説明

知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物

【解決手段】本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体、(B)無機カルシウム塩、(C)水を含有することを特徴としている。
【効果】本発明によれば、高い歯牙研磨性能および高い操作性を有し、さらに歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は知覚過敏を抑制することができる歯科用研磨材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯科疾患の予防に対する関心は非常に高く、歯石除去等の歯科医療従事者による専門的機械的清掃に、頻繁に歯面研磨材が使用されている。さらに歯牙漂白、あるいは歯周病罹患者に対する歯根面汚染歯質の機械的除去(ルートプレーニング)の処置後にも、同様の歯面研磨材が使用されている。しかしながら、これらの処置に使用される研磨材は、知覚過敏、特に象牙質知覚過敏を引き起こすことが多く、歯面研磨時に疼痛を訴える患者が多い。
【0003】
さらに、歯の審美性に対する関心も高くなってきており、歯牙漂白が頻繁に行われるようになっているが、歯牙漂白には、多くの場合、歯牙の最表層を微小に脱灰するとともに、着色成分を除去・脱色するシステムが採用されている。また、上述のような歯牙漂白に用いられる歯牙漂白剤には、漂白処置後に表面研磨することを必要とするものが多いが、漂白処置による歯牙脱灰に加え、研磨を行うことにより、疼痛を訴える可能性がいっそう高くなる。
【0004】
現在多数の歯牙用の研磨材が市販されているが、これらは、例えば特許文献1に代表されるように、研磨材の物理的な研磨強さ、微小部分での清掃性能、あるいは操作性を向上させる点に改良点があり、知覚過敏を発生させにくくするような研磨材は市販されていない。
【0005】
一方、知覚過敏の抑制に関しては、特許文献2において、カルシウム化合物と反応し、象牙細管径よりも大きな凝集体を形成する水性エマルションを用いることにより、知覚過敏を低減する抗象牙質知覚過敏症組成物が提案されているが、この特許文献2には歯面清掃中の処置に関しては言及されていない。
【0006】
また、特許文献3においては、特許文献2に類似の組成物により象牙質知覚過敏を抑制する際に有用な清掃材が提案されているが、操作ステップが煩雑となる可能性が高く、術者、患者ともに不利益となる。
【特許文献1】特開2003−40754号公報
【特許文献2】特開平8−225424号公報
【特許文献3】特開平7−82125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を抑制し、同時に歯牙表面を効果的に清掃することを可能にし、さらに操作性の良好な研磨材を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、
(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体、
(B)無機カルシウム塩、
(C)水、
を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、高い歯牙研磨性能および高い操作性を有したまま、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨剤組成物について具体的に説明する。
なお、本発明において、特別の断りのない限り「部」あるいは「%」は重量基準を示す。また、「アクリ・・・」と「メタアクリ・・・」の総称として「(メタ)アクリ・・・」と記載する。
【0011】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨剤組成物を構成する酸性基含有(共)重合体(A)成分は歯牙象牙質の象牙細管を封鎖し、知覚過敏を抑制する効果を有するとともに研磨操作中の潤滑剤あるいは増粘剤として機能する。
【0012】
本発明で使用する酸性基含有(共)重合体(A)成分は、分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体である。
【0013】
すなわち、本発明で使用する酸性基含有(共)重合体(A)成分としては、分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体(Ms)、水中で容易に酸性基に転化される官能基を少なくとも1つ有するラジカル重合性単量体(Ms)あるいはこれらの塩(Ms)である
。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明で使用する酸性基含有(共)重合体(A)成分は、上記のラジカル重合性単量体あるいはこれらの塩を単独で重合させた重合体あるいはこれらを組み合わせて共重合させた共重合体であるが、これらのラジカル重合性単量体(Ms)以外の単量体(M1)が共重合した共重合体であってもよい。
【0015】
さらに、この酸性基含有(共)重合体(A)成分の主鎖は、ラジカル重合体構造であることが好ましいが、たとえば分子鎖長15原子以下の短い架橋構造が形成されていてもよく、さらにペンダントに脱水縮合系の分子鎖を有していても良い。
【0016】
ラジカル重合性単量体(Ms)に含まれる酸性基、あるいは水中にて容易に酸性基に転化される官能基としては、カルボン酸基、リン酸基およびスルホン酸基、あるいは水中にて容易にこれらの官能基に転化される置換基を挙げることができる。本発明では、これらのうち、スルホン酸基および/または水中にてスルホン酸基に容易に転化する官能基が好ましい。
【0017】
本発明で使用するラジカル重合性単量体(Ms)の例としては、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、1−スルホ−1−プロピル(メタ)アクリレート、1−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、2−スルホ−1−プロピル(メタ)アクリレート、2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、1−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、3−スルホ−2−ブチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−スルホプロピル(メタ)アクリレート、2−メチル−2−スルホプロピル(メタ)アクリレート等のスルホアルキル(メタ)アクリレート;
