説明

硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法

【課題】粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を提供する。更に、該硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を提供する。
【解決手段】非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性硬化剤又は前記油溶性硬化促進剤、及び、前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、前記膨潤粒子液滴中の前記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法に関する。更に、本発明は、該硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂組成物は、大きく2成分系と1成分系とに分けられる。2成分系は、硬化性樹脂と硬化剤とを別々に保管し、使用時に混合する方法であり、貯蔵安定性の観点からは好ましい方法である。しかし、硬化性樹脂と硬化剤との硬化反応は混合と同時に開始するため、系の粘度が上昇して取扱性に劣る。また、可使時間が比較的短いため、一度に大量に混合することが難しい。一方、1成分系は、硬化性樹脂と硬化剤とをあらかじめ単一の容器内に充填する方法であり、混合操作を必要とせず、混合に付随する問題を回避することができる。
【0003】
1成分系のエポキシ樹脂組成物においては、貯蔵中に硬化反応を進行させないために、硬化剤に潜在性を付与する必要がある。硬化剤に潜在性を付与する方法として、例えば、硬化剤又は硬化促進剤を含有するマイクロカプセルを硬化性樹脂組成物中に分散させ、必要に応じて光照射、機械的圧力又は熱等によりマイクロカプセルを破壊して硬化反応を開始させる方法が挙げられる。
【0004】
特許文献1には、硬化剤としてのアミン類を主成分とする固体状の芯物質を、これを溶解しない有機溶媒中に分散させ、この分散液中で重合性二重結合を有する有機酸を含むラジカル重合性単量体モノマーをラジカル重合させ、芯物質の表面に重合体の被覆層を形成させることにより製造されるエポキシ樹脂硬化剤用マイクロカプセルが開示されている。しかし、特許文献1のマイクロカプセルは固体状の硬化剤しか内包することができず、更に、粒子径も硬化剤の内包量も均一ではない。そのため、特許文献1のマイクロカプセルをエポキシ樹脂接着剤中に分散させた場合、シェルの薄い部分では硬化剤が滲み出して貯蔵中に硬化が開始してしまうことがあり、貯蔵安定性に欠ける。一方、シェルの厚い部分では硬化時にも硬化剤とエポキシ樹脂との接触が不充分となることがあり、接着信頼性に欠ける。
【0005】
特許文献2には、硬化剤としてのアミン化合物と、該アミン化合物に対して過剰量の多官能性エポキシ化合物とを、分散安定剤の存在下において、該アミン化合物及び該エポキシ化合物を共に溶解するが、両者から生成する付加体は溶解しない有機溶媒中で反応させることにより製造されるエポキシ樹脂用潜在性硬化剤、及び、その製造方法が開示されている。しかし、特許文献2の方法は、固体状でない硬化剤を内包することはできるものの、特許文献1と同様に粒子径及び硬化剤の内包量の均一性が不充分であり、貯蔵安定性及び接着信頼性の問題を克服するには至っていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3199818号公報
【特許文献2】特許第3270774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を提供することを目的とする。更に、本発明は、該硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性硬化剤又は前記油溶性硬化促進剤、及び、前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、前記膨潤粒子液滴中の前記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者は、ラジカル重合性モノマー、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤、及び、油溶性重合開始剤を種粒子に吸収させて膨潤粒子液滴の分散液としたうえで、上記ラジカル重合性モノマーを重合させることにより、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一であり、硬化性樹脂組成物等に分散させた場合に優れた貯蔵安定性を実現できる硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を容易に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法は、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性硬化剤又は前記油溶性硬化促進剤、及び、前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程を有する。なお、本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法は、非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液を調製する工程を有してもよい。
【0011】
上記種粒子は、非架橋ポリマーを含有する。
上記非架橋ポリマーを構成する非架橋性モノマーは特に限定されず、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸−n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸等が挙げられる。
【0012】
上記種粒子は、非架橋性モノマーを重合して非架橋ポリマーを構成する際に、少量の架橋性モノマーを併用してもよい。少量の架橋性モノマーを併用することにより、得られる種粒子の強度が向上する。
