説明

砥石チップおよびこの砥石チップを使用した研削砥石

【課題】微小な加工圧力で被削材の研削を行うことができると共に、砥粒部の剛性を確保でき、摺動によるチップ穴の側面の摩耗を抑制することが可能な砥石チップ、およびその砥石チップを使用した研削砥石を提供する。
【解決手段】研削部3は、チップ穴4と、チップ穴4に摺動可能に設けられた砥石チップ5と、砥石チップ5の駆動機構6とから構成され、砥石チップ5は、金属製の基台7と、この基台7の一端部に砥粒9を結合材10で結合した砥粒部8が設けられている。砥粒部8の側面8aおよび長手方向端面8bはNiめっきなどの金属層からなる厚み5〜1500μmの保護層11で覆われている。保護層11によって、砥粒部8の側面から突出した砥粒9aが被覆されるため、砥石チップ5をチップ穴4に対して摺動させてもチップ穴4の壁面が摩耗することを回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石チップを突没可能な駆動機構を具備する研削砥石に使用される砥石チップおよびその砥石チップを使用した研削砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハのラッピング加工用砥石や精密加工用ホーニング砥石として、台金から突没可能な砥石チップを具備した研削砥石が知られている。
例えば、特許文献1に記載の研削砥石は、工具本体に、作用面に対して垂直方向に任意の間隔で複数のチップ穴が設けられ、そのチップ穴の一部にはダイヤモンド砥粒を固定した硬質チップと、樹脂繊維を固めた軟質チップを差し込み、両チップとも前記チップ穴を摺動しながら上下動を可能にしたものであり、硬質チップのダイヤモンド砥粒で粗面加工を可能とし、軟質チップに遊離砥粒を保持することで鏡面加工を可能としている。これらのチップに対して、被削材の凹凸などにより強い抵抗力が生じた場合は、チップは工具本体のチップ穴に逃げ込むため、研磨面に深い傷を生じさせない。
【0003】
また、特許文献2記載の研削砥石は、研削盤主軸に連結された金属製円柱状の台金部と、この台金部の端面周縁部に同心的に設けられた砥粒部とから構成され、この砥粒部では、金属製の基台の一端部に砥粒部を設けた砥石チップを、台金に設けられたチップ穴に摺動自在に嵌合しており、空気圧によって砥石チップの上下動を可能としている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−58160号公報
【特許文献2】特開平2−160474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、図7に示すように、特許文献1記載の研削砥石における硬質チップ53は、基台57に設けられた砥粒部58にダイヤモンドなどの硬質の砥粒59を結合材60で結合したものを使用しており、バネ56によって、台金52のチップ穴54に対して摺動する。そして、硬質チップ53がチップ穴54を摺動することでチップ穴54の側面54aが側面の砥粒59aにより摩耗する。そのため、台金52のチップ穴54の摩耗が進行すると、硬質チップ53にがたつきが発生し、被削材の加工精度が低下する。その結果、チップ穴54が摩耗する毎に台金52自体を交換しなければならない。
【0006】
一方、特許文献2記載の研削砥石では、砥石チップがその砥粒部とチップ穴の側面との間に隙間が形成されるように配置されている。このようにすれば、砥石チップの砥粒部によって、チップ穴の側面が摩耗することはないが、砥粒部の大きさがチップ穴に対して小さくなるため、砥粒部の剛性が不足し、被削材を研削する際に砥粒部の欠損が生じやすい。また、砥石チップがチップ穴の側面と接していないため、加工圧力が大きい場合には、砥石チップのがたつきが発生しやすい。このような問題は肉厚の薄い被削材の内面研削の仕上げ加工や加工変質層を嫌う被削材の研削砥石のように砥粒部の幅が数mm程度である細長い砥石において顕著である。さらに、このように砥粒部の幅が狭い場合には、砥粒部が欠損しやすいのに加え、砥粒部とチップの基台との固着力が弱いため、基台から砥粒部が剥落しやすいという問題もある。
【0007】
以上のような背景から、台金から突没可能なセグメント型の砥石チップを具備した研削砥石に使用される砥石チップにおいて、研削の際の砥石チップの安定性を確保し、かつ、チップ穴の側面の摩耗を回避できることが可能な砥石チップの開発が望まれている。
