説明

短パルスレーザ装置

好ましくは受動モード同期の短パルスレーザ装置(11)であって,レーザ結晶(14)と,ポンプビーム注入ミラー(M1)及びレーザビーム分離ミラーを形成するいくつかのミラー(M1〜M7,OC)とを含む共振器(12)を備え,また共振器長を増加させる多重反射望遠鏡(18)を備える。動作中,共振器(12)は特定波長周波数範囲で正の平均分散を有する。共振器(12)の正の平均分散は,共振器(12)の少なくともいくつかは分散ミラーとして具現化されているミラー(M1〜M7,OC)によって調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,好ましくは受動モード同期の短パルスレーザ装置に関し,それは,レーザ結晶と,一つはポンプビーム入射結合ミラーであり,もう一つはレーザビーム射出結合器である複数のミラーを含む共振器と,前記共振器長を拡大する多重反射望遠鏡とを備え,前記共振器は,動作中関連する波長に対して正の平均分散を持つ。
【背景技術】
【0002】
近年,研究及び産業において,パルスピーク強度が1MWを超えるフェムト秒範囲の極めて短いパルス幅のための有利なアプリケーションが可能になったので,短パルスレーザ装置が注目を集めている。例えば,フェムト秒範囲のパルス幅を持つような短パルスレーザ装置は,電磁放射と物質との間の相互作用の時間分解調査に用いることができる。パルス幅が例えば10fs(フェムト秒)でエネルギが100nJ,またパルス繰り返しレートが例えば10MHzオーダであるレーザパルスを発生するレーザ装置が望まれる。従来のチタニウム−サファイアフェムト秒レーザでフェムト秒範囲の初期のレーザ装置に比べて,比較的パルス繰り返しレートが低い(例えば約100MHzではなく,数MHzのオーダ)ことが望まれる。何故なら,多くのアプリケーションにとって,1013W/cm2より大きい範囲でより高いパルスピーク強度が得られるからである。純粋に計算上は,そのような比較的低い繰り返しレートは,逆にレーザ共振器内では比較的長いパルス往復時間となることを意味する。それは,共振器長が,例えば2mから16mに増加し,それによりレーザ装置の寸法が増加することを必然的に伴う。
【0003】
D.Herriott et al.による初期の検討”Off-Axis Paths in Spherical Mirror Interferometers",Applied Optics,1964年4月,3巻,4号,pp.523−526に基づいて,”多重反射”望遠鏡,又は短く”望遠鏡”と呼ばれる,”多重経路”共振器部によるレーザ装置内のパルス往復時間の拡大が,既に提案されている。比較として,例えばAT−A−763/2002,S.H.Cho et al. ,”Generation of 90-nJ pulses with a 4-MHz repetition-rate Kerr-lens mode-locked Ti:Al2O3 laser operating with net positive and negative intracavity dispersion”,Optics Letters, 2001年4月15日,26巻,8号,pp.560−562,及びA.Poppe et al.,”A Sub-10 fs, 2.5-MW Ti:Sappire Oscillator”,Ultrafast Optics 1999,pp.154−157,Ascona,スイス(1999年),を参照されたい。そのような望遠鏡により,対向して配置されたミラーによる複数の反射により,多重経路によって組み立て上有利な方法でパルス往復時間を増加させることが可能になり,それによって繰り返しレートを例えば約100MHzから数MHzに減少させることができるようになる。これにより,往復で射出結合したパルス部のエネルギ成分を適切に増加させる,すなわち平均出力強度を変化させないことが可能になり,際立って増加した出力パルスエネルギ及びピーク強度が達成できる。
【0004】
