説明

眼内レンズの製造方法及び該方法にて得られる眼内レンズ

【課題】 モールド加工で眼内レンズを製造する場合にグリスニングの発生が抑制され、精度の良い眼内レンズを得る事ができる眼内レンズの製造方法及び該方法で得られる眼内レンズを提供する。
【解決手段】
所定のモールド型を用いて眼内レンズを製造する方法は、眼内レンズ基材の原料となる重合性モノマーを重合させて,眼内レンズ基材を得るステップであって,重合性モノマーの重合後に得られる眼内レンズ基材をモールド型よりも小さな形状であるコア材とする第1ステップと、第1ステップで得られたコア材に重合性モノマーを含浸させて含浸済みコア材を得る第2ステップと、第2ステップで得られた含浸済みコア材と重合性モノマーとをモールド型内に共存させた状態で再重合させる第3ステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリスニングの発生が抑制された眼内レンズを製造する方法及び該方法にて得られる眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、白内障の手術方法の一つとして水晶体を摘出した後、水晶体の代わりとして眼内レンズを挿入する手法が一般的に用いられている。
【0003】
このような眼内レンズは、所定の型枠内に眼内レンズの材料であるモノマー原料を注入し、重合、硬化させる方法(cast molding法。以下、モールド加工と記す)や、モノマー原料を重合、硬化して得られた基材を眼内レンズ形状に切削加工する方法(lathe cutting法)により製作することができる。このような方法で得られた眼内レンズにおいて、その重合、硬化後のレンズ基材内に生じた空隙により、グリスニングと呼ばれる複数の小さな輝点の発生が生じることが報告されている。
【0004】
そこで、本出願人は特許文献1に開示するように、重合が完了した材料(基材)に再度重合性モノマーを含浸させた後、このモノマーを重合(再重合)させることにより空隙を抑制させるようにしている。このようにモノマーを含浸させ再重合させることによって得られた基材はグリスニングの発生が抑制できることが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−89400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、モールド加工は、1度に複数の眼内レンズを製造する大量生産に適している共に、眼内レンズを形成するための材料が効率よく使用がされる点で有利である。更には、複雑な形状の眼内レンズ(例えば、多焦点眼内レンズ)でも簡単に製造することができる。しかしながら、モールド加工にて作成された眼内レンズのグリスニングを低減させるために、一旦、モールド加工により得られた眼内レンズに対して上記従来技術の方法にて再重合を行うと、膨潤等により所望する眼内レンズ形状が得られ難くなってしまう。
【0007】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、モールド加工を用いて眼内レンズを製造する場合において、グリスニングの発生が抑制されるとともに精度よく眼内レンズを得るための眼内レンズの製造方法の提供及び該方法にて得られる眼内レンズを提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下のような構成を備えることを特徴とする。
【0009】
(1) 所定のモールド型を用いて眼内レンズを製造する方法において、眼内レンズの基材の原料となる重合性モノマーを重合させて,眼内レンズ基材を得るステップであって,前記重合性モノマーの重合後に得られる眼内レンズ基材を前記モールド型よりも小さな形状であるコア材とする第1ステップと、該第1ステップで得られた前記コア材に対して前記重合性モノマーを含浸させて含浸済みコア材を得る第2ステップと、該第2ステップで得られた前記含浸済みコア材と前記重合性モノマーとを前記モールド型内に共存させた状態で再重合させる第3ステップと、を有することを特徴とする。
(2) (1)の眼内レンズ製造方法において、前記第1ステップにて得られるコア材は、前記モールド型よりも小さなモールド型を用いたモールド加工、または切削加工により形成されることを特徴とする。
(3) (2)の眼内レンズ製造方法において、前記コア材は所定の曲面を持つレンズ形状にて形成されることを特徴とする。
(4) (3)の眼内レンズ製造方法において、前記第3ステップは、前記コア材を前記モールド内に置くステップを含み,前記コア材が前記モールド内に置かれることにより前記モールドの底面と接触する側となる前記コア材の曲面は前記第3ステップにて用いる前記モールド型の内壁面の曲率と同じ曲率にて形成されていることを特徴とする。
