説明

真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法および真空蒸着用るつぼ装置

【課題】簡単な構成で蒸着材料の劣化を防止しつつ長時間の蒸着材料の蒸発、昇華が可能とする。
【解決手段】るつぼPa内に、蒸着材料Eを収容するとともに誘導加熱可能な導電性材料からなるるつぼホルダDKaを設けるとともに、るつぼホルダDKa内の蒸着材料Eに複数の加熱域Ha〜Hdを設定し、るつぼPaの外側に、るつぼホルダDKaを誘導加熱して蒸着材料Eを蒸発または昇華可能な分割誘導コイルCa〜Cdを設け、分割誘導コイルCa〜Cdから発生する磁界を操作して加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着設備において、長時間にわたって蒸着材料を気化(蒸発または昇華)可能な蒸発、昇華方法と、それを実施するための真空蒸着用るつぼ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、金属製のるつぼを、高周波誘導加熱により直接加熱する技術が提案されている。
真空蒸着設備において、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華(以下、蒸散という)させており、特に量産工程では、一週間程度蒸着設備を連続運転する必要がある。しかし、蒸着材料が長時間高熱に晒されると、品質の劣化を招くおそれがある。
【0003】
このため、たとえば下記の技術が提案されている。
a)劣化する前に蒸着材料が蒸散して無くなる程度の量の蒸着材料を収容したるつぼを複数用意しておき、るつぼを順次交換しながら長時間の蒸着作業を行う。これを実施するための技術として、特許文献1に、るつぼを交換するための交換室を設けた技術が開示されている。
b)蒸着作業中に、るつぼまたはボート(平たい加熱るつぼ)に蒸着材料を追加投入しながら長時間の蒸着作業を行う。これを実施するための技術として、特許文献2に、シート状に形成した蒸着材料を連続的にるつぼに供給する技術が開示されている。
c)蒸着材料をペレット状に成形し、加熱部に押し当てて部分的に加熱蒸散させ、これを継続して長時間の蒸着作業を行う。これを実施するための技術として、特許文献3に、蒸着材料をペレット状にしてるつぼに供給する技術が開示されている。
【0004】
その他、蒸着材料を加熱する方式として、特許文献4に開示されるように電子ビームを走査して蒸着材料を加熱し蒸散するものや、特許文献5に開示されるように高周波誘電加熱により蒸着材料を加熱し蒸散するものもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3257056号公報
【特許文献2】特開平10−183346号公報
【特許文献3】特開平09−95775号公報
【特許文献4】特許第3741160号公報
【特許文献5】特開2004−134250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、a)の技術では、多数のるつぼや、るつぼを収容するスペース(交換室)、るつぼを交換するための機構が必要となる。b)の技術では、真空室内の高温のるつぼに、蒸発材料を連続して供給できる機構が必要となる。c)の技術では、蒸着材料をペレット状に形成する装置や蒸着材料を加熱部に押し当てる機構が必要となる。このようにa)〜c)の技術では、装置や機構が複雑で、大型化し、製造コストや運転コストが嵩むという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決して、より簡単な構成で蒸着材料の劣化を防止しつつ長時間の蒸着材料の蒸発、昇華が可能な真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法および真空蒸着用るつぼ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
前記るつぼに、誘導加熱可能な材料により形成された誘導加熱るつぼを使用し、
前記誘導加熱るつぼに収容された蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設置された誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの部位を誘導加熱して、当該加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
最初の加熱域の蒸着材料が蒸発または昇華された後、前記誘導加熱源から発生される磁界を操作して、次の加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの所定部位を誘導加熱することにより、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行うものである。
請求項2記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
蒸着材料に接して配置されるとともに誘導加熱可能な材料により形成された誘導加熱部材を内装したるつぼを使用し、
るつぼ内の蒸着材料に、複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する前記誘導加熱部材の部位を誘導加熱して、当該加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
当該加熱域に対応する蒸着材料が蒸発または昇華された後、前記誘導加熱源から発生される磁界を操作して、次の加熱域に対応する誘導加熱部材の部位誘導加熱し、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行うものである。
【0009】
請求項3記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
誘導加熱可能な材料からなり蒸着材料の上面に支持される上面誘導加熱部材を設けたるつぼを使用し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、前記上面誘導加熱部材を誘導加熱して、当該上面誘導加熱部材下部の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
蒸着材料の減少に従って下降する上面誘導加熱部材に対応して誘導加熱源から発生させる磁界を操作し、当該上面誘導加熱部材を連続して誘導加熱するものである。
【0010】
請求項4記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発、昇華させるに際し、
誘導加熱可能な材料からなる輻射誘導加熱部材を、蒸着材料の上方に所定距離をあけて配置したるつぼを使用し、
るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する輻射誘導加熱部材の部位を誘導加熱して、当該輻射誘導加熱部材からの輻射熱により最初の加熱域の蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、
最初の加熱域の蒸着材料が蒸発または昇華された後、誘導加熱源から発生された磁界を操作して、次の加熱域に対応する前記輻射誘導加熱部材の部位を誘導加熱し、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行うものである。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、
るつぼの外側に設けられた冷却手段により蒸着材料全体を冷却するものである。
請求項6記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の構成において、
るつぼの外側に設けられた冷却手段により、加熱域を非冷却領域として冷却せず、その他の加熱域の蒸着材料を冷却し、
前記加熱域の変位に対応して、前記非冷却領域を変位させるものである。
【0012】
請求項7記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼを誘導加熱可能な導電性材料により形成された誘導加熱るつぼとするとともに、当該誘導加熱るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
前記誘導加熱るつぼの外側に、前記誘導加熱るつぼを誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けたものである。
【0013】