本発明は、台金から突没可能なセグメント型の砥石チップを具備した研削砥石に使用される砥石チップにおいて、砥粒部の剛性を確保でき、摺動によるチップ穴の側面の摩耗を抑制することが可能な砥石チップ、およびこの砥石チップを使用した研削砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の砥石チップは、研削砥石の台金に設けられたチップ穴に、作用面に垂直な方向に摺動可能に嵌合される、砥粒を結合材で固着した砥粒部と、前記砥粒部が固着された基台とからなる砥石チップであって、前記砥粒部における前記チップ穴との当接面全体に前記砥粒部の砥粒を露出させず、かつ、前記砥粒部より摺動抵抗が低い層(以下、「保護層」と称す。)を設けたことを特徴とする。
【0009】
このような構成では、砥石チップは、前記砥粒部における前記チップ穴との当接面に存在する砥粒が、保護層で被覆されるため、チップ穴内を砥石チップが摺動しても、砥粒部の砥粒によってチップ穴の側面が摩耗することが抑制される。その結果、チップ穴の側面が摩耗に起因する砥石チップのがたつきが発生することを回避できる。
さらに、砥石チップは、研削砥石の台金に設けられたチップ穴に、作用面に垂直な方向に摺動可能に嵌合されているため、砥粒層にチップ穴の外部に突出した部分以外はチップ穴で保護される。そのため、砥粒部の幅が狭く細長い砥石など砥粒部の剛性が低い砥石チップを使用した場合においても、研削の際の砥粒部の欠損が起こりづらい。なお、上記「作用面」とは、砥粒部と被削材が接触する部分を指す。なお、被削材が曲面の場合には被削材と砥材部との接面が作用面に相当する。また、使用される砥粒としては、ダイヤモンド砥粒、CBN砥粒、WA砥粒、GC砥粒などが挙げられ、特にダイヤモンド砥粒、CBN砥粒が好適である。
【0010】
本発明の砥石チップにおいて、前記保護層が、金属層であることが望ましい。保護層が硬質な金属層であれば、耐摩耗性が高いため、長期間使用することが可能である。また、伝熱性が高いため、切削加工時の放熱性がよく、被削材の熱変形を防止することができる。なお、保護層としては、上記の金属層以外にも樹脂膜、セラミック膜など金属以外の皮膜を使用することもできる。
【0011】
また、本発明の砥石チップにおいて、前記保護層の好適な厚みは、5〜1500μmであり、特には5〜500μmである。保護層の厚みが5μm未満であると、砥粒が保護層から露出する可能性がある。一方、保護層の厚みが1500μmより大きいと、保護層が厚過ぎるために加工抵抗が大きくなり、切味が低下する。そのため、保護層の厚みは1500μm以下が好ましく、砥粒部の作用面積が小さい場合には500μm以下が特に好ましい。保護層の厚みが上記範囲であると砥粒が保護層に完全に埋没し、また、砥粒部自体の摩耗を抑制することができる。
【0012】
上記の金属層は、金属めっき法や溶射法などで形成することができるが、特に金属めっきであることが好ましい。保護層の形成に金属めっきを用いると、薄膜の保護層を容易に再現性良く形成でき、砥石チップの寸法精度が維持できる。なお、金属めっきとしては、Ni、Cr、Cu、Zn、Agなどが挙げられるが、この中でもNiは硬質であるため特に望ましい。金属めっき法によると、5〜1500μmの厚みの金属めっきが容易に形成可能であり、特に厚みが5〜100μmの薄い金属層を形成する場合には、金属めっきが均一な薄膜を形成できるため好適である。本発明の砥石チップは、台金のチップ穴に摺動可能に嵌合されるため、チップ穴と略同一大きさである必要があるが、保護層の形成に金属めっきを用いると、厚み5〜100μmの薄膜からなる保護層を容易に再現性良く形成でき、砥石チップの寸法精度が維持できる。
【0013】
また、固着する砥粒部が幅が狭く細長い場合の砥石チップでは、前記基台には、作用面に平行な平坦部と、基台両端部に位置し作用面に垂直な対向する支持部とからなるコの字型構造の砥粒部固着部が設けられ、この砥粒部固着部に、四角柱状の前記砥粒部が、その長手方向端面が前記対向する支持部間に嵌合するように固着され、前記砥粒部の側面および基台側面には、金属めっきからなる保護層が形成されていることが望ましい。
【0014】
このような構成において、四角柱状の砥粒部の長手方向端面が、前記支持部に嵌合するように固着されているため、砥石部と基台との接合力が増強する。そのため、幅が狭く細長い砥粒部を使用した場合においても、基台からの砥粒部の剥落が防止できる。
また、前記チップ穴との当接面となる砥粒部の側面が金属めっきからなる保護層で被覆され、表面に砥粒が露出していないので、チップ穴が摩耗することが抑制される。特に、砥粒部の側面に設けられた金属めっきからなる保護層は薄く形成できるため、作用面となる砥粒部の幅を広く厚く設定することができる。その結果、幅が狭く細長い砥粒部においても砥粒部の作用面の面積が広くなるので、被削材の加工効率および砥石寿命を向上させることができる。なお、本明細書内で「幅が狭く細長い砥粒部」とは、具体的には、「長方形の長辺aと短辺bの比a/bが5以上の砥粒部」を指す。
