説明

石油精製プラントの洗浄方法

【課題】有機や無機にかかわれず汚れを確実に取り除くことができるとともに廃水処理も容易に行える石油精製プラントの洗浄方法を提供する。
【解決手段】石油精製プラント1に石油と界面活性剤及びリモネンを含む化学剤とを混合した第一次洗浄液により100℃を超える状態で洗浄を行う第一次洗浄工程を実施し、石油精製プラント1を90℃以下に降温させた後、石油精製プラント1に第一次洗浄液に水を添加した第二次洗浄液により第二次洗浄工程を実施し、主に化学剤によって有機汚れを除去するとともに、水によって無機汚れを除去した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油精製プラントの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油精製プラントとして、常圧蒸留装置や減圧蒸留装置等がある。これらの装置は、通常、供給装置から供給された原油を前留塔で蓄え、この前留塔から供給される原油を加熱炉で加熱し、この加熱炉で加熱された原油を精留塔で精製する構成である。そして、供給装置と前留塔との間には熱交換器が配置されている。
以上の構成の常圧蒸留装置等の石油精製プラントでは、ラインの一部、例えば、熱交換器の内部には、有機物質(重質油、アスファルテン等)及び無機物質(塩、硫化鉄等)からなる汚れが付着される。
【0003】
プラント内にあるメルカプタン等の汚れを除去するために、PH7〜8となるように酸化剤を水に添加してプラント内を循環させる従来例がある(特許文献1)。この特許文献1ではプラントを含む水循環系を形成し、この水循環系で水を循環させてプラント内の汚れを除去した後、水循環系から汚れた水を引き抜く。
また、プラント内の汚れを除去するために、洗浄用灯軽油留分(石油)をプラントに注入するとともに、アルキルベンゼン系の芳香族及び界面活性剤を含む洗浄液を添加する従来例がある(特許文献2)。この特許文献2では主に油を用いた洗浄液での洗浄が終了した後に、油洗浄液を排出してから、水を新たに導入して水洗を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−52371号公報
【特許文献2】特開2003−213470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例では、水の沸点の制限で、洗浄能力に限界があるだけでなく、大量の廃水が発生し、洗浄後の後処理のための装置が大がかりとなるという課題がある。
特許文献2で示される従来例では、始めに油を用いた洗浄を行い、この油での洗浄を終了した後に、水を用いた洗浄を行うため、特許文献1と同様に、水洗浄後の廃水処理の課題が残る。
【0006】
本発明の目的は、有機や無機にかかわれず汚れを確実に取り除くことができるとともに廃水処理も容易に行える石油精製プラントの洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の石油精製プラントの洗浄方法は、石油精製プラントに石油に界面活性剤及びリモネンを含む化学剤を混合した第一次洗浄液により100℃を超える状態で洗浄を行う第一次洗浄工程と、前記石油精製プラントを90℃以下に降温させた後、前記石油精製プラントに前記第一次洗浄液に水を添加した第二次洗浄液でさらに洗浄を行う第二次洗浄工程と、を備え、前記水は前記第一次洗浄液全体に対して、0.5質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする。
この構成の本発明では、まず、石油精製プラントに石油を、100℃を超える温度に昇温し、この石油を化学剤と混合した第一次洗浄液を用いて第一次洗浄を実施する。すると、粘着性のある有機汚れが高温の第一次洗浄液により軟化される。この状態では、塩や硫化鉄等の無機汚れは有機汚れがバインダーとなってプラントの配管内部に堆積・付着するが、本発明では、プラント内温度が90℃以下に降温した後、水を添加した第二次洗浄液で第二次洗浄工程を実施し、主に化学剤によって有機汚れを除去するとともに、水によって無機汚れを除去する。そのため、本発明では、第一次洗浄工程で有機の汚れを軟化させておいて、第二次洗浄工程によって有機や無機の汚れを同時に除去するので、確実にプラント内の汚れを除去することができる。そして、第二次洗浄を実施する際の温度が90℃以下であるので、水の沸騰を抑えることができ、不慮の事故を未然に防止することができる。
ここで、水の第一次洗浄液全体に対する比率が0.5質量%未満であると、水を用いた第二次洗浄の効果を十分に得ることができず、2.0質量%を超えると、特別な汚水処理が必要となって好ましくない。
【0008】
本発明では、前記第二次洗浄工程の後、前記水を含む廃液をスロップタンクに回収し、このスロップタンクで水と廃液に含まれる油とを分離し、水をタンクドレンで回収処理するとともに油を再利用する構成が好ましい。
