説明

真空断熱材用無機繊維マットの製造方法

【課題】 取り扱い性に優れ、かつ製品状態である真空断熱材から放出されるホルムアルデホドの極めて少ない真空断熱材用無機繊維マットの製造方法を提供する。
【解決手段】 この真空断熱材用無機繊維マットの製造方法は、塩基性触媒下で、フェノール類1モルに対してホルムアルデヒド3.0〜4.5モルを反応させて、レゾールを得るレゾール形成工程と、前記レゾールの固形分100質量部に対し、尿素の固形分を0〜5質量部、アミノシランカップリング剤の固形分を0.05〜0.5質量部、及び水を添加してバインダーを得るバインダー調合工程と、無機繊維100質量部に対し、前記バインダーを固形分が0.5〜3.0質量部となるように無機繊維に付与するバインダー付与工程と、前記バインダー付与工程後の無機繊維を加熱硬化する加熱硬化工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空断熱材用無機繊維マットの製造方法に関し、更に詳しくは、取り扱い性に優れ、真空断熱材とした際に優れた熱性能を有する真空断熱材用無機繊維マットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫や低温コンテナ、住宅用建材等には、従来から種々の断熱材が用いられており、特に、断熱性能の優れた断熱材として、断熱性のコア材を外装体内に封入し、内部を真空排気した構成の真空断熱材が使用されている。
【0003】
そして、真空断熱材用の断熱芯材として、断熱効果の高いガラスウールやロックウールなどの無機繊維マットが広く採用されており、例えば、下記特許文献1には、無機繊維と有機バインダーとが所定の圧力で圧縮されて硬化された構成の無機繊維マットと、ガス吸着材とが、金属箔のラミネートされた樹脂フィルムで外包され、内部が真空化された真空断熱材について開示されており、該真空断熱材は無機繊維に有機バインダーを付与硬化させた無機繊維マットを芯材として用いている。
【0004】
一方、有機バインダーとしてフェノール樹脂系バインダーを用いる場合、バインダーの主成分としてレゾールの水性分散液が一般的に用いられている。このレゾールは、一般に熱や触媒等を加えることにより硬化し、不融不溶のフェノール樹脂となるが、樹脂の構造中にホルムアルデヒド成分を含有するため、樹脂中の未反応のホルムアルデヒドが真空断熱材用無機繊維マット中に残留することがある。また、一旦硬化したレゾールが熱、湿気や紫外線等によって分解され、ホルムアルデヒドが発生することがある。よって、これらのホルムアルデヒドが真空断熱材用無機繊維マットから微量放出されることになる。
【0005】
そこで、ホルムアルデヒドの放出量を抑制する方法として、下記特許文献2には、ホルムアルデヒドの捕捉剤として、事前にバインダーとして尿素樹脂及び尿素を添加することによって放出ホルムアルデヒド量を減少させる断熱材用バインダー組成物が開示されている。
【0006】
更に、下記特許文献3には、縮合生成物が液体であり、遊離フェノール含量が0.5%以下で、遊離ホルムアルデヒド含量が3%以下であり、少なくとも1000%の希釈可能であるフェノール、ホルムアルデヒドおよび尿素の塩基性触媒の存在下での縮合生成物を主体とするガラス繊維のサイジング用組成物が開示されている。
【0007】
また、下記特許文献4には、レゾールと、尿素等の窒素化合物とを含む無機繊維断熱材用の水系バインダーが開示されており、遊離フェノール含量が2%以下で、遊離ホルムアルデヒド含量が2%以下であり、レゾールは、フェノール1モルに対してホルムアルデヒド2〜2.5モルを反応させて得られ、その数平均分子量が400以下であることが開示されている。
【特許文献1】特開2001−108186公報
【特許文献2】特開平2−202537号公報
【特許文献3】特開昭60−139715号公報
【特許文献4】米国特許第3956204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1に記載された真空断熱材は、有機バインダーの加熱分解によるホルムアルデヒドなどを含むアウトガスの発生を防止するため、低温下で使用することを前提としており、アウトガスの発生量を限りなく少なくし、発生したアウトガスは、ゲッター剤やガス吸着剤等のガス吸着材に吸着させるものである。しかしながら、たとえ低温化で使用をしたとしてもバインダーの付着量が多い場合や、使用条件により100℃近くとなった場合や、無機繊維マットの製造条件等によりアウトガスの量が多くなり、前記吸着材では充分吸着できず熱性能が劣るといった問題を有していた。
【0009】
