説明

硫化物系固体電解質及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池

【課題】リチウムイオン伝導性が高く、且つ耐湿性に優れる硫化物系固体電解質を提供する。
【解決手段】リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、繰り返し測定して得られるラマンスペクトルの平均において、330〜450cm−1のピークを波形分離した406±4cm−1、418±4cm−1、及び382±4cm−1のピークトップとするスペクトルのそれぞれの面積の合計を100としたとき、382±4cm−1のピーク面積比が12以上50以下であり、固体31PNMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有する硫化物系固体電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物系固体電解質及びその製造方法、並びにリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯情報末端、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等に用いられる高性能リチウム二次電池等の需要が増加している。
二次電池とは、充電及び放電ができる電池であり、使用される用途が広がるにつれて更なる安全性の向上及び高性能化が要求されている。
【0003】
従来、室温で高いリチウムイオン伝導性を示す電解質は、ほとんど有機系電解質に限られていた。しかし、有機系電解質は有機溶媒を含む可燃性物質であるため、有機溶媒を含むイオン伝導性材料を電池の電解質として用いる際には、液漏れの心配や発火の危険性があった。また、有機系電解質は、液体であるため、リチウムイオンが伝導するだけでなく、対アニオンも伝導するため、リチウムイオン輸率が1以下であった。
一方、無機固体電解質は、その性質上不燃性であり、通常使用される有機系電解質と比較して安全性の高い材料である。しかしながら、有機系電解質に比べてイオン伝導性が若干劣るため、イオン伝導性を向上させる必要があった。
【0004】
上記問題を解決するため、リチウム、りん及び硫黄を含む硫化物系固体電解質が提案されている(特許文献1及び2)。しかし、特許文献1及び2に開示の硫化物系固体電解質は耐湿性が高くないという欠点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−228570号公報
【特許文献2】WO2007/066539A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リチウムイオン伝導性が高く、且つ耐湿性に優れる硫化物系固体電解質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の硫化物系固体電解質等が提供される。
1. リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
繰り返し測定して得られるラマンスペクトルの平均において、330〜450cm−1のピークを波形分離した406±4cm−1、418±4cm−1、及び382±4cm−1のピークトップとするスペクトルのそれぞれの面積の合計を100としたとき、382±4cm−1のピーク面積比が12以上50以下であり、
固体31PNMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有する硫化物系固体電解質。
2.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物系固体電解質であって、
Li構造体が、表面に12mol%以上50mol%以下存在し、全体では5mol%以下存在し、
Li11構造体が、表面に50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する硫化物系固体電解質。
3.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物系固体電解質であって、
Li構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で12mol%以上50mol%存在し、全体で5mol%以下存在し、
Li11構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する硫化物系固体電解質。
4.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
イオン伝導度が、0.2×10−3S/cm以上であって、下記式(1)を満たす硫化物系固体電解質。
0.75≦B/A<1.5 (1)
(式中、Aは硫化物系固体電解質のイオン伝導度であり、Bは硫化物系固体電解質を露点−60℃に24時間露出させた後のイオン伝導度である。)
