説明

真空処理装置

【課題】荷電粒子流輸送用の輸送室の熱損傷、および、この輸送室での荷電粒子流の電力効率低下を簡易かつ適切に抑制できる真空処理装置を提供する。
【解決手段】真空処理装置100は、アノードおよびカソード間の放電により、荷電粒子流を形成できる荷電粒子流形成手段40と、荷電粒子流形成手段40から放出された荷電粒子流27を輸送する輸送室20と、輸送室20から放出された荷電粒子流27を用いて真空処理が行われる接地状態の導電性の真空処理室30と、を備える。そして、輸送室20が、導電性の第1壁部材20Cおよび第1壁部材20Cの内部に配された絶縁性の第2壁部材20Dを有しており、第2壁部材20Dの内部が、荷電粒子流27の輸送空間21になっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマガンからシートプラズマ変形室内に誘導された円柱状のプラズマを、当該変形室の外部から同磁極(例えばN極)を互いに対向させて強力な反発磁界を発生する永久磁石の対で挟むと、均一かつ高密度のシート状のプラズマ流(以下、「シートプラズマ」という)が形成できる(特許文献1参照)。
【0003】
そして、このシートプラズマをターゲットおよび基板が配された真空成膜室に導くと、シートプラズマ中の荷電粒子(正イオン)を用いてスパッタリングなどの真空成膜処理が行える(特許文献2参照)。
【0004】
ところで、シートプラズマ変形室を、絶縁材料で構成しても、導電材料で構成しても、以下の欠点がある。
【0005】
シートプラズマ変形室を絶縁材料で構成すると、永久磁石が作る磁界の影響により、シートプラズマがプラズマ成膜室の内壁に衝突して、シートプラズマ変形室に熱損傷が生じる場合がある。一方、シートプラズマ変形室を導電材料で構成すると、シートプラズマの電流がシートプラズマ変形室を介して接地状態の真空成膜室に流れて、シートプラズマの電力効率が低下する場合がある。
【0006】
そこで、シートプラズマ変形室および真空成膜室を絶縁させ、両者に互いに異なる電位を与える構造がすでに提案されており(特許文献3参照)、これにより、上述の欠点を解消できるとされている。
【特許文献1】特公平4−23400号公報
【特許文献2】特開2005−179767号公報
【特許文献3】特許2952639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の特許文献3に記載のシートプラズマ処理装置では、シートプラズマ変形室と真空成膜室とに異なる電位を個別に与える必要があり、シートプラズマ処理装置の電源の構成が複雑になる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、荷電粒子流輸送用の輸送室の熱損傷、および、この輸送室での荷電粒子流の電力効率低下を簡易かつ適切に抑制できる真空処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、アノードおよびカソード間の放電により、荷電粒子流を形成できる荷電粒子流形成手段と、
前記荷電粒子流形成手段から放出された前記荷電粒子流を輸送する輸送室と、
前記輸送室から放出された前記荷電粒子流を用いて真空処理が行われる接地状態の導電性の真空処理室と、を備え、
前記輸送室が、導電性の第1筒壁部材および前記第1筒壁部材の内部に配された絶縁性の第2筒壁部材を有しており、
前記第2筒壁部材の内部が、前記荷電粒子流の輸送空間になっている真空処理装置を提供する。
【0010】
以上の構成により、第2筒壁部材の絶縁性に基づいて輸送室を荷電粒子流に対してフローティングの状態に維持できる。その結果、荷電粒子流の電流が第1筒壁部材に流れ込むことが抑制されるので、荷電粒子流の電流ロスが少なくなり、輸送室での荷電粒子流の電力効率低下を防止できる。また、導電性の第1筒壁部材の放熱効果により、荷電粒子流の熱による絶縁性の第2筒壁部材の熱損傷の抑制も期待できる。
【0011】
また、本発明の真空処理装置では、同磁極同士が向き合って配された磁界発生手段の対を更に備え、前記輸送室は、前記磁界発生手段の対が作る磁界より、前記荷電粒子流形成手段から放出された荷電粒子流をシート状に変形できるように構成されてもよく、前記シート状の荷電粒子流が、前記輸送室から前記真空処理室に誘導されてもよい。
【0012】
更に、本発明の真空処理装置では、前記真空処理室および前記第1筒壁部材が電気的に接続されてもよい。そして、前記第1筒壁部材および前記真空処理室が一点接地されてもよい。
