説明

研削砥石

【課題】研削速度が速く、研削工程中に砥石を交換する作業が不用で、仕上がり時の面を高品質にして、ポリシング工程を短縮する。
【解決手段】電子材料用ウエハ12の裏面を目的の厚みまで研削するためのものであって、複数相の環状研削面を備え、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定し、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、ガラス系の結合剤を使用した。また、最外相以外の内相には樹脂系の結合剤を使用した。規格表示上の粒径が同一のダイヤモンド砥粒を使用したり、それぞれ異なるものを使用して、ウエハ12の裏面研削に最適な特性を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路等の裏面の研削仕上げに使用される研削砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化に伴い、半導体集積回路の実装スペースがますます小さくなっている。従って、半導体集積回路の厚みも、これまで以上に薄く仕上げることが必要になる。ところが、ウエハの厚みを薄くすると、回路製造工程で破損し易く歩留まり低下の原因になる。そこで、ある程度の厚みのウエハに集積回路を形成してから、100μmあるいはそれ以下の厚みまで回路の裏面を研削することが行われる(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−221054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ウエハの裏面を目標とする厚みまで研削するとき、全研削工程を仕上げ研削用の目の細かい砥石で研削すると研削時間が長時間になる。そこで、前工程で仕上げ研削用の砥石の数倍以上粗い粗研削用の砥石を使用し、仕上げ工程で目の細かい仕上げ研削用の砥石を使用するといった方法が採用されている。しかしながら、工程の途中で砥石を交換するので、その交換時間がコストに影響するという問題がある。また、粗研削をした部分を仕上げる作業は予想外に時間がかかるという問題があった。さらに、高速運転をするとウエハの裏面を平坦に研削するのが容易でないという問題があった。
上記の課題を解決するために、本発明は次のような研削砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
以下の構成はそれぞれ上記の課題を解決するための手段である。
〈構成1〉
電子材料用ウエハの裏面を目的の厚みまで研削するためのものであって、円盤の一面に複数相の環状研削面を備え、上記円盤の一部に、上記円盤に対して音響インピーダンスが2分の1以下の振動吸収材料を、円周方向に見て軸対称にもしくは均一に付着させたことを特徴とする研削砥石。
【0005】
ダイヤモンド砥粒を異なる結合材で固定した環状研削面により、電子材料用ウエハの裏面を安定に研削できる。振動吸収材料は、円盤の不正振動を抑制できる。これにより、電子材料用ウエハの裏面を傷つけず、高い精度で平坦化できる。振動吸収材料を軸対称もしくは均一に付着させておけば、円盤の重心を正確に軸部に集中させて、軸ブレを防止できる。
【0006】
〈構成2〉
構成1に記載の研削砥石において、上記振動吸収材料は、上記複数相のうちのいずれかにおいて、上記円盤に上記ダイヤモンド砥粒を固定する結合剤からなることを特徴とする研削砥石。
【0007】
円盤に前記ダイヤモンド砥粒を固定する結合剤が振動吸収材料を兼ねることにより、研削砥石の構造を単純化できる。また、ダイヤモンド砥粒の異常振動を直接抑制できる。
【0008】
〈構成3〉
構成1または2に記載の研削砥石において、複数相の環状研削面を備え、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定し、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、ガラス系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0009】
ガラス系の結合剤を使用すると目詰まりが少なく、始めに高速で効率よく研削を開始できる。他の相は研磨性能を安定させるために別の結合剤を使用する。ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定すると、振動吸収効果が高い。
【0010】
〈構成4〉
構成1または2に記載の研削砥石において、複数相の環状研削面を備え、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定し、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、金属間化合物系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0011】
