説明

眼表面用の潤滑剤

ドライアイの症状の処置のために、処方物が開発された。この処方物は、天然産のホホバワックスまたはその成分を取り込み、人工涙液および点眼液の拡散を増強し、そして点眼液を安定化する。ホホバワックスで補った涙液の性能が向上したことにより、刺激および不快感が軽減され、そしてぼやけた視覚が鮮明になる。本発明は、目を潤滑させるのに有効な量のワックス、マッコウ鯨油またはオレンジラフィー油を含有する眼科用組成物であって、そのワックスは、ホホバワックスあるいはその成分または誘導体からなる群から選択される、眼科用組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(関連出願の相互参照)
米国特許仮出願第60/552,577号(これは、2004年3月12日に出願された)および米国仮特許出願第60/562,683号(これは、2004年4月15日に出願された)から優先権を主張する。
【0002】
(発明の背景)
本発明は、一般に、眼科用潤滑剤、特に、ドライアイの症状を治療するための処方物に関する。
【0003】
目の表面は、正しく機能するために、絶えず潤滑させる必要がある。これは、視力の質および快適性を包含する。目は、十分に潤滑されていないと、痛くなり、視覚がぼやける。この状態は、しばしば、ドライアイと呼ばれている。十分に治療されていない重篤なドライアイは、角膜の瘢痕、失明および目の損失までも引き起こし得る。ドライアイは、一般的な状態であり、時には困難で面倒なこの状態を改善するために、多くの店頭販売薬および処方箋による治療が利用できる。多くの患者は、現在の治療法では、苦痛の軽減を見いだすことができない。
【0004】
眼瞼のマイボーム腺の分泌は、涙液膜の脂質層を生じることがよく認識されている。マイボーム腺の脂質分泌の主要な成分は、ワックスエステルである(Driver and Lemp,Meibomian Gland Dysfunction,Surv Ophthalmol 40:343−367,1996)。また、天然産のホホバは、97%以上が脂質涙液膜と類似の長鎖種のワックスエステルから構成されることも知られている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、ドライアイの症状を軽減する処方物を提供することにある。
【0006】
さらに、本発明の目的は、ドライアイの症状を軽減する店頭販売処方物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(発明の要旨)
人工涙液の拡散を高め、涙液膜を安定化するために、天然産のホホバワックスまたはその成分を取り込んだドライアイの症状を処置するための処方物が開発された。このホホバワックスは、苦痛および不快感を取り除くだけでなく、ぼやけた視覚を鮮明にする。
【0008】
(発明の詳細な説明)
ドライアイの患者に快適性と視覚の明瞭化をもたらすホホバ液状ワックス処方物が開発された。ホホバのワックスエステルは、涙液膜上での人工涙液の拡散、安定性および潤滑効果を改善し向上させる。
【0009】
(I.処方物)
(A.ワックス)
好ましい実施態様では、この処方物は、乳濁液でホホバワックスを含有する。このホホバワックスは、涙液膜の潤滑剤および蒸発遅延剤として機能する。ホホバワックスは、長鎖ワックスエステルから構成された液状ワックスである。ホホバワックスエステルの成分としては、全体で38個〜44個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸でエステル化された長鎖アルコールが挙げられる。代表的な長鎖脂肪酸としては、ガドレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、リノレン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、エルカ酸、リグノセリン酸、乳酸、デケート(decate)、酢酸およびミリスチン酸の脂肪酸が挙げられる。このワックスエステルのアルコール成分は、種々の飽和度または不飽和度を有するかまたは有さない、C12〜C30の炭素鎖を有する。このワックスエステルのアルコール成分は、代表的に、多様な飽和度または不飽和度を有するかまたは有さない、C16とC32との間の炭素鎖を含む。このアルコール成分は、エイコサ−11−エノール、ドコサ−13−エノール、テトラコサ−15−エノール、ミリスチルアルコール、オクチルドデシルステアロイルアルコールまたはセチルアルコールであり得る。
【0010】
