説明

眼薬用組成物

【課題】ドライアイ症状の予防、緩和、治癒に有効な点眼薬用組成物、人工涙液としても有効な人工涙液用組成物等の眼薬用組成物を提供する。
【解決手段】ポリ-γ-グルタミン酸を成分として含む眼薬用組成物。ポリ-γ-グルタミン酸が酸型、塩型、酸と塩の混在型、架橋物あるいはこれらの混合物であるポリ-γ-グルタミン酸を成分として含み、さらに、フラクタン類、ヒアルロン酸を含んでもよい。また、ポリ-γ-グルタミン酸の分子量が3万以上で、納豆菌の培養によって得られたポリ-γ-グルタミン酸であり、また、ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸が結合したポリ-γ-グルタミン酸ヒアルロン酸を含んでもよい。また、コンタクトレンズ浸漬液、眼用ジェルあるいは眼軟膏であってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドライアイ症状の予防、緩和、治癒に有効なドライアイ点眼薬用組成物、人工涙液としても有効な人工涙液用組成物等の眼薬用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
眼球表面は正常な状態では分泌される涙液によって適度に濡れており、適度の涙液は眼球表面の乾燥を防止すると共に酸素供給、栄養補給、洗浄、殺菌など眼球の健康を維持するための重要な生理作用を担っていることはよく知られている。
【0003】
ドライアイとは、一般に眼球表面に起こる異常な乾燥状態とそれに伴い眼球に惹き起こされる症状を言う。それは単一の症状ではなくドライアイ症候群とも呼ぶべき疾患を含む眼球表面の疾患と考えられている。すなわち、涙液の量的あるいは質的な異常をきたした状態を言い、角結膜障害を伴うことが多い。その症状には涙液減少症、乏涙症、眼乾燥症、シェーグレン症候群、乾性角結膜炎、スティーブンス−ジョンソン症候群、眼類天疱胞、眼瞼縁炎、閉眼不全、知覚神経麻痺等の疾患に関係したドライアイ、アレルギー性結膜炎に関係したドライアイ、ウイルス性結膜炎に関係したドライアイ、白内障手術後のドライアイ等が含まれる。また、近年特に問題となっているドライアイとして、コンタクトレンズ装用に関連したドライアイ、人工的空調環境に関連したドライアイ、テレビ・コンピュータ等のVDT画面の長時間注視に関連したドライアイ等がある。
【0004】
ドライアイを罹患すると、涙液が減少し眼球表面では乾燥、酸素不足、塵埃の付着等が起こり、乾燥が進むと眼球表面の涙膜に欠損(涙液孔)を生じる。また、眼球に焼けた感じ、乾燥感、持続性の刺激、著しい疲労等の感覚を覚え、乾いた眼球は付着した塵埃等によって創傷することがある。
【0005】
例えば、パソコン操作でモニター画面を長時間注視すると眼瞬き数が減るが、眼瞬き数の減少によって眼球表面の涙液供給の減少と蒸散の増加が起こる。それによって、眼球表面の乾燥、涙液孔の発生、酸素不足、塵埃の付着等を生じ、眼球の著しい疲労や塵埃による創傷が起こる。
【0006】
前述のように、ドライアイ症状とは眼球表面に起こる異常な乾燥状態と、それに伴う眼球の諸疾患を言う。この分野に関しては、従来から種々の治療薬、治療方法が試みられてきた(特許文献1〜5参照)。
【0007】
しかしながら、治療薬、治療方法は未だ充分とは言えず、ドライアイ症状は目の疾患の解決すべき大きい問題として今日も続いている。
【特許文献1】特開平06−271478号公報、
【特許文献2】特開平09−136832号公報、
【特許文献3】特開平10−316574号公報、
【特許文献4】特開2003−63964号公報、
【特許文献5】特表2003−528906号公報、
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ドライアイ症状の予防、緩和、治癒に有効な点眼薬用組成物、人工涙液としても有効な人工涙液用組成物等の眼薬用組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ドライアイの予防、緩和、治癒には涙液置換物の使用が効果を示すことが知られている。しかしながら、従来知られている涙液置換物は一時的には有効ではあるものの効果の持続性に乏しく、繰り返し点眼しなければならないため患者の負担が大きく、持続時間の長い有効な眼薬用組成物が求められている。本発明の眼薬用組成物はこの様な問題点を解決しようとするものである。
【0010】
本発明は、具体的に言えばポリ-γ-グルタミン酸を成分として含む眼薬用組成物を提供するものである。すなわち、ポリ-γ-グルタミン酸水性溶液は点眼すると眼球表面において水分が蒸散し難くかつ安定した水性溶液膜を形成し、眼球表面の乾燥、涙液孔の発生、酸素不足、塵埃付着、創傷等の症状を抑えることに極めてすぐれた効果を発現することが見出されたのである。この様なポリ-γ-グルタミン酸の特性は、従来知られている親水性物質、例えばヒアルロン酸等に較べて遥かにすぐれている。ポリ-γ-グルタミン酸は水性媒体中において分子分散状態で均一に溶解するが、この時、ポリ-γ-グルタミン酸分子鎖は多数の水分子と強い水素結合に基づく会合状態を形成し、会合状態の多量の水分子を包含することができる。これに水性媒体中におけるポリ-γ-グルタミン酸分子鎖のコンフォーメションの効果が相乗的に組み合わさり、水分が蒸散し難くかつ安定した水性溶液膜となって眼球表面に形成されるのである。また、ポリ-γ-グルタミン酸は生体に拒絶反応を起こさず、生体組織を活性化し、生体内分解性、生体適合性があることが見出されたのである。生体に対する高い適合性と安全性は角膜損傷部に対する治癒作用が期待できるだけにとどまらず、各種治癒薬剤の基剤として、この様な特性を活用すれば他の薬剤と相補的な相乗的な効果を図ることができる。
