説明

破損予知機能を備えた転がり案内装置

【課題】
転動体の循環に伴って蓋体に生じる破損前の変形を確実に検知し、かかる蓋体の破損に起因する移動部材の走行不能を予知することが可能な転がり案内装置を提供する。
【解決手段】
軌道部材と、この軌道部材を転走する多数の転動体によって当該軌道部材に対して移動自在に支持される移動部材と、この移動部材の移動方向の両端に固定されて前記転動体の無限循環路の一部をなす一対の蓋体とを備えた転がり案内装置において、前記蓋体を前記移動部材との間に挟み込んで当該蓋体の変形を規制する蓋体拘束プレートを設け、この蓋体拘束プレートには前記蓋体との当接面の一部に測定用空間を形成し、測定用空間に対する前記蓋体の膨出を検知する変形検出センサを前記蓋体拘束プレートに装着した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無限循環する多数の転動体を介して移動部材が軌道部材に組み付けられた転がり案内装置に係り、詳細には、前記移動部材に一対の蓋体を装着して転動体の循環路を構成した転がり案内装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械のワークテーブルや各種搬送装置の直線案内部又は曲線案内部に使用される転がり案内装置が知られている。この種の転がり案内装置は、軌道部材と、この軌道部材を転走する多数の転動体と、これら転動体を介して前記軌道部材に組みつけられる移動部材とから構成されており、前記転動体が移動部材と軌道部材との間で荷重を負荷しながら転走することにより、移動部材に固定したテーブル等の可動体を軌道部材に沿って極僅かな抵抗で軽く運動させることが可能となっている。
【0003】
前記移動部材が軌道部材に沿って制限なく移動することを可能とするため、かかる移動部材の移動方向の両端には一対の蓋体が装着され、転動体の無限循環路が形成されている。前記移動部材には、軌道部材との間で転動体が荷重を負荷しながら転走する負荷転走面が形成され、かかる負荷転走面と軌道部材との間に転動体の負荷通路が構成される一方、この負荷通路と平行に転動体戻し通路が設けられている。かかる移動部材は転動体の転走に対する経時的な摩耗を抑えるべく、例えば焼入れが可能な鋼から形成されている。また、前記移動部材の両端に装着される蓋体には転動体の方向転換路が形成されており、かかる方向転換路は移動部材の負荷通路と転動体戻し通路を繋ぐ略U字状に形成されている。この蓋体は複雑な形状を実現するために合成樹脂の射出成形で形成されているのが一般的である。そして、一対の蓋体を移動部材の両端面に対して固定することにより、転動体の無限循環路が完成する。
【0004】
この種の転がり案内装置では、前記移動部材が軌道部材に沿って移動すると、前記転動体が高速で無限循環路内を転走する。このとき、転動体は前記方向転換路においてその転走方向を180°反転させていることから、かかる方向転換路が形成された蓋体に対しては転動体から繰り返し力が作用しており、蓋体は転がり案内装置の経時的な使用によって疲労していくことになる。
【0005】
蓋体そのものは軌道部材に対する移動部材の走行距離が所定値に達するまでは破損しないようにその強度を確保して製作されているが、例えば転動体の潤滑不良や軌道部材の表面でのフレーキング発生等の理由により、蓋体が予想を超えて早期に疲労し、意図せずして破損してしまう場合がある。すなわち、フレーキングの発生等に起因して無限循環路内における転動体の循環状態が悪化してくると、無限循環路内において転動体が一時的に詰まる現象が発生し、瞬間的に大きな力が蓋体に作用して当該蓋体が変形し、これが繰り返されることによって蓋体が早期に疲労してしまうのである。
【0006】
仮に、蓋体が破損して方向転換路が開放されてしまうと、転動体が無限循環路から外部に飛び出してしまい、移動部材は軌道部材上を走行することが不能となってしまうことから、これを使用する工作機械や搬送装置などもその稼働を停止せざるを得ない状況となる。従って、前記蓋体に対して重大な破損が生じる前にその前兆を検知することができれば、計画的に転がり案内装置の保守管理を行うことが可能となり、工作機械等の稼働停止時間を最小限に抑えることができる。
