説明

着脱式硬質被覆チップを有するスプレー装置

いくつかの実施例によれば、スプレーシステムは、第1材料を有するチップ中心構造体148を含むスプレーチップ12を備え、このチップ中心構造体は、液体射出オリフィス16に延びる液体通路を含む。また、このスプレーチップは、チップ中心構造体周りに配置される耐摩耗性塗膜164を含み、この耐摩耗性塗膜は、第1材料よりも比較的硬質な第2材料を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スプレー装置に概ね関するものであり、更に詳細には、スプレー塗装システムに用いるスプレーガンのスプレーチップに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この項目は、下記の明細書本文及び/又は請求の範囲に記載される本発明のさまざまな態様に関係する技術のさまざまな態様を読者に紹介することを目的とする。この記載は、本発明のさまざまな態様を更に理解しやすくする背景情報を読者に提供する一助になると考えられる。このため、この観点から、この記載は、先行技術を承認するものとして読むべきではない。
【0003】
スプレーガンなどのスプレー装置は多数の消耗摩耗部品を概ね含み、このような消耗摩耗部品は、スプレー装置の通路及びオリフィスを通過する液体との接触のためにいずれは侵食される。例えば、塗料吹き付け用途では、スプレー塗装ガンのスプレーチップにおける液体射出オリフィスは、高圧を付加された液体塗料との接触によっていずれは侵食される。このため、スプレーチップは一般に炭化タングステンから鍛造され、耐摩耗性を有するようになる。残念ながら、炭化タングステンは比較的高価であるとともに、所望の形状、通路、オリフィスなどに鍛造し加工することが困難である。
【0004】
例えば、炭化タングステンを鋳造してスプレーチップの初期形状を作成すると、その後の機械加工及び処理のための内部穴が比較的大きくなってしまう。残念ながら、このように大きい内部穴は容積も大きくなり、スプレー塗装ガンの操作後にスプレーチップ内に液体塗料が残留しがちになる。このようにスプレーチップ内に塗料が残留することにより、操作後にスプレー塗装ガンから液体が滴るようになる。
【0005】
更に例を挙げると、炭化タングステンが硬質であることにより、スプレーチップの液体射出オリフィスの作成工程が複雑になる。炭化タングステンは硬質であるため、いくつかの製造技術は一般に用いることができず、このほかの製造技術を用いても、所望の形状に加工するのは困難である。具体的には、炭化タングステンは硬質であるため、研削砥石などの製造工具の多くが急速に摩耗する。このため、摩耗した工具の交換に関わるコスト及び時間が増大する。炭化タングステンを用いて液体射出オリフィスを所望の形状にすることはできないことが多く、スプレーチップの性能が落ちるとともに、スプレー特性が望ましくないものになる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このため、コストを削減し、耐摩耗性を付加し、望ましくない液体貯留及び液体滴下を減少させ、スプレー装置に用いられるスプレーチップの性能を向上させる技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
いくつかの実施例によれば、スプレーシステムは、第1材料を有するチップ中心構造体を含むスプレーチップを備え、このチップ中心構造体は、液体射出オリフィスに延びる液体通路を含む。また、このスプレーチップは、チップ中心構造体周りに配置される耐摩耗性塗膜を含み、この耐摩耗性塗膜は、第1材料よりも比較的硬質な第2材料を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のこのような特徴、態様及び利点とこのほかの特徴、態様及び利点は、下記の詳細な説明を添付図面を参照して読むことによって、更に理解できよう。図面では、類似する特徴を類似する部品で表す。
【0009】