【0011】
さらに、注目すべきは、ポリ-γ-グルタミン酸分子鎖とカルシウムイオンとの錯体形成である。この錯体形成は涙液中のカルシウムと糖タンパク質の結合を抑制する。コンタクトレンズ装用者にあっては眼球表面に生成する析出物によって眼球に強い疼痛を感じることがある。この析出物は涙液中のカルシウムと糖たんぱく質の結合によって生じるが、ポリ-γ-グルタミン酸分子鎖とカルシウムイオンとの錯体形成は、上記のカルシウムと糖たんぱく質による析出物の生成を抑えると考えられる。これはコンタクトレンズ装用者に大きな恩恵をもたらすものである。
【0012】
さらに加えて、日本人が多年にわたって食用としてきた納豆菌を使用して産生したポリ-γ-グルタミン酸を使用すれば安全性に対する信頼性がさらに高いものとなる。
【0013】
ここで、ポリ-γ-グルタミン酸の分子量について述べる。ポリ-γ-グルタミン酸の分子量は3万以上好ましくは5万以上が好適である。分子量について言えば(1)浸透圧の濃度依存性は分子量が大きい程小さくなるので分子量は大きい方が好ましい、(2)溶液粘度は分子量に対して指数関数的に増加するので大きい方が好ましい、(3)水分子を会合状態で包含する性質は分子量が大きいほど大きくかつ安定化するので大きい方が好ましい。これらの諸点を総合的に検討すると上述の範囲が好適である。
【0014】
また、ポリ-γ-グルタミン酸は側鎖のカルボキシル基が酸型であっても塩型であっても酸型と塩型の混在であってもよい。また塩を形成する対イオンは陽イオンであればよく、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、錫、亜鉛、銅、鉄等が挙げられる。勿論ここに列挙したものに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0015】
また、必要ならポリ-γ-グルタミン酸はそれが持つ本来の性質を損なわない範囲で架橋してもよい。適度の架橋は水分保持性、膨潤性、溶液粘弾性のコントロールに有効である。架橋の方法としては試薬、放射線、熱等を用いることができる。また、ポリ-γ-グルタミン酸と架橋ポリ-γ-グルタミン酸を混在させてもよい。
【0016】
また、ポリ-γ-グルタミン酸はフラクタン類を含有してもよい。両成分は実用上問題ない範囲で均一溶解する。ポリ-γ-グルタミン酸の性質を損なわない範囲で存在するフラクタン類は均一に溶解するだけでなくポリ-γ-グルタミン酸分子鎖と水分子との親和性を高める働きがあり、溶液曳糸性や水分保持性が高くなる。
【0017】
また、ポリ-γ-グルタミン酸はヒアルロン酸を含有してもよい。両成分は実用上問題ない範囲で均一溶解する。ポリ-γ-グルタミン酸の性質を損なわない範囲で存在するヒアルロン酸は均一に溶解するだけでなく、ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸の水分保持性能を相補的、相乗的に向上させる効果がある。
【0018】
また、ポリ-γ-グルタミン酸にフラクタン類とヒアルロン酸を含有してもよい。ポリ-γ-グルタミン酸の性質を損なわない範囲で存在するフラクタン類とヒアルロン酸は均一に溶解するだけでなく、ポリ-γ-グルタミン酸の効果を相補的、相乗的に一層顕著なものにすることができる。
【0019】
また、ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸の存在に置いて、試薬、放射線、熱等の手段によってポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸を化学的に共有結合させた物質(例えばグラフト重合体)をもって一部あるいは全部を置換すると両成分の溶液状態における安定性や角膜表面におけるヒアルロン酸の滞留保持性が著しく向上し、両者の特性を相補的、相乗的に発現させることができる。
【0020】
本発明の眼薬用組成物には、本発明の効果が損なわれない範囲に置いて、通常の眼用製剤に用いられる糖質、電解質、アミノ酸、ビタミン、脂質、医薬品添加物、医薬品等の各種成分が含まれてよい。例えば、グルコース、マルトース、オリゴ糖、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、グリシン、アラニン、塩酸チアミン、リン酸リボフラビン、ニコチン酸アミド、葉酸、ビオチン、ビタミンA、L-アスコルビン酸及びその誘導体である。それらを組み合わせてもよい。
【0021】
