説明

石炭およびバイオマスの共熱分解装置および方法

【課題】 石炭とバイオマスとを共熱分解する際の操業トラブルの原因なる、熱分解装置内でのすすの発生を防ぎ、ガス、タールおよびチャーの収率を向上させる。
【解決手段】 下段がガス化炉2で上段が熱分解炉1である二室二段構造の熱分解装置を用い、ガス化炉2において、炭素質原料13を酸素14、または、酸素14および水蒸気15と共にガス化バーナー5を介して吹き込み、部分酸化反応を起こさせることによって高温ガスを発生させた後、その高温ガスを熱分解炉1へ導入し、熱分解ガス化を行う反応炉において、バイオマス吹き込みノズル4を石炭吹き込みノズル3の下方に設置し、バイオマスとガス化ガスとの混合後に石炭を投入することを特徴とする石炭およびバイオマスの共熱分解装置および方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石炭およびバイオマスを同時に気流層中で急速に熱分解・ガス化させて、ガス、タール、およびチャーを製造する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在までに、石炭を高温で熱分解し、直接メタンを始めとする炭化水素ガスおよびベンゼン−トルエン−キシレン(BTX)を始めとするオイルを製造する石炭熱分解プロセスがいくつか提案されている。
【0003】
特許文献1において、石炭および炭素質原料の酸素によるガス化で生じる高温ガス中に、石炭を吹き込み、石炭の急速加熱・熱分解反応を気流層で行わせ、特にBTXを高収率で得ることが可能であり、かつ、設備のイニシャルコストを低減し、熱補給の必要がない高い熱効率の石炭熱分解方法が示されている。特許文献1では、熱分解される原料は「石炭および炭素質原料」とされているが、石炭と炭素質原料のひとつであるバイオマスとを同時に熱分解する方法については述べられていない。バイオマスを熱分解すると石炭を熱分解した場合と同様に、水素、一酸化炭素、メタン等の炭化水素系ガス、タール、炭化物などが生成される。
【0004】
近年、発電等にバイオマスが燃料として使用されつつある。しかし、熱分解して得られたガスを工場の燃料や発電に使用する場合には、大量のバイオマスが必要となる。しかし大量のバイオマスを使用することについては収集やハンドリングで問題があり、バイオマスのみで熱分解温度を維持できない場合には石炭を同時に吹き込むことでバイオマス収集量の問題は回避できる。共熱分解とはこのような収集に問題のあるバイオマスを石炭と同時に熱分解することで、効率よく熱分解生成物を製造することを目的とした方法である。
【0005】
また、特許文献2において、上段に排熱回収ボイラーを有する噴流床ガス化炉の下部に、石炭粒子を導入して高温の石炭生成ガスを生成させ、その上部にバイオマス燃料を導入して高温の石炭生成ガスと接触させることで、ガス化炉で生成した高温の石炭生成ガスは、低温化されて排熱回収ボイラーにおける灰の堆積・融着に伴う障害の発生を軽減できる石炭の加圧噴流床ガス化方法が開示されている。
【0006】
バイオマスとは生物量の総称であり、FAO(国連食糧農業機関)によれば、農業系(麦わら、サトウキビ、米糠、草木等)、林業系(製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等)、畜産系(家畜廃棄物)、水産系(水産加工残滓)、廃棄物系(生ゴミ、RDF(ゴミ固形化燃料;Refuse Derived Fuel)、庭木、建設廃材、下水汚泥)等に分類される。本明細書において、バイオマスについての定義は上記FAOの定義に準ずる。例えば、木質バイオマスでは、FAO定義における林業系バイオマスと、廃棄物系バイオマスの一部を指し、製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林、庭木、木材などの建設廃材、などが該当する。木質バイオマスは含有水分が少なく(50質量%以下)湿分基準の発熱量も高いため、熱分解の際にガス、固体エネルギーを効率よく回収できる。木質バイオマス以外のバイオマスに関しても、基本的に保有湿分基準発熱量が、水分の気化熱+バイオマス自身の顕熱上昇+分解熱以上であれば、有効なエネルギー源になりうる。また、バイオマスは、燃焼時に地球環境に影響を与える二酸化炭素を殆ど生成しないカーボンニュートラルな材料である。
【特許文献1】特開平5−295371号公報
