説明

眼用レンズ材料の重合方法

【課題】
対流加熱重合方法や光重合方法のかわりに、遠赤外線照射部から電磁波を放射させ、空気・ガスなどを介さず、分子を振動させ摩擦熱を発生させ、表面だけでなく内部にも重合に必要なエネルギーを高い効率で加え、硬化を均等にかつ短時間に進行させ、歪が低減した眼用レンズを製造することができる重合方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
熱硬化性樹脂からなる眼用レンズを硬化させる重合装置において、対流加熱重合方法や光重合方法以外の遠赤外線照射部から照射される電磁波で重合する。遠赤外線照射部が、遠赤外線を照射するセラミックヒータまたは遠赤外線発光ダイオードで構成される。遠赤外線照射部から照射される遠赤外線が1〜20μmの波長を含む。遠赤外線照射手段と対流加熱手段を併用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼用レンズの製造工程の中の、眼用レンズ材料を重合させる方法に関するものである。眼用レンズとは、コンタクトレンズや眼内レンズなどを言う。
【背景技術】
【0002】
従来、モールド製法における眼用レンズの重合方法は、成形型内に充填されている眼 用レンズ材料を重合開始剤のもと、恒温乾燥機等の対流加熱装置を使う対流加熱重合方法や、紫外線照射装置等を使う光重合方法が一般的であった。一般的に成形型の材質としては、主にポリプロピレン、ポリエチレンポリスチレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等、射出成形可能な合成樹脂が広く使用されている。
なお、特許文献1〜4には、恒温乾燥機等の対流加熱装置を使う対流加熱重合方法が、特許文献5には紫外線照射装置等を使う光重合方法がそれぞれ開示されている。
【0003】
しかしながら、従来の恒温乾燥機等の対流加熱装置を使う対流加熱重合の場合、熱エネルギー伝達は気体の対流と伝導によるため、成形型内部の眼用レンズ材料が乾燥機内の温度に到達するまでに時間を要し、内部まで加熱しようとすると、成形型及び眼用レンズ材料の内外温度差から、成形型や眼用レンズに歪みが生じるため、得られる眼用レンズの品質が安定しない欠点があった。
また、恒温乾燥機内において温風が均一に攪拌される場所とそうでない場所とで温度差が生じ、眼用レンズの品質が安定しない欠点があった。
また、気体を用いるため、乾燥機の蓋を閉めて乾燥機内を密閉にする必要があり、蓋を空けておくと熱せられた気体が乾燥機外へ流出して乾燥機内の温度が急速に低下し、再び重合可能な温度になるまでには数分から数十分必要となり作業時間にロスが生じる欠点があった。また、紫外線照射装置を使う光重合方法の場合、紫外線を十分透過する透明性のある成形型材料を使わなければならない欠点があった。
【特許文献1】特開2002−6269号公報
【特許文献2】特開2005−138416号公報
【特許文献3】特開平8−25378号公報
【特許文献4】特開2004−299222号公報
【特許文献5】特開平8−52818号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の対流加熱重合方法と光重合方法の欠点を解決することを目的として
いる。すなわち、短時間で歪のない眼用レンズを得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、対流加熱重合方法や光重合方法のかわりに、遠赤外線照射部から電磁波を放射させ、空気・ガスなどを介さず、分子を振動させ摩擦熱を発生させ、表面だけでなく内部にも重合に必要なエネルギーを高い効率で加え、硬化を均等にかつ短時間に進行させ、歪が低減した眼用レンズを製造することを特徴とするものである。
