説明

破壊用カートリッジおよび破壊装置、並びに、破壊方法

【課題】破壊装置において、低電圧にて高い破壊力を得る。
【解決手段】破壊用カートリッジ2は、略円筒状の破壊容器21、破壊容器21内に充填された破壊用物質22、破壊容器21内に収容された一対の導線23、および、一対の導線23の先端部231に接続された1本の金属細線24を備える。導線23および金属細線24は破壊容器21内にて破壊用物質22の内部に位置する。破壊用物質22はニトロメタンであり、金属細線24はタングステンにより形成される。放電衝撃破壊装置では、金属細線24が、銅線に比べて抵抗が大きいため発熱量が大きく、かつ、気化時の温度が高いことから、銅線が利用される破壊装置に比べて低電圧にてより高い破壊力を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被破壊物を破壊する破壊装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、コンクリート構造物や岩石等の被破壊物を破壊する方法として、火薬ではない破壊用物質の爆発による衝撃力を利用するものが知られている。例えば、特許文献1に開示される破壊装置は、銅にて形成された金属細線、金属細線により先端同士が接続された一対の電極、破壊用物質であるニトロメタン、および、これらが内部に収容される破壊容器を備える。破壊装置により被破壊物が破壊される際には、破壊容器を被破壊物に形成された装着孔に挿入し、金属細線に充電エネルギーを短時間にて供給することによりニトロメタンを爆発させる。破壊装置では、金属細線が溶融気化する際の膨張力およびニトロメタンの爆発力により被破壊物が破壊される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3672443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示される破壊装置では、電極に接続された金属細線として銅線が利用されるが、この金属細線を溶融気化するためには、電極に付加される電圧は通常3000Vを超え、電流は5000A以上とする必要があり、高電圧かつ大電流となってしまう。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、銅の金属細線を有する破壊装置に比べて、低電圧にてより高い破壊力を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、被破壊物を破壊する破壊装置において使用される破壊用カートリッジであって、自己反応性を有する破壊用物質と、前記破壊用物質を収容する容器と、前記破壊用物質内に配置されるタングステン細線と、前記タングステン細線の両端に先端が接続され、他端が前記容器外にて電源装置に接続される一対の導線とを備える。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の破壊用カートリッジであって、前記タングステン細線が、1本の金属細線、または、捩り合わされた2本もしくは3本の金属細線である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の破壊用カートリッジであって、前記タングステン細線の長さが、10mm以上120mm以下であり、断面積が、0.03mm以上0.13mm以下である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の破壊用カートリッジであって、前記破壊用物質が、ニトロメタンである。
【0010】
請求項5に記載の発明は、被破壊物を破壊する破壊装置であって、請求項1ないし4のいずれかに記載の破壊用カートリッジと、前記一対の導線に接続されるコンデンサと、前記コンデンサに電気エネルギーを供給する電源部と、前記一対の導線を介して前記コンデンサに蓄積された電気エネルギーにより前記タングステン細線への放電を行う放電スイッチとを備える。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の破壊装置であって、前記タングステン細線への放電電圧が、1500V以上3000V以下である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項5または6に記載の破壊装置であって、前記コンデンサの静電容量が、100μF以上1000μF以下である。
【0013】
