説明

眼内注射用の熱係数駆動型薬物ペレットサイズ

混合物を眼内注射する方法であって、混合物と投薬チャンバ容器とが室温付近にあるときに、混合物を、該混合物と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給し、投薬チャンバ容器と混合物とを該混合物が膨張してより液体状となる温度範囲とし、混合物の膨張後かつ注射前に針内部に空気を保持し、針内部の空気と混合物とを眼内に注入する各工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内への投薬方法、特に、眼内注射における相転移化合物ないし逆ゲル化化合物と薬物との混合物の注入に関する。
【背景技術】
【0002】
後眼部の疾患のいくつかは視力を脅かすことがある。加齢による黄斑変性症(ARMD)、脈絡膜血管新生(CNV)、網膜症(例えば、糖尿病網膜症、硝子体網膜症)、網膜炎(例えばサイトメガロウイルス性(CMV)網膜炎)、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、緑内障、および、神経障害がその例である。
【0003】
これらやその他の疾患は、薬物の眼内注射により治療される。そうした注射は一般に、通常の注射器と針を用いて手動で行われる。図1は、薬物の眼内注射に用いられる従来の注射器を示す斜視図である。図1において、注射器は、針105、ルアーハブ110、チャンバ115、プランジャ120、プランジャシャフト125、および、親指当て130を含んでなる。よく知られるように、注入薬物はチャンバ115内に配される。親指当て130を押すと、プランジャ120が薬物を針105から放出する。
【0004】
このような注射器を用いるにあたり、外科医には、眼組織を針で穿刺し、注射器を保持したまま、プランジャを動かして眼内に液体を注入する(看護師の助けがあろうがなかろうが)ことが要求される。このとき、液体流量は制御されない。また、バーニアを読み取る際に視差エラーが生じやすく、注入量の精度や確度に影響を及ぼしかねなかった。また、注射器がふらつくことで眼組織を損傷するおそれがあり、針を眼球から抜き去る際に薬物が逆流するおそれもあった。
【0005】
少量の液体投与を制御する取り組みがなされてきた。市販の液体ディスペンサには、ロードアイランド州、プロヴィデンスのEFD社が販売するULTRA(登録商標)容積式ディスペンサがある。ULTRAディスペンサは、通常、少量の工業用接着剤を供給するために使用され、従来型の注射器本体と特別な供給端とが用いられる。プランジャは、ステッピング・モータと作動流体によって作動する。この種のディスペンサにおいては、供給量は、液体粘度、表面張力、および、個々の供給端に強く依存している。オハイオ州、クリーブランドのパーカー・ハネフィン社は、カリフォルニア州、サンディエゴのオーロラ・インスツルメント社が製造する創薬用少量液体ディスペンサを取り扱っている。このパーカー/オーロラ両社によるディスペンサは、圧電式投薬機構を用いており、投与量が正確である一方、高価であると同時に投薬機構に電気信号を供給する必要があった。
【0006】
特許文献1には、網膜の剥離または裂傷の手術中に行う輸液交換において、粘性流体(シリコンオイルなど)を眼内に注入すると同時に、第2の粘性流体(液体ペルフルオロカーボンなど)を眼内から吸引する眼科用装置が開示される。この装置は、プランジャ付きの通常の注射器を含む。注射器の一端は、プランジャを作動するために一定の空気圧を供給する空気圧源に流動的に連結され、他端は、注入される粘性流体を供給するため、管材を介して注入カニューレに流動的に連結されている。
【0007】
薬物は、眼内に効率よく注入されることが望ましい。薬物の眼内注射における注射回数は、最小限に抑えられることが望ましい。薬物の球形ボーラスは既知の速度で徐々に侵食されることが可能であり、球形ボーラスを眼内で沈着させると、注射と注射の間隔を延ばすことができる。よって、網膜に対する薬物投与期間を調整するため、眼内への薬物投与における温度および速度を制御することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6,290,690号公報
【発明の概要】
【0009】
本発明の思想に合致する一実施形態では、本発明は、混合物を眼内注射する方法であって、混合物と投薬チャンバ容器とが室温付近にあるときに、混合物を該混合物と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給し、混合物と投薬チャンバ容器を混合物が膨張してより液体状となる温度範囲とし、混合物の膨張後かつ注射前にチャンバに装着された針内部に空気を保持し、この針内部の空気と混合物とを眼内に注入する各工程を含む。