本発明の1つ以上の具体的な実施例を下記に説明する。このような実施例を簡潔に説明するために、明細書には現実の実施の全特徴を記載しているわけではない。このような現実の実施の開発においては、あらゆる工業技術又は設計プロジェクトにおけるように、例えばシステム関連及びビジネス関連の制約にしたがって、ある実施から別の実施へと変更するといったような、実施に特化した決定が数多くなされなければ、開発者の具体的な目標には到達できない。更に、このような開発努力は、手間と時間のかかるものであるが、この開示から恩恵を受ける当業者であれば、設計、組立及び製造に取り組み続ける。
【0010】
図1は、本技術のいくつかの実施例に基づく、ヘッド組立体14内に配置される硬質被覆スプレーチップ12を有する典型的なスプレー装置10の斜視図である。いくつかの実施例では、スプレー装置10は、空気噴霧機構を用いずに液体を概ね霧状にする無気式スプレー塗装ガンであるか、空気式スプレー塗装ガンである。しかし、スプレー塗装ガンは、液体スプレーを所望の形態、例えば、平板状、円錐状、空洞状などの形態にするように構成される空気噴射口を含んでもよい。このほかの実施例では、スプレー装置10は、液体を霧状にするように構成される1つ以上の空気噴射口を含む、空気噴霧スプレーガンであってもよい。また、この空気噴霧スプレーガンは、上記のように、1つ以上のスプレー形成噴射口を含んでもよい。
【0011】
下記で更に詳細に検討するように、硬質被覆スプレーチップ12は、第1材料で作成されるチップ中心構造体と、第2材料で作成され、チップ中心構造体周りに配置される塗膜とを含み、第2材料は第1材料よりも比較的硬質である。このように、チップ中心構造体に比較的柔らかめの第1材料を用いているため、鋳造、機械加工及びこのほかの製造工程に関係する時間、コスト及び作業の複雑さが軽減される。その結果、この柔らかめの第1材料は、チップ中心構造体の所望の内側寸法及び外側寸法、形状、凹部、オリフィス、通路、及び一般形状に更に容易かつ効果的に加工される。例えば、チップ中心構造体にキャッツアイオリフィス16などの1つ以上のオリフィスを形成するために、ワイヤー放電加工(EDM)を用いてもよい。その後、チップ中心構造体は、第2材料で作成される塗膜とともに硬化される。例えば、第2材料で作成される塗膜は、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD)、めっき、熱拡散、ホウ化処理、或いはその組み合わせによって塗布されてもよい。
【0012】
図1に更に図示するように、ヘッド組立体14は、スプレー装置10のボディー組立体18に結合される。この図示するボディー組立体18は、ハンドル20と、ハンドル20の底面24に配置される給気カップリング22とを含む。また、ボディー組立体18は、ハンドル20の底面24にブラケット28を介して結合される液体供給組立体26を含む。液体供給組立体26は、液体ヘッドカップリング30を介してヘッド組立体14に更に結合される。図示する液体供給組立体26は、液体供給カップリング32と、液体フィルター組立体34と、液体ヘッドカップリング30へと延伸する液体導管36とを含む。また、ボディー組立体18は、回転接合部40に回転可能に結合されるトリガー38を含む。更に、トリガー38は、スプレー装置10を通過する空気の通路と液体の通路とを同時に制御できるように、空気弁組立体42と、液体弁組立体44とに移動可能に結合される。更に、ボディー組立体18は、トリガー38近傍で回転接合部48に回転可能に結合されるトリガーロック46を含む。このトリガーロック46は、ユーザーがトリガー38をロック又はロック解除することができるようにし、その結果、連動する空気弁組立体42及び液体弁組立体44をロック又はロック解除することができるようにする。また、図示するボディー組立体18は、スプレー装置10の上端52に沿って配置される垂下支持体又はフック50を含む。
【0013】
いくつかの実施例では、スプレー装置10は、空気供給カップリング22と液体供給カップリング32へと延伸する空気導管と液体導管とを更に含んでもよい。典型的なスプレーシステムでは、複数のスプレー装置10は、1つ以上の位置決め装置、制御装置、ユーザーインターフェース、コンピュータなどに結合されてもよい。例えば、典型的な位置決め装置には、1つ以上のロボットアーム、移動支持体を有する頭上レール構造体、又はその組み合わせが含まれてもよい。いくつかの応用例では、スプレーガン10は、組立ラインでの複数の自動車に対する吹き付けなどの所望の吹き付け作業を実施するために、互いに連携するようにしてもよい。また、この吹き付け装置は、スプレー塗膜を硬化するように構成される赤外線ヒーター又はこのほかの硬化装置などの連動システム及び装置を含んでもよい。