3−ブロモ−2−スルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−1−ス
ルホ−2−プロピル(メタ)アクリレート等の前記のアルキル鎖を構成する水素原子の少なくとも一部がハロゲン原子で置換された化合物、アルキル鎖中に酸素などのヘテロ原子を有する化合物;
1,1−ジメチル−2−スルホエチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸等のアクリルアミドである化合物など;
さらには4−スチレンスルホン酸、4−(プロプ−1−エン−2−イル)ベンゼンスルホン酸などのビニルアリールスルホン酸などを挙げることができる。
【0018】
本発明では、これらのうち、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸、4−スチレンスルホン酸および/またはその塩が好ましく用いられる。
また、本発明で使用するラジカル重合性単量体(Ms)以外の単量体(M1)成分として最も汎用的に使用できるラジカル重合性単量体としては、例えばブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体類;
スチレン、α−メチルスチレン、クロルスチレンなどの芳香族ビニル単量体類;
アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル単量体類;
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート;
2−ハイドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のハイドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;
N−(メタ)アクリロイルオキシエチル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシプロピル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシイソプロプル−アセトアマイド、N−(メタ)アクリロキシブチル−アセトアマイドのような(メタ)アクリレートを(メタ)アクリルアマイドとした化合物;
塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルおよびビニリデン類;
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類などを挙げることができる。これらの単量体は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0019】
さらに本発明の性能を損なわない限りにおいてラジカル重合性単量体を単量体成分として(共)重合させた重合体(A)を構成する単量体として、抗菌性を有するラジカル重合性単量体(M2)を使用することができる。抗菌性を有するラジカル重合性単量体(M2)を用いることにより酸性基含有(共)重合体(A)成分に抗菌性を付与することで、長期間にわたり齲蝕等の歯科疾患の予防効果を期待できる。
【0020】
こうした抗菌性を有するラジカル重合性単量体(M2)の例としては、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、ベンジルビス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、N,N,N−トリス[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ドデシルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートに10−ウンデセニルアルコールがエーテル付加した化合物などを挙げることができる。
【0021】
なお、上記酸性基あるいは当該官能基に水中で容易に変換し得る官能基を有する単量体は、酸性基含有重合体(A)成分中に、通常は0.00001〜0.01モル/g、好ましくは0.00002〜0.005モル/gの量で(共)重合されている。
【0022】
本発明において、上記酸性基含有(共)重合体(A)成分は、水性エマルション(Ae)あるいは水溶性ポリマー(Aw)であることが好ましく、また特に、水溶性ポリマーである場合には、25℃における酸性基含有(共)重合体(A)成分の水に対する溶解度が25%以上であることが好ましい。
【0023】
酸性基含有(共)重合体(A)成分が水性エマルション(Ae)である場合、象牙質細管を封鎖するのに充分な深さにまで水性エマルションを浸入させるために、水性エマルション(Ae)中の成分の粒径は象牙質細管の直径よりも小さくすることが好ましい。一般に象牙細管の直径は、位置あるいは深さによって差があり、さらに個体差があるものの、通常は1〜3μmの範囲内にある。従って、水性エマルション(Ae)を構成する成分の粒子の平均粒径は、3μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下である。
【0024】
なお、象牙質細管の直径は、抜去した歯牙のエナメル質を削り取って露出した象牙質表面を歯磨剤と歯ブラシを使って1分以上ブラッシングを行った後、水中で超音波洗浄を施し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察することによって計測できる。
【0025】
