説明

眼科用剤

【課題】ビタミンA類は酸化分解、加熱分解、光分解が生じることが知られており、安定性の悪い物質である。従来のビタミンA類配合眼科用剤は澄明、かつ、安定性に優れたものはなかった。
本発明の目的は、ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供することにある。
【解決手段】(a)ビタミンA類、(b)眼科用剤中0.005〜0.15w/v%の、37.8℃における粘度が90mm2/s未満の流動パラフィン、及び、(c)非イオン界面活性剤、を配合したことを特徴とする眼科用剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビタミンA類を配合した澄明な眼科用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ビタミンA類は、生体機能の維持に必須の成分であるが、特に目の機能維持に重要である。ビタミンA類が欠乏することにより、夜盲症、角結膜乾燥症などの種々の眼病が生じてしまうことが知られている。そのため、ビタミンA類を眼科用剤として補給することが試みられているが、ビタミンA類は酸化分解、加熱分解、光分解が生じることが知られており、安定性の悪い物質であることが知られている。ビタミンA類の酸化分解を抑制し安定性を向上させるために、抗酸化剤を配合する技術(特許文献1、2参照)、脱酸素剤を配合する技術(特許文献3参照)、容器に不活性ガスを充填する技術(特許文献4及び5参照)等が知られている。また、特殊な容器を用いて、ビタミンA類の光分解を抑える技術(特許文献6参照)が知られている。さらに、これらと異なる技術として、流動パラフィンを配合し、乳化型点眼剤としてビタミンA類を安定化する技術(特許文献7参照)も知られている。しかし、乳化型とすると外観が白濁し、点眼する際の使用感が悪く、また眼科用剤の品質管理上不溶性異物の確認が困難となる等の欠点があった。なお、特許文献7にはビタミンA類と流動パラフィンを配合した処方が開示されているが、流動パラフィンの配合量は1〜4%が良いとされている。しかし、この配合量では乳化型とすることが必須であり、外観が白濁した液剤となってしまう。また、乳化型とすれば安定性は良いものの、外観が澄明な可溶化型とすると安定性が悪い旨が記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開平5-17350
【特許文献2】特開2001-72584
【特許文献3】特許第3199475
【特許文献4】特開平11-292151
【特許文献5】特開2003-113078
【特許文献6】特開平7-33650
【特許文献7】特許第2827295
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ビタミンA類を安定に配合し、かつ、外観が澄明な眼科用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、かかる課題を解決するために鋭意研究した結果、ビタミンA類と共に特定の流動パラフィンを特定の割合で配合することにより、ビタミンA類が安定化し、かつ外観が澄明となることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
すなわち本発明は
(1)(a)ビタミンA類、(b)眼科用剤中0.005〜0.15w/v%の配合量の、37.8℃における粘度が90mm2/s未満の流動パラフィン、及び、(c)非イオン界面活性剤、を配合したことを特徴とする眼科用剤、
(2)ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである(1)記載の眼科用剤、
(3)非イオン界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である(1)記載の眼科用剤、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の眼科用剤は、その外観が澄明であり、ビタミンA類を長期間安定に保存できることがわかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いることができるビタミンA類としては、薬理学的または生理学的に許容されるものであれば特に限定されないが、好ましいものとしてパルミチン酸レチノール、及び酢酸レチノールが挙げられる。
【0009】
ビタミンA類の配合量は眼科用剤中0.005〜0.05w/v%が好ましい。ビタミンA類の配合量が少ないと薬効が不十分であり、配合量が多いと澄明な外観の維持が困難になるからである。
【0010】
本発明に用いることができる非イオン界面活性剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60等のポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシル35ヒマシ油等のポリオキシエチレンヒマシ油類、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類(ポリソルベート類)、ポリオキシエチレン―ポリオキシプロピレンブロックコポリマー(ポロクサマー類)、エチレンジアミンのポリオキシエチレン―ポリオキシプロピレンブロックコポリマー付加物(ポロキサミン類)、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン(20)ポリオキシプロピレン(4)セチルエーテル等のポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン(10)ノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも好ましくは、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、ポリオキシエチレンヒマシ油類又はポロクサマー類であり、特に好ましくはポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である。ここで、非イオン界面活性剤の表記において、括弧内の数字は付加モル数を表す。
【0011】
本発明で非イオン界面活性剤の配合量は眼科用剤中0.1〜1.0w/v%が好ましい。
【0012】
本発明の眼科用剤に用いることができる流動パラフィンとしては37.8℃における粘度が90mm2/s未満である必要があり、具体的にはハイコール(商品名:カネダ株式会社製)、ホワイトミネラルオイル(商品名:クロンプトン社製)、オリエンタル薬品工業社製の流動パラフィン等の該当する粘度のものを適宜選択して使用することができる。
【0013】
流動パラフィンの配合量は眼科用剤中0.005〜0.15w/v%の必要があり、好ましくは0.010〜0.10w/v%である。流動パラフィンの配合量が少ないとビタミンAの安定化が不十分であり、配合量が多いと眼科用剤の外観が白濁し、ビタミンAの安定性も悪くなるからである。
【0014】
本発明で粘度とは第15改正日本薬局方 一般試験法 粘度測定法 第一法に準じて測定した数値である。
【0015】