さらに、砥粒部の側面と共に、チップ穴と当接する基台側面にも金属めっきからなる保護層を設けていることで、チップ穴における砥石チップの摺動がスムーズになるため、チップ穴および砥石チップ側面の摩耗が抑制される。
【0015】
また、保護層には固体潤滑剤を含むことが望ましい。固体潤滑剤によって、砥粒部とチップ穴側面との摺動抵抗が減少し、チップ穴側面の摩耗がさらに抑制される。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、フッ化黒鉛、フッ素樹脂、メラミンシアヌレートなどが挙げられ、この中でもフッ素樹脂は、特に潤滑性が良く、適度な耐熱性を有するため好適に使用される。なお、固体潤滑剤は、保護層のすべての部分に含ませる必要はなく、特に摺動抵抗が大きい部分のみに含ませてもよい。
【0016】
また、本発明の研削砥石は、本発明の砥石チップと、前記砥石チップを作用面に垂直な方向に駆動して、前記チップ穴から突没させる駆動機構とからなる研削部を備えたことを特徴とする。このような研削砥石では、被削材に対して砥石チップの砥粒部を確実に押し付けることができ、良好な研削加工を行うことができる。
【0017】
前記駆動機構としては、バネ、ゴム、スポンジなどの弾性体駆動機構や、空気圧や油圧などの駆動機構や、テーパーを利用した押し出し方式の駆動機構などが挙げられる。この中でも、テーパーを利用した押し出し方式は、加工圧力を正確に制御可能であるので、加工圧力が比較的小さい内面研削仕上げ加工に使用されるホーニング加工用砥石(以下、「ホーニング砥石」と称す。)などに好適に使用することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の砥石チップは、保護層を形成したことで、台金のチップ穴との当接面において砥粒が露出していないため、該砥石チップをチップ穴側面に対して繰り返し摺動させてもチップ穴の側面の摩耗が回避される。そのため、チップ穴の寸法精度が維持され、砥石チップにがたつきが生じず安定化するため、該砥石チップを使用した研削砥石を使用することで高い加工精度を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
まず、発明の第1実施形態として、肉厚の薄い石英ガラス、サファイアなどの被削材の平面研磨に使用されるカップ型研削砥石の例を示す。
【0020】
図1(a)は、本発明の第1実施形態に係るカップ型研削砥石の平面図、図1(b)は、そのA−A断面図、図2(a)は本発明の第1実施形態に係る砥石チップの斜視図、図2(b)はその平面図である。
【0021】
カップ型研削砥石1は、有底略円筒状の台金2と、台金2の端面周縁部に同心円的に設けられた複数の研削部3とから構成され、中心部2aを研削盤主軸(図示せず)に交換可能に装着して使用される。
【0022】
台金2は、直径50mm程度の高剛性な鉄、アルミニウムなどの金属製であり、その略平坦な端面の周縁部に同心的に等間隔に複数のチップ穴4が設けられている。研削部3は、チップ穴4と、チップ穴4に摺動可能に設けられた砥石チップ5と、砥石チップ5の駆動機構6とから構成される。
【0023】
図2(a),(b)に示すように砥石チップ5は、金属製の基台7と、この基台7の一端部に固着された砥粒部8とから構成される。
基台7の幅厚Aは1〜4mm程度で、長手方向の長さBは8〜20mm程度、高さCは3〜10mm程度の直方体形状の金属製台座である。なお、本実施形態では、直方体形状の基台7を使用したが、長手方向の形状をカップ型研削砥石1の円周に沿うように湾曲させてもよい。なお、基台7の構成材料としては、鉄系合金やブロンズ系合金やアルミニウムなどが挙げられる。
【0024】
砥粒部8は、ダイヤモンドやCBNなどの砥粒9を結合材10で結合したものである。砥粒部8の側面8aおよび長手方向端面8bにはそれぞれ保護層11が設けられており、研削時の作用面となる前表面8cには保護層11は設けられていない。ここで、砥粒部8の幅厚A’および長手方向の長さB’は基台7における幅厚Aおよび長手方向の長さBと略同一としている。砥粒部8の高さDは、砥石コストや寿命を勘案して適宜決定されるが、通常3〜8mm程度である。砥粒9の粒径や結合材の種類および砥粒部8における砥粒密度は、被削材に必要な平面度を勘案して決定する。本実施形態では、石英ガラスの表面研磨用に、ダイヤモンドやCBNからなる粒度#1000の砥粒とメタルボンドを使用している。結合材のメタルボンドとしてはCu、Sn、Fe、Co、Niなどが挙げられ、特にCu、Snが好適である。なお、メタルボンドの代わりにフェノール樹脂、エポキシ樹脂などのレジンボンドを使用してもよい。
