説明

短鎖脂肪酸の尾部を有するポリミキシン誘導体およびその使用

本発明は、生理的pHにて合計3個の正電荷を有し、末端部分(D)が合計1〜5個の炭素原子を含むポリミキシン誘導体;当該誘導体の少なくとも2個の組合せ製品に関する。さらに、本発明は、前記抗菌剤および本発明にかかる誘導体の治療に有効な量を対象に同時にまたはいずれの順番で順に投与することによって、グラム陰性菌を抗菌剤に感作させる方法;新規抗生物質の開発方法;ならびに臨床的に重要な細菌を血清中に存在する宿主防御機構補体に感作させる方法に関する。また、本発明は、本発明のポリミキシン誘導体を第二の抗菌剤と組み合わせて投与することによって、グラム陰性菌感染症について対象を治療する方法に関する。最後に、本発明は、そのようなポリミキシン誘導体を製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリミキシン誘導体および該誘導体のグラム陰性菌が原因の感染症治療への使用に関するものである。本発明のポリミキシン誘導体は、特に細菌を感作して他の抗菌物質の効果を高めるのに役立つ。
【背景技術】
【0002】
敗血症によって毎年215,000人を超えるアメリカ人が死亡している。毎年750,000人のアメリカ人が重篤な敗血症に感染し、そのうち29%が毎年死亡していると推定されている。敗血症による死亡は、アメリカ合衆国において全死亡数の9%を占める。敗血症により、交通事故よりも多くて心筋感染症と同程度の人数のアメリカ人が死亡している。
【0003】
毎年200〜300万人のアメリカ人が院内感染し、この感染者の10%が敗血症に進行する。これらのうち90,000人を超える患者が病院内において感染した敗血症によって死亡している。
【0004】
重篤な敗血症および敗血症ショック(低血圧を伴う重篤な敗血症)は、2000年OECD保健報告によると、欧州連合内の集中治療室(ICU)において135,000人にも上った。イギリスにおいては、院内感染した100,000人の患者のうち5,000人が毎年NHS機関に属する救急病院において敗血症により死亡している。
【0005】
死亡者数が年々増加しているのは、高齢者、未熟児、および癌患者等の敗血症にかかりやすい患者数が増加しているためであり、特に、他の多くの重症疾患が以前よりも治療可能であるからである。侵襲的な医療機器および攻撃的な治療法の用途も同様に増加してきている。
【0006】
グラム陰性菌は、全敗血症感染症の40%以上の原因となり、グラム陰性菌の多くは、極めて多耐性である。グラム陰性菌は、その最外側構造として外膜が独特の構造を有するので、グラム陽性菌よりも治療が困難である。外膜に位置するリポ多糖類分子は、多くの抗菌物質がその最終的な標的が位置する細胞内に深く拡散するのを阻害する。1972〜1991年に自然界から単離されたまたは化学的に合成された95%を超える新規抗菌物質は、グラム陰性菌に対する活性に欠ける(Vaara 1993(非特許文献1))。
【0007】
ポリミキシン類は、パエニバチル・スポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)および関連微生物の菌株によって産生した一群と密接に関連した抗生物質である。これらの陽イオン性薬物は、分子量が約1000の比較的簡単なペプチドである。ポリミキシンB等のポリミキシン類はデカペプチド抗生物質、すなわち、10個のアミノアシル残基から構成されるものである。これらは殺菌性であり、特に大腸菌および他の種族の腸内細菌、シュードモナス、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)等のようなグラム陰性菌に対して効果的である。しかし、ポリミキシン類は、腎毒性および神経毒性を含む重大な副作用を有する。したがって、これら薬物は、高い全身毒性のために治療薬としての使用が制限されてきた。
【0008】
ポリミキシン類は、その細菌によって引き起こされた重篤な感染症の治療に用いられてきたが、より新しくより高い耐性を持つ抗生物質が開発されると、その毒性のために70年代に使用が著しく破棄された。グラム陰性菌の多耐性の菌株が近年出現したことにより、それらの毒性にも関わらず、ポリミキシン類の治療上の使用を最後の手段として必要となり、また毒性の低い抗生物質の多くが既に前記細菌の特定の菌株に対する効力を失ったため、ポリミキシン類の使用が再び増加した。
【0009】
したがって、ポリミキシン類は、その毒性により極めて制限された規模ではあるが、現在治療備品に呼び戻されている。しかし、これらの体系的な(すなわち、局所的ではない)使用は、緑膿菌およびアシネトバクター・バウマンニの多耐性の菌株並びにカルバペネム耐性腸内細菌によって引き起こされた命を脅かす感染症の治療に大きく制限されている。
【0010】
ポリミキシン類は、環状のヘプタペプチド部と、トリペプチド部分および該トリペプチドのN末端アミノ酸残基のαアミノ基に結合した疎水性脂肪酸の尾からなる直鎖状部とから成り、次式:
【化1】

によって表すことができ、ここでR1〜R3がトリペプチドの側鎖部分を表し、R4〜R10がヘプタペプチド環状部分を表し、R(FA)はトリペプチドのN末端アミノ酸残基のαアミノ基に結合した疎水性脂肪酸の尾部を表す。
【0011】
ポリミキシン群は、以下のポリミキシン類、A1,A2,B1−B6,IL−ポリミキシン B1,C,D1,D2,E1,E2,F,K1,K2,M,P1,P2,SおよびTを含む(Stormら. 1977(非特許文献2); Srinivasa及びRamachandran 1979(非特許文献3))。すべてのポリミキシン類は、ポリ陽イオン性であり、4個の正電荷を有するポリミキシンD、FおよびSを除いて、5個の正電荷を有する。脂肪酸部R(FA)を欠くが、R1〜R10を有する修飾したポリミキシン類は、それらを誘導した天然ポリミキシン類と比較すると、誘導体のN末端における遊離αアミノ基により、1個の追加正電荷を有することに注目すべきである。したがって、例えば、ポリミキシンBまたはポリミキシンE等の誘導体は、全部で6個の正電荷を有する。
【0012】
臨床的に用いられるポリミキシンBおよびポリミキシンEは、残基R6のみが互いに異なり、ポリミキシンBではD―フェニルアラニン残基、ポリミキシンEではD―ロイシン残基である。
【0013】
また、サークリンAおよびBをポリミキシン類として分類する(Stromら 1977(非特許文献2))。これらが他のポリミキシン類と異なるのは、位置R7においてイソロイシル残基を有することのみであり、他のポリミキシン類は前記位置にトレオニルまたはロイシル残基のいずれかを有する。いくつかのポリミキシン類の構造の概要については表1を参照。
【0014】
【表1】

【0015】
ポリミキシンBは次式:
【化2】

で表される。
【0016】
市販のポリミキシンBは、R−FAが主に6―メチルオクタノイル(6−MOA、ポリミキシンB1において)であるが、6―メチルヘプタノイル(6−MHA、ポリミキシンB2において)、オクタノイル(ポリミキシンB3において)またはヘプタノイル(ポリミキシンB4)のような関連する脂肪酸アシルでもよい混合物である(Sakuraら 2004(非特許文献4))。これらすべての変異体は、大腸菌のようなグラム陰性菌に対して等しく効能がある(Sakuraら 2004(非特許文献4))。同様に、ポリミキシンE1(コリスチンA)およびサークリンAにおけるR−FAは6−MOAであり、ポリミキシンE2(コリスチンB)およびサークリンBにおけるR−FAは6−MHAである。多くの研究者が、様々な脂肪酸アシル残基を含む様々な疎水部分をポリミキシン誘導体およびその類似体のN末端に結合させ、生成した誘導体が強力な抗菌活性を有することを示した(Chiharaら 1973(非特許文献5), Sakuraら 2004(非特許文献4),および 米国特許出願公開第2006004185号(特許文献1))。R−FAとして巨大な疎水性9フルオレニルメトキシカルボニル残基を有する誘導体さえも、大腸菌および他のグラム陰性菌の増殖を阻害するのにポリミキシンBと同じくらい強力である(Tsuberyら 2001(非特許文献6))。
【0017】
ヘプタペプチド環状構造が生物学的活性に必須である(Stormら 1997(非特許文献2))。オクタペプチド環を有する誘導体は、抗生物質としての活性が著しく低い。
【0018】
ポリミキシン類の多様な修飾体および多様なポリミキシン類似合成分子が作成され、一定の制限を伴って生物活性を維持する。修飾体並びに分子は側鎖を有するが、これに限定されず、ここで固有の疎水性アミノ酸残基(DPhe又はLeuのような)が他のアミノ酸残基と交換されるか、または陽イオン性DabがLys,Argまたはオレニチン残基のような他の陽イオン性アミノアシル残基と交換される(Stormら 1997(非特許文献2), Tsuberyら 2000a(非特許文献7), Tsuberyら 2002(非特許文献8), 米国特許出願公開第2004082505号(特許文献2),Sakuraら 2004(非特許文献4),米国特許出願公開第2006004185号(特許文献1))。
【0019】
微生物学的に少なくとも部分的に活性な化合物となる他の修飾体は、アルカノイルエステルを備えるが、これに限定されず、ここでトレオニン残基のOH基がプロピオニルおよびブチリルのようなアルカノイルとエステルを形成する(米国特許第3450687号明細書(特許文献3))。
【0020】
オクタペプチン類は、ポリミキシン類と同一であるが、残基R1〜R2の代わりに共有結合を有する(表1)。本発明においては、R位置を天然ポリミキシン類におけるものに従って番号付けし、したがってオクタペプチン類の側鎖におけるアミノアシル残基のみがR3’として定義される。したがって、オクタペプチンはオクタペプチドであり、全ての天然ポリミキシン類はデカペプチドであり、4個の正電荷しか持たない。様々なオクタペプチン類(A1,A2,A3,B1,B2,B3,C1)中のR−FA残基は、以下の3−OH−8−メチルデカン酸、3−OH−8−メチルノナン酸およびβ−OH−6−メチルオクタン酸を含む。6〜18個の炭素原子の脂肪酸アシル残基を有する誘導体は、大腸菌に対して強力な抗菌活性を有する(Stormら 1997(非特許文献2))。
【0021】
グラム陰性菌におけるポリミキシン類の最初のターゲットは、大きな(700dを超えるMw)抗生物質並びに疎水性抗生物質を含む多くの有害性剤に対して効果的な透過障壁である外膜(OM)である。OMの外面に露呈したリポ多糖体(LPS)分子に結合することによって、ポリミキシン類は、OMの構造および機能にダメージを与え、その結果OMをポリミキシン自体並びに他の多くの有害性剤に透過性にする(すなわち透過可能となる)(NikaidoおよびVaara 1985(非特許文献9), Vaara 1992(非特許文献10), Nikaido 2003(非特許文献11))。ポリミキシン類の最終的な致死のターゲット(殺菌性のターゲット)は、細菌の細胞質膜(内膜)だと言われている。
【0022】
ポリミキシン類の毒性を低減するために多くの努力がなされてきた。ホルムアルデヒドおよび亜硫酸水素ナトリウムでポリミキシンE(コリスチン)を処理すると、5個のジアミノ酪酸残基の遊離アミノ基がスルホメチル基によって部分的に置換されたコリスチン硫酸(colistin sulphomethate)が得られる(表1)。調剤は、モノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ置換化合物の不定の混合物から成る。スルホメチル化調剤は、新たに水に溶解する際、最初に親分子の抗菌活性および毒性の両方を失うが、化合物が溶液中、血中または組織中で分解を開始してより置換の少ない誘導体および遊離コリスチンを生成する際は、抗菌活性および毒性の両方が部分的に回復する。さらに、初期のスルホメチル化の程度は、明らかに市販の医薬品によって異なる。すべての遊離アミノ基をブロックする多くの他の方法も開示されてきた。実施例には、限定することはないが、アミノ酸類で不安定なシッフ塩基の形成がある(Stormら 1997(非特許文献2))。
【0023】
ポリミキシンEを酵素的に処理し、R−FAおよびR1を欠くことにより得たポリミキシンEノナペプチド(PMEN、コリスチンノナペプチド、表1)は、ラットの正確な毒性試験(おそらく直接的神経筋遮断薬による突然死)において親化合物よりも毒性が低いことが1973年に示された(Chiharaら 1973(非特許文献5))。しかし、これは、細菌増殖を阻害する能力として測定した抗菌活性も失う(Chiharaら 1973(非特許文献5))。直線部の役割はポリミキシン類の抗菌活性に寄与する可能性がある。
【0024】
一方、VaaraおよびVaaraは、ポリミキシンBノナペプチド(PMBN、表1)がグラム陰性菌のOMを透過性にする能力を維持することを示した(VaaraおよびVaara 1983a(非特許文献12),b(非特許文献13),c(非特許文献14);米国特許第4510132号明細書(特許文献4);Vaara 1992(非特許文献10))。したがって、直接的な抗菌活性(すなわち、細菌の増殖阻害能力)が欠けているとしても、疎水性抗生物質および大きな抗生物質のような多くの抗菌剤や他の幾つかの有害性剤に対して細菌を感作させる(すなわち敏感にする、または同様に言うと、多感にする)ことができる。
【0025】
PMBNはまた、侵入物に対する第一線の防御系として新鮮なヒトの血清に存在するヒトの補体系の殺菌活性に細菌を感作させる(VaaraおよびVaara 1983a(非特許文献12), Vaaraら 1984(非特許文献15), Vaara 1992(非特許文献10))。さらに、血清補体およびヒト多核白血球の共同殺菌活性に細菌を感作させる(Roseら 1999(非特許文献16))。
【0026】
PMBNは、未修飾のポリミキシン類よりラットの正確な毒性試験において毒性が低い点でPMENと似ている。さらなる毒性試験において、様々な基準によってPBMは親化合物より毒性が低いと証明されたが、このポリミキシン誘導体は、依然として臨床用途では腎毒性が強すぎると判断された(Vaara 1992(非特許文献10))。
【0027】
PMBNは5個の正電荷を有する。その後の研究によって、全く予想通り、5個の正電荷を有するPMEN並びに共に6個の正電荷を有するデアシルポリミキシンBおよびデアシルポリミキシンEが、他の抗生物質に細菌を感作させる強力な物質であることが解明された(Viljanenら 1991(非特許文献17), Vaala 1992(非特許文献10))。加えて、構造的にさらに減少した誘導体ポリミキシンBオクタペプチド(PMBO)は極めて有効な透過活性を維持するが、ポリミキシンBヘプタペプチド(PMBH)は活性が低いことが示された(Kimuraら 1992(非特許文献18))。PMBN,PMENおよびPMBOは5個の正電荷を有するが、PMBHは4個しか正電荷を有さない。この違いによりPMBHの低活性を説明できる。
【0028】
最近、Ofek,TsubeyおよびFriedkinは、多形核白血球を引き付けるfMLFのような走化性ペプチドに結合したポリミキシン類似ペプチドを開示している(米国特許出願公開第2004082505号(特許文献2)、Tsurbeyら 2005(非特許文献19))。彼らは、化合物の濃度を高くした比較研究を公表しなかったけれども、すべて4個の正電荷を有し、抗生物質にグラム陰性菌を感作させるペプチドfMLF−PMBN,MLF−PMBN,fMLF−PMEN,fMLF−PMBOを開示している(Tsurbeyら 2005(非特許文献19))。
【0029】
ポリミキシン類の構造および機能特性を研究するために、数人の研究者が、他の化合物のうち4個未満の正電荷を有するポリミキシン誘導体を開示した。
【0030】
Teuber(1970)(非特許文献20)は、ポリミキシンBを無水酢酸で処理してポリミキシンB並びにそのモノ、ジ、トリ、テトラおよびペンタ−N−アセチル化体を含む調剤を得ることを開示した。Teuberはまた、各基を分け、寒天拡散試験を用いてペンタアセチル化体およびテトラアセチル化体が、ラットチフス菌(Salmonella typhimurium)の増殖を止める能力に欠けるが、ジおよびモノアセチル化体はこの能力を有することを非定量的に示した。トリアセチル化体はいくらかの能力を有する。
【0031】
SrinivasaおよびRamachandran(1978)(非特許文献21)は、一部ホルミル化したポリミキシンB誘導体を分離し、ジホルミル誘導体並びにトリホルミル誘導体が緑膿菌の増殖を阻害することを示した。彼らは、この組成物の抗生物質に細菌を感作する能力を開示しなかった。さらに、1980年、彼らは、残基R1およびR3’におけるトリホルミルポリミキシンBの遊離アミノ基と、残基R1,R3’,およびR5におけるジホルミルポリミキシンBの遊離アミノ基が増殖阻害に必須であるが、R8およびR9における遊離アミノ基は必須ではないことを示した(Srinivasa and Ramachandran, 1980a(非特許文献22))。
【0032】
短縮ポリミキシンB誘導体オクタノイルポリミキシンBヘプタペプチドが、Sakuraらによって開示された(2004、非特許文献4)。オクタノイル残基をポリミキシンBヘプタペプチドの残基R4のN末端に結合させると、3個の正電荷のみを有する化合物になる。Sakuraらは、オクタノイルポリミキシンBヘプタペプチドが、極めて高い濃度(128μg/ml)でのみ細菌の増殖を阻害するが、共に4個の正電荷を有するオクタノイルポリミキシンBオクタペプチドおよびオクタノイルポリミキシンBノナペプチドのような他の誘導体が細菌の増殖を阻害する極めて強力な薬剤であることを見出した。
【0033】
米国特許出願公開第2006004185号(特許文献1)には、新たなペプチド抗生物質を合成するのに使用することができるポリミキシン誘導体および中間生成物を最近開示した。開示された抗菌性化合物は4個または5個の正電荷を有する。
【0034】
さらにOkimuraら(2007)(非特許文献23)およびde Visserら(2003)(非特許文献24)によって、密接に関連したポリミキシンBおよびポリミキシンB1の化合物も開示されている。Okimuraらは天然ポリミキシンBおよびコリスチンのN末端誘導体への化学的な変換を研究し、そしてde Visserらはセーフティ・キャッチの手法でポリミキシンB1および類似体の固相合成を研究した。これらの研究で開示された抗菌性化合物は4個または5個の正電荷を有する。
【0035】
誘導体細菌感染症、特に多耐性のグラム陰性菌細菌による感染症の有効な治療のための、細菌を感作させて他の抗菌物質の効果を高めるポリミキシン誘導体の差し迫った必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006004185号
【特許文献2】米国特許出願公開第2004082505号
【特許文献3】米国特許第3450687号明細書
【特許文献4】米国特許第4510132号明細書
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】Vaara M. 1993. Antibiotic−supersusceptible mutants of Escherichia coli and Salmonella typhimurium. Antimicrob Agents Chemother 37:2255− 2260.
【非特許文献2】Storm DR, Rosenthal KS, Swansoπ PE. 1977. Polymyxin and re− lated peptide antibiotics. Annu Rev Biochem 46:723−63.
【非特許文献3】Srinivasa BD, Ramachandran LK. 1979. The polymyxins. J Scient lndustr Res 38:695−709.
【非特許文献4】Sakura N, ltoh T, Uchida Y, Ohki K, Okimura K, Chiba K, Sato Y, Sawanishi H. 2004. The contribution of the N−terminal structure of polymyxin B peptides to antimicrobial and lipopolysaccharide binding activity. Bull Chem Soc Jpn 77:1915−1924.
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【非特許文献7】Tsubery H, Ofek I, Cohen S, Fridkin M. 2000a. Structure−function studies of polymyxin B nonapeptide: Implications to sensitization of Gram− negative bacteria. J. Med Chem 43:3085−3092.
【非特許文献8】Tsubery H, Ofek I1 Cohen S, Eisenstein M, Fridkin M. 2002. Modulation of the hydro−phobic domain of polymyxin B nonapeptide: effect on outer− membrane permeabilization and lipopolysaccharide neutralization. Molecular Pharmacology 62:1036−42.
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【非特許文献24】de Visser PC, Kriek NMAJ, van Hooft PAV, Van Schepdael A, Filip− pov DV, van der Marel GA, Overkleeft HS, van Boom JH, Noort D. 2003. Solid− phase synthesis of polymyxin Bi and analogues via a safety−catch approach. J. Peptide Res. 61 :298−306.
【発明の概要】
【0038】
本発明は、生理的pHでの全正電荷数が3個であるポリミキシン誘導体であって、該誘導体が、1〜5個の炭素原子を含む脂肪酸尾部(例えばR(FA)またはD)を有するポリミキシン誘導体に関する。1〜5個の炭素原子の脂肪酸尾部を有する特定の本発明のポリミキシン誘導体が、天然のポリミキシン類、オクタペプチン類、およびより長い脂肪酸尾部を有するポリミキシン誘導体と比較して、薬物動態性質を向上させることが可能であることを見出した。これらの薬物動態性質の例としては、比較的長い血清の半減期、腎クリアランスの増加、および/または尿中回収率の増加からが挙げられるが、限定されない。
【0039】
本発明は少なくとも一部は下記式(I):
【化3】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
Dは1〜5個の炭素原子を含む末端部分であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり;
、Q、およびQはそれぞれ独立してCH、C=O、またはC=Sであり;
、W、およびWはそれぞれ独立してNR、O、またはSであり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アルキル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり;
は水素またはアルキルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチド環であり、mおよびmが0であり、mが1であり、WがNHであり、QがC=Oであり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖である場合、DはC−Cアシルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩に関する。
【0040】
また、本発明は、下記式(II):
【化4】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり、但し、m、m、およびmの少なくとも一つは1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、
12はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
12’はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチン環部であり、mおよびmが0であり、mが1であり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖であり、DがR12−C=Oである場合、R12はC〜Cアルキルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩も対象とする。
【0041】
他の実施形態において、本発明は、下記式(III):
【化5】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり、
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
は0または1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、ここで、R2’およびR3’の少なくとも一つはカルバミル、ヒドロキシル、またはカルボキシレートの基を含み;
12はC〜Cアルキルであり、
12’がC〜Cアルキルであり、
但し、Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖でない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩を含む。
【0042】
更に他の実施形態において、本発明は、また、下記式(IV):
【化6】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり
は0または1であり;
、LおよびLはそれぞれ独立してC−Cアルキルまたは共有結合であり、
、M、およびMはそれぞれ独立してH、C(=O)NH、C(=O)OH、または−OHであり;
12はC〜Cアルキルであり、
但し、R12がメチル、プロピル、またはブチルである場合、L−Mはジアミノ酪酸(Dab)の側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体であって、生理的pHにおいて3個の電荷を有するポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩を含む。
【0043】
他の実施形態で、本発明は、下記式(V):
【化7】

