説明

眼用インプラント

【課題】生体適合性があり、インプラントとして機能するに十分な頑強性があり、生体内で細胞成長に対応できるように改良された基質を提供する。
【解決手段】合成高分子と生体高分子を架橋することにより形成されたヒドロゲルから生合成基質を得る。当該基質は、頑強で生体適合性があり、細胞障害性ではなく、生体内の細胞イングロースに対応可能である。一または複数の生物活性剤を含むように、基質を更に調整することもできる。基質内に被包または分散させた細胞を含ませてもよく、生体内で基質が沈着すると増殖可能である。生合成基質の生成方法、および組織工学または薬剤伝達に応用した生体内での生合成基質の用途も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織工学分野に関し、特に生体内使用に適するヒドロゲルを有する生合成基質、特に当該生合成基質を含む眼用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
組織工学は急速な成長を遂げている分野であり、組織や臓器機能の交換または復元を狙いとする多くの技術を含んでいる。組織工学の主要な目的は、現存の組織に取込可能な材料を用いて欠陥組織を再生し、正常な組織機能を復元することである。そのため、組織工学においては、細胞の増殖、イングロース(成長可能点)、または被包、および多くの場合においては神経再生を支持できる材料が必要とされる。
【0003】
組織工学において、高分子組成の応用が普及してきている。コラーゲン、フィブリン、アルギン酸塩、アガロース等の天然生体高分子は、細胞障害とならず、生細胞の増殖、イングロース及び被包を支持することが知られている。しかし、天然高分子由来の基質は、一般的に、移植に対する頑強性が不十分である。それに対し、合成高分子から生成された基質は、分解性等の生物学的特徴のほかに、ゲル強度等の物理的特徴においても、一定の特徴を示すように配合することができる。ポリリジン、ポリエチレンイミン等の天然高分子の類似化合物が組織障害効果を示すという報告[Lynn & Langer, J.Amer.Chem.Soc., 122:10761-10768(2000)]が、組織工学に応用する為の代替合成高分子の開発を招来している。
【0004】
ヒドロゲルは、水不溶性含水架橋高分子であり、生体適合性がよく、血栓生成、エンクラステーション(硬皮形成)ならびに炎症の誘発を低下させる傾向があり、組織工学の用途において理想的な候補である。細胞生物学におけるヒドロゲルの使用は公知であり[例えば、A.Atala and R.P.Lanza, eds., “Methods in Tissue Engineering” Academic Press, San Diego, 2002]、生体内応用における種々のヒドロゲルが記載されている[例えば、the review by Jeong, et al., Adv.Drug Deliv.Rev., 54:37-51(2002)]。例えば、イソプロピルアクリルアミド(N-isopropylacrylamide(NiPAAm))およびそのある種のコポリマーに基づくヒドロゲルは、毒性がなく生体内で被包化細胞の成長を支持することができる[Vernon, et al., Macromol. Symp., 109:155-167(1996); Stile, et al., Macromolecules, 32:7370-9(1999); Stile, et al., Biomacromolecules3:591-600.(2002); Stile, et al., Biomacromolecules 2:185-194.(2001); Webb, et al., MUSC Orthopaedic J., 3:18-21(2000); An et al., 米国特許第6,103,528号]。感温性NiPAAmポリマーの免疫検定用の使用について記載されている[米国特許第4,780,409号]。しかし、生体適合性を高めるための合成条件操作、改良にもかかわらず、シームレスなホスト/インプラント界面を得て、ヒドロゲルインプラントをホストに完全に取り込ませることは未だ難しい[Hicks, et al. Surv. Ophtalmol.42:175-189(1997);Trinkaus-Randall and Nugent, J. Controlled Release 53:205-214 (1998)]。
【0005】
合成高分子ゲルと別の天然由来高分子とを用い、相互侵入高分子網目(Interpenetrating Polymer Network :IPN)を生成させる改良が報告されている[例えば、Gutowska et al., Macromolecules, 27:4167(1994); Yoshida et al., Nature, 374 :240(1995);, Wu&Jiang, 米国特許第6,030,634号; Park et al., 米国特許第6,271,278号]。しかしながら、培養液及び生理液によって天然由来成分が抽出され、これらの構造が不安定になることも少なくない。また、天然由来高分子は体内で急速に生分解する傾向があり、体内インプラントを不安定化させる結果となる。
【0006】
架橋高分子組成を有するより堅固なヒドロゲルも報告されている。例えば、米国特許第6,388,047号には、架橋された疎水性マクロマーと親水性ポリマーとからなり、フリーラジカル重合によりヒドロゲルを生成する組成が記載されている。米国特許第6,323,278号には、複数の求電子基を含む合成高分子と、複数の求核基を含む他の合成高分子との2種類の合成高分子を有し、原位置で形成できる架橋高分子組成が記載されている。米国特許第6,388,047号及び米国特許第6,384,105号は、両方とも、フリーラジカル化合物によって架橋させるシステムについての記載であり、細胞障害のあることが公知である開始剤(アゾ化合物、過硫酸塩)の使用を必要とし、ヒドロゲルが組織内あるいは被包化細胞と使用された場合、副作用が起こりうる。
【0007】
米国特許第6,384,105号には、ポリプロピレンフマレートとポリエチレングリコールジメタクリレートとを有し原位置で架橋できる、注入可能で生分解性の高分子複合体が記載されている。この特許に記載されているヒドロゲルは、主に、ポリエチレンオキサイドを基幹高分子(骨格ポリマー)とする高分子に基づいている。これらの高分子は生体適合性があると言われているが、細胞成長の支持性は明らかではない。
【0008】
米国特許第6,566,406号に記載されている生体適合架橋ヒドロゲルは、原位置で反応し架橋させることができる求電子基及び求核基を有する水溶性前駆体から生成される。前駆体はポリアルキレンオキサイドポリマーと架橋剤であると記載されている。上記のように、ポリアルキレンオキサイド骨格ポリマーの細胞成長の支持性は明らかではない。
【0009】
そのため、生体適合性があり、インプラントとして機能するに十分な頑強性があり、生体内で細胞成長を支持できるように改良された基質が必要とされている。
【0010】
出願人により、本背景技術は本発明が適正であるという事を信じ得るだけの既に公知情報として提供される。必然的に承認が意図されているのではなく、いかなる前述の知見も本発明に対する先行技術を構成すると解釈されるものではない。
【発明の開示】
【0011】
本発明の目的は、生合成基質とその用法を提供することである。本発明の一つの態様によれば、生合成基質の生成に適し、一または複数のアルキル(N-alkyl)またはジアルキル(N,N-dialkyl)置換アクリルアミドコモノマーと、一または複数の親水性コモノマーと、一または複数のアクリルまたはメタクリルカルボン酸コモノマーとからなり、生物活性分子を架橋できるペンダント反応部を含むように誘導され、合成高分子の数平均分子質量は約2千から百万である合成コポリマーが提供される。
【0012】
本発明の他の態様によれば、前記合成コポリマーと、バイオポリマーと、水性溶剤とからなり、前記合成コポリマーとバイオポリマーは架橋されヒドロゲルを生成する生合成基質が提供される。
【0013】
本発明の他の態様によれば、前記生合成基質は、組織再生、動物における損傷もしくは切除された組織の交換、または外科用インプラントのコーティングのための足場として使用される。
【0014】
本発明の他の態様によれば、一または複数の生物活性剤または複数の細胞と、本発明の合成コポリマーと、バイオポリマーと、水性溶媒とから成る組成が提供される。
【0015】
本発明の他の態様によれば、組織工学に使用され、予め生成された生合成基質からなり、前記基質は水性溶媒と本発明の合成コポリマーに架橋されたバイオポリマーとを有する、インプラントが提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、前記インプラントは、眼用のインプラント、人工角膜として使用される。
【0017】
本発明の他の態様によれば、(a)開始剤の存在下で溶媒中に、一または複数のアルキルまたはジアルキル置換アクリルアミドコモノマーと、一または複数の親水性コモノマーと、一または複数のアクリルまたはメタクリルカルボン酸コモノマーとを分散して、ペンダント架橋可能部を含むように誘導し、(b)アルキルまたはジアルキル置換アクリルアミドコモノマーと、親水性コモノマーと、アクリルまたはメタクリルカルボン酸コモノマーとを重合し合成コポリマーを生成し、(c)必要に応じて、合成コポリマーを精製することにより合成コポリマーを生成する工程と、合成コポリマーを生成し、合成コポリマーとバイオポリマーとを水性基材に分散し、合成コポリマーとバイオポリマーとを重合し生合成基質を生成することにより、生合成基質を生成する工程とが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、本明細書に開示されている特定の加工工程や材料に限定されず、当業者によって理解される同等なものに拡大される。また、ここに使用されている用語は、特定の実施形態を説明するためのものであり、限定されるものではない。
【0019】
定義
定義は他にもあるが、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本発明が関する当業者が通常理解するものと同じ意味を有する。
【0020】
「ヒドロゲル」は、本明細書では、水または水溶液中で溶解することなしに膨潤し、その構造中に多くの水または水溶液を保持する機能を呈する架橋重合材料を称する。
【0021】
「ポリマー(高分子)」は、本明細書では、互いに結合した個々のモノマーから成る分子を称する。本発明において、ポリマーは、「エンドツーエンド」で結合し線状分子を形成するモノマーから構成されてもよく、互いに結合しブランチ構造を形成するモノマーから構成されてもよい。
【0022】
「モノマー」は、本明細書では、単独でまたは他の同様な有機分子との結合で長鎖を形成し、ポリマーを生成することができる単一な有機分子を称する。
【0023】
「コポリマー」は、本明細書では、2種類あるいはそれ以上の異なるモノマーから成るポリマーを称する。規則性コポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーまたはグラフトコポリマーが可能である。規則性コポリマーは、規則的なパターンでモノマーが繰り返されるコポリマー(例えば、モノマーAとモノマーBとすると、規則性コポリマーでは、ABABABABという配置が起こりうる)を称する。ランダムコポリマーは、異なるモノマーが、各個別のポリマー分子中にランダムにまたは統計的に配置されているコポリマー(例えば、モノマーAとモノマーBとすると、ランダムコポリマーでは、AABABBABBBAABという配置が起こりうる)を称する。これに対し、ブッロクコポリマーは、異なるモノマーが各個別のポリマー分子中で不連続な領域に分離されているコポリマー(例えば、モノマーAとモノマーBとすると、ブッロクコポリマーでは、AAABBBAAABBBいう配置が起こりうる)を称する。グラフトコポリマーは、一種類の一つまたは複数のポリマーを、異なる組成の他のポリマー分子に結合させることにより生成されるコポリマーを称する。
【0024】
「ターポリマー」は、本明細書では、三種類の異なるモノマーから成るコポリマーを称する。
【0025】
「バイオポリマー(生体高分子)」は、本明細書では、天然に存在するポリマーを称する。天然に存在するポリマーとは、プロティン、炭水化物等であるが、これらに限定されない。この「バイオポリマー(生体高分子)」は、本発明の合成高分子との架橋を促進するために改良された天然に存在するポリマーの誘導体も含む。
【0026】
「合成ポリマー(合成高分子)」は、本明細書では、天然には存在せず、化学的または組換合成によって産出されるポリマーを称する。
【0027】
「アルキル」及び「低級アルキル」は、本明細書では同義的に用いられ、炭素数1〜8の鎖式またはブランチアルキル基、または炭素数3〜8のシクロアルキル基を称する。また、これらの用語が例示するものとして、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、1-ブチル(または2-メチルプロピル)基、i-アミル基、n-アミル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
「生物活性剤」は、本明細書では、生体内で生理学的、治療的、または診断的効果を発揮する分子または化合物を称する。有機生物活性剤または無機生物活性剤でもよい。代表的な例としては、プロティン、ペプチド、炭水化物、核酸とそのフラグメント、抗腫瘍剤と抗悪性腫瘍剤、抗ウィルス剤、抗炎症剤、抗真菌剤ならびに抗菌剤等の抗生剤、コレステロール低下剤、鎮痛剤、医療診断画像用コントラスト剤、酵素、サイトカイン、局部麻酔剤、ホルモン、抗血管形成剤、神経伝達物質、治療的オリゴヌクレオチド、ウィルス粒子、ベクター、成長因子、レチノイド、細胞接着因子、細胞外基質糖タンパク(ラミニン等)、ホルモン、造骨因子、抗体および抗原等が挙げられる。
