説明

眼科用医薬組成物

【課題】 白内障をはじめとする眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の治療効果及び/又は予防効果に優れ、かつ、安全で、長期連用可能な眼科用医薬組成物、とりわけ点眼剤、眼軟膏剤、眼洗浄剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、内服剤、注射剤及び摘出角膜の保存剤を提供することを課題とする。
【解決手段】
グルコース4個が特定の結合様式で環状に結合した基本環状構造を有する糖質及び/又はその誘導体を配合した眼科用医薬組成物を提供することにより、上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式1で表わされる基本環状構造を有する糖質(以下、「基本環状構造を有する糖質」という。)を含んでなる、水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の治療用及び/又は予防用の新規眼科用医薬組成物に関するものである。
【0002】
【化1】

式中R乃至R12は任意の置換基を示す。
【背景技術】
【0003】
眼の水晶体及び/又は角膜に、内因或いは外因により、膨化、浮腫や白濁(「混濁」という場合もある。)を生じる眼性疾患には種々のものが知られている。その中でも、白内障は、進行すると失明する場合もある重篤な疾患である。この白内障は先天性白内障と後天性白内障に大別することができる。後天性白内障に分類される老人性や糖尿病性の白内障は、加齢や生活習慣病の進行に伴い出現頻度が高くなる疾患で、高齢化社会を迎えた我が国では、今後、その患者数は益々増加することが予想されている。しかしながら、現在のところ、外科的な治療法以外に、白内障に対する有効な治療方法はほとんど確立されていない(例えば、非特許文献1参照)。この外科的治療方法も、症状が進行した糖尿病や高血圧症を併発したような患者では、手術の適用が不可能な場合や、術後、眼内に挿入されたレンズを包む後嚢が白濁する後発白内障の発症などの問題がある。しかも、外科的治療は患者にとって、精神的にも金銭的にも大きな負担を強いることになる。また、外科的治療やこれと併用される対症療法は、入院や医師の指導を必要としたり、器具が必要なため、治療のために、通常の社会生活が制約されるなどの問題がある。
【0004】
一方、点眼剤は、手軽に携帯が可能で、必要に応じて適宜使用できる簡便さのため、眼科領域で常用されており、例えば、特許文献1及び2に見られるとおり白内障治療用の点眼剤も提案されているものの、実用化されているものは僅かしかなく、また、実用化されていても、安全性や有効性の面で問題があるものもある。したがって、有効かつ安全な、眼の水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁の治療用、予防用の眼科用組成物のさらなる開発が強く望まれている。また、特許文献3には、基本環状構造を有する糖質の置換基の全てが水酸基からなる、グルコースが4個、α−1,3とα−1,6結合で環状に結合した非還元性の糖質、即ち、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}で示される環状四糖(以下、単に「環状四糖」という。)を配合した点眼剤が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献3に開示された環状四糖を配合した点眼剤は、眼の炎症及びドライアイの治療を目的とするものであり、特許文献3には、水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁の治療用及び/又は予防用の眼科用医薬組成物は開示も示唆もされていない。
【0006】
【特許文献1】特開2002−348238号公報
【特許文献2】特開平10−290830号公報
【特許文献3】国際公開WO 2004/020552号明細書
【非特許文献1】『南山堂 医学大辞典』、株式会社南山堂発行、第1551頁(1990年発行)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、白内障をはじめとする眼性疾患などにより水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁の治療効果及び/又は予防効果に優れ、かつ、有用で、長期連用可能な安全性の高い眼科用医薬組成物、とりわけ、点眼剤、軟膏剤、眼洗浄剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、内服剤、注射剤及び摘出角膜の保存剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような状況に鑑み、白内障をはじめとする眼性疾患などにより水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁の治療及び又は予防効果に優れ、かつ、長期の使用にも安全な成分の検索を行った結果、意外にも基本環状構造を有する糖質が、長期投与による弊害