説明

眼症状を処置するための高粘度高分子組成物

ヒトの眼の硝子体への注射に有用な抗血管新生組成物およびかかる組成物を用いる方法を提供する。かかる組成物は、治療上有効量にて存在するMAAC溶液または粒子、粘性誘導成分および水性担体成分を含む。本組成物は約25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10 cpsまたは約100 cpsの粘度を有する。好ましい一実施態様において、25℃における粘度は約80,000 cps〜約300,000 cpsの範囲である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
Patrick M. Hughes、Gerald W. DeVries、Robert T. Lyons、John T. TrogdenおよびScott M. Whitcupによる
【0002】
相互参照
本出願は2007年4月30日出願の米国特許出願11/742,350号の利益を主張する(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【背景技術】
【0003】
本発明は粘性誘導成分および医薬的活性物質を含む眼科的に有用な組成物に関する。好ましい実施形態において、医薬的活性物質は高分子の抗血管新生成分を含み得る。本発明はまた、眼症状、例えば、前眼部症状および後眼部症状を処置するおよび/または予防する方法に関する。好ましい一実施態様において、本発明は、粘性誘導成分および高分子抗血管新生成分を含む眼科的に許容されるゲル、懸濁液、エマルジョンおよび他の液体製剤を含む延長された放出および持続された放出がなされる治療用組成物に関する。
【0004】
医薬組成物(「組成物」と同義)は粘性増強成分とともに少なくとも1の活性成分(例えば高分子抗血管新生「MAA」成分「MAAC」)を含有する製剤である。特定の実施形態において、本組成物は1以上の賦形剤、緩衝剤、担体、安定剤、保存剤および/または増量剤を含有してもよく、患者に投与して所望の効果または結果を達成するのに適している。本明細書に記載の医薬組成物は、様々な種、例えばヒトの患者または対象などにおいて診断、治療、美容および/または研究上の有用性を有し得る。
【0005】
様々な眼症状には、眼または眼の一部分または一領域に影響または関与し、血管新生(新しい血管の形成)によって大規模な程度または軽度と特徴付けられる疾患、軽度の慢性病または症状が含まれる。
【0006】
大まかに説明すると、眼は、眼球および眼球を構成する組織および液体、眼周囲の筋肉(例えば斜筋および直筋)および眼球内のまたは眼球に隣接する視神経の部分を含む。前眼部症状は、前眼(すなわち眼の前方)領域または部位、例えば眼周囲の筋肉、眼瞼または水晶体嚢の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼球組織または液体に影響するまたは関与する疾患、軽度の慢性病または症状である。従って、前眼部症状は、結膜、角膜、結膜、前眼房、虹彩、後眼房(網膜の前方であるが水晶体嚢の後壁の後方)、水晶体または水晶体嚢および血管および前眼領域または部位を血管新生化するまたは神経支配する神経に主に影響するまたは関与する。
【0007】
眼の後区の症状(後眼部症状)は、後眼領域または部位(つまり、水晶体嚢の後壁を通る面の後方の位置)の、例えば、脈絡膜または強膜のそのように位置する部位、硝子体、硝子体腔、網膜、視神経(すなわち視神経乳頭)、および血管および後眼領域または部位(または後区)を血管新生化するまたは神経支配する神経の組織または細胞種に有意に影響するまたは関与する疾患、軽度の慢性病または症状である。
【0008】
よって、後眼部症状には、例えば、黄斑変性症(例えば、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症);脈絡膜新血管新生;急性黄斑視神経網膜症;黄斑浮腫(例えば、嚢胞様黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫);ベーチェット病、網膜障害、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症など);網膜動脈閉塞性疾患;網膜中心静脈閉塞症;ブドウ膜炎(中間部および前部ブドウ膜炎など);網膜剥離;後眼部位または位置に影響する眼外傷;眼のレーザー処置に起因するまたは影響される後眼部症状;光線力学的治療に起因するまたは影響される後眼部症状;光凝固;放射線網膜症;網膜上膜性疾患;網膜静脈分枝閉塞症;前部虚血性視神経症;非網膜症性糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性症および緑内障などの疾患、軽度の慢性病または症状が含まれ得る。緑内障は、治療目標が、網膜細胞または視神経細胞の損傷または損失による視覚の損失を防ぐまたは視覚の損失の発生を減少させること(すなわち神経保護)であり得るので、後眼部症状と考えられ得る。新血管の浸潤性成長は神経組織を混乱させ得るまたは破壊し得る;よって血管新生の阻害も患部神経の保護を提供すると考えられ得る。
【0009】
黄斑浮腫は患者における視覚障害の主な要因であり、限定するものではないが、糖尿病、網膜中心静脈閉塞症(CRVO)および網膜静脈分枝閉塞症(BRVO)を含む多数の病理学的症状と関連し得る。レーザー光凝固術は糖尿病性黄斑浮腫(DME)を有する患者におけるさらなる視覚障害を減少させることができるが、黄斑浮腫によって神経細胞死を経て既に減少していた視覚は、通常レーザー光凝固術を用いてもあまり改善されない。現在、CRVOに関連する黄斑浮腫のためにFDA(米国食品医薬品局(Food and Drug Administration))が承認した処置はない。BRVOに関連する黄斑浮腫については、グリッドレーザー光凝固術は患者の一部に効果的な処置であり得る。
【0010】
糖尿病性黄斑浮腫は、特徴決定された、高分子、例えばリポタンパク質の網膜毛細血管から血管外空間への異常な漏れであり、続いて腫脹による水の血管外空間への流入が起こる。その漏れは、新血管の成長(血管新生)により起こり得る、または悪化し得る。網膜色素上皮(RPE)における異常も、糖尿病性黄斑浮腫を引き起こし得る、または一因となり得る。これらの異常によって脈絡毛細管から増加した液体が網膜へ入り得る、またはこれらの異常は網膜から脈絡毛細管への液体の正常な流出を減少させ得る。血液網膜関門の網膜毛細血管および網膜色素上皮レベルでの崩壊も、密着結合タンパク質の変化に関連し得る、または密着結合タンパク質の変化によって引き起こされ得る。Antcliff R., et al Marshall J., The Pathogenesis Of Edema In Diabetic Maculopathy, Semin Ophthalmol 1999; 14:223-232。
【0011】
静脈閉塞疾患からの黄斑浮腫は、篩板または動静脈交差における血栓形成から起こり得る。これらの変化により、網膜毛細血管透過性の増加およびそれに伴う網膜浮腫の増加が起こり得る。網膜毛細血管透過性の増加およびその後の網膜浮腫の増加は、45 kDの糖タンパク質である血管内皮増殖因子(VEGF)によって部分的に媒介された血液網膜関門の崩壊の結果として起こり得る。VEGFはおそらく密着結合タンパク質、例えばオクルディンおよび閉鎖帯(zonula occluden)のリン酸化を増大させることによって血管透過性を増加させ得ることが知られている。同様に、ヒト非眼疾患状態、例えば腹水症において、VEGFは強力な血管透過性因子(VPF)として特徴づけられた。
【0012】
生化学的に、VEGFは血管新生が起こっている組織における毛細血管数の増加の主な貢献因子であると知られている。VEGFによって刺激するとイン・ビトロにおいてウシ毛細血管内皮細胞は増殖し、管構造の徴候を示すであろう。VEGFの上方制御は運動のための生理学的応答の主な構成要素であり、その血管新生における役割は血管損傷における可能性ある処置であることが疑われる。
【0013】
VEGFは内皮細胞において細胞内シグナルカスケードを引き起こす。VEGFのVEGF受容体-2(VEGFR-2)への結合によって、血管透過性を多様に刺激する因子(上皮一酸化窒素合成酵素;(eNOS)、増殖/生存(bFGF;塩基性繊維芽細胞増殖因子)、遊走(細胞接着分子(ICAM);血管細胞接着分子(VCAM);マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP))の産生および最終的に成熟血管への分化を刺激するチロシンキナーゼシグナルカスケードが開始する。NO(一酸化窒素)を阻害すると血管新生増殖因子の効果が顕著に減少するので、血管シグナルカスケードの一部として、NOは、血管新生反応への主な貢献因子と広く考えられている。
【0014】
正常なヒト網膜はVEGFを少ししか、または全く含有しない;しかしながら、低酸素状態はVEGF産生の上方制御を引き起こす。低酸素誘導性のVEGFの上方制御を特徴とする疾患状態は限定するものではないがCRVOおよびBRVOを含む。この低酸素誘導性のVEGFの上方制御は薬理学的に抑制することができる。Pe'er J. et al., Vascular Endothelial Growth Factor Upregulation In Human Central Retinal Vein Occlusion, OPHTHALMOLOGY 1998;105:412-416。抗VEGF抗体はVEGFが駆動する毛細血管内皮細胞増殖を阻害できることが実証されている。よって、VEGFの効果を減弱することは、静脈閉塞疾患からの黄斑浮腫の処置について理論的根拠を導入することである。
【0015】
さらに、VEGFの過剰発現は、血管新生の刺激に加えて増大した血管透過性を引き起こす。「ウェットな」または滲出性の黄斑変性症において、VEGFは毛細血管の網膜への増殖を引き起こす。血管新生の増加も浮腫を引き起こすので、血液および他の網膜の液体が網膜へ漏れ、視覚の損失の原因となる。黄斑変性症のための新たな処置は、MAAC、例えばVEGF阻害性アプタマー、または他のVEGF阻害性化合物用いて、血管新生についての主要なシグナルカスケードを止め、これによりこれらの症候を防止するというものである。
【0016】
欧州特許出願公開第244 178 A2号明細書(Keller)は、デキサメタゾン、ステロイドおよびヒアルロン酸(HA)の水溶液の硝子体内注射を開示している。Einmahl S. et al, Evaluation Of A Novel Biomaterial In The Suprachoroidal Space Of The Rabbit Eye, INVEST OPHTHAL & VIS SCI 43(5);1533-1539 (2002)では、ポリ(オルトエステル)の脈絡膜上腔への注射を議論しており、Einmahl S. et al, Therapeutic Applications Of Viscous And Injectable poly(Ortho Esters), ADV DRUG DEL REV 53 (2001) 45-73には、フルオロウラシルを含有するポリオルトエステル重合体が硝子体内投与から5日後に顕著に分解することが開示されている。欧州特許出願公開第0244178号明細書には抗生物質または抗炎症性物質を含有する眼内注射用HA組成物が記載されている。Della Valleらの、米国特許第5,166,331号明細書では、眼内液の代用として、および局所眼科薬の担体として用いるためのHAの種々の画分の精製を議論している。
【0017】
眼内用途のための高分子の製剤が知られている。例えば出願番号11/370,301;11/364,687;60/721,600;11/116,698および60/567,423を参照のこと。さらに、眼科用の高粘度ゲル中のチロシンキナーゼ阻害剤の製剤が知られている。例えば米国特許出願番号11/695,527を参照のこと。さらに、眼科用の高粘度ゲル中のステロイドのトリアムシノロンの使用が知られている。例えば米国特許出願番号10/966,764;11/091,977;11/354,415;60/519,237および60/530,062を参照のこと。高粘度ゲル中のチロシンキナーゼ阻害剤の使用に関しては、米国特許出願番号11/695,527を参照のこと。
【発明の概要】
【0018】
発明の概要
一実施態様において、本発明は、例えば、黄斑浮腫、乾燥したおよびウェットな黄斑変性症、特に滲出性黄斑変性症、糖尿病性網膜症および血管新生に関する他の障害および疾患の発症において現れ得るような、眼の血管新生、特に、網膜(斑を含む);脈絡膜、強膜および眼の後区に特徴的な他の物における血管新生を処置するための、眼内(限定するものではないが、硝子体内、結膜下および網膜下)注射または配置に適する生体適合性の粘性担体中に1以上のMAACを含む製剤を提供する。好ましい一実施態様において、担体は、ヒアルロン酸成分、好ましくは少なくとも1の既定の平均分子量のポリヒアルロン酸成分を含む。
【0019】
定義
本明細書において用いる場合、以下に記載の単語または用語は以下の定義を有する。
【0020】
「約」は、そのように特定されたその事項、パラメーターまたは用語が、記載された事項、パラメーターまたは用語の値の上または下に10パーセント足したまたは引いた範囲を包含することを意味する。
【0021】
「投与」または「投与する」は、対象に医薬組成物を与える(すなわち提供する)工程を意味する。本明細書に記載の医薬組成物は「局所的に投与」する、すなわち治療の結果または成果が望まれる部位の近傍に投与することができる。例えば眼症状(例えば黄斑浮腫または黄斑変性症など)ために、治療用組成物、例えば活性物質を含有する粘性組成物の硝子体内注射または移植を行うことができ、これは局所投与の一例である。
【0022】
「完全に含まない」(すなわち「からなる」の語法)は、用いられたまたは参照された機器または方法の検出範囲において、物質が検出できない、またはその存在が決定的に確認できないことを意味する。
【0023】
「本質的に含まない」は、痕跡量のみの他の物質または参照物質(かかる痕跡量は適用した際に実質的な効果を有さない)が検出できることを意味する。
【0024】
「高分子」治療剤または抗血管新生成分は、治療剤がペプチドまたはオリゴヌクレオチド(この用語自体は本明細書に規定されている)からなる、本質的にからなる、または含むことを意味する。
【0025】
「眼症状」は、眼または眼の一部または一領域に影響するまたは関与する疾患、軽度の慢性病または症状を意味する。大まかに説明すると、眼は眼球および眼球を構成する組織および液体、眼周囲の筋肉(例えば斜筋および直筋)および眼球内のまたは眼球に隣接する視神経の一部を含む。
【0026】
「前眼部症状」は、前眼(すなわち眼の前方)領域または部位、例えば、眼周囲の筋肉、眼瞼または水晶体嚢の後壁または毛様体筋の前方に位置する眼球組織または液体に影響するまたは関与する疾患、軽度の慢性病または症状である。従って、前眼部症状は、結膜、角膜、前眼房、虹彩、後眼房(虹彩の後方であるが水晶体嚢の後壁の前方)、水晶体または水晶体嚢および血管および前眼領域または部位を血管新生化するまたは神経支配する神経に主に影響するまたは関与する。
【0027】
よって、前眼部症状は、例えば、無水晶体症;偽水晶体症;乱視;眼瞼痙攣;白内障;結膜疾患;結膜炎;角膜疾患;角膜腫瘍;ドライアイ症候群;眼瞼疾患;涙器疾患;涙道閉塞;近視;老視;瞳孔障害;屈折障害および斜視などの疾患、軽度の慢性病または症状を含み得る。緑内障処置の臨床的目的は眼の前眼房中の房水の高圧を減少させる(すなわち眼内圧を減少させる)ことであり得るので、緑内障も前眼部症状と考えられ得る。
【0028】
「後眼部症状」は、後眼領域または部位、例えば、脈絡膜または強膜(水晶体嚢の後壁を通る面の後方の位置の)、硝子体、硝子体腔、網膜、網膜色素上皮、ブルッフ(Bruch)膜、視神経(すなわち視神経乳頭)、および血管および後眼領域または部位を血管新生化するまたは神経支配する神経に主に影響するまたは関与する疾患、軽度の慢性病または症状である。
【0029】
よって、後眼部症状には、例えば、急性黄斑視神経網膜症;ベーチェット病;脈絡膜新血管新生;糖尿病性ブドウ膜炎;ヒストプラズマ症;感染、例えば、真菌またはウイルスによる感染;黄斑変性症、例えば、急性黄斑変性症、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症;浮腫、例えば、黄斑浮腫、嚢胞様黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫;多巣性脈絡膜炎;後眼部位または位置に影響する眼外傷;眼の腫瘍;網膜障害、例えば、網膜中心静脈閉塞症、糖尿病性網膜症(増殖性糖尿病性網膜症など)、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜動脈閉塞性疾患、網膜剥離、ブドウ膜網膜疾患;交感性眼炎;フォークト・小柳・原田(Vogt Koyanagi-Harada)(VKH)症候群;ブドウ膜拡散;眼のレーザー処置に起因するまたは影響される後眼部症状;光線力学的治療に起因するまたは影響される後眼部症状、光凝固、放射線網膜症、網膜上膜性疾患、網膜静脈分枝閉塞症、前部虚血性視神経症、非網膜症性糖尿病性網膜機能不全、網膜色素変性症および緑内障などの疾患、軽度の慢性病または症状が含まれ得る。緑内障は、治療目標が、網膜細胞または視神経細胞の損傷または損失による視覚の損失を防ぐまたは視覚の損失の発生を減少させること(すなわち神経保護)であるので、後眼部症状と考えられ得る。
【0030】
「医薬組成物」は、活性成分(活性物質)が血管新生の阻害剤、例えばMAACであり得る製剤を意味する。「製剤」なる単語は、医薬組成物中に活性成分の他に少なくとも1のさらなる成分が存在することを意味する。それ故に医薬組成物は、対象、例えばヒト患者への診断上のまたは治療上の投与(例えば、眼内注射によるまたはデポーまたはインプラントの挿入による)に適する製剤である。
【0031】
「ペプチド」、「ポリペプチド」およびタンパク質なる用語は、天然および非天然L-アミノ酸、R-アミノ酸およびペプチド模倣物を含む。ペプチド模倣物はペプチド様分子を含み、そのペプチド様分子は構造的にそのペプチド様分子の元となったペプチド基質についてのモデルとして働くことができる。かかるペプチド模倣物は、化学的に修飾されたペプチドである、非天然アミノ酸およびペプトイドを含有するペプチド様分子を含み、そのペプチド様分子はN-置換グリシンのオリゴマー集合体から生じるペプチド様分子である(例えば「Burger's Medicinal Chemistry and Drug Discovery(バーガーの医薬品化学および創薬)」第1巻(M.E. Wolff編;John Wiley&Sons 1995)の、GoodmanとRo、「Peptidomimetics for Drug Design(薬物設計のためのペプチド模倣物)」、803-861頁を参照のこと)(これによって参照により本明細書に組み込まれる)。