【0010】
本発明の思想に合致する他の実施形態では、本発明は、相転移化合物と薬物との混合物を眼内注射する方法であって、混合物と投薬チャンバ容器とが室温付近にあるときに、混合物と該混合物が置かれるプランジャとの間に実質的に空気が取り込まれないように、混合物を該混合物と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給し、混合物と投薬チャンバ容器とを混合物が膨張してより液体状となる室温付近以外の温度範囲に加熱し、混合物の膨張後かつ注射前にチャンバに装着された針内部に空気を保持し、混合物を眼内に沈着させるのに十分な速度でプランジャを駆動することによって針内部の空気と混合物とを眼内に注入する各工程を含む。
【0011】
上述の概要、および、以下の詳細な説明は、当然のことながら、単なる典型例と解説であり、請求項に記載された発明をより詳細に説明することを目的としている。以下の説明は、本発明の実施と同様、本発明のさらなる効果および目的を提示、示唆するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
添付の図面は、本明細書に包含されてその一部を構成しており、本発明の実施形態を明細書の記載とともに明示し、本発明の思想を説明する役割を果たす。
【0013】
【図1】従来の注射器を示す斜視図である。
【図2】使い捨て先端部および再使用限定アセンブリを含む眼科医療機器を示す図である。
【図3】再使用限定アセンブリの一実施形態を表す図である。
【図4】使い捨て先端部および再使用限定アセンブリを示す断面図である。
【図5】眼科用ハンドピースの使い捨て先端部を示す断面図である。
【図6A】相転移化合物中に懸濁した薬物を内包する投薬チャンバ容器を示す断面図である。
【図6B】相転移化合物中に懸濁した薬物を内包する投薬チャンバ容器を示す断面図である。
【図6C】相転移化合物中に懸濁した薬物を内包する投薬チャンバ容器を示す断面図である。
【図7】眼球に穿刺された注射針を示す図である。
【図8】眼内注射用のボーラスの形状を表す図である。
【図9】本発明の基本思想に係る注入速度および温度に依存性をもつ混合物を眼内注射する方法を示す。
【図10】本発明の基本思想に係る注入速度および温度に依存性をもつ混合物を眼内注射する方法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の典型的実施形態、および、添付した図面に示された実施例について詳細に説明する。なお、同一ないし同様の構成要素には、可能な限り、全図面にわたって同一符号を付すものとする。
【0015】
図2は、使い捨て先端部および再使用限定アセンブリを含む眼科医療機器の一例を示す。図2において、医療機器は、使い捨て先端部205および再使用限定アセンブリ250を含んでなる。先端部205は、針210、外装215、および、オプションライト275を含む。再使用限定アセンブリ250は、外装255、スイッチ270、ロック機構265、および、ネジ部260を含む。
【0016】
先端部205は、再使用限定アセンブリ250と脱着可能である。本実施形態では、先端部205は、再使用限定アセンブリ250のネジ部260と螺合するネジ部を外装215の内側の面に有しており、さらに、ロック機構265によって再使用限定アセンブリ250に固定される。ロック機構265は、ボタン、スライドスイッチ形式、ないし、カンチレバー構造として構成されてよい。なお、先端部205を再使用限定アセンブリ250と接合するためのその他の機構、相互に結合する構造上の特性をもつような機構は、当該技術分野で周知であり、適用可能である。
【0017】
針210は、薬物のような混合物を眼内投与するように構成され、周知のどのような構造であっても構わない。針210は、その温度特性が特定の薬物投与に適しているように設計されることが好ましく、例えば、加熱した薬物を投与する際には、適切な薬物投与を促すために針210を比較的短く(数ミリメートル)されてもよい。
【0018】
スイッチ270は、機器へ入力を与えるように構成され、例えば、機器の起動やヒータの電源を入れるのに用いられる。その他のスイッチやボタン、ユーザ指示制御入力は周知であり、再使用限定アセンブリ250および/または先端部205において適用することができる。
【0019】
