説明

着色塗料組成物およびそれを用いた着色塗膜形成方法

【課題】
塗布方向が異なる部分を有する塗膜であっても、光の入射角と人の見る位置とに関わりなく本来の塗色を得ることができる着色塗料組成物、および、それを用いた着色塗膜形成方法を提供する。
【解決手段】
長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含有することを特徴とする着色塗料組成物であり、さらに上記比が7を超える別の着色顔料を含んでいてもよい。また、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように、上記の着色塗料組成物を塗布し、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜のマンセル明度が8以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着色塗料組成物およびそれを用いた着色塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物や構造物の壁面には、美観と耐久性の付与を目的として、塗料を塗布することによって塗膜が形成されている。このような塗料の塗布方法としては、例えば、ハケ塗りやローラー塗布を挙げることができる。これらを用いて塗布する場合、ハケ目やローラーマークと呼ばれる塗装具跡が残る場合があるため、美観や意匠性の観点からほぼ単一の方向で塗布される。
【0003】
壁面の入り隅部分を塗布する場合はその部分を、また、壁面の中にマスキングによって塗布しない部分がある場合は、塗布する部分と塗布しない部分との境界を、最初にハケや専用ローラーで塗布しておくことが一般的である(例えば、非特許文献1および2参照)。ところがその際、単一の方向で塗布できない部分があると、その部分のみ塗布方向を変えて塗布しなければならない。
【0004】
このようにして得られた塗膜は、光の入射角と見る人の位置との関係によって、塗布方向の異なる部分のみ、その他の部分の塗色と異なった白味を帯びた色に見える場合があった。この現象は、特に濃色と呼ばれる明度の比較的低い塗色においては、この白味を帯びた色とその他の部分の塗色との明度の差が大きくなるため、色の違いがはっきりと見えることがあった。
【0005】
【非特許文献1】株式会社やすもと、It Yourself、[online]、平成15年9月8日、[平成16年2月18日検索]、インターネット<URL:http://www.yasumoto−paint.co.jp/ityourself.htm>
【非特許文献2】大塚刷毛製造株式会社、“総合カタログ”、[online]、平成14年1月1日、特殊ローラー、[平成16年2月18日検索]、インターネット<URL:http://www.maru−t.co.jp/soukata/cate/sam/pdf/03/c115_116.pdf#page=2>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、異なる方向で塗布して得られた塗膜であっても、光の入射角と人の見る位置とに関わりなく均質な塗色を得ることができる着色塗料組成物、および、それを用いた着色塗膜形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含有することを特徴とする着色塗料組成物であり、さらに上記比が7を超える別の着色顔料を含んでいてもよい。
【0008】
ここで、全着色顔料において、比が7を超える着色顔料の含有率は、60質量%以下であることが好ましく、また、全着色顔料体積濃度が15%以下であることが好ましい。
【0009】
また、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように、上記の着色塗料組成物を塗布し、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜のマンセル明度が8以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、着色塗料組成物は水性型塗料であることが好ましく、揮発性有機化合物の含有量が1質量%以下であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記の着色塗料組成物を基材に対して塗布することを特徴とする着色塗膜形成方法であり、さらに、基材の各部分において異なる方向で塗布することを含んでいるものであってもよい。またさらに本発明は、上記の着色塗膜形成方法によって得られることを特徴とする着色塗膜である。
【0012】
