説明

研削盤

【課題】砥石車の研削作用面の状態を検出し、砥石を最適な状態で無駄なく使用し、不良工作物を製造しない研削盤。
【解決手段】砥石車の研削作用面の凹凸形状を計測した凹凸データから、前記研削作用面に垂直な方向の深さが同一となる線上の砥石の占有比率を演算し、深さに対する占有比率の変化率と所定の深さの占有率の値により、研削作用面の研削性能を判定する。この判定に基づき、研削サイクルと砥石成形サイクルを最適に制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削盤の研削作動の制御に関するものであり、詳しくは研削作用面の状態を検出し砥粒刃先の状態に応じて研削条件と砥石成形条件を設定する研削盤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
砥石車の研削作用面は砥石成形後と研削後では研削による砥粒の磨耗や砥粒の脱落、ボンドの除去などにより変化する。この変化は研削量と共に増加していき所定以上に変化すると同一研削条件では正常な研削が不可能となる。これを防止するため、研削抵抗が所定の値を越えたときに砥石成形を行う従来技術1(例えば、特許文献1参照)や、研削後の研削作用面の表面粗さを検出して加工条件を設定する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平4−315571号公報
【特許文献2】特開平7−186040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、研削抵抗が所定の値を越えることは無いので研削焼けや研削盤の過負荷による停止は防止できる。しかし、被研削部の表面粗さについては直接検知できないので、許容値を越える表面粗さの不良工作物を製造する恐れがある。
従来技術2では、砥石作用面の表面粗さを検出して加工条件を変更している。図7に示すように表面粗さは基本的には測定面の凹凸の高さを測定した値であるので、図7のIと図7のIIに示すような砥粒刃先の鋭さの違いは判別できず、凹凸の高さが同じであれば同じ表面粗さであると判定する。しかし、両者には研削性能に大きな差がり、図7のIの砥石では砥粒刃先が磨耗しているため研削抵抗が大きく、焼けが発生する恐れがある。
従来、砥粒刃先の鋭さの判定は人による画像の目視判定によりなされているが、官能評価であるためばらつきが大きく、判定に長時間を要した。
このように従来技術では研削性能に影響を与える砥石作用面の状態を研削盤の機上で定量的に短時間に検出することはできず、砥石を無駄なく使用し、不良工作物を製造しない研削盤を実現できなかった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、砥石を無駄なく使用し、不良工作物を製造しない研削盤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、工作物を支持する工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させ、前記砥石車で前記工作物を研削する駆動手段と、
前記砥石車の研削作用面の凹凸形状を計測する形状測定手段と、
前記形状測定手段の測定した所定の範囲の凹凸データから、前記研削作用面に垂直な方向の最外周砥石からの深さが同一となる線上の砥石の占有比率を演算する演算手段と、
前記砥石車の前記研削作用面の状態を前記占有比率から判定する判定手段を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記判定手段を、前記深さに対する前記占有比率の変化率が所定の値になることで前記研削作用面の前記研削に対する適否を判定する構成とすることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記砥石車の前記研削作用面を成形するツルーイング手段を備え、
研削を終了した前記研削作用面に垂直な方向の最外周凸部からの所定の深さにおける前記占有比率の値が所定の値となったとき、ツルーイングを実施することである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記砥石車の研削作用面を目立てするドレッシング手段を備え、
ドレッシングを終了した前記研削作用面に垂直な方向の最外周凸部からの所定の深さにおける前記占有比率の値が所定の値となるまでドレッシングを実施することである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記形状測定手段の前記研削作用面の凹凸形状を計測する方向が前記砥石車の円周方向であることである。
【0011】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記形状測定手段の前記研削作用面の凹凸形状を計測する方向が前記砥石車の幅方向であることである。
【0012】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項6のいずれか1項に係る発明において、前記形状測定手段を前記工作物支持手段に設置することである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、砥石車の研削作用面の最外周砥粒刃先からの深さに応じた砥粒の占有比率が機上で判定できる。すなわち、研削作用を受け持つ研削作用面の最外周近辺の、所定の測定範囲の砥粒刃先の鋭さの平均値が判定できる。この判定値を用いて砥粒刃先の状態に応じた研削工程を実行することで、砥石を無駄なく使用し、不良工作物を製造しない研削盤を実現できる
