説明

眼科用組成物及びその使用方法

(a)ケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)非イオンの等張化剤及び(c)水を含有するか又は本質的にこれらのものからなる眼科用組成物を提供する。ケトチフェン又はケトチフェンの塩の濃度は好ましくは0.01%-0.05%である。非イオンの等張化剤は好ましくはグリセロールであり、そのグリセロールの濃度は好ましくは4%-7%である。本発明の組成物は、好ましくは浸透圧が400-875ミリオスモル/kgである。また、本発明の組成物は、抗発赤剤を含有していてもよい。本発明の眼科用組成物を使ってアレルギー性結膜炎を治療する方法及び本発明の眼科用組成物を使って乾燥眼病を治療する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、ケトチフェン及び/又はケトチフェンの塩を含有する眼科用組成物及びその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー性結膜炎の治療に使用する各種の眼科用組成物は公知である。例えば米国特許第6,274,626号は、眼のアレルギー反応を予防及び治療するために使う、ポビドンと組み合わせて抗ヒスタミン薬のフェニラミンを含有する組成物を目的としている。米国特許第6,274,626号による水剤は、緩衝剤類、各種表面活性剤、安定剤類、等張剤類など、使用者にとって眼科用組成物をより快適なものにすることを助ける薬剤を含有している。米国特許第6,274,626号の水性水剤は特に、塩化ナトリウムの0.9%溶液又はグリセロールの2.5%溶液に等しいといわれている正常な涙液の浸透圧にほぼ等しくするため等張化剤で調節されている。この水剤の浸透圧は、好ましくは約225-400mOsm/kgであり、より好ましくは280-320mOsm/kgである。また米国特許第6,274,626号には、塩又は他の等張化剤を過剰に使用すると刺痛及び眼の刺激を起こす高張性水剤が生成すると記載されている。
【0003】
ケトチフェンを含有するアレルギー性結膜炎治療用眼科用組成物も公知である。例えば、米国特許第6,774,137号及び同第6.777,429号は、0.01-0.04%の濃度のケトチフェンの塩、組成物の全張性が約210-290ミリオスモル(milliosmole)/kgの範囲の浸透圧になるような量の非イオンの等張化剤、随意選択的に防腐剤、pHを弱酸性にするための酸もしくは塩基及び水を含有する、医薬として有効な薬剤としてケトチフェンを含有する眼科用組成物に関する特許である。これら特許は、その眼科用組成物を使って、アレルギー性結膜炎が原因の眼の掻痒感を治療及び一時的に防止するのに使用できることを開示している。またこれらの特許は、グリセロールが好ましい非イオンの等張化剤であり、そしてグリセロールを使う場合は、濃度は好ましくは1.5-2.5%の範囲内であるとも開示している。
【0004】
アレルギー性結膜炎が原因の眼の掻痒感を一時的に防止するための一市販製品のZaditor(商標)(フマル酸ケトチフェンの眼科用水剤)は、0.0345%のフマル酸ケトチフェン(0.025%のケトチフェンに相当する)、0.01%の塩化ベンザルコニウム、グリセロール、水酸化ナトリウム/塩酸(pHを調節するため)及び精製水を含有する滅菌眼科用水剤である。この製品は、pHが4.4-5.8でかつ浸透圧は210-300mOsm/kgである。
【発明の開示】
【0005】
一側面で、本質的に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kgになるような濃度の非イオンの等張化剤及び(c)水からなりそして随意選択的に抗発赤薬を含有する眼科用組成物が提供される。
【0006】
別の側面で、本質的に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)3.5%-7.0%の濃度のグリセロール及び(c)水からなりそして随意選択的に抗発赤薬を含有する眼科用組成物が提供される。
【0007】
さらに別の側面で、本質的に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような3.5%より高い濃度のグリセロール及び(c)水からなりそして随意選択的に抗発赤薬を含有する眼科用組成物が提供される。
【0008】
別の側面で、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような濃度の非イオンの等張化剤及び(c)水を含有する眼科用組成物が提供される。
【0009】
さらに別の一側面で、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)3.5%-7%の濃度のグリセロール及び(c)水を含有する眼科用組成物が提供される。
【0010】
さらに他の一側面で、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような3.5%より高い濃度のグリセリン及び(c)水を含有する眼科用組成物が提供される。
【0011】
別の一側面で、アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような濃度の非イオンの等張化剤及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含むアレルギー性結膜炎の治療方法が提供される。
【0012】
さらに別の一側面で、アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)3.5%-7%の濃度のグリセロール及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含むアレルギー性結膜炎の治療方法が提供される。
