説明

着色レンズ

【課題】染色されたレンズ基材に反射防止膜を付与しながら、レンズを通して見る物体の色が極めて自然である着色レンズを提供する。
【解決手段】レンズ基材の表面に反射防止膜が形成されている着色レンズであって、当該レンズ基材は、イエロー系分散染料7〜11重量%、レッド系分散染料5〜10重量%、及びブルー系分散染料80〜88重量%で調整された染料によって染色されており、当該反射防止膜は、垂直方向の反射光がオレンジ色を呈するものとされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に可視光の透過率を減ずる着色レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
防眩のため装用される遮光用レンズとして、下記特許文献1に記載のものが知られている。このレンズは、レンズ基材に染色が施されることにより、光の可視領域における透過率を減ずるもので、400〜500nm(ナノメートル)の波長域のうち短波長側が長波長側より減光され、又500〜650nmの範囲の分光特性がニュートラルな(平坦な)ものとされている。更に、このレンズにおいて、公知の反射防止膜を形成しても良いとされている([0020])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−306387号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の遮光用レンズでは、400〜500nmの波長域のうち短波長側においてより減光されつつ、500〜650nmの範囲の分光特性がニュートラルなものとされているため、十分な防眩性能を有しながらコントラスト感度が良好である。即ち、特に眩しさを感ずる波長域のうち短波長側を重点的に減光させることで、コントラスト感度を維持しつつ防眩すると共に、視感度の高い500〜650nmの波長域において透過率をフラットにすることにより、色彩識別性を良くしてコントラスト感度を更に良好なものとする。
【0005】
しかし、染色したレンズ基材のみから成る遮光用レンズでは、表面において反射を生じてしまい、コントラスト感度や視認性を極めて良好に維持する構成が実現し難く、このような構成を実現するためには、レンズ基材の表面に反射防止膜を形成する必要がある。反射防止膜としては、一般に多用されるいわゆるW型の分光分布を有するものが選択されるに留まっている。ここで、W型の分光分布とは、可視領域における反射率の分光分布の曲線の中央部が、若干盛り上がった(又400nm付近と800nm付近で曲線が立ち上がった)W型となっている分布であり、中央部の極大点が5%程度以下で450〜600nmの範囲内に位置している分布である。このような分布の反射防止膜においては、反射防止膜のみの反射光が薄い緑色を呈し、このような反射防止膜は緑系であると呼び得る。このような反射防止膜が付与されると、レンズ基材のみの場合と比べ、全体の透過光の色が僅かながらも変化してしまい、厳密に言えば本来の色とはやや異なって見えてしまうこととなる。
【0006】
本来、分光特性がニュートラルな染色レンズは、グレー色を呈し、透過光の色変化が少ない状態で減光する。かような染色レンズをレンズ基材とし、表面に反射防止膜を付与して着色レンズを作製すると、レンズを通してみる物体の色が、染色レンズのみによる色から僅かに変化し、その僅かな色の変化がカラーバランスに影響して色の再現性を悪くして、野外活動やスポーツ活動、色に関わる業務等において妨げを生ずる要因になり得る。
【0007】
そこで、請求項1に記載の発明は、染色されたレンズ基材に反射防止膜を付与しながら、レンズを通して見る物体の色が極めて自然である着色レンズを提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、レンズ基材の表面に反射防止膜が形成されている着色レンズであって、前記レンズ基材は、イエロー系分散染料7〜11重量%、レッド系分散染料5〜10重量%、及びブルー系分散染料80〜88重量%で調整された染料によって染色されており、前記反射防止膜は、垂直方向の反射光がオレンジ色を呈するものであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項2〜5に記載の発明は、上記目的に加えて、より一層色の変化の少ない状態とする目的を達成するため、上記発明にあって、着色レンズ全体における可視領域での透過率分布において、600nmより長波長側の透過率がこれより短波長側の透過率より高くしたり、反射防止膜における可視領域での反射率分布において、600nmより長波