【0029】
「生体適合性」は、本明細書では、免疫ならびに/もしくは炎症反応、線維症、または他の有害組織反応を促進することなく、動物の臓器または組織等の生物システムに取り込まれる機能を称する。
【0030】
「約」は、本明細書では、表示値から±10%の変動を称する。本明細書においては、特に示されていなくても、記載されているいかなる値もこのような変動を含むものとする。
【0031】
1.生合成基質
本発明は、合成高分子と生体高分子を架橋することにより形成されたヒドロゲルから成る生合成基質を提供する。生体高分子は、天然由来の形態でもよく、合成高分子との架橋を促進するために誘導してもよい。基質は、頑強で生体適合性があり、細胞障害性ではない。基質は、天然pHにおいて水溶液中で形成できる。成長因子、レチノイド、細胞接着因子、酵素、ペプチド、プロティン、ヌクレオチド、薬剤等の一または複数の生物活性剤を含むように、基質を更に調整することもできる。生物活性剤は合成高分子に共有結合的に付加することができる。また、基質に対するエンドユーザの要望により、最終基質内に被包または分散させてもよい。基質は被包または分散された細胞を有してもよく、これらは生体内で基質が沈着されると増殖および/または多様化する。
【0032】
本発明の一実施形態においては、生合成基質は細胞成長を支持する。このような細胞成長は、上皮ならびに/もしくは内皮表面付着(すなわち、二次元(2D)成長)、および/または基質内への成長を含む三次元(3D)成長である。
【0033】
本発明の他の実施形態においては、生合成基質は神経イングロースを支持する。既に知られているように、移植組織への神経イングロースは時間をかけて行われ、概して何ヶ月または何年かかかる。基質内への神経成長は、移植組織への神経成長より速やかに行われるので、機能組織がより急速に再生され、例えば、神経イングロースが数週間で行われることもある。
【0034】
生合成基質を、特定用途のために調整することができる。例えば、生合成基質は組織工学に応用することができ、この目的のための特定な形状に予め形成してもよい。生合成基質は、動物の体内のある特定な部位で治療剤または診断剤を持続放出するための薬剤送達手段として用いることもできる。
【0035】
組織工学用途における体内移植に適合するために、生合成基質は、生理温度でその形状を維持し、実質的に水に不溶であり、十分な頑強性を有し、細胞成長を支持しなければいけない。生合成基質が神経成長を支持することも望まれる。
【0036】
1.1 合成ポリマー
本発明によれば、生合成基質に組み込まれる合成ポリマーは、一または複数のアクリルアミド誘導体と、一または複数の親水性コモノマーと、一または複数の誘導カルボン酸コモノマーとから成るコポリマーであり、ペンダント架橋可能部を有する。
【0037】
「アクリルアミド誘導体」は、本明細書においては、N−アルキルまたはN,N−ジアルキル置換アクリルアミドまたはメタクリルアミドを称する。本発明の合成ポリマーに用いるに好適なアクリルアミド誘導体として、限定はされないが例えば、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド(NiPAAm)、N−オクチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、N,N−ジシクロヘキシルアクリルアミド、N−メチル−N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−ビニル−2−ピロリジノン、N−メタクリロイルピロリジン、およびそれらの混合物が挙げられる。
【0038】
本発明の趣旨における「親水性コモノマー」は、合成ポリマーのアクリルアミド誘導体および誘導カルボン酸成分と共重合できる親水性モノマーである。重合において十分な溶解性があり、コポリマーの水に対する溶解性を供与し、最終コポリマーとヒドロゲルの相転移を起こさないような親水性コモノマーを選択する。親水性コモノマーとして好適なものは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体等を含むカルボン酸等の親水性アクリルまたはメタクリル化合物、アクリルアミド、メタクリルアミド、親水性アクリルアミド誘導体、親水性メタクリルアミド誘導体、親水性アクリル酸エステル、親水性メタクリル酸エステル、ビニルエタノールおよびその誘導体、エチレングリコール等である。カルボン酸およびその誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)あるいはその誘導体等が挙げられる。親水性アクリルアミドとしては、限定はされないが例えば、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、2−[N,N−ジメチルアミノ]エチルアクリルアミド、2−[N,N−ジエチルアミノ]エチルアクリルアミド、N,N−ジエチルメタクリルアミド、2−[N,N−ジメチルアミノ]エチルメタクリルアミド、2−[N,N−ジエチルアミノ]エチルメタクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリジノン、およびそれらの混合物が挙げられる。親水性アクリル酸エステルとしては、限定はされないが例えば、2−[N,N−ジエチルアミノ]エチルアクリレート、2−[N,N−ジメチルアミノ]エチルアクリレート、2−[N,N−ジエチルアミノ]エチルメタクリレート、2−[N,N−ジエチルアミノ]エチルメタクリレート、およびその誘導体等が挙げられる。
【0039】
「誘導カルボン酸コモノマー」は、本明細書では、親水性アクリルまたはメタクリルカルボン酸、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、またはその置換体を称し、スクシンイミヂル基、イミダゾール、ベンゾトリアゾール、p−ニトロフェノール等の一または複数の架橋部を含むように化学的に誘導されたものである。「スクシンイミヂル基」は、スルホスクシンイミヂル基のような種々の一般的なスクシンイミヂル基を含むものとする。当業者にとって明らかなように、2−(N−モルフォリノ)エタンスルホン酸等の他の同様な構造も含まれる。本発明の趣旨においては、架橋部として選択された基は、カルボン酸基の反応性を高め、カルボン酸基に付加し、一級アミン(すなわち、−NH基)およびチオール(すなわち、−SH基)を生じる。合成ポリマーに使用されるカルボン酸コモノマーの誘導に好適な基は、限定はされないが例えば、N−スクシンイミド、N−スクシンイミド−3−スルホン酸、N−ベンゾトリアゾール、N−イミダゾール、p−ニトロフェノール等である。
【0040】
本発明の一実施の形態において、合成ポリマーは、
(a)一般式Iを有する一または複数のアクリルアミド誘導体と、
【化1】

ここで、
、R、R、RおよびRは、水素(H)および低級アルキルの群から独立に選ばれる、
(b)一般式IIを有する一または複数の親水性コモノマー((a)と同じでも異なってもよい)と、
【化2】

ここで、
Yは酸素(O)または存在しなくてよい、
およびRは、水素(H)および低級アルキルの群から独立に選ばれ、
は、水素(H)、低級アルキルまたは−OR’であり、R’は、水素(H)または低級アルキルであり、
は、水素(H),低級アルキルまたは−C(O)R10であり、
10は、−NRまたは−OR”であり、R”は水素(H)またはCHCHOHである、
(c)一般式IIIを有する一または複数の誘導カルボン酸と、
【化3】

ここで、
11、R12およびR13は、水素(H)および低級アルキルの群から独立に選ばれ、
Qは、N−スクシンイミド、3−スルホ−スクシンイミド(ナトリウム塩)、N−ベンゾトリアゾリル、N−イミダゾリルまたはp−ニトロフェニルである、
から成る。
【0041】
一実施の形態において、上記のように、合成ポリマーは、一般式Iの一または複数のアクリルアミド誘導体と、一般式IIの一または複数の親水性コモノマーと、一般式IIIの一または複数の誘導カルボン酸とから成り、「低級アルキル」は炭素数1〜8のブランチまたは鎖式アルキル基である。
【0042】
他の実施の形態において、上記のように、合成ポリマー、一般式Iの一または複数のアクリルアミド誘導体と、一般式IIの一または複数の親水性コモノマーと、一般式IIIの一または複数の誘導カルボン酸とからなり、「低級アルキル」は、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜8のシクロアルキル基である。
【0043】
コポリマーは、線状もしくはブランチコポリマー、規則性コポリマーまたはランダムコポリマーでもよい。本発明によれば、最終合成ポリマーは、適切な生体分子の架橋またはグラフト反応が可能な複数のペンダント反応部を含有する。
【0044】
当業者にとっては認識されるように、「アクリルアミド誘導体」という用語に含まれる化合物の群と、「親水性コモノマー」という用語に含まれる化合物の群とは実質的に重複しているので、コポリマーにおいてこれら両方の成分の機能を実現できるようなモノマーを、一種類だけ選択してもよい。例えば、合成ポリマーにおいて要求特性を付与するに十分な親水性があるアクリルアミド誘導体を選ぶなら、選択されたアクリルアミドと同一の親水性コモノマー成分を選んでもよい。この場合、コポリマーは、異なる二種類のモノマーからのみ成る(すなわち、アクリルアミド誘導体/親水性コモノマーおよび誘導カルボン酸コモノマー)。一方、選択されたアクリルアミド誘導体による親水性より高い値が要求される場合、一または複数の異なる親水性コモノマーを選んでもよく、この場合コポリマーは少なくとも異なる三種類のモノマーから成る。
【0045】
本発明の一実施の形態においては、合成ポリマーの生成に用いられるアクリルアミド誘導体と親水性コモノマーとは同じである。他の実施の形態においては、合成ポリマーの生成に用いられるアクリルアミド誘導体と親水性コモノマーとは異なる。
【0046】
コポリマーの全親水性は、析出または相転移を起こすことなしに、零度から生理温度において水溶性であるように調整される。本発明の一実施の形態においては、コポリマーは約0℃から37℃の間で水溶性である。
【0047】
コポリマーはヒドロゲルの形成を促進するために、水溶液に対し十分な溶解性を有する必要がある。本発明の一実施の形態によれば、「水溶性である」とは、コポリマーが少なくとも約0.5重量/体積(w/v)%の水溶解度を持つことを示す。他の実施の形態においては、コポリマーの水溶解度は、約1.0重量/体積(w/v)%から約50重量/体積(w/v)%である。更に他の実施の形態においては、コポリマーの水溶解度は、約5重量/体積(w/v)%、約45重量/体積(w/v)%および約10重量/体積(w/v)%から約35重量/体積(w/v)%である。
【0048】
知られているように、ほとんどの合成ポリマーにおいて、分子質量には分布があり、平均分子質量も種類によって、例えば、数平均分子質量(M)と重量平均分子質量(M)は異なることがある。通常、合成ポリマーの分子量は数平均分子質量で定義される。数平均分子質量は、nの合計/nの合計で定義され、nは質量Mの分布における分子の数である。本発明の基質に用いられる合成ポリマーは、通常2千から百万の数平均分子質量(M)を有する。本発明の一実施の形態においては、ポリマーの数平均分子質量(M)は約5千から9万である。本発明の他の実施の形態においては、ポリマーの数平均分子質量(M)は約2万5千から8万である。更に他の実施の形態においては、ポリマーの数平均分子質量(M)は約3万から5万である。他の実施の形態においては、ポリマーの数平均分子質量(M)は約5万から6万である。
【0049】
更によく知られているように、ある種の水溶性ポリマーは低臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)または曇り点を持つ。ポリマーの低臨界溶解温度とは、相分離を起こす(すなわち、ポリマーが周囲の水性媒体から分離し始める)温度である。通常、これら透明なポリマーやヒドロゲルにおいては、低臨界溶解温度は透明度が失われ始める温度に相当する。組織工学の用途によっては、ヒドロゲルが細胞成長を支持していれば、最終ヒドロゲルの相分離の有無は問題にならないことは明らかである。しかし他の用途においては、最終ヒドロゲルに相分離のないことが重要となる。例えば、光学用途においては、透明性(および、いかなる相転移もないこと)が重要である。
【0050】
このように、本発明の一実施の形態によれば、約35℃から60℃の低臨界溶解温度を有するコポリマーを選びヒドロゲルに使用する。他の実施の形態では、約42℃から60℃の低臨界溶解温度を有するコポリマーを選びヒドロゲルに使用する。イオン、プロティン等の種々の溶質の存在およびポリマーに架橋または付加している化合物の性質が、ポリマーの低臨界溶解温度に影響することが知られている。このような効果は、標準的な技術を用いて実験的に求めることができ、用途によって適当なLCSTを有する合成ポリマーを選択することは、当業者にとっては通常の技術範囲である。
【0051】
合成ポリマーに適切な頑強性と温度安定性を付与するために、これらの成分として異なるモノマーを使用する場合は、親水性コモノマーに対するアクリルアミド誘導体の比を最適化することが重要である。したがって、アクリルアミド誘導体のモル比は合成ポリマーにおいて最も高くなる。また、最終ポリマー中に存在する誘導カルボン酸コモノマーの数によって、合成ゲルの生合成基質中におけるバイオポリマーとの架橋形成能が決められる。要求された特性を有する最終合成ポリマーを提供するために、各成分において適切なモル比を選ぶことは、当業者にとっては通常の技術範囲である。