【0014】
図2は、図1に図示するスプレー装置10の断面図であり、本技術のいくつかの実施例にしたがって、内部構成要素と、ヘッド組立体14及びボディー組立体18を通過する流路とを更に図示する。図示のように、ボディー組立体18は、給気カップリング22からヘッド組立体14のエアーノズル組立体62へ延伸する一連の空気通路54、56、58、60を含む。空気弁組立体42は、トリガー38の操作を介して空気の通路を制御するために、空気通路54と空気通路56との間に配置される。図示のように、空気弁組立体42は、可動弁部材66に隣接して配置されるバネ64を含み、このバネ64は、トリガー38が回転接合部40回りに回転するときに弁経路68に沿って直線的に移動する。
【0015】
空気弁組立体42の下流では、圧力又は流量制御組立体70が空気通路58に沿って配置される。この圧力又は流量制御組立体70は、空気通路58の楔形部76近傍に配置される楔形弁チップ74を有する調整弁72を含む。また、圧力又は流量制御組立体70は、調整弁72に結合されるとともに、ネジ山80を介してボディー組立体18に回転自在に結合される調整ヘッド78を含む。このため、調整ヘッド78は、空気通路58の楔形部76に対する楔形弁チップ74の直線距離又は近接度合を変化させるために回転可能である。この方法では、圧力又は流量制御組立体78は、エアーノズル組立体62への空気流の流量又は圧力を調整することができる。
【0016】
空気流に加えて、トリガー38は、回転接合部40回りに回動して液体弁組立体44を開閉する。この液体弁組立体44は、ヘッド組立体14を通過して硬質被覆スプレーチップ12へ延伸する。図示する実施例では、液体弁組立体44は、留め具84を介してトリガー38に結合される弁軸82を含む。また、液体弁組立体44は、弁軸82周りに配置されるとともにヘッド組立体14にネジ結合される針パッキンカートリッジ組立体86を含む。図示する針パッキンカートリッジ組立体86は、弁軸82周りに配置される筒状ケーシング88と内部コイルバネ90とを含む。また、針パッキンカートリッジ組立体86は、Oリングシール92、94などの1つ以上のシールを含む。
【0017】
操作中には、トリガー38は、回転接合部40回りに時計回りに回動するため、弁軸82は、液体供給組立体26から硬質被覆スプレーチップ12へ液体が流れるようになる開き位置へ向かって左側に直線的に付勢される。上記で検討したように、液体供給組立体26は、液体フィルター組立体34を含む。図示する実施例では、液体フィルター組立体34は、メッシュフィルターカートリッジなどのフィルター96を含み、このフィルター96は、液体供給カップリング32と液体導管36との間でフィルターハウジング98内に配置される。しかし、さまざまなフィルター機構をフィルターハウジング98内に配置してもよい。液体がスプレー装置10を通過するとき、硬質被覆スプレーチップ12は、液体、例えば、塗料又は別の液体塗装材による侵食に耐性を有する。いくつかの実施例では、この液体は、液体と固体の二相流がスプレー装置10及び硬質被覆スプレーチップ12を通過するように、粒子状物質を含んでもよい。例えば、塗料のいくつかの実施例は、液体粒子と固体粒子の両方を含む粒子状塗料として記載される。このため、フィルター96は、液体から大きめの粒子を除去するように構成されると同時に、スプレーチップ12の硬質塗膜は、液体(及び残留粒子)が通過することによる摩耗に耐性を有する。
【0018】
図3は、図1、2に図示するスプレー装置10の部分断面図であり、本技術のいくつかの実施例にしたがって、ヘッド組立体14の詳細を更に図示する。図示する実施例では、エアーノズル組立体62は、ネジ山112を介して中央液体通路111にネジ結合される第1環状部材110を含む。また、エアーノズル組立体62は、第1環状部材110周りに同心円状に配置されるとともにOリング114を介してボディー組立体18に対して密閉される第2環状部材113を含む。エアーノズル組立体62は、第2環状部材113周りに同心円状に配置される第3環状部材115と、第3環状部材115に隣接して配置される空気式スプレー形成ヘッド組立体116とを更に含む。