また、水性エマルション(Ae)を構成する成分の粒径には分布があることから、すべてのエマルション粒子の粒径が象牙細管径よりも小さいことを特に必要とするものではない。本発明において水性エマルション(Ae)成分のエマルションを形成する粒子のうち、粒径が3μm未満のものが50%以上占めることが好ましく、90%以上のエマルション粒子の粒径が3μm未満であることがより好ましい。上記の条件に加えて、ラジカル重合性単量体を単量単位として有する重合体(A)成分として使用する水性エマルションを形成する粒子のうち、粒径が1μm以下のものが65%以上占めることが特に好ましく、75%以上占めることがとりわけ好ましい。エマルション粒子が上記のような粒径分布を有することにより、知覚過敏による疼痛が低減される。
【0026】
さらに好ましい水性エマルション(Ae)成分として、例えば重合体のエマルション粒子を、たとえば高速ミキサーあるいはホモジナイザーなどの分散・粉砕器で、好ましくは直径3μm以下、より好ましくは直径1μm以下、最も好ましくは直径0.5μm以下のエマルション粒子となし、このエマルション粒子が酸性基含有(共)重合体(A)成分の中に0.5%以上存在するように調製して分散安定性を向上させることが望ましい。また、酸性基含有(共)重合体(A)成分中に、粒径が1.0μm以下のエマルション粒子が、エマルション粒子全体の50%以上、特には75%以上占めることが好ましく、そしてエマルション粒子の全体を占めることが最も好ましい。
【0027】
酸性基含有(共)重合体(A)成分に含まれる象牙質細管径よりも小さい粒子径を有する水性エマルション(Ae)の形成成分は、水溶性が高く、通常は25℃の水における溶解度が0.5g/100ml以上であるカルシウム化合物、例えば塩化カルシウムを酸性基含有(共)重合体(A)に添加したときに、このカルシウム化合物と反応して象牙質細管径よりも大きな径を有する凝集体を形成することができる。
【0028】
こうして形成される凝集体の径は、通常は3μmを超え、好ましくは10μm以上、より好ましくは50〜数千μmに達する。
上記カルシウム化合物の添加量は、エマルション中のエマルション粒子あるいは不揮発性成分100重量部に対して、好ましくは10〜100重量部の範囲内にある。
【0029】
酸性基含有(共)重合体(A)の製造方法に、特に制限はなく、従来公知の方法にて製造することができる。
具体的な製造方法として、酸性基含有(共)重合体(A)が水性エマルション(Ae)である場合には、従来公知の乳化重合法を採用して製造することができる。具体的には、重合開始剤の存在下に、各種単量体を一括して、もしくは分割して、あるいは連続的に水性媒体中に滴下して加えることができる。このときの重合温度は、一般的には0〜100℃、実用的には30〜90℃の温度である。
【0030】
また、酸性基含有(共)重合体(A)成分が水溶性ポリマー(Aw)である場合には、水あるいは水性媒体を用いて、従来公知の方法で製造することができる。例えば、水中あるいは有機溶媒中に各種単量体、重合開始剤を仕込み、昇温することで重合反応を進行させた後、たとえば再沈殿精製などによって水性ポリマーを得る方法などを挙げることができる。この場合、反応温度は一般的に40〜200℃である。
【0031】
酸性基含有(共)重合体(A)成分についてGPC法により測定したの数平均分子量(Mn)は、好ましくは3,000以上であり、より好ましくは7,000以上、さらに好ましくは10,000以上である。なお、この数平均分子量の上限は通常は500万である。
【0032】
酸性基含有(共)重合体(A)成分としての好ましい水溶性を有する水性ポリマー(Aw)は、重合体の分子中に、(メタ)アクリルアマイドアルカンスルホン酸(H2C=C
(R1)−CO−NH−R2−SO3H,R1:H又はCH3,R2:2価の炭化水素基)などのラジカル重合性単量体(Ms)に由来する成分単位を有する重合体である。さらに重合体の分子中に、水酸基を1つ以上有する炭素数4〜8の(ポリ)ハイドロキシアルキル(
メタ)アクリルアマイド(H2C=C(R3)−CO−NH−R4(OH)n,R3:H又は
CH3,R4:炭化水素基、n:1以上の整数)に由来する成分単位を水酸基モル比(重合体中の前記単位の水酸基総モル数/総単量体単位のモル数)で、好ましくは0.7〜11.0[モル/モル]、より好ましくは0.75〜10.5[モル/モル]、さらに好ましくは0.8〜10.0[モル/モル]で有する重合体を使用することが好ましい。
【0033】
前記(メタ)アクリルアマイドアルカンスルホン酸単位と(ポリ)ハイドロキシアルキル(メタ)アクリルアマイド単位を有する共重合体(ここでは、以下、AS−HA重合体
という)以外の共重合体(ここでは、以下、AS−HA相当重合体という)では、AS−
HA相当重合体の重量に対するAS−HA相当重合体に含まれる酸性基(スルホン酸等)や水酸基のモル数の比率であるモル重量比[モル/g]の数値範囲が、AS−HA重合体の場合におけるモル比[モル/モル]の数値範囲に対応するモル重量比(但し、AS−HA重合体は2,3−ジハイドロキシプロピル(メタ)アクリルアマイドと2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸よりなり、必要に応じてアクリル酸メチルを有する共重合体として比を計算)が上記範囲内にあることが好ましい。
【0034】
本発明において、酸性基含有(共)重合体(A)成分として好ましい水性エマルション形態を有する重合体(Ae)を形成する(Ms)成分単位としては、スチレンスルホン酸単位が好ましい。さらに、重合体の分子中に、炭素数4〜8の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単位をモル比(前記単位のモル数/重合体中の総重合単位のモル数)にて、好ましくは70〜99.9[モル/モル]、より好ましくは80〜99.9[モル/モル]、更に好ましくは85〜99.5[モル/モル]有する共重合体をエマルション粒子として含有するエマルションである。
【0035】
本発明における酸性基含有(共)重合体(A)成分は、組成物の全量中に、通常は、1〜25%、好ましくは3〜22%、さらに好ましくは5〜20%の範囲内の量で含有されている。この数値範囲の上限値を上回ると組成物の粘度が上昇し、研磨・清掃操作を円滑に行うことが難しくなり、また、下限値を下回ると組成物の粘度が著しく低くなり、清掃操作中に他の部位への「たれ」あるいは飛散が生じやすくなり、さらに象牙細管の封鎖性能が減少して知覚過敏の抑制効果が発現しにくくなる。
【0036】