上記架橋性モノマーは特に限定されず、例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0013】
上記架橋性モノマーを配合する場合、上記非架橋性モノマーと上記架橋性モノマーとの合計に占める上記架橋性モノマーの配合量の好ましい上限は5重量%である。上記架橋性モノマーの配合量が5重量%を超えると、得られる種粒子へのラジカル重合性モノマー等の吸収性が低下し、膨潤粒子液滴が形成されないことがある。上記架橋性モノマーの配合量のより好ましい上限は1重量%である。
【0014】
上記種粒子の分子量は特に限定されないが、重量平均分子量の好ましい上限は50万である。上記種粒子の重量平均分子量が50万を超えると、得られる種粒子へのラジカル重合性モノマー等の吸収性が低下し、膨潤粒子液滴が形成されないことがある。上記種粒子の重量平均分子量のより好ましい上限は10万である。上記種粒子の重量平均分子量の下限は特に限定されないが、1000未満であると、実質的に粒子を形成できないことがある。
【0015】
上記種粒子の形状は特に限定されないが、球状であることが好ましい。上記種粒子の形状が球状でない場合には、ラジカル重合性モノマー等を吸収する際に等方的な膨潤がなされず、得られる硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が真球状とならないことがある。
【0016】
上記種粒子の体積平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径の1/10、好ましい上限は目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径の1/1.05である。上記種粒子の体積平均粒子径が目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径の1/10未満であると、所望の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の粒子径を得るために、吸収性能の限界を超えた多くのラジカル重合性モノマー等を吸収する必要があり、吸収残りが発生したり、得られる硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の粒子径が均一にならなかったりすることがある。上記種粒子の体積平均粒子径が目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径の1/1.05を超えると、ごく微量のラジカル重合性モノマー等しか吸収する余地がなく、高い内包量を有する硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が得られないことがある。上記種粒子の体積平均粒子径は、目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径の1/8以上であることがより好ましく、1/1.5以下であることがより好ましい。
【0017】
上記種粒子は、粒子径のCv値の好ましい上限が30%である。上記種粒子の粒子径のCv値が30%を超えると、膨潤した種粒子の粒子径が均一にならず、得られる硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の粒子径も均一にならないことがある。上記種粒子の粒子径のCv値のより好ましい上限は、20%である。
なお、上記種粒子の粒子径のCv値は、粒子径測定装置により測定される体積平均粒子径mと標準偏差σから、下記式(1)により算出することができる。
Cv=σ/m×100(%) (1)
なお、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡により、1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の微粒子についてノギスを用いて最長径を測定し、最長径の数平均値を求めることにより算出することができる。
【0018】
上記種粒子を調製する方法は特に限定されず、ソープフリー乳化重合、乳化重合、分散重合等の方法が挙げられる。
【0019】
上記分散媒は、水を含有する分散媒であれば特に限定されず、水、又は、水にメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤を添加した混合分散媒等が挙げられる。
【0020】
上記分散媒は、必要に応じて、分散剤を含有してもよい。
上記分散剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0021】
上記種粒子分散液における上記種粒子の配合量は特に限定されず、好ましい下限は0.1重量%、好ましい上限は50重量%である。上記種粒子の配合量が0.1重量%未満であると、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の生産効率が低くなることがある。上記種粒子の配合量が50重量%を超えると、種粒子が凝集してしまうことがある。上記種粒子の配合量のより好ましい下限は0.5重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0022】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法において、上記種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、上記種粒子にラジカル重合性モノマー、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤、及び、油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する。
【0023】
上記ラジカル重合性モノマーは特に限定されず、例えば、ビニル化合物、ビニリデン化合物、ビニレン化合物等のビニル基を有する化合物が挙げられる。上記ビニル基を有する化合物として、例えば、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、エチレングリコールジメタクリレート等の共役モノマーや、酢酸ビニル、塩化ビニル等の非共役モノマー等が挙げられる。これらのラジカル重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記油溶性硬化剤及び上記油溶性硬化促進剤は、油溶性であれば特に限定されない。