また、バインダーの付着量を少なくすればアウトガスの発生を少なくすることも考えられるが、得られる無機繊維マットが柔らかくなり、外被に充填・包皮する場合、充填性が劣り、また充填によって得られる真空断熱材も柔らかいため、断熱箱体等に充填し難いといった問題を有していた。
【0010】
また、上記特許文献2〜4はフェノール樹脂をバインダーとして用いた際におけるホルムアルデヒドの発生量を低減させるものであるが、依然として真空断熱材でのホルムアルデヒドの発生が多く熱性能が劣るといった問題を有していた。
【0011】
すなわち、上記特許文献2では、ホルムアルデヒドの捕捉効率が低く、更に、尿素は通常使用前に水溶性フェノール樹脂に単に混合溶解するので、尿素とホルムアルデヒドとの反応は樹脂化の状態までには到達しない場合が多い。そのため、樹脂の硬化の際に発生するホルムアルデヒドの放出量は減少できても、無機繊維マットの製造工程における加熱で該樹脂の分解によって新たに放出されるホルムアルデヒド量を減少させることができない。更に、尿素とホルムアルデヒドとのメチロール化した場合でも、それが無機繊維マットに残存していると、真空断熱材にするために外被に充填する前に真空断熱材用として加熱工程を経る場合や、外被に充填して真空断熱材とした後の熱履歴を受ける場合では、前記のメチロール化された尿素からホルムアルデヒドが発生することが考えられ、真空断熱材の熱性能が劣るといった問題を有していた。
【0012】
また、尿素樹脂をバインダーに添加して予め高分子化して熱によるホルムアルデヒドの発生を低減することは可能であるものの、無機繊維マットの製造工程における加熱による該樹脂の分解によって新たにホルムアルデヒドが再放出されたり、またバインダーが安定しないといった問題や、無機繊維に均一に付与できないといった問題を有していた。
【0013】
また、特許文献3のサイジング用組成物や、特許文献4のバインダーにおいても、尿素を加えているため、無機繊維マットの製造工程における加熱による該樹脂の分解によって尿素から生じるガスの発生があり、また、尿素の添加よって進行する高分子化によって、バインダーの水による希釈性が低下してしまい、バインダーの安定性が経時的に低下するという問題があった。
【0014】
したがって、本発明の目的は、上記の問題点を解決し、取り扱い性に優れ、かつ製品状態である真空断熱材から放出されるホルムアルデホド量の極めて少ない真空断熱材用無機繊維マットの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法は、塩基性触媒下で、フェノール類1モルに対してホルムアルデヒド3.0〜4.5モルを反応させてレゾールを得るレゾール形成工程と、前記レゾールの固形分100質量部に対し、尿素を固形分換算で0〜5質量部、アミノシランカップリング剤を固形分換算で0.05〜0.5質量部、及び水を添加してバインダーを得るバインダー調合工程と、無機繊維100質量部に対し、前記バインダーを固形分が0.5〜3.0質量部となるように無機繊維に付与するバインダー付与工程と、前記バインダー付与工程後の無機繊維を加熱硬化する加熱硬化工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
本発明の製造方法によれば、上記反応比で合成したフェノールを用い、バインダーに添加する尿素を固形分換算で0〜5質量部、及びアミノシランカップリング剤を固形分換算で0.05〜0.5質量部とすることで、バインダーに含まれる遊離フェノール類、遊離ホルムアルデヒドの含有量を低減することができ、かつ、加熱硬化時のガス発生量を低減することができる。また、加熱硬化された真空断熱材用無機繊維マットはハンドリング性がよく、更にはホルムアルデヒド放出量の少ないものとすることができる。
【0017】
また、本発明においては、尿素の添加量は、前記レゾールの固形分100質量部に対し、前記尿素を固形分換算で0〜1.0質量部とすることが好ましい。
【0018】
更に、本発明においては、前記レゾールはフェノール類1モルに対し、ホルムアルデヒドを3.0〜3.5モル反応させて得られたものであることが好ましい。
【0019】
また、本発明においては、前記バインダーの固形分が2〜10質量%であることが好ましい。これによれば、無機繊維に均一にバインダーを付与することが容易に行なえ、表面平滑性の高い真空断熱材用無機繊維マットを得ることができる。
【0020】
更に、本発明においては、前記レゾール中の遊離フェノールの含量が1.5質量%以下であり、かつ、遊離ホルムアルデヒドの含量が10質量%以下であることが好ましい。これによれば、バインダーに含まれる未反応のフェノール、ホルムアルデヒド量が少ないので、加熱硬化時に発生するガスにはフェノール等の含有量が少なく、排ガス処理が比較的容易に行なえ、また、加熱硬化した後の真空断熱材用無機繊維マットにおいても、ホルムアルデヒドの放出を充分低減することができる。