また、同様に緩衝液、安定剤、張度剤、pH調整剤、増粘剤、界面活性剤等の添加剤を含有することが可能である。例えば、緩衝剤としてリン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ホウ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、アミノ酸等があり、等張化剤として塩化ナトリウム(塩類)、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール、(多価アルコール)等があり、保存剤・防腐剤として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンザトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、チメロサール、クロロブタノール等があり、増粘剤としてポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリソルベート、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等があり、pH調整剤として塩酸、酢酸、リン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム等があり、各種界面活性剤等がある。
【0022】
本発明の水性溶液すなわち眼薬用組成物の濃度は使用上に問題がなければ特に限定する必要はないが、0.0001%w/vから10%w/v好ましくは0.001%w/vから1.0%w/vがよい。pHは4から8好ましくは6.5から7.5がよい。浸透圧は0.5から4.0圧比好ましくは0.95から1.5圧比がよい。
【0023】
本発明の眼薬用組成物の用法、用量は使用上に問題がなければ特に限定する必要はない。眼洗浄においても同様である。
【0024】
なお、本発明組成物はコンタクトレンズの保存・貯蔵あるいは使用時の性状維持のための浸漬液として有効であることは言うまでもない。また、必要なら本発明は眼用ジェルや眼用軟膏として使用することができることは言うまでもない。
【発明の効果】
【0025】
本発明のポリ-γ-グルタミン酸を成分として含む眼薬用組成物は、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効なドライアイ点眼薬用組成物及び/あるいは涙液置換物として効果が長時間持続する人工涙液用組成物を得ることができる。
【0026】
すなわち、ポリ-γ-グルタミン酸水性溶液は点眼すると角膜表面に水分が蒸散し難くかつ安定した水性溶液膜を形成し、角膜表面の乾燥、涙液孔の発生、酸素不足、塵埃付着、創傷等の症状を抑えることにすぐれた効果を示すのである。
【0027】
また、ポリ-γ-グルタミン酸は生体に拒絶反応を起こさず、生体組織の活性化、生体内分解性、生体適合性があり、角膜損傷部に対する治癒作用や長期連用による障害の解決が期待できる。さらに加えて、この様な特性を持つポリ-γ-グルタミン酸を各種治癒薬剤の基剤として使用すれば治癒薬剤との相補的な相乗的な効果が期待できる。
【0028】
また、コンタクトレンズ装用者が罹患する眼球の強い疼痛の原因物質であるカルシウムと糖たんぱく質の結合による沈殿物の生成を抑える効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下に本発明の内容と効果を示すが、本発明はここに示す実施例に限定されるもではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0030】
点眼溶液の液膜保持性の評価:角膜表面における液膜保持性は次の方法で評価した。すなわち、角膜のモデル材料として高含水ゲル性ソフトコンタクトレンズ(SCL)を用い、SCLに滴下した点眼溶液量の経時変化から水分の蒸散性を評価し、SCL表面にされた液滴膜の状態変化の観察から形成性、安定性を次の条件で評価した。
【0031】
(1)SCL:市販のSCL(1日用)を用いた。含水量、酸素透過量、角膜との親和性に注意して選択した。
【0032】
(2)保水量:計量された一辺が25mmの正方形の薄いテフロン(登録商標)シート製皿を精密天秤の上皿にセットし、保存浸漬液から取り出したSCLを凸部を上に向けてその皿に載せ直ちに重量を計量する。次いでSCLの中心部に点眼溶液20μL滴下し、滴下直後と20分静置後の重量を計量する。この操作を20μL×4回繰り返した後、すなわち最初の20μL滴下から80分経過後を基準として80分、120分、150分、180分経過後の点眼溶液重量から重量変化を測定した。点眼溶液重量は各時間経過時の全重量から保存液から取り出した時のSCL重量を差し引いた値をもってした。測定は温度25度、湿度50%で行った。
【0033】
(3)液膜の形成性、安定性:読み取り顕微鏡及び実体顕微鏡を用いて液膜の形成状態及び表面反射光、透過光の状態を観察し液膜の形成性、安定性、透明性の定性的評価を行った。
【0034】
(4)点眼溶液の調製:側鎖カルボキシル基の酸型とナトリウム塩型の割合が80/20(試料A)、50/50(試料B)、0/100(試料C)のポリ-γ-グルタミン酸(分子量300万)を調製した。このポリ-γ-グルタミン酸を用いて表1に示す水性点眼溶液を調製した。比較試料1は試料A、B、Cを加えない基本溶液である。
【表1】