5.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
Li構造体の含有量が5mol%以下であり、Li11構造体の含有量が21mol%以上99.9mol%以下である硫化物系固体電解質。
6.リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含むリチウムイオン伝導性ガラスを減圧しながら160℃以上350℃以下の温度範囲で加熱する硫化物系固体電解質の製造方法。
7.前記減圧の減圧度が10−5以上10Pa以下である6に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
8.6又は7に記載の硫化物系固体電解質の製造方法により得られる硫化物系固体電解質。
9.1〜5及び8のいずれかに記載の硫化物系固体電解質を電解質層及び/又は電極層に含むリチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、リチウムイオン伝導性が高く、且つ耐湿性に優れる硫化物系固体電解質が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で用いた固体電解質製造装置を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1で調製した固体電解質のラマンスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で調製した固体電解質のラマンスペクトルの330〜450cm−1にあるピークを、PS3−、P4−及びP4−の各成分に分離したピークを示す図である。
【図4】実施例1及び比較例1で調製した固体電解質の固体31P−NMRスペクトルを示す図である。
【図5】比較例2及び比較例3で調製した固体電解質の固体31P−NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、繰り返し測定して得られるラマンスペクトルの平均において、330〜450cm−1のピークを波形分離した406±4cm−1、418±4cm−1、及び382±4cm−1のピークトップとするスペクトルのそれぞれの面積の合計を100としたとき、382±4cm−1のピーク面積比が12以上50以下である。
【0011】
ラマンスペクトルは、固体、粉体等の状態を把握するために用いられるスペクトルである(例えば、特許公報3893816、特許公報3893816、特許公報3929303、特許公報3979352、特許公報4068225)。
ラマンスペクトルは、ラマン分光法により得られ、当該ラマン分光法は、固体の表面状態の解析に適しており、固体表面近傍の構造情報を詳細に得ることができる。
【0012】
顕微ラマン分光法を用いて1粒子ごとに測定を行う場合、粒子の表面構造にばらつきがあるため、得られるスペクトルがそれぞれ異なるおそれがある。
本発明の第1の硫化物系固体電解質(以下、単に第1の固体電解質と略記する場合がある)では、複数の粒子に対して測定を実施し、得られる複数のラマンスペクトルを各イオンのピークに分離し、得られた各イオンの比率の平均値を解析の指標する。測定する粒子の数は例えば5粒について行えば十分である。
【0013】
ラマンスペクトルにおいて、330〜450cm−1のピークを波形分離して得られる406±4cm−1、418±4cm−1、及び382±4cm−1のピークトップは、それぞれLi、LiPS及びLiの第1の固体電解質の表面における存在量を意味する。
また、これらスペクトルの平均面積の合計を100としたとき、382±4cm−1のピーク面積比が12以上50以下であることは、Liの第1の固体電解質の表面存在量が12〜50mol%であることを意味する。
Liが耐水性に優れる構造であると考えられ、第1の固体電解質では、表面にLiを偏在させることで、耐水性を向上させることができる。
【0014】
図2は、後述する実施例1で調製した固体電解質のラマンスペクトルである。
図2に示されるように、350cm−1から450cm−1に特徴的なピークが検出されている。この波数領域には、PS3−,P4−,P4−に同定される3種類のピーク(M.Tachez,J.−P.Malugani,R.Mercier,and G.Robert,Solid State Ionics,14,181(1984))が重なって観察されるため、これら3種類のピークを非線形最小二乗法を用いて分離することで、ピーク面積比が得られる。
【0015】
第1の固体電解質は、固体31PNMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有する。
第1の固体電解質が90.9±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有することは、結晶全体にP4−が存在することを示し、86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有することは、結晶全体にPS3−が存在することを示す。
