説明

睡眠評価装置及び睡眠評価方法

【課題】コストをかけず、簡便な手法で、体動データに基づく被験者の睡眠状態の把握を正確に行う。
【解決手段】 睡眠評価装置1は、寝床上の被験者の身体の動きを時々刻々検出するセンサ部2と、その検出結果に基づいて被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する判別手段とを備える。そして判別手段は、センサ部の検出結果をN個の体動データ(ただし、Nは、N≧2を満たす正の整数)として数値化するとともに、これらN個の体動データを区分けするG個のグループ(ただし、Gは、2≦G<Nを満たす整数)の各々及び当該各々に含まれる体動データごとについての、G個の標準偏差、及び、その中から選択されたgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいてL個の標準偏差平均値(ただし、Lは、2≦L≦Gを満たす整数)を求める。被験者の睡眠状態及び覚醒状態の判別は、これらG個の標準偏差及びL個の標準偏差平均値に基づく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、睡眠の有無及びその程度(例えば、睡眠時間や睡眠の質等)を評価する装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、人の睡眠時における生体情報を計測し、あるいは、それに基づいて、その睡眠状態に対する一定の評価を実行する装置(以下、まとめて「睡眠評価装置」という。)が提供されている。この睡眠評価装置によれば、例えば、寝床に就いてから起床までの間に、どの程度の睡眠時間が実質的に確保されたのか等が、具体的数値の裏付けをもって確認され得る。また、睡眠時において、前記生体情報に何らかの異変が生じた場合には、付添者等に適宜の処置を促すため、当該付添者等に向けて警報等を発する機能をもたせた装置もある。
このような睡眠評価装置としては、例えば以下に掲げる特許文献に開示されているようなものが知られている。
【特許文献1】特開2000−214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この特許文献1に開示される技術は、「被験者の身体の下に配置した…体動検出手段」、「体動検出手段の出力信号から心拍数、呼吸数、寝返り頻度の信号および鼾信号のうち少なくとも1つの信号を抽出する信号抽出手段」等を備え、信号抽出手段により抽出された信号から、「被験者の身体データを検出」する(以上、「」内は特許文献1の〔請求項1〕より)。
この特許文献1では、前記体動検出手段として、具体的には、「エアマット11」が利用される(特許文献1の〔0018〕、あるいは〔0016〕〔請求項4〕等参照)。これにより、特許文献1は、「手首、足首、指および腕等の箇所にバンド」(特許文献1の〔0005〕)等を設ける必要がないから、被験者に「精神的および肉体的負担をかけずに」、「身体データを収集」するという課題(特許文献1の〔0010〕、あるいは〔0031〕)が達成されると主張する。この点は、たしかに、前記「バンド」等を設ける場合と対比して、そのような効果が奏されることに疑いない。
【0004】
しかしながら、この特許文献1の技術では、前述のように「信号抽出手段」が必須とされている。これは、体動検出手段によって検出された被験者の体動から、特許文献1にいう「身体データ」を「整形」(特許文献1の〔0021〕)するための一手段、あるいは、これを実現するための一種の中継手段といえるが、前記のような、「心拍数、呼吸数、寝返り頻度の信号および鼾信号のうち少なくとも1つの信号を抽出する」ことは、必ずしも、極めて容易とはいえない。特許文献1では、「これらの体動信号は周波数、振幅等に各々特徴を有するので、抽出にそれほどの困難はない」とするが(特許文献1の〔0025〕)、それを現実化する手法について言及するところは全くない。
【0005】
また、仮に、特許文献1の前記主張を認めるとしても、この技術が「信号抽出手段」なる中継手段を必須とする事情に変わりはなく、これは、当該睡眠評価装置のコストの増大をもたらす。たしかに、前述のような信号抽出及び整形を前提とするのであれば、人の睡眠状態の一定程度正確な把握は可能になるであろうが、場合によっては、そのような厳密な睡眠評価を必要としない場合(例えば、睡眠又は覚醒の2状態の把握ですむ場合等)もあることを考えると、「信号抽出手段」の設置は“過剰”といい得る面がある。また、そのような手法を利用したとしても、既に述べたように、当該手法が極めて容易に信号分離を保障するとはいえない以上、「信号抽出手段」を設けるコストに見合ったパフォーマンスが本当に得られるのかどうか(睡眠状態の正確な把握にどれだけ資するか)も疑わしい点がないわけではない。
【0006】
要するに問題は、時間軸に沿った一定のデータ列として取得される、という意味においては、比較的単調な性質をもつ体動データに基づいて、コストをかけず、簡便な手法で、いかに人の睡眠状態の可能な限り正確な把握を行うかにある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、前述した各種の課題の全部又は一部を解決可能な睡眠評価装置及び睡眠評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る睡眠評価装置は、上述した課題を解決するため、寝床上の被験者の身体の動きを時々刻々検出する体動検出手段と、前記体動検出手段の検出結果に基づいて、少なくとも、前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する判別手段と、を備える睡眠評価装置であって、前記判別手段は、前記体動検出手段の検出結果を、所定の時間間隔でN個の体動データ(ただし、Nは、N≧2を満たす正の整数)として数値化し、前記N個の体動データを区分けするG個のグループ(ただし、Gは、2≦G<Nを満たす整数)の各々及び当該各々に含まれる体動データごとについての、G個の標準偏差を求め、前記G個の標準偏差の中から選択されたgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいてL個の標準偏差平均値(ただし、Lは、2≦L≦Gを満たす整数)を求め、前記G個の標準偏差及び前記L個の標準偏差平均値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する。
【0009】
本発明によれば、体動検出手段の検出結果が、「所定の時間間隔で」「数値化」されるので、その成果たる「体動データ」は、時系列データとして取得される。
前記の「標準偏差」は、この時系列データとしての体動データのばらつきの程度を、G個のグループごとに表現する。さらに、「標準偏差平均値」は、この「標準偏差」の平均値であるから、結局、その「標準偏差」が対象とする期間よりも長期に亘る体動データのばらつきの程度を表現(しかも、一定程度平準化した上で表現)することになる。
このように、本発明は、これら「標準偏差」及び「標準偏差平均値」、即ち、基本的には、生のデータに対する加減乗除加工のみを行ったデータを利用するので、特別複雑な構成及び処理を必要としない。そして、そのような簡易性を保持しえながらも、前記のうちの「標準偏差」は、被験者の比較的短時間における体動の変化の様子をよく表し、また、「標準偏差平均値」は、比較的長時間における体動の変化の様子をよく表す(特に、周期的な変化はキャンセルされ得る)、という特性の相違があるので、これらを利用することにより、被験者の睡眠状態の把握を一定程度好適に行うことが可能になる。
要するに、本発明によれば、低コスト、簡易な手法により、人の睡眠状態の可能な限りの正確な把握が可能になる。
なお、本発明にいう「時々刻々」という用語において観念される時間間隔は、同じく本発明にいう「所定の時間間隔」と同じであってもよいが、通常、好適には、前者は後者よりも短い。この場合、「体動データ」を得るためには、アナログ信号たる「検出結果」に所定のサンプリング処理を施すことにより、デジタルデータとして取得されるのが好適である。
【0010】
この発明の睡眠評価装置では、前記判別手段は、前記L個の標準偏差平均値を、前記G個の標準偏差のうち連続するgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいて求め、かつ、当該L個の標準偏差平均値のうち、第p番目の標準偏差平均値(ただし、pはp≦L−1を満たす整数)と第(p+1)番目の標準偏差平均値との差の絶対値が所定値以下であるという条件を満たす、当該第p番目の標準偏差平均値のすべてに関する平均値を、基線値として求め、かつ、当該基線値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する、ように構成してもよい。
この態様によれば、「基線値」が求められる。これは、標準偏差平均値をHenAv[x](ここで、xは番号)として表せば、ABS〔HenAv[p]−HenAv[p+1]〕≦Aを満たす場合における、HenAv[p]のすべてに関する平均値である。ここで“ABS”は〔〕内の絶対値をとることを意味し、Aは、前記所定値を表す。このような「基線値」は、被験者の体動がAを基準に一定程度安定した状態を維持した場合におけるHenAv[p]全体の平均値を意味する。
そして、本態様では、このような「基線値」、つまり上述したところを繰り返せば、被験者の体動がAを基準に一定程度安定した状態を維持した場合におけるHenAv[p]全体の平均値に基づいて、被験者の睡眠状態の把握が行われるのである。言い換えれば、比較的長期の観測に基づく被験者の体動の中から比較的安定期にある期間が、その被験者の基本の線(即ち、“基線”)にあるものとして、当該被験者の睡眠状態が把握されるのである。