しかし,この観点で,非線形光学効果は不利で制限があることが分かり,その影響はレーザ結晶内の高いピーク強度により生じ,共振器内で周回している比較的高エネルギの光パルスをいくつかの弱いパルスに分離させることにつながる。これは(負の)共振器分散の量を増加させることによって減少させることができるが,しかしそれは必然的に,達成できるバンド幅の減少と,際立って長いパルス幅につながる。反対に,前述の記事,S.H.Cho et al. ,”Generation of 90-nJ pulses with a 4-MHz repetition-rate Kerr-lens mode-locked Ti:Al2O3 laser operating with net positive and negative intracavity dispersion”は,レーザ装置を,全体として正の分散を持ち,高度にチャープした(chirped)パルスがピコ秒の範囲を形成,すなわち際立ってピーク強度が減少したパルスを形成するように動作させることができることを既に示唆している。外部に設定された,すなわち共振器の外にある,いわゆる”圧縮器”(プリズム,格子,ミラー,又はそれらの組合せを備える)により,パルスはその後,数フェムト秒に再度圧縮することができ,ピーク強度が増加する。S.Cho et al.による前述の文書によれば,この動作状態で,(比較的小さな)スペクトル帯域幅19nm及びパルス幅80fsが達成された。共振器内で,分散制御のために2個のプリズムが用いられた。
【0005】
しかし,調査により,より大きな帯域幅,それ故より短いパルスを得るために,共振器内の最終的な全体分散が,所望のスペクトル範囲に渡ってできる限り一定である必要があることが示されている。しかし,2個のプリズムはまた,必然的により高次の分散(すなわち,二次分散(GDD)が帯域幅に渡って一定でない)をもたらし,また求めるより短いパルス及びより大きな帯域幅を発生させるには,既知の装置は実際適切ではないことが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は,このことの救済策を提供し,求める短レーザパルス及び所望の大きな帯域幅を効率よく達成できる,初めに定義した種類の短パルスレーザ装置を提供することにある。初めに定義した種類の本発明の短パルスレーザ装置は,共振器の正の平均分散の調整を,少なくともいくつかが,それ自体は既知の方法で分散性ミラーとして設計されている共振器のミラーによって行うことを特徴とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さまざまな誘電性で分散性のミラーを組み合わせることにより,本発明による短パルスレーザ装置は,与えられるレーザ周波数全体に渡ってほとんど任意の分散特性(course)を得ることができるようになる。また,それ自体は既知であるが,複数の誘電性層からなるミラー(その構造及び効果はこの後,より詳細に説明される)を,素材の選択及び層厚の選択に基づいて,どの場合においても問題の波長範囲で所望の分散を得られるように設計することができるようになる。したがって,その後にすべてのレーザ部品の合計分散値,すなわちレーザ結晶,共振器内の空気,ミラー及び任意の可能性のある付加部品の分散に起因する共振器の合計分散を調整することができる。それにより,パルスが共振器内で高度にチャープし,それ故ピーク強度が低下するように,パルススペクトルのスペクトル範囲に渡って平均された合計分散値を正の値にする。特に,広い波長範囲に渡って合計分散を許容範囲内の正の分散範囲に保つこともでき,それにより比較的大きな帯域幅,したがって非常にわずかなフーリエ限界パルス幅が達成される。これは,示唆された分散性ミラーを用いる非常に単純な方法で可能であり,ここで,避けがたい変動を伴う異なる分散特性を持つ個々のミラーが,求める目的にしたがって組み合わされ,それで全体の分散特性が,例えば280nmを超える波長範囲に渡って達成される。分散動作においてわずかな変動を示す適切に設計された分散性ミラーによって,より大きな波長範囲で選択された許容範囲内,又は予め定められた許容範囲内の合計分散特性が得られる。
【0008】
可能な限り大きな帯域幅を保証するために,もし例えば0〜100fs2の範囲,特に0〜50fs2の範囲で平均分散がわずかに正であるように正の合計分散範囲が選ばれていれば,これもまた有利であることが分かる。
【0009】