請求項8記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼ内に、蒸着材料を収容するとともに誘導加熱可能な導電性材料からなるるつぼホルダを設けるとともに、当該るつぼホルダ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記るつぼホルダを誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、前記加熱域に対応する前記るつぼホルダの部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けたものである。
【0014】
請求項9記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料中に、誘導加熱可能な導電性材料からなる内装誘導誘導加熱部材を設けるとともに、蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記内装誘導加熱部材を誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記内装誘導加熱部材の部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けたものである。
【0015】
請求項10記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料の上面に支持されて、誘導加熱可能な導電性材料からなる上面誘導加熱部材を設け、
るつぼの外側に、前記上面誘導加熱部材を誘導加熱して当該上面誘導加熱部材下部の蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、蒸着材料の減少に従って下降する上面誘導加熱部材を誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けたものである。
【0016】
請求項11記載の発明は、
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料の上方に離間して配置されて、誘導加熱可能な導電性材料からなる輻射誘導加熱部材を設け、
るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記輻射誘導加熱部材を誘導加熱可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記輻射誘導加熱部材の部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けたものである。
【0017】
請求項12記載の発明は、請求項7乃至11の何れかに記載の構成において、
誘導加熱源を、加熱域に対応して分割配置された複数の分割誘導コイルとし、
加熱域変位手段を、前記各分割誘導コイルにそれぞれ供給する高周波電流をオン、オフ制御する蒸散制御装置により構成したものである。
【0018】
請求項13記載の発明は、請求項7乃至11の何れかに記載の構成において、
誘導加熱源を、加熱域の配置方向に移動自在に配置された可動誘導コイルとし、
加熱域変位手段を、前記可動誘導コイルを移動可能なコイル移動装置と、当該コイル移動装置を操作し、加熱域に対応して前記可動誘導コイルを移動させる蒸散制御装置により構成したものである。
【0019】
請求項14記載の発明は、請求項7乃至13の何れかに記載の構成において、
るつぼの外側に冷却手段を設け、
前記冷却手段を、冷却液が給、排出されて蒸着材料全体を均一に冷却する全体冷却ジャケットにより構成したものである。
【0020】
請求項15記載の発明は、請求項7乃至13の何れかに記載の構成において、
るつぼの外側に冷却手段を設け、
前記冷却手段を、加熱域に対応して複数に分割配置され分割冷却ジャケットにより構成し、
前記加熱域に対応する前記分割冷却ジャケットへの冷却液の供給を停止するとともに、前記加熱域の変位に対応して、冷却液の供給を停止する分割冷却ジャケットを変更可能な蒸散制御装置を設けたものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1または7記載の構成によれば、誘導加熱源により加熱域に対応する誘導加熱るつぼの所定部位を集中して加熱することから、当該加熱域以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止でき、加熱域変位手段により誘導加熱るつぼの加熱部位を変位させて、順次加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させることにより、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0022】
請求項2記載の構成によれば、誘導加熱源により加熱域に対応する誘導加熱部材の所定部位の加熱域を集中して加熱することから、当該加熱域以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止でき、加熱域変位手段により誘導加熱部材の加熱部位を変位させて、順次加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させることにより、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0023】
請求項3または10記載の発明によれば、誘導加熱源により、上面に配置された上面誘導加熱部材のみを集中して加熱することから、当該上面誘導加熱部材直下以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止できる。また加熱域変位手段により蒸着材料の減少に従って下降する上面誘導加熱部材に対応して、誘導加熱源から発生する磁界を操作し、上面誘導加熱部材を集中して連続的に誘導加熱することができる。これにより、上面誘導加熱部材直下の蒸着材料を効果的に蒸発または昇華させて、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0024】
請求項4または11記載の構成によれば、誘導加熱源により加熱域に対応する輻射誘導加熱部材の所定部位を集中して加熱することから、当該加熱域以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止でき、加熱域変位手段により輻射誘導加熱部材の加熱部位を変位させて、順次加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させることにより、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0025】
請求項5記載の構成によれば、冷却手段により蒸着材料を冷却することで、材料の劣化を効果的に防止することができ、長時間にわたって安定した蒸着作業を連続して行うことができる。
【0026】
請求項6記載の発明によれば、冷却手段により、加熱域に対応する非冷却領域を除いて蒸着材料を冷却し、冷却領域調整手段により加熱域に対応して非冷却領域を変位させることにより、蒸着材料を効率よく蒸発、昇華させることができる。
【0027】
請求項8記載の構成によれば、誘導加熱源により加熱域に対応するるつぼホルダの所定部位の加熱域を集中して加熱することから、当該加熱域以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止でき、加熱域変位手段によりるつぼホルダの加熱部位を変位させて、順次加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させることにより、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0028】
請求項9記載の構成によれば、誘導加熱源により加熱域に対応する内装誘導加熱部材の所定部位の加熱域を集中して加熱することから、当該加熱域以外の蒸着材料の昇温を抑制することができて蒸着材料の劣化を防止でき、加熱域変位手段により内装誘導加熱部材の加熱部位を変位させて、順次加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させることにより、長時間の蒸着作業を連続して行うことができる。
【0029】
請求項12記載の構成によれば、加熱域に対応して複数の分割誘導コイルを配置し、蒸散制御手段により、各分割誘導コイルに供給する高周波電流をオン、オフする簡易な構成で、加熱域を選択的に変位させることができる。
【0030】
請求項13記載の構成によれば、コイル移動装置により可動誘導コイルを加熱域に沿って移動させることで、加熱域を選択的に変位させることができる。
請求項14記載の構成によれば、全体冷却ジャケットに冷却液を供給することにより、蒸着材料全体を冷却して劣化を効果的に防止することができ、長時間にわたって安定して蒸着作業を連続して行うことができる。