もなく、水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁に対して、その症状の顕著な治療効果及び/又は予防効果を発揮することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、基本環状構造を有する糖質を含んでなる眼科用医薬組成物を提供することにより、上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の眼科用医薬組成物は、白内障などの眼性疾患における水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁症状の改善に著効を示すので、その治療及び/又は予防に有利に用いることができる。加えて、基本環状構造を有する糖質は、安全、かつ、安定な糖質なので、副作用の懸念もなく、安心して長期連用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で用いられる基本環状構造を有する糖質とは、一般式1で表される構造を有する糖質であって、その置換基の全てが水酸基からなる環状四糖、及び、この環状四糖の水酸基の1個又は2個以上を水酸基以外の置換基で置換した糖質(以下、「環状四糖の誘導体」という。)をいい、環状四糖に、任意の置換基をグリコシル化、エステル化、エーテル化、スルホニル化、アミノ化などの反応により導入したものなどを含む。本発明の眼科用医薬組成物には、環状四糖及び環状四糖誘導体の何れか1種又は2種以上を、適宜組み合わせて配合することができる。また、環状四糖及び環状四糖の誘導体の由来や製法は問わず、発酵法、酵素法、有機合成法などにより製造されたものでもよく、これらの方法で得られる反応液を、そのままで、濃縮して、部分精製して、或いは、高純度に精製して用いることも自由である。
【0011】
【化2】

式中R乃至R12は任意の置換基を示す。
【0012】
本発明で用いられる環状四糖は、例えば、国際公開WO 01/90338号明細書に開示された、パノースをα−イソマルトシル転移酵素によって環状四糖に変換する方法、或いは、国際公開WO 02/10361号明細書に開示された、α−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素及びα−イソマルトシル転移酵素を組み合わせて澱粉から直接製造する方法などの、澱粉質或いはそれ由来の糖質を原料とした酵素法により製造することができる。これらの製造方法は、豊富で安価な澱粉質を原料とし、高効率かつ安価に環状四糖を製造できることから、工業的に有利に実施できる。また、環状四糖には、無水非晶質、無水結晶、1含水結晶、5含水結晶が存在し、その何れを用いることも可能である。さらに、環状四糖のうち無水結晶、1含水結晶及び無水非晶質のものは、優れた脱水能を有していることから、用時溶解型の環状四糖を含有する粉末や顆粒などの固形の眼科用医薬組成物を製造する際の脱水剤としての機能も併せて備えさせることができる。
【0013】
本発明で用いられる環状四糖の誘導体としては、環状四糖にα−D−グルコピラノシル基、β−D−ガラクトピラノシル基、β−D−キトサミニル基などのグリコシル基の何れか1種又は2種以上が、1個又は2個以上導入された糖質(以下、「分岐環状四糖」という場合がある。)を挙げることができる。これらの糖質は、例えば、上記α−イソマルトシルグルコ糖質生成酵素及びα−イソマルトシル転移酵素を組み合わせて澱粉に作用させて調製することができる。また、国際公開WO 02/072594号明細に開示された方法などにより、環状四糖に、サイクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、リゾチームなどの糖転移能を有する酵素の1種又は2種以上を、当該酵素の基質となる単糖、オリゴ糖及び/又は多糖の存在下で作用させて調製することも有利に実施できる。
【0014】
また、本発明で用いられる上記以外の環状四糖の誘導体としては、環状四糖や分岐環状四糖に炭化水素基、水酸基を除く酸素を有する置換基、窒素を有する置換基、硫黄を有する置換基及びハロゲンを有する置換基などの任意の置換基から選ばれる何れか1種又は2種以上が、1個又は2個以上導入されたものを例示することができ、特開2003−160595号公報に開示された「糖誘導体」を含む。これらの環状四糖の誘導体は、常法により、環状四糖及び/又は分岐環状四糖を適当な溶媒に溶解、懸濁又は浸漬し、必要ならば触媒と共に置換基の供与体となる反応性試薬を添加して、適宜の方法で混合、撹拌を行いつつ、適宜の反応条件(温度、時間、pH、圧力等)で調製することができる。さらに、生成した糖誘導体は、適宜の分離精製方法によって、未反応の反応性試薬、溶媒及び/又は触媒を除去し、精製することができる。
【0015】
なお、本発明の点眼剤、眼軟膏剤、眼洗浄剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、内服剤、注射剤、摘出角膜の保存剤などの眼科用医薬組成物は、眼の粘膜に直接接触することから、これに配合する基本環状構造を有する糖質に含まれるパイロジェン等の夾雑物は、活性炭処理、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、膜濾過などの精製方法により除去しておくのが望ましい。
