説明

真贋判定装置

【課題】 一意性を証明する必要がある被判定物の真贋を容易に、かつ、確実に判定することができる真贋判定装置を提供する。
【解決手段】 被判定物2の所定位置Aに配置され、ナノメートル規模のランダムな表面形状を有する膜3と、被判定物2の所定位置Aの表面形状を観察して表面形状情報を出力する観察手段4と、表面形状情報に基づいて乱数を演算する演算部8と、被判定物2に配置された膜3に基づく乱数が予め記憶された記憶部8と、観察手段4により観察された表面形状情報に基づく乱数と、記憶部9に記憶された乱数とを比較する比較部10と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一意性を証明する必要がある被判定物の真贋判定には、被判定物の材料等の分析結果や、被判定物の製作技法、もしくは被判定物に添付されている鑑定証などが用いられていた。その他にも、ホログラムシールを被判定物に貼り付けて真贋判定する方法や(例えば、特許文献1参照。)、ICタグを被判定物に貼り付けて真贋判定する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2002−283775号公報
【特許文献2】特開2002−259936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述のように、被判定物の材料分析を行うことで、材料を構成する成分の種類やその比率などの情報を得ることができ、この情報が本物と一致するか否かにより真贋を判定することができる。
しかしながら、この方法では、本物と同一の材料から形成された偽物を、偽物と判別することは困難で真贋の判定を誤る恐れがあった。
【0004】
また、被判定物の製作技法による真贋鑑定は、当該製作技法についての知識が必要とされるとともに、被判定物がどのような製作技法により製作されたかを推定する技量が求められる。このような知識および技量を兼ね備えることは困難であり、真贋鑑定を容易に行うことができないという問題があった。
また、上述の知識および技量どちらか一方でも不足すると、被判定物の真贋を誤って判断してしまう恐れがあった。
【0005】
被判定物に添付されている鑑定書は被判定物の真贋を保障するものであり、容易に被判定物の真贋を判定することができる。
しかしながら、鑑定書の内容が正しいのか否かについては保障されていないこともあり、被判定物の真贋を誤る恐れがあった。
【0006】
特許文献1および特許文献2に開示されているように、被判定物にラベルを貼り付けたりICタグを付与したりする方法では、本物に貼り付けたラベルやICタグを剥がすことが可能であるとともに、本物から剥がしてきたラベルやICタグを贋物に貼り付け、本物を装うことが可能であった。あるいは、本物同様に偽造したラベルやICタグを用いて本物を装うことが可能であった。
また、ラベルやICタグは目視が可能であるため、例えば被判定物が美術品などの場合には、その美観を損ねてしまう恐れがあった。
【0007】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、一意性を証明する必要がある被判定物の真贋を容易に、かつ、確実に判定することができる真贋判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の手段を提供する。
本発明の真贋判定装置は、被判定物の所定位置に配置され、ナノメートル規模のランダムな表面形状を有する膜と、前記被判定物の所定位置の表面形状を観察して表面形状情報を出力する観察手段と、前記表面形状情報に基づいて乱数を演算する演算部と、前記被判定物に配置された前記膜に基づく乱数が予め記憶された記憶部と、前記観察手段により観察された表面形状情報に基づく乱数と、前記記憶部に記憶された乱数とを比較する比較部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、本物の被判定物にランダムな表面形状を有する膜を配置することにより、本物の被判定物に膜に基づく乱数を付与している。後に真贋が不明な被判定物の所定位置の表面情報から得られた乱数と、本物に付与された乱数とを比較し、両乱数の一致・不一致により被判定物の真贋を判定することができる。
【0010】
膜はランダムな表面形状を有するため、他の膜の表面形状と一致する可能性は低い。そのため、膜の表面形状情報に基づいて得られる乱数も一致する可能性が低く、膜が配置された被判定物の一意性を証明することができる。
また、膜の表面形状はナノメートル規模であるため、模倣することが困難であり、真贋を確実に判定することができる。
また、膜は非常に微笑で不可視であるため被判定物として、例えば美術品や骨董品に適用した場合にでもその美観を損ねることなくマーキングすることが可能である。
【0011】
上記観察手段、演算部、記憶部、比較部を用いることで、何人でも被判定物の真贋判定を容易に行うことができる。また、真贋判定を行う人により判定結果が異なることを防止することができる。
また、膜の材料としては、成膜ごとに異なる表面形状を有する膜を形成する材料であればよく、有機物であってもよいし、無機物であってもよい。
【0012】
さらに、上記発明においては、前記被判定物と前記膜との間に、所定パターンが形成されたターゲットが配置され、前記膜の表面形状観察位置が、前記所定パターンに基づいて決められるが望ましい。