即ち、上記2つのピークを有することは、第1の固体電解質が高いイオン伝導性を有する結晶構造を有することを意味する。
【0016】
本発明の第2の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、Li構造体が、表面に12mol%以上50mol%以下存在し、全体では5mol%以下存在し、Li11構造体が、表面に50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する。
【0017】
本発明の第2の硫化物系固体電解質(以下、第2の固体電解質と略記する場合がある)は耐水性に優れ、イオン伝導度が低下するような露点環境化でも伝導度の低下を抑制できる。
これは、Liが耐水性に優れる構造であると考えられ、第2の固体電解質では、表面にLiを偏在させることで、耐水性を向上させることができる。しかし、Liは、Li11よりもイオン伝導性に乏しいため、表面に偏在させる一方で全体での存在量を上記範囲に抑えることで、イオン伝導度を維持することができる。
【0018】
本発明の第2の硫化物系固体電解質の「表面」とは、固体電解質の外側をなす面を意味する。
尚、Li及びLi11の上記表面存在量は、固体電解質の表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中の存在量でもよい。
【0019】
第2の固体電解質の形状は特に限定されず、例えば粒子及び板状体のいずれでもよく、比表面積の観点から、好ましくは粒子である。
固体電解質の比表面積が大きいほうが、表面のLi構造体を12mol%以上含む効果を大きくすることができる。これは、硫化物系固体電解質の耐湿性は、比表面積が大きいほど耐湿性が低くなるためである。
固体電解質の比表面積としては、好ましくは0.2m/g以上である。
【0020】
Li構造体は、表面に12mol%以上50mol%以下存在し、全体では5mol%以下存在する。
Li構造体の固体電解質表面における存在率が12mol%未満の場合、耐湿性が悪化するおそれがあり、一方、表面における存在率が50mol%超の場合、イオン導電性が低下するおそれがある。同様に、Li構造体の固体電解質全体における存在率が5mol%超の場合、イオン導電性が低下するおそれがある。
尚、Li構造体の全体の含有量は、好ましくは測定装置の検出限界(例えば0.1mol%)未満であると好ましい。Li構造体の全体での含有量の下限は特に限定されないが、例えば0.01mol%以上である。
また、Li構造体は、結晶構造、非結構造、又はこれら両方を含む構造のいずれでもよい。
【0021】
Li11構造体は、表面に50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する。
Li11構造体は、硫化物系固体電解質のイオン伝導性を高めることができる。また、Li11構造体は、好ましくはLi11結晶構造体である。これは、Li11結晶構造体は、イオン伝導度が非常に高いためである。
【0022】
本発明の第2の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む。これは、硫化物系固体電解質中にリチウム、りん及び硫黄元素を含むことを意味する。
第2の固体電解質は、上記リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素以外の他の元素を含んでもよいが、好ましくはリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素から実質的になり、より好ましくはリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素のみからなる。
他の元素としては、例えば銅、銀、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。
【0023】
第2の固体電解質は、ガラスを含んでもよい。これは、後述するリチウム元素、りん元素及び硫黄元素を含むイオン伝導性のガラスを加熱処理して結晶化させる製造方法では、ガラス成分の全てが結晶化できず、硫化物系固体電解質中にガラス成分が残ってしまう場合があるからである。
尚、第2の固体電解質は、好ましくはリチウム、りん及び硫黄を含むイオン伝導性ガラスのガラス成分が全て結晶化されている。また、結晶構造は、イオン伝導性の観点からは、Li11構造体が多いほうが好ましい。
また、本発明の第2のリチウムイオン導電性固体電解質は、チオリシコンと呼ばれる結晶構造を含んでもよい。
【0024】
本発明の第3の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、Li構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で12mol%以上50mol%存在し、全体で5mol%以下存在し、Li11構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する。