【0016】
本発明で用いられる基本環状構造を有する糖質は、その1種又は2種以上の混合物のみで構成されていてもよいし、基本環状構造を有する糖質と共に、その製造工程において共存するグルコース、イソマルトース、マルトース、マルトトリオース、マルトデキストリンなど、基本環状構造を有する糖質以外の糖質を含有していてもよいし、さらに、この糖質を水素添加して共存する還元性糖質をその糖アルコールに変換したものであってもよい。逆に、本発明の眼科用医薬組成物が、アミノ酸などのように分子内にアミノ基を有する物質を含む場合には、グルコースをはじめとする還元性糖類が混在するとメーラード反応などにより該組成物中の有効成分及び/又は該組成物自体の品質低下が特に問題となることが予想されるので、メーラード反応を起こす還元性の糖質含量が低い糖質が望ましいことから、本発明の眼科用医薬組成物に配合する基本環状構造を有する糖質を含有する糖質は、基本環状構造を有する糖質を98質量%(以下、本明細書では特に断らない限り、「質量%」を単に「%」と表記する。)以上、望ましく99%以上、さらに望ましくは99.5%以上含有するものが好適であり、或いは、基本環状構造を有する糖質と共存する還元性の糖質に水素添加して、その還元性を低減したものを用いることも可能である。
【0017】
本発明の基本環状構造を有する糖質を、眼科用医薬組成物に配合する方法に制限はなく、その剤形に応じて、原料の段階から製品の段階に至るまでの適宜の工程、或いは、既存の製品に対して、例えば、混和、混捏、溶解、融解、分散、懸濁、乳化、浸漬、浸透、散布、塗布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化などから選ばれる何れか1種又は2種以上の方法を適宜選択することができる。また、本発明で用いる基本環状構造を有する糖質の形態に特に制限はなく、例えば、水溶液、シラップ、マスキット、固状物及び粉末を適宜選択して用いることができる。
【0018】
本発明の基本環状構造を有する糖質を含む眼科用医薬組成物を、白内障、白内障治療のための手術や硝子体の手術の際などに認められる水晶体及び/又は角膜に白濁症状を呈する患者や、術後の水晶体を包む後嚢に白濁を生じる患者に投与すると、水晶体及び/又は角膜の白濁や後嚢の白濁の進行が抑制乃至白濁が改善されるばかりでなく、症状のない時期や手術前から投与することにより、症状の発生を予防することも可能である。また、本発明の眼科用医薬組成物は、水晶体の膨化や角膜の浮腫を抑制する作用を有していることから、水晶体や角膜の膨化や浮腫の改善、さらには、角膜移植時の摘出角膜の浮腫や白濁防止の目的で、点眼剤、眼内洗浄剤、眼軟膏剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、内服剤、注射剤、移植用の摘出角膜の保存剤などとして使用することができる。
【0019】
本発明の眼科用医薬組成物は、その剤形に応じて慣用の基剤を用いることができ、これに基本環状構造を有する糖質を含有せしめることにより調製することができる。点眼剤、眼洗浄剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、注射剤、移植角膜の保存剤等の液剤の基剤は、通常の眼科用医薬組成物に使用されるものであれば何れでもよく、通常は、電解質を含有した精製水が使用される。該医薬組成物は、予め液状の形態にしておいてもよく、或いは凍結乾燥などの方法により固形剤とし、用時に溶解して使用してもよい。固形剤の場合は、精製水や生理食塩水などに溶解して使用すればよい。固形剤としては、錠剤、顆粒剤、散剤等が挙げられる。又、軟膏剤の場合には、眼科用のワセリンなどが使用される。これらの製剤は、公知の方法に準じて調製することができ、何れの場合も、メンブランフィルターやオートクレーブ等を利用するなどの慣用の手段によって滅菌しておくことが望ましい。また、本発明の眼科用医薬組成物は、目の粘膜に直接接触することから、適宜の手段によってパイロジェンを除去し、実質的にパイロジェンフリーとしておくことが望ましい。
【0020】
本発明の眼科用医薬組成物中の基本環状構造を有する糖質の含量は、当該医薬組成物が、上記した生理作用を発揮できる量であれば特に制限は無く、最終濃度として、通常、当該眼科用医薬組成物の総質量当たり0.01質量%(以下、本明細書では特に断らない限り質量%を「%」と略記する。)以上、若しくは約0.01%乃至30%の範囲で使用されるが、眼粘膜への影響及び白内障の治療効果及び/又は予防効果を考慮すると、0.5乃至20%が望ましく、4%乃至15%がより望ましい。特に、手術などのように水晶体に傷をつける可能性がある処置を行う場合などは、処置前から5%以上の濃度の基本環状構造を有する糖質を含有する眼科用医薬組成物を使用することにより、角膜や水晶体の傷の部位やそれに起因する白濁化、その進行を極力抑えることができる。また、水晶体の膨化抑制の点からは0.1%以上が望ましい。さらに、本発明の眼科用医薬組成物は、眼粘膜に直接接触するので、安全性の点からpHは中性付近が望ましく、pH6.5乃至7.5が特に望ましい。浸透圧は、0.5乃至4.0圧比程度に調整するのが望ましく、1.0乃至1.5圧比程度がより望ましい。pHや浸透圧の調節には公知の方法が利用される。なお、本発明でいう眼科用医薬組成物の浸透圧の「圧比」とは、該眼科用医薬組成物の浸透圧をヒトの涙液の浸透圧で除した値を意味する。