長側の反射率が1%以上であるようにしたり、着色レンズ全体における透過光の、L*a*b*表色系におけるa*b*の値が、−0.4≦a*≦0.3、−1≦b*≦2であるようにしたり、着色レンズ全体における可視領域での透過率分布において、450〜650nmでの透過率の最大値と最小値の差が、最大値の10%以内であるようにしたりすることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、グレー系のレンズ基材(イエロー系分散染料・レッド系分散染料・ブルー系分散染料を順に7〜11重量%・5〜10重量%・80〜88重量%の範囲内で調整した染料により染色の施されたもの)に、オレンジ系の反射防止膜を付与する。従って、減光を十分に提供しながら、透過率分光分布が人間の眼にとって色変化の極めて少ないものとすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例に係るオレンジ系の反射防止膜(反射防止膜1)と、比較例に係る緑系の反射防止膜(反射防止膜2)に関する、反射率の分光分布の設計値ないし測定値を表すグラフである。
【図2】実施例1,2ないし比較例1,2における透過率分布を示すグラフである。
【図3】実施例3ないし比較例3における透過率分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態につき説明する。なお、本発明の形態は、以下のものに限定されない。
【0013】
本発明の着色レンズにおいては、グレー系のレンズ基材に、オレンジ系の反射防止膜が形成される。なお、レンズ基材と反射防止膜の間にハードコート等の中間膜を形成することができる。ハードコートを挿入した場合、更にレンズ基材表面とハードコートの間にプライマーコートを形成したり、反射防止膜の表に防汚膜を形成したり、レンズ基材表面とハードコートの間やハードコートと反射防止膜の間あるいは反射防止膜と防汚膜の間等に別の中間層を具備させたりする等、膜構成を他のものに変更することができる。又、レンズ基材の裏面や表裏両面にハードコート等を形成しても良いし、後者の場合に表裏で異なる膜構成としても良い。
【0014】
レンズ基材は、染料によりグレーあるいはその近似色に染色されており、好適にはプラスチック製であって、染料を分散させた染色液中に浸漬することで染色される。染料は、イエロー系分散染料、レッド系分散染料及びブルー系分散染料から成り、順に、7〜11重量%、5〜10重量%、80〜88重量%で調整されていて、染色時、染色液中に分散している。染色液中には、染料の浸透性や均一性を高める等のため、界面活性剤及び/又はキャリア剤等を添加することができる。
【0015】
レンズ基材の材質としては、例えばポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4−メチルペンテン−1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂等が挙げられる。又、屈折率が高く好適なものとして、例えばポリイソシアネート化合物とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるポリウレタン樹脂を挙げることができ、更に屈折率が高く好適なものとして、エピスルフィド基とポリチオール及び/又は含硫黄ポリオールとを付加重合して得られるエピスルフィド樹脂を挙げることができる。
【0016】
本発明において用いられる染料は、一般に分散染料と呼ばれる染料で、水に難溶性の染料であって、水に分散した懸濁液として、広く光学用プラスチックレンズの染色に使用されている。特に好ましい染料の例として、ダイスタージャパン(株)製のダイヤニックスブルー(Dianix Blue)AC-E、ダイヤニックスレッド(Dianix Red)、ダイヤニックス イエロー(Dianix Yellow)や、紀和化学工業株式会社製のKIWALON POLYESTER Blue KN-SE,KIWALON POLYESTER Blue ESP,KIWALON POLYESTER Red KN-SE,KIWALON POLYESTER Red ESP,KIWALON POLYESTER Yellow KN-SE 200,KIWALON POLYESTER Yellow ESP、日本化薬株式会社製のKayaron Microester Blue AQ-LE,Kayaron Microester Blue 5L-E,Kayaron Polyester Blue AN-SE,Kayaron Polyester Blue AUL-S(N),Kayaron Microester Red 5L-E,Kayaron Polyester Rubine GL-SE 200,Kayalon Polyester Red AN-SE,Kayalon Polyester Red B-LE,Kayaron Microester Yellow AQ-LE,Kayaron Microester Yellow 5L-E,Kayaron Polyester Yellow 5R-SE(N)200,Kayaron Polyester Yellow BRL-S 200を挙げることができる。