【0025】
保護層11としては、本実施形態ではNiめっきを使用している。これ以外にも、Cr,Cu,Auなどの金属めっきで被覆する方法、金属箔を砥粒部側面に直接あるいは金属めっきを介して貼付する方法、フェノール樹脂などの樹脂コーティングを使用する方法などが挙げられる。ここで、石英ガラス、サファイアなどの硬質材料を研削する場合には強度を確保するために、保護層11の厚みは5〜500μmが好適である。これは、一定の大きさのチップ穴4に砥石チップ5を嵌合させる場合、保護層11aの厚みが薄いほど、砥粒部8の幅厚A’を大きくすることができるため、研削時の作用面となる前表面8cが広くなり、研削能力が向上し砥石寿命が長くなるからである。一方で、保護層11の厚みが5μm未満であると、側面8aから突出した砥粒9aを完全に被覆することができない場合がある
【0026】
なお、本実施形態でも使用した硬質なNiめっきでは側面8aの保護層11aの厚みが5〜30μmでも側面8aの砥粒を十分に被覆ができ、表面が平坦な保護層11を形成できる。また、保護層11を金属層とする場合には、Niめっきを始めとする金属めっきが好ましいが、金属めっきではその厚みが通常100μmを超えると表面の平坦性が著しく低下する傾向がある。そのため、保護層11を金属層とした場合に、その厚みを100μm超とするためには、溶射法によって砥粒部8の側面に直接金属層を形成する方法や、砥粒部8の側面に直接、あるいは砥粒部8に形成した金属めっきの上に所定の厚みの金属箔を接着する方法で保護層11を形成する方法がよい。
【0027】
なお、保護層11の厚みはすべての面で同一である必要はなく、例えば、負荷がかかりやすい面の厚みを他の面より厚くすることもできる。本実施形態のカップ型研削砥石1の場合、砥石チップ5には台金2の回転方向である長手方向に特に負荷がかかる。そのため、長手方向端面8bを被覆する保護層11bには、カップ型研削砥石1が回転したときに特に負荷がかかるため、側面8aの保護層11aより厚みを大きくしている。このように保護層11の厚みは使用する砥石形状、被削材など研削条件を勘案して適宜決定すればよいが、1500μmを超えると、保護層が厚過ぎるために加工抵抗が大きくなり、切味が低下する。
【0028】
なお、保護層11には、固体潤滑剤を含有させることができる。固体潤滑剤によって、砥粒部とチップ穴側面との摺動抵抗が減少し、チップ穴側面の摩耗がさらに抑制される。固体潤滑剤としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、グラファイト、フッ化黒鉛、フッ素樹脂、メラミンシアヌレートなどが挙げられ、この中でもフッ素樹脂は、特に潤滑性が良く、適度な耐熱性を有するため好適に使用される。
【0029】
固体潤滑剤の粒径は、保護層の厚みにもよるが通常1μm以下(好ましくは0.8μm以下)である。また、好適な固体潤滑剤の体積比率は保護層の全体積に対して、10〜30体積%(より好ましくは、20〜25体積%)である。なお、10体積%以下では摺動抵抗を減少させる効果が十分でない場合があり、30体積%を超える場合には、保護層の機械強度が低下し、保護層の欠損が生じやすくなる。
【0030】
砥石チップ5は基台7と砥粒部8を一体焼成を行った後に金属めっき(保護層11の形成)を行うことにより製造される。金属めっきの方法としては無電解めっきが好ましく選択される。なお、このように基台7と砥粒部8を一体焼成を行った後に金属めっき(保護層11)の形成を行うことにより、基台7と砥粒部8との結合力が大きくなる効果がある。この金属めっき(保護層11)の形成によって基台7と砥粒部8との結合力が強化されることで、基台7から砥粒部8が剥落すること抑制される。この効果は砥石チップ5の幅厚A’が1〜4mm程度と小さい場合に特に好適に機能する。なお、上述のように、保護層11の厚みが100μmを超える場合には、金属を溶射する方法や金属箔を接着剤で貼り付ける方法がある。また、本実施形態では、基台7と砥粒部8とを接合した後に、保護層11を形成したが、先に砥粒部8に保護層11を形成した後に、保護層11が被覆された砥粒部8と、基台7を接合してもよい。
【0031】
以下、図3に基づいて、本実施形態のカップ型研削砥石の研削部3の動きについて説明する。図3は本発明の第1実施形態に係るカップ型研削砥石における砥石チップとその近傍の部分拡大断面図である。