【0021】
基本環状構造を有する糖質は糖類の中にあっては極めて安定な性質を有し、アミノ基を有するようなビタミンやペプチド、蛋白質等と共存しても、アミノカルボニル反応を起こし難い上、それらの成分を安定化させる性質を有する。したがって、本発明の眼科用医薬組成物は、必要に応じて、製剤学的に許容される電解質、アミノ酸、ビタミンやその誘導体、脂質、基本環状構造を有する糖質以外の還元性糖質或いは非還元性糖質、糖アルコール、水溶性多糖類、無機塩類、乳化剤、酸化防止剤、キレート作用を有する物質、抗生物質、抗炎症剤や、白内障の治療剤、前記以外の医薬品調製用剤及び医薬品等から選ばれる何れか1種又は2種以上の成分を適宜配合して調製することができる。
【0022】
本発明の眼科用医薬組成物に用いられる基本環状構造を有する糖質以外の成分を具体的に述べると、例えば、グルタチオン、唾液腺ホルモン、チオプロニン、ピレノキシン等の白内障治療効果を有する成分、グルコース、トレハロース(α,α−トレハロース、α,β−トレハロース、β,β−トレハロース)、マルトース等の糖類、各種オリゴ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖アルコール類、塩化ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等の電解質、グリシン、アラニンをはじめとする各種アミノ酸、塩酸チアミン、リン酸リボフラビンナトリウム、塩酸ピリドキシン、ニコチン酸アミド、葉酸、ビオチン、ビタミンA、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸2−グルコシド等のビタミン類及びそれらの誘導体が挙げられ、必要に応じてこれらは1種又は2種以上を適宜組合せて配合することができる。なかでも、L−アスコルビン酸2−グルコシドは、移植臓器などの保存性やラジカル生成の抑制作用に優れているので、基本環状構造を有する糖質と併用すると、この糖質の持つ上記生理作用を効果的に増強することができる。
【0023】
殊に、本発明の眼科用医薬組成物が点眼剤である場合、本発明の目的から逸脱しない限り、前記の白内障などの治療・予防効果を有する成分や通常の眼科用の製剤に用いられる製剤用添加剤、例えば、水、アルコール類、パラオキシ安息香酸メチル、デヒドロ酢酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム等の保存剤、硼砂、硼酸、炭酸水素ナトリウム等の緩衝剤、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、コンドロイチン硫酸、ポリビニルアルコール、プルラン等の増粘剤、ポリソルべート80等の溶解補助剤、エデト酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の安定化剤等の1種又は2種以上を適宜組み合わせて配合することができる。
【0024】
本発明の眼科用医薬組成物が眼軟膏剤である場合、慣用の軟膏基剤を用いることができ、具体的には、眼科用白色ワセリン、プラスチベース等を例示できる。製剤用の添加剤としては、流動パラフィン等を用いることができる。
【0025】
本発明の眼科用医薬組成物の用法・用量は、疾患やその症状、手術の規模などにより適宜調整することができる。点眼剤の場合には、通常、1回1滴乃至4滴(約0.025ml乃至約0.1ml)程度を、1日1回乃至10回程度点眼する。眼洗浄剤の場合には、通常、眼の周囲のフェイスラインに密着可能な専用の容器に、5ml程度の洗浄剤をいれて眼に押しあて、頭を後ろにそらして上を向き、洗浄剤内で眼を数回瞬きさせて、通常、1日1回乃至6回程度使用するか、洗瓶などを使用して、1日1回乃至5回、1回1ml乃至5ml程度を用いて眼を洗浄する。又、眼軟膏剤の場合には、通常、1日1回乃至3回、その適量を結膜嚢内に塗布して使用する。
【0026】
また、本発明の眼科用医薬組成物は、ヒトのみでなく、哺乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類などの動物で発生する、角膜の白濁、水晶体の白濁、水晶体の膨化、角膜の浮腫の予防及び/又は治療にも有利に利用できる。
【0027】
なお、本発明でいう白内障とは、眼の水晶体の表面及び/又は内部が白濁したり、水晶体が膨化した症状を示す疾患をいい、先天性白内障及び後天性白内障の両方を含む(例えば、非特許文献1参照)。具体的には、先天偽性白内障、先天被膜白内障、先天冠状白内障、層間白内障、点状白内障、糸状白内障を始めとする先天性白内障、老人性、後発、褐色、併発、糖尿病性、外傷性、電撃、放射線、超音波、薬物、全身性疾患、栄養障害などに起因する後天性白内障をいい、白内障治療の目的で挿入したレンズを包む後嚢が白濁する術後白内障を含む。また、角膜に浮腫をきたす疾患としては、例えば、水疱性角膜症を挙げることができる。