【0031】
請求項15記載の発明によれば、分割冷却ジャケットにそれぞれ冷却液を供給し、加熱域に対応する分割冷却ジャケットの冷却液の供給を停止することにより、加熱域の材料を効率よく蒸発または昇華させ、その他の加熱域の蒸着材料の劣化を防止することができる。また冷却領域調整装置により、加熱域の変位に応じて、非冷却領域の分割冷却ジャケットを変更することにより、長時間にわたって効率よく蒸着作業を連続して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】(a),(b)は本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例1の構成を示し、(a)は縦断面図、(b)は加熱装置と冷却手段の構造を示す斜視図である。
【図2】蒸着材料の劣化の判別例を示すグラフである。
【図3】(a),(b)は真空蒸着装置およびるつぼ装置の基本構造を示し、(a)は真空蒸着装置を示す縦断面図、(b)はるつぼ装置を示す縦断面図である。
【図4】(a)〜(f)は真空蒸着容器の構造を示す縦断面図で、(a)はアップデポジションタイプで、容器形のるつぼ外置き形を示し、(b)はアップデポジションタイプで、容器形のるつぼ内置き形を示し、(c)はアップデポジションタイプで、皿型のるつぼ内置き形を示し、(d)はサイドデポジションタイプで、容器形のるつぼ外置き形を示し、(e)はサイドデポジションタイプで、容器形のるつぼ内置き形を示し、(f)はサイドデポジションタイプで、皿型のるつぼ内置き形を示す。
【図5】(a)〜(h)は誘導加熱部材の構造を示す縦断面図で、(a)は容器形のるつぼにるつぼホルダを内装したもの、(b)は皿形のるつぼにるつぼホルダを使用したもの、(c)は容器形の誘電加熱るつぼを使用したもの、(d)は皿形の誘電加熱るつぼを使用するもの、(e)は容器形のるつぼに内装誘導加熱部材を配置したもの、(f)は皿形のるつぼに内装誘導加熱部材を配置したもの、(g)は容器形のるつぼに輻射誘導加熱部材を配置したもの、(h)は皿形のるつぼに輻射誘導加熱部材を配置したものである。
【図6】(a)〜(d)は誘導加熱源と加熱域変位手段を示すもので、(a)および(b)はそれぞれ分割式誘導コイルを示す斜視図、(c)および(d)はそれぞれ可動式誘導コイルを示す概略側面図である。
【図7】(a)〜(d)は冷却手段と冷却領域調整手段を示す斜視図で、(a)は筒状の全体冷却ジャケットを示し、(b)はプレート状の全体冷却ジャケットを示し、(c)は筒状の分割冷却ジャケットを示し、(d)はプレート状の分割冷却ジャケットを示す。
【図8】(a)〜(h)はコイルの配置構造を示す縦断面図で、(a)〜(d)は誘電コイル外装タイプを示し、(e)〜(h)は誘電コイル内装タイプを示す。
【図9】(a),(b)は本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例2を示し、(a)はるつぼ装置の構成を示す縦断面図、(b)は平面図である。
【図10】(a),(b)は本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例3を示し、(a)はるつぼ装置の構成を示す縦断面図、(b)は斜視図である。
【図11】本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例3の変形例を示す縦断面図である。
【図12】(a),(b)は本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例4を示し、(a)はるつぼ装置の構成を示す縦断面図、(b)は斜視図である。
【図13】本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例5の構成を示す縦断面図である。
【図14】(a),(b)は内装誘導加熱部材の変形例を示す平面図で、(a)は2本の内装加熱ロッドの配置を示し、(b)は6本の内装加熱ロッドの配置を示す。
【図15】実施例5の変形例の構成を示す縦断面図である。
【図16】本発明に係るるつぼ装置の実施例6の構成を示す縦断面図である。
【図17】(a),(b)は上面加熱プレートを示す斜視図で、(a)はプレートタイプ、(b)は穴あきタイプである。
【図18】本発明に係るるつぼ装置の実施例6の変形例を示す縦断面図である。
【図19】るつぼ装置の実施例7の構成を示す縦断面図である。
【図20】るつぼ装置の実施例8を示す要部拡大縦断面図である。
【図21】るつぼ装置の実施例9を示す要部拡大縦断面図である。
【図22】(a),(b)は内装誘導加熱部材を示し、(a)はロッド状の内装誘導加熱部材を示す平面視の部分断面図、(b)はプレート状の内装誘導加熱部材を示す平面視の部分断面図である。
【図23】るつぼ装置の実施例10の構成を示す縦断面図である。
【図24】(a),(b)は輻射誘導加熱部材を示し、(a)はロッド状の輻射誘導加熱部材を示す平面図、(b)はプレート状の輻射誘導加熱部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
[基本構造]
本発明に係るるつぼ装置を具備した真空蒸着装置は、図3に示すように、真空蒸着容器Aの蒸着室a内において、るつぼ装置の加熱手段である高周波電源装置Bから誘導加熱源Cの一例である分割誘導コイルCa〜Cd高周波電流を給電し、分割誘導コイルCa〜Cdから発生する磁界により、誘導加熱部材Dの一例であるるつぼホルダDKaの一部(加熱部位)を高周波(電磁)誘導加熱し、るつぼPa内の蒸着材料Eを加熱して蒸散(蒸発または昇華)し、真空蒸着容器A内で保持具に保持された基板(被蒸着材)Tの表面に蒸着するものである。このるつぼ装置には、長時間にわたって連続蒸着を行うために、誘導加熱源Cによる誘導加熱部材Dの全体ではなく、後述するように蒸着材料Eに設定された加熱域Ha〜Hd(図6)に対応するるつぼホルダDKaの一部を集中的に加熱して、この加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eを蒸散させ、この加熱域Ha〜Hdを順次変位させて蒸着材料Eの全体を蒸散させる加熱域変位手段を設けている。また、蒸着中に加熱域Ha〜Hd以外の蒸着材料Eの劣化を防止するために、蒸着材料Eを冷却する冷却手段を設けている。ここで、蒸着材料Eは、高周波磁界により発熱しない非導電性の材料、または導電性ではあるが電気抵抗が小さく発熱量が小さい材料を対象としている。
【0034】
真空蒸着容器Aにおけるるつぼの配置構造は、図4(a)〜(f)に示すように4つのタイプI〜VIがあり、また誘導加熱部材Dの配置構造は、図5(a)〜(h)に示すように5つのタイプi〜vがある。さらに加熱域変位手段には、図6(a)(b)、(c)(d)に示すように、誘導加熱部材Dの加熱域を変位させる2つのタイプα,βがあり、さらに冷却領域調整手段には、図7(a),(b)に示すように、2つのタイプγ,δがあるので、以下に簡単に説明する。
【0035】
図4に示すように、るつぼの配置構造には、
タイプI:水平に保持された基板Tに対して、蒸発、昇華された蒸着材料Eを下方から蒸着させるアップデポジションタイプで、上面開口で縦長容器形のるつぼPaを真空蒸着容器Aの外部に配置したるつぼ外置き形[図4(a)]と、
タイプII−a,II−b:アップデポジションタイプで、るつぼPaまたは開口面が広い皿形のるつぼPbを蒸着室a内に配置したるつぼ内置き形[図4(b)(c)]と、
タイプIII:垂直に保持された基板Tに対して、蒸発、昇華された蒸着材料Eを側方から蒸着させるサイドデポジションタイプで、真空蒸着容器Aの外部にるつぼPaを配置してノズルGを介して真空蒸着容器Aに導入するつぼ外置き形[図4(d)]と、
タイプIV−a,IV−b:サイドデポジションタイプで、真空蒸着容器A内にるつぼPaまたはPbを真空蒸着容器A内に配置してノズルGから放出するるつぼ内置き形[図4(e)(f)]とがある。
【0036】
図5に示すように、誘導加熱部材Dには、
タイプi−a,i−b:外周加熱タイプで、高周波磁界により発熱しにくい材料(非導電性、または導電性で低電気抵抗の材料からなる(以下、非導電性という)からなる容器形または皿形のるつぼPa,Pb内に、導電性材料からなるるつぼホルダ(誘導加熱部材、外周誘導加熱部材)DKaを設置し、誘導コイルCから発生させた磁界によりるつぼホルダDKaの所定部位を加熱し、主に伝導熱により蒸着材料Eを外周側から加熱して蒸散するもの[図5(a)(b)]と、
タイプii−a,ii−b:直接加熱タイプで、導電性で高周波磁界により発熱やすい高電気抵抗の材料(以下、導電性材料という)により形成した誘導加熱るつぼDPa,DPbを使用する。そして誘導コイルCから発生させた磁界によりるつぼDPa,DPbの所定部位を加熱し、主に伝導熱により蒸着材料Eを外周側から加熱して蒸散するもの[図5(c)(d)]と、