【0006】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、熱硬化性樹脂からなる眼用レンズを硬化させる重合方法において、遠赤外線照射部から照射される、光以外及び熱以外の電磁波を用いて重合することを特徴とする眼用レンズ材料の重合方法である。ここで光以外とは可視光線以外をいう。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1において、前記遠赤外線照射部が、遠赤外線を放射するセラミックヒータおよび/または遠赤外線発光ダイオードで構成されることを特徴とする請求項1に記載の眼用レンズ材料の重合方法である。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1において前記遠赤外線照射部から照射される遠赤外線が1〜20μmの波長を含むことを特徴とする眼用レンズ材料の重合方法である。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1おいて、前記遠赤外線照射手段に加え、対流加熱手段を併用することを特徴とする眼用レンズ材料の重合方法である。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、空気・ガスなどを介さず、分子を振動させ摩擦熱を発生させ、表面だけでなく内部にも重合に必要なエネルギーを高い効率で加え、均等な硬化が可能な重合方法を提供できる。また、従来の恒温乾燥機等の対流加熱装置を使う対流加熱重合の場合では、成形型内部の眼用レンズ材料が乾燥機内の温度に到達するまでに時間を要したが、本発明の方法であれば短時間で高品質な眼用レンズを得ることができ、生産性の向上につながる。
【0011】
請求項2の発明によれば、遠赤外線照射部が、セラミックヒータおよび/または遠赤外線を放射する発光ダイオードで構成される遠赤外線照射式重合方法を提供できる。この方法によれば、空気・ガスなどを介さずに、眼用レンズ材料内部に必要なエネルギーを効率よく伝達できるため、装置を密閉状態にする必要がなく、また遠赤外線照射部にある赤外線ランプ等に必要な冷却装置および反射板を必要とせず、構造が簡素でコンパクトな装置となり、該方法の自動化を容易に実現することができる。また光による重合方法で使用する紫外線ランプ等と比較すると寿命が長く、交換のためのメンテナンス頻度が少なくてすみ、一方でセラミックヒータや発光ダイオードは比較的安価で入手可能であるため生産コストの低減につながる。
【0012】
請求項3の発明によれば、遠赤外線照射部から照射される遠赤外線が1〜20μmの波長を含む重合方法を提供できる。遠赤外線の波長は、一般に1〜1000μm程度であるが、そのうち眼用レンズ材料の吸収スペクトルは1〜20μmが最も高く、この波長範囲を含む遠赤外線を照射することで、遠赤外線が成形型内の眼用レンズ材料に選択的に吸収され、搬送手段には吸収され難いので熱損失が少なく効率が良好となる。また、搬送手段から成形型への伝導が少ないため成形型が歪むのを防ぐことができ、高品質な眼用レンズを得ることができる。波長が1μm未満の近赤外線領域と20μmを超える遠赤外線領域では、成形型内の眼用レンズ材料へのエネルギー吸収度合が低いため表面からの硬化となり、高品質な眼用レンズを得ることができない。
【0013】
請求項4の発明によれば、前記遠赤外線照射手段に加え、対流加熱手段を併用した、重合方法を提供できる。この方法によれば、前項と同様、眼用レンズのレンズ材料、レンズデザイン、直径、内面曲率半径、外面曲率半径、レンズ中心厚み等が異なる多種類の規格の眼用レンズを効率的かつ均一に重合させることを目的として、遠赤外線照射手段のみ使用したり、遠赤外線照射手段と対流加熱手段の両方を使用したり、また対流加熱手段のみを使用して従来の恒温乾燥機と同様な重合方法が可能である。
【0014】
他の発明によれば、前記遠赤外線照射部が、搬送面に対して上側および/または下側に設置されている重合方法を提供できる。この方法によれば、眼用レンズのレンズ材料、レンズデザイン、直径、内面曲率半径、外面曲率半径、レンズ中心厚み等が異なる多種類の規格の眼用レンズを効率的かつ均一に重合させることを目的として、成形型の片面のみを集中的に加熱したり、成形型の上面と下面とに温度差を持たせて重合することができる。なお、搬送面に対して上側のみでもよく、下側のみでもよく、横側あるいは上面と下面の両方などそれら併用して設置してもかまわない。

【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【実施例1】
【0016】
遠赤外線照射手段4に使用されているセラミックヒータは、眼用レンズ材料1が吸収し易い1〜20μmの波長範囲を照射可能なように設定されている。