【0052】
本発明の一実施の形態によれば、アクリルアミド誘導体および親水性コモノマーとして異なるモノマーが使用される場合は、ポリマー中のアクリルアミド誘導体の量は50%から90%であり、親水性コモノマーの量は5%から50%であり、誘導カルボン酸コモノマーの量は0.1%から15%であり、アクリルアミド誘導体、親水性コモノマーおよび誘導カルボン酸コモノマーの総量は100%であり、%はモル比で表される。
【0053】
本発明の他の実施の形態によれば、合成ポリマーはアクリルアミド誘導体および親水性コモノマーとして同じモノマーを使用して生成され、アクリルアミド誘導体/親水性コモノマーのモル比は約50%から99.5%であり、誘導カルボン酸コモノマーのモル比は約0.5%から50%である。
【0054】
更なる他の実施の形態によれば、アクリルアミド誘導体および親水性コモノマーの合算モル比は約80%から99%であり、誘導カルボン酸コモノマーのモル比は約1%から20%である。
【0055】
当業者にとっては理解できるように、合成ポリマーにおける成分の選択および比率は、生合成基質としての最終用途の度合によって異なる。例えば、眼用に応用する場合は、最終基質は透明であることが重要であるが、他の組織工学に応用する場合は、透明性は重要な因子とはならないことが多い。
【0056】
本発明の一実施の形態においては、合成ポリマーは、一種類のアクリルアミド誘導体、一種類の親水性コモノマーおよび一種類の誘導カルボン酸コモノマーから成るランダムまたはブロックコポリマー(ターポリマー)である。他の実施の形態においては、合成ポリマーはNiPAAmモノマー、アクリル酸(AAc)モノマーおよび誘導アクリル酸モノマーから成るターポリマーである。更なる他の実施の形態においては、合成ポリマーはNiPAAmモノマー、アクリルアミド(AAm)モノマーおよび誘導アクリル酸モノマーから成るターポリマーである。他の実施の形態においては、誘導アクリル酸モノマーはN−アクリロキシスクシンイミドである。他の実施の形態においては、ターポリマーはNiPAAmモノマー、AAcモノマーおよびN−アクリロキシスクシンイミドから生成され、その添加比は約85:10:5モル%である。
【0057】
本発明の別の実施の形態においては、合成ポリマーは、一種類のアクリルアミド誘導体/親水性コモノマーおよび一種類のカルボン酸コモノマーから成るランダムまたはブロックコポリマーである。他の実施の形態では、合成ポリマーはDMAAモノマーおよび誘導アクリル酸モノマーから成る。更なる他の実施の形態においては、誘導アクリル酸モノマーはN−アクリロキシスクシンイミドである。他の実施の形態においては、合成ポリマーはDMAAモノマーおよびN−アクリロキシスクシンイミドから生成され、その添加比は約95:5モル%である。
【0058】
1.2 バイオポリマー
バイオポリマーは、プロティン、炭水化物等天然に存在するポリマーである。本発明によれば、生合成基質はバイオポリマーまたはその誘導体からなり、誘導体の場合、ペンダント架橋部により合成ポリマーに架橋する。このように、本発明の用途においては、バイオポリマーは架橋部と反応可能な一または複数の基(例えば、一級アミンまたはチオール)を含有しているか、またはそのような基を含有するように誘導される。本発明に用いるに好適なバイオポリマーとしては、限定はされないが例えば、コラーゲン(I、II、III、IV、V型を含む)、変性コラーゲン(または、ゼラチン)、組換コラーゲン、フィブリンーフィブリノーゲン、エラスチン、糖蛋白、アルギン酸塩、キトサン、ヒアルロン酸、コンドロイチンサルフェート、グリコサミノグリカン(プロテオグリカン)等が挙げられる。当業者にとっては理解できるように、これらのバイオポリマーの中には、上記のように適切な反応基を含むように誘導する必要があるものもある。例えば、一級アミン基を付与するために、グリコサミノグリカンは脱アセチルまたは脱硫酸される。このような誘導は標準的な技術で達成することができ、当業者にとっては通常の技術範囲である。
【0059】
本発明に用いるに好適なバイオポリマーは、種々の商業的供給源から購入可能であり、または天然資源から標準的な技術を用いて生成可能である。
【0060】
1.3 生物活性剤
上記のように、本発明の生合成基質に含まれる合成ポリマーは複数のペンダント架橋部を含む。合成ポリマーとバイオポリマーが十分に架橋すれば、すべてのフリー架橋基を反応させなくても適切な頑強性を有する基質が実現されることは明らかである。したがって、必要に応じて、過剰量の基を用いて望ましい生物活性剤を共有結合的に基質に付加してもよい。架橋によって基質に組み込まれる生物活性剤として、限定はされないが例えば、成長因子、レチノイド、酵素、細胞接着因子、細胞外基質糖蛋白(ラミニン、フィブロネクチン、テネイシン等)、ホルモン、造骨因子、サイトカイン、抗体、抗原、他の生物活性プロティン、特定医薬用化合物、ならびに生物活性プロティンから誘導されるペプチド、フラグメント、モチーフ等が挙げられる。
【0061】
本発明の一実施の形態においては、架橋基はスクシンイミヂル基であり、ポリマーにグラフトさせるに適切な生物活性剤は、一級アミノ基またはチオール基を持つか、これらの基を含む誘導体を容易に生成可能な活性剤である。
【0062】
2.生合成基質生成方法
2.1 合成ポリマーの生成
合成ポリマーの構成成分の共重合は、既知の標準的方法を用いて実現することができる[例えば、A.Ravve “Principles of Polymer Chemistry”, Chapter 3. Plenum Press, New York 1995]。一般的に、適当量の各モノマーを開始剤の存在下で適切な溶剤中に分散する。基質を適当な温度で放置し、共重合反応を所定時間かけて行う。従来の方法、例えば析出させることにより、生成ポリマーを混合物から精製できる。
【0063】
共重合反応用溶剤として、水性溶剤を用いてもよく、加水分解されやすいモノマーを含む場合は非水性溶剤を用いてもよい。適切な水性溶剤としては、限定はされないが例えば、水、緩衝液および塩溶液がある。適切な非水性溶剤としては、一般的には、環状エーテル類(ジオキサン等)、塩素化炭化水素類(例えば、クロロホルム)または芳香族炭化水素類(例えば、ベンゼン)等がある。要望に応じて、溶剤を使用前に窒素パージしてもよい。本発明の一実施の形態においては、溶剤は非水性溶剤である。他の実施の形態においては、溶剤はジオキサンである。
【0064】
適切な重合開始剤としては、既知のものが用いられ、通常はフリーラジカル開始剤である。適切な開始剤として、限定はされないが例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ならびに2,2’−アゾビス−2−エチルプロピオニトリル、2,2’−アゾビス−2−シクロプロピルプロピオニトリル、2,2’−アゾビスシクロヘキサンニトリル、2,2’−アゾビスシクロオクタンニトリル等の他のアゾ化合物、ジベンゾイルパーオキシドおよびその誘導体等のパーオキシド化合物、ナトリウム、カリウム等の過硫酸塩等が挙げられる。
【0065】
生成されたポリマーは、必要に応じて精製したのち、種々の標準的技術により特定することができる。例えば、ポリマーの成分モル比は核磁気共鳴法(プロトンおよび/またはカーボン13)によって測定できる。結合構造は赤外分光法によって測定できる。分子質量は、ゲル浸透クロマトグラフィーおよび/または高圧液体クロマトグラフィーによって測定できる。要望に応じて、ポリマーの温度特性も、例えば示差走査熱量分析を用いた融点およびガラス転移点の測定により求められる。ミセル、ゲル形成等の水溶液特性およびLCSTは、目視観察、蛍光分光法、紫外―可視分光法、およびレーザー光散乱装置を用いて測定できる。
【0066】
本発明の一実施の形態においては、合成ポリマーは、開始剤としてAIBNを用い、窒素パージしたジオキサン中にモノマーを分散させ、約60℃から70℃で重合することにより生成される。得られたポリマーを、繰り返し析出させることにより精製する。
【0067】
2.2 ヒドロゲルの生成
合成ポリマーとバイオポリマーとの架橋は、適当量の各ポリマーを室温で適切な溶媒中で混合することにより、容易に達成できる。一般的に溶媒としては、塩溶液等の水溶液、緩衝液、細胞培養液、またはそれらを希釈もしくは改良したものが使用される。当業者にとっては明らかなように、コラーゲン等のポリマーの三重らせん体を保持し、ヒドロゲルの原線維発生および/または混濁化を防ぐために、架橋反応は水性媒体中でpHと温度を精密に制御しながら行うべきである。細胞培養に通常使用される栄養培地のアミノ酸の含有量が高いと、合成ポリマーの架橋部と副反応を起こし、したがってこれらの基は架橋反応から逸脱してしまう。アミノ酸および他のプロティン系材料を含まない培地を用いることにより、これらの副作用を防止し、合成ポリマーとバイオポリマー間に形成される架橋数を高めることができる。室温または生理温度において水溶液中で架橋反応を行うことにより、架橋を行いながら、残留架橋基の加水分解を遅らせることができる。
【0068】
一方、停止反応として、基質中の残留架橋基を反応させることができる。例えば、グリシンを含有する適切な緩衝液を用いた一回または複数回の洗浄工程により、架橋反応期間に生じるいずれの副生成物を除去しながら、残留架橋基を停止させることができる。未反応架橋基は、さらに鎖状間単架橋を形成させるような、リシン、トリエチレンテトラアミン等の多官能アミンを用いても停止させてよい。要望に応じて、緩衝液を用いた洗浄工程は、架橋反応の副生成物を除去するためにのみ行ってもよい。必要に応じて、架橋工程後、完全にヒドロゲルが形成されるように、架橋ポリマーのサスペンションの温度を上げることができる。
【0069】
本発明によれば、ヒドロゲルの成分は化学的に架橋しており、実質的に抽出不可であり、すなわち、生理的条件において、バイオポリマーおよび合成ポリマーがゲルから広範に滲出することはない。本発明の一実施の形態によれば、生理的条件において24時間中に基質から水性媒体に抽出され得るバイオポリマーまたは合成ポリマーの量は、いずれも5重量%未満である。他の実施の形態においては、生理的条件において24時間中に基質から水性媒体に抽出され得るバイオポリマーまたは合成ポリマーの量は、いずれも2重量%未満である。更なる他の実施の形態においては、24時間中に抽出される量は、1重量%未満、0.5重量%未満、および0.2重量%未満である。
【0070】
基質中から水性媒体に抽出されるバイオポリマーおよび/または合成ポリマーの量は、標準的技術(例えば、USPバスケット法)を用いて、生体外で測定することができる。一般的には、基質を所定のpH、例えば生理的条件を模擬するpH7.4の水溶液に放置する。サスペンションは攪拌してもしなくてもよい。水溶液中から所定時間毎にサンプルを取り出し、標準的分析技術によってポリマー含量を検定する。
【0071】
当業者にとっては理解されるように、ヒドロゲルに含有される各ポリマー量は、ポリマーの選択およびヒドロゲルの用途に依存する。一般に、各ポリマーの初期量を多くすれば、水分含有量が低くなり架橋されたポリマー量は増えるので、より頑強なゲルが形成される。水または水性溶剤の量が多くなれば、軟質なゲルとなる。本発明によれば、最終ゲルは、約20から99.6重量%の水または水性溶剤、約0.1から30重量%の合成ポリマーおよび約0.3から50重量%のバイオポリマーを有する。
【0072】
本発明の一実施の形態においては、最終ゲルは、約40から99.6重量%の水または水性溶剤、約0.1から30重量%の合成ポリマーおよび約0.3から30重量%のバイオポリマーを有する。他の形態においては、最終ゲルは、約60から99.6重量%の水または水性溶剤、約0.1から10重量%の合成ポリマーおよび約0.3から30重量%のバイオポリマーを有する。更なる他の形態においては、最終ゲルは、約80から98.5重量%の水または水性溶剤、約0.5から5重量%の合成ポリマーおよび約1から15重量%のバイオポリマーを有する。その他の形態においては、最終ゲルは、約95から97重量%の水または水性溶剤、約1から2重量%の合成ポリマーおよび約2から3重量%のバイオポリマー、または約94から98重量%の水または水性溶剤、約1から3重量%の合成ポリマーおよび約1から3重量%のバイオポリマーを有する。
【0073】
同様に、ヒドロゲルに含有される各ポリマーの相対量は、使用される合成ポリマーとバイオポリマーの種類およびヒドロゲルの用途に依存する。当業者にとっては理解されるように、バイオポリマーと合成ポリマーの相対量は最終ゲルの特性に様々な形態で影響する。例えば、バイオポリマーの含有量が多くなると、非常に硬直したヒドロゲルとなる。当業者にとっては理解されるように、最終基質における各ポリマーの相対量は、バイオポリマーと合成ポリマーの重量比により重量換算で、または反応基の当量換算で示される。本発明によれば、バイオポリマーと合成ポリマーの重量比は、約1:0.07から1:14である。一実施の形態においては、バイオポリマーと合成ポリマーの重量比は、約1:1.3から1:7である。他の実施の形態においては、バイオポリマーと合成ポリマーの重量比は、1:1から1:3である。更なる他の実施の形態においては、バイオポリマーと合成ポリマーの重量比は、1:0.7から1:2である。
【0074】