【0028】
以下、実験例を挙げて、本発明の基本環状構造を有する糖質を配合した水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療及び/又は予防用の眼科用医薬組成物について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
<実験1>
<水晶体の膨化、白濁に対する環状四糖の影響>
外傷性白内障のモデルとして使用される傷をつけた豚の水晶体を使用して、環状四糖の水晶体の白濁に及ぼす影響を調べるための実験を以下のように行った。即ち、あらかじめ、生理食塩水に、後述する参考例2の方法により調製した環状四糖5含水結晶を溶解して100mM環状四糖含有生理食塩水を調製し、試験液とした。陽性対照液として100mMα,α−トレハロース(株式会社林原生物化学研究所販売、試薬級)含有の生理食塩水を調製し、陰性対照液として生理食塩水を使用した。この3種類の水溶液の何れか2mlを、市販の24ウエル培養用プレートの各2ウエルずつに加えた。この各プレートの同一種類の溶液の入ったウエルの一方に、屠殺場から入手した豚の眼球を、入手3時間以内に切開して傷つけないように摘出し、生理食塩水で洗浄した水晶体を入れ、他方には、これと同じ方法で調製した水晶体の表面に、あらかじめ27ゲージの注射針(テルモ株式会社製)を使用して、長さ約1mmの傷を1本つけたものを入れ、室温条件下で、これらの水晶体の白濁化の程度及び膨化などの形態の変化を、肉眼及び顕微鏡を使用して観察した。実験はトリプリケイトで行い、肉眼及び顕微鏡による観察は、水晶体をウエルに入れた直後(0)、1時間、2時間、6時間、24時間、以後毎日、28日間行った。また、75mM、50mM、20mM、10mM及び1mMの環状四糖含有生理食塩水を使用して、注射針で傷をつけていない水晶体を用いて同様の実験を行った。なお、実体顕微鏡(オリパス株式会社販売、商品名「実体顕微鏡SZX12」)を使用した水晶体の白濁化の程度の観察は、その透過光像を、デジタルカメラ(ピクセラ社製、商品名「ペンギン150CL」)で撮影し、この水晶体の透過画像をビューファインダー(オリンパス株式会社販売)でコンピューターに取り込み、水晶体の濃淡をScion Image for Windows Beta4.0.2(Scion社配布)を使用し、グレースケールとして数値化し、水晶体の白濁度(mean density)とした。また、各溶液に入れた水晶体の白濁度の経時変化は、生理食塩水に入れた直後の無傷の水晶体の白濁度を10とした相対値で表した。その白濁度の推移を表1に、膨化の推移を表2に示す。なお、表1には、0時間から2日目までと7日目、14日目及び28日目の結果のみ記載した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1から明らかなように、陰性対照液の生理食塩水及び陽性対照液として使用したα,α−トレハロース含有生理食塩水に浸した傷のない水晶体は、観察開始の7日目には、白濁度が、各々56、或いは36に上昇し白濁化が進んでいることが確認された。さらに、28日目には、水晶体の白濁に加えて、表2から明らかなように、肉眼観察により、水晶体の膨化が確認された。なお、陽性対照液を使用した場合は、陰性対照液を使用した場合に比して、水晶体の白濁は抑制されていた。これに対して、環状四糖を含有する試験液に浸した傷のない水晶体は、観察開始の28日目でも、その白濁度は15で依然として透明性を維持しており、膨化も認められなかった。また、水晶体を注射針であらかじめ傷つけた水晶体では、何れも傷をつけた直後から、肉眼観察により、傷の部位の白濁化が確認され、この水晶体を、陰性対照液或いは陽性対照液に入れた場合、観察開始24時間目には、白濁度が、各々90或いは46にまで上昇し、白濁が水晶体全体に広がった。また、陰性対照液に浸した水晶体では観察開始24時間目から、陽性対照液に浸した水晶体では観察開始2日目から、各々膨化が観察された。これに対して、試験液に浸した水晶体では、傷をつけた箇所のみの部分白濁は、水晶体全体には拡大せず、観察2日目以降も水晶体の白濁度の大きな上昇はなく、部分白濁に留まっていた。また、観察開始2日目においても水晶体の膨化は観察されなかった。傷をつけていない水晶体を使用し、75mM或いは50mM環状四糖含有生理食塩水を使用した場合にも、100mM環状四糖含有生理食塩水を使用した場合と同様に観察開始28日目においても、その白濁度は、各々29或いは28で、観察開始時から大きな上昇は観察されなかった。また、観察開始28日目まで膨化も観察されなかった。傷をつけていない水晶体を使用し、20mM、10mM或いは1mM環状四糖含有生理食塩水を使用した場合は、何れも、観察開始7日目以降において、水晶体全体の白濁化が観察された。この場合の白濁度は、何れの場合も、陰性対照液を使用した場合よりも低く抑えられていたものの、陽性対照液を使用した場合よりは高い値を示した。また、観察開始14日目までは、水晶体の膨化は観察されなかった。