【0014】
請求項2に係る発明によれば、砥粒刃先の鋭さの平均値が所定の値となったことを自動で定量的に判定でき、砥粒刃先の状態に応じたばらつきのない最適な研削盤の制御ができる。
【0015】
請求項3に係る発明によれば、研削により砥粒刃先の鋭さが所定の値になり切れ味が所定以下に低下したときにツルーイングを開始でき、砥石を無駄なく使用できる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、ドレッシング後の研削作用面の砥粒突き出し量と砥粒刃先の鋭さを検出しながら最適量のドレッシングを実施できるので、研削に最適な研削作用面を実現でき、最適ドレッシング量も決定できる。
【0017】
請求項5に係る発明によれば、砥石車の回転で凹凸検出時の砥石車外周面と形状測定手段の相対運動をさせることができ、砥石車円周方向の同一半径位置の凹凸検出が容易にできる。
【0018】
請求項6に係る発明によれば、砥石車の幅方向の凹凸検出を実現できる。
【0019】
請求項7に係る発明によれば、凹凸検出時の砥石車の砥石車外周面と形状測定手段の相対運動を、研削盤の工作物支持手段と砥石車支持手段とを相対移動させ行うことで、特別な駆動手段を付加することなく実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の研削盤の全体構成を示す概略図である。
【図2】図1の側面図である。
【図3】本実施形態の砥石の占有比率演算を示す概念図である。
【図4】本実施形態の砥石作用面の状態曲線の概念を示すグラフである。
【図5】本実施形態の砥石作用面の状態のパターンを示す概念図である。
【図6】本実施形態の砥石作用面の状態判定の概念を示すグラフである。
【図7】従来技術の粗さによる状態判定の適用例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を円筒状の工作物を回転駆動させながら研削する円筒研削盤の実施事例に基づき、図1〜図6を参照しつつ説明する。
図1に示すように、研削盤1は、ベッド2を備え、ベッド2上にX軸方向に往復可能な砥石台3と、X軸に直交するZ軸方向に往復可能なテーブル4を備えている。砥石台3は砥石軸8を回転自在に支持し、砥石軸8を回転させる砥石軸回転モータ(図示省略する)を備えており、砥石車7は砥石軸8に着脱自在に装着されて回転駆動される。テーブル4上には、工作物Wの一端を把持して回転自在に支持し主軸モータ(図示省略する)により回転駆動される主軸5と、工作物Wの他端を回転自在に支持する心押し台6を備えており、工作物Wは主軸5と心押し台6により支持されて、研削加工時に回転駆動される。 ツルーイングモータ11により回転駆動されるツルーイングロール9を回転自在に支持したツルーイング装置10が、主軸5に付設されている。砥石車7の研削作用面の凹凸を検出する凹凸検出装置12が心押し台6に設置されている。凹凸検出装置12としては一般に知られている、触針接触式粗さ測定機や光学式の非接触形状測定機などを用いればよい。
【0022】
この研削盤1は、所定のプログラムを実行することで自動化された研削加工やツルーイングを実行する制御装置30を備えている。制御装置30の機能的構成として、砥石台3の送りを制御するX軸制御手段31、テーブル4の送りを制御するZ軸制御手段32、ツルーイング装置10を制御するツルーイング装置制御手段33、凹凸検出装置12を制御する凹凸検出装置制御手段34、砥石軸8の回転を制御する砥石軸制御手段35などを具備している。また、凹凸検出装置制御手段34の内部には凹凸検出データを演算する演算手段341と演算結果を判定する判定手段342を備えている。
【0023】
上記の研削盤1で砥石車7の研削作用面の砥石の占有比率の演算は以下のように行う。
凹凸検出装置12の検出部が砥石車7の研削作用面の検出位置に対向する位置へテーブル4を割出す。砥石台3を前進させて、砥石車7の研削作用面を凹凸検出位置まで接近させる。砥石車7を凹凸検出が可能な凹凸検出速度で回転させ、砥石車7の所定の円周距離内の研削作用面の凹凸量を検出する。ここでは、凹凸検出方向を砥石車7の円周方向としたが、テーブル4を凹凸検出速度で移動させて砥石車7の幅方向に検出してもよい。
演算手段341は、検出された凹凸データから図3に示すような縦軸を凹凸の深さ、横軸を測定円周長さLとした凹凸分布曲線を作成し、砥石作用面の最外周の砥石位置から内側方向の所定の深さにおける砥石の占有比率を以下のように導く。凹凸分布曲線と交わる最外周の砥石位置から同一深さに引いた直線において、測定長さをL、直線の砥石の内部に含まれる部分の長さを、a、b、c、d、e、f、g、hとすると、砥石の占有比率ηはη=100×(a+b+c+d+e+f+g+h)/Lとする。
【0024】
研削作用面の状態は判定手段342により以下のように判定される。
砥石作用面の最外周の砥石位置から内側方向の所定の深さにおける上記の砥石の占有比率ηを演算し、縦軸をη、横軸を最外周の砥石位置からの深さとして図4のグラフのように表す。図4には典型的な研削作用面の状態を表す3パターンの状態曲線を示す。状態曲線Iは砥粒の突き出し量が小さくて、砥粒刃先が平坦化した図5のIに示すような研削作用面の状態で、切れ味が悪く、研削抵抗が大きく焼けが発生しやすい。状態曲線IIは砥粒の突き出し量が適正で、砥粒刃先も鋭利な図5のIIに示すような研削作用面の状態で、研削に適している。状態曲線IIIは砥粒の突き出し量は大きいが、砥粒が脱落して砥粒刃先が少なく図5のIIIに示すような研削作用面の状態で、被研削面の面粗さが悪くなる。