(5) (1)乃至(4)の何れかに記載の眼内レンズ製造方法において、前記第3ステップにて用いられる前記モールド型には、前記眼内レンズの光学部に所定の加入度を与えるための回折格子を形成するための複数の同心円状の溝が形成されており、前記溝を含んだ前記コア材と前記モールド型との間に生じる空隙に前記重合性モノマーが充填された状態で再重合されることにより、回折格子を有する多焦点眼内レンズを得ることを特徴とする。
(6) (1)乃至(5)の何れかに記載の眼内レンズ製造方法によって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、モールド加工を用いて眼内レンズを製造する場合において、グリスニングの発生が抑制されるとともに精度よく眼内レンズを得るための眼内レンズの製造方法及び該方法にて得られる眼内レンズを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施の形態では、非含水性(疎水性)の軟性眼内レンズ基材の原料となるモノマー溶液を重合硬化させた後、重合により得られた基材をモノマー溶液中に入れ、基材にモノマーを含浸させる。その後、基材中にモノマーが染み込んだ状態で再重合させることにより、基材内部に生じている空隙を無くし、輝点等の発生を抑制しようとするものである。
【0012】
このような非含水性の軟性眼内レンズ基材は、軟質材料となるモノマーを1種類又は数種類配合させることにより得ることができる。また、得られる基材の硬度(軟度)を調整するために硬質材料となるモノマーを適宜配合することによって得ることもできる。
【0013】
このような軟質材料となるモノマー(以下、軟質モノマーと記す)の具体例としては、メチルアクリレート,エチルアクリレート,プロピルアクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,ブチルアクリレート,等のアクリル酸エステルが挙げられる。
【0014】
また、硬質材料となるモノマー(以下、硬質モノマーと記す)の具体例としては、メチルメタクリレート,エチルメタクリレート,プロピルメタクリレート,ブチルメタクリレート等のメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0015】
これらの軟質モノマー、あるいは軟質モノマーと硬質モノマーとの混合物を用いて軟性眼内レンズ基材を得る場合には、必要に応じて架橋剤、重合開始剤が用いられる。架橋剤は具体的にはエチレングリコールジメタクリレート,ジエチレングリコールジメタクリレート,トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリル酸エステルや、その他眼内レンズ基材の形成に架橋剤として使用可能な材料が挙げられる。これらの架橋剤は基材となるモノマーの総重量に対し0.5〜10重量%の範囲で使用される。
【0016】
また、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル,アゾイソブチロバレロニトリル,ベンゾイン,メチルオルソベンゾイルベンゾエート等の眼内レンズ基材の形成に重合開始剤として使用可能な材料が挙げられる。また、この他にベンゾトリアゾール系を始めとする紫外線吸収材を適宜加え、紫外線吸収効果を持たせた眼内レンズ用基材を得ることもできる。
【0017】
また、本実施形態では、上述したモノマー、架橋剤及び重合開始剤を用いて得られた基材を再びモノマー混合液に浸し、基材内にモノマーを含浸させるものとしている。この基材内に含浸させるモノマーは基材内に生じた空隙を埋めるために用いるものである。従って、生体適合性がよく、重合可能なモノマー材料であれば、特に限定されるものではないが、得られる眼内レンズ基材の物理的特性をできるだけ変化させない様にするためには、基材の合成に使用したモノマー(数種類のモノマーを混合していれば、そのモノマー混合物)を用いることが好ましい。このときのモノマー混合液には、上述した架橋剤や重合開始剤も所定量入れられている。
【0018】
次に、上記に挙げたモノマー等を用いて眼内レンズを製造する方法を説明する。なお、本実施形態では、光学部のベースカーブ上に形成された回折領域(回折格子)により、入射光を異なる複数の焦点に振り分けることで、被検者眼に所定の遠用度数と近用度数を与える回折型の多焦点眼内レンズを製造する場合を例に挙げて説明する。なお、回折型の多焦点眼内レンズの詳細な説明については、例えば、特表2000−511299号公報を参照されたい。
【0019】