タイプiii−a,iii−b:内装加熱タイプで、非導電性のるつぼPa,Pb内で蒸着材料Eの内部に、導電性材料からなる内装誘導加熱部材(誘導加熱部材)DLを配置し、誘導コイルCから発生させた磁界により内装誘導加熱部材DLを加熱し、主に伝導熱により蒸着材料Eを内部から加熱して蒸着材料Eを蒸散するもの[図5(e)(f)]と、
タイプiv:上面加熱タイプで、非導電性のるつぼPa内で蒸着材料Eの上面に接地するように上面加熱プレート(上面誘導加熱部材)DMを昇降自在に配置し、誘導コイルCから発生させた磁界により上面加熱プレートDMを加熱して、主に伝導熱により蒸着材料Eを上面から加熱して蒸散するもの[図5(g)]と、
タイプv:輻射誘導加熱タイプで、非導電性のるつぼPbで蒸着材料Eの上方に一定機距離だけ離間して輻射誘導加熱部材DNを配置し、誘導コイルCから発生させた磁界により輻射誘導加熱部材DNの所定部位を加熱し、輻射熱により蒸着材料Eを部分的に加熱し蒸散するもの[図5(h)]とがある。
【0037】
図6に示すように、誘導コイルCおよび加熱域変位手段には、
タイプα:分割切替タイプで、誘導加熱コイルCは、加熱域Ha〜Hd,He〜Hhに対応して配置された複数の分割誘導コイルCa〜Cd,Ce〜Chからなり、スイッチSWa〜SWd,SWe〜SWhにより高周波電流の供給を切り替えることにより、加熱域Ha〜Hdに対応した加熱部分を変位させるもので、円筒状の分割誘導コイルCa〜Cdを使用したタイプa[図6(a)]、および加熱域He〜Hhに対応した加熱部分を変位させるもので平面状の分割誘導コイルCe〜Chを使用したタイプb[図6(b)]と、
タイプβ:移動変位タイプで、コイル移動装置Sにより、円筒形または平面形の可動誘導コイルCma,Cmbを加熱域Ha〜Hd,He〜Hhの配置方向に沿って移動させることにより、加熱域Ha〜Hd,He〜Hhに対応する誘導加熱部材Dの加熱部位を変位させるもので、円筒状の可動誘導コイルCmaを使用したタイプa[図6(c)]、および平面状の可動誘導コイルCmbを使用したタイプb[図6(d)]とがある。
【0038】
図7に示すように、冷却手段と冷却領域調整手段には、
タイプγ:全体冷却タイプで、誘導加熱部材Dの配置方向に沿って全体冷却ジャケットQ,Rを配置し、冷却液を全体冷却ジャケットQ,R内に均一に冷却するように供給して、蒸着材料Eを冷却するもので、円筒状の全体冷却ジャケットQを使用するタイプa[図7(a)]、およびプレート状の全体冷却ジャケットRを使用するタイプb[図7(b)]と、
タイプδ:分割冷却タイプで、複数の分割冷却ジャケットQa〜Qd,Ra〜Rdを所定の冷却領域ごとに分割配置して、それぞれの分割冷却ジャケットQa〜Qd,Ra〜Rdに選択的に冷却液を供給することにより、加熱域Ha〜Hd,He〜Hhに対応する蒸着材料Eを非冷却領域とするもので、円筒状の分割冷却ジャケットQa〜Qdを使用するタイプa[図7(c)]、およびプレート状の分割冷却ジャケットRa〜Rdを使用するタイプb[図7(d)]とがある。
【0039】
図8に示すように、誘電コイルCの配置構造には、
タイプε:誘電コイル外装タイプで、冷却ジャケットQ,Qa〜Qd,R,Ra〜Rdの外側に、それぞれ分割誘導コイルCa〜Cd,Ce〜Chが配置された[図8(a)〜(d)]ものと、
タイプζ:誘電コイル内装タイプで、冷却ジャケットQ,Qa〜Qd,R,Ra〜Rdの内部に、冷却液中に浸漬されて分割誘導コイルCa〜Cd,Ce〜Chが配置された[図8(e)〜(f)]ものがある。
【0040】
[実施例1]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例1を図1〜図3を参照して説明する。
【0041】
この実施例1は、真空蒸着装置Aは、図4に示すアップデポジションの外部配置タイプIやアップデポジションの内部配置タイプII−a、サイドデポジションの外部配置タイプIII、サイドデポジションの内部配置タイプIV−aについて適用される。また誘導加熱部材Dは、図5(a)に示す外周加熱タイプiで、非導電性のるつぼPa内に導電性のるつぼホルダDKaが内嵌されている。さらに冷却手段は全体冷却タイプγ−aで、上面が開口された容器形の全体冷却ジャケットQがるつぼPaに外嵌され、冷却水供給装置14から全体冷却ジャケットQに冷却液が供給されてるつぼPa内の蒸着材料Eを全体にわたって冷却する。この冷却液は、図示しないフィンなどにより、全体冷却ジャケットQの全体にわたって流送されて全体が均等に冷却される。
【0042】
(冷却・加熱構造)
誘導加熱部材Dおよび加熱変位手段は、図6(a)に示す分割切替タイプα−a、冷却・加熱構造におけるコイル配置構造は、誘電コイル外装タイプεであるが、誘電コイル内装タイプζであってもよい。誘電コイル外装タイプεにおける誘導コイルCは、蒸着材料Eに設定された加熱域Ha〜Hdに対応して、るつぼホルダDKaの高さ方向(加熱域の配置方向)に沿って全体冷却ジャケットQの外周部に外嵌配置された複数の分割誘導コイルCa〜Cdにより構成される。
【0043】
したがって、高周波電源装置BからスイッチSWa〜SWdを介して誘導コイルCa〜Cdにそれぞれ高周波電流を供給する。そして、予め実験などにより求められた高周波電流と蒸散時間と蒸着材料Eの種類、蒸着膜厚、真空蒸着装置AやるつぼPの構造などのパラメータから、蒸着量や蒸散時間に対する蒸着材料Eの減少量を求めるデータが蒸散データテーブル11に記録されている。そして蒸散制御部13では、操作器12から入力される蒸着条件に基づいて、センサなどにより計測される蒸着量および加熱蒸着時間と、蒸散データテーブル11のデータとに基づいてスイッチSWa〜SWdを操作し加熱域Ha〜Hdを制御する。
【0044】
上記構成において、るつぼホルダDKa内に蒸着材料Eが投入され、操作器12の操作により蒸着作業が開始されると、まずスイッチSWaがオンされて最上段の誘導コイルCaに高周波電流が供給され、誘導コイルCaから発生される磁界が加熱域Haに対応するるつぼホルダDKaの最上段部位に作用して誘導加熱され、伝導熱や輻射熱により加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散される。
【0045】
蒸散制御部13では、所定の蒸散時間が経過すると、蒸散データテーブル11のデータに基づいて加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散されたと判断し、スイッチSWaをオフするとともにスイッチSWbをオンし、最上段の加熱域Haからその下位の加熱域Hbに対応するつぼホルダDKaの部位を誘電加熱して、蒸着材料Eの減少に対応する。下位側に次順これを繰り返して長時間の蒸着作業を行い、蒸着材料Eをすべて蒸散する。
【0046】
この蒸着作業中に、冷却水供給装置14から全体冷却ジャケットQに冷却液が供給されて均一に冷却され、蒸着材料E全体が均等に冷却されており、蒸着材料Eが加熱により劣化されるのを防止している。また全体冷却ジャケットQによる吸熱量より、分割誘導コイルCa〜Cdにより誘導加熱される加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの部位おける発熱量がはるかに大きいため、加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eが集中して蒸散され、加熱域Ha〜Hdからずれた蒸着材料Eが冷却されて劣化が効果的に防止される。
【0047】
ここで、蒸着材料Eの劣化はPL測定などにより測定することができ、図2に液晶パネルの蒸着材料Eであるα−NDPの計測結果を示す。
実施例1によれば、分割誘導コイルCa〜Cdにより加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位をそれぞれ集中して加熱することから、当該加熱域Ha〜Hd以外の蒸着材料Eが加熱されずに蒸着材料Eの劣化を防止することができるとともに、蒸散制御部13によりスイッチSWa〜SWdを操作して、高周波電源装置Bから誘導コイルCa〜Cdに供給する高周波電流を制御し、加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位を変位させることで、蒸着材料Eを順次蒸発または昇華させて蒸着作業を長時間にわたって連続して行うことができる。また冷却水供給装置14から全体冷却ジャケットQに冷却液を供給して蒸着材料Eを冷却することにより劣化を防止することができ、長時間の連続蒸着を効率よく行うことができる。
【0048】
[実施例2]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例2を、図9を参照して説明する。この実施例2は、実施例1における加熱変位手段を、分割切替タイプα−aから移動変位タイプβ−aに変更したもので、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0049】