本明細書において、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤とは、logPow(オクタノール/水分配係数)が0以上である硬化剤又は硬化促進剤を意味する。硬化剤又は硬化促進剤のlogPowは、以下のように求められる。
n−オクタノールと水とを充分に混合した混合液を24時間放置した後、混合液に硬化剤又は硬化促進剤を加えてさらに混合する。その後、オクタノール相中に含まれる硬化剤又は硬化促進剤の濃度(Co)と水相中に含まれる硬化剤又は硬化促進剤の濃度(Cw)とをガスクロマトグラフィーにより測定し、得られたCo及びCwを用いて、下記式(2)からlogPowを算出できる。
logPow=log(Co/Cw) (2)
Co:オクタノール相中の硬化剤又は硬化促進剤の濃度
Cw:水相中の硬化剤又は硬化促進剤の濃度
【0025】
また、上記油溶性硬化剤及び上記油溶性硬化促進剤は、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましい。
【0026】
上記油溶性硬化剤は特に限定されず、例えば、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール化合物や、ポリエチレンポリアミン、メタキシレンジアミン等のポリアミン化合物や、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、無水トリメリット酸等の酸無水物等が挙げられる。なかでも、1,2−ジメチルイミダゾールが好ましい。これらの油溶性硬化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
上記油溶性硬化促進剤は特に限定されず、例えば、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸等の塩素置換カルボン酸化合物や、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール等の塩素置換フェノール化合物や、p−ニトロフェノール等のニトロ置換フェノール化合物や、チオフェノール、2−メルカプトエタノール、ジペンタエリスリトールヘキサ−3−メルカプトプロピオネート等のメルカプタン化合物等が挙げられる。なかでも、ジペンタエリスリトールヘキサ−3−メルカプトプロピオネートが好ましい。これらの油溶性硬化促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の配合量は、目的とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の粒子径により適宜調整すればよいが、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は10重量部、好ましい上限は1000重量部である。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の配合量が10重量部未満であると、ほとんど内孔が形成されないことがある。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の配合量が1000重量部を超えると、得られる硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の強度が著しく低下することがある。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の配合量のより好ましい下限は20重量部、より好ましい上限は600重量部である。
【0029】
上記油溶性重合開始剤は特に限定されず、例えば、ラジカル重合を開始させるための開始剤であり、かつ、油溶性であれば特に限定されない。また、上記油溶性重合開始剤は、水に難溶性(23℃における水への溶解度が20重量%以下)であることが好ましい。
上記油溶性重合開始剤として、例えば、ベンゾイルパーオキサイド等の過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。これらの油溶性重合開始剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
上記油溶性重合開始剤の配合量は特に限定されず、上記ラジカル重合性モノマー100重量部に対する好ましい下限は0.01重量部、好ましい上限は20重量部である。上記油溶性重合開始剤の配合量が0.01重量部未満であると、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が形成されないことがある。上記油溶性重合開始剤の配合量が20重量部を超えて配合してもほとんど反応には寄与せず、ブリードアウト等の原因となることがある。上記油溶性重合開始剤の配合量のより好ましい下限は0.1重量部、より好ましい上限は10重量部である。
【0031】
上記種粒子分散液と、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤と、上記油溶性重合開始剤とを混合する際には、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤と、上記油溶性重合開始剤とを直接上記種粒子分散液に加えて混合してもよいが、いったん水を含有する分散媒に添加して乳化液を調製し、該乳化液を上記種粒子分散液に加えて混合する方法が好ましい。いったん乳化液としてから加えることにより、上記ラジカル重合性モノマー等をより均一に上記種粒子に吸収させることができる。
上記ラジカル重合性モノマー、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤、上記油溶性重合開始剤は、これらの混合物の乳化液を調製して上記種粒子分散液に加えて混合してもよいし、各々の乳化液を別個に調製して上記種粒子分散液に加えて混合してもよい。
