説明

硫酸化ジルコニアを含む新規な構造体およびその製造方法

【目的】固体酸触媒として有効な硫酸化ジルコニアを含む新規な構造体、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを不活性担体の表層部に担持させ、硫酸化処理後に350〜800℃で焼成を行うことにより、構造体表層部、特に構造体の外表面から1〜1000μmの深さまでの表層部に硫酸化ジルコニウムが存在し、構造体表層部を除く内部の層は硫酸化ジルコニアを含まない不活性担体である新規な構造体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸化ジルコニアを含む新規な構造体、およびその製造方法に関する。さらに詳しくは、構造体表層部に硫酸化ジルコニアが存在し、表層部を除く構造体内部は硫酸化ジルコニアを含まない不活性担体成分で構成される構造体、およびその製造方法に関する。ここで言う硫酸化ジルコニアとは、化学量論の組成を持つジルコニウムやジルコニルの硫酸塩を示すのではなく、化学量論よりも少ない硫酸根を含有したジルコニアのことを言う。
【背景技術】
【0002】
硫酸化ジルコニアは、ジルコニウムの水酸化物もしくは酸化物に、硫酸もしくは硫酸根含有化合物を添加し、それを高温で焼成することによって得られる固体酸材料で、100%硫酸よりも強い酸強度を示す固体超強酸材料として知られている(非特許文献1参照。)。硫酸化ジルコニアは、硫酸ジルコニウム(Zr(SO)のように化学量論組成をもつ化合物ではなく、多くの場合SとZrの原子比はS/Zr<1であり、ジルコニア上にSO配位した構造が提案されている(非特許文献2参照)。
【0003】
硫酸化ジルコニアは、強い酸強度を持つ材料であることから、化学工業における酸触媒として利用することが注目されている。すなわち、炭化水素の化学的変換反応であるアルキル化反応、エステル化反応、異性化反応等の触媒としての利用である。
【0004】
従来、酸触媒を用いるこの種の反応には、塩化アルミニウム、リン酸、硫酸、フッ化水素酸、パラトルエンスルホン酸等が使用されている。しかしながら、これらの酸触媒は、極めて腐食性の高い物質であることから、反応装置に用いられる金属を腐食させる。そのために、腐食を防止するための高価な耐腐食材料を用いたり、腐食防止処理を施さなければならいという問題点があった。
【0005】
また、硫酸等の均一系触媒では、触媒の蒸留分離等の分離工程が必要なため設備、分離エネルギーの面で経済的でなく、触媒の分離が困難な場合には、アルカリ洗浄などの煩雑な操作が必要になることに加え、廃水処理が必要となるために環境保全の面でも問題があった。そのために、塩化アルミニウムをアルミナ担体に担持した固体触媒が用いられるが、塩化アルミニウムは極めて不安定な物質で、水によって容易に分解し触媒活性が低下すると共に塩酸を生成する。そのために、反応原料から水を完全に除去する必要がある。また、一旦活性を失った触媒の活性を復活させることは困難なため、触媒を失活させないために塩酸等の塩素含有化合物を供給しなければならない等の問題があった。
【0006】
これらの欠点を克服する方法として、周期律表第IV族金属水酸化物もしくは酸化物を硫酸根含有水溶液と接触させ、350℃〜800℃で焼成することによって調製される硫酸根含有固体酸を触媒材料として使用する方法が提案された(特許文献1参照。)。この方法で用いられる金属は、スズ、チタン、ジルコニウム等で、これらの酸化物上に硫酸が担持されていることで、100%硫酸よりも酸強度が強い固体酸が得られている。そのため、酸触媒反応に対し高い活性を有すると共に、反応原料および生成物と触媒の分離が容易であるという長所がある。
【0007】
また、炭化水素の異性化反応およびアルキル化反応の活性を向上させる方法として、硫酸化ジルコニアに少量の白金またはパラジウムを添加した触媒材料が開示されている(特許文献2参照。)。
【0008】
特許文献1,および2に示した酸触媒材料は、ジルコニアの原料となる金属塩水溶液にアンモニア等の塩基性化合物を加え、ジルコニウム等の水酸化物を沈殿させ、その沈殿に硫酸を添加したのちに焼成することによって調製されるため、通常は粉体状で得られる。工業的な反応器で固体触媒を使用する場合、粉末の状態では使用不可能であり、例えば1mm〜10mm程度の大きさに成形するか、成形されている担体上に担持される必要がある。
【0009】
成形された硫酸化ジルコニアの調製方法として、固体酸前駆体である水酸化ジルコニウムにバインダーとして擬ベーマイトを添加し、さらに硫酸アンモニウムを添加して成形した後に焼成することで触媒活性を有する成形触媒が得られることが開示されている(特許文献3および特許文献4参照。)。この調製法では、擬ベーマイト型アルミナが正方晶ジルコニアの安定化に作用し、硫酸化によって超強酸が出現する正方晶のジルコニアを優先的に生成させることが示されている(非特許文献2参照。)。
【0010】
また、アルミナ担体上に硫酸化した酸化物を担持させる方法が開示されている(特許文献5参照。)。この方法では、酸化タングステン、酸化ハフニウム、酸化ジルコニウム等の原料となる金属塩溶液をアルミナ担体に含浸させ、高温で焼成した後に硫酸水溶液によって硫酸化することで、担体に担持された硫酸化酸化物を調製している。