ガラス系の結合剤のと同様に目詰まりが少なく、さらに、放熱が良いから、研削開始時の高速研削に適する。
【0012】
〈構成5〉
構成1または2に記載の研削砥石であって、2相あるいは3相以上の構造とし、最外相以外の内相には樹脂系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0013】
内相に弾力性のある樹脂系の結合剤を用いると安定した仕上がりになる。
【0014】
〈構成6〉
構成1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、全ての相に規格表示上の粒径が同一のダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0015】
全ての相に規格表示上の粒径が同一のダイヤモンド砥粒を使用しても、外相と内相の結合剤が異なるので、結合剤の特性を生かし、外相と内相の役割に応じた良好な研削性能を引き出せる。
【0016】
〈構成7〉
構成1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、内相に規格表示上の粒径が大きいダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0017】
ウエハの裏面に最初に接する最外相に、規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用して、ウエハのエッジの欠けを防止した。また、粒径が小さいダイヤモンド砥粒のほうが、研削時に発生する振動が小さいので外相側に配置した。
【0018】
〈構成8〉
構成7に記載の研削砥石であって、3相以上の構造とし、最外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、次の内相に規格表示上の粒径が大きいダイヤモンド砥粒を使用し、内相に向かって順次規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【0019】
最外相以外の部分では、規格表示上の粒径が大きいダイヤモンド砥粒を外相側に配置するので、ウエハの裏面を十分速く研削できる。また、内相側に規格表示上の粒径が小さなダイヤモンド砥粒を配置するので、外相で研削した直後に内相で研削をし、仕上がり時の面粗さを十分に小さくできる。
【0020】
〈構成9〉
構成1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、最外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、その他は、外相ほど規格表示上の粒径が大きくかつブロッキーなダイヤモンド砥粒を固定し、内相ほど規格表示上の粒径が小さくかつシャープなダイヤモンド砥粒を固定した研削砥石。
【0021】
ブロッキーなダイヤモンド砥粒ほど、研削時に発生する振動が小さいので外相側に配置した。構成1と同様で、ブロッキーなダイヤモンド砥粒はシャープなダイヤモンド砥粒と比べて、エッジの先鋭度が低いが、機械的な強度が強く荒削りに適する。ブロッキーなダイヤモンド砥粒でシリコンウエハを速く目的の厚みまで研削し、内周のシャープなダイヤモンド砥粒で仕上がり時の面粗さを小さくできる。
【0022】
〈構成10〉
構成1乃至9に記載の研削砥石において、複数相の環状研削面の相間に生じた間隙を1mm以下に選定したことを特徴とする研削砥石。
【0023】
複数相の環状研削面の各相は、強度を保持するために密着させることが好ましい。しかしながら、排水や目詰まり防止等の目的で間隙を設ける場合は、その幅が1mm以下であることが好ましい。
【0024】
〈構成11〉
構成1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、いずれかの相の環状研削面を構成する部分が環の円周方向に複数の領域に分割されており、各分割領域において、上記ダイヤモンド砥粒はそれぞれ異なる結合材で固定され、いずれかの固定材が振動吸収材であることを特徴とする研削砥石。
【0025】
環の円周方向に複数の領域に分割し、各分割領域において、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定すれば、隣接する分割領域間で音響インピーダンスが異なるので、振動が減衰する効果がある。また、その中に固定材が振動吸収材であるものを混在させて、振動吸収効果を高めた。
【0026】
〈構成12〉
構成1に記載の研削砥石であって、上記全ての分割領域は、上記円盤の回転軸に対して軸対象に配置されていることを特徴とする研削砥石。
【0027】
分割領域の形状や材質が全て均等に配置されるようにして、円盤の重心を回転軸に集中させ、軸ぶれを無くした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を実施例毎に詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は実施例1の研削砥石を示す斜視図である。