[式中、R4は、分子を環化可能な官能性の側鎖を有するアミノ酸残基であり;
R6およびR7はそれぞれ独立して選択された任意選択的に置換された疎水性のアミノ酸残基であり;
R10はLeuまたはいずれの疎水性ではないアミノ酸残基であり;
ここで、R1は任意であり;R1、R2、R3、R5、R8およびR9はそれぞれ独立して選択されたアミノ酸残基であり;R(FA)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であり;
但し、(1)R1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Leuであり、R7がL−LeuまたはL−Pheであり、R10がThrである場合、あるいはR1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Pheであり、R7がL−Leuであり、R10がThrである場合、R(FA)は非置換のアルカノイル残基ではなく、(2)R(FA)がアセチル、ブタノイルまたはペンタノイルである場合、RはDabではない]
のポリミキシン誘導体またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグに関する。
【0044】
より詳細には、本発明は、R2〜R10がThr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−][=配列番号10]およびThr−DAsn−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−][=配列番号39]からなる群より選択される誘導体に関する。配列番号10は配列表における配列番号1と一致し、配列番号39は配列表における配列番号2と一致する。
【0045】
本発明はまた、2個または3以上の本発明に係る誘導体を有する併用製品に関するもので、また1もしくは複数のかかる誘導体又はその組合せと、薬学的に許容される担体および賦形剤とを含む医薬組成物に関するものである。
【0046】
さらに、本発明は、グラム陰性菌を抗菌物質に感作させる方法に関するもので、前記抗菌剤および本発明に係る誘導体を治療に効果的な量で同時にまたはいずれの順番で順に投与することを備え、前記抗菌剤はクラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシンおよび他のマクロライド系抗生物質、ケトライド、クリンダマイシンおよび他のリンコサミン類、ストレプトグラミン、リファンピン、リファブチン、リファラジルおよび他のリファマイシン類、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン類、バンコマイシン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシンおよび他のグリコペプチド系抗生物質、フルオロキノロン類、バシトラシン、テトラサイクリン誘導体、ベータラクタム系抗生物質、ノボビオシン、プレウロムチリン類、葉酸合成阻害剤、デホルミラーゼ阻害剤および細菌排出ポンプ阻害剤からなる群から選択し得る。
【0047】
また、新規な抗生物質の開発方法、臨床に重要なグラム陰性菌を血清中に存在する宿主防御機構補体に感作させる方法を提供する。
【0048】
本発明はまた、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundi)およびアシネトバクター・バウマンニのようなグラム陰性菌を抗菌剤に対して感作させるための薬剤の製造での使用、およびグラム陰性菌を血清中に存在する宿主防御機構補体に対して感作させるための薬剤の製造での使用も提供する。
【0049】
また、本発明は、対象におけるグラム陰性菌感染症を治療する方法に関し、該方法は、本発明の誘導体(例えば、式(I)〜(V)の誘導体)を、対象が感染症の治療を受けるように抗菌剤と組み合わせて対象に投与することを備える。
【0050】
最後に、本発明は、本発明に係るポリミキシン誘導体を製造する方法に関するもので、該方法は、
(A)3個の正に荷電した残基と1〜5個の炭素原子を含む末端部(D)とを有する式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜5個の正に荷電した残基と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然もしくは合成のポリミキシン化合物またはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜2個の前記正に荷電した残基を、中性残基もしくは共有結合で置換することによって、または1〜2個の前記正に荷電した残基を中性残基に変換することによって修飾すること;あるいは
(B)3個の正に荷電した残基と合計1〜5個の炭素原子を含む末端部(D)とを有する式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜5個の正に荷電した残基と5個を超える炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然もしくは合成のポリミキシン化合物またはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜2個の前記正に荷電した残基を中性残基もしくは共有結合で置換するか、または1〜2個の前記正に荷電した残基を中性残基に変換し、5個を超える炭素原子を有する前記末端部分(D)を1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)と置換することによって修飾すること;あるいは
(C)3個の正に荷電した残基と合計1〜5個の炭素原子を有するR(FA)とを含む請求項1記載の式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜6個の正に荷電した残基を有し、かつ末端部分(D)を欠く天然もしくは合成のポリミキシンまたはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜3個の前記残基を中性残基もしくは共有結合で置換するか、または1〜3個の前記残基を中性残基に変換し、合計1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)を導入することを備える。本発明の一実施形態において、末端部分DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり、R12およびR12’は以下に定義されるものである。他の実施形態において、末端部分(D)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキルの残基であるR(FA)である。
【0051】
定義:
本明細書で用いる「生理的pH」は、7.1〜7.5の範囲内、例えば7.2〜7.4の範囲内のpH値のような7より大きく7.6以下のpH値を指す。
【0052】
本明細書で用いる「正電荷」とは、上述した生物学的pHでの正電荷を意味する。
【0053】
本明細書で用いる「陽イオン性」分子は、1個または複数の正電荷を有する分子を指す。
【0054】
本明細書で用いる「アミノ酸残基」は、LもしくはDの配置のいずれかの天然、非天然または修飾アミノ酸残基を指す。
【0055】
本明細書で用いる「等価残基」は、例えば、非天然のアミノ酸またはその誘導体となるが、置換した残基の構造および/または機能を保持するアミノ酸に対する明らかな修飾を含むことを意味する。
【0056】
本明細書で用いる「天然ポリミキシン」は、ポリミキシン類およびサークリン類を指す。
【0057】
本発明において、「ポリミキシン誘導体」は、環状ヘプタペプチド(又はヘプタペプチド環)部分R4〜R10と、N末端アミノアシル残基R4に結合した側鎖とを有する天然のポリミキシン類もしくはオクタペプチン類の合成もしくは半合成の誘導体を指す。側鎖は、R(FA)トリアミノアシル(R1〜R3)、R(FA)ジアミノアシル(R2〜R3)、R(FA)モノアミノアシル(R3)、またはR(FA)単独から構成することができる。
【0058】
本明細書で用いる「R(FA)」または「脂肪酸尾部」は、ポリミキシンの直線状のペプチド部分(側鎖)のN末端アミノ酸残基、又は直線状のペプチド部分がない状態でアミノ酸残基R4(ポリミキシンの環状ペプチド部分の4位のアミノ酸)に結合したポリミキシン構造の脂肪酸部分、すなわち、アルカノイル部分を指す。さらに、本発明において、R(FA)は、アルキル等の関連した疎水基であってもよい。本発明の特定の実施形態において、脂肪酸尾部は、場合によっては、R12−(C=O)、R12−SO−、R12−(C=NH)−、R12−NH−(C=S)−、R12−NH−(C=O)−、R12−NH−(C=NH)−、R12−O−(C=S)−、R12−O−(C=O)、R12−P(O)OH−、R12−(C=S)、およびR12’からなる群より選択された末端部分であってもよく、ここで、R12およびR12’はアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルである。
【0059】
本明細書で用いる「化合物」は、前記化合物のすべての立体化学異性体を含む。
【0060】
本明細書で用いる「感作活性」または「感作させる能力」は、細菌の抗菌剤に対する感度を高めるか、細菌を抗菌剤に敏感にするか、または感受性にする能力を有することを意味する。
【0061】
「ポリミキシン環部分」または「A」としては、ポリミキシンA、ポリミキシンB、ILポリミキシンB、ポリミキシンD、ポリミキシンE、ポリミキシンF、ポリミキシンM、ポリミキシンS、ポリミキシンT、サークリンA、オクタペプチンA、オクタペプチンB、オクタペプチンC、オクタペプチンDおよびそれらの誘導体の環部分が挙げられる。誘導体の例は、その意図された機能、すなわち抗生物質として果たす環部分の能力および/または細菌を一種または複数の抗菌剤に感作させる能力に実質的に影響を与えない修飾を有する部分を含むものである。「ポリミキシンB環部分」という用語はポリミキシンBの環部分(すなわち、cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−])を指す。ポリミキシン環部分の他の例としては、下記式:
【化8】