真空蒸着装置Aは図4に示すアップデポジション外部配置タイプIやアップデポジション内部配置タイプII−a、サイドデポジション外部配置タイプIII、サイドデポジション内部配置タイプIV−aについて適用される。また誘導加熱部材Dは、図5(a)に示す外周加熱タイプi−aのつぼホルダDKaである。さらに冷却手段は全体冷却タイプγ−aで、るつぼPaに外嵌された全体冷却ジャケットQにより冷却される。
【0050】
(冷却・加熱構造)
そして、誘導加熱部材Dおよび加熱変位手段は移動変位タイプβ−aであり、冷却・加熱構造におけるコイル配置構造は、誘電コイル外装タイプεであるが、誘電コイル内装タイプζであってもよい。そしてコイル移動装置Sにより、全体冷却ジャケットQに昇降自在に遊嵌された円筒形の可動誘導コイルCmaを上下方向に移動させることにより、加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位を変位させることができる。
【0051】
コイル移動装置Sは、架台15に加熱域Ha〜Hdの配置方向(上下方向)に沿うねじ軸16が回転自在に支持され、可動誘導コイルCmaがコイル保持具17に保持されれるとともに、このコイル保持具17に、ねじ軸16に螺合する雌ねじ部材18が取り付けられている。そしてねじ軸16の下端部に、減速機付の変位モータ19の出力軸が連結され、蒸散制御部13によりモータ制御器20を介して変位モータ19が操作される。21は保持具17を案内する一対のガイドロッドである。
【0052】
したがって、高周波電源装置Bから伸縮可能な給電ケーブル22を介して可動誘導コイルCmaに高周波電流を供給して、可動誘導コイルCmaから発生した磁界によりるつぼホルダDKaの所定の加熱部位を加熱し、伝導熱や輻射熱により加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eを蒸散させる。また蒸散制御部13では、操作器12から入力される蒸着条件により、蒸散データテーブル11のデータに基づいて蒸散時間をカウントする。そして、その加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eが蒸散される蒸散時間が経過すると、モータ制御器20を介してコイル移動装置Sの変位モータ19を駆動し、可動誘導コイルCmaを変位させて、次の加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位を誘導加熱する。
【0053】
上記構成において、るつぼホルダDKa内に蒸着材料Eが投入され、操作器12の操作により蒸着作業が開始されると、最上位の加熱域Haに対応して配置された可動誘導コイルCmaに高周波電源装置Bから高周波電流が供給されて、可動誘導コイルCmaから発生された磁界が作用し最上段の部位が誘導加熱され、加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散される。
【0054】
蒸散制御部13では、蒸散データテーブル11のデータに基づいて、所定の蒸散時間が経過すると、加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散されたと判断し、コイル移動装置Sを駆動して可動誘導コイルCmaを下降し、次の加熱域Hbの対応位置で停止させ、次の加熱域Hbに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位を誘導加熱し、加熱域Hbの蒸着材料Eの蒸散する。次の各加熱域Hc,Hdに対して順次これを繰り返し、長時間の蒸着作業を行ってすべての蒸着材料Eを蒸散する。
【0055】
この蒸着作業中に、冷却水供給装置14から全体冷却ジャケットQに冷却液が供給されて蒸着材料Eが均一に冷却され、加熱域Ha〜Hdの熱により蒸着材料Eが劣化されるのを防止している。
【0056】
実施例2によれば、コイル移動装置Sを操作して可動誘導コイルCmaをるつぼホルダDKaの加熱域Ha〜Hdに沿って変位させることで、加熱域Ha〜Hdを順次加熱して、蒸着作業を長時間にわたって連続して行うことができる。全体冷却ジャケットQにより蒸着材料Eを冷却するので、蒸着材料Eの劣化を防止して長時間の連続蒸着を行うことができる。
【0057】
[実施例3]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例3を図10を参照して説明する。この実施例3は、実施例1において全体に均等に冷却する全体冷却タイプγ−aを、非冷却領域を変位可能に設けることができる分割冷却タイプδ−aに変更したもので、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
真空蒸着容器Aは、図4に示すアップデポジション外部配置タイプIやアップデポジション内部配置タイプII−a、サイドデポジション外部配置タイプIII、サイドデポジション内部配置タイプIV−aについて適用される。また誘導加熱部材Dは、図5(a)に示す外周加熱タイプi−aのるつぼホルダDKaである。
【0059】
さらに冷却手段は図7(c)に示す分割冷却タイプδ−aであり、るつぼPaに外嵌されて加熱域Ha〜Hdに対応する冷却領域ごとに分割された複数の分割冷却ジャケットQa〜Qdと、冷却水供給装置14から各分割冷却ジャケットQa〜Qdに冷却液を供給する給液管および排液管と、給液管にそれぞれ介在された開閉弁23a〜23dとを具備し、蒸散制御部13により前記各開閉弁23a〜23dを選択的に操作して、加熱域Ha〜Hdに対応する分割冷却ジャケットQa〜Qdへの冷却液の供給を停止し非冷却領域とすることができる。
【0060】
(冷却・加熱構造)
誘導加熱部材Dおよび加熱変位手段は図6(a)に示す分割切替タイプα−aであり、また冷却・加熱構造におけるコイル配置構造は、図8(b)に示す誘電コイル外装タイプεで、各分割冷却ジャケットQa〜Qdの外周部に、るつぼホルダDKaの高さ方向(加熱域の移動方向)に沿って誘導コイルCa〜Cdが配置され、高周波電源装置BからスイッチSWa〜SWdを介して分割誘導コイルCa〜Cdにそれぞれ高周波電流が選択的に供給される。
【0061】
そして蒸散制御部13では、操作器12から入力される蒸着条件と、蒸散データテーブル11のデータとに基づいてスイッチSWa〜SWdを操作し、分割誘導コイルCa〜Cdに高周波電流を順次供給して、加熱域Ha〜Hdを制御する。同時に、蒸散制御部13により前記開閉弁23a〜23dを操作し、分割冷却ジャケットQa〜Qdへの冷却液の供給を停止し非冷却領域を制御する。
【0062】
上記構成において、るつぼホルダDKa内に蒸着材料Eが投入され、操作器12の操作により蒸着作業が開始されると、高周波電源装置Bから最上位の加熱域Haに対応する分割誘導コイルCaに高周波電流が供給され、可動誘導コイルCmaから発生される磁界がるつぼホルダDKaの最上部に作用して誘導加熱し、加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散される。同時に、開閉弁23aを閉じて加熱域Haに対応する分割冷却ジャケットQaへの冷却液の供給を停止し、非冷却領域とする。これにより、加熱域Haの蒸着材料Eを効率よく蒸散する。
【0063】
蒸散制御部13では、所定の蒸散時間が経過すると、蒸散データテーブル11のデータに基づいて加熱域Haの蒸着材料Eが蒸散されたと判断し、スイッチSWaをオフするとともにスイッチSWbをオンし、最上段の加熱域Haから次の加熱域Hb変位させて分割誘導コイルCbに高周波電流を供給し、次に対応するるつぼホルダDKaの部位を誘導加熱し加熱域Hbの蒸着材料Eが蒸散する。同時に開閉弁23aを開けて分割冷却ジャケットQaに冷却液を供給するとともに、開閉弁23bを閉じて非冷却領域とする。順次これを繰り返して長時間の蒸着作業を行い、蒸着材料Eをすべて蒸散する。
【0064】
実施例3によれば、蒸着作業中に、選択された加熱域Ha〜Hd以外の分割冷却ジャケットQa〜Qdに冷却液の供給を停止して非冷却領域とするとともに、その他の加熱域Ha〜Hdに対応する分割冷却ジャケットQa〜Qdに冷却液を供給して、加熱域Ha〜Hd以外の蒸着材料Eを冷却することにより、蒸着材料Eの劣化を防止しつつ加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eを効率よく蒸散することができ、長時間の連続蒸着を行うことができる。
【0065】