【0017】
本発明で使用される界面活性剤は、好適には陰イオン系界面活性剤であり、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、ラウリル硫酸塩等の陰イオン系界面活性剤やポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、又はこれらの組合せを用いることができる。これら界面活性剤の好適な使用量は、染色するレンズの材質や大きさ等によって異なり、一義的に決めることはできないが、染色速度およびムラ等を考慮して、通常は1〜500g毎リットルの範囲で使用される。
【0018】
本発明においては、必要に応じて染色促進剤としてのキャリア剤を添加することが可能である。キャリア剤として、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、ジメチルベンジルカルビノール等の芳香環を有するアルコール類や、オルトフェニルフェノール、パラフェニルフェノール、トリクロルベンゼン、ジクロルベンゼン、メチルナフタレン等が例示される。
【0019】
反射防止膜は、屈折率の異なる2種以上の材質による2以上の複数層を有する光学多層膜として形成されている。反射防止膜は、真空蒸着法やスパッタ法等により、低屈折率層と高屈折率層を交互に積層させて形成される。各層には無機酸化物が用いられ、無機酸化物として例えば酸化ケイ素や、これより屈折率の高い酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化セリウム、酸化インジウムが挙げられる。
【0020】
そして、反射防止膜は、自身の反射率分光分布において、極小点が複数明確に存在するW型の分布を有する緑系ではなく、明確な極小点が1点である分布を有するオレンジ系(オレンジ色)のものとなっている。この分布における極小点は、好適には400〜500nmに存在する。又、当該分布において、好適には、500〜600nmで反射率が2%以下であり、更に好適には500〜580nmで反射率が1%以下である。そして、好適には、反射防止膜における可視領域での反射率分布において、600nmより長波長側の反射率が1%以上である。このような反射防止膜のみにおける反射光は、薄いオレンジ色を呈する。なお、明確な極小点とは、ここでは、隣接する極大点からおよそ0.5%以上下がった値となる極小点のことをいう。又、これらの分光分布は、設計において設定する設計値でも良いし、膜形成後の測定値(実測値)でも良い。
【0021】
反射防止膜は、レンズ基材の表面に形成され、好適には表裏両面に付与されるが、表面のみでも良いし、裏側のみでも良いし、レンズ基材を複数枚として間に膜を挟んでも良い。又、複数枚の反射防止膜を付与する場合に、互いに異なる層構成としても良い。
【0022】
着色レンズ、即ちオレンジ系の反射防止膜が付与されたグレー系のレンズ基材を透過した光は、色が極めて自然なものとなり、緑系反射防止膜付きのグレー系レンズ基材よりレンズを通して見る物体の色が自然なものとなる。なお、本発明の着色レンズにおける透過光分布においては、好適には、600nmより長波長側の透過率がこれより短波長側の透過率より高い。又、本発明の着色レンズにおける、450〜650nmでの透過光分布においては、好適には、透過率の最大値と最小値の差が、最大値の10%以内である。更に、好適には、本発明の着色レンズにおける透過光の、L*a*b*表色系におけるa*b*の値は、−0.4≦a*≦0.3、−1≦b*≦2となる。
【実施例】
【0023】
≪構成等≫
本発明に属する実施例と、本発明に属さない比較例を、下記の通りそれぞれ複数作成した。
【0024】
実施例1として、屈折率1.60であるポリウレタン樹脂製の透明なレンズ基材(フラットレンズ)を染色し、オレンジ系の反射防止膜を表側に形成したものを作製した。このレンズ基材は、眼鏡プラスチックレンズ材体として用いることが可能であり、眼鏡プラスチックレンズにおける標準的な大きさとした。
【0025】