【0013】
さらに他の一側面で、アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような3.5%より高い濃度のグリセロール及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含むアレルギー性結膜炎の治療方法が提供される。
【0014】
別の一側面で、乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような濃度の非イオンの等張化剤及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含む乾燥眼病の治療方法が提供される。
【0015】
さらに別の一側面で、乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b)3.5%-7.0%の濃度のグリセロール及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含む乾燥眼病の治療方法が提供される。
【0016】
さらなる一側面で、乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、(a)0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/Kg になるような3.5%より高い濃度のグリセロール及び(c)水を含有する眼科用組成物の有効量を投与するステップを含む乾燥眼病の治療方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明はケトチフェン又はケトチフェンの塩を含有する眼科用組成物及びその使用法に関する。
【0018】
従来の眼科用水性水剤は、米国特許第6,274,626号に記載されているように、2.5%のグリセロール溶液に等しい正常涙液の浸透圧にほぼ等しくするため等張化剤で、一般に調節されている。一般に、過剰な等張化剤は、やはり米国特許第6,274,626号にも記載されているように、刺痛及び眼の刺激を起こす高張性溶液を生成することになると考えられている。驚いたことには、ケトチフェン(又はその塩)を含有する眼科用組成物の浸透圧を増大し及び/又はグリセロールの濃度を上げると、快適性が増し、冷却感があり、及び/又は眼科用組成物による刺痛、灼熱感又は刺激が少ないことが発見されたのである。
【0019】
本発明の眼科用組成物はケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水を含有している。いくつかの実施態様では、本発明の眼科用組成物は、本質的に、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水からなっている。これら組成物は、防腐剤を含有していてもよく、組成物のpHを調節するための酸もしくは塩基を含有していてもよく、組成物の所望のpHを達成(及び維持)するための緩衝剤を含有していてもよく、及び眼の発赤を軽減する抗発赤剤を含有していてもよい。
【0020】
ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩は、本発明の組成物中に、0.01%-0.05%、好ましくは0.01%-0.04%、より好ましくは0.02%-0.03%の濃度で存在している(眼科用組成物の成分の「濃度」という用語は、本明細書で使用する場合、組成物の全容積に対する成分の重量に基づいた濃度(すなわちg/mL)を意味し、一般に百分率で表される)。眼科用に許容できるどのようなケトチフェンの塩でも使用できるが、フマル酸ケトチフェンが好ましい。フマル酸ケトチフェンは、下記化学式で表される。
【0021】
【化1】

【0022】
いくつかの実施態様では、ケトチフェン又はケトチフェンの塩は、組成物中のケトチフェン基剤の濃度が、0.02%-0.03%、好ましくは0.0225%-0.0275%、より好ましくは0.025%になるような濃度で提供される。ケトチフェン基剤のかような濃度が得られるケトチフェンの塩の濃度は容易に計算できる。例えば、組成物に0.0345%の濃度のフマル酸ケトチフェンを使用すると、組成物中0.025%の濃度のケトチフェン基剤の濃度が提供される。
【0023】
非イオンの等張化剤としてはグリセロールが好ましいが、例えば、尿素、ソルビトール、マンニトール、プロピレングリコール及びデキストロースなどの他の非イオンの等張化剤も使用できる。いくつかの実施態様では、非イオンの等張化剤は、組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/kg(mOsm/kg)、好ましくは425-825mOsm/kg、より好ましくは425-775mOsm/kg、より好ましくは550-750mOsm/kg、さらにより好ましくは600-725mOsm/kg、及びさらにより一層好ましくは650-700mOsm/kgになるような濃度で提供される。他の実施態様では、グリセロールは、非イオンの等張化剤として、3.5%-7%、好ましくは4.5%-7%、より好ましくは5%-7%、さらにより好ましくは5.5%-6.5%及びさらにより一層好ましくは5.75%-6.25%の濃度で使用される。さらなる実施態様では、グリセロールは、非イオンの等張化剤として、3.5%より高い濃度、好ましくは4.5%より高い濃度、より好ましくは5%より高い濃度及びさらにより一層好ましくは5.5%より高い濃度で使用される。さらに他の実施態様では、グリセロールは、非イオンの等張化剤として、組成物の浸透圧が400-875mOsm/kg、好ましくは425-825mOsm/kg、より好ましくは425-775mOsm/kg、より好ましくは550-750mOsm/kg、さらにより好ましくは600-725mOsm/kg、及びさらにより一層好ましくは650-700mOsm/kgになるような、3.5%より高い濃度、好ましくは4.5%より高い濃度、より好ましくは5.5%より高い濃度、さらにより好ましくは5%-7%及びさらにより一層好ましくは5.5%-6.5%の濃度で使用される。