また、酸性基を有するラジカル重合性単量体(Ms)は、ラジカル重合性単量体を単量体成分として(共)重合させた重合体(A)を構成する成分単位の全量中に、好ましくは
0.1〜30モル%、より好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは0.5〜10モル%の範囲の量で含有されている。この範囲を下回ると、知覚過敏抑制効果が発現し難くなり、また、上回ると、配合する無機カルシウム塩(B)成分等との凝集が懸念される。
【0037】
本発明の知覚過敏抑制性を有する歯科用研磨材組成物における無機カルシウム塩(B)は、25℃の水に対する溶解度が通常は0.5g/100ml未満であるカルシウム塩であり、例えばリン酸塩である。無機カルシウム塩は歯牙表面の有機質および無機沈着成分を除去する機能を有する。
【0038】
具体的な化合物にはCaHPO4(以下、DCPと表記する)、Ca3(PO42(以下、TCPと表記する)、Ca5(PO43OH、Ca4O(PO42(以下、TTCPと表記する)、Ca82(PO46、Ca10(PO46(OH)2(以下、HAPと表記する
)、CaP411、Ca(PO32、Ca227、Ca(H2PO42、CaO、Ca(
OH)2、CaCO3およびこれらの水和物を挙げることができる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。これら無機カルシウム塩の結晶構造に特に限定はなく、また、非化学量論的欠陥も含み得る。本発明では、これらのうち、DCP、TCP、TTCP、HAPを使用することが好ましい。これらの無機カルシウム塩は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0039】
特にこれら無機カルシウム塩のうち、DCPもしくはTTCPを使用する際においては、両者を併用することが好ましい。両者を同時に用いることにより、知覚過敏抑制性を有する歯科用研磨材組成物を適用後、これらのリン酸塩が口腔内における水分の存在下に、歯牙表面と結合すると共に、硬組織と同様のHAPに転化し、歯牙表面の改質を行うことができる。
【0040】
無機カルシウム塩(B)成分の使用量は、組成物の全量に対して、通常は0.1〜50%、好ましくは1〜40%、さらに好ましくは3〜30%である。この数値範囲の上限を上回ると組成物の粘度が上昇し、清掃操作ができなくなるばかりか、歯牙表面あるいは歯間部に組成物が侵入しにくくなり、清掃性能が低くなり、さらに歯牙表面を過度に研磨することがあり、また、下限を下回ると所望の清掃効果が発現しにくくなる。
【0041】
さらに、本発明において、DCPとTTCPとを同時に用いる場合には、上記使用量の範囲内において、両者の混合重量比(TTCP/DCP)は通常は0.33〜3.5、好ましく2.3〜3の範囲、特に好ましくは2.6〜2.8である。この範囲を逸脱すると、ハイドロキシアパタイトへの転化が充分には行われないことがある。
【0042】
本発明において、無機カルシウム塩(B)成分の形状は特に限定されるものではなく、球形、紡錘形、あるいは不定形でも構わないが、短時間で歯牙表面を研磨清掃するためには、不定形であることが好ましい。さらに清掃性能を上げるためには、硬度の高い焼結体を含んでいることが好ましい。
【0043】
ここで使用される無機カルシウム塩(B)成分の最長径は、通常は0.001〜300μm、好ましくは0.05〜250μm、さらに好ましくは0.01〜200μmである。ここで、最長径とは無機カルシウム塩(B)成分の粒子形状が球状である場合を含めて、粒子の最大長さの径を言う。この数値範囲の上限を上回ると歯牙硬組織を過度に研削することがあり、また、下限を下回ると研磨性能が著しく低くなり、研磨に長時間を要するとともに、研磨時の発熱による歯牙組織への悪影響が懸念される。さらに、DCPとTTCPとを同時に用いる場合には、DCPの最長径は、通常は0.001〜30μm、好ましくは0.05〜20μm、さらに好ましくは0.1〜15μmの範囲にあり、TTCP
の最長径は、通常は0.5〜30μm、好ましくは1〜25μm、さらに好ましくは10〜20μmの範囲内にある。前記数値範囲の下限を下回ると研磨操作中に組成物の凝集を引き起こして操作が困難になりやすく、また上限を上回ると歯牙表面でのHAPへの転化に長時間を要し、歯牙表面の改質効果が発現しにくくなる。
【0044】
さらに、これらカルシウムのリン酸塩の存在形態についても特に限定されるものではなく、両者が実質上、上記配合範囲内の量で混合されて成形された粒子であっても良いし、全体の配合比は実質上、上記範囲内となるように、それぞれの粒子を混合させるか、あるいは配合比が異なる粒子を上記範囲内となるように混在させても良い。
【0045】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物を構成する成分(C)は水である。研磨時の発熱を下げるとともに、組成物を研磨に有用なペーストとする。水は生体に対する安全性が担保される限りにおいて、その種類に特に制限はないが、蒸留水、脱イオン蒸留水、あるいは日本薬局方精製水を使用することが好ましい。
【0046】
本発明における(C)成分である水は、酸性基含有(共)重合体(A)成分が水性エマルションである場合にはその分散水も、また、無機カルシウム塩(B)成分に含有される結晶水も、(C)成分の水として計数して合計する。本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨剤組成物において、(C)成分である水の量は、組成物の全量に対し、通常は99〜25%、好ましくは96〜38%、さらに好ましくは92〜50%である。この数値範囲の上限を上回ると組成物の粘度が低下し、清掃操作中に他の部位への「たれ」、あるいは術者への飛散が生じやすくなり、下限を下回ると、組成物の濃度が低くなり清掃性能が著しく低くなるばかりか、清掃操作中の熱の発生により、歯髄あるいは歯周組織に対して悪影響を及ぼすことがある。
【0047】