請求項8に記載の発明は、被破壊物を破壊する破壊方法であって、a)自己反応性を有する破壊用物質を、被破壊物に形成された凹部内に収容し、一対の導線に両端が接続されたタングステン細線を前記破壊用物質内に位置させる工程と、b)前記一対の導線に電気エネルギーを供給して前記タングステン細線を溶融気化させ、前記破壊用物質により生じる衝撃力により前記被破壊物を破壊する工程とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、低電圧にてより高い破壊力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】破壊用カートリッジを示す図である。
【図2】電極近傍を拡大して示す図である。
【図3】放電衝撃破壊装置の構成を示す図である。
【図4】被破壊物の破壊の流れを示す図である。
【図5】破壊された被破壊物を示す図である。
【図6】破壊された被破壊物を示す図である。
【図7】2種類の金属細線と破砕片の表面積との関係を示す図である。
【図8】放電電圧と破砕片の表面積との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係る破壊用カートリッジ2を示す図である。破壊用カートリッジ2(以下、単に「カートリッジ2」という。)はコンクリート構造物、鉄筋コンクリート構造物、岩石、岩盤等の被破壊物の破壊に使用される。
【0017】
カートリッジ2は、プラスチック等により形成された略円筒状の破壊容器21、破壊容器21内に収容された破壊用物質22、破壊容器21内に挿入された一対の導線23、および、一対の導線23の先端部231に接続された1本の金属細線24を備える。導線23および金属細線24は破壊容器21内にて破壊用物質22内に位置し、導線23は絶縁チューブ25により覆われる。破壊容器21は、上部に開口を有する容器本体211、および、容器本体211の開口を閉塞して容器本体211を密閉する蓋部212を備える。
【0018】
導線23は、破壊容器21の蓋部212を貫通し、蓋部212により容器本体211内における位置が固定される。図2は、導線23の先端部231の断面図である。先端部231では、圧着端子である圧着スリーブ232のカシメにより金属細線24の端部が導線23に固定される。
【0019】
破壊用物質22は、火薬ではない自己反応性を有する物質であり、例えば、無酸素環境下または低酸素環境下にて燃焼可能な物質である。本実施の形態では、液体のニトロメタンが使用される。金属細線24はタングステンにより形成され、太さが導線23よりも十分に小さい。金属細線24の長さは30mmであり、直径は0.3mm(すなわち、断面積が0.07mm)である。
【0020】
カートリッジ2の組み立てが行われる際には、まず、図1の導線23に破壊容器21の蓋部212が取りつけられ、金属細線24の端部が、図2に示す導線23の先端部231と圧着スリーブ232との間にカシメにより固定される。
【0021】
図1に示す容器本体211内には、破壊用物質22が充填され、蓋部212が容器本体211に取りつけられることにより、導線23および金属細線24が破壊用物質22内に位置する。破壊用物質22の量は25mlとされる。なお、破壊用物質22の量は、最小限の破壊力を得るために好ましくは2ml(ミリリットル)以上とされ、未反応液が残らないように好ましくは50ml以下とされる。
【0022】
図3は放電衝撃破壊装置1を示す図である。放電衝撃破壊装置1は、カートリッジ2、配線3を介して導線23に接続されるコンデンサ4、配線5を介してコンデンサ4に接続される電源部6、並びに、配線3および配線5のそれぞれに設けられた放電スイッチ31および充電スイッチ51を備える。放電衝撃破壊装置1では、コンデンサ4、電源部6、、配線3,5、並びに、放電スイッチ31および充電スイッチ51により、カートリッジ2に電気エネルギーを供給する電源装置が構成される。電源部6は直流電源であり、コンデンサ4の静電容量は、好ましくは、100μF以上1000μF以下とされる。
【0023】
図4は、放電衝撃破壊装置1による被破壊物の破壊の流れを示す図である。なお、図4のステップS10は、破壊作業の前に行われるカートリッジ2の既述の組み立て作業を示している。放電衝撃破壊装置1により破壊が行われる際には、まず、図3に示すように、ドリル等により被破壊物9に凹部91が形成される(ステップS11)。凹部91の深さ方向に垂直な断面は略円形である。なお、図3では、図の理解を容易にするために被破壊物9を断面にて描いている。
【0024】
