒色へと鮮やかに変化するため、画線角度が90°異なる花びらAの領域(21)の画像が、背景部の色と濃淡反転した色を示すのに対し、花びらBの領域(22)や花びらCの領域(23)の画像は、赤色と黒色の中間調を示すこととなる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の実施の形態における情報担持体を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態における第2の画像を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態における第1の画像を示す図である。
【図4】第2の画像を除去し、画線角度の異なる第1の画像のみとした情報担持体を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態において画線角度の異なりによって変化する色彩を機械的に測定したときの、光源と画線角度の異なる画線と受光角度の位置関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態において画線角度の異なりによって変化する色彩を機械的に測定したときの、画線角度の異なる二つの画線の受光角度とそれぞれのL*、a*、b*の変化を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態において画線角度の異なりによって変化する色彩を機械的に測定したときの、二つの画線間の画線角度の異なりによって生じる受光角度別の色差ΔEの関係を示す図である。
【図8】情報担持体と光源と観察者の視点との位置関係による三つの観察領域を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態において、図4の構成で情報担持体を形成した場合に観察される画像を示す図である。
【図10】第1の画像を除去し、面積率の差異による第2の画像のみとした情報担持体を示す図である。
【図11】本発明の実施の形態において、画線面積率の差異(画線幅の大小)によって変化する色彩を、機械的に測定したときの光源と画線面積率の異なる画線と受光角度の位置関係を示す図である。
【図12】本発明の実施の形態において、画線面積率の差異によって変化する色彩を、機械的に測定したときの画線面積率の異なる二つの画線の受光角度と、それぞれのL*、a*、b*の変化を示す図である。
【図13】本発明の実施の形態において、画線面積率の差異によって変化する色彩を、機械的に測定したときの二つの画線間の画線面積率の異なりによって生じる受光角度別の色差ΔEの関係を示す図である。
【図14】本発明の実施の形態において、図10の構成で情報担持体を形成した場合に、観察角度に応じて観察される画像を示す図である。
【図15】本発明の実施の形態において、図1の情報担持体を形成する四つの画線群のうち、第1の画線群のみを示す図である。
【図16】本発明の実施の形態において、図1の情報担持体を形成する四つの画線群のうち、第2の画線群のみを示す図である。
【図17】本発明の実施の形態において、図1の情報担持体を形成する四つの画線群のうち、第3の画線群のみを示す図である。
【図18】本発明の実施の形態において図1の情報担持体を形成する4つの画線群のうち、第4の画線群のみを示す図である。
【図19】本発明の実施の形態において、図1の情報担持体を形成する四つの画線群のうち、第1の画線群を基準とした場合の第2の画線群から第4の画線群までの画像領域の受光角度別の色差ΔEを示す。
【図20】本発明の実施の形態において、図1の構成で情報担持体を形成した場合に観察される画像を示す図である。
【図21】本発明の実施例1における情報担持体を示す図である。
【図22】本発明の実施例1における情報担持体の一部画線構成を拡大して示す図である。
【図23】本発明の実施例1において、図21の構成で情報担持体を形成した場合に観察される画像を示す図である。
【図24】本発明の実施例2における情報担持体を示す図である。
【図25】本発明の実施例2における情報担持体の一部画線構成を拡大して示す図である。
【図26】本発明の実施例2において、図24の構成で情報担持体を形成した場合に観察される画像を示す図である。
【図27】本発明の実施例3における偽造防止用情報担持体を示す図である。
【図28】本発明の実施例3において、図27の構成で情報担持体を形成した場合に観察される画像を示す図である。す。
【符号の説明】
【0098】
1 本発明の実施形態の情報担持体
2 基材
3、3’、3’’、3’’’ 第1の画線群
4、4’、4’’、4’’’ 第2の画線群
5、5’、5’’、5’’’ 第3の画線群
6、6’、6’’、6’’’ 第4の画線群
7 第1の画像(桜模様)のみの情報担持体
7a 第1の画線群
7b 第3の画線群
8 光源
9、10、11 観察者の視点
12 第2の画像(JPN画像)のみの情報担持体
12a 第1の画線群
12b 第2の画線群
13 第1の画線群を基準とした場合の第2の画線群のΔE
14 第1の画線群を基準とした場合の第3の画線群のΔE
15 第1の画線群を基準とした場合の第4の画線群のΔE
16 実施例1の情報担持体
17 第1の画線群(3’)と第2の画線群(4’)の黒囲い部分
18 実施例2の情報担持体
19 第1の画線群(3’’)と第2の画線群(4’’)の黒囲い部分
20 実施例3の情報担持体
21 第1の画線群(3’’’)及び第2の画線群 (4’’’)と画線角度が90°異なる画線から成る花びらAの領域
22 第1の画線群(3’’’)及び第2の画線群 (4’’’)と画線角度が60°異なる画線から成る花びらBの領域
23 第1の画線群(3’’’)及び第2の画線群 (4’’’)と画線角度が30°異なる画線から成る花びらCの領域
A 拡散反射光が支配的な観察角度領域
B 拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域