本発明によれば、ターゲットの所定パターンに基づいて膜の表面形状を観測することにより、常に同じ位置の表面形状を観測することができる。そのため、常に同じ乱数を発生させることができ、本物の被判定物を偽物と誤って判定することを防止することができる。
【0013】
上記発明においては、前記膜が、自己組織化する樹脂から形成されていることが望ましい。
本発明によれば、膜を自己組織化する樹脂から形成することにより、ナノメートル規模の表面形状を容易に形成することができる。他の方法では、ナノメートル規模の形状を形成することは困難であるため、偽物の複製を困難にすることができる。
また、自己組織化により形成されるパターンは無数に存在するため、使用する表面形状のパターンが偶然一致する可能性は低く、真贋判定の誤りを低減することができる。
樹脂としては、複数の成分からなるブロック共重合体でもよいし、単一の成分からなるものでもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の真贋判定装置によれば、本物の被判定物にランダムな表面形状を有する膜を配置することにより、真贋が不明な被判定物の所定位置の表面形状情報から得られた乱数と、本物に配置された膜に基づく乱数とを比較し、両乱数の一致・不一致により被判定物の真贋を判定することができるという効果を奏する。
ランダムな表面形状を有する膜を用いるため、他の膜の表面形状と一致する可能性は低い。そのため、膜の表面形状情報に基づいて得られる乱数も一致する可能性が低く、膜が配置された被判定物の一意性を証明することができるという効果を奏する。
【0015】
膜の表面形状はナノメートル規模であるため、模倣することが困難であり、真贋を確実に判定することができるという効果を奏する。
上記観察手段、演算部、記憶部、比較部を用いることで、何人でも被判定物の真贋判定を容易に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
この発明の一実施形態に係る真贋判定装置について、図1から図4を参照して説明する。
図1は、本発明に係る真贋判定装置の概略を説明する図である。
真贋判定装置1は、図1に示すように、美術品や書類などの被判定物2の所定位置Aに配置された膜3と、被判定物2の所定位置Aの表面形状を観察する形状測定部(観察手段)4と、真贋判定装置1を制御するとともに、印刷物2の真贋を判定する電算機5とから概略構成されている。
また、被判定物2と膜3との間には、所定パターンが形成されたターゲット6が配置されている。
【0017】
膜3は、成膜する毎に異なる表面形状(表面組織)を示すもの、具体的には自己組織化する樹脂から形成された膜であり、その表面にはランダムなナノメートル規模の表面形状が形成されている。
膜3の材料としては、両親媒性化合物や樹脂(ブロック共重合体や、疎水性ポリマーなど)などを用いることができる。
また、ブロック共重合体の各成分の配合比率などは、特に限定されるものではない。
【0018】
ここで、ランダムな表面形状について、図2から図4を用いて説明する。
図2は膜の表面形状を形状測定部4で観察したときの強度分布を説明する図であり、図2(a)はランダムな表面形状の強度分布を説明する図であり、図2(b)は規則的な表面形状の強度分布を説明する図である。図3は図2に示す強度分布図から得られたパワースペクトラムを説明する図であり、図3(a)はランダムな表面形状のパワースペクトラムを説明する図であり、図3(b)は規則的な表面形状のパワースペクトラムを説明する図である。図4は図3に示すパワースペクトラムの強度を縦軸に表した図であり、図4(a)はランダムな表面形状の図であり、図4(b)は、規則的な表面形状の図である。
【0019】
ランダムな表面形状は、図2(a),(b)に示すように、規則的な表面形状の強度分布と比較して、その強度分布に規則性がなく、ばらばらになっている。この状態をパワースペクトラムにより表したのが図3(a),(b)である。ランダムな表面形状の場合は、図3(a)に示すように、点線で示される円Cの円周全体に分散したリング状のパワースペクトラムになる。規則的な表面形状の場合は、図3(b)に示すように、円Cの円周上の所定位置に集中したドット状のパワースペクトラムとなる。
【0020】
本明細書においては、上述のパワースペクトラムの円C上の強度分布に基づいて、膜の表面形状がランダムか否かを規定する。
図4(a)に示すように、ランダムな表面形状の場合、円C上の強度分布の最小値Iminと、最大値Imaxと、の比(Imax)/(Imin)が小さくなる。ここでは、(Imax)/(Imin)が2よりも小さくなる場合を表面形状がランダムになっていると規定する。
逆に、図4(b)に示すように、規則的な表面形状の場合、円C上の強度分布の最小値Iminと、最大値Imaxと、の比(Imax)/(Imin)が小さくなる。ここでは、(Imax)/(Imin)が2以上になる場合を表面形状が規則的になっていると規定する。
【0021】
ターゲット6に形成されている所定パターンは、マイクロメートル規模のパターンであり、膜3の形状測定位置を規定できるパターンである。例えば、形状測定領域の境界を示す点や線などを例示することができる。
形状測定部4としては、例えば走査型トンネル顕微鏡(STM)や、原子間力顕微鏡(AFM)などの、走査型プローブ顕微鏡(SPM)を用いることができる。
電算部5には、形状測定部4を駆動制御する制御部7と、観察された膜3の表面形状情報に基づいて乱数を算出する演算部8と、膜3の表面形状情報に基づいて算出された乱数が予め記憶されている記憶部9と、形状測定部4により観察された被判定物2の所定位置Aの表面形状情報から得られた乱数と、記憶部9に記憶された乱数とを比較する比較部10と、が備えられている。