【0007】
このような観点を開示した文献としては特開2005−42785(特許文献1)が存在する。特許文献1では、転がり案内装置の蓋体の変形を歪ゲージ等の検出手段で検出し、その検出結果を用いて当該蓋体の破損を予知又は検知することが述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−42785
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1では蓋体に対してクラックゲージ又は歪ゲージ等の検出手段を直接貼り付けて当該蓋体の変形を検出しようと試みているが、単に検出手段を貼り付けただけでは当該蓋体の破損そのものは検出できるが、僅かな変形を検出することは実質的に困難であり、蓋体の破損可能性を事前に予知することはできなかった。また、蓋体そのものの形状も複雑なことから、検出手段を蓋体に対して直接貼付することも難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、転動体の循環に伴って蓋体に生じる破損前の変形を確実に検知し、かかる蓋体の破損に起因する移動部材の走行不能を予知することが可能な転がり案内装置を提供することにある。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の転がり案内装置は、軌道部材と、この軌道部材を転走する多数の転動体によって当該軌道部材に対して移動自在に支持される移動部材と、この移動部材の移動方向の両端に固定されて前記転動体の無限循環路の一部をなす一対の蓋体と、この蓋体を前記移動部材との間に挟み込んで当該蓋体の変形を規制すると共に、かかる蓋体との当接面の一部に測定用空間を形成する蓋体拘束プレートと、この蓋体拘束プレートに装着されると共に前記測定用空間に対する前記蓋体の膨出を検知する変形検出センサと、を備えている。
【発明の効果】
【0012】
以上のように構成された本発明の転がり案内装置によれば、前記蓋体拘束プレートが移動部材との間に蓋体を挟み込んでいるので、かかる蓋体拘束プレートが蓋体の補強板として作用し、当該蓋体の変形が規制されると共に蓋体の意図しない突然の破損が防止される。その一方、前記蓋体拘束プレートは蓋体との当接面の一部に測定用空間を形成しているので、転動体の循環に伴った蓋体の変形は蓋体拘束プレートとの当接面においては抑えられるが、前記測定用空間の対応部位においては顕著に生じることになる。従って、前記蓋体拘束プレートに対して変形検出センサを装着し、かかる変形検出センサによって測定用空間に対する蓋体の膨出を検知するように構成すれば、変形検出センサの出力信号をチェックすることで破損以前の段階における蓋体の変形を検知し、蓋体の破損を予知することが可能となる。
【0013】
また、前記蓋体拘束プレートを変形検出センサの取付けプレートとして利用しているので、複雑な形状の蓋体に対して容易に検出手段であるセンサを装着することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の転がり案内装置の実施形態の一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す転がり案内装置の正面図である。
【図3】図1に示す転がり案内装置におけるボールの無限循環路を示す断面図である。
【図4】図1に示す転がり案内装置の分解斜視図である。
【図5】図1に示す転がり案内装置の腰部を示す分解平面図である。
【図6】本発明の転がり案内装置の他の実施形態を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を用いながら本発明の破損予知機能を備えた転がり案内装置を詳細に説明する。
【0016】