【0024】
上記のように、本発明の組成物は防腐剤を含有していてもよい。防腐剤は、組成物が複数回投与量ユニット用に包装されている場合は好ましいが、必要に応じて(例えば組成物の1回投与量ユニットの場合)組成物に存在していなくてもよい。いずれの防腐剤も本発明の組成物に使用できるが、塩化ベンザルコニウムが好ましい。使用できる他の防腐剤としては、Polyquad防腐剤(Alcon);過ホウ酸塩(例えばCibaから入手できる過ホウ酸ナトリウム);Purite防腐剤(安定化された二酸化塩素)(Allergan);他の第四級アンモニウム化合物例えば塩化ベンゾキソニウム;チオサリチル酸のアルキル水銀塩類、例えばチオメルサール、硝酸フェニル水銀、酢酸フェニル水銀及びホウ酸フェニル水銀;パラベン類、例えばメチルパラベン又はプロピルパラベン;アルコール類例えばクロロブタノール、ベンジルアルコール及びフェニルエタノール;グアニジン誘導体例えばクロロへキシジン又はポリヘキサメチレンビグアニドなどがある。防腐剤が本発明の組成物に使用されるときは、一般に、0.005%-0.02%の濃度であり好ましくは0.01%の濃度で使用されるが、他の濃度も利用できる。
【0025】
本発明の眼科用組成物は、pHが一般に4-6であり好ましくは4.4-5.8であるが、これらの範囲以外のpHでもよい。緩衝剤(例えばクエン酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、重炭酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩などの緩衝剤;又は固有の抗微生物特性を有する緩衝剤、例えばホウ酸ナトリウム/ホウ酸緩衝剤)を使用して組成物の所望のpHを達成(及び維持)することができ及び/又は酸又は塩基を添加して組成物のpHを所望のレベルに調節できる。一般に、組成物のpHを調節するには、ごく少量の酸又は塩基しか必要でない。このpHを調節するのに好ましい酸及び塩基は塩酸と水酸化ナトリウムである。本発明の眼科用組成物は、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩及び抗発赤剤(例えばナファゾリン)の両者を含有している場合、緩衝剤を含有している方が好ましい。
【0026】
本発明の眼科用組成物は、眼の発赤を軽減するために抗発赤剤を含有していてもよい。好ましい抗発赤剤は、ナファゾリン又はその医薬として許容できる塩、例えば塩酸ナファゾリンである。使用できる他の抗発赤剤としては、限定されないが、テトラヒドロゾリン、エフェドリン、フェニレフリン、その外の血管収縮薬、その組合せ及び眼科で許容できるその塩(例えば塩酸テトラヒドロゾリン)がある。
【0027】
いくつかの実施態様では、本発明の組成物は、エチレンジアミン四酢酸とその塩すなわちDequestとDesferal(例えば米国特許第6,776,982号及び同第6,468,548号に記載されている組成物に使用されているような);キトサンを含有するポリマー類(例えば米国特許願第2003/0031718号に記載されている組成物に使用されているような);ヒアルロン酸化合物のような線状多糖化合物(例えば国際特許願公開第WO 02/100437号に記載の組成物に使われているような);ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマー類及びアクリル酸のホモポリマー類とコポリマー類のような生体適合性のポリマー類/増粘剤類(例えば国際特許願公開第WO 02/100436号に記載の組成物に使われているような);酸化防止剤及び/又はケトチフェン以外の活性剤などの安定剤を含有していないか又は実質的に含有していない。本質的に、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水からなる組成物は、これらの成分を含有していないか又は実質的に含有していない。
【0028】
上記のように、いくつかの実施態様では、本発明の眼科用組成物は、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水を含有し、及び随意選択的に、防腐剤、抗発赤剤及び/又は組成物のpHを調節するための酸又は塩基を含有している。他の実施態様では、本発明の眼科用組成物は、本質的にケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水からなり、及び随意選択的に、防腐剤、抗発赤剤及び/又は組成物のpHを調節するための酸又は塩基を含有している。さらなる実施態様では、本発明の眼科用組成物は、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水からなり、そして随意選択的に、防腐剤、抗発赤剤及び/又は組成物のpHを調節するための酸又は塩基を含有している。さらに他の実施態様では、本発明の眼科用組成物は、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤及び水からなっている。さらに別の実施態様では、本発明の眼科用組成物は、ケトチフェンもしくはケトチフェンの塩、非イオンの等張化剤、抗発赤剤及び水からなっている。
【0029】