この構成の本発明では、スロップタンクによって、水を処理し、油を再利用することで、省資源化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係る洗浄装置が組み込まれた石油精製プラントの概略構成図。
【図2】前記実施形態の洗浄モデルを示す概略図。
【図3】前記実施形態の洗浄モデルを示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は本実施形態の洗浄装置が組み込まれた石油精製プラント1の概略構成図である。本実施形態の石油精製プラント1は常圧蒸留装置である。
図1において、石油精製プラント1は、原油供給装置11と、この原油供給装置11から供給された原油を脱塩する脱塩装置12と、この脱塩装置12で脱塩された原油を貯蔵する前留塔13と、この前留塔13から送られた原油を加熱する加熱炉14と、この加熱炉14で加熱された原油を精製する精留塔15と、この精留塔15で精製された製品を蓄える製品貯蔵タンク16とを備えている。この製品貯蔵タンク16は図1では1つのみ図示されているが、通常は、重質ナフサ、灯油、軽油等の製品に応じて複数設けられている。
【0011】
原油供給装置11と脱塩装置12とはライン21で接続され、この脱塩装置12と前留塔13とはライン22で接続され、この前留塔13と加熱炉14とはライン23で接続され、加熱炉14と精留塔15とはライン24で接続され、精留塔15と製品貯蔵タンク16とはライン25で接続される。このライン25とライン21とには精留塔15で精留された油を前留塔13に戻すためのライン26が接続される。このライン26は装置のスタートアップラインである。
ライン21には外部のラインとの間で熱交換する熱交換器31が配置され、この熱交換器31の下流側にはライン21とライン25との間で熱交換をする熱交換器32が配置される。
ライン22には外部のラインとの間で熱交換する熱交換器31が配置され、この熱交換器31の下流側にはライン22とライン25との間で熱交換をする熱交換器32が配置される。
【0012】
ライン23には前留塔13から加熱炉14に原油を送るポンプ33が配置され、このポンプ33の下流側にはライン24とライン25との間で熱交換をする熱交換器32が配置される。
ライン25には精留塔15で精製された製品(含む半製品)を製品貯蔵タンク16側に送るポンプ33が配置され、このポンプ33の下流側には外部のラインとの間で熱交換する熱交換器31が配置され、この熱交換器31の下流側には前述の熱交換器32が配置されている。
なお、ライン25は熱交換器31及び冷却器34を有するライン26Aを備える。
【0013】
ライン26には石油留分(洗浄母液)を貯蔵するタンク5が接続され、このタンク5とライン26との間には開閉弁5Aが設けられている。この開閉弁5Aが開放されると、タンク5から石油が石油精製プラント1に供給され、この石油精製プラント1で石油が循環される。
ライン25の精留塔15の下部とポンプ33との間の部分にテンポラリー注入ユニット4が接続されている。
このテンポラリー注入ユニット4は、石油精製プラント1を循環する石油留分に添加されて第一次洗浄液を構成する化学剤と、第一洗浄液に添加して第二洗浄液を構成する水とを石油精製プラント1に注入する可移動式注入ユニットである。
本実施形態では、石油を貯蔵するタンク5とテンポラリー注入ユニット4とから洗浄剤供給装置が構成される。
テンポラリー注入ユニット4は、化学剤の一部を構成する界面活性剤を貯蔵するドラム缶41と、化学剤の一部を構成するリモネン等の助剤を貯蔵するドラム缶42と、水を貯蔵するタンク43と、これらのタンク41,42,43の液体を供給するポンプからなる供給装置44と、この供給装置44で供給される混合液体を貯蔵する貯蔵タンク45と、この貯蔵タンク45で貯蔵された混合液体を石油精製プラント1のライン25に送るポンプ等の供給装置46とを備えている。この供給装置46とライン25の精留塔15とポンプ33との間には切換弁47が設けられている。
ドラム缶41,42,43と供給装置44との間には切換弁41A,42A,43Aが設けられ、これらの切換弁41A,42A,43Aは、石油とともに第一洗浄液を構成する化学剤や、第一次洗浄液に水を加えて第二洗浄液を製造するために、それぞれ図示しない制御手段からの指令を受けて開閉操作される。
【0014】
タンク5に貯蔵される石油は、灯油留分、軽油留分及び減圧軽油留分より選ばれた少なくとも1種である。
灯油留分は、ガソリンより重く、軽油より軽い留分である。軽油留分は、灯油についで留出する留分である。減圧軽油留分は、減圧蒸留装置から得られる留出油である。
タンク41に貯蔵される界面活性剤は、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、両イオン界面活性剤及び非イオン系界面活性剤より選ばれた1種である。