【0032】
上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液の分散媒は特に限定されず、上記種粒子分散液に用いた分散媒と同じ分散媒であってもよく、異なる分散媒であってもよい。
上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液の分散媒は、乳化剤を含有することが好ましい。上記乳化剤は特に限定されず、例えば、アルキル硫酸スルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0033】
上記ラジカル重合性モノマー等の乳化液と上記種粒子分散液とを混合する際には、上記乳化液の全量を一括で加えて混合してもよいし、分割して加えて混合してもよい。分割して加える場合には、滴下することにより添加してもよい。
【0034】
上記種粒子に対する上記ラジカル重合性モノマー、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤、及び、上記油溶性重合開始剤の油性成分の添加量は特に限定されないが、上記種粒子100重量部に対する好ましい下限は15重量部、好ましい上限は100,000重量部である。上記油性成分の添加量が15重量部未満であると、ごく微量の油性成分しか吸収する余地がなく、高い内包量を有する硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が得られないことがある。上記油性成分の添加量が100,000重量部を超えると、上記種粒子に吸収し切れない上記油性成分が発生し、中実微粒子等の混入の原因となることがある。上記油性成分の添加量のより好ましい下限は230重量部、より好ましい上限は50,000重量部である。
【0035】
上記種粒子分散液と、上記ラジカル重合性モノマーと、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤と、上記油溶性重合開始剤とを混合すると、上記種粒子に上記ラジカル重合性モノマー、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤、及び、上記油溶性重合開始剤が吸収されて、均一な膨潤粒子液滴が形成される。
【0036】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法において、得られた膨潤粒子液滴中の上記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程を行う。上記ラジカル重合性モノマーを重合させることにより、コアが上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤、シェルが上記ラジカル重合性モノマーを重合することにより得られたポリマーにより形成されている、ポリマー微粒子分散液が得られる。
重合は、上記油溶性重合開始剤の種類等に従って、光を照射したり、加熱したりすることにより開始することができる。
【0037】
得られたポリマー微粒子を、純水等を用いて繰り返して洗浄することにより、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が得られる。
【0038】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法によれば、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を製造することができる。
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子もまた、本発明の1つである。
【0039】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子は、単孔状の空隙に上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤が内包されていてもよく、多孔質状の空隙に上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤が内包されていてもよい。
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子は、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一であることにより、例えば、硬化性樹脂組成物中に分散させた場合、シェルの薄い部分で硬化剤等が滲み出して貯蔵中に硬化が開始したり、シェルの厚い部分で硬化中に硬化剤等が充分に滲み出さず反応性が低下したりすることがなく、貯蔵安定性が高く、硬化が均質となる。硬化が均質であることから、例えば、本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を分散させたエポキシ樹脂接着剤は、接着強度及び接着信頼性が向上する。
【0040】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径は特に限定されないが、好ましい下限は0.1μm、好ましい上限は100μmである。平均粒子径が0.1μm未満であると、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子とエポキシ樹脂等を混合した場合、硬化反応が進行し、貯蔵安定性が低下することがある。平均粒子径が100μmを超えると、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子が、エポキシ樹脂等に充分に分散しないため、硬化が均質とならないことがある。本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の平均粒子径のより好ましい下限は0.5μm、より好ましい上限は50μmである。
【0041】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子は、粒子径のCv値の好ましい上限が10%である。粒子径のCv値が10%を超えると、硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を、特に、光学部品や電子部品等の接着に用いるエポキシ樹脂接着剤等に分散させた場合、硬化が均質とならないことがある。粒子径のCv値のより好ましい上限は、7%である。