特に好ましい一実施態様では、本発明の眼科用組成物は、本質的に0.0345%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール、0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウム及び水からなっている。かような組成物のpHは好ましくは4.4-5.8であり、そしてかような組成物の浸透圧は好ましくは625-875mOsm/kgであり、より好ましくは650-750mOsm/kgである。必要な場合、かような組成物は、例えばナファゾリン又は塩酸ナファゾリンのような抗発赤剤を含有していてもよい。
【0030】
別の実施態様では、本発明の眼科用組成物は0.0345%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール、0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウム及び水を含有している。かような組成物のpHは好ましくは4.4-5.8であり、そしてかような組成物の浸透圧は好ましくは625-875mOsm/kgであり、より好ましくは650-750mOsm/kgである。必要な場合、かような組成物は、例えばナファゾリン又は塩酸ナファゾリンのような抗発赤剤を含有していてもよい。
【0031】
本発明の眼科用組成物は、眼の掻痒感及び発赤などのアレルギー性結膜炎の徴候と症状の治療と一時的防止を行うのに有用である。アレルギー性結膜炎の治療法は、アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすいヒトの被験者に、本願に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいる。
【0032】
一般に、本発明の組成物は、滴剤として投与され、一滴の組成物を、アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者の一つの眼に、1日あたり2回点眼するが、特定の組成物の構成などの複数の要因によって、組成物の投与量又は投与頻度を増やしたり又は減らしてもよい。
【0033】
また本発明の眼科用組成物は、炎症性乾燥眼病などの乾燥眼病を治療するのに有用でもある。乾燥眼病の治療法は、乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、本願に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいる。
【0034】
本発明の眼科用組成物は、防腐剤を使用し又は使用せずに1回投与量又は複数回投与量のユニットとして配合することができ次いでその成分を混合することによって製造できる。本発明の組成物は、ガラス又はプラスティックのような材料で製造された密閉されたびんやチューブなどの容器のような単一又は複数の剤形に包装してもよい。いくつかの実施態様では、本発明の眼科用組成物を包装する際に、酸化防止剤(例えば米国特許第6,455,547号及び同第6,576,649号に記載されている組成物に使用されているような)は含まれていないか又は実質的に含まれていなくてもよい。
【実施例】
【0035】
本発明を限定しない下記の詳解実施例で、本発明をさらに説明する。
【0036】
実施例1
本願に記載の眼科用組成物の3種の製剤を、4%、5%及び6%の濃度のグリセロールで調製した。Novartis Ophthalmics,Inc.(米国ニュージャージー州イーストハノーバー所在)が商品名Zaditor(商標)で市販しているフマル酸ケトチフェン製品を、比較製品として試験するために入手した。調製した眼科用組成物及びフマル酸ケトチフェンの比較製品に関する情報(処方の情報に列挙されているような情報)を下記表Iに列挙する。
【0037】
【表1】

【0038】
異なる水剤の快適性のレベルを比較するため、盲検法を2回実施した。第一試験では、フマル酸ケトチフェンの比較製品(すなわちZaditor(商標))を、4%グリセロールの組成物と対比して試験した。ヒトの被験者各々に、上記2種の組成物のうち一方の1滴を右眼に及び残りの組成物の1滴を左眼に、無作為に点眼したが、組成物の内容については被験者に知らせなかった。次いで被験者は、どちらの眼の方が快適であったかを指摘した。上記盲検比較試験の結果、多くの被験者が、4%グリセロール組成物の方がフマル酸ケトチフェンの比較製品より快適であると指摘した。
【0039】
第二試験では、4%グリセロールの組成物を6%グリセロールの組成物と対比して試験した。6名のヒト被験者各々に、上記2種の組成物のうち一方の1滴を右眼に及び残りの組成物の1滴を左眼に、無作為に点眼したが、組成物の内容については被験者に知らせなかった。各1滴を点眼した後、被験者は、点眼された眼の快適性を1−10の尺度で指摘した(なお10が最も快適であることを意味する)。第二試験の結果を、下記表IIに列挙した。この表は、6%グリセロールの組成物の方が4%グリセロールの組成物より快適であることを示している。
【0040】
【表2】

【0041】
結論として、試験結果は、浸透圧が454mOsm/kgであった4%グリセロールの組成物が、関連する処方の情報に挙げられている浸透圧が210-300mOsm/kgである比較ケトチフェン製品より、ヒトの眼に快適であることを示した。またこの試験結果は、浸透圧が689mOsm/kgであった6%グリセロールの組成物が、浸透圧が454mOsm/kgであった4%グリセロールの組成物より、ヒトの眼に快適であることも示した。
【0042】
実施例2