但し、本発明の組成物を前記の通りの好適な含水率よりも少なく予め調製しておいて、治療の際に水を加えて、前記好適な含水率に戻すような態様に対応した組成を有する組成物もまた好適である。その場合には、好ましくは55〜3%、より好ましくは52〜5%、更に好ましくは50〜10%である。前記数値範囲の下限値を下回ると均一な組成物への再構成に時間を要し作業性の低下を招来する虞があり、また上限値を上回ると含水量調整の自由度が減少する。或いはこの数値範囲の割合にて、水に代えて少量のアルコール類(エタノール等)やケトン類(アセトン等)などにて置換して含有させておいても良い。
【0048】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、上記のように酸性基含有(共)重合体(A)、無機カルシウム塩(B)および水(C)を含有する組成物であるが、さらに他の成分を含有してもよい。
【0049】
成分(D)は酸性化合物であり、重合体(A)と歯質との相互作用促進、また、皮膜への安定性付与、さらには組成物の保存安定性付与の目的で添加することができる。成分(D)は無機酸、有機酸のいずれでも良く、特に限定されるものではないが、酸性があまり強くなく、歯質の脱灰作用が低い、歯科において好適に用いられている酸性化合物が好ましく、さらに(A)よりも有意に低分子量例えば、分子量200以下の水溶性酸および/またはその塩が好ましく、該酸のカルシウム塩は水不溶性あるいは難溶性である。ここで塩は金属塩、アンモニウム塩、アミン塩である。水溶性の目安は、25℃における水への溶解度が0.5g/100g以上である。具体的には、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、プ
ロピオン酸、および/またはこれらの塩のほか、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウムナトリウム、硫酸アンモニウムカリウムなどの硫酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸アンモニウムなどの亜硫酸のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩を好ましく使用することができる。また、(D)成分としては、ラジカル重合性があるエチレン性二重結合を有しないものが好適に用いられる。
【0050】
その配合量は組成物の全量中に、好ましくは0.01〜10(より好ましくは0.02〜5)%の範囲である。この数値範囲の下限を下回ると酸の添加効果が確認できず、また、上限を上回ると適用部のみならず周辺の歯に対しても表面が不用意に脱灰される可能性があるためである。
【0051】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物に配合される他の成分である(E)成分は、フッ素化合物である。本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物にフッ素化合物を配合することにより、歯質自体の耐酸性を向上させることができる。本発明で使用することができるフッ素化合物(E)は、水中にフッ素イオンを放出できるものである。このようなフッ素化合物(E)の例としては、フルオロリン酸二ナトリウム、フッ化スズ、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、フッ化カリウム、フッ化ケイ素ナトリウム、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化アンモニウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズ等を挙げることができる。これらの中でも、フッ素化合物(E)としては、フッ化ナトリウム、フッ化カルシウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化第一スズを使用することが好ましい。これらのフッ素化合物(E)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明の組成物中におけるフッ素化合物の配合量は、本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物の使用量と適用頻度、および、耐酸性あるいは再石灰化の有効性、さらには人体への影響を考慮して適宜設定することができる。
【0052】
こうした観点から本発明においてフッ素化合物(E)は、組成物中のフッ素イオン濃度が通常は0.0001〜5%、より好ましくは0.001〜2%、さらに好ましくは0.01〜1%の範囲内になるような範囲内の量で使用される。この数値範囲を下回ると、所望の歯質の耐酸性向上作用あるいは再石灰化作用が充分に表れないことがありフッ素化合物(E)を配合することによる作用を確認することが難しく、また上記範囲を上回る量を配合すると生体への為害性が懸念される。
【0053】
さらに、本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、この組成物の特性が損なわれない範囲内で、歯牙表面の色調改善を補助するために(F)成分として、過酸化水素あるいは過酸化尿素を添加しても良い。この過酸化水素、過酸化尿素は単独であるいは組み合わせて配合することができる。本発明の組成物において、上記の過酸化水素あるいは過酸化尿素(F)は、組成物の全量に対して、通常は0.1〜5%、好ましくは0.5〜4%、さらに好ましくは1〜3%の範囲内の量で配合することができる。このような量で過酸化水素あるいは過酸化尿素(F)を配合することにより、歯牙表面を過度に脱灰せずに研磨性が向上する。
【0054】
さらに、本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、この組成物の特性が損なわれない範囲内で、歯牙表面の色調改善を補助するとともに、歯牙表面での抗菌性を付与する目的で、(G)成分としてさらにチタン化合物を配合することができる。本発明で使用することができるチタン化合物の例としては、二酸化チタンを挙げることができる。
【0055】