【0011】
さらに、硫酸化ジルコニアの触媒活性を高めるために、触媒の活性部位である固体酸点に反応原料が良好に接触するための構造を規定した方法が開示されている(特許文献6参照。)。この方法では、触媒の表面積、細孔容積、細孔分布に注目し、実質的な量の担持されたまたは塊状の結晶化した硫酸化ジルコニアが、135m/g以上の表面積、0.16cm/g以上の細孔容積、20オングストローム以上の平均細孔径を持つことを特徴としている。
【0012】
【非特許文献1】表面、19巻、2号、75頁(1981年)
【非特許文献2】PETEROTECH、19巻、9号、733頁(1996)
【特許文献1】特公59−6181号公報
【特許文献2】米国特許3,032,599号明細書
【特許文献3】WO98/09727号公報
【特許文献4】特許第3553878号公報
【特許文献5】米国特許4,406,821号明細書
【特許文献6】特開平11−197510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
非特許文献1、2および特許文献1,2の方法では、ジルコニア等の金属塩水溶液にアンモニア等の塩基性化合物を加え、ジルコニウム等の水酸化物を沈殿させ、その沈殿に硫酸を添加したのちに焼成することによって調製されるため、硫酸化ジルコニアは粉体状で得られる。工業的な反応器で固体触媒を使用する場合、粉末の状態では使用不可能であり、例えば1mm〜6mm程度の大きさに成形するか、成形されている担体上に担持される必要がある。
【0014】
特許文献3〜6の方法では、成形された前駆体を用いて硫酸化ジルコニアを調製したり、アルミナ等の成形された担体上硫酸化ジルコニアを堆積させることができる。しかしながら、特許文献3〜6の硫酸化ジルコニア触媒は、成形剤あるいは担体を含む構造体の内部を含む構造体全体に硫酸化ジルコニアが存在する。そのために、固体酸点が構造体全体に存在することになる。
【0015】
固体触媒を用いた反応では、反応原料および反応生成物が成形剤あるいは担体を含む構造体全体の細孔を通り、構造体の内部まで進入する。反応原料が触媒活性点に接触して生成した生成物が、触媒活性点に再度接触することなくそのまま触媒から脱離すれば、逐次反応を起こすことなく目的の生成物が得られる。しかし、担体を含む構造体の内部まで侵入した反応原料および反応生成物は、構造体内部で長い時間滞留することになるため、構造体内部の触媒活性点で逐次的な反応が進行し、目的とする生成物が更に別の物質に変化してしまい選択性が低下してしまう。また、目的生成物の逐次反応で生成した高沸点物質やコークが触媒の活性点および細孔部に析出し、活性点の被毒や細孔の閉塞を生じ、結果的に触媒活性を低下させ、さらに触媒寿命の低下を招く等の問題が発生する。
【0016】
また、構造体内部の触媒活性点で副反応が進行しコーク等の炭素質が析出すると触媒を再生する際にも問題を生ずる。すなわち、炭素質の析出によって触媒活性が低下した触媒を再生させる際には酸化雰囲気で加熱処理を行い炭素質を燃焼除去する必要があるが、担体を含む触媒の構造体の内部に生成した炭素質は燃焼しにくく、また、急激に炭素質の酸化を行うと燃焼で生成するガスや高温による構造体の破壊や触媒活性点の分解によって触媒活性が低下するという問題がある。そのため、特許文献4に示されるように酸素濃度を、例えば、空気中の酸素濃度より極めて低い0.2〜5容量%まで低下させた雰囲気で再生処理をする必要があり、再生処理の操作が煩雑になると共に長い時間を要することになるという問題が発生する。
【0017】
これらの問題点を解決するためには、反応生成物が触媒活性点、すなわち、硫酸化ジルコニアの固体酸点のある場所から即座に離脱する触媒構造、および担体を含む構造体の内部でコーク生成等の副反応が進行しないことが必要となる。
【0018】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は固体酸触媒として有効な構造体表層部のみに硫酸化ジルコニアが存在し、構造体内部には触媒活性点が存在しない構造体、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、硫酸化ジルコニアを含有する新規な構造体を見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は構造体表層部のみに硫酸化ジルコニアが存在し、構造体表層部を除く内部の層には硫酸化ジルコニアが存在しない構造体、およびその製造方法に関するものである。
【0021】
本発明の硫酸化ジルコニアを含有する新規な構造体は、構造体表層部に硫酸化ジルコニアが存在し、構造体表層部を除く内部の層には硫酸化ジルコニアが存在しない構造を有することを特徴とする。
【0022】
ここで、本発明における構造体とは、自重や外力などの荷重に抵抗できるように成形された物体のことをいう。
【0023】