【0022】
次に、上記の構成からなる真贋判定装置1における真贋判定方法について説明する。
まず、予め本物の被判定物2の所定位置Aに膜3を配置する。そして、配置した膜3の表面形状を形状測定部4で観察し、取得された表面形状情報に基づき演算部8が乱数を算出する。算出された乱数は記憶部7に記憶される。
【0023】
膜3の表面形状の観察は、ターゲット6の所定パターンに基づいて行われる。例えば、所定パターンにより特定される所定領域内の表面形状の観察が行われる。
演算部8において行われる演算としては、例えば、表面形状情報に応じて1から9の数字を割り振り、得られた数列を乱数とする方法や、前述の方法で得られた数列を所定の論理演算により変換して得られた数列を乱数とする方法や、表面形状情報を所定の閾値により2分し、閾値より高いか低いかにより0,1の数字を割り振り、得られた数列を乱数とする方法などを挙げることができる。
【0024】
その後、真贋が明らかでない被判定物2の真贋判定を、真贋判定装置1を用いて行う。
まず、制御部7が形状測定部4を制御して、被判定物2の所定位置Aを観察する。観察された表面形状情報は、電算部5の演算部8に入力されて乱数が算出される。比較部10は、記憶部9に予め記憶された乱数を取り込み、今回算出された乱数と比較する。比較の結果、両者の乱数が同一であれば被判定物2は本物と判断され、違いがあれば偽物と判断される。
【0025】
上記の構成によれば、本物の被判定物2にランダムな表面形状を有する膜3を配置することにより、本物の被判定物2に膜3に基づく乱数を付与している。そのため、後に真贋が不明な被判定物2の所定位置Aの表面形状情報から得られた乱数と、本物に付与された乱数とを比較し、両乱数の一致・不一致により被判定物の真贋を判定することができる。
【0026】
膜3は自己組織化により形成されるランダムな表面形状を有している。自己組織化による表面形状のパターンは無数に存在するため、他の膜の表面形状と一致する可能性は低くなる。そのため、膜3の表面形状情報に基づいて得られる乱数も一致する可能性も低くなり、膜3が配置された本物の被判定物2の一意性を証明することができる。
また、膜3を自己組織化する樹脂から形成することにより、ナノメートル規模の表面形状を容易に形成することができる。さらに、膜3は、成膜する毎に異なる表面形状を示すため、模倣することが困難であり、真贋を確実に判定することができる。
【0027】
ターゲット6により膜3の表面形状を読み出す位置または領域を特定することができる。そのため、常に、同一の膜3から同一の乱数を発生させることができ、本物の被判定物2を偽物と誤って判定することを防止することができる。
また、真贋判定装置1を用いることで、何人でも被判定物2の真贋判定を容易に行うことができる。また、真贋判定を行う人により判定結果が異なることを防止することができる。
【0028】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述のように、電算機5に膜3の乱数が記憶されている記憶部9を備えていてもよいし、電算部5に通信手段を備えさせ、通信手段により他の所に保管されている膜3の乱数を入手するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による真贋判定装置の一実施形態を示す図である。
【図2】膜の表面形状を形状測定部で観察したときの強度分布を示す図である。
【図3】図2の強度分布図から得られたパワースペクトラムを示す図である。
【図4】図3のパワースペクトラム上の強度分布を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 真贋判定装置
2 被判定物
3 膜
4 形状測定部(観察手段)
6 ターゲット
8 演算部
9 記憶部
10 比較部
A 所定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被判定物の所定位置に配置され、ナノメートル規模のランダムな表面形状を有する膜と、
前記被判定物の所定位置の表面形状を観察して表面形状情報を出力する観察手段と、
前記表面形状情報に基づいて乱数を演算する演算部と、
前記被判定物に配置された前記膜に基づく乱数が予め記憶された記憶部と、
前記観察手段により観察された表面形状情報に基づく乱数と、前記記憶部に記憶された乱数とを比較する比較部と、
を備えることを特徴とする真贋判定装置。
【請求項2】
前記被判定物と前記膜との間に、所定パターンが形成されたターゲットが配置され、
前記膜の表面形状観察位置が、前記所定パターンに基づいて決められることを特徴とする請求項1記載の真贋判定装置。
【請求項3】
前記膜が、自己組織化する樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真贋判定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2006−103271(P2006−103271A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296556(P2004−296556)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】