[式中、R4は、分子を環化可能な官能性の側鎖を含むアミノ酸残基であり;
R5、R8、およびR9は独立して選択されたアミノ酸残基であり;
R6およびR7は任意選択的に置換された疎水性のアミノ酸残基であり;
R10はLeuまたはいずれの疎水性ではないアミノ酸残基である]
の部分が挙げられる。R4〜R10の他の例は化学式(V)でさらに詳細に記述されている。
【0062】
「オクタペプチン環」は、天然のオクタペプチンAの環部分(すなわち、cy[Dab−Dab−DLeu−LLeu−Dab−Dab−Thr−])、すなわちR4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がDLeuであり、R7がLLeuであり、R10がThrである化合物)、オクタペプチンBの環部分(すなわち、cy[Dab−Dab−DLeu−LPhe−Dab−Dab−Thr−]、すなわちR4、R5、R8およびR9がDabであり、R6がDLeuであり、R7がLPheであり、R10がThrである化合物)、オクタペプチンCの環部分(すなわち、cy[Dab−Dab−DPhe−LLeu−Dab−Dab−Thr−]、すなわちR4、R5、R8およびR9がDabであり、R6がDPheであり、R7がLLeuであり、R10がThrである化合物)を指す。
【0063】
「プロドラッグ」という用語は、生体内で切断されて、本発明の活性型ポリミキシン誘導体化合物を生じる部分を含むものである。プロドラッグは、生理的pHにて遮蔽するか、または正電荷(例えば、−NH又は他のプロトン化した種)を中和する部分を含むものである。プロドラッグが対象に投与されると、プロドラッグ部分または電荷を遮蔽する部分が切断されるか、若しくは除去され、任意選択的に生理学的pHにて3個の正電荷を有する本発明の活性型ポリミキシン誘導体が生じる。
【0064】
「電荷遮蔽部分」という用語は、誘導体上の正電荷を可逆的に中和する部分を含むものである。好ましくは、前記部分は切断されるか、または対象に投与された後にポリミキシン化合物の正電荷と切り離される。電荷を遮蔽する部分の例としては、スルホアルキル(例えば、スルホメチル化誘導体)が挙げられる。他の正電荷遮蔽部分としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸、硫酸、重硫酸、リン酸、過リン酸、イソニコチン、酢酸、乳酸、サリチル酸、クエン酸、過クエン酸(acid citrate)、酒石酸、パントテン酸、重酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マレイン酸、ゲンチシン酸、フマル酸、グルコン酸、グルクロン酸、サッカラート、ギ酸、安息香酸、グルタミン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、およびパモ酸(すなわち、1,1´−メチレン−ビス−(2−ヒドロキシ−3−ナフトエート))が挙げられるが、これらに限定されない。
【0065】
「対象」という用語は、細菌感染症を患うことができる生物を含むものである。対象の例としては、哺乳類、例えば、馬、牛、豚、ヒツジ、ヤギ、猫、犬、ウサギ、フェレット、猿、および好ましくはヒトが挙げられる。
【0066】
略称
脂肪酸:FA、脂肪酸アシル残基;6−MOAおよびMOA、6−メチルオクタノイル残基;6−MHAおよびMHA、6−メチルヘプタノイル残基;MO(H)A、ポリミキシンBにおいて生ずる6−メチルオクタノイル、6−メチルヘプタノイルおよび関連する脂肪酸アシル残基の混合物;OHMDA,3−OH−8−メチルデカン酸;OA、オクタノイル;DA、デカノイル;Ac、アセチル;Me、メチル。
【0067】
アミノ酸:Dab、α,γ−ジアミノ−n―ブチリル残基;fDab、N−γ−ホルミル−ジアミノ−n−ブチリル残基;acDab、N−γ−アセチルジアミノ−n−ブチリル残基;Abu、α−アミノブチリル残基;Asn、アスパルチル残基;Thr、トレオニル残基;Ser、セリニル残基;Phe、フェニルアラニル残基;Leu、ロイシル残基;Ile、イソロイシル残基;Ala、アラニル残基;sm−Dab、γ−スルホメチル化α,γ−ジアミノ−n−ブチリル残基。修飾アミノアシル残基の1文字コード:X、Dab;Z、Abu;B、N−γ−fDab;J、N−γ−acDab。
【0068】
ペプチド:DAPB、デアシルポリミキシンB;DAC、デアシルコリスチン;PMBN、ポリミキシンBノナペプチド;PMEN、ポリミキシンEノナペプチド;PMBO、ポリミキシンBオクタペプチド;PMHP、ポリミキシンBヘプタペプチド。
【0069】
その他:cy、シクロ(括弧内のペプチドの環状部を意味する);f、ホルミル;ac、アセチル;sm、スルホメチル;MS、メタンスルホネート;LPS、リポ多糖体;OM、外膜;MIC、最小阻害濃度;CFU、コロニー形成ユニット。記号*は、化合物のヘプタペプチド環部分を閉じて分子の残りの部分を側鎖として残すような残基を示すために使用される。
【発明を実施するための形態】
【0070】
3個のみの正電荷を含有し、短鎖脂肪酸アシル尾部R(FA)または末端部分(D)(合計で5を超えない炭素原子)を有する特定のポリミキシン様化合物は、抗生物質、半合成抗生物質および化学療法薬などの抗菌剤に加えて、新鮮なヒト血清の補体システムなどの宿主防御因子にグラム陰性菌を感作させる能力を未だ有する。
【0071】
これらの新規化合物は三個を越える正電荷を有さないので、これらは米国特許出願番号第11/891,629号に記載のポリミキシン誘導体との類推において、概してより毒性が低く、特にポリミキシン類およびそれらの既知の誘導体より腎毒性が低い。同様に、本発明の化合物はポリミキシンB、コリスチン、およびそれらの既に記載されている誘導体より宿主組織からのヒスタミンをより減少させ、ポリミキシンB、コリスチン、およびそれらの既に記載されている誘導体に対して有利な薬物動態学的な性質を有する。さらに短鎖R(FA)または末端部分(D)は、脂肪酸アシル部分の全体を欠くポリミキシンBノナペプチドおよびコリスチンノナペプチドとの類推において、急性毒性アッセイにおける新規化合物の毒性をより少ないものとする。さらに、新規化合物は、長鎖R(FA)または5を超える炭素原子の末端部分(D)を有するポリミキシン誘導体に対して有利な薬物動態学的な性質を有する。
【0072】
一実施形態において、本発明は、式(I):
【化9】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
Dは1〜5個の炭素原子を含む末端部分であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり;
、Q、およびQはそれぞれ独立してCH、C=O、またはC=Sであり;
、W、およびWはそれぞれ独立してNR、O、またはSであり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アルキル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり;
は水素またはアルキルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチド環であり、mおよびmが0であり、mが1であり、WがNHであり、QがC=Oであり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖である場合、DはC〜Cアシルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩に関する。
【0073】
特定の実施形態において、本発明の化合物(例えば、式(I)〜(V)のいずれか1つの誘導体)は生理的pHにて少なくとも2個であるが、3個を超えない正電荷を有してもよい。他の実施形態において、生理的pHにて化合物は3個の正電荷を有している。
【0074】
これらの誘導体のプロドラッグの例としては、対象に投与する際に3個の正電荷を中和し、生体内で除去されて3個の正電荷を生じさせる電荷遮蔽部分を有するものが挙げられる。電荷遮蔽部分の例としては、スルホメチルなどのスルホアルキル部分が挙げられる。
【0075】
好ましくは、上記で定義したように、誘導体は生理的pHにて3個の正電荷を有する。本発明の特定の実施形態において、R1’、R2’およびR3’は生理的pHにて正に荷電した官能基を含まない。R1’、R2’およびR3’は、例えば、一または二または三以上のヒドロキシル基、カルボキシレート基、カルバミル基、チオール基、硫酸基、スルホニル基またはリン酸基を含んでもよい。
【0076】
一実施形態において、mは0であり、mおよびmはそれぞれ1である。他の実施形態において、QおよびQはそれぞれC=Oであり、WおよびWはそれぞれNHである。
【0077】
特定の実施形態において、R2’は、ヒドロキシル基、カルバミル基、カルボキシレート基、チオール基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基から選択される一又は複数の基で置換されている。好ましくは、R2’はカルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている。R2’の例としては、置換アルキルおよびDまたはL配置のいずれかのアラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリン、またはトレオニンの側鎖が挙げられる。好ましくは、R2’はD−アラニン、L−セリン、またはL−トレオニンである。
【0078】
特定の実施形態において、R3’は、カルバミル基、ヒドロキシル基、カルボキシレート基、チオール基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基から選択される一又は複数の基で置換されている。好ましくは、R3’は置換アルキルであり、カルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されていてもよい。R3’は、DまたはL配置のいずれかのアラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリン、またはトレオニンの側鎖であってもよい。好ましくは、R3’はD−アスパラギン、L−またはD−セリンである。
【0079】
Aの例としては、ポリミキシンB環部分(すなわち、cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]およびポリミキシンE(すなわち、cy[Dab−Dab−DLeu−Leu−Dab−Dab−Thr−])が挙げられる。
【0080】
さらなる実施形態において、末端部分は、R12−(C=O)、R12−SO−、R12−(C=NH)−、R12−NH−(C=S)−、R12−NH−(C=O)−、R12−NH−(C=NH)−、R12−O−(C=S)−、R12−O−(C=O)、R12−P(O)OH−、R12−(C=S)、またはR12’からなる群より選択され、R12およびR12’は、それぞれアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、またはアリールアルキルである。特定の実施形態において、Dは、R12−(C=O)またはR12−(C=S)であり、R12はメチル、エチル、プロピル、またはブチルである。Dの具体例としては、アセチル、プロピオニル、ブタノイル、およびペンタノイルが挙げられる。
【0081】
他の実施形態において、本発明は、下記式(II):
【化10】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり、但し、m、m、およびmの少なくとも一つは1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、
12はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
12’はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチン環部であり、mおよびmが0であり、mが1であり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖であり、DがR12−C=Oである場合、R12はC〜Cアルキルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩にも関する。
【0082】
好ましくは、式(II)の誘導体は生理的pHのとき3個の正電荷を有する。さらなる実施形態において、mは0であってもよく、かつ/またはmおよびmはそれぞれ1であってもよい。さらなる実施形態において、R2’および/またはR3’はそれぞれ独立して置換アルキルであってもよい(例えば、カルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている)。さらに、R2’および/またはR3’はそれぞれセリンまたはトレオニンの側鎖(DおよびLの配置を含む)。R2’の例としてはD−アラニン、L−セリンおよびL−トレオニンの側鎖が挙げられる。R3’の例としてはD−アスパラギン、L−およびD−セリンの側鎖が挙げられる。
【0083】
さらなる実施形態においてR12はアルキルであり、Dはアセチル、プロピオニル、ブタノイル、またはペンタノイルであってもよい。
【0084】
他の更なる実施形態において、本発明は、下記式(III):
【化11】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり、
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
は0または1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、ここで、R2’およびR3’の少なくとも一つはカルバミル、ヒドロキシル、またはカルボキシレートの基を含み;
12はC〜Cアルキルであり、
12’がC〜Cアルキルであり、
但し、Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖でない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩にも関する。
【0085】
好ましくは、本発明の化合物は生理的pHにて3個の正電荷を有し、mは0であり、R2’およびR3’は共に置換アルキルであるか、かつ/またはDはアセチル、プロピオニル、ブタノイル、またはペンタノイルである。
【0086】
また、更なる他の実施形態において、本発明は、下記式(IV):
【化12】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり
は0または1であり;
、LおよびLはそれぞれ独立してC−Cアルキルまたは共有結合であり、
、M、およびMはそれぞれ独立してH、C(=O)NH、C(=O)OH、または−OHであり;
12はC〜Cアルキルであり、
但し、R12がメチル、プロピル、またはブチルである場合、L−Mはジアミノ酪酸(Dab)の側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩を特徴とする。
【0087】
好ましくは、mは0である。Lの例としては、分岐状アルキル(例えば、−CH(CH)−)が挙げられる。Mの例としてはOHが挙げられる。Lの他の例としては−CH−が挙げられ、mの他の例としてはOHおよびHが挙げられる。他の実施形態において、Lは−CH−であり、mはOHである。更なる他の実施形態において、Lは−CH−CH−であり、mはC(=O)NHである。好ましくは、式(IV)の化合物は生理的pHにて3個の正電荷を有する。
【0088】
したがって、本発明は一般式(V):
【化13】