【特許文献2】特開2002−194363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において提案されているプロセスは、BTXを始めとするオイルを高い収率で製造することが可能であり、かつ、設備のイニシャルコストを低減し、熱補給のない高い熱効率の石炭熱分解方法である。この方法においては、ガス化炉から発生する高温のガス化ガスと熱分解炉に投入された石炭とが混合される際に、部分的に石炭から発生した揮発分の温度が上がり過ぎることがある。その結果、揮発分の分解が進み過ぎて、有用なオイルや炭化水素ガスとならずに、すすが発生する場合があった。すすが発生すると、有用なオイルや炭化水素ガスが減少するだけでなく、すすの熱分解炉内や配管内での付着や生成するタールへの混入などのトラブル原因となる。
【0008】
また、特許文献2に記載の方法は、バイオマスのみを石炭生成ガスに吹き込み、排熱回収ボイラーに導入されるガス温度を低下させるもので、目的とする生成物もガスだけである。すなわち、ガスだけでなく、タール、およびチャー等の多種類の生成物を回収することは、特許文献2に記載の方法ではできない。
【0009】
本発明の目的は、石炭とバイオマスとを一緒に熱分解する際に、熱分解炉内において生成する揮発分の過度の分解を防ぎ、ガス、タールおよびチャー等の多種類の生成物の収率を向上させ、すすの発生による操業トラブルを防ぐことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる問題を解決するため、本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
【0011】
(1)下段がガス化炉で上段が熱分解炉である二段構造の石炭およびバイオマスの共熱分解装置において、前記熱分解炉の側壁に上方から順に、石炭吹き込みノズル、およびバイオマス吹き込みノズルを設けることを特徴とする石炭およびバイオマスの共熱分解装置。
【0012】
(2)(1)に記載の石炭およびバイオマスの共熱分解装置を用い、前記ガス化炉において炭素質原料を酸素または酸素および水蒸気と共に吹き込んで、ガス化ガスを発生させ、前記ガス化ガスを前記熱分解炉に導入し、前記バイオマス吹き込みノズルからバイオマスを投入して前記バイオマスの熱分解を行ない、生成した混合ガス中に前記石炭吹き込みノズルから石炭を投入して、ガス、タールおよびチャーを生成することを特徴とする石炭およびバイオマスの共熱分解方法。
【0013】
尚、本発明における「炭素質原料」とは、炭素、および水素で主に構成される物質を指す。炭素質原料として例えば、石炭を熱分解した際に発生する固体のチャーや液体のタール、石油、石油残渣、石油コークス、石炭、石炭コークス、バイオマス、プラスチック類も含まれる。
【0014】
また、バイオマスと石炭との共熱分解とは、バイオマスと石炭とを共に同じ反応器で熱分解することである。バイオマスを単独で熱分解する場合、共熱分解に比べて大量のバイオマスが必要となる。大量にバイオマスを使用する場合には収集やハンドリングで問題となるおそれがある。しかし、共熱分解を行うことにより、不足するバイオマスを石炭で補うことで効率よく熱分解生成物を製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、熱分解炉内において生成する揮発分の過度の分解を防ぎ、生成ガスの発熱量の上昇、ガス、タールおよびチャーの収率の上昇が可能となる。さらに、すすの発生を低減させることで、すすの熱分解炉や配管内での付着を防ぐことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。図1に本発明に係る石炭およびバイオマスの共熱分解装置の概略図を例示するが、装置の形状は図1に限定されない。本装置は、熱分解炉1、およびガス化炉2で主に構成される。
【0017】
ガス化される炭素質原料13に含まれる灰分は1500℃程度の高温により溶融状態のスラグ16となるため、ガス化炉2の下部には、スラグ16を排出できるように、スラグタップ7およびスラグ16を捕集する水槽17を設けることが好ましい。
【0018】
ガス化炉2には、微粉砕された炭素質原料13を酸素14、または、酸素14および水蒸気15と共に供給するための、1本または複数本のガス化バーナー5が設置されている。ガス化炉2においては、投入される炭素質原料13に含まれる炭素、水素をできるだけCO、Hに転換するため炭素質原料13と酸素14、水蒸気15を素早く混合し炭素質原料13から発生する揮発分をすす化する前に酸素14や水蒸気15と反応させる必要がある。そのために、ガス化炉2への炭素質原料13と酸素14、水蒸気15はガス化バーナー5で吹き込まれる。ガス化バーナー5の形状の例としては、二重管の内側を炭素質原料13、外側を酸素14および水蒸気15が流れる構造などがある。
【0019】