分散の制御のためには,原理的には共振器の個々のミラーだけが用いられる。すべての可能な調整を最適に利用するため,共振器のすべてのミラーは,好ましくは負の分散を持つ分散性ミラーとして設計されるのが有利である。さらに,この理由により,多重反射望遠鏡のミラーもまた,好ましくは負の分散を持つ分散性ミラーとして与えられる。
【0010】
多くの場合,補助的な分散の微調整のために,例えば近接して配置され反対方向を向いた,それ自身は既知の2個のガラスくさびによって,共振器内に(小さな)可変量の正の分散を導入することも適当である。
【0011】
共振器の所望の正の最終的な分散を調整するために,原理的には示唆された分散性のミラーと2個のプリズムとの組合せの利用が考えられるが,それでも,一般には分散性ミラーだけを使い,選択的に前述のガラスくさびを共に使う,分散制御が好まれる。
【0012】
好ましい受動モード同期のために(本発明の範囲内で,原理的には能動モード同期も考えられる),本発明の短パルスレーザ装置ではそれ自身は既知の”カー(Kerr)レンズモード同期”原理が用いられ,更にそれ自身はまた既知であるが,可飽和吸収器がまた用いられる。可飽和吸収器は,共振器内のビーム経路に配置され,更に好ましくは共振器の最終ミラーがまた可飽和吸収器−反射器として用いられる。
【0013】
本発明の短パルスレーザ装置は,素材処理の分野で特に有利に用いることができる。そこではますます微細化が進んでおり,微細構造が正確さと高速さをもって製造されなければならない。高出力パルスエネルギ及び高繰り返しレートを可能にする本発明の短パルスレーザ装置は,このために理想的に用いることができる。本発明の短パルスレーザ装置は,破壊しきい値(すなわち,素材破壊のしきい値エネルギ)のわずか上で動作することが可能であり,前記の高繰り返しレート及び発生される複数のパルスにより,高アブレーションレート及びそれにもかかわらず精密な処理が達成できる。
【実施例】
【0014】
次に,図面に示された好ましい例としての実施例を用いて本発明を更に説明する。しかし,本発明はその例に制限されるものではない。図1に短パルスレーザ装置11が概略図として示されている。そこでは,例えば,それ自身は既知のカーレンズモード同期原理が短パルスを発生するのに用いられる。
【0015】
図1のレーザ装置11は,共振器12を備え,ポンプビーム13が例えば2逓倍固体レーザなどのポンプレーザから共振器に供給される。ポンプレーザそれ自身は簡略化のため図1では省略されており,また先行技術の一部である。
【0016】
レンズL1及びダイクロイックミラーM1を通過した後,ポンプビーム13はこの例ではチタニウム−サファイア(TI:S)固体レーザ結晶であるレーザ結晶14を励起する。ダイクロイックミラーM1はポンプビーム13を透過させるが,それでもなおTi:Sレーザビームに対して高反射性である。レーザビーム15(共振器ビーム)は,次にレーザミラーM2に当たり,後者によってレーザミラーM3に向けて反射される。このレーザミラーM3はまた,レーザビームをレーザミラーM4に向けて反射し,そこからレーザビーム15は逆にレーザミラーM3,M2,M1へ反射され,レーザ結晶14を再度通過する。共振器のミラーM2,M3及びM4の部分は,いわゆる短共振器アーム(arm)16を形成している。
【0017】
ミラーM1からレーザビーム15が次にレーザミラーM5へ反射され,そこからレーザミラーM6とさらにレーザミラーM7とに反射され,そこで第2の長共振器アーム17を形成している。レーザミラーM7からレーザビーム15は図1に単に概略として示されている望遠鏡18に入り,そこから射出結合ミラーOCとして働く最終ミラーに届く。この射出結合ミラーOCを介して,レーザビーム15の一部が,補正の可能性のために,図1に例として示されている補正プレートレット(CP)に射出される。
【0018】
レーザ結晶14は光学的に非線形であり,レーザビーム15がより高いフィールド強度のときはより大きい実効光学厚みを持ち,一方レーザビームのフィールド強度又は強度がより低いときはより小さい実効厚みを持つ,カーエレメントを形成する平面−平行体である。このそれ自体は既知のカー効果がレーザビーム15の自己集束に用いられる。すなわち,レーザ結晶14がレーザビーム15のための集束レンズを形成する。さらに,モード同期はそれ自体は従来の方法,例えば図1及び2には示されていないアパーチャによって実現される(例えば,AT 405 992 Bを参照)。しかし,それはまた,最終ミラーの一つ,例えばM4を可飽和ブラッグ(Bragg)反射器又は可飽和吸収器として設計し,モード同期のために用いることも考えられる。