【0013】
以上の構成により、第1筒壁部材および真空成膜室の接地点が異なることに起因する、両者の接地電位差の発生を抑制し、ひいては、この接地電位差に因るノイズを低減できる。また、上述の接続構造では、例えば、真空成膜室の基板などに高周波を印加する場合であっても、第1筒壁部材および真空成膜室間において絶縁部が存在しないので、高周波電磁波のシールドが適切に行えるという利点がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子流輸送用の輸送室の熱損傷、および、この輸送室での荷電粒子流の電力効率低下を簡易かつ適切に抑制できる真空処理装置が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施形態によるスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【0017】
なお、ここでは、便宜上、図1(後述の図2でも同じ)に示す如く、プラズマ輸送の方向をZ方向にとり、このZ方向に直交し、かつ棒磁石24A、24B(後述)の磁化方向をY方向にとり、これらのZ方向およびY方向の両方に直交する方向をX方向にとって、本スパッタリング装置100(真空処理装置)の構成を述べる。
【0018】
本実施形態のスパッタリング装置100は、図1に示す如く、カソードK(後述)およびアノードA(後述)間の放電により、放電プラズマ流(荷電粒子流)を高密度に形成するプラズマガン40(荷電粒子流形成手段)と、このプラズマガン40に放電発生用の電力を供給できるプラズマガン電源50とを備える。
【0019】
上述のプラズマガン40は、図1に示すように、カソードユニット41と、一対の中間電極G1、G2とを備える。
【0020】
そして、カソードユニット41は、耐熱ガラス製の円筒状のガラス管41Aと、円板状の蓋部材41Bとを備えており、カソードユニット41の内部は、放電空間として機能している。このガラス管41Aは、適宜の固定手段(ボルトなど;図示せず)により、中間電極G1および蓋部材41Bとの間で気密に配されている。このため、中間電極G1の通孔(図示せず)を介して、放電空間で生成されたプラズマをカソードユニット41から外部に引き出すことができる。
【0021】
また、蓋部材41Bには、放電誘発用の熱電子放出が可能な六ホウ化ランタン(LaB6)製のカソードKが配置されている。また、蓋部材41Bには、放電電離用の放電ガス(例えば、アルゴンガス)を供給する手段(図示せず)が設けられている。
【0022】
上述のプラズマガン電源50は、図1に示すように、プラズマガン40に電力を供給できる電力発生部70と、各中間電極G1、G2のそれぞれに対応して配され、中間電極G1、G2を流れる電流を制限する抵抗素子R1、R2と、を備える。
【0023】
中間電極G1は、プラズマガン40の放電空間においてカソードKとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子R1を介して電力発生部70と接続されている。また、中間電極G2は、プラズマガン40の放電空間においてカソードKとの間で補助放電(グロー放電)を適切に維持できるよう、抵抗素子R2を介して電力発生部70と接続されている。
【0024】
このグロー放電においては、プラズマガン40の放電空間への荷電粒子(ここではAr+と電子)の供給が、Ar+のカソードKへの衝突時に起こる二次電子放出および電子によるアルゴン電離によりなされ、これにより、プラズマガン40の放電空間には、荷電粒子の集合体としての放電プラズマが形成される。その後、プラズマガン40では、カソードKの加熱で起こる熱電子放出に基づいた主放電(アーク放電)に遷移する。このように、プラズマガン40は、プラズマガン電源50に基づく低電圧かつ大電流のアーク放電により、カソードKとアノードAとの間に高密度の放電を可能にする、圧力勾配型ガンである。
【0025】
以上のようにして、Z方向の輸送中心に対して略等密度分布の円柱状のアーク放電プラズマ流(以下、「円柱プラズマ22」という)が、シートプラズマ変形室20の第1フランジ部20Aに形成される通路を介してシートプラズマ変形室20へ引き出される。
【0026】
次に、スパッタリング装置100のシートプラズマ変形室20の周辺構成について述べる。
【0027】