図1及び図2は、本発明を適用して破損予知機能を具備させた転がり案内装置の一例を示すものであり、図1は斜視図、図2は正面図である。この転がり案内装置1は一般にリニアガイドと称され、各種機械装置におけるベッド等の固定部に敷設される軌道レール2と、この軌道レール1に対して転動体としての多数のボールを介して移動自在に支持された移動ブロック3と、この移動ブロック3の移動方向の両端に固定されて前記ボールの無限循環路を構築する一対の蓋体4とを備えている。前記移動ブロック3に対して各種の搬送対象物を搭載することで、かかる搬送対象物を軌道レール2に沿って往復運動自在に案内することが可能となっている。
【0017】
すなわち、本発明の軌道部材は前記軌道レール2に、移動部材は前記移動ブロック3に相当する。本発明が適用可能な転がり案内装置はこのリニアガイドに限られるものではなく、一対の蓋体を移動部材に対して固定することにより転動体の無限循環路を構築しているものであれば、例えば、スプライン軸に対して円筒状のスプラインナットがくみ付けられたボールスプライン装置や、ねじ軸に対して円筒状のボールねじナットが螺合したボールねじ装置に対しても本発明を適用することが可能である。また、前記軌道部材と移動部材との間に介在する転動体はボールに限られるものではなく、ローラであっても差し支えない。
【0018】
また、各蓋体4の外側には本発明の重要な構成である蓋体拘束プレート5が固定されると共に、この蓋体拘束プレート5には当該リニアガイドの経時的な使用によって生じる可能性のある蓋体4の変形を検出するセンサ6が装着されている。これら蓋体拘束プレート5及び変形検出センサ6の詳細については後述する。
【0019】
前記軌道レール2は略断面四角形状の長尺体に形成されている。この軌道レール2には長手方向に沿って所定の間隔で上面から底面に貫通するボルト取付け孔20が形成されており、このボルト取付け孔20に挿入した固定ボルトを用いて、軌道レール2をベッド、コラム等の固定部に対して強固に固定することができるようになっている。また、この軌道レール2の左右両側面には長手方向に沿って突部21がそれぞれ設けられている。各突部21の上下方向にはボール転走面22が1条ずつ設けられ、軌道レール全体として4条のボール転走面22が設けられている。
【0020】
一方、前記軌道レール2の長手方向からリニアガイドを観察した図2に示されるように、前記移動ブロック3は、軌道レール2の上面に対向する横ウェブ3aと、軌道レール2の両側面に対向する一対のスカート部3bを有して略チャネル状に形成されており、一対のスカート部3bの間に前記軌道レール2の上半分が収容されている。また、前記横ウェブ3aの両端には当該横ウェブ3aに対して搬送対象物を固定するための一対の取付け部3cが張り出しており、各取付け部3cには取付けボルトの螺合する雌ねじ孔30が設けられている。この移動ブロック3は焼き入れ可能な鋼から形成されている。
【0021】
図3は前記移動ブロック3及び一対の蓋体4によって構築されたボール7の無限循環路70を示す断面図である。前記移動ブロック3には軌道レール2の各ボール転走面22と対向する負荷転走面31が設けられており、ボール転走面22と負荷転走面31とが対向することにより、ボール7が移動ブロック3に作用する荷重を負荷しながら転走する負荷ボール通路32が構成されている。前記負荷転走面31は軌道レール2のボール転走面22と一対一で対応していることから、各スカート部3bの内側面には負荷転走面31が2条ずつ設けられ、これによって前記移動ブロック3には4条の負荷ボール通路32が設けられている。また、前記移動ブロック3の各スカート部3bには各負荷ボール通路32に対応して当該負荷ボール通路32と略平行に転動体戻し通路としてのボール戻し通路33が設けられている。このボール戻し通路33の内径は、ボール7の直径よりも僅かに大きく設定されており、前記ボール7は荷重から開放された状態でこのボール戻し通路33内を転走する。
【0022】