ホホバの融点は、約6℃である。ホホバは、アリゾナ州およびカリフォルニア州ならびにメキシコ北部および他の場所の砂漠環境で栽培されたホホバの木(Simmondsia chinensis)の種および葉から抽出される。その化学構造は、植物の種類、生育している場所、土壌の種類、雨量または海抜によって変わることはない。ホホバから生産されたオイルは、トリグリセリドを欠いている。そのオイルは、脂肪酸と結合したグリセロールを含まない。むしろ、ホホバは、脂肪アルコールを脂肪酸と結びつけて、実際には液状ワックスである植物油を生成し、これは、独特の抗蒸発特性(これは、ホホバの低木を異常に乾燥した厳しい生育環境から保護する)と共に、その独自の分子サイズおよび形状を有する。ホホバワックスまたはそのワックスエステルは、この低木を、十分に潤滑され加湿されたままに保つが、それは、閉鎖性ではない。この非閉鎖性は、その多孔性に関係している。ホホバワックスまたはそのワックスエステルが誘導される低木および樹木では、この多孔性によって、蒸気の蒸発交換が可能となり、それにより、その熱い生育環境にあるホホバの木を冷やす。天然のホホバは、僅かな不純物を含む、97%ワックスエステルである。樹脂、タールまたはアルカロイドは存在せず、飽和ワックス、アルコール、脂肪酸および炭化水素が、微量だけ存在する。ホホバワックスは、非毒性であり、生分解性であり、そして微生物を殺菌するために低温殺菌される(National Research Council.1985.Jojoba:New Crop for Arid Lands,New Material for Industry.National Academy Press,Washington,D.C)。市販の液状ワックスは、毒性がある種の固形成分(グリコシドシモンドシンおよびシモンドシン−2−フェルレート(glycosides simmondsin and simmondsin−2−ferulate))を含まない。これらのワックスエステルは、全体で38個〜44個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸でエステル化されたアルコールから構成される。これらの脂肪アルコールは、主に、二重結合を有する20個および22個の炭素原子である。その脂肪酸は、殆ど、20:1(70%)であり、いくつかは、22:1(20%)であり、残りは、18:1(10%)である。全ての二重結合は、シス立体構造を有し、そしてエステル結合から等距離で広く間隔が空いており、酸化に耐性の特に安定な分子を作り出す。このシス二重結合立体配置はまた、ホホバに多孔性を与えることが確かめられている。
【0011】
ホホバワックスまたはその成分と類似の特性を有するオイルは、ホホバ油の代用にされ得る。ホホバは、不飽和ワックスであるマッコウ鯨油と化学的に類似していることが確認されている。マッコウ鯨は、上質の潤滑油と見なされているので、20世紀にわたって、そのオイルが求められていた。マッコウ鯨が絶滅に近いことから、代替潤滑剤が捜し求められていた。ホホバは、1930年代以来、マッコウ鯨油と類似していることが知られていたものの、1970年代および1980年代までは、技術的な遅れが原因で、その化学的性質の高度な研究はできなかった。両方とも上質の潤滑剤であり、高温および高圧で安定である。しかしながら、ホホバは、現在では、マッコウ鯨油よりも優れていることが確かめられている(National Academy of Sciences.1975.Products from Jojoba:A Promising New Crop for Arid Lands.National Research Council Washington D.C.)。マッコウ鯨油との類似の別のオイルは、魚のオレンジラフィーに由来する。このオイルおよび他の魚油は、ホホバに代えて、またはホホバと併用して、使用され得る。
【0012】
ホホバワックスは、目の周りに適用する化粧品および他の処方物で使用するために、米国食品医薬品局(「FDA」)により認可されたが、目に直接的には適用されない。ホホバワックスは、少なくとも10%までの水性乳液、目の化粧除去剤、ならびに皮膚および髪用の製品に、化粧品工業において、広く使用されている。それはまた、治療的なマッサージで使用されている。主な目の刺激の研究は、未希釈の精製ホホバ液状ワックスを使用して、ウサギで実行されている。僅かな刺激も、24時間以内に解消したことが記された。ウサギの目に点滴された20%の天然ホホバワックスは、非刺激性であるとの結論に達した(Final Report on the Safety Assessment of Jojoba Oil and Jojoba Wax,J Amer College Toxicology,11(l),1992,57−74.)。米国環境保護局(EPA)は、Federal Register 40 CFR Part 180,1995において、ヒトまたは環境に対する著しい悪影響のいずれの証拠もなく、米国全体にわたって、ホホバを商業的に流通させ一般大衆に入手可能とすることを認めた。The Cosmetic Ingredient Reviewは、ホホバを使用に安全であると記している。