【0025】
本発明の第3の硫化物系固体電解質(以下、単に第2の固体電解質と略記する場合がある)は、第2の固体電解質の「表面」を「表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲」に限定した他は同様である。
【0026】
本発明の第4の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、イオン伝導度が、0.2×10−3S/cm以上であって、下記式(1)を満たす。
0.75≦B/A<1.5 (1)
(式中、Aは硫化物系固体電解質のイオン伝導度であり、Bは硫化物系固体電解質を露点−60℃に24時間露出させた後のイオン伝導度である。)
【0027】
本発明の第4の硫化物系固体電解質(以下、単に第4の固体電解質と略記する場合がある)のイオン伝導度は、0.2×10−3S/cm以上であり、好ましくは0.3×10−3S/cm以上であり、より好ましくは0.5×10−3S/cm以上である。
【0028】
第4の固体電解質において、式(1)0.75≦B/Aであれば、露点が低くなくても、例えば−60℃以上の環境下であってもイオン伝導度の低下を抑えることができるので、露点を低くするための特殊な設備を不要にできる可能性がある。
上記式(1)は、好ましくは下記式(2)であり、より好ましくは下記式(3)であり、さらに好ましくは下記式(4)である。
0.76≦B/A<1.4 (2)
0.77≦B/A<1.5 (3)
0.77≦B/A<1.0 (4)
【0029】
本発明の第5の硫化物系固体電解質は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、Li構造体の含有量が5mol%以下であり、Li11構造体の含有量が21mol%以上99.9mol%以下である。
本発明の第5の硫化物系固体電解質(以下、単に第5の固体電解質と略記する場合がある)の含有量は、上記第1及び第2の固体電解質と同様である。
【0030】
本発明の硫化物系固体電解質の製造方法は、リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含むリチウムイオン伝導性ガラスを減圧しながら160℃以上350℃以下の温度範囲で加熱する。
上記製造方法により、第1〜第5の固体電解質を製造することができる。
【0031】
原料であるリチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含むリチウムイオン伝導性ガラスは、リチウム、りん及び硫黄以外に他の元素を含んでもよい。
他の元素としては、例えば銅、銀、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムが挙げられる。
リチウムイオン伝導ガラスは、好ましくは、硫化リチウム及び五硫化二燐を用いて製造されたリチウムイオン伝導性ガラスであり、当該リチウムイオン伝導性ガラスの硫化リチウムと五硫化二燐の含有量は、好ましくは硫化リチウム:五硫化二燐=67モル%:33モル%〜74モル%:26モル%である。
【0032】
リチウムイオン伝導性ガラスは、通常の方法で製造することができ、例えば特開平11−134937号公報、特開2004−348972号公報、及び特開2004−348973号公報に開示されているようなメカニカルミリング法により製造することができる。また、WO05/119706に開示されているようにいわゆる溶融法により製造することもできる。
上記に加えて、リチウムイオン伝導性ガラスは、WO2009/047977に開示の下記方法により製造することもできる。
【0033】
リチウムイオン伝導性ガラスは、硫化りん、硫化ゲルマニウム、硫化ケイ素及び硫化ほう素から選択される1種類以上の化合物と、硫化リチウムを、炭化水素系溶媒中で接触させることで製造できる。
上記硫化りん、硫化ゲルマニウム、硫化ケイ素及び硫化ほう素については、特に限定はなく、市販されているものが使用できる。これらのうち、硫化りんが好ましい。さらに硫化りんの中でも、五硫化二りんが好ましい。
【0034】
接触に用いる炭化水素系溶媒としては、飽和炭化水素、不飽和炭化水素又は芳香族炭化水素が使用できる。
飽和炭化水素としては、ヘキサン、ペンタン、2−エチルヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン等が挙げられる。不飽和炭化水素しては、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキセン等が挙げられる。また、芳香族炭化水素としては、トルエン、キシレン、デカリン、1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