陰イオン系界面活性剤には、カルボン酸塩、スルフォン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩、等が含まれる。
カルボン酸塩は、エタノールアミン石鹸、N−アシルアミノ酸、アルキルエーテルカルボン酸、等である。スルフォン酸塩は、アルキルベンゼンスルフォン酸、アルキルナフタレンスルフォン酸、メラミンスルフォン酸、ジアルキルスルフォコハク酸、アルキルスルフォ酢酸、α−オレフィンスルフォン酸、等である。硫酸エステル塩は、硫酸化油、高級アルコール硫酸エステル、アルキルエーテル硫酸、第2級高級アルコールエトキシ硫酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸、脂肪酸アルキロールアマイドの硫酸エステル、等である。リン酸エステル塩は、アルキルエーテルリン酸エステル、アルキルリン酸エステル等のリン酸エステル類、等である。
【0015】
陽イオン系界面活性剤は、例えば脂肪族第4級アミン等の脂肪族アミンである。
両イオン界面活性剤は、カルボキシベタイン、スルホベタイン、アミノカルボン酸塩、イミダゾリン誘導体、等である。
非イオン系界面活性剤には、エーテル型界面活性剤、エーテルエステル型界面活性剤、エステル型界面活性剤、含窒素型界面活性剤、等が含まれる。
エーテル型界面活性剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルコールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、等である。エーテルエステル型界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、等である。エステル型界面活性剤は、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、等である。
含窒素型非イオン界面活性剤は、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、等である。
タンク42に貯蔵されるリモネンは、光学異性体d,lを含む。d−リモネンは、その誘導体を含むものであり、d−リモネンの誘導体は、シトラールA、等である。
化学剤は、界面活性剤とリモネン以外の物質、例えば、β−ビレン、モノテルパンも含まれる。
【0016】
第一次洗浄液の全体に対する化学剤の比率は1質量%以上20質量%以下である。化学剤の比率が1質量%未満であると、十分な洗浄効果を得ることができず、20質量%を超えると、多少、洗浄能力が向上するのみでコストがかかり過ぎることになる。
また、化学剤の全体に対するリモネンの比率は、20質量%以上40質量%以下である。リモネンの比率が20質量%未満であると、溶解力が不足し、40質量%を超えると、分散力が弱くなる。
第一次洗浄液に水を添加して第二次洗浄液が構成される。
水は第一次洗浄液の質量を100%とした場合に、0.5質量%以上2.0質量%以下である。0.5質量%未満であると、水を用いた第二次洗浄の効果を十分に得ることができず、2.0質量%を超えると、汚水処理が必要となって好ましくない。
【0017】
ライン25には水を含む廃液を回収するスロップタンク6が接続されている。このスロップタンク6は、回収した廃液を水と油とを分離保管するものであり、その構造は一般のタンクと同じである。スロップタンク6は分離した水を回収処理するタンクドレン(図示せず)を備えている。このスロップタンク6で回収された油は別途再利用される。スロップタンク6では、水添加量が2%以下であると、水処理に負荷があまりかからない。
なお、本実施形態では、スロップタンク6とテンポラリー注入ユニット4とから本実施形態のプラント洗浄装置が構成される。
ライン25と製品貯蔵タンク16とは切換弁56で接続されており、ライン25とスロップタンク6とは切換弁57で接続されている。
【0018】
次に、本実施形態の洗浄方法を図2及び図3に基づいて説明する。図2及び図3は本実施形態の洗浄モデルを示す概略図である。
[第一次洗浄工程]
まず、石油精製プラント1を停止して精製工程を中止する。この精製工程の中止に伴って、切換弁57を閉塞操作して精留塔15で精製された製品の製品貯蔵タンク16への供給を中止する。そして、テンポラリー注入ユニット4をライン25に接続する。
精製工程によって、プラントを構成するライン21〜26、熱交換器31,32、脱塩装置12、加熱炉14及び精留塔15には有機汚れや無機汚れが付着されることになる。例えば、熱交換器31,32の管内部には図2(A)で示される汚れが付着される。図2(A)で示される通り、汚れは、アスファルテン等の重質油分Pと硫化鉄、塩析等の無機系スラッジSとが互いに混じり合って1つの塊を構成している。
【0019】
精製工程を中止したら、タンク5及びテンポラリー注入ユニット4から構成される洗浄液供給装置を作動させる。まず、開閉弁5Aを開放操作してタンク5から石油をライン26に送り込む。この石油をライン26から石油精製プラント1の装置を石油留分で置換する。置換完了後、石油留分を循環しながら石油精製プラント1を130℃まで昇温する。