6%のグリセロールを含有する眼科用組成物の製剤を、Novartis Ophthalmics,Inc.(米国ニュージャージー州イーストハノーバー所在)が商品名Zaditor(商標)で市販しているフマル酸ケトチフェン製品(上記表Iに比較製品として記載されている)と比較した。眼科用組成物の製剤(NFKF)は、6%のグリセロール、0.0345%のフマル酸ケトチフェン(0.025%のケトチフェン)、塩化ベンザルコニウム、pHを調節するためのNaOH及び/又はHCl及び水を含有していた。このNFKF製剤と製品Zaditorを、下記の結膜アレルゲン投与(CAC)モデルで試験した。
【0043】
プロトコル
試験は5週間にわたって4回の受診で実施した。
【0044】
第一受診(21±3日目)にて、中位の眼のアレルギー反応を誘発するのに適切なアレルゲン投与量を測定するため(滴定によって)CACを実施した。陽性の眼のアレルギー反応が誘発されるまで、濃度をあげてアレルゲンを、10分間隔で両眼に点眼した。
【0045】
第二受診(14±3日目)にて、第一受診にて陽性反応を誘発したのと同じタイプで同じ投与量のアレルゲン溶液1滴を、被験者の両眼に投与して眼のアレルギー反応を確認して再現した。アレルゲンを投与してから3、5及び7分後に、被験者が、掻痒感を評価した。発赤(充血)の評価は、投与してから7、15及び20分後に研究者が行なった。20分の間隔内の3時点のうち少なくとも2時点で、両眼に陽性反応を示さなかった被験者は試験を中止した。
【0046】
第三受診(0±3日目)にて、適格/不適格の基準を満たした被験者を、眼によって、無作為に選んで下記治療群のうちの一つに配分した。
NFKF/NFKF(n=30)
Zaditor/Zaditor(n=30)
NFKF/賦形剤(プラセボ)(n=20)
Zaditor/賦形剤(プラセボ)(n=20)
被験者は、上記無作為選択法による各眼に試験投薬(NFKF、Zaditor、プラセボ)で前治療を受けた。薬剤を点眼されてから8時間後、各被験者は、第一受診と第二受診にて陽性反応を起こしたのと同じアレルゲンと投与量のアレルゲン溶液1滴を両眼に点眼された。掻痒感の評価は、被験者が、アレルゲンを投与してから3、5及び7分後に行なった。充血(結膜、毛様体及び上強膜の充血)の評価は、研究者が投与を行なってから7、15及び20分後に格付けして行なった。
【0047】
第四受診(14±3日目)にて、被験者は、上記無作為選択法による各眼に試験投薬(NFKF、Zaditor、プラセボ)で前治療を受けた。薬剤を点眼してから15分後、各被験者は、第一受診と第二受診にて陽性反応を起こしたのと同じアレルゲンと投与量のアレルゲン溶液1滴を両眼に点眼された。掻痒感の評価は、被験者が、アレルゲンを投与してから3、5及び7分後に行なった。充血(結膜、毛様体及び上強膜の充血)の評価は、研究者が投与を行なってから7、15及び20分後に格付けして行なった。
【0048】
試験結果
第三と第四の受診それぞれにおける、治療グループ群(NFKF、Zaditor又はプラセボ)による眼の掻痒感のスコアの統計学的要約を下記表III とIVに示した。第三と第四の受診それぞれにおける、治療グループによる結膜発赤のスコアの統計学的要約を下記表VとVIに示した。第三と第四の受診それぞれにおける、治療グループによる毛様体の発赤のスコアの統計学的要約を下記表VII とVIIIに示した。第三と第四の受診それぞれにおける、治療グループによる上強膜の発赤のスコアの統計学的要約を下記表IXとXに示した。
【0049】
掻痒感は、0-4の尺度にて0.5刻みのスコアで評価した。なお0は掻痒感が無いことを示しそして4は重篤な掻痒感を示す。結膜、毛様体及び上強膜の発赤はすべて、0-4の尺度にて0.5刻みのスコアで評価した。なお0は発赤が無いことを示しそして4は重篤な発赤を示す。
【0050】
表III -X各々には、異なる時点における、NFKF及びZaditorとプラセボとの各種比較が含まれている。また表III とIV各々には、異なる時点における、NFKFとZaditorの比較も含まれている。これらの比較には、比較したグループの平均値間の差及びp値(フィッシャーの直接検定法を使って計算した)が含まれている。
【0051】
NFKFとZaditorを比較すると、表III とIVに示されているように、眼の掻痒感の低下についてはNFKFとZaditorが生物学的に等価であることを示している。表III とIVにてNFKF及びZaditorとプラセボとを比較すると、両方の製剤による眼の掻痒感の低下は、測定時点ごとに統計学的に有意であったことを示している。
【0052】
表V-X各々に示されているように、6%のグリセロールと0.025%のケトチフェンを含有するNFKF製剤は、Zaditor ケトチフェン製品より予想外に良好な発赤スコアを示した。表V-Xにて発赤の低下について、NFKF及びZaditorとプラセボを比較したところ、より多くの実施例が、ZaditorよりNFKFの方が統計学的に有意であることを示した。
【0053】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【表10】

【0054】
本発明を、その具体的実施態様を参照して詳細に説明してきたが、当業者には、各種の変更及び修正を本発明の精神及び範囲から逸脱することなく実施できることは明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本質的に、(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/kgになるような濃度の非イオンの等張化剤及び
(c) 水
からなり、随意選択的に抗発赤剤を含有する眼科用組成物。
【請求項2】
非イオンの等張化剤がグリセロールである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩がフマル酸ケトチフェンである請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