いくつかの実施例では、この空気式スプレー形成ヘッド組立体116は、1つ以上の第4環状部材、例えば、2つの同軸部材117、118を含む。また、エアーノズル組立体62は、ヘッド組立体116と硬質被覆スプレーチップ12との間に1つ以上のアダプタ、ブッシング、ワッシャ、又はこのほかの構造体を含んでもよい。例えば、図示する実施例は、硬質被覆スプレーチップ12周りに配置される外側ホルダ119と、硬質被覆スプレーチップ12内に少なくとも一部が挿入されるように配置される内側ブッシング又はアダプタ120と、外側ホルダ119の背面と同一平面上にあるアダプタ120の背面に接触して配置される後部ワッシャ121とを含む。最後に、エアーノズル組立体62は、部材110、113、115、116、119、120、121周りに配置されるとともにネジ山124を介してボディー組立体18にネジ結合される外側ケーシング又は固定具122を含む。
【0019】
図示する部材110、113、115、116、119、120、121、122は、ボディー組立体18の空気通路60から空気式スプレー形成ヘッド116に配置される1つ以上の空気噴射口136へ延伸する複数の空気通路126、128、130、132、134を形成或いは具備する。図示する実施例では、この複数の空気噴射口136は、硬質被覆スプレーチップ12の中心線又は中心面138に向かって傾斜している。操作中には、空気噴射口136は、キャッツアイオリフィス16の下流に液体スプレーを形成するために空気流又は空気圧を提供する。例えば、空気噴射口136は、スプレーを概ね平板形状又はシート形状に形成するように構成されてもよい。しかし、図示する実施例は空気噴霧噴射口を含まず、スプレーは、硬質被覆スプレーチップ12のキャッツアイオリフィス16からの液体噴霧によって実質的に形成される。これとは別の実施例では、スプレー装置10は、硬質被覆スプレーチップ12と協働する1つ以上の空気噴霧噴射口を含んでもよく、これにより、液体噴霧と空気噴霧の両方を介して所望のスプレーを生成する。
【0020】
操作中には、弁軸82は軸136に沿って直線的に移動して、矢印142によって示される方向にボール弁部材140を開閉する。具体的には、ボール弁部材140は、エアーノズル組立体62の第1環状部材110内で弁軸82の端部144と楔形キャビティー又は通路146との間に配置される。このため、ヘッド組立体14を通過して硬質被覆スプレーチップ12へ至る液体の流れは、楔形キャビティー又は通路146に対してボール弁部材140を付勢或いは解放することによって制御される。このほかの実施例では、弁軸82の端部144は、楔形チップ(例えば、ニードル弁)を有してもよく、この楔形チップは、楔形キャビティー又は通路146に対して取外可能に付勢されて、ヘッド組立体14を通過する液体の流れを開閉することができる。
【0021】
図3の実施例では、硬質被覆スプレーチップ12は、第1材料で作成されるチップ中心構造体148と、第2材料で作成され、チップ中心構造体148周りに配置される硬質塗膜150とを含み、第2材料は第1材料よりも比較的硬質である。例えば、チップ中心構造体148の第1材料は、1種類以上の工具鋼又は別の材料或いはその組み合わせを含んでもよい。更に具体的には、典型的な工具鋼には、A型工具鋼、又はD型工具鋼、又はH型工具鋼、又はM型工具鋼、又はS型工具鋼、或いはその組み合わせが含まれる。更に例を挙げれば、硬質塗膜150の第2材料は、クロム、チタン合金、又はこのほかの第1材料よりも比較的硬質な材料、或いはその組み合わせを含んでもよい。硬質塗膜150のいくつかの実施例は、硬質材料の複数の層を含んでもよい。例えば、硬質塗膜150は、第1塗膜層、第2塗膜層、第3塗膜層などを含んでもよい。これらの塗膜層は、材料組成及び性質が異なってもよい。例えば、1つ以上の層が摩耗耐性を有すると同時に、そのほかの層が下層にあるチップ中心構造体148の第1材料の腐蝕に対する耐性を有してもよい。硬質塗膜層の典型的な配列の1つでは、1つ以上の耐薬品内層が1つ以上の耐摩耗外層によって覆われている。
【0022】
特定の実施例では、第1材料はD2工具鋼を含有し、第2材料は窒化チタンを含有する。典型的なD2工具鋼には、約1.4〜1.6%の炭素、約0〜0.6%のマンガン、約0〜0.6%のケイ素、約11〜13%のクロム、約0〜0.3%のニッケル、約0.7〜1.2%のモリブデン、及び約0〜1.1%のバナジウムが含有される。