本発明の別の実施の形態においては、基質は、プロティン系バイオポリマーとペンダントN−アクリロキシスクシンイミド基を有する合成ポリマーとを含有する。本発明のこの実施の形態においては、バイオポリマーと合成ポリマーの比は、バイオポリマー中のフリーアミン基とN−アクリロキシスクシンイミド基とのモル当量換算で示され、1:0.5から1:20である。他の実施の形態では、この比は1:1.8から1:10である。更なる他の実施の形態では、この比は1:1.1から1:5、および1:1から1:3である。
【0075】
2.3 生物活性剤の生合成基質への取込
要望に応じて、生物活性剤は、ペンダント架橋部による合成ポリマーへの共有付加(またはグラフティング)または基質内への被包によって、基質内に組み込むことができる。共有結合的に基質の合成ポリマー成分に付加される生物活性剤は、前述したとおりである。必要に応じて、最初に生物活性剤の誘導体を標準的手順で生成し、架橋基との反応に適当な反応基を導入してもよい。生物活性剤を共有付加させるためには、合成ポリマーをまずこの生物活性剤と反応させ、この改良型合成ポリマーを上記のようにバイオポリマーと架橋する。生物活性剤と合成ポリマーとの反応は標準的条件で行うことができる。例えば、生物活性剤と合成ポリマーを、N,N−ジメチルホルムアミド、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルアクリルアミド等の非水性溶剤中で混合する。非水性溶剤を用いることにより、生物活性剤が組み込まれる間に、反応基の加水分解が起こることを防止する。一方、上述のように、架橋反応による場合は水性溶剤中で反応させる。
【0076】
ポリマーへのグラフト化に適さない生物活性剤は、例えば、合成ポリマーの架橋基を反応する一級アミノ基またはフリーチオール基を含有しないもの、またはそれらの基を含む誘導体を生成できないものであるが、最終基質に包括できるものもある。最終基質に包括される生物活性剤としては、限定はされないが例えば、製薬剤、診断用薬剤、ウィルスベクター、核酸等が挙げられる。包括するために、生物活性剤を、合成ポリマーとバイオポリマーとを架橋のために混合する前に、適当な溶剤中で合成ポリマーの溶液に添加する。または、架橋工程の前に、合成ポリマーとバイオポリマーとを含む溶液中に生物活性剤を添加することもできる。生物活性剤を、実質的に均一に分散するようにポリマー溶液中に混合し、上述のようにして、ヒドロゲルを実質的に形成する。生物活性剤と使用するに適当な溶剤は、活性剤の特性に依存するが、当業者によれば容易に求めることができる。
【0077】
2.4 生合成基質における細胞の包括
本発明に係る生合成基質は基質内に包括した細胞を有してもよく、これにより体内の組織または臓器への細胞の送達を可能にする。生合成基質を用いて、様々な異なる種類の細胞、例えば、ミオサイト、眼細胞(例えば、角膜の異なる層からの細胞)、脂肪細胞、線維筋芽細胞、外胚葉細胞、筋細胞、骨芽細胞(すなわち、骨細胞)、軟骨細胞、内皮細胞、線維芽細胞、膵細胞、肝細胞、胆管細胞、骨髄細胞、神経細胞、泌尿器系細胞(腎細胞を含む)、およびそれらの組合せ等を送達できる。基質を、全能幹細胞、多官能性もしくは処理前駆細胞、または再プログラムされた(脱分化)細胞を、同じ種類の細胞が組織で産出されるように、生体内部位に送達するために使用してもよい。例えば、未分化の間葉幹細胞を基質で送達することができる。間葉幹細胞としては、例えば、骨芽細胞(新しい骨組織を生成するため)、軟骨細胞(新しい軟骨組織を生成するため)、線維芽細胞(新しい結合組織を産出するため)等を産出するように展開可能な細胞が挙げられる。一方、生体内部位において、そこで存在する細胞と同じ種類の細胞を供与するように増殖可能な処理前駆細胞は、例えば、筋芽細胞、骨芽細胞、線維芽細胞等に用いることができる。
【0078】
細胞は、バイオポリマーと混合し架橋ゲルを形成する前に、合成ポリマー溶液に細胞を加えることにより容易に最終基質に包括することができる。または、架橋工程の前に、合成ポリマーとバイオポリマーとを含む溶液中に細胞を加えることもできる。要望に応じて、細胞を混合する前に、合成ポリマーを生物活性剤と反応させてもよい。一般的に、細胞を基質内に被包するために、種々の成分(細胞、合成ポリマーおよびバイオポリマー)を細胞培養培地またはその希釈もしくは改良媒体等の水性媒体に分散する。細胞サスペンションをゆっくりとポリマー溶液に混合し、細胞が実質的に均一になるまで溶液中に分散し、ヒドロゲルを上述のように形成する。
【0079】
2.5 他の要素
本発明においては、強度、弾力性、可撓性および/または引裂抵抗等の基質の機械的特性を改良するために、生合成基質に一または複数の補強材を任意に添加してもよい。したがって、基質を可撓性または剛性のあるファイバー、ファイバーメッシュ、ファイバークロス等により強化してもよい。このような補強材の使用は公知であり、例えば、移植可能医療用途においては、コラーゲン原繊維から作られたファイバー、クロスもしくはシート、酸化セルロース、またはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリテトラフルオロエチレン等のポリマーの使用が知られている。
【0080】
補強材は、標準的手順を用いて基質に組込可能である。例えば、適当な緩衝液中の合成ポリマーとバイオポリマーとの水溶液を、インターシード(Interceed, Ethicon Inc., New Brunswick, N.J.)等のファイバークロスまたはメッシュに加えることができる。水溶液を架橋する前にクロスまたはメッシュの間隙に流入し、クロスまたはメッシュが中に埋め込まれたヒドロゲルを形成する。要望に応じて、適当なモールドを用いれば、確実にファイバーまたはファイバーメッシュを完全にヒドロゲル内に含有させることができる。次に、複合構造体を洗浄し、架橋反応中に生成した副生成物を除去する。一般的には、ポリマー水溶液に対して完全な濡れ性を確保するために、天然に親水性であるファイバーが用いられる。
【0081】
当業者にとって理解されるように、高光学透明性を要求する応用例においては、例えば、ナノファイバーの使用および/または補強材とヒドロゲルとの綿密な屈折率マッチングにより、最終組成基質の光散乱を防止するような補強構造を選ばなくてはいけない。
【0082】
3.生合成基質の試験
本発明によれば、生合成基質はヒドロゲルからなり、ヒドロゲルは添加生物活性剤および/または包括細胞を有する場合と有しない場合がある。組織光学用途における体内移植に適合するために、生合成基質は、生体温度でその形状を維持し、十分な頑強性を有し、実質的に水に不溶であり、細胞成長を支持しなければいけない。生合成基質が神経成長を支持することも望まれる。容易に理解されるように、特殊な応用例においては、基質には他の特徴も要求される。例えば、外科用途では、基質は、縫合用糸や針を用いた外科的操作に十分対応できる強度とともに比較的可撓性であることが必要とされることもある。角膜の修復または交換等の眼用応用例では、基質が光学的に透明であることが重要である。
【0083】
3.1 物理的/化学的試験
組織工学用途に使用する場合、生合成基質は、外科的工程で処理されたときに基質の引裂または破断を防止し、および所定の位置に置かれた際は細胞成長を十分支持できる機械的パラメータを満たさなければいけない。基質の抗引裂性は、固有の機械的強度、基質の形状と厚さ、および負荷張力に関連する。
【0084】
生合成基質の耐剪断性または耐引裂性は、二組の鉗子を用いて試験片に反対方向の応力を加えることにより測定し概算することができる。一方、基質の耐剪断性は適切な装置を用いて、定量的に測定することができる。この目的のための張力計は、例えばMTS、Instron、およびCole Parmerから市販されている。
【0085】
試験のために、基質はシート状に形成され、適当な大きさの試験片に切断する。あるいは、組織工学用途に望ましい形状に成形し、成形基質全体を試験することもできる。引張強度を計測するために、基質の破断または「破壊」時における応力を試験片の断面積で除算し、応力(N)/単位面積で表わされる値を求める。基質の剛性(モジュラス)は応力/歪曲線の線形部分の傾きより計算される。歪は、試験中の長さにおけるリアルタイム変化を、試験開始前の試験片の初期長で除算したものである。破断時の強度は、破断したときの試験片の最終長さから初期試験片の長さを引いたものを、初期長で除算して得られる。
【0086】
当業者にとっては理解されるように、ヒドロゲルは柔軟であり締め付けたときに水性成分が滲出するので、ヒドロゲルから有効な張力データを得ることは難しい。ヒドロゲルにおける引張強度の定量的特徴付けは、例えば、成形基質試験体の縫合糸引抜測定を行うことにより達成できる。一般的には、縫合糸を試験片の端から約2mmのところに置き、縫合糸を試験片を通して引き抜くに必要なピーク応力を測定する。例えば、ヒトの角膜の形状および厚みに成形された眼科用途用基質のテストサンプルでは、眼球移植における最初の工程で要求されるように、二本の縫合糸を対称な位置に挿入する。この二本の離れている縫合糸をインストロン引張試験機等の適切な装置で約10mm/分で引張る。基質が破断したときの強度、破壊時の伸び、および弾性率を計算する[例えば、Zeng et al., J.Biomech., 34: 533-537(2001)]。当業者にとっては理解されるように、これらの外科用途用生合成基質は、哺乳類の組織と同じ強度(すなわち、同じ抗引裂性)を持つ必要はない。このような用途における基質の強度を決めるファクターは、慎重かつ熟練した外科医によって所定の場所に縫合され得るか否かである。
【0087】
要望に応じて、生合成ヒドロゲル基質のLCSTは標準的技術を用いて測定することができる。例えば、LCSTは、基質の試験片を約0.2℃/分で加熱しながら曇り点を目視で観測することで測定可能である(例えばH. Uludag, et al., J.Appl.Polym.Sci. 75: 583-592(2000))。
【0088】
生合成基質の透過性は、透過細胞および/または原子間力顕微鏡を用いるPBS透過性評価等の標準的技術を利用して、基質のグルコース透過率および/または平均ポアサイズを評価することに測定可能である。本発明の一実施の形態によれば、生合成基質は、約90nmから500nmの平均ポアサイズを有する。他の実施の形態では、生合成基質は、約100nmから300nmの平均ポアサイズを有する。
【0089】
眼科用途用基質については、光学透過性および光散乱も、透過性および散乱を測定する特注の装置を利用して測定可能である[例えば、Priest and Munger, Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.39: S352(1998)]。
【0090】
3.2 生体外試験
容易に理解できるように、生合成基質は、生体内使用に適するように、細胞障害性とはならず生体適合性であるべきである。生合成基質の細胞障害性は標準的技術を用いて評価可能である。標準的技術としては、突然変異誘発性を検査するエイムス検定、基質の哺乳類細胞系における遺伝子突然変異誘発性を検査するマウスリンパ腫検定、例えば基質によって誘発されたDNA再配列または損傷を検査するCHO細胞(Chinese Hamster Ovary cells)を用いた生体外染色体異常検定等がある。他の検定法としては、基質に誘発された染色腕間の交換を判定する姉妹染色分体検定、染色体または縮瞳性紡錘の損傷を判定する生体外マウス小核検定等がある。これらおよび他の標準的検査の手順は公知であり、例えば、OECD Guidelines for the Testing of Chemicals およびISOによって開発された手順がある。
【0091】
基質の細胞成長支持性も、標準的技術を用いて生体外で検定可能である。例えば、ヒト上皮細胞等の適当な細胞系からの細胞を、直接基質上にまたは基質周囲の適当な材料上に接種する。適切な細胞培地で適当時間成長させたのち、基質の共焦点顕微鏡検査と組織学的検査を行い、細胞が基質上でおよび/または基質内に成長しているか判定する。
【0092】
基質の神経細胞イングロース支持性も生体外で検定可能である。例えば、背根神経節等の神経源を基質周囲の適当な材料内にまたは直接基質内に埋め込む。適切な材料としては、例えば軟質コラーゲン系ゲルが挙げられる。適当な細胞系からの細胞を、直接基質上にまたは基質周囲の適当な材料上に接種し、基質を適切な培地で適当時間培養する。基質を直接および/または神経特定マーカーを用いて検査し、例えば、神経特定蛍光マーカーと共焦点顕微鏡検査を用いる免疫蛍光法により、基質の神経イングロース支持性が示される。
【0093】
基質の細胞成長支持性の検定実験において、成長補助剤を培地もしくは基質、または両方に添加可能である。使用される成長補助剤は検定される細胞により異なるが、当業者にとっては容易に判定可能である。神経細胞に好適な補助剤は、例えば、ラミニン、レチニル酢酸、レチノイン酸、神経細胞用神経成長因子等である。
【0094】
3.3 生体内試験
生合成基質の生体適合性および生体内細胞成長支持性を検定するために、基質を適当な動物モデル内に移植し、細胞成長の判定とともに、免疫原性、炎症、解放性および分解性を検討することができる。適切な動物をコントロールとして検定に用いてもよい。適切なコントロールとしては、例えば、手術されていない動物、ドナー動物から同等ディメンションの同種移植を受けた動物および/または標準受容インプラント材の同等ディメンションの移植を受けた動物等が挙げられる。
【0095】
移植後の種々の段階で、生検体を取り出しインプラントの表面および/または内部への細胞成長を検定する。組織学的検査および免疫組織化学技術を用いて、神経イングロースが起こったどうか、およびインプラント側に炎症性または免疫性細胞が存在するかどうかを判定することができる。例えば、公知である種々の細胞特定染色を用いて、存在する細胞の種類を検定可能である。種々の細胞特定抗体、例えば神経細胞の有無を示す抗ニューロフィラメント抗体も使用することができる。また、標準的技術を用いて神経活動電位を測定すれば、神経が機能しているかどうか検出される。生体内共焦点顕微鏡検査を用いて、手術後の任意の時間において動物内の細胞と神経の成長を観測可能である。適宜、公知の技術例えば触覚計を用いて触覚感度を測定できる。触覚感度の回復は機能神経の再生を示す。