【0013】
ホホバワックスは、皮膚の皮脂細孔を塞ぐ皮脂の破壊を助けることが明らかになっている。これは、点眼剤または軟膏または他の局所療法で適用した場合に、瞼の修飾皮脂腺(modified sebaceous gland)(マイボーム腺)も破壊して閉塞を除くことを、証明し得る。
【0014】
ホホバワックスはまた、エンベロープウイルス、カビ、真菌および細菌に対する活性を含む固有の抗菌特性を有する。米国特許第4,585,656号および第6,559,182号は、ホホバワックスエステルでエンベロープウイルスを処置することの有効性を記載している。これらの文献におけるインビトロ実験では、ホホバは、Mycobacterium tubercle bacilliに対して、強力な阻害効果を有することを示した。ホホバは、目および目の周囲の感染を治療し予防するために、治療剤としてだけでなく予防剤としても有用であり得る。それは、目または付属構造のいずれかの部分の感染のための治療法として、使用され得る。
【0015】
眼の送達系に取り込まれ得る他のホホバ誘導体としては、ホホバエステル、ホホバアルコール、および水素化ホホバ固形ワックスが挙げられる。ホホバエステルは、種々の割合のホホバ液状ワックスと水素化ホホバ固形ワックスとのエステル交換の結果生じる。その物理的な堅さは、液体から半固形ペーストまたはクリームまでに及ぶ。ホホバ固形ワックスは、不飽和ワックスエステルの水素化および完全な還元から誘導される。それは、蜜蝋に匹敵する硬い結晶性ワックスであり、69℃の融点を有し、そして水乳濁液中のワックスとして調製できる。この水中油形乳濁液は、容易に乳化し、また、眼科用調製物でも使用され得る。眼科用調製物に利用可能な乳化剤としては、ステアリン酸(4%)およびトリエタノールアミン(2%)が挙げられる。ホホバアルコールは、ホホバ液状ワックスおよび水素化ホホバ固形ワックスをナトリウムで還元し、さらに精製して生成される。Jojobutter−51は、ホホバ液状ワックス、部分的に異性化したホホバ液状ワックスおよび水素化ホホバ固形ワックスの、同形(isomorphous)混合物である(J Amer College Toxicology,11(1),1992)。ホホバの硫化は、潤滑剤特性の増強をもたらし、この特性は、さらに、リン、臭素または塩素で増強され(Wisniak J The Chemistry and Technology of Jojoba Oil,Am Oil Chemist Society,1987)、そして眼科用涙補助剤の潤滑性を最適化し得る。
【0016】
(B.人工涙液)
このワックスは、目への適用のために、水溶液と混合される。代表的には、この水溶液は、滅菌水、あるいは低浸透圧性または等張性生理食塩水であり得、そして約7〜7.5の範囲の生理的pHまで緩衝液を含有する。それはまた、細胞培地(例えば、ダルベッコ培地(DMEM))であり得る。それはまた、界面活性剤/潤滑剤/緩和薬(例えば、ポリソルベート80)を含有する。涙との所望の張性を確立するための補助成分としては、電解質が挙げられ得る。防腐剤(例えば、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、αトコフェロール、塩化ベンザルコニウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびクロルヘキシジン)、ならびにクロロブタノール(chlorbutanol)、過ホウ酸ナトリウムおよび安定化オキシ−クロロ複合体もまた、使用できる。他の防腐剤としては、ポリクアッド(polyquad)、ポリヘキサメチルビグアナイド、クロルヘキシジン、プロピルパラベン、メチルパラベンなどが挙げられる。他の添加剤としては、湿潤剤(例えば、プロピレングリコールおよびソルビトール)が挙げられ得る。代表的なpH緩衝液としては、ホウ酸ナトリウム、リン酸一ナトリウムおよびリン酸二ナトリウムまたは他のリン酸塩、炭酸塩または酢酸塩が挙げられる。
【0017】
水性キャリア中のホホバワックスの濃度は、代表的には、0.001%〜50%の間である。水性乳濁液中のホホバは、第二の皮膚軟化薬(例えば、鉱油または軽油)を含有し得る。この乳濁液中では、他の皮膚軟化薬(例えば、白色ワセリン、白色軟膏、パラフィン、および蜜蝋または他のワックス)も、使用され得る。これらの皮膚軟化薬は、この乳濁液の粘度を上昇させるのに使用され得る。ホホバと第二の皮膚軟化薬との比率は、1:5より高く500:1までである。ホホバはまた、透明な水色の精製液状ワックスとして利用可能であり、これもまた、上記比率で、第二の皮膚軟化薬として使用され得る。