さらに、本発明は、長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料と顔料分散剤とを含むことを特徴とする着色顔料分散体組成物であり、全着色顔料体積濃度が40%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の着色塗料組成物は、所定の長辺長/短辺長の比を有する着色顔料を含んでいるので、得られる塗膜は、入り隅等のようにその他の部分と異なる方向で塗布して得られる部分を含んでいても、光の入射角および見る人の位置に関わりなく、その部分以外の塗色と異なることなく、均質な塗色を得ることができる。
【0014】
特に、濃色と呼ばれる明度の比較的低い塗色においては、この効果が最も顕著に現れる。
【0015】
これは、所定の長辺長/短辺長の比を有する着色顔料が含まれることで、得られた塗膜の光の反射に関して方向性を持たなくなり、塗布方向を変えることで着色顔料の配向が一定でなくなっても全方向に対して同じように反射するため、どの方向に対しても同じように発色するようになるためであると考えられる。
【0016】
また、本発明の顔料分散体組成物は上記の着色顔料を含んでいるので、これを用いた塗料は、塗布方向に注意することなく均質な塗色を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
着色塗料組成物
本発明の着色塗料組成物は、着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含んでいる。本明細書中において、上記着色顔料の長辺長は、着色顔料をxy平面、yz平面およびxz平面に投影して直方体処理した際の最も長い辺の長さを、また、短辺長は最も短い辺の長さを意味するものである。通常、塗料に用いられる着色顔料は、特に形状を規定されておらず、その多くは、針状あるいは鱗片状の形状のものであり、上記比は10前後となるものが多い。
【0018】
本発明の着色塗料組成物は、長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料を含んでいる。このような比を有する着色顔料を含むことによって、異なる方向で塗布しても、光の入射角および見る人の位置に関わりなく、均質な塗色を発現する塗膜を得ることができる。好ましくは1〜5である。
【0019】
ここで、上記長辺長および短辺長は、着色塗料組成物に実際に含まれている着色顔料の特数値であり、電子顕微鏡写真によって実測されるものである。従って、カタログ等に記載されている着色顔料の一次粒子状態でいうアスペクト比と異なっていても構わない。
【0020】
また、上記比が1〜7である着色顔料を原料として用いる場合ばかりでなく、まれに、上記比が7を超える着色顔料を原料として用いても、塗料製造工程で粉砕されたり、変形させられることによって、結果として得られた着色塗料組成物中に含まれる着色顔料が上記比の範囲内となる場合もあり、これも本発明の着色塗料組成物中の上記比を有する着色顔料に含まれるものである。
【0021】
上記着色顔料の平均一次粒子径は特に限定されず、一般的には、0.03〜30μmである。
【0022】
上記長辺長/短辺長比が1〜7となる着色顔料として具体的には、FASTOGEN Super Red 7100Y(大日本インキ化学工業社製赤色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比1.5)、FASTOGEN Super Magenta RH(大日本インキ化学工業社製マゼンタ色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比4.5)、Bayferrox 915(バイエル社製黄色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比1.0)等の着色顔料を挙げることができる。
【0023】
本発明の着色塗料組成物中の全着色顔料において、上記比が1〜7である着色顔料の含有率は、40質量%以上であることが好ましい。40質量%未満であると、異なる方向で塗布して得られる塗膜は、観察位置によって、不均質な塗色に見える恐れがある。さらに好ましくは50質量%以上である。
【0024】
本発明の着色塗料組成物は、通常の着色顔料である、長辺長/短辺長比が7を超える別の着色顔料を含むことができる。
【0025】