【0019】
ミラーM1,M2・・・M7は,薄膜テクニックで実現される。すなわち,それらはそれぞれ,大きなスペクトル帯域幅を持つ極短レーザパルスを反射するときその機能を発揮する多くの層から成り,”あつらえの”分散をもたらす。これらのミラーは共振過程(Gires Tournois Interferometer, GTI),又はチャープミラー(Chirped mirror)のいずれかを利用する。これらにより,レーザビーム15の異なる波長成分がそれぞれのミラーで反射される前に,層の異なる深さまで侵入する。これによって,異なる波長成分は反射ミラーで異なる時間遅延する。例えば短波長成分はさらに外側で(すなわち,表面に向かって)反射され,長波長成分はミラーの内部深くで反射される。これにより,長波長成分は短波長成分に比べ,一時的に遅延する。このように,特に短い時間範囲(好ましくは10fs以下の範囲)を持つパルスが広い周波数スペクトルを持つ限りにおいて,分散補正が可能である。これは,レーザビーム15の異なる周波数成分が,レーザ結晶14中の異なる屈折係数に”出会う”,すなわちレーザ結晶14の光学的厚みが異なる周波数成分に対しては異なり,また異なる周波数成分はそのためレーザ結晶14を通過するとき異なった時間だけ遅延する事実による。この効果は,薄膜レーザミラーM1,M2・・・M7における前述の分散補正により,打ち消される。
【0020】
既に述べたように,動作中,レーザビーム15が短共振器アーム16及び長共振器アーム17をそれぞれ往復する間に,レーザパルスの一部(例えば30%)が射出結合ミラーOCによって射出結合される。実際上,レーザ共振器12の長さは望遠鏡18なしで約2mであり,そこで例えば繰り返しレート周波数75〜100MHz,例えば80MHzが得られる。より高いパルスピーク強度,すなわちパルスエネルギを得るために,往復時間を増加させ,それにより繰り返しレートを減少させ,例えばこのレーザ装置11を素材処理に使うことを目的として,レーザ共振器12の長さは,望遠鏡18を備えることにより増加する。合計共振器長を8倍に増加した場合,すなわち例えば共振器長が約15又は16mのとき,繰り返しレートを例えば約10MHzにすることができる。レーザパルスのためのこのような長い経路長を得るため,望遠鏡18内のミラーは,望遠鏡18の組み立て長を多重反射によって短くできるように,レーザビーム15の多重反射が得られるように配置される。
【0021】
図2は,長方形の据付盤19上に載せられている図1に従うようなレーザ装置11を示しており,盤は例えば900mm×450mmのサイズである。この据付盤19上に,図1の破線で囲った部分のレーザ共振器12の部分20がハウジングにカプセル化されて取り付けられており,更にまたポンプレーザ21が据付盤19上に配置され,そこからポンプビーム13が2個のミラー22,23を介してレーザ共振器20に供給されている。この共振器部20から,レーザビーム15がレーザミラーM6の方向に射出され,前述のようにそこからレーザミラーM7へ反射される。そこからレーザビーム15は望遠鏡18に入射され,望遠鏡18内には入射結合ミラー24が,例えばハウジング内の,2個の対向して配置された望遠鏡ミラー25,26の間のいくつかのビーム経路の一つに配置される。この入射結合ミラー24はレーザビーム15を,図2の左手にある平面望遠鏡ミラー25に向けて反射し,平面鏡は次にレーザビーム15を対向して配置された凹面望遠鏡ミラー26に向けて反射する。この2個の望遠鏡ミラー25,26の間でレーザビーム15は次に何回か,例えば8回,前後に反射され,この例では凹面望遠鏡ミラー26で合計8回の反射点は,8回のレーザビーム反射に伴って凹面ミラー26の中心の周りの仮想的な円上に位置する。これはまた,AT−A−763/2002に更に詳細に説明されている。
【0022】
最後に,レーザビーム15は入射結合ミラー14の近傍に配置された望遠鏡射出結合ミラー27によって,望遠鏡18から射出結合される。また,後者と同じビーム経路で,前記の射出結合ミラーがレーザビーム15を更なるミラー28へ反射し,そこからレーザビーム15はミラー29を介して射出結合ミラーOCへ届く。これらのミラー28,29(及び,同様にミラー22〜27)は,簡素化のために図1には示されていない。