なお、シートプラズマ変形室20(シートプラズマ輸送室)は、図1に示すように、減圧可能なシートプラズマ輸送用の空間21(以下、「シートプラズマ輸送空間21」という)を有しており、このシートプラズマ変形室20の詳細な構成については後述する。
【0028】
このようなシートプラズマ変形室20の周囲には、このシートプラズマ変形室20を取り囲み、円柱プラズマ22のZ方向の推進力を発揮する第1電磁コイル23(空心コイル)が配設されている。なお、第1電磁コイル23の巻線には、カソードK側をS極、アノードA側をN極とする向きの電流が通電されている。
【0029】
また、この第1電磁コイル23のZ方向の前方側(アノードAに近い側)には、X方向に延びる一対の角形の棒磁石24A、24B(永久磁石;磁界発生手段の対)が、シートプラズマ変形室20(シートプラズマ輸送空間21)を挟むように、Y方向に所定の間隔を隔てて配設されている。これらの棒磁石24A、24BのN極同士が対向し合っている。
【0030】
第1電磁コイル23によりシートプラズマ輸送空間21に形成されるコイル磁界と、棒磁石24A、24Bによりシートプラズマ輸送空間21に形成される磁石磁界との相互作用に基づいて、円柱プラズマ22は、その輸送方向(Z方向)の輸送中心を含むXZ平面(以下、「主面S」という)に沿って拡がる、均一なシート状のプラズマ流(以下、「シートプラズマ27」という)に変形される。なお、以上の磁界によるシートプラズマ27の形成法はすでに公知である。よって、この詳細な説明は、ここでは省略する。
【0031】
このようにして、シートプラズマ27は、図1に示す如く、シートプラズマ変形室20の第2フランジ部20Bと真空成膜室30の壁部との間に形成されるスリット状の通路28を介して真空成膜室30へ引き出される。
【0032】
次に、スパッタリング装置100の真空成膜室30の構成について述べる。
【0033】
真空成膜室30は、シートプラズマ27中のAr+(アルゴン正イオン)の衝突エネルギによりターゲット35Bの材料(例えば銅)をスパッタ粒子として放出する、導電性(例えば、アルミ合金やステンレスなどの金属製)の成膜チャンバに相当する。この真空成膜室30は、図1に示すように、接地されており、成膜空間31を有する。また、この成膜空間31は、バルブ37により開閉可能な排気口からターボポンプなどの真空ポンプ36により真空排気される。これにより、この成膜空間31はスパッタリングプロセス可能なレベルの真空度にまで速やかに減圧される。
【0034】
本実施形態では、ターゲット35Bは、ターゲットホルダ35Aに装着された状態において、昇降装置(図示せず)の駆動力により成膜空間31を上下(真空成膜室30の中心軸方向)に移動できる。これにより、ターゲット35Bとシートプラズマ27との間の好適な距離が設定される。
【0035】
同様に、基板34Bは、基板ホルダ34Aに装着された状態において、昇降装置(図示せず)の駆動力により成膜空間31を上下(真空成膜室30の中心軸方向)に移動できる。これにより、基板34Bとシートプラズマ27との間の好適な距離が設定される。
【0036】
このようにして、ターゲット35Bおよび基板34Bが、シートプラズマ27の厚み方向に一定の好適な間隔をあけてシートプラズマ27を挟み、成膜空間31において同軸状に対向して配されている。
【0037】
また、本実施形態では、ターゲット35Bは、図1に示すように、直流または高周波のバイアス電源52により適宜の電力(例えば、直流電源であれば、−1000V程度の負電圧)が印加されている。
【0038】
このような電圧により、シートプラズマ27中のAr+がターゲット35Bに向かって引き付けられ、Ar+がターゲット35Bに衝突する。すると、この衝突エネルギにより、ターゲット35Bからスパッタ粒子が基板34Bに向かって放出される。
【0039】
また、基板34Bは、図1に示すように、直流または高周波のバイアス電源51により適宜の電力(例えば、高周波電源であれば、RF高周波電力)が印加されている。
【0040】
これにより、シートプラズマ27を横切る際にシートプラズマ27の作用により電離されたスパッタ粒子(例えばCu+)を、上述のRF高周波電力のセルフバイアスによって基板34Bに適切に引き込むことができる。
【0041】
次に、真空成膜室30の周辺の構成を説明する。
【0042】
真空成膜室30のプラズマガン40と反対側の側方には、アノードAが配置され、真空成膜室30の側壁とアノードAとの間には、シートプラズマ27の通路29が設けられている。
【0043】