上記長辺長/短辺長比が7を超える別の着色顔料として具体的には、FASTOGEN Super Red 500RG(大日本インキ化学工業社製赤色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比8.0)、FASTOGEN Super Magenta HS−01(大日本インキ化学工業社製マゼンタ色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比8.8)、Tarox LL−XLO(チタン工業社製黄色顔料、一次粒子の長辺長/短辺長比10.0)等の着色顔料を挙げることができる。
【0026】
本発明の着色塗料組成物中の全着色顔料において、上記比が1〜7である着色顔料の含有率は40質量%以上であるので、上記比が7を超える別の着色顔料を含んでいる場合、上記別の着色顔料の含有率は、60質量%未満であることが好ましい。60質量%以上であると、異なる方向で塗布して得られる塗膜は、観察位置によって、不均質な塗色に見える恐れがある。さらに好ましくは50質量%未満である。
【0027】
本発明の着色塗料組成物において、着色塗料組成物中の全着色顔料体積濃度は15%以下である。上記全着色顔料体積濃度が15%を超えると得られる塗膜の平滑性が低下する恐れがある。より好ましくは10%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0028】
本発明の着色塗料組成物に含まれる顔料分散剤は、上記着色顔料を、および上記別の着色顔料を含んでいる場合はその別の着色顔料をも、塗料中で安定して存在させるために含んでいるものであり、具体的には、適用する着色塗料組成物が有機溶剤型塗料であれば有機溶剤型の顔料分散剤を、また、水性型塗料であれば水性型の顔料分散剤を適宜選択することが好ましい。上記顔料分散剤としては通常用いられる顔料分散樹脂等を挙げることができ、これらは、例えば、市販されているものである。
【0029】
本発明の着色塗料組成物に含まれるバインダー成分は、樹脂を含んでいる。上記樹脂としては特に限定されず、具体的には、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。上記樹脂は硬化性官能基を有していてもよい。
【0030】
さらに、本発明の着色塗料組成物に含まれるバインダー成分は、硬化剤を含んでいてよい。上記硬化剤としては特に限定されず、上記樹脂の有する反応性官能基と硬化可能な官能基を有する硬化剤を挙げることができ、具体的には、上記樹脂が水酸基を有している場合はアミノ樹脂や(ブロック化)ポリイソシアネート化合物等を、また、上記樹脂がカルボン酸基を有している場合はエポキシ基を有する樹脂やカルボジイミド基を有する化合物等を、また上記樹脂がカルボニル基を有している場合はヒドラジド化合物等を挙げることができる。
【0031】
本発明の着色塗料組成物は、有機溶剤型であっても水性型であっても構わないが、環境に対する配慮の観点から、水性型であることが好ましく、特に、VOC含有量が1質量%以下であるものがさらに好ましい。上記VOC含有量の測定方法としては、例えば、水素炎イオン化検出器(FID検出器)付きガスクロマトグラフィによる分析等、当業者によってよく知られている方法を挙げることができる。
【0032】
なお、本明細書において、VOC、すなわち揮発性有機化合物とは、常圧において揮発性を有する有機化合物を意味する。
【0033】
本発明の着色塗料組成物が水性型の場合、含まれる顔料分散剤が水性型であり、上記バインダー成分がエマルション樹脂および/または水性アルキド樹脂を含んでいることが好ましい。上記エマルション樹脂は、含まれる有機溶剤量を最小限にするという観点から、例えば、モノマー混合液を乳化重合することによって得られたものであることが好ましい。
【0034】
本発明の着色塗料組成物は、ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように塗布し、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜は、マンセル明度が8以下であることが好ましい。上記マンセル明度が8を超えると、異なる方向で塗布して得られる塗膜は、観察位置によって、不均質な塗色に見えるという不具合が生じにくくなり、結果的に本発明の効果が最大限に活用されないことになる場合がある。好ましくは、マンセル明度が7以下である。なお、上記乾燥膜厚を得るために、数回塗り重ねを行ってもよい。ここで、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚とは、例えば、白黒隠蔽板と呼ばれる白色部分と黒色部分に塗り分けられている基板に対して塗布して乾燥塗膜を得た際に、乾燥塗膜のどの部分を測色しても誤差範囲内の色度になる膜厚を意味するものである。
【0035】