【0018】
この処方物は、さらに、ステロール、ヒドロキシカロチノイドまたはビタミンAを含有し得、これらは、必要に応じて、C10とC30との間の種々の鎖長の脂肪酸でエステル化されている。この処方物はまた、極性脂質を含有し得、この極性脂質としては、糖脂質、スフィンゴ脂質および/またはリン脂質(ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルグリセロールおよびジホスファチジルグリセロールを含む)が挙げられる。トリグリセリドもまた、含有され得る。
【0019】
0.01%〜20%の間の濃度で、このワックスエステルと併用される適切な潤滑剤としては、セルロース誘導体が挙げられる。セルロース誘導体の例としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.2〜2.5%、ヒドロキシエチルセルロース0.2%〜2.5%、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2%〜2.5%、およびメチルセルロース0.2%〜2.5%が挙げられる。潤滑剤の他の例としては、デキストラン70(0.1%)、ゼラチン0.01%、グリセリン0.2〜1%、ポリエチレングリコール300 0.2〜1%、ポリエチレングリコール400 0.2〜1%、ポリソルベート80 0.2〜5%、プロピレングリコール 0.2〜5%、ポリビニルアルコール0.1〜5%、およびポビドン0.1〜5%が挙げられる。これらの潤滑剤は、粘膜模倣物(mucomimetic)として、人工涙液の粘度を上昇させることができ、この処方物に加えられ得る。この処方物は、涙置換療法(tear replacement therapy)として、考えることができる。さらなる粘膜模倣物としては、カルボマーおよびヒアルロン酸が挙げられる。
【0020】
眼の収斂薬もまた、含有され得る。一例には、硫酸亜鉛0.25%がある。高張剤(例えば、塩化ナトリウム2〜5%)も、使用され得る。眼の血管収縮薬も使用され得、これとしては、エフェドリン塩酸塩0.123%、ナファゾリン塩酸塩0.01〜0.03%、フェニレフリン塩酸塩0.08〜0.2%、およびテトラヒドロゾリン塩酸塩0.01〜0.05%が挙げられる。
【0021】
この点眼液は、さらなる乳化剤を含有し得る。
【0022】
安定性をさらに高めるために、涙で通常見られるタンパク質がこの処方物に含有され得る。これらとしては、とりわけ、プレアルブミン、アルブミン、リゾザイム、ラクトフェリン、β−ラクトグロブリン、IgA、ならびにリポカリンが挙げられ得る。
【0023】
適切な電解質としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム、および炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムが挙げられる。適当な非電解質(例えば、グリセリンおよび糖(例えば、尿素、ソルビトール、グルコースおよびスクロース))もまた、加えることができる。
【0024】
他の実施態様では、このホホバワックスは、70%までで、軟膏皮膚軟化薬として、処方される。適当なキャリアには、約70%〜30%の比率での鉱油とワセリンとの混合物、パラフィン5%まで、白色軟膏100%まで、白色ワセリン100%まで、ワセリン100%まで、白色ワックス5%まで、黄色ワックス5%まで、
無色ホホバワックス50%まで、ラノリン1〜10%、および無水ラノリン1〜10%が挙げられる。
【0025】
この処方物はまた、他の活性因子を送達するためのプラットフォームとして、使用され得る。使用され得る他の活性成分としては、抗緑内障薬、抗生物質、抗菌ペプチド、抗ウイルス剤、駆虫剤、抗真菌剤、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー療法、ホルモン(例えば、アンドロゲンなど)、ビタミン、成長因子、サイトカイン、ムチン、表面刺激剤、免疫調節剤、免疫応答調節剤、サイトカイン変性剤、免疫抑制薬、抗腫瘍薬、睫毛成長刺激剤および他の医薬が挙げられる。
【0026】
さらなる添加剤としては、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液、および浸透圧を変える種々の塩、ならびに可溶化剤、分散剤、および清浄剤が挙げられる。
【0027】