そうすると、例えば、現実に観測される体動データの、「基線値」からのずれの程度が大きいほど、被験者は起きている、との判断がなしやすくなる等、被験者の睡眠状態の把握がより的確になし得ることになる。
このようにして、本態様によれば、「基線値」概念の導入により、被験者の睡眠状態の把握がより的確になし得る。
【0011】
なお、本態様においては、L個の標準偏差平均値について、番号が付されることが前提とされている(即ち、「第p番目」、あるいは「第(p+1)番目」の存在が前提されている。)が、この番号を付す基準は、そのL個の標準偏差平均値の各々の算出根拠となった、前記グループの中に含まれる「体動データ」の取得時間の前後に求めるのが好適である。
例えば、L個の標準偏差平均値の中の、第L1の標準偏差平均値は、第G1,G2,…,G10グループ各々に対応する標準偏差の平均値であり、かつ、これらのグループに含まれる体動データのうち最先の取得に係る体動データの取得時間がT1である一方、第L2の標準偏差平均値は、第G11,G12,…,G20グループ各々に対応する標準偏差の平均値であり、かつ、これらのグループに含まれる体動データのうち最先の取得に係る体動データの取得時間がT2であって、T2>T1(即ち、T2はT1よりも遅れた時点)であるという場合には、これら第L1及び第L2の標準偏差平均値は、それぞれ、“第p番目”及び“第(p+1)番目”と定められるとよい。
【0012】
この態様では、前記判別手段は、前記L個の標準偏差平均値の各々を、前記gs個の標準偏差に関する移動平均値として求める、ように構成してもよい。
このような構成によれば、L個の標準偏差平均値の設定が好適になされる。すなわち、1個1個の標準偏差平均値が、gs個の標準偏差の移動平均値であるということは、そのgsの適当な設定等によって、前述した平準化、あるいは周期的な変化のキャンセル(ここでは、「移動平均」という概念が導入されている以上、これらのことを特に「平滑化」と呼び得る。)等が、より好適になされ得ることになるからである。つまり、本態様によれば、比較的長期に亘る体動の変化の様子を表す指標として、「標準偏差平均値」を使用することの意義がより高まる。
一方、このようなことから、本態様によれば、前記基線値の設定もより好適になされ得ることになる。
以上により、本態様によれば、前述した効果がより実効的に奏される。
ちなみに、ここでいう「移動平均値」とは、例えば、第p番目の標準偏差平均値が、第p,第(p−1),及び第(p−2)のグループに対応する標準偏差の平均値であって、第(p+1)番目の標準偏差平均値が、第(p+1),第p,及び第(p−1)のグループに対応する標準偏差の平均値であるという場合、を含む。なお、後述する実施形態の説明においては、本態様にいう「移動平均値」に含まれる他の例についても説明される。
【0013】
また、本発明の睡眠評価装置では、前記判別手段は、前記G個の標準偏差のうち、いずれかの標準偏差が所定値Eを下回る場合、前記被験者は、当該標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記所定値Eを比較的低い値に好適に設定しておけば、覚醒状態の中でも特に、被験者が既に前記寝床に存在しない場合を検出することが可能になる。
【0014】
また、本発明の睡眠評価装置では、前記判別手段は、前記G個の標準偏差のうち、第q番目の標準偏差(ただし、qはq≦G−1を満たす整数)に所定値F1を加えた値よりも、第(q+1)番目の標準偏差が大きい場合、前記被験者は、当該第(q+1)番目の標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記所定値F1を好適に設定しておけば、被験者が覚醒状態に至った時点を好適に判断することが可能になる。
なお、この態様においていう第q番、あるいは第(q+1)番という番号の付与についても、前述した、L個の標準偏差平均値に番号を付す場合における考え方を適用する(つまり、G個のグループそれぞれの算出根拠となった体動データの取得時間の前後による。)のが好適である。
【0015】
また、本発明の睡眠評価装置では、前記判別手段は、前記G個の標準偏差のうち、いずれかの標準偏差が所定値F2を超える場合、前記被験者は、当該標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記所定値F2を好適に設定しておけば、被験者が覚醒状態に至った時点を好適に判断することが可能になる。
【0016】
また、本発明の睡眠評価装置では、前記判別手段は、前記G個の標準偏差に関する標準偏差たる全体的標準偏差を求め、かつ、前記G個の標準偏差の平均値から前記基線値を引いた値を、前記全体的標準偏差により除すことによって、前記被験者の動きの多さを示す指標を求め、かつ、前記、被験者の動きの多さを示す指標に基づいて、前記被験者の睡眠状態から覚醒状態への移行時点を判断する、ように構成してもよい。
この態様によれば、前記基線値の好適な利用例の1つが提供される。すなわち、本態様によれば、G個の標準偏差をAve・Hensa、全体的標準偏差をHenStdとすれば、被験者の動きの多さを示す指標Moveは、
Move=(Ave・Hensa−(基線値))/HenStd
として求められることになる。このMoveは、まさに、字義通り、被験者の動きの多さを示すとみなしうるから、例えば、当該Moveに基づき適当に設定された基準値と、前記G個の標準偏差それぞれとの値の比較を行うこと等により、当該被験者の、睡眠状態から覚醒状態への移行を好適に判断することができる。
【0017】
また、本発明の睡眠評価装置では、前記体動検出手段は、所定の流体を内封するマットレスを含み、前記流体の圧力変化に応じて、前記被験者の身体の動きを検出する、ように構成してもよい。
この態様によれば、体動検出手段は、被験者の身体、あるいはその一部を拘束することなく、当該被験者の体動を検出することが可能である。そして、そのように、被験者に余計な負担をかけることがないにもかかわらず、上述のように、本発明、あるいはその各種態様では、当該被験者にかかる正確な睡眠状態の把握が可能となっているのである。
このように本態様によれば、いわば2つの効果の同時享受が可能となる。
【0018】
また、本発明の睡眠評価方法は、上記課題を解決するため、寝床上の被験者の身体の動きを所定の時間間隔で数値化したN個の体動データ(ただし、Nは正の整数)を取得する工程と、前記N個の体動データを区分けするG個のグループ(ただし、Gは、2≦G<Nを満たす整数)の各々及び当該各々に含まれる体動データごとについての、G個の標準偏差を求める工程と、前記G個の標準偏差の中から選択されたgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいてL個の標準偏差平均値(ただし、Lは、2≦L≦Gを満たす整数)を求める工程と、前記G個の標準偏差及び前記L個の標準偏差平均値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する工程と、を含む。
【0019】
本発明によれば、既に述べた本発明に係る睡眠評価装置において奏される効果と本質的に相違のない効果を享受することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下では、本発明に係る実施の形態について図1以下の各図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態において参照する各図面においては、各部の寸法の比率が実際のものとは適宜に異ならせてある場合がある。
【0021】
まず、図1及び図2を用いて、睡眠評価装置の構成を説明する。図1は、睡眠評価装置1の使用時の外観図であり、図2は、そのブロック図を示す。
図1において、睡眠評価装置1は、寝具に横臥した人体の生体信号を検出するためのセンサ部2と、センサ部2に接続され睡眠段階の判定及び睡眠の質の評価を行なう制御ボックス3とを備える。制御ボックス3は、睡眠段階の判定結果及び睡眠の評価指標などのガイダンス表示などを行なう表示部4及び電源オン/オフ又は測定開始/終了などの操作を行なう操作部5を備える。
【0022】
ここで、センサ部2は、例えば、水、空気等の非圧縮性の流体を内封したマットレスの圧力変動を、マイクロホン(例えば、コンデンサマイクロホン)を用いて検出するものである。センサ部2は、図示したようにマットレスを、寝具の下に敷かれることにより、仰臥位の被験者の姿勢の変化等の体動や、場合により各種の生体信号を検出する。
ちなみに、本実施形態に係る睡眠評価装置1は、図1に示すように、被験者の身体を特に拘束することはない。これは、上述のように、センサ部2が寝具の下に配置されるだけで被験者の体動を検出することが可能となっていることによる。
【0023】
また、制御ボックス3は、図2に示すように、前述の表示部4及び操作部5に加えて、電源10、計時部11、制御部CP、記憶部20及び解析部30を備える。このうち中心となるのは制御部CPで、この制御部CPには、いま述べた各要素が接続されるほか、前記のセンサ部2もまた接続される。
制御部CPは、センサ部2から受けた入力信号をデジタル信号に変換するADコンバータ、あるいはCPU(Central Process Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、等その他必要な要素を備える(いずれも不図示)。