【0021】
また、本発明においては、前記加熱硬化工程は、熱風通過式オーブンにて、加熱温度は200〜300℃、加熱時間は60〜300秒とすることが好ましい。これによれば、真空断熱材用無機繊維マットの内部まで充分加熱することが可能であり、同時に生産性を低下させることなく反応に寄与しない、遊離ホルムアルデヒド、遊離フェノール等を捕集することができる。
【0022】
そして、本発明においては、上記方法により得られた前記真空断熱材用無機繊維マットは、JIS A1901のホルムアルデヒド放散測定方法によるホルムアルデヒド放散速度が5μg/m・hr以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法によれば、真空断熱材からのホルムアルデヒドの放出量が極めて少ない真空断熱材用無機繊維マットを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法は、レゾール形成工程と、バインダー調合工程と、バインダー付与工程と、加熱硬化工程とを含む。以下、製造工程に沿って説明する。
【0025】
まず、レゾール形成工程において、塩基性触媒下で、フェノール類とホルムアルデヒドを反応させてレゾールを得る。
【0026】
なおレゾールとは、塩基性触媒下でフェノール類とホルムアルデヒドとが縮合して得られる可溶性の縮合生成物であり、加熱により硬化して不融不溶のフェノール樹脂となるものである。
【0027】
塩基性触媒としては、バリウム触媒、ナトリウム触媒等の公知の塩基性触媒が挙げられるが、ナトリウムを含む塩基性触媒を用いることが好ましい。これにより、主として4−ヒドロキシメチルフェノール(4−HMP)構造のレゾールが生成する。
【0028】
ナトリウムを含む塩基性触媒としては、ナトリウムを含む酸化物、水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩が挙げられるが、好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
また、本発明において用いることのできるフェノール類としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシノール及びこれらの変性物が例示でき、単独または2種類以上を併用して用いることができる。更に、汎用性、原料コストの面からフェノールが好ましく用いられる。この場合、フェノール類の一部をメラミン、メチロール化メラミン、尿素、メチロール化尿素のアルデヒド類と縮合反応する物質に置き換えてもよい。
【0030】
また、ホルムアルデヒドとしては、ホルムアルデヒドの他、アセトアルデヒド、フルフラール、パラホルムアルデヒドが例示でき、単独または2種類以上を併用して用いることができる。更に、汎用性、原料コストの面からホルムアルデヒドが好ましく用いられる。
【0031】
なお、水系のバインダーに使用する点から、レゾールは水溶性であることが好ましい。
【0032】
本発明のレゾールは、フェノール類1モルに対してホルムアルデヒド3〜4.5モルを反応させて得られるレゾールであることが好ましく、フェノール1モルに対してホルムアルデヒド3〜3.5モルを反応させて得られるレゾールであることが特に好ましい。フェノール類1モルに対するホルムアルデヒドの反応モル数が3モル未満であると、フェノール類のメチロール化が不充分となり、硬化後の樹脂の強度が発揮され難く、未反応のフェノール類の残留量が増えることとなり、4.5モルを超えるとホルムアルデヒドとしての残留量が増加するため好ましくない。上記範囲内モル比で反応させて得られたレゾールは、該レゾール中に過剰のホルムアルデヒドの残留を抑えることができる。
【0033】
そして、レゾール中の遊離フェノールの含有量は1.5質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。遊離フェノールの含有量が1.5質量%を超えると、バインダー付与工程や加熱硬化工程から排出されるガス中のフェノール含有量が増大し、排気ガス処理設備の負荷が増大するので好ましくない。なお、遊離フェノールの含有量は、例えばガスクロマトグラフィーによって測定できる。
【0034】