更に、前記移動ブロック3の両端面に固定される蓋体4には、前記負荷ボール通路32とボール戻し通路33とを連結する略U字状の方向転換路40が設けられており、ボール5を負荷ボール通路32とボール戻し通路33との間で往来させることが可能になっている。本実施形態の転がり案内装置では、一つの蓋体4に対して4条の方向転換路40が設けられている。これら方向転換路40は前記移動ブロック3の各スカート部3bに設けられたボール戻し通路33と軌道レール2の各ボール転走面22を接続するように設けられることから、この転がり案内装置1を正面から観察した場合には、図2中に一点鎖線で示す位置に方向転換路40が存在することになる。
【0023】
この蓋体4は方向転換路40を含む複雑な形状を容易に実現するため、合成樹脂の射出成形によって製作されている。経時的な使用に伴う変形を回避するという観点からは、金属材料から製作することも考慮し得るが、金属材料から製作した場合には、変形等の予兆が生じることなく突然に蓋体が割れや欠けを生じる懸念がある。
【0024】
前記蓋体4を前記移動ブロック3の往復移動方向の両端に装着することにより、該移動ブロック3に形成された負荷ボール通路32及びボール戻し通路33が前記方向転換路44によって連結され、ボール7の無限循環路70が完成する。この無限循環路70内において、前記負荷ボール通路32で荷重を負荷しながら転走してきたボール7は、前記移動ブロック3の軌道レール2の長手方向に沿った移動に伴って前記負荷ボール通路32を転走し終えると、荷重から開放されて一方の蓋体4の方向転換路40に入り込んでその転走方向を反転させた後、無負荷状態でボール戻し通路33内を転走することになる。その一方で、前記ボール戻し通路33内を転走し終えたボール7は、他方の蓋体4の方向転換路40を介して再度軌道レール2と移動ブロック3との間に入り込み、荷重を負荷しながら前記負荷ボール通路32内を転走することになる。
【0025】
尚、この例では前記無限循環路70に対してボール7のみを配列したが、ボール同士の接触を防止するスペーサをボールとボールとの間に配列しても差し支えない。また、各スペーサ同士を連結して可撓性のボール連結体ベルトを構成し、かかるボール連結体ベルトがボール7と一体となって無限循環路70内を循環するように構成しても良い。
【0026】
一方、図4は図1に示す転がり案内装置1の分解斜視図であり、また、図5は前記移動ブロックに対する前記蓋体4、前記蓋体拘束プレート5及び変形検出センサ6の取付け状態を示す分解平面図である。
【0027】
先ず、前記移動ブロック3の移動方向における端面には前記蓋体4が固定されている。移動ブロック3に対する蓋体4の固定は2本の固定ボルト41を用いて行われ、これら固定ボルト41は前記移動ブロック3の横ウェブ3aに対して締結される。図4では固定ボルト41の頭部が蓋体4から突出しているが、これら固定ボルト41は六角孔付きボルトであり、締結時にはその頭部が蓋体4に没入するようになっている。
【0028】
前記蓋体4の外側には前述した蓋体拘束プレート5が固定されている。この蓋体拘束プレート5は、前記蓋体4に重ね合わされると共に前記変形検出センサ6が装着されるセンサプレート50と、このセンサプレート50を外側から覆うカバープレート51とから構成されている。前記センサプレート50は軌道レールの長手方向から観察した場合に前記蓋体4と重なり合う形状に形成されており、蓋体4を貫通する2本の固定ボルト52を用いて前記移動ブロック3に対して固定される。これら2本の固定ボルト52は移動ブロック3の各スカート部3bに対して締結される。
【0029】
固定ボルト52を締結してセンサプレート50を移動ブロック3に固定すると、かかるセンサプレート50は移動ブロック3に対して引きつけられ、前記蓋体4は当該センサプレート50と移動ブロック3との間に挟み込まれた状態となる。センサプレート50は固定ボルト52の締結力による変形を防止するため、厚みのある金属プレートから形成されている。このため、固定ボルト52を締結すると、かかるセンサプレート50が蓋体4に密着し、蓋体4がセンサプレート50と移動ブロック3との間に挟み込まれて、当該蓋体4はその変形が防止されるようになっている。
【0030】