電子回路パタンが形成されたシリコンウエハ12は、図示しない吸引チャック11により支持されて矢印A方向に回転する。この電子材料用ウエハ12の裏面を、研削砥石10を用いて目的の厚みまで研削する。研削砥石10は円盤14に支持固定されていて、矢印b方向に回転する。
【0030】
図2は、研削砥石10の縦断面図とその部分拡大図である。
研削砥石10は、円盤14の一面に複数相の環状研削面20を備える。この例では外相16と内相18の2層構造になっている。各相は、それぞれダイヤモンド砥粒を結合剤で固定したものである。研削砥石10は、図2に示すように、例えば、長さと高さが数センチメートルで、厚みが5ミリメートル程度の多数のブロックを、円盤14の環状溝に、接着剤等で固定したものである。直径が20cm程度の研削砥石10で、直径250〜300mm程度のウエハの裏面研削ができる。
【0031】
図3は砥石の部分断面図である。
ダイヤモンド砥粒22を固めて砥石にするための結合剤24には、金属系の結合剤と樹脂系の結合剤とガラス系の結合剤とが知られている。金属系の結合剤を使用した砥石は、弾性があって粘りがあるから耐久性が優れているという特徴を持つ。ヤング率は10、000〜100,000の範囲で選定できる。一方、ガラス系の結合剤を使用した砥石は、堅くて脆くて消耗が激しいが、目詰まりし難いという特徴がある。ヤング率は10、000〜30,000の範囲で選定できる。また、樹脂系の結合剤を使用した砥石は、柔らかくてクッションが良く粒径の小さなダイヤモンド砥粒の固定に適するという特徴を持つ。ヤング率は3、000〜15,000の範囲で選定できる。
【0032】
本発明の砥石は、複数相の環状研削面を備えており、外相から内相に至る各相の結合剤をそれぞれ異なる性質のものにして、目的の研削性能を引き出す。さらに、ダイヤモンド砥粒の粒度と組み合わせることにより、電子材料用ウエハの裏面を効率よく研削するためにより適した研削性能にすることができる。
【0033】
先ず、実施例1では、2相あるいは3相以上の構造とし、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、ガラス系の結合剤を使用し、それ以外の内相には樹脂系のものを使用する。ガラス系の結合剤を使用すると目詰まりが少なく、始めに高速で効率よく研削を開始できる。一方、内相に、フェノール樹脂や熱硬化性樹脂のような弾力性のある樹脂系の結合剤を用いると安定した仕上がりになる。外相に、比較的硬くてもろい金属間化合物系の結合剤を使用しても、同様の効果がある。しかも、金属間化合物系の結合剤は放熱が良いから、高速研削に適する。
【0034】
また、ガラス系の結合剤や硬くてもろい金属間化合物系の結合剤を使用すると、研削しながら砥石の研削面が順次壊れて次々に新しい面が現れる。即ち、研削開始時から長時間研削性能が低下しない。従って、研削開始前に砥石の研削面を調整するドレッシング処理が不要になる。さらに、例えば、全ての相にJIS規格表示が#600〜#1000程度の比較的粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用すると、外相では、次々に新しい面が現れるから、多くのダイヤモンド砥粒が効果的に研削に寄与して高い研削速度を維持する。一方、内相では、比較的粒径が小さいダイヤモンド砥粒が適度に作用して、最適な面粗さに研削ができるという効果がある。実験によれば、全ての相に同じダイヤモンド砥粒を使用して全て樹脂系の結合剤を使用した砥石と比較したとき、同等の研削性能を維持できる時間が15〜20%増加した。
【実施例2】
【0035】
この実施例では、外相と内相のダイヤモンド砥粒の粒度を選択する。なお、ダイヤモンド砥粒は、例えば、粒径が#325という規格表示がされていても、通常は#200〜#400の粒径の砥粒が混在したもので市販されている。比較的ばらつきの範囲が大きい。しかし、少なくとも、規格表示上の粒径が大きいほうが、粒径の大きなダイヤモンド砥粒を多く含む。従って、研削面粗さは大きくなる。以下はこの規格表示を用いて説明をする。
【0036】
始めに、最外相16を構成するダイヤモンド砥粒は、内相18を構成するダイヤモンド砥粒よりも、規格表示上の粒径を小さくする。例えば、最外相は、規格表示が#1000〜#2000のダイヤモンド砥粒をガラス系の結合剤で固めたものにする。また、内相は、規格表示が#325〜#600程度のダイヤモンド砥粒を樹脂系の結合剤で固めたものにする。電子材料用ウエハの裏面の研削を開始したとき、外相の砥石が最初にウエハの裏面のエッジに衝突する。このとき、大きな粒径のダイヤモンド砥粒により一挙に研削を開始すると、ウエハの裏面のエッジに微小な欠けが生じるおそれがある。そこで、外相の砥石のダイヤモンド砥粒を粒径の小さいものにした。エッジの欠けは皆無であることが望ましく、この構成はより発生確率を低下させるために寄与する。