図2に本実施形態で製造する眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)の概略図を示す。図2(a)は正面図、図2(b)は側面図である。なお、本実施形態では、光学部11と支持部12とが別々に形成された後に一体化されるスリーピースタイプの眼内レンズを例に挙げているが、モールド加工で製造される眼内レンズとしては、同一素材の光学部11と支持部12とが一体的に形成されるワンピース型の眼内レンズであっても良い。
【0020】
眼内レンズ10は所定の屈折力を有し、眼内に置いたときに角膜側となる前面11aと、網膜側となる後面11bを供える光学部11と、光学部11を患者眼の眼内にて固定支持するための一対の支持部12とからなる。
【0021】
光学部11の前面11aには、光軸Oを中心として同心円状に形成された複数の回折格子15aによる回折領域15が形成されており、回折格子15aで光学部11に入射する入射光の一部が回折されることで、近方視のための近方焦点が得られる。なお、本実施形態では、回折領域15は前面11aの全域に形成されており、光学部11が持つ屈折率と曲率とによって得られる屈折度数に、回折領域15により発生する加入度が加えられることで、眼内レンズ10に遠くを見るための遠用焦点(遠用度数)f2と近くを見るための近用焦点(近用度数)f1の複数の焦点が与えられる。
【0022】
支持部12はその一端(基端)が光学部側11に接合され、他端(先端)を自由端としたループ形状をしている。なお、支持部12は、PMMA(ポリメチルメタクリレート)、ポリプロピレン、ポリイミド等の樹脂にて形成される。
【0023】
ここで、図1に眼内レンズ製造方法のフローチャートを示す。始めに、ステップ101で、軟質モノマー、硬質モノマー及び架橋剤を所定の割合にて容器に入れ混合する。一般に、これらの共重合物を構成するための軟質モノマーと硬質モノマーとの配合比は、それぞれの物性に応じて適宜選択されるが、得られた眼内レンズが手術時に折り曲がる程度の硬度(軟度)を有するような配合比であれば良い。
【0024】
軟質モノマー、硬質モノマー及び架橋剤の混合が終了したら、次に重合開始剤を入れ混合する。図示を略す平板状の型枠にこの混合液を流し込み、所定の温度にて重合させる。なお、本実施形態では60℃及び90℃の水浴に順次24時間ずつ入れて重合させるものとしている。このように、段階的に温度を上昇させるとより安定した重合を行うことができる。このような手順で重合開始から所定時間(例えば48時間程度)経った後、平板状の基材を型枠から取り出し、さらに真空オーブンに入れ95℃、24時間置くことにより重合を完了させる。
【0025】
重合後に得られた平板状の基材を、周知の自動旋盤機で切削して、その後モールド加工する際のコア材となるレンズ形状の基材(以下、コア材と記す)10aを得る。なお、コア材10aは完成後の眼内レンズ10(光学部11)の形状に対して若干小さくなるように形成される。コア材10aの形状は光学部11の形状に近いレンズ形状であることが好ましいが、これに限るものではない。コア材10aはその後のモノマー含浸処理、再重合処理により空隙が埋められることで、最終的に形成される光学部11に発生するグリスニングを抑制するためのものであり、レンズ形状に限るものではなく、例えば円盤形状等であってもよい。
【0026】
また、本実施形態では切削加工によりコア材10aを形成させるものとしたが、これに限るものではなく、最終的なモールド加工に用いるモールド型よりも若干小さなモールド型を用いてコア材10aをモールド加工により形成することもできる。さらに、コア材10aがモールド型内に置かれることによりモールドの底面(内壁)と接触する側となるコア材の曲面は、モールド型の内壁面の曲率と同じか、それよりも小さな曲率にて形成されていることが好ましい。コア材10aの曲面をこのようにすると、モールド型の中心付近とコア材10aとの接触が避けられるようになり、完成後の光学部11の中心付近の面形状がシャープに形成される可能性がある。
【0027】
次にステップ102で、コア材10aを、先程と同様の組成を持ったモノマー混合液内に完全に浸漬するように置き、所定時間静置させて、コア材10aにモノマーを含浸させる。含浸させる時間は、コア材10aの形状や周辺の環境(温度、気圧等)によるが、コア材10a内に生じた空隙にモノマーが充分入り込むだけの時間であればよい。
【0028】
含浸させる時間は、通常好ましくは24時間以上120時間以内であり、更に好ましくは48時間以上96時間以内である。含浸させる時間が24時間に満たない場合、コア材10a内に生じた空隙にモノマーが充分入り込ませることが難しい。また、含浸させる時間が120時間以上であっても構わないが、含浸させる時間が長ければ長いほど生産効率が悪くなってしまう。
【0029】