本発明の着色塗料組成物は、上記成分の他、消泡剤、増粘剤、防腐剤、紫外線吸収剤および光安定剤等、当業者によってよく知られた各種添加剤等を含むことができる。また、本発明の塗料組成物が水性型である場合、さらに、凍結防止剤や造膜助剤等を含むことができるが、上記凍結防止剤および上記造膜助剤はVOCに該当するものが多く、環境に対する配慮の観点から、これらを含まないことが好ましい。
【0036】
本発明の着色塗料組成物は、上記着色顔料と上記顔料分散剤と、必要に応じて上記各種添加剤等とを混合、撹拌した後、さらに上記バインダー成分を混合、撹拌することによって得ることができる。上記撹拌、混合する機器としては特に限定されず、例えば、ディスパー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ホモミキサー等の各々単独または組み合わせを挙げることができる。
【0037】
着色塗膜形成方法
本発明の着色塗膜形成方法は、上述の着色塗料組成物を基材に対して塗布することを特徴とするものである。上記基材としては建造物および構造物の外壁、内壁および天井等を形成するものであり、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等およびその表面処理物の金属基材、セメント類、石灰類、石膏類等のセメント系基材、ポリ塩化ビニル類、ポリエステル類、ポリカーボネート類、アクリル類等のプラスチック系基材等を挙げることができる。これらにはシーラー等の下塗りが形成されていてもよい。
【0038】
上記塗布方法としては特に限定されず、例えば、着色顔料の配向が起きやすいと考えられるハケ塗りおよびローラー塗布が、本発明の効果を最大限に利用するためにも好ましい。また、上記基材の各部分において異なる方向で塗布してもよい。塗布後、常温にて放置または強制的に加熱を行い乾燥させて塗膜を得ることができる。なお、塗布量、塗布膜厚および乾燥時間は、塗料の種類や適用する基材に応じて任意に設定することができる。
【0039】
着色塗膜
本発明の着色塗膜は、上述の着色塗膜形成方法によって得られることを特徴とするものである。従って、上述の着色塗膜形成方法において塗布方向が異なる部分があっても、光の入射角および人の見る位置に関わりなく、本来の塗色を発現することができる。
【0040】
着色顔料分散体組成物
本発明の着色顔料分散体組成物は、長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料と顔料分散剤とを含んでいる。上記着色顔料としては、具体的には、上記の着色塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。このような着色顔料を含むことで、塗料に適用した場合、基材の各部分において異なる方向で塗布して得られる塗膜は、光の入射角および見る人の位置に関わりなく、本来の塗色を発現することができる。
【0041】
本発明の着色顔料分散体組成物は、上記比の着色顔料の他に、長辺長/短辺長の比が7を超える別の着色顔料を含むことができる。
【0042】
本発明の着色顔料分散体組成物は、着色顔料分散体組成物中の全着色顔料体積濃度は40%以下である。上記着色顔料体積濃度が40%を超えると分散安定性が低下する恐れがある。さらに好ましくは35%以下である。
【0043】
本発明の着色顔料分散体組成物に含まれる顔料分散剤は特に限定されず、具体的には、上述の着色塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0044】
本発明の着色顔料分散体組成物は、上記成分の他、上述の着色塗料組成物のところで述べた各種添加剤等を含むことができる。
【0045】
本発明の着色顔料分散体組成物は、上記各成分を、必要に応じて上記各種添加剤とを撹拌、混合することによって得ることができる。上記撹拌、混合する機器としては特に限定されず、上述の着色塗料組成物のところで述べたものを挙げることができる。
【0046】
このようにして得られる着色顔料分散体組成物において、例えば、上記着色顔料の最大粒子径が50μm以下である。上記最大粒子径は、例えば、当業者によってよく知られている粒度測定器によって求めることができる。
【0047】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により限定されるものではない。なお、以下において「部」とあるのは「質量部」を意味する。
【0048】