【0035】
試料A、試料B、試料C各溶液は滅菌精製水を用いて100mLに調製した。溶解を完全にするために必要なら軽く加温しても差し支えない。試料A、試料B、試料C各溶液はいずれも透明で安定であった。比較のため市販ドライアイ点眼薬も測定した。ポリ-γ-グルタミン酸の分子量はポリエチレンオキシドを較正基準として高速液体クロマトグラフイーで測定した。他の実施例における分子量の測定も同様の方法で測定した。
【0036】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比でSCL保水量の時間変化を表2に示す。試料A、B、Cと比較試料1、市販ドライアイ点眼薬を比較すれば、ポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では水分の蒸散は明らかに抑制されており、また顕微鏡で観察した液膜の形成性、安定性も良好であり、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効な持続時間の長い点眼薬用組成物及び/あるいは持続時間の長い人工涙液用組成物として有効であることが認められる。
【表2】

有意差検定はstudent t-testを行いp<0.05で有意であった。
【0037】
また、水性点眼溶液の薬物眼内移行性能についてテストした。測定は高分子実験学講座8巻高分子化学下p.151(1958)記載の測定装置を液体測定に改造したものを用いた。本装置の隔膜装着部分に摘出した豚角膜を装着した。角膜によって仕切られた試料溶液部にモデル薬物フルオレセインナトリウム0.01%w/vを加えた表1の試料A、試料B、試料C、比較試料1を充填し被験点眼液(6mL)とした。フルオレセインナトリウムは4種の被験点眼液のいずれにも均一溶解した。受容溶液部にモデル眼内灌流液(ブドウ糖150mg、塩化ナトリウム660mg、塩化カリウム36mg、塩化カルシウム18mg、硫酸マグネシウム30mg、炭酸水素ナトリウム210mg、pH7.2、浸透圧比1.01)(6mL)を充填した。この状態で3時間経過後の受容溶液部にモデル眼内灌流液中のフルオレセインナトリウム量を測定した。測定は37℃で行った。表3は3時間経過後の受容溶液部のモデル眼内灌流液中のフルオレセインナトリウム量である。比較試料1に較べて試料A、試料B、試料Cにおける薬物の眼内移行性が優れていることが確かめられる。
【表3】

