説明

研磨装置及び研磨方法

【課題】ワーク加工面の形状に応じて、高精度に研磨仕上げすることが可能な研磨装置を提供する。
【解決手段】圧力容器1内を常圧より加圧して、加圧雰囲気下で研磨液3に浸漬されたワーク加工面に砥粒Pを強固に着床させたまま加工具9を押し当て、該加工具9とワーク支持部6を相対的に移動させてワーク加工面を研磨する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧より加圧した圧力容器内で研磨液に浸漬したワークを支持するワーク支持具とワークに当接する加工具とを相対的に移動させて研磨する研磨装置及び研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般にワークを研磨する研磨装置は、加工物(ワーク)を常盤と圧力をかけたポリッシャーで挟み込んだ状態で、常盤にスラリーを供給して常盤と圧力をかけたポリッシャーを相対的に移動させ、面摩擦により研磨が行なわれている。
例えば半導体用のウエハーの場合には、mm単位の研磨精度が要求されるため、ポリッシャーの加工条件(加工圧力、常盤回転数、加工時間)、研磨液の種類、更には加工雰囲気の圧力などにより最適な研磨条件を設定して研磨加工するようになっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2003−225859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、ワークが、例えば複写機、ファクシミリなどのOA機器に用いられる特殊なガラスレンズ(球面レンズ、柱状レンズ、加工面が凹凸面や曲面を有する異形状のレンズなど)を研磨加工する場合には、研磨仕上げにnm(ナノメートル)単位乃至はÅ(オングストローム)単位の加工精度が要求される。
また、ワーク加工面が平坦面でない異形状をしている場合には、ワークを押圧して加工面全体を加工することは難しい。
また、ワークを研磨液中に浸漬した状態でワーク加工面にポリッシャーを押し当てて揺動する場合、面摩擦のためポリッシャーの移動に伴って砥粒が加工面の広い範囲にわたって移動するため、研磨したい部分の微細な凸部のみならず、研磨が不要な凹部まで研磨されるおそれがある。
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決し、ワーク加工面の形状に応じて、高精度に研磨仕上げすることが可能な研磨装置及び研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記目的を達成するため、次の構成を備える。
開閉扉によって密閉される容器内の圧力を常圧より加圧する圧力容器と、圧力容器内に研磨液を貯留し、該研磨液にワークを浸漬させて支持するワーク支持部と、ワーク支持部に支持されたワーク加工面に先端側を押し当てる加工具を備え、前記圧力容器内を常圧より加圧して、加圧雰囲気下で研磨液に浸漬されたワーク加工面に砥粒を強固に着床させたまま加工具を押し当て、該加工具とワーク支持部を相対的に移動させてワーク加工面を研磨することを特徴とする。
また、加工具とワーク支持部のうち少なくとも一方がワーク加工面に対して、往復動、円運動、上下運動、回転運動のいずれかを行なうこと、即ち、加工具とワーク支持部のうち少なくとも一方が単独で往復動、円運動、上下運動、回転運動のいずれか或いはこれらを組み合わせて行なうことにより研磨することを特徴とする。
また、加工具は先端側に向かって板厚が薄くなるようにへら状に形成され、該加工具によりワーク加工面に着床する砥粒を掻き取ることにより研磨することを特徴とする。
また、圧力容器には気体注入口が設けられ、気圧調整が可能になっていることを特徴とする。
また、研磨液を温めるヒータを設けた温度調整装置が設けられていることを特徴とする。
また、圧力容器の底部に貯留する研磨液を攪拌する攪拌装置が設けられていることを特徴とする。
更に、密閉される圧力容器内に研磨液を貯留し、当該研磨液に塊状のワークを浸漬させると共に常圧より加圧した気体を封入したまま当該圧力容器を転動させてワークを研磨することを特徴とする。
また、研磨方法としては、筒状若しくは多角筒状の圧力容器内に貯留する研磨液中へワーク加工面を浸漬し、圧力容器内の気圧を高めて常圧状態に比べてワーク加工面に砥粒を強固に着床させたまま、当該ワーク加工面に着床する砥粒をへら状の加工具を用いて掻き取ることによりワークを研磨することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