【0032】
様々なペプチド模倣物は、例えば、束縛された(constrained)アミノ酸、ペプチド二次構造を模倣する非ペプチド成分またはアミド結合アイソスターを含有するペプチド様分子を含む分野において知られている。束縛された、非天然アミノ酸を含有するペプチド模倣物は、例えば、α-メチル化アミノ酸;α,α-ジアルキル-グリシンまたはα-アミノシクロアルカンカルボン酸;Nα-Cα環化アミノ酸;Nα-メチル化アミノ酸;β-またはγ-アミノシクロアルカンカルボン酸;α,β-不飽和アミノ酸;β,β-ジメチルまたはβ-メチルアミノ酸;β-置換-2,3-メタノアミノ酸;NCδまたはCα-Cδ環化アミノ酸;または置換プロリンまたは別のアミノ酸模倣物を含み得る。さらに、ペプチド二次構造を模倣するペプチド模倣物は、例えば、非ペプチド性β-ターン模倣物;γ-ターン模倣物;βシート構造の模倣物;またはへリックス構造の模倣物を含有し得、それぞれ当分野においてよく知られている。ペプチド模倣物はまた、例えば、アミド結合アイソスター、例えば、レトロ−インベルソ(retro inverso)修飾;還元された(reduced)アミド結合;メチレンチオエーテルまたはメチレンスルホキシド結合;メチレンエーテル結合;エチレン結合;チオアミド結合;トランスオレフィンまたはフルオロオレフィン結合;1,5-ジ置換テトラゾール環;ケトメチレンまたはフルオロケトメチレン結合または別のアミドアイソスターを含有するペプチド様分子であり得る。当業者であれば、これらのおよび他のペプチド模倣物は本明細書において用いる場合の「ペプチド模倣物」なる用語の意味の中に包含されることを理解する。「ポリペプチド」なる用語は、格別に示さない限りはペプチド模倣物を含むべきである。
【0033】
「実質的に含まない」は、その医薬組成物の1重量パーセント未満のレベルにて存在することを意味する。
【0034】
本明細書において用いる場合、「処置する」、「処置すること」または「処置」なる用語は、眼症状、眼損傷または傷害の減少または解決または予防、または損傷したまたは傷害された眼組織の治癒を促進することを意味する。
【0035】
本明細書において用いる場合、「治療上有効量」なる用語は、眼症状を処置する、あるいは眼または眼の一領域に対して有意な負のまたは有害な副作用を引き起こすことなく眼損傷または傷害を減少させるまたは防ぐのに必要な物質のレベルまたは量を意味する。
【0036】
本発明による「オリゴヌクレオチド」または「核酸」は、ホスホジエステル結合、またはホスホジエステル結合を模倣する結合により治療的に有用な程度まで連結された、2以上の天然または非天然デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドを含み得る。本発明によると、オリゴヌクレオチドは、文脈からそうでないことが明らかでない限りは、通常一本鎖と考えられ、核酸は一本鎖または二本鎖であり得る。さらに、オリゴヌクレオチドまたは核酸は1以上の修飾ヌクレオチドを含有し得;かかる修飾は、オリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を改善する、その結果得られるオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション能を改善する(すなわち、融解温度またはTmを上昇させる)、オリゴヌクレオチドまたは核酸の標的化または固定化を助ける、または他の何らかの目的のためになされ得る。
【0037】
かかる修飾は窒素塩基に修飾を有するオリゴヌクレオチド誘導体(アデノシンの6位のアミノ基が水素により置換されてプリンを生じる;グアノシンの6-ケト酸素が水素により置換されて2-アミノプリンを生じる、または硫黄により置換されて6-チオグアノシンを生じる、およびチミジンの4-ケト酸素が硫黄または水素により置換されてそれぞれ4-チオチミジンまたは4-ヒドロチミジンを生じるなど)を含み得る。これらのヌクレオチド類似体は全てオリゴヌクレオチドの合成のための反応物質として用いることが出来る。他の置換塩基は当分野において知られている。例えばCookらの、「Nuclease Resistant、Pyrimidine Modified Oligonucleotides that Detect and Modulate Gene Expression(遺伝子発現を検出し変調するヌクレアーゼ耐性のピリミジン修飾オリゴヌクレオチド)」なる名称の国際公開第92/02258号明細書、(参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。塩基修飾ヌクレオチド誘導体はオリゴヌクレオチド合成のために市販されている。
【0038】
同様に、多数のヌクレオチド誘導体がリボフラノシルまたはデオキシリボフラノシル部分の修飾を有することが報告されている。例えば、Cookらの、「Cyclobutyl Antisense Oligonucleotides, Methods of Making and Use Thereof(シクロブチルアンチセンスオリゴヌクレオチド、それらの作製方法および使用)」なる名称の国際公開第94/19023号パンフレット;McGeeらの、「Novel 2'-O-Alkyl Nucleosides and Phosphoramidites Processes for the Preparation and Uses Thereof(新規な2'-O-アルキルヌクレオシドおよびホスホラミダイト、それらの調製方法および使用)」なる名称の国際公開第94/02501号パンフレット;およびCookの、「Gapped 2'-Modified Oligonucleotides(ギャップド2'-修飾オリゴヌクレオチド)」なる名称の国際公開第93/13121号パンフレット(これによりこれら公報はそれぞれ参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0039】
かかる修飾塩基を含むほとんどのオリゴヌクレオチドは、増大した細胞取り込み、ヌクレアーゼ耐性、および/または増大した基質結合を考慮して構成されている。言い換えると、かかるオリゴヌクレオチドは治療用遺伝子修飾剤として報告されている。
【0040】
修飾ヌクレオチド残基を有する核酸は天然に存在する。よって、RNAの修飾塩基は、種類または起源に応じて、メチル化またはジメチル化塩基、脱アミノ化塩基、カルボキシル化塩基、チオール化塩基およびこれらの修飾の様々な組み合わせを有する塩基を含み得る。さらに、2'-O-アルキル化塩基は天然核酸に存在することが知られている。例えば、Adamsら、「The Biochemistry of the Nucleic Acids(核酸の生化学)」(第11版、1992年)(これによって参照により本明細書に組み込まれる)を参照のこと。
【0041】
本明細書または特許請求の範囲の粘度は、特に断りのない限り25℃における粘度を意味する。
【0042】
それぞれの値(量、粘度、温度など)の範囲は具体的には、全ての値および最小値から最大値間のサブ領域を含み、かつ全くの記載事項を含有するとみなされたい。
【0043】
本組成物は、眼の後区への硝子体内投与に高度に適しており、いかなる洗浄工程も必要とせず、眼に用いた際に眼の例えば網膜の損傷を減少させる。全般的に、本組成物はヒトまたは動物の眼の後区に容易にかつ効果的に注射できる。本発明の製剤の利点は、MAACが、生物学的に適合性の、すなわち眼の細胞に対して実質的に有害でないまたは細胞毒性作用を有さない粘性誘導成分を含む粘性担体中に存在することである。
【0044】
本発明の広範な一局面において、ヒトまたは動物の眼の後区への注射に有用な組成物を提供する。かかる組成物はMAAC、粘性誘導成分および水性担体成分を含む。MAACは治療上有効量にて存在する。MAACは好ましくは溶液組成物中に存在するが、はじめにいくらかまたは部分的に不溶性の形態にて、例えば、複数の粒子にて存在し得る。
【0045】
本組成物は、組成物の約25%(w/v)までまたはそれ以上の量にてMAACを含み得る。非常に有用な一実施態様において、MAACは組成物の少なくとも約80 mg/mlまでの量にて存在する。好ましくは、MAACは組成物の約1%〜約10%または約20%(w/v)の範囲、または100μlにつき約0.05 mg、または100μlにつき約0.1 mg、または100μlにつき約0.2 mg、または100μlにつき約0.4 mg、または100μlにつき約0.5 mg、または100μlにつき約1.0 mg、または100μlにつき約2.0 mg、または100μlにつき約4.0 mg、または100μlにつき約5.0 mg、または100μlにつき約6.0 mg、または100μlにつき約7.0 mg、または100μlにつき約8.0 mg、または100μlにつき約10 mg、または100μlにつき約20 mg、または100μlにつき約40 mg、または100μlにつき約60 mg、または100μlにつき約80 mg、または100μlにつき約0.05 mg〜100μlにつき80 mgの範囲または濃度のいずれかの量にて存在する。
【0046】
特に、本発明のMAACは、血管新生、特に眼の血管新生、例えば、脈絡膜新血管新生(CNV)(例えば黄斑変性症、特に、限定するものではないが、滲出性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜虚血および黄斑浮腫などの症状に関連する)の阻害剤である。
【0047】
血管上皮増殖因子(VEGF-A)は、血管新生(先在する脈管構造からの血管の成長)に関与するシグナルタンパク質のファミリーのための一般名である。VEGFはまた、微小血管の透過性を促進する。このタンパク質ファミリーは単一遺伝子の選択的スプライシングから生じたスプライスバリアントを含む。VEGF-B、VEGF-CおよびVEGF-DおよびPIGFなどの他のVEGF様タンパク質も存在する。
【0048】
VEGFファミリーのメンバーはすべて、細胞表面上のチロシンキナーゼ受容体(VEGFR)に結合することにより細胞応答を刺激する。リガンド結合は、受容体のチロシンキナーゼ活性を活性化する二量体化を誘導する。これは受容体の自己リン酸化および細胞内シグナル伝達カスケードの開始を導き、これにより受容体が二量体になり、チロシンキナーゼが関与するトランスリン酸化を介して活性化される。VEGF受容体は7のイムノグロブリン様ドメインからなる細胞外部分、単一の膜貫通領域および分断チロシンキナーゼドメインを含有する細胞内部分を有する。
【0049】
VEGF自体または眼に存在するVEGFRのいずれかを阻害して血管新生を防ぐために様々なアプローチがなされてきた。よって、モノクローナル抗体、例えばラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標);rhuFab V2)またはベバシズマブ(AVASTIN(登録商標);rhuMab-VEGF);核酸(アプタマー、例えばMACUGEN(登録商標)(ペガプタニブ)(PEG化RNAアプタマー)、およびVEGF RNAに対するsiRNA)、およびタンパク質および小分子の両方のチロシンキナーゼ阻害剤が、後区の症状に関連する血管新生の処置のために研究されてきた。
【0050】
上記のように、低酸素はVEGF発現を上方制御することが知られており、虚血性網膜静脈閉塞症および網膜新血管新生の霊長類モデルにおいてVEGF発現が虹彩新血管新生と相関していることが示された。正常な霊長類の眼においてVEGFの注射によって虹彩新血管新生、血管新生緑内障および網膜微小血管障害が生じる。可溶性VEGF受容体として働くキメラタンパク質の使用によるVEGFの阻害はこれらのモデルにおいて新血管新生を抑制する。
【0051】
ヒト臨床試験によって、VEGF発現と病理的な眼の新血管新生との関連性も確認された。硝子体VEGFレベルの測定では、異常な血管成長を特徴としない他の網膜障害を有する患者と比較して、活性な増殖性糖尿病性網膜症を有する患者において有意に高いVEGF濃度が示された。眼の新血管新生を特徴とする様々な症状において眼房水(aqueous)および硝子体の両方のVEGFレベルを分析した別の研究では、活性な新血管新生を有する患者は眼液中の上昇したVEGF濃度と相関していた。
【0052】
眼の後区における血管新生(および特にVEGFRに関連する血管新生)の阻害は、VEGFR活性化に対して活性を有する多数のMAACのいずれかを用いて、直接的にまたはVEGF自体の阻害を介して達成され得る。
【0053】
本発明の主な一実施態様によると、本明細書に記載の治療剤は1以上のMAACを含む。
【0054】
本発明による高分子治療剤は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドおよび核酸を含む。特に好ましい本発明の実施形態において、治療剤は、タンパク質、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体、抗体フラグメント、例えば、一価の画分の抗原結合パパインフラグメント(Fab)または二価の画分の抗原結合ペプシンフラグメント(F'ab2)を含み得る。さらに、抗体または抗体フラグメントは天然または遺伝子工学により生産されたものであり得る。例えば、「抗体」なる用語は、ヒトLCおよびHC領域および別の種から、例えば、マウス細胞からのLVおよびHV領域を含むキメラ抗体を含み得る。不変のマウス抗体を使用すると、ヒト抗マウスイムノグロブリンの産生およびその結果生じるクリアランスおよび有効性の減少が誘導されるので、キメラ抗体は抗体に基づく薬物の設計において有用である。
【0055】
しかしながら、キメラ抗体は、齧歯類抗体と比較して減少した免疫原性を有するが、薬物としての抗体の使用に存在する全ての問題を解決するものではない。例えば、定常領域におけるアロタイプのバリエーションを最小化するために、一般的な集団において最も共通するアロタイプを表すヒトコンセンサス配列を用いることができる。相補性決定領域(CVDR)グラフトと呼ばれるさらなる改良法が用いられている。この方法において、3つの抗原結合部位(3つの重鎖のCDRおよび3つの軽鎖のCDRによって形成された)のみがネズミ抗体から切除され、これらのCDRをコードする核酸領域がヒト抗体のフレームワーク領域をコードする核酸コード配列に挿入(または「グラフト」)されている。
【0056】
さらなる改良法は、「再形成(reshaping)」、「化粧張り(veneering)」および「高キメラ化(hyperchimerization)」と名付けられたものを含み得る。再形成において、齧歯類可変領域はそれが属するタンパク質配列サブグループのコンセンサス配列と比較され、ヒトフレームワークはそれが属する抗体ファミリーのフレームワーク配列のコンセンサスと比較される。この分析により親和性成熟過程における突然変異の結果であり得るアミノ酸残基を同定することができる;これらの残基は「特異体質(idiosyncratic)」と呼ばれる。より共通するヒト残基をこれらの位置に組み込むことにより、特異体質の残基から生じる免疫原性の問題が最小化できる。
【0057】
高キメラ化によるヒト化はヒトとネズミの非CDR可変領域配列の比較を含み、最も高いホモロジーを有する配列がアクセプターのフレームワークとして選択される。ここでも、特異体質残基を、より高度に保存されたヒトの残基によって置換する。CDR残基と相互作用し得るそれらの非CDR残基を同定し、フレームワーク配列に挿入する。
【0058】
化粧張りは、ヒト化ネズミ抗体の3次元構造の決定、および露出表面アミノ酸のヒト抗体に通常見られるアミノ酸による置換を含む。第1の工程において、最も相同的なヒト可変領域を選択し、対応するマウス可変領域と比較する。第2の工程において、ヒトフレームワークと異なるマウスフレームワーク残基をヒト残基によって置換する;完全にまたは部分的に抗体の表面に曝されたそれらの残基のみを変える。
【0059】
抗体のヒト化はネズミまたはキメラ抗体のみの使用では得られない治療上の利益を提供するが、所望の標的の正常な活性に拮抗することによってその標的に強く結合するように、新しいクラスのペプチドおよび核酸物質が遺伝子操作されてきた。
【0060】
例えば、フィブロネクチンおよびフィブロネクチン関連分子(以降まとめて「フィブロネクチン」と称する)は、血漿中において可溶性形態にて、疎性結合組織および基底膜中において不溶性形態にて見られる多ドメイン糖タンパク質である。それらは、ヘパリン、コラーゲン、DNA、アクチン、フィブリンおよび細胞表面上のフィブロネクチン受容体を含む様々な物質に結合する多コピーの3反復領域(タイプI、IIおよびIII)を含有する。フィブロネクチンは多数の重要な機能に関与する:例えば、創傷治癒;細胞接着;血液凝固;細胞分化および遊走;細胞の細胞骨格の保持;および腫瘍転移など。細胞分化におけるフィブロネクチンの役割は、腫瘍性形質転換が起こる際にその遺伝子の発現が顕著に減少することにより示される。細胞接着はテトラペプチドRGDSの細胞表面上のインテグリンへの結合によって媒介されることが発見されたが、関連配列も細胞接着活性を示すことができる。
【0061】
血漿フィブロネクチンはC末端付近の2のジスルフィド結合によって一緒に連結された2の異なるサブユニットの二量体として生じる。2つの鎖の相違は、タイプIIIの反復領域中に存在し、1つの遺伝子からmRNAの選択的スプライシングによって引き起こされる。
【0062】
フィブロネクチン・タイプIII(FnIII)反復領域はおおよそ100アミノ酸ドメインであり、その種々のタンデム反復はDNA、ヘパリンおよび細胞表面のための結合部位を含有する。FnIII反復を含有すると考えられている配列のスーパーファミリーは、45の異なるファミリーを意味し、その大部分が何らかの様式による細胞表面結合に関与し、あるいは受容体タンパク質チロシンキナーゼまたはサイトカイン受容体である。
【0063】
フィブロネクチンの一般的な特徴は、それらが分子間結合に関与することであり、それはフィブロネクチン分子の一般的な足場(scaffolding)構造に起因するので、かかる分子は、抗体模倣物として作用することができる選択的結合分子を作製し、産生するための非常に有用な鋳型である。かかる抗体模倣物はしばしば標的「抗原」分子または部分の、結合パートナー、例えば選択的または特異的受容体との相互作用の防止において障害となるであろう。よって、かかる選択的結合フィブロネクチン分子は、例えば受容体拮抗剤を作製するための理想的な鋳型を含む。
【0064】
FnIIIループは、有用な治療ツールを開発するための、ランダム突然変異、および標的結合、選択およびさらなる突然変異の反復性の一巡の方向付けられた進化スキームに曝され得る領域を含む。フィブロネクチンに基づく「指定可能な(addressable)」治療的結合分子(以降「FATBIM」)は、特定の眼科的に有害なリガンドまたは受容体、例えばVEGFの阻害に有用であり得る。FATBIMは、Adnexus(以前はCompound Therapeutics, Inc.として知られていた)によってADNECTINS(商標)と名付けられたフィブロネクチンに基づく結合分子種を含む。