また、レゾール中の遊離ホルムアルデヒドの含有量が10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましい。遊離ホルムアルデヒドの含有量が10質量%を超えると、本発明の真空断熱材用無機繊維マットを用いた真空断熱材から放出されるホルムアルデヒド量が増加するので好ましくない。なお、遊離ホルムアルデヒドの含有量は、例えば塩化ヒドロキシアンモニウム法による滴定法により測定できる。
【0035】
そして、該レゾールの固形分量は、少なくとも35質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上である。これにより、レゾールの固形分量当りの輸送コストを低下できる。
【0036】
次に、バインダー調合工程にて、上記レゾールと、尿素と、アミノシランカップリング剤と、水とが調合され、バインダーが得られる。
【0037】
尿素は水溶液の状態でバインダーに添加してもよいが、添加量はレゾールの固形分100質量部に対して、固形分換算で0〜5質量部添加することが好ましく、固形分換算で0〜1質量部添加することがより好ましい。
【0038】
尿素の添加量が固形分換算で5質量部を超えると、ホルムアルデヒドと尿素とのメチロール化尿素が増え、バインダー状態での遊離ホルムアルデヒド量は少なくなるものの、真空断熱材用無機繊維マット(以下より、無機繊維マットとする)を得るための加熱工程により、一部分解した状態でのメチロール化尿素が無機繊維マット中に残存してしまう。そのため、該無機繊維マットを用いて真空断熱材とする際、外被に充填する前に加熱工程を経る場合や、外被に充填して真空断熱材とした後の熱履歴により、前記のメチロール化された尿素から、ホルムアルデヒドや尿素の分解物等が発生することが考えられ、真空断熱材の熱性能が劣る原因となるため好ましくない。
【0039】
本発明で用いることのできるアミノシランカップリング剤は、モノアミノシラン化合物又はジアミノシラン化合物であれば特に限定しないが、色調の点からモノアミノシラン化合物であることがより好ましい。好ましい具体例としては、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−N'−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシランが挙げられ、これらを単独または併用することができる。
【0040】
また、上記アミノシランカップリング剤の他に、エポキシシラン類、ビニルシラン類、アクリルシラン等のアミノ系以外のシランカップリング剤を1種類以上加えて、アミノシランカップリング剤と併用することもできる。
【0041】
前記アミノシランカップリング剤の添加量は、前記レゾールの固形分100質量部に対し、固形換算で0.05〜0.5質量部であることが必要である。0.05質量部未満であると無機繊維マット自体の硬さがなくなり、垂れ易くなり、搬送、外被への充填等のハンドリング性が劣り、0.5質量部を超えると無機繊維マットの硬さは充分有するが、真空断熱材の熱性能が劣るため好ましくない。
【0042】
なお、本発明のバインダーには、上記のレゾール、尿素、アミノシランカップリング剤、及び水以外の成分が含まれていてもよい。このような成分としては、例えば、上記のレゾール以外の熱硬化性樹脂前駆体、アルデヒド捕捉剤、硬化促進剤、pH調整剤、飛散防止剤、撥水剤等の添加剤が挙げられる。
【0043】
上記のレゾール以外の熱硬化性樹脂前駆体としては、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂の各々の前駆体が挙げられ、この前駆体は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。ここで、前駆体とは、加熱による反応でメラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂を各々生成する、もととなる化合物を意味する。前記熱硬化性樹脂前駆体は、レゾールとの相溶性を鑑みて、水に溶解又は分散したものであることが好ましい。
【0044】
アルデヒド捕捉剤としては、特に限定されず、例えば、鉄(II)化合物とキレート剤と安定剤とを含有してなる組成物、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸カルシウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム、亜硫酸水素カルシウム等の亜硫酸塩又は亜硫酸水素塩、ヒドラジド化合物、アミノ基もしくはイミノ基を含む化合物、尿素の誘導体等が挙げられる。上記の捕捉剤は、単独又は2種以上を併用して用いることができる。
【0045】
硬化促進剤としては、特に限定されず、例えば、硫酸アンモニウム等が好ましく用いられる。
【0046】