上述した研磨装置及び研磨方法を用いれば、加圧雰囲気下で研磨液に浸漬されたワーク加工面に砥粒を強固に着床させたまま加工具を押し当て、加工具とワーク支持部を相対的に移動させてワーク加工面に強固に着床した砥粒を加工具で掻き取ることにより研磨する。即ち、従来のワーク研磨方式は、ポリッシャーの押圧により砥粒とワーク加工面との面接触による摩擦研磨であるのに対して、本願発明に係る研磨方式は、線接触若しくは点接触によりワーク加工面に着床した砥粒を掻き取る研磨方式であり、加圧雰囲気下でワーク加工面に強固に着床した砥粒が加工具で掻き取られる際に当該ワーク加工面に擦れてわずかに研磨が行なわれる。これにより、研磨部分以外への砥粒の移動を抑えて必要な範囲のみ選択的に研磨することができる。
よって、ワークの形状や材質に応じて、圧力容器内の気圧を調整したり、研磨液の温度を調整したりすることで砥粒の加工面への着床状態や移動速度(移動量)などの砥粒の挙動が変わることから、より複雑な形状のワークを研磨でき、nm(ナノメートル)単位乃至はÅ(オングストローム)単位の高精度な研磨仕上げをすることができる。
また、研磨は密閉された圧力容器内で行なわれるので、粉塵や汚濁の発生がなく周囲の環境に与える影響は少なく、加圧雰囲気下でワークを研磨液に浸漬させて研磨を行なうので、研磨液に含まれる砥粒をワーク加工面に効率良く着床させて研磨でき、研磨液を無駄なく効率良く使用できる。
また、研磨液に含まれる砥粒は容器底部に沈殿し易いことから、研磨液を攪拌することで、砥粒を研磨液中に均一に分散させることができ、加圧雰囲気中でワークの加工面に砥粒を均一に着床させることができる。
また、先端側に向かって板厚が薄くなるようにへら状に形成されている加工具を用いてワーク加工面に着床した砥粒を部分的に掻き取ることにより研磨が行なわれるため、研磨面の微細な凹凸を除去することができ、研磨不要な部分への砥粒の移動を減らして必要な部位を選択的に研磨することができる。
また、密閉される圧力容器内に研磨液を貯留し、当該研磨液に塊状のワークを浸漬させると共に常圧より加圧した気体を封入したまま当該圧力容器を転動させることにより、例えばワーク周面に均一に着床した砥粒とワークとの摩擦によりワーク表面が球面状や曲面状であっても精度良く研磨仕上げすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明に係る研磨装置及び研磨方法の最良の実施形態について添付図面とともに詳細に説明する。本実施形態の研磨装置及び研磨方法は、ワークとして金属材、ガラス材、セラミックス材などに利用可能であり、ワーク形状も加工面が平坦のみならず凹凸面(球面、曲面など)を有する場合にも研磨することが可能である。以下では、ワークの一例としてガラスレンズの研磨装置及び研磨方法について説明する。
【0008】
図1及び図2を参照して、研磨装置の概略構成について説明する。
図1において、圧力容器1は開閉扉2によって開放及び密閉される。圧力容器1の底部には研磨液3が貯留されている。研磨液の一例としては、純水を主成分として砥粒を含む加工液であって、場合によっては、アルカリや酸などの化学液も添加される。砥粒としては、酸化セリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化亜鉛、炭化珪素、ダイヤモンドである。特に酸化セリウムにおいては、Ce(セリウム)原子自体がガラス中のSi(シリコン)原子と入れ替わる水和反応を利用して研磨が行なわれるため、研磨液中に化学液を添加する必要はない。
【0009】
また、圧力容器1の上部には気体注入口4が設けられており、気圧調整装置5へ接続されている。気圧調整装置5は容器内の気圧(エアー圧)を常圧より加圧された任意の気圧に調整することができる。圧力容器1内にはワーク支持部6が設けられており、例えばガラスレンズ等のワークWを支持固定する。ワーク支持部6はワークWと共に研磨液3に浸漬して設けられる。このワーク支持部6は、必要に応じて研磨液3中から引き上げられるようにしておくとよい。また、圧力容器1の底部には、使用済みの研磨液3を排液するように排液口7が設けられている。
【0010】