なお、変形例として図11を示す。この実施例3における真空蒸着容器Aは、図4に示すアップデポジション外部配置タイプIやアップデポジション内部配置タイプII−a、サイドデポジション外部配置タイプIII、サイドデポジション内部配置タイプIV−aについて適用される。また誘導加熱部材Dは、図5(c)に示す直接加熱タイプii−aで、誘導加熱るつぼDPaを使用するように図示されているが、外周加熱タイプi−aや内装加熱タイプiii−a、上面加熱タイプivであってもよい。また誘電コイルCは、分割冷却ジャケットQb内にそれぞれ分割誘電コイルCa〜Cdを内装した内装タイプζ:図8(g)としたものである。この実施例3の変形例も、実施例3と同様の作用効果を奏することができる。
【0066】
[実施例4]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例4を図12を参照して説明する。この実施例4は、実施例2における誘導加熱部材Dおよび加熱変位手段が移動変位タイプβ−aと、非冷却領域を形成しかつこの非冷却領域を変位させることができる分割冷却タイプδ−aとを組み合わせたもので、なお、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0067】
分割冷却タイプδ−aは、るつぼPaに外嵌されて所定の冷却領域ごとに分割された複数の分割冷却ジャケットQa〜Qdと、冷却水供給装置14から各分割冷却ジャケットQa〜Qdに冷却液を供給する給液管に介在された開閉弁23a〜23dとを具備し、給液管および排液管は、それぞれ他の分割冷却ジャケットQb〜Qdを貫通して設けられている。
【0068】
実施例4によれば、可動誘導コイルCmaにより加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKaの加熱部位をそれぞれ集中して加熱すると同時に、選択された加熱域Ha〜Hdに対応して配置された冷却領域の分割冷却ジャケットQa〜Qdへの冷却液の供給を停止して非冷却領域とすることにより、当該加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eのみを効果的に加熱し、残りの蒸着材料Eが冷却されるので、蒸着材料Eの劣化を効果的に防止できる。そしてコイル移動装置Sを操作して可動誘導コイルCmaを加熱域Ha〜Hdに沿って変位させることで、加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eを順次加熱して、蒸着作業を長時間にわたって連続して行うことができる。
【0069】
[実施例5]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例5を、図13を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0070】
この実施例5は、真空蒸着容器Aは、図4に示すアップデポジション外部配置タイプIやアップデポジション内部配置タイプII−a、サイドデポジション外部配置タイプIII、サイドデポジション内部配置タイプIV−aについて適用される。また誘導加熱部材Dは、図5(e)に示す内装加熱タイプiiiで、非導電性のるつぼPa内で蒸着材料E内の軸心位置に、導電性材料からなるロッド状の内装誘導加熱部材DLが加熱域Ha〜Hdに対応して配置されている。そして、分割誘導コイルCa〜Cdにより内装誘導加熱部材DLを加熱し、伝導熱や輻射熱により蒸着材料Eを内部から加熱し、蒸着材料Eを蒸散するものである。
【0071】
さらに冷却手段は、図7(c)に示す分割冷却タイプδ−aで、るつぼPaに外嵌されて加熱域Ha〜Hdに対応する冷却領域ごとに分割された複数の分割冷却ジャケットQa〜Qdと、冷却水供給装置14から各分割冷却ジャケットQa〜Qdに冷却液を供給する給液管および排液管と、給液管にそれぞれ介在された開閉弁23a〜23dとを具備し、蒸散制御部13により各開閉弁23a〜23dをそれぞれ操作して、加熱域に対応する分割冷却ジャケットQa〜Qdを非冷却領域とすることができる。
【0072】
(冷却・加熱構造)
誘導加熱部材Dおよび加熱変位手段は、図6(a)に示す分割切替タイプα−aで、冷却・加熱構造におけるコイル配置構造は、図8(b)に示す誘電コイル外装タイプεであるが、図8(g)に示す誘電コイル内装タイプζであってもよく、複数の分割誘導コイルCa〜Cdにより構成される。
【0073】
上記実施例5によれば、分割誘導コイルCa〜Cdにより、加熱域Ha〜Hdに対応する内装誘導加熱部材DLの所定部位を順次誘導加熱して、蒸着材料Eを内部から加熱し蒸着材料Eを蒸散することができる。また加熱域Ha〜Hdに対応する分割冷却ジャケットQa〜Qdを非冷却領域として、加熱域Ha〜Hd以外の蒸着材料Eのみを冷却することができる。したがって、蒸着材料Eの劣化を防止しつつ、蒸着材料Eを長時間にわたって蒸散することができ、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0074】
なお、図15の実施例5の他の変形例に示すように、可動誘電コイルCmaにより内装誘導加熱部材DLを加熱することもできる。また、ここで冷却手段は、全体冷却ジャケットQを使用した全体冷却タイプγ−aとしている。
【0075】
また、図13では、内装誘導加熱部材DLをるつぼPaの軸心部に1本配置したが、図14(a)、(b)に示すように、軸心を中心とする円弧上に複数本の内装誘導加熱部材DLを配置することにより、内装誘導加熱部材DLと蒸着部材Eとの接触面積を増加させて、効率よく蒸散させることができる。
【0076】
[実施例6]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例6を、図16および図17を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0077】
この実施例6は、実施例5における内装誘導加熱部材DLを、図5(g)に示す上面加熱タイプivとして上面加熱プレート(上面誘導加熱部材)DMを使用するものである。この上面加熱プレートDMは、図17(a)に示すように円板状か、または図17(b)に示すように、円板に単数または複数の蒸散孔24が形成されている。
【0078】
真空蒸着容器装置Aは、図4に示すアップデポジション外部配置タイプIやアップデポジション内部配置タイプII−a、サイドデポジション外部配置タイプIII、サイドデポジション内部配置タイプIV−aについて適用される。そして、分割誘導コイルCa〜Cdにより、上面加熱プレートDMを加熱し、主に伝導熱により蒸着材料Eを上面から加熱し、蒸着材料Eを蒸散するものである。
【0079】
導電性のるつぼPa内で蒸着材料Eの上面に支持されるように上面加熱プレートDMが配置され、誘導コイルCにより上面加熱プレートDMを誘導加熱して、主に伝導熱により蒸着材料Eを上面から加熱して蒸散させる。蒸散により蒸着材料Eが減少して上面加熱プレートDMが下降され、上面加熱プレートDMが加熱域Ha〜Hdに達すると、蒸散制御部13によりスイッチSWa〜SWdを操作して高周波電流を供給する分割誘導コイルCa〜Cdを下位側に切り替え、高密度の磁界内に上面加熱プレートDMが配置されるように制御される。また上面加熱プレートDMの変位にしたがって冷却領域も変位される。
【0080】
もちろん、図18に示す実施例6の変形例のように、上面加熱プレートDMの下降に従って、コイル移動装置Sにより可動誘導コイルCmaを下降させるようにしてもよい。
上記実施例6や実施例6の変形例によれば、分割誘導コイルCa〜Cdまたは可動誘導コイルDmにより、蒸着材料Eの上面に配置した上面加熱プレートDMを誘導加熱し、伝導熱や輻射熱により上面加熱プレートDMに接する蒸着材料Eを加熱して蒸散させる。そして蒸散により減少する蒸着材料Eに従って上面加熱プレートDMが下降されると、給電する分割誘導コイルCa〜Cdを下位側に変更したり、あるいはコイル移動装置Sにより可動誘導コイルDmを下方に変位させて、高密度な磁界が上面加熱プレートDMに作用するように制御して、誘導加熱を継続させることにより、長時間にわたって蒸着材料Eを蒸散することができる。一方、冷却領域調整手段により、選択された加熱域Ha〜Hdを非冷却領域とし、残りの蒸着材料Eを冷却することができる。したがって、蒸着材料Eの劣化を防止しつつ、蒸着材料Eを長時間にわたって蒸散することができ、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0081】
[実施例7]
以下、本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例7を、図19を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0082】