本発明の硫酸化ジルコニアは、ジルコニウムの水酸化物もしくは酸化物に、硫酸もしくは硫酸根含有化合物を添加し、それを高温で焼成することによって得られる固体酸材料である。
【0024】
本発明の構造体では、構造体表層部の硫酸化ジルコニアが存在する層の厚さは、好ましくは構造体外表面から1〜1000μm、さらに好ましくは1〜500μmである。また、構造体表層部を除く内部には、実質的に硫酸化ジルコニアを含まない。
【0025】
本発明の構造体では、構造体表層部のジルコニアは部分的に硫酸化され、硫酸根の形態の硫黄含有量はジルコニウム重量に対して0.1〜50重量%、強度の強い酸を得られることから、好ましくは0.2〜20重量%である。
【0026】
本発明の構造体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、図1〜4で示されるような球状、円柱状、中空円柱状、板状、楕円状、シート状、ハニカム状等が挙げられ、十分な反応活性があり、副反応、および、コーキングを抑制することができることから、好ましくは球状、楕円状、円柱状、中空円柱状、更に好ましくは球状が挙げられる。
【0027】
また、本発明の構造体の大きさは、特に制限されるものではなく、例えば、酸触媒として使用する場合に十分な反応活性があり、副反応およびコーキングを抑制することができることから、好ましくは10μm〜10cmの範囲、さらに好ましくは100μm〜5cmの範囲の構造体が挙げられる。
【0028】
本発明の構造体において、バインダーの有無に特に制限はない。
【0029】
本発明の構造体を製造する方法は特に規定されず、例えば、(1)不活性担体に水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを担持させた後に、硫酸または硫酸根を含有する化合物を添加し、350℃乃至800℃で焼成する方法、(2)水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムの原料となる塩を不活性担体に担持させた後に、塩基性物質等を添加して加水分解を行うことで水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを不活性担体の表層部に析出させ、硫酸または硫酸根を含有する化合物を添加し、350〜800℃で焼成する方法、(3)水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムの原料塩を含む溶液を不活性担体の表層に噴霧し、構造体の表層部に原料塩を担持させた後に塩基性物質等を添加して加水分解することで水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを不活性担体の表層に担持させた後に、硫酸または硫酸根を含有する化合物を添加し、350〜800℃で焼成する方法、(4)構造体の内部となる不活性担体の外表面に水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを塗布し、硫酸または硫酸根を含有する化合物を添加した後に、350〜800℃で焼成する方法により構造体を製造することができる。構造体の表層部に担持されるジルコニウム源が内部に拡散しにくいこと、および表層に存在する硫酸化ジルコニアが剥離することがないことから、(1)の方法が好ましく用いられ、水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムは、塩基性物質を不活性担体に含浸担持させた後、ジルコニウム原料塩を含浸させることにより、不活性担体の表層部に担持させることができる。
【0030】
本発明において、(1)の方法を更に詳しく説明する。まず、塩基性物質を不活性担体に含浸担持させる。この担体を、ジルコニウム原料塩を溶解した溶液に浸すことで、溶液中のジルコニウム原料塩が不活性担体に含浸されている塩基性物質と接触し、加水分解反応によって水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムになり不活性担体の表層部に沈殿する。この表層に水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムが担持された担体に、硫酸または硫酸根含有化合物の溶液を含浸させ、乾燥する。その後、空気中350〜800℃で焼成し、表層部分に硫酸化ジルコニアが存在し、表層以外の内部には硫酸化ジルコニウムが存在しない構造体が製造できる。
【0031】