尚、圧力容器1には、研磨液3を温めるヒータ8を設けた温度調整装置が設けられていてもよい。容器内の気圧を加圧調整することに加えて、研磨液3を温めることにより、砥粒の加工面への着床状態や移動速度(移動量)などの砥粒の挙動が変わることから、より複雑な形状のワークWを研磨できる。また、圧力容器1の底部に貯留する研磨液3を攪拌する攪拌装置が設けられていても良い。研磨液3を攪拌することで、砥粒を均一に分散させることができ、加圧雰囲気中でワークWの加工面に砥粒を均一に着床させることができるからである。
【0011】
圧力容器1内には、ワークWの被加工面に当接する加工具9が設けられている。加工具9は、先端側に向かって板厚が薄くなるようにへら状に形成されている。加工具9としては、例えばポリウレタン、ゴムなどの適度な柔軟性や弾性を有する樹脂材が好適に用いられる。気圧調整装置5を作動させ、密閉された圧力容器1内を常圧より加圧する。加圧レベルは、研磨液3の種類や砥粒の種類、研磨液の温度、ワークの種類、形状若しくは材質などに応じて任意に調整し得る。そして、加圧雰囲気下で研磨液3に含まれる砥粒をワークWの研磨面に着床させたまま加工具9を押し当て、該加工具9及びワーク支持部6を相対的に移動させてワークW表面の微細な凸部を研磨する。図1の場合には、板状のワークWをワーク支持部6に固定したまま、加工具9をワークWの研磨面に位置合わせして矢印A方向に往復動させるようになっている。
【0012】
また、図2は円柱状のワークWの長手方向両端をワーク支持部6に保持させて、ワークWを矢印B方向に回転させると共に、加工具9をワークWに当接したまま矢印A方向(長手方向)に往復動させるようになっている。このワークWの回転運動と加工具9の長手方向への往復動を組み合わせることで、柱状レンズの周面を軸方向に均一に研磨することができる。尚、この他にも加工具9及びワーク支持部6のうち少なくとも一方が、ワーク形状に応じて円運動、上下運動、回転運動を単独で行なうか若しくはこれらを組み合わせて行なうようにしてもよい。
【0013】
図3は、加工具9によるワークWの研磨面の研磨動作を示す拡大図である。研磨液3に含まれる砥粒Pは、加圧雰囲気中ではワーク加工面に沿って着床した状態になる。この状態で加工具9を往復動させると、加工面に着床した砥粒Pを掻き取るように移動するが、砥粒Pは均一に加圧されているため、ワーク加工面のA部分(凸部)の砥粒Pは掻き取られて研磨されるが、B部分(凹部)に着床する砥粒Pは移動しないため研磨されない。
よって、ワーク加工面のうち狙った位置、範囲で加工具9を移動させて研磨が行なえるので、高精度な研磨が行なえる。
【0014】
加工具9の他の形状を図4乃至図9を参照して説明する。図4は、ワークWを部分的に研磨する場合の加工具9を示す。加工具9の先端側には貫通孔10が設けられている。これにより、加工具9を往復動させても研磨に不要な砥粒Pの移動を少なくすることができるので、極めて微細な加工範囲で研磨する場合に好適である。
【0015】
図5は、ワーク加工面が球面状或いは曲面状のものを研磨する場合に好適に用いられる加工具9を示す。加工具9の先端形状は、ワーク加工面の曲率に倣った形状に成形されている。同様に図6は、ワーク加工面が非球面状のもの、例えば曲率の異なる曲面の組み合わせを持つ加工面を研磨する場合に好適に用いられる加工具9を示す。加工具9の先端形状は、ワーク加工面と点接触するようになっている。図7はワーク加工面の細部を研磨する場合に好適に用いられる加工具9を示す。図8は、比較的広い平板状のワーク加工面を研磨する場合に好適に用いられる加工具9を示す。これらの加工具はワークWの大きさや加工エリアに応じて複数組み合わせても良い。図9は、図8の形態の加工具9を複数組み合わせた加工具9を示す。
【0016】
尚、加工具9、ワーク支持部6のうち少なくとも一方に超音波振動を加えて研磨を行なうと、研磨効率を向上できる。また、研磨液3に接触する圧力容器1内やワーク支持部6にプラスチック材、ゴム材などで被覆しておくと、砥粒の移動に伴う摩耗を抑えることができる。
【0017】
次に、研磨装置の他例について、図10を参照して説明する。