染色は、レンズホルダーにレンズ基材を取り付けた状態で、染色液に浸漬することで行う。染色液は、純水1リットルに対し、分散染料、界面活性剤及びキャリア剤を添加して調整される。染色中における染色液の温度は90℃であり、染色液に対するレンズ基材の浸漬時間は15分間である。
【0026】
染料は、イエロー系分散染料(日本化薬株式会社製Kayalon Polyester Yellow YL-SE)8.0重量%、レッド系分散染料(双葉産業株式会社製FUTABA FSP Red AN-SE)7.0重量%及びブルー系分散染料(日本化薬株式会社製Kayalon Polyester Blue AUL-S(N))85.0重量%で調整した。界面活性剤は、日華化学株式会社製ニッカサンソルト#7000を10g添加した。キャリア剤は、東邦化学産業株式会社製キャリアントNo.36を6g添加した。
【0027】
実施例1におけるレンズ基材の染色濃度は50%に指定されており、染色後の濃度は50%となった。
【0028】
一方、反射防止膜は、図1に「反射防止膜1(オレンジ)」として示す反射率の分光分布(設計値)を有するオレンジ系のものであり、奇数層を低屈折率である二酸化ケイ素とし、偶数層を高屈折率である二酸化ジルコニウムとした5層構造とした。当該反射防止膜1は、膜面に対して鉛直方向から見た場合にオレンジ色ないしその近傍色(類似色)を呈する。なお、反射防止膜1における反射率分布の実測値を「反射防止膜1測定値」として示す。
【0029】
実施例2として、染色濃度を25%とするために染色液浸漬時間を調整した以外は実施例1と同様であるものを作製した。
【0030】
実施例3として、次の事項以外は実施例1と同様であるものを作製した。即ち、染色液中の染料につき、イエロー系分散染料9.3重量%、レッド系分散染料10.7重量%及びブルー系分散染料80.0重量%で調整した。
【0031】
一方、比較例1として、反射防止膜を図1に「反射防止膜2(緑・W型)」で示す反射率分布を有するものとした以外は実施例1と同様であるものを作製した。又、比較例2として、同様に反射防止膜を緑系に変えた実施例2と同様であるものを作製した。更に、比較例3として、同様に反射防止膜を緑系に変えた実施例3と同様であるものを作製した。当該反射防止膜2は、膜面に対して鉛直方向から見た場合に緑色ないしその近傍色を呈する。なお、反射防止膜2における反射率分布の実測値を「反射防止膜2測定値」として示す。
【0032】
≪効果等≫
上記各実施例ないし比較例を、色覚に関する業務に携わる5名の者に装用してもらい、装用前後での色の変化を確認してもらった。すると、比較例1〜3では何れも減光と共に色の変化が覚知でき気になるのに対し、実施例1〜3では、各比較例に比べ色の変化が極めて少ない状態で減光されることが、全員の装用者において確認された。
【0033】
図2に、実施例1,2ないし比較例1,2における可視領域に係る透過率分布を示し、図3に、実施例3ないし比較例3における可視領域に係る透過率分布を示す。
【0034】
図2において、何れもおよそ450〜650nmの領域で透過率が一定であり(最大値と最小値の差が最大値の10%以内に収まり、実施例1・比較例1では約60%、実施例2・比較例2では約35%)、およそ650〜750nmで透過率が正比例的に増加し、およそ750〜800nmで透過率が90%程度で一定となる。
【0035】
このように、透過率について、可視領域の短波長側(450〜650nm)でフラットであり、長波長側(650〜750nm)で漸増するようにすると、羞明感の抑制において重要である短波長側を重点的に減光しながら、視感度の比較的に高い長波長側を視感度の上昇状況に合わせて自然に透過させることができ、色がさほど変化しない状態で減光可能である。
【0036】
そして、より詳細に見ると、実施例1は、比較例1に対して、短波長側(約400〜600nm)において透過率が若干(3%程度)多く、長波長側(約600〜750nm)で透過率が僅かに(1%程度)少ない。又、特に、500nmに隣接する領域(およそプラスマイナス10nm程度)に、ほぼ平坦ながら透過率の極大点が存在する。このように、実施例1は、比較例1に比べ、短波長側で透過率が多く、長波長側で透過率が少なく、短波長側と長波長側の透過率の値が互いに近づいているため、より減光時の色の変化が少なくなり、色の極めて自然な視認を提供することができる。
【0037】
又、比較例2に対する実施例2も、実施例1・比較例1の場合と同様、フラットな分布(約35%±3%程度で、最大値の10%減の値より最小値が大きい)となっている短波長側で透過率が従来品に対して増加し、正比例的な分布となっている長波長側で透過率が従来品に対して減少するため、色の極めて自然な視認を提供することができ、減光が実施例1・比較例1の場合より強力になっても、色の変化の少なさには目を見張る。