この制御部CPは、その他、本実施形態に係る睡眠評価装置1全体を調和的に動作させるため、当該睡眠評価装置1に係る全般的な制御を行う。
【0024】
電源10は、本実施形態に係る睡眠評価装置1に電力を供給する。また、計時部11は、現在時刻を認識し、これを制御部CPに伝達する。
解析部30は、センサ部2が検出した被験者の姿勢変化等の様子や、計時部11で計測された現在時刻等の情報に基づいて、被験者のその時時における睡眠状態やその質等を、演算、解析及び評価等を通じて判定ないし判断する。
記憶部20は、前述の解析部30における判定結果等を記憶する。あるいは、記憶部20は、必要に応じて、解析部30における演算途中で得られた中間結果、中間成果情報、等々を記憶するほか、睡眠評価装置1の動作に必要となるその他の各種情報やプログラム等を記憶する。
なお、本発明にいう「判定手段」は、本実施形態でいう制御部CP、解析部30及び記憶部20を少なくとも含む。
【0025】
以下では、上述のような構成を備える睡眠評価装置1の動作について、図3乃至図22を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各種の動作、演算、処理等については、特に断りがない限り、前述した制御部CPが、主体的・主導的役割を担う。
【0026】
まず、睡眠評価装置1の操作部5における電源ボタンがユーザにより押下されて、電源10がONとされると、制御部CPは、現在時刻を取得するとともに(図3のステップS1)、これを表示部4において表示する(図3のステップS2)。
次に、制御部CPは、測定開始の指令の有無を判断する(図3のステップS3)。この指令は、例えば、操作部5に対するユーザの測定開始ボタンの押下に基づいて発せられたり、あるいは、一定の時刻の到来に基づいていわば自動的に発せられたりする。また、ここでいう測定とは、センサ部2によって検出される被験者の体動の時間的変化を計測することを指す。
【0027】
ここで、前記測定開始指令がない場合には、本実施形態に係る睡眠評価装置1は、基本的に、前述の現在時刻取得処理とその表示処理を繰り返し実行する(図3のステップS4;NO参照)。ただ、その繰り返し処理の実行中、ユーザによって、操作部5を用いた新たな現在時刻の設定が行われる場合には(図3のステップS4;YES)、その設定された時刻を表示する処理(図3のステップS5)が、間挿される。
【0028】
一方、測定開始指令がある場合には、制御部CPは前記繰り返し処理を脱し、別の処理へ移行する。すなわち、まず、測定が終了したかどうかが判断される(図3のステップS6)。終了していないと判断される場合には(図3のステップS6;NO)、制御部CPは、センサ部2から取り込まれた信号についてAD変換を実行し(図3のステップS7)、それにより得られたデジタルデータとしての体動データを記憶部20に記憶する(図3のステップS8)。
この一連の処理により、記憶部20内には、例えば観念的には図4に示されるようなデータテーブルT1が構築される。このデータテーブルT1は、記憶部20のアドレス番号1から100までに対応する体動データの書込みを順次受ける。図では、これら各アドレスに対応して、体動データが、512,356,…,457,615,601,…,824と書き込まれていることがわかる。ちなみに、これらの変数名は、D[0],D[1],…,D[99]が対応している(なお、体動データの個数が100個とされているのは単なる一例である。)。
制御部CPは、このようなデータテーブルT1の構築と並行して、現在時刻を取得し(図3のステップS9)、表示する(図3のステップS10)。
【0029】
前記の図3のステップS6において、測定が終了したと判断される場合、即ち前記データテーブルT1の構築が完了した場合には(図3のステップS6;YES)、このデータテーブルT1内の体動データに対する解析が実行される(図3のステップS11)。このデータ解析の点については、後に改めて詳細に説明する。
このデータ解析が終了すれば、制御部CPは、その結果を表示し(図3のステップS12)、現在時刻表示に戻るかどうかを判断した後、これが肯定され得れば前述した繰り返し処理に戻る(図3のステップS13;YESからステップS1へ)。なお、このステップS13における判断は、言い換えると、例えば当該解析結果の表示がユーザの視認に十分な時間だけ行われたかどうか、と読み替えることができる。これは、制御部CPによる一定時間経過判断によってもよいし、ユーザによる指令によってもよい。
【0030】
次に、前述した、図3のステップS11におけるデータ解析処理の内実について説明する。
【0031】
まず、解析部30は、本実施形態に係るデータ解析に必要な各種の配列変数を用意する(図5のステップS21)。ここで各種の配列変数とは、図4に示すような、Stage[x]、Hensa[x]及びHenAV[x]である。
【0032】
ここで第1に、Hensa[x]は、前述したD[0],D[1],…,D[99]の中から、xを基準に所定個数選ばれたD[s],D[s+1],…,D[s+z](sは0,1,2,…,98のいずれかであり、zは(前記所定個数−1)に一致する。)に関する標準偏差を意味する。つまり、Ave・D=(D[s]+D[s+1]+…+D[s+z])/(z+1)として、Hensa[x]は、一般に、
Hensa[x]=sqr〔(1/(z+1))・SS(D[i]−Ave・D)〕 … (1)
である。ただし、i=s,s+1,…,s+zである。また、“sqr”は平方根を表す(以下同様である。)。また、“SS”は、()内の式につきiについての総和をとることを意味する(通常表記上ギリシャ文字のシグマで表される記号に相当する。)。
【0033】
なお、本実施形態では特に、s=10x、かつ、z=9とされる。したがって、図4のデータテーブルT3に示すように、例えばHensa[0]は、D[0],D[1],…,D[9]に関する標準偏差をもち、Hensa[5]は、D[50],D[51],…,D[59]に関する標準偏差をもつ。本実施形態では、全体動データ数が100個であるから、Hensa[x]も、Hensa[0],Hensa[1],…,Hensa[9]の10個が定義される。
ちなみに、上述したような演算処理は、図5のステップS22において行われる処理に同じである。かかる処理により、前記データテーブルT3には、Hensa[0],Hensa[1],…,Hensa[9]の各具体値が書き込まれていく。なお、データテーブルT3は、記憶部20内のアドレス番号211から220に対応する。
【0034】
このようなHensa[x]は、上記算出根拠、あるいは式(1)からもわかるように、一定の期間(以下、これを「単位期間」ということがある。)における被験者の体動のばらつきの程度を表現する。なお、本実施形態における前記単位期間とは、上述したところからも明らかなように、センサ部2によって、生データたる体動データが10個取得される期間にほぼ一致する。
なお、ここで述べた「単位期間」は、本発明にいう「グループ」の1個について観念される期間に相当する。
【0035】
また第2に、HenAv[x]は、前述したHensa[0],Hensa[1],…,Hensa[9]の中から、xを基準に所定個数選ばれた、Hensa[t],Hensa[t+1],…,Hensa[t+y](tは0,1,2,…,8のいずれかであり、yは(前記所定個数−1)に一致する。)に関する一種の移動平均値を意味する。つまり、一般に、
HenAv[x]=(Hensa[t],Hensa[t+1],…,Hensa[t+y])/(y+1) … (2)
である。
【0036】
なお、本実施形態では特に、t=x−1、かつ、y=2とされる。したがって、図4のデータテーブルT4に示すように、例えばHenAv[1]は、Hensa[0],Hensa[1],及びHensa[2]に関する平均値をもつ。本実施形態では、Hensa[x]の全個数が10個であるから、HenAv[x]は、Hensa[1],Hensa[2],…,Hensa[8]の8個が定義される。ただ、本実施形態ではこれに加えて、HenAV[0]と、HenAV[9]が特別に“0”に設定され、全部で10個のHenAV[x]が定義される。
ちなみに、上述したような演算処理は、図5のステップS23において行われる処理に同じである。かかる処理により、前記データテーブルT4には、HenAv[0],HenAv[1],…,HenAv[9]の各具体値が書き込まれていく。なお、データテーブルT4は、記憶部20内のアドレス番号221から230に対応する。
【0037】
このようなHenAv[x]は、上記算出根拠、あるいは式(2)からもわかるように、Hensa[x−1],Hensa[x]及びHensa[x+1]の3つについて観念される期間(換言すると、xを中心とした、3つの単位期間)における被験者の体動のばらつきの程度の平均値を表現する。
なお、いま述べたように、HenAv[x]は、
HenAv[x]=(Hensa[x−1]+Hensa[x]+Hensa[x+1])/3
であるが、本発明にいう「移動平均値」とは、このような場合も含む。
【0038】
最後に第3に、Stage[x]は、被験者が睡眠状態にあるか覚醒状態にあるかを表現する。この場合におけるxは、本実施形態において、“エポック”を意味する。これは、上述のHensa[x]におけるxも同様であり、そこでは、1個のxが10個の体動データをいわば代表するようなものとなっていたように、前記xは特に、体動データが10個取得される期間を一まとまりとして数えることに基づき、その一単位(つまり、“1エポック”)が定められる。したがって、Stage[x]は、より正確に言えば、そのエポック毎(つまり、x=1,2,3,…毎)に、被験者が睡眠状態にあるか覚醒状態にあるかを表現する変数としての意味をもつ。