遠赤外線照射手段4から照射された遠赤外線は成形型2内の眼用レンズ材料1に集中的に吸収される。硬化炉3の搬送手段7はステンレス等の金属製で構成されており遠赤外線は吸収され難いので熱損失が少なく、眼用レンズ材料1への伝導効率が良好となる。また、搬送手段7は遠赤外線を吸収し難い性質のため発熱が少なく、このため成形型2への熱伝導で歪むのを防ぐことができる。
【0017】
眼用レンズ材料1が入れられた成形型2を搬送手段7上に並べ、制御手段6にて炉内温度を90℃、重合時間を30分に設定する。制御手段6にて装置を起動させると、図示しない駆動手段によって搬送手段7が硬化炉3内に送り込まれる。
【0018】
本実施例では、遠赤外線照射手段4は硬化炉3内部において投入部8から排出部9まで、搬送手段7の上部に長さ方向の上側に直列に設置されている。遠赤外線照射手段4から成形型2までの垂直距離は50mm〜200mmで調整可能な機構で設置されている。
【0019】
搬送手段7上の眼用レンズ材料1が入れられた成形型2が遠赤外線照射手段4の位置へ搬送されると遠赤外線が照射される。照射時間は制御手段6で設定を行う。
【0020】
30分経過した後、硬化炉3の排出部9から重合された眼用レンズ1が排出される。
【0021】
この方法で得られた眼用レンズは、成形型2からの脱型時にレンズ破損もなく、エッジ及び表面は滑らかであり、歪みが低減されていた。従来の恒温乾燥機を使った対流加熱重合では、成形型2内部の眼用レンズ材料1が乾燥機内の温度に到達するまでに時間を要するため、炉内温度は90℃、重合時間は60分必要であったのに対し、本実施例では重合時間を30分に短縮しても、品質レベルの高い眼用レンズを製造することができた。
【実施例2】
【0022】
眼用レンズ材料1が入れられた成形型2を搬送手段7上に並べ、制御手段6にて炉内温度を80℃、重合時間を40分に設定する。制御手段6にて装置を起動させると、図示しない駆動手段によって搬送手段7が硬化炉3内に送り込まれる。
【0023】
本実施例では、遠赤外線照射手段4は硬化炉3内部において投入部8から排出部9まで、搬送手段7の上部に直列に設置されている。
【0024】
搬送手段7上の眼用レンズ材料1が入れられた成形型2が遠赤外線照射手段4の位置へ搬送されると遠赤外線が照射される。
【0025】
40分経過した後、硬化炉3の排出部9から重合された眼用レンズが排出される。
【0026】
この方法で得られた眼用レンズは、成形型からの脱型時にレンズ破損もなく、エッジ及び表面は滑らかであり、歪みが低減されていた。従来の恒温乾燥機を使った対流加熱重合では、炉内温度90℃、硬化時間は60分必要であったのに対し、本実施例では炉内温度を90℃から80℃に下げ、硬化時間は60分から40分に短縮しても品質レベルの高い眼用レンズを製造することが可能である。また、炉内温度を下げることができるため、従来よりも耐熱性の低い成形型材料を使った製造が可能となる。
【実施例3】
【0027】
本実施例では、遠赤外線照射手段4は硬化炉3内部において投入部8から排出部9まで、搬送手段7に対して上下両面に設置されている。このことにより成形型の上面と下面とに温度差を持たせて製造することができる。
【0028】
この方法で得られた眼用レンズは、成形型2からの脱型時にレンズ破損もなく、エッジ及び表面は滑らかであり、歪みが低減されていた。眼用レンズ材料の組成、レンズデザイン、直径、インナーハイト、内面曲率半径、外面曲率半径、レンズ中心厚み等が異なるものにおいても品質レベルの高い眼用レンズを製造することができる。
【実施例4】
【0029】
硬化炉3の内部には、遠赤外線照射手段4と温風循環のための熱源である対流加熱手段5が設けられている。制御手段6によってそれぞれ別個に制御可能とする。これにより、硬化炉3内の雰囲気温度との間に差を持たせた条件での重合が可能となる。
なお、遠赤外線照射手段4のみ使用することが可能である。また、遠赤外線照射手段4と対流加熱手段5の両方を使用することが可能である。実施例4では遠赤外線照射手段4と対流加熱手段5の両方を使用した。
【0030】
硬化炉3には、図示しない駆動手段によって開閉作動される仕切り扉11が設けられている。仕切り扉11は硬化炉3の投入部8と排出部9を閉鎖し、対流加熱手段5を使用した場合に発生される温風が外部へ流出するのと、外気が装置内へ流入をするのを防止するものである。
【0031】
硬化炉3の内部には、投入部8の近傍位置に、硬化炉3内の温度を検出する温度検出センサ7が取り付けられており、制御手段6にフィードバックして対流加熱手段5の温度をコントロールする。