【0023】
レーザパルス往復時間が延長された短パルスレーザ装置における重要な観点は,レーザ発信の安定性であり,個々のミラーで起きるレーザビーム断面像を考慮して,適切な適応がされなければならない。産業応用,すなわち素材処理の場合,のために特に重要な更なる意義深い観点は,レーザデバイス11が小形なことである。前述の寸法,例えば900mm×450mmは,産業用の従来のレーザデバイスに対応するものであり,ここでは個別組み立てユニットを形成している望遠鏡部18が追加で備えられ(図2参照),それで所望の長いレーザビーム15の往復時間と,それによるより高いパルスエネルギが寸法の増加なしに達成できている。求められるものは,従前のような10nJ未満ではなく,数百nJのオーダのパルスエネルギである。それで,2MWを超えるピークパルス出力を得ることができる。
【0024】
しかし実際には,高いピーク強度のためにレーザ結晶において非線形光学効果が生じることが示されており,それは増加した出力パルスエネルギ又はピーク出力を一定の平均出力強度で得るという所望の効果に制約となることが分かっている。特に,前記の非線形光学効果は,レーザ装置の共振器において周回している高エネルギレーザパルスが,より低い強度のいくつかのパルスに分離されることにつながる。これを打ち消すために,レーザ発振器又はレーザ共振器を最終的に正の分散となる範囲で動作させるのが適当であり,その場合高度にチャープしたパルスは際立って減少したピーク強度を持つピコ秒範囲のものとなる。先行技術(初めに示したS.Cho et al.を参照)では,この場合,レーザパルスを共振器の外部で,プリズム,格子又はミラー,若しくはそれらの組合せにより作られた”圧縮器”によって数fsのパルス幅に再度圧縮し,それによりピーク強度が再度増加させることが示唆されている。共振器における分散の全体的調整のために,この先行技術では2個のプリズムが用いられている。
【0025】
しかし,より短いパルス及びそれに伴うより大きい帯域幅を得るために,共振器における全体の分散を関係するスペクトル範囲(すなわち関係する帯域幅)に渡って可能な限り一定に保つ必要があり,そこでもし全体の分散がわずかに正,すなわちゼロよりわずかに上,量を特定するならば数10fs2,ならば更に有利であることが示されている。しかし,先行技術において見られるように,2個のプリズムにより得られる共振器は高次の分散を必然的に生じ,それで求める帯域幅に渡る所望の一定値を得ることができない。このことは,溶融シリカでできたプリズムで実現された圧縮器の分散特性を示している図3から明らかである。700〜900nmの波長範囲において,分散GDD(GDD:群遅延分散)が−250fs2の下から−50fs2のわずかに下まで変化し,約850nmで最大値−50fs2超となることが分かる。このように,示されたスペクトル範囲で,GDDの変動が200fs2を超えている。そのような分散特性では,求める短レーザパルスを作り出すことはできない。
【0026】
しかし本発明の短パルスレーザ装置11においては,さまざまな誘電性ミラー,例えばM1〜M7によって,また選択的に望遠鏡ミラー26,27にもよって,分散の調整が行われ,そこで層構造及び層厚の点で適切に作られた,それ自身は既知の分散性ミラーが,共振器12全体の所望の正の最終的な分散を調整するためにレーザ装置11の残りのエレメントと結合されている。その際,図4のハッチした範囲に概略示されているように,分散は0〜100fs2,好ましくは0〜50fs2の範囲に保たれ,そこでカーブAは,本発明の実践的な例としての実施例における分散特性を示している。比較のために,図4には,先行技術に従い分散制御のために2個のプリズムを用いる(S.Cho et al.参照)とき得られる分散特性がカーブBによって示されている。レーザ共振器12の残りの構成部品と組み合わせることにより,分散特性が図3に概略図示されている2個のプリズムはカーブBで示された最終的分散特性を示し,求める範囲,すなわち0fs2と50fs2との間に分散が収まるのは,約180nmの帯域幅だけであることが分かる。一方,カーブAの分散は,680〜960nmの図示されたすべてのスペクトル範囲で,すなわち少なくとも280nm,一般にはより大きい帯域幅の範囲で,求める範囲,すなわち0〜50fs2以内である。カーブBに関してはさらに,溶融シリカでできたプリズムは比較的わずかな高次分散によって既に特徴付けられており,それ故,既に最適化されていると考えなければならないが,しかし結果は分散性ミラーを用いた本発明の分散調整の場合に比べてまだ相当に貧弱であることに言及しなければならない。