このワックスはまた、店頭販売(「OTC」)で得られる人工涙液に加えることができる。例としては、VISINETM(これは、Pfizerにより、販売されている)、REFRESH TEARSTM製造ライン(これは、Allerganにより、販売されている)、SYSTANETM(これは、Alconにより、販売されている)、GENTEALTM(これは、Novartisにより、販売されている)、およびOCUCOATTM(これは、Bausch and Lombにより、販売されている)が挙げられる。
【0028】
(II.使用方法)
好ましい実施態様では、この処方物は、1日1回〜4回、それを必要とする個体の目に直接投与される。その頻度は、症状の重篤度に依存して、変動する。この処方物は、懸濁液または懸濁液の形態の点眼液、リポソーム、ローション、軟膏、クリーム、ゲル、軟膏剤(salve)または粉末、および徐放剤または緩徐放出剤(slow release)、ならびに眼瞼ローションとして、適用され得る。それはまた、目を潤す洗眼剤またはリンスとして、使用され得る。この処方物はまた、噴霧可能形態で、適用され得る。この潤滑剤は、ドライアイが起こる種々の状況において、ドライアイの症状を根絶させる際に、極めて役立つ。これには、加齢が関係したいわゆるドライアイ症候群の最も一般的な状態、コンピューターに関係したドライアイ、レーシック(Lasik)後のドライアイ、読書、運転または映画もしくはテレビ視聴に関連したドライアイが挙げられる。コンタクトレンズが合わない患者または義眼を使用している患者もまた、この強化された潤滑性により、大きな恩恵を受ける。他の例としては、目の手術やドライアイの病歴がある患者が挙げられる。これには、白内障手術、角膜手術および角膜移植が挙げられる。神経性障害(例えば、ベル麻痺または他の神経麻痺性疾患および神経栄養性疾患)のある患者もまた、恩恵を受ける。睡眠中または覚醒中であっても起こり得る露出した目の表面によって特徴付けられる兎眼は、この潤滑剤の軟膏および/またはゲル形状を使って、改善される。スティーブンズ−ジョンソン症候群のような粘膜疱疹疾患は、稀ではあるがひどい疾患であり、これもまた、腺性組織に関連した線維性変化が原因の水性および脂質の両方のドライアイに関連している。このホホバ処方物は、脂質不足および水分不足を直すのに特に役立つはずであり、その他にも極めて痛みを伴う目の痛みを和らげるために、苦痛を取り除くのに役立つ。
【0029】
瞼の皮脂腺の閉塞、炎症および/または機能不全によって特徴付けられる他の種類のドライアイは、マイボーム腺不全として知られているが、これもまた、この処方物を使用して瞼に適用すると、改善される。
【0030】
瞼、結膜、角膜および涙装置および涙腺に目の感染を有する患者もまた、この処方物を、1つまたはそれ以上の形状で、眼瞼、結膜および角膜、ならびに涙液膜および他の付属器構造(涙腺、涙流出システム(涙点、細管および涙嚢を含む)が挙げられる)に適用すると、恩恵を受けるはずである。
【0031】
皮膚に対する予備研究では、ホホバワックスは、表在層の熱的または化学的な火傷に由来する痛みを軽減し腫れを減らすことが明らかとなっている。眼の火傷に対しても治療効果があり得る。
【0032】
この処方物はまた、単純ヘルペス角膜炎および水痘帯状疱疹角膜炎(これは、水疱瘡および帯状疱疹を引き起こす)を含むエンベロープウイルスの症状を予防、処置または軽減するのに使用できる。処置され得る目の他のウイルス感染としては、ヒトヘルペスウイルス8(HSV8)、カポジ肉腫、ならびにエプスタイン−バーウイルス、巨細胞封入ウイルス(CMV)およびヒト免疫不全ウイルス(HIV)が挙げられる。
【0033】
この処方物の非眼科用途には、外耳道の耳垢の蓄積を処置または予防するための使用、膣の乾きまたは閉経周辺期の乾燥の他の症状の治療、乾燥鼻粘膜または患者が洞の炎症または感染を含む状態を有する場合の加湿が挙げられる。
【実施例】
【0034】
好ましい実施態様では、この処方物は、液体ワックス乳濁液をベースにした水性緩衝化生理食塩水中にて、0.5〜5%のホホバワックス、最も好ましくは、0.5〜2%のホホバ、1%のポリソルベート80を含有する。
【0035】
この2%ホホバ処方物を、異なる種類の目の刺激がある計16人のボランティア個体に投与した。点滴は、全ての個体について、視覚のぼやけを引き起こすことなく、極めて快適であったことが報告された。
【0036】
3人のボランティアは、レーシック(Lasik)後の痛みを伴うドライアイを有した。これまでのところ、従来の治療法のいずれも効かなかった。PC、ASおよびKAについては、苦痛の軽減は即座であり、約8〜10時間持続した。
【0037】
炎症が生まれつきのアレルギー性であると言ったTBについては、現在利用可能なOTC点眼液のいずれも、彼の重篤な症状を軽減するのに役立たなかった。各々の目に、このホホバワックス処方物1滴を適用すると、全日にわたって、全ての症状が軽減された。
【0038】