アノードAは、プラズマガン40のカソードユニット41に対して所定の基準電位が与えられる。これにより、アノードAは、カソードKおよびアノードAの間のアーク放電に基づくシートプラズマ27中の荷電粒子(特に電子)を回収する役割を有している。
【0044】
また、アノードAの裏面(カソードKに対する対向面の反対側の面)には、アノードA側をS極、その反対側をN極とした永久磁石38が配されている。
【0045】
この永久磁石38のN極から出てS極に入る主面Sに沿った磁力線により、アノードAに向かうシートプラズマ27の幅方向(プラズマの拡がり方向)の拡散を抑えるようにシートプラズマ27が幅方向に収束される。その結果、シートプラズマ27の荷電粒子が、アノードAに適切に回収される。
【0046】
また、図1に示すように、第2電磁コイル32および第3電磁コイル33(いずれも空芯コイル)が互いに対をなして、真空成膜室30の成膜空間31を挟み、異磁極同士(ここでは、第2電磁コイル32はN極、第3電磁コイル33はS極)を向かい合わせて配置されている。第2電磁コイル32は、棒磁石24A、24Bと真空成膜室30との間のプラズマ輸送方向の適所に配置され、第3電磁コイル33は、真空成膜室30とアノード15との間のプラズマ輸送方向の適所に配置されている。
【0047】
これらの第1および第2電磁コイル32、33の対が作るコイル磁界(例えば10G〜300G程度)により、シートプラズマ27はプラズマの拡がり方向の拡散を適切に抑えるように整形される。
【0048】
次に、本発明の実施形態の特徴部であるシートプラズマ変形室20の構成について図面を参照しながら詳しく説明する。
【0049】
図2は、本発明の実施形態によるスパッタリング装置に用いるシートプラズマ変形室の一構成例を模式的に示した図である。図2(a)では、シートプラズマ変形室20をY方向(図1参照)から平面視したシートプラズマ変形室20の外観が示されている。図2(b)では、図2(a)のII−IIラインに沿ったシートプラズマ変形室20の断面が示されている。
【0050】
なお、シートプラズマ変形室20と真空成膜室30との間やシートプラズマ変形室20とプラズマガン40との間は、慣用の真空シール(Oリングなど)および締結手段を用いて気密に連結されているが、このような慣用手段の図示および説明は、ここでは省略する。
【0051】
図3は、図2の内側筒壁部材の斜視図である。但し、図3では、図示を簡略化する観点から、内側筒壁部材20Dの適所に形成された覗き窓V(後述)用の孔の図示は省略している。
【0052】
図2および図3に示すように、シートプラズマ変形室20は、導電性の部材と絶縁性の部材からなる2重構造の壁部を有しており、詳しくは、導電性(例えば、ステンレスなどの金属製)の外側筒壁部材20C(第1筒壁部材)と、この外側筒壁部材20Cの内面のほぼ全域を覆うように外側筒壁部材20Cの内部に配された絶縁性の内側筒壁部材20D(第2筒壁部材)とを備える。このため、図3に示すように、内側筒壁部材20Dの内部が、シートプラズマ輸送空間21になっている。
【0053】
以上の構成により、内側筒壁部材20Dの絶縁性に基づいてシートプラズマ変形室20をシートプラズマ27に対してフローティングの状態に維持できる。その結果、シートプラズマ27の電流が外側筒壁部材20Cに流れ込むことが抑制されるので、シートプラズマ27の電流ロスが少なくなり、シートプラズマ変形室20でのシートプラズマ27の電力効率低下を防止できる。
【0054】
ここで、本実施形態のスパッタリング装置100では、外側筒壁部材20Cおよび真空成膜室30は、互いに同電位となるように一体的に電気接続されている(絶縁部を介さずに直接に接続されている)。つまり、図1に示すように、両者が一点接地されている。
【0055】
これにより、外側筒壁部材20Cおよび真空成膜室30の接地点が異なることに起因する、これらの接地電位差の発生を抑制し、ひいては、この接地電位差に因るノイズを低減できる。また、上述の接続構造では、バイアス電源51、52に高周波電源を用いる場合であっても、外側筒壁部材20Cおよび真空成膜室30間において絶縁部が存在しないので、高周波電磁波のシールドが適切に行えるという利点がある。
【0056】
一方、内側筒壁部材20Dは、適宜の固定手段(図示せず)によって交換可能なように外側筒壁部材20Cの内側に配されている。これにより、真空成膜室30から通路28を通って逆流するスパッタ粒子が内側筒壁部材20Dの内面に付着して内側筒壁部材20Dの絶縁性が低下した場合、この内側筒壁部材20Dを容易に交換できる。