図4では、データテーブルT2において、Stage[0]及びStage[9]が“1”をとっており、被験者は、これらエポック0及び9において覚醒状態にあることが表されている。一方、Stage[1]は“0”をとっており、被験者は、このエポック1において睡眠状態にあることが表されている。なお、このような各Stage[x]の値の設定は、後述する図8(離床エポック演算処理)、図9(寝返りエポック演算処理)、図11及び図12(中途覚醒エポック演算処理)、図15(入眠演算処理)、図16及び図17(中途覚醒エポック演算処理)に係る処理において行われる。Stage[x]については、その際に改めて触れる。
【0039】
さて、以上のように、Hensa[x]及びHenAv[x]が求められたら、続いて解析部30は、Hensa[x]全体についての標準偏差HenStdを求める(図5のステップS24)。すなわち、
HenStd=sqr〔(1/10)・SS(Hensa[j]−Ave・Hensa)〕 … (3)
である。ただし、j=0,1,2,…,9であり、Ave・Hensa=(Hensa[0]+…+Hensa[9])/10である。また、“SS”は、()内の式につきjについての総和をとることを意味する(通常表記上ギリシャ文字のシグマで表される記号に相当する。)。
【0040】
次に、解析部30は、基線値Baselineと、安定エポック数Stableを求める(図5のステップS25)。この処理の詳細は、図6に示される。なお、これら基線値Baseline及び安定エポック数Stableのもつ意義については追々説明される。
【0041】
まず、図6において、適宜使用される変数(ここではI及びcounter)並びに安定エポック数Stable及び基線値Baselineの初期設定が行われた後(図6のステップS41)、解析部30は、次の条件式の真偽を判断する(図6のステップS42)。
ABS〔HenAv[I]−HenAV[I+1]〕≦A … (4)
ただし、“ABS”は〔〕内の値の絶対値をとることを意味する(以下同様である。)。
この条件式はつまり、HenAV[x]のうち、隣り合う値(あるいは、隣り合う単位期間)同士の差の絶対値が所定の値“A”以下であるかどうか、の判断が行われることを表現している。
【0042】
ここで、もし、式(4)が真であれば、解析部30は、変数counterの値を1だけ増やし、かつ、変数“Baseline”の値を、前記HenAv[I]の分だけ増やす(図6のステップS43及びS44)。
一方、式(4)が偽であれば、解析部30は、次の条件式の真偽を判断する(図6のステップS45)。
ABS〔Hensa[I]−Hensa[I+1]〕≦B … (5)
なお、B>Aである。
この式(5)が満たされるのであれば、解析部30は、変数Stableの値を1だけ増やすが(図6のステップS46)、満たされない場合には、counter,Baseline及びStableの値はいじらない。
【0043】
以上述べた処理は、HenAv[9]に達するまで行われる(図6のステップS47;NOからステップS48、更にステップS42へ。)。I+1=9までの処理が完了したら、
Baseline=(Baseline/counter) … (6)
が演算され、最終的に、“基線値”、ないしは“Baseline”の値が求められる(図6のステップS49)。
【0044】
このような図6に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、HenAv[x]は、前述のように、xを中心とした3つの単位期間における被験者の体動のばらつきの程度の平均値を表現しているので、式(4)中にみられる、“HenAv[I]−HenAV[I+1]”とは、これを書き下せば、期間(I−1),I,(I+1)についてのばらつきの程度の平均値と、期間I,(I+1),(I+2)についてのそれとの差を意味することになる(HenAvが移動平均値であるから、両単位期間は一部重なり合っている。)。そして、その絶対値が“A”以下であるというのは、被験者は、そのIから(I+1)への遷移において、一定程度安定した状態を維持したことを意味する。この場合、前述のように、Baselineには、そのHenAv[I]の値が足しこまれる(図6のステップS44参照)。そして、これがI=1,2,…と繰り返されることにより、最終的には、前記式(6)のように、当該ステップS44で加算対象となったHenAv[x]全体の平均値が、“Baseline”として求められることになるのである。
要するに、この基線値“Baseline”とは、一定程度安定した状態が維持された場合に該当するものとして選りすぐられたHenAv[x]の平均値を表現していることになる。
【0045】
一方、式(5)に示す絶対値が“B(>A)”以下であるというのは、被験者は、前記と同様のIから(I+1)への遷移(ただし、ここでBの比較対象とされているのは、Hensa[x]である。)において、寝返り等の比較的大きな体動を行わなかったことを意味する。この場合、当該遷移に係る期間において、その寝返り等不存在の事実を記録する意味を込めて、安定エポック数Stableの値が増加させられる。仮に、測定期間中、被験者が寝返りを全然しなかったという場合は、図6のステップS46の処理は必ず実行されることになるから、Stableの値は、(I−1)になるはずである。
このように、安定エポック数“Stable”とは、被験者に比較的大きな体動がなかった期間(当該期間は単位期間を基準ないし一単位として数えられる。)の数を表現していることになる。
【0046】
以上のようにして、基線値Baseline及び安定エポック数Stableが求められたら、解析部30は続いて、動きの多さを示す指標Moveと、睡眠中の安定した割合Percentを求める(図5のステップS26)。この処理の詳細は、図7に示される。
この図7に示すように、前記Moveは、前記Hensa[x]の平均値(既述の式(3)中に現れる「Ave・Hensa」に同じ。)から、上で求められた基線値Baselineを引いた値を、前記HenStdで除した値として求められる(図7のステップS51)。この値が大きければ大きいほど、被験者の動きが多いことが表現される。
また、前記Percentは、上で求められた安定エポック数Stableを、前記Hensa[x]の配列数、即ち本実施形態では10(これは、前記「単位期間」の全数でもある。)で割った値の100倍として求められる(図7のステップS52)。
【0047】
次に、解析部30は、離床エポックを求める(図5のステップS27)。この処理の詳細は、図8に示される。
まず、図8において、適宜使用される変数(ここではI)の初期設定が行われた後(図8のステップS61)、解析部30は、前記Hensa[x]の平均値(既述の式(3)中に現れる「Ave・Hensa」に同じ。)が所定の値Cを下回るかどうかを判断する(図8のステップS62)。ここで下回ると判断される場合には(図8のステップS62;YES)、変数Bedoutに、所定値E1が代入される(図8のステップS64)。
一方、下回らないと判断される場合には(図8のステップS62;NO)、基線値Baselineが所定の値Dを下回るかどうかが判断される(図8のステップS63)。ここで下回ると判断される場合には(図8のステップS63;YES)、変数Bedoutに、所定値E2が代入される(図8のステップS65)。他方、下回らないと判断される場合には、変数Bedoutに、所定値E3が代入される(図8のステップS66)。
なお、前記のE1,E2,及びE3間には、E1<E2<E3が成立する。
【0048】
続いて、解析部30は、Hensa[I]の値が、変数Bedout、つまり前記の判断の別に応じて、E1、E2又はE3を下回るかどうかを判断する(図8のステップS67)。ここで下回ると判断される場合には、冒頭に導入したStage[x]に、“Wake”が代入される(図8のステップS68)。他方、下回らないと判断される場合には、Stage[x]の値はいじられない(図8のステップS67;NO参照)。
このような処理は、本実施形態において、Hensa[9]に達するまで行われる(図8のステップS69及びS70参照)。
なお、前述で“Wake”というのは、図4でいうデータテーブルT2に示される値、“1”に該当する。逆に、図4でいうデータテーブルT2に示される値、“0”は、“Wake”でない場合を意味する。この点は、以下においても同様である。
【0049】
このような、図8に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、この処理においては、図4を参照して説明した、Stage[x]の値が、エポック毎に定められていく。この際、図8では、そのステップS67における“Bedout”の値がE1,E2又はE3という異なる値をとりうることからわかるように、被験者が床を離れているかどうかの判断基準を変動させている。ちなみに、この基準値たるBedout、ないしはその内実たるE1乃至E3は、いずれも相当程度小さい値であって、その意義は、センサ部2が被験者の体動を感知していない状況(あるいはエポック)を見極めることにある。だから、Hensa[I]<Bedoutが真のとき、Stage[I]=“Wake”と設定されるのである。