一方、前記センサプレート50には蓋体4に具備された4箇所の方向転換路40の夫々に対応して4つの測定孔53が貫通形成されている。この測定孔53は本発明の測定用空間に相当するものであり、前記変形検出センサ6の取付け孔を兼ねている。この測定孔53の内周面には雌ねじが形成されており、前記変形検出センサ6は当該雌ねじを利用してセンサプレート50に固定される。
【0031】
前記センサプレート50に対する測定孔53の形成位置、すなわちセンサプレート50に対する前記変位検出センサ6の取付け位置は、ボール7の継続的な循環に伴って蓋体4の変形が予想される位置に対応していれば良い。この実施形態では、図2に示すように、蓋体4に具備された各方向転換路40と重なる位置に設定されている。これらの位置においては、無限循環路70内におけるボール7の転走に伴って蓋体4に繰り返し力が作用しており、かかる蓋体4の変形が生じ易く、当該位置は蓋体の劣化度合いを検出するのに適している。また、前記変位検出センサ6の取付け位置として更に好ましくは、図3に示すように、ボール7の転走方向が反転する方向転換路40の頂点、換言すれば蓋体4の肉厚が最も薄い箇所に合致して設定されていると良い。当該位置ではボール7の転動に伴う蓋体4の変形が一層顕著に生じる可能性がある。
【0032】
図2に示す実施形態では、各蓋体4に具備された4箇所の方向転換路40の夫々に対応して前記変位検出センサ6を配置したが、特定の方向転換路にのみ配置しても差し支えない。例えば、前記移動ブロック3の走行時に作用する荷重との関係を考慮し、ボール7の循環状態の早期悪化が懸念される方向転換路40にのみ対応して前記変形検出センサ6を配置することも考えられる。
【0033】
尚、この実施形態において本発明の測定用空間は変位検出センサ6の取付け孔を兼ねた断面円形状の測定孔53として形成されているが、その形状は説系変更することが可能であり、例えば図2中に一点鎖線で示す方向転換路40の投影形状に合わせた凹所を前記センサプレート50に設けるようにしても差し支えない。
【0034】
この実施形態において、前記変形検出センサ6は測定対象物の変位量を検出する接触式のセンサであり、前記測定孔53に挿入された先端面に接触子60を有している。測定孔53の内部に対して蓋体4が膨らんでくると、前記接触子60が蓋体4に接触し、変形検出センサ6が検出信号を送出して蓋体4の変形を報知するように構成されている。前記測定孔53に対する変形検出センサ6のねじ込み量を調整することで、この転がり案内装置1の組み立て当初における前記接触子60と蓋体4との隙間量は自由に調製可能である。尚、図3中の符号61は測定孔53にねじ込んだ変形検出センサ6を固定するためのロックナットである。
【0035】
また、前記センサプレート50の外側には当該センサプレート50及び前記蓋体4を覆うカバープレート51が固定されている。このカバープレート51は前記センサプレート50よりも薄い金属板から形成され、前記センサプレート50に螺合する2本の固定ボルト54によって当該センサプレート50と一体化されている。前記カバープレート51には蓋体4に対して前記移動ブロック3の移動方向と直交する方向から当接する規制壁が設けられている。かかる規制壁は、蓋体4の側面に当接する側方規制壁55と、蓋体4の下面に当接する下方規制壁56とから構成されている。これら側方規制壁55及び下方規制壁56を含むカバープレート51は金属薄板のプレス成形から製作されているが、前記側方規制壁55及び下方規制壁56が切れ目なく連続して略箱型に形成されているので、外力に対して十分な強度を有している。また、前記カバープレート51には前記センサプレート50の固定ボルト52及び変形検出センサ6を挿通させるための開口57が形成されている。
【0036】
前記カバープレートの側方規制壁55及び下方規制壁56は、前記センサプレート50と同様に蓋体4の変形を抑える役割を担っている。特に、蓋体4に対してその周囲から当接することにより、経時的な使用に伴って発生が懸念される当該蓋体4の割れや欠けを防止することが期待できる。すなわち、転がり案内装置1の経時的な使用に伴い、前記蓋体4が方向転換路40の近傍で割れや欠けを生じる場合があり、前記規制壁55,56はそのような割れや欠けを未然に防止するために効果的である。前記規制壁55,56は蓋体4の周囲を総て覆うように設けるのが効果的だが、少なくとも以下に示す部位に設けるのが好ましい。