砥石チップ5は、チップ穴4に嵌合され、駆動機構6によって、矢印方向へ摺動することができる。本実施形態における駆動機構6は、チップ穴4の底部にバネを設置したものであり、砥石チップ5はこのバネの弾性力で上下動が可能となる。このようなカップ型研削砥石における研削部3では、被削材を研削する際に、強い抵抗力が生じた場合は、砥石チップ5はチップ穴4に逃げ込み、被削材に深い傷を生じさせない。また、被削材が非平面でもバネにより被削材面を押さえつけることができるという利点もある。また、加工圧力は、駆動機構6であるバネの弾性率を変えることで適宜制御可能である。
なお、本実施形態では駆動機構6としてバネを使用したが、ゴム、スポンジなどのその他の弾性体や、空気圧や油圧などの圧力駆動機構や、テーパーを利用した押し出し方式の駆動機構であってもよい。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態として、肉厚の薄い被削材の内面研削の仕上げ加工などで使用されるホーニング砥石について説明する。
図4に示すようにホーニング砥石20は、マンドレル21と、砥石拡張ロッド22と、砥石チップ23とからなる。マンドレル21には、その長手方向に貫通孔21aが設けられており、この貫通孔21aに一端側にテーパーが設けられた金属製の細長い棒からなる砥石拡張ロッド22が摺動自在に嵌合されている。さらにその長手方向端面に砥石チップ23が嵌合可能なチップ穴21bが設けられている。
【0033】
このホーニング砥石20に使用される砥石チップ23の構造について、詳細に説明する。図5(a)は砥石チップ23の平面図、図5(b)は図5(a)におけるA−A断面図である。砥石チップ23は、基台24と、基台24に固着された砥粒部25とからなり、その側周面は金属めっきで被覆されている。基台24は、その幅厚aが0.5〜2mmで、長手方向の長さbが5〜50mm、長辺側高さc1が1〜10mm、短辺側高さc2が0.5〜5mmの長手方向断面が台形の台座であり、図4に示すマンドレル21のチップ穴21bに正確に収容できるような大きさに設計されている。この基台24において、砥粒部25が固着された面の反対側にテーパー面24aが設けられている。テーパー面24aの角度αは、通常1〜5°程度であり、砥石チップ23をマンドレル21のチップ穴21bに嵌合した際に、砥石拡張ロッド22と当接するように設計されている。なお、基台24の構成材料として、本実施形態では、Cu−Sn系合金を使用している。
【0034】
また、基台24のテーパー面24aの反対側には、平坦部24bと支持部24cとによって、コの字型構造の砥粒部固着部が形成されており、その部分に四角柱状の砥粒部25が固着されている。また、後述するように、被削材のホーニング加工において、砥石チップ23は長手方向に移動する際の負荷が大きいため、移動抵抗が小さくなるように、支持部24cは、図5(a)で示すようにその半径が基台24の幅厚aの1/2の半円柱状に設計されている。
【0035】
砥粒部25は、CBN砥粒をメタルボンドで結合したものであり、その砥粒密度や、結合材の種類は、被削材の材質、加工面の精度を勘案して適宜決定される。例えば、被削材の材質が、硬質な焼き入れ鋼の場合には、砥粒として#100〜1500程度のCBN砥粒、結合材としてCu−Sn系合金が好適に使用できる。その他にも、上述した第1の実施形態で示したものと同様な砥粒や結合材を使用することができる。なお、本実施形態では、基台24の構成材料と同じCu−Sn系合金を使用しているため、被削材の研削時には砥粒部25と基台24の支持部24cとが均等に摩耗する。
【0036】
砥粒部25は、その幅厚が0.5〜2mm、長手方向の長さが5〜48mmでそれぞれ、基台24の幅厚a(平坦部24bの幅厚)と、平坦部の長さb1と略同一である。また、砥粒部25の高さは、支持部24cの切れ込み深さdと同一であり、通常、0.5〜3mmである。このように砥粒部25は、上述した基台24におけるコの字型構造の砥粒部固着部に正確に嵌合できるように設計されており、その側面が露出し、その長手方向端面が支持部24cによって保護された構造を有する。そのため、マンドレル21のチップ穴21bに、砥石チップ23を嵌合したときには、砥粒部25の側面が、チップ穴21bと当接することになる。
【0037】
また、砥石チップ23の周壁面には保護層26が形成されている。保護層26は厚みが5〜100μmの金属めっきからなる金属層であり、本実施形態では、固体潤滑剤としてのフッ素樹脂を含有させたNiめっきが形成されている。なお、Niめっきの厚みは、5〜100μmが好適であり、本実施形態では20〜40μmである。また、固体潤滑剤としてはフッ素樹脂以外にも上記第1実施形態で例示した固体潤滑剤を使用することができる。
【0038】