C 正反射光が支配的な観察角度領域
L1* 画線幅0.15mmの画線に対して直角方向に受光し測定したL値
a1* 画線幅0.15mmの画線に対して直角方向に受光し測定したa値
b1* 画線幅0.15mmの画線に対して直角方向に受光し測定したb値
L2* 画線幅0.15mmの画線に対して平行方向に受光し測定したL値
a2* 画線幅0.15mmの画線に対して平行方向に受光し測定したa値
b2* 画線幅0.15mmの画線に対して平行方向に受光し測定したb値
L3* 画線幅0.20mmの画線に対して直角方向に受光し測定したL値
a3* 画線幅0.20mmの画線に対して直角方向に受光し測定したa値
b3* 画線幅0.20mmの画線に対して直角方向に受光し測定したb値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも二つの画像を備える情報担持体であって、
前記画像は、複数の画線群で構成され、
前記画線群は、鏡面光沢を有するインキを用いて盛り上がりのある画線で形成されており、
第1の方向に平行に配置された複数の画線において、第1の画線面積率を有する第1の画線群と、
前記第1の方向と平行に配置された複数の画線において、前記第1の画線面積率とは異なる第2の画線面積率を有する第2の画線群と、
前記第1の方向と異なる第2の方向に平行に配置された複数の画線において、前記第1の画線面積率と同じ画線面積率を有する第3の画線群と、
前記第2の方向と平行に配置された複数の画線において、前記第2の画線面積率と同じ画線面積率を有する第4の画線群とを備え、
第1の画像は、画像部と背景部とに区分けされ、第2の画像は、画像部と背景部に区分けされ、
第1の画像の背景部は、前記第1の画線群と前記第2の画線群から成り、
前記第1の画像の画像部は、前記第3の画線群と前記第4の画線群から成り、
第2の画像の背景部は、前記第1の画線群と前記第3の画線群から成り、
前記第2の画像の画像部は、前記第2の画線群と前記第4の画線群から成ることを特徴とする真偽判別可能な情報担持体。
【請求項2】
前記鏡面光沢を有するインキが、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及びコレステリック液晶顔料の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項3】
前記鏡面光沢を有するインキに含まれる鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料及び/又はコレステリック液晶顔料の配向性を向上させるために、顔料表面に撥水性及び撥油性を持たせる表面処理が施されていることを特徴とする請求項2に記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項4】
前記鏡面光沢を有するインキは、前記基材と異なる色を有していることを特徴とする請求項1乃至3記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項5】
前記鏡面光沢を有するインキが、着色顔料を含むことを特徴とする請求項1乃至4記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項6】
前記第1の画線面積率と第2の画線面積率との面積率の差異は、前記第1の画線面積率を有する前記第1の画線群及び前記第3の画線群と、前記第2の画線面積率を有する第2の画線群及び第4の画線群の画線幅の太細、画線ピッチの大小のいずれか、又はその両方によって形成されることを特徴とする請求項1乃至5記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項7】
前記第1の画線面積率と第2の画線面積率との面積率の差異は、10〜50%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至6記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項8】
前記複数の画線群が配置されている前記第1の方向と前記第2の方向との角度差が5°以上であることを特徴とする請求項1乃至7記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項9】
前記第1の画線面積率の画線群を形成する第1の画線幅と、前記第2の画線面積率の画線群を形成する第2の画線幅が30〜1000μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至8記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項10】
前記鏡面光沢を有するインキによる画線の盛り上がり高さが、10〜150μmの範囲であることを特徴とする請求項1乃至9記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項11】
前記第1の画像は、拡散反射光と正反射光が混在する観察角度領域において視認され、
前記第2の画像は、拡散反射光の観察角度領域において視認されることを特徴とする請求項1乃至10記載の真偽判別可能な情報担持体。
【請求項12】
前記第1の画像は、少なくとも三つ以上の画像領域を有しており、前記画像領域を構成する前記第1の画線群及び前記第2の画線群の配置角度が、各領域同士、少なくとも5°以上異なっていることを特徴とする請求項1乃至11記載の真偽判別可能な情報担持体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2009−149043(P2009−149043A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331269(P2007−331269)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】