本発明の組成物に配合することができるチタン化合物(G)の好適な例である二酸化チタンには種々の結晶形があるが、本発明ではアナターゼ型の酸化チタンを配合することが好ましい。このような二酸化チタンは光触媒活性を有していることが好ましく、光触媒性を有するものであれば形状、性状に限定されない。また、このような二酸化チタンに白金を担持させて光触媒活性を向上させた白金担持二酸化チタンを使用することもできる。また、二酸化チタンにプラズマ処理等を行うことによって、可視光領域の光に応答して光触媒作用を向上させた二酸化チタンを使用することもできる。二酸化チタンは、粉末状態のものでも水などの媒体に分散したゾル状態のものであってもよい。本発明で使用することができる二酸化チタンの1次粒子の平均粒径は、通常は1〜500nm、好ましくは5〜
200nmの範囲内にある。上記のような平均粒径を有する二酸化チタンは、1次粒子であってもよいし、1次粒子が凝集した凝集体であってもよい。二酸化チタンの凝集体を使用する場合、凝集体の粒子径は通常は5nm〜50μmの範囲内にあり、好ましくは10nm〜30μmの範囲にある。本発明でチタン化合物(G)を配合する場合に、最も好ましくはチタン化合物(G)は、アナターゼ型(g1)であり、1次粒子の平均粒径が1〜500nm(g2)の条件を満たす二酸化チタン粒子である。これは、一つ一つの粒子が(g1)と(g2)を同時に満たすということであり、これと比べて、(g1)かつ非(g2)の粒子と非(g1)かつ(g2)の粒子の混合物では、余り効果が期待できない。
【0056】
本発明においてチタン化合物(G)は、組成物の全量に対して、好ましくは0.01〜24%、より好ましくは0.1〜12%、さらに好ましくは0.1〜8%の範囲の量で配合することができる。この数値範囲を下回と、所望の歯牙色の改善効果が発揮できず、この数値範囲を上回ると、保管中に酸性基含有(共)重合体(A)成分あるいは酸性化合物(D)成分と反応し、著しい凝集を引き起こすとともに、過度に歯牙を研磨する虞がある。
【0057】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、さらに成分(H)として、結合材を配合することが好ましい。この結合剤(H)は、本発明の組成物に適度の粘度を付与して、組成物を使用する際に「たれ」および「飛散」を防止して、象牙細管に本発明の組成物が程度に浸入して象牙細管を封鎖して知覚過敏の抑制作用を向上させるために使用される。
【0058】
本発明で使用することができる結合材(H)は、組成物に程度の粘度あるいは稠度を付与することができる化合物である。このような結合材(H)の例としては、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性ポリマー;アラビアゴム、アルギン酸、カラギーナンなどの天然高分子化合物;カルボキシメチルセルロース(CMC)などを挙げることができる。これら
の結合材は単独であるいは組み合わせて使用することができる。
【0059】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、必須成分として酸性基含有(共)重合体(A)、無機カルシウム塩(B)および水(C)が配合されており、これらが共同して所定の粘度を発現させて本発明の組成物が、「たれ」、「飛散」が生じにくくすると共に、象牙細管に組成物が浸入してこの象牙細管を封鎖して、歯牙の深部にまで研磨材組成物が浸透するのを防止して知覚過敏を抑制している。本発明の組成物の粘度は、主として上記酸性基含有(共)重合体(A)、無機カルシウム塩(B)および水(C)の配合比率によって調整することができるが、本発明では、さらに組成物の粘度を上記の結合材(H)を配合することにより調整することができる。
【0060】
本発明の組成物は、「たれ」、「飛散」を防止し、象牙細管の封鎖率をたとえば99%以上にするためには、本発明の組成物の使用温度(36℃)における粘度を通常は0.1
〜500Pa・s、好ましくは5〜350Pa・s、より好ましくは8〜250Pa・sの範囲内に調整する。本発明の組成物をこのような粘度に調整するためには、たとえば結合材(H)としてポリビニルアルコール(PVA)を使用した場合には、本発明の組成物中にポリビニルアルコール(PVA)を通常は0.5〜35%の範囲内の量、好ましくは1〜3
0%の範囲内の量で配合する。このような量で結合材(H)を配合して本発明の組成物の粘度を通常は0.1〜500Pa・s、好ましくは5〜350Pa・s、より好ましくは8〜
250Pa・sの範囲内に調整することにより、知覚過敏に対する抑制作用が非常に高くなり、しかも使用時に「たれ」あるいは「飛散」が生ずることがなく非常に使用しやすくなる。
【0061】
本発明の組成物には、さらに、成分(I)として、水性媒体を添加することができる。このような水性媒体(I)の例としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチエレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類のほか、グリセロール、ソルビトール、エタノールなどのアルコール類を挙げることができる。これらの水性媒体(I)は単独であるいは組み合わせて使用することができる。本発明で水性媒体(I)を使用する場合には、為害性の低いエタノールを使用することが好ましく、この水性媒体(I)の使用量は、組成物の粘度が上述のように通常は0.
1〜500Pa・s、好ましくは5〜350Pa・s、より好ましくは8〜250Pa・sの範囲内になるように調整される。
【0062】
さらに、本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物には、本発明の組成物の特性を損なわない範囲で、成分(J)として、
シリカ、タルク等の増粘剤;
ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム等の発泡剤;
キシリトール、ソルビトール、アスパルテーム、スクラロース、ステビアなどの甘味料;
ソルビトール、l−メントール、リモネンなどの香料;
雲母チタン、酸化チタン、オキシ塩化ビスマス、合成金雲母、マイカ、酸化鉄などの無機顔料;
青色1号、青色404号、赤色106号、赤色201号、赤色220号、赤色225号、赤色226号、赤色227号、黄色4号、グンジョウ、コンジョウなどの着色料;
塩酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、グリチルリチン酸ジカリウム、イソプロピルメチルフェノール、トリクロサン、塩化ベンゼトニウムなどの殺菌/抗菌剤;