pH調整剤としては、アンモニアが好ましく用いられる。これによりpHを塩基性にしてレゾールと尿素との反応を終了させ、残存する遊離ホルムアルデヒド含有量を更に低下させることができる。pHは7.2〜9.0となるように調整することが好ましい。
【0047】
撥水剤としては、シリコーン系、フッ素系等の公知の撥水剤が使用でき、特に限定されない。
【0048】
レゾール、尿素、アミノシランカップリング剤、及び上記各種添加剤を、常法にしたがって混合し、水を加えて所定の濃度に調整することでバインダーが得られる。その際、バインダーの固形分濃度は、2〜10質量%とすることが好ましい。固形分濃度が2質量%未満であると、加熱による乾燥工程で時間がかかり、また時間を短縮すると含水率が多くなり真空断熱材の真空度が向上できず、熱性能も劣り好ましくない上に無機繊維マット上下にマイグレーションが生じ片面にバインダーが集まりやすく反り等生じやすくなり、10質量%を超えるとバインダーの無機繊維への付着が不均一となり、無機繊維マットの硬さにばらつきが生じてしまい、真空断熱材の表面平滑性が劣るため断熱箱体等に充填した際に密着性等の点で箱体の熱性能が低下してしまう。前記バインダーの固形分濃度が上記範囲内であれば、無機繊維の表面及び無機繊維同士の交点に均一にバインダーを付着させることができ、好適な厚みと硬さを備えた無機繊維マットを製造することが可能となる。
【0049】
なお、上記の添加剤のうち、アルデヒド捕捉剤は、上記のようにあらかじめバインダー中に添加してもよいが、後述するように、バインダー付与工程から加熱硬化工程終了までの間に、アルデヒド捕捉剤を付与することが好ましい。
【0050】
次に、上記のバインダーを無機繊維に付与するバインダー付与工程と、バインダー付与工程後の無機繊維を加熱硬化する加熱硬化工程について、図面を用いて説明する。
【0051】
図1には、本発明の無機繊維マットの製造方法におけるバインダー付与工程と加熱硬化工程の一実施形態を示す概略工程図が示されている。
【0052】
図1の製造方法について概略を説明すると、繊維化装置1から紡出された無機繊維3に、バインダー付与装置2によってバインダーが付与され、その直後にアルデヒド捕捉剤付与装置9aによってアルデヒド捕捉剤が付与される。次いで、バインダーとアルデヒド捕捉剤とが付与された無機繊維3をコンベア4a上に堆積して、コンベア4b上に搬送され、コンベア5によって所定厚さに圧縮成形されつつ、重合反応炉6に導入されてバインダーが加熱重合硬化され、無機繊維マット7が形成される。
【0053】
次に各工程について更に詳しく説明すると、まず、繊維化装置1によりグラスウール等の無機繊維を紡出させる繊維化工程が行われる。ここで、繊維化装置1による繊維化の方法としては、従来公知の遠心法(ロータリー法)の他、火焔吹付法、吹き飛ばし法等が例示でき、特に限定されない。また、繊維化装置1は、製造する無機繊維マット7の密度、厚さ、および巾方向の長さに応じて複数設けることも可能である。
【0054】
無機繊維3は、特に限定されず、通常の断熱吸音材に使用されている、グラスウール、ロックウール等を用いることができる。また、無機繊維マットの密度も通常の断熱材や吸音材に使用されている密度でよく、好ましくは5〜100kg/mの範囲である。
【0055】
次いで、バインダー付与装置2によって、繊維化装置1から紡出された無機繊維3に、上記のバインダーを付与するバインダー付与工程を行なう。バインダーの付与方法としては、従来公知のスプレー法等を用いることができる。
【0056】
本発明において、前記バインダー付与工程で前記無機繊維マットを100質量部としたときのバインダー固形分、いわゆる付着量は0.5〜3.0質量%となるように無機繊維に付与することを必要である。付着量が0.5質量%未満であると無機繊維マット自体の硬さがなくなり、垂れ易く、搬送、外被への充填等のハンドリング性が劣るため好ましくない。また、0.5質量部を超えると、無機繊維マットは好適な硬さを有するものの、有機分の増加により真空断熱材の熱性能が劣るため好ましくない。
【0057】
ここで、本発明におけるバインダーの付着量とは、強熱減量法またはLOI(Loss of Ignition )と呼ばれる方法により測定される量であり、約550℃でバインダー付着後の無機繊維マットの乾燥試料を強熱し、減量をすることにより失われる物質の重量を意味する。
【0058】
上記工程によって、バインダーが付与された無機繊維3は、繊維化装置1の下方に配置されたコンベア4aに堆積され、連続して、ライン方向に沿って設けられているコンベア4bに移動する。そして、コンベア4b上に所定間隔で対向配置されたコンベア5によって、堆積した無機繊維3は所定の厚さに圧縮されてマット状に成形される。