この保護層26が形成されていることで、砥粒部25の側面からの砥粒の突出を防止すると共に、砥石チップ23とマンドレル21のチップ穴21bとの摺動抵抗を減少させる機能を有するため、チップ穴21bが摩耗することが回避される。
本実施形態の砥石チップ23は、Cu−Sn系合金からなる基台24と、ダイヤモンド砥粒とCu−Sn系合金とからなる砥粒部25とを一体焼結したのちに、無電解めっきで、Niめっきと固体潤滑剤とからなる保護層26を砥石チップ23の全面に形成し、その後、作用面となる砥粒部25の前表面25aを研磨し、砥粒を表面で露出させることで形成している。このような製法で無電解めっきを行うと、全体に平坦でむらのない保護層26が形成されるため、摺動抵抗が大きく減少する。また、基台24と砥粒部25の固着は、上述の一体焼結ではなく、その他の固着方法でもよい。例えば、基台24と、砥粒部25は接着剤によって固着することができ、接着剤には、樹脂系接着剤、無機系接着剤、半田なども使用することができる。
【0039】
次に図6(a),(b)に基づいて、ホーニング砥石20の使用形態を説明する。
上述の通り、砥石拡張ロッド22と、砥石チップ23の基台24には、テーパー面が設けられており、それぞれのテーパー面で当接している。砥石拡張ロッド22が所定位置にある場合には、砥石チップ23はチップ穴21bに収容されている(図6(a))。砥石拡張ロッド22を押し込むと、砥石拡張ロッド22のテーパーによって押し出され、砥石チップ23はチップ穴21bから突出する(図6(b))。砥石拡張ロッド22を元の位置に戻すと砥石チップ23をチップ穴21bに収容される(図6(a))。
【0040】
ホーニング砥石20は、砥石チップ23はチップ穴21bに収容された状態で被削材の被研削穴に挿入される。砥石拡張ロッド22を押し込み、砥石チップ23を突出させ、作用面となる前表面25aを被削材Wの被研削穴の内表面に接触させた状態で、ホーニング砥石20を回転させることで、被削材Wの被研削穴の内表面を研削することができる(図6(b))。なお、このような駆動機構を有するホーニング砥石20は、砥石拡張ロッド22の押し込み量で、砥石チップ23の突出量を正確に制御できるという特徴があるため、砥石チップ23と被削材の被研削穴内表面との接触圧力を制御することが可能である。このような、ホーニング砥石20による加工は精密部品の内表面加工最終仕上工程として用いられ、回転運動と往復運動というコンビネーションに適正圧力を加えることにより、高品質な内表面が得ることができる。
【0041】
なお、本実施形態では、1つの砥石チップ23を使用するホーニング砥石20の例を示したが、複数の砥石チップを使用するホーニング砥石にも適用できる
【0042】
以上の実施形態においては、上述の研削面が平坦な被研削物に使用するカップ型研削砥石、内面研削の仕上げ加工用のホーニング砥石を示したが、本発明の砥石チップは、これらの用途に限定されるのではなく、研削面と砥粒部とが線接触する形式の円筒型の研削砥石など様々な研削砥石に使用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に、具体的な実施例を示す。
【0044】
実施例1:平面研削用カップ型研削砥石
以下に使用した砥石チップおよびカップ型研削砥石の詳細を示す。(符号は図2を参照)
「砥石チップ」
基台(材質:アルミニウム)
幅厚A :2mm(公差:0〜−0.03mm)
長手方向の長さB :15mm(公差:0〜−0.03mm)
高さC :5mm
砥粒部
幅厚A’ :1.5〜2mm(幅厚A’+保護層の厚みの合計2mm)
長手方向の長さB’ :14.5mm
高さD :5mm
砥粒 :ダイヤモンド(#1000) 砥粒部の5体積%
結合材:Cu−Sn系合金
保護層:Ni
保護層の厚み:
側面:3〜500μm
(3〜100μm Niめっき(作製方法:無電解めっき))
(100〜500μm Ni溶射法+Niめっき)
長手方向端面:1500μm(Ni溶射法+Niめっき)
固体潤滑剤:フッ素樹脂(平均粒径:0.8μm)
Niめっき部分のみ Niめっきの20体積%
【0045】
「カップ型研削砥石」(図1参照)
砥石外径 :50mmφ
チップ穴
幅厚A :2mm(公差:+0.03〜0mm)
長手方向の長さB :15mm(公差:+0.03〜0mm)
砥石チップの駆動機構:バネ
【0046】
上記のカップ型研削砥石において、保護層であるNiめっきの厚みを変化させた砥石チップを使用し、以下の条件で被削材の研削試験を行い、砥石チップの寿命を評価した。砥石チップの寿命は、砥石チップの砥粒部が摩耗して基台が露出し、被削材に大きなキズができるまでに研削できた被削材の個数で判断した。なお、Niめっきの厚みは電子顕微鏡観察により求めた。また、研削試験後のチップ穴壁面の摩耗状態を拡大鏡を用いて評価した。