この実施例7は、図4に示す開口面が広い皿形のるつぼ(ボート)Pbを使用するもので、アップデポジション内部配置タイプタイプII−b,サイドデポジション内部配置タイプタイプIV−bについて適用される。そして、誘導加熱部材Dは、図5(d)に示す直接加熱タイプii−bで、るつぼPbに導電性材料により形成される誘電加熱るつぼDPbが使用され、分割誘導コイルCa〜Cdから発生される磁界により、誘導加熱るつぼDPbの所定の加熱部位を誘導加熱して、伝導熱や輻射熱により蒸着材料Eを蒸散するものである。
【0083】
冷却手段は、図7(d)に示すタイプδ−bで、真空蒸着容器Aの底部外側に加熱域Ha〜Hdに対応する冷却領域ごとに分割された複数の分割冷却ジャケットRa〜Rdと、冷却水供給装置14から各分割冷却ジャケットRa〜Rdに冷却液を供給する給液管および排液管と、冷却液を循環供給する冷却液供給装置14と、給液管にそれぞれ介在されたに介在された開閉弁23a〜23dとを具備している。そして、蒸散制御部13により前記各開閉弁23a〜23dを操作して、加熱域Ha〜Hdに対応する分割冷却ジャケットQa〜Qdへの冷却液の供給を停止して、非冷却領域とすることができる。
【0084】
加熱変位手段は、図6(b)に示す分割切替タイプα−b、誘導コイルCの配置構造は、図8(h)に示す内装外装タイプζであって、分割冷却ジャケットQa〜Qd内に分割誘電コイルCe〜Chがそれぞれ配置されている。
【0085】
上記実施例7によれば、最初の分割誘導コイルCeから発生された磁界により、加熱域Haに対応する導電性の誘導加熱るつぼDPbの所定部位を加熱し、伝導熱や輻射熱により当該加熱域Ha内の蒸着材料Eを加熱して蒸散させる。そして加熱域He内の蒸着材料Eが減少すると、分割誘導コイルCeへの高周波電流の給電を停止するとともに、次の加熱域Hbの分割誘導コイルCfに高周波電流を給電し、加熱域Hbに対応する誘導加熱るつぼDPbの次の部位を加熱し、伝導熱や輻射熱により当該加熱域Hf内の蒸着材料Eを加熱して蒸散させる。
【0086】
一方、選択された加熱域Ha〜Hdに対応する分割冷却ジャケットRa〜Rd対して冷却水の供給を停止し非冷却領域とするとともに、残りの蒸着材料Eを冷却することにより、蒸着材料Eの劣化を防止しつつ、蒸着材料Eを長時間にわたって蒸散することができ、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0087】
[実施例8]
本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例8を、図20を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0088】
この実施例8は、皿形のるつぼPb内に導電性のるつぼホルダDKbを配置した外周加熱タイプi−bで、るつぼDPbを蒸着室a内に配置したアップデポジション内部配置タイプタイプII−bやサイドデポジション内部配置タイプタイプIV−bについて適用される。そして、可動コイルCmbから発生される磁界により、加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKbの所定部位を誘導加熱して、伝導熱や輻射熱により蒸着材料Eを蒸散するものである。
【0089】
冷却手段は、図7(b)に示すタイプγ−bで、るつぼPbの底部外側に全体冷却ジャケットRと、冷却水供給装置14から全体冷却ジャケットRに冷却液を供給する給液管および排液管と、冷却液を循環供給する冷却液供給装置14とを具備している。
【0090】
誘導コイルCおよび加熱域変位手段については、図6(d)に示すように、コイル移動装置Sにより、可動誘導コイルCmbを加熱域Ha〜Hdの配置方向に沿って移動させる移動変位タイプβ−bである。誘導コイルCmbは全体冷却ジャケットRの下部側方に配置されている。
【0091】
上記実施例8によれば、コイル移動装置Sにより可動誘導コイルCmbを加熱域Ha〜Hdに沿って移動させることにより、加熱域Ha〜Hdに対応するるつぼホルダDKbの加熱部位を変位させ、伝導熱や輻射熱により当該加熱域Ha〜Hdの蒸着材料Eを順次加熱して蒸散させることができる。また全体冷却ジャケットRに冷却水を供給して、蒸着材料E全体を冷却することから、加熱域Ha〜Hd以外の蒸着材料Eが熱により劣化させることがない。したがって、蒸着材料Eの劣化を防止しつつ、蒸着材料Eを長時間にわたって蒸散することができ、長時間の連続蒸着が可能となる。
【0092】
[実施例9]
本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例9を、図21および図22を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0093】
実施例7では、直接加熱タイプii−bの誘導加熱るつぼDPbを使用したのに対して、この実施例9では、図5(f)に示す内装加熱タイプiii−bとしたものであり、他の構造は実施例7と同じである。
【0094】
るつぼPb内で蒸着材料Eの内部に配置される内装誘導加熱材DLは、たとえば図22(a)に示すように、加熱域Ha〜Hdに沿って配置された単数または複数のロッド状の内装誘導加熱部材DLや、また図22(b)に示すように、加熱域Ha〜Hdに沿って配置されて複数または多数の蒸散孔25が形成されたプレート状の内装誘導加熱部材DLにより構成される。
【0095】
上記実施例9によれば、実施例7の作用効果に加えて、ロッド状やプレート状の内装誘導加熱部材DLが蒸着材料Eと接触する面が広く、伝導熱および輻射熱をより効果的に蒸着材料Eに伝達することができ、誘導加熱される内装誘導加熱材DLの熱効率を向上させることができる。
【0096】
[実施例10]
本発明に係る真空蒸着用るつぼ装置の実施例10を、図23および図24を参照して説明する。なお、先の実施例と同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0097】
実施例8では誘導加熱部材DをるつぼホルダDKbとしたのに対して、この実施例10では、図5(h)に示す輻射誘導加熱タイプvとしたもので、他の構造は実施例8と同じである。
【0098】
るつぼPbの上方には、蒸着材料Eから一定距離を隔てて輻射誘導加熱材DNが支持部材を介して配置されている。この輻射誘導加熱材DNは、たとえば図24(a)に示すように、加熱域Ha〜Hdに沿って配置された単数または複数のロッド状の輻射誘導加熱部材DNや、また図24(b)に示すように、加熱域Ha〜Hdに沿って配置されて複数または多数の蒸散孔26が形成されたプレート状の輻射誘導加熱部材DNにより構成される。
【0099】
上記実施例9によれば、実施例8の作用効果に加えて、ロッド状やプレート状の輻射誘導加熱部材DNが蒸着材料Eに対して一定距離をあけて配置されていることから、輻射熱を各加熱域Ha〜Hdの全体にわたって均一に供給することができ、安定した加熱と蒸散を行うことができる。
【符号の説明】
【0100】
A 真空蒸着容器
B 高周波電源装置
C 誘導コイル
Ca〜Cd,Ce〜Ch 分割誘導コイル
Cma,Cmb 可動誘導コイル
D 誘導加熱部材
DPa,DPb 導電性のるつぼ
DKa,DKb るつぼホルダ
DL 内装誘導加熱部材
DM 上面加熱プレート
DN 輻射誘導加熱部材
E 蒸着材料
G ノズル
Q,R 全体冷却ジャケット
Qa〜Qd 分割冷却ジャケット
Ra〜Rd 分割冷却ジャケット
Ha〜Hd,He〜Hh 加熱域
Pa,Pb るつぼ
SWa〜SWd,SWe〜SWh スイッチ
S コイル移動装置
T 基板
11 蒸散データテーブル
12 操作器
13 蒸散制御部
14 冷却液供給装置
23a〜23d 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
前記るつぼに、誘導加熱可能な材料により形成された誘導加熱るつぼを使用し、
前記誘導加熱るつぼに収容された蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設置された誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの部位を誘導加熱して、当該加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
最初の加熱域の蒸着材料が蒸発または昇華された後、前記誘導加熱源から発生される磁界を操作して、次の加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの所定部位を誘導加熱することにより、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行う
ことを特徴とする真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項2】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
蒸着材料に接して配置されるとともに誘導加熱可能な材料により形成された誘導加熱部材を内装したるつぼを使用し、