目が、いつも朝に刺激があり、赤くなって、何時間もの間赤いままであると言ったJRについては、これまでに快適で有効なOTC点眼液を見つけていなかったが、各々の目にこのホホバワックス処方物1滴を適用すると、目の赤みがなくなり、その目は全日にわたって快適であった。
【0039】
2人の個体(RDおよびAM)は、ソフトコンタクトレンズ着用の状況で、このホホバワックス処方物を使用したところ、その快適な特性が真に独特であることが分かった。彼らは、目の不快感が瞬時に軽減され、これは、全日にわたって、持続した。
【0040】
1人の個体(ST)は、ハードコンタクトレンズ着用の状況で、このホホバワックス処方物を使用したが、ここでもまた、目の刺激が瞬時に軽減され、これは、終日持続した。
【0041】
要約すると、これらのボランティアは、このホホバワックス処方物による快適で即座で持続的な苦痛の軽減に非常に喜んだ。
【0042】
角膜糜爛(cornea erosion)のさらなる3人の患者(HK、LFおよびIM)に、1%ホホバワックスを使用するこの処方物を適用した。その点眼は、1日4回であった。この点眼は、十分に寛容であり、痛みを和らげ非常に快適であることが分かった。1〜2週間以内に、糜爛は、著しく、そして殆ど完全に解消した。
【0043】
加熱撹拌プレートを使用して、5%ホホバ水溶液および0.05%の白色ワセリンUSPからなる処方物を作成し、そして6人のボランティアの右目に適用した。MB、MH、DN、HL、AMおよびSMについては、この点眼は、寛容で快適であり、このワセリンなしの水性乳濁液中の5%ホホバよりも濃厚に感じられた。
【0044】
この処方物をまた、脂質涙液干渉分光法(lipid tear interferometry)を使用して、2人のボランティアに対して評価した。この処方物の1滴を一方の目に置き、そして人工水性涙液を他方の目に置いた。そのインターフェロメトリーパターンにより、数秒以内に、液状ワックスの濃青色の波がボランティア自身の脂質涙液と混ざったことが明らかとなった。その結果生じた脂質涙液パターンは、少なくとも3時間後、健康な強化された膜を示した。もう一方の目と比較して、この乳濁液を受けた目では、崩壊時間(Breakup times)もまた、長くなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目を潤滑させるのに有効な量のワックス、マッコウ鯨油またはオレンジラフィー油を含有する眼科用組成物であって、該ワックスは、ホホバワックスあるいはその成分または誘導体からなる群から選択される、眼科用組成物。
【請求項2】
眼科用潤滑剤、界面活性剤、乳化剤、粘度増強剤およびそれらの組み合わせからなる群から選択される物質と共に、水ベース乳濁液で、ホホバワックスまたはその誘導体、またはそれらの成分を含有し、ここで、該ワックスまたはその成分が、目の表面に適用される場合に、潤滑性または涙安定性を高めかつ涙の蒸発を減らすのに有効な量で存在している、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項3】
前記成分が、全体で12個〜62個の炭素原子を有する長鎖脂肪酸でエステル化されたワックスエステルおよび/またはアルコールである、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項4】
水性キャリアを含有し、ここで、ホホバ油の濃度が、0.001%〜50%の間である、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項5】
前記長鎖脂肪酸が、ガドレイン酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキジン酸、リノレン酸、エイコセン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、乳酸、デケート、酢酸およびミリスチン酸の脂肪酸からなる群から選択される、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が、種々の飽和度または不飽和度を有するかまたは有さずに、C12〜C30の炭素鎖を有する、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項7】
前記ワックスエステルのアルコール成分が、多様な飽和度または不飽和度を有するかまたは有さずに、C16とC32との間の炭素鎖を含む、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項8】
前記アルコール成分が、エイコサ−11−エノール、ドコサ−13−エノール、テトラコサ−15−エノール、ミリスチルアルコール、オクチルドデシルステアロイルアルコールおよびセチルアルコールからなる群から選択される、請求項7に記載の眼科用組成物。