フマル酸ケトチフェンの濃度が0.03%-0.04%である請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
浸透圧が425-775ミリオスモル/kgである請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
浸透圧が550-750ミリオスモル/kgである請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
浸透圧が600-725ミリオスモル/kgである請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
浸透圧が650-700ミリオスモル/kgである請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩の濃度が、組成物中のケトチフェン基剤の濃度が0.02%-0.03%になるような濃度である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
本質的に、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、組成物の浸透圧が650-700ミリオスモル/kgになるような濃度のグリセロール及び水からなる請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
抗発赤剤を含有する請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
本質的に、(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 3.5%-7%の濃度のグリセロール及び
(c) 水
からなり、随意選択的に抗発赤剤を含有する眼科用組成物。
【請求項13】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩がフマル酸ケトチフェンである請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
フマル酸ケトチフェンの濃度が0.03%-0.04%である請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
グリセロールの濃度が4.5%-7%である請求項12に記載の組成物。
【請求項16】
グリセロールの濃度が5%-7%である請求項12に記載の組成物。
【請求項17】
グリセロールの濃度が5.5%-6.5%である請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
グリセロールの濃度が5.75%-6.25%である請求項12に記載の組成物。
【請求項19】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩の濃度が、組成物中のケトチフェンの基剤の濃度が0.02%-0.03%になるような濃度である請求項12に記載の組成物。
【請求項20】
本質的に、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール及び水からなる請求項12に記載の組成物。
【請求項21】
抗発赤剤を含有する請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
本質的に、(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/kgになるような3.5%より高い濃度のグリセロール及び
(c) 水
からなり、随意選択的に抗発赤剤を含有する眼科用組成物。
【請求項23】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩がフマル酸ケトチフェンである請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
フマル酸ケトチフェンの濃度が0.03%-0.04%である請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
浸透圧が425-775ミリオスモル/kgである請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
浸透圧が550-750ミリオスモル/kgである請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
浸透圧が600-725ミリオスモル/kgである請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
浸透圧が650-700ミリオスモル/kgである請求項22に記載の組成物。
【請求項29】
グリセロールの濃度が4.5%より高い請求項22に記載の組成物。
【請求項30】
グリセロールの濃度が5.5%より高い請求項22に記載の組成物。
【請求項31】
グリセロールの濃度が5%-7%である請求項22に記載の組成物。
【請求項32】
グリセロールの濃度が5.5%-6.5%である請求項22に記載の組成物。
【請求項33】
ケトチフェン又はケトチフェンの塩の濃度が、組成物中のケトチフェン基剤の濃度が0.02%-0.03%になるような濃度である請求項22に記載の組成物。
【請求項34】
本質的に、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、組成物の浸透圧が650-700ミリオスモル/kgになるような5.5%-6.5%の濃度のグリセロール及び水からなる請求項22に記載の組成物。
【請求項35】
フマル酸ケトチフェンの濃度が0.0345%であり、
グリセロールの濃度が5.75%-6.25%であり、