【0057】
なお、内側筒壁部材20Dは、必ずしも交換可能に構成されてなくてもよく、内側筒壁部材20Dを外側筒壁部材20Cの内面に接着剤などによって内張りさせてもよい。但し、この場合、スパッタ粒子が内側筒壁部材20Dに付着しないよう、真空成膜室30とシートプラズマ変形室20との間の適所に、スパッタ粒子進入防止用の防着板(図示せず)を設ける方が好ましい。
【0058】
また、内側筒壁部材20Dは、耐熱性が高く、かつ、水蒸気などのガス放出量が少ない絶縁材料によって構成されている。これにより、内側筒壁部材20Dは、プラズマの熱の影響を受け難くなり、シートプラズマ輸送空間21を良好な真空環境(高い真空度)に維持することができる。
【0059】
なお、このような絶縁材料として、耐熱性ガラスやセラミック(例えば、アルミナ)などを用いるとよい。
【0060】
また、図2に示すように、シートプラズマ変形室20は、主面S(XZ平面)に沿って扁平な矩形体の形態となっている。そして、シートプラズマ変形室20のZ方向の適所において、シートプラズマ変形室20のX方向の幅が拡大しており、これにより、シートプラズマ変形室20は、棒磁石24A、24Bの磁界によって円柱プラズマ22が主面Sに沿ってシート状に広がっても、シートプラズマ27が直接、シートプラズマ変形室20(内側筒壁部材20D)の内面に衝突し難くなるように構成されている。
【0061】
更に、シートプラズマ変形室20では、図2に示すように、複数箇所(ここでは、4箇所)にシートプラズマ変形室20内のシートプラズマ27の状態を目視観察可能な壁孔が形成されており、目視用フランジ部20Eに固定されたガラス製の覗き窓Vが、この壁孔を気密に覆っている。
【0062】
なお、図示を省略するが、シートプラズマ変形室20の外側筒壁部材20Cでは、適宜の冷却水通路を形成してもよい。すると、この冷却水通路に冷却水が循環することにより、シートプラズマ変形室20の外側筒壁部材20Cを適温に水冷できる。これにより、シートプラズマ27の熱による内側筒壁部材20Dの熱損傷や真空シール(例えば、Oリング;図示せず)の熱損傷を適切かつ充分に防止できる。
【0063】
以上のとおり、本実施形態のスパッタリング装置100は、アノードAおよびカソードK間の放電により、円柱プラズマ22を形成できるプラズマガン40と、N極同士が向き合って配された一対の棒磁石24A、24Bと、これらの棒磁石24A、24Bが作る磁界より、プラズマガン40から放出された円柱プラズマ22をシート状に変形できるシートプラズマ変形室20と、シートプラズマ変形室20から放出されたシートプラズマ27を用いてスパッタリングが行われる接地状態の導電性の真空処理室30と、を備える。
【0064】
そして、本実施形態のスパッタリング装置100では、シートプラズマ変形室20が、導電性の外側筒壁部材20Cと、この外側筒壁部材20Cの内部に交換可能に嵌め込まれた絶縁性の内側筒壁部材20Dと、によって構成され、内側筒壁部材20Dの内部が、シートプラズマ輸送空間21になっている。
【0065】
よって、上述のとおり、内側筒壁部材20Dの絶縁性に基づいてシートプラズマ変形室20をシートプラズマ27に対してフローティングの状態に維持できる。その結果、シートプラズマ27の電流が外側筒壁部材20Cに流れ込むことが抑制されるので、シートプラズマ27の電流ロスが少なくなり、シートプラズマ変形室20でのシートプラズマ27の電力効率低下を防止できる。特に、バイアス電源51、52に高周波電源を用いる場合には、適切な高周波電磁波のシールドの観点から外側筒壁部材20Cを接地することが好ましいので、接地状態の導電性の外側筒壁部材20Cがアノードとして機能しないよう、絶縁性の内側筒壁部材20Dを配設することが必須になると考えられる。
【0066】
また、導電性の外側筒壁部材20Cの放熱効果により、シートプラズマ27の熱による絶縁性の内側筒壁部材20Dの熱損傷の抑制も期待できる。特に、外側筒壁部材20Cに適宜の冷却構造を組み込むことにより、外側筒壁部材20Cの放熱効果を高めると、内側筒壁部材20Dの熱損傷が適切かつ充分に抑制できて都合がよい。
【0067】
更に、本実施形態のスパッタリング装置100では、真空処理室30および外側筒壁部材20Cは、互いに同電位となるように一体的に電気接続されている(つまり、両者が一点接地されている)。
【0068】