[式中、R4は、分子を環化可能な官能性の側鎖を有するアミノ酸残基であり;
R6およびR7は任意選択的に置換された疎水性のアミノ酸残基であり;
R10はLeuまたはいずれの疎水性ではないアミノ酸残基であり;
ここで、R1はなくてもよく;R1、R2、R3、R5、R8およびR9はそれぞれ独立して選択されたアミノ酸であり;R(FA)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であり;
但し、(1)R1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Leuであり、R7がL−LeuまたはL−Pheであり、R10がThrである場合、あるいはR1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Pheであり、R7がL−Leuであり、R10がThrである場合、R(FA)は非置換のアルカノイル残基ではなく、(2)R(FA)がアセチル、ブタノイルまたはペンタノイルである場合、RはDabではない]
で表わされてもよいポリミキシン誘導体またはその薬学的に許容されるプロドラッグもしくは塩に関する。
【0089】
本発明にかかる誘導体において、R(FA)は低分子量及び1〜5個の炭素原子を有するいずれの残基であってもよい。短鎖R(FA)の主な役割はペプチドのN末端の遊離アミノ基を阻害し、ひいてはペプチドの一個の正電荷を除くことである。
【0090】
好ましくは、式(V)の化合物は生理的pHにて3個の正電荷を有してもよい。さらに、R1、R2、R3、R5、R8およびR9は、化合物が生理的pHにて3個の正電荷を有するように選択される。
【0091】
R(FA)は、好ましくは、全部で1〜5個の炭素原子を有する、カルボン酸基残基、すなわち、アルカノイル基およびアルキル基からなる群より選択される。R(FA)は、好ましくはメチル、ホルミルおよびアセチル残基からなる群より選択される。他の有用な残基は、プロパノイル、ブタノイル、イソブタノイル、バレロイルおよびイソバレリル残基から選択されてもよい。残基は、分岐状、直鎖状、または環状であってもよい。
【0092】
また、R(FA)は、1又は複数の二重結合または三重結合を含有する不飽和残基であってもよい。
【0093】
R(FA)は当業者が容易に認識できる置換基で置換してもよく、但し、R(FA)は1〜5個の炭素原子のみを有する。置換基としては、アルキル、ヒドロキシおよびアルコキシが挙げられる。アルキルは、好ましくはメチル、エチル、またはプロピルである。アルコキシは、好ましくはメトキシ、エトキシ、またはプロポキシである。当業者は容易にこれの好ましいR(FA)残基およびその置換基の等価物を認識できる。
【0094】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R1はDabまたは存在しない(すなわち、共有結合に交換されている)。抗菌活性を有する既知の誘導体の例としては、R1がAlaまたは共有結合であるものを含む。
【0095】
本発明に係る誘導体において、R1は、存在するのであれば、あらゆるアミノ酸残基とすることができ、但し前記誘導体における全正電荷数が3個を超えず、また側鎖部分における全正電荷数が1個を超えず、好ましくは、正電荷がない。
【0096】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R2はThrまたは存在しない(すなわち、共有結合に交換されている)。抗菌活性を有する既知の誘導体の例としては、R2がO−アセチル−Thr、O−プロピニル−Thr、O−ブチリル−Thrまたは共有結合が挙げられる。
【0097】
本発明に係る誘導体において、R2はあらゆるアミノ酸残基とすることができ、好ましくは親水性または比較的に親水性であってもよく、但し、前記誘導体における全正電荷数は3個を超えず、側鎖部分における全正電荷数が1個を超えない。R2の例としては、DまたはLの配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリン、またはトレオニンが挙げられる。当業者は、Thrの等価残基がSerであると認識できる。
【0098】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R3はDab、DDabまたはDSerである。
【0099】
本発明に係る誘導体において、R3は、あらゆるアミノ酸残基とすることができ、好ましくは親水性または比較的親水性であってもよく、但し、前記誘導体における全正電荷数が3個を超えず、側鎖部分における全正電荷数が1個を超えず、DまたはLの配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリン、またはトレオニンからなる群より選択される。
【0100】
当業者は、容易に、これらの好ましい残基R1、R2、およびR3以外の親水性または比較的親水性の残基を認識でき、例えばアルギニン、Nω−メチルアルギニン、α−メチルアスパラギン酸、システイン、ヒスチジン、ヒドロキシリジン、リジン、メチオニン、オルニチン、ペニシラミン、プロリン、ホスホセリン、ホスホトレオニン、およびチロシンからなる群より当該残基を選択してもよい。
【0101】
当業者は、R1、R2およびR3の残基の一つが親水性ではないか、または比較的親水性ではなく、但し、残りの2つの残基が親水性であるか、または比較的親水性であることに容易に気付くことができる。したがって、R1、R2、およびR3は、例えば、共有結合、アラニン、2−アミノアジピン酸、α−n−酪酸、N−(4−アミノブチル)グリシン、α−アミノ酪酸、γ−アミノ酪酸、α−アミノカプロン酸、アミノシクロプロパンカルボキシレート、アミノイソ酪酸、アミノノルボルニルカルボキシレート、α−アミノ−n−吉草酸、アルギニン、Nω−メチルアルギニン、アスパラギン、α−メチルアスパラギン酸、アスパラギン酸、N−ベンジルグリシン、N−(2−カルバミルエチル)グリシン、N−(カルバミルエチル)グリシン、1−カルボキシ−1(2,2−ジフェニルエチルアミノ)シクロプロパン、システイン、Nα−メチルジアミノ−n−酪酸、Nγ−アセチルジアミノ−n−酪酸、Nγ−ホルミルジアミノ−n−酪酸、Nγ−メチルジアミノ−n−酪酸、N−(N−2,2−ジフェニルエチル)カルバミルメチル−グリシン、N−(N−3,3−ジフェニルプロピル)カルバミルメチル(1)グリシン、N−(3,3−ジフェニルプロピル)グリシン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、t−ブチルグリシン、2−アミノ−4−グアニジノ酪酸、N−(3−グアニジノプロピル)グリシン、ヒスチジン、ホモフェニルアラニン、イソデスモシン、イソロイシン、ロイシン、ノルロイシン、ヒドロキシリジン、Nα−メチルリジン、リジン、Nα−メチルヒドロキシリジン、Nα−メチルリジン、Nε−アセチルヒドロキシリジン、Nε−アセチルリジン、Nε−ホルミルヒドロキシリジン、Nε−ホルミルリジン、Nε−メチルヒドロキシリジン、Nε−メチルリジン、メチオニン、α−メチル−γ−アミノブチレート、α−メチル−アミノイソブチレート、α−メチルシクロヘキシルアラニン、α−ナフチルアラニン、ノルロイシン、ノルバリン、α−メチルオルニチン、Nα−メチルオルニチン、Nδ−アセチルオルニチン、Nδ−ホルミル−オルニチン、Nδ−メチルオルニチン、オルニチン、ペニシラミン、フェニルアラニン、ヒドロキシプロリン、プロリン、Nα−メチルジアミノ−n−プロピオン酸、Nβ−アセチルジアミノ−n−プロピオン酸、Nβ−ホルミルジアミノ−n−プロピオン酸、Nβ−メチルジアミノ−n−プロピオン酸、ホスホセリン、セリン、リン酸トレオニン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、ノルバリン、およびバリンからなる群より選択することができる。
【0102】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R4はDabである。抗菌活性を有する合成誘導体の例としては、R4がLysであるものが挙げられる。
【0103】
本発明に係る誘導体において、R4は分子を環化できる官能性の側鎖を有するアミノ酸残基であり、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、GIu、Asp、Dab、ジアミノプロピオン酸、Thr、SerおよびCys、好ましくはDabからなる等価な残基の群から選択してもよい。
【0104】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R5,R8およびR9はDabである。抗菌活性を有する合成誘導体の例としては、R5,R8およびR9がLysまたは2−アミノ−4−グアニジノ酪酸であるものが挙げられる。
【0105】
本発明に係る誘導体において、R5、R8およびR9は、正に荷電した、または中性のアミノ酸残基、好ましくは、Dabであってもよく、但し、前記誘導体における全正電荷数が3個を超えない。
【0106】
当業者は、これら好ましい残基の等価残基を容易に認識することができ、例えばジアミノ酪酸、ジアミノプロピオン酸、リジン、ヒドロキシリジン、オルニチン、2−アミノ−4−グアニジノ酪酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、D−フェニルアラニン、メチオニン、トレオニン、セリン、α−アミノ−n−酪酸、α−アミノ−n−吉草酸、α−アミノ−カプロン酸、Nε−ホルミルリジン、Nε−アセチルリジン、Nε−メチルリジン、Nε−ホルミルヒドロキシリジン、Nε−アセチルヒドロキシリジン、Nε−メチルヒドロキシリジン、L−Nα−メチルヒドロキシリジン、Nγ−ホルミルジアミノ−n−酪酸、Nγ−アセチルジアミノ−n−酪酸、Nγ−メチルジアミノ−n−酪酸、Nβ−ホルミルジアミノ−n−プロピオン酸、D−Nβ−ホルミルジアミノ−n−プロピオン酸、Nβ−アセチルジアミノ−n−プロピオン酸、Nβ−メチルジアミノ−n−プロピオン酸、Nδ−ホルミルオルニチン、Nδ−アセチルオルニチンおよびNδ−メチルオルニチンからなる群より選択することができる。
【0107】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R6はDPheまたはDLeuであり、R7はLeu、Ile、PheまたはThrである。抗菌活性を有する合成誘導体としては、R6がDTrpで、R7がAlaであるものが挙げられる。
【0108】
本発明に係る誘導体において、R6は任意選択的に置換された疎水性のアミノ酸残基、好ましくはDPheまたはDLeuであり、R7は任意選択的に置換された疎水性残基、好ましくはLeu、ThrまたはIleである。
【0109】
当業者は、これらが好ましい疎水性残基の等価残基を容易に認識することができ、例えばフェニルアラニン、α−アミノ−n−酪酸、トリプトファン、ロイシン、メチオニン、バリン、ノルバリン、ノルロイシン、イソロイシン、およびチロシンからなる群より選択することができる。当業者はまた、トレオニンの等価残基がセリンであることを認識することもできる。
【0110】
天然のポリミキシン類およびオクタペプチン類において、R10はThrおよびLeuである。抗菌活性を有する既知の合成誘導体の例としては、R10がO−アセチル−Thr、O−プロピオニル−ThrまたはO−ブチリル−Thrであるものが挙げられる。
【0111】
本発明に係る誘導体において、R10はLeuまたはあらゆる非疎水性アミノ酸残基であり、但し前記誘導体における全正電荷数が3個を超えない。好ましくは、R10はThrまたはLeuである。
【0112】
当業者はまた、トレオニンの等価残基がセリンであることを認識することもできる。
【0113】
本発明に係る誘導体中に存在する3個の正電荷はヘプタペプチド環部分に位置することができるか、または2個の正電荷はヘプタペプチド環部分に位置する一方で、残りの1個の正電荷は側鎖に位置する。
【0114】
一実施形態において、本発明に係る誘導体は、R2〜R10が、Thr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]、すなわち、配列番号10;およびThr−DAsn−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]、すなわち、配列番号39からなる群より選択される誘導体からなる群より選択することができる。
【0115】
他の実施形態において、本発明に係る誘導体は、アセチル−Thr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]、すなわち、Ac−配列番号10;およびアセチル−Thr−DAsn−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]、すなわち、Ac−配列番号39からなる群より選択される。
【0116】
本明細書の実施例の項で示すように、3個の正電荷のみを有し、1〜5個の炭素原子のみを含有するR(FA)を有する本発明に係る化合物は、グラム陰性菌を抗菌剤に感作させる極めて強力な薬剤であり得る。
【0117】
感作させる活性のために、ヘプタペプチド環部分に少なくとも2個、より好ましくは3個の正電荷を位置させる。
【0118】
Teuber(1970)、SrinivasaおよびRamachandran(1980a)、およびSakuraら(2004)の研究によって、他のポリミキシン誘導体のうち、2個または3個の正電荷のみを有する誘導体が開示された。しかしながら、化合物は5個の炭素原子より長い脂肪酸部分R(FA)を有している。一方、ポリミキシンBノナペプチドおよびコリスチンノナペプチドは、共に以前から知られているグラム陰性菌を抗菌剤に感作させるのに効果的な薬物であり、全R(FA)部分を欠くが、5個の正電荷を有している。
【0119】
本発明の特定の実施形態において、式I〜Vのポリミキシン誘導体を対象にプロドラッグの形状で投与してもよい。プロドラッグは、対象への投与後まで化合物の正電荷を遮蔽する1又は複数の電荷遮蔽部分を含んでもよい。
【0120】
一態様における本発明は、3個の正電荷のみと1〜5個の炭素原子のみを含有するR(FA)とを有し、1または複数のグラム陰性菌種を抗生剤または抗菌剤に感作させることができる新規ポリミキシン誘導体を提供する。
【0121】
細菌の抗菌剤に対する感受性を2つの微生物法によって決定することができる。迅速であるが大まかな手法は、特定量の抗菌剤を含浸した市販の濾紙ディスクを用いる。これらのディスクを、試験する生物の懸濁液を接種した寒天プレートの表面に設置し、このプレートを増殖阻害の区域に関し観察する。より正確な技法は、液体希釈感受試験であり、液体培養培地に段階希釈の薬剤を含有する試験管を用意し、試験する生物を当該試験管に接種することを含む。適度なインキュベーションの期間の後に細菌の増殖を阻害する薬剤の最低濃度を、最低阻害濃度(MIC)として記録する。
【0122】
本発明に係る誘導体は、臨床的に重要なグラム陰性菌を抗菌剤に感作させることができ、前記グラム陰性菌は、アシネトバクター属、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ボルデテラ属、ブランハメラ亜属、カンピロバクター属、シトロバクター属、エンテロバクター属、エシェリキア属、フランシセラ属、フソバクテリウム属、ヘモフィルス属、ヘリコバクター属、クレブシエラ属、レジオネラ属、モラクセラ属、パスツレラ属、プレシオモナス属、シュードモナス属、サルモネラ属、セラシア属、シゲラ属およびエルシニア属の種に属するものであってもよい。細菌は、例えば、大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・エロゲネス(Enterobacter aerogenes)、他のエントロバクター種、シトロバクター・フロインディ、アシネトバクター・バウマンニ、緑膿菌および他のシュードモナス種、並びに多くの他の種の非発酵性グラム陰性菌類であってもよい。細菌はまた、ヘリコバクターピロリ菌並びに他の臨床的に重要なグラム陰性菌も含む。
【0123】
治療される感染症としては、例えば菌血症、敗血症、皮膚および軟組織感染、肺炎、髄膜炎、骨盤の腹膜(pelveoperitoneal)部分の感染、異物感染、血液患者の発熱、静脈ラインもしくは他のカテーテル、キャニルおよび/または装置に関連する感染症、胃腸管、目もしくは耳における感染症、表在性皮膚感染症、および潜在的に有毒な細菌による胃腸管、粘膜および/または皮膚のコロニー形成が挙げられる。
【0124】
細菌感染病としては(限定されないが)、重篤な院内感染症、免疫不全の患者の感染症、臓器移植患者の感染症、集中治療室(ICU)での感染症、火傷による重篤な感染症、重篤な地域感染型感染症、嚢胞性線維症患者の感染、並びに多耐性グラム陰性菌によって引き起こされた感染症が挙げられる。
【0125】
本発明はまた、併用療法用の本発明に係る2個または3個以上の誘導体の組合せを対象にするものである。この組合せは、グラム陰性菌の異なる菌種もしくは菌株を抗菌剤に感作させる能力を有する誘導体を含むことができる。
【0126】
本発明の他の態様は、1または複数の薬学的に許容される担体及び賦形剤と共に処方された本発明に係るポリミキシン誘導体、それらのプロドラッグおよび塩形態、選択されたそれらの組み合わせ、及び任意選択に抗菌剤を含む薬学的組成物を対象とする。前記担体および賦形剤は、薬学的に使用可能である製剤への活性化合物の加工を容易にし、該担体および賦形剤としては、当業者に周知の希釈剤、充填剤、緩衝剤、増粘剤、湿潤剤、分散剤、可溶化剤、懸濁化剤、乳化剤、結合剤、安定化剤、崩壊剤、カプセル化剤、コーティング剤、包埋剤、平滑剤、着色剤および香味剤並びに吸収剤、吸収促進剤、保湿剤(humefactant)、防腐剤および同等のものが挙げられる。
【0127】
医薬組成物には、活性成分を所定の目的を達成するのに有効な量で含む組成物がある。より詳細には、本発明においての治療に有効な量とは、グラム陰性菌を抗菌剤に感作させるのに有効な化合物の量を意味する。治療に有効な量の決定は、医薬分野に精通している者の能力の範囲内である。
【0128】
組成物は、本技術分野において周知の方法、例えば、従来の混合、溶解、カプセル化、封入、凍結乾燥、乳化および顆粒化方法により製造することができる。適切な処方は、選択した投与経路に次第であり、医薬組成物を即時放出型または持続放出型(例えば治療効果を引き伸ばすか、かつ/または忍容性を改善するために)に処方することができる。さらに、製剤を製薬学の分野において既知の方法により単位投薬量の形で便利に存在させることができる。
【0129】
本発明に係る医薬組成物には(限定されないが)、静脈投与、筋肉内投与、経口投与または局所投与に向けられたもの並びに座薬または吸入可能エアロゾルとして投与されるものがある。この組成物には、静脈注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、髄内注射、髄腔内注射、心室内注射、鼻腔内注射もしくは眼球内注射、吸入可能なエアロゾル並びに直腸送達、経口送達、膣内送達、経粘膜的送達もしくは経皮的送達に向けられたものがある。
【0130】
非経口投与(例えば、静脈内ボーラス、急速輸液、もしくは遅速輸液)に関して、本発明に係る化合物並びに上述した組合せを、無菌水溶液、好ましくは生理食塩水、5%ブドウ糖液、リンガー溶液およびハンクス液のような生理学的に適合性の液での適切な塩またはエステルの形態として処方することができる。該製剤はまた、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールのような有機溶媒、プロピレングリコールまたは関連化合物並びに防腐剤および界面活性剤を含むことができる。
【0131】
薬学的に許容される酸付加塩を無機酸または有機酸から調製することができる。無機酸から誘導した塩には、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等がある。有機酸から誘導した塩には、酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエン−スルホン酸、サリチル酸等がある。
【0132】
さらに、非経口投与用の医薬組成物は、油性媒体もしくは水性媒体における懸濁液または乳濁液とすることができ、懸濁剤、安定化剤および/または分散剤のような処方剤を含む場合がある。適切な脂溶性の媒体および溶媒には、オレイン酸エチルおよびトリグリセリドなどの天然および合成の脂肪酸エステル類といった脂肪油、またはリポソームが挙げられる。懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランのような懸濁液の粘度を高める物質を含有することができる。
【0133】
非経口組成物は、アンプルおよびバイアルのような単位用量または複数回用量の密封した容器に入れることができ、使用直前に注射用に滅菌液賦形剤、例えば水の添加のみを要するフリーズドライ(凍結乾燥)した状態で保存することができる。
【0134】
経口投与に関して、固形製剤には、例えば、粉末、タブレット、ピル、糖衣錠、トローチ剤、カプセル剤、カシェ剤および微粒製剤がある。医薬調剤は、固形賦形剤を用い、任意には、生成した混合物を粉砕し、所要に応じて適当な助剤を添加した後に顆粒混合物を加工してタブレットまたは糖衣剤のコアを得ることで作成することができる。固形の担体/賦形剤は、希釈剤、可溶化剤、滑剤、懸濁化剤、結合剤、防腐剤、香料添加剤、湿潤剤、タブレット崩壊剤、またはカプセル化材料としても作用し得る1個または複数の物質とすることができる。適切な担体には、限定されないが、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ブドウ糖、ラクトース、ペクチン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ワックス、ココアバター等がある。
【0135】
経口投与に適した液体製剤には、例えば水溶液、シロップ、エリキシル剤、水性懸濁液、乳濁液およびゲルがある。水溶液は、活性成分を水に溶かし、適当な安定化剤および増粘剤並びに着色剤および香味剤を加えることにより調製することができる。水性懸濁液は、天然ゴムまたは合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および他の周知の懸濁化剤のような粘着性物質とともに微粒化した活性成分を水に分散させることで調製することができる。乳濁液は、プロピレングリコール水溶液中の溶液で調製することができるか、またはレシチン、モノオレイン酸ソルビタンまたはアカシアのような乳化剤を含有する場合がある。
【0136】
本発明に係る化合物または上述した組合せは、局所投与用に処方することもできる。活性化合物を、任意の必要な緩衝剤および防腐剤を含めた薬学的に許容される担体/賦形剤と滅菌状態で混合する。軟膏、クリーム、およびローションは、例えば、適切な乳化剤、分散剤、懸濁化剤、増粘剤、安定化剤もしくは着色剤を加えた水性または油性の基剤で処方することができる。一般に用いる賦形剤には、動物および植物油脂、ワックス、パラフィン、デンプン、セルロース誘導体、トラガカントおよびポリエチレングリコールがある。
【0137】
他の局所製剤には、限定されないが、点耳剤、点眼剤、経皮貼布剤がある。
【0138】
経皮的および経粘膜的投与に関して、当業者に既知の浸透剤を製剤に用いることができる。
【0139】
吸入投与に関して、本発明に係る化合物および上述した組合せを、適当な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン又は二酸化炭素を用いて、人工呼吸器、加圧パックまたは噴霧器からエアゾールスプレー調剤の形態で投与する。加圧エアゾールの場合、弁を設けて計量した量を投与することにより単位投薬量を決定することができる。吸入器で使用するための例えばゼラチンのカプセルおよびカートリッジは、該化合物およびラクトースもしくはデンプンのような適切な粉末の粉状混合物を含んで処方することができる。
【0140】
本発明に係る化合物および上述した組合せはまた、ココアバター、他のグリセリド、ポリエチレングリコールもしくは座薬ワックスのような従来の座薬基剤を用いて、停留浣腸または座薬のような直腸組成物に処方することができる。
【0141】
また、本発明は、感染病(すなわち、グラム陰性菌の感染症)を患ったヒトもしくは動物の対象の臨床治療(または予防投薬計画)の一部として本発明のポリミキシン誘導体またはこれら誘導体の組み合わせを用いる方法に関するもので、少なくとも一種の本発明に係る誘導体の治療に有効な用量を、抗菌剤と組み合わせて前記対象に投与することを備える。
【0142】
本発明はまた、グラム陰性菌を抗菌剤に感作させる方法に関するもので、本発明に係る誘導体を、治療に有効な量の前記抗菌剤と同時に、または任意の順番で順に投与する。
【0143】
本発明の誘導体および抗菌剤は、一つの製剤として一緒に、または異なる経路から投与することができる。例えば、ポリミキシン誘導体を静脈内に投与する一方、抗菌剤を筋肉内に、静脈内に、皮下で、経口でまたは腹腔内に投与することができる。或いはまた、誘導体を筋肉内にもしくは腹腔内に投与する一方、抗菌剤を静脈内に、筋肉内に、もしくは腹腔内に投与できるか、または誘導体をエアロゾル形態もしくは霧状形態で投与する一方、抗菌剤を例えば静脈内に投与することができる。誘導体および抗菌剤は、共に感染部位で効果的な濃度に達するのに十分である限り、同時または順に投与することができる。
【0144】
「治療の有効性」は、功を奏する臨床結果に基づき、本発明に係る誘導体が、抗菌剤と併用して、感染症に関わる細菌の100%を殺すことは必要としない。功を奏する治療は、宿主を受益者としてバランスを傾ける方法で細菌を阻害するのに十分な感染部位の抗菌活性のレベルを達成することに依存する。宿主防衛が最大限の効果をもたらすとき、必要な抗菌効果を適度にすることができる。生物の負荷を一対数(10の倍数)だけ減らすと、宿主自身の防衛が感染を制御することができるようになる。加えて、初期の殺菌/静菌効果を高めることは、長期の殺菌/静菌効果を高めるよりも重要である。これら初期の出来事が治療の成功の重大かつ重要な部分であり、その理由は宿主防衛機構が活性化できる時間を与えるからである。殺菌率の増加は、髄膜炎、骨または関節の感染症等の感染症には特に重要である。
【0145】
抗菌剤の治療有効性は、本発明に係る誘導体の臨床的に意義のある濃度での前記抗菌剤に対する細菌種の感受性に依存する。生体内で抗菌剤の治療有効性を改善するための本発明に係る化合物の効果は、マウス腹膜炎またはウサギ菌血症のような生体内動物モデルで実証することができ、また(1)グラム陰性菌の増殖を24時間阻害するのに必要な抗菌剤の最低阻害濃度(MIC)の決定、(2)グラム陰性菌の増殖速度曲線に対する抗菌剤の効果の決定、(3)抗菌剤単独の段階希釈または化合物の段階希釈との組合せでのMICのチェックボード検定を含めた種々の生体外試験を基にして予測することができる。典型的なモデルまたは試験は本技術分野において周知である。
【0146】
24時間でのMICの生体外での決定によって、本発明に係る誘導体が抗菌剤のMICを低減することを示すことができる。この結果、生体内での化合物の併用投与が抗菌剤に対するグラム陰性菌の感受性を高めることが予想される。本発明に係る化合物はまた、抗菌剤のMICを生物が臨床的に耐性であると見なせる範囲から生物が臨床的に感受性のある範囲まで低減することを示すことができる。この結果、抗菌剤と本発明に係る1または複数の化合物の生体内の併用投与は、耐性を逆転させ、抗生物質耐性生物を抗生物質感受性生物へ効果的に変化させることが予想される。