以上のように、状態曲線の傾きと特定の深さにおける砥石の占有比率とから砥石作用面の状態を定量的に判定できる。具体的には以下のように判定する。
深さに対する砥石の占有比率の変化率が上限許容値と下限許容値の間にあれば研削作用面の状態は研削に適していると判定する。図6に示すように、変化率は状態曲線の傾きとして示され、特定の深さの2点の砥石の占有比率の差からその2点間の傾斜を計算する。表面粗さを判定するには、深さ0〜20μmの間の傾斜を用い、研削作用面の寿命の判定には深さ0〜100μmの間の傾斜を用いる。
【0025】
本研削盤の研削制御は以下のように行われる。
ツルーイング装置10により砥石車7をツルーイングした後、凹凸検出装置12と凹凸検出装置制御手段34により研削作用面のツルーイング状態を判定し、良好であれば所定の研削サイクルにより、工作物Wの研削を開始する。あらかじめ定められた所定の本数工作物を研削した後に再度研削作用面の状態を判定する。判定曲線の傾きと所定の深さでの砥石の占有比率ηの値のどちらか一方が基準値に達していればツルーイングをする、基準に達していない場合は、現在の各々の検出値に対応してあらかじめ設定された本数工作物を研削した後に再度研削作用面の状態を判定する。判定曲線の傾きと所定の深さでの砥石の占有比率ηの値のどちらか一方が基準値に達していればツルーイングをする、基準に達していない場合は、現在の各々の値からあらかじめ設定された本数工作物を研削した後にツルーイングをする。以上のサイクルを繰り返して研削をする。
本実施例では、研削作用面の状態判定に判定曲線の傾きと所定の深さでの砥石の占有比率ηの値を併用したが、どちらか一方のみを用いて判定してもよい。
以上の結果、工作物の不良品を製造することなく、砥石を寿命限界まで有効利用できる。
【0026】
<本実施形態の変形態様>
上記の実施形態では、凹凸検出装置12を心押し台4に設置したが、砥石台3上に設置し、砥石車の幅方向では一定の位置で凹凸を検出してもよい。
研削作用面の複数の場所を検出して複数の最外周の砥石位置から同一深さの砥石の占有比率ηを平均した平均値を用いて判定してもよい。
ドレッシング装置を備えた研削盤では、所定量のドレッシング後に研削作用面の状態を判定し、最適な研削作用面の状態になるまで所定量のドレッシングを繰り返すことにより、最適ドレッシング量を決定してもよい。
研削作用面の状態が図4のIの状態曲線に近づいたら、焼けを防止するため、研削能率を低下させて研削してもよい。
【符号の説明】
【0027】
W:工作物 4:テーブル 7:砥石車 9:ツルーイングロール 10:ツルーイング装置 12:凹凸検出装置 34:凹凸検出装置制御手段 341:演算手段 342:判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作物を支持する工作物支持手段と、
砥石車を支持し回転駆動させる砥石車支持手段と、
前記工作物支持手段と前記砥石車支持手段とを相対移動させ、前記砥石車で前記工作物を研削する駆動手段と、
前記砥石車の研削作用面の凹凸形状を計測する形状測定手段と、
前記形状測定手段の測定した所定の範囲の凹凸データから、前記研削作用面に垂直な方向の最外周砥石からの深さが同一となる線上の砥石の占有比率を演算する演算手段と、
前記砥石車の前記研削作用面の状態を前記占有比率から判定する判定手段を備える研削盤。
【請求項2】
前記判定手段を、前記深さに対する前記占有比率の変化率が所定の値になることで前記研削作用面の前記研削に対する適否を判定する構成とする請求項1記載の研削盤。
【請求項3】
前記砥石車の前記研削作用面を成形するツルーイング手段を備え、
研削を終了した前記研削作用面に垂直な方向の最外周凸部からの所定の深さにおける前記占有比率の値が所定の値となったとき、ツルーイングを実施する請求項1または請求項2に記載の研削盤。
【請求項4】
前記砥石車の研削作用面を目立てするドレッシング手段を備え、
ドレッシングを終了した前記研削作用面に垂直な方向の最外周凸部からの所定の深さにおける前記占有比率の値が所定の値となるまでドレッシングを実施する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の研削盤。
【請求項5】
前記形状測定手段の前記研削作用面の凹凸形状を計測する方向が前記砥石車の円周方向である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の研削盤。
【請求項6】
前記形状測定手段の前記研削作用面の凹凸形状を計測する方向が前記砥石車の幅方向である請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の研削盤。
【請求項7】
前記形状測定手段を前記工作物支持手段に設置する請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の円筒研削盤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−152619(P2011−152619A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16182(P2010−16182)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】