【0033】
この実験結果は、50乃至100mM或いはこれ以上の濃度の環状四糖が、水晶体の膨化や白濁を抑制しその透明性を維持する作用、及び/又は、水晶体の膨化や白濁の拡大を抑制する作用を有することを示しており、効果の持続性の点からはその50mM以上のものが望ましく、100mMのものが特に望ましいことを物語っている。また、1mM以上の濃度の環状四糖が、水晶体の膨化抑制効果を有することを物語っている。
【0034】
<実験2>
<角膜の浮腫、白濁に対する環状四糖の影響>
環状四糖の角膜の白濁に及ぼす影響を調べるための実験を以下のように行った。即ち、あらかじめ、後述する参考例2の方法により調製した環状四糖5含水結晶を生理食塩水に溶解して100mM環状四糖含有生理食塩水を調製し、試験液とした。陽性対照液として100mMα,α−トレハロース(株式会社林原生物化学研究所販売、試薬級)含有の生理食塩水を調製し、陰性対照液として生理食塩水を使用した。この3種類の水溶液の何れか2mlを、市販の24ウエル培養用プレートの各2ウエルに加えた。このプレートの各ウエルに、屠殺場から入手した豚の眼球から、角膜移植用トレパンを用いて摘出した円形の角膜片を入れ、角膜の白濁度及び角膜の浮腫などの形態の変化を、肉眼及び顕微鏡を使用して観察した。肉眼及び顕微鏡観察は、角膜をウエルに入れた直後(0)、1時間、2時間、6時間、24時間、48時間及び72時間後に行った。なお、肉眼及び顕微鏡による観察の方法、及び、角膜の白濁度の経時変化の解析は、実験1と同じ方法で行った。角膜の白濁度の推移を表3に、角膜の浮腫の推移を表4に示す。
【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表3及び表4から明らかなように、陰性対照液の生理食塩水及び陽性対照液として使用したα,α−トレハロース含有生理食塩水に浸した角膜は、観察開始の24時間後には、その白濁度が、45或いは30に上昇し、白濁が観察され、肉眼観察により浮腫も観察された。これに対して、環状四糖を含有する試験液に浸した角膜は、観察開始72時間後でも、白濁度は19と観察開始時と大きな変化は認められず、その透明性を維持していた。また、浮腫の発生も観察されなかった。
【0038】
この実験結果は、環状四糖が、角膜の白濁を抑制しその透明性を維持する作用、及び、角膜の浮腫の発生を抑制する作用を有することを示すものであり、環状四糖を含有する点眼剤などの眼科用医薬組成物は、角膜の白濁や浮腫の抑制剤、移植用角膜の保存剤として使用することができることを物語っている。
【0039】
<参考例1>
<環状四糖の製造例>
国際公開WO 02/10361号明細書に開示された実施例A−1の方法に準じて、馬鈴薯澱粉から、濃度80%、固形物当たり、グルコース0.6%、イソマルトース1.5%、マルトース12.3%、環状四糖63.5%、環状四糖の糖質誘導体5.2%及びその他の糖質16.9%を含有する環状四糖と分岐環状四糖との混合物を含有するシラップを調製した。本品は、白内障をはじめとする水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物の製造に利用することができる。
【0040】
<参考例2>
<環状四糖の製造例>
国際公開WO 02/10361号明細書に開示された実施例A−3の方法に準じて、タピオカデンプンを原料として調製した、環状四糖と環状四糖の糖質誘導体との混合物を含有するシラップを、国際公開WO 02/10361号明細書の実施例A−6及び実施例A−7記載の方法に準じて精製、濃縮、乾燥・結晶化して、純度99.6%の環状四糖5含水結晶を得た。本品は、白内障をはじめとする水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物の製造に利用することができる。
【0041】
前記環状四糖5含水結晶をさらに、国際公開WO 02/10361号明細書に開示された実験31或いは実験32の方法に準じて乾燥し、環状四糖1含水結晶粉末及び環状四糖無水結晶粉末を調製した。これらの環状四糖は、環状四糖五含水結晶粉末と同様に白内障をはじめとする水晶体及び/又は角膜に白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物の製造に利用することができる。また、用時溶解型の水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物を、常温、常圧条件などで粉末化するための粉末化基材としても有利に利用できる。
【0042】
<参考例3>
<分岐環状四糖の製造>