次に、ステップ103で再重合を行う。モールド型100は、光学部11の前面11aの曲面形状に一致する凹部110aを有するモールド型100aと、後面11bの曲面形状に一致する凹部110bが形成されたモールド型100bとから構成される(図4参照)。再重合を行う際には、モールド型100a及び100bの凹部110aと110bとが対向するように重ね合わせられることで、所期の形状の光学部11が形成される。なお、モールド型100の材質としては、金属又は樹脂等が用いられる。なお本実施形態では加熱によりモノマーを重合硬化させるものとしている。また、紫外線により重合硬化させる場合には、紫外線を透過する光透過性の樹脂が用いられる。
【0030】
なお、紫外線で重合硬化させる場合の重合開始剤としては、トリス(クロロメチル)トリアジン、2,4−トリクロロメチル−(4‘−メトキシスチリル)−6−トリアジン、2−〔2−(フラン−2−イル)エテニル〕−4,6−ビス(トリクロロメチル)−S−トリアジン、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−S−トリアジンなどのトリアジン系化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテルなどのベンゾイン系化合物、ジエトキシアセトフェノン、4−フェノキシジクロロラセトフェノン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシルアセトフェノンなどのアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン系化合物、ベンジルジメチルケタール、2,4,6−トリメチルベンゾインジフェニルフォスフィンオキサイド、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、アシルフォスヒンオキサイド等を用いる事ができる。
【0031】
図3はモールド型100aの構成の説明図であり、図3(a)は上面図、図3(b)はモールド型100aを矢印A−A方向から見たときの断面図である。
モールド型100aの凹部110aには、光学部11に回折格子15aを形成するための複数の同心円状の溝115が形成されている。また、モールド型100aには、重合の際に凹部110a及び凹部110bをモノマーで満たすための、凹形状のモノマー供給部120が形成されている。凹部110aはモノマー供給部120の内側に形成されており、これにより、モノマー供給部120にモノマー混合液が入れられることで、凹部100aがモノマー混合液で満たされるようになる。
【0032】
ここで、図4にモールディング法により再重合を行う製造過程の説明図を示す。以上のようなモールド型100を用いて、はじめに、図4(a)に示すように、含浸済みのコア材10aをモールド型100aの凹部110aに置く。そして、図4(b)に示すように、モノマー供給部120に、コア材10aと同じ組成を持ったモノマー混合液を入れてコア材10a全体がモノマー混合液に浸された状態にする。これにより、凹部110aとモノマー供給部120の間に形成される僅かな隙間からモノマー混合液が入り込み、溝115がモノマー混合液で満たされた状態となる。なお、ここでは、始めにコア材10aを凹部110aに置いてからモノマー供給部120にモノマー混合液を入れているが、始めにモノマー供給部120にモノマー混合液を入れた状態で、コア材10aを置くようにしても良い。
【0033】
次に、図4(c)に示すように、凹部110aと凹部110bとを嵌合させモールド型100を形成する。なお、凹部110bが凹部110a上に置かれるときに、モノマー供給部120のモノマー混合液が凹部110bとコア材10aとの間に生じた空隙を埋める。これにより、コア材10aが置かれたモールド型100の内部に生じている空隙が隙間無くモノマーで満たされた状態となる。また、ここでの図示は省略するが、以上のような準備がされたモールド型100に、コア材10aの回転を防止するためのスラストベアリング等を取り付けるようにしても良い。このようにすると、コア材10aの回転が防止されて、精度良く眼内レンズが作られるようになる。
【0034】
次に、モールド型100をドライオーブン内で所定時間加熱して、2回目の重合(再重合)を行う。この時、モールド型100aの溝115に充填されたモノマー混合液の重合により同心円状の回折格子15が含浸基材10aに転写される。その後、真空オーブンで所定時間加熱させることによって重合を完全に終了させる。このように、一旦重合されて得られた基材にモノマーを含浸させて、モールド型100にて再重合させることで、最初(1回目)の重合で基材内に生じていた空隙が塞がり、基材内の透明度の低下や輝点の発生が抑制されるようになる。
【0035】