【0147】
本発明に係る化合物の存在下または非存在下でグラム陰性菌の生体外増殖曲線への抗菌剤の効果を測定することによって、該化合物は、好ましくは24時間未満の時間内で抗菌剤の早期抗菌効果を強化することを示すことができる。早期殺菌/増殖阻害効果の増強は、治療結果を決定するのに重要である。
【0148】
チェックボード検定において、本発明に係る化合物と抗菌剤の組合せが、「相乗」フラクション阻害濃度指数(fractional inhibitory concentration index、FICI)をもたらすことができる。チェックボード法は、多重薬物で観測した結果が試験した薬剤の個別の効果の和であると仮定した加法に基づいている。このシステムによると、0.5未満のFICIを相乗として記録し、1を相加として記録し、また1より大きく2未満を普通として記録する。
【0149】
本発明に係る誘導体との併用に適した抗菌剤には、例えばクラリスロマイシン、アジスロマイシンおよびエリスロマイシンのようなマクロライド類、ケトライド類、クリンダマイシンのようなリンコサミン類、ストレプトグラミン類、リファンピン、リファブチンおよびリファラジルのようなリファマイシン類、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン類、バンコマイシン、ダルババンシン、テラバンシンおよびオリタバンシンのようなグリコペプチド系抗生物質、フルオロキノロン類、テトラサイクリン誘導体、ペニシリンの疎水性誘導体、セファロスポリン類、モノバクタム類、カルバペネム類、ペネムおよび他のベータラクタム系抗生物質、ノボビオシン、プレウロムチリン類、葉酸合成阻害剤、デホルミラーゼ阻害剤および細菌排出ポンプ阻害剤がある。グラム陰性感染症を治療する当業者は、付加的で臨床的に意義のある有効な抗菌剤を容易に認識できる。好ましくは、前記抗菌剤を、グラム陰性菌の外膜が有効な透過障壁として機能する疎水性またはやや疎水性の抗菌剤の群から選択する。
【0150】
本発明はまた、本発明の化合物またはその組合せを用いて、臨床的な感染期間または感染が疑わしい期間、ここに挙げた臨床的に重要な細菌に当該化合物の作用を施すことにより前記細菌を宿主防衛機構補体(新鮮なヒトおよび動物の血清に存在する)に対して感作させることを含む。宿主防衛は、例えば補体と多形核白血球との組合せ作用によって発揮させることができる。
【0151】
医薬の分野に精通している当業者は、本発明に係る化合物および併用投与における抗生物質に対する有効投薬量および投与計画を、投与する対象のタイプ、年齢、体重、性別および対象の医学的状態、投与経路、対象の腎臓および肝臓の機能、所望の効果、用いる本発明の特定化合物、および対象の耐性を含む要因を考慮に入れて容易に最適化できる。すべての抗菌薬の投薬量は、腎臓機能障害または肝不全を患った患者においては、低下した代謝および/またはこれら状態の患者における薬物の排泄のために、調整すべきである。子供への投薬量も、一般に体重に従って減らすべきである。
【0152】
ヒトまたは動物に投与する本発明に係る誘導体の全日用量は、例えば、体重1kgあたり0.1〜100mg、好ましくは体重1kgあたり0.25〜25mgである。
【0153】
当業者は、最適な治療単位、すなわち、所定日数の1日当たりの投与回数が、治療する状態の性質および程度、投与の形態、経路および部位、また治療する特定の患者によって決定され、またかかる最適化を従来の技術で決定できることも分かる。
【0154】
本発明に係る化合物を検定する方法も提供し、前記化合物が天然のポリミキシンまたはオクタペプチンの誘導体であり、前記誘導体が、これを誘導する天然産出化合物と対照的に、有害なグラム陰性菌を抗菌剤および/もしくは血清中に存在する補体に感作させる能力に関して3個のみの正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有し、前記方法は細菌を前記天然のポリミキシンまたはオクタペプチンの誘導体に接触させ、前記細菌に対する活性を感作させる誘導体を道程する工程を備える。
【0155】
さらなる態様においては、新規な抗生物質を開発する方法を提供し、該方法は、
(a)合計4〜6個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然のポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
(b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって、3個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン誘導体を生成する工程と、
(c)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤にグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
(d)抗菌剤にグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える。
【0156】
本発明の方法の一実施形態において、末端部分(D)はR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり、R12およびR12’は上記で定義される通りである。本発明の他の実施形態において、末端部分(D)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であるR(FA)である。
【0157】
本発明の更なる態様において、新規な抗生物質を開発する方法を提供し、該方法は、
(a)合計4〜5個の正電荷またはデアシルポリミキシン類におけるような合計6個の正電荷と5個を超える炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然のポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
(b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって3個の正電荷を有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
(c)5個を超える炭素原子を含む末端部分(D)を1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)で置換し、それによって3個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
(d)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤にグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
(e)抗菌剤にグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える。
【0158】
本発明の方法の一実施形態において、末端部分(D)はR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり、R12およびR12’は上記で定義した通りである。本発明の他の実施形態において、末端部分(D)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であるR(FA)である。
【0159】
本発明の更なる態様において、新規な抗生物質を開発する方法を提供し、該方法は、
a)合計4〜6個の正電荷を有し、かつ末端部分(D)を欠くポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって3個の正電荷を有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
c)1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)を導入し、それによって3個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン化合物を生成する工程と、
e)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
f)抗菌剤にグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える。
【0160】
本発明の方法の一実施形態において、末端部分(D)はR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり、R12およびR12’は上記で定義した通りである。本発明の他の実施形態において、末端部分(D)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であるR(FA)である。
【0161】
また、本発明に従って、天然産出のポリミキシン類もしくはオクタペプチン類を化学的または酵素的に処理することによって得られた半合成ポリミキシン誘導体、またはその遺伝子組み換え生物によって製造したそれらの改変体も提供する。化学的処理には、限定されないが、無水酢酸、ギ酸、ヒドラジンおよびシュウ酸を用いた処理がある。酵素的処理には、限定されないが、ポリミキシンデアシラーゼ、フィシン、パパイン、ブロメライン、サブチロペプチダーゼ、スブチリシン、コリスチンヒドロラーゼおよびナガーゼのような酵素を用いたものがある。
【0162】
一実施形態に従う好ましい化合物は、天然のポリミキシン類もしくはオクタペプチン類より陽イオン性が低く、3個の正電荷のみと1〜5個の炭素原子を有するR(FA)とを有し、
(a)大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フロインディ、およびアシネトバクター・バウマンニといったグラム陰性菌を抗生剤に感作させるか、かつ/または
(b)生体内動物モデルにおいて確証されるように、臨床的に用いたポリミキシン類より毒性が低いか、かつ/または
(c)動物モデルおよび/または腎臓の構造に対する化合物の親和性を測定する生体外試験において確証されるように、臨床的に用いたポリミキシン類より腎毒性が低いか、かつ/または
(d)局所投与するか、もしくはエアロゾルとして吸入したとき、組織からのヒスタミン遊離を臨床的に用いたポリミキシン類より少なくすることができるか、かつ/又は
(e)臨床的に用いたポリミキシン類よりも、長い血清の半減期を有するか、腎クリアランスを増加させるか、尿中回収を増加させるか、かつ/もしくはポリアニオン組織および膿成分による不活性化が低いなど薬物動態学的により好ましい。
【0163】
さらなる実施形態において、本発明の化合物は、天然のポリミキシン類またはオクタペプチン類(例えば、ポリミキシンA、ポリミキシンB、IL−ポリミキシンB、ポリミキシンD、ポリミキシンE、ポリミキシンF、ポリミキシンM、ポリミキシンS、ポリミキシンT、サークリンA、オクタペプチンA、オクタペプチンB、オクタペプチンCまたはオクタペプチンD)と比較して1又は複数の薬物動態学的に好ましい性質を有する。そのような薬物動態学的に好ましい性質の例としては、天然のポリミキシン類またはオクタペプチン類(ポリミキシンEなど)と比較して、長い血清の半減期、増加した腎クリアランス、増加した尿中回収が挙げられる。
【0164】
さらなる実施形態において、本発明の化合物は、ポリミキシンE(コリスチン)よりも、24時間を越えて投与した用量のより大きい尿中回収のパーセントを有する。他の更なる実施形態において、ラットによる実験を基にした尿中回収は、約1%以上、約5%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、約25%以上、約30%以上、約35%以上、約40%以上、約45%以上または約50%以上である。それと比較して、ポリミキシンE(コリスチン)の尿中回収は、同じ用量および方法を用いて、24時間で用量の約0.18±0.14%であると決定された(Liら,2003)。
【0165】
さらなる他の実施形態において、同様の経路および投薬を用いて投与した際に、本発明の化合物はポリミキシンE(コリスチン)より大きい腎クリアランスを有することが可能である。さらなる実施形態において、本発明の化合物は、約0.1ml/分/kgより大きい、約0.5ml/分/kgより大きい、約1.0ml/分/kgより大きい、約2.0ml/分/kgより大きい、約2.5ml/分/kgより大きい、約3.0ml/分/kgより大きい、約3.5ml/分/kgより大きいのラットによる実験を基にした腎クリアランスを有する。さらなる他の実施形態において、本発明の化合物の腎クリアランスは、同様の用量および投与経路で投与した際に、ポリミキシンEのものの少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも150倍、少なくとも200倍、少なくとも250倍、または少なくとも300倍であり得る。
【0166】
さらなる他の実施形態において、本発明の化合物は、長鎖脂肪酸の尾部(すなわち、5個を超える炭素原子を有する末端部分またはR(FA))を有する類似の化合物と比較して、1又は複数の薬物動態学的に好ましい性質を有してもよい。実施例8で示すように、NAB741は、NAB739と比較して、腎クリアランスが高く、尿中回収も高い。化合物は、NAB741がアセチル末端部分を有し、NAB739がオクタノイル末端部分を有していること以外は化学的に同一である。
【0167】
本発明に係る化合物の合成方法には、限定されないが、以下に説明するものがある。合成すべき特定の化合物に関して、当業者は適切な方法を選択することができる。
【0168】
1.未変化のヘプタペプチド部および修飾したアシルアミノアシル側鎖を有するポリミキシン類およびオクタペプチン類の半合成誘導体は、以下に記述する手順によって製造することができる。
【0169】
当業者に既知の方法による出発材料(ポリミキシンもしくはオクタペプチンまたはその修飾物)における遊離アミノ基の保護。この保護は、t−ブトキシカルボニル(tBOC)、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)、ベンジルオキシカルボニル(CBZ,Z)、アリルオキシカルボニル(ALOC)、3−ピリジル−N−オキサイド−メトキシカルボニル(英国特許1323962号に開示されている)のような残基を用いることによるか、生成物の性質に適合する従来の条件によって除去し得るベンズアルデヒドのようなシッフ塩基を日本国特許公開7115630/1971号に開示された方法等により用いることによって達成することができる。
【0170】
弱い水溶性が次の工程で時々問題を引き起こす条件では、Fmocのスルホン酸誘導体またはFmocのカルボン酸誘導体のような負の電荷を帯びたブロッキング基を用いることにより前記保護を行うことができ、この方法が米国特許出願公開第2006004185号に記載されている。水溶性はまた、適当な除去可能で、負の電荷を帯びた極めて疎水性のブロッキング基をトレオニンのOH基に結合させることにより高めることができる。
【0171】
然る後、化合物にポリミキシンデアシラーゼ、ポリミキシンヒドロラーゼ、パパイン、フィシン、ブロメライン、サブチロペプチダーゼ、ナガーゼのような酵素またはポリミキシン化合物もしくはオクタペプチド化合物の側鎖の末端部または側鎖全体までも除去する他の酵素で酵素的処理を施す。この処理の後に任意にエドマン分解処理を行うことができる。生成した化合物は全側鎖がなく、環状ヘプタペプチド部のみからなるが、遊離N末端アルファアミノ基を有する。
【0172】
或いはまた、ベンジルオキシカルボニルのような酸に安定な基によって保護されたアミノ基を有するポリミキシン類およびオクタペプチン類は、シュウ酸またはギ酸により処理して保護デアシル誘導体を得ることができ、この方法がKuriharaら(1974)によって開示されている。この手順の後に、上述したさらなる酵素的処理および/またはエドマン分解を行ってヘプタペプチドを得る。
【0173】
その後、適切な残基をヘプタペプチド環状部の遊離アルファアミノ位置に結合する。残基はアシルまたは関連する残基(メチル残基、アセチル残基、プロピオニル残基、ブタノイル残基、イソブタノイル残基、バレロイル残基またはイソバレロイル残基といった合計1〜5個の炭素原子を有する(R(FA))に加えて、最大3個、好ましくは2個の残基のアミノ酸残基を含有してもよい。例えば、アシル基と2個のアミノ酸残基を有する半合成化合物は、上述したヘプタペプチドに合成N−(アシル)−トレオニル−Dトレオニル残基を加えることにより製造することができる。これは、有機化学の分野に精通した者に既知の従来の一般的な技術によって達成でき、これらの技術には、米国特許出願公開2006004185号に開示されたようなN−ヒドロキシ−スクシンイミド結合残基の使用がある。この特別な合成における処理は、N−アセチルトレオニル−Dセリニル−N−ヒドロキシスクシンイミドの使用を含むことができる。
【0174】
2.遊離アミノ基3個を有するアシル化ポリミキシンノナペプチド。ポリミキシンDは4個のみの正電荷を有し、R3位にDSerを有する。ポリミキシンDの遊離アミノ基を上述した方法で保護することができる。この後、酵素的処理および任意のエドマン分解工程を行ってノナペプチドを得、次いでこれをアシルイソチオシアネート(当業者には既知で、米国特許出願公開2006004185号に記載された方法)によるか、アシルクロライド(当業者には既知で、Chiharaら1974によって開示された方法)によるか、またはN−ヒドロキシスクシンイミドに結合した残基を用いること(当業者には既知で、米国特許出願公開2006004185号に記載された方法)によってアシル化することができる。最後に、この保護基を除去する。アシル化ポリミキシンDノナペプチドは、すべてのヘプタペプチド環部分にて3個の遊離アミノ基のみを有する。
【0175】
同様の方法で、アシル化ポリミキシンSノナペプチドを製造することができる。該ペプチドは3個の遊離アミノ基のみを有する。
【0176】
3.すべての合成ポリミキシンおよびオクタペプチド誘導体を当業者に既知の従来の方法で製造することができる。この方法には、液相合成手法並びに例えばSakuraら(2004)、Tsuberyら(2000a,2000b、2002,2005)、およびOfekら(2004)によって開示された固相合成手法がある。当該方法は、例えば、必須の位置でのFmoc,tBocおよびCBZのような保護剤の使用、並びにDPPA(ジフェニルホスホラジデート)またはベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(PyBop)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HoBt)およびN−メチルモルホリン(NMM)の混合物を用いる環化工程を含む。多くの自明ではないFmoc誘導体およびDアミノ酸が市販されている。最後のアミノ酸残基のアミノ末端を未保護のままにして、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸およびイソ吉草酸のような酸を用いるアシル化の方法においての直接の反応を可能にする。
【0177】
4.上記(1〜3項)の中間化合物の遊離N末端のアルファアミノ基のアシル化は、当業者に周知の条件を用いて、無水酢酸(実施例1参照)、無水プロピオン酸、無水酪酸、および無水吉草酸のような無水物を用いて行うこともできる。N−ホルミル化は、N−メチルピロリジンにp−ニトロフェニルホルメートを用いて、当業者に周知の条件を用いて行うことができる。N−メチル化は、ジメチルホルムアミドにギ酸および無水酢酸の混合物を用いて、当業者に周知の条件を用いて行うことができる。
均等物
【0178】
均等物
当業者は、本明細書に記載されている特定の手法と均等な多数のものを認識するか、ありふれた実験のみを用いて確認することができる。そのような均等物は本発明の範囲内であるとみなされ、特許請求の範囲内である。本願全体にわたって引用されているすべての参考文献、特許、および特許出願の全ての内容は参照により組み込まれるものとする。これらの特許、出願、および他の文書の適切な構成要素、過程、および方法を、本発明およびその実施形態に対して選択してもよい。
【0179】
参考文献のリスト
本出願にて引用されているすべての参考文献を、その全体にわたって参照により組み込むものとする。
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【実施例】
【0180】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を示し、本発明の範囲を限定するように解釈すべきではない。
【0181】
実施例1
ペプチド合成
ポリミキシン誘導体(「NABペプチド」または「NAB化合物」)は、標準的なFmoc保護戦略を用いた従来の固相化学によって合成した。C末端のアミノ酸は、固相に予め付着したものとして市販され、また樹脂を酸で開裂する際にC末端カルボキシル酸を生じる。
【0182】
保護における戦略は、直交保護、酸開裂段階中に除去されるアルファアミノ官能基に対しての一時的なFmoc保護、および環化反応が起こる間に反応性側鎖官能基を覆う半永久的保護との三つの水準の使用にある。樹脂からペプチドを開裂した後、C末端カルボキシル酸をアミノ酸の一つの側鎖上のアミノ官能基と反応させて環状ペプチドを形成する。環化工程後、半永久的保護基を除去してNABペプチドを得る。
【0183】
したがって、アミノ酸のアルファアミノ官能基をフルオレニル−メトキシカルボニル(Fmoc)によって保護し、Fmocを全てのサイクルで20%ピペリジンのジメチルホルムアミド(DMF)により除去した。環化と関連を持つアミノ酸、すなわち、ジアミノ酪酸をt−ブトキシカルボニル(tBoc)によって保護し、不安定な酸の基を開裂工程で除去した。アスパラギンの官能基はトリチル化によって保護されている。官能性の側鎖の基を有する他のアミノ酸はすべて、酸開裂段階で安定な基、すなわち、ベンジルオキシカルボニル(Z)によって保護した。アミノ酸のフェニルアラニンおよびロイシンは、当然側鎖の保護が必要でない。アミノ末端は保護せず、これによってアシル化手順における直接的な反応を可能にした。
【0184】
合成工程を、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N´,N´−テトラメチル−ウロニウム・ヘキサフルオロホスフェートを活性剤として用いた市販の自動化シンセサイザーで行った。
【0185】
アシル化は、4倍モル過剰の各アミノ酸または脂肪酸と、4倍モル過剰の活性剤HCTU(上述)と、8倍モル過剰のN−メチルモルホリンとを用いることにより行った。反応時間は30分であった。
【0186】
アミノ酸は一般の業者から、既に保護した状態で購入した。
【0187】
ペプチドを室温で95%トリフルオロ酢酸および5%水の溶液で2時間反応させることによって樹脂から除去して一部保護した生成物を得た。生成した生成物をジエチルエーテルで沈殿させた。
【0188】
使用した環化混合物は、それぞれモル過剰2倍のベンゾトリアゾール−1−イル−オキシ−トリス−ピロリジノ−ホスホニウム・ヘキサフルオロホスフェート(PyBop)、モル過剰2倍のN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HoBt)、およびモル過剰4倍のN−メチルモルホリン(NMM)とした。ペプチドをジメチルホルムアミドに溶解し、環化混合物を加えて2時間反応させた。環化し、保護したペプチドを冷ジエチルエーテルの添加により沈殿させた。あらゆる残留PyBopを、ペプチドを水で洗浄することによって除去した。
【0189】
アセチル化は無水酢酸―ジイソプロピル−エチルアミン−DMF(容積で1:1:18)を用いて行った。
【0190】
残りの側鎖保護基(Z)を触媒脱水素によって除去した。ペプチドを酢酸−メタノール−水(5:4:1)の溶液に水素雰囲気下およびパラジウム炭触媒の存在下で溶解した。
【0191】
ペプチドを、アセトニトリル:水:トリフルオロ酢酸の従来の勾配を用いる逆相クロマトグラフィーによって精製した。生成物を凍結乾燥によって乾燥した。
【0192】
収量は10〜20mgで、樹脂に結合した最初のアミノアシル残基のモル量(約100マイクロモル)から計算して、理論値の約10〜20%であった。
【0193】
逆相HPLCによって推定される純度は、90%を超えた。実験誤差内で、得られた質量は、理論値から得た値であった。
【0194】
実施例2
大腸菌および緑膿菌に対する化合物の活性
いずれも3個の正電荷のみを有する実施例1で合成したペプチドを、大腸菌をモデル抗生物質リファンピンに感作させる能力について研究した。これは、増加させた濃度(0.1μg/ml,0.3μg/ml,1μg/ml)のリファンピン(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)社,米国ミズーリ州セントルイス)を含有するLB寒天(LBアガー レノックス,ディフコ,ビーディー(Lennox,Difco,BD)社,米国メリーランド州スパークス)プレートを用い、リファンピンを有さないLB培地のコントロールのプレートを用いて試験した。
【0195】
指標細菌の大腸菌IH3080(K1:O18)は、髄膜炎を患った新生児から最初に単離した被包性の(encapsulated)菌株で(Vaaraら1984)、フィンランド国のヘルシンキにおける国立公衆衛生研究所から入手した。
【0196】
LB寒天上のIH3080の一晩増殖させた培養物から、約10細胞/mlの0.9%NaCl懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液の一定分量を寒天プレート上にピペットで置き、該プレートを穏やかに振ってプレートの表面全体に懸濁液を均一に平らに広げた。その後、懸濁液の未吸収部をパスツールピペットを用いることによって除去した。表面を乾燥した後、殺菌した刃の鋭い細い金属管、使い捨てのピペットチップおよび真空吸引を用いることにより、小ウェル(直径2mm)をプレート上に穿孔した(1プレートにつき5個のウェル)。あるいは、スワブを用いて、接種菌液を広げた。次いで、0.9%NaClのペプチド溶液(1μg/mlおよび0.1μg/mlの濃度)のサンプル(4μlおよび10μl)を、当該ウェルにピペットで入れ、サンプル溶液を吸収させた。コントロールには、試験すべき化合物を含まない0.9%NaCl溶液を用いた。次いで、プレートを18時間37℃でインキュベートし、その後各ウェルの周りの増殖阻害ゾーンの直径を測定した。ウェル自体の直径は減少しなかった。最後に、直径を増殖阻害の表面積(平方mm)に変換した。
【0197】
表2は、大腸菌IH3080に対する新規化合物の活性をコントロールの化合物のものと比較して示す。双方ともNAB739の直接的な抗菌活性を欠いていたにも関わらず、4μg/mlの濃度で0.1μg/mlと低いリファンピンの濃度に標的を感作させた。興味深いことに、NAB747は、直接的に緑膿菌ATCC27853に対して抗菌性があった。ペプチドを10μg含むウェルで、NAB747は表面積50平方mmを有する阻害ゾーンをもたらした。4μgにて、対応する値は20平方mmであった。
【0198】
【表2】