【0047】
「研削試験条件」
加工方式:平面研削
砥石周速:1800m/min
砥石全体での切り込み荷重:2kgf
被削材:石英ガラス (63.5mmφ、厚さ:1.0mm)
研削液:水溶性
【0048】
保護層側面の厚みと、砥石チップの寿命およびチップ穴壁面の摩耗状態との関係を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
砥石チップの砥石寿命は、保護層側面の厚みが29.4μmまでは、Niめっきを行っていない砥石チップ(表1の保護層(側面):0μm)とほぼ同一であった。保護層側面の厚みが29.4μmより大きくなると砥石寿命が若干短くなるものの厚みが98.6μmまでは、Niめっきを行っていない砥石チップの砥石寿命の90%以上の値であった。一方、保護層側面の厚みが98.6μmより大きくなると、砥石寿命が大きく減少し、その砥石寿命は、Niめっきを行っていない砥石チップの砥石寿命に対する割合として、厚みが314μmでは64%、厚みが497μmでは36%であった。
【0051】
研削試験後のチップ穴壁面を観察すると、Niめっきを行っていない砥石チップを使用したカップ型研削砥石のチップ穴では、チップ穴壁面は激しく摩耗し、多数のキズが見つかった。Niめっきの保護層を形成した砥石チップを使用した場合においても、Niめっきの厚みが2.6および3.7μmの砥石チップの場合には、チップ穴壁面に摩耗痕が観察された。一方、Niめっき(保護層側面)の厚みが4.8μm以上の砥石チップにおいてはチップ穴壁面に摩耗痕が観察されなかった。
【0052】
実施例2:内面研削仕上げ加工用のホーニング砥石
以下に使用したホーニング砥石に使用した砥石チップの詳細を示す。(符号は図5を参照)
「砥石チップ」
基台(材質:Cu−Sn系合金)
幅厚a :1.6mm
長手方向の長さb :40mm
高さc1 :1.8mm
高さc2 :0.8mm
平面部の長手方向長さb1 :39mm
支持部の半径b2 :0.8mm
テーパー角度α:1.5°

砥粒部
幅厚a’ :1.6mm
長手方向の長さb1 :38.4mm
高さd :1.2mm
砥粒 :CBN(#140)砥粒部の12.5体積%
結合材:Cu−Sn系合金
保護層の厚み:側面 3〜200μm (Niめっき(作製方法:無電解めっき))
固体潤滑剤:フッ素樹脂(平均粒径:0.8μm)
Niめっきの20体積%
【0053】
「マンドレル」
チップ穴:幅厚 :1.6mm(公差:0.05〜0mm)
長手方向の長さ :40mm(公差:0.05〜0mm)
砥石チップの駆動機構:テーパーを利用した押し出し方式
【0054】
上記のホーニング砥石において、保護層であるNiめっきの厚みを変化させた砥石チップを使用し、以下の条件で被削材の研削試験を行い、砥石チップの寿命を評価した。砥石チップの寿命は、砥石チップの砥粒部が摩耗して基台が露出し、被削材に大きなキズができるまでに研削できた被削材の個数で判断した。なお、Niめっきの厚みは電子顕微鏡観察により求めた。また、拡大鏡を用いて、研削試験後のチップ穴壁面の摩耗状態を評価した。
【0055】
「研削試験条件」
加工方式:ホーニング加工
砥石周速:95m/min
切り込み速度:1.0μm/s
被削材:SCM440 HRC60
(内径:φ8mm、外径:φ14mm、長さ80mm)
研削液:油性
【0056】
Niめっきの厚みと、砥石チップの寿命およびチップ穴壁面の摩耗状態との関係を表2に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
Niめっきの保護層を形成した砥石チップの砥石寿命は、Niめっきの膜厚が25μmまでは、Niめっきを行っていない砥石チップ(表1のNiめっき厚:0μm)とほぼ同一であった。膜厚が25μmより大きくなると砥石寿命が若干短くなるものの膜厚が100μmまでは、Niめっきを行っていない砥石チップの砥石寿命の90%以上の値であった。一方、膜厚が100μmより大きくなると、砥石寿命が大きく減少し、その砥石寿命は、Niめっきを行っていない砥石チップの砥石寿命に対する割合として、膜厚が150μmでは66%、膜厚が200μmでは49%であった。
【0059】
