説明

石英ガラスルツボの製造方法

【課題】シリコン単結晶の引上げに用いる石英ガラスルツボについて、内部気泡の少ない均一なガラス層を有する石英ガラスルツボの製造方法を提供する。
【解決手段】モールド内面に充填した石英粉成形体を真空引きしながらアーク溶融するルツボの製造方法において、石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後にアーク電極を下げまたはモールドを上げて、リム端から下側部分を加熱し溶融することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法であり、好ましくは、アーク溶融開始からアーク総時間の10%以内の時間内にルツボ内表面をシールし、またシール厚が3mm以下である石英ガラスルツボの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の引上げに用いる石英ガラスルツボについて、内部気泡の少ない均一なガラス層を有する石英ガラスルツボの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶シリコンは主にCZ法によって製造されている。この方法は、高温下、石英ルツボ中のシリコン融液に種結晶を浸し、これを徐々に引き上げて単結晶シリコンを製造する方法であり、シリコン融液を溜める高純度の石英ガラスルツボが用いられている。
【0003】
単結晶シリコンの引上げに用いる石英ガラスルツボは主にアーク溶融法によって製造されている。この方法は、カーボン製の回転モールドの内表面に石英粉を一定厚さに堆積して石英粉成形体を形成し、モールドの内側上方に設置した電極のアーク放電によって石英粉を加熱溶融してガラス化し、石英ガラスルツボを製造する方法(回転モールド法)である。
【0004】
上記製造方法において、ガラス層内部の気泡を除去するため、モールド側から吸引して石英粉成形体を減圧脱気しながら石英粉を溶融する方法が知られている(特許文献1、特許文献2)。この溶融工程において石英粉成形体を減圧脱気(これを真空引きと云う)するには、石英粉成形体の内表面を均一に薄く溶融させて表面に薄いガラス層を形成することによって内面をシールし、石英粉成形体内の真空度を上げる必要がある。
【0005】
石英粉成形体を溶融してガラスルツボを製造する上記製造方法において、アーク溶融がモールド中心で始まる既存の製造方法では、ルツボ内面全体が同時に加熱されるので、石英粉を均一に溶融することができるが、石英粉成形体上部のリム端は、成形体の湾曲部や底部よりも保温性が低いためにリム端の溶融速度が遅く、リム端表面に薄いガラス層が十分に形成されないため、石英粉成形体の真空度が上がらず、ガラス層の内部気泡が少ないルツボを得ることができない。一方、リム端の溶融不足を補うために、アーク溶融の発熱量を増やして上記リム端を溶融すると、湾曲部や底部が過剰に加熱されて溶融し、石英粉成形体の形状が崩れやすくなると云う問題がある。
【特許文献1】特開平06−191986号公報
【特許文献2】特開平10−025184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の製造方法における上記問題を解決したものであり、内部気泡の少ない均一なガラス層を有する石英ガラスルツボの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の製造方法は、以下の構成によって従来の上記問題を解決した石英ガラスルツボの製造方法である。
(1)モールド内面に充填した石英粉成形体を真空引きしながらアーク溶融するルツボの製造方法において、石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後にアーク電極を下げまたはモールドを上げて、リム端から下側部分を加熱し溶融することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
(2)石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後、ルツボ壁部から湾曲部および底部の順に加熱し、ルツボの内面をシールする上記(1)に記載する石英カラスルツボの製造方法。
(3)アーク溶融開始からアーク総時間の10%以内の時間内にルツボ内表面(リム端から側壁部、湾曲部、および底部)をシールする上記(1)または上記(2)に記載する石英ガラスルツボの製造方法。
(4)ルツボ内表面がシールされるまでに溶融した石英ガラス層厚(シール厚)が3mm以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載する石英ガラスルツボの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法は、モールド内面に充填した石英粉成形体を真空引きしながらアーク溶融するルツボの製造方法において、石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始するので上記リム端が十分に加熱され、リム端に内面シールが確実に形成される。また、リム端を溶融した後に、アーク電極を下げ、またはモールドを上げて、ルツボ側壁部から湾曲部および底部を加熱し溶融するので、これらの部分が過剰に加熱されず、石英粉成形体の内面全体に薄いガラス層の内面シールが均一に形成される。従って、石英粉成形体の真空度を高めることができ、内部気泡の少ない石英ガラスルツボを製造することができる。
【0009】
本発明の製造方法において、アーク溶融開始からアーク総時間の10%以内の時間内にルツボ内表面を溶融してシールすることが好ましく、またルツボ内表面を加熱溶融して形成したシール厚みが3mm以下であることが好ましい。これにより、リム端を含めて側壁部および湾曲部、底部に至るルツボ全体を均一に適度に加熱溶融されて、ルツボ内面全体に薄いガラス層のシールが均一に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を実施形態に従って具体的に説明する。
本発明の製造方法は、モールド内面に充填した石英粉成形体を真空引きしながらアーク溶融するルツボの製造方法において、石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後にアーク電極を下げまたはモールドを上げて、リム端から下側部分を加熱し溶融することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法である。