また、E1<E2<E3であり、かつ、E1はAve・Hensa<Cの場合に、E2は基線値Baseline<Dの場合に、E3はそれ以外の場合に、対応していることからわかるように、これらE1乃至E3は、就寝中の被験者の安定度に応じて定められている。つまり、Ave・HensaがCを下回る場合というのは、全期間を通じて、被験者の体動のばらつきが比較的小さい場合を意味しているので、「離床」が生じたかどうかを判断するには、より小さい基準値E1が使用されるのが好ましい。他方、BaselineがDを下回る場合(で、かつ、Ave・Hensa≧Cである場合)というのは、Baselineが前述のように一定程度安定した状態が維持された場合に該当するものとして選りすぐられたHenAv[x]の平均値を表現しているのであるから、安定期間の限りでは比較的静かな被験者であるという推定が成り立つので、前記E1よりは大きめの基準値E2が使用されるのが好ましい。
そして、その他の場合は、以上の2つの場合が否定される場合なのであるから、前記E2よりも大きめの基準値E3が使用されるのが好ましいのである。
以上を要するに、本実施形態では、「離床」が生じたかどうかが、被験者の就寝時体動に関する一般的性質の相違に基づいて定められるのである。
【0050】
以上のようにして、離床エポックが求められたら、解析部30は続いて、寝返りエポックを求める(図5のステップS28)。この処理の詳細は、図9に示される。
まず、図9において、適宜使用される変数(ここではI)の初期設定が行われた後(図9のステップS71)、解析部30は、以下の条件式の真偽について判断する(図9のステップS72)。
Hensa[I+1]>Hensa[I]+F1 … (7)
これが偽と判断される場合は、続いて更に、以下の条件式の真偽について判断される(図9のステップS73)。
Hensa[I+1]>F2 … (8)
そして、これらの式(7)及び式(8)のいずれかが、真であると判断される場合には(図9のステップS72又はS73;YES)、Stage[I+1]には“Wake”が代入される(図9のステップS74)。他方、これらのいずれもが偽であると判断される場合には(図9のステップS73;NO)、Stage[I+1]の値はいじられない(図9のステップS75)。
このような処理は、本実施形態において、Hensa[9]に達するまで行われる(図9のステップS76参照)。
【0051】
このような、図9に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、この処理においては、ある期間(I+1)における被験者の体動に係る標準偏差Hensa[I+1]が、期間Iと対比して“相対的”に増大している場合、あるいは、この標準偏差Hensa[I+1]がそれ自体として“絶対的”に大きい場合には、当該期間(I+1)は、「寝返り」が生じたエポックであると判断されるのである。そして、この「寝返り」の発生は即ち、その時点において被験者が「覚醒」していたことと同視しうる。これは、「寝返り」が生じる際の脳波は、覚醒時のそれと同視可能だからである。
要するに、この処理は、前述の離床エポック演算処理では、“Wake”とはされなかった場合でも、寝返りが生じた場合には、それをも“Wake”と認定する処理に該当するのである。
【0052】
以上述べた、図8及び図9に係る処理の結果、Stage[x]は、例えば図10に示すような各値をもつことになる。この図10では、図8に係る処理の結果、Stage[0],Stage[2]及びStage[9]で「離床」が生じ、図9に係る処理の結果、Stage[7]で「寝返り」が生じた例が示されている(後者においては、Stage[0],Stage[2]及びStage[9]の結果は、当然ながら、そのまま保持される。図中の矢印はそれを視覚的に表している。)。
【0053】
以上に続いて、解析部30は、中途覚醒エポックを求める(図5のステップS29)。この処理の詳細は、図11及び図12に示される。
まず、図11において、適宜使用される変数(ここではI1)の初期設定が行われた後(図11のステップS81)、解析部30は、上で求めた、動きの多さを示す指標Move(図5参照)がH1以上であるかどうかを判断する(図11のステップS82)。ここで、これが偽と判断される場合は、図5のデータ解析処理に係るメインフローチャートへと戻る。これはつまり、「被験者は中途覚醒しなかった」との判断が、この時点において既に終局的になされたことを意味する。
一方、真と判断される場合は、解析部30は続いて、MoveがH2以上であるかどうか(図11のステップS83)、更にこれが偽である場合には、MoveがH3以上であるかどうかを判断する(図11のステップS84)。そして、前者の場合が真と判断される場合は、変数ValueにJ1が代入され(図11のステップS85)、後者の場合が真と判断される場合は、変数ValueにJ2が代入される(図11のステップS86)。さらに、前者も後者も偽と判断される場合は、変数ValueにはJ3が代入される(図11のステップS87)。
なお、前記のH1,H2及びH3の間には、H2>H3>H1が成立する。
また、前記のJ1,J2及びJ3の間には、J3>J2>J1が成立する。
【0054】
続いて、解析部30は、以下の条件式の真偽について判断する(図11のステップS88)。
HenAv[I1]≧Baseline+Value … (9)
これが真と判断される場合は、適宜使用される変数(ここではI2)の初期設定が行われた後(図11のステップS89)、解析部30は、HenAv[I1−I2]≧Baseline+Kの真偽について判断する(図11のステップS90)。これが真と判断される場合は、Stage[I1−I2]に“Wake”が代入される(図11のステップS91)。
このようなI2の関わる処理は、当該処理が開始された時点における、I1のもつ数値に至るまで、繰り返し行われる(図11のステップS92及びS93参照)。
【0055】
一方、前述のステップS90において、HenAv[I1−I2]≧Baseline+Kが偽と判断される場合は、適宜使用される変数(ここではI2)の初期設定が行われた後(図11及び図12の接続記号“C1”から、図12のステップS94)、解析部30は、HenAv[I1+I2]≧Baseline+Kの真偽について判断する(図12のステップS95)。これが真と判断される場合は、Stage[I1+I2]に“Wake”が代入される(図12のステップS96)。
このようなI2の関わる処理は、当該処理が開始された時点におけるI1に、I2を加えた数値が、HenAv配列数の全数に一致するまで、繰り返し行われる(図12のステップS97及びS98参照)。
【0056】
以上の、図11のステップS89から図12のステップS98までの処理は、Stage[x]の値が変動を受ける可能性ある処理であるが、前述の図11のステップS88において、HenAv[I1]≧Baseline+Valueが偽と判断される場合は、解析部30は、Stage[x]の値をいじらない(図11のステップS88;NOから接続記号“C2”、及び、図12のステップS99への流れ、参照)。
【0057】
以上の各処理のうちステップS88からステップS98までの処理は、本実施形態において、HenAv[9]に達するまで行われる(図12のステップS99及びS100、並びに、図12及び図11の接続記号“C3”参照)。
【0058】
このような、図11及び図12に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、この処理の前段、即ちH1乃至H3に基づくJ1乃至J3の設定に関わる、図11のステップS82からステップS87までの処理は、被験者の動きの多さに応じた基準値の設定、という意味をもつ。つまり、被験者の動きが極めて活発である場合(即ち、Move≧H2(>H3>H1)の場合)は、基準値は最小のJ1に定められ、そうでもない場合(即ち、H2>Move≧H3(>H1)の場合)は、基準値は中程度のJ2に定められ、鎮静的である場合(即ち、H3>Move≧H1の場合)は、基準値は最大のJ3に定められる。
そして、これらJ1,J2及びJ3は、前記の式(9)からわかるように、比喩的にいえば、いわばバイアス値のようなものとして機能する。具体的には、前述のように、式(9)が偽であれば、当該I1についての処理は完了してしまうのであるが、前述したところから、被験者の動きが極めて活発、中間的、及び鎮静的となる順につれて、Stage[x]が変動を受け得るかどうかの基準値は次第に大きくなっていく。
なお、被験者の動きが、極めて鎮静的な場合(即ち、Move<H1の場合)は、そもそも、基準値の設定及びそれ以降の処理が行われない。
以上の様子は、図13に表としてまとめられている。
【0059】
このような基準値Valueの設定を受けて、前記処理の後段、即ち図11のステップS88から図12のステップS100までの処理は、中途覚醒エポックを求める処理となる。これは2種の処理をもつものと考えることができる。
第1種の処理は、図11のステップS89からステップS93までの処理である。この処理では、基準となる期間I1を中心として、それ以前に遡った時点において、中途覚醒があったかどうかが判断されている(「遡った時点」での判断がなされるとは、この第1種の処理では、当該の判断が、I1を基準に、I1−0,I1−1,I1−2,…と行われるからである。)。また、その判断基準は、“Baseline+K”である(図11のステップS90参照)。そして、HenAv[I1−I2]がこの値以上であれば、「中途覚醒あり」として、Stage[x]に“Wake”が代入されるのである。
一方、第2種の処理は、図12のステップS94からステップS98までの処理である。この処理では、基準となる期間I1を中心として、それ以後の時点において、中途覚醒があったかどうかが判断されている(「以後の時点」での判断がなされるとは、この第2種の処理では、当該の判断が、I1を基準に、I1+0,I1+1,I1+2,…と行われるからである。)。判断基準は前記第1種の処理と同じである(図12のステップS95参照)。