本発明の方法で使用される塩基性物質は、特に限定されるものではなく無機物、有機物を問わず使用できるが、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムセシウム等のアルカリ金属、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ度類金属、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジブチルアミン、シクロブチルアミン、フェニルアミン、ベンジルアミン、ブチルベンジルアミン、フェニレンアミン、ジシクロヘキシルアミン、デシルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、フェニルエタノールアミン等のアミン類、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム化合物、ピリジン、メチルピリジン、ジメチルピリジン、エチルピリジン、ジエチルピリジン、フェニルピリジン、アミノピリジン、ニトロピリン、ブロモピリジン、クロロピリジン等のピリジン類、キノリン、メチルキノリン、ジメチルキノリン、ヒドロキシメチルキノリン、ビニルキノリン、フェニルキノリン、ヒドロキシキノリン、テトラヒドロキノリン、アミノキノリン、クロロキノリン、ブロモキノリン、ニトロキノリン、メトキシキノリン等のキノリン類が使用できる。構造体の表層部に担持されるジルコニウム源が内部に拡散しにくいことから、アルカリ金属、アルカリ度類金属、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム化合物、ピリジン類およびキノリン類が好ましい。さらに、焼成後に塩基性物質を残留させないことから、テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等のアンモニウム化合物、ピリジン類およびキノリン類が好ましい。
【0032】
本発明で使用できる水酸化ジルコニウムまたは酸化ジルコニウムの原料は、特に限定されるものではないが、例えば、ジルコニウム、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ふっ化ジルコニウム、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムプロポキシド、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトナート、テトラクロロビス(テトラヒドロフラン)ジルコニウム、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリド、ジシクロペンタジエニルジルコニウムジクロリド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウム(IV)ジクロリド 等が使用できる。構造体の表層部に担持されるジルコニウム源が内部に拡散しにくいことから、塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、オキシ硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムが好ましい。
【0033】
本発明の方法では、使用する不活性担体は、特に限定されるものではなく、使用する触媒反応に対して実質的に触媒活性を持たない担体で、例えば、シリカ、アルミナ、シリカアルミナ、チタニア、ジルコニア、活性炭、シリカジルコニア、リン酸ジルコニウム、アセチレンブラック、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリコンカーバイド、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、サポナイト、シリカチタニア、ジルコニア、マグネシア等、通常用いられる担体でよいが、好ましくはシリカ、アルミナがよい。
【0034】
本発明の方法では、不活性担体への水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムの担持は、担体外表面から1〜1000μm、さらに好ましくは1〜500μmの位置に担持されることが好ましい。
【0035】
本発明の方法では、硫酸または硫酸根含有化合物が使用される。硫酸根含有化合物は特に限定されるものではないが、硫酸アンモニウム、亜硫酸、亜硫酸アンモニウム、塩化チオニル等が使用できる。添加する硫酸または硫酸根含有化合物の量は、最終的に得られる構造体中の硫黄の量がジルコニアに対して0.1〜50重量%、好ましくは0.2〜20重量%になるように添加することが望ましい。
【0036】
本発明の方法で行われる焼成の温度は、350〜800℃でよく。硫酸化ジルコニアが存在する表層以外の内部に硫黄分が残存しないことから、好ましくは450〜800℃がよい。さらに、強い固体酸点を多く生成することから550〜750℃が好ましい。焼成時間は0.5〜20時間で良い。
【0037】