レチノール類、リボフラビン、アスコルビン酸、コレカルシフェロール類、ニコチン酸類などのビタミン類;
アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、およびこれらの塩あるいは水酸化物のほか、トラネキサム酸、タウリン等のアミノ酸類乃至はその類縁体を添加しても何ら差し支えない。
【0063】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、上記のような成分から構成されており、この組成物を構成する成分は、はじめから組成物中にすべて混合されていてもよいし、この組成物を構成する成分の少なくとも一部を別体として包装して、必要に応じてこれらの成分を混合して本発明の組成物をその場で調製してもよい。即ち、使用時に、前記重量部の比率にて混合して用いられる知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物も本発明に含まれる。
【0064】
使用時の簡便性を考慮すれば、予め各成分が混ぜ合わされた混合物であることが好ましい。驚くべきことに、歯牙の成分と類縁性の高い無機カルシウム塩(B)と、象牙細管内において微粒子の凝集現象を発生させる酸性基含有(共)重合体(A)成分とを、成分(C)である水が共存する環境下に長期間保存しても(成分(A)、(B)、(C)共存状態にて長期保存しても)、これらの成分の凝集反応は殆ど発生せず、実用に供せられる。
【0065】
なお、ここで長期保存とは温度25℃の条件下にて、好ましくは12ヶ月以上、より好ましくは24ヶ月以上、更に好ましくは36ヶ月以上である。
本発明の知覚過敏抑制効果を有する歯科用研磨材組成物の使用方法としては、全成分を混練し、チューブ等の保存容器に保存の上、歯科診療用ハンドピースに取り付けたラバーカップ、ポリッシングブラシ等に、混練した組成物を適量取り出して歯面に対して直接適
用する方法、通常の歯磨材として歯ブラシ等に直接取り出して、歯磨きする方法、筆などに直接取り出して貼付する方法などを例示することができる。
〔実施例〕
以下、実施例により本発明をさらに詳述するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
<水性エマルションの調製例>
撹拌装置、冷却管、温度計、窒素導入口、滴下ロートを取り付けた反応装置に蒸留水50gを装入し、60℃に昇温し、窒素ガスを1時間バブリングした。
【0066】
次いで窒素雰囲気下、メチルメタクリレート(MMA)2.0g、スチレンスルホン酸ナトリウム0.54g、過硫酸カリウム30mg、亜硫酸水素ナトリウム10mgを添加し、2.5時間60℃で激しく攪拌した。
【0067】
さらに、MMA1.0g、過硫酸カリウム15mg、亜硫酸水素ナトリウム7mgを30分間隔で4回添加した後、さらに19.5時間激しく攪拌した。
室温に冷却後、濃塩酸0.19mlを加えて2時間攪拌し、透析チュ−ブに入れて蒸留水を5日間毎日交換しながら透析を繰り返した。このチュ−ブを常温、常圧下、乾燥して、固形分22.0%の水性エマルションを得た。
【0068】
元素分析からこの重合体中におけるMMAユニットの含量は96.9mol%、GPC(N,N−ジメチルホルムアミド移動相中ポリスチレン換算分子量)分析により求めた数
平均分子量は10万以上であった。
【0069】
透過型顕微鏡観察より、この乳化重合体エマルション粒子を観察したところ、このエマルション中に含有される粒子の直径は0.1〜0.5μmの範囲内にあり、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(LA−910、ホリバ(株)製)により含有される全てのエマルション粒子の直径が1μm以下であることが確認された。以下、この水性エマルションをMSEと表記する。
<水性ポリマーの製造例>
撹拌装置、冷却管、温度計、窒素導入口、滴下ロートを取り付けた反応装置に蒸留水200g、2,3−ジハイドロキシプロピルメタクリルアマイド31.8g(0.2mol)、2−アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸10.4g(0.05mol)、過硫酸アンモニウム1.1g、亜硫酸ナトリウム0.6gを装入し、15分間窒素ガスをバブリングし、撹拌しながら内温を70℃に昇温し、2時間重合を行った後、室温に冷却した。
【0070】
反応マスをアセトン/メタノールで再沈殿精製し、乾燥、無色の数平均分子量が10万以上の水性ポリマー30gを得た。以下、この水性ポリマーをMCPと表記する。
<研磨材の評価法>
使用の1週以内に便宜抜去し、生理的食塩水に保存したヒト上顎前歯を蒸留水で洗浄した。歯科用モーター(ロータリーマスター、モリタ(株)製)のハンドピースに取り付けたラバーカップ(メルサージュカップNo.2ウェブソフト、松風(株)製)に組成物0
.1gを取り出し、ヒト歯唇側エナメル質を3000rpmの速度で10秒間研磨した。
【0071】
研磨中の組成物の「たれ」、「飛散」、および研磨後のエナメル表面の肉眼所見の3項目に関して3段階に分類し、試験体数10で、総合的に評価した。
<象牙質モデルの作製>
抜去して冷凍保存したウシ前歯を使用直前に解凍し、低速回転式ダイヤモンドカッター(ISOMET、BUEHLER社製)にて注水下で約10×10×2mmの象牙質板を切り出した。耐水研磨紙(#600)で切削面を研磨し平滑にした後、象牙質表面の片面
を歯磨剤(ホワイト&ホワイト、ライオン(株)製)のついた歯ブラシ(ドクタービーヤング、ビーブランド・メディコデンタル社製)で注水下20〜30g/cm2の力で3分
間ブラッシングした。
【0072】
精製水で洗浄の後、さらに精製水中で35分超音波をかけることによって洗浄し、ブラッシングした表面を象牙質モデルとした。
<知覚過敏抑制の評価法>
水中から取り出した象牙質モデル表面からエアブローによって見かけ上の水分を取り除き乾燥させた。
【0073】
歯科用モーター(ロータリーマスター、モリタ(株)製)のハンドピースに取り付けたラバーカップ(メルサージュカップNo.2ウェブソフト、松風(株)製)に組成物0.