本発明の眼科用剤には、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、医薬上許容される他の成分を配合することができ、例えば、イプシロンアミノカプロン酸、グリチルリチン酸二カリウム、アラントイン、塩化ベルベリン、硫酸亜鉛、乳酸亜鉛等の抗炎症薬、スルファメトキサゾールナトリウム等のサルファ剤、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸ナファゾリン等の血管収縮薬、塩酸ピリドキシン、リン酸リボフラビン、シアノコバラミン、パンテノール、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、酢酸d-αトコフェロール等のビタミン類、メチル硫酸ネオスチグミン等のピント調節薬、コンドロイチン硫酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸、アスパラギン酸カリウム等のアミノ酸類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩、その他基剤成分として、エデト酸ナトリウム、ジブチルヒドロキシトルエン、ホウ砂、ホウ酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸エステル(パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等)、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトールを挙げることができる。なお、眼科用剤を製造する際には、塩化ナトリウム、グリセリン等で浸透圧を調整するのが一般的である。また、本発明の効果は浸透圧には影響されないと考えられる。
【0016】
本願発明で眼科用剤とは、点眼剤又は洗眼剤である。
【0017】
本発明の眼科用剤は、従来の方法で製造・調製することができ、点眼剤は、1日1回から数回、1回1滴から数滴投与することができ、洗眼剤は、1日1回から数回、眼の洗浄をする。
【0018】
実施例
以下に本発明に係る眼科用剤の製造工程を示す。なお、本実施例では点眼剤として用いている。また流動パラフィンとしてはカネダ株式会社製のハイコール(商品名)を用いた。それぞれの37.8℃における粘度は、ハイコールM−202は43.0〜47.5mm2/s、ハイコールM−352は74.0〜88.0mm2/s、ハイコールM−502は98.0〜125.0mm2/sである。
【実施例1】
【0019】
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−202)0.005g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。その後、ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【実施例2】
【0020】
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−202)0.01g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g、塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【実施例3】
【0021】
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−202)0.05g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【実施例4】
【0022】
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−352)0.02g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【実施例5】
【0023】
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、酢酸d-αトコフェロール0.05g、メチル硫酸ネオスチグミン0.005g、アミノエチルスルホン酸1.0g、アスパラギン酸カリウム1.0g、硫酸亜鉛0.25g、l−メントール0.015g、dl−カンフル0.010g、ゲラニオール0.005g、クロロブタノール0.08g、ジブチルヒドロキシトルエン0.005g,エデト酸二ナトリウム0.06g、流動パラフィン(ハイコールM−202)0.06g、ホウ酸0.5g、ホウシャ0.035g、クエン酸0.010g、クエン酸ナトリウム0.100g及び塩化ベンザルコニウム0.010gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【0024】
[比較例1](流動パラフィン抜き処方)
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。その後ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は澄明であった。
【0025】
[比較例2](流動パラフィン増量処方)
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−202)0.2g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。この時点で外観は白濁しているが、ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は白濁したままであった。
【0026】
[比較例3](流動パラフィン種類違い処方)
精製水(85mL)にポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60を0.5g、パルミチン酸レチノール0.037g、流動パラフィン(ハイコールM−502)0.05g、クエン酸0.043g、クエン酸ナトリウム0.087g及び塩化ベンザルコニウム0.005gを溶解させ、全量を100mLとした。この時点で外観は白濁しているが、ろ過滅菌を行い、無菌の点眼剤とした。外観は白濁したままであった。
【0027】
[試験例1]
実施例及び比較例で得た点眼剤の調整直後の外観を観察した。またこれらをガラスアンプルに充填し、65℃に保存した時のパルミチン酸レチノールの残存量を高速液体クロマトグラフ法で測定した。結果を表1に示した。表中「実」は実施例、「比」は比較例を示し、処方の数値は「mg/100mL」で示した。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によりビタミンA類を配合しても、ビタミンA類の安定性が向上され外観が澄明であったので、医薬品、医薬部外品等の点眼剤、洗眼剤として有効である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ビタミンA類、(b)眼科用剤中0.005〜0.15w/v%の配合量の、37.8℃における粘度が90mm2/s未満の流動パラフィン、及び、(c)非イオン界面活性剤、を配合したことを特徴とする眼科用剤。
【請求項2】
ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである請求項1記載の眼科用剤。
【請求項3】
非イオン界面活性剤がポリオキシエチレン硬化ヒマシ油である請求項1記載の眼科用剤。

【公開番号】特開2008−94839(P2008−94839A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−238901(P2007−238901)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】