【0023】
このため、比較的柔軟な性質を有する第1材料を用いれば、チップ中心構造体148を製造した後に硬質塗膜150の第2材料を介して硬化させることが容易になる。例えば、チップ中心構造体148のいくつかの実施例は、成形、鋳造、機械加工、穿孔、研削、ワイヤー放電加工(EDM)、或いはその組み合わせによって製造される。その後、硬質塗膜150は、めっき、又は熱拡散、又はホウ化処理、又は化学気相成長法(CVD)、又は物理気相成長法(PVD)、或いはその組み合わせを介して塗布されてもよい。特定の実施例では、チップ中心構造体148は工具鋼(例えば、D2工具鋼)から作成され、キャッツアイオリフィスはワイヤー放電加工(EDM)によって形成される一方で、硬質塗膜150は酸化チタンの化学気相成長法(CVD)によって塗布される。
【0024】
図示するチップ中心構造体148の内部構造は、第1円筒状通路152と、先細通路154と、キャッツアイオリフィス16へ延伸する第2円筒状通路156とを有する。図示するチップ中心構造体148の外部構造は、第1円筒状部158と、第2円筒状部162へ延伸する段差部160と、半球形面又は凸状面164とを含む。しかし、チップ中心構造体148の内部構造及び外部構造は、いかなる特殊なスプレー装置10に適用してもよい。更に、この内部構造及び外部構造は、コスト削減、スプレー性能の向上、液体残留の減少のために変更してもよい。
【0025】
このほかの実施例では、硬質被覆スプレーチップ12及び部材110、113、115、116、119、120、121の1つ以上の組或いはその組み合わせは、単一部品又は単一構造体として一体的に形成してもよく、この単一部品又は単一構造体は、中実芯と外側硬質塗膜とを有する。例えば、これまで詳細に説明してきたように、この中実芯はチップ中心構造体148に類似し、この硬質塗膜は硬質塗膜150に類似してもよい。単一部品又は単一構造体に一体化することにより、スプレー装置10の製造に関係する部品数、複雑さ及びコストが減少する。また、外側硬質塗膜よりも比較的柔軟な材料で作成された中実芯を用いることにより、内蔵部品、例えば、12、119、120、121或いはその組み合わせの製造を容易にすることができる。更に、外側硬質塗膜を用いることにより、内蔵部品が耐摩耗性を有することになり、これにより、内蔵部品の耐用年数が延びる。同様に、耐用年数が延びることにより、部品の交換にかかるコスト及び時間が減少する。外側硬質塗膜を用いない場合には、内蔵部品はいずれは摩耗し、その交換にかかるコストは高めであるため、摩耗しやすい部品と摩耗しにくい部品とを一体化することは望ましくない。つまり、外側硬質塗膜を用いない場合には、個々の部品のいくつかは、そのほかの部品よりも摩耗しやすく、頻繁に交換する必要がある。このため、外側硬質塗膜を用いない場合には、摩耗しやすい区域/部品を比較的摩耗しにくいか中程度に摩耗する区域/部品から区分して、摩耗しやすい区域/部品を個別に交換できるようにすることが望ましい。更に、外側硬質塗膜を塗布することにより、耐摩耗性が増加し、コストがかかる内蔵部品の交換及び修理の可能性が減少する。このため、スプレー装置10では、流体がスプレー装置10を通過したときの摩耗の度合いがさまざまな多数の部品を設ける代わりに、部品の1つ以上の組を一体化して、外側硬質塗膜を有する1つ以上の一体化構造体にしてもよい。
【0026】
特定の実施例では、外側ホルダ119及び硬質被覆スプレーチップ12は1つの部品として一体的に形成され、2つの構成要素119、12を組み合わせたときの寸法と概ね同一の寸法を有し、この一体部品構造は、中実芯と、この中実芯の内表面及び外表面周りに配置される硬質塗膜とを有する。この特殊な実施例では、アダプタ120及び後部ワッシャ121も、例えば、構成要素120、121を組み合わせたときの寸法と概ね同一の寸法を有するナイロン構造体などの単一構造体として組み合わせてもよい。これとは別の実施例では、アダプタ120及び後部ワッシャ121は、硬質被覆スプレーチップ12の長さを延伸して、スプレーチップ12の後部が外側ホルダ119の後部と概ね同一平面上にあるようにすることによって、取り除かれてもよい。