【0027】
分散制御のために分散性ミラーを用いることにより,共振器12内に他の構成部品によってもたらされる正の分散を打ち消すために要求される負の分散が得られる。このように,例えばレーザ結晶14が,共振器12内に含まれる空気と同様に正の分散をもたらす。別の選択として,例として図1に示すように,2個の可変の,すなわち調整可能なガラスくさび30を共振器12内に,例えば望遠鏡18の前に,追加の正の分散を得るために配置してもよい。ここで,2個のガラスくさび30は溶融シリカでできていてもよい。
【0028】
本発明の短パルスレーザ装置11では,パルスを再度,数fsのパルス幅に圧縮するために,パルスが共振器内でチャープされた後,図1,2に示されたように外部の”圧縮器”31が用いられる。圧縮器もまた,据付盤19に据え付けられる(図2参照)が,また望遠鏡18と同様に別個の組み立てユニットを形成していてもよい。図1及び2に,プリズム32,33で作られたこの”圧縮器”31が概略示されている。詳細に見て取れるように,射出結合ミラーOCを介して射出結合されたレーザビームは,ミラー34でミラー35へ反射され,ミラー35は次にレーザビームを2個の前述のプリズム32,33へ反射し,そこでレーザビームはまず前方に進む間(図1及び2では左に),最終ミラー36で反射されるまで扇状に広げられる。レーザビームがプリズム33及び32を通って反対に進むとき,スペクトル内の異なる波長と,それに対応する異なる伝播時間とのために以前に広げられたレーザビームは再度束ねられ,その経路は前方に進むレーザビームに対してわずかにオフセットしており,これにより図1の矢印37で示されるようにミラー35を過ぎて射出結合される。
【0029】
具体的な例としての実施例では,個々のエレメント及び共振器12全体に対して,示された波長700nm,800nm及び900nmにおいて次の表に示された分散値が得られている。
【表1】

【0030】
ここで考慮した例では,レーザ結晶14として厚さ3mmのチタニウム−サファイア結晶が用いられており,それは上述のように2回往復すると合計6mmの厚さを考慮しなければならないことを意味する。そのほか,射出結合ミラーOCからそこへ戻るまでの2回の往復はまた,すべての他のエレメントに関係する。
【0031】
10MHzの繰り返しレートを持つ例としての共振器12は,全往復で15mの長さがあり,そのため共振器12内の空気による分散を考慮に入れなければならない。
【0032】
望遠鏡18においては,各通過当たり,及び望遠鏡ミラー25又は26当たり,8回の反射を考慮に入れなければならない。
【0033】
正の分散を付加的にもたらす共振器12内のガラスくさび30は厚さ12mmであり,すなわち2回の通過で合計24mmを考慮しなければならない。
【0034】
さらに分散調整のために,適切なミラー設計がされた6個の分散性ミラーM6,M7,24,27,28及び29が特に使われる。
【0035】
図5は実際のテスト設定で測定された信号の自己相関の図であり,信号強度(任意単位)が時間(同じく任意単位)に対して示され,パルス幅27fsがそれから計算できる。
【0036】
図6は,関連するスペクトラムが示されており,今度はnm単位の波長λに対して,信号強度がここでも任意単位で示されている。
【0037】
この例で得られたパルスエネルギは200nJよりも大きく,繰り返しレートは11MHz,波長範囲Δλは約40nmであった。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の望遠鏡を持つ短パルスレーザ装置の構造を示す図である。
【図2】据え付け盤に配置された短パルスレーザ装置を示し,また望遠鏡領域のレーザビームの入射結合及び射出結合が概略示されている。
【図3】先行技術の2個のプリズムによる分散特性を示す。