なお、本実施形態で再重合を行う場合、凹部110a、110bとコア材10aとの間の僅かな隙間に入り込んだモノマーも重合され、コア材10aの周囲が光学部11の外周を形成する薄い層で覆われることになる。この層は再重合処理を行っていないため、空隙が生じグリスニングが発生し易い。しかしながら、コア材10aを光学部11の形状に可能な限り近づけ、コア材11aの周囲に形成される層をできるだけ薄くさせることにより、全体的なグリスニングの発生を抑制することができる。
【0036】
以上のような、2段階の重合作業が完了したら、図4(d)に示すように、モールド型100から光学部11を取外す。そして、周知の研磨等により表面形状を整える。その後、ステップ104で、3ピース型の眼内レンズ10であれば、支持部12を光学部11に溶着させて、複数の回折格子15が形成された多焦点眼内レンズ10が完成される(図2参照)。
【0037】
なお、本実施形態では多焦点眼内レンズを製造する場合を例に挙げて説明したが、通常の単焦点レンズをモールド加工で製造する場合にも本発明を適用することができる。これにより、グリスニングの発生が好適に抑制されて、精度の高い眼内レンズを簡単に製造する事が出来るようになる。
【0038】
以上のように、モールド型100を用いたコア材10aの再重合によって、眼内レンズに発生するグリスニングが好適に抑制されると共に、多焦点レンズ等の複雑な形状の眼内レンズが簡単に精度良く製造できるようになる。
【0039】
また、本実施形態の眼内レンズの製造方法では、予め含浸させた平板状の基材を切削することで、コア材10aを形成する場合を例に挙げて説明しているが、これに限るものではない。前述したように、コア材はモールド加工にて形成してもよい。モールド加工を用いることで、一度に複数のコア材が作られることで生産効率が上がると共に、コア材を形成するためのモノマーが効率よく使用されるようになる。
【0040】
なお、この場合のコア材の大きさは、コア材がモノマーの含浸により膨らむことによる形状変化(例えば、コア材は含浸により1.5倍程度に膨張される)を考慮して、含浸後のコア材の大きさが完成状態の光学部11の大きさよりも小さい形状に形成されるように設計される。つまり、コア材を形成するための図示を略すモールド型は、コア材の含浸後の膨張率を予め考慮しておくことで、その形状が決定される。
【0041】
なお、モールド加工にて形成されたコア材にモノマー混合液を含浸させる方法としては、前述のようにモノマー混合液に浸漬させる他、上述のモールド型100を用いても良い。この場合には、モールド型100aにコア材を置いて、モノマー供給部120にコア材の含浸に十分な量のモノマー混合液を入れ、コア材が完全に浸漬されるようにする。これにより、コア材全体にモノマーが含浸される。そして、得られたコア材10aを上述と同様の方法にて2回目の重合を行うことで、光学部11が形成される。
【0042】
(実施例1)
実施例1では上述した本実施形態の製造方法によって得られた眼内レンズ試料の輝点発生度合い(グリスニング)の評価を行った。
基材の原料はエチレングリコールフェニルエーテルアクリレート162.0重量部、n−ブチルアクリレート12.0重量部、n−ブチルメタクリレート119.1重量部、1,4ブタンジオールジアクリレート6.0重量部、アゾイソブチロニトリル0.3重量部とし、含浸させるモノマー混合液も基材の原料と同一のものを使用した。
【0043】
上述した眼内レンズの製造方法により、モノマー混合液を重合(60℃,24時間水浴、90℃,24時間ドライオーブン加熱、95℃,24時間真空オーブン加熱)させ、平板状の板材を得た。その後、含浸による膨張率(ここでは、約1.5倍に膨張することが予め測定されている)を考慮して、平板状の板材の切削加工によりコア材(直径φ3.9mm、厚さ0.7mm、回折格子を形成する面の曲率半径R9.8mm)を得た。
【0044】
次に、コア材を同一の原料からなるモノマー混合液中に72時間浸漬させて、コア材内に生じた空隙にモノマーを含浸させた。そして、コア材内に充分にモノマーを含浸させた状態で、コア材をモノマー混合液中から取り出した。このときコア材が含浸により膨張されることで、含浸されたコア材(直径φ6.0mm、厚さ0.9mm、回折格子を形成する面の曲率半径R15mm)が得られた。
【0045】
次に、上述した回折格子を形成するための溝が形成されたモールド型に含浸されたコア材を設置した。この時、コア材の曲率半径R15の面と、モールド型の溝が形成されている面とが一致されるように置いた。そして、モールド型(上述の凹部110a、110b)内をコア材と同一の原料からなるモノマー混合液で満たすと共に密閉した。
【0046】
その後、60°のドライオーブン内にコア材を備えるモールド型を入れて、12時間以上保持した後、95℃の真空オーブンで12時間静置して、2回目の重合を完了させた。そして、完成された試料をモールド型より取外した。