よって、上述のとおり、外側筒壁部材20Cおよび真空成膜室30の接地点が異なることに起因する、両者の接地電位差の発生を抑制し、ひいては、この接地電位差に因るノイズを低減できる。また、上述の接続構造では、バイアス電源51、52に高周波電源を用いる場合であっても、外側筒壁部材20Cおよび真空成膜室30間において絶縁部が存在しないので、高周波電磁波のシールドが適切に行えるという利点がある。
(変形例)
以上の実施形態のスパッタリング装置100では、シートプラズマ27を形成できるシートプラズマ変形室20の壁部を導電性部材および絶縁性部材の2重構造にする例を述べたが、本技術の適用範囲は、シートプラズマ変形室20の壁部に限らない。例えば、真空蒸着用の電子ビームを輸送する輸送室の壁部であっても、或いは、イオンビームスパッタリング(IBS)用のイオンビームを輸送する輸送室の壁部であっても、本技術を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、荷電粒子流輸送用の輸送室の熱損傷、および、この輸送室での荷電粒子流の電力効率低下を簡易かつ適切に抑制できる真空処理装置が得られる。
【0070】
よって、本発明は、例えば、シートプラズマを用いて真空処理を行うシートプラズマ処理装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態によるスパッタリング装置の一構成例を示した概略図である。
【図2】本発明の実施形態によるスパッタリング装置に用いるシートプラズマ変形室の一構成例を模式的に示した図である。(a)では、シートプラズマ変形室をY方向から平面視したシートプラズマ変形室の外観が示されている。(b)では、(a)のII−IIラインに沿ったシートプラズマ変形室の断面が示されている。
【図3】図2の内側筒壁部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0072】
20 シートプラズマ変形室
20A 第1フランジ部
20B 第2フランジ部
20C 外側筒壁部材
20D 内側筒壁部材
20E 目視用フランジ部
21 シートプラズマ輸送空間
22 円柱プラズマ
23 第1電磁コイル
24A、24B 棒磁石
27 シートプラズマ
28、29 通路
30 真空成膜室
31 成膜空間
32 第2電磁コイル
33 第3電磁コイル
34A 基板ホルダ
34B 基板
35A ターゲットホルダ
35B ターゲット
36 真空ポンプ
37 バルブ
38 永久磁石
40 プラズマガン
41 カソードユニット
41A ガラス管
41B 蓋部材
50 プラズマガン電源
51、52 バイアス電源
70 電力発生部
100 スパッタリング装置
A アノード
1、G2 中間電極
K カソード
1、R2 抵抗素子
S 主面
V 覗き窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノードおよびカソード間の放電により、荷電粒子流を形成できる荷電粒子流形成手段と、
前記荷電粒子流形成手段から放出された前記荷電粒子流を輸送する輸送室と、
前記輸送室から放出された前記荷電粒子流を用いて真空処理が行われる接地状態の導電性の真空処理室と、を備え、
前記輸送室が、導電性の第1筒壁部材および前記第1筒壁部材の内部に配された絶縁性の第2筒壁部材を有しており、
前記第2筒壁部材の内部が、前記荷電粒子流の輸送空間になっている真空処理装置。
【請求項2】
同磁極同士が向き合って配された磁界発生手段の対を更に備え、
前記輸送室は、前記磁界発生手段の対が作る磁界より、前記荷電粒子流形成手段から放出された荷電粒子流をシート状に変形できるように構成されており、
前記シート状の荷電粒子流が、前記輸送室から前記真空処理室に誘導される請求項1に記載の真空処理装置。
【請求項3】
前記真空処理室および前記第1筒壁部材が電気的に接続されている請求項1または2に記載の真空処理装置。
【請求項4】
前記第1筒壁部材および前記真空処理室が一点接地されている請求項3に記載の真空処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−111897(P2010−111897A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284162(P2008−284162)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】