また、外側ホルダ119或いは外側ホルダ119とスプレーチップ12の組み合わせは、外側環状溝166を含んでもよい。この外側環状溝166には、固定クリップ又はシール168が配置され、ヘッド116に対して保持力を発揮するか密閉する。いくつかの実施例では、スプレーチップ12は、空気通路、オリフィス、噴射口などを有する1つ以上の構成要素と組み合わせてもよい。例えば、スプレーチップ12は、外側ホルダ119と、空気式スプレー形成ヘッド116の1つ以上の構成要素、例えば、同軸部材117及び/又は118と組み合わせてもよい。この実施例では特に、スプレーチップ12と空気式スプレー形成ヘッド116とを一体化したものは、単一構造体において、空気式流体噴霧のための空気通路と流体通路の両方を含む。このほかの実施例では、スプレーチップ12は、弁組立体の1つ以上の構成要素、例えば、第1環状部材110、第1環状部材110内の楔形キャビティー又は通路146を有する別の環状部材或いはその組み合わせ、と組み合わせてもよい。この実施例では特に、スプレーチップ12はまた、部材119、120、121、或いはその組み合わせと組み合わせてもよい。更に、この芯構造及び硬質塗膜の技術は、さまざまなスプレーチップ、またはスプレーチップと隣接する構成要素の組み合わせ、または流線形を特徴とする変更されたスプレーチップに適用してもよい。
【0027】
図4〜図6は、硬質被覆スプレーチップ12の別の実施例を図示し、スプレー性能の向上、液体貯留の減少などのために内側形状及び外側形状が変更されている。先ず図4を参照すると、この図は、本技術のいくつかの実施例にしたがう別の硬質被覆スプレーチップ12の側断面図である。図4の硬質被覆スプレーチップ12は、第1材料で作成されるチップ中心構造体170と、第2材料で作成される硬質塗膜172とを含み、図3を参照して上記で詳細に説明したように、第2材料は第1材料よりも実質的に硬質である。図1〜図3を参照して上記で説明した第1材料と第2材料及び製造工程のさまざまな実施例は、図4〜図6の実施例に適用可能である。
【0028】
図3の実施例と対照的に、図4の変更されたチップ中心構造体170は流線形内部通路174を含み、この流線形内部通路174は、入口側部176から変更されたチップ中心構造体170の出口側部178にあるキャッツアイオリフィス16に延びる。図示する流線形内部通路174は、入口側部176と出口側部178との間に、流線形内部通路174及び変更されたチップ中心構造体170の長さの少なくとも大部分に沿って、概ね円錐又は先細形状部180を有する。図示する実施例では、流線形内部通路174は、概ね円錐又は先細形状部180の先端部184に半球形又は凹形状部182を更に含む。流線形内部通路174の有利な点は、内部容積が実質的に減少していることにより、液体スプレーチップ12内の液体貯留の量又は可能性が減少することである。更に、液体貯留が減少することにより、スプレーガン10が遮断又は分解されるときに液体が液体スプレーチップ12から滴下する可能性が減少する。更に、流線形内部通路174は、液体スプレーチップ10内が閉塞する可能性を減少させ、液体流れとそれに続くキャッツアイオリフィス16下流でのスプレー形成との一貫性を向上させる。このような要因のすべてがスプレー装置10の性能及び有用性を向上させる。
【0029】
また、変更されたチップ中心構造体170の外部形状は、図3の実施例とは異なる。図4に図示するように、変更されたチップ中心構造体170は、入口側部176に隣接する第1円筒状部186と、第2円筒状部190に延びる段差部188とを含み、第2円筒状部190から丸みを帯びた面又は平面194に延びる先細部192を出口側部178に含む。先細部192は、丸みを帯びた面又は平面194に延びる半球形又は凸状形状、楔形形状、或いはこのほかの適切な形状を有してもよい。
【0030】