【0065】
天然の核酸かまたはポリペプチドかにかかわらず、高分子治療成分には、眼内薬物送達系を作製する際に特に課題がある。その製剤はとりわけ眼内組織に対して実質的に無毒性でなければならない。かかる製剤が液体担体を含む際は、担体成分が眼房水または硝子体液の屈折率と実質的に同様の屈折率を有する(その製剤が導入される房に応じて)ことが非常に有利であり、その結果、例えば、治療組成物の眼内組織への投与例えば注射の後に焦点が変化することによって患者の視覚に実質的に不利に影響するということはない。水の屈折率(光の波長に応じておおよそ1.33)を有する製剤は、例えば、注射した製剤と注射後の硝子体液との境界に、投与後の時間に患者の視覚に不利に影響するのに十分な屈折率の差異を創出し得る。
【0066】
さらに、タンパク質に生物学的活性を与えるのに複合体の折り畳み構造が必要であることを考えると、比較的高濃度の与えられた粘性増強成分、例えば、所定のpH、例えば約6.5〜約8.0の2%ヒアルロン酸を含む溶液によって、高分子MAAC、例えばタンパク質またはポリペプチドが、変性なしに生物学的に活性なコンホメーションを保持することが可能となり得ることは驚くべきことである。三次構造を欠くかまたはそれらの活性について三次構造に対する依存性がより低い「小」分子とは対照的に、タンパク質はそれらの環境における様々な何らかの変化(熱、低温、高塩濃度、カオトロープ(分子構造の破壊を引き起こす物質;特に、非結合性の力、例えば、水素結合、ファンデルワールス相互作用および疎水性効果によって形成される分子構造)の存在など)によって変性する可能性がある。
【0067】
同様に、特定の核酸は、所望のMAAC活性を保持するために、所定の三次構造の保持が必要である。これは、生物学的活性、例えば、それらの活性に対する酵素学的活性または受容体抑制性活性に依存する核酸アプタマーに特に当てはまる。酵素的核酸、例えばリボザイムにも当てはまる。さらに、製剤中の高濃度の粘性増強成分が核酸の三次構造のアンフォールディングおよび変性によるこの活性の損失を引き起こさないことは驚くべきことである。
【0068】
特定の実施形態において、本発明の製剤は、治療成分を含む粒子または結晶あるいは治療成分の集団が中にまたは表面上に沈着しているまたは組み込まれている生分解性重合体の懸濁液を含み得る。例えば、粒子は生分解性の微小粒子、例えばマイクロスフェアまたはナノスフェアを含み得、哺乳類の眼の前区または後区内に注射または外科的に配置することができる。
【0069】
好ましい一実施態様において、MAA成分は不溶性であり、粒子または結晶の懸濁液を形成する。非常に水溶性のMAA成分、例えばオリゴヌクレオチドの場合には、電荷による複合体形成を用いてかかる粒子を創出することができる。例えば、ポリカチオン、例えば、ポリリシンまたはプロタミンを用いて、ポリアニオン、例えばオリゴヌクレオチドとの不溶性の複合体を形成させることができる。懸濁液中の高分子の薬物は、水溶液中よりも長期間の保存の間、化学的安定を保つ可能性がより高い。
【0070】
一実施態様において、眼内薬物輸送製剤は、非神経毒性の高分子治療剤を含む治療成分および粘性誘導成分を含む。特定の実施形態において、本製剤は、薬物送達系が眼の中に配置された後、少なくとも約1週間の間、個体の眼の内部に治療成分が放出されるように、治療成分と一緒になって重合体成分も含有し得る。
【0071】
本発明によると、本発明の系の治療成分は、抗血管新生薬(神経保護薬を含む)またはこれらの組合せを含み得る、本質的にからなり得る、または完全にからなり得る。治療成分はまた1以上の以下の補助的治療剤を含み得る:殺菌性物質、増殖因子、増殖因子阻害剤、サイトカイン、眼内圧低下剤、眼球出血治療剤およびそれらの組み合わせ。特に好ましい実施形態において、治療成分は、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体フラグメントおよび核酸からなる群から選択される治療剤を含み得る、本質的にからなり得る、またはからなり得る。より具体的には、本製剤は低分子干渉リボ核酸(siRNA、Sirnasとも称される)、オリゴヌクレオチドアプタマーまたはVEGFまたはウロキナーゼ阻害剤を含み得る。いくつかの具体例は、1以上の以下のものを含む:ヒアルロニダーゼ、例えば、Vitrase(眼の出血処置化合物)、ラニビズマブ(LUCENTIS(登録商標)の名で販売されている)、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標)の名で販売されている)、ペガプタニブ、例えば、MACUGEN(登録商標)、(VEGFまたはVEGFR阻害剤)、ラパマイシンおよびシクロスポニン。有利なことに、治療剤は、本製剤が眼の中に配置された際に生物学的に活性な形態として利用可能である。
【0072】
一実施態様において、本組成物および方法は、例外なく、高分子、例えばタンパク質、ペプチド(修飾タンパク質またはペプチドおよび/またはペプチド模倣物など)または核酸または修飾核酸(例えば、修飾ヌクレオシドまたはリボヌクレオシド残基またはペプチド核酸または他の核酸模倣物を含有するもの)を含むMAACを含み得る。さらに、MAACは高分子以外の有機分子を含み得る;これらの有機の、非高分子MAACは本明細書において「小分子成分」と称する。
【0073】
本組成物の粘性誘導成分は、組成物の粘度を増加させるのに効果的な量にて存在し、通常水性組成物(好ましくは液体またはゲルの形態)である。さらに、粘性誘導成分はMAACの高分子成分の三次構造を実質的に変性またはアンフォールドさせない。粘性誘導成分は非常に好ましくは実質的にまたは完全に透明である。これらの指針に沿って、いずれかの適切な、眼科的に許容される、粘性誘導成分を本発明に従って用いることができる。粘性誘導成分は、眼の処置のための眼科組成物において、提案されている、既知である、および/または用いられている。有利には、粘性誘導成分は組成物の約0.5%〜約20%(w/v)の範囲の量にて存在する。特に有用な一実施態様において、粘性誘導成分はヒアルロン酸重合体成分、例えばヒアルロン酸ナトリウムである。
【0074】
特に好ましい実施態様において、粘性誘導成分は溶液中において実質的に透明であり、組成物の患者への投与(例えば眼内輸送)後の視覚の有害な変化を防ぐために、得られるMAAC含有組成物の屈折率が硝子体液の屈折率と実質的に同様であるような量にて存在する。これは組成物が眼の後区に注射される場合に特に望ましい。かかる場合において、好ましくは得られたMAAC含有組成物の屈折率は硝子体液の屈折率と実質的に同一である。しかしながら、これらのパラメーターは組成物が他の手段によって、例えば、結膜下または網膜下輸送によって投与される際には、重要性はより低いであろう。
【0075】
一実施態様において、本組成物は、約25℃において0.1/秒の剪断速度にて、少なくとも約10 cpsまたは少なくとも約100 cps、好ましくは少なくとも約1,000 cps、より好ましくは少なくとも約10,000 cps、さらにより好ましくは少なくとも約70,000 cps、例えば約250,000 cpsまたは約300,000 cpsまでの粘度を有する。好ましくは、本組成物は、効率的に、例えば、手作業にて、好ましくは27ゲージ針(gauge needle)によって、より好ましくは29または30ゲージ針によって、ヒトまたは動物の眼の後区内に注射されるように構成するまたは製剤化する。
【0076】
本発明をいずれかの特定の操作理論に限定することは意図していないが、本明細書に記載のような比較的高粘度の組成物の使用は、効果的で、および好ましくは実質的に長く持続し、一方で同時に通常使用されるまたは通常使用されるよりもさらに小さい針によって眼の後区内に注射可能なMAACの輸送を提供すると考える。MAACが部分的にわずかにまたは徐々に溶解する粒子として輸送される実施形態において、粘性誘導成分はまた、眼の後区の底部表面上にかなりまたは大部分を単純に沈着させるよりもむしろ、懸濁液中に粒子を保つのを助けるのに効果的である。
【0077】
本発明の一実施態様において、組成物中に実質的に均一に懸濁され、少なくとも約1週間、好ましくは少なくとも約2週間または少なくとも約1ヶ月、さらにより好ましくは少なくとも約6ヶ月または少なくとも約1年または少なくとも約2年間、再懸濁過程を必要とせずに、つまりMAAC粒子を実質的に均一に組成物中に懸濁された状態に維持するために振盪するあるいは撹拌する(agitate)必要なく、組成物中に実質的に均一に懸濁された状態が維持される、複数の粒子中にMAACは存在する。
【0078】
かかる実質的に均一なMAAC粒子の懸濁液を有する組成物は、眼への投与の際に一貫したおよび正確な用量を提供することができ、従来技術に対して実質的な有利性をもたらす。特に、本組成物は、組成物の他の部分からMAAC粒子が沈殿することなく、製造され、輸送され、相当期間保存され得る。MAAC粒子が組成物中に実質的に均一に懸濁した状態に維持されることにより、MAAC粒子の再懸濁を全く要さずに、長期間の投薬の一貫性および投与する単位用量あたりの正確性を提供することができる。
【0079】
水性担体成分は有利には眼科的に許容される、眼科組成物に有用な1以上の従来の目的達成手段を含み得る。好ましく有利な一実施態様において、本組成物はさらなる保存剤成分を含まない。この特徴は、保存剤成分、特に従来の保存剤、例えば塩化ベンザルコニウム(BACまたはBAKとして知られる)および四級アンモニウム保存剤の存在により生じ得るまたは関連し得る、眼における有害作用、例えば細胞毒性を減少させる、または最小化する、または実質的になくする。しかしながら、他の実施形態において、担体成分は必要に応じて有効量の少なくとも1の保存剤成分、浸透圧(tonicity)成分および/または緩衝剤成分を含み得る。
【0080】
ヒトまたは動物の眼の後区を処置する方法も開示し、これらも本発明の範囲内に含まれる。一般に、かかる方法はMAAC含有組成物、例えば本発明による組成物を、ヒトまたは動物の眼の後区、例えば眼の硝子体液中に投与する、例えば注射することを含む。かかる投与工程は後区の組織へ所望の治療効果を提供するのに効果的である。投与工程は、好ましくは、硝子体内注射または配置、結膜下注射または配置、テノン嚢下注射または配置、球後注射または配置、脈絡膜上注射または配置などの少なくとも1を含む。
【0081】
本発明は後眼部症状(この用語は下記に定義する)を処置するための医薬組成物を包含する。本組成物はMAAC;組成物の粘性を増大させるのに効果的な量の粘性誘導成分および;水性担体成分を含み得る。本組成物は約0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10 cpsの粘度を有し得、ヒトの眼の硝子体内に、例えば27ゲージ針によって注射することができる。本製剤の粘度が低下することにより、硝子体内に28、29または30ゲージ針によって注射することができる。
【0082】
本医薬組成物のMAACは、可溶性であるか、または組成物中に実質的に均一に懸濁される少なくとも1の高分子分子を含み、粘性誘導成分は重合ヒアルロン酸塩である。
【0083】
本発明の範囲内の詳細な実施態様は、後眼部症状を処置するための、MAAC;重合ヒアルロン酸塩(この中にMAACが存在する);塩化ナトリウム;リン酸ナトリウムおよび水を含む医薬組成物である。医薬組成物は、約0.1/秒の剪断速度にて、約80,000 cps〜約300,000 cps、好ましくは約100,000 cps〜約300,000 cps、最も好ましくは約180,000 cps〜約225,000 cpsの粘度を有し得る。本医薬組成物は約0.1/秒の剪断速度にて約80,000 cps〜約300,000 cpsの粘度を有し得、医薬組成物が約0.1/秒の剪断速度にて約100,000 cps〜約150,000 cpsの粘度を有する場合、27、28、29または30ゲージ針によって硝子体内に注射できることに留意されたい。本製剤は、300,000 cpsであっても、ひとたび製剤がシリンジ内を動き出すと粘度は減少する(shear thinning)ので、30ゲージ針によって注射できると考えられる。医薬組成物中に存在するリン酸ナトリウムはリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二ナトリウムの両方を含み得る。さらに、医薬組成物は、有効量のMAAC、約2% w/vのヒアルロン酸塩〜約3% w/vのヒアルロン酸塩、約0.6% w/vの塩化ナトリウムおよび約0.03% w/vのリン酸ナトリウム〜約0.04% w/vのリン酸ナトリウムを含み得る。あるいは、請求項5の医薬組成物は約0.5% w/vのヒアルロン酸塩〜約6% w/vのヒアルロン酸塩を含み得る。必要に応じてヒアルロン酸塩は加熱して製剤中の分子量(およびそれ故その粘度)を減少させることができる(実施例15を参照)。
【0084】
本医薬組成物はまた、約0.6% w/vの塩化ナトリウム〜約0.9% w/vの塩化ナトリウムを含むこともできる。一般に、より少ないリン酸塩を製剤中に用いる時ほど、より多くの塩化ナトリウムを製剤中に用いる、例えばリン酸塩が製剤に存在しない場合に0.9%の塩化ナトリウムを用いることができ、このようにして製剤の浸透圧を調整して所望の生理学的液体と等張性の製剤を得ることができる。本医薬組成物は約0.0% w/vのリン酸ナトリウム〜0.1% w/vのリン酸ナトリウムを含むことができる。上記のように、より少ない塩化ナトリウムが製剤中に存在する場合ほど、より多いリン酸塩を製剤中に用いて、所望のpH 7.4の緩衝効果を得ることができる。
【0085】
水に不溶性の(または難溶性の)ステロイドまたは他の化合物を含有するヒアルロン酸塩溶液が硝子体内注射のために(特にステロイドの粒子特性による制御輸送投与のために)提案されてきたが、硝子体内に投与されたヒアルロン酸塩溶液がMAAC一般に、またはいずれかの特定のMAAC剤に特異的に有用であるかは全く不明であった。この原因は部分的には、硝子体内注射に可能な制限された最大注射容積(約100μl)(これは最大可能投与量を制限する)、様々なMAACの様々な溶解度、化学および特異的活性による。よって、例えば、1)いずれの特定のMAAC(ペプチドおよび/または核酸MAAC(アプタマーなど)を含む)がHA中に可溶性であるか、2)水溶性MAACにおいて、担体としてのHAの有利性が可溶性分子に関係があるか、3)いずれの特定のMAACが、MAAC-HA製剤を医学的に有利にするのに必要な特異的活性をもって顆粒状または粒子状形態に製剤化できる程度にHA中において不溶性であるか、4)ペプチドまたはアプタマーのMAACがHA中において有利なように製剤化可能か、および5)特定のMAAC化合物に関して、これらの特定の化合物と組み合わせたHA製剤が、硝子体内投与に高い十分特異的な活性をもって治療的に有効か、は不明である。
【0086】
本発明の範囲内のさらに詳細な実施態様は、後眼部症状を処置するための、MAAC、重合ヒアルロン酸塩(MAACはこの重合ヒアルロン酸塩中に溶解性である)、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムおよび水から本質的になる医薬組成物である。本医薬組成物は0.1/秒の剪断速度にて約128,000 cps〜約225,000 cpsの粘度を有し得、医薬組成物中に存在するリン酸ナトリウムはリン酸二水素ナトリウムおよびリン酸二ナトリウムの両方として存在し得る。
【0087】
本発明のさらなる実施態様は、後眼部症状を処置するための、MAAC、重合ヒアルロン酸塩、塩化ナトリウム、リン酸二ナトリウム七水和物、リン酸二水素ナトリウム一水和物および水からなり、0.1/秒の剪断速度にて約128,000 cps〜約225,000 cpsの粘度を有するMAAC製剤である。
【0088】
本発明はまた、請求項1の医薬組成物をヒトまたは動物の硝子体に投与する(例えば注射する)ことにより後眼部症状を処置する方法を含み、これにより後眼部症状を処置する。よって、我々は、MAACおよびヒアルロン酸塩を含み、0.1/秒の剪断速度にて約128,000 cps〜約225,000 cpsの粘度を有する医薬組成物をヒトの眼の硝子体に投与することによって黄斑浮腫、黄斑変性症、糖尿病性網膜症および他の眼内疾患を処置する方法を発明した。
【0089】
後眼部症状を処置するための本発明の範囲内の医薬組成物は、特定の実施形態において、複数の粒子として治療上有効量にて存在するMAAC、組成物の粘度を増加させるのに効果的な量の粘性誘導成分および水性担体成分を含み得、0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10 cpsの粘度を有し、ヒトの眼の硝子体内に注射可能であり、硝子体内注射後少なくとも約45日までの期間にわたってMAACを緩徐に放出する。本医薬組成物は、硝子体内注射すると、減少した眼内炎症の発症を示し、プルーム(plume)効果を示さず(MAACが硝子体内に注射されてすぐに硝子体内へMAACが広拡散しないこと)、および粘着性(MAACゲル製剤の硝子体内注射後30週間以上の間MAACゲルの形態が保持されることにより観察される)を示すことができる。
【0090】
本発明は、治療上有効量にて存在するMAAC、組成物の粘度を増加させるのに効果的な量の粘性誘導成分および水性担体成分を含む徐放性の医薬組成物移植片を硝子体内投与する工程を含む、後眼部症状を処置する方法であって、その組成物は0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10 cpsの粘度を有し、ヒトの眼の硝子体内に注射可能であり、後眼部症状が本製剤のMAACにより約30週間までの間処置される方法を包含する。この方法において、本医薬組成物はMAAC、重合ヒアルロン酸塩、塩化ナトリウム、リン酸ナトリウムおよび水を含み得る。さらに、硝子体内投与は27ゲージ針によってヒトの眼の硝子体内に注射することができる。
【0091】
本発明はまた、MAACが水性担体中に完全には溶解しない場合、以下による医薬組成物を作製するための工程を含む:(a)MAACの粒子を塩化ナトリウムの結晶および製剤の作製に用いる総容積の約35%〜約40%の水(注射用の水)と混合する工程;(b)MAACおよび塩化ナトリウムの混合物を約20℃〜約35℃のの温度に加熱する工程、これにより第1の部分が調製される;(c)リン酸ナトリウムと水を混合する工程、これにより第2の部分が調製される;(d)製剤を作製するのに用いる総水量の別の約35%〜約40%中に約100万ダルトン〜約190万ダルトンの分子量のヒアルロン酸ナトリウムを溶解し、溶解後に滅菌濾過する工程;(e)溶解したヒアルロン酸ナトリウムを凍結乾燥する工程;(f)凍結乾燥した、滅菌ヒアルロン酸ナトリウムを再構成する工程、これにより第3の部分が調製される;および(g)第1、第2および第3の部分を無菌的に合わせる工程、これにより眼症状を処置するための硝子体内注射に適する乳白色のゲル懸濁液である無菌の均一なMAAC医薬組成物が作製される。水は約80重量%〜約90重量%の水である所望のゲル懸濁液が作製されるように必要に応じて(適量(q.s.))加える。