【図4】二つのカーブA,Bがそれぞれ,本発明の短パルスレーザ装置(カーブA)と,共振器に負の分散をもたらすためにいわゆる溶融シリカプリズムが用いられた先行技術のレーザ装置の特性(カーブB)とを示す。
【図5】自己相関測定結果を任意単位の信号強度対時間(これも任意単位)で示す。
【図6】図5に示す測定された自己相関に対応するスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好ましくは受動モード同期(mode−locking)の短パルスレーザ装置であって,レーザ結晶(14)といくつかのミラー(M1〜M7,22,23,OC)とを含む共振器(12)を備え,ミラーの一つはポンプビーム入射結合ミラー(22)を形成し,また一つはレーザビーム射出結合ミラー(OC)を形成し,また共振器長を増加させる多重反射望遠鏡(18)を備え,前記共振器(12)は動作中,関係する波長範囲に渡って正の平均分散を有し,そこで前記共振器(12)の正の平均分散の調整を,前記共振器(12)の少なくともいくつかは分散ミラーとして設計されるミラー(M1〜M7,22,23,OC)によって行うことを特徴とする短パルスレーザ装置。
【請求項2】
前記共振器(12)の関連する波長範囲に渡って平均した分散を,0〜100fsの範囲に調整することを特徴とする請求項1に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項3】
前記の平均分散を0〜50fsの範囲とすることを特徴とする請求項2に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項4】
前記共振器(12)のすべてのミラーを分散ミラーとすることを特徴とする,請求項1〜3のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項5】
前記共振器(12)のすべてのミラーは負の分散を有することを特徴とする請求項4に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項6】
前記多重反射望遠鏡(18)のミラー(25,26)を分散ミラーとすることを特徴とする,請求項1〜5のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項7】
前記多重反射望遠鏡(18)のミラー(25,26)は負の分散を有することを特徴とする請求項6に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項8】
追加の分散微調整のために,正の分散を持つ2個のガラスくさび(wedge)(30)を前記共振器(12)内に配置することを特徴とする,請求項1〜7のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項9】
受動モード同期のために,カー(Kerr)レンズモード同期原理を用いることを特徴とする,請求項1〜8のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項10】
受動モード同期のために,可飽和吸収器(M4)を用いることを特徴とする,請求項1〜8のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の短パルスレーザ装置の素材処理のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−511079(P2007−511079A)
【公表日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538588(P2006−538588)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【国際出願番号】PCT/AT2004/000336
【国際公開番号】WO2005/048419
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(500233278)フェムトレーザース プロドゥクシオンズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (8)
【Fターム(参考)】