その後、開閉弁5Aを閉塞状態で開閉弁41A,42Aを開放操作してプラント内を循環している石油に界面活性剤及びリモネン等の助剤からなる化学剤を送る。なお、第一次洗浄液の全体に対する化学剤の比率を前述の値とするために開閉弁41A,42Aの開度を調整する。
石油に化学剤を添加した第一次洗浄液は、熱交換器31,32を経て脱塩装置12に送られ、さらに、ライン22の熱交換器31,32を通って前留塔13に送られる。前留塔13から排出された第一次洗浄液はポンプ33で熱交換器32を介して加熱炉14に送られる。
【0020】
この加熱炉14では、第一次洗浄液に添加された化学剤が100℃を超える温度になるように加熱温度が制御される。第一次洗浄液に添加された化学剤の加熱温度は110℃以上160℃以下が好ましく、125℃以上150℃以下がより好ましい。第一次洗浄液に添加した化学剤が100℃未満であると、洗浄効果が十分ではなく、125℃未満であると、ある程度の洗浄効果を得ることができるものの洗浄のために時間がかかる等の不具合がある。これに対して、洗浄温度が160℃を超えると、洗浄時間を短縮できるものの、化学剤が蒸発することがあり、洗浄温度が150℃を超えると、化学剤の蒸発という不都合はないものの、洗浄効果の程度に対して加熱のためのエネルギーが無駄に消費される。
【0021】
加熱炉14で加熱された第一次洗浄液は精留塔15に送られ、この精留塔15から排出された第一次洗浄液はライン25のポンプ33で送り出され、熱交換器31,32を経てライン26に送られ、このライン26からライン21に戻される。
以上の通り、第一次洗浄液は、熱交換器31,32、脱塩装置12、加熱炉14及び精留塔15等からなるプラント内部を循環する。すると、プラント内部が洗浄される。例えば、熱交換器31,32の管内部に付着された汚れは、図2(B)で示される通り、第一次洗浄液の化学剤Cが汚れの中に浸透し、図2(C)で示される通り、重質油分Pを軟化させる。この化学剤Cによって重質油分Pが軟化して油分Poとなる。
このような第一次洗浄を実施して所定時間が経過したら、第二次洗浄工程に移行する。この第二次洗浄工程に移行する前に、加熱炉14の加熱温度を調整するとともに、洗浄液をライン26Aに通して冷却器34を利用して石油精製プラント1全体を90℃まで降温させておく。
なお、第一次洗浄液の流速、洗浄時間は適宜設定されるが、例えば、通常運転流速が好ましく、洗浄時間は12時間である。
【0022】
[第二次洗浄工程]
開閉弁41A,42Aを閉塞状態で開閉弁43Aを開放操作して第二次洗浄液を構成する水をライン25に送る。なお、水の第一次洗浄液に対する比率を前述の値とするために開閉弁43Aの開度を調整する。
第二次洗浄液は、熱交換器31,32を経て脱塩装置12に送られ、さらに、ライン22の熱交換器31,32を通って前留塔13に送られる。前留塔13から排出された第一次洗浄液はポンプ33で熱交換器32を介して加熱炉14に送られる。なお、第二次洗浄液の流速は第一次洗浄液の流速と同じである。
【0023】
第二次洗浄によって、第二次洗浄液が熱交換器31,32、脱塩装置12、加熱炉14及び精留塔15等からなるプラント内部を循環すると、プラント内部が洗浄される。例えば、熱交換器31,32の管内部に付着された汚れは、図3(D)で示される通り、界面活性剤を含む化学剤が軟化された重質油分Poを溶解除去する。溶解された重質油分Poは化学剤と一体となって有機汚れPとして除去される。同時に、図3(E)で示される通り、無機系スラッジSを構成する塩が水を結びついて塩化物Eとなり、この塩化物Eが取り除かれ、図3(F)で示される通り、無機系スラッジSを構成する硫化鉄Fも配管表面から取り除かれる。
【0024】
第二次洗浄液で石油精製プラント1を循環洗浄したら、プラント内部の洗浄廃液をスロップタンク6で回収する。
スロップタンク6で回収される廃液は、水を含む第二次洗浄液や精製工程で精製された油が混在しているが、そのうち水がタンクドレンによって回収され、油等は別途再利用される。
【0025】
従って、本実施形態では、石油精製プラント1を石油と界面活性剤及びリモネンを含む化学剤とを混合した第一次洗浄液により、100℃を超える状態で洗浄する第一次洗浄工程を実施し、石油精製プラント1を90℃以下に降下させた後、石油精製プラント1に第一次洗浄液に水を添加した第二次洗浄液により第二次洗浄工程を実施し、主に化学剤によって有機汚れを除去するとともに、水によって無機汚れを除去した。そのため、第一次洗浄工程で有機の汚れを軟化させておいて、第二次洗浄工程によって有機や無機の汚れを同時に除去するので、確実にプラント内の汚れを除去することができる。そして、第二次洗浄を実施する際の温度を90℃以下としたので、第二次洗浄工程中での水の沸騰を抑えることができる。その上、水の第二次洗浄液全体に対する比率を0.5質量%以上2.0質量%以下としたので、水を用いた第二次洗浄の効果を十分に得ることができるとともに、煩雑な汚水処理が不要となる。