【0092】
説明
本発明は、網膜黄斑浮腫などの様々な眼症状を処置するための眼内、例えば硝子体内注射または投与に特異的に設計されたMAAC含有製剤の発見に基づく。本MAAC製剤は以下を含む多くの優れた特徴および利点を有する:(1)本製剤は保存剤および再懸濁の補助剤、例えば、ベンジルアルコールおよび/またはポリソルベートを含まないように作製され得る;(2)同時に、本製剤は非常に減少した網膜および光受容細胞毒性を有する;(3)無菌であり、必要に応じて保存剤を含まないことに加え、本MAAC製剤は、製剤の粘性および製剤からMAACが比較的緩徐に拡散することにより延長された治療効果を提供することができ、粒子の懸濁液として製剤化された場合、例えばかかる製剤の硝子体内注射から数ヶ月の期間にわたる、治療量のMAACの徐放を提供することができる。よって、本粘性MAAC製剤は、徐放性の移植片として特徴付けることができる;(4)本MAAC製剤の硝子体内投与は、副作用事象、例えば、実質的に上昇した眼内圧、緑内障、白内障および/または眼内炎症の増大した発生率を実質的に伴わない;(5)本MAAC製剤の硝子体内投与は、近年用いられているまたは既知の眼内(例えば硝子体内)用途のMAAC製剤と比較して、増大した発生率の副作用事象、例えば上昇した眼内圧、緑内障、白内障および/または眼内炎症などを伴わない;(6)特定の実施形態において、本製剤はMAAC粒子または結晶が(後眼房の粘性液体中に可溶化するので)比較的離れた単位の位置から緩徐に放出され、これにより硝子体内投与時に粘性水性製剤に特徴的なプルーム効果(素早い分散)が回避され;(7)硝子体内投与時のプルーム形成または素早い分散が回避され、これにより視野の不明瞭化が有利に減少する。
【0093】
上記の利点(3)は、本製剤の特別な特徴、例えば、1以上の特定の高分子量重合体中にMAACが懸濁され、重合体とのイオン対または逆相のつながりの形成によりMAACが徐放されることにより提供することができる。よって、MAACはゲルとのつながりから緩徐に放出される。
【0094】
一般に、本発明は、好ましくは注射によるヒトまたは動物の眼の後区への配置に有用な組成物を提供する。眼の後区、例えば硝子体中のかかる組成物は、眼の後区の1以上の症状および/または疾患、および/または眼の後区のかかる症状および/または疾患の1以上の症候に対して治療的に有効である。
【0095】
好ましくは本明細書に開示の組成物は後眼部症状を処置するために好ましくは硝子体内注射により投与されるが、本組成物は眼症状を効果的に処置するために、他の経路、例えば結膜下、テノン嚢下、眼周囲、眼球後、脈絡膜上および/または強膜内などによって投与(例えば注射により)することもできることに留意することは重要である。さらに、活性物質が好ましくない方向に「洗い流される」、浸出する、および/または拡散することを防止するまたは減少させるために投与部位にわたって縫合されたまたは詰め替え可能なドームを配置することができる。
【0096】
本発明の範囲内の組成物は、MAAC;粘性誘導成分;および水性担体成分を含み得る。本組成物は有利に眼科的に許容される。本組成物の重要な利点の1つは、眼の後区への硝子体内注射のためにこれまでに提案された治療組成物、例えば、ステロイドのトリアムシノロンを含む商標KENALOG(登録商標)-40として販売されている組成物と比較して、本組成物は眼の後区、例えば、眼の網膜の組織に対して、より適合性である、または刺激性もしくは毒性がより少ないことである。特に、特定の実施形態において、本組成物は有利には、保存剤成分を実質的に含まない、あるいは、KENALOG(登録商標)-40組成物に保存剤として含まれるベンジルアルコールと比較して、眼の後区、例えば網膜に対して、より適合性の、または刺激性もしくは毒性がより少ない効果的な保存剤成分を含む。
【0097】
上記のように、本組成物はMAACを含む。かかるMAACは、組成物中に、治療上有効量にて、つまり組成物が配置される眼において所望の治療効果を提供するのに効果的な量にて存在する。MAACは、水性製剤中に可溶性であるか、または特定の実施形態において複数の粒子として組成物中に存在する。少なくとも硝子体液に十分に可溶性であり、治療的有効量を眼の組織に投与することができることを条件として、いずれの適切なMAACも本発明に従って用いてよい。
【0098】
MAACが製剤中に完全には可溶性でない(そして粒子の懸濁液として存在する)実施形態において、特定のパラメーターが有益に観察される。これらの実施形態のMAACは有利には、例えば25℃における水への限定された溶解性を有する。例えば、MAACは好ましくは25℃において水への10 mg/ml未満の溶解性を有する。当然ながら、MAACは眼科的に許容されるべきである、すなわち、眼の構造または組織に顕著なまたは過度の有害作用を実質的に有さないべきである;当然ながらこれは投与計画および後区組織の連続的曝露期間に依拠するであろう。目下有用なMAACの特に有用な特徴の1つは、かかる成分の、眼の後区における1以上の疾患および/または症状の結果により引き起こされる、組成物が配置される眼の後区における血管新生、特にVEGF関連性の血管新生の程度を減少させる能力である。
【0099】
MAACは有利には、組成物1mlにつき少なくとも約10 mgの量にて存在する。MAACの溶解性に応じて、MAACは組成物の約1%未満〜約5%、または約10%、または約20%、または約30%以上(w/v)の範囲、または約0.2 mg/100μl、または約0.4 mg/100μl、または約0.5 mg/100μl、または約1.0 mg/100μl、または約2.0 mg/100μl、または約4.0 mg/100μl、または約5.0 mg/100μl、または約6.0 mg/100μl、または約7.0 mg/100μl、または約8.0 mg/100μl、または約10 mg/100μl、または約20 mg/100μl、または約40 mg/100μl、または約60 mg/100μl、または約80 mg/100μlの量にて本組成物中に存在し得る。約4%(w/v)未満のMAACを含む組成物と比較して、眼の後区に同量以上のMAACを提供するためには、組成物が減少した投与容積および頻度にて眼の後区に配置または注射されることが必要であろうという点で、本組成物において比較的高いMAAC濃度または量を提供することは有益である。よって、非常に有用な一実施態様において、本組成物は、約4%(w/v)より多い、例えば少なくとも約5%(w/v)〜約10%(w/v)、または約20%(w/v)、または約30%(w/v)のMAACを含む。100μL以上の液体の硝子体への注射は、硝子体中の液体が過剰になり得、上昇した眼内圧および硝子体からの液体の漏出が潜在的に起こり得る。
【0100】
粘性誘導成分は、組成物の粘度を増大させる、有利には実質的に増大させるのに有効な量にて存在する。本発明をいずれかの特定の操作理論に限定することは意図していないが、組成物の粘度を、水の粘度を十分に上回る値まで、例えば0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約100 cpsまで増大させることにより、ヒトまたは動物の眼の後区への配置、例えば注射に高度に効果的な組成物が得られると考えられる。本組成物の後区への有利な配置または注射可能性に加えて、本組成物が比較的高粘度であることにより、硝子体内注射または配置後に後区内においてMAACが一定期間局在化するように維持する本組成物の能力が増強されると考えられる。本組成物がMAACの粒子または結晶を含む場合、本組成物の粘度によって、延長された期間の間、例えば1〜2年程度の間、再懸濁工程を要することなく、粒子が実質的に均一な懸濁液として維持され、これにより本組成物の貯蔵有効期間が増大する。また、本組成物が比較的高粘度であることにより、少なくとも、本明細書の他の場所に記載されているように、増大した量または濃度のMAACを有する能力を本組成物が有するように助けるというさらなる利益も得られうる。
【0101】
有利には、本組成物は、0.1/秒の剪断速度にて、少なくとも約10 cpsまたは少なくとも約100 cpsまたは少なくとも約1000 cps、より好ましくは少なくとも約10,000 cps、さらにより好ましくは少なくとも約70,000 cps以上、例えば約200,000 cpsまたは約250,000 cpsまで、または約300,000 cps以上の粘度を有する。本組成物は上記のように比較的高粘度を有するだけでなく、ヒトまたは動物の眼の後区内へ、効果的に配置可能であるように、例えば、好ましくは27ゲージ針によって、または30ゲージ針によっても、注射可能であるような能力を有する、またはそのように構造化されているまたは形成されている。
【0102】
目下有用な好ましい粘性誘導成分は、剪断により粘性が低下する(shear thinning)成分であり、ここで、かかる剪断により粘性が低下する粘性誘導成分を含有する本組成物は、高剪断条件下において、例えば、狭い空間、例えば27ゲージ針を介して、眼の後区内へ通りゆくまたは注射されるので、本組成物の粘度はかかる通過の間に実質的に減少する。かかる通過の後、本組成物は注射前の粘度を実質的に取り戻す。
【0103】
いずれかの適切な粘性誘導成分、例えば眼科的に許容される粘性誘導成分が、本発明によって用いられ得る。かかる多くの粘性誘導成分は、眼の上にまたは中に用いられる眼科用組成物において提案されておよび/または用いられてきた。粘性誘導成分は、組成物に所望の粘度を提供するのに効果的な量にて存在する。有利には、(その特性および平均分子量に応じて、)粘性誘導成分は、組成物の約0.5%または約1.0%〜約5%または約10%または約20%(w/v)の範囲の量にて存在する。用いられる粘性誘導成分の具体的な量は、例えば、限定しないが、用いる具体的な粘性誘導成分、用いる粘性誘導成分の分子量、製造されるおよび/または用いられる組成物に望ましい粘度など、組成物の、剪断により粘性が低下する性質、生体適合性および起こり得る生分解性などの因子を含む多数の因子に依拠する。
【0104】
粘性誘導成分は好ましくは、重合体成分および/または少なくとも1の粘弾性物質、例えば、眼科における外科的処置に有用なそれらの物質を含む。
【0105】
有用な粘性誘導成分の例には、限定するものではないが、ヒアルロン酸(例えば重合体ヒアルロン酸)、カルボマー、ポリアクリル酸、セルロース誘導体、ポリカルボフィル、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、ポリサッカライド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、それらの誘導体およびそれらの混合物および共重合体が含まれる。特に好ましい実施態様において、本組成物は、ヒアルロン酸成分、例えば、重合体ヒアルロン酸成分(架橋重合体ヒアルロン酸など)を含む。
【0106】
目下有用な粘性誘導成分の平均分子量は、約1万ダルトン以下〜約200万ダルトン以上の範囲であり得る。特に有用な一実施態様において、粘性誘導成分の分子量は、約10万ダルトンまたは約20万ダルトン〜約100万ダルトンまたは約150万ダルトンの範囲である。ここでも、本発明において有用な粘性誘導成分の分子量は、用いる粘性誘導成分のタイプおよび問題の本組成物の所望の最終粘度、ならびに、場合により1以上の他の因子に基づく実質的な範囲にわたって変動し得る。一実施態様において、2以上の異なる分子量範囲の粘性誘導成分を用いて、組成物の、剪断により粘性が低下する性質を増大させてもよい。
【0107】
非常に有用な一実施態様において、粘性誘導成分は重合ヒアルロン酸塩成分、例えば金属ヒアルロン酸塩成分、好ましくはアルカリ金属ヒアルロン酸塩、アルカリ土類金属ヒアルロン酸塩およびそれらの混合物から選択されるもの、さらにより好ましくはヒアルロン酸ナトリウムまたはカリウムおよびそれらの混合物から選択されるものである。かかるヒアルロン酸塩成分(すなわち重合ヒアルロン酸)の分子量は好ましくは、約5万ダルトンまたは約10万ダルトン〜約130万ダルトンまたは約200万ダルトンの範囲である。一実施態様において、本組成物は、約0.05%〜約0.5%(w/v)の範囲の量の重合ヒアルロン酸塩成分を含む。さらに有用な実施態様において、ヒアルロン酸塩成分は組成物の約1%〜約4%(w/v)の範囲の量にて存在する。この後者の場合において、非常に高い重合体の粘度によって、眼の中に注射した際に、溶解した溶質の粒子の沈降および拡散を遅くするゲルが形成される。ゲルは針およびシリンジによって原体(bulk)容器から容易には取り出せないので、かかる組成物は予め充填されたシリンジとして市販されている場合がある。予め充填されたシリンジは、処理、および誤操作または汚染の機会がより少ないことから、注入を行う人にとって簡便であり、安全であるという利点を有する。
【0108】
水性担体成分は、有利には眼科的に許容されるものであり、眼科用組成物に有用な1以上の従来の賦形剤を含み得る。本組成物は好ましくは、主要量(major amount)の液体の水を含む。本組成物は、好ましくは、滅菌、例えば眼に用いる前に滅菌されていてもよく、そのようであるのが好ましい。
【0109】
本組成物は好ましくは、組成物のpHを調節するおよび/または維持するのに効果的な量の少なくとも1の緩衝剤成分、および/または組成物の浸透圧または重量モル浸透圧濃度を調節するのに効果的な量の少なくとも1の浸透圧成分を含む;好ましくは浸透圧および/または重量モル浸透圧濃度は、硝子体液と実質的に等張性であろう。より好ましくは、本組成物は緩衝剤成分および浸透圧成分の両方を含む。
【0110】
緩衝剤成分および浸透圧成分は眼科分野において慣習的な、およびよく知られているものから選択し得る。かかる緩衝剤成分の例には、限定するものではないが、酢酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、リン酸緩衝液、ホウ酸塩緩衝剤など、およびそれらの混合物が含まれる。リン酸緩衝液は特に有用である。有用な浸透圧成分には、限定するものではないが、塩、特に塩化ナトリウム、塩化カリウム、マンニトールおよび他の糖アルコールおよび他の適切な眼科的に許容される浸透圧成分およびそれらの混合物が含まれる。
【0111】
用いられる緩衝剤成分の量は好ましくは、組成物のpHを約6〜約8、より好ましくは約7〜約7.5の範囲に維持するのに十分な量である。用いられる浸透圧成分の量は好ましくは、本組成物に約200〜約400、より好ましくは約250〜約350 mOsmol/kgの範囲の重量モル浸透圧濃度を提供するのに十分なものである。有利には、本組成物は実質的に等張性である。
【0112】
本組成物は、1以上の他の成分を、本組成物に1以上の有用な特性および/または利益を提供するのに効果的な量にて含み得る。例えば、本組成物は追加の保存剤成分を実質的に含まなくてもよいが、他の実施形態において、本組成物は、有効量の保存剤成分、好ましくはベンジルアルコールよりも組成物を配置する眼の後区の組織に適合性のかかる成分を含む。かかる保存剤成分の例には、限定するものではないが、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジン、PHMB(ポリヘキサメチレンビグアナイド)、メチルおよびエチルパラベン、ヘキセチジン、亜塩素酸塩成分、例えば、安定化二酸化塩素、金属亜塩素酸塩など、他の眼科的に許容される保存剤など、およびそれらの混合物が含まれる。本組成物中の保存剤成分の濃度は、存在するならば、組成物を保存するのに効果的な濃度であり、しばしば組成物の約0.00001%〜約0.05%または約0.1%(w/v)の範囲である。
【0113】
さらに、MAACが組成物中にて懸濁液である場合、本組成物は、組成物中のMAAC粒子の懸濁または再懸濁を促進するのに効果的な有効量の再懸濁成分を含み得る。上記のように、特定の実施形態において、本組成物は追加の再懸濁成分を含まない。本組成物の他の実施形態において、有効量の再懸濁成分を用いて、例えば、MAAC粒子が懸濁液中に所望のように維持される、および/または本組成物中に比較的容易に望ましく再懸濁できることを、さらなる程度に保障する。有利には、本発明において再懸濁成分を用いるならば、ポリソルベート80よりも、組成物を配置する眼の後区の組織に適合性であるように選択する。
【0114】
いずれの適切な再懸濁成分も本発明において用いられ得る。かかる再懸濁成分の例には、限定するものではないが、界面活性剤、例えば商標PLURONIC(登録商標)の名称にて販売されているポロキサン(poloxane);チロキサポール;サルコシン塩(sarcosinate);ポリエトキシ化ヒマシ油、他の界面活性剤などおよびそれらの混合物などが含まれる。
【0115】
再懸濁成分の非常に有用な種類の1つは、ビタミン誘導体から選択されるものである。かかる物質は眼科用組成物中の界面活性剤として用いることを以前から提案されているが、それらは本組成物においても再懸濁成分として効果的であることが分かった。有用なビタミン誘導体の例には、限定するものではないが、ビタミンEトコフェロールポリエチレングリコールスクシネート、例えば、ビタミンEトコフェロールポリエチレングリコール1000スクシネート(ビタミンE TPGS)が含まれる。他の有用なビタミン誘導体には、ここでも限定するものではないが、ビタミンEトコフェロールポリエチレングリコールスクシンアミド、例えばビタミンEトコフェロールポリエチレングリコール1000スクシンアミド(ビタミンE TPGSA)が含まれ、ここではポリエチレングリコールとコハク酸間のエステル結合がアミド基によって置換されている。
【0116】
目下有用な再懸濁成分は、存在するならば、例えば、組成物の製造過程において、またはその後に、本組成物中の粒子の懸濁を促進するのに効果的な量にて本発明による組成物中に存在する。用いる再懸濁成分の具体的な量は、例えば、用いる具体的な再懸濁成分、再懸濁成分が用いられる具体的な組成物などの因子に依拠して広範囲にわたって変動し得る。再懸濁成分が存在するならば、本組成物中のその適切な濃度は、しばしば組成物の約0.01%〜約5%、例えば約0.02%または約0.05%〜約1.0%(w/v)の範囲である。
【0117】