なお、本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の粒子径のCv値は、上記種粒子の粒子径のCv値と同様に算出することができる。
【0042】
本発明の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子において、上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の内包量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は95重量%である。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の内包量が1重量%未満であると、硬化反応が進みにくくなることがある。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の内包量が95重量%を超えると、貯蔵安定性が低下することがある。上記油溶性硬化剤又は上記油溶性硬化促進剤の内包量は、より好ましい下限が3重量%、より好ましい上限が90重量%である。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を提供することができる。更に、本発明によれば、該硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0045】
(実施例1)
スチレン100重量部、過硫酸カリウム3重量部、n―オクチルメルカプタン25重量部、水2500重量部を混合し、攪拌しながら70℃で24時間反応させて、体積平均粒子径0.5μm、Cv値15%、かつ、球状の非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
【0046】
ラジカル重合性モノマーとしてアクリロニトリル50重量部とエチレングリコールジメタクリレート50重量部、油溶性硬化剤として2−メチル−4−メチルイミダゾール100重量部、及び、油溶性重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド4重量部を均一に溶解した混合液に、乳化剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミン2重量部と水とを加えて混合し、乳化液を調製した。
【0047】
得られた種粒子分散液と、ポリスチレン粒子重量の200倍の油性成分となるように乳化液とを混合し、24時間撹拌して、ラジカル重合性モノマー、油溶性硬化剤、油溶性重合開始剤を吸収した種粒子の膨潤粒子液滴の分散液を得た。なお、油性成分は、ラジカル重合性モノマー、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤、及び、油溶性重合開始剤を構成成分とする。
得られた膨潤粒子液滴の分散液を撹拌しながら85℃で、10時間反応させることにより、コアとして2−メチル−4−メチルイミダゾールを含有し、シェルがポリアクリロニトリル/エチレングリコールジメタクリレート共重合体から形成されているポリマー微粒子分散液を得た。
得られたポリマー微粒子を、純水を用いて繰り返して洗浄し、真空乾燥して硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0048】
(実施例2)
油溶性硬化剤を2−メチルイミダゾール100重量部とした以外は、実施例1と同様にして硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0049】
(実施例3)
過硫酸カリウムの配合量を5重量部とした以外は実施例1と同様にして、体積平均粒子径0.2μm、Cv値15%、かつ、球状の非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
得られた種粒子分散液を用い、乳化液の添加量をポリスチレン粒子重量の20倍の油性成分となるように混合した以外は、実施例1と同様にして硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0050】
(実施例4)
過硫酸カリウムの配合量を0.5重量部とした以外は実施例1と同様にして、体積平均粒子径2.0μm、Cv値15%、かつ、球状の非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
得られた種粒子分散液を用い、乳化液の添加量をポリスチレン粒子重量の125倍の油性成分となるように混合した以外は、実施例1と同様にして硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0051】
(実施例5)
過硫酸カリウム3重量部の代わりに、過硫酸カリウム0.5重量部、塩化ナトリウム0.1重量部を配合した以外は実施例1と同様にして、体積平均粒子径5.0μm、Cv値15%、かつ、球状の非架橋のポリスチレン粒子が1.5重量%の濃度で水に分散された種粒子分散液を調製した。
得られた種粒子分散液を用い、乳化液の添加量をポリスチレン粒子重量の125倍の油性成分となるように混合した以外は、実施例1と同様にして硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0052】
(比較例1)
メタクリル酸2重量部、アクリロニトリル8重量部及び2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)0.1重量部を含有するイソプロピルアルコール溶液400重量部に、あらかじめ平均粒子径5μmに微粉砕した1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール90重量部を分散させた。この分散液を、窒素雰囲気下、50℃で3時間反応させることにより、コアとして1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールを含有し、シェルがメタクリル酸/アクリロニトリル共重合体から形成されているポリマー微粒子分散液を得た。その後、得られた分散液を濾過して硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0053】