オプションライト275は、先端部205が使用可能な状態になったときに点灯される。オプションライト275は、外装215から突出していても、外装215内に埋め込まれていてもよく、その場合にはライト275が外装215の透明部分を通して見えるように構成してもよい。他の実施形態としては、オプションライト275を、インジケータ、例えば液晶表示器、セグメント表示器、または、その他の先端部205の状態を示す機器などで置き換えてもよい。例えば、オプションライト275は、その他の、システムエラー、バッテリの充電完了、充電不足、あるいは先端部205と再使用限定アセンブリ250との不完全な接合など、そしてこれらに限定されない他の状態を表示するためにパルス状に点滅させてもよい。なお、オプションライト275やその他のインジケータは、先端部205に表示されるものの、再使用限定アセンブリ250上に配置されてもよい。
【0020】
図3は、再使用限定アセンブリのもう一つの実施形態を表す。再使用限定アセンブリ250は、ボタン308、表示部320、および外装330を含む。使い捨て先端部205は、再使用限定アセンブリ250の端部340に取り付けられる。ボタン308は、機器へ入力を与えるために作動される。ボタン308は、スイッチ270と同様、ヒータや他の温度制御装置の起動、プランジャの作動開始を行うものであってよい。表示部320は、液晶表示器、セグメント表示器、ないし、その他の使い捨て先端部205または再使用限定アセンブリ250の状態を示す機器である。
【0021】
図4は、使い捨て先端部および再使用限定アセンブリの断面図であり、先端部205がどのように再使用限定アセンブリ250と接続されるかを表す。図4の実施形態において、先端部205は、プランジャ接触面420、プランジャ415、投薬チャンバ容器425、先端部外装215、温度制御装置450、温度センサ460、針210、投薬チャンバ405、接続部530、および、先端接続コネクタ453を含む。再使用限定アセンブリ250は、機械的リンク機構接続部545、アクチュエータシャフト510、アクチュエータ515、電源505、制御部305、再使用限定アセンブリ外装255、接続部535、および、再使用限定アセンブリ用接続コネクタ553を含む。
【0022】
先端部205では、プランジャ415の一端にプランジャ接触面420が配され、その他端は投薬チャンバ405の一方の終端部を形成する。プランジャ415の外面は、投薬チャンバ容器425の内面を、液体が通らないように封じる。投薬チャンバ容器425は、投薬チャンバ405を囲僥しており、通常、円筒形状である。投薬チャンバ405自体もまた円筒形状をしている。
【0023】
針210は、投薬チャンバ405に対して液体を通すように結合されており、投薬チャンバ405内の混合物が針210を通して眼球内に注入される。温度制御装置450は、少なくとも部分的に投薬チャンバ容器425を囲僥し、投薬チャンバ容器425および投薬チャンバ405内の混合物を、加熱および/または冷却するように構成されている。接続部530は、温度制御装置450を先端接続コネクタ453に接続する。
【0024】
光温度センサ460は、温度制御装置450の動作制御用に温度情報を供出する。温度センサ460は、投薬チャンバ容器425近傍に配置されて投薬チャンバ容器425近傍の温度を計測する、あるいは、投薬チャンバ容器425と熱的に接して配置されて投薬チャンバ容器425の温度を計測するように構成されてよい。温度センサ460は、温度情報を提供可能な数多くの相異なる装置のうちのいずれであってもよく、例えば、熱電対や温度によって抵抗値が変化する抵抗デバイスであってよい。温度センサは、接続部530またはこれと同様の別の接続部に対し、電気的に結合されている。
【0025】
投薬チャンバ容器425、温度制御装置450、およびプランジャ415を含む先端部205の構成要素は、少なくとも部分的に先端部外装215内に封入されている。プランジャ415は、投薬チャンバ容器425の内面を塞ぎ、投薬チャンバ405内の混合物の異物混入による汚染を防止する。医療目的では、こうした封止を行うことが好ましい。このような封止は、プランジャ415または投薬チャンバ容器425のいずれの箇所に設けられてもよい。
【0026】
再使用限定アセンブリ250では、アクチュエータ515に電源505から電力が供給される。電源505、アクチュエータ515間の接続部(図示せず)が、アクチュエータ515への電力供給用の配線として機能する。アクチュエータ515は、アクチュエータシャフト510に接続される。アクチュエータ515がステッピング・モータである場合、アクチュエータシャフト510はアクチュエータ515と一体化される。機械的リンク機構接続部545は、アクチュエータシャフト510に接続される。この構成において、アクチュエータ515がアクチュエータシャフト510を針210に向かって上方に移動させると、機械的リンク機構接続部545も針210に向かって上方に移動する。機械的リンク機構接続部545とアクチュエータシャフト510は、単一の構成要素をなす。すなわち、アクチュエータ515に接続されるシャフトは、アクチュエータシャフト510と機械的リンク機構接続部545の双方を一つの組立部品として含む。