図3の実施例の凸面164と対照的に、図4の丸みを帯びた面又は平面194は、製造時間を削減し、材料コストを削減するとともに、機械加工又は概ねキャッツアイオリフィス16作成に関わる正確さ及び製造しやすさを向上させ、これにより、キャッツアイオリフィス16のスプレー生成能力が向上する。例えば、丸みを帯びた面又は平面194に用いられる材料が削減されることにより、キャッツアイオリフィス16を作成するための機械加工の量又は時間が概ね削減される。図示する実施例では、キャッツアイオリフィス16は、楔形又はV字状溝のような略分岐形状部196を有し、この略分岐形状部196は、硬質被覆スプレーチップ12下流でのスプレー形成を容易にする。いくつかの実施例では、チップ中心構造体170に比較的柔らかめの第1材料を用いる利点として、キャッツアイオリフィス16をワイヤー放電加工(EDM)によって製造してもよい。しかし、キャッツアイオリフィス16を作成するために、適切なものであればこのほかにいかなる製造技術を利用してもよい。次に、硬質塗膜172は、適切な塗布技術を介して、変更されたチップ中心構造体170の内側面及び外側面周りに塗布される。例えば、典型的な塗布技術には、めっき、又は熱拡散、又はホウ化処理、又は化学気相成長法(CVD)、又は物理気相成長法(PVD)、或いはその組み合わせが含まれる。
【0031】
図5、6は、本技術のいくつかの実施例にしたがって、図4のキャッツアイオリフィス16及び変更されたチップ中心構造体170の外部構造の詳細を更に図示する。ここで図5を参照すると、この図は図4に図示する硬質被覆スプレーチップ12の斜視図であり、キャッツアイオリフィス16の分岐形状部196と、出口側部178の丸みを帯びた面又は平面194とを更に図示する。図5に図示するように、キャッツアイオリフィス16の分岐形状部196は、変更されたチップ中心構造体170の出口側部178を横切って直線的に延びるV字状溝として概ね形成され、丸みを帯びた面又は平面194を全体的に横切り、先細部192の両側にわたって延びる。
【0032】
図6を参照すると、この図は、図4、5に図示する硬質被覆スプレーチップ12の上面図であり、本技術のいくつかの実施例にしたがうオリフィス16のキャッツアイ形状を更に図示する。図4、6に図示するように、キャッツアイオリフィス16は、分岐形状部196内で流線形内部通路174の半球形又は凹形状部182と分岐形状部196との接触面の中央に配置される。しかし、これとは別の実施例では、オリフィス16は、円形、矩形、楕円形などの望ましい形状を有してもよい。操作中には、液体がキャッツアイオリフィス16から排出されるとともに分岐形状部196に沿って外側に拡散され、これにより、概ね平坦なスプレー形態の液体噴霧が発生する。更に、図2、3を参照して上記で検討したように、空気式スプレー形成ヘッド116は、所望の形状、例えば、平坦なスプレー形態のスプレーを更に形成するようにしてもよい。しかし、このほかのいかなるスプレー形態も本技術の範囲に含まれる。
【0033】
本発明には、さまざまな変更を加え、別の実施例を設けることが可能であるが、具体的な実施例を図面に例示し、本明細書に詳細に説明してきた。しかし、本発明は、開示された特定の実施例に限定されるものではない。本発明は、むしろ添付請求の範囲に定義するように、本発明の精神及び範囲内に属するあらゆる変更、均等物及び代替物を対象とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本技術のいくつかの実施例による硬質被覆スプレーチップを有する典型的なスプレー装置の斜視図。
【図2】図2に図示するスプレー装置の側断面図であり、硬質被覆スプレーチップに延びる内部構成要素及び通路を更に図示する。
【図3】図1、2に図示するスプレー装置の部分断面図であり、硬質被覆スプレーチップの詳細を更に図示する。
【図4】本技術のいくつかの実施例による面取りされた端部及び流線形内部通路を有する別の硬質被覆スプレーチップの側断面図。
【図5】図4に図示する別の硬質被覆スプレーチップの斜視図。
【図6】図4、5に図示する硬質被覆スプレーチップの上面図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スプレーチップを具備するスプレーシステムであって、
該スプレーチップは、
第1材料から作成され、液体射出オリフィスに延びる液体通路を具備する芯構造体と、
前記芯構造体周りに配置され、前記第1材料よりも比較的硬質な第2材料から作成される耐摩耗性塗膜とを具備するスプレーシステム。
【請求項2】
前記スプレーチップと前記スプレーシステムの1つ以上の構成要素とは単一構造体に一体化され、該単一構造体は、前記芯構造体と前記耐摩耗性塗膜とから形成される請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項3】
