説明

研磨布用複合布帛および研磨布

【課題】装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる、研磨布用複合布帛および研磨布を提供する。
【解決手段】単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを含む布帛にシート状物を積層して研磨布用複合布帛を得て、研磨布とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる、研磨布用複合布帛および研磨布に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種情報機器の進展に伴い、磁気ディスク等の磁気記録媒体やシリコンウエハーは、さらなる記録容量の増大が望まれており、記録容量の増大につながる記録の高密度化を実現するべく、基板表面加工の一層の高精度仕上げが要求されている。例えば、ハードディスク装置に用いられる磁気記録媒体の基板としては、従来の長手磁気記録方式に代えて、現在磁気記録方式は、垂直磁気記録方式に移行しつつあり、基板となるアルミニウム、ガラスなどの表面をより高度に平滑化することが要求されており、そこで用いられる研磨布に対する要求もますます高くなってきている。用いる研磨布の特性に起因し、研磨した際に基板表面に欠点(うねりやスクラッチ傷など)を生じると、情報のリード/ライト時にエラーが発生してしまうおそれがある。
このため、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)発生率を低減させるため、極細繊維を用いた研磨布が提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
しかしながら、かかる研磨布では、研磨布としての剛直性がなく、研磨装置に取り付ける際の取り扱い性に問題があり、かつ、研磨中において研磨布にシワが発生し、被研磨物表面に欠点(うねりやスクラッチ傷)を生じさせてしまうという問題があることが判明した。
なお、極細繊維を用いた研磨布は、例えば特許文献3などにより提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−000751号公報
【特許文献2】特開2008−173759号公報
【特許文献3】特開2007−308821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる、研磨布用複合布帛および研磨布を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、極細繊維を含む布帛にシート状物を積層させて研磨布を得ることにより、研磨布の剛性が大きくなり、その結果、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを含む布帛にシート状物が積層されてなる研磨布用複合布帛。」が提供される。
【0008】
その際、前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのフィラメント数が1000本以上であることが好ましい。また、前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条であることが好ましい。また、前記布帛に、他糸条として、単繊維径が1500nmより大のポリエステルマルチフィラメント糸Bが含まれることが好ましい。また、前記布帛が織物または編物であることが好ましい。また、前記シート状物が、織物または編物または不織布またはフィルムまたはウレタン樹脂発泡体であることが好ましい。また、複合布帛の厚さが0.02〜10mmの範囲内であることが好ましい。また、複合布帛の曲げ強度が50cN/mm以上であることが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記の研磨布用複合布帛を用いてなる、記録媒体のテキスチャリング用研磨布、記録媒体のポリッシング用研磨布、電子部品の仕上げ用研磨布、および電子部品のバフ研磨用研磨布からなる群より選択されるいずれかの研磨布が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる、研磨布用複合布帛および研磨布が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aはその単繊維径(単繊維の直径)が50〜1500nm(好ましくは100〜1000nm、特に好ましくは400〜800nm)の範囲内であることが肝要である。かかる単繊維径を単糸繊度に換算すると、0.00002〜0.022dtexに相当する。ここで、単繊維径が50nm未満の場合には製造が困難となるだけでなく、繊維強度が低くなるため実用上好ましくない。逆に、単繊維径が1500nmを超える場合には、研磨布用布帛を研磨布として使用する際、被研磨物表面を高度に平坦化することができず好ましくない。なお、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には外接円の直径を単繊維径とする。また、単繊維径は、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0012】