MAAC自体の力価および効力はもちろんのこと、MAACの溶解性も本MAAC含有組成物の有効性にとって明らかに重要である。非常に可溶性のMAACは眼内組織により容易に、および直ちに効果を示すが、それゆえ、効果的な用量を実質的に超えることを避けるために、より少ない用量のMAAC(およびより頻繁な投与)が必要とされ得る。本組成物の粘度は、これらの非常に可溶性のMAACでもある程度まで拡散を遅らせるが、例えば本発明のMAAC組成物中にMAACが隔離されるまたはいくらか不溶性である(よってインサイチュ期間にわたって可溶化される)場合に当てはまるような、延長された輸送期間およびそれによる効率を効果的には提供しないであろう。眼内組織に対して最小限に可溶性のMAACの利用可能性は、これらの物質についての拡散速度によって制限され得る。容易に溶解するMAACにおける場合と同様に、ゆっくりとした溶解も患者にとって良くも悪くもある。一方、本組成物の単回の硝子体内注射後のMAACの平均消失半減期は、有利にかなり長い。一方、眼の硝子体コンパートメントにおける治療薬物のレベルは、MAAC粒子のゆっくりとした溶解のために、いくらかの時間(例えば約1〜約3日)の間は達成されない可能性がある。
【0118】
本発明の一実施態様において、例えば、MAACがあまり可溶性でない場合、特にMAACがあまり可溶性でなく、かつ比較的高力価および/または効力を有する場合、有効量の可溶化成分を組成物中に提供して、マイナー量、すなわち50%未満、例えばMAACの1%または約5%〜約10%または約20%の範囲の量を可溶化する。例えば、シクロデキストリン成分、例えば、β-シクロデキストリン、スルホ-ブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBE)、他のシクロデキストリンなど、およびそれらの混合物を、約0.5〜約5.0%(w/v)にて含むと、MAACの初期用量の約1〜約10%が可溶化され得る。この予め可溶化された画分により、すぐに生体が利用可能な負荷投与量が提供され、これにより治療有効性を達成する時間が遅れるのが避けられるまたは最小になる。
【0119】
かかる可溶化成分の使用は、そうでなければかなり不溶性のMAACを、治療有効性のために眼の中にいずれかの程度に比較的素早く「バースト」放出するのに有利である。かかる可溶化成分は、当然ながら、組成物を配置する眼の後区の組織への不当な損傷を避けるために、眼科的に許容されるまたは少なくともかかる後区に十分に適合性であるべきである。
【0120】
硝子体内投与後のMAACの薬物動態は、薬物溶解速度および目の前側の経路による薬物排泄速度の両方を包含し得る。患者には典型的には、例えばおよそ2または3ヶ月ごとの、あるいは必要に応じて、繰り返し投与が必要である。
【0121】
本発明の一実施態様において、本組成物は、持続放出成分、例えば、重合体(例えばゲルおよびミクロスフェアの形態)、例えば、ポリ(D,L,-ラクチド)またはポリ(D,L-ラクチド コ-グリコリド)を、局所拡散速度および/またはMAAC粒子溶解速度を減少させるのに効果的な量にてさらに含有する。その結果、より低いCmaxおよびより延長された治療濃度域を有する初めより良い消失速度特性が得られ、これにより多くの患者にとって必要な注射の間隔が延長される。
【0122】
いずれかの適切な、好ましくは条件的に許容される、放出成分を用い得る。有用な例は上記の通りである。持続放出成分は、残留物が長期間にわたって残らないように、好ましくは眼の中において生分解性または生体吸収性である。含まれる遅延放出成分の量は、例えば、用いられる具体的な持続放出成分、望まれる具体的な放出特性などの因子に依拠して、比較的広範囲にわたって変動し得る。遅延放出成分が存在する場合、本組成物に含まれるその典型的な量は、組成物の約0.05〜0.1〜約0.5または約1%以上(w/v)(組成物の総体積におけるその成分の重量)の範囲である。
【0123】
本組成物は、適切なブレンド/加工技術、または例えば1以上の従来のブレンド技術などの技術を用いて調製できる。調製処理は、ヒトまたは動物の眼の後区内への配置または注射に有用な形態の組成物が得られるように選択すべきである。可溶性のMAACは、ヒアルロン酸溶液と簡単に混合できる。いくらか不溶性のMAACを用いる有用な一実施態様において、MAACの分散は、MAACと水、および最終組成物中に含められるべき賦形剤(粘性誘導成分以外)を合わせることによりなされる。それらの成分を混合してMAACを分散させ、次いでオートクレーブにかける。あるいは、滅菌担体に加える前にMAAC粒子にγ線を照射してもよい。粘性誘導成分は、無菌のものを購入するか、または従来の方法により、例えば、希釈溶液を濾過して凍結乾燥させ無菌粉末を産生することにより滅菌してもよい。無菌の粘性誘導成分を水と合わせ、水性濃縮物を作製する。無菌条件下において、濃縮されたMAAC分散物をスラリーとして粘性誘導成分の濃縮物にブレンドするまたは混合する、および加えるまたは合わせることができる。所望の組成物を提供するのに十分な量(q.s.)の水を加え、その組成物を均一になるまで混合する。
【0124】
本組成物を用いる方法を提供し、本発明の範囲内に含める。一般に、かかる方法は、本発明による組成物をヒトまたは動物の眼の後区に投与することを含み、これにより所望の治療効果が得られる、例えば、眼の前区または後区の所定の症状の処置がなされる。投与工程は硝子体内注射、結膜下注射、テノン嚢下注射、球後注射、脈絡膜上注射などの少なくとも1つを有利に含む。適切なサイズの針、例えば27ゲージ針または30ゲージ針を含むシリンジ器具は、ヒトまたは動物の眼の後区に組成物を注射するのに効率的に用いることができる。
【0125】
本発明に従って処置できるまたは取り組むことができる眼症状には、限定するものではないが、以下が含まれる:
黄斑症/網膜変性症:黄斑変性症(加齢性黄斑変性症(ARMD)、例えば、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症を含む)、脈絡膜新血管新生、網膜症(糖尿病性網膜症、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症を含む)および黄斑浮腫(嚢胞様黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫を含む)。ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎:急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、散弾状網脈絡膜炎(birdshot retinochoroidopathy)、感染症(梅毒、ライム病、結核症、トキソプラズマ症)、ブドウ膜炎(中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)および前部ブドウ膜炎を含む)、多巣性脈絡膜炎、多発消失性白点症候群(MEWDS)、眼サルコイドーシス、後部強膜炎、匐行性脈絡膜炎(serpignous choroiditis)、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群およびフォークト・小柳・原田症候群。血管疾患/滲出性疾患:網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高圧性眼底変化(hypertensive fundus change)、眼虚血症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半側網膜静脈閉塞症(hemi-retinal vein occlusion)、乳頭静脈炎(papillophlebitis)、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、頚動脈疾患(CAD)、霜状分枝血管炎(frosted branch angitis)、鎌状赤血球網膜症および他の異常ヘモグロビン症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病。外傷性/外科的:交感性眼炎、ブドウ膜網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザー、PDT、光凝固、外科術中の低灌流、放射線網膜症、骨髄移植網膜症。増殖性障害:増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、増殖性糖尿病性網膜症。感染性障害:眼ヒストプラズマ症、眼トキソカラ症、推定眼ヒストプラズマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラズマ症、HIV感染に関連する網膜疾患、HIV感染に関連する脈絡膜疾患、HIV感染に関連するブドウ膜疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核症、片側性瀰漫性亜急性視神経網膜炎(diffuse unilateral subacute neuroretinitis)およびハエ幼虫症。遺伝障害:網膜色素変性症、網膜ジストロフィーに関連する全身性疾患、先天停止性夜盲、錐体ジストロフィー、スタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮の模様ジストロフィー、X連鎖性網膜分離症、ソースビー眼底変性症、良性中心性黄斑症(benign concentric maculopathy)、ビエッティ結晶性ジストロフィー(Bietti's crystalline dystrophy)、弾力線維性仮性黄色腫。網膜裂孔/円孔:網膜剥離、黄斑円孔、巨大網膜裂孔。腫瘍:腫瘍に関連する網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の混合性過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍(vasoproliferative tumor)、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍。その他:点状脈絡膜内層症、急性後部多発性小板状色素上皮症、近視性網膜変性症、急性網膜色素上皮炎など。
【0126】
本薬物送達系の治療成分は1以上の高分子治療剤を含む。よって、治療成分はMAACを含むと理解され得る。適切な高分子治療剤の例には、ペプチド、タンパク質、核酸、抗体および抗体フラグメントが含まれる。例えば、本薬物送達系の治療成分は、抗血管新生化合物、眼出血処置化合物、高分子非ステロイド性抗炎症剤、増殖因子阻害剤(例えばVEGF阻害剤)、増殖因子、サイトカイン、抗体、オリゴヌクレオチドアプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子干渉リボ核酸(siRNA)分子および抗生物質からなる群から選択される1以上の治療剤を(限定するものではないが)含み得る、本質的にからなり得る、または完全にからなり得る。本発明の系は、治療的に有効な用量の(1つまたは複数の)薬剤を眼の領域に直接提供して、1以上の望ましくない眼症状の1以上の症候を処置する、予防する、および/または減少させるのに効果的である。よって、それぞれの投与によって、複数の治療剤は必要とされる部位において利用可能となるであろう、そして、より多い頻度の注射を行うよりも、または自己投与する液滴の場合には、活性物質または薬剤への制限されたバーストのみの暴露による無効な処置よりも、または全身的投与の場合には、より高い全身性の暴露および同時に起こる副作用よりも、または非持続放出投与の場合には、パルス状の(pulsed)非持続放出投与に伴う潜在的に毒性の一過性の高い組織濃度よりも、延長された期間、効果的な濃度にて維持されるであろう。
【0127】
好ましい一実施態様において、本発明の治療成分には、ポリペプチド抗体、抗体フラグメント、例えばF(ab)およびF(ab)'抗体フラグメント、組換え抗体誘導体および抗体模倣物が含まれ得る。
【0128】
抗体模倣物は、上述のフィブロネクチンに基づく人工抗体によるような、抗体の可変領域に類似する「指定可能な」領域を含み得る。抗体模倣物、例えば、これらの、有利に免疫応答を刺激する能力が減少している可能性がある抗体模倣物は、効果的に、治療的に有効な用量のその剤を眼の領域に直接提供して、1以上の望ましくない眼症状の1以上の症候を処置する、予防する、および/または減少させるために、本発明の系と組み合わせて用いることができる。かかる抗体模倣物は、例えば、リガンド、例えばVEGFまたはVEGFR受容体に対して、抗体模倣物の結合および結果として起こるリガンドの活性の中和を引き起こすように、方向付けることができる。VEGFの場合には、抗体模倣物は、VEGFおよび/またはVEGFR、例えばVEGFR-1またはVEGF-2の血管新生活性を阻害または低下させ得る。
【0129】
抗体模倣物および抗体模倣物を構築する方法の例は、例えば、米国特許第6,818,418号;米国特許第6,951,725号;米国特許出願公開第2005/0074865号および米国特許出願公開第2004/0259155号明細書に提供されている。Compound Therapeutics, Inc.は「ADNECTINS(登録商標)」と名付けたフィブロネクチンに基づく「指定可能な」治療的結合分子の1クラスを作製し報告した。抗VEGFR-2 ADNECTIN(登録商標)化合物はCT-322、C7S100およびC7C100を含み、これらは全てイン・ビトロおよび動物モデルにおいてVEGFR-2抑制活性を示し、その初めは2006年にヒト臨床試験に入るスケジュールである。例えばMamluk et al., J. Clin. Oncol. 23:3150(2005年6月1日)も参照のこと。好ましい実施形態において、半減期を長くし、タンパク質の酵素学的消化を減少させるために、抗体模倣物をPEG化してもよい。
【0130】
別の好ましい実施態様において、本発明は、抗血管新生成分および粘性誘導成分を含む治療成分を含む眼内薬物送達系を含む。さらにより好ましくは、本発明は、ヒトVEGF活性を阻害する能力を有する天然または合成抗体または抗体模倣物の少なくとも一部を含む。一実施態様において、抗体部分は、A.4.6.1、F(ab)-12およびhumIIIからなる群から選択される図3の可変重鎖配列に含有される少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50アミノ酸の連続配列を含むアミノ酸配列を含む。別の実施態様において、抗体部分は、A.4.6.1、F(ab)-12およびhumk1からなる群から選択される図4の可変軽鎖配列に含有される少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50アミノ酸の連続配列を含むアミノ酸配列を含む。
【0131】
特定の一実施態様において、治療成分は、ヒト化抗VEGF抗体、またはそのフラグメント(Fabフラグメントを含む)を含む。
【0132】
別の特定の実施態様において、治療成分は、組換えヒト化抗VEGF Fab フラグメント、ラニビズマブ(rambizumab)(LUCENTIS(登録商標))の少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50アミノ酸の連続配列を含む。別の特定の実施態様において、治療成分は、組換えヒト化抗VEGF IgG1合成抗体、ベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))の少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50アミノ酸の連続配列を含む。他の特定の実施態様において、治療成分は、ラニビズマブ(ramizumab)のアミノ酸配列の少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50連続アミノ酸、およびベバシズマブの少なくとも10、または少なくとも15、または少なくとも20、または少なくとも25、または少なくとも30、または少なくとも40、または少なくとも50連続アミノ酸を分離して含む。
【0133】
特定の実施形態において、本製剤の治療成分は、短いまたは低分子干渉リボ核酸(siRNA)またはオリゴヌクレオチドアプタマーを含む、本質的にからなる、またはからなる。例えば、いくつかの好ましい実施形態において、siRNAは、血管内皮増殖因子(VEGF)またはVEGF受容体の細胞における産生を阻害するのに効果的なヌクレオチド配列を有する。
【0134】
VEGFは内皮細胞有糸分裂促進物質であり(Connolly D.T.、et al.、Tumor vascular permeability factor stimulates endothelial growth and angiogenesis. J. Clin. Invest. 84: 1470-1478 (1989))、その受容体、VEGFRとの結合によって、血管内皮細胞の成長および維持において、および新しい血管およびリンパ管の発生において重要な役割を果たす(Aiello L.P., et al., Vascular endothelial growth factor in ocular fluid of patients with diabetic retinopathy and other retinal disorders, New Engl. J. Med. 331: 1480-1487 (1994))。
【0135】
最近、VEGF受容体ファミリーは3つのタイプの受容体、VEGFR-1(Flt-1)、VEGFR-2(KDR/Flk-1)およびVEGFR-3(Flt-4)からなると考えられており、これらは全て受容体型チロシンキナーゼスーパーファミリーに属する(Mustonen T. et al.、Endothelial receptor tyrosine kinases involved in angiogenensis, J. Cell Biol. 129: 895- 898 (1995))。これらの受容体のうち、VEGFR-1はVEGFに最も強く結合するようであり、VEGFR-2はVEGFR-1よりも弱く結合するようであり、VEGFR-3は本質的に結合を示さないが、VEGFファミリーの他のメンバーに結合する。VEGFR-1のチロシンキナーゼドメインは、VEGFR-2のそれよりもかなり弱いが、内皮細胞に対してシグナルを伝達する。よって、VEGFは新しい血管の成長を刺激する物質である。眼における新しい血管の発生、新血管新生または血管新生は、ウェットな黄斑変性症および他の眼症状(浮腫を含む)において視覚の損失を引き起こすと考えられている。
【0136】
一実施態様において、本組成物は活性なsiRNA分子を含み得、標的細胞においてリボヌクレアーゼ複合体(RISC)と結合する、有効量の活性なsiRNA分子を放出し、標的タンパク質、例えばVEGFまたはVEGF受容体の産生を阻害し得る。本発明の系のsiRNAは二本鎖または一本鎖RNA分子であり得、約50ヌクレオチド未満の長さを有し得る。特定の実施形態において、本発明の系はヘアピン構造を有するsiRNAを含み得、よって短いヘアピンRNA(shRNA)と解してもよく、InvivoGen(San Diego, CA)などから入手可能である。