【0026】
第二次洗浄工程の後、前記水を含む廃液をスロップタンク6に回収し、このスロップタンク6で水と廃液に含まれる油とを分離し、水をタンクドレンで回収処理するとともに油を再利用したから、省資源化を図ることができる。
【実施例】
【0027】
本実施形態の洗浄効果を確認するために、実施例について説明する。
[実施例1]
試液:20質量%のカルボキシベタインと、20質量%のスルホベタインと、60質量%のリモネンとから化学剤を構成し、この化学剤を2.0質量%、水を0.5質量%、及び軽油を97.5質量%として試液を構成した。
試験片:縦50mm、横25mm及び厚さ1.6mmの鉄片の表面に、70質量%のアスファルト、20質量%の塩、及び10質量%の硫化鉄を混合して得られた汚れの試薬を刷毛等で塗った。この試験片を355℃のホットプレートで4分〜30分加熱した。この条件で作成されたサンプルは、精製工程が終了したプラント内の配管内部の汚れと類似している。
試験装置:試験片と試液とをステンレス製容器に収納するとともに、このステンレス製容器を回転させて試験片を洗浄する。この試験装置は、糸及び生地用染色試験で使用したミニカラー染色機を転用したもので、テクサム技研製(型番MC−12EL)である。
試験方法:洗浄前の試験片のアスファルト成分分量Woと、洗浄後のアスファルト成分分量Wtとを計りを用いて求め、アスファルト除去率を算出する。このアスファルト除去率W%={(Wo−Wt)/Wo}×100である。
以上のアスファルト除去率を5枚の試験片について求め、それらの算出値の平均値を求めた。
実験結果:アスファルト除去率W=96.0%
【0028】
[実施例2]
実施例2は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:実施例1と同じ化学剤を用い、この化学剤を2.0質量%、水を2.0質量%、及び軽油を96.0質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=98.5%
【0029】
[実施例3]
実施例3は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:実施例1と同じ化学剤を用い、この化学剤を4.0質量%、水を0.5質量%、及び軽油を95.5質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=96.5%
【0030】
[実施例4]
実施例4は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:20質量%の大豆レシチンと、20質量%の石油スルホネートと、60質量%のリモネンとから化学剤を構成し、この化学剤を2.0質量%、水を0.5質量%、及び軽油を97.5質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=85%
【0031】
[実施例5]
実施例5は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:10質量%のカルボキシベタインと、30質量%のスルホベタインと、60質量%のリモネンとから化学剤を構成し、この化学剤を2.0質量%、水を0.5質量%、及び軽油を97.5質量%として試液を構成した。
実験結果: アスファルト除去率W=93%
【0032】
[実施例6]
実施例6は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:10質量%のカルボキシベタインと、10質量%のスルホベタインと、80質量%のリモネンとから化学剤を構成し、この化学剤を2.0質量%、水を0.5質量%、及び軽油を97.5質量%として試液を構成した。
実験結果: アスファルト除去率W=94%
【0033】
[比較例1]
比較例1は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:実施例1と同じ化学剤を用い、この化学剤を2.0質量%、水を0.2質量%、及び軽油を97.8質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=67.0%
【0034】
[比較例2]
比較例2は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:40質量%の親水性界面活性剤(ブチルジグリコール)と、40質量%の親水性界面活性剤(ジエタノールカミン)と、20質量%のリモネンとから化学剤を構成し、この化学剤を2.0質量%、水を98.0質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=12%
【0035】
[比較例3]