研削試験後のチップ穴壁面を観察すると、Niめっきを行っていない砥石チップを使用した穴では、チップ穴壁面は激しく摩耗し、多数のキズが見つかった。Niめっきの保護膜を形成した砥石チップを使用した場合においても、膜厚が2.5μmの砥石チップの場合には、チップ穴壁面に摩耗痕が観察された。一方、膜厚が5μm以上の砥石チップにおいてはチップ穴壁面に摩耗痕が観察されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の砥石チップを使用した研削砥石は、微小な加工圧力が制御可能な研削砥石として、カップ型砥石、内面研削仕上げ加工用ホーニング砥石など幅広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係るカップ型研削砥石の平面図、(b)は、そのA−A断面図である。
【図2】(a)は本発明の第1実施形態に係る砥石チップの斜視図、(b)は該砥石チップの平面図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係るカップ型研削砥石における砥石チップとその近傍の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係るホーニング砥石の斜視図である。
【図5】(a)は本発明の第2実施形態に係る砥石チップの平面図、(b)は該砥石チップのA−A断面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るホーニング砥石における砥石チップとその近傍の部分拡大図であり、(a)は砥石チップが収容された状態、(b)は砥石チップが突出した状態を示す図である。
【図7】従来の砥石チップとその近傍の部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0062】
1 カップ型研削砥石
2 台金
2a 中心部
3 研削部
4 チップ穴
5 砥石チップ
6 駆動機構
7 基台
8 砥粒部
8a 側面
8b 長手方向端面
8c 前表面
9 砥粒
9a 突出した砥粒
10 結合材
11,11a,11b 保護層
20 ホーニング砥石
21 マンドレル
21a 貫通孔
21b チップ穴
22 砥石拡張ロッド
23 砥石チップ
24 基台
24a テーパー面
24b 平坦部
24c 支持部
25 砥粒部
25a 前表面
26 保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削砥石の台金に設けられたチップ穴に、作用面に垂直な方向に摺動可能に嵌合される、砥粒を結合材で固着した砥粒部と、前記砥粒部が固着された基台とからなる砥石チップであって、
前記砥粒部における前記チップ穴との当接面全体に前記砥粒部の砥粒を露出させず、かつ、前記砥粒部より摺動抵抗が低い層(以下、「保護層」と称す。)を設けたことを特徴とする砥石チップ。
【請求項2】
前記保護層が、金属層であることを特徴とする請求項1記載の砥石チップ。
【請求項3】
前記保護層の厚みが、5〜1500μmであることを特徴とする請求項1または2記載の砥石チップ。
【請求項4】
前記金属層が、金属めっきであることを特徴とする請求項2記載の砥石チップ。
【請求項5】
前記金属めっきの厚みが、5〜1500μmであることを特徴とする請求項4記載の砥石チップ。
【請求項6】
前記基台には、作用面に平行な平坦部と、基台両端部に位置し作用面に垂直な対向する支持部とからなるコの字型構造の砥粒部固着部が設けられ、
この砥粒部固着部に、四角柱状の前記砥粒部が、その長手方向端面が前記対向する支持部間に嵌合するように固着され、
前記砥粒部の側面および基台側面には、金属めっきからなる保護層が形成されていることを特徴とする請求項4または5記載の砥石チップ。
【請求項7】
前記保護層が、固体潤滑剤を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の砥石チップ。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の砥石チップと、前記砥石チップを作用面に垂直な方向に駆動して、前記チップ穴から突没させる駆動機構とからなる研削部を備えた研削砥石。
【請求項9】
前記駆動機構は、テーパーを利用した押し出し方式である請求項8記載の研削砥石。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−279742(P2009−279742A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137187(P2008−137187)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(000111410)株式会社ノリタケスーパーアブレーシブ (73)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】