【請求項9】
さらに、ステロール、ヒドロキシカロチノイドまたはビタミンAを含有し、必要に応じて、C10とC30との間の鎖長の脂肪酸でエステル化されている、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項10】
0.001%〜50%の間の濃度で、ワックスエステルを含有する、請求項3に記載の眼科用組成物。
【請求項11】
前記潤滑剤または粘度増強剤が、セルロース誘導体である、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項12】
前記セルロース誘導体が、カルボキシメチルセルロースナトリウム0.2〜2.5%、ヒドロキシエチルセルロース0.2%〜2.5%、ヒドロキシプロピルメチルセルロース0.2%〜2.5%、およびメチルセルロース0.2%〜2.5%からなる群から選択される、請求項11に記載の眼科用組成物。
【請求項13】
前記潤滑剤または粘度増強剤が、デキストラン70(0.1%)、ゼラチン0.01%、グリセリン0.2〜1%、ポリエチレングリコール300 0.2〜1%、ポリエチレングリコール400 0.2〜1%、ポリソルベート80 0.2〜5%、プロピレングリコール0.2〜5%、ポリビニルアルコール0.1〜5%、ポビドン0.1〜5%、カルボマーまたはヒアルロン酸からなる群から選択される、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項14】
収斂薬と併用される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項15】
前記収斂薬が、硫酸亜鉛、0.25%である、請求項14に記載の眼科用組成物。
【請求項16】
眼科用血管収縮薬と併用され、該眼科用血管収縮薬が、エフェドリン塩酸塩、0.123%、ナファゾリン塩酸塩、0.01〜0.03%、フェニレフリン塩酸塩、0.08〜0.2%およびテトラヒドロゾリン塩酸塩、0.01〜0.05%からなる群から選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項17】
血管収縮薬と併用される、請求項14に記載の眼科用組成物。
【請求項18】
潤滑剤、血管収縮薬および収斂薬と併用される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項19】
さらに、乳化剤を含有する、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項20】
水性キャリアと電解質または非電解質とを含有し、該電解質が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、硫酸ナトリウムおよび硫酸カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群から選択され、そして該非電解質が、グリセリン、尿素、ソルビトール、グルコースおよびスクロースからなる群から選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項21】
さらに、第二の皮膚軟化薬と共に、半固形軟膏またはクリームあるいは乳濁液を含有し、該第二の皮膚軟化薬が、鉱油とワセリンとの約70%〜30%の比率での混合物、パラフィン5%まで、白色軟膏100%まで、白色ワセリン100%まで、ワセリン100%まで、白色ワックス5%まで、黄色ワックス5%まで、鉱油50%まで、軽油50%まで、ラノリン1〜10%および無水ラノリン1〜10%、無色ホホバワックス50%まで、およびそれらの組み合わせからなる群から選択され、ここで、該第二の皮膚軟化薬とホホバワックスとの比率が、5:1未満でなければならない、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項22】
極性脂質またはオイルを含有し、該極性脂質またはオイルが、糖脂質、スフィンゴ脂質、リン脂質およびトリグリセリドからなる群から選択される、請求項2に記載の眼科用組成物。
【請求項23】
さらに、抗ウイルス剤、抗生物質、抗真菌剤、駆虫剤、ホルモン、成長因子、サイトカイン、ムチン、表面刺激剤、ビタミン、免疫調節剤、免疫抑制剤、免疫応答調節剤、サイトカイン調節剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤および抗緑内障剤、抗腫瘍薬、および睫毛成長刺激剤からなる群から選択される因子を含有する、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項24】