【0060】
以上の様子は、図14に視覚的・概念的に表現されている。すなわち、この図14において、前記のI1が5であるとするとき、そこから遡るように、あるいは、それ以後に下るように、中途覚醒エポックの探索がそれぞれ行われる様子が図中上下方向に延びる矢印でもって表されている。ちなみに、この図14では、Stage[5]に加えて、Stage[4]が中途覚醒エポックとして認定された例が併せて示されている。なお、図14の左方は図10の再掲であり、図中右向きの矢印の意義は、同図を参照して説明したところと同じである。
【0061】
以上のようなことから結局、図11及び図12に係る処理では、第1に、指標Move、及び、基線値Baselineに基づいて、エポックI1における被験者の睡眠状態の評価がなされ(図12のステップS88参照)、更に、この評価に基づいて中途覚醒の有無が事後的に且つ網羅的に判断されているということができる(前述の第1種及び第2種の処理に関する説明、参照。)。
【0062】
以上のようにして、中途覚醒エポックが求められたら、解析部30は続いて、入眠演算処理を行う(図5のステップS30)。この処理の詳細は、図15に示される。
まず、図15において、解析部30は、入眠エポックを求める(図15のステップS101)。
その処理の詳細は、図18に示される。この入眠エポック演算処理ではまず、適宜使用される変数(ここではI)の初期設定が行われた後(図18のステップS141)、解析部30は、Stage[I]が“Wake”に一致するかどうかを判断する(図18のステップS142)。これが否定されれば、本処理に戻る(図5のステップS142;NOから図15のステップS102へ)。一方、肯定されれば、Iを1つだけ増加して、先の処理を繰り返す(図15のステップS142;YESからステップS143、及び、ステップS144、参照。)。
要するに、この入眠エポック演算処理では、Stage[x]の中から、“Wake”をもたないものが探索される。したがって、図18の処理を経る結果、本処理(ここでは、図15の処理)の側から見ると、Stage[I]が値“Wake”をもたない場合、あるいはIの増加につれてもたなくなった場合における、“I”(以下、「入眠時のI」ということがある。)の値が返されてくることになる。
【0063】
続いて、解析部30は、Stage[I+Ka1]が値“Wake”をもつかどうかを判断する(図15のステップS102)。これが肯定されれば、Stage[I+Ka1]には、改めて、値“Wake”が代入され(図15のステップS103)、続いてKa1が1だけ減ぜられる(図15のステップS104)。このような、代入処理及び減算処理は、Ka1が0になるまで繰り返し行われる(図15のステップS105からステップS103への流れ、参照)。これにより、x0=I+1,I+2,…,I+Ka1なる配列数x0をもつStage[x0]はすべて、値“Wake”をもつことになる。
他方、前述のステップS102において、Stage[I+Ka1]がWakeでなければ、単に、Ka1が1だけ減ぜられる(図15のステップS106)。このような処理は、Ka1が0になるまで、あるいは、Wakeに一致するStage[I+Ka1]が見つかるまで、繰り返し行われる(図15のステップS107参照。Wakeに一致するStage[I+Ka1]が見つかれば、前述の処理が実行される。)。
【0064】
このような、図15に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、入眠時のIから、適当に設定されたKa1だけ離れた時点において、もしStage[I+Ka1]=Wakeが成立するエポック(I+Ka1)が存在するのであれば、それは真に睡眠状態に入った時点であるとは認定し得ない。これは、入眠直後においては、通常、「寝返り」等は発生しにくい(つまり、そのような時点におけるエポックは通常“Wake”とはならない。)という、経験則ないしは論理則によっている。したがって、そのような場合には、Stage[I+1],Stage[I+2],…,Stage[I+Ka1]については、改めて、覚醒状態であったと認定するのである。
このように、図15に係る処理では、被験者が真に睡眠状態にあった期間を正確に把握するために、いわば一種の誤りとしてStage[x]がWakeをとらなかった場合を探索し、そのようなStage[x]を改めて、Wakeに認定し直すという意義をもつのである。
【0065】
以上のようにして、入眠演算処理が完了したら、解析部30は続いて、中途覚醒エポックを求める(図5のステップS31)。この処理の詳細は、図16及び図17に示される。
まず、図16において、適宜使用される変数(ここではM)の初期設定が行われた後(図16のステップS111)、解析部30は、入眠エポックを求める(図16のステップS112)。ここでは、既に述べた図18に示される処理が行われる。したがって、この図18の処理を経ることで、入眠時のIが返されてくることになる。
【0066】
次に解析部30は、この入眠時のIが、Mを下回るかどうかを判断する(図16のステップS113)。ここで下回ると判断される場合は、Stage[I]が“Wake”に一致するかどうかが判断される(図16のステップS114)。ここで、一致すると判断される場合は、解析部30は、覚醒継続エポック演算処理に移行する(図16のステップS114;YESからステップS117へ)。一方、前記ステップS113において、I≧Mが成立する場合は、前記ステップS114に係る判断は行われない(図16のステップS113;NOからステップS115へ)。
このような処理は、入眠時のIを基準に、そこから1ずつ増加した各Iについて、繰り返し行われる(図16のステップS115及びステップS116、参照)。
以上の繰り返し処理の回数は、Stage[x]の全個数(全エポック数)を限度とする(図16のステップS116参照)。これに達すれば、図5のデータ解析処理に係るメインフローチャートへと戻る。
【0067】
前述した、覚醒継続エポック演算処理の詳細は、図19に示される。この覚醒継続エポック数演算処理では、まず適宜使用される変数(ここではX)の初期設定が行われた後(図19のステップS151)、解析部30は、Stage[I+X]が“Wake”に一致するかどうかを判断する(図19のステップS152)。なお、この時点におけるIは、前述のステップS114における肯定判断を経ている以上、Stage[I]=Wakeを成立させるIである(言い換えると、この時点におけるIは、もはや「入眠時のI」ではない。)。
前記ステップS152において、Stage[I+X]=Wakeが否定されれば、本処理に戻る(図19のステップS152;NOから図16のステップS118へ)。一方、肯定されれば、Xを1つだけ増加して、先の処理を繰り返す(図16のステップS152;YESからステップS153、及び、ステップS154、参照)。
要するに、この覚醒継続エポック演算処理では、Stage[x](ただし、ここでいう、xは、「入眠時のI」から進んで、覚醒時に移行した時点のI以上である。以下、このIを、「覚醒開始時のI」ということがある。)の中から、どこまで“Wake”が維持されたのかが探索される。したがって、図19の処理を経る結果、本処理(ここでは、図16の処理)の側から見ると、Stage[I+X]が値“Wake”をもたない場合における、あるいは、Xの増加につれてもたなくなった場合における、“X”(以下、「覚醒継続のX」ということがある。)の値が返されてくることになる。
【0068】
次に解析部30は、この覚醒継続のXがNe以上であるかどうかを判断する(図16のステップS118)。これが肯定される場合は以下の処理が行われる。
まず、変数Oに適当な値が設定された後(図16のステップS119)、解析部30は、Stage[I−O]が“Wake”をもつかどうかを判断する(図16のステップS120)。これが肯定される場合は、Stage[I−O]には、改めて、“Wake”が代入され(図16のステップS123)、続いてOが1だけ減ぜられる(図16のステップS124)。このような処理は、Oが1になるまで繰り返し行われる(図16のステップS125からステップS123への流れ、参照)。これにより、当初の覚醒開始時のIから、Oだけ遡った時点までの配列数x1をもつStage[x1]はすべて、値“Wake”をもつことになる。
他方、前述のステップS123において、Stage[I−O]がWakeでなければ、単に、Oが1だけ減ぜられる(図16のステップS121)。このような処理は、Oが1になるまで、あるいは、Wakeに一致するStage[I−O]が見つかるまで、繰り返し行われる(図16のステップS122からステップS120への流れ、参照。Wakeに一致するStage[I−O]が見つかれば、前述の処理が実行される。)。
【0069】
以上の処理が完了すると、解析部30は、図17の処理へと移行し(図16及び図17の接続記号“C5”参照)、改めて、変数Oに適当な値を設定する(図17のステップS126)。
ここでまず、解析部30は、覚醒開始時のI、覚醒継続のX及び適当に設定されたOの和が、全エポック数に一致すると判断する場合には、図5のデータ解析処理に係るメインフローチャートに戻る(図17のステップS127;YES)。他方、そうではない場合には以下の処理を行う(図17のステップS127;NO)。
【0070】