本発明の構造体は、固体酸触媒で反応する系で触媒として使用することができる。例えば、軽油および重質油などの接触分解反応;重質油の水素化分解反応;シクロヘキサンの脱水素、シクロペンテンの異性化脱水素、パラフィンの環化脱水素、パラフィンの異性化、パラフィンの水素化分解などの石油ナフサの重質留分の接触改質反応;ブタン、ペンタン、ヘキサン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、キシレンなどのアルカン、アルケンの骨格異性化反応およびアルケンの水素異性化反応;ベンゼン、アルキルベンゼン、ナフタレン、フェノール、チオフェン、ピリジン等とエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチルクロリド、プロピルプロリド、ブチルクロリド等のオレフィン、アルコールハロゲン化アルキル等の芳香族のアルキル化反応;トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン、キシレン、ジエチルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ジブチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トリエチルベンゼン、トリプロピルベンゼン、トリブチルベンゼン等のアルキル芳香族の異性化、不均化、トランスアルキル化、脱アルキル化反応;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等のオレフィン重合反応等に使用することができる。
【0038】
また、本発明の構造体は、触媒の担体としても使用することができ、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等の1属元素;ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの2属元素;スカンジウム、イットリウム、ランタノイド、アクチノイド等の3属元素;チタニウム、ジルコニウム等の4属元素;バナジウム、ニオブ、タンタル等の5属元素;クロム、モリブデン、タングステン等の6属元素;マンガン、レニウム等の7属元素;鉄、ルテニウム、オスニウム等の8属元素;コバルト、ロジウム、イリジウム等の9属元素;ニッケル、パラジウム、白金などの10属元素;銅、銀、金等の11属元素、亜鉛、カドミウムなどの12属元素;ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム等の13属元素;ゲルマニウム、スズ、鉛等の14属元素;アンチモン、ビスマス等の15属元素、硫黄、テルル等の16属元素に挙げられる一種類以上の元素を担持し触媒として使用できる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の構造体は、構造体表層部に固体酸触媒として有効な硫酸化ジルコニアが存在し、表層部以外の内部には実質的に硫酸化ジルコニアが存在しない。したがって、反応原料および反応生成物が、副反応が起こりやすい構造体の内部で固体酸点と接触することがないので、目的物の選択性が高く、また活性点の被毒や細孔の閉塞を生じにくいため触媒活性が低下しにくく、さらに触媒寿命の長いという効果を有する。また、固体酸点が構造体内部に存在しないため、構造体内部に炭素質が析出しないことから、炭素質の燃焼による触媒の再生が容易に行えるという効果を有する。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
以下の実施例に用いた測定法を示す。
(ジルコニウムおよび硫黄の深さ方向の担持分布を求めるためのライン分析)
得られた構造体を樹脂に包埋し、ウルトラミクロトームで切削して得られた試料を、エックス線マイクロアナライザー(EPMA)(島津製作所製、商品名EPM−810)を用い電圧20kV、電流10nAにて粒子断面の深さ方向の線分析を行い、ジルコニウムおよび硫黄の分布を測定した。
(ジルコニウムおよび硫黄の定量)
ジルコニウム量は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP)(京都光研製、商品名ICP−AES UOP−1 markII)にて定量分析した。また、硫黄量はイオンクロマトグラフ(DIONEX製、商品名:SERIES 2000i/SP、カラム:IC−ANION−PWXL)を用いSO42−の量を測定して算出した。
(酸強度の測定)
試料を300℃加熱排気した後、塩化スルフリル溶媒を用いた指示薬法で測定した。指示薬は、pKa値=−11.99のm−ニトロトルエンを用いた。
【0042】
実施例1
1.0モル/リッターのテトラ−n−プロピルアンモニウムヒドロキシド水溶液25.9gにシリカビーズ(富士シリシア化学社製 「キャリアクトQ−50」、粒子形状:球状、粒子径:1.7〜4.0mm、表面積:80m/g、平均細孔径50nm)20gを添加し、シリカビ−ズに水溶液を含浸した後、50℃、2時間、20hPaで減圧乾燥した。
【0043】
つぎに、オキシ硝酸ジルコニウム・2水和物2.3gを水20mlに溶解させ、先のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシドを含浸担持したシリカビーズを添加し、30分攪拌した。撹拌後、50℃、20hPaで2時間減圧乾燥し、さらに100℃で一昼夜乾燥した。
【0044】
得られた試料に0.1規定硫酸水溶液30mlを加え70℃、20hPaで2時間減圧乾燥した。得られた試料を、空気気流中580℃で3時間焼成した。
【0045】
得られた硫酸化ジルコニア構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析を行った結果を図5に示す。担持されたジルコニウムおよび硫黄はシリカビーズ外表面から250μm以内に存在していることがわかった。