【0027】
再使用限定アセンブリ250において、電源505は通常、リチウムイオン電池のような再充電可能な電池であるが、他の種類の電池を採用してもよく、さらに、他のどのような型の電池も電源505とすることができる。電源505は、投薬チャンバ容器425に対し、それ自体を加熱変形させるために電流を供給する。なお、電池505は、任意に、蓋または同様の特徴を持つ他の構成部品(図示せず)を通じて外装255から取り外し可能とすることができる。
【0028】
制御部305は、接続部535を介して、再使用限定アセンブリ接続コネクタ553に接続される。再使用限定アセンブリ接続コネクタ553は、再使用限定アセンブリ用外装225の上面に、機械的リンク機構接続部545と隣接して配置される。こうして、再使用限定アセンブリ接続コネクタ553、機械的リンク機構接続部545はそれぞれ、先端接続コネクタ453、プランジャ接触面420と接合するように構成される。
【0029】
制御部305とアクチュエータ515とは接続部(図示せず)によって接続される。この接続部(図示せず)に接続されることによって、制御部305はアクチュエータ515の動作を制御できる。また、電源505、制御部305間が接続されることで、制御部305は電源505の動作を制御できる。電源505が再充電可能な電池である場合は、制御部305がその充放電制御を行ってもよい。
【0030】
制御部305は、通常、電源や、論理機能を実行することができる入力ピンおよび出力ピンを備えた集積回路である。様々な実施態様において、制御部305は、対象とする機器の制御部である。そのような場合、制御部305は、温度制御機器や電源のような特定の機器ないし構成部品を対象とする特定の制御機能を実行する。例えば、温度制御装置用の制御部は、温度制御装置を制御するという基本機能を有する。さらに、他の実施態様では、制御部305は、マイクロプロセッサである。その場合、制御部305は、機器内の1つ以上の構成部品を制御する機能を果たすようにプログラム可能である。その他、制御部305は、プログラム可能なマイクロプロセッサではなく、異なる機能を果たす異なる構成部品を制御するように構成された専用の制御部としてもよい。図4には一つの構成部品として描かれているが、制御部305は、多数の相異なる構成部品ないし集積回路から構成されていてよい。
【0031】
先端部205は、再使用限定アセンブリ250に結合される、または、取り付けられるように構成される。図4の実施例では、プランジャ415の底面に位置するプランジャ接触面420は、再使用限定アセンブリの外装255の上面近傍に配置される機械的リンク機構接続部545に結合するように構成される。さらに、先端接続コネクタ453は、再使用限定アセンブリ接続コネクタ553と接続するように構成される。このように先端部205が再使用限定アセンブリ250と接続すると、アクチュエータ515およびアクチュエータシャフト510は、プランジャ415を針210に向かって上方へと駆動するように構成される。また、制御部305、温度制御装置450間には、接続部が形成され、制御部305から温度制御装置450へと、接続部535、再使用限定アセンブリ接続コネクタ553、先端接続コネクタ453、および接続部530を介して信号を送出することができる。
【0032】
作動中、先端部205が再使用限定アセンブリ250に接続されていれば、制御部305がアクチュエータ515の動作を制御する。アクチュエータ515が作動し、アクチュエータシャフト510が針210に向かって上方へ移動すると、プランジャ接触面420に結合された機械的リンク機構接続部545が、プランジャ415を針210に向かって上方へ移動させる。その結果、投薬チャンバ405内の混合物が、針210から放出される。
【0033】