これらのうち、特にトルエン、キシレンが好ましい。
【0035】
炭化水素系溶媒は、あらかじめ脱水されていることが好ましい。具体的には、水分含有量として100重量ppm以下が好ましく、特に30重量ppm以下であることが好ましい。
尚、必要に応じて炭化水素系溶媒に他の溶媒を添加してもよい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、エタノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル等のエステル類等、ジクロロメタン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。
【0036】
接触の際の硫化リチウムの仕込み量は、硫化リチウムと、硫化ゲルマニウム、硫化ケイ素及び硫化ほう素から選択される1種類以上の化合物の合計に対し30〜95mol%とすることが好ましく、さらに、40〜90mol%とすることが好ましく、特に50〜85mol%とすることが好ましい。
炭化水素系溶媒の量は、原料である硫化リチウムと、硫化ゲルマニウム、硫化ケイ素及び硫化ほう素から選択される1種類以上の化合物が、溶媒の添加により溶液又はスラリー状になる程度であることが好ましい。通常、溶媒1リットルに対する原料(合計量)の添加量は0.001〜1Kg程度となる。好ましくは0.005〜0.5Kg、特に好ましくは0.01〜0.3Kgである。
【0037】
接触時の温度は、通常、80〜300℃であり、好ましくは100〜250℃であり、より好ましくは100〜200℃である。また、通常、接触時間は5分〜50時間、好ましくは、10分〜40時間である。
尚、温度や時間は、いくつかの条件をステップにして組み合わせてもよい。
また、接触時は撹拌することが好ましい。窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下であることが好ましい。不活性ガスの露点は−20℃以下が好ましく、特に好ましくは−40℃以下である。圧力は、通常、常圧〜100MPaであり、好ましくは常圧〜20MPaである。
【0038】
接触処理後、生成した固体部分と溶媒を分離してリチウムイオン伝導性ガラスを回収する。分離は、デカンテーション、ろ過、乾燥等、又はこれら組み合わせ等、公知の方法で実施することができる。
【0039】
リチウムイオン伝導性ガラスを減圧しながら160℃以上350℃以下の温度範囲で加熱するが、当該減圧度は好ましくは10−5以上10Pa以下であり、熱処理温度は好ましくは180℃以上340℃以下である。
【0040】
本発明の硫化物系固体電解質の製造方法の他の要件は、公知の要件ができ、例えば例えば、WO2005/078740、WO2007/066539及び特開2002−109955号公報に開示の結晶化の条件を用いることもできる。
【0041】
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の第1〜第5の固体電解質のいずれかを電解質層及び/又は電極層に含む。
本発明の第1〜第5の固体電解質は、電解質層に用いてもよく、活物質と混合して電極材料(合材)として電極に用いてもよい。
正極層、負極層及び電解質層は、本発明の固体電解質を一部として含んでもよく、又は本発明の固体電解質からなっていてもよい。
【0042】
本発明のリチウム電池の正極層に用いる正極活物質及び負極活物質は、通常用いられている材料を使用することができる。同様に、本発明のリチウム電池の電解質層に用いる電解質は、無機固体電解質でも硫化物系固体電解質であってもよい。集電体も公知の材料を用いることができる。
尚、負極層は、リチウム金属であることが好ましい。
【実施例】
【0043】
実施例1
図1に示す装置1を用いて固体電解質を製造した。硫化リチウム39.05g(70mol%)、五硫化二りん80.95g(30mol%)、脱水トルエン1080gを加えた混合物を反応槽20及びミル10に充填した。ポンプ54により内容物を400mL/分の流量で連結管50,52を通して循環させ、反応槽20をオイルバス40により80℃になるまで昇温した。このとき、撹拌翼24により反応系を撹拌し、原料と溶媒からなるスラリーが沈殿しないようにした。また容器22内の気化した溶媒を冷却して液化し、容器22内に戻すために冷却管26を用いた。ミル10本体は、液温が70℃に保持できるようヒータ30により温水を通水循環し、周速8m/sの条件で運転した。150℃にて乾燥し非晶質固体電解質の白色粉末を得た。
得られた非晶質固体電解質(ガラス)を300℃で2時間、減圧しながら熱処理して固体電解質を得た(比表面積:2.33m/g)。
【0044】
得られた固体電解質について、ラマン解析(電解質表面)及び固体NMR解析(電解質バルク)を以下の方法で行い、ラマン解析で得られた表面含有量を表1に、NMR解析により得られたバルク(全体)含有量を表2に示す。尚、ラマン解析で得られる表面含有量は、固体電解質の表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中の存在量と擬制される。