【0037】
例えば図2に示す転がり案内装置では、仮に下方規制壁56が存在しない場合、固定ボルト52よりも下方に位置する方向転換路40において蓋体4に割れが発生すると、当該方向転換路40よりも下方に位置する蓋体4の一部は固定ボルト52によって押さえられていないので、そのまま移動ブロック3から完全に脱落してしまう可能性がある。そのような事態が発生すると、方向転換路40が開放されてしまい、ボール7が無限循環路70から飛び出し、移動ブロック3を軌道レール2に沿って移動させることが不能となってしまう。従って、カバープレート51に規制壁を設けるにあたっては、少なくとも当該規制壁が蓋体4を貫通する固定ボルトとの間に方向転換路40を挟んでいることが望ましい。このような位置に規制壁を設ければ、予兆なく突然に蓋体4が欠けて方向転換路40からボール7が飛び出してしまうといったトラブルを未然に回避することができる。
【0038】
図1乃至図5を用いて説明した転がり案内装置では、前記蓋体拘束プレート5がセンサプレート50及びカバープレート51に分離されていたが、図6に示すように、一枚の蓋体拘束プレート5に対して前記センサプレート50及びカバープレート51の機能を具備させることも可能である。尚、図6中の符号9は移動ブロック3に固定されると共に軌道レール2に摺接するシールプレートであり、図1に示した転がり案内装置1には描かれていない。また、図6は変形検出センサ6を省略して描いてある。
【0039】
そして、以上のように構成された本発明の転がり案内装置では、移動ブロック3が軌道レール2に沿って移動すると、移動ブロック3と軌道レール2との間に配列されたボール7は前記無限循環路70内を循環する。ボール7は方向転換路40においてその転走方向を反転させることから、かかる方向転換路40を備えた蓋体4はボールから連続的に荷重を受けている状態となり、転がり案内装置の経時的な使用に伴って蓋体は変形していき、最終的には割れや欠けを生じる懸念がある。特に、軌道レールのボール転走面にフレーキングが発生する等して、無限循環路内におけるボールの循環抵抗が増加すると、ボールが方向転換路内で蓋体を過大に押圧することになるので、蓋体の変形が発生し易くなる。
【0040】
このとき、本発明の転がり案内装置では、蓋体拘束プレート5を蓋体4の外側から移動ブロック3に固定して、かかる蓋体4を移動ブロック3と蓋体拘束プレート5との間に挟み込んでいるので、前記蓋体拘束プレート5が蓋体4の補強板として機能し、蓋体4の変形を抑え、当該蓋体4の突然の破損を予防することが可能となる。
【0041】
また、蓋体拘束プレート5に設けられた測定孔53の部位では、かかる蓋体拘束プレート5が蓋体4に接しておらず、蓋体4の変形が許容されるので、ボール7の転走に伴って蓋体4が変形する場合は、この測定孔53の内部に蓋体が膨らんでくることになる。このため、測定孔53に対して変形検出センサ6を配置してその出力信号をチェックすれば、蓋体4の破損以前の段階におけるその変形を検知することが可能となり、蓋体4の破損の兆候を予知することが可能となる。すなちわ、前記変形検出センサ6の出力信号を常時あるいは定期的にチェックすることで、蓋体4の破損可能性を診断し、移動ブロック3が走行不能となる以前の段階で転がり案内装置の保全修理を行うことが可能となる。
【0042】
また、移動ブロック3の累積走行距離が少ないにもかかわらず、前記変形検出センサ6によって蓋体4の変形が検出される場合には、無限循環路70内におけるボール7の循環状態の急激な悪化が予想されることから、ボール7の潤滑不良やボール転走面22のフレーキング発生の検知に前記変形検出センサ6の出力信号を役立てることも可能となる。
【0043】
特に、前述した実施形態の転がり案内装置では測定孔53を蓋体4の方向転換路40に重ねて配置しており、測定孔53に露出した蓋体4の部位は肉厚が薄く、ボール7の循環に伴って変形が発生し易い部位である。このことからも、ボール7の循環に伴う蓋体4の変形をより確実に検知することが可能となっている。