バイオマス12を投入するバイオマス吹き込みノズル4の位置は、熱分解炉1において、石炭吹き込みノズル3の設置位置より下方にする。すなわち、石炭吹き込みノズル3とガス化炉2との間に設置すれば良いが、ガス化ガス8に含まれる微小な灰分が熱分解炉1の炉壁に付着することを防ぐために、スロート6を除く熱分解炉1の下端部周辺に設置することが好ましい。
【0020】
ガス化炉2に微粉砕された炭素質原料13を酸素14、または、酸素14および水蒸気15と共にガス化バーナー5を介して吹き込み、発生した水素、一酸化炭素、二酸化炭素、および水蒸気を主成分とするガス化ガス8は、スロート6を介してガス化炉2と直結している熱分解炉1へ導入される。本発明においては、スロート6は熱分解炉1に含まれるものとする。また、ガス化ガス8の残りのガス成分は、N及び微量の副生成物である。
【0021】
導入されたガス化ガス8は、バイオマス吹き込みノズル4から導入されるバイオマス12によって冷却され、その一方でバイオマス12は熱分解される。その熱分解により生成した混合ガス9中に、微粉砕された石炭11が石炭吹き込みノズル3より投入される。投入された石炭11は、混合ガス9により加熱・熱分解され、ガス、タールおよびチャーを生成し、生成ガス、タール、およびチャー10となり排出される。
【0022】
ここで、ガス化炉2の温度は一般的に石炭に含まれる灰分の融点以上で操業され、好ましくは1200〜1700℃、石炭の反応性、放散熱量、灰の溶融排出性能から考えると、より好ましくは1400〜1600℃である。また、スロート6から石炭吹き込みノズル3までを除く熱分解炉1の温度は、生成するタールの量や性状、生成ガスの量や組成を考慮して決定されるが600℃〜1100℃が好ましく、どのような生成物を望むのかにより適正範囲は異なるが、タール成分を多く望む場合は600〜900℃、ガス成分を多く望む場合は1000〜1100℃がより好ましい。
【0023】
ガス化炉2からのガス化ガス8は、バイオマス吹き込みノズル4から投入されるガス化ガス8よりも低い温度のバイオマス12と混合されることにより、生じた混合ガス9の温度をガス化ガス8の温度よりも下げることが可能となる。これにより、高温のガス化ガス8が直接石炭11と接触することは避けられ、石炭11から発生する揮発分と水素との反応は抑制され、過度に熱分解が進んですすが発生することを防止できる。バイオマス12は、石炭11に比べて多量の酸素原子を含有しており、高温のガス化ガス8に触れてもすすの発生量は少なく、BTXなどのオイルを多く含む、軽質のタールを得ることができる。BTXは化学合成などで多用される有用なオイルである。
【0024】
使用される石炭11および炭素質原料13の粒径は、熱分解速度を速くして熱分解生成物収率を増加させ、ガス化反応率を向上させるために、できるだけ小さいことが望ましい。石炭11は、微粉炭燃焼で一般に用いられる数十μm以下の粒径であると、ガス化反応性および熱分解生成物収率は確保できるため好ましい。その他の炭素質原料13は、プラスチック類の場合は反応性が高いため粒径が数mm以下でもガス化が進行し、下水汚泥の場合は1mm程度以下、石炭チャーの場合は数十μm以下が好ましい。
【0025】
また、バイオマス12の粒径についても小さい方が好ましいが、バイオマスは反応性が高く数mm程度の粒径でも問題無く本発明効果を発揮することが可能である。特に限定されないが、バイオマス12としては、製紙廃棄物(パルプ黒液、チップダスト)、製材廃材(樹皮、のこ屑、鉋屑)、林地残材(枝、葉、梢、端尺材、低質材)、除間伐材(スギ、ヒノキ、マツ類)特用林産からのもの(食用菌類の廃ホダ木)、薪炭林(シイ、コナラ、マツ)、短伐期林業(ヤナギ、ポプラ、ユーカリ、マツ)および剪定枝条(街路樹、庭木)などの木質バイオマスであることが好ましい。
【0026】
高温のガス化ガス8とバイオマス12との混合後の温度は、石炭11と混合すると1400℃を超える場合にはすすが発生し始めるおそれがあること、600℃以下の低温では石炭の熱分解反応が進行しないおそれがあることから600℃〜1400℃とすることが好ましい。高温のガス化ガス8とバイオマス12との混合後のガス温度の調整は、バイオマス12の投入量の増減で行なう。
【0027】
バイオマス12と熱分解炉1に投入される石炭11との投入割合は、熱分解炉1の出口温度の設定により異なるが、石炭11とバイオマス12との総量におけるバイオマス12の比率を、20質量%〜60質量%とすることが好ましい。前記質量の範囲内であると、混合ガス9の温度を石炭11からのすす発生を抑える温度にできる点で好ましい。
【実施例】
【0028】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0029】