比較例3は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:実施例1と同じ化学剤を用い、この化学剤を2.0質量%、軽油を98.0質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=62.0%
【0036】
[比較例4]
比較例4は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:軽油を100質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=23.0%
【0037】
[比較例5]
比較例5は実施例1と試液を相違させたものであり、試験片、試験装置及び試験方法は実施例1と同じである。
試液:実施例1と同じ化学剤を用い、この化学剤を2.0質量%、水を7.0質量%、及び軽油を91.0質量%として試液を構成した。
実験結果:アスファルト除去率W=98.0%
ただし、比較例5の試液を第二次洗浄液として用いた場合、大がかりな廃水処理が必要とされる。
以上の実施例及び比較例の条件及び実験結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
以上の実施例及び比較例から、水の添加量が試液全体の0.5質量%を超えると、アスファルト除去率Wが96.0%以上であるため、大きな洗浄効果を得ることができる。これに対して、水の添加量が試液全体の0.2質量%では、アスファルト除去率Wが67質量%と低く、0.0質量%では、アスファルト除去率Wが62.0質量%とより低くなる。このように、水の添加量が多くなると、アスファルト除去率Wが大きくなることがわかる。なお、比較例5で示される通り、水添加量が5質量%より大きな値となると、アスファルト除去率Wが実施例と同様に大きな値となるが、大がかりな廃水処理が必要とされるので、洗浄液としては向かない。
【0040】
なお、本発明は、上述した一実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、前記実施形態では、第二次洗浄工程の後、水を含む廃液をスロップタンク6に回収し、このスロップタンク6で水と廃液に含まれる油とを分離したが、本発明では、必ずしも、スロップタンク6を設けることを要しない。
さらに、前記実施形態では、石油精製プラント1を常圧蒸留装置として説明したが、本発明では減圧蒸留装置等の他の石油精製プラントにも適用することができる。
また、前記実施形態では、テンポラリー注入ユニット4を精留塔15の下部(ボトム)に接続したが、この接続箇所は下部に限定されるものではない。つまり、テンポラリー注入ユニット4の接続箇所は循環ループ中のいずれの箇所でもよい。但し、注入作業を容易にするために、通常、ループの低圧箇所、例えば、ポンプ33のサクションが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は常圧蒸留装置や減圧蒸留装置等の石油精製プラントに利用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1…石油精製プラント、4…テンポラリー注入ユニット、6…スロップタンク、11…原油供給装置、12…脱塩装置、13…前留塔、14…加熱炉、15…精留塔、16…製品貯蔵タンク、21〜26…ライン、31,32…熱交換器、34…冷却器、C…化学剤、E…塩化物、F…硫化鉄、P,Po…重質油分、S…無機系スラッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油精製プラントに石油に界面活性剤及びリモネンを含む化学剤を混合した第一次洗浄液により100℃を超える状態で洗浄を行う第一次洗浄工程と、
前記石油精製プラントを90℃以下に降温させた後、前記石油精製プラントに前記第一次洗浄液に水を添加した第二次洗浄液でさらに洗浄を行う第二次洗浄工程と、を備え、
前記水は前記第一次洗浄液全体に対して、0.5質量%以上2.0質量%以下であることを特徴とする石油精製プラントの洗浄方法。
【請求項2】
請求項1に記載の石油精製プラントの洗浄方法において、
前記第二次洗浄工程の後、前記水を含む廃液をスロップタンクに回収し、このスロップタンクで水と廃液に含まれる油とを分離し、水をタンクドレンで回収処理するとともに油を再利用することを特徴とする石油精製プラントの洗浄方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−17483(P2012−17483A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153969(P2010−153969)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(391019359)ソフタード工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】