前記1つ以上の構成要素は、同軸ホルダ、シール構造体、空気通路、空気射出オリフィス或いはその組み合わせを具備する請求項2に記載のスプレーシステム。
【請求項4】
前記第1材料は工具鋼を含み、前記第2材料は硬質皮膜合金を含む請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項5】
前記第1材料は、A型工具鋼、又はD型工具鋼、又はH型工具鋼、又はM型工具鋼、又はS型工具鋼、又は別の高硬度工具鋼を含む請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項6】
前記第2材料は窒化チタンを含む請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項7】
前記耐摩耗性塗膜は、化学気相成長法塗膜、又は物理気相成長法塗膜、又は熱拡散塗膜、又はめっき、或いはその組み合わせを含む請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項8】
前記液体射出オリフィスは放電加工(EDM)オリフィスを具備する請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項9】
前記液体射出オリフィスは、キャッツアイ形状開口と、隣接する分岐部分とを具備する請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項10】
前記液体通路は、前記液体射出オリフィスに向かって、前記チップ中心構造体の少なくとも大部分に沿って徐々に先細になる先細通路を具備する請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項11】
ヘッド組立体に配置される前記スプレーチップを有するスプレー塗装ガンであって、ハンドルと、トリガーと、該トリガーに結合される液体弁と、前記液体弁と前記スプレーチップとの間の1つ以上の液体通路とを具備するスプレー塗装ガン、を具備する請求項1に記載のスプレーシステム。
【請求項12】
前記ヘッド組立体は、空気噴射口に延びる複数の空気通路を具備する請求項11に記載のスプレーシステム。
【請求項13】
液体射出オリフィスに延びる液体通路を有する着脱式スプレーチップを設ける工程を含む方法であって、
前記着脱式スプレーチップは、前記着脱式スプレーチップよりも実質的に高硬度である耐摩耗性塗膜を具備する方法。
【請求項14】
前記着脱式スプレーチップを設ける工程は、工具鋼を用いて前記着脱式スプレーチップを所望の形状に作成する工程と、その後に前記所望の形状を硬化させるために前記所望の形状を前記耐摩耗性塗膜によって被覆する工程とを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記所望の形状に作成する工程は、ワイヤー放電加工(EDM)によって前記液体射出オリフィスを作成する工程を含み、被覆工程は、めっき、又は熱拡散、又はホウ化処理、又は化学気相成長法(CVD)、又は物理気相成長法(PVD)、或いはその組み合わせを含む請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記着脱式スプレーチップを設ける工程は、スプレーガンの1つ以上の構成要素を前記着脱式スプレーチップと一体化して、前記耐摩耗性塗膜を有する単一構造体にする工程を含む請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−531176(P2009−531176A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−502798(P2009−502798)
【出願日】平成19年2月26日(2007.2.26)
【国際出願番号】PCT/US2007/004907
【国際公開番号】WO2007/111803
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(591203428)イリノイ トゥール ワークス インコーポレイティド (309)
【Fターム(参考)】