(比較例2)
温度計、還流冷却器及びテフロン(登録商標)製半月型攪拌装置を備えた内容積1000mLの三ツ口丸底フラスコに、2−メチルイミダゾール(2MZ)28.0g及びアクリルポリマー(東亞合成社製「レゼダGP−300」)4.99gを仕込み、次いで、メチルイソブチルケトン(MIBK)593.95gを加え、温度を70℃に上げて完全に溶解した。次いで、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「エピコート828」)の50重量%MIBK溶液143.74gを加えて混合し、混合物を300rpmの速度で攪拌しながら70℃で10時間反応させ、反応率をほぼ100%まで到達させることにより、コアが2−メチルイミダゾール(2MZ)、シェルがアクリルポリマーにより形成されている、コアシェル粒子分散液を得た。その後、得られた分散液を濾過してポリマー微粒子を得た。
【0054】
(比較例3)
ラジカル重合性モノマーとしてアクリロニトリル50重量部とエチレングリコールジメタクリレート50重量部、油溶性硬化剤として2−メチル−4−メチルイミダゾール100重量部、及び、油溶性重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド4重量部を均一に溶解した混合液に、乳化剤としてラウリル硫酸トリエタノールアミン2重量部と水とを加えて混合し、乳化液を調製した。
【0055】
得られた乳化液を、水に加えた(種粒子を用いなかった)以外は、実施例1と同様にして硬化剤含有ポリマー微粒子を得た。
【0056】
(評価)
実施例1〜5、比較例1〜3で得られた硬化剤含有ポリマー微粒子について、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。
【0057】
(1)粒子径の測定
得られた硬化剤含有ポリマー微粒子を、走査型電子顕微鏡により、1視野に約100個が観察できる倍率で観察し、任意に選択した50個の微粒子についてノギスを用いて最長径を測定し、この値の数平均値と変動係数を求め、これらを平均粒子径、粒子径Cv値とした。
【0058】
(2)内包量
得られた硬化剤含有ポリマー微粒子の乾燥粉末を約1g秤量し、アルミカップに乗せ、真空乾燥機を用いて110℃で5時間乾燥した後、取り出してポリマー微粒子を計量した。乾燥前後の重量比を用いて下記式から硬化剤の内包量を算出した。
内包量(重量%)
=[{(乾燥前の重量)−(乾燥後の重量)}/(乾燥前の重量)]×100
【0059】
(3)内包量の均一性
上記(2)内包量の評価を5回繰り返し、内包量の平均値を算出した。算出した5つの内包量のうち、全ての内包量が平均値の±10%未満である場合を「○」、10%以上の場合を「×」とし、内包量の均一性を評価した。
【0060】
(4)貯蔵安定性
エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製「JER828」)100重量部と、得られた硬化剤含有ポリマー微粒子10重量部との混合物を、40℃で7日間放置した。その後、混合物がゲル化しているか否かを目視で観察した。混合物がゲル化していない場合を「○」、混合物がゲル化した場合を「×」とし、貯蔵安定性を評価した。
【0061】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によれば、粒子径、及び、硬化剤又は硬化促進剤の内包量が均一な硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を提供することができる。更に、本発明によれば、該硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造される硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非架橋ポリマーを含有する種粒子を、水を含有する分散媒中に分散させた種粒子分散液と、ラジカル重合性モノマーと、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤と、油溶性重合開始剤とを混合し、前記種粒子に前記ラジカル重合性モノマー、前記油溶性硬化剤又は前記油溶性硬化促進剤、及び、前記油溶性重合開始剤を吸収させて膨潤粒子液滴の分散液を調製する工程と、
前記膨潤粒子液滴中の前記ラジカル重合性モノマーを重合させる工程とを有する
ことを特徴とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項2】
ラジカル重合性モノマー、油溶性硬化剤又は油溶性硬化促進剤、及び、油溶性重合開始剤を、水を含有する分散媒中に分散させた乳化液と、種粒子分散液とを混合することを特徴とする請求項1記載の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項3】
種粒子は、粒子径のCv値が30%以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1、2又は3記載の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子の製造方法を用いて製造されることを特徴とする硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子。
【請求項5】
平均粒子径が0.1〜100μmであり、かつ、粒子径のCv値が10%以下であることを特徴とする請求項4記載の硬化剤又は硬化促進剤含有ポリマー微粒子。

【公開番号】特開2010−185044(P2010−185044A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31522(P2009−31522)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】