さらに、制御部305は、温度制御装置450の動作を制御する。温度制御装置450は、投薬チャンバ容器425およびその内容物を加熱および/または冷却するように構成されている。投薬チャンバ容器425は少なくとも部分的に熱伝導性を有しているため、投薬チャンバ容器425を加熱または冷却することで、投薬チャンバ405内の混合物は加熱または冷却される。温度情報が、接続部530、先端接続コネクタ453、再使用限定アセンブリ接続コネクタ553、および接続部535を介して温度センサ460から制御部305へと送り返される。この温度情報は、温度制御装置450の動作制御に利用することができる。温度制御装置450がヒータであれば、制御部305は、温度制御装置450へ送出される電流量を制御する。送出される電流量が多いほど、温度制御装置450は熱くなる。この場合に、制御部305は、温度センサ460からの情報を温度制御装置450の動作制御に利用するフィードバックループを用いることができる。また、比例・積分・微分(PID)制御アルゴリズムなどの、適切な制御アルゴリズムを温度制御装置450の動作制御に利用することが可能である。
【0034】
眼内に注入される混合物は、一般的には相転移化合物中に懸濁した薬物であり、投薬チャンバ405内に配される。このようにして、薬物および相転移化合物は、投薬チャンバ容器425内面に接触する。相転移化合物は、比較的低温では固体または半固体状であり、比較的高温ではより液体状となる。このような化合物は、より液体状となるように温度制御装置450への電流印加によって加熱され、眼内へ注射されて時間とともに徐々に侵食されてゆくボーラスを形成する。
【0035】
同様に、逆ゲル化化合物も用いることができる。逆ゲル化化合物は、比較的高温では固体または半固体状、比較的低温ではより液体状となる。こうした化合物は、温度制御装置450によって、より液体状に冷却され、眼内へ注射され、時間とともに徐々に侵食されてゆくボーラスを形成する。このように、温度制御装置450は、投薬チャンバ405内の混合物を加熱する装置であっても冷却する装置であっても(両者を兼ね備えても)よい。眼内への注入後、相転移化合物または逆ゲル化化合物は、薬物を長期間にわたって供給しながら徐々に侵食されてゆく。従って、相転移化合物または逆ゲル化化合物を用いることで、注射回数が少ない、より優れた薬物投与を行うことができる。
【0036】
一実施形態においては、投薬チャンバ405内の混合物は、投薬チャンバに予め充填された薬物である。この場合の先端部205は、使い捨て製品であることが適当である。こうした使い捨て製品は、工場にて、一回投与分の薬物を導入して組み立てることができる。
【0037】
図4の注射装置は、二つの部材からなる装置として図示されるが、単一部材で構成されてもよい。その場合、先端部は、単一の医療機器を形成するように再使用限定アセンブリ内に組み込まれる。
【0038】
図5は、眼科用医療機器の先端部を示す断面図である。図5において、先端部205は、投薬チャンバ容器425、先端部外装215、温度センサ460、針210、投薬チャンバ405、プランジャ415、プランジャ接触面420、温度制御装置450、接続部530、および、先端接続コネクタ453を含む。
【0039】
図5に示す実施形態では、投薬チャンバ405内の混合物を適切な温度範囲内とするために、温度制御装置450が起動される。温度センサ460は、温度制御装置450を制御するために、制御部305(図示せず)に温度情報を提供する。該混合物の温度が適切な温度範囲内に到達すると、針210を通じて眼内に混合物を注入するためにプランジャ415が作動される。図示したように、プランジャ415は延在しており、一体化したシャフトを含む。
【0040】
図6A、図6B、および図6Cは、相転移化合物中に懸濁した薬物を内包する投薬チャンバ容器を示す断面図である。図6Aでは、投薬チャンバ容器425は、相転移化合物中に薬物が懸濁したペレット610を内包している。ペレット610と投薬チャンバ容器425の内面との間には、空隙605が存在している。空隙605は、実際に均一であってもなくても構わないが、その体積は以下のようにして算出される。また、針210とプランジャ415もまた図示されている。図6Bでは、投薬チャンバ容器425の頂部内面とペレット610との間に空隙615が存在している。このように、空隙(場合によって、605または615)の位置は、その体積ほど重要ではない。ただし、空隙はプランジャ415とペレット610との間には設けられない。プランジャ415とペレット610の間に相当量の空気が封じ込められると、ペレット610は温度変化し(そして空気が膨張して薬物を針210から押出そうとする)、液化するため、針210から放出される薬物が泡立ってしまう。
【0041】