【0038】
また、角膜片の断面切片を切り出し蛍光顕微鏡によってモデル薬物の角膜表面から内層方向への浸透拡散状態を観察した。モデル薬物は全て部位において眼内移行性を示していることが確かめられた。
【0039】
また、試料A、試料B、試料Cを豚角膜表面に滴下し、顕微鏡で観察したところ定性的な判定であるが、その液膜の形成性、安定性はSCLに対するものと同程度と見られた。
【実施例2】
【0040】
点眼溶液の調製:側鎖のカルボキシル基がナトリウム塩型の分子量3万(試料A)、5万(試料B)、30万(試料C)、300万(試料D)のポリ-γ-グルタミン酸を調製し、これを用いて表4に示す水性点眼溶液を調製した。比較試料2は試料A、B、C、Dを加えない基本溶液である。
【表4】

【0041】
試料A、試料B、試料C、試料D各溶液は滅菌精製水を用いて100mLに調製した。溶解を完全にするために必要なら軽く加温しても差し支えない。試料A、試料B、試料C、試料D各溶液はいずれも透明で安定であった。比較のため市販ドライアイ点眼薬も測定した。
【0042】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比でSCL保水量の時間変化を表5に示す。試料A、B、C、Dと比較試料2、市販点眼薬を比較すればポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では水分の蒸散は明らかに抑制され、また顕微鏡で観察した液膜の形成性、安定性も良好であり、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効な持続時間の長い点眼薬用組成物及び/あるいは持続時間の長い人工涙液用組成物として有効であることが認められる。
【表5】

有意差検定はstudent t-testを行いp<0.05で有意であった。
【実施例3】
【0043】
点眼溶液の調製:側鎖のカルボキシル基の酸型とナトリウム塩型の割合が100/0(試料A)、20/80(試料B)の分子量300万のポリ-γ-グルタミン酸を調製した。このポリ-γ-グルタミン酸を用いて表6に示す水性点眼溶液を調製した。ポリ-γ-グルタミン酸は市販の納豆菌から産生したものを用いた。
【0044】
ポリ−γ−グルタミン酸の産生方法:市販納豆表面の粘質物を白金耳で採取し滅菌水に懸濁したものを寒天培地にうえつけ37℃、24時間培養した。この中から最も糸を引くコロニーを採取し胞子化したのち定法に従いグルタミン酸ナトリウム、グルコースを主成分とするpHを調整した培養液で培養した。培養後アルコール沈殿、透析、凍結乾燥を行い精製した。
【表6】

【0045】
試料A、試料B各溶液は滅菌精製水を用いて100mLに調製した。溶解を完全にするために必要なら軽く加温しても差し支えない。試料A、試料Bの各溶液はいずれも透明で安定であった。比較のため市販ドライアイ点眼薬も測定した。
【0046】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、また液膜の安定性を観察した。最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比でSCL保水量の時間変化を表7に示す。試料A、Bと比較試料3、市販点眼薬を比較すればポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では水分の蒸散は明らかに抑制され、また顕微鏡で観察した液膜の形成性、安定性は良好であり、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効な持続時間の長い点眼薬用組成物及び/あるいは持続時間の長い人工涙液用組成物であることが認められる。
【表7】