【0199】
*アミノアシル残基に対する1文字コード:F,Phe;L,Leu;N,Asn;S,Ser;T,Thr;X,Dab;Z,Abu;B,N−ガンマホルミル−Dab;J,N−ガンマ−アセチル−Dab.小文字はD配置の残基を示す.
+は、ペプチドの遊離N端末のアルファアミノ基の正電荷を示す.略語:MO(H)A,6−メチルオクタノイル、6−メチルペンタノイルおよびポリミキシンB中にある関連した脂肪酸の残基の混合物;OA,オクタノイル;DA,デカノイル;Ac,アセチル;Me,メチル.
**LBプレート上の4マイクログラムの化合物を含むウェルの周囲の成長阻害(平方ミリメートル)として測定した抗菌活性.
***リファンピン(0.1マイクログラム/mL)を含むLBプレート上の4マイクログラムの化合物を含むウェルの周囲の成長阻害(平方ミリメートル)で計測した抗菌活性.
【0200】
実施例3 大腸菌、肺炎桿菌およびエンテロバクター・クロアカを広範囲の抗菌剤に対して感作させるNAB741
臨床用途の抗菌剤の代表的なセットの最低阻害濃度(MIC)を、2つの菌株の大腸菌(ATCC25922およびIH3080)、肺炎桿菌ATCC13883およびエンテロバクター・クロアカATCC23355について、NAB741(4μg/ml)の存在下および非存在下でミューラーヒントン(Mueller−Hinton)寒天培地(製品番号LabO39;LabM社,英国,ランクス,バリー)を用いて決定した。MICは、メーカーの使用説明書に従ってE−ストリップ(バイオディスク社(Biodisk Ltd.),スウェーデン国ソルナ)を用いて決定した。使用したNAB7061濃度は、それ自体標的の細菌の増殖を阻害するものではなかった。これら全ての株についてのNAB741のMICは>16μg/mlである。
【0201】
結果を表3に示す。4μg/ml濃度のNAB741は、>64〜>2000倍リファンピンに対して試験菌株を感作させることができた。感作因数は、NAB741非存在下における抗生物質のMICの、4μg/mlのNAB741の存在下におけるものに対する比として定義される。極度に高い感作因数は、クラリスロマイシン(24−340)、ムピロシン(8−192)、アジスロマイシン(16−32)に対しても観察され、また、菌株のいくつかについてはフシジン酸(128−170)に対して、およびE.クロアカについてはバンコマイシン(170)に対しても観察された。これらすべての抗菌剤は、著しく疎水性が高いまたは大きく(バンコマイシン)、また、グラム陰性菌の無傷OMによって排除されるが、損傷OMに浸透することが既知である。
【0202】
【表3】