次に、導線23の先端部231とは反対側の端部が破壊容器21外にて配線3に接続され、カートリッジ2が被破壊物9の凹部91内に挿入される(ステップS12)。凹部91では、カートリッジ2の上方から砂等が充填されて突き固められる、いわゆる、タンピングが行われる。放電衝撃破壊装置1では、放電スイッチ31がOFFの状態で充電スイッチ51をONとすることにより、電源部6から配線5を介してコンデンサ4に電気エネルギーが供給される。
【0025】
その後、充電スイッチ51をOFFにするとともに放電スイッチ31をONにすることにより、コンデンサ4に蓄積された電気エネルギーが、導線23を介して金属細線24へと放電される。瞬間的な高電圧および大電流により、金属細線24は瞬時に溶融気化して数千度の金属ガスとなり、コンデンサ4からの電気エネルギーが当該金属ガスにさらに供給されることによりプラズマが発生する。
【0026】
金属細線24の溶融気化およびプラズマ化により発生する高温・高圧により、プラズマの周囲にて破壊用物質22の燃焼反応が開始され、燃焼反応が破壊容器21内において破壊用物質22を伝播して拡がる。放電衝撃破壊装置1では、破壊用物質22の燃焼の際の膨張により生じる衝撃力(すなわち、放電衝撃力)により被破壊物9が破壊される(ステップS13)。
【0027】
図5は、放電衝撃破壊装置1により破壊された実験用のコンクリート物を示す図である。放電衝撃破壊装置1では、金属細線24に対して1500Vの放電電圧が付加され、2500Aの電流が流される。図6は、比較例に係る破壊装置により破壊されたコンクリート物を示す図である。比較例に係る破壊装置では、金属細線として銅線が使用され、金属細線への放電電圧は4000Vである。他の構造および他の破壊条件は放電衝撃破壊装置1と同様である。
【0028】
図5および図6に示すように、コンクリート物は、放電衝撃破壊装置1により、より細かく破砕される。図7は、図5および図6に示すコンクリート物における多数の破砕片の表面積の総和を示す図である。図7では、多数の破砕片を複数段に分級し、各段において単位重量当たりの表面積に破砕片の重量を乗じて表面積を求めることにより、各段の表面積の和が多数の破砕片の表面積の総和として算出される。
【0029】
図7に示すように、放電衝撃破壊装置1による破壊にて発生した破砕片の表面積の総和は、比較例に係る破壊装置の場合と比べておよそ4倍となっている。一方、タングステンの抵抗率は5(3000Kで123)μΩ・cm、気化点は5828であり、銅の抵抗率は1.55μΩ・cm、気化点は2840Kであり、タングステンの金属細線24は、銅線に比べて抵抗が大きく(すなわち、発熱量が大きく)、かつ、気化時の温度が高い。このため、放電衝撃破壊装置1では、放電電圧が1500Vであっても、放電電圧が4000Vである比較例の破壊装置と比べて、大きな衝撃力を発生する。
【0030】
図8は、放電衝撃破壊装置1における複数の放電電圧と破砕片の表面積の総和との関係を示す図である。図8に示すように、放電電圧が0Vから1500Vに増加すると、破砕片の表面積が増加し、衝撃力が急激に増加することが判る。放電電圧が1500V以上の範囲では、破砕片の表面積がおよそ一定となる。このように、放電電圧を1500V以上とすることにより破壊用物質22による衝撃力が十分に発揮されることが判る。
【0031】
以上に説明したように、放電衝撃破壊装置1では、銅線が利用される従来の破壊装置の3000Vを超える放電電圧に比べて、1500V以上3000V以下(より好ましくは、銅線の場合には通常利用されない1500V以上2000V以下)の低電圧であっても高い衝撃力が確保される。放電電圧を低電圧とすることにより、コンデンサ4等の放電衝撃破壊装置1を構成する部品の選択の自由度が向上し、放電衝撃破壊装置1のコストダウンが可能となる。カートリッジ2では、金属細線24が圧着スリーブ232に挟み込まれて導線23に固定されるため、カートリッジ2の組み立てが容易となる。また、圧着スリーブ232は、金属細線24が溶融気化するまで破損しないため、破壊の信頼性を向上することができる。
【0032】
金属細線24の長さは、好ましくは10mm以上120mm以下とされ、さらに好ましくは20mm以上80mm以下とされる。金属細線24の断面の直径は、好ましくは0.2mm以上0.4mm以下(すなわち、断面積が0.03mm以上0.13mm以下)とされる。これにより、金属細線24を過度に太くすることなく、剛性が確保される。その結果、同程度の長さおよび断面積の銅線に比べて金属細線24の取り扱いが容易となる。
【0033】
また、金属細線24の長さおよび直径を上記範囲とし、放電電圧を1500V以上3000V以下としつつ金属細線24に十分な電流を流すことにより、金属細線24を確実に溶融気化させることができる。
【0034】