有意差検定はstudent t-testを行いp<0.05で有意であった。
【0047】
この溶液をコンタクトレンズ保存浸漬液や脱着したコンタクトレンズの浸漬液として試用したところ、通常の室温条件下で長期保存に置いて変質せず、コンタクトレンズに何等の変質も認められなかった。また、コンタクトレンズとの親和性が良くコンタクトレンズの乾燥が極めて遅いことも認められた。
【0048】
さらに、ポリ-γ-グルタミン酸の濃度を少し上げるか、あるいは微量の増粘剤を添加することによって容易にジェル、軟膏を調製することが可能であり、増粘剤あるいは乳化剤を加えて軟膏を調製することも可能であった。
【実施例4】
【0049】
点眼溶液の調製:ポリ-γ-グルタミン酸(分子量250万)をテトラヒドロフランに5g/100mLの濃度で分散溶解する。これにポリ-γ-グルタミン酸の構造単位当たり1/50当量のカルボジイミドを加えポリ-γ-グルタミン酸を架橋した。反応後テトラヒドロフランを除去し、さらに酸性水溶液と純水で洗浄し未反応の試薬をポリ-γ-グルタミン酸から完全に除いた。次いでポリ-γ-グルタミン酸をナトリウム塩に調製した。これを用いて表8の水性点眼溶液を調製した。
【表8】

【0050】
試料A溶液は滅菌精製水を用いて100mLに調製した。溶解を完全にするために必要なら軽く加温しても差し支えない。試料A溶液は透明で安定であった。比較のため市販ドライアイ点眼薬も測定した。
【0051】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、また液膜の安定性を観察した。最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比でSCL保水量の時間変化を表9に示す。試料Aと比較試料4、市販点眼薬を比較すればポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では水分の蒸散は明らかに抑制され、また観察した液膜の形成性、安定性は良好であり、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効な持続時間の長い点眼薬用組成物及び/あるいは持続時間の長い人工涙液用組成物であることが認められる。
【表9】

有意差検定はstudent t-testを行いp<0.05で有意であった。
【実施例5】
【0052】
フラクタンを含むポリ-γ-グルタミン酸から成る水性点眼溶液の調製:培養液からアルコール沈殿、透析、凍結乾燥によって精製したポリ-γ-グルタミン酸ナトリウム(分子量300万)90質量%と精製フラクタン10質量%を混合し滅菌精製水を溶媒として実施例1から4と同様の方法で0.1g/100mLの溶液を調製した。ポリ-γ-グルタミン酸ナトリウムとフラクタンは相溶性があり安定な均一溶液が得られた。これを表10に示す試料Aとした。
【0053】
ヒアルロン酸を含むポリ-γ-グルタミン酸から成る水性点眼溶液の調製:培養液からアルコール沈殿、透析、凍結乾燥によって精製したポリ-γ-グルタミン酸ナトリウム(分子量300万)90質量%と精製ヒアルロン酸ナトリウム10質量%を混合し滅菌精製水を溶媒として実施例1から4と同様の方法で0.1g/100mLの溶液を調製した。ポリ-γ-グルタミン酸ナトリウムとヒアルロン酸ナトリウムは相溶性があり安定な均一溶液が得られた。これを表10に示す試料Bとした。
【0054】
ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸が共有結合した架橋重合体を含む水性点眼溶液の調製:(1)ポリ-γ-グルタミン酸/ヒアルロン酸の架橋反応:培養液からアルコール沈殿、透析、凍結乾燥によって精製したポリ-γ-グルタミン酸ナトリウム(分子量300万)80質量%と精製ヒアルロン酸ナトリウム20質量%を混合し滅菌精製水を溶媒として実施例1から4と同様の方法で0.5g/100mLの溶液を調製した。ポリ-γ-グルタミン酸ナトリウムとヒアルロン酸ナトリウムは相溶性があり安定な均一溶液が得られた。この溶液を凍結乾燥したのち液体窒素温度で粉砕して粉末固体を調製した。このポリ-γ-グルタミン酸/ヒアルロン酸混合物1gをガラスアンプルに窒素封入し5Mradのガンマー線を照射した。線源はコバルト60を用いた。ここで、ポリ-γ-グルタミン酸ナトリウムとヒアルロン酸ナトリウム混合溶液に直接ガンマー線を照射することが可能であることは言うまでもない。このガンマー線照射固体を滅菌精製水に溶解し、次いで精製水と等容量のジメチルスルホキシドを加えた。この溶液は均一で濃度は0.3g/100mLであった。さらに、この溶液に精製水とジメチルスルホキシドの総量と2倍容量のエタノールを加え0.1g/100mLとした。エタノール添加により遊離ポリ−γ−グルタミン酸ナトリウムは沈殿した。この沈殿を濾取分離したのち溶液を凍結乾燥し固体試料を得た。沈殿の発生が無くなるまで同様の精製操作を繰り返し、ヒアルロン酸と結合していないポリ-γ-グルタミン酸を分離した。ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸の架橋反応量を正確に決定することは難しいが、残留固体試料にはヒアルロン酸と共にポリ-γ-グルタミン酸の赤外スペクトル(NH伸縮振動、アミドI、II、III吸収)が認められ、両物質が共有結合によって架橋していると考えられる。
【0055】
(2)ポリ-γ-グルタミン酸/ヒアルロン酸架橋重合体を含む水性点眼溶液の調製:上述のガンマー線照射固体粉末を滅菌精製水を溶媒として実施例1から4と同様の方法で0.1g/100mLの溶液を調製した。溶液は安定で均一であった。これを表10に示す試料Cとした。
ここで、ポリ-γ-グルタミン酸、フラクタン、ヒアルロン酸三成分およびポリ-γ-グルタミン酸、フラクタン、ヒアルロン酸、ポリ-γ-グルタミン酸/ヒアルロン酸架橋重合体四成分をそれぞれ必要に応じて組み合わせ混合することも可能であり、安定で均一溶液が得られる。
【表10】