【0096】
4.応用
本発明は、頑強で生体適合性があり細胞障害性はなく、従って生体内で組織再生を可能にする足場としての使用に好適な生合成基質を提供する。例えば、生合成基質は、損傷または切除された組織を交換するために患者に移植され、組織シール材または接着剤として、皮膚代用材もしくは角膜代用材として、または角膜ベニヤとして損傷部を保護するために用いることができる。移植に先立ち基質を適当な形状に成形可能である。例えば、損傷または切除された組織により生じた間隙を満たすように、予め形成することができる。一方、インプラントとして用いる場合、基質の成分を損傷組織に注入し生理温度でポリマーを架橋およびゲル化させることにより、基質を原位置で形成することもできる。
【0097】
本発明の一実施の形態においては、基質は組織光学用途に適する形状に予め形成される。他の実施の形態においては、基質は全層人工角膜として、または角質ベニヤに適する部分層基質として予め形成される。
【0098】
生合成基質は単体で使用でき、原位置での新しい細胞のイングロースを支持する。一方、移植する前に基質に細胞を接種することができ、基質は生体内でこれらの細胞の増殖を支持し、周辺組織の修復および/または交換が行われる。細胞を患者から得てもよく、または細胞は元来同種もしくは異種であることが考えられる。例えば、(組織修復の手術前あるいは手術中に、)患者から細胞を採取し、無菌状態で処理し、多能性細胞、幹細胞、前駆細胞等の特定の細胞種を供給することもできる。これらの細胞を上述のように基質に接種し、その後基質を患者に移植する。
【0099】
基質は外科用インプラントを被覆するためにも使用でき、例えば、ヒドロゲルの合成ポリマー成分の未反応架橋基と組織に存在する一級アミノまたはチオール基との架橋形成により、組織のシール、またはインプラントの組織表面への付着を促進する。例えば、基質の薄膜を角膜の穿孔をパッチするために用いてもよく、または線維症を低下させるためにカテーテルもしくはブレストインプラントに応用してもよい。また、基質を血液または漿膜液漏出を最少にするために人工血管またはステントに応用してもよく、または線維症を最少にしてインプラントの組織表面への固着を促進するために人工パッチまたはメッシュに応用してもよい。
【0100】
また、基質を、患者のある特定領域に生物活性剤を送達するための送達システムとして使用してもよい。生物活性剤は合成ポリマーとバイオポリマーとともに溶液として送達でき、生物活性剤を含有する基質を原位置で形成できる。または、生物活性剤を含有する基質を予め形成し移植してもよい。体内に取り込まれると、生物活性剤は基質から、例えば拡散制御作用によって放出され、または、もし生物活性剤が基質に共有結合しているなら、基質からの酵素切断とその後の拡散制御作用により放出される。あるいは、生物活性剤は基質内から効力を発揮してもよい。
【0101】
本発明の一実施の形態においては、生合成基質は人工角膜として使用される。この用途においては、全層人工角膜として、または角質ベニヤに適する部分層基質として予め形成される。この実施の形態によれば、ヒドロゲルは高光学透過性と低光散乱を有するように設計される。例えば、コラーゲンに架橋した合成p(NiPAAm−co−AAc−co−ASI)ターポリマーまたはp(DMAA−co−ASI)コポリマーから成るヒドロゲルは、高い光学透過性と非常に低い光散乱を有し、55℃まで透明性を維持できる。
【0102】
5.キット
本発明においては、基質を含有するキットについても考察する。キットは基質の既製品の形態をとってもよく、適当な比率(合成ポリマーとバイオポリマー)の基質の生成に必要とされる個別の成分から構成されてもよい。必要に応じて、キットに更に一または複数の生物活性剤を含めるようにしてもよい。生物活性剤は、合成ポリマーに予め付加されているか、または基質の生成中に合成ポリマーに付加可能な個々の成分から成る。更にキットに説明書を付与し、一または複数の適切な溶剤、もしくは動物の体内での最終基質成分の注入または装着に使われる一または複数の機器(シリンジ、ピペット、鉗子、点眼容器または同様の医用承認済伝達媒体等)、またはこれらの使用について指示するようにしてもよい。またキットに、生物学的製品の製造、使用または販売を規制する政府機関により規定された形式の通知書を付与してもよい。この通知書には、ヒトまたは動物に対する応用における製造、使用または販売業者に承認された内容が反映される。
【0103】
ここに述べられた本発明がより理解されるように、実施例を以下に示す。これらの実施例は例示的なものであり、従って、本発明の範囲をいかなる形態においても限定するものではない。
【実施例】
【0104】
略語
RTT:ラットテール腱(Rat-Tail Tendon)
ddHO:蒸留純水(Distilled, De-Ionized Water)
PBS:リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline)
D−PBS:ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco’s Phosphate Buffered Saline)
AIBN:アゾビスイソブチロニトリル(Azobis-isobutyronitrile)
NiPAAm:イソプロピルアクリルアミド(N-isopropylacrylamide)
pNiPPAm:ポリイソプロピルアクリルアミド(poly(N-iso-propylacrylamide))
AAc:アクリル酸(Acrylic Acid)
DMAA:ジメチルアクリルアミド(N,N-dimethylacrylamide)
ASI:アクリロキシスクシンイミド(N-acryloxysuccinimide)
pNIPAAm−co−AAc:NiPAAmとAAcのコポリマー
poly(NiPAAm−co−AAc−co−ASI):NiPAAm、AAc、およ
びASIのターポリマー
poly(DMAA−co−ASI):DMAAとASIのコポリマー
GPC:ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography)
NMR:核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)
YIGSR:アミド終端ペンタペプチド(チロシン−イソロイシン−グリシン−セリン−
アルジニン:Tyrosine-isoleucine-glycine-serine-arginine)
【0105】
以下の実施例に記載されているすべてのゲル基質には、テロコラーゲン(ラットテール腱:RTT)またはアテロコラーゲン(ウシまたはブタ)等の無菌コラーゲンIを使用した。これらコラーゲンは試験室で生成することもできるが、市販品(例えば、Becton Dickinson、ウシおよびブタコラーゲン用に0.02N酢酸および0.012N塩酸において濃度3.0−3.5mg/ml)を用いればより便利である。これらのコラーゲンは4℃で数ヶ月保存できる。またこれらのコラーゲン溶液を慎重に濃縮し、光学的に透明であり、3−30wt/vol%のコラーゲンを含む粘性の高い溶液とし、より頑強な基質の生成に適するようにしてもよい。
【0106】
コラーゲン溶液を生理的条件、すなわち生理食塩水イオン強度およびpH7.2−7.4になるように、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)の存在下で水酸化ナトリウム水溶液を用いて調整する。PBSはアミノ酸および他の栄養素を含まず、−NH含有分子との副反応により架橋反応性が低下することを避けるために使われる。これにより、架橋基の濃度および細胞が毒性となる危険性を最小限することができる。
【0107】
pNiPAAmの粉末ホモポリマーは(例えば、ポリサイエンスから)市販されている。他のすべてのポリマーは下記のように合成された。
【0108】
実施例1:pNiPAAm/コラーゲンヒドロゲルの生成
pNiPAAm/コラーゲンヒドロゲルは、本発明のヒドロゲルの特性と比較する代替ヒドロゲルとして生成された。
【0109】
1wt/vo/%のpNiPAAmホモポリマー蒸留純水溶液を加圧滅菌した。この溶液を、4℃にて滅菌試験管中で滅菌RTTコラーゲン溶液[3.0−3.5mg/ml(w/v)酢酸水溶液(0.02N)]と体積比1:1で、シリンジポンピングにて気泡を形成させず完全に混合した。冷間混合は、コラーゲンの初期ゲル化と原繊維発生を防止するためである。コラーゲン/pNiPAAmをプラスチック皿(未処理培養皿)またはモールド(例えばコンタクトモールド)に注ぎ層流フードの滅菌条件下で風乾し、室温にて少なくとも2、3日放置した。定重量(水分残渣7%程度)まで乾燥したのち、形成された基質をモールドから取り出した。モールドから基質を取り出す際は、室温で滅菌PBS中にモールドを浸漬すると取り出しやすくなる。更に取り出した試料を、生理的な温度、pHおよびイオン強度でこの溶液中に浸漬するとゲルを生じる。続いて、生じたゲルを用いて、成長細胞および生体内動物試験を行った(実施例6および実施例7)。
【0110】
実施例2:合成ターポリマーの生成
コラーゲン反応性ターポリマー、poly(NiPAAm−co−AAc−co−ASI)(図1)を三種類のモノマー:イソプロピルアクリルアミド(NiPAAm、0.85モル)、アクリル酸(AAc、0.10モル)、アクリロキシスクシンイミド(ASI、0.05モル)から合成した。混合モル比は85:10:5(NiPAAm:AAc:ASI)で、フリーラジカル開始剤AIBN(0.007モル/総モノマーモル)と溶媒としてジオキサン(100ml)を用い、AIBNを添加する前に窒素パージした。反応を65℃で24時間進行させた。
【0111】
繰り返し析出を行い精製しホモポリマーの痕跡を取り除いた後、合成されたターポリマー(82%収率)の組成をTHF-DのプロトンNMRで測定したところ、成分比は84.2:9.8:6.0(モル比)であった。水性GPCで測定したターポリマーのMとMはそれぞれ5.6×10Daと9.0×10Daであった。
【0112】
2mg/mlターポリマー/D−PBS溶液は、55℃まで透明であり、高いLCSTと一致した。10mg/mlD−PBS溶液も43℃で若干濁った程度であった。バッチ重合反応で生成されたホモポリマー(NiPAAm反応率はAAcまたはASIの反応率より大きいので)をターポリマーから除去できない場合、およそ32℃またはそれ以上の温度で濁る水溶液とヒドロゲルが生成された。
【0113】
実施例3:生物活性剤を含有する合成ポリマーの生成
実施例2で生成したターポリマー(1.0g)と2.8μgのラミニンペンタペプチド(YIGSR、Novabiochem製)をジメチルホルムアミド中で混合し、ペンタペプチドYIGSR(神経細胞手付加モチーフ)を含有するターポリマーを合成した。室温(21℃)で48時間反応させた後、ポリマー生成物をジエチルエーテルから析出させ真空乾燥した。ペンタペプチドとの反応後に残留しているASI基は、次のコラーゲンとの反応で利用される。このポリマーの構造を図8Aに示す。
【0114】
実施例4:コラーゲン/ターポリマーヒドロゲルの生成
中和した4%のウシアテロコラーゲン(1.2ml)と実施例2で生成したターポリマー[0.34ml(100mg/ml(D−PBS))]とを4℃にてシリンジで混合し(コラーゲン:ターポリマー=1.4:1w/w)、架橋ターポリマー/コラーゲンヒドロゲルを生成した。慎重にシリンジポンピングにて均一にした後、気泡のない一定分量の溶液をプラスチックのコンタクトレンズモールドに注入し、室温(21℃)で24時間放置し、コラーゲンの−NH基とASI基との反応とともに、残留ASI基のAAc基への加水分解をゆっくりと進めた。成形された試験体を次ぎに37℃100%湿度雰囲気で24時間放置し、最終ゲルを生成した。ヒドロゲルは95.4%±0.1%の水分と、2.3%のコラーゲンと1.6%のターポリマーとを含有していた。基質を、150から200μmまたは500から600μmの最終厚みとなるように成形した。得られた各ヒドロゲル基質をPBS溶液中でモールドから取り出し、クロロホルム1%とグリシン0.5%を含むPBS中に浸漬した。この洗浄工程により、架橋反応中に生成されたヒドロキシスクシンイミドを除去し、アクリル酸基にすることにより基質中の未反応ASI基を停止させ、ヒドロゲル基質を滅菌した。あるいは、細胞と接触させる前にすべてのASIを確実に停止させるために、成形したゲルをグリシン水で処理してもよい。
【0115】
コラーゲンとターポリマーから生成されたゲルに残されたスクシンイミド残渣は、洗浄後にはIR検出限界以下であった。
【0116】
実施例5:生物活性剤を含むヒドロゲルの生成
粘性の高い中和した4%ウシコラーゲン(1.2ml)と、ラミニンペンタペプチド(YIGSR)を共有結合的に付加させたターポリマー(実施例3より、0.34ml、100mg/ml)を4℃にて、実施例4に記載の手順に従って十分に攪拌し、YIGSR細胞接着因子を含むコラーゲン/ターポリマーの架橋ヒドロゲルを生成した。
【0117】
何度も洗浄したゲルのYIGSRの含量は、水和ゲルに対し4.3×10−11mole/ml(2.6×10−8g/ml)であった。これは、チロシン(一級アミン含有)基とヨウ素125とをヨードゲン法を用いてラベリングし、標準ガンマカウンター(Beckman、Gamma5500)を用いて放射能を測定することにより定量化した。各水和PBS平衡ヒドロゲルにおける最終総ポリマー濃度は3.4w/v%(コラーゲンおよびYIGSRターポリマーは夫々2.0w/v%および1.4w/v%)であった。