【0045】
[ラマン解析]
得られた固体電解質の5粒子について、以下の測定条件でラマンスペクトルを測定した。
測定装置:サーモフィッシャーサイエンティフィックス株式会社製Almega
レーザー波長:532nm、
レーザー出力:10%
アパーチャ:25μmφ
露光時間:10秒
露光回数:10回
対物レンズ:×100
分解能:高(2400lines/mm)
【0046】
[NMR解析]
得られた結晶化ガラス電解質の結晶化度が50%以上であることを確認した。
上記結晶化度は、JNM−CMXP302NMR装置(日本電子株式会社製)を用いて、以下の条件で固体31P−NMRスペクトルを測定し、得られた固体31PNMRスペクトルについて、70〜120ppmに観測される共鳴線を、非線形最小二乗法を用いてガウス曲線に分離し、各曲線の面積比から算出した。
【0047】
得られた固体電解質の5粒子平均のラマンスペクトルを図2に示す。加えて、5粒子各粒子のラマンスペクトルの330〜450cm−1にあるピークを波形分離ソフト(Thermo SCIENTIFIC社製 GRAMS AI)を用いて、PS3−、P4−及びP4−の各成分に分離したピークを図3に示す。図3から、各成分の面積比を求めた。
尚、図3中において点線がオリジナルのピークである。5粒子のラマンスペクトルについて同様な波形分離を行い各成分の平均値と標準偏差を求めて含有量を算出した。
【0048】
得られた固体電解質のイオン伝導度を交流インピーダンス法(測定周波数100Hz〜15MHz)により測定したところ、室温で3.0×10−3S/cmを示した。
得られた固体電解質を、直径7cmのシャーレに入れた。このシャーレを露点−60℃の環境下、24時間暴露した。その後回収して、イオン伝導度を上記同様に測定したところ、室温で2.6×10−3S/cmであった。また、伝導度維持率は87%であった。
尚、伝導度維持率は、下記式(I)に基いて算出した。
100×B/A (I)
(式中、Aは固体電解質のイオン伝導度であり、Bは固体電解質を露点−60℃に24時間露出させた後のイオン伝導度である。)
【0049】
また、得られた固体電解質について、固体31P−NMRスペクトルを測定した。結果を図4に示す。図4から、得られた固体電解質が90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有していることを確認した。
【0050】
固体31P−NMRスペクトルの測定条件は以下の通りである。
観測核 :31
観測周波数:121.339MHz
測定温度 :室温
測定法 :MAS法
パルス系列:シングルパルス
90°パルス幅:4μs
マジック角回転の回転数:8600Hz
FID測定後、次のパルス印加までの待ち時間:100〜2000s
(最大のスピン−格子緩和時間の5倍以上になるよう設定)
積算回数 :64回
化学シフトは、外部基準として(NHHPO(化学シフト1.33ppm)を用い決定した。また、試料充填時の空気中の水分による変質を防ぐため、不活性ガスを連続的に流しているドライボックス中で密閉性の試料管に試料を充填した
【0051】
比較例1
実施例1において150℃で乾燥する前に、220℃〜230℃で熱処理を加えた以外は実施例1と同様にして固体電解質を作製し、評価した。結果を表1及び表2に示す。また、比較例1の固体電解質の5粒子平均のラマンスペクトルを図2示す。
得られた固体電解質のイオン伝導度は、暴露前のイオン伝導度が0.8×10−3S/cmであり、暴露後のイオン伝導度が0.16×10−3S/cmであった。伝導度維持率は20%であった。
以上から、実施例1と比較して、比較例1の固体電解質暴露前イオン伝導性も暴露後イオン伝導性も低く、且つ伝導度維持率も低いことが分かる。
【0052】
また、得られた固体電解質について、実施例1と同様にして固体31P−NMRスペクトルを測定した。結果を図4に示す。
【0053】
比較例2
熱処理温度を360℃とした他は実施例1と同様にして固体電解質を作製し、評価した。結果を表1及び表2に示す。
得られた固体電解質のイオン伝導度は、暴露前のイオン伝導度が0.08×10−3S/cmであり、暴露後のイオン伝導度が0.04×10−3S/cmであった。伝導度維持率は50%であった。また、得られた固体電解質について、実施例1と同様にして固体31P−NMRスペクトルを測定した。結果を図5に示す。図5から、実施例1とは異なる位置にピークがあることが分かる。
以上から、実施例1と比較して、比較例2の固体電解質は、暴露前イオン伝導性も暴露後イオン伝導性も低く、且つ伝導度維持率も低いことが分かる。
【0054】
比較例3
熱処理時に減圧しなかった他は実施例1と同様にして固体電解質を作製し、評価した。結果を表1及び表2に示す。
