説明

硫黄・Ca含有スラグの処理方法

【課題】硫黄・Ca含有スラグの硫黄含有量と水溶性Ca含有量を効果的に低減することができる処理方法を提供する。
【解決手段】硫黄・Ca含有スラグを溶媒に浸漬し、該溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、硫黄・Ca含有スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、該抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、該炭酸カルシウムを処理済みスラグととともに回収する工程を有する。スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を水溶液中に効率的に抽出し、且つCa成分を炭酸カルシウムとして固定することにより、硫黄・Ca含有スラグの硫黄含有量とCa含有量を効果的に低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硫スラグ等のような硫黄・Ca含有スラグの硫黄含有量とCa含有量を低減するための処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄鋼スラグ(鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ)は、コンクリート骨材や路盤材料、港湾土木材料などの土木材料として広く利用されている。この鉄鋼スラグのなかで、脱硫スラグなどの硫黄含有スラグを路盤材料として利用する場合、特に水の存在する環境下で使用すると、硫黄(黄水)が流出して環境に悪影響を与えるおそれがある。従来、このような問題の対策として、(a)強制エージング(例えば、水蒸気エージング)を施して硫黄成分の酸化を促進させ、硫黄成分が溶出しにくいスラグとする方法、(b)スラグを水に浸漬し若しくはスラグに散水することにより硫黄成分を抽出し、スラグ中の硫黄含有量を低減する方法(例えば、特許文献1)、などが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−279817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、(a)の方法では、エージングの際に生じる排水中に硫黄成分が溶出する問題があり、排水処理に手間とコストがかかる。また、(b)の方法では、硫黄成分を効率的に抽出することができず、大部分の硫黄成分がスラグに残存してしまうので、硫黄成分を除去したスラグの利用も含めた有効な対策にはなり得ない。
また、一般に硫黄含有スラグは水溶性Ca成分(アルカリ成分)も含有しているが、このような水溶性Ca成分も水の存在する環境下で流出して環境に悪影響を与えるおそれがあり、その対策が望まれる。
【0005】
したがって本発明の目的は、硫黄・Ca含有スラグの硫黄含有量と水溶性Ca含有量を効果的に低減することができるスラグ処理方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、硫黄含有量と水溶性Ca含有量が効果的に低減された脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、硫黄・Ca含有スラグを浸漬した溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒を特定のpHに調整することで、スラグに含まれる硫黄成分と水溶性Ca成分を溶媒中に効率的に抽出し、硫黄・Ca含有スラグの硫黄含有量と水溶性Ca含有量を効果的に低減できること、しかも、抽出されたCa成分の一部または全部を二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムとして固定し、回収できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
【0007】
[1]工程(A)として、硫黄とCaを含有する鉄鋼スラグを溶媒に浸漬し、該溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、鉄鋼スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、該抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、該炭酸カルシウムを処理済みスラグとともに回収する工程を有することを特徴とする硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
[2]上記[1]の処理方法において、さらに、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程(B)を有することを特徴とする硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
[3]上記[2]の処理方法において、工程(B)を経た溶媒を工程(A)に循環させることを特徴とする硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
【0008】
[4]工程(A)として、硫黄とCaを含有する鉄鋼スラグを溶媒に浸漬し、該溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、鉄鋼スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、該抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、該炭酸カルシウムを処理済みスラグとともに回収する工程を有し、該工程で脱硫黄・Ca処理スラグを得ることを特徴とする脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。