【0203】
*感作因数は、NAB741非存在下における抗生物質のMICの、4μg/mlのNAB741存在下におけるものに対する比である.
【0204】
実施例4 NAB741(4μg/ml)存在下でのリファンピンおよびクラリスロマイシンに対するグラム陰性菌の7つの異なる菌株の感受性
【0205】
臨床的に関連するグラム陰性菌の異なる菌株の代表セットに対するリファンピンおよびクラリスロマイシンの最低阻害濃度(MIC)を、実施例3と同様のEテスト法によりNAB741(4μg/ml)を有するか、または有さないミューラーヒントン寒天培地を用いて決定した。このNAB741の濃度は、それ自体標的の細菌の増殖を阻害しない。菌株のうち5つはATCC由来である。アシネトバクター・バウマンニF264は、フィンランド国ヘルシンキのモビジアグ社(Mobidiag Ltd.)から購入した。大腸菌IH3080の供給源は実施例2に記載している。
【0206】
結果を表4に示す。NAB 741はアシネトバクター・バウマンニに対しても著しく活性があることを示す。
【0207】
【表4】

【0208】
*NAB741非存在下でのリファンピンのMICの、NAB741(4μg/ml)存在でのものに対する比.
**NAB741非存在下でのクラリスロマイシンのMICの、NAB741(4μg/ml)存在下でのものに対する比.
【0209】
実施例5 アシネトバクター・バウマンニのメロペネム耐性菌株をメロペネムに対して感作させるNAB741
A.バウマンニの2つの菌株に対するメロペネムの最低阻害濃度(MIC)を、実施例4と同様のEテスト法により、NAB741(4μg/ml)を有するか、または有さないミューラーヒントン寒天培地を用いて決定した。このNAB741の濃度は、それ自体標的の細菌の増殖を阻害しない。感作因数を実施例4と同様に定義した。結果を表5に示す。NAB7061はメロペネム耐性株F264をメロペネムに4倍を超えるだけ感作させた。
【0210】
【表5】

【0211】
実施例6 大腸菌を新鮮な正常血清中の補体に感作させるNAB741
大腸菌の被包性の平滑菌株を正常モルモット血清(GPS)の殺菌作用に対して感作させるNAB741の能力を、Vaaraら(1984)によって開示された方法で研究した。大腸菌IH3080(018,K1)を、回転式振盪培養機中で、37℃で、LB培養液(LBブロス レノックス,ディフコ,ビーディー社,米国メリーランド州スパークス)中で、初期対数増殖相になるまで増殖させ、PBS(リン酸緩衝食塩水、1リットル当たり8.0gのNaCl,0.2gのKCl,1.44gのNaHPO・2HO,0.2gのKHPO)で洗浄し、約10細胞/mlになるようにPBSに再懸濁した。GPSを補体源として用いた。これは、使用前まで−70℃で保管した。補体を不活性化するため、血清を56℃で30分間インキュベートした。
【0212】
実験手順は、以下の通りである。10%GPSのPBS液を、1ml当たり細菌約500CFU(コロニー形成単位)でインキュベートし、0.2ml分割量でマイクロタイタープレートのウェル内にピペットで入れた。ウェルには、すでに、NAB7061の量を増加させたものの0.9%NaCl溶液0.020mlが入っていた。プレートを37℃で2時間インキュベートし、その後、それぞれのウェルの中身をLBプレート上に出した。プレートを37℃で一晩インキュベートし、現れたコロニーを数えた。
【0213】
結果を表6に示す。NAB741は、それ自体GPSの非存在下または熱で不活性化した10%GPSの存在下でCFU数を有意に減らすことはなかった。しかし、2μg/ml程度の低濃度のNAB741は、10%の新鮮なGPSの存在下で約100倍CFU数を減少させるのに十分であった。したがって、NAB741は、この特性を有することが既知のPMBNと同様に、新鮮な血清中に存在する殺菌補体機構と相乗的に機能する。
【0214】
【表6】

【0215】
*37℃で2時間処理した後の%生存率として測定したもの.
【0216】
実施例7 NAB739メタンスルホン酸ナトリウムの調製および生物活性
NAB739アセテート(100mg)を水(2ml)に溶解し、中性ホルムアルデヒド溶液(400マイクロリッターの30%含水ホルムアルデヒド(1N NaHCOでpH7.2にしたもの))を添加した。その後、1N NaHCO溶液(2ml)を添加し、沈殿したNAB739ホルムアルデヒド誘導体をろ過し、水で洗浄した。湿った固体を水(5ml)中に懸濁させ、メタ重亜硫酸ナトリウム(100mg)を加えた。透明な溶液を数分後に得、凍結乾燥した。綿状の白い固体を温アセトン(7.5ml)で抽出し、真空内で乾燥させた。収率は56mgであった。ESI質量分析による生成物の分析によって、分子量1075.3の主なピークが明らかにされ、ほとんどの誘導体が、NAB739化合物の3個のDab残基の各々においてスルホメチル化されていたことが示された。3個のDab残基のうち2個においてランダムにブロックされているNAB739を表すマイナーなピークも見えた。
【0217】
NAB739メタンスルホン酸ナトリウムの水溶液の抗菌活性の測定のために、3種類の異なる溶液を作製した。すなわち、1)実験前に0.9%NaClで作製した溶液(1mg/ml)、2)実験の24時間前に0.9%NaClで作製し、37℃で保持した溶液(1mg/ml)、3)実験の48時間前に0.9%NaClで作製し、37℃で保持した溶液(1mg/ml)である。新たに作製したNAB739アセテート溶液をコントロール化合物とした。
【0218】
【表7】

【0219】
*37℃で2時間処理した後の%生存率として測定したもの.
**MS,メタンスルホン酸エステル
【0220】
試験細菌は大腸菌IH3080であった。該細菌をLB培養液(LBブロス レノックス,ディフコ,ビーディー社,米国メリーランド州スパークス)中で、37℃で、回転振盪器中で、初期対数増殖相になるまで増殖させ、PBSで洗浄し、PBSに約10細胞/mlになるように再懸濁した。PBSを、1ml当たり約500CFU(コロニー形成単位)の細菌でインキュベートし、0.2ml分割量でマイクロタイタープレートのウェル内にピペットで入れた。プレートには、すでに、NAB739メタンスルホン酸の濃度を増加させたものまたはコントロール化合物の0.9%NaCl溶液0.020mlが入っていた。プレートを37℃で1時間インキュベートし、その後、それぞれのウェルの中身をLBプレート上に出した。プレートを37℃で一晩インキュベートし、現れたコロニーを数えた。
【0221】
結果を表7に示す。作りたてのNAB739メタンスルホン酸の溶液では、抗菌性がコントロール化合物のNAB739と比べてさらに低い。NAB739メタンスルホン酸溶液を使用の24時間前に37℃で保持すると活性が若干向上した一方で、48時間保持するとコントロール化合物で見られたものとほぼ同等の活性となった。これらの結果は、NAB739メタンスルホン酸が、コリスチンメタンスルホン酸と同様に、徐々に水溶液中で分解して、より抗菌活性のある物質、すなわち、スルホメチル化が少ない物質および最終的には遊離のNAB739を生じることを示す。
【0222】
同様に、NAB741、NAB745、NAB747および本明細書に記載されている他の化合物のメタンスルホン酸エステル誘導体を調製した。これらのプロドラッグは生体内で分解して、標的の細菌を他の抗菌剤および血清補体に感作させる能力を有する化合物を生じる。
【0223】
実施例8 NAB741およびNAB739の基本的な薬物動態学的性質の比較
研究を主にLiら(2003,2004)に記載された方法を用いて行った。各ラット(両方の化合物についてn=4、スプラーグ−ドーリー(Sprague−Dawley)、オス)をイソフルランを用いて麻酔し、ポリエチレン製カニューレを頸静脈に挿入した。各ラットを代謝ケージに入れ、一晩、処置から回復させた。試験化合物(アセテート、1mg/kg)はボーラス(200μlの滅菌された0.9%生理食塩水)としてカニューレを介して投与し、0.8mlの生理食塩水で洗浄した。それぞれ200μlの9種の血液サンプル(0,10,20,30,60,90,120,180,および240分)を、手動でカニューレにて採取した。サンプル採取の際、最初の100μlの血液を取り除き、注射器内に保持した。他の注射器で実際のサンプルを採取した後、最初の注射器の中身を400μlのヘパリン生理食塩水と共にラットに戻した。血液サンプルを遠心して、血漿を得た。尿サンプルを、0−4時間,4−6時間,6−24時間の間隔で採取した。血漿および尿サンプルを−80℃で保存した。
【0224】
サンプルを液体クロマトグラフィーおよびエレクトロスプレーイオン化インターフェースによる質量分析(LC/エレクトスプレーイオン化MS)を用いて分析した。100μlのサンプルに、10μlの内部標準(NAB739,80μg/ml)および200μl(血漿サンプル)または100μl(尿サンプル)のアセトニトリルを加え、混合物を1分間ボルテックスで混合し、10分間10,000gで遠心した。クロマトグラフィーはHPLC C18カラム(50x2mm)、0.1%ギ酸を溶媒Aとして、0.1%アセトニトリルを溶媒Bとして、流速0.2ml/分、以下の勾配:6分間の5%−30%B、0.5分間の30%−90%、2.5分間の90%Bでの保持、1分間の90%−5%Bを用いた。5.90−7.00分および9.00−10.1分の間の溶出液をスイッチバルブを用いてMSシステムに導いた。m/z496.7および331.4におけるNAB741の正のプロトン化した分子のイオンと、m/z=538.8および359.6におけるNAB739の正のプロトン化した分子のイオンを観測した。NAB741は6.65±0.05分で溶出され、NAB739は9.45±0.05分で溶出された。血漿中の化合物の非コンパートメント解析を、WinNonlinソフトウェア(バージョン4.0,マウンテンビュー(Mountain View)社,米国カリフォルニア州)を用いて、NA201モデル(血漿データについてのi.v.ボーラス入力)によって行った。
【0225】
NAB741について決定した基本的な薬物動態学的なパラメーターは以下の通りである:半減期(分)、32.7±2.41;分布容積(ml/kg)、243±24.0;クリアランス(ml/分/kg)、7.39±0.85;尿中回収(24時間における用量の%)、50.9±13.6;腎クリアランス(ml/分/kg)、3.78±1.11。
【0226】
NAB741と同一だが、末端部分としてアセチル残基の代わりにオクタノイル残基を有するNAB739について決定した基本的な薬物動態学的なパラメーターは、以下の通りである:半減期(分)、69.0±21.9;分布容積(ml/kg)、222±20.5;クリアランス(ml/分/kg)、2.63±0.54;尿中回収(24時間における用量の%)、19.4±7.38;腎クリアランス(ml/分/kg)、0.53±0.30。
【0227】
Liら(2003)によって同一の投薬および投与の手順によって決定されたコリスチンにおける対応するパラメーターは、以下の通りである:半減期(分)、74.6±13.2;分布容積(ml/kg)、496±60;クリアランス(ml/分/kg)、5.2±0.4;尿中回収(24時間における用量の%)、0.18±0.14;腎クリアランス(ml/分/kg)、0.010±0.008。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
Dは1〜5個の炭素原子を含む末端部分であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり;
、Q、およびQはそれぞれ独立してCH、C=O、またはC=Sであり;
、W、およびWはそれぞれ独立してNR、O、またはSであり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アルキル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり;
は水素またはアルキルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチド環であり、mおよびmが0であり、mが1であり、WがNHであり、QがC=Oであり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖である場合、DはC〜Cアシルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩。
【請求項2】
は0である請求項1に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項3】
およびmはそれぞれ1である請求項1または2に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項4】
およびQはそれぞれC=Oである請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項5】
およびWはそれぞれNHである請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項6】
、R、およびRは生理的pHにて正に荷電した官能基を含まない請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項7】
1’、R2’、およびR3’は1個または複数のヒドロキシル基、カルバミル基、アミジル基、カルボン酸基、チオール基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基を含む請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項8】
1’、R2’、およびR3’は2個または3個以上のヒドロキシル基、カルボキシレート基、チオール基、アミジル基、カルバミル基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基を含む請求項7に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項9】
2’はヒドロキシル基、カルバミル基、アミジル基、カルボキシレート基、チオール基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基から選択された1個または複数の基で置換されている請求項1〜8のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項10】
2’はカルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている請求項9に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項11】
2’は置換されたアルキル基である請求項9または10に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項12】
2’は、DまたはL配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリンもしくはトレオニンの側鎖である請求項9に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項13】
2’はD−アラニン、L−セリンまたはL−トレオニンの側鎖である請求項12に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項14】
3’はヒドロキシル基、アミジル基、カルバミル基、カルボキシレート基、チオール基、硫酸基、スルホニル基、またはリン酸基から選択された1個または複数の基で置換されている請求項1〜13のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項15】
3’はカルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている請求項12に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項16】
3’は置換されたアルキル基である請求項14または15に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項17】
3’は、DまたはL配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリンもしくはトレオニンの側鎖である請求項1に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項18】
3’はD−アスパラギン、L−セリンまたはD−セリンの側鎖である請求項17に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項19】
Aは、ポリミキシンA、ポリミキシンB,IL−ポリミキシンB、ポリミキシンD、ポリミキシンE、ポリミキシンF,ポリミキシンM、ポリミキシンS、ポリミキシンT、サークリンA、オクタペプチンA、オクタペプチンB、オクタペプチンC、オクタペプチンDまたはその誘導体の環部分から選択されるポリミキシン環部分である請求項1〜18いずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項20】
AはポリミキシンBまたはポリミキシンEのポリミキシン環部分である請求項19に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項21】
Dは、R12−(C=O);R12−SO;R12−(C=NH)−;R12−NH−(C=S)−;R12−NH−(C=O)−;R12−NH−(C=NH)−;R12−O−(C=S)−;R12−O−(C=O);R12−P(O)OH−;R12−(C=S);またはR12´であり、R12およびR12´はアルキル、シクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アリールまたはアリールアルキルである請求項1〜20のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項22】
DはR12−(C=O)またはR12−(C=S)である請求項21に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項23】
12はメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、シクロプロピル、またはブチルである請求項21または22に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項24】
Dはアセチル、プロピオニル、ブタノイル、またはペンタノイルである請求項22に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項25】
下記式(II):
【化2】

[式中、Aはポリミキシン環部分であり;
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
、m、およびmはそれぞれ独立して0または1であり、但し、m、m、およびmの少なくとも一つは1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、
12はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
12’はC〜Cアルキル、C〜Cアルケニル、またはC〜Cアルキニルであり、
但し、(1)Aがオクタペプチン環部であり、mおよびmが0であり、mが1であり、R3’がジアミノ酪酸(Dab)の側鎖であり、DがR12−C=Oである場合、R12はC〜Cアルキルではなく、(2)Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩。
【請求項26】
は0である請求項25に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項27】
およびmはそれぞれ1である請求項25または26に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項28】
2’は置換されたアルキル基である請求項25〜27のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項29】
2’はカルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている請求項28に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項30】
2’は、DまたはL配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリンもしくはトレオニンの側鎖である請求項28に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項31】
2’はD−アラニン、L−セリンまたはL−トレオニンの側鎖である請求項30に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項32】
3’は置換されたアルキル基である請求項25〜31のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項33】
3’はカルバミル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシレート基で置換されている請求項32に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項34】
3’は、DまたはL配置の、アラニン、アミノ酪酸、アスパラギン、アスパラギン酸、ジアミノ酪酸、グルタミン酸、グルタミン、セリンもしくはトレオニンの側鎖である請求項33に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項35】
3’はD−アスパラギン、L−セリンまたはD−セリンの側鎖である請求項34に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項36】
AはポリミキシンBまたはポリミキシンEのポリミキシン環部分である請求項25〜35のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項37】
12はアルキル基である請求項25〜36のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項38】
Dはアセチル、プロピオニル、ブタノイル、またはペンタノイルである請求項37に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項39】
下記式(III):
【化3】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり、
DはR12−C(=O)、R12−C(=S)、またはR12’であり;
は0または1であり;
1’、R2’、およびR3’はそれぞれ独立して天然または非天然のアミノ酸の側鎖、アルキル、アルケニル、アリールアルキル、アリール、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アリールオキシカルボニル、アルキルアミノ、またはアルキニルであり、ここで、R2’およびR3’の少なくとも一つはカルバミル、ヒドロキシル、またはカルボキシレートの基を含み;
12はC〜Cアルキルであり、
12’がC〜Cアルキルであり、
但し、Dがアセチル、ブタノイル、またはペンタノイルである場合、R3’はDabの側鎖でない]
のポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩。
【請求項40】
は0である請求項39に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項41】
2’およびR3’はそれぞれ置換されたアルキル基で請求項39または40に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項42】
Dはアセチル、プロピオニル、ブタノイル、またはペンタノイルである請求項39〜41のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項43】
1’、R2’、およびR3’は、少なくとも2つのカルバミル基、ヒドロキシル基、およびカルボン酸を含む請求項39〜42のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項44】
下記式(IV):
【化4】