【0137】
本発明の系に用いられるいくつかのsiRNAは好ましくは、他の細胞性タンパク質と比較してVEGFまたはVEGF受容体の産生を阻害する。特定の実施形態において、siRNAは、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは約70%以上、VEGFまたはVEGFRの産生を阻害し得る。よって、これらのsiRNAはこれらの所望の範囲の阻害を提供するのに効果的なヌクレオチド配列を有する。
【0138】
特に好ましい実施態様において、RNAi分子はsiRNAオリゴヌクレオチドを含む。別の好ましい実施態様において、siRNAは標的細胞におけるVEGFR-2受容体の発現を停止させることができる。抗VEGF-2 siRNAは、例えば、以下のヌクレオチド配列およびそれらの相補的オリゴヌクレオチド配列、好ましくはそれらの正確な相補体を含み得る。
【0139】
VEGF-2受容体に対して方向付けられたRNAiオリゴヌクレオチドの例は、SIRNA Therapeutics, Inc.により開発された、VEGFR-1および/またはVEGFR-2に対して発現停止活性を有するsiRNA治療剤、siRNA Zを含み得る。
iB C U G A G U U U A A A A G G C A C C C TT iB
配列番号22
TsT G A C U C A A A U U U U C C G U G G G。
配列番号23
ここでiBは逆位塩基であり、TsTはホスホロチオエート結合により連結されたジチミジンジヌクレオチドセグメントである。これらのそれぞれの修飾はオリゴヌクレオチドにヌクレアーゼ耐性を加えると考えられている。このおよび他の関連siRNA分子は、例えば、米国特許出願公開第2005/0233344号明細書(これにより参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0140】
本質的に、siRNA Zは血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR-1)に対して親和性を有する修飾された短い干渉RNA(siRNA)である。VEGFR-1は主に血管内皮細胞上に位置しており、VEGFおよび胎盤増殖因子(PlGF)の両方によって刺激され、新しい血管の成長を引き起こす。VEGFR-1を標的とすることにより、siRNA Zは、VEGFおよび/またはPlGFにより影響される望ましくない眼の血管新生の活性化を強力に下方制御することができる。機能性RNAiを作製する一般的な方法および特異的siRNAの例は、例えば、Kim et al., Am. J. Pathology 165:2177-2185 (2004);Tkaei et al., Cancer Res. 64:3365-3370 (2004年5月15日);Huh et al., Oncogene 24:790-800(2005年1月27日);国際公開第2003/070910号;国際公開第2005/028649号;国際公開第2005/044981号;国際公開第2005/019453号;国際公開第2005/0078097号;国際公開第2003/070918号;国際公開第2003/074654号;国際公開第2001/75164号;国際公開第2002/096927号パンフレット;米国特許第6,506,559号;および6,469,158号明細書(それぞれの文献はこれによりその全体が参照により本明細書に組み込まれる)に含まれている。
【0141】
さらに、本発明はまた、PDGF(血小板由来増殖因子)の活性(発現および翻訳を含む)を阻害することが出来るタンパク質および核酸治療剤、例えば抗体、抗体模倣物およびsiRNA分子の使用を含む。PDGF mRNAに対して方向付けられたsiRNAは、米国特許出願公開第2005/0233344号明細書(これによって参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0142】
siRNAによるジーンサイレンシングの分野の状況は、コンピューターアルゴリズムによって、所定のmRNAまたはcDNA配列を分析する、およびかかる配列に基づくオリゴヌクレオチドの構築のために有効なsiRNAヌクレオチド配列を決定することができるところまで進歩している。例えば、Invitrogen Corp.はBLOCK-IT(商標)RNAi Designerと呼ばれるフリーのウェブベースのツールを提供しており、そこに標的mRNAを入力すると、10の上質なsiRNA配列が得られるであろう。BLOCK-IT(商標)RNAi Designerに基づくヒトVEGF-2の10の最上級の阻害剤のリストを配列番号1〜配列番号10として以下に示す。これらのそれぞれのオリゴヌクレオチドは、好ましくはそれらの相補的な、好ましくは正確に相補的な配列と一緒に用いられ得る。
【0143】
gcgauggccucuucuguaa
配列番号1
ccaugucucggguccauuu
配列番号2
gcuuuacuauucccagcua
配列番号3
gggaauacccuucuucgaa
配列番号4
gcaucagcauaagaaacuu
配列番号5
gcugacauguacggucuau
配列番号6
ggaauugacaagacagcaa
配列番号7
ccacuuaccugaggagcaa
配列番号8
gcuccugaagaucuguaua
配列番号9
gcacgaaauauccucuuau
配列番号10
【0144】
ヒトVEGFアイソフォームのヌクレオチド配列、VEGF 165は配列番号11として以下に特定する。このヌクレオチド配列はGenBankアクセッション番号AB021221を有する。
【表1】

【0145】
ヒトVEGFR2のヌクレオチド配列は配列番号12として以下に特定する。このヌクレオチド配列はGenBankアクセッション番号AF063658を有する。
【表2−1】

【表2−2】

【表2−3】

【表2−4】

【0146】
有用なsiRNAの一具体例はAcuity Pharmaceuticals(Pennsylvania)またはAvecia BiotechnologyからCand5の名称で入手可能である。Cand5はVEGFを産生する遺伝子を本質的に発現停止する治療剤である。よって、VEGFに選択的なsiRNAを含む薬物送達系は必要とする患者においてVEGF産生を防止するまたは減少させることができる。Cand5のヌクレオチド配列は以下の通りである。
【0147】
Cand5のセンス鎖の5'〜3'ヌクレオチド配列を配列番号13として以下に特定する。
ACCUCACCAAGGCCAGCACdTdT(配列番号13)
【0148】
Cand5のアンチセンス鎖の5'〜3'ヌクレオチド配列を配列番号14として以下に特定する。
GUGCUGGCCUUGGUGAGGUdTdT(配列番号14)
【0149】
上述のように、有用なsiRNAの別の例は、Sirna Therapeutics(Colorado)からsiRNA Zの名称で入手可能である。siRNA Zは、血管内皮増殖因子受容体-1(VEGFR-1)を標的とする化学的に修飾された短い干渉RNA(siRNA)である。1以上の血管内皮増殖因子の受容体をコードするmRNAの合成、発現および/または安定性を制御する核酸分子のいくつかのさらなる例が、米国特許第6,818,447号明細書(Pavco)(これによって参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に開示されている。
【0150】
よって、本発明の薬物送達系は、上記に特定したCand5またはsiRNA Zのヌクレオチド配列と実質的に同一なヌクレオチド配列を有するsiRNAを含むMAACを含み得る。例えば、siRNAのヌクレオチド配列は、Cand5またはsiRNA ZのsiRNAのヌクレオチド配列に対して少なくとも約80%の配列相同性を有し得る。好ましくは、本発明のsiRNAはCand5またはsiRNA ZのsiRNAの少なくとも約90%、より好ましくは少なくとも約95%のヌクレオチド配列相同性を有する。他の実施形態において、siRNAは、標的組織においてVEGFまたはVEGFR合成の阻害または減少を引き起こすVEGF mRNAまたはVEGFR mRNAアイソフォームに対して相同性を有し得る。抗VEGFRオリゴヌクレオチドの例は、本明細書の配列番号1-10および13および14に記載のものを含む。
【0151】
本発明の粘性MAAC含有製剤の別の実施態様において、治療成分は、エンドスタチン(例えばNCBIアクセッション番号AAK50626)、アンギオスタチン(例えばNCBIアクセッション番号P00747)、タムスタチン(NCBIアクセッション番号AAF72632)、色素上皮由来因子(例えばNCBIアクセッション番号AAA84914)、およびVEGF TRAP(Regeneron Pharmaceuticals、New York)からなる群から選択される抗血管新生タンパク質を含む。VEGF Trapは、ヒト抗体のFc領域(C-末端)に連結された2つの異なるVEGF受容体の細胞外ドメインの部分を含有する融合タンパク質である。VEGF Trapの調製は、米国特許第5,844,099号明細書に記載されている。
【0152】
本発明の系の他の実施形態は、抗VEGF抗体、抗VEGF受容体抗体、抗インテグリン抗体、それらの治療的に有効なフラグメントおよびそれらの組み合わせからなる群から選択される抗体を含み得る。
【0153】
本発明の系に有用な抗体には、抗体フラグメント、例えば、Fab'、F(ab)2、FabcおよびFvフラグメントが含まれる。抗体フラグメントは、完全抗体の修飾によって産生されるか、または組換えDNA法を用いて新たに合成されたものであり得、現在の通常の技術によって作製された「ヒト化」抗体をさらに含む。
【0154】
抗体は、その抗体があるタンパク質との結合反応に機能するならば、そのタンパク質「に特異的に結合する」または「に免疫反応性である」。抗体のタンパク質への結合は、タンパク質とそのリガンドまたは受容体間の妨害を提供し得、よってタンパク質/受容体相互作用によって媒介される機能を阻害し得るまたは減少させ得る。タンパク質またはペプチドがある抗体と免疫反応性であるかどうかを決定するいくつかの方法は、当分野において既知である。イムノケミルミネセンスメトリックアッセイ(ICMA)、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)がいくつかの例である。
【0155】
特定の具体的実施態様において、本製剤は、VEGFと相互作用する(例えばVEGFと結合する、およびVEGFの活性を低下させるまたは阻害する)モノクローナル抗体、そのフラグメント、または抗体の可変領域に由来する組換えポリペプチドまたはその混合物を含む治療成分を含み得る。本発明の眼の薬剤に有用なモノクローナル抗体は、当業者に知られるルーチン的な方法を用いて得ることができる。簡単に説明すると、動物、例えばマウスに所望の標的タンパク質またはその部分、例えばVEGFまたはVEGFRを注射する。その標的タンパク質は好ましくは担体タンパク質と組み合わされている。それらの動物を1以上の標的タンパク質の注射によって追加免疫し、融合の3日前に静脈内(IV)ブースターによって過免疫する(hyperimmunized)。マウスから脾臓細胞を単離し、標準的方法によって骨髄腫細胞と融合させる。ハイブリドーマは標準的ヒポキサンチン/アミノプテリン/チミン(HAT)培地において標準的方法によって選択することができる。標的タンパク質を認識する抗体を分泌するハイブリドーマを標準的な免疫学的技術を用いて同定し、培養し、サブクローニングし、抗体を例えばアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。本発明の系の特定の実施形態において、抗VEGFまたは抗VEGFRモノクローナル抗体はImClone Systems, Inc.(NY、NY)から得られる。例えば、本製剤は、ImClone SystemsからIMC-18F1の名称で、またはIMC-1121 Fabの名称で入手可能な抗体を含み得る。本薬剤において用いられ得る別の抗VEGF抗体フラグメントは、GenentechおよびNovartisによって商品名LUCENTIS(登録商標)(ラニビズマブ)として製造されている。LUCENTIS(登録商標)は、結腸直腸癌の処置に認可されており、AVASTIN(登録商標)として市販されているGenentechの抗VEGF抗体ベバシズマブの誘導体である。
【0156】
特定の実施形態において、本製剤はVEGFの165-アミノ酸型(VEGF 165)と結合するオリゴヌクレオチドアプタマーを含み得る。有用な抗VEGFアプタマーの一例は、Eyetech PharmaceuticalsおよびPfizerによって商品名 MACUGEN(登録商標)(ペガプタニブナトリウム)として製造されている。MACUGEN(登録商標)は、塩化ナトリウム、一塩基性および二塩基性リン酸ナトリウムおよび水の中の0.3 mgペガプタニブナトリウムの3.47 mg/ml溶液を含む注射用液体溶液として市販されている。アプタマーはまた、VEGFR、例えばVEGFR-2に対する抑制効果を有するように構成され得る。
【0157】
本発明の製剤および方法に有用な別のクラスの治療剤は、VEGFR抑制性抗体模倣物、例えばControl Therapeutics, Inc.により作製されたVEGFR-2阻害剤CT322、C7S100およびC7C100を含む。これらの抗体模倣物は、フィブロネクチンの足場を抗体の可変領域と同様に所定のリガンドに選択的に結合する「指定可能な」領域とともに用いて構築された人工抗体を含む。これらの人工抗体は、抗体よりも免疫原性が低いように設計することができるというさらなる利点を有する。
【0158】
加えてまたはあるいは、本発明の系はウロキナーゼを阻害するペプチドを含み得る。例えば、そのペプチドは8アミノ酸を含み得、ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子、uPAを阻害するのに効果的である。ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子はしばしば、多数のタイプのヒトの癌において過剰発現していることが観察されている。よって、ウロキナーゼ阻害剤を含む本発明の系は、効果的に、癌および転移を処置することができ、また腫瘍成長、例えば眼の腫瘍成長を減少させることができる。ウロキナーゼペプチド阻害剤の一例はA6として知られており、uPAの非受容体型結合領域に由来し、uPAのアミノ酸136-143を含む。
【0159】
A6の配列はAc-KPSSPPEE-アミド(配列番号15)である。
【0160】
特定の本製剤は、A6とシスプラチンの組合せを含み得、眼において新血管新生を効果的に減少させることができる。さらなるペプチドは、そのペプチドがA6と同様の阻害活性を有するような類似するアミノ酸配列を有し得る。例えば、そのペプチドは保存的アミノ酸置換を有し得る。A6に対して少なくとも80%の相同性、好ましくは少なくとも約90%の相同性を有するペプチドはuPAの所望の阻害を提供し得る。
【0161】
本発明の系はまた、ラパマイシン(シロリムス)を含み得る。ラパマイシンは、抗生物質、免疫抑制薬および抗血管新生薬として機能するペプチドである。ラパマイシンはA.G. Scientific, Inc.(San Diego、Calif.)から得ることができる。眼内投与のための粘性誘導成分を含むラパマイシン製剤を使用すると相乗的な治療効果が達成され得る。ラパマイシンは、免疫抑制薬、抗血管新生薬、細胞毒性薬またはそれらの組み合わせであると解され得る。ラパマイシンの化学式はC51H79NO13であり、914.18の分子量を有する。ラパマイシンにはCAS登録番号53123-88-9が割り当てられている。ラパマイシン含有薬剤は、T-細胞媒介性の免疫応答を妨害することにより、および/または眼の特定の細胞集団においてアポトーシスを引き起こすことにより、1以上の眼症状に効果的な処置を提供し得る。よって、ラパマイシン含有薬剤は、1以上の眼症状、例えば、ブドウ膜炎、黄斑変性症(加齢性黄斑変性症を含む)および他の後眼部症状のに効果的な処置を提供することができる。ペプチド、例えばラパマイシンを本製剤に組み込むことにより、非粘性液体製剤の硝子体内注射および経強膜輸送を含む、他の輸送形態に伴い得る副作用は減少して、ラパマイシンの治療上有効量を眼の内部に提供することができることを発見した。例えば、本製剤は1以上の減少した副作用、例えば1以上の以下の減少を有し得る:上昇した脂質およびコレステロールレベル、高血圧、貧血、下痢、発疹、ざ瘡、血小板減少症、および血小板およびヘモグロビンの減少。これらの副作用は一般にラパマイシンの全身投与時に観察され得るが、1以上のこれらの副作用は眼への投与時においても同様に観察され得る。米国特許出願公開第2005/0064010号明細書(Cooperら)は治療剤の眼の組織への経強膜輸送を開示している。
【0162】
さらに、ラパマイシン含有粘性抗血管新生製剤はまた、他の抗炎症薬(ステロイド性および非ステロイド性抗炎症薬を含む)、他の抗血管新生薬および他の免疫抑制薬と組み合わせて用いられ得る。かかる併用治療は、本発明の眼科製剤中の1種類より多い治療剤を提供することによって、2以上の種類の治療剤を含有する2以上の粘性薬物輸送製剤を投与することによって、またはラパマイシン含有粘性製剤と1以上の他の治療剤を含有する眼科用組成物を投与することによって、達成され得る。併用治療法は薬物送達系の配置を含み得、それはラパマイシンおよびトリアムシノロンアセトニドを含む粘性製剤を眼の硝子体内に注射することを含む。他の方法は、ラパマイシンとタクロリムス、ラパマイシンとメトトレキサートおよび他の抗炎症薬を含む本発明の粘性抗血管新生製剤の眼内投与を含み得る。前記のものに加え、本発明の薬物送達系には、他のリムス(limus)化合物、例えば、シクロフィリン(cyclophin)およびFK506-結合タンパク質、エベロリムス、ピメクロリムス、CCI-779(Wyeth)、AP23841(Ariad)、およびABT-578(Abbott Laboratories)が含まれ得る。本発明の移植片に有用なさらなるリムス化合物類似体および誘導体には、米国特許第5,527,907号;6,376,517号;および6,329,386号明細書;および米国特許出願公開第20020123505号明細書に記載のものが含まれる。
【0163】
簡単に説明すると、本粘性眼内組成物のMAACは血管新生を変調する、調節するおよび/または阻害することができる有機分子を含み得る。
【0164】