【0118】
実施例6:ヒドロゲル基質の物理特性の比較
コラーゲンサーモゲルは、もろく、崩壊および破断しやすく、また明らかに不透明であった(図8C参照)。コラーゲンサーモゲルは、コラーゲンを中性化し実施例4および5に記載のモールドにキャスティングすることにより生成された。成形したコラーゲンを、最初に21℃で次に37℃で24時間放置することにより、半透明なサーモゲルを自然生成させた(コラーゲン三重へリックスのミクロフィブリルへの会合による)。
【0119】
実施例5の記載に従って生成したヒドロゲルに対するPBS(pH7.4)中のグルコースの浸透率を、一定量の透過水を周期的に取り除き、アデノシン三リン酸を加え、ヘキソキナーゼ酵素を用いてグルコースをグルコース6ーリン酸に転換しながら、浸透セルで測定することにより計算した。後者はデヒドロゲナーゼの存在下でニコチンアミドアデニンジヌクレオチドと反応させ、減量されたジヌクレオチドを溶液中におけるそのUV吸収:340nmで定量化した。(Bondar, R.J.&Mead,D.C.(1974)Clin Chem20,586-90)。PBS溶液に十分浸漬したヒドロゲル表面のトポグラフィーを、「コンタクト」モードで原子間力顕微鏡(Molecular Image Co., USA)で検査した。この方法によるポアサイズを、前述のヒドロゲルのPBS透過性から計算した平均ポア直径と比較した(Bellamkonda, R., Ranieri,J.P.&Aebischer,P.(1995)J Neurosci Res 41,501-9)。ヒドロゲルの屈折率(1.343±0.003)はヒトの目の涙液膜(1.336−1.357)と同等であった(Patel,S., Marshall,J. & Fitzke,F.W., 3rd (1995) J Refract Surg 11, 100-5)。これらから、コラーゲンだけを含む基質に比べ、高い透明性を持つことが示された(図8Bおよび8C)。ヒドロゲルの孔の直径は140から190nm(原子間力顕微鏡およびPBS透過性より)であり、グルコース拡散透過率は2.7×10−6cm/sであった。この透過率は天然間質の値(〜0.7×10−6cm/s、発行されている拡散率(2.4×10−6cm/s)および溶解度(0.3)から計算(McCarey, B.E. & Schmidt, F.H. (1990) Curr Eye Res 9, 1025-39))より高い。
【0120】
実施例4および実施例5の記載に従って生成したヒドロゲルの以下の特性は、ヒドロゲルが架橋していることを示している。
・水に不溶
・縫合用糸と針を用いた外科的操作およびヒト角膜リングへの取付に十分対応する強度
・使用においては比較的柔軟
・ASI/−NH当量比が0.5から1.5の引張試験において、破断強度およびみかけモジュラスが倍増する
【0121】
コラーゲンアミン基の合成ポリマー中のASI基に対する比を変えても、上記のように生成された基質は可視領域で高い光学透過性と低い散乱を示した(図8B、図12、図13)。これに対し、上記のようにコラーゲンから生成されたコラーゲンサーモゲルは低い透過性と高い散乱を示し、不透明な外観と一致した(図8C、図12)。コラーゲン含量が3wt/volまでのサーモゲル基質は脆弱すぎ、縫合糸引抜試験のために装着することができなかった。
【0122】
ヒドロゲルの定量的特徴付けは、ヒト角膜の形状と厚みに成形した試験体を用いて縫合糸引抜測定を行うことにより得られた。この測定は、眼球移植の最初の工程に要求されるように2本の縫合糸を対称な位置に挿入し、離れた位置にあるこれら2本の糸をインストロン引張試験機で10mm/minで引張りながら行われた。これらは、心臓弁の構成成分の評価用に確立されている手順である。使用した縫合糸は10−0ナイロン縫合糸であった。ゲルの破断強度とともに、破壊時の伸びおよび弾性係数を計算する。コラーゲンアミンとASI基が特定の比率のとき、縫合糸引抜測定における破壊弾性率および応力において最大値が得られた(図11)。
【0123】
実施例4および実施例5の記載に従い生成したヒドロゲルは、高い光学透過性と低い光散乱を有し、これらはヒトの角膜と同等である。測定は、透過性および散乱を測定する特注の装置を利用して行われた(Priest and Munger, Invest.Ophthalmol.Vis.Sci. 39: S352-S361(1998))。実施例4のように生成されたヒドロゲルは、ターポリマーの濃度が高いもの(コラーゲンアミンとターポリマーASIの比が高い、図12)を除き、可視領域の後方散乱と光透過性において優れた性能を示した。同様の測定で、サーモゲル(架橋合成ポリマーは含まない)は、非常に低い透過性と高い後方散乱を示した(図12)。実施例5に記載のヒドロゲルも、図12に示されるように、この分析で優れた性能を示した(コラーゲン:ターポリマー=1:1が■(黒四角)で示されている)。
【0124】
これに対して、コラーゲン/pNiPAAmホモポリマーゲルは(実施例1に記載のように、1.0:0.7から1.0:2.0wt/wt)は37℃において不透明であった。また、このヒドロゲルからは、コラーゲンとpNiPAAmの両方がPBSに抽出された(48時間で50wt%以上の消失)。
【0125】
実施例7:種々の生合成基質の生体内試験
実施例1、実施例4および実施例5の記載に従い形成したヒドロゲルを成形し、人工角膜を形成しブタの目に移植した(図2)。
【0126】
生体内角膜移植で、実施例1のゲルからは、ブタの目に移植されてから5、6日後に白色残渣を滲出した。
【0127】
実施例5の記載に従い4%コラーゲンとペンタペプチド/ターポリマーから生成したヒドロゲルは、実施例4の記載に従い生成したコラーゲン/ターポリマーヒドロゲルと同じく、よい生体適合性を示した。前者のヒドロゲルを使用したとき、より早く完全な上皮細胞の増殖と多層の形成が起こった。それに比較して、コラーゲン/ターポリマーヒドロゲルでは多層は形成されず、より遅く、連続性の少ない上皮細胞成長であった。
【0128】
生体内で、コラーゲンとペンタペプチド/ターポリマー(実施例5、最終濃度:コラーゲン2.3wt%;ターポリマー+ペンタペプチド1.6wt%)から生成しブタの目に移植した全層ヒドロゲルの共焦点顕微鏡写真は、上皮細胞が基質上で成長し層別化したことを示した。基底膜が再生され、上皮が安定して定着したことを示すヘミデスモソ−ムが存在していた。わずか3週間後に間質細胞が基質内に展開していることがわかった。移植後3週間以内に、インプラントは触覚性となり(Cochet-Bonnet Aesthesiometer)、機能神経イングロースを示した(図4、図14)。共焦点顕微鏡と組織像を用いて、神経イングロースの直接観察も行った。有害炎症または免疫反応の臨床兆候は、移植後8週間にわたって観察されなかった。図2、図3と図5から図7を参照。
【0129】
より詳細な説明:
図5は移植3週間後のブタ角膜の断面の形態学および生化学評価を示し、(A)はコラーゲンのプクロシリウス染色、(B)は細胞のH&E染色である。図7において、(A)はピクロシリウスレッドで染色された移植3週間後のブタ角膜の断面を示し、間質インプラント界面(矢印)が示されている。このインプラント表面は層別化された上皮によって覆われつつある。(B)は移植後8週間の同様な断面を示す。間質細胞がインプラントに移行しており、インプラントはほぼ組織上皮下で置き換えられている(矢印)。(C)は高倍率の上皮(H&E染色)であり、基底膜(矢印)の再生を示している。(D)は抗VII型コラーゲン抗体で染色された同様の断面であり、基底膜(矢印)に付加しているヘミデスモソームが判別できる。(E)下層の基底膜に付加しているヘミデスモソーム(矢印)が、透過型電子顕微鏡(TEM)によりはっきりとわかる。(F)インプラント内の神経(矢印)を示すブタ角膜のフラットマウントであり、抗ニューロフィラメント抗体で染色してある。
【0130】
図3は、手術後6週間のブタ角膜の全戴共焦点顕微鏡写真であり、インプラントの表面の再生された角膜上皮と基底膜を示している。コラーゲン/ターポリマー複合体内と基底ホスト間質内の生体内神経成長パターン、イングロース間質細胞、が示されている。
【0131】
同様のディメンションのドナーブタ角膜の同種移植を受けた他の6頭の動物の同じ期間の同種移植における最短回復と比較して、触覚感度の回復は早かった(手術後14日以内)(図14)。
【0132】
実施例8:コラーゲン/ターポリマー基質のげっ歯目の脳への沈着
安楽死させた後、各マウスまたはラットの全脳を切除しステロタクシックフレームに載せた。2mlまたは3mlのヒドロゲルを6分から10分かけて各マウスの脳に注入した。ヒドロゲルのコラーゲンとターポリマー/ペンタペプチドの含量は、0.33%コラーゲン/0.23%ターポリマーまたは0.63%コラーゲン/0.44%ターポリマーであった。注入は、前頂から0.3mm、深さ3.0mm、正中線から2.0mmの位置で行われた。ラットには、4〜6mmのヒドロゲルを10分間で各脳に、前頂から0.7〜0.8mm、深さ6mm、正中線から4mmの位置で注入した。ヒドロゲル試験片は、目視観察のためにクーマシーブルーと混合した。
【0133】
結果は、これらの試験片で(図9、図10)、少量のヒドロゲルが脳の層の中に順調に直接かつ正確に送達されていることを示した。これは、非常に少ない体積で特定の場所に細胞または薬剤を送達するデリバリーシステムとして、ヒドロゲルを利用できることを示している。
【0134】
実施例9:生物活性剤を含むヒドロゲルの生体内試験
実施例5の記載に従って作成した滅菌ヒドロゲルを、移植の前に十分PBSで洗浄した。動物用のガイドライン(Association for Research in Vision and Ophthalmology guidelines)に従って、各組織工学(Tissue Engineering :TE)角膜基質(直径5.5mm、厚さ200±50μm)をユカタンミクロピッグ(Yucatan micro-pig, Charles River Wiga, Sulzbach, Germay)の右角膜に移植した(図15Aから図15C参照)。対側の処理されていない角膜はコントロールである。一般的な麻酔を行い、バラカー(Barraquer)トレフィン(Geuder, Heidelberg, Germany)を用い、直径5.0mmの部分層円形切開を行う。ホスト角膜組織を取り除き、移植片とホスト組織間で傷口が十分付着されるように、直径で0.50mm大きいインプラントと交換する。手術後、羊膜を角膜の表面の全体に一週間縫合し、インプラントを所定の位置に固定した。縫合試験体では、インプラントは8本の断続10−0ナイロン縫合糸を用いてホスト組織に縫合された。術後処理はデキサメサゾン(qid)とゲンタマイシン(qid)で21日間行った。ブタの頭数は縫合ありとなしで、各n=3である。
【0135】
各ブタの追跡試験は、手術後7日までは毎日、その後は毎週行った。試験として、角膜が光学的に透明であるか確認するスリットランプ試験、上皮統合性とバリアー性を評価するウラニン染色(Josephson, J.E. & Caffery,B.E (1998) Invest Ophthalmol Vis Sci 29, 1096-9)、角膜が水性体液流を妨害していないか確認する眼圧の測定、および細胞と神経イングロースを評価する生体内共焦点顕微鏡検査(ConfoScan3, Nidek, Erlangen, Germany)を行った。角膜触覚感度は、コケットボネット(Cochet-Bonnet)触覚計(Handaya Co., Tokyo, Japan)を用いて、各角膜の移植領域内の5点(周辺4点、中心1点)で、前述のようにして測定した(Millodot,M. (1984) Ophthalmic Physiol Opt 4, 305-18)。ドナーブタ角膜の同種移植を受けた動物も同様に評価した。
【0136】
免疫組織学および組織病理学的検査用に、組織および作成物を4%PFA/0.1MPBS中で固定した。神経免疫局在性のために、フラットマウントを洗浄液(Brugge, J.S & Erikson, R.L (1977) Nature 269, 346-8)(150mMのNaCl、1mMエチレンジアミン4酢酸、50mMトリス、1%ノニデットP−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウム、0.1%ドデシル硫酸ナトリウム)で透過処理し、4%胎カーフ血清/PBSで非特定染色を遮断し、抗ニューロフィラメント200抗体(Sigma, Oakville, Canada)中で保温した。次にこれらを、FITCまたはCy3共役2級抗体(それぞれSigma; Amersham, Baie D’Urfe, Canada)で保温し、共焦点顕微鏡で観察した。
【0137】