得られた固体電解質のイオン伝導度は、暴露前イオン伝導度が1.7×10−3S/cmであり、暴露後のイオン伝導度が5.1×10−4S/cmであった。伝導度維持率は30%であった。また、得られた固体電解質について、実施例1と同様にして固体31P−NMRスペクトルを測定した。結果を図5に示す。
【0055】
【表1】

(尚、P4−は、Li11に対応する)
【表2】

【0056】
尚、NMR測定に用いた装置のPの検出限界は0.1mol%であり、表2において、P4−が0であることは、P4−が0.1mol%未満であることを含む。
特に実施例1では、ラマン測定でP4−が検出されているので、NMR測定の結果が0であることは、検出限界(0.1mol%)未満であったことを示す。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の硫化物系固体電解質は、リチウムイオン電池に好適に利用できる。本発明のリチウム電池は、携帯情報末端、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、モーターを動力源とする自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等で使用するリチウム電池として使用できる。
【符号の説明】
【0058】
1 固体電解質製造装置
10 ミル
20 反応槽
22 容器
24 撹拌翼
26 冷却管
30 ヒータ
40 オイルバス
50 連結管
52 連結管
54 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
繰り返し測定して得られるラマンスペクトルの平均において、330〜450cm−1のピークを波形分離した406±4cm−1、418±4cm−1、及び382±4cm−1のピークトップとするスペクトルのそれぞれの面積の合計を100としたとき、382±4cm−1のピーク面積比が12以上50以下であり、
固体31PNMRスペクトルにおいて、90.9±0.4ppm及び86.5±0.4ppmの位置に結晶に起因するピークを有する硫化物系固体電解質。
【請求項2】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物系固体電解質であって、
Li構造体が、表面に12mol%以上50mol%以下存在し、全体では5mol%以下存在し、
Li11構造体が、表面に50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する硫化物系固体電解質。
【請求項3】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含む硫化物系固体電解質であって、
Li構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で12mol%以上50mol%存在し、全体で5mol%以下存在し、
Li11構造体が、表面から中心部方向への1nm以上5μm以下の範囲の中で50mol%以上88mol%以下存在し、全体では21mol%以上99.9mol%以下存在する硫化物系固体電解質。
【請求項4】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
イオン伝導度が、0.2×10−3S/cm以上であって、下記式(1)を満たす硫化物系固体電解質。
0.75≦B/A<1.5 (1)
(式中、Aは硫化物系固体電解質のイオン伝導度であり、Bは硫化物系固体電解質を露点−60℃に24時間露出させた後のイオン伝導度である。)
【請求項5】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含み、
Li構造体の含有量が5mol%以下であり、Li11構造体の含有量が21mol%以上99.9mol%以下である硫化物系固体電解質。
【請求項6】
リチウム(Li)元素、リン(P)元素及び硫黄(S)元素を含むリチウムイオン伝導性ガラスを減圧しながら160℃以上350℃以下の温度範囲で加熱する硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記減圧の減圧度が10−5以上10Pa以下である請求項6に記載の硫化物系固体電解質の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の硫化物系固体電解質の製造方法により得られる硫化物系固体電解質。
【請求項9】
請求項1〜5及び8のいずれかに記載の硫化物系固体電解質を電解質層及び/又は電極層に含むリチウムイオン電池。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−43646(P2012−43646A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183887(P2010−183887)
【出願日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】