国際公開WO 02/072594号明細書の実験4−4(a)の方法に準じて、参考例2の方法で調製した環状四糖5含水結晶20gとラクトース(試薬特級、和光純薬工業株式会社製造)20gを20mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH6.0)93.3gに溶解し、バチルス・サーキュランスのβ−ガラクトシダーゼ(商品名『ビオラクタン5』、大和化成株式会社製造)をラクトース1gあたり3単位加えて40℃で24時間反応させ、その後、反応液を20分間煮沸して酵素を失活させた。これを常法により、精製、脱色、濃縮した後、水酸化ナトリウム4.8gを加え、100℃で1時間保持して還元糖を分解した。この反応液を常法により脱塩、濾過、濃縮した後、『YMC−Pack ODS−AQR355−15AQ,S−10/20μm,120A』(株式会社ワイエムシー製造)を用いた分取用液体クロマトグラフィーに供した。移動相として精製水を用い、基本環状構造を有する糖質の純度が97%以上の画分を採取した。これを、常法により、脱色、濃縮した後、噴霧乾燥して非晶質粉末を得た。本品は、NMR測定などの方法により、環状四糖に置換基としてD−ガラクトース1分子が結合した構造を有する非還元性の分岐環状四糖であることが確認された。本品は、白内障をはじめとする水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物の製造に利用することができる。
【0043】
<参考例4>
<置換基としてメチル基を有する基本環状構造を有する糖質の製造>
参考例2の方法で調製した環状四糖無水結晶粉末5質量部を無水ジメチルスルホキシド125質量部に溶解した後、水酸化ナトリウム12.5質量部を添加、混合して、10分間氷中で冷却後、60℃で2時間加温した。氷冷下でヨウ化メチル22.5質量部を徐々に添加し、室温で18時間攪拌した後、メタノール40質量部を添加し、氷冷した蒸留水200質量部と混合した。これにクロロホルム500質量部を添加、混合して、水層とクロロホルム層とが分離するまで静置し、クロロホルム層を採取した。これに蒸留水50質量部を添加混合して、静置した後、再度クロロホルム層を採取した。この操作を10回繰り返した後、常法により無水硫酸マグネシウムを適量添加して脱水して、濃縮し、飽和食塩水100質量部を添加し、60℃で30分間攪拌し、氷冷後、上清を除去した。この操作をもう一度繰り返した。これをクロロホルム300質量部に再溶解し、60℃で30分間攪拌し、常法にしたがって適量の無水硫酸マグネシウムにて脱水後、濃縮し、固形分濃度80%、置換基としてメチル基を有する基本環状構造を有する糖質を含有するシラップを得た。本品を、常法にしたがって、H−NMR測定したところ、平均置換度7.5でメチル基を有していた。本品は、白内障をはじめとする水晶体及び/又は角膜に膨化、浮腫や白濁を生じる眼性疾患治療用の眼科用医薬組成物の製造に利用することができる。
【0044】
以下、実施例を挙げて更に詳しく本発明について説明するが、本発明がこれら実施例に限定を受けないことはいうまでもない。
【実施例1】
【0045】
<点眼剤>
100ml中
参考例2の方法により調製された環状四糖5含水結晶 3.5g
塩化ナトリウム 0.4g
塩化カリウム 0.15g
リン酸2水素ナトリウム 0.2g
硼砂 0.15g
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して製剤を調製して点眼剤とした。pHは7.3とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【0046】
本品0.05ml/回を、一日10回、1ヶ月間、毎日、5羽のウサギの眼に点眼したところ、何れのウサギにおいても眼の炎症、充血、浮腫、水晶体や角膜の膨化、浮腫や白濁などの異常は観察されず、本品は安全で長期連用が可能な点眼剤であることが確認された。
【実施例2】
【0047】
<点眼剤>
100ml中
参考例1の方法により調製された環状四糖と分岐環状
四糖との混合物を含有するシラップ 3.7g
塩化ナトリウム 0.4g
D−グルコース 0.04g
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して点眼剤とした。pHは7.2とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例3】
【0048】
<点眼剤>
100ml中
参考例3の方法により調製された環状四糖に置換基と
してD−ガラクトース1分子が結合した分岐環
状四糖を含有する非晶質粉末 7.0g
D−グルコース 0.04g
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して点眼剤とした。pHは7.3とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例4】
【0049】
<点眼剤>
100ml中
参考例4の方法により調製した置換基としてメチル基
を有する基本環状構造を有する糖質を含有す
るシラップ 0.5g
塩化ナトリウム 0.6g
塩化カリウム 0.15g
リン酸2水素ナトリウム 0.2g
硼砂 0.15g
塩化ベンザルコニウム 0.005g
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して点眼剤とした。pHは7.0とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例5】
【0050】
<点眼剤>
100ml中
参考例2で調製した環状四糖5含水結晶 2.5g