本化合物はMAACの塩も含み得る。本発明の化合物の製薬的に許容される酸付加塩は、製薬的に許容されるアニオンを含有する非毒性の付加塩を形成する酸から形成されるもの、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩または硫酸水素塩、リン酸塩または酸リン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、糖酸塩(saccharate)およびp-トルエンスルホン酸塩である。
【0165】
よって、本発明の製剤は、MAAC、その塩およびそれらの混合物を含む、本質的にからなる、またはからなるMAACを含み得る。
【0166】
さらなるMAACは、従来の方法を用いて、例えば、当業者に知られるルーチン的な化学合成および組換えDNA、ポリメラーゼ連鎖反応およびタンパク質発現法によって得られうる、または合成され得る。例えば、Sambrook&Russell、「MOLECULAR CLONING:A LABORATORY MANUAL(分子クローニング:研究室マニュアル)」(第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press 2001)(これによってその全体が参照により組み込まれる)を参照のこと。治療的に効果的なMAACは、本明細書に記載のMAACのために用いられる従来のスクリーニング技術を用いてスクリーニングされ、同定され得る。
【0167】
MAACは本製剤中において、可溶性形態、あるいは懸濁液中の粒子状形態または粉末形態であり得る。
【0168】
本製剤のMAACは好ましくは組成物の約10重量%〜90重量%である。より好ましくは、MAACは組成物の約20重量%〜約80重量%である。好ましい一実施態様において、MAACは組成物の約40重量%(例えば30%〜50%)を構成する。別の実施態様において、MAACは組成物の約60重量%を構成する。本発明のさらに別の実施態様において、MAACは、約0.2 mg/100μl、または約0.4 mg/100μl、または約0.5 mg/100μl、または約1.0 mg/100μl、または約2.0 mg/100μl、または約4.0 mg/100μl、または約5.0 mg/100μl、または約6.0 mg/100μl、または約7.0 mg/100μl、または約8.0 mg/100μl、または約10 mg/100μl、または約20 mg/100μl、または約40 mg/100μl、または約60 mg/100μl、または約80 mg/100μlを構成する。
【0169】
特定のアミノ酸配列を有するペプチド、または本特許出願のヌクレオチド配列を有する核酸を参照する場合、そのタンパク質または核酸は、その配列に対して、少なくとも80%の同一性、または少なくとも85%の同一性、または少なくとも90%の同一性、または少なくとも95%の同一性、または少なくとも98%の同一性、または100%の同一性を有する領域を含有し得ると理解されたい。
【0170】
本眼内製剤に含まれるMAACに加え、眼内製剤はまた1以上のさらなる眼科的に許容される治療剤を含んでもよい。例えば、本組成物は、1以上の抗ヒスタミン薬、1以上の抗生物質、1以上のベータブロッカー、1以上のアルファ2アドレナリン作動性受容体拮抗剤、1以上のステロイド、1以上の抗腫瘍薬、1以上の免疫抑制剤、1以上の抗ウイルス薬、1以上の抗酸化剤およびそれらの混合物を含み得る。
【0171】
抗ヒスタミン薬の例は、限定するものではないが、ロラダチン(loradatine)、ヒドロキシジン、ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ブロムフェニラミン、シプロヘプタジン、テルフェナジン、クレマスチン、トリプロリジン、カルビノキサミン、ジフェニルピラリン、フェニンダミン、アザタジン、トリペレナミン、デクスクロルフェニラミン、デクスブロムフェニラミン、メトジラジンおよびトリメプラジン(trimprazine)、ドキシラミン、フェニラミン、ピリラミン、クロルシクリジン(chiorcyclizine)、トンジルアミンおよびそれらの誘導体を含む。
【0172】
抗生物質の例は、限定するものではないが、セファゾリン、セフラジン、セファクロル、セファピリン、セフチゾキシム、セフォペラゾン、セフォテタン、セフロキシム(cefutoxime)、セフォタキシム、セファドロキシル、セフタジジム、セファレキシン、セファロチン、セファマンドール、セフォキシチン、セフォニシド、セフォラニド、セフトリアキソン、セファドロキシル、セフラジン、セフロキシム、シクロスポニン、アンピシリン、アモキシシリン、シクラシリン、アンピシリン、ペニシリンG、ペニシリンVカリウム、ピペラシリン、オキサシリン、バカンピシリン、クロキサシリン、チカルシリン、アズロシリン、カルベニシリン、メチシリン、ナフシリン、エリスロマイシン、テトラサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、アズトレオナム、クロラムフェニコール、塩酸シプロフロキサシン、クリンダマイシン、メトロニダゾール、ゲンタマイシン、リンコマイシン、トブラマイシン、バンコマイシン、硫酸ポリミキシンB、コリスチメタート、コリスチン、アジスロマイシン、オーグメンチン、スルファメトキサゾール、トリメトプリム、ガチフロキサシン、オフロキサシンおよびそれらの誘導体を含む。
【0173】
ベータブロッカーの例は、アセブトロール、アテノロール、ラベタロール、メトプロロール、プロプラノロール、チモロールおよびそれらの誘導体を含む。
【0174】
アルファ2アドレナリン作動性受容体拮抗剤の例は、限定するものではないが、ブリモニジンおよびクロニジンを含む。
【0175】
ステロイドの例は、コルチコステロイド、例えば、コルチゾン、プレドニゾロン、フルオロメトロン(flurometholone)、デキサメタゾン、メドリゾン、ロテプレドノール、フルアザコート(fluazacort)、ヒドロコルチゾン、プレドニゾン、ベタメタゾン、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンヘキサセトニド(riamcinolone hexacatonide)、酢酸パラメタゾン(またはパラメタゾン酢酸エステル)、ジフロラゾン、フルオシノニド、フルオシノロン、トリアムシノロン、それらの誘導体およびそれらの混合物を含む。
【0176】
抗腫瘍薬の例は、アドリアマイシン、シクロホスファミド、アクチノマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン(duanorubicin)、ドキソルビシン、エピルビシン、マイトマイシン、メトトレキサート、フルオロウラシル、カルボプラチン、カルムスチン(BCNU)、メチル-CCNU、シスプラチン、エトポシド、インターフェロン、カンプトテシンおよびそれらの誘導体、フェネステリン(phenesterine)、タキソールおよびその誘導体、タキソテールおよびその誘導体、ビンブラスチン、ビンクリスチン、タモキシフェン、エトポシド、ピポスルファン、シクロホスファミドおよびフルタミドおよびそれらの誘導体を含む。
【0177】
免疫抑制剤の例は、シクロスポニン、アザチオプリン、タクロリムスおよびそれらの誘導体を含む。
【0178】
抗ウイルス薬の例は、インターフェロンガンマ、ジドブジン、塩酸アマンタジン、リバビリン、アシクロビル、バラシクロビル(valciclovir)、ジデオキシシチジン、ホスホノギ酸、ガンシクロビルおよびそれらの誘導体を含む。
【0179】
抗酸化剤の例は、アスコルビン酸塩、アルファ-トコフェロール、マンニトール、還元型グルタチオン、様々なカロテノイド、システイン、尿酸、タウリン、チロシン、スーパーオキシドジスムターゼ、ルテイン、ゼアキサンチン、クリプトキサンチン(cryotpxanthin)、アスタキサンチン(astazanthin)、リコピン、N-アセチル-システイン、カルノシン、ガンマ-グルタミルシステイン、ケルセチン(quercitin)、ラクトフェリン、ジヒドロリポ酸、クエン酸塩またはクエン酸エステル、イチョウ葉エキス(Ginkgo Biloba extract)、茶カテキン類、ビルベリー抽出物、ミタミンEまたはビタミンEのエステル、パルミチン酸レチニルまたはレチニルパルミチン酸エステルおよびそれらの誘導体を含む。
【0180】
他の治療剤は、スクアラミン、炭酸脱水酵素阻害剤、アルファ刺激薬、プロスタマイド(prostamide)類、プロスタグランジン類、抗寄生虫薬、抗真菌薬およびそれらの誘導体を含む。
【0181】
移植片に用いられる1つまたは複数の活性物質の量は、個々にまたは組合せて、必要とされる効果的用量および移植片からの所望の放出速度に依拠して広く変動するであろう。本明細書に示したように、薬剤は移植片の少なくとも約1重量%、より一般的には少なくとも約10重量%であろう、そして通常、組成物の約80重量%以下、より一般的には約40重量%以下であろう。
【0182】
本発明の移植片は、眼症状の症候、例えば眼症状を処置するまたは減少させるのに効果的なMAACの量を放出するように構成される。
【0183】
本明細書に記載の粘性製剤はまた、抗興奮毒性薬または上記のような、例えば以下のような疾患または症状を防ぐためのさらなる治療剤を放出するように形成され得る。
【0184】
緑内障、黄斑症/網膜変性症:黄斑変性症(加齢性黄斑変性症(ARMD)、例えば、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症を含む)、脈絡膜新血管新生、網膜症(糖尿病性網膜症、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症を含む)、および黄斑浮腫(嚢胞様黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫を含む)。
【0185】
ブドウ膜炎/網膜炎/脈絡膜炎:急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、散弾状網脈絡膜炎、感染症(梅毒、ライム病、結核症、トキソプラズマ症)、ブドウ膜炎(中間部ブドウ膜炎(扁平部炎)および前部ブドウ膜炎を含む)、多巣性脈絡膜炎、多発消失性白点症候群(MEWDS)、眼のサルコイドーシス、後部強膜炎、匐行性脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群およびフォークト・小柳・原田症候群。
【0186】
血管疾患/滲出性疾患:網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高圧性眼底変化、眼虚血症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半側網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、頚動脈疾患(CAD)、霜状分枝血管炎、鎌状赤血球網膜症および他の異常ヘモグロビン症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病。
【0187】
外傷性/外科的:交換性眼炎、ブドウ膜網膜疾患、網膜剥離、外傷、レーザー、PDT、光凝固、外科術中の低灌流、放射線網膜症、骨髄移植網膜症。
【0188】
増殖性障害:増殖性硝子体網膜症および網膜上膜、増殖性糖尿病性網膜症。
【0189】
感染性障害:眼ヒストプラズマ症、眼トキソカラ症、推定眼ヒストプラズマ症候群(POHS)、眼内炎、トキソプラズマ症、HIV感染に関連する網膜疾患、HIV感染に関連する脈絡膜疾患、HIV感染に関連するブドウ膜疾患、ウイルス性網膜炎、急性網膜壊死、進行性網膜外層壊死、真菌性網膜疾患、眼梅毒、眼結核症、片側性瀰漫性亜急性視神経網膜炎およびハエ幼虫症。
【0190】
遺伝障害:網膜色素変性症、網膜ジストロフィーに関連する全身性疾患、先天停止性夜盲、錐体ジストロフィー、スタルガルト病および黄色斑眼底、ベスト病、網膜色素上皮の模様ジストロフィー、X連鎖性網膜分離症、ソースビー眼底変性症、良性中心性黄斑症、ビエッティ結晶性ジストロフィー、弾力線維性仮性黄色腫。
【0191】
網膜裂孔/円孔:網膜剥離、黄斑円孔、巨大網膜裂孔。
【0192】
腫瘍:腫瘍に関連する網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の混合性過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍。
【0193】
その他:点状脈絡膜内層症、急性後部多発性小板状色素上皮症、近視性網膜変性症、急性網膜色素上皮炎など。
【0194】
一実施態様において、MAACを含む粘性製剤、例えば、本明細書に記載の製剤は、ヒトまたは動物の患者および好ましくは、生きているヒトまたは動物の眼の後区に投与される。少なくとも1の実施態様において、本発明の粘性MAAC含有製剤は眼の網膜下空間内へ投与する(例えば注射する)。他の実施形態において、患者を処置する方法は、本発明の組成物を含有するMAACを眼の後眼房へ直接配置することを含み得る。他の実施形態において、患者を処置する方法は、硝子体内注射、結膜下注射、テノン嚢下注射、球後注射および脈絡膜上注射の少なくとも1つによって、患者へ組成物を投与することを含み得る。
【0195】
少なくとも1の実施態様において、患者において視覚を改善する、または視覚を維持する方法は、本明細書に記載のような1以上のMAACを含有する組成物を、硝子体内注射、結膜下注射、テノン嚢下注射、球後注射および脈絡膜上注射の少なくとも1つによって、患者へ投与することを含む。適切なサイズの針、例えば22ゲージ針、27ゲージ針または30ゲージ針を含むシリンジ器具は、ヒトまたは動物の眼の後区へ本組成物を注射するのに効果的に用いることができる。
【0196】
本発明の別の態様において、眼の眼症状を処置するための、以下を含むキットを提供する:a)粘性担体中にMAACを含む治療成分を含む持続放出組成物を含む容器;およびb)使用説明書。かかるキットは、予め充填されていて注射の準備ができているシリンジを含み得る。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】図1は、ベバシズマブの可変領域アミノ酸配列をアライニングし、比較し、かかる可変領域中のいくつかの類似のアミノ酸配列を示す、a)ネズミモノクローナル抗VEGF IGg1抗体(配列番号16)、b)最適化VEGF結合を有するヒト化F(ab)フラグメント(配列番号17)およびc)ヒトコンセンサスフレームワークの可変領域(重鎖)(配列番号18)、ならびにd)ネズミモノクローナル抗VEGF IGg1抗体(配列番号19)、e)最適化VEGF結合を有するヒト化F(ab)フラグメント(配列番号20)およびf)ヒトコンセンサスフレームワークの可変領域(軽鎖)(配列番号21)を含むチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0198】
実施例
以下の非限定的な実施例は本発明の側面を例証するために提供する。
【0199】
実施例1
液体組成物中のMAACの硝子体内薬物動態
ラニビズマブ(Lucentis(登録商標);rhuFab V2e)(化合物A);ベバシズマブ(Avastin(登録商標);rhuMab-VEGF)(化合物B);ペガプタニブ(MACUGEN(登録商標))(化合物C);およびsiRNA Z(VEGF-1またはVEGF-2受容体のどちらかまたは両方に対して方向付けられている短い干渉RNA(siRNA))(化合物D)の、メスのアルビノウサギの眼への単一の硝子体内注射の後に、眼の薬物動態を測定する。動物には各化合物10μgの生理食塩水硝子体内注射100μLを投与する。硝子体液サンプル(各時点につきn=4の眼)を投与後0.5、1、2、4、8および12時間の時点に収集する。硝子体液中の各MAACの濃度を液体クロマトグラフィータンデム質量スペクトル分析法(LC-MS/MS)を用いて測定する。
【0200】
試験した全ての化合物はウサギの眼からかなりすばやく排出され、一般に後眼房においてポリペプチドのMAACは核酸のsiRNA Zよりも長い半減期を有する。この研究において得られたデータに基づいて、それぞれのMAACの局所徐放が実行可能であることが決定される。この研究において測定された硝子体クリアランスに基づくと、そして定常状態有効濃度をEC50値(イン・ビトロ受容体結合および細胞内Ca2+アッセイによって測定され得る)の2倍と仮定すると、これらの化合物は眼内輸送のために成功裏に製剤化することができるであろう。
【0201】
実施例2〜8
8つの組成物は以下の通りである:
【表3】

【0202】
【表4】

【0203】
これらのそれぞれの組成物を以下のように調製する。
【0204】
各MAACの濃縮溶液を、MAACと水、およびビタミンE-TPGSを合わせて作製する。これらの成分を混合し、次いで滅菌濾過する。ヒアルロン酸ナトリウムは、無菌粉末として購入しても、または希釈溶液を濾過して滅菌し、凍結乾燥して無菌粉末を作製してもよい。無菌ヒアルロン酸ナトリウムを水に溶解し、所望の終濃度の少なくとも2倍濃度の水性濃縮物を作製する。各濃縮MAAC溶液を混合し、ヒアルロン酸ナトリウム濃縮物に撹拌しながら加える。水を適量(q.s.)(十分に足りるだけ(quantum sufficit)、十分に足りる程度の量、この場合、その濃度の溶液、ゲルまたは懸濁を調製するのに要求される程度の量)加え、ついでその混合物を均一になるまで混合する。
【0205】
これらの組成物は少量の医薬グレードのガラス瓶またはプラスチックシリンジとして販売することができ、ヒトの眼に硝子体内注射すると、加齢性黄斑変性症および糖尿病性網膜症を含む眼の後区の症状を処置するための治療剤として、治療上効果的であることが分かる。
【0206】
実施例9〜11
3つの組成物は以下の通りである:
【表5】

【0207】
これらの組成物は実施例2に記載のものと実質的に類似する方法にて調製する。
【0208】
本組成物の高粘度によって、眼に、例えば硝子体内注射によって投与すると、MAACの拡散速度が実質的に遅くなる。これらの組成物は、容器から針またはシリンジによって容易には取り出せないので、予め充填したシリンジとして市販することができる。しかし、組成物が予め充填されたシリンジによって、組成物は27ゲージ針または30ゲージ針を用いてヒトの眼の後区に効果的に注射され、ヒトの眼に所望の治療効果を提供することができる。
【0209】
実施例9〜11の組成物は、ヒトの眼に硝子体内注射すると、ゼラチン質のプラグまたは薬物デポーが形成されるように、十分な濃度の高分子量のヒアルロン酸ナトリウムを用いるまたは含有する。
【0210】
実施例12および13
2つ組成物は以下の通りである:
【表6】

【0211】
これらの組成物は実施例2に記載のものと実質的に類似する方法にて調製する。
【0212】
これらの組成物は、容器から針またはシリンジによって容易には取り出せないので、予め充填したシリンジとして市販することができる。しかし、組成物が予め充填されたシリンジによって、組成物は27ゲージ針または30ゲージ針を用いてヒトの眼の後区に効果的に注射され、ヒトの眼に所望の治療効果を提供することができる。