すなわち、解析部30は、Stage[I+X+O]が“Wake”をもつかどうかを判断する(図17のステップS128)。これが肯定される場合は、Stage[I+X+O]には、改めて、“Wake”が代入され(図17のステップS131)、続いてOが1だけ減ぜられる(図17のステップS132)。このような処理は、Oが1になるまで繰り返し行われる(図17のステップS133からステップS131への流れ、参照)。これにより、当初の覚醒開始時のIに覚醒継続のXを加えた値から、Oだけ以後の時点までの配列数x2をもつStage[x2]はすべて、値“Wake”をもつことになる。
他方、前述のステップS128において、Stage[I+X+O]がWakeでなければ、単に、Oが1だけ減ぜられる(図17のステップS129)。このような処理は、Oが1になるまで、あるいは、Wakeに一致するStage[I+X+O]が見つかるまで、繰り返し行われる(図17のステップS130からステップS128への流れ、参照。Wakeに一致するStage[I+X+O]が見つかれば、前述の処理が実行される。)。
【0071】
上述のステップS130及びS133を抜けた場合(即ち、O=1が成立した場合)、解析部30は、Mに、I+Xを代入した後(図17のステップS134)、図16の処理へと戻る(図17及び図16の接続記号“C6”参照)。
【0072】
一方、前述の図16のステップS118において、X≧Neが否定される場合(即ち、X<Neの場合)は、すぐ上で述べた、MにI+Xを代入する処理(図17のステップS134)が行われるだけで、図16の処理へと戻る(図16のステップS118;NO→接続記号“C4”→図17のステップS134→接続記号“C6”、参照)。
【0073】
後は、図16における、前述した接続記号“C6”の行き先をみるとわかるように、図16のステップS113以降の処理が、前記と同様に行われることになる。
【0074】
このような、図16及び図17に係る処理には次のような意義がある。
すなわち、この処理の意義は、一言でいえば、覚醒と判断されるべきエポックの見落としがないかどうかの再確認にある。言い換えると、当該処理は、前述の図11及び図12に係る処理を補完する意義を持つ。その際、見落としがあったかどうかを見極めるのに特に重要な役割を担っているのは、覚醒継続のXである(図16のステップS118参照)。すなわち、この覚醒継続のXが一定値Ne以上の大きさをもつのであれば、その前後の期間においても、実は被験者は覚醒していたのだ、という推定が強く成り立つ。前記ステップS118以後、IよりOだけ前のエポック、及び、I+XよりOだけ後のエポックのそれぞれについてStageの値が確認され、それがWakeである場合には、その間のStage[x]が0であったとしても、改めてStage[x]=1と認定され直されているのは、そのような推定に基づいているのである。
【0075】
また、より詳細には、この図16及び図17に係る処理も、前述の図11及び図12に係る処理と同様、2種の処理をもつものと考えることができる。
第1種の処理は、図16のステップS119からステップS125までの処理である。この処理では、基準となる覚醒開始時のIを中心として、それ以前に遡った時点において、覚醒があったかどうかが判断されている(「遡った時点」での判断がなされるとは、この第1種の処理では、当該の判断が、Iを基準に、I−O,I−(O−1),I−(O−2),…と行われるからである。)。また、その判断基準は、端的に、Stage[I−O]=Wakeである(図16のステップS120参照)。これが満たされる以上は、前記の各配列数をもつStage[x]には“Wake”が代入されるのである。
一方、第2種の処理は、図16のステップS126からステップS133までの処理である。この処理では、基準となる、(覚醒開始時のI)+(覚醒継続のX)、を中心として、それ以後の時点において、覚醒があったかどうかが判断されている(「以後の時点」での判断がなされるとは、この第2種の処理では、当該の判断が、(I+X)を基準に、I+X+O,I+X+(O−1),I+X+(O−2),…と行われるからである。)。判断基準は前記第1種の処理と同じである(図12のステップS128参照)。
【0076】
このような図16及び図17に係る処理により、仮に、図11及び図12において覚醒と判断されるべきエポックの見落としがあったような場合においても、それは改めて覚醒状態であった、と認識され直される(要するに、一種のバックアップがなされる)ようになっているのである。
【0077】
以上図19までを参照して行った説明が、図3のステップS11におけるデータ解析処理の詳細である。このような各種の処理を経た後は、だいぶ前に述べたように、制御部CPは、その結果を表示するが(図3のステップS12)、それは例えば、図20、あるいは図21に示すようなものとなる。ここでは、たまたま、図20において、表示部4が、「睡眠時間89.2% 睡眠時間07:16(即ち、7時間16分)」という結果を表示する例が、また、図21において、「睡眠安定性 76.0%」という結果を表示する例が、それぞれ示されている。ここで「睡眠効率」とは、上述において説明した、図11及び図12、あるいは図16及び図17等々の各処理を経て設定された各Stage[x]の値、1,0,1,0,1,1,0,…,1,1のうち、その全数に対する“0”の占める数の割合を表している。また、「睡眠安定性」とは、図7に示される“Percent”の値そのものである。
ちなみに、これら図20及び図21と対比しうるように、通常状態における表示部4の表示内容を図22として示しておいた。これは、図3のステップS2における現在時刻の表示処理の結果である。
【0078】
以下述べた、本実施形態に係る睡眠評価装置1によれば、次のような効果が奏される。
(1) 本実施形態に係る睡眠評価装置1は、上述のように、Hensa[x]、あるいはHenAv[x]といった、体動データD[0],D[1],…,D[99]に対する加減乗除加工のみを行ったデータを利用して、被験者の睡眠状態を把握することから、特別複雑な構成及び処理を必要としない。そして、そのような簡易性を保持しえながらも、前記のうち、Hensa[x]は、被験者の比較的短時間における体動の変化の様子をよく表し、また、HenAv[x]は、比較的長時間における体動の変化の様子をよく表す、という特性の相違があるので、これらを利用することにより、被験者の睡眠状態の把握を一定程度好適に行うことが可能になる。
要するに、本実施形態によれば、低コスト、簡易な手法により、人の睡眠状態の可能な限りの正確な把握が可能になる。
【0079】
(2) 本実施形態に係る睡眠評価装置1では、被験者の睡眠状態を把握するために、基線値Baselineが比較的重要な役割を担っている。すなわち、図8(離床エポック演算処理)、図11及び図12(中途覚醒エポック演算処理)において、基線値Baselineは重要な役割を担っているし、特に図11及び図12の処理で利用される変数Moveは、やはり基線値Baselineに直接的に基づいて定められているのである(図7参照)。
また、これら、直接的に基線値Baselineを利用する処理(以下、「直接利用処理」という。)以外のその他の処理も、これら直接利用処理を前提に行われる場合があり得ることを考えると、当該その他の処理も、基線値Baselineの恩恵を間接的に受けているということができる。例えば、図11及び図12の処理によって、あるStage[a]がWakeをもつに至った場合を考えると、そのStage[a]が、図16及び図17における処理の、いわば新たな発火点になる(例えば、ステップS120、あるいはステップS128参照)、という場合も考えられるのである。
【0080】
このようなことからすると、本実施形態では、基線値Baselineの導入により、被験者の睡眠状態の把握がより的確になされる可能性が極めて高まっているということができる。
しかも、本実施形態では、この基線値Baseline自体が、HenAv[x]の移動平均値を利用して設定されていることから(図4及び図6並びにそれらに関する説明、参照)、この点からも、被験者の睡眠状態の把握の的確性はより高まるということができるのである。
【0081】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明に係る睡眠評価装置は、上述した形態に限定されることはなく、以下に述べる各種の変形が可能である。
(1) 上記実施形態では、体動データが100個取得される例について説明しているが、上でも既に言及しているように、本発明がこの形態に限定されるわけでは勿論ない。むしろ、体動データの個数は通常、100個よりも多い(あるいは、遥かに多い)と考えるのが自然である(上記で“100個”が選択されたのは、まさに説明の便宜を図る目的以外の何らの目的もない。)。また、これに関連して、Hensa[x]が、何個の体動データの標準偏差として求められるか、あるいは、HenAv[x]が、何個のHensa[x]の平均値として求められるか、についても、基本的に自由に設定される事柄である。
さらに、これに関連して、上記実施形態では、センサ部2から取り込まれた信号に対してAD変換を実行することで、デジタルデータたる体動データを取得することについて言及しているが、この場合、そのAD変換におけるサンプリング間隔の長さは、基本的に自由に定められ得る。ただ、当該サンプリング間隔が比較的長期に設定されるのであれば、体動データの全個数は減少する可能性が強く、短期に設定されるのであれば、増加する可能性が強い、ということはいえる(“可能性”というのは、寝床上の在留時間の長短が、被験者ごとに、あるいは同じ被験者でも日々の相違により、等々、一般に異なるからである。)。