【0059】
その後、コンベア4bの位置に配設された重合反応炉6に入り、無機繊維3に付着したバインダーが、重合反応炉6内で加熱重合硬化される加熱硬化工程が行なわれ、無機繊維マット7を形成する。
【0060】
前記重合反応炉6は熱風通過式オーブンであることが好ましく、その際加熱温度は200〜300℃、加熱時間は60〜300秒であることが好ましい。加熱温度が200℃未満であると、フェノールとホルムアルデヒドとの反応が進まず、遊離ホルムアルデヒド等が無機繊維マット中に残存する場合があり、また水分が残存することで真空断熱材の真空度が向上できず、熱性能も劣ってしまい、加熱温度が300℃を超えるとフェノール樹脂の分離が始まり好ましくない。また、加熱時間が60秒未満であると、充分に遊離ホルムアルデヒド、遊離フェノールを捕集することができず、また、加熱時間が300秒以上であると、生産性が低下するため好ましくない。
【0061】
加熱工程を上記条件で実施することで、無機繊維マットの内部まで加熱することが可能となり、同時に反応に寄与しない、遊離ホルムアルデヒド、遊離フェノールを捕集することができる。
【0062】
そして、形成された無機繊維マット7は、コンベア4cの部分に設置された切断機8によって所定の製品寸法に切断され、真空断熱材の芯材が得られる。
【0063】
例えば、前記芯材を金属蒸着合成樹脂フィルム、合成樹脂フィルム、金属箔積層フィルムなどの外包装材で外包し、外包材内部を実質真空化することで真空断熱材が得られる。
【0064】
また、バインダー以外の液体、又は固形物を無機繊維、又は無機繊維マットに付与する場合には、結合剤付与装置2とコンベア4dとの間の任意の個所で、付与装置を用いて付与してもよい。例えば、図1に示すように結合剤付与装置2とコンベア4aとの間に、液体を付与するスプレー装置9aを設けて、撥水剤やアルデヒド類捕捉剤などを無機繊維に付与することができる。また、図2に示すように無機繊維7が堆積し終わったコンベア4a上と、それに連続して設けられている重合反応炉6に導入するためのコンベア4bおよびコンベア5との間の部分にアルデヒド捕捉剤付与装置9b、9cが設けられていてもよい。
【0065】
上記本発明の製造工程によって得られた無機繊維マットは、ホルムアルデヒドの放出量の極めて少ないものである。アルデヒド類の放出の程度としては、JIS A1901のホルムアルデヒド放散測定方法(小型チャンバー法)によるホルムアルデヒド放散速度を5μg/m・hr以下とすることができる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0067】
(1)レゾールの合成
<合成1>
バリウム触媒を用い、フェノール1モルに対しホルムアルデヒドが3モルとなるように反応させてレゾールを得た。
【0068】
<合成2>
バリウム触媒を用い、フェノール1モルに対しホルムアルデヒドが6モルとなるように反応させてレゾールを得た。
【0069】
(2)バインダーの調合
<調合1>
合成1で得られたレゾールの固形分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、チッソ社製、商品名「S330」)を固形分で0.1質量部を加え、固形分濃度が4質量%となるように水を加えたバインダーを調合した。
【0070】
<調合2>
合成1で得られたレゾールの固形分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、チッソ社製、商品名「S330」)を固形分で0.1質量部、及び尿素を固形分で3質量部加え、固形分濃度が4質量%となるように水を加えてバインダーを調合した。
【0071】
<調合3>
合成2で得られたレゾールの固形分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、チッソ社製、商品名「S330」)を固形分で0.1質量部を加え、固形分濃度が4質量%となるように水を加えたバインダーを調合した。
【0072】
<調合4>
合成1で得られたレゾールの固形分100質量部に対して、アミノシランカップリング剤(γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、チッソ社製、商品名「S330」)を固形分で0.1質量部、及び尿素を固形分で10質量部加え、固形分濃度が4質量%となるように水を加えてバインダーを調合した。
【0073】
<調合5>
合成1で得られたレゾールの固形分濃度が4質量%となるように水を加えてバインダーを調合した。
【0074】
(3)真空断熱材の製造
[実施例1]