【0213】
これらの組成物に(ならびに本明細書の実施例において特定された他の組成物に)用いられるヒアルロン酸ナトリウム粉末は、約4重量%〜約20重量%、好ましくは約4重量%〜約8重量%の範囲にて水を含有する。用いられるヒアルロン酸塩の平均分子量の差異によって、本発明による組成物の粘度に差異が生じ、その結果、組成物は名目上で同じ化学的構造を有することとなる。従って、本明細書に示された粘度は標的粘度と考えられるべきであり、組成物の実際の粘度が標的粘度のプラスまたはマイナス(±)約25%、または約30%、または約35%の範囲内であるならば、その組成物は使用に許容される。
【0214】
実施例に記載のそれぞれの組成物は約1 gm/mlの密度を有するので、本明細書に記載の体積あたりの重量(w/v)に基づく百分率は、重量あたりの重量(w/w)に基づくとも考えることができる。
【0215】
実施例1〜13の組成物は、ヒトの眼に硝子体内注射すると、ゼラチン質のプラグまたは薬物デポーが形成されるように、十分な濃度の高分子量(すなわち重合体)ヒアルロン酸ナトリウムを用いるまたは含有する。好ましくは用いられるヒアルロン酸塩の平均分子量は、約200万未満であり、より好ましくは用いられるヒアルロン酸塩の平均分子量は約130万〜160万である。ヒアルロン酸ナトリウム溶液は劇的な剪断による粘性低下に供されるので、これらの製剤は27ゲージ針によって、または30ゲージ針によってでも容易に注射される。
【0216】
実施例1〜13の製剤は、例えば、滲出性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、黄斑浮腫、網膜中心静脈閉塞症および網膜静脈分枝閉塞症を処置するために用いることができる。注目すべきこれらの製剤は眼科的に許容される;すなわち、眼に、特に網膜に対して適合性(すなわち非毒性)である賦形剤のみを用いて作製される。
【0217】
実施例14
黄斑浮腫の硝子体内MAAC組成物による処置
糖尿病の症候を有する64才の肥満の女性患者は、網膜中心静脈閉塞症および/または網膜静脈分枝閉塞症を伴った黄斑浮腫のために視覚の損失を示している。彼女に、化合物Dを含有する高粘度MAAC(重合ヒアルロン酸塩に基づく)溶液、例えば実施例13の製剤1 mgを硝子体内注射する。同等の注射を4ヶ月ごとに行う。
【0218】
はじめの注射から12ヶ月後、患者は、糖尿病性網膜症の早期治療の研究(ETDRS)の視力チャートを用いて測定すると、ベースラインから15文字以上の改善された最良矯正視力を示す。
【0219】
実施例15
後眼部症状の硝子体内ラニビズマブ高粘度組成物による処置
後眼部症状(例えば黄斑浮腫、ブドウ膜炎または黄斑変性症)を有する患者は、化合物Aを含有する高粘度ゲル(重合ヒアルロン酸塩に基づく)中の1 mgまたは2 mgのMAAC(実施例12または13の製剤のそれと実質的に同様)の硝子体内注射によって処置することができる。あるいは、その製剤を結膜下注射によって投与して後眼部症状を処置することができる。これらの患者は、注射から3ヶ月以上後に、糖尿病性網膜症の早期治療の研究(ETDRS)視力チャートを用いて測定すると、ベースラインから15文字以上の改善された最良矯正視力を示すことができる。
【0220】
実施例16
黄斑変性症の硝子体内の高粘度ゲル中のベバシズマブ(AVASTIN(登録商標))による処置
79才の男性は有意な視覚の歪みおよび損失を示し;網膜の検査により両目の黄斑の領域において滲出性脈絡膜血管新生が明らかになる。患者に眼圧降下薬を局所投与し、次いで実施例15に用いられた組成物と同様に(活性物質を除いて)調製した2%ポリヒアルロン酸中ベバシズマブ1 mgの粘性組成物を左目に硝子体内注射する。右目は処置しない。52週間の期間、6週間ごとに同じ様式にて続けて注射を行う。
【0221】
処置期間の終わりの、患者の視覚損失速度は、処置した眼においては1週間につきおおよそ0.125文字であり、これに対して処置しなかった眼においては1週間につき約0.5文字である。
【0222】
実施例17
糖尿病性網膜症の高粘度ADNECTIN(登録商標)CT-322による処置
慢性の、アルコールにより増悪した糖尿病性網膜症に罹患した50才の男性に、実質的に実施例15に示すように調製した、2%(w/v)ヒアルロン酸ナトリウムを含有する2 mgのPEG化ADNECTIN(登録商標)CT-322調製物を含む高粘度組成物を、硝子体内注射により投与する。処置の前は、それぞれの眼の視覚の損失は1週間につき0.4文字の速度で進行している。処置を52週間の間6週間ごとに繰り返す。患者を処置の開始から56週間試験する。視覚の損失は56週間にわたって8文字未満である。
【0223】
本発明を様々な具体的な実施例および実施形態に関して記載したが、本発明はそれらに限定されないと理解されたい。上記に記載の、それぞれのまた全ての参考文献、論文、アクセッション番号によって参照されたヌクレオチドまたはアミノ酸配列、刊行物、特許および特許出願は、これによって参照により明示的にその全体が本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼症状を処置するための、眼症状を患った哺乳動物に対して治療上有効量の高分子抗血管新生成分(MAAC)を含む組成物を眼の内部に投与することを含む方法であって、該組成物は組成物の粘度を約25℃において約0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10 cpsの粘度にまで増加させるのに効果的な量の粘性誘導成分も含み、該粘性誘導成分は恒久的な視覚の減少を伴わずに哺乳類の眼の硝子体に注射可能である、方法。
【請求項2】
前記組成物が溶液を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物がゲルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記組成物が懸濁液を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
眼症状の症候が血管新生であり、MAACが血管内皮増殖因子(VEGF)活性の直接的なまたは間接的な阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
MAACが核酸(オリゴヌクレオチド)およびポリペプチドからなる群から選択される物質を含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
MAACが核酸を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記核酸が、アプタマー、RNAi、リボザイムおよびアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択される治療剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
MAACが、siRNA Z、ペガプタニブおよびCand5からなる群から選択される治療剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
MAACが配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号14、配列番号15、配列番号22および配列番号23および少なくとも1の修飾ヌクレオチドを含有するこれらのいずれかに対応するヌクレオチド配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも80%の同一性を有する核酸配列を有する少なくとも1の核酸を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記核酸が前記の群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも90%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記核酸が前記の群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%の同一性を有するヌクレオチド配列を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸が前記の群から選択されるヌクレオチド配列に対して少なくとも95%の同一性を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
MAACがタンパク質を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項15】
前記タンパク質が抗体、抗体模倣物、血管新生阻害剤および受容体阻害剤からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記タンパク質がADNECTIN(登録商標)CT-322、ADNECTIN(登録商標)C7S100、ADNECTIN(登録商標)C7C100、ラニビズマブ、ベバシズマブ、ウロキナーゼペプチド阻害剤A6、シスプラチン、ラパマイシン、エンドスタチン、アンギオスタチン、タムスタチン、色素上皮由来因子およびVEGF TRAP(登録商標)、IMC-18F1およびIMC-1121 Fabからなる群から選択される治療剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ペプチドが、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20および配列番号21からなる群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記ペプチドが、前記の群から選択されるアミノ酸に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ペプチドが前記の群から選択されるアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
該粘性誘導成分がヒアルロン酸、架橋ヒアルロン酸、アクリル酸に由来するサブユニットを含有する架橋重合体、ポリアクリル酸、セルロース誘導体、ポリカルボフィル、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、デキストリン、ポリサッカライド、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニルおよびそれらの誘導体、混合物および共重合体からなる群から選択される化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
粘性誘導成分が約1万〜約2百万ダルトンの範囲の分子量を有する化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
粘性誘導成分が約10万〜約150万ダルトンの範囲の分子量を有する化合物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
粘性誘導成分が約20万〜約100万ダルトンの範囲の分子量を有する化合物を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約100 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約1000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約10,000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項27】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約70,000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約200,000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒の剪断速度にて少なくとも約250,000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
粘性誘導成分が25℃において0.1/秒剪断速度にて少なくとも約300,000 cpsの粘度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項31】
前記組成物が眼の内部に27ゲージ針を通して眼の後区内に配置されることによって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物が眼の内部に30ゲージ針を通して眼の後区内に配置されることによって投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項33】
前記症状が眼の後区の症状を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記症状が、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症、脈絡膜新血管新生、網膜症、糖尿病性網膜症、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、黄斑浮腫、急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、散弾状網脈絡膜炎、後部強膜炎、匐行性脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群、フォークト・小柳・原田症候群、網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高圧性眼底変化、眼虚血症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半側網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、頚動脈疾患(CAD)、霜状分枝血管炎、鎌状赤血球網膜症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病、増殖性硝子体網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、腫瘍に関連する網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の混合性過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍、近視性網膜変性症、急性網膜色素上皮炎からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項35】
前記症状が、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症、脈絡膜新血管新生、網膜症、糖尿病性網膜症、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、黄斑浮腫、急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、散弾状網脈絡膜炎、後部強膜炎、匐行性脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群、フォークト・小柳・原田症候群、網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高圧性眼底変化、眼虚血症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半側網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、頚動脈疾患(CAD)、霜状分枝血管炎、鎌状赤血球網膜症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病、増殖性硝子体網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、腫瘍に関連する網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の混合性過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍、近視性網膜変性症、急性網膜色素上皮炎からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項36】
前記症状が、非滲出性加齢性黄斑変性症および滲出性加齢性黄斑変性症を含む黄斑変性症、脈絡膜新血管新生、網膜症、糖尿病性網膜症、急性および慢性黄斑視神経網膜症、中心性漿液性網脈絡膜症、黄斑浮腫、急性多発性小板状色素上皮症、ベーチェット病、散弾状網脈絡膜炎、後部強膜炎、匐行性脈絡膜炎、網膜下線維症、ブドウ膜炎症候群、フォークト・小柳・原田症候群、網膜動脈閉塞性疾患、網膜中心静脈閉塞症、播種性血管内凝固障害、網膜静脈分枝閉塞症、高圧性眼底変化、眼虚血症候群、網膜動脈毛細血管瘤、コーツ病、傍中心窩毛細血管拡張症、半側網膜静脈閉塞症、乳頭静脈炎、網膜中心動脈閉塞症、網膜動脈分枝閉塞症、頚動脈疾患(CAD)、霜状分枝血管炎、鎌状赤血球網膜症、網膜色素線条症、家族性滲出性硝子体網膜症、イールズ病、増殖性硝子体網膜症、増殖性糖尿病性網膜症、腫瘍に関連する網膜疾患、RPEの先天性肥大、後部ブドウ膜黒色腫、脈絡膜血管腫、脈絡膜骨腫、脈絡膜転移、網膜および網膜色素上皮の混合性過誤腫、網膜芽細胞腫、眼底の血管増殖性腫瘍、網膜星状細胞腫、眼内リンパ系腫瘍、近視性網膜変性症、急性網膜色素上皮炎からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項37】
眼症状を処置するための、MAACおよび高粘度ヒアルロン酸担体を含む、硝子体内投与用の医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2010−526780(P2010−526780A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506560(P2010−506560)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/061785
【国際公開番号】WO2008/134644
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(591018268)アラーガン、インコーポレイテッド (293)
【氏名又は名称原語表記】ALLERGAN,INCORPORATED
【Fターム(参考)】