【0056】
試料A、試料B及び試料C各溶液は滅菌精製水を用いて100mLに調製した。溶解を完全にするために必要なら軽く加温しても差し支えない。試料A、試料B及び試料C各溶液はいずれも透明で安定であった。比較のため市販ドライアイ点眼薬も測定した。
【0057】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、また液膜の安定性を観察した。最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比で表10に示した。SCL表面のポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では、コントロールと対比すれば明らかなように、水分の蒸散は抑制され、また観察した液膜安定性は良好であり、持続時間の長い涙液置換物としてドライアイの予防、緩和、治癒に有効な点眼薬用組成物及び/又は人工涙液用組成物であることが認められる。
【0058】
効果の検証:『点眼溶液の液膜保持性の評価』に述べた方法でSCLの保水量を計量し、また液膜の安定性を観察した。最初の滴下から80分経過の保水量を100として相対比でSCL保水量の時間変化を表11に示す。試料A、B、Cと比較試料5、市販点眼薬を比較すればポリ-γ-グルタミン酸を含む点眼溶液の液膜では水分の蒸散は明らかに抑制され、また観察した液膜の形成性、安定性は良好であり、ドライアイの予防、緩和、治癒に有効な持続時間の長い点眼薬用組成物及び/あるいは持続時間の長い人工涙液用組成物であることが認められる。
【表11】

有意差検定はstudent t-testを行いp<0.05で有意であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ-γ-グルタミン酸を成分として含む眼薬用組成物。
【請求項2】
ポリ-γ-グルタミン酸が酸型、塩型、酸と塩の混在型、架橋物あるいはこれらの混合物であるポリ-γ-グルタミン酸を成分として含む請求項1記載の眼薬用組成物。
【請求項3】
フラクタン類を含む請求項1から請求項2記載の眼薬用組成物。
【請求項4】
ヒアルロン酸を含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の眼薬用組成物。
【請求項5】
ポリ-γ-グルタミン酸の分子量が3万以上である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の眼薬用組成物。
【請求項6】
ポリ-γ-グルタミン酸が納豆菌の培養によって得られたポリ-γ-グルタミン酸からなる請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の眼薬用組成物。
【請求項7】
ポリ-γ-グルタミン酸とヒアルロン酸が結合したポリ-γ-グルタミン酸ヒアルロン酸を含む請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の眼薬用組成物。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の眼薬用組成物からなるコンタクトレンズ浸漬液。
【請求項9】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の眼薬用組成物からなる眼用ジェル。
【請求項10】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の眼薬用組成物からなる眼用軟膏。

【公開番号】特開2006−327949(P2006−327949A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−150080(P2005−150080)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(596137678)
【出願人】(591027927)福岡県醤油醸造協同組合 (11)
【Fターム(参考)】