【0011】
回転モールドに充填した石英粉成形体の加熱溶融による石英ルツボ製造の概略を図1に示す。図示するように、回転するモールド10の内面に石英粉11が所定の厚さに充填されている。該モールド10には真空引き用の通気孔12が設けられており、該通気孔12はモールド内面に開口している。上記モールド10の中心線Lの線上にはアーク加熱用の電極13が設けられている。さらに、上記モールド10または電極13を上下左右移動させる手段(図示省略)が設けられており、電極13はモールド10の中心線上において任意の位置に設定することができる。
【0012】
本発明の製造方法は、モールド10の石英粉成形体12を真空引きしながら加熱溶融する場合、加熱開始時には電極13をリム端15の上方に設定しておき、リム端15から石英粉の加熱溶融を開始する。リム端15を所定時間加熱して溶融した後に、モールド10を上げ、または電極13を下げて、リム端15の下側部分を加熱溶融する。下側部分の加熱はリム端15に引き続いてルツボ側壁部16から湾曲部17および底部18の順に加熱して溶融するのが好ましい。なお、ルツボの側壁部16とはルツボの縦壁の部分であり、湾曲部17とは側壁部16に続き底部18に至る部分、底部18とは湾曲部17に続く横に広がる部分である。また、リム端15は側壁部16の上端面である。
【0013】
上記リム端15から加熱溶融する本発明の製造方法において、加熱時間の配分はアーク溶融開始からアーク総時間の10%以内の時間内に石英粉成形体のリム端から側壁部、湾曲部、および底部を加熱溶融して内表面全体をシールするのが好ましい。なお、アーク温度およびアーク総時間はルツボの大きさによって設定される。具体的には、例えば、外径30インチの石英ルツボについては、概ね、ルツボの温度1600〜2500℃であり、アーク総時間は60分である。この場合、リム端15からアーク溶融を開始し、アーク溶融開始から6分以内に、側壁部16から湾曲部17および底部18の順に加熱溶融してルツボ内表面全体をシールするのが好ましい。
【0014】
上記製造方法において、ルツボ内表面がシールされるまでに溶融した石英ガラス層厚(シール厚)は3mm以下であることが好ましい。ルツボ内表面がシールされる前に溶融された石英ガラス層は多くの気泡を含んでいる。この気泡を取り除くには、石英ガラスを高温に加熱して、気泡のガスを脱気させ、気泡を消滅ないし小さくする必要がある。しかし、経済的に成り立つ製造条件において、高温加熱によって気泡を消滅ないし小さくする範囲は表面から深さ3mm程度までの範囲なので、それ以上にシール厚さを増すことは得策ではない。
【0015】
アーク溶融開始からアーク溶融総時間の10%以内の時間内に石英粉成形体のリム端から側壁部、湾曲部、および底部を加熱溶融してルツボ内表面全体をシールした後に、引き続き、真空引きしながら残りのアーク溶融時間を通じてアーク溶融を行い、石英粉成形体を加熱溶融しガラス化する。なお、真空引きはアーク溶融開始と共に行ってもよく、アーク溶融開始後の任意の時間、例えば、ルツボ内表面のシール後に開始してもよい。
【実施例】
【0016】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。
回転モールド法によって真空引きしながら石英粉成形体を加熱溶融し、外径30インチの石英ルツボを製造する場合に、アーク総時間50分において、表1に示す条件下で加熱溶融を行った。製造した石英ガラスルツボの内部気泡を測定した。この気泡含有率の測定は、例えば、光源から供給される光を被検体である石英ルツボに照射し、これを光学カメラ等の画像取り込み光学系によって撮影・観察し、この画像情報に基づいて、二値化、包括四角形計算、輪郭抽出等の画像処理を施し、内表面近傍に存在する気泡を検出する方法を利用すると良い(特開平11-228283号参照)。この結果を加熱条件と共に表1に示した。
【0017】
表1に示すように、本発明の方法によって製造した実施例1〜実施例3のルツボは何れも内部気泡が大幅に少ない。一方、本発明の製造条件を外れた比較例1〜6のルツボはルツボの湾曲部および底部の内部気泡が何れも著しく多く、あるいは湾曲部の内部気泡が著しく多い。
【0018】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】回転モールド法による石英ガラスルツボ製造の概念図
【符号の説明】
【0020】
10−モールド、11−石英粉成形体、12−通気孔、13−電極、L−モールド中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド内面に充填した石英粉成形体を真空引きしながらアーク溶融するルツボの製造方法において、石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後にアーク電極を下げまたはモールドを上げて、リム端から下側部分を加熱し溶融することを特徴とする石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項2】
石英粉成形体のリム端から石英粉の溶融を開始し、その後、ルツボ壁部から湾曲部および底部の順に加熱し、ルツボの内表面をシールする請求項1に記載する石英カラスルツボの製造方法。
【請求項3】
アーク溶融開始からアーク総時間の10%以内の時間内にルツボ内表面(リム端から側壁部、湾曲部、および底部)をシールする請求項1または請求項2に記載する石英ガラスルツボの製造方法。
【請求項4】
ルツボ内表面がシールされるまでに溶融した石英ガラス層厚(シール厚)が3mm以下である請求項1〜請求項3の何れかに記載する石英ガラスルツボの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−162839(P2008−162839A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−353529(P2006−353529)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(592176044)ジャパンスーパークォーツ株式会社 (90)
【Fターム(参考)】