図6Cは、適切な注射温度に達した後のペレット610を示している。ペレット610は、相転移化合物中に薬物を懸濁したものである場合には、投薬チャンバ容器425を加熱することで熱せられる。針210も同時に熱せられる。ペレット610は、熱せられるにつれて膨張し、それとともに、空隙(場合によって、605または615)中の空気が針210から漏れ出る。ペレット610は、投薬チャンバ、もしくは投薬チャンバ容器425とプランジャ415によって画定される容積を実質的に満たすように膨張し、微量のペレットが針210内にも拡がる。ただし、薬物/相転移化合物の混合物が針210内で固化して注射中に針を閉塞するのを防止するため、針210の突出部分の内部に空気を残存させることは重要である。針210は、投薬チャンバ容器425やペレット610よりも温度が低いため、針210の突出部分に薬物/相転移化合物の混合物が多量に入ってくると、混合物は急速に冷却されて固化し、針210を閉塞する。そこで、本願出願人は、針210の内部に空気を保持しておき、該空気をペレット610とともに眼内に注射することが、注射の制御に有益であることを見出した。
【0042】
ペレット610、および、投薬チャンバ容器425に画定される投薬チャンバがともに円筒形状である場合、空隙は、円筒の体積を求める式を用いて算出される。投薬チャンバの容積はVDC、第1の温度におけるペレットの体積はVP1、そして、第2の温度におけるペレットの体積はVP2で示される。
DC=πRDC・HDC
P1=πRP1・HP1
P2=πRP2・HP2
ここで、RDC、HDCはそれぞれ投薬チャンバの半径と高さ、RP1、HP1はそれぞれ第1の温度におけるペレットの半径と高さ、RP2、HP2はそれぞれ第2の温度におけるペレットの半径と高さである。本実施例では、投薬チャンバの容積は既知で不変とする。ペレットは相転移化合物からなるため、その体積は、温度の関数として変化する。ペレットが相転移化合物/薬物の混合物(プレシロール(Precirol:登録商標)/医薬)で、第1の温度が摂氏20度ないし23度、第2の温度が摂氏75度であれば、VP2=1.2・VP1(ここで、1.2は、摂氏23度に対する摂氏75度での熱膨張係数値の一例)となることがわかっている。すなわち、ペレットの体積は、室温から摂氏75度に加熱されると20%増大する。従って、空隙の体積は、VP2とVP1との差をとることで求められる(VP2−VP1=空隙の体積)。空隙の体積は、ペレットを体積VP1に形成することにより投薬チャンバ内で保たれる。この体積のペレット(いずれの形状でもよい)が、投薬チャンバ内のプランジャ上部に取り付けられる。
【0043】
図7は、眼球に穿刺された注射針を示す図である。本実施例では、投薬チャンバ容器とペレットは摂氏75度まで加熱されており、眼内注射中における針の測定温度が図示されている。針210は、後眼部に穿刺される。眼球710は針210に比べて大きな熱質量を有するので、針210の先端は、急速に(ほとんど瞬時に)眼球の温度まで冷却される。こうして、針210と眼球710との間で温度勾配が生じる。針210のうち、投薬チャンバ容器(およびヒータ)に最も近接する端部は、眼内にある端部よりも熱い。こうした温度差があるので、注射前に針210の内部に空隙を保持しておくことが、薬物/相転移化合物の混合物が冷えるのを防ぐために重要となる。このことは、注射に使用する針の内部に空気を保持するという、直観に反した理論に帰結する。一般的には、注射前に空気は全部針から抜かれるものだが、少量の空気は眼内に注入されても害を及ぼすことはなく、針内に空気が入っていても注射することができる。
【0044】
図8は、眼内注射用のボーラスの種々の形状を表す断面図である。図8Aは、球形ないし略球形状の、好適なボーラス807を示す。略球形ボーラス807は、眼中に沈着すると、内部に含まれる薬物を、その既知の投与分量で時間とともに徐々に溶出させてゆく。図8Bは、注入速度が遅すぎる場合に生じる円筒状ボーラス817を示す。図8Cは、注入速度が速すぎる場合に生じる細長い円筒状ボーラス827を示す。
【0045】
(所定の混合物の、所定温度における)注入速度は、注射によりもたらされる形状を決定する。本願出願人は、2007年4月3日出願の米国特許出願第11/695,990号で述べた混合物を用いて実験を行った。これらの混合物は、眼内での使用に適した温度プロファイルをもつ親油性化合物であり、そのいくつかは、摂氏37度近傍(人間の体温)で固体または半固体状であり、摂氏37度以上に加熱して、より液体状とすることができる。こうした相転移化合物は、およそ摂氏75度まで加熱すると、眼内注射が可能な液体または半液体状態に保たれることが見出された。次いで、化合物は、固体または半固体状となる摂氏37度に冷却される。こうした注射は一般に、数マイクロ・リットルから数10マイクロ・リットルの分量で行われる。
【0046】