かかるポリエステルマルチフィラメント糸Aにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、1000以上(より好ましくは2000〜10000)であることが好ましい。また、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの総繊度(単繊維繊度とフィラメント数との積)としては、5〜200dtexの範囲内であることが好ましい。
【0013】
かかるポリエステルマルチフィラメント糸Aを形成するポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%)のポリエステルであることが好ましい。艶消し剤がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、研磨布を用いて被研磨物を研磨した際に、被研磨物表面に欠点(スクラッチ)が発生しやすくなるおそれがある。また、ポリエステルの種類としては、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。なお、前記の艶消し剤とは二酸化チタンのことであり、二酸化チタンは無機微粒子の1種である。かかる二酸化チタンの含有量は、蛍光X線(例えば、リガク電機工業(株)社製ZSX100e)を用いる方法や、溶媒を用いてポリエステルを溶かす方法などにより測定をすることができる。
【0014】
また、前記ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよいが無機微粒子の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下であることが好ましい。
【0015】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aの繊維形態は特に限定されず、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。また、空気混繊または合撚糸または複合仮撚により他の糸条との複合糸として織物に含まれていてもよい。
【0016】
本発明において、研磨層となる布帛は前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのみで構成されていてもよいが、前記ポリエステルマルチフィラメント糸A以外に他糸条として、単繊維径が1500nmより大のポリエステルマルチフィラメント糸Bが含まれることが好ましい。その際、該ポリエステルマルチフィラメント糸Bはその単繊維径が3μm以上(より好ましくは3〜30μm)の範囲内であることが好ましい。該単繊維径が3μmよりも小さいと、布帛の圧縮剛さが小さくなるため、被研磨物表面の欠点(スクラッチ)が発生しやすくなるおそれがある。ここで、単繊維の断面形状が丸断面以外の異型断面である場合には、外接円の直径を単繊維径とする。なお、単繊維径は、前記と同様、透過型電子顕微鏡で繊維の横断面を撮影することにより測定が可能である。
【0017】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bにおいて、フィラメント数は特に限定されないが、10〜300本(好ましくは30〜150本)の範囲内であることが好ましい。また、かかるポリエステルマルチフィラメント糸Bの繊維形態は特に限定されないが、長繊維(マルチフィラメント糸)であることが好ましい。単繊維の断面形状も特に限定されず、丸、三角、扁平、中空など公知の断面形状でよい。また、通常の空気加工、仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0018】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bを形成するポリマー形成するポリマーは、艶消し剤の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下(より好ましくは0.5重量%以下、特に好ましくは0重量%)のポリエステルであることが好ましい。艶消し剤がポリエステル重量対比1.0重量%より多くポリエステル中に含まれていると、研磨布を用いて被研磨物を研磨した際に、被研磨物表面に欠点(スクラッチ)が発生しやすくなるおそれがある。また、ポリエステルの種類としては、ポリエステル系ポリマーであれば特に限定されず、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ステレオコンプレックスポリ乳酸、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤が1種または2種以上含まれていてもよいが、無機微粒子の含有率がポリエステル重量対比1.0重量%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明において、研磨層となる布帛の組織は特に限定されないが、編物または織物が好ましい。