1gを取り出し、象牙質モデル表面を3000rpmで10秒間研磨した。続いて蒸留水で研磨表面を清掃し、乾燥させた。象牙細管の封鎖状況を1500倍に拡大した走査型電子顕微鏡(SEM−5610LV、日本電子(株)製)にて観察した。
【0074】
象牙細管の封鎖状況は、次式の象牙細管の封鎖率を用い、試験体数5の平均によって評価した。
【0075】
【数1】

【0076】
[実施例1]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、蒸留水19.5gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。このようにして得られた組成物の36℃における粘度は110Pa・sであった。
【0077】
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例2]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、蒸留水19.1gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。このようにして得られた組成物の36℃における粘度は112Pa・sであった。
【0078】
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例3]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径20μm)6.2g、HAP(未焼成品、平均粒径5μm)0.6g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、蒸留水18.5gをメノウ乳鉢にて十分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。このようにして得られた組成物の36℃における粘度は121Pa・sであった。
【0079】
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例4]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、β−TCP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、蒸留水19.1gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0080】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は113Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例5]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、DCP(平均粒径1μm)1.7g、TTCP(平均粒径20μm)4.7g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、蒸留水18.9gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0081】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は115Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例6]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、蒸留水62.8gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0082】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は75Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例7]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、蒸留水62.4gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0083】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は79Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例8]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径20μm)6.2g、HAP(未焼成品、平均粒径5μm)0.6g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、蒸留水61.8gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0084】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は82Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例9]
MCP16.0g、β−TCP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、蒸留水62.4gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0085】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は78Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を
行った。結果を表1に記載する。
[実施例10]
MCP16.0g、DCP(平均粒径1μm)1.7g、TTCP(平均粒径20μm)4.7g、シュウ酸0.4g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g
、蒸留水62.2gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器
に保存した。
【0086】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は80Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例11]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、フッ化ナトリウム0.5g、蒸留水19.0gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0087】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は116Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例12]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、過酸化水素水(30%水溶液)3.5g、蒸留水16.0gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0088】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は95Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例13]
MSE72.7g(ポリマー分として16.0g)、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)1.6g、アナターゼ型酸化チタン(スーパーチタニア、昭和電工(株)製、平均粒径6nm、凝集後の粒子は15,000倍に拡大したSEM像で、0.1〜2μmの粒子が確認できた)0.1g、蒸留水19.4gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0089】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は131Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例14]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、フッ化ナトリウム0.5g、蒸留水62.3gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0090】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は77Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例15]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、過酸化水素水(30%水溶液)3.5g、蒸留水5
9.3gをメノウ乳鉢にて充分に混練し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した

【0091】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は66Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[実施例16]
MCP16.0g、HAP(焼成品、平均粒径5μm)6.2g、ポリビニルアルコール(平均分子量500)15.0g、アナターゼ型酸化チタン(スーパーチタニア、昭和
電工製、平均粒径6nm、凝集後の粒子は15,000倍に拡大したSEM像で、0.1〜2μmの粒子が確認できた)0.1g、蒸留水62.7gをメノウ乳鉢にて充分に混練
し、得られた組成物をガラス製密閉容器に保存した。
【0092】
このようにして得られた組成物の36℃における粘度は87Pa・sであった。
また、得られた組成物を使用直前に取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。結果を表1に記載する。
[比較例1]
市販の歯科用研磨材(メルサージュ、レギュラー、松風(株)製)を0.1g取り出し、上述の研磨材評価、知覚過敏抑制評価を行った。
結果を表1に記載する。
【0093】
【表1】

【0094】
<研磨材評価>
たれ:○・・組成物の「たれ」がない。
△・・組成物にわずかな「たれ」が生じた。
【0095】
×・・組成物に過度の「たれ」が生じた。
飛散:○・・組成物の飛散がない。
△・・組成物が微量飛散した。
【0096】
×・・組成物が過度に飛散した。
エナメル表面の肉眼所見:
○・・光沢がある。
【0097】
△・・部分的に研磨されていない、もしくは曇りがある。
×・・過度に傷が入っている。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物は、高い歯牙研磨性能および高い操作性を有している。しかもこの組成物は、歯牙研磨の際に誘発される知覚過敏を著しく抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に酸性基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易に酸性基に転換される官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなる酸性基含有(共)重合体、
(B)無機カルシウム塩、
(C)水、
を含有することを特徴とする知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項2】
上記酸性基含有(共)重合体(A)成分が、分子内にスルホン酸基を有するラジカル重合性単量体、分子内に水中で容易にスルホン酸基に転化する官能基を有するラジカル重合性単量体およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも一種類のラジカル重合性単量体が(共)重合してなるスルホン酸基含有(共)重合体であることを特徴とする請求項第1項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項3】
上記酸性基含有(共)重合体(A)成分が、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアマイド−2−メチルプロパンスルホン酸、およびこれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体が(共)重合してなることを特徴とする請求項第2項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項4】
上記無機カルシウム塩(B)成分が、CaHPO4、Ca3(PO42、Ca5(PO43OH、Ca4O(PO42、Ca82(PO46、Ca10(PO46(OH)2、CaP411、Ca(PO32、Ca227、Ca(H2PO42、CaO、Ca(OH)2、C
aCO3およびこれらの水和物よりなる群から選択される少なくとも1種の無機カルシウ
ム塩であることを特徴とする請求項第1項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項5】
上記知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物が、さらに(D)酸性化合物を含有することを特徴とする請求項第1項乃至第4項のいずれかの項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項6】
上記知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物が、さらに(E)フッ素化合物を含有することを特徴とする請求項第1項乃至第4項のいずれかの項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項7】
上記知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物が、さらに(F)過酸化水素および/または過酸化尿素を含有することを特徴とする請求項第1項乃至第4項のいずれかの項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。
【請求項8】
上記知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物が、さらに(G)チタン化合物を含有することを特徴とする請求項第1項乃至第4項のいずれかの項記載の知覚過敏抑制性歯科用研磨材組成物。

【公開番号】特開2008−184436(P2008−184436A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20039(P2007−20039)
【出願日】平成19年1月30日(2007.1.30)
【出願人】(592093578)サンメディカル株式会社 (61)
【Fターム(参考)】