[式中、AはポリミキシンBまたはポリミキシンEの環の部分であり
は0または1であり;
、LおよびLはそれぞれ独立してC−Cアルキルまたは共有結合であり、
、M、およびMはそれぞれ独立してH、C(=O)NH、C(=O)OH、または−OHであり;
12はC〜Cアルキルであり、
但し、R12がメチル、プロピル、またはブチルである場合、L−Mはジアミノ酪酸(Dab)の側鎖ではない]
のポリミキシン誘導体であって、生理的pHにおいて3個の電荷を有するポリミキシン誘導体並びにその薬学的に許容されるプロドラッグおよび塩。
【請求項45】
は0である請求項44に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項46】
は−CH(CH)−であり、かつMはOHであるか;Lは−CH−であり、かつMはHであるか;またはLは−CH−であり、かつMはOHである請求項44または45に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項47】
は−CH−であり、かつMはOHであるか;またはLは−CH−CH−であり、かつMはC(=O)NHである請求項44〜46のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項48】
下記式(V):
【化5】

[式中、R4は、分子を環化可能な官能性の側鎖を有するアミノ酸残基であり;
R6およびR7はそれぞれ独立して選択された任意選択的に置換された疎水性のアミノ酸残基であり;
R10はLeuまたはいずれの疎水性ではないアミノ酸残基であり;
ここで、R1は任意であり;R1、R2、R3、R5、R8およびR9はそれぞれ独立して選択されたアミノ酸残基であり;R(FA)は、合計1〜5個の炭素原子を有する任意選択的に置換されたアルカノイルまたはアルキル残基であり;
但し、(1)R1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Leuであり、R7がL−LeuまたはL−Pheであり、R10がThrである場合、あるいはR1およびR2がなく、R3、R4、R5、R8、およびR9がDabであり、R6がD−Pheであり、R7がL−Leuであり、R10がThrである場合、R(FA)は非置換のアルカノイル残基ではなく、(2)R(FA)がアセチル、ブタノイルまたはペンタノイルである場合、RはDabではない]
のポリミキシン誘導体またはその薬学的に許容される塩もしくはプロドラッグ。
【請求項49】
R(FA)は1〜3個の炭素原子を有する残基である請求項48に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項50】
R(FA)はアセチルである請求項48または49に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項51】
R1〜R10はThr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]およびThr−DAsn−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]からなる群より選択される請求項48〜50のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項52】
Ac−Thr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]、Ac−Thr−DAsn−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]およびMe−Thr−DSer−cy[Dab−Dab−DPhe−Leu−Dab−Dab−Thr−]からなる群より選択される請求項51に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項53】
前記誘導体は生理的pHにて少なくとも2個の正電荷を有する請求項1〜52のいずれか一項に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項54】
前記誘導体は生理的pHにて3個の正電荷を有する請求項53に記載のポリミキシン誘導体。
【請求項55】
前記正電荷は遊離の、非置換のアミノ基および他の陽イオン性基からなる群より選択される請求項53または54に記載の誘導体。
【請求項56】
前記誘導体は、1個または複数の正電荷遮蔽部分を含むプロドラッグである請求項1〜54のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項57】
前記正電荷遮蔽部分は生体内で切断される請求項56に記載の誘導体。
【請求項58】
前記正電荷遮蔽部分は毒性を低減する請求項56に記載の誘導体。
【請求項59】
前記正電荷遮蔽部分はスルホアルキルである請求項56に記載の誘導体。
【請求項60】
前記スルホアルキル部分はスルホメチルである請求項59に記載の誘導体。
【請求項61】
前記誘導体はポリミキシンBより毒性が低い請求項1〜60のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項62】
前記誘導体は第二の抗菌剤または血清の補体に対する細菌の感受性を増加させる請求項1〜61のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項63】
前記誘導体は第二の抗菌剤に対する細菌の感受性を5倍以上増加させる請求項1〜62のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項64】
前記誘導体は第二の抗菌剤に対する細菌の感受性を10倍以上増加させる請求項63に記載の誘導体。
【請求項65】
前記第二の抗菌剤はリファンピン、クラリスロマイシン、ムピロシン、アジスロマイシン、フシジン酸、またはバンコマイシンである請求項62〜64のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項66】
前記誘導体は天然のポリミキシン、オクタペプチン、または5個を超える炭素原子を有する末端部分を含むポリミキシン誘導体と比較して、1または複数の薬物動態学的に好ましい性質を有する請求項1〜65のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項67】
前記薬物動態学的に好ましい性質は、天然のポリミキシン、オクタペプチン、または5個を超える炭素原子を有する末端部分を含むポリミキシン誘導体と比較して、長い半減期、増加した腎クリアランス、増加した尿中回収である請求項66に記載の誘導体。
【請求項68】
前記尿中回収は、24時間にわたる前記誘導体の投与された用量の約10%を超える請求項67に記載の誘導体。
【請求項69】
前記尿中回収は、24時間にわたる前記誘導体の投与された用量の約30%を超える請求項68に記載の誘導体。
【請求項70】
前記誘導体の前記腎クリアランスは約0.5ml/分/kgを超える請求項67に記載の誘導体。
【請求項71】
前記誘導体の前記腎クリアランスは約2ml/分/kgを超える請求項70に記載の誘導体。
【請求項72】
前記天然のポリミキシンまたはオクタペプチンは、ポリミキシンA、ポリミキシンB、IL−ポリミキシンB、ポリミキシンD、ポリミキシンE、ポリミキシンF、ポリミキシンM、ポリミキシンS、ポリミキシンT、サークリンA、オクタペプチンA、オクタペプチンB、オクタペプチンC、またはオクタペプチンDである請求項66〜71のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項73】
前記天然のポリミキシンまたはオクタペプチンはポリミキシンEである請求項72に記載の誘導体。
【請求項74】
請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体の2個または3以上を有する組み合わせ製品。
【請求項75】
請求項1〜73のいずれか一項に記載の少なくとも1個の誘導体と、少なくとも1個の薬学的に許容される担体および/または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項76】
さらに第二の抗菌剤を含む請求項75に記載の医薬組成物。
【請求項77】
グラム陰性菌を抗菌剤に対して感作させる方法であって、
前記抗菌剤および請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体もしくは請求項74に記載の組み合せの治療に有効な量を同時またはいずれの順番で順に投与することを備えるグラム陰性菌を抗生物質に対して感作させる方法。
【請求項78】
前記抗菌剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシンおよび他のマクロライド類、ケトライド類、クリンダマイシンおよび他のリンコサミン類、ストレプトグラミン類、リファンピン、リファブチン、リファラジルおよび他のリファマイシン類、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン類、バンコマイシン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシンおよび他のグリコペプチド系抗生物質、フルオロキノロン類、バシトラシン、テトラサイクリン誘導体、ベータラクタム系抗生物質、ノボビオシン、プレウロムチン類、葉酸合成阻害剤、デホルミラーゼ阻害剤および細菌排出ポンプ阻害剤からなる群より選択される請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記抗菌剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ストレプトグラミン併用キヌプリスチン・ダルホプリスチン、リファンピン、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン系リネゾリド、バンコマイシン、フルオロキノロン系モキシフロキサシンおよび葉酸合成阻害剤トリメトプリムからなる群より選択される請求項78に記載の方法。
【請求項80】
前記細菌は、大腸菌(Escherichia coli)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、クレブシエラ・オキシトカ(Klebsiella oxytoca)、エンテロバクター・クロアカ(Enterobacter cloacae)、シトロバクター・フロインディ(Citrobacter freundi)およびアシネトバクター・バウマンニからなる群より選択される請求項77に記載の方法。
【請求項81】
新規な抗生物質を開発する方法であって、
(a)合計4〜6個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然のポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
(b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって、3個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
(c)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
(d)抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える新規抗生物質の開発方法。
【請求項82】
新規な抗生物質を開発する方法であって、
(a)合計4〜6個の正電荷と5個を超える炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然のポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
(b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって3個の正電荷を有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
(c)5個を超える炭素原子を含む前記末端部分(D)を1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)で置換し、それによって3個の正電荷と合計1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
(d)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
(e)抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える新規抗生物質の開発方法。
【請求項83】
新規な抗生物質を開発する方法であって、
a)合計4〜6個の正電荷を有し、かつ末端部分(D)を欠くポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体を用意する工程と、
b)1個もしくは複数の正電荷を有する1〜3個の残基を正電荷を有していない残基または共有結合で置換し、それによって3個の正電荷を有するポリミキシン化合物の誘導体を生成する工程と、
c)1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)を導入し、それによって3個の正電荷と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有するポリミキシン化合物を生成する工程と、
e)前記ポリミキシン誘導体を抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力について検定する工程と、
f)抗菌剤に対してグラム陰性菌を感作させる能力を有する化合物を選択する工程とを備える新規抗生物質の開発方法。
【請求項84】
臨床的に重要なグラム陰性菌を血清中に存在する宿主防衛機構補体に対して感作させる方法であって、前記細菌に臨床感染の間、請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体の作用を施すことを特徴とする方法。
【請求項85】
前記細菌が、大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フロインディ、およびアシネトバクター・バウマンニからなる群より選択される請求項84に記載の方法。
【請求項86】
グラム陰性菌を抗菌剤に対して感作させるための薬剤の製造のための請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体の使用。
【請求項87】
前記細菌が、大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フロインディおよびアシネトバクター・バウマンニからなる群より選択される請求項86に記載の使用。
【請求項88】
前記抗菌剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシンおよび他のマクロライド類、ケトライド類、クリンダマイシンおよび他のリンコサミン類、ストレプトグラミン類、リファンピン、リファブチン、リファラジル、および他のリファマイシン類、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン類、バンコマイシン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシンおよび他のグリコペプチド系抗生物質、フルオロキノロン類、バシトラシン、テトラサイクリン誘導体、ベータラクタム系抗生物質、ノボビオシン、プレウロムチン類、葉酸合成阻害剤、デホルミラーゼ阻害剤および細菌排出ポンプ阻害剤からなる群かより選択される請求項87に記載の使用。
【請求項89】
前記抗菌剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン、クリンダマイシン、ストレプトグラミン併用キヌプリスチン・ダルホプリスチン、リファンピン、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン系リネゾリド、バンコマイシン、フルオロキノロン系モキシフロキサシンおよび葉酸合成阻害剤トリメトプリムからなる群より選択される請求項88に記載の使用。
【請求項90】
グラム陰性菌を血清中に存在する宿主防衛機構補体に対して感作させるための薬剤の製造のための請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体の使用。
【請求項91】
前記細菌は、大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フロインディ、およびアシネトバクター・バウマンニからなる群より選択される請求項90に記載の使用。
【請求項92】
請求項1で定義した式(I)のポリミキシン誘導体を製造する方法であって、
(A)3個の正に荷電した残基と合計1〜5個の炭素原子を含む末端部(D)とを有する請求項1記載の式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜5個の正に荷電した残基と1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然もしくは合成のポリミキシン化合物またはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜2個の前記残基を、中性残基もしくは共有結合で置換することによって、または1〜2個の前記残基を中性残基に変換することによって修飾すること;あるいは
(B)3個の正に荷電した残基と合計1〜5個の炭素原子を含む末端部(D)とを有する請求項1記載の式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜5個の正に荷電した残基と5個を超える炭素原子を含む末端部分(D)とを有する天然もしくは合成のポリミキシン化合物またはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜2個の前記残基を中性残基もしくは共有結合で置換するか、または1〜3個の前記残基を中性残基に変換し、5個を超える炭素原子を有する前記末端部分(D)を1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)と置換することによって修飾すること;あるいは
(C)3個の正に荷電した残基と合計1〜5個の炭素原子を有する末端部分(D)とを含む請求項1記載の式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、4〜6個の正に荷電した残基を有し、かつ末端部分(D)を欠く天然もしくは合成のポリミキシン化合物またはオクタペプチン化合物あるいはそれらの誘導体を、1〜3個の前記残基を中性残基もしくは共有結合で置換するか、または1〜3個の前記残基を中性残基に変換し、合計1〜5個の炭素原子を含む末端部分(D)を導入することを備える前記ポリミキシン誘導体の製造方法。
【請求項93】
全合成プロセスとして実行する請求項92に記載の方法。
【請求項94】
半合成プロセスとして実行する請求項92に記載の方法。
【請求項95】
a)前記ポリミキシン化合物の側鎖を除去するように、天然もしくは合成のポリミキシン化合物もしくはオクタペプチン化合物またはそれらの誘導体に開裂を施し、該化合物の環状部を回収し、
b) 請求項1に記載の式(I)のポリミキシン誘導体を得るように、前記工程a)で得た環状部に合成によって作製した側鎖を結合させることを含む請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記工程a)における開裂を酵素的に実行する請求項94に記載の方法。
【請求項97】
前記工程a)における開裂を化学的に実行する請求項94に記載の方法。
【請求項98】
前記工程a)における開裂を化学的および酵素的な処理の両方を組み合わせて実行する請求項94に記載のプロセス。
【請求項99】
対象におけるグラム陰性菌感染症を治療する方法であって、請求項1〜73のいずれか一項に記載の誘導体の有効量を第二の抗菌剤と組み合わせて細菌感染症が治療されるように投与することを含む細菌感染を治療する方法。
【請求項100】
前記第二の抗菌剤は、クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシンマクロライド、ケトライド、クリンダマイシン、リンコサミン、ストレプトグラミン、リファンピン、リファブチン、リファラジル、リファマイシン、フシジン酸、ムピロシン、オキサゾリジノン、バンコマイシン、ダルババンシン、テラバンシン、オリタバンシン、グリコペプチド系抗生物質、フルオロキノロン類、バシトラシン、テトラサイクリン誘導体、ベータラクタム系抗生物質、ノボビオシン、プレウロムチリン、葉酸合成阻害剤、デホルミラーゼ阻害剤または細菌排出ポンプ阻害剤である請求項99記載の方法。
【請求項101】
前記対象は哺乳類である請求項99または100に記載の方法。
【請求項102】
前記対象はヒトである請求項101に記載の方法。
【請求項103】
前記細菌感染症は、大腸菌、肺炎桿菌、クレブシエラ・オキシトカ、エンテロバクター・クロアカ、シトロバクター・フロインディまたはアシネトバクターバウマンニである請求項99〜102のいずれか一項に記載の方法。
【請求項104】
前記誘導体および前記第二の抗菌剤は薬学的に許容される担体と組み合わせて投与される請求項99〜103のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−511045(P2011−511045A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545515(P2010−545515)
【出願日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際出願番号】PCT/FI2009/050093
【国際公開番号】WO2009/098357
【国際公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(509040352)
【Fターム(参考)】