その際、編物の編組織としては、例えば、よこ編組織としては、平編、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が例示され、たて編組織としては、シングルデンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等などが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。なかでも、前記のような伸度を得る上で、たて編組織が好ましい。また、層数を2層以上の多層構造とし、多層のうち1層または2層を前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aで構成し、他の層を前記ポリエステルマルチフィラメント糸Bで構成することは好ましいことである。また、織物の織組織としては、例えば、平織、斜文織、サテン織物等の三原組織、変化組織、変化斜文織等の変化組織、たて二重織、よこ二重織等の片二重組織、たてビロードなどが例示される。層数も単層でもよいし、2層以上の多層でもよい。
【0020】
また、前記の布帛の織編密度は特に限定されないが、編物であれば、30コース/2.54cm以上(より好ましくは30〜140コース/2.54cm)かつ20ウエール/2.54cm以上(より好ましくは20〜110ウエール/2.54cm)であることが好ましい。また、布帛が織物の場合、カバーファクターCFが2000〜4500(より好ましくは2500〜4000)の範囲であることが被研磨物に微細な溝を形成する上で好ましい。カバーファクターが2000未満であると、研磨布用織物に研磨剤を付与した際、分散性が不十分となり被研磨物に微細な溝を形成するのが困難となるおそれがある。逆に、カバーファクターが4500よりも大きいと、剛性が高くなりすぎ被研磨物に微細な溝を形成するのが困難となるおそれがある。なお、本発明でいうカバーファクターCFは下記の式により表されるものである。
CF=(DWp/1.1)1/2×MWp+(DWf/1.1)1/2×MWf
[DWpは経糸総繊度(dtex)、MWpは経糸織密度(本/2.54cm)、DWfは緯糸総繊度(dtex)、MWfは緯糸織密度(本/2.54cm)である。]
【0021】
また、布帛において、厚みが0.15〜1.0mm(より好ましくは0.17〜0.90mm)の範囲内であることが好ましい。該厚みが0.15mmよりも小さいと、クッション性が低くなり被研磨物表面に欠点(スクラッチ)を発生させやすくなるおそれがある。逆に厚みが1.0mmよりも大きいと作業性が低下するおそれがある。
【0022】
前記の布帛は、例えば、以下の製造方法により製造することができる。まず、海成分と、ポリエステルからなりその径が10〜1500nmである島成分とで形成される海島型複合繊維(ポリエステルマルチフィラメント糸A用繊維)を用意する。かかる海島型複合繊維としては、特開2007−2364号公報に開示された海島型複合繊維マルチフィラメント(島数100〜1500)が好ましく用いられる。
【0023】
すなわち、海成分ポリマーとしては、繊維形成性の良好なポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリエチレンなどが好ましい。例えば、アルカリ水溶液易溶解性ポリマーとしては、ポリ乳酸、超高分子量ポリアルキレンオキサイド縮合系ポリマー、ポリエチレングルコール系化合物共重合ポリエステル、ポリエチレングリコール系化合物と5−ナトリウムスルホン酸イソフタル酸の共重合ポリエステルが好適である。なかでも、5−ナトリウムスルホイソフタル酸6〜12モル%と分子量4000〜12000のポリエチレングルコールを3〜10重量%共重合させた固有粘度が0.4〜0.6のポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルが好ましい。
【0024】
一方、島成分ポリマーは、繊維形成性の良好なポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどのポリエステルが好ましい。該ポリマー中には、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン染料可染剤、着色防止剤、熱安定剤、蛍光増白剤、艶消し剤、着色剤、吸湿剤、無機微粒子が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0025】
上記の海成分ポリマーと島成分ポリマーからなる海島型複合繊維は、溶融紡糸時における海成分の溶融粘度が島成分ポリマーの溶融粘度よりも大きいことが好ましい。また、島成分の径は、10〜1500nmの範囲とする必要がある。その際、島成分の形状が真円でない場合は外接円の直径を求める。前記の海島型複合繊維において、その海島複合重量比率(海:島)は、40:60〜5:95の範囲が好ましく、特に30:70〜10:90の範囲が好ましい。
【0026】
かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸は、例えば以下の方法により容易に製造することができる。すなわち、前記の海成分ポリマーと島成分ポリマーとを用い溶融紡糸する。溶融紡糸に用いられる紡糸口金としては、島成分を形成するための中空ピン群や微細孔群を有するものなど任意のものを用いることができる。吐出された海島型断面複合繊維マルチフィラメント糸は、冷却風によって固化され、好ましくは400〜6000m/分で溶融紡糸された後に巻き取られる。得られた未延伸糸は、別途延伸工程をとおして所望の強度・伸度・熱収縮特性を有する複合繊維とするか、あるいは、一旦巻き取ることなく一定速度でローラーに引き取り、引き続いて延伸工程をとおした後に巻き取る方法のいずれでも構わない。かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸において、単糸繊維繊度、フィラメント数、総繊度としてはそれぞれ単糸繊維繊度0.5〜10.0dtex、フィラメント数5〜75本、総繊30〜170dtexの範囲内であることが好ましい。また、かかる海島型複合繊維マルチフィラメント糸の沸水収縮率としては5〜30%の範囲内であることが好ましい。
【0027】
一方、必要に応じて、単繊維繊度が0.1dtex以上(好ましくは0.1〜50dtex)であるポリエステルマルチフィラメント糸Bを用意する。最終的に得られる生地内のフィラメント糸Bの単繊維径を1500nmより大とする上で、単繊維繊度を前記の範囲内とすることが好ましい。
【0028】
次いで、前記海島型複合繊維マルチフィラメント糸と、必要に応じてポリエステルマルチフィラメント糸Bとを用いて布帛を織編成する。その際、前記海島型複合繊維フィラメント糸とポリエステルマルチフィラメント糸Bとの総繊度比としては、90:10〜20:80の範囲内であることが好ましい。なお、製織編する際に用いる織編機を限定されず通常のものでよい。
【0029】
次いで、前記の布帛にアルカリ水溶液処理を施し、前記海島型複合繊維の海成分をアルカリ水溶液で溶解除去することにより、海島型複合繊維フィラメント糸を単繊維径が10〜1500nmのフィラメント糸Aとする。その際、アルカリ水溶液処理の条件としては、濃度3〜4%のNaOH水溶液を使用し55〜65℃の温度で処理するとよい。
【0030】
ここで、前記アルカリ水溶液による溶解除去の前および/または後に、あるいは、前記熱セットの前および/または後に編物に染色加工を施してもよい。カレンダー加工(加熱加圧加工)やエンボス加工を施してもよい。さらに、常法の起毛加工、撥水加工、さらには、紫外線遮蔽あるいは制電剤、抗菌剤、消臭剤、防虫剤、蓄光剤、再帰反射剤、マイナスイオン発生剤等の機能を付与する各種加工を付加適用してもよい。
【0031】
本発明の研磨布用複合布帛は前記の布帛のどちらか一方の面にシート状物を積層してなる二層構造複合布帛である。このように、布帛にシート状物を積層することにより、複合布帛の剛性が向上し、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる。
【0032】
ここで、前記シート状物が、織物または編物または不織布またはフィルムまたはウレタン樹脂発泡体であることが好ましい。その際、織物、編物、不織布を構成する繊維としては、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルからなるポリエステル繊維が好ましい。また、前記フィルムを形成する樹脂としてはポリエチレンテレフタレートが好ましい。かかるフィルムには、コーティングなどにより形成した樹脂層も含まれる。また、前記シート状物は、織物または編物または不織布またはフィルムまたはウレタン樹脂発泡体の複合体でもよい。前記布帛に前記シート状物を積層する方法は特に限定されず、熱ロールラミネート法により熱接着する方法、接着剤を用いる方法、樹脂をコーティングする方法などが例示される。
【0033】
かくして得られた複合布帛において、厚さが0.02〜10mmの範囲内であることが好ましい。厚さが0.02mmよりも小さいと、複合布帛としての剛性が大きくならず、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率を有する研磨布が得られないおそれがある。逆に、布帛の厚さが10mmよりも大きいと、複合布帛としての剛性が大きくなりすぎて、かえって取扱い性が損われるおそれがある。その際、かかる複合布帛の、タテ方向またはヨコ方向またはななめ方向のうち、少なくとも一方向の曲げ強度が50cN/mm以上であることが好ましい。特に、タテ方向およびヨコ方向の曲げ強度が50cN/mm以上であることが好ましい。なお、かかる曲げ強度はJIS K 6911 5.17に従って測定するものとする。
【0034】
次に、本発明の研磨布は、前記研磨布用複合布帛を用いてなる、磁気デイスクや光デイスクなど記録媒体のテキスチャリング用研磨布、記録媒体のポリッシング用研磨布、電子部品の仕上げ用研磨布、および電子部品のバフ研磨用研磨布からなる群より選択されるいずれかの研磨布である。かかる研磨布によれば、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる。
【実施例】
【0035】
(1)単繊維径と繊維径の均一性
透過型電子顕微鏡(TEM)で繊維の横断面を撮影することにより測定した。n数5で測定しその平均値を求め、その最大値と最小値の幅が平均値の50%より小さいものを「繊維径の均一性良好」とした。
(2)複合布帛の厚さ
JIS L 1018 8.5に従って複合布帛の厚みを測定した。