図10は、塊状のワークW(例えば金属球やボールレンズなど)を研磨する場合の研磨装置を示す。円筒状の圧力容器1は、図示しない扉、蓋などにより密閉される。圧力容器1内には研磨液3が貯留されており、該研磨液3には塊状のワークWが浸漬される。また、圧力容器1内には常圧より加圧した気体が図示しない気圧調整装置により封入される。この状態で圧力容器1を時計回り方向及び反時計回りのいずれか又は双方へ交互に転動させることにより、例えば砥粒をワーク周面に均一に強固に着床させたままワークWが転動するので、砥粒の均一な移動を促して球面状や曲面状に研磨仕上げすることができる。尚、圧力容器1の内周面や内側面には、研磨液3に含まれる砥粒が偏らないように溝や羽根が設けられていても良い。また、圧力容器1は多角円筒状をしていてもよい。
【0018】
尚、前述した研磨装置及び研磨方法は、ワークの種類に応じて加工具9の形状、砥粒の種類、気圧、気体の種類(エア、不活性ガスなど)、研磨液の温度などを調整することで、最適な研磨条件に設定できるので、より複雑な形状のワークを高精度に研磨仕上げすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】研磨装置の断面説明図である。
【図2】研磨装置の他の構成を示す断面説明図である。
【図3】加工具とワークの研磨動作を示す拡大模式図である。
【図4】加工具の形態を示す説明図である。
【図5】加工具の他の形態を示す説明図である。
【図6】加工具の他の形態を示す説明図である。
【図7】加工具の他の形態を示す説明図である。
【図8】加工具の他の形態を示す説明図である。
【図9】加工具の他の形態を示す説明図である。
【図10】研磨装置の他の構成を示す断面説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 圧力容器
2 開閉扉
3 研磨液
4 気体注入口
5 気圧調整装置
6 ワーク支持部
7 排液口
8 ヒータ
9 加工具
10 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開閉扉によって密閉される容器内の圧力を常圧より加圧する圧力容器と、
圧力容器内に研磨液を貯留し、該研磨液にワークを浸漬させて支持するワーク支持部と 、
ワーク支持部に支持されたワーク加工面に先端側を押し当てる加工具を備え、
前記圧力容器内を常圧より加圧して、加圧雰囲気下で研磨液に浸漬されたワーク加工面に砥粒を強固に着床させたまま加工具を押し当て、該加工具とワーク支持部を相対的に移動させてワーク加工面を研磨することを特徴とする研磨装置。
【請求項2】
加工具とワーク支持部のうち少なくとも一方が、ワーク加工面に対して、往復動、円運動、上下運動、回転運動のいずれかを行なうことを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項3】
加工具は先端側に向かって板厚が薄くなるようにへら状に形成され、該加工具によりワーク加工面に着床する砥粒を掻き取ることにより研磨することを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項4】
圧力容器には気体注入口が設けられ、気圧調整が可能になっていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項5】
研磨液を温めるヒータを設けた温度調整装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項6】
圧力容器の底部に貯留する研磨液を攪拌する攪拌装置が設けられていることを特徴とする請求項1記載の研磨装置。
【請求項7】
密閉される筒状の圧力容器内に研磨液を貯留し、当該研磨液に塊状のワークを浸漬させると共に常圧より加圧した気体を封入したまま当該圧力容器を転動させてワークを研磨することを特徴とする研磨装置。
【請求項8】
筒状若しくは多角筒状の圧力容器内に貯留する研磨液中へワーク加工面を浸漬し、圧力容器内の気圧を高めて常圧状態に比べてワーク加工面に砥粒を強固に着床させたまま、当該ワーク加工面に着床する砥粒をへら状の加工具を用いて掻き取ることによりワークを研磨することを特徴とする研磨方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−305682(P2006−305682A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−131784(P2005−131784)
【出願日】平成17年4月28日(2005.4.28)
【出願人】(594066637)夏目光学株式会社 (12)
【Fターム(参考)】