【0038】
一方、図3に示されるように、比較例3に対する実施例3も、実施例1・比較例1の場合と同様、フラットな透過率分布(約60%±3%程度で、最大値の10%減の値より上に最小値が位置する)を呈する短波長側で透過率が従来品に対して増加し、正比例的な分布を呈する長波長側で透過率が従来品に対して減少するため、色の極めて自然な視認を提供することができる。
【0039】
なお、実施例1における透過光の、L*a*b*表色系におけるa*b*の値は、a*=−0.2023、b*=1.0664となった。又、実施例2における透過光のa*b*の値は、a*=−0.3427、b*=0.3995となった。そして、同様ながら若干異なる例を各種作成し、その透過光のa*b*の値を調べたところ、実施例に即する場合(所定の分散染料に係る染色レンズ基材にオレンジ系反射防止膜を組み合わせたもの)では−0.4≦a*≦0.3、かつ、−1≦b*≦2となって色が極めて自然になり、比較例に則する場合(緑系反射防止膜等オレンジ系以外を組み合わせたもの)では当該範囲を超えて、実施例のものより色のズレが目立つものとなった。
【0040】
又、実施例に則する場合として、レンズ基材につき、イエロー系分散染料・レッド系分散染料・ブルー系分散染料を順に7〜11重量%・5〜10重量%・80〜88重量%という範囲内における、実施例1〜3とは別の値で調整したものを各種作成し、同様に反射率分布やa*b*の値を調査したが、何れも実施例1〜3と同様のものであった。
【0041】
更に、着色レンズ全体に関し、600nmより長波長側の透過率において、これより短波長側の透過率より低いものが存在すると、感度の鋭い中間領域(長波長側)に対して短波長側を低く維持することにより減光しながら色を保つという前提が崩れ、色の変化が多くの被験者(装用者)において気になることが分かった。又、同様に、450〜650nmでの透過率の最大値と最小値の差が、最大値の10%以内とならないと、短波長側をフラットにすることにより色を保つという前提が崩れ、色の変化が多くの被験者(装用者)において気になることが分かった。
【0042】
≪小括≫
グレー系のレンズ基材(イエロー系分散染料・レッド系分散染料・ブルー系分散染料を順に7〜11重量%・5〜10重量%・80〜88重量%の範囲内で調整した染料により染色の施されたもの)に、オレンジ系の反射防止膜を付与すると、L*a*b*表色系におけるa*b*の値が小さくなって、減光を施しながら、透過率分光分布が人間の眼にとって色変化の極めて少ないものとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ基材の表面に反射防止膜が形成されている着色レンズであって、
前記レンズ基材は、イエロー系分散染料7〜11重量%、レッド系分散染料5〜10重量%、及びブルー系分散染料80〜88重量%で調整された染料によって染色されており、
前記反射防止膜は、垂直方向の反射光がオレンジ色を呈するものである
ことを特徴とする着色レンズ。
【請求項2】
着色レンズ全体における可視領域での透過率分布において、600nmより長波長側の透過率がこれより短波長側の透過率より高い
ことを特徴とする請求項1に記載の着色レンズ。
【請求項3】
反射防止膜における可視領域での反射率分布において、600nmより長波長側の反射率が1%以上である
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の着色レンズ。
【請求項4】
着色レンズ全体における透過光の、L*a*b*表色系におけるa*b*の値が、−0.4≦a*≦0.3、−1≦b*≦2である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載の着色レンズ。
【請求項5】
着色レンズ全体における可視領域での透過率分布において、450〜650nmでの透過率の最大値と最小値の差が、最大値の10%以内である
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の着色レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−237950(P2012−237950A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108569(P2011−108569)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【Fターム(参考)】