調合1のバインダーを平均繊維径4μのガラス繊維に厚み方向に均一となる様に、付着量が固形分換算で1質量%となるようにエアーとの二流体方式で噴霧し、ガラスマット(厚さ約300mm、密度約5Kg/m)を熱風通過式オーブンにて、上下のコンベアで挟み込みながら260℃、オーブン滞留時間約 90秒、加圧時密度100Kg/mの条件で加圧圧縮した。これにより、厚さ約18mm、密度約80Kg/mのグラスウール成形板を得た。このグラスウールを2プライに積層しこのグラスウール成形板を、ガスバリアー性の高い被覆袋に挿入し、真空シール装置にて袋内の圧力が1.0Paとなるように ガスを吸引した後に、袋の開口部を加熱圧着し、厚さ12mm、密度240Kg/mの真空断熱材を得た。
【0075】
〔実施例2〕
調合2のバインダーを用いた以外は実施例1と同様にし、厚さ12mm、密度240Kg/mの真空断熱材を得た。
【0076】
〔比較例1〕
調合3のバインダーを用いた以外は実施例1と同様にし、厚さ12mm、密度240Kg/mの真空断熱材を得た。
【0077】
〔比較例2〕
調合4のバインダーを用いた以外は実施例1と同様にし、厚さ12mm、密度240Kg/mの真空断熱材を得た。
【0078】
〔比較例3〕
調合5のバインダーを用いた以外は実施例1と同様にし、厚さ12mm、密度240Kg/mの真空断熱材を得た。
【0079】
[比較例4]
調合1のバインダーの付着量を固形分換算で0.3質量%とした以外は実施例1と同様にし、厚さ15mm、密度190Kg/mの真空断熱材を得た。
【0080】
[試験例]
<レゾール中の遊離フェノール測定>
合成1、2のレゾールの遊離フェノール(以下、FPとする)を測定した。
【0081】
FP(%)は、以下の方法でガスクロマトグラフィーにより測定した。まず、フェノールを0.1g、0.2g、0.3gを各々秤量し、アセトン20mlを加え2分攪拌し、更にn−ドデカンを0.1ml加え、1分混合したものを検量線用のサンプルとした。
【0082】
次に、上記のレゾールを3g秤量し、アセトンを20ml加え2分攪拌した。更に内標準物質としてn−ドデカンを0.1ml加えて1分混合し、測定用サンプルとした。ガスクロマトグラフィーの測定条件は、キャリアーガスを窒素ガス(1.0kg/cm2)、カラム温度を130℃、注入口温度を240℃、注入量を0.5μLである。カラムはセライト545AW (MAX TEMP.280℃、MESH 60/80)を用いた。
【0083】
<レゾール中遊離ホルムアルデヒドの測定>
合成1,2のレゾールの遊離ホルムアルデヒド(以下、FFとする)を測定した。
【0084】
FF(%)は、以下の方法で滴定により測定した。
【0085】
上記のレゾール5g秤量し、メタノールを15ml添加し、更に水50mlを添加し、静かに攪拌しながら0.1規定の硫酸水溶液でpHを4.0に調製した。調製完了後ただちに7%塩酸ヒドロキシルアミン溶液50mlを加え、5分攪拌した。その後、1規定の水酸化ナトリウム溶液で滴定し、pHが4.0になる点を終点として滴定量を求め、以下の式よりFF(%)を算出した。
【0086】
FF(%)=(滴定量(ml)×0.03×NaOHのファクター×100)/レゾール(g)
上記結果をまとめて下記表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
<真空断熱材のホルムアルデヒド放散速度測定>
実施例1及び2、比較例1〜4の真空断熱材についてJIS A1901のホルムアルデヒド放散測定方法により、ホルムアルデヒド放散速度を測定した。
【0089】
測定日数は7日間として、チャンバー体積は20L、換気回数は0.5回/hとした。サンプリングにはDNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)シリカショートボディ(Waters製)を用いた。捕集体積は10Lとし、捕集流量は167ml/minとした。
【0090】
<真空断熱材の熱伝導率測定>
実施例1及び2、比較例1〜4の真空断熱材について熱伝導率計(商品名「HC−074−300」、英弘精機社製)を用いて測定を行った。
【0091】
<無機繊維マットのハンドリング性>
実施例1及び2、比較例1〜4の真空断熱材の製造時における芯材として用いる無機繊維マットのハンドリング性について評価した。
外被への充填時間を測定し、3分以内のものを「○」、3分を超えるものを「×」とした。
上記結果についてまとめて表2に示す。











【0092】
【表2】

【0093】