[5]上記[4]の製造方法において、さらに、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程(B)を有し、該工程の回収物として硫黄含有原料を得ることを特徴とする脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。
[6]上記[5]の製造方法において、工程(B)を経た溶媒を工程(A)に循環させることを特徴とする脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の処理方法によれば、鉄鋼スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に効率的に抽出し、硫黄含有量と水溶性Ca含有量を効果的に低減させることができる。また、本発明の製造方法によれば、硫黄成分とCa成分が効果的に低減された脱硫黄・Ca処理スラグを製造することができ、さらに、スラグから抽出された硫黄成分による有用原料を製造することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明が処理対象とする硫黄とCaを含有する鉄鋼スラグ(以下、「硫黄・Ca含有スラグ」または「スラグ」という)に特別な制限はないが、硫黄含有量が0.5mass%以上のスラグが特に上述したような問題を生じやすいことから、このような硫黄含有量のスラグを対象とすることが好ましい。硫黄とCaを含有し、硫黄含有量が0.5mass%以上のスラグとしては、高炉徐冷スラグ、脱硫スラグ(溶銑予備スラグ)などを挙げることができるが、なかでも脱硫スラグは硫黄含有量が多く、利材化しにくい面があるので、本発明は脱硫スラグを対象とする場合に特に有用性が高い。
【0012】
本発明法は、工程Aとして、硫黄・Ca含有スラグを溶媒に浸漬し、この溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、この抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、この炭酸カルシウムを処理済みスラグととともに回収する工程を有する。また、この工程Aに加えて、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程Bを有することが好ましく、この場合、工程Bを経た溶媒を工程Aに循環させることが好ましい。
【0013】
本発明では、必要に応じて破砕処理、磁選処理を施したスラグを処理対象とするが、硫黄成分とCa成分の抽出を効率的に行うため、スラグ粒度は粒径0.5mm以下の割合が15質量%以上、より好ましくは30質量%以上であることが望ましい。
また、工程Aでの液/固比(水溶液/スラグの質量比)は、3以上、100以下が好ましい。液/固比が3未満では、溶媒が不足することから硫黄抽出効率が低下する。一方、液/固比が100を超えると抽出設備などが大きくなり、コスト面で不利となる。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態を示すものである。この実施形態は、スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出する工程Aと、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程Bを有する。図において、1は工程Aを行う抽出処理槽、2は工程Bを行う回収処理槽である。抽出処理槽1内の溶媒は、流路3a,3bを通じて、回収処理槽2を経て抽出処理槽1へと循環(返送)され、この系内で循環使用される。
【0015】
前記工程Aでは、抽出処理槽1内に入れられた溶媒(通常は水)に硫黄・Ca含有スラグを投入・浸漬し、この溶媒中にガス吹込手段5から二酸化炭素を吹き込み、且つこの溶媒がpH4〜10になるように調整する。溶媒がpH10を超えると硫黄成分、Ca成分の抽出率が低下する。また、本発明では抽出されたCa成分を溶媒中の二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムとして固定し、この炭酸カルシウムを処理済みスラグとともに回収するものであるが、溶媒がpH4未満では、生成した炭酸カルシウムが溶解してしまうので好ましくない。また、溶媒がpH4未満では、硫黄成分やCa成分以外のスラグ成分も溶解してしまうおそれがある。
硫黄・Ca含有スラグは所定の時間溶媒中に浸漬されるが、その間、溶媒は上記pHに維持されることが好ましい。
溶媒中に吹き込む二酸化炭素としては、COガス、CO含有ガスのいずれを用いてもよい。
【0016】
硫黄・Ca含有スラグを溶媒中に浸漬し、この溶媒に二酸化炭素を吹き込むとともに、溶媒のpHを上記の範囲に調整・維持することにより、スラグに含まれる硫黄成分とCa成分が溶媒中に効率的に抽出される。また、抽出されたCa成分が溶媒中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとして固定される。そして、この炭酸カルシウムが処理済みスラグととともに回収される。
通常、本発明で使用する溶媒は水であり、この溶媒pHの調整は、基本的に二酸化炭素の吹き込みにより行い、必要に応じて二酸化炭素の吹き込み量の調整や吹き込み中断を行う。但し、この二酸化炭素の吹き込みと併用して、例えば、強酸+弱塩基、弱酸(補助的に強酸)、pH緩衝液などでpHを調整することもできる。したがって、この場合の溶媒は、例えば、(a)強酸+弱塩基の水溶液、(b)弱酸水溶液、(c)pH緩衝剤水溶液、などである。
【0017】