含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原
生物化学研究所製造) 2.0g
塩化ナトリウム 0.4g
塩化カリウム 0.15g
リン酸2水素ナトリウム 0.2g
硼砂 0.15g
アスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原
生物化学研究所販売、試薬級) 0.1g
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して点眼剤とした。pHは7.3とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例6】
【0051】
<眼洗浄剤>
100ml中
参考例2の方法により調製された環状四糖5含水結晶 0.1g
塩化ナトリウム 0.4g
塩化カリウム 0.05g
塩化カルシウム 0.01g
硫酸マグネシウム 0.01g
クエン酸ナトリウム 0.05g
炭酸水素ナトリウム 0.2g
マルトース 0.15g
1N 塩酸 適 量
滅菌精製水 適 量
全 量 100ml
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して眼洗浄剤とした。pHは7.2とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例7】
【0052】
<眼軟膏剤>
100g中
参考例1の方法により調製された環状四糖含有シラップ 4.5g
流動パラフィン 5.0g
眼科用白色ワセリン 適 量
全 量 100g
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化して眼軟膏剤とした。本品は、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【実施例8】
【0053】
<注射剤>
100g中
参考例2の方法により調製された環状四糖5含水結晶 2g
生理食塩水 適 量
全 量 100g
上記の成分を、常法にしたがって配合し、無菌化し、5gずつバイアル瓶に分注した後、凍結乾燥して注射剤とした。本品は、使用時に無菌蒸留水を加え、注射剤として、白内障などの眼性疾患により生じる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫や白濁の予防、治療に使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
基本環状構造を有する糖質は、白内障などにより水晶体及び/又は角膜に生じる膨化、浮腫や白濁に対する優れた治療及び/又は予防効果を有している。しかも、基本環状構造を有する糖質は、安全、かつ、安定な糖質であり、これを含んでなる眼科用医薬組成物は、副作用の懸念もなく、安心して長期連用することができる。本発明はこのように顕著な作用効果を有する発明であり、産業上の貢献はまことに大きく、意義のある発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式1で表わされる基本環状構造を有する糖質を含んでなる水晶体及び/又は角膜の膨化、浮腫、及び/又は白濁を、治療及び/又は予防するための眼科用医薬組成物。
【化1】

式中、R乃至R12は任意の置換基を示す。
【請求項2】
一般式1で表わされる基本環状構造を有する糖質が、サイクロ{→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→6)−α−D−グルコピラノシル−(1→3)−α−D−グルコピラノシル−(1→}からなる環状構造を有する環状四糖であることを特徴とする請求項1記載の眼科用医薬組成物。
【請求項3】
基本環状構造を有する糖質と共にL−アスコルビン酸2−グルコシドを含んでなる請求項1又は2記載の眼科用医薬組成物。
【請求項4】
白内障に起因する水晶体に生じる白濁、角膜に生じる白濁、水晶体の膨化、角膜の浮腫の何れか1種又は2種以上を治療及び/又は予防するための請求項1乃至3の何れかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項5】
眼科用医薬組成物が、点眼剤、眼軟膏剤、眼洗浄剤、眼内灌流剤、前房洗浄剤、内服剤、注射剤及び摘出角膜の保存剤の何れかであることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の眼科用医薬組成物。
【請求項6】
一般式1で表わされる基本環状構造を有する糖質を、組成物の総質量当たり0.01質量%以上含有することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の眼科用医薬組成物。

【公開番号】特開2006−206502(P2006−206502A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21102(P2005−21102)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】