【0037】
なお、砥石を3相構造にし、最初にウエハの裏面のエッジに衝突する外相に粒径の小さいダイヤモンド砥粒を使用して上記の要求を満たすとともに、その内側に、粒径の大きなダイヤモンド砥粒を使用して、検索速度のスピードアップを図り、最内相は粒径の小さいダイヤモンド砥粒を使用して仕上げるといった構成が、さらに好ましい。例えば、最外相に粒径の大きなダイヤモンド砥粒を使用したものに比べて、最外相に粒径の小さなダイヤモンド砥粒を使用したものは、研削トルクが30%ほど低くなり、滑らかな研削ができた。さらに、最外相に粒径の小さなダイヤモンド砥粒を使用し、その内側の相に、粒径の大きなダイヤモンド砥粒を使用し、さらにその内側の相に、粒径の小さなダイヤモンド砥粒を使用したものは、最外相に粒径の大きなダイヤモンド砥粒を使用したものに比べて、研削トルクが50%ほど低下した。研削トルクが小さいほど、円滑に平坦に研削ができる。
【実施例3】
【0038】
上記の例では、粒径の規格表示がそれぞれ異なるダイヤモンド砥粒からなる砥石を外相と内相に配置した。この実施例では、最外相には実施例2と同様に、内相側に配置するダイヤモンド砥粒よりも、規格表示上の粒径が小さいものを配置する。同時に、その他の相は、外相ほど、規格表示上の粒径が大きくかつブロッキーなダイヤモンド砥粒を固定し、内相ほど規格表示上の粒径が小さくかつシャープなダイヤモンド砥粒を固定する。一般に、市販されているブロッキーなダイヤモンド砥粒は、シャープなダイヤモンド砥粒と比べて、エッジの先鋭度が低いが、機械的な強度が強く荒削りに適する。シャープなダイヤモンド砥粒は面粗さの細かい仕上げに適する。
【0039】
従って、ブロッキーなダイヤモンド砥粒とシャープなダイヤモンド砥粒とを外相と内相に配置するにことにより、実施例1よりもさらに安定な長寿命の砥石を実現することができる。もちろん、高速で検索ができるとともに、仕上がりも良好な研削ができる。
【0040】
図4は砥石の研削効果を示す説明図である。
図のグラフの縦軸(Y)はウエハ裏面の面粗さを示す。横軸(X)はウエハ裏面を横切る直線上の位置である。縦方向の振れ幅が大きいほど、研削後の面の凹凸が激しい。グラフの左端はウエハのエッジである。図の(a)は#1000のダイヤモンド砥粒を外相及び内相に使用し、外相はダイヤモンド砥粒をガラス系の結合剤で固め、内相は樹脂系の結合剤で固めたものである。仕上がり面の粗さは十分に要求を満足している。#2000のダイヤモンド砥粒を使用すると、図の(b)に近い仕上がりになる。
【0041】
一方、図の(b)は、#2000のダイヤモンド砥粒を最外相に使用し、金属間化合物系の結合剤で固め、#600のブロッキーなダイヤモンド砥粒をガラス系の結合剤で固めて第2相に使用し、#1000のシャープなダイヤモンド砥粒を樹脂系の結合剤で固めて第3相に使用した、3相構造の砥石による仕上がり研削面の状態を示す。仕上がり面の粗さは十分に要求を満足している。また、検索速度が向上したにもかかわらず、エッジの欠けが検出されなかった。図の(c)は#600のダイヤモンド砥粒のみを使用し、樹脂系の結合剤で固めた構造の砥石による仕上がり研削面の状態を示す。面粗さが達成されないだけでなく、目詰まりを生じて、性能の低下が見られた。なお、いずれも、6インチのシリコンウエハを毎分200回転するテーブル上に固定し、その裏面に砥石を当てて毎分3000回転で駆動し、約100μm研削した後の状態を示している。
【0042】
図5は、砥石の耐久性を比較した説明図である。
図のグラフの縦軸は、砥石を回転駆動するモータの回転トルクを示す。横軸は、累積した研削時間を示す。いずれも、6インチのシリコンウエハを毎分200回転するテーブル上に固定し、その裏面に砥石を当てて毎分3000回転で駆動し、1枚当たり約100μm研削する工程を繰り返した。目詰まり等で研削機能が低下すると、モータの負荷が増大するから回転トルクが上昇する。長時間回転トルクの変動が小さいほど、耐久性が良い砥石といえる。
【0043】
図のAは図4の(a)で使用した砥石の場合、図のBは図4の(b)で使用した砥石の場合、図のCは図4の(b)で使用した砥石の場合を示す。AやBの例のように、最外相や外側寄りの相にガラス系の結合剤や金属間化合物系の結合剤で固定したダイヤモンド砥粒を配置すると、目詰まりが少なく比較的長寿命であることがわかる。一方、Cの例のように、全てのダイヤモンド砥粒を樹脂系の結合剤で固定すると、目詰まりを生じて次第に回転トルクが上がり、研削能力が短時間で低下する。
【0044】
また、2相構造、3相構造で、上記の実施例の要領で結合剤を使用すると、十分に耐久性のあるものが得られることもわかった。これに加えて、上記の研削砥石は、同じ時間だけ研削をしても、従来の砥石に比べて研削処理終了時の面粗さが十分に小さいので、その後の基板面のポリシング工程を短縮できるという効果がある。また、仕上がり時の面を高品質にすることができる。なお、上記砥石は、実施例の用途の他に、例えば、化合物半導体の裏面研削用や、SiC,フェライト、サファイア材の研削用として有効に利用することができる。