組織学と更に免疫組織学用に、試験片を処理し、パラフィンに埋め込み切断した。組織病理学的検査用に、断面をヘマトキシリンとエオシン(H&E)で染色した(Jumblatt, M.M & Neufeld, A.H. (1983) Invest Ophthalmol Vis Sci 24, 1139-43)。脱パラフィンした断面に上記のような蛍光分析法を行ない、VII型コラーゲン(Sigma, Munich, Germany)、ヘミデスモソームマーカー(Gipson, I.K., Spurr-Michaud, S.J. & Tisdale, A.S. (1988) Dev Biol 126, 253-62)表示を得た。ペルオキシダーゼジアミノベンジジン(DAB)可視化を用いた免疫組織学的染色は、以下のようにして行った:上皮マーカー用にAE1/AE3抗体(Chemicon, Temecula, CA, USA)、間質線維芽細胞用に抗ビメンチン抗体(Roche, Laval, Canada)、活性化間質線維芽細胞(筋線維芽細胞)用に抗平滑筋アクチン抗体、1A4(Cell Marque, Austin, TX)、およびプロコラーゲン1合成用にSP1−DB抗体(DHSB,Iowa,USA)(新規コラーゲン合成部位を局在化するため)。免疫細胞用CD15およびCD45染色(Becton-Dickinson, Oakville, Canada)は一級抗体をそれぞれの二級抗体にプレコンジュゲートするためのAPKペルオキシダーゼキット(DAKO, Mississauga, Canada)と可視化のためのペルオキシダーゼとを用いて行った。抗ビメンチン、抗平滑筋アクチンおよびSP8−D1抗体用に、一級抗体における保温の前に、プロティナーゼーK(2mg/ml)を用いた37℃30分間の前処理により抗原回復を行った。UEA(Ulex Europaeus Aggultinin)レクチン染色を用いて、涙液膜ムチン沈着を視覚化した(Shatos, M.A., Rios, J.D., Tepavcevic, V., Kano, H., Hodges, R. & Dartt, D.A. (2001) Invest Ophthalmol Vis Sci 42, 1455-64)。試験片をビチオンUEA(Sigma)で保温し、次にアビジンーホースラディッシュペルオキシダーゼと反応させDABで視覚化した。透過型電子顕微鏡(TEM)用に、すべての試験片を従来の固着剤、染色剤および注封用樹脂(Karnovsky製OsO4、酢酸ウラニルおよびエポキシ)で処理した。
【0138】
生合成基質またはブタ角膜の移植後、有害な炎症または免疫反応は臨床試験では観察されなかった。インプラントでの上皮細胞イングロースは手術後4日で完了した。一週間で、再生上皮にはウラニン染色は見られず、上皮は無傷でバリアー特性を再び確立したことがわかった。眼圧は、手術前は10−14mmHgで、手術後6週間までの試験期間において10−16mmHgであり、インプラントが眼内の水性体液を遮断していないことがわかった。インプラントは光学的に透明であり(スリットランプ生体顕微鏡検査)、上皮の再層別化はすべての動物において手術後3週間で観察された。手術後3週間の移植間質基質の臨床生体内共焦点顕微鏡検査により、再生された上皮(図15D)、新イングロース神経(図15G)、間質(図15J)、内皮細胞(図15M)および処置していないコントロールの擬態細胞組織(図15F、図15I、図15L、図15O)が示された。同種移植片における上皮および内皮細胞組織(図15E、図15N)はコントロールとほぼ同じであった。出術後3週間では同種移植片では上皮下および間質神経に相当するものは観察されなかった(図15H、図15K)。
【0139】
より詳細には、図15は以下を示す。
【0140】
(A〜C)ユカタンミクロピッグにおける層状角膜移植(Lamellar Keratoplasty:LKP)。(A):トレフィンを用いて角膜に所定深さ(250μm)の円形切開口をあける。既存の角膜層を取り除き、(B)生合成基質インプラント(矢印、厚み250μm)と置き換え、所定の場所に縫合する(C)。縫合を矢印で示す。
【0141】
(D〜O)移植された生合成基質の生体内共焦点顕微鏡検査。(D)はインプラントの表面上の再生された角膜上皮を示す共焦点写真。対応する同種移植コントロール(E)はドナー上皮を含み、手術されていないコントロール(F)は無傷の上皮を持つ。(G):再生された神経(矢印)はインプラントと覆っている再生上皮との界面に存在している。これらは手術していないコントロールの上皮下神経に相当する(I)。しかし、同種移植片(H)には上皮下神経はない。(J〜L):インプラント(J)または同種移植片(K)を有する角膜の下層の間質内とコントロール(L)の対応箇所の間質細胞とより深い枝分かれ神経束(矢印)。(M〜O):インプラント(M)、同種移植片(N)または手術していないコントロール(O)の角膜の上皮は無傷で同様の形態を示している。
【0142】
インプラントを有する角膜の組織学的断面は明確で平滑なインプラント/ホスト組織界面を示した(図16A)。この界面は同種移植片を持つコンとロール角膜(図16B)と類似している。インプラントまたは同種移植片を有する両方の角膜において、再生された上皮は層別化されていた。詳細な検査により、再生された基底膜を覆っている完全に分化した上皮(図16D、図16E)が示された。上皮はAE1/AE3抗体マーカーで陽性に染色され、基底膜はVII型コラーゲンに陽性であり、基底膜/上皮界面でのヘミデスモソームマーカーとなった(図16G、図16H)。TEM観察は、ヘミデスモソームの存在と一定する形態を示した(図16J、図16K)。インプラントにおいて、ニューロフィラメントポジティブイングロース神経は上皮下ネットワークを再確立し始めており、上皮細胞に展開していることが示された(図16M)。しかし同種移植角膜には、上皮下神経はなかった(図16N)。涙液膜は、同種移植片と同じく(図16Q)、インプラントを有する角膜(図16P)でも回復していた。
【0143】
より詳細には、図16は手術後の角膜再生を示す。
【0144】
(A〜F)H&E染色した断面を示す。インプラント(A)と同種移植コントロール(B)には間質細胞が存在し、両者において、細胞は界面もなくホストに一体化しているように見える。(図中、e:上皮(epithelium)、i:インプラント(implant)、g:同種移植片(allograft)、s;間質(stroma))。(C):手術していないコントロール。インプラントの再生上皮(D)と同種移植コントロールのドナー上皮(E)はサイトケラチン鑑別マーカーを表わし、手術していないコントロール(F)でも同様であった。
【0145】
(G〜I):インプラント(G)、同種移植片(H)およびコントロール(I)の上皮/インプラント界面(矢印)での、VII型コラーゲン、ヘミデスモソームマーカー、の免疫局在化。
【0146】
(J〜L):上皮/インプラント界面のTEM。ヘミデスモソームプラーク(矢印)と定着した原線維(矢印)が上皮細胞と下層のインプラント(J)間の生合成基質内に形成されていた。これは同種移植片(K)およびコントロール(L)に示されるように、上皮/間質界面に通常見られる構造に匹敵する。
【0147】
角膜のフラットマウントによれば、インプラント(M)と手術していないコントロール(O)内に神経線維(矢印)はあるが、同種移植片(N)にはない。抗ニューロフィラメント抗体で染色。インプラント(P)と同種移植片(Q)上の上皮表面へのUEA結合(矢印)は、すべてのクラスで涙液膜が復元されたことを示す。手術していないコントロール(R)。
【0148】
免疫組織化学的結果は、インプラント内と同種移植片内の細胞ともプロコラーゲンIを合成していることを示していた。しかし、より強度な染色によると、インプラントに比べて、同種移植片でのプロコラーゲン合成のほうが多かった(図17G、図17H)。インプラントと同種移植片の両方ともビメンチン陽性である間質細胞を有し(図17A、図17B)、線維芽細胞表現型を示していた。また、両者とも平滑筋アクチン染色を示したので、活性化間質線維芽細胞が存在していることがわかった。しかし、インプラントの方が、同種移植片より少ない陽性細胞を示した(図17D、図17E)。
【0149】
より詳細には、図17は手術後6週間でのインプラント/ホスト取込を示す。
【0150】
(A〜C):I型プロコラーゲン染色。陽性染色は移植生合成基質(A)と同種移植コントロール(B)の両基質で観察され、新しいコラーゲン沈着を示している。手術されていないコントロール(C)では新しいコラーゲン合成はない。
【0151】
(D〜F):間質全体にわたるビメンチン染色により、間質線維芽細胞が特定された。移植生合成基質(D)の全体にわたる染色は、細胞の侵入を示す。細胞は、同種移植片内(E)と手術されていないコントロール全体(F)にも見られる。
【0152】
(G〜I):平滑筋アクチン染色は、活性化筋線維芽細胞と、瘢痕の可能性を示している。染色は、生合成基質インプラント(G)ではときおり見られるが、ホスト間質とホストとインプラント間の遷移領域には見られない。同種移植角膜(H)の陽性染色は同種移植片と遷移領域の両方で特定されたが、無傷ホスト間質にはない。(I):手術されていないコントロール。
【0153】
コケットボネット触覚計を用いて、手術前と手術後に3頭のブタの角膜インプラント上の5点で角膜触覚感度を測定した。触覚感度は、手術後は急激な低下を示したが、7日から14日で回復し、手術後21日までには手術前のレベルに戻った(図18:すべてのグループでn=3である。チューキー(Tukey)2−wayを比較として繰り返しANVOA測定により、*P<0.01)。触覚感度は、インプラント上で試験したすべての周辺点と中央点で、同じ速さと同じプラトーで戻った。しかし、ドナー角膜同種移植を受けたコントロール動物では、6週間たっても角膜は麻酔性のままであった(図18)。
【0154】
生体内で6週間回復させたインプラントを赤外分光法(Midac M,FTIR spectrometer, ZnSe beam condenser and diamond cell)で検査したところ、ターポリマーの存在がはっきりと示されていた。
【0155】
実施例10:合成ポリマーの生成
poly(DMAA−co−ASI)コポリマーをモノマー(ジメチルアクリルアミド(DMAA)、アクリロキシスクシンイミド(ASI))の共重合により合成した。混合モル比は95:5(DMAA:ASI)であった。フリーラジカル開始剤AIBNと溶剤としてジオキサンを用い、使用の前に窒素パージし、重合反応を70℃にて24時間行った。
【0156】
繰り返し析出を行い精製しホモポリマーの痕跡を取り除いた後、合成されたポリマー(収量70%)の組成をプロトンNMRで測定したところ、成分比は94.8:5.2(モル比)であった。水性GPCで測定した分子質量(M)は4.3×10であった。GPCで測定した多分散性は、PD(Polydispersity);M/M)=1.70であった。
【0157】
実施例11:コラーゲン/コポリマーヒドロゲルの生成
中和した5%のウシコラーゲン(1.0ml)と実施例9で生成したコポリマー[0.2ml(200mg/ml(D−PBS))]とをシリンジで混合し、架橋コラーゲン/コポリマーヒドロゲルを生成した。慎重にシリンジポンピングで均一にした後、気泡のない一定分量の溶液をプラスチックのコンタクトレンズモールドに注入し、室温で24時間放置し、コラーゲンの−NH基とコポリマーのASI基との反応とともに、残留ASI基のAAc基への加水分解をゆっくりと進めた。
【0158】
成形された試験体を次ぎに37℃100%湿度雰囲気で24時間放置し、最終ゲルを生成した。ゼラチンで、ヒドロゲルは94.8%の水分と、2.9%のコラーゲンと2.3%の合成コポリマーとを含有していた。基質を、150から200μmまたは500から600μmの最終厚みとなるように成形した。得られた各ヒドロゲル基質をPBS溶液中でモールドから取り出し、クロロホルム1%とグリシン0.5%を含むPBS中に浸漬した。この洗浄工程により、架橋反応中に生成されたヒドロキシスクシンイミドを除去し、アクリル酸基にすることにより基質中の未反応ASI基を停止させた。
【0159】
コラーゲンとコポリマーから生成したゲルに残されたスクシンイミド残渣は、洗浄後にはIR検出限界以下であった。
【0160】
実施例12:コラーゲン/コポリマーヒドロゲルの物理的特性
図13Aと図13Bに、可視領域および白色光の後方散乱と光透過性を、実施例10で作成したヒドロゲルのコラーゲンアミンとコポリマーASIの比とともに示す。
【0161】
実施例10のコポリマーとそのヒドロゲルでは、60℃まで曇り点(LCST)は検出されなかった。
【0162】
実施例13:種々のヒドロゲルの生物学的特性
11.1 生体適合性
コラーゲン/poly(DMAA−co−ASI)、コラーゲン/poly(NiPPAm−co−AAc−co−ASI)/ペンタペプチド、3%コラーゲンの各ヒドロゲルを直径12mm厚さ650μmの3枚のディスクにし、PBSに30分間浸漬した。各ディスクを、培養皿用に市販されている12mmメンブレムンインサート上に置き、ゼラチンの薄膜コーティングによりメンブレムに接着した。10分乾燥した後、上皮成長因子を含む血清フリー培地(Keratinocyte Serum-Free Medium (KSFM; Life Technologies, Burlington, Canada))に懸濁させた一万個のヒト角膜上皮細胞(HCEC:Human Corneal Epithelial Cell)をゲルの上部に加えた。細胞を含まないKSFMを下層溜に加えた。5%CO、37℃で、培養を行った。
【0163】
12時間以内で、すべてのサンプルで細胞は基質の表面に固着した。KSFMをインサートと外壁に加え、2日目ごとに培地を変化させた。HCECはゲル上でコンフルエンス(合流状態)まで成長し、コンフルエンスに到達したのは同じ日(5日)であった。インサートと周辺溜の培地を、血清を含む培地(modified SHEM medium (Jumblatt, M. M. & Neufeld, A. H. (1983) Invest Ophthalmol Vis Sci 24, 1193-43))と交換した。更に2日後、培地をインサートから取り出し、下層溜のSHEMの体積を0.5mlまで減らした。更に7日間培養したところ、上皮が層別化し細胞の層が目視で観察された。
【0164】