上記結果より、実施例1及び2では、ホルムアルデヒド放散速度が5μg/m・Hr以下で、ハンドリング性及び熱性能の優れた真空断熱材が得られた。特に尿素を用いないバインダーを用いた実施例1では、ホルムアルデヒド拡散速度のより低い真空断熱材を得ることができた。
【0094】
一方、バインダーに用いるレゾールとして、フェノール1モルに対するホルムアルデヒドの反応量が本発明の範囲である3.0〜4.5モルの上限値以上のホルムアルデヒドと反応させたレゾールを用いた比較例1、及び尿素の含有量が本発明の範囲である0〜5質量部の上限値以上であるバインダーを用いた比較例2では、ホルムアルデヒドの拡散速度が大きく、熱性能の劣るものであった。
【0095】
また、アミノシランカップリング剤を含まないバインダーを用いた比較例3、及びバインダーの付与量が0.5質量%未満である比較例4では、ハンドリング性が悪く、垂れ易いものであり、また、搬送、外被への充填性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の製造法より得られる真空断熱材用無機繊維マットは、ホルムアルデヒドの放出量が極めて少なく、本発明の真空断熱材用無機繊維マットは真空断熱材の芯材として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法の一実施形態を示す概略工程図である。
【図2】本発明の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法の他の実施形態を示す概略工程図である。
【符号の説明】
【0098】
1: 繊維化装置
2: バインダー付与装置
3: 無機繊維
4a、4b、4c、4d、5: コンベア
6: 重合反応炉
7: 無機繊維マット
8: 切断機
9a、9b、9c: アルデヒド捕捉剤付与装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性触媒下で、フェノール類1モルに対してホルムアルデヒド3.0〜4.5モルを反応させてレゾールを得るレゾール形成工程と、
前記レゾールの固形分100質量部に対し、尿素を固形分換算で0〜5質量部、アミノシランカップリング剤を固形分換算で0.05〜0.5質量部、及び水を添加してバインダーを得るバインダー調合工程と、
無機繊維100質量部に対し、前記バインダーを固形分換算で0.5〜3.0質量部となるように無機繊維に付与するバインダー付与工程と、
前記バインダー付与工程後の無機繊維を加熱硬化する加熱硬化工程とを含むことを特徴とする真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項2】
前記レゾールの固形分100質量部に対し、前記尿素を固形分換算で0〜1.0質量部添加する請求項1に記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項3】
前記レゾールは、塩基性触媒下でフェノール類1モルに対し、ホルムアルデヒドを3.0〜3.5モル反応させて得られるレゾールである請求項1又は2に記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項4】
前記バインダーの固形分は2〜10質量%である請求項1〜3のいずれか一つに記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項5】
前記レゾール中の遊離フェノールの含量が1.5質量%以下であり、かつ、遊離ホルムアルデヒドの含量が10質量%以下である請求項1〜4のいずれか1つに記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項6】
前記加熱硬化工程は、熱風通過式オーブンにより、加熱温度200〜300℃で、加熱時間60〜300秒で行う請求項1〜5のいずれか1つに記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。
【請求項7】
上記方法により得られた前記真空断熱材用無機繊維マットに対するJIS A1901のホルムアルデヒド放散測定方法によるホルムアルデヒド放散速度が5μg/m・hr以下である請求項1〜6のいずれか1つに記載の真空断熱材用無機繊維マットの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−28649(P2006−28649A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−204840(P2004−204840)
【出願日】平成16年7月12日(2004.7.12)
【出願人】(000116792)旭ファイバーグラス株式会社 (101)
【Fターム(参考)】