【0044】
また、図3に示した実施形態では、変形検出センサ6の接触子60と前記蓋体4との初期隙間を任意に設定することにより、変形検出センサ6が動作する際の蓋体4の変形量を任意に決定することができる。また、前記変形検出センサ6として、接触子のストローク量で出力信号が変化するタイプのものを使用すれば、出力信号に対するスレッショルド値を数段階に設定することで、蓋体4の破損に関する注意喚起、アラーム発報、装置の強制停止というように段階的に蓋体4の破損予防措置を講じることも可能となる。
【0045】
更に、前記蓋体拘束プレート5に対して規制壁55,56を立設し、かかる規制壁55,56を蓋体4に対して軌道レール2の長手方向と直交する方向から当接させれば、かかる蓋体4の変形を更に強固に規制することが可能となり、この点においても変形検出センサ6を用いた蓋体4の変形検出が確実になる。加えて、前記規制壁55,56が蓋体4を周囲から支えているので、蓋体4の変形検出前に当該蓋体4にひび割れや欠けが発生するのを未然に防止することが可能となり、突然に移動ブロック3が軌道レール2に対して走行不能になるトラブルを回避することが可能となる。
【0046】
尚、以上説明してきた実施形態では前記変形検出センサ6として接触式のものを用いたが、測定孔53の内部における蓋体4の変位を検出可能なものであれば、例えば光学式のセンサを使用することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…転がり案内装置、2…軌道レール、3…移動ブロック、4…蓋体、5…蓋体拘束プレート、6…変形検出センサ、7…ボール、40…方向転換路、50…センサプレート、51…カバープレート、53…測定孔、70…無限循環路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道部材と、
この軌道部材を転走する多数の転動体によって当該軌道部材に対して移動自在に支持される移動部材と、
この移動部材の移動方向の両端に固定されて前記転動体の無限循環路の一部をなす一対の蓋体と、
この蓋体を前記移動部材との間に挟み込んで当該蓋体の変形を規制すると共に、かかる蓋体との当接面の一部に測定用空間を形成する蓋体拘束プレートと、
この蓋体拘束プレートに装着されると共に前記測定用空間に対する前記蓋体の膨出を検知する変形検出センサと、を備えたことを特徴とする転がり案内装置。
【請求項2】
前記測定用空間は、前記蓋体に具備された転動体の方向転換路に隣接して形成されることを特徴とする請求項1記載の転がり案内装置。
【請求項3】
前記蓋体拘束プレートは、前記移動部材の移動方向と直交する方向から蓋体に当接する規制壁を有することを特徴とする請求項1又は2記載の転がり案内装置。
【請求項4】
前記蓋体拘束プレート及び蓋体はこれらを貫通する固定ボルトによって前記移動部材に固定され、前記蓋体拘束プレートの規制壁は前記固定ボルトとの間に前記方向転換路を挟む位置に立設されていることを特徴とする請求項3記載の転がり案内装置。
【請求項5】
前記蓋体拘束プレートは、前記変形検出センサが装着されると共に前記蓋体に当接して前記測定用空間を形成するセンサプレートと、前記規制壁が立設されると共に前記センサプレートを覆うカバープレートとから構成されていることを特徴とする請求項3記載の転がり案内装置。
【請求項6】
前記変形検出センサは微小隙間を介して前記蓋体と対向した接触型センサであることを特徴とする請求項2記載の転がり案内装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−193803(P2012−193803A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58735(P2011−58735)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】