7日後に、メンブレムを、4%パラホルムアルデヒド/PBS中で4℃にて30分間固定した。試験体を、30%サクロース/PBS中で平衡化させ、その後30%サクロース/PBS:OCT=1:1の混合液でフラッシュフリージングして凍結切片用に調整した。これらを13μmまで凍結切片し、構造はHandE染色で観察した。層別化した上皮の細胞層の数は、核を数え細胞境界を特定することにより求めた。コラーゲンサーモゲルはおよそ2個の細胞の上皮厚を有していた。これは、5から7の細胞層を含有していたヒト角膜上皮に比べて少ない。HCECを培養し、コラーゲン/p(DMAA−co−ASI)とコラーゲン/p(NiPAAm−co−AAc−co−ASI)/ペンタペプチド上に層別化を誘導しようとしたが、上皮の適切な鑑別を示唆する明らかに角質化された外層を含む約4.5細胞層厚の上皮が形成された(図20)。
【0165】
11.2 ヒドロゲルの神経支配
コラーゲン/p(DMAA−co−ASI)、コラーゲン/p(NiPAAm−co−AAc−co−ASI)/ペンタペプチド、3%コラーゲンサーモゲルの各々を直径12mm厚さ650μmのディスクにし、PBSに30分間浸漬した。各ディスクを、6cmの培養皿用に置き、1mmの穴を4つ空けた。穴の1/3をグルタルアルデヒドで架橋した0.3%コラーゲンで満たし、グリシンでクエンチした。10分後に、E8チックの後根神経節を同様のコラーゲン混合液に浸漬し穴の上に置いた。穴の残りの部分を架橋コラーゲンで満たし、37℃にて30分間固定した。培地を、B27とN2を加えたKSFM中で4日間、1nMレチノイン酸で4日間成長させ、神経突起を明視野顕微鏡で観察した。神経支配ディスクを4%パラホルムアルデヒド/PBSで室温にて30分間固定し、NF200免疫活性染色し、免疫蛍光法で可視化した。ポリマーディスクの表面と中心で局在化が観察された。コラーゲンサーモゲルの表面にいくつかの神経突起が見られたが、サーモゲルの中に突出しているものは見られなかった。ヒドロゲルでは、基質内に突出している神経突起が見られた。同様に、両方のヒドロゲルで、基質の表面に広範囲な神経突起が見られ、コラーゲンサーモゲルにおけるものよりよい表面神経突起を示していた(図19;Aはコラーゲンサーモゲル。Bはコラーゲン/p(NiPAAm−co−AAc−co−ASI)/ペンタペプチドヒドロゲル。Cはコラーゲン/p(DMAA−co−ASI)ヒドロゲル。)左のコラムは神経ニューロフィラメントマーカーNF200染色したポリマーの中間の免疫蛍光法可視化を示す。中間のコラムは節源から突出した神経突起を有するポリマーの表面の明視野図を示す。右のコラムはNF200免疫活性染色したポリマーの同じ表面図の免疫蛍光法可視化を表わす。矢印はポリマーの中間に突出した神経突起を示す。無傷ヒト角膜は、上皮下表面と深い神経を示しており、これらの基質が両方とも神経に対する生体適合性を持ち角膜間質に匹敵することを示唆している。
【0166】
以上本発明について説明したが、発明が種々の形態において変更されうるのは明らかである。このような変更は、本発明の精神と範囲から逸脱しているとされるべきではなく、当業者にとっては明らかなように、これらすべての改良は、本発明のクレームの範囲に包含されることを意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0167】
【図1】N−イソプロピルアクリルアミド(NiPAAm)と、アクリル酸(AAc)と、N−アクリロキシスクシンイミド(ASI)から成る本発明の一実施の形態に係るターポリマーの一般構造式を示す図
【図2】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成された人工角膜のブタへの移植の臨床結果を示す写真
【図3(1)】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の手術後6週間の生体内共焦点顕微鏡検査の結果を示す写真
【図3(2)】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の手術後6週間の生体内共焦点顕微鏡検査の結果を示す写真
【図4】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の角膜感度生体内試験を示す図
【図5】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の形態学的および生化学的評価結果示す写真
【図6】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の形態学的および生化学的評価結果示す写真
【図7】本発明の一実施の形態に係る生合成基質から生成しブタに移植した人工角膜の形態学的および生化学的評価結果示す写真
【図8】(A)本発明の一実施の形態に係る架橋生物活性剤を含むターポリマーの構造式を示す図、(B)架橋コラーゲンと(A)に示すターポリマーとから成る角膜足場を示す写真、(C)サーモゲルコラーゲンのみから成る角膜足場を示す写真
【図9】本発明の一実施の形態に係るコラーゲンとターポリマー/生物活性剤とを含有するヒドロゲルのマウスとラットの脳への送達結果を示す写真
【図10】本発明の一実施の形態に係るコラーゲンとターポリマー/生物活性剤とを含有するヒドロゲルのマウスとラットの脳への送達結果を示す写真
【図11】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲル基質のN−アクリロキシスクシンイミドとコラーゲンアミン基との濃度比に対する縫合糸引抜測定による弾性率(A)と破壊応力(B)を示すグラフ
【図12】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲル基質のN−アクリロキシスクシンイミドとコラーゲンアミン基との濃度比に対する可視領域光透過性(A)と後方散乱(B)を示すグラフ
【図13】本発明の他の実施の形態に係るヒドロゲル基質のN−アクリロキシスクシンイミドとコラーゲンアミン基との濃度比に対する可視領域光透過性(A)と後方散乱(B)を示すグラフ
【図14】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲルから成るブタ角膜インプラントの触覚感度の復元を示す図
【図15】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲルから成るインプラントのブタにおける層状角膜移植の角膜移植手順と移植6週間のインプラントを示す生体内共焦点顕微鏡写真(D〜F;Bar=25μm、G〜O;Bar=15μm)
【図16】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲルから成る角膜インプラントを受けたブタにおける手術後の角膜再生を示す写真(A〜F;Bar=100μm、G〜I;Bar=40μm、J〜L;Bar=200nm、M〜O;Bar=20μm、P〜R;Bar=30μm)
【図17】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲルから成る角膜インプラントを受けたブタにおける手術後6週間におけるインプラント/ホスト取込を示す写真(すべてにおいてBar=100μm)
【図18】本発明の一実施の形態に係るヒドロゲルから成る角膜インプラントを受けたブタにおける角膜触覚感度を示すグラフ
【図19】種々のヒドロゲル基質における神経支配適合性試験の結果を示す写真
【図20】種々のヒドロゲルにおける上皮細胞成長と層別化を示す図、(A)ヒドロゲルにおける上皮成長の低倍率の写真(インセットは高倍率)、(B)ヒドロゲル上の内皮成長の細胞厚の測定を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生合成基質を含む眼用インプラントであって、
前記生合成基質は、水性溶媒と、合成ポリマーに架橋したバイオポリマーとから成る、眼用インプラント。
【請求項2】
前記生合成基質は、前記インプラント上の細胞成長を支持する、請求項1記載のインプラント。
【請求項3】
前記インプラントは、角膜上皮と角膜間質の間に配置するように構成される、請求項1または請求項2記載のインプラント。
【請求項4】
前記インプラントは、角膜ベニアである、請求項1または請求項2記載のインプラント。
【請求項5】
前記インプラントは、コンタクトレンズとして形成される、請求項1または請求項2記載のインプラント。
【請求項6】
前記バイオポリマーは、ペンダント架橋可能部により前記合成ポリマーに架橋する、請求項1から請求項5のいずれかに記載のインプラント。
【請求項7】
前記合成ポリマーは、アクリルアミド誘導モノマーから誘導され、前記バイオポリマーは、プロティン成分を含む、請求項1から請求項6のいずれかに記載のインプラント。
【請求項8】
前記合成アクリルアミド誘導モノマーは、ポリN−イソプロピルアクリルアミド成分を含む、請求項7記載のインプラント。
【請求項9】
前記プロティン成分は、コラーゲン成分を含む、請求項7記載のインプラント。
【請求項10】
前記インプラントは、ヒドロゲルである、請求項1から請求項9のいずれかに記載のインプラント。
【請求項11】
生理的条件において各ポリマーが実質的に前記インプラントから抽出されないように、前記バイオポリマーは前記合成ポリマーに架橋する、請求項10記載のインプラント。
【請求項12】
前記インプラント上または内部に生物活性剤を更に含む、請求項1から請求項11のいずれかに記載のインプラント。
【請求項13】
前記インプラントは、角膜インプラントである、請求項1記載のインプラント。
【請求項14】
前記インプラントは、人工角膜である、請求項13記載のインプラント。
【請求項15】
前記合成ポリマーは、アクリルアミド誘導コモノマーと、親水性コモノマーと、カルボン酸コノマーとから誘導される、請求項1、請求項13または請求項14記載のインプラント。
【請求項16】
前記バイオポリマーは、プロティンまたは炭水化物から成る、請求項1、請求項13、請求項14または請求項15記載のインプラント。
【請求項17】
前記アクリルアミド誘導コモノマーは、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)成分を含む、請求項15または請求項16記載のインプラント。
【請求項18】
前記インプラントは、生物活性剤をさらに含み、かつ前記生物活性剤は、神経のイングロースを支持する前記生合成基質に架橋している、請求項13記載のインプラント。
【請求項19】
前記生物活性剤は、神経細胞付加モチーフを有するプロティンから成る、請求項18記載のインプラント。
【請求項20】
前記生物活性剤は、ペプチドから成る、請求項18または請求項19記載のインプラント。
【請求項21】
前記ペプチドは、アミノ酸配列YIGSRを含む、請求項20記載のインプラント。
【請求項22】
前記インプラントは、ヒドロゲルである、請求項18から請求項21のいずれかに記載のインプラント。
【請求項23】
前記ヒドロゲルは、ヒトの目の涙液膜の屈折率と同様の範囲内の屈折率を有する、請求項22記載のインプラント。
【請求項24】
前記ハイドロゲルは、約140nmから約190nmの範囲の直径を有する複数の孔を含む、請求項22または請求項23記載のインプラント。
【請求項25】
前記ハイドロゲルは、ヒトの目の天然間質のグルコース拡散浸透性よりも大きなグルコース拡散浸透性を有する、請求項22から請求項24のいずれかに記載のインプラント。
【請求項26】
前記ハイドロゲルは、光学的に透明である、請求項22から請求項25のいずれかに記載のインプラント。
【請求項27】
前記生合成基質に配置された生細胞を更に含む、請求項18から請求項26のいずれかに記載のインプラント。
【請求項28】
前記生細胞は、眼細胞を含む、請求項27記載のインプラント。
【請求項29】
前記生合成基質に備えられた補強部材を更に含む、請求項18から請求項28のいずれかに記載のインプラント。
【請求項30】
前記生物活性剤は、前記インプラントが目に配置された後前記インプラントの触覚感度を高めるのに効果的な含量で含まれる、請求項18から請求項29のいずれかに記載のインプラント。

【図1】
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【図3(1)】
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【図4】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図18】
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【図2】
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【図3(2)】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2008−93451(P2008−93451A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−273082(P2007−273082)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【分割の表示】特願2004−526538(P2004−526538)の分割
【原出願日】平成15年8月11日(2003.8.11)
【出願人】(505050555)オタワ ヘルス リサーチ インスティテュート (11)
【出願人】(506175792)ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ (9)
【Fターム(参考)】