【0082】
(2) 上記実施形態では、体動データD[x]、Stage[x]、Hensa[x]、及びHenAv[x]のいずれもが、睡眠評価装置1の記憶部20に記録されるようになっているが、本発明は、かかる形態にも限定されない。この記録は、例えば適当なインターフェイスを通じて外部記憶装置中の記録媒体になされるようになっていてもよい。
【0083】
(3) 本発明に係る睡眠評価装置は、被験者の体動をいわば受動的に受け取り、かつ、これに適当な解釈を施すことによって、その睡眠状態及び覚醒状態を判別することを主機能として持つが、その実施形態としては、かかる機能以外にも例えば、被験者を強制的に覚醒させる機能、要するに、目覚まし時計としての機能をもたせる等してよい。上記実施形態における睡眠評価装置1を前提としても、それが経時機能をもつ以上(図2中の計時部11参照)、当該目覚まし時計としての機能を実現することは極めて容易である。そして、当然ながら、かかる実施形態も本発明の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本発明の一実施形態に係る睡眠評価装置の使用時外観斜視図である。
【図2】図1の睡眠評価装置の電気ブロック図である。
【図3】図1の睡眠評価装置を運用するためのメインフローチャートである。
【図4】図2の記憶部内に構築される、D[x]、Stage[x]、Hensa[x]及びHenAv[x]の各具体値の構成例を示す説明図である。
【図5】図3のステップS11におけるデータ解析処理に係るメインフローチャートである。
【図6】基線値Baselie及び安定エポック数Stableを求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】動きの多さ示す指標Move及び睡眠中の安定した割合を求める処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】離床エポック演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】寝返りエポック演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】図8及び図9の処理の結果設定された、Stage[x]の各具体値の例を示す説明図である。
【図11】中途覚醒エポック演算処理の流れを示すフローチャート(その1)である。
【図12】中途覚醒エポック演算処理の流れを示すフローチャート(その2)である。
【図13】図11に示すパラメータH1乃至H3及びJ1乃至J3と、Moveとの関係等を視覚的把握するための説明図である。
【図14】図11及び図12の処理の結果設定された、Stage[x]の各具体値の例を示す説明図である。
【図15】入眠演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図16】図11及び図12を補完する処理としての、中途覚醒エポック演算処理の流れを示すフローチャート(その1)である。
【図17】図11及び図12を補完する処理としての、中途覚醒エポック演算処理の流れを示すフローチャート(その2)である。
【図18】入眠エポック演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図19】覚醒エポック演算処理の流れを示すフローチャートである。
【図20】図3のステップS11におけるデータ解析結果の一表示例を示す図(その1)である。
【図21】図3のステップS11におけるデータ解析結果の一表示例を示す図(その2)である。
【図22】図20及び図21に対比される通常状態における一表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0085】
1……睡眠評価装置、2……センサ部、3……制御ボックス、4……表示部、5……操作部、10……電源、11……計時部、20……記憶部、30……解析部、CP……制御部、T1〜T4……データテーブル、D[x]……体動データ、Hensa[x]……(体動データに関する)標準偏差、HenAv[x]……Hensa[x]に関する平均値、HenStd……(Hensa[x]に関する)標準偏差、Baseline……基線値、Stable……安定エポック数、Move……被験者の動きの多さを示す指標

【特許請求の範囲】
【請求項1】
寝床上の被験者の身体の動きを時々刻々検出する体動検出手段と、
前記体動検出手段の検出結果に基づいて、少なくとも、前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する判別手段と、
を備える睡眠評価装置であって、
前記判別手段は、
前記体動検出手段の検出結果を、所定の時間間隔でN個の体動データ(ただし、Nは、N≧2を満たす正の整数)として数値化し、
前記N個の体動データを区分けするG個のグループ(ただし、Gは、2≦G<Nを満たす整数)の各々及び当該各々に含まれる体動データごとについての、G個の標準偏差を求め、
前記G個の標準偏差の中から選択されたgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいてL個の標準偏差平均値(ただし、Lは、2≦L≦Gを満たす整数)を求め、
前記G個の標準偏差及び前記L個の標準偏差平均値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する、
ことを特徴とする睡眠評価装置。
【請求項2】
前記判別手段は、
前記L個の標準偏差平均値を、前記G個の標準偏差のうち連続するgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいて求め、かつ、
当該L個の標準偏差平均値のうち、第p番目の標準偏差平均値(ただし、pはp≦L−1を満たす整数)と第(p+1)番目の標準偏差平均値との差の絶対値が所定値以下であるという条件を満たす、当該第p番目の標準偏差平均値のすべてに関する平均値を、基線値として求め、かつ、
当該基線値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する、
ことを特徴とする請求項1に記載の睡眠評価装置。
【請求項3】
前記判別手段は、
前記L個の標準偏差平均値の各々を、前記gs個の標準偏差に関する移動平均値として求める、
ことを特徴とする請求項2に記載の睡眠評価装置。
【請求項4】
前記判別手段は、
前記G個の標準偏差のうち、いずれかの標準偏差が所定値Eを下回る場合、
前記被験者は、当該標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の睡眠評価装置。
【請求項5】
前記判別手段は、
前記G個の標準偏差のうち、第q番目の標準偏差(ただし、qはq≦G−1を満たす整数)に所定値F1を加えた値よりも、第(q+1)番目の標準偏差が大きい場合、
前記被験者は、当該第(q+1)番目の標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の睡眠評価装置。
【請求項6】
前記判別手段は、
前記G個の標準偏差のうち、いずれかの標準偏差が所定値F2を超える場合、
前記被験者は、当該標準偏差の算出根拠たる前記体動データの基となった前記検出結果の検出時点において、覚醒状態にあると判断する、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の睡眠評価装置。
【請求項7】
前記判別手段は、
前記G個の標準偏差に関する標準偏差たる全体的標準偏差を求め、かつ、
前記G個の標準偏差の平均値から前記基線値を引いた値を、前記全体的標準偏差により除すことによって、前記被験者の動きの多さを示す指標を求め、かつ、
前記、被験者の動きの多さを示す指標に基づいて、前記被験者の睡眠状態から覚醒状態への移行時点を判断する、
ことを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の睡眠評価装置。
【請求項8】
前記体動検出手段は、
所定の流体を内封するマットレスを含み、
前記流体の圧力変化に応じて、前記被験者の身体の動きを検出する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の睡眠評価装置。
【請求項9】
寝床上の被験者の身体の動きを所定の時間間隔で数値化したN個の体動データ(ただし、Nは正の整数)を取得する工程と、
前記N個の体動データを区分けするG個のグループ(ただし、Gは、2≦G<Nを満たす整数)の各々及び当該各々に含まれる体動データごとについての、G個の標準偏差を求める工程と、
前記G個の標準偏差の中から選択されたgs個の標準偏差(ただし、gs<G)に基づいてL個の標準偏差平均値(ただし、Lは、2≦L≦Gを満たす整数)を求める工程と、
前記G個の標準偏差及び前記L個の標準偏差平均値に基づいて、少なくとも前記被験者の睡眠状態及び覚醒状態の別を判別する工程と、
を含む、
ことを特徴とする睡眠評価方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2009−160001(P2009−160001A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338993(P2007−338993)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000133179)株式会社タニタ (303)
【Fターム(参考)】