例えば、プレシロール(登録商標)/医薬の混合物(相転移化合物/薬物の混合物)を用いる場合、該混合物は、摂氏75度に加熱することによって液体状態に保たれることが見出されており、ボーラスを形成するために眼内に注入される。速い注入速度(約14インチ毎分よりも大きな速度)は、図8Cに示す細長い円筒状ボーラスをもたらす。この形状は、急速な注入速度に伴う対流冷却および伝導冷却によって生じる。混合物は、円筒状ボーラスを形成しないような急激な速度で針から射出される。また、遅い注入速度(約10〜12インチ毎分の速度)は、図8Bに示す円筒状ボーラスをもたらす。この形状は、遅い注入速度に伴う対流冷却によって生じる。混合物は、円筒を形成しながら冷却されて凝固できるように、ゆっくりと針から射出される。約8〜10インチ毎分の注入速度は、図8Aに示すボーラスをもたらす。この注入速度範囲は、球形ないし略球形のボーラスを形成するのに最適であることが見出されている。当該範囲から速度が変化すると、ボーラス形状は球形からよりはずれる方向に変化する。さらに、様々な形状(円筒状、球形状など)のそれぞれが、薬物を放出する速度に応じた相異なる表面積をもつ。というのも、眼内で形状が侵食される速度は、その表面積に依存するからである。
【0047】
このような実験は、サイズが小さく、投与量が少量(マイクロ・リットル単位)であるために好適とされる27ゲージ針を用いて行った。他のゲージの針も使用できるが、注射による傷口がひとりでに閉じるような、小さなゲージの針を用いる方が好ましく、通常は25ゲージより小さな番数の針が好ましい。
【0048】
図9は、本発明の基本思想に係る注入速度および温度に依存性をもつ混合物を眼内に注射する方法を表す。ステップ910において、室温下で、混合物が、それ自身と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給される。ステップ920において、該混合物および投薬チャンバ容器は、混合物が膨張してより液体状となる温度範囲とされる。 投薬チャンバ容器の内面と混合物との間の空隙は、混合物の熱膨張特性に基づいており、上記のように算出することができる。混合物の温度が変化して膨張すると、空気は、注射前に針を通して抜け出てしまう。しかし、ステップ930において、混合物の膨張後かつ眼内注射の前に、空気は針内部に保持される。ステップ940において、プランジャが針内部の空気と所定形状の混合物とを眼内に沈着する速度で駆動される。
【0049】
図10は、本発明の基本思想に係る注入速度および温度に依存性をもつ混合物を眼内注射する方法を表す。ステップ1010において、室温下で、混合物が、それ自身と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給される。ステップ1020において、該混合物および投薬チャンバ容器は、混合物が膨張してより液体状となる温度範囲とされる。投薬チャンバ容器の内面と混合物との間の空隙は、混合物の熱膨張特性に基づいており、上記のように算出することができる。混合物の温度が変化して膨張すると、空気は、注射前に針を通して抜け出てしまう。しかし、ステップ1030において、混合物の膨張後かつ眼内注射の前に、空気は針内部に保持される。ステップ1040において、薬物放出速度が選択される。この速度は、薬物放出速度の所定範囲から選択されてよい。ステップ1050において、プランジャが、選択された薬物放出速度をもたらす形状を眼内に形成するように所定速度で駆動される。
【0050】
先に説明したように、眼内に沈着した相転移化合物/薬物の混合物の形状の表面積は、薬物放出速度を決定する。眼内での混合物の侵食はその表面積に依存するため、混合物の形状(球形状、円筒状、または、その他の形状)が、侵食の速度と、その結果である薬物放出速度を左右する。殆どの場合には、略球形状のボーラスを沈着させて、注射の間隔を最長化(そして表面積を最小化)することが望ましいが、より大きな表面積を有する他の形状(例えば円筒形状など)を沈着させて、薬物投与速度を増大させることが望ましくともよい。薬物投与速度はまた、混合物の種類および薬物濃度に依存する。混合物の種類と薬物濃度はともに、注入形状の差異に基づいて投与量を変化させるのに適したペレットを提供するために選択することができる。
【0051】
以上のように、本発明は、眼内に正確な量の混合物を投与するための、改善された装置および方法を提供するものである。本発明は、混合物を眼内注射する方法を提供する。混合物/薬物の混合物は、より液体状の、眼内注射に適した状態に変化させるため、(場合によって)加熱または冷却される。混合物の温度変化前に投薬チャンバ内に空隙があり、かつ、混合物の温度変化後に針内部に空気があることが、適切な注射という成果を生じる。本発明は、ここに実施例として例示されているが、当該技術分野における当業者による種々の変形が可能である。