上記(a)の水溶液では、強酸として塩酸、硝酸などの1種以上を、弱塩基としてアンモニア、アミン類(例えば、ジエタノールアミンなど)などの1種以上を、それぞれ用いることができる。また、上記(b)の弱酸水溶液では、弱酸として、酢酸、クエン酸、リン酸などの1種以上を用いることができる。また、上記(c)のpH緩衝剤水溶液は、目的とするpHを安定化させるために有効であり、酢酸系、リン酸系などのpH緩衝剤が利用できる。但し、単独でpHを下げる効果は比較的小さいため、上述した他の酸などとの併用が望ましい。
【0018】
抽出処理槽1内の溶媒は、硫黄・Ca含有スラグが浸漬された状態で撹拌手段4で撹拌してもよい。処理が完了したスラグと上述した炭酸カルシウムは槽外に排出され、炭酸カルシウムを含む脱硫黄・Ca処理済みのスラグとして回収される。このスラグは、例えば、土木材料や骨材などに利材化される。
抽出処理槽1内の溶媒は、流路3aを通じて回収処理槽2に適宜移送され、ここで硫黄成分の回収が行われる。この回収処理槽2において溶媒の硫黄成分を回収するために、例えば石灰が投入され、硫黄成分と反応させて石膏などとして沈降させ、この沈降物を回収する。回収処理槽2内の溶媒は、石灰が投入された状態で撹拌手段6で撹拌してもよい。ここで回収された沈降物は、硫黄含有原料(例えば石膏原料)として利材化することができる。なお、抽出処理槽1から回収処理槽2への溶媒の移送や、回収処理槽2での溶媒の処理および沈降物の回収は、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
【0019】
回収処理槽2内の溶媒は、流路3bを通じて抽出処理槽1に適宜返送され、循環使用される。なお、この抽出処理槽1への水溶液の返送は、バッチ式、連続式のいずれでもよい。
また、本発明の製造方法では、上述した工程Aにおいて、脱硫黄・Ca処理されたスラグが製造され、このスラグはそのまま或いは適当な処理を加えて土木材料、その他の材料に利用される。また、工程Bにおいては、回収物として硫黄含有原料(例えば石膏原料)が製造される。
【実施例】
【0020】
溶媒(水)を入れた容器内に0.5mm篩下の脱硫スラグを投入・浸漬し、表1に示す条件でCO含有ガス(CO濃度:20vol%)を吹き込みつつ、30分間撹拌した。液/固比:60とし、処理時間中、pHが一定となるようにCO含有ガスの吹き込みを適宜中断した。
処理完了後、容器の内容物をろ過し、液相(溶媒)と固相(処理済みスラグ+炭酸カルシウム)を分離回収し、硫黄成分の抽出率、炭酸カルシウムとして析出したCa量を測定した。硫黄成分の抽出率とは、スラグ中に含まれていた硫黄に対する溶媒に溶解した硫黄の割合(質量%)である。
溶媒pHなどの試験条件、処理後の硫黄成分の抽出率、炭酸カルシウムとして析出したCa量を表1に示す。これによれば、本発明例では、スラグ中の硫黄成分とCa成分が選択的に溶解し、且つ溶媒中への硫黄成分とCa成分の抽出が効率的になされ、また、抽出されたCa成分は炭酸カルシウムとして適切に析出していることが判る。
【0021】
【表1】

【符号の説明】
【0022】
1 抽出処理槽
2 回収処理槽
3a,3b 流路
4 撹拌手段
5 ガス吹込手段
6 撹拌手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工程(A)として、硫黄とCaを含有する鉄鋼スラグを溶媒に浸漬し、該溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、鉄鋼スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、該抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、該炭酸カルシウムを処理済みスラグとともに回収する工程を有することを特徴とする硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
【請求項2】
さらに、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程(B)を有することを特徴とする請求項1に記載の硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
【請求項3】
工程(B)を経た溶媒を工程(A)に循環させることを特徴とする請求項2に記載の硫黄・Ca含有スラグの処理方法。
【請求項4】
工程(A)として、硫黄とCaを含有する鉄鋼スラグを溶媒に浸漬し、該溶媒中に二酸化炭素を吹き込み、且つ溶媒をpH4〜10に調整することで、鉄鋼スラグに含まれる硫黄成分とCa成分を溶媒中に抽出するとともに、該抽出されたCa成分を前記二酸化炭素と反応させて炭酸カルシウムを生成させ、該炭酸カルシウムを処理済みスラグとともに回収する工程を有し、該工程で脱硫黄・Ca処理スラグを得ることを特徴とする脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。
【請求項5】
さらに、溶媒に抽出された硫黄成分を回収する工程(B)を有し、該工程の回収物として硫黄含有原料を得ることを特徴とする請求項4に記載の脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。
【請求項6】
工程(B)を経た溶媒を工程(A)に循環させることを特徴とする請求項5に記載の脱硫黄・Ca処理スラグ等の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−93761(P2011−93761A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251157(P2009−251157)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】