(3)複合布帛の曲げ強度
JIS K 6911 5.17に従って複合布帛の曲げ強度を測定した。
(4)研磨能率
シリコンウエハに対し、研磨剤に0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を5重量%含んでいるスラリーを12ml/minで滴下しながら、定盤回転数80rpm、加圧200gf/cmで10分間ポリッシュ加工した際の、シリコンウエハの重量低下量により測定した。0.4μm/min以上であれば合格とする。
【0036】
[実施例1]
島成分としてポリエチレンテレフタレート、海成分として5−ナトリウムスルホイソフタル酸9モル%と数平均分子量4000のポリエチレングリコール3重量%を共重合したポリエチレンテレフタレートを用い、海:島=30:70、島数=836の海島型複合未延伸繊維を、紡糸温度280℃、紡糸速度1500m/分で溶融紡糸して一旦巻き取った。得られた未延伸糸を、延伸温度80℃、延伸倍率2.5倍でローラー延伸し、次いで150℃で熱セットして巻き取り、ポリエステルマルチフィラメント糸A用糸条とした。得られた海島型複合延伸糸は56dtex/10filであり、透過型電子顕微鏡TEMによる繊維横断面を観察したところ、島の形状は丸形状でかつ島の径は700nmであった。
【0037】
次いで、28ゲージの通常の経編機を使用して、前述の海島型複合延伸糸をフロント筬とミドル筬に用い、ポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil、ポリエステルマルチフィラメント糸B)をバック筬に用い、サテン組織(バック:10/21、ミドル:10/34、フロント:10/34による編方)によりサテン組織の経編生機を得た。次いで、該編物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて25%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の染色仕上げ加工、湿熱加工、乾熱加工を行った。
【0038】
その後、該編物の裏面に、ポリエチレンテレフタレートからなる厚さ100μm(0.1mm)のフィルム(帝人デュポンフィルム(株)製「メリネックス」)を、熱ロールラミネート法により、ウレタン樹脂溶剤系接着剤を用い、塗工量28g/m、プレス温度80℃、プレス圧力2000kgf/cm、速度8m/秒の条件で貼り合せて複合布帛(研磨層が編物、下地層がポリエチレンテレフタレートフィルムからなるシート状物)を得た。
【0039】
得られた複合布帛において、ポリエステルマルチフィラメント糸Aの平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し15%であった。また、複合布帛の厚みは0.56mmであり、曲げ強度はタテ方向116cN/mm、ヨコ方向160cN/mmであった。
該複合布帛を直径380mmの円形に裁断し、シリコンウエハのポリッシュ加工に適した研磨パッドとした。該研磨パッドを用い、研磨剤に0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を5重量%含んでいるスラリーを12ml/minで滴下しながら、定盤回転数80rpm、加圧200gf/cmで10分間ポリッシュ加工を実施した。研磨能率は0.6μm/minと良好であり、スクラッチ傷などの欠点が非常に少なかった。
【0040】
[実施例2]
実施例1と同様に編物を得た後、該編物の裏面に、厚さ1.5mmの硬質ポリウレタン発泡体(ロデール・ニッタ社製の「MH−S15A」)を熱ロールラミネート法により、ウレタン樹脂溶剤系接着剤を用い、塗工量28g/m、プレス温度80℃、プレス圧力2000kgf/cm、速度8m/秒の条件で貼り合せ、研磨層が編物、下地層が硬質ポリウレタン発泡体からなる複合布帛を得た。
【0041】
得られた複合布帛において、フィラメント糸Aの平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し15%であり、複合布帛の厚みは1.9mmであり、曲げ強度はタテ方向195cN/mm、ヨコ方向210cN/mmであった。
該複合布帛を直径380mmの円形に裁断し、シリコンウエハのポリッシュ加工に適した研磨パッドとした。該研磨パッドを用い、研磨剤に0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を5重量%含んでいるスラリーを12ml/minで滴下しながら、定盤回転数80rpm、加圧200gf/cmで10分間ポリッシュ加工を実施した。研磨能率は0.56μm/minと良好であり、スクラッチ傷などの欠点が非常に少なかった。
【0042】
[実施例3]
実施例1と同様に海島型複合延伸糸56dtex/10filを得た。次いで、該延伸糸2本と通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント(33dtex/12fil)とインターレース加工にて混繊糸を得た。