【0047】
次に、以上のように得られた試料に対して以下の操作を行い、グリスニング(輝点)の発生度合いを検査した。まず、恒温水槽内に50℃に保たれた純水を入れておき、ここに得られた試料を2時間浸漬させた。その後、試料を恒温水ごと室温下に出し、すぐに顕微鏡下にて経時変化を観察した。経時変化の観察は、試料を恒温水槽から取り出した直後、1日後及び1週間後の状態を観察した。
【0048】
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同じ材料を用いて、周知の眼内レンズ用のモールド型にモノマー混合液を注入し、1度の重合(60℃,24時間水浴、90℃,24時間ドライオーブン加熱、95℃,24時間真空オーブン加熱)にて、試料を完成させた。
【0049】
(結果)
図5は実施例1で作成した試料の1週間後の観察結果であり、図6は比較例1で作成した試料の1週間後の観察結果である。なお、図5(a)及び図6(a)は倍率10倍での観察結果であり、図5(b)及び図6(b)は倍率50倍での観察結果である。図5及び図6から分かるように、実施例1において、含浸後に再重合が行われた範囲の輝点の発生が抑制されていることが確認された。また、回折格子が形成されている事が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】眼内レンズ製造方法のフローチャートである。
【図2】眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)の概略図である。
【図3】モールド型の構成の説明図である。
【図4】モールディング法により再重合を行う製造過程の説明図である。
【図5】実施例1で作成した試料の1週間後の観察結果である。
【図6】比較例1で作成した試料の1週間後の観察結果である。
【符号の説明】
【0051】
10 眼内レンズ
10a コア材
15 回折領域
100 モールド型
110a、110b 凹部
120 モノマー供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のモールド型を用いて眼内レンズを製造する方法において、
眼内レンズの基材の原料となる重合性モノマーを重合させて,眼内レンズ基材を得るステップであって,前記重合性モノマーの重合後に得られる眼内レンズ基材を前記モールド型よりも小さな形状であるコア材とする第1ステップと、
該第1ステップで得られた前記コア材に対して前記重合性モノマーを含浸させて含浸済みコア材を得る第2ステップと、
該第2ステップで得られた前記含浸済みコア材と前記重合性モノマーとを前記モールド型内に共存させた状態で再重合させる第3ステップと、
を有することを特徴とする眼内レンズの製造方法。
【請求項2】
請求項1の眼内レンズ製造方法において、
前記第1ステップにて得られるコア材は、前記モールド型よりも小さなモールド型を用いたモールド加工、または切削加工により形成されることを特徴とする眼内レンズの製造方法。
【請求項3】
請求項2の眼内レンズ製造方法において、
前記コア材は所定の曲面を持つレンズ形状にて形成されることを特徴とする眼内レンズの製造方法。
【請求項4】
請求項3の眼内レンズ製造方法において、
前記第3ステップは、前記コア材を前記モールド内に置くステップを含み,前記コア材が前記モールド内に置かれることにより前記モールドの底面と接触する側となる前記コア材の曲面は前記第3ステップにて用いる前記モールド型の内壁面の曲率と同じ曲率にて形成されていることを特徴とする眼内レンズの製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れかに記載の眼内レンズ製造方法において、
前記第3ステップにて用いられる前記モールド型には、前記眼内レンズの光学部に所定の加入度を与えるための回折格子を形成するための複数の同心円状の溝が形成されており、
前記溝を含んだ前記コア材と前記モールド型との間に生じる空隙に前記重合性モノマーが充填された状態で再重合されることにより、回折格子を有する多焦点眼内レンズを得ることを特徴とする眼内レンズの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れかに記載の眼内レンズ製造方法によって得られることを特徴とする眼内レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−234791(P2011−234791A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106521(P2010−106521)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】