製造例1 アクリル樹脂1の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、ミネラルスピリットを170部仕込んだ後、窒素雰囲気のもとで110℃に昇温した。2−エチルヘキシルメタクリレート140部、t−ブチルメタクリレート180部、スチレン105部、メタクリル酸5部、および、グリシジルメタクリレートに大豆油脂肪酸を付加した大豆油モノマー2490部を混合して得られるモノマー混合液と、ミネラルスピリット70部およびt−ブチルパーオクトエート25部からなる開始剤混合液とを、別個の滴下漏斗から同時に均等に3時間かけて滴下した。滴下終了後、同温度でさらに30分間反応を継続した。その後、ミネラルスピリット60部およびt−ブチルパーオクトエート5部からなる開始剤混合液を滴下漏斗から均等に30分間かけて滴下した。滴下終了後、同温度でさらに2時間反応を継続してアクリル樹脂1を得た。得られたアクリル樹脂1は、固形分70質量%、固形分酸価4.6であった。
【0049】
製造例2 アクリル樹脂2の製造
滴下漏斗、温度計、窒素導入管、還流冷却器および撹拌機を備えたセパラブルフラスコに脱イオン水1320.0部、アクアロンBC−1025(第一工業製薬社製反応性アニオン界面活性剤)40.0部を仕込み、窒素雰囲気のもとで80℃に昇温した。スチレン50部、2−エチルヘキシルアクリレート260部、エチルアクリレート300部、メチルメタクリレート160部およびメタクリル酸130部からなるモノマー混合液に、ドデシルメルカプタン20部を加えた後、これに、アクアロンBC−1025を80部およびアクアロンRN−2025(第一工業製薬社製反応性ノニオン界面活性剤)400部を脱イオン水940部に溶解させた乳化剤水溶液中に加え、ミキサーを用いて乳化させてプレエマルジョンを調製した。
【0050】
このようにして得られたプレエマルションと、過硫酸アンモニウム5.0部を脱イオン水200部に溶解させた開始剤水溶液を別個の滴下漏斗から同時に各々2時間かけて均等に滴下した。滴下終了後、同温度でさらに120分間反応を継続した。冷却後、水酸化ナトリウム24部を脱イオン水387部で溶解した中和混合液で中和してアクリル樹脂2を得た。得られたアクリル樹脂2は、固形分25質量%、固形分酸価80であった。
【0051】
実施例1
ベッセルに、分散樹脂として製造例1で得られたアクリル樹脂1を18.0部、ミネラルスピリット21.8部、Bayferrox 915(バイエル社製黄色顔料)60.0部およびディスパロン4200−20(楠本化成社製増粘剤)0.2部を仕込んだ後、ディスパーでプレミックスした。
【0052】
続いて、70.0部のガラスビーズを加えて卓上SGミル(太平工業社製サンドグラインドミル)で分散して着色顔料分散体組成物1を得た。この着色顔料分散体組成物1は、全着色顔料における上記比が7を超える着色顔料の比率は0質量%であり、全着色顔料体積濃度は27%であった。
【0053】
得られた着色顔料分散体組成物1部を、ミネラルスピリット50部に、分散樹脂として用いたアクリル樹脂1を50部溶解させて得られた溶液に混合して希釈液を作製した。この希釈液を透過型電子顕微鏡(TEM)用の試料台に塗布し、減圧乾燥された後、TEMによって観察したところ、着色顔料の長辺長/短辺長の比は1.0であった。
【0054】
得られた着色顔料分散体組成物1を白黒隠蔽板上にドクターブレードで塗布して、隠蔽できる乾燥膜厚を調べたところ、50μmであった。
【0055】
容器に、得られた着色顔料分散体組成物1を30.0部仕込んだ後、ディスパーで撹拌しながら製造例1で得られたアクリル樹脂1を43.0部、ディスパロン4200−20(楠本化成社製増粘剤)0.2部およびミネラルスピリット19.8部を順次加えて着色塗料組成物1を得た。
【0056】
得られた着色塗料組成物1は、塗料粘度が70KUであり、また、全着色顔料体積濃度は5.2%であった。
得られた着色塗料組成物1を白黒隠蔽板上にドクターブレードで塗布して、隠蔽できる乾燥膜厚を調べたところ、60μmであった。
【0057】
次に、得られた着色塗料組成物1を、幅100mm×長さ200mm×厚さ1mmの鋼板の、上半分の幅100mm×長さ100mmの部分に、ハケにて塗布量300g/cmとなるように長さ方向と平行に塗布した。続いて、下半分の幅100mm×長さ100mmの部分に、ハケにて同量となるように幅方向と平行に塗布した。塗布後、室温で24時間乾燥させて試験板を得た。
【0058】
実施例2〜4および比較例1〜4
表1の配合に従い、実施例1と同様にして、着色顔料分散体組成物2〜8を得た。さらに、実施例1と同様にして、着色顔料の長辺長/短辺長の比、全着色顔料における上記比が7を超える着色顔料の比率、全着色顔料体積濃度および隠蔽できる乾燥膜厚を調べた。得られた各値は表1に示した。
【0059】