るつぼ内の蒸着材料に、複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する前記誘導加熱部材の部位を誘導加熱して、当該加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
当該加熱域に対応する蒸着材料が蒸発または昇華された後、前記誘導加熱源から発生される磁界を操作して、次の加熱域に対応する誘導加熱部材の部位誘導加熱し、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行う
ことを特徴とする真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項3】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させるに際し、
誘導加熱可能な材料からなり蒸着材料の上面に支持される上面誘導加熱部材を設けたるつぼを使用し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、前記上面誘導加熱部材を誘導加熱して、当該上面誘導加熱部材下部の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
蒸着材料の減少に従って下降する上面誘導加熱部材に対応して誘導加熱源から発生させる磁界を操作し、当該上面誘導加熱部材を連続して誘導加熱する
ことを特徴とする真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項4】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に蒸着材料の薄膜を蒸着するために、るつぼ内に収容された蒸着材料を加熱して蒸発、昇華させるに際し、
誘導加熱可能な材料からなる輻射加熱部材を、蒸着材料の上方に所定距離をあけて配置したるつぼを使用し、
るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に設けられた誘導加熱源から発生された磁界により、最初の加熱域に対応する輻射加熱部材の部位を誘導加熱して、当該輻射加熱部材からの輻射熱により最初の加熱域の蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させ、
最初の加熱域の蒸着材料が蒸発または昇華された後、誘導加熱源から発生された磁界を操作して、次の加熱域に対応する前記輻射加熱部材の部位を誘導加熱し、次の加熱域の蒸着材料を蒸発または昇華させ、
これを繰り返して蒸着作業を連続して行う
ことを特徴とする真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項5】
るつぼの外側に設けられた冷却手段により蒸着材料全体を冷却する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項6】
るつぼの外側に設けられた冷却手段により、加熱域を非冷却領域として冷却せず、その他の加熱域の蒸着材料を冷却し、
前記加熱域の変位に対応して、前記非冷却領域を変位させる
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の真空蒸着用蒸着材料の蒸発、昇華方法。
【請求項7】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼを誘導加熱可能な導電性材料により形成された誘導加熱るつぼとするとともに、当該誘導加熱るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
前記誘導加熱るつぼの外側に、前記誘導加熱るつぼを誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記誘導加熱るつぼの部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項8】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼ内に、蒸着材料を収容するとともに誘導加熱可能な導電性材料からなるるつぼホルダを設けるとともに、当該るつぼホルダ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記るつぼホルダを誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、前記加熱域に対応する前記るつぼホルダの部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項9】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料中に、誘導加熱可能な導電性材料からなる内装誘導加熱部材を設けるとともに、蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記内装誘導加熱部材を誘導加熱して蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記内装誘導加熱部材の部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項10】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料の上面に支持されて、誘導加熱可能な導電性材料からなる上面誘導加熱部材を設け、
るつぼの外側に、前記上面誘導加熱部材を誘導加熱して当該上面誘導加熱部材下部の蒸着材料を蒸発または昇華可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、蒸着材料の減少に従って下降する上面誘導加熱部材を誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項11】
真空蒸着容器内で被蒸着材の表面に薄膜を蒸着するために、蒸着材料を加熱して蒸発または昇華させる真空蒸着用るつぼ装置において、
るつぼに収容された蒸着材料の上方に離間して配置されて、誘導加熱可能な導電性材料からなる輻射誘導加熱部材を設け、
るつぼ内の蒸着材料に複数の加熱域を設定し、
るつぼの外側に、前記輻射誘導加熱部材を誘導加熱可能な誘導加熱源を設け、
当該誘導加熱源から発生する磁界を操作して、加熱域に対応する前記輻射誘導加熱部材の部位を選択的に誘導加熱可能な加熱域変位手段を設けた
ことを特徴とする真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項12】
誘導加熱源を、加熱域に対応して分割配置された複数の分割誘導コイルとし、
加熱域変位手段を、前記各分割誘導コイルにそれぞれ供給する高周波電流をオン、オフ制御する蒸散制御装置により構成した
ことを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載の真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項13】
誘導加熱源を、加熱域の配置方向に移動自在に配置された可動誘導コイルとし、
加熱域変位手段を、前記可動誘導コイルを移動可能なコイル移動装置と、当該コイル移動装置を操作し、加熱域に対応して前記可動誘導コイルを移動させる蒸散制御装置により構成した
ことを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載の真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項14】
るつぼの外側に冷却手段を設け、
前記冷却手段を、冷却液が給、排出されて蒸着材料全体を均一に冷却する全体冷却ジャケットにより構成した
ことを特徴とする請求項7乃至13の何れかに記載の真空蒸着用るつぼ装置。
【請求項15】
るつぼの外側に冷却手段を設け、
前記冷却手段を、加熱域に対応して複数に分割配置され分割冷却ジャケットにより構成し、
前記加熱域に対応する前記分割冷却ジャケットへの冷却液の供給を停止するとともに、前記加熱域の変位に対応して、冷却液の供給を停止する分割冷却ジャケットを変更可能な蒸散制御装置を設けた
ことを特徴とする請求項7乃至13の何れかに記載の真空蒸着用るつぼ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−52301(P2011−52301A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−204190(P2009−204190)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】