該混繊糸を300回/m(S方向)にて撚糸し、経糸に全量配し、一方、通常のポリエチレンテレフタレートからなるマルチフィラメント仮撚捲縮加工糸(56dtex/144fil)を2本引き揃え300回/m(S方向)にて合撚後、緯糸に全量配し、経密度171本/2.54cm、緯密度67本/2.54cmの織密度にて、通常の製織方法により5枚サテン組織の織物生機を得た。次いで、該織物を50℃にて湿熱処理した後、海島型複合延伸糸の海成分を除去するために、2.5%NaOH水溶液で、55℃にて20%減量(アルカリ減量)した。その後、常法の湿熱加工、乾熱加工を行った。
【0043】
その後、該織物の裏面に、厚さ1.27mmのウレタン含浸不織布(ロデール・ニッタ社製の「SUBA600」)を熱ロールラミネート法により、ウレタン樹脂溶剤系接着剤を用い、塗工量28g/m、プレス温度80℃、プレス圧力2000kgf/cm、速度8m/秒の条件で貼り合せ、研磨層が織物、下地層がウレタン含浸不織布からなる複合布帛を得た。
【0044】
得られた複合布帛において、フィラメント糸Aの平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し17%であり、複合布帛の厚みは1.6mmであり、曲げ強度はタテ方向72cN/mm、ヨコ方向79cN/mmであった。
該複合布帛を直径380mmの円形に裁断し、シリコンウエハのポリッシュ加工に適した研磨パッドとした。該研磨パッドを用い、研磨剤に0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を5重量%含んでいるスラリーを12ml/minで滴下しながら、定盤回転数80rpm、加圧200gf/cmで10分間ポリッシュ加工を実施した。研磨能率は0.48μm/minと良好であり、スクラッチ傷などの欠点が非常に少なかった。
【0045】
[比較例1]
実施例1と同様に編物を得た後、そのまま該編物を直径380mmの円形に裁断し、シリコンウエハのポリッシュ加工に適した研磨パッドとした。得られた研磨パッドにおいて、フィラメント糸Aの平均単繊維径は700nm、最大値と最小値の幅は平均繊維径に対し15%であり、厚みは0.47mmであり、曲げ強度はタテ方向17cN/mm、ヨコ方向7cN/mmであった。
該研磨パッドを用い、研磨剤に0.035μmのコロイダルシリカ砥粒を5重量%含んでいるスラリーを12ml/minで滴下しながら、定盤回転数80rpm、加圧200gf/cmで10分間ポリッシュ加工を実施した。研磨能率は0.58μm/minと良好であったが、研磨中に研磨パッドにシワが発生し、スクラッチ傷の欠点が多発した。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明によれば、装置などに取り付ける際の取り扱い性に優れ、かつ被研磨物表面の欠点(うねり、スクラッチ傷など)の発生を抑制することができ、さらに優れた研磨能率が得られる、研磨布用複合布帛および研磨布が提供され、その工業的価値は極めて大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維径50〜1500nmのポリエステルマルチフィラメント糸Aを含む布帛にシート状物が積層されてなる研磨布用複合布帛。
【請求項2】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aのフィラメント数が1000本以上である、請求項1に記載の研磨布用複合布帛。
【請求項3】
前記ポリエステルマルチフィラメント糸Aが、海成分と島成分とからなる海島型複合繊維の海成分を溶解除去して得られた糸条である、請求項1または請求項2に記載の研磨布用複合布帛。
【請求項4】
前記布帛に、他糸条として、単繊維径が1500nmより大のポリエステルマルチフィラメント糸Bが含まれる、請求項1〜3のいずれかに記載の研磨布用複合布帛。
【請求項5】
前記布帛が織物または編物である、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨布用複合布帛。
【請求項6】
前記シート状物が、織物または編物または不織布またはフィルムまたはウレタン樹脂発泡体である、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨布用複合布帛。
【請求項7】
複合布帛の厚さが0.02〜10mmの範囲内である、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨布用複合布帛。
【請求項8】
複合布帛の曲げ強度が50cN/mm以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の研磨布用複合布帛。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の研磨布用複合布帛を用いてなる、記録媒体のテキスチャリング用研磨布、記録媒体のポリッシング用研磨布、電子部品の仕上げ用研磨布、および電子部品のバフ研磨用研磨布からなる群より選択されるいずれかの研磨布。

【公開番号】特開2010−188482(P2010−188482A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36533(P2009−36533)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】