【0052】
本発明のその他の実施形態は、本明細書およびここに開示された本発明の実施を考慮すれば、当該技術分野における当業者には明らかである。本明細書および実施例は、単なる例示にすぎず、本発明の正確な範囲および思想は、以下の請求項において示される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合物を眼内に注射する方法であって、
前記混合物と投薬チャンバ容器とが室温付近にあるときに、前記混合物を該混合物と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給し、
前記投薬チャンバ容器と前記混合物とを、前記混合物が膨張してより液体状となる室温付近以外の温度範囲とし、
前記混合物の膨張後かつ注射前に針内部に空気を保持し、
前記針内部の空気と前記混合物とを眼内に注入する、
ことを特徴とする眼内注射方法。
【請求項2】
前記空隙は、前記混合物の熱膨張特性に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項3】
前記空隙は、前記混合物とこの混合物が置かれるプランジャとの間に実質的に空気が取り込まれないようにして配置される、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項4】
前記供給される混合物は、親油性化合物と医薬との混合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項5】
前記投薬チャンバ容器と前記混合物とをこの混合物が膨張してより液体状となる温度範囲とする工程において、さらに、前記混合物を、該混合物が前記投薬チャンバを実質的に満たすまで膨張する温度範囲とする、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項6】
前記針内部の空気と前記混合物とを眼内に注入する工程において、さらに、前記混合物を眼内に沈着させるのに十分な速度でプランジャを駆動する、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項7】
前記混合物は、25ゲージ以下の針を通じて眼内に注入される、ことを特徴とする請求項1に記載の眼内注射方法。
【請求項8】
相転移化合物と薬物との混合物を眼内に注射する方法であって、
前記混合物と投薬チャンバ容器とが室温付近にあるときに、前記混合物とこの混合物が置かれるプランジャとの間に実質的に空気が取り込まれないように、前記混合物を該混合物と投薬チャンバ容器内面との間に空隙を有するようにして投薬チャンバ内に供給し、
前記投薬チャンバ容器と前記混合物とを、該混合物が膨張してより液体状となる室温周辺以外の温度範囲に加熱し、
前記混合物の膨張後かつ注射前に針内部に空気を保持し、
前記混合物を眼内に沈着させるのに十分な速度でプランジャを駆動することにより針内部の空気と前記混合物とを眼内に注入する、
ことを特徴とする眼内注射方法。
【請求項9】
前記空隙は、前記混合物の熱膨張特性に基づいて算出される、ことを特徴とする請求項8に記載の眼内注射方法。
【請求項10】
前記供給される混合物は、親油性化合物と医薬との混合物である、ことを特徴とする請求項8に記載の眼内注射方法。
【請求項11】
前記投薬チャンバ容器と前記混合物とを該混合物が膨張してより液体状となる温度範囲に加熱する工程において、さらに、前記混合物を、該混合物が前記投薬チャンバを実質的に満たすまで膨張する温度範囲に加熱する、ことを特徴とする請求項8に記載の眼内注射方法。
【請求項12】
前記混合物は、25ゲージ以下の針を通じて眼内に注入される、ことを特徴とする請求項8に記載の眼内注射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2011−500154(P2011−500154A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−528946(P2010−528946)
【出願日】平成20年10月1日(2008.10.1)
【国際出願番号】PCT/US2008/078457
【国際公開番号】WO2009/048777
【国際公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【出願人】(508185074)アルコン リサーチ, リミテッド (160)
【Fターム(参考)】