さらに、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、緩衝液、膨張圧を変える塩、可溶化剤、分散剤、および清浄剤からなる群から選択される因子を含有する、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項25】
さらに、涙安定性を向上させるタンパク質を含有し、該タンパク質が、プレアルブミン、アルブミン、リゾチーム、リポカイン、β−ラクトグロブリン、ラクトフェリンおよびIgAからなる群から選択される、請求項1に記載の眼科用組成物。
【請求項26】
有効量のワックス、マッコウ鯨油またはオレンジラフィー油を含有する組成物を使用して、組織を潤滑させる必要がある組織を潤滑させる方法であって、該ワックスは、ホホバワックスあるいはその成分または誘導体からなる群から選択される、方法。
【請求項27】
前記患者が、アレルギーに起因するドライアイを有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記患者が、目の手術を受けた、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が、コンタクトレンズを着用している、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記患者が、細菌感染または真菌感染を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
鼻粘膜に適用するための、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
瞼の縁に適用して、マイボーム腺として知られている眼瞼の修飾皮脂腺の障害を取り除くための、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
軟質レンズまたは剛性レンズのいずれかのためのコンタクトレンズ潤滑剤として、目を潤滑させる、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
義眼と共に適用し使用するための、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
外耳および耳道に適用して、耳垢の蓄積を治療または予防するための、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
膣の乾き、または閉経期前後の乾きの他の症状を処置または予防するための、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
乾燥鼻粘膜を有する患者に苦痛の軽減を与えるための、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
洞の疾患を有する患者に苦痛の軽減を与えるための、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
マイボーム腺不全を有する患者に苦痛の軽減を与えるための、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記処方物が、溶液、懸濁液、リポソーム、ローション、クリーム、軟膏、乳濁液、噴霧液、軟膏剤、粉末、および目を洗浄する目リンス液からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
初期のウイルス感染だけでなく、再発を処置または予防するための、請求項26に記載の方法。
【請求項42】
ドライアイが存在しない場合に、アレルギー、微生物感染を治療または予防するための請求項26に記載の使用方法であって、該微生物感染が、目の細菌、カビ、真菌、寄生虫およびウイルスに由来する、方法。
【請求項43】
ドライアイの非存在下で、コンタクトレンズ使用の装着の際または目の手術の後に、再湿潤させるかまたは快適性を高めるための、請求項26に記載の方法。

【公表番号】特表2007−528897(P2007−528897A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502857(P2007−502857)
【出願日】平成17年3月1日(2005.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2005/006737
【国際公開番号】WO2006/004577
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(506307393)メルビ ホールディングス, エルエルシー (1)
【Fターム(参考)】