【実施例4】
【0045】
図6は、振動吸収材料の音響特性説明図である。
電子材料用ウエハの裏面を目的の厚みまで研削する作業では、図1に示した円盤14を高速回転させる。このとき、円盤14の各部に予期しない不正振動が発生して、研削面20(図2)の電子材料用ウエハの裏面に対する接触圧力を変動させる。実験によれば、これが、研削後の電子材料用ウエハの裏面の平坦度に悪影響を及ぼす。
【0046】
そこで、円盤14の振動を抑制するために、振動吸収材料を使用する。加工速度や研磨対象等を考慮したとき、構造体の音響インピーダンスに着目して振動吸収設計をすればよい。図6に示すように、円盤14の素材である金属は、音響インピーダンスが一立方メートルあたり、40,000,000Ns(ニュートン・秒)である。これに対して、ダイヤモンド砥粒の固定材として使用できるビトリファイボンドは、ガラス質の結合材であって、音響インピーダンスが金属の2分の1以下である。また、樹脂系の結合剤は音響インピーダンスが金属の10分の1以下である。
【0047】
これだけ音響インピーダンスに差のある2種以上の材料を接触させておくと、円盤14の各部の様々な不正振動を、これらの界面で吸収できる。例えば、円盤の最外相にダイヤモンド砥粒を固定する結合剤としてビトリファイボンドを使用すると、振動を吸収し、かつ、電子材料用ウエハの裏面に対する当たりを柔らかくすることができる。例えば、外相はビトリファイボンド、中間相は金属間化合物、内相は樹脂系の結合剤という設計をすると、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定するので、音響インピーダンスの差により、振動吸収効果が高まる。実際に図4で説明した研削効果は、振動吸収材料の効果も大きく寄与している。なお、ここでいう音響振動は、周波数が毎秒数十ヘルツから数千ヘルツの範囲が問題になる。円盤全体が振動する場合も、円盤の一部が振動する場合も、円盤と一体化された各部が振動する場合もある。
【実施例5】
【0048】
図7は、実施例5の研削砥石の縦断面図である。図8は、実施例5の研削砥石の正面図である。
図7と図8に示すように、この実施例では、円盤14の一部に、上記の振動吸収材料26を付着させた。この例では、円盤14の円周方向に4箇所、塊状の樹脂材料を接着固定している。振動吸収材料26は、円周方向に見て軸対称にもしくは均一に付着させることが好ましい。これにより、円盤14の重心を正確に軸部に集中させて、軸ブレを防止できる。ダイヤモンド砥粒の結合材だけでは不足する場合にこの手段が適する。なお、このことから、上記の実施例1〜4は、ダイヤモンド砥粒を固定する結合剤が振動吸収材料を兼ねるから、研削砥石の構造を単純化できるという効果もある。
【0049】
また、ダイヤモンド砥粒を固定する結合剤に振動吸収材料が使用されていると、電子材料用ウエハの裏面とダイヤモンド砥粒の摩擦により生じる振動を直接吸収できる。即ち、振動の吸収は、単に結合剤単体のヤング率等の物性によるものではなく、ダイヤモンド砥粒と結合剤と円盤との間の音響インピーダンスの相違により、これらの界面で音響振動が減衰するために生じる部分が大きい。また、円盤の外周部分は相対的に回転速度も速く、異常振動が発生し易い。従って、外周部分に(外相)のダイヤモンド砥粒を固定する結合剤に振動吸収材料が使用されていると、電子材料用ウエハの裏面を平坦化する効果が顕著であるといえる。また、図2に示したように、外相16と内相18とを重ね合わせることから、両者の音響インピーダンスが異なっているほうが、振動吸収効果が高いということができる。また、振動吸収効果は、音響インピーダンスの差が大きい程高く、音響インピーダンスが金属の10分の1以下である樹脂系の結合剤が、より効果が高いといえる。
【実施例6】
【0050】
図9は、実施例6の研削砥石の正面図である。
図の研削砥石は、環状研削面を構成する部分が環の円周方向に6個の領域に分割されている。例えば、環状研削面20aを構成する分割領域は、ダイヤモンド砥粒をビトリファイボンドで固定した。また、環状研削面20bを構成する分割領域は、ダイヤモンド砥粒を,熱硬化性樹脂で固定した。2種類の結合剤が円周方向に交互に、それぞれ3箇所で使用されている。ここでは樹脂系の結合剤が特に高い振動減衰効果を発揮する。隣接する分割領域間で音響インピーダンスが異なると、円周方向の音響振動伝搬が妨げられ、振動防止効果が高まる。なお、このように、結合材に振動吸収材を使用した分割領域を混在させたときでも、分割領域の形状や材質が、円盤の軸からみて全て均等に配置されることが好ましい。即ち、図9の実施例のように、全ての分割領域は、前記円盤の回転軸に対して軸対象に配置されているようにする。これで、円盤の重心を回転軸に集中させ、軸ぶれを無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1の研削砥石を示す斜視図である。