(実施例)図1に記載の装置を用い、石炭処理量750kg/h、バイオマス処理量250kg/hの処理条件における本発明の実施例を以下に示す。本実施例ではバイオマスとして木質バイオマスである木材チップ(水分15質量%)を、ガス化炉でガス化される炭素質原料として石炭を使用した。
【0030】
ガス化炉には石炭500kg/h、酸素376Nm/h、水蒸気30kg/hを投入する。ガス化炉内は、温度1550℃、圧力0.3MPaで操業され、石炭は部分酸化されて、水素16%、CO一酸化炭素47%、CO二酸化炭素13.5%、水蒸気20%、および窒素3.5%のガス化ガス970Nm/hが発生した。熱分解炉の直径は45cm、高さは7m、石炭吹き込みノズルは熱分解炉の直胴部の下端(図1における、スロート及びその上の傾斜部は含まず)より上方0.5mの場所に対向して2カ所、バイオマス吹き込みノズルは熱分解炉直胴部の下端に対向して2カ所設置されている。ガス化炉、熱分解炉で使用する石炭は粒径40μm程度に微粉砕したものを、熱分解炉で使用するバイオマス(木材チップ)は5mm以下に破砕したものを窒素ガスによる気流搬送で投入した。
【0031】
熱分解炉には、バイオマス吹き込みノズルよりバイオマス250kg/hと、石炭吹込みノズルより石炭250kg/hとを投入した。
【0032】
その結果、スロートで1500℃を超えていたガス化ガスはバイオマスと混合されて、混合ガスとなることにより約1150℃程度に低下した。その後、混合ガスは石炭と混合され、混合後の熱分解温度は900℃となり、熱分解炉出口で1400Nm/hのガス、235kg/hのチャー、73kg/hのタールが生成した。生成ガス中のC1−C3成分(軽質炭化水素ガス収率)は合計で53Nm/hであった。
【0033】
また、連続200時間の操業においてトラブルの原因となるすすの発生による熱分解炉内での付着物は見られなかった。
【0034】
(比較例)熱分解炉におけるバイオマス吹き込みノズルの位置を石炭ノズルと同高さに石炭吹き込みノズルと直交する位置に2カ所設置した以外は実施例と同一の条件でガス化炉の操業を行なった。熱分解炉に、バイオマス250kg/hと石炭250kg/hとを投入した際の熱分解炉内温度は900℃となり、チャーの生成量は240kg/h、生成ガス中のC1−C3成分は43Nm/hとなった。タール発生量は76kg/hであったがタール中の350℃以上留分割合は30wt%となり、実施例の22wt%と比較してBTXなどの有用なオイルの含有量の少ない重質なタールとなった。
【0035】
また、連続200時間の操業後に熱分解炉内を調べたところ、すすの付着が確認された。
【0036】
実施例および比較例を表1に示す。
【0037】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る、石炭およびバイオマスの共熱分解装置の概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1 熱分解炉、
2 ガス化炉、
3 石炭吹き込みノズル、
4 バイオマス吹き込みノズル、
5 ガス化バーナー、
6 スロート、
7 スラグタップ、
8 ガス化ガス、
9 混合ガス、
10 生成ガス、タール、およびチャー、
11 石炭、
12 バイオマス、
13 炭素質原料、
14 酸素、
15 水蒸気、
16 スラグ、
17 水槽。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下段がガス化炉で上段が熱分解炉である二段構造の石炭およびバイオマスの共熱分解装置において、前記熱分解炉の側壁に上方から順に、石炭吹き込みノズルおよびバイオマス吹き込みノズルを設けることを特徴とする石炭およびバイオマスの共熱分解装置。
【請求項2】
請求項1に記載の石炭およびバイオマスの共熱分解装置を用い、
前記ガス化炉において炭素質原料を酸素または酸素および水蒸気と共に吹き込んで、ガス化ガスを発生させ、
前記ガス化ガスを前記熱分解炉に導入し、前記バイオマス吹き込みノズルからバイオマスを投入して前記バイオマスの熱分解を行ない、生成した混合ガス中に前記石炭吹き込みノズルから石炭を投入して、ガス、タールおよびチャーを生成することを特徴とする石炭およびバイオマスの共熱分解方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−124496(P2006−124496A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−313716(P2004−313716)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】