0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウムを含有し、及び
pHが4.4-5.8である
請求項22に記載の組成物。
【請求項36】
抗発赤剤を含有している請求項35に記載の組成物。
【請求項37】
(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/kgになるような濃度の非イオンの等張化剤及び
(c) 水
を含有する眼科用組成物。
【請求項38】
さらに抗発赤剤を含有する請求項37に記載の組成物。
【請求項39】
(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 3.5%-7%の濃度のグリセロール及び
(c) 水
を含有する眼科用組成物。
【請求項40】
さらに抗発赤剤を含有する請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
(a) 0.01%-0.05%の濃度のケトチフェン又はケトチフェンの塩、
(b) 組成物の浸透圧が400-875ミリオスモル/kgになるような3.5%より高い濃度のグリセロール及び
(c) 水
を含有する眼科用組成物。
【請求項42】
さらに抗発赤剤を含有する請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
フマル酸ケトチフェンが0.0345%の濃度で存在し、
グリセロールの濃度が5.75%-6.25%であり、
0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウムを含有し、及び
pHが4.4-5.8である
請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、請求項37に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいるアレルギー性結膜炎の治療方法。
【請求項45】
組成物が、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、組成物の浸透圧が650-700ミリオスモル/kgになるような濃度のグリセロール及び水を含有する請求項44に記載の方法。
【請求項46】
組成物が抗発赤剤を含有する請求項45に記載の方法。
【請求項47】
アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、請求項39に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいるアレルギー性結膜炎の治療方法。
【請求項48】
組成物が、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール及び水を含有する請求項47に記載の方法。
【請求項49】
組成物が抗発赤剤を含有する請求項48に記載の方法。
【請求項50】
アレルギー性結膜炎に冒されているか又は冒されやすい被験者に、請求項41に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいるアレルギー性結膜炎の治療方法。
【請求項51】
組成物が、0.03%-0.04%の濃度のフマル酸ケトチフェン、組成物の浸透圧が650-700ミリオスモル/kgになるような5.5%-6.5%の濃度のグリセロール及び水を含有する請求項50に記載の方法。
【請求項52】
組成物が抗発赤剤を含有する請求項51に記載の方法。
【請求項53】
組成物が、0.0345%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール、0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウム及び水を含有し、組成物のpHが4.4-5.8である請求項50に記載の方法。
【請求項54】
組成物が抗発赤剤を含有する請求項53に記載の方法。
【請求項55】
乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、請求項37に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいる乾燥眼病の治療方法。
【請求項56】
乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、請求項39に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいる乾燥眼病の治療方法。
【請求項57】
乾燥眼病に冒されているヒト被験者に、請求項41に記載の眼科用組成物の有効量を投与するステップを含んでいる乾燥眼病の治療方法。
【請求項58】
組成物が、0.0345%の濃度のフマル酸ケトチフェン、5.75%-6.25%の濃度のグリセロール、0.01%の濃度の塩化ベンザルコニウム及び水を含有している請求項56に記載の方法。

【公表番号】特表2008−517937(P2008−517937A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538131(P2007−538131)
【出願日】平成17年10月24日(2005.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2005/038186
【国際公開番号】WO2006/047418
【国際公開日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(506076640)ボーシュ アンド ローム インコーポレイティド (99)
【Fターム(参考)】