【図2】研削砥石の縦断面図とその部分拡大図である。
【図3】砥石の部分断面図である。
【図4】砥石の研削効果を示す説明図である。
【図5】砥石の耐久性を比較した説明図である。
【図6】振動吸収材料の音響特性説明図である。
【図7】実施例5の研削砥石の縦断面図である。
【図8】実施例5の研削砥石の正面図である。
【図9】実施例6の研削砥石の正面図である。
【符号の説明】
【0052】
10 研削砥石
12 ウエハ
14 円盤
16 外相
18 内相
20 研削面
22 ダイヤモンド砥粒
24 結合剤
26 振動吸収材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子材料用ウエハの裏面を目的の厚みまで研削するためのものであって、
円盤の一面に複数相の環状研削面を備え、
前記円盤の一部に、前記円盤に対して音響インピーダンスが2分の1以下の振動吸収材料を、円周方向に見て軸対称にもしくは均一に付着させたことを特徴とする研削砥石。
【請求項2】
請求項1に記載の研削砥石において、
前記振動吸収材料は、前記複数相のうちのいずれかにおいて、前記円盤に前記ダイヤモンド砥粒を固定する結合剤からなることを特徴とする研削砥石。
【請求項3】
請求項1または2に記載の研削砥石において、
複数相の環状研削面を備え、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定し、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、ガラス系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項4】
請求項1または2に記載の研削砥石において、
複数相の環状研削面を備え、外相から内相に至る各相が、ダイヤモンド砥粒をそれぞれ異なる結合材で固定し、最外相のダイヤモンド砥粒の結合剤として、金属間化合物系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項5】
請求項1または2に記載の研削砥石であって、
2相あるいは3相以上の構造とし、最外相以外の内相には樹脂系の結合剤を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、
全ての相に規格表示上の粒径が同一のダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、
外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、内相に規格表示上の粒径が大きいダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項8】
請求項7に記載の研削砥石であって、
3相以上の構造とし、最外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、次の内相に規格表示上の粒径が大きいダイヤモンド砥粒を使用し、内相に向かって順次規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用したことを特徴とする研削砥石。
【請求項9】
請求項1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、
最外相に規格表示上の粒径が小さいダイヤモンド砥粒を使用し、その他は、外相ほど規格表示上の粒径が大きくかつブロッキーなダイヤモンド砥粒を固定し、内相ほど規格表示上の粒径が小さくかつシャープなダイヤモンド砥粒を固定した研削砥石。
【請求項10】
請求項1乃至9に記載の研削砥石において、
複数相の環状研削面の相間に生じた間隙を1mm以下に選定したことを特徴とする研削砥石。
【請求項11】
請求項1乃至5のいずれかに記載の研削砥石であって、
いずれかの相の環状研削面を構成する部分が環の円周方向に複数の領域に分割されており、各分割領域において、前記ダイヤモンド砥粒はそれぞれ異なる結合材で固定され、いずれかの固定材が振動吸収材であることを特徴とする研削砥石。
【請求項12】
請求項1に記載の研削砥石であって、
前記全ての分割領域は、前記円盤の回転軸に対して軸対象に配置されていることを特徴とする研削砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−113194(P2009−113194A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−37118(P2008−37118)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(506288656)メゾテクダイヤ株式会社 (8)
【Fターム(参考)】