【0046】
組成分析の結果、得られた構造体中のジルコニア、硫黄の組成は、それぞれ3.5重量%、0.27重量%で、硫黄/ジルコニアの比率は7.7重量%であった。
【0047】
指示薬による酸強度測定の結果、m−ニトロトルエンの酸性色(黄色)を示したことから、H<−11.99の強度を持つ酸点が存在することがわかった。
【0048】
実施例2
1規定硫酸水溶液30mLを用いたこと以外は、実施例1と同様にして硫酸化ジルコニア構造体を調製した。
【0049】
得られた硫酸化ジルコニア構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析を行った結果を図6に示す。担持されたジルコニウムおよび硫黄はシリカビーズ外表面から250μm以内に存在していることがわかった。
【0050】
組成分析の結果、得られた構造体中のジルコニア、硫黄の組成は、それぞれ3.5重量%、0.44重量%で、硫黄/ジルコニアの比率は12.6重量%であった。
【0051】
指示薬による酸強度測定の結果、m−ニトロトルエンの酸性色(黄色)を示したことから、H<−11.99の強度を持つ酸点が存在することがわかった。
【0052】
比較例1
オキシ硝酸ジルコニウム・2水和物2.3gを水20mlに溶解させた。この溶液にシリカビーズ(富士シリシア化学社製 「キャリアクトQ−50」、粒子形状:球状、粒子径:1.7〜4.0mm、表面積:80m/g、平均細孔径50nm)20gを添加し、シリカビ−ズに水溶液を含浸した後、50℃、2時間、20hPaで減圧乾燥した。この試料に28%アンモニア水26gを添加した後、50℃、2時間、20hPaで減圧乾燥し、さらに100℃で一昼夜乾燥した。
【0053】
その後、乾燥した試料に0.1規定硫酸水溶液30mlを加え70℃、20hPaで2時間減圧乾燥した。得られた試料を、空気気流中580℃で3時間焼成した。
【0054】
得られた硫酸化ジルコニア構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析を行った結果を図7に示す。担持されたジルコニウムおよび硫黄はシリカビーズ内にほぼ均一に存在していた。
【0055】
組成分析の結果、得られた構造体中のジルコニア、硫黄の組成は、それぞれ3.6重量%、0.29重量%で、硫黄/ジルコニアの比率は8.1重量%であった。
【0056】
指示薬による酸強度測定の結果、m−ニトロトルエンの酸性色(黄色)を示したことから、H<−11.99の強度を持つ酸点が存在することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の球状の構造体の断面図
【図2】本発明の円柱状の構造体の断面図
【図3】本発明の中空円柱状の構造体の断面図
【図4】本発明の板状の構造体の断面図
【図5】実施例1の構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析の結果
【図6】実施例2の構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析の結果
【図7】比較例1の構造体のジルコニウムおよび硫黄のライン分析の結果
【符号の説明】
【0058】
1 硫酸化ジルコニア
2 不活性担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体表層部に硫酸化ジルコニアが存在し、構造体表層部を除く内部は実質的に硫酸化ジルコニアが存在しない不活性担体であることを特徴とする構造体。
【請求項2】
硫酸化ジルコニアが構造体の外表面から1〜1000μmの深さまでの表層部に存在することを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
構造体が球状であることを特徴とする請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
不活性担体に水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを担持させた後に、硫酸または硫酸根を含有する化合物を添加し、350℃乃至800℃で焼成することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の構造体の製造方法。
【請求項5】
塩基性物質を不活性担体に含浸担持させた後、ジルコニウム原料塩を含浸させ、不活性担体の表層部に水酸化ジルコニウムおよび/または酸化ジルコニウムを担持させることを特徴とする請求項4に記載の構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−199560(P2006−199560A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16008(P2005−16008)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】