カートリッジ2では、1本の金属細線24に代えて複数本(好ましくは、2本または3本)の細い金属細線が捩り合わされたものが利用されてもよい。この場合、金属細線の長さ、および、複数本の金属細線の断面積の和は、1本の金属細線24の場合と同じ範囲内とされる。
【0035】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。例えば、破壊用物質22は、自己反応性を有する物質であれば、ニトロメタンには限定されず、液体にも限定されない。例えば、ニトロメタンを含有するアルコール類、硝酸アンモニウムとアルコールや油類との混合物が破壊用物質として使用されてもよい。
【0036】
また、上述の破壊方法では、必ずしも破壊容器21が使用される必要はない。破壊容器21を使用しない場合は、ステップS12に代えて、被破壊物9に形成された凹部91内に破壊用物質22を直接収容する工程、導線23に両端が接続された金属細線24を凹部91内の破壊用物質22の内部に位置させる工程、並びに、凹部91を密閉する工程がこの順序にて行われる。
【0037】
上記実施の形態では、被破壊物9に形成される凹部は溝状であってもよい。また、上述の放電衝撃破壊装置1は、例えば、トンネルにおける仕上げ破壊作業やコンクリート構造物の解体作業、水中における破壊作業、その他、発破作業が制限される破壊や解体作業に特に適している。
【符号の説明】
【0038】
1 放電衝撃破壊装置
2 カートリッジ
3 配線
4 コンデンサ
6 電源部
9 被破壊物
21 破壊容器
22 破壊用物質
23 電極
24 金属細線
31 放電スイッチ
91 凹部
S10〜S13 ステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被破壊物を破壊する破壊装置において使用される破壊用カートリッジであって、
自己反応性を有する破壊用物質と、
前記破壊用物質を収容する容器と、
前記破壊用物質内に配置されるタングステン細線と、
前記タングステン細線の両端に先端が接続され、他端が前記容器外にて電源装置に接続される一対の導線と、
を備えることを特徴とする破壊用カートリッジ。
【請求項2】
請求項1に記載の破壊用カートリッジであって、
前記タングステン細線が、1本の金属細線、または、捩り合わされた2本もしくは3本の金属細線であることを特徴とする破壊用カートリッジ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の破壊用カートリッジであって、
前記タングステン細線の長さが、10mm以上120mm以下であり、断面積が、0.03mm以上0.13mm以下であることを特徴とする破壊用カートリッジ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の破壊用カートリッジであって、
前記破壊用物質が、ニトロメタンであることを特徴とする破壊用カートリッジ。
【請求項5】
被破壊物を破壊する破壊装置であって、
請求項1ないし4のいずれかに記載の破壊用カートリッジと、
前記一対の導線に接続されるコンデンサと、
前記コンデンサに電気エネルギーを供給する電源部と、
前記一対の導線を介して前記コンデンサに蓄積された電気エネルギーにより前記タングステン細線への放電を行う放電スイッチと、
を備えることを特徴とする破壊装置。
【請求項6】
請求項5に記載の破壊装置であって、
前記タングステン細線への放電電圧が、1500V以上3000V以下であることを特徴とする破壊装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載の破壊装置であって、
前記コンデンサの静電容量が、100μF以上1000μF以下であることを特徴とする破壊装置。
【請求項8】
被破壊物を破壊する破壊方法であって、
a)自己反応性を有する破壊用物質を、被破壊物に形成された凹部内に収容し、一対の導線に両端が接続されたタングステン細線を前記破壊用物質内に位置させる工程と、
b)前記一対の導線に電気エネルギーを供給して前記タングステン細線を溶融気化させ、前記破壊用物質により生じる衝撃力により前記被破壊物を破壊する工程と、
を備えることを特徴とする破壊方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−69143(P2011−69143A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222082(P2009−222082)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】