【0032】
この方法で得られた眼用レンズは、成形型2からの脱型時にレンズ破損もなく、エッジ及び表面は滑らかであり、歪みが低減されていた。眼用レンズ材料の組成、レンズデザイン、直径、インナーハイト、内面曲率半径、外面曲率半径、レンズ中心厚み等が異なるものにおいても品質レベルの高い眼用レンズを製造することができる。
【実施例5】
【0033】
遠赤外線照射手段には、眼用レンズ材料1が吸収し易い1〜20μmの波長範囲を照射可能な発光ダイオード13が使用されている。発光ダイオード13を使用した場合、実施例1から実施例4までのような大きな搬送手段は必要なく、コンパクトな構造が可能となる。
【0034】
眼用レンズ材料1が入れられた成形型2を土台12上に並べ、所定の電流を供給する発光ダイオード制御手段14にて照射時間を30分に設定する。
【0035】
本実施例では、発光ダイオード13は、土台12の上部に直列に設置されている。
【0036】
照射部12上の眼用レンズ材料1が入れられた成形型2に発光ダイオード13より遠赤外線が照射される。
【0037】
30分経過した後、土台12から重合された眼用レンズを取り出す。
【0038】
この方法は空気・ガスなどを介さず、眼用レンズ材料内部に必要なエネルギーを効率よく伝達できる。また装置を密閉状態にする必要がなく、また赤外線ランプ等に必要な冷却装置および反射板を必要とせず、遠赤外線発光ダイオードと電源装置のみで良いため、構造が簡素でコンパクトな装置となり、該方法の自動化を容易に実現することができる。また発光ダイオードの寿命は半永久的であり、ランプのように交換のためのメンテナンスの必要がなくてすみ、生産コストの低減につながる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の方法をコンベア炉式のものに適用した側面図である。
【図2】本発明の遠赤外線照射手段及び成形型において、図1における遠赤外線照射部がセラミックヒーターであり、搬送面に対して上側に設置されている例を示す断面図である。
【図3】本発明の遠赤外線照射手段及び成形型において、遠赤外線照射部がセラミックヒーターであり、搬送面に対して上側および下側に設置されている例を示す断面図である。
【図4】本発明の方法を遠赤発光ダイオード式のものに適用した上面概略図である。
【図5】本発明の方法を遠赤発光ダイオード式のものに適用した側面概略図である。
【図6】本発明の遠赤外線照射手段及び成形型において、図4における遠赤外線照射部が発光ダイオードであり、搬送面に対して下側に設置されている例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1・・・眼用レンズ材料 2・・・成形型 3・・・硬化炉
4・・・遠赤外線照射手段
5・・・対流加熱手段 6・・・制御手段
7・・・搬送手段 8・・・投入部
9・・・排出部
11・・・仕切り扉 12・・・土台 13・・・発光ダイオード
14・・・発光ダイオード制御手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱硬化性樹脂からなる眼用レンズを硬化させる重合方法において、遠赤外線照射部から照射される、光以外及び熱以外の電磁波を用いて重合することを特徴とする眼用レンズ材料の重合方法。
【請求項2】
前記遠赤外線照射部が、遠赤外線を放射するセラミックヒータおよび/または遠赤外線発光ダイオードで構成されることを特徴とする請求項1に記載の眼用レンズ材料の重合方法。
【請求項3】
前記遠赤外線照射部から照射される遠赤外線が1〜20μmの波長を含むこ
とを特徴とする請求項1に記載の眼用レンズ材料の重合方法。
【請求項4】
前記遠赤外線照射手段に加え、対流加熱手段を併用することを特徴とする、請求項1記載の眼用レンズ材料の重合方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−279706(P2008−279706A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−127517(P2007−127517)
【出願日】平成19年5月14日(2007.5.14)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】