さらに、表2の配合に従い、実施例1と同様にして、着色塗料組成物2〜8を得た。得られた着色塗料組成物2〜8の塗料粘度は全て70KUであった。さらに、実施例5と同様にして、全顔料体積濃度および隠蔽できる乾燥膜厚を調べた。得られた全顔料体積濃度および隠蔽できる乾燥膜厚は表2に示した。なお、実施例2〜4および比較例2〜4で用いた樹脂エマルションはスチレン−アクリルエマルションであり、固形分50質量%、固形分酸価15であった。
その後、実施例1と同様にして鋼板に塗布し、各試験板を得た。
【0060】
【表1】

【0061】
評価試験
実施例1〜4および比較例1〜4によって得られた各試験板に対して、図1および図2のようにして評価試験を行った。すなわち、暗室において、図1で示したように、それぞれの中心線が一直線となるように光源1、試験板2および観察者3を並べ、光源1から矢印のように放たれる光の光軸の、試験板2に対する角度θを45度、試験板から矢印のように反射する光を観察する観察者3が試験板2に対する角度θを20度となるように光源および観察者を配置した後、試験板の上半分と下半分との色の違いを目視にて評価した。)評価基準は以下の通りとした。結果を表2に示した。
◎:上半分と下半分との色の違いが観察できない。
○:上半分と下半分との色の違いがわずかにあるが、目立たない。
×:上半分と下半分との色の違いがあり、目立つ。
【0062】
【表2】

【0063】
表2から明らかなように、本発明の着色塗料組成物から得られた塗膜は、試験板の上半分と下半分との色の違いが観察できなかったり、目立たなかった(実施例1〜4)。しかしながら、本発明の着色塗料組成物に含まれない着色塗料組成物から得られた塗膜は、試験板の上半分と下半分との色の違いが目立った(比較例1〜4)。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の着色塗料組成物は、建築物の内外装に対して好適である。また、本発明の顔料分散体組成物は、塗料に対して好適である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の評価試験を行うための、光源、試験板および観察者の、上方から見た水平方向の位置関係を表す図である。
【図2】本発明の評価試験を行うための、光源、試験板および観察者の、側方から見た鉛直方向の位置関係を表す図である。
【符号の説明】
【0066】
1・・・光源
2・・・試験板
3・・・観察者
θ・・・光軸の試験板に対する角度
θ・・・観察者の試験板に対する角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料、顔料分散剤およびバインダー成分を含有することを特徴とする着色塗料組成物。
【請求項2】
着色塗料組成物中の全着色顔料において、前記比が1〜7である着色顔料の含有率は、40質量%以上である請求項1に記載の着色塗料組成物。
【請求項3】
さらに前記比が7を超える別の着色顔料を含んでいる請求項1または2に記載の着色塗料組成物。
【請求項4】
全着色顔料体積濃度が15%以下である請求項1〜3のうちのいずれか1つに記載の着色塗料組成物。
【請求項5】
ガラス板上に、その塗色において下地を隠蔽する乾燥膜厚となるように、前記着色塗料組成物を塗布し、JIS K 5600の温湿度条件に準拠した条件下で24時間放置して得られる塗膜のマンセル明度が8以下である請求項1〜4のうちのいずれか1つに記載の着色塗料組成物。
【請求項6】
前記着色塗料組成物は水性型塗料である請求項1〜5のうちのいずれか1つに記載の着色塗料組成物。
【請求項7】
前記水性型塗料の揮発性有機化合物の含有量は、1質量%以下である請求項6に記載の着色塗料組成物。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか1つに記載の着色塗料組成物を基材に対して塗布することを特徴とする着色塗膜形成方法。
【請求項9】
さらに、前記基材の各部分において異なる方向で塗布することを含んでいる請求項8に記載の着色塗膜形成方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の着色塗膜形成方法によって得られることを特徴とする着色塗膜。
【請求項11】
長辺長/短辺長の比が1〜7である着色顔料と顔料分散剤とを含むことを特徴とする着色顔料分散体組成物。
【請求項12】
全着色顔料体積濃度が40%以下である請求項